説明

積層シートおよび積層シート被覆金属板

【課題】色味およびエンボス意匠について小ロット対応が可能で、耐熱性を有するエンボス意匠をエンボス付与機で良好に付与でき、金属板へのラミネート適性が良好な積層シート、および、該積層シートで被覆した金属板であって、二次加工性および表面硬度が良好な積層シート被覆金属板を提供する。
【解決手段】表面側から順に下記A層、B層の2層を備え、総厚みが75μm以上300μm以下である精密エンボスの付与適性に優れた積層シート。
A層:芳香族ポリカーボネート系樹脂あるいはポリエステル系樹脂と芳香族ポリカーボネート系樹脂とのブレンド組成物を主体としてなる実質的に透明な層であり、所定の貯蔵弾性率を有し、厚み30μm以上の無配向の樹脂層。
B層:架橋弾性体成分を含むアクリロニトリル・スチレン系共重合樹脂および/または架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂を主体としてなり、所定の引張り破断伸びを有し、厚み45μm以上の着色樹脂層。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AV機器、エアコンカバー、携帯電話筐体などの家電製品部材、合板製家具部材、鋼製家具部材、ユニットバス壁材、ユニットバス天井材等のユニットバス部材、クローゼットドア材、パーティション材、カーテンレール材等の建築内装材等のエンボス意匠を有する被覆材として好適に用いることができる積層シート、積層シートにエンボス意匠を付与した積層シート、エンボス意匠を有する積層シートの製造方法、および、積層シートにより金属板を被覆して形成した積層シート被覆金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上記エンボス意匠を有する被覆材としては、エンボス意匠を付与した軟質塩化ビニル系樹脂シート(以下、「軟質PVCシ−ト」という。)で合成樹脂成形品、合板、木質繊維板、金属板等を被覆したものが用いられてきた。軟質PVCシ−トの特徴としては、
(1)カレンダー法による薄物シートの製膜が容易であることから、各種色味を有するシートを小ロットで、かつ短納期で、高い歩留まりで得ることができる、
(2)エンボス付与適性に優れることから、意匠性に富んだ被覆材を得ることができる、
(3)一般的に背反要素である加工性と表面の傷入り性のバランスが比較的良好である、
(4)各種添加剤との相容性に優れること、および長年にわたり添加剤による物性向上検討が行われて来たことから、耐久性に優れた樹脂皮膜を得ることが容易である、
等の点を挙げることができる。
【0003】
この軟質PVCの長尺シ−トに連続的にエンボス意匠を付与する方法として、製膜後のシートを再加熱により軟化させ、エンボス意匠を彫刻したロール(以下、本明細書において、このロールを「エンボスロール」という。)で抑えて柄を連続的に転写させる方法が一般的に用いられている。なお、シートを加熱する方法として、加熱した金属ロールに接触させて加熱するような接触型や、赤外ヒーターや、熱風ヒーター等によってロール等に接触させることなく加熱する非接触型等がある。実際の製造ラインでは、どちらか一方だけが用いられる場合もあるが、一般的には双方が併用されることが多い。また、これら一連の工程を有する設備をエンボス付与機等と称する。
【0004】
また、このエンボス付与機においては、エンボスロールの交換脱着を容易に行える設計が盛り込まれているのが一般的である。エンボスロールの直径は押出し製膜設備のキャスティングロール等と比較して小さく、多種のエンボスロールを用意しておくことでエンボス意匠の変更を容易かつ経済的に行うことができる。よって、本方法は、小ロット対応に適したエンボス付与方法といえる。
【0005】
また、着色された軟質PVCシートの表面にグラビア印刷法等により印刷柄を施した後、透明な軟質PVCシートを積層一体化し、この積層シートをエンボス付与機へ連続的に通すことにより、エンボス意匠と同時に、印刷意匠を有する軟質PVCシートが製造されていた。この場合、エンボス付与機でのシート予熱を利用して、2層のシートを熱融着で積層一体化すること等が行われており、積層のための特別な工程を必要としないことから生産性が良く、コスト面でも優れたものであった。
【0006】
このように、軟質PVCシ−トは、それ自体が優れた特徴と生産効率を有すると共に、軟質PVCシートへのエンボス付与技術および印刷技術が確立されており、種々の形態のPVCシート被覆金属板が製造されていた。しかし、近年VOC問題や内分泌撹乱作用の問題、燃焼時に塩化水素ガスその他の塩素含有ガスを発生する問題等から、塩化ビニル系樹脂の使用は、制限を受けるようになってきた。
【0007】
そこで、軟質PVCシートに替えて、加工性と耐傷入り性に優れたポリエステル系樹脂より形成されるシートを、エンボス意匠を有する樹脂被覆金属板の用途に用いることが検討された。このようなシートとして特許文献1には、非晶質ポリエステル樹脂を主成分とする基材フィルム層と、透明な非晶質ポリエステル樹脂を主成分とする保護フィルム層とを積層したポリエステル樹脂製積層化粧シートが提案されている。
【0008】
また、特許文献2では、実質的に非晶性あるいは低結晶性である樹脂組成物または前記実質的に非晶性あるいは低結晶性である樹脂組成物を多く含むエンボス付与可能層と、実質的に結晶性である樹脂組成物もしくは前記実質的に結晶性である樹脂組成物を多く含み、エンボス付与機での加熱時に積層シートに張力を付与すると同時にエンボス付与機での加熱金属への非粘着性を付与する層、とで構成される2層構造の積層樹脂シートとすることで、現行のPVC用のエンボス加工装置を用いてもシート溶断、加熱ロールへの貼り付きや巻き付きの不具合が生じずに、現行のPVC用のエンボス加工装置を用いることができることが提案されている。
【0009】
また、軟質PVCシートの代替として、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂を用いることも実施されているが、ポリエチレン系シート等では、表面硬度が低く、耐傷入り性に関し軟質PVCシートには遠く及ばず、人が触れる機会の多い建築内装材や、家電製品筐体の表面被覆等の用途に使用するには問題があった。
【0010】
これを改善する方法として、特許文献3には、ポリエチレン(PE)シートを基材として、表層にポリカーボネート(PC)系樹脂よりなるシートを被覆する構成により耐傷入り性を付与することが記載されている。
【0011】
また、特許文献4にはABS系樹脂を基材として用い、その表面に透明アクリル系樹脂シートを積層した化粧シートが提案されており、特許文献5にもまた、ABS系樹脂シートの表面に透明保護層を付与した構成の化粧シートが提案されている。
【特許文献1】特開2000−233480号公報
【特許文献2】WO03/045690号公報
【特許文献3】特開2003−145702号公報
【特許文献4】特開2001−334609号公報
【特許文献5】特開平11−034279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献1における積層化粧シートにおいては、2層のいずれの層も非晶性のポリエステル樹脂を主成分とすることから、エンボス付与機でシートが加熱された際の張力が充分なものとはならないため、シートの幅縮み、皺入り、破断等を生ずるおそれがあり、エンボス付与機により安定してエンボス意匠を有するシートを生産することが難しかった。また、一般的に用いることができる非晶性ポリエステル樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が100℃より低いことから、このような積層シートをユニットバス用途の樹脂被覆金属板に使用した場合に、その評価項目に含まれる沸騰水浸漬試験を実施した際、沸騰水中で樹脂層の弾性率が著しく低下し流動変形を起こし、外観不良となる恐れがあった。
【0013】
特許文献2に記載の積層樹脂シートは、エンボス意匠の転写性に優れた実質的に非晶性のポリエステル系樹脂を主体とする層と、エンボス付与機の加熱ロールへの非粘着性や、エンボス付与機で加熱された際も充分な張力を保持する特定の結晶性ポリエステル系樹脂を主体とする層とに機能分化することでエンボス付与適性を改善したものである。同時に、結晶性ポリエステル系樹脂を主体とする層を有することから、この積層樹脂シートをラミネートした樹脂被覆金属板に関しても、沸騰水浸漬時の流動変形が効果的に防止されており、外観不良を生じないものである。
【0014】
しかし、このような特許文献2に記載の積層樹脂シートにおいても、いわゆる精密エンボス意匠と呼ばれる非常に凹凸が浅く、緻密なエンボス意匠をエンボス付与機により転写することに関しては、軟質PVCシートに比べて良好とは言えず、改善が求められていた。このように、精密エンボス意匠の転写性が劣ってしまうのは、該構成の実質的に非晶性のポリエステル系樹脂を主成分とする層にエンボス意匠を付与する際に、エンボス意匠の耐熱性を確保するためにエンボスロールが比較的高温に設定されており、このエンボスロールの温度が、エンボス意匠を付与する層の非晶性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)より高いこととなるため、若干のエンボス戻りが発生してしまうことが原因である。
【0015】
つまり、エンボスロールとの接触においてエンボス意匠が付与された後、このエンボス付与された樹脂が、ガラス転移温度以下に冷却され、エンボス意匠が固定されるのは、積層樹脂シートがエンボスロールの下流側に設置されている冷却ロールと接触した時点となるため、エンボス戻りが発生する時間的余裕が生じてしまっており、版自体の凹凸が元来極めて浅い精密エンボスにおいては、わずかなエンボス戻りが生じたとしても、その転写が不満足なものとなるからである。
【0016】
また、特許文献3の積層シートでは、表層であるポリカーボネート系樹脂にエンボスを付与するためには、少なくともポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度である150℃程度以上に加熱し表層を軟化する必要がある一方で、下層がポリエチレン系樹脂であることから、該温度まで加熱された場合、下層の融点を越えてしまうこととなり、従って、エンボス付与機での加熱ロールへの粘着や、シートの破断等の問題を発生し、エンボス付与機を用いたエンボス付与には適さない構成である。更に、ポリカーボネート系樹脂とポリエチレン系樹脂は、熱融着性を有さないことから、これら2層の積層一体化のためには、接着層を介在させる等の工夫が必要となり、接着剤のコスト、および、工程増分のコストが付加されることとなる。
【0017】
特許文献4の化粧シートは、インモールド成形や真空成形等の加熱成形に供する用途、あるいは成形品への後貼りを実施する用途に供することを想定したものであり、樹脂被覆金属板の構成で折り曲げ加工を施すことまでは考慮されていない。
【0018】
すなわち、樹脂被覆金属板の構成では、折り曲げ加工性と表面硬度の双方を満たすことが樹脂層に求められるが、アクリル系樹脂を最表面層として用いた場合、その両立が困難である。樹脂被覆金属板に樹脂層が外側になるような折り曲げ加工を施した場合、樹脂層には大きな伸びが付加されることになるのであるが、一般的に樹脂製化粧シートの最表面への被覆(オーバーレイ)用途に用いられるアクリル系樹脂シートでは、その破断伸びが不足しており、折り曲げ加工部の樹脂層に割れを生ずることとなる。該アクリル系樹脂に関しては、架橋ゴム弾性体成分を更に多量に添加する等の方法により破断伸びを改善することが可能なものであり、その場合は折り曲げ加工性を確保することは可能となるが、それによって今度は樹脂被覆金属板に要求される表面硬度を確保するのが困難となる。また、基材層として用いられているABS系樹脂に関しても、樹脂被覆金属板としての加工性を考慮されてはいない。
【0019】
特許文献5に関しても、透明保護層としてアクリル系樹脂フィルムを用いた場合は、特許文献4と同様の問題が発生する。また、透明保護層として厚みの薄いコーティング層を用いた場合も樹脂被覆金属板としての加工性と表面硬度の両立は困難となる。これは、基材として用いているABS系樹脂は、オーバーレイ用途のアクリル系樹脂と同様に、本来は脆性材料であるマトリクス樹脂に、ゴム弾性体成分を添加することで柔軟性を確保している材料系であるため、加工性と表面硬度の両立が困難であるためである。また、厚みの薄いコーティング層が付与された表面の硬度は、その下層の柔軟性に大きく依存するためである。
【0020】
そこで、本発明においては、色味およびエンボス意匠について小ロット対応が可能であり、エンボス耐熱性を有するエンボス意匠、特に精密エンボス意匠をエンボス付与機により良好に付与することができ、金属板へのラミネート適性が良好である積層シートおよびエンボス意匠が付与された積層シートを提供することを課題とする。また、本発明は、該積層シートで被覆した金属板であって、折り曲げ等の二次加工性と表面硬度の双方について良好な性能を有する積層シート被覆金属板を提供することを課題とする。また、本発明は、該金属板を二次加工して製造した建築内装材、ユニットバス部材、鋼製家具部材、家電製品部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、これにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
第1の本発明は、表面側から順に下記A層(10)、B層(20)の2層を備え、積層シートの総厚みが75μm以上で、300μm以下の範囲である精密エンボスの付与適性に優れた積層シート(100)である。
A層(10):芳香族ポリカーボネート系樹脂を主体としてなるか、ポリエステル系樹脂と芳香族ポリカーボネート系樹脂とのブレンド組成物を主体としてなる実質的に透明な層であり、動的粘弾性引っ張り法による、10hz、100℃での貯蔵弾性率(E’)が、6×10Pa以上、6×10Pa以下であり、厚みが30μm以上である無配向の樹脂層。
B層(20):架橋弾性体成分を含むアクリロニトリル・スチレン系共重合樹脂、および/または、架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂を主体としてなり、顔料成分が添加されることにより着色されており、23℃での引張り破断伸びが100%以上350%以下であり、厚みが45μm以上である樹脂層。
【0022】
ここでの「主体として」なる、とは、A層(10)については、A層(10)全体の質量を基準(100質量%)として、上記芳香族ポリカーボネート系樹脂、または、上記ブレンド組成物を好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上含有することを意味する。また、B層(20)については、B層(20)の樹脂成分全体を基準(100質量%)として、上記アクリロニトリル・スチレン系共重合樹脂、および/または、上記アクリル系樹脂を、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上含有することをいう。また、A層(10)が「実質的に透明な層」であるとは、積層フィルムの表面からB層(20)の表面(B層表面に印刷柄(C)を形成した場合は、該印刷柄(C))が視認可能であることをいい、透明樹脂をベースにして光輝性粒子や艶消し剤などを含有する形態を含む意味である。なお、図示した積層シート(100A〜100C)を含む上位概念を積層シート(100)とする(以下、同様である。)。
【0023】
この発明によれば、芳香族ポリカーボネート系樹脂を主体としてなるか、ポリエステル系樹脂と、芳香族ポリカーボネート系樹脂とのブレンド組成物を主体としてなるA層(10)が積層シートの最表面に位置することにより、B層(20)として比較的柔軟なシートを用いたとしても、表面硬度に優れ、耐傷入り性の良好な積層シートを得ることができる。更に、その100℃における貯蔵弾性率が特定の範囲にあることにより、該層に付与されたエンボスは、実用上問題の生じないエンボス耐熱性を有し、特に沸騰水に浸漬された後のエンボスの戻りに対しても良好な耐熱性を示すものである。
【0024】
また、B層(20)として、カレンダー製膜性を有し、かつ、芳香族ポリカーボネート系樹脂との熱融着性を有する、架橋弾性体成分を含むアクリロニトリル・スチレン系共重合樹脂および/または架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂を主体としてなるシートを用いることで、多種の色意匠に対して小ロットで効率的に対応することが可能であり、さらに、A層(10)との積層一体化を熱融着積層により効率的に実施することができる。
【0025】
また、B層(20)は、23℃での引っ張り破断伸びが100%以上の層であるので、A層(10)として用いる芳香族ポリカーボネート系樹脂が本来的に有する120%〜150%の引っ張り破断伸びの効果と合わさって、本発明の積層シートで被覆した金属板の折り曲げ等の二次加工性を良好にすることができる。
【0026】
第1の本発明において、A層(10)は、テレフタル酸またはジメチルテレフタル酸をジカルボン酸成分の主体とし、50モル%以上75モル%以下の1,4−シクロヘキサンジルタノールおよび25モル%以上50モル%以下のエチレングリコールをジオール成分とする芳香族ポリエステル系樹脂と、芳香族ポリカーボネート系樹脂とのブレンド組成物であることが好ましい。
【0027】
ここでの「主体」とし、とは、ジカルボン酸成分全体を基準(100モル%)として、テレフタル酸またはジメチルテレフタル酸を70モル%以上、好ましくは90モル%以上、より好ましくは98モル%以上含むことをいう。
【0028】
上記の芳香族ポリエステル系樹脂は、芳香族ポリカーボネート系樹脂との相容性に優れ、A層(10)の透明性を良好にすることができる。また、任意のブレンド比率で単一のガラス転移温度を有するブレンド組成物とすることができ、本発明のA層(10)が備えるべき100℃での貯蔵弾性率を得ることが容易である。また、かかる芳香族ポリエステル系樹脂は、商業的に流通しており、原料供給の安定性、および原料コストの点からも好ましい。
【0029】
第1の本発明において、B層(20)の架橋弾性体成分は、架橋されたアクリル系ゴム相に、マトリクスとの相溶性を得るためのアクリル系組成物をグラフト重合したコア・シェル型アクリル系架橋弾性体成分であることが好ましい。
【0030】
これにより、B層(20)に23℃で100%以上の引張り破断伸びを付与してB層(20)に柔軟性を付与することが容易となる。そして、本発明の積層シートで被覆した積層シート被覆金属板200に良好な加工性を付与することができる。また、該コア・シェル型アクリル系架橋弾性体成分は、化学的安定性が良好であり、積層シート被覆金属板200を長期間にわたって使用した場合も、架橋ゴム弾性体成分の劣化に起因する変色等の劣化を生じ難い点からも特に好ましい。
【0031】
第1の本発明において、A層(10)とB層(20)との間に印刷柄(C)(30)を付与することができる。A層(10)は実質的に透明な層であるので、A層を通して印刷柄(C)(30)を視認することができる。これにより、エンボス意匠の付与適性が優れていることに加え、印刷意匠を併せ持つ積層シートとすることができる。
【0032】
第1の本発明において、A層(10)に、鱗片状または平板状の形状をした光輝性粒子を、A層(10)の樹脂成分全質量を100質量部として、0.5質量部以上5質量部以下添加することができる。これにより、本発明の積層シートに対してさらに光輝性粒子による意匠感を付与することができる。
【0033】
第1の本発明において、積層シートの表面であるA層(10)の表面に、エンボスによる凹凸意匠を付与することができる。本発明の積層シートは、A層(10)表面へのエンボス付与機でのエンボス付与適性に優れており、特に、微細な凹凸から形成される精密エンボスを付与した場合も良好な転写性が得られる。
【0034】
第2の本発明は、第1の本発明の積層シート(100A、100B)を下記温度Ta(℃)以上に加熱する工程(S1)、Ta−70(℃)以上、Ta−25(℃)以下に温調されたエンボスロール(350)により、A層(10)表面にエンボス付与を連続的に行う工程(S2)、を備えた、エンボス意匠を有する積層シートの製造方法である。
温度Ta(℃):動的粘弾性引っ張り法による、10hzでの、前記A層の貯蔵弾性率(E’)が、1×10Pa以下となる温度(℃)
【0035】
本発明の積層シートは、付与されたエンボスの耐熱性が、A層(10)の樹脂組成物の貯蔵弾性率(E’)の温度依存性によってほぼ規定されるため、特許文献2の積層シートでエンボス耐熱を確保する場合のように、エンボスロール(350)の温度を高温に設定する必要がない。従って、エンボスロール(350)の温度としては、A層(10)の動的粘弾性引っ張り法10hzでの貯蔵弾性率(E’)が、1×10Pa以下となる温度(℃)−25℃以下程度にしておいて支障がない。
この場合、エンボス機(300)のヒーター(330)で充分に弾性率が低下するまで加熱されたA層(10)は、エンボスロール(350)に接触することで、エンボス意匠が転写され、そして同時に充分に高い弾性率を得られる温度まで冷却を受け、エンボスの固定が達成される。従って、特許文献2の積層シートのように、ガラス転移温度を超える温度のままエンボスロール(350)を離れ、冷却ロール(360)まで送られる間にせっかく付与したエンボスの戻りが発生してしまうような問題が生じない。よって、第2の本発明の方法は、もともとの版深さが浅く、微細な凹凸により形成された柄の精密エンボスを転写する場合において、特に有効な方法である。
【0036】
また、A層(10)は、動的粘弾性引張り法による、10hz、100℃における貯蔵弾性率が、特定値以上であることから、上記温度のエンボスロール(350)で付与されたエンボスであっても、沸騰水浸漬等によりエンボス戻りが生じない。実用上充分なエンボス耐熱性が得られる。
【0037】
また、B層(20)は、架橋弾性体成分を含むアクリロニトリル・スチレン系共重合樹脂、および/または、架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂を主体としてなることから、エンボス付与機(300)のヒーター(330)で積層シートが加熱された際においても、充分なシート張力を維持できる。そして、該加熱時における、シート張力の不足によるシート破断や、シートの伸び、幅縮み、それに起因する皺入り等の問題を防ぐことができる。また、このような構成のB層(20)は加熱ロール(310)に対する非粘着性を有する。これにより、第2の本発明の方法により、本発明の積層シートに対して、連続的に安定してエンボスを付与できる。また、第1の本発明の積層シートは、以上の観点から、エンボス付与機によるエンボス付与適性を有しているといえる。
【0038】
第3の本発明は、第1の本発明の積層シート(100)および金属板(50)を備え、該積層シートのB層(20)側が接着剤(40)により金属板(50)上にラミネートされている、積層シート被覆金属板(200)である。
【0039】
第3の本発明の積層シート被覆金属板(200)は、良好に転写された精密エンボスを有しており、充分なエンボス耐熱性を有し、表面硬度が優れており、また、色味やエンボス柄の種類に対して小ロット対応が可能である。また、エンボスを付与していない積層シートをラミネートした場合は、積層シート被覆金属板の状態でエンボス付与することとなるが、この場合においても、エンボスの転写性、特に精密エンボスの転写性が優れている。また、これに加えて、印刷意匠や、光輝性粒子による意匠を併せ持つ構成とすることもできる。また、本発明の積層シート金属板(200)は、良好な表面硬度と良好な二次加工性を併せ持っている。
【0040】
第4の本発明は、第3の本発明の積層シート被覆金属板(200)を用いた建築内装材である。建築内装材としては、例えば、クローゼットドア材、パーティション材、カーテンレール材等が挙げられる。
【0041】
第5の本発明は、第3の本発明の積層シート被覆金属板(200)を用いたユニットバス部材である。ユニットバス部材としては、例えば、ユニットバス壁材、ユニットバス天井材等が挙げられる。
【0042】
第6の本発明は、第3の本発明の積層シート被覆金属板(200)を用いた鋼製家具部材である。
【0043】
第7の本発明は、第3の本発明の積層シート被覆金属板(200)を用いた家電製品部材である。家電製品部材としては、例えば、AV機器、エアコンカバー、携帯電話筐体が挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。
なお、本発明の積層「シート」、および積層シートを構成する各層「シート」は、一般的に「シート」と呼称される厚み範囲のものと、「フィルム」と呼称される厚み範囲のものを含んでいるが、本明細書では一般的には「フィルム」と呼称する範囲に関しても便宜上「シート」という単一呼称を用いた。
【0045】
図1(a)〜(c)は、本発明の積層シート100A〜100Cの層構成を示す模式図である。図1(a)には、A層10、B層20を備えた本発明の積層シート100Aの基本的な構成を示した。図1(b)には、A層10とB層20との間に印刷柄(C)30を付与した形態を示した。図1(c)では、積層シート100AのA層10表面にエンボスによる凹凸意匠を付与した形態を示した。
【0046】
図1(d)では、図1(c)に示した形態の積層シート100Cを、接着剤40を介して金属板50にラミネートして形成した本発明の積層シート被覆金属板200を示した。以下、各層について説明する。
【0047】
<A層10>
A層10は、積層シート100A、100Bを図2に示すエンボス付与機300に通した際、加熱軟化された後、エンボスロール350により押圧され、エンボス意匠が転写される層である(エンボス付与機については、後で詳しく説明する。)。従って、A層10は、エンボスロール350で押圧される時点で一般的なエンボス付与機300でのシート加熱温度の上限である190℃程度を超える融点(Tm)を示すような高い結晶性を有するような樹脂組成であってはならない。
【0048】
また、A層10は、ガラス転移温度が100℃に満たない実質的に非晶性のポリエステル系樹脂のみからなる層であってもならない。このような低いTgを有する樹脂のみを用いた場合、エンボスロール350の温度を該樹脂のガラス転移温度以下に設定することにより、エンボス意匠の転写と同時に積層シート100A、100Bはエンボスロール側から冷却され、エンボス意匠の冷却固定がなされ、精密エンボス意匠を転写することはできる。しかし、A層10を構成する樹脂のガラス転移温度が低すぎるために、本発明のA層10が備えるべき100℃での貯蔵弾性率を備えることができず、エンボス耐熱性が劣ってしまう。特に、ユニットバス部材の規格試験として実施されることが多い沸騰水浸漬に供した際のエンボス戻りによる意匠性の低下が顕著となる。
【0049】
なお、以上の理由から、実質的に非晶性のポリエステル系樹脂のみを用いたとしても、本発明のA層10が備えるべき所定の貯蔵弾性率を得ることができるならば、このような樹脂によりA層10を構成しても問題はない。
【0050】
以上の観点から、本発明においてはA層10を、芳香族ポリカーボネート系樹脂を主体としてなるか、ポリエステル系樹脂と芳香族ポリカーボネート系樹脂のブレンド組成物を主体としてなり、動的粘弾性引っ張り法による、10hz、100℃での貯蔵弾性率(E’)が、6×10Pa以上、6×10Pa以下であり、厚みが30μm以上の無配向の層としている。
【0051】
100℃における貯蔵弾性率(E’)を特定の値以上と規定したことにより、低温のエンボスロールを用いて精密エンボスの転写性を良好なものとした場合においても、A層10に付与したエンボス意匠に実用上十分な耐熱性を付与することができる。
【0052】
第1の本発明において、同温度における貯蔵弾性率に上限を設定したのは、通常得られる芳香族ポリカーボネート系樹脂、または、ポリエステル系樹脂と芳香族ポリカーボネート系樹脂のブレンド組成物で、この上限を超えるものは存在しないためである。よって、将来この上限を超える材料が発見された場合、このような材料を除外するという意味ではない。このような材料であっても、本発明の効果を奏することができるのであれば、A層10を構成する材料として採用することができる。
【0053】
なお、ここでの「主体としてなる」とは、A層10全体の質量を基準(100質量%)として、上記芳香族ポリカーボネート系樹脂、または、ブレンド組成物を70質量%以上、好ましくは、80質量%以上、より好ましくは、90質量%以上含有することを意味する。
【0054】
また、「無配向」であるとは、シートに何らかの性能を付与する目的での意図的な延伸操作等の配向処理を行ったものではないことを意味し、押出し製膜時にキャスティングロールによる引取りで発生する配向等まで存在しないと言う意味ではない。意図的な配向処理を施したA層10を用いた場合は、積層シート100A、100Bにエンボスを付与するための加熱を行った際に、シートの収縮や皺入りを発生し、安定したエンボス付与作業ができないおそれがある。
【0055】
(芳香族ポリカーボネート系樹脂)
本発明のA層10に用いられる芳香族ポリカーボネート系樹脂は、ホスゲン法やエステル交換法、ピリジン法等公知の方法により製造される。芳香族ジヒドロキシ化合物を用いて得られた重合体である。以下、一例として、エステル交換法による芳香族ポリカーボネート系樹脂の製造方法を記載する。
【0056】
エステル交換法は、2価フェノールと炭酸ジエステルとを塩基性触媒、更にはこの塩基性触媒を中和する酸性物質を添加して、溶融エステル交換縮重合を行う製造方法である。2価フェノールの代表例としては、ビスフェノール類があげられ、特に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、すなわちビスフェノールAが最も汎用的に用いられており、本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂に用いる原料としても好ましい。また、ビスフェノールAの一部または全部を他の2価フェノールで置換した構造のものを用いても良い。
【0057】
他の2価フェノールとしては、ハイドロキノン、4,4−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタンや、1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタンなどのビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどのビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン類、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフォン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフォキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテルなどの化合物、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンのようなアルキル化ビスフェノール類、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンのようなハロゲン化ビスフェノール類を挙げることができる。
【0058】
炭酸ジエステルの代表例としては、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニルカーボネート)、m−クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ビフェニル)カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネートなどを挙げることができ、中でもジフェニルカーボネートが最も汎用的に用いられており、本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂に用いる原料としても好ましい。
【0059】
本発明に用いられる芳香族ポリカーボネート系樹脂の分子量としては、溶剤としてメチレンクロライドを用い20℃で測定された溶液粘度より換算された粘度平均分子量で、下限は好ましくは20000以上であり、より好ましくは22000以上である。また、上限は好ましくは40000以下であり、より好ましくは30000以下である。粘度平均分子量が小さすぎると、特に低温衝撃強度が低下することが知られており、一方、粘度平均分子量が大きすぎると、溶融粘度が非常に高くなり成形加工性が低下し、また、重合に長時間を要することから生産サイクルやコストの点から好ましくない。なお、本発明においては、一種類の芳香族ポリカーボネート系樹脂を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0060】
(ポリエステル系樹脂)
A層10のブレンド組成物を構成するポリエステル系樹脂としては、各種芳香族ポリエステル系樹脂や脂肪族ポリエステル系樹脂の中から選ぶことができる。しかし、ブレンド組成物が結晶性を有すると、積層シート被覆金属板200を平板の状態で長期間保管した後、折り曲げ等の二次加工に供した場合、経時結晶化の進行によりA層10の加工性が低下し、折り曲げ部に割れを生ずる恐れがあり、また、積層シート被覆金属板200を折り曲げ成形したパネル材としての使用中に、経時結晶化が進行しA層10に白濁を生ずる恐れがある。
【0061】
その点から、A層10に用いるポリステル系樹脂としては、実質的に非晶性であるか、低晶性であるポリエステル系樹脂を用いることが好ましい。ここで、実質的に非晶性であるか、低晶性であると言うのは、上記のような経時結晶化の問題を生じないと同時に、エンボス付与機でのシート加熱の際に、結晶化が進行することによりエンボス転写が困難とならないようなブレンド組成物が得られるものを指す。
【0062】
一つの目安としては、示差走査熱量計(DSC)により、JIS−K−7212に準拠して、加熱速度10/分で測定される結晶融解熱量(△Tm)が15J/g以下であるポリエステル系樹脂を用いれば、芳香族ポリカーボネート系樹脂とのブレンド組成物とした際に上記のような結晶化による問題を生じる恐れが少ない。
【0063】
これら、実質的に非晶性、低晶性であるポリエステル系樹脂の中でも、ジカルボン酸成分が、テレフタル酸、または、ジメチルテレフタル酸を主体とするものであり、ジオール成分全体を基準(100モル%)として、50モル%以上75モル%以下の1,4−シクロヘキサンジメタノール(1,4−CHDM)、および、25モル%以上50モル%以下のエチレングリコールをジオール成分として含有する芳香族ポリエステル系樹脂を用いることが好ましい。また、さらに、該組成に加えて、数モル%のジエチレングリコール(DEG)、その他のジオール成分を含んでいても良い。
【0064】
なお、ここでの、「主体とする」とは、ジカルボン酸成分全体を基準(100モル%)として、テレフタル酸またはジメチルテレフタル酸を70モル%以上、好ましくは90モル%以上、より好ましくは98モル%以上含むことをいう。
【0065】
このような芳香族ポリエステル系樹脂は、芳香族ポリカーボネート系樹脂との相容性が優れているため、任意の比率で芳香族ポリカーボネート系樹脂と混合してA層10を構成する樹脂として使用することができる。また、相溶性に優れる結果として、A層10のエンボス耐熱性を向上させることができる。従って、沸騰水浸漬試験におけるA層10の流動変形を効果的に防止でき、流動変形に伴う外観変化を防ぐことができる。
【0066】
さらに、上記好ましい形態の芳香族ポリエステル系樹脂は、商業ベースで量産されていることから、安定した供給が得られ、価格面のメリットもあることから好ましい。このような組成範囲の芳香族ポリエステル系樹脂としては、イーストマン・ケミカル・カンパニー社の「PCTG・5445」や、同じくイーストマン・ケミカル・カンパニー社の「PCTG・24635」を挙げることができる。
【0067】
なお、上記芳香族ポリエステル系樹脂において、ジオール成分における1,4−シクロヘキサンジメタノールの量が75モル%より多い場合は、結晶性の影響が顕著になってしまうため好ましくない。
【0068】
A層10を構成する樹脂混合物に含まれるポリエステル系樹脂としては、このポリエステル系樹脂を構成するジカルボン酸成分がテレフタル酸またはジメチルテレフタル酸を主体とするものであり、また、このポリエステル系樹脂を構成するジオール成分が、このジオール成分全体を基準(100モル%)として、25モル%以上50モル%より少ない1,4−シクロヘキサンジメタノール、および、50モル%より多い75モル%以下のエチレングリコールを含有するものを用いることもできる。ただ、このような芳香族ポリエステル系樹脂は、上記したジオール成分の50モル%以上75モル%以下を1,4−シクロヘキサンジメタノールとする芳香族ポリエステル系樹脂に比べて、芳香族ポリカーボネート系樹脂との相容性がやや劣るようになる。その結果、樹脂混合物の混練の状態によっては、A層10のヘイズ(曇価)が大きい積層シート100しか得られない場合があるが、ヘイズが大きいことが問題とならない場合には、特に支障なく用いることができる。
【0069】
なお、このような組成範囲の芳香族ポリエステル系樹脂としては、イーストマン・ケミカル・カンパニー社の「イースターPETG・6763」等が挙げられ、これを用いた場合は、コスト面のメリットを得ることができる。
【0070】
あるいは、該共重合組成系で、ジオール成分に占める1,4−シクロヘキサンジメタノールの比率が50モル%より少ない場合であっても、特定のポリアルキレングリコールセグメントを構成成分として含むポリエステル系樹脂は、芳香族ポリカーボネート系樹脂との比較的良好な相容性を示すことが知られている。よって、このようなポリエステル系樹脂も本発明のA層10の芳香族ポリカーボネート樹脂にブレンドする樹脂成分として用いることができる。該特徴を有するポリエステル系樹脂としては、三菱レイヨン社製の「ダイヤナイトDN−124」をあげることができる。
【0071】
また、ブレンド組成物とした場合に所定の貯蔵弾性率を示すものであれば、ポリカプロラクトン樹脂(一例として、ダイセル化学工業社製「プラクセルH」など)や、脂肪族・脂環族ポリエステル樹脂等(一例としてポリ乳酸など)も、本発明のA層10の芳香族ポリカーボネート樹脂にブレンドする樹脂成分として用いることができる。
また、A層10を上記した本発明において好ましい形態である芳香族ポリエステル系樹脂(ジオール成分の50モル%以上75モル%以下の1,4−シクロヘキサンジメタノールのもの)と芳香族ポリカーボネート系樹脂をブレンドした組成物で形成した場合のポリエステル系樹脂の割合は、A層10全体の質量を基準(100質量%)として、80質量%未満であることが好ましく、75質量%未満であることがより好ましい。このような割合のブレンド組成物を用いることにより、A層10の貯蔵弾性率を本発明の所定の範囲に設定し易くなる。また、A層10の芳香族ポリエステル系樹脂の割合を多くした場合は、高価な芳香族ポリカーボネート系樹脂の使用量を低減できるという効果がある。
【0072】
(光輝性粒子)
A層10の下に印刷柄(C)30が存在しない場合は、A層10に意匠性付与や下地の視覚的隠蔽のために着色顔料を添加しても良い。しかし、芳香族ポリカーボネート系樹脂を含む樹脂組成物の熔融混練、および、押出し製膜には比較的高温を必要とするので、耐熱性の点から、使用可能な顔料や染料が制約される。このため、本発明においては、顔料等の添加による着色意匠の発現と、下地の視覚的隠蔽効果の発現は、主としてカレンダー法による製膜が可能なB層20が受け持つことにしている。
【0073】
また、A層10には、耐熱上問題なく使用できる顔料類を添加することはできる。そして、着色の主体をB層20とした上で、A層10には適当な粒径を有する鱗片状または平板状等の形状をした光輝性粒子を添加することで、A層10の透明性を確保し、B層20の色意匠を活かしながら、光輝性粒子が点状に分散した意匠感を備えた積層シートを得ることができる。
【0074】
このような光輝性粒子としては、鱗片状のアルミ粉や、鱗片状のチタン粉、平板状ガラスフレークの表面に金属薄膜をコーティングしたもの等を用いることができる。光輝性粒子の平均粒径としては10μm〜150μmの範囲のものが好ましく、20μm〜100μmのものが更に好ましい。
【0075】
光輝性粒子の粒径がこれより小さい場合は、光輝性粒子が輝度感を有する点として認識される効果に乏しく、全体が一様にメタリックな反射を示すような意匠となりやすく、その場合は、印刷柄(C)としてメタリックのベタ印刷を用いた場合に得られる意匠感と大差ないものとなる。光輝性粒子の粒径がこれより大きい場合は、形式的には個々の光輝性粒子の視認度は良好となる筈である。しかし実際は、A層10の組成物のマスターバッチの作製時や押出し製膜時等の剪断が加えられるプロセスにおいて、光輝性粒子の破砕が顕著に発生するため、期待したほどの意匠効果は得られない。また、逆に、これらプロセスでの破砕を最低限に抑え、大粒径の光輝性粒子を分散し得たとしたとしても、積層シート被覆金属板200を折り曲げ加工等の2次加工に供した場合に大径粒子を起点とした樹脂層のクラック発生を生起し加工性不良を招くおそれがある。
【0076】
また、これら光輝性粒子の平均厚みは0.5μm〜10μmであることが好ましい。これより薄いと、剪断が加えられるプロセスにおいて、光輝性粒子の破砕や変形が顕著に発生する恐れがある。また、これより厚いとA層10を押出し製膜で作製する際のA層10の流動性の不良を生起し、スジ入りや穴開き等の不良を生起したり、製膜自体が困難となったりする恐れがある。光輝性粒子の平均厚みは、6μm以下であることがさらに好ましい。また、最大厚みが20μm以上の粒子を含まないことが好ましい。
【0077】
これら光輝性粒子のA層10への添加量は、A層10の樹脂成分の全質量を100質量部として、0.5質量部以上5質量部以下とすることが好ましく、0.8質量部以上2.5質量部以下とすることがさらに好ましい。添加量が少なすぎると、輝度感を有する点として認識される粒子の数が少なく、充分な意匠感を得ることができない。添加量が多すぎると、全体が一様な輝度感を示すようになり、やはり良好な意匠感を得ることができない。平均粒径、および、平均厚みの大きい粒子ほど、同一添加部数での粒子の数は少ないこととなるので、希望する意匠に応じて、上記範囲の添加量内で、平均粒径や平均厚みを考慮して適宜添加量を決定することができる。
【0078】
このような光輝性粒子としては、ガラスフレークの表面に金属箔膜をコーティングした構成を有する日本板硝子社製の「メタシャイン」を挙げることができ、各種粒径・厚みのものを入手することができる。また、「メタシャイン」の中でも金属箔膜として、銀、およびニッケルの薄膜を用いたものが、強い輝度感が得られることから、好ましく用いることができる。また、鱗片状アルミニウムなどの、メタリック塗料等に用いられるアルミニウム系の光輝性粒子や鱗片状チタン、金粉、金箔粉、銀粉などの中から、比較的粒径の大きなものを選択して用いることもできる。
【0079】
(添加剤)
また、A層10には、その性質を損なわない範囲において、各種添加剤を適宜な量添加しても良い。一般的な添加剤としては、燐系、フェノール系その他の各種酸化防止剤、ラクトン系、フェノールアクリレート系その他のプロセス安定剤、熱安定剤、トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系その他の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系ラジカル補足剤、衝撃改良剤、加工助剤、滑剤、金属不活化剤、抗菌・防かび剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料分散性改良剤、充填・増量剤、艶消し剤、ブルーイング剤(青味付与剤)等を挙げることができる。これらの添加量は、実質的に透明な熱可塑性樹脂製品を得る場合に通常添加される量とすることができる。
【0080】
(A層10の厚み)
A層10の厚みは、下限が好ましくは30μm以上、より好ましくは40μm以上であり、上限が好ましくは250μm以下、より好ましくは100μm以下である。A層10の厚みが薄すぎると、いかにA層10の樹脂組成として硬度の高い、傷入り性の良好な樹脂を用いたとしても、積層シート100A〜100Cの構成とした場合は、柔軟なB層20の影響が表面硬度に現れてしまい、良好な耐傷入り性を得られなくなるおそれがある。また、また、A層10を押出し製膜する場合も、あまり厚みが薄いと安定した製膜が困難となりやすく、製膜シートの取り扱い性も悪くなる。さらに、A層10に前述の光輝性粒子を添加する場合は、A層10の厚みは40μm以上とすることが、製膜安定性の点から好ましい。また、A層10の厚みが厚すぎると、耐傷入り性向上の効果は飽和し、積層シート被覆金属板200用途に用いる場合は、積層シートの総厚みに制限があるため、B層20を薄くする必要があり、B層20の機能を発現できないおそれがある。
【0081】
A層10の製膜方法に関しては特に制限は無いが、Tダイを備えた押出機で熔融、混練し、可塑化した樹脂組成物をTダイで展開、流下させ、適当な温度に温調されたキャスティングロールで引き取る一連の工程を有する押出し製膜法によるのが、最も容易である。
【0082】
<B層20>
B層20は、本発明の積層シート100A〜100Cに色味の意匠を付与すると同時に、被覆する下地の色の違いの影響で、積層シート100A〜100Cの色味や意匠感が変化しないように下地を隠蔽するための層である。
【0083】
従って、B層20の樹脂組成は、カレンダー製膜法により所要の厚みのシートを得ることが可能であり、かつ、A層10の樹脂組成である芳香族ポリカーボネート系樹脂、または、芳香族ポリカーボネート系樹脂とポリエステル系樹脂のブレンド組成物と熱融着積層が可能であるものが好ましい。
【0084】
基本的に熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度以上、あるいは融点以上の、弾性率が充分に低下する温度まで加熱することで、オープンロールによる成形は可能となる。その中でも、ここでいうカレンダー製膜が可能というのは、軟質PVCシートの製膜に用いられてきたようなカレンダー設備や、それに温度条件や剪断トルクに関し多少の能力向上を施した程度のカレンダー設備で、容易に製膜が可能であることをいう。さらに具体的には、ロール加熱温度の上限が200℃〜210℃程度のカレンダー設備で熔融混練が可能で、かつ、カレンダーロールからの良好な離型性を示し、圧延工程では十分な熔融張力を示し、均一な厚みの薄物シートを得易い樹脂組成物をいう。
【0085】
色味を付与する層であるB層20が、カレンダー製膜可能であることが好ましい理由は、積層シート被覆金属板200市場では小ロットで極めて多種類の色味に対応する必要があるため、押出し製膜では色替えロスが多量に発生し、コスト面や環境問題の点で問題を生じるおそれがあるためである。
【0086】
以上の観点から、本発明において、B層20を、23℃での引っ張り破断伸びが100%以上350%以下であり、架橋弾性体成分を含むアクリロニトリル・スチレン系共重合樹脂、および/または、架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂を主体としてなる層とする。
【0087】
ここで、「主体」としてなるとは、B層の樹脂成分の全体を基準(100質量%)として、60質量%以上、好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上含有することをいう。
【0088】
(アクリロニトリル・スチレン系共重合樹脂)
本発明のB層20を構成する「アクリロニトリル・スチレン系共重合樹脂」とは、AS樹脂と略称される共重合樹脂の総称であり、シアン化ビニル単量体として、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル等を用い、芳香族ビニル単量体として、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレンなどの低級アルキル基、低級アルコキシ基、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子等で側鎖を置換したスチレン等を用いたランダム共重合体である。
【0089】
アクリロニトリル・スチレン系共重合樹脂は本来的に脆性材料であり、折り曲げると割れる性質を有している。よって、本発明においては、それを改善し、カレンダー製膜性を付与する目的で、後述する架橋弾性体成分を含む樹脂組成物としている。
【0090】
(アクリル系樹脂)
B層20を構成する「アクリル系樹脂」とは、下記一般式(1)で示されるアクリル系単量体の単一組成、または複数組成を重合して得られる重合体、または、二種以上の該重合体の混合物である。
CH=CR−COOR (1)
【0091】
一般式(1)において、Rは、水素原子またはメチル基を表し、Rは、炭素数1〜8、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基またはシクロアルキル基を表す。
【0092】
B層20における、アクリル系樹脂としては、例えば、メチルメタクリレート単量体を単独で重合したものを用いても良いが、B層20に必要とされる破断伸びを得やすくする目的で、例えば、メチルメタクリレートを主成分として、ブチルアクリレートやエチルアクリレート等のガラス転移温度Tgを低下させる効果を有する単量体をランダム共重合させて破断伸びを向上させたアクリル系樹脂を用いることが好ましい。
【0093】
また、このようなランダム共重合体で組成の異なる2種以上のアクリル系樹脂の混合組成を用いても良い。ただし、この場合もB層20のアクリル系樹脂のガラス転移温度Tgは85℃以上であることが好ましい。ガラス転移温度Tgがこれより低い場合は、カレンダー製膜での製膜性等に問題を生じ易く、また、該積層シートで被覆した積層シート被覆金属板200を沸騰水浸漬試験に供した場合に、耐熱性の不足により樹脂層に変形を生じ、外観不良をもたらす恐れがある。
【0094】
また、B層20のアクリル系樹脂としては、アクリル系樹脂との相容性に優れ、アクリル系樹脂のガラス転移温度Tgを低下させる作用を有する可塑剤を添加したアクリル系樹脂、あるいは、アクリル系樹脂とある程度の相溶性を有するポリマー成分を添加する等により、破断伸びを改善したアクリル系樹脂等も用いることができる。
【0095】
上記のアクリル系樹脂のガラス転移温度を低下させる作用を有する可塑剤としては、フタル酸系の可塑剤(例えば、ジオクチルフタレート(DOP)やジイソノニルフタレート(DINP)、連続塊状重合により得られた分子量1000〜20000のアクリル系高分子可塑剤(例えば、東亜合成社製「アルフォンUP1020」)等を用いることができる。また、前述のアクリロニトリル・スチレン系共重合樹脂に関しても、分子量1000〜20000のアクリル系高分子可塑剤(例えば、東亜合成社製「アルフォンUP1010」)等により、破断伸びを向上させることができる。
【0096】
また、上記のアクリル系樹脂とある程度の相溶性を有するポリマー成分としては、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリエチレンオキサイド樹脂等を用いることができる。
【0097】
ただし、アクリル系樹脂においても、これらの方法のみでは、85℃以上のガラス転移温度を維持しつつ、B層20に本発明に必要な範囲の破断伸びを付与することは難しく、そして、カレンダー製膜性を充分なものとはできないため、本発明においては、後述する架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂組成物を用いる。また、本発明におけるB層20は、上記したアクリロニトリル・スチレン系共重合樹脂とアクリル系樹脂との混合組成を主体としてなるものでもよい。
【0098】
(架橋弾性体成分)
上記のアクリロニトリル・スチレン系共重合樹脂、および、アクリル系樹脂に添加する架橋弾性体成分としては、架橋ゴム状重合体にマトリクス樹脂相との親和性を向上させる効果を有する樹脂成分をグラフト共重合させた、いわゆるコア・シェル型の架橋弾性体成分を用いることが好ましい。このような架橋弾性体成分を用いることで、折り曲げ部の白化を防止することができると共に、B層20に必要とされる所定の破断伸びが得やすくなる。
【0099】
コア・シェル型の架橋弾性体成分のコアとなる架橋ゴム状重合体としては、代表的なものとして、ポリブタジエンゴム、ブタジエン・スチレン共重合ゴム、ブタジエン−アクリロニトリル共重合ゴム、ポリイソプレンゴム、ポリクロロプレンゴム等の共役ジエン系重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合ゴム、後述するアクリル樹脂系架橋ゴム弾性体等が挙げられる。ゴム状重合体は1種でも2種以上であっても良い。
【0100】
これら架橋ゴム状重合体に、スチレン系単量体とアクリロニトリル系単量体とをグラフト重合させてコア・シェル型の架橋弾性体成分としたものが、ABS系ゴムと呼ばれるものであり、本発明のB層20の樹脂成分として、アクリロニトリル・スチレン系共重合樹脂を用いた場合の架橋弾性体成分として好ましく用いることができる。
【0101】
ABS系ゴムにおける、シェルとなるグラフト相を構成するスチレン系単量体としては、芳香族ビニル単量体である、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレンなどの低級アルキル基、低級アルコキシ基、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子等で側鎖を置換したスチレンを挙げることができる。
【0102】
ABS系ゴムにおける、シェルとなるグラフト相を構成するアクリロニトリル系単量体としては、シアン化ビニル単量体である、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル等を挙げることができる。これらのスチレン系単量体、アクリロニトリル系単量体は、それぞれ一種単独で重合しても良いし、二種以上を混合して重合してもよい。
【0103】
シェルとなるグラフト相には、さらに、上記の単量体と共重合可能な他のビニル単量体が含まれていても良い。このような他のビニル単量体としては、例えば、アクリル酸またはメタクリル酸と炭素数が1〜10の範囲のアルカノールとのエステル、特にメチルアクリレート、エチルアクリレートおよびメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、さらにマレイミド、N−フェニルマレイミド、等が挙げられる。これらは1種単独を用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0104】
また、架橋弾性体成分のグラフト相(シェル)を構成する単量体の種類や組成比は、B層20を構成する樹脂成分であるアクリロニトリル・スチレン系共重合樹脂と同一であっても良く、異なっていても良い。
【0105】
(アクリル系架橋弾性体成分)
本発明の架橋弾性体成分のコア層およびシェル層の組み合わせとしては、上記ABS系ゴム以外にもMBS系ゴムなど各種のものを用いることができる。そして、これらの中でも、「アクリル系架橋弾性体成分」を用いることが、各種市販原料の各種グレードを容易に入手、使用可能な点から特に好ましい。また、その場合はB層20の樹脂成分としてもアクリル系樹脂を主体として用いることが好ましい。
【0106】
「アクリル系架橋弾性体成分」とは、架橋されたアクリル系ゴム相に、マトリクスとの相容性を得るためのアクリル系組成物をグラフト重合してグラフト相を形成したものである。
【0107】
架橋されたアクリル系ゴム相に用いるアクリル系樹脂としては、例えば、アルキル基の炭素数が1〜8のアクリル酸エステルの1種または2種以上を単量体とする重合体を挙げることができる。これらの中でも、低温での加工性を良好なものとするため、ガラス転移温度が0℃より低いアクリル酸エステル単量体を主成分とする重合体が好ましく、アクリル酸ブチルやアクリル酸2−エチルヘキシルのようなアルキル基の炭素数が4〜8の単量体を主成分とする重合体が好ましい。また、上記の単量体に共重合可能な他のビニル単量体成分としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸エステル、スチレン等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル等のビニルシアン化合物等を挙げることができ、上記のアクリル酸エステル単量体を主成分としながら、これら他のビニル単量体成分を共重合した共重合体を用いることもできる。
【0108】
アクリル系ゴム相に架橋構造を付与するための架橋性・共重合性単量体としては、1分子内に重合性二重結合を少なくとも2個有するものであれば良く、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレートのようなグリコール類の不飽和カルボン酸ジエステル類や、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼン等を用いることができる。
【0109】
架橋されたアクリル系ゴム相には、マトリクス樹脂との相容性を良好なものとする目的で、アクリル系組成物がグラフト重合され、グラフト相が形成される。このアクリル系組成物とは、メタクリル酸エステルを主体とする単量体からなる組成物である。ここで、「主体とする」とは、アクリル系組成物全体を基準(100質量%)として、メタクリル酸エステルを50質量%以上、好ましくは、60質量%以上含有することをいう。
【0110】
グラフト重合してグラフト相を形成する単量体の主体であるメタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のメタクリル酸のアルキルエステルが挙げられる。また、アクリル系組成物に含まれる上記メタクリル酸エステルと共重合する共重合成分としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル成分や、スチレン等の芳香族ビニル化合物、あるいは、アクリロニトリル等のビニルシアン化合物等が挙げられる。
【0111】
上記基本構造を有するアクリル系架橋弾性体成分は、「コア・シェル型アクリル系架橋弾性体成分」等と呼称され、アクリル系衝撃改良剤として、あるいは加工助剤として、各種のものが市販されている。
【0112】
また、上記コア・シェル型アクリル系架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂は、「ソフトアクリル」、「軟質アクリル」、「柔軟性アクリル」などの呼称で各種グレードのものが市販されている。本発明においては、B層20を構成する樹脂成分として、これらを単独で、あるいは、二種以上を組み合わせて用いることができる。これにより、B層20を所定の引張り破断伸びやカレンダー製膜性を備えた層とすることができる。
ただし、本発明のB層20の樹脂組成としてアクリル系樹脂を用いた場合も、B層20に用いることができる架橋弾性体成分は、アクリル系架橋弾性体成分に限定される訳ではなく、樹脂組成物のヘイズの増大、折り曲げ白化や耐熱性等が問題にならない範囲において、上記のABS系ゴム、MBS系ゴム等の各種の架橋弾性体成分を併用してもよく、また、ABS系ゴムを含むABS系樹脂や、MBS系ゴムを含むMBS系樹脂が含まれていても良い。
【0113】
本発明のB層20の樹脂組成として、架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂を主体として用いる場合は、以下の基準を満たす架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂を用いることが好ましい。
【0114】
基準を以下に説明する。23℃でテトラヒドロフラン(THF)25mlに試料である架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂0.6gを投入し、8時間経過の後に、溶解したものを超遠心分離し、溶液と沈殿物に分け、それぞれから溶剤を除去して可溶分(主にフリーポリマー分)と不溶分(主に架橋弾性体成分の架橋ゴム状重合体(コア)とグラフト相(シェル)、および、無機顔料成分等)をそれぞれ秤量する。そして、別途加熱残留灰分を定量する等により求めた無機顔料成分等に起因する質量を秤量しておき、試料質量から差し引く。そして、可溶樹脂分および不溶樹脂分の合計質量を100質量%とした場合に、不溶樹脂分が60〜90質量%であることとが好ましく、さらには65〜85質量%であることが好ましい。不溶分の量がこれより少ない場合は、B層20に必要な破断伸びを付与することが困難になりやすく、これより多い場合は、熱可塑性樹脂としての性質が希薄になり高温でも弾性挙動が発現するため、カレンダー製膜が困難となる恐れがある。
【0115】
このような架橋弾性体成分を比較的多量に含むアクリル系樹脂を本発明のB層20に用いた場合は、積層シート被覆金属板200の加工性の点から本発明のB層20が有する必要がある23℃での100%以上の引張り破断伸びを得ることが容易となる。そして、架橋弾性体成分が加熱された金属に対し非粘着性を有すること、および、マトリクス樹脂であるアクリル系樹脂のガラス転移温度を超える温度に加熱されても、弾性率が急激に低下することがなく、適度な熔融張力を得られることからカレンダー製膜性が良好となる。
【0116】
また、図2に示す金属板被覆用途の軟質PVCシートにエンボスを付与するために用いられて来たエンボス付与機300を用いて、本発明の積層シート100A、100Bにエンボスを付与する場合も、加熱金属への非粘着性や適度な熔融張力により、容易に作業を行える利点がある。
【0117】
B層20の23℃での引張り破断伸びが350%を超える場合は、B層20のカレンダー製膜性が悪化する。また、柔軟性が過度となるため、B層20単体での取り扱い性も悪化するため好ましくない。
【0118】
一般的に、アクリロニトリル・スチレン系共重合樹脂やアクリル系樹脂に架橋弾性体成分を添加することで、本発明の範囲の破断伸びを付与してシートを形成した場合、そのシートの表面硬度は、鉛筆硬度で3B〜6B程度となり、耐傷入り性が非常に劣ったものとなる。この問題を解決すべく、本発明においては、表面硬度が高く、耐傷入り性に優れる芳香族ポリカーボネート系樹脂、または、ポリエステル系樹脂と芳香族ポリカーボネート系樹脂とのブレンド組成物を主体としてなるA層10を表層として備えている。これにより、B層20として、上記のような柔軟なシートを用いたとしても、積層シート100A〜100Cに良好な耐傷入り性を付与できる。
【0119】
(顔料成分)
B層20は、着色による意匠性を付与する機能を有する。B層20の隠蔽性としては、JIS K5600・4−1(塗料一般試験方法−第4部:塗膜の視覚特性−第1節)に準拠して測定した隠蔽率が0.98以上であることが好ましい。隠蔽率がこれより低い場合は、金属板50表面の色味の違いにより、積層シート被覆金属板200の意匠感が異なってくるおそれがある。
【0120】
B層20への着色意匠と隠蔽性の付与は、顔料成分を添加する一般的な方法により行うことができる。例えば、淡色の色みを付与する場合は、白系の顔料の中では比較的隠蔽性の高い酸化チタン顔料をベースとして、色味の意匠を得るための有彩色の有機・無機の顔料を併用する等の方法を挙げることができる。また、有機染料を用いてもよいが、これのみでは隠蔽性が得られないため、やはり隠蔽性の高い顔料との併用で用いることになる。
【0121】
顔料成分の添加量は、上記目的のために一般的に添加される量で良く、例えば、B層20の樹脂成分の量を100質量部として、0.2〜60質量部である。一般的に濃色の顔料成分を用いた場合の方が必要な隠蔽性の確保は容易となる。また、B層20の厚みが薄くなるほど、隠蔽性確保のために必要な顔料添加量は多くなる。
【0122】
B層20の厚みは、下限が好ましくは45μm以上、より好ましくは65μm以上であり、さらに好ましくは75μm以上であり、上限が好ましくは270μm以下、より好ましくは150μm以下、さらに好ましくは125μm以下である。B層20の厚みが薄すぎると、B層20に必要な隠蔽性を得ることが困難となりやすい。また、B層20の厚みが厚すぎるとB層20に必要な機能が飽和すると同時に積層シート被覆金属板200用途に用いる場合は、積層シート100A〜100Cの総厚みに制限があるため、A層10の厚みを薄くする必要が生じ、A層10の機能が発現できなくなるおそれがある。
【0123】
また、B層20には、その性質を損なわない範囲において、A層10に用いることができる各種添加剤を適宜な量添加してもよい。さらに、B層20をカレンダー製膜法で得る場合は、カレンダー製膜性を良好なものとする目的で、各種滑剤を添加しても良い。滑剤としては、従来用いられているもので良く、ステアリン酸、モンダン酸等の脂肪酸系滑剤、ステアリン酸カルシウム等の金属石鹸系滑剤、脂肪酸エステル系滑剤、ポリオレフィン系ワックス・酸変性ポリオレフィン系ワックス・パラフィンワックス等の炭化水素系滑剤、アクリル系滑剤等、各種のものを挙げることができる。中でも、熱安定性が高く持続滑性効果を有するアクリル系高分子滑剤が好ましく、アクリル系高分子滑剤としては、三菱レイヨン社製の「メタブレンL−1000」等を用いることができる。また、アクリル系高分子滑剤と他の滑剤とを併用してもよい。滑剤の添加量は、B層20を形成する全樹脂成分を基準(100質量部)として、0.2〜3質量部程度の一般的な量でよい。また、従来から行われているように、カレンダー装置での製膜時の樹脂温度や、B層20の設定厚み等により適宜添加量を調整することができる。
【0124】
更に、B層20には、カレンダー製膜時の熔融張力を向上させるための線状超高分子量アクリル系樹脂(例えば、三菱レイヨン社製の「メタブレンP−531」等がある。)や、フィブリル状に展開する易分散処理を施したポリテトラフルオロエチレン等の加工助剤(例えば、三菱レイヨン社製の「メタブレンA−3000」等がある。)、ゲル化促進剤、バンク形状改善、フローマーク改善の目的で添加される添加剤等を添加してもよい。
【0125】
また、B層20は前述の通り、カレンダー製膜法により製膜することが特に好ましいが、Tダイ製膜法、インフレーション法等の押出し製膜法により製膜してもよい。
【0126】
<印刷柄(C)30>
本発明の積層シートにおいては、図1(b)に示したようにA層10とB層20との間に印刷柄(C)30が付与されている構成とすることができる。印刷柄は、グラビア印刷、グラビアオフセット印刷、オフセット印刷、平版スクリーン印刷、ロータリースクリーン印刷、フレキソ印刷、凸版印刷、インクジェットプリンターによる印刷、静電スクリーン印刷その他の公知の各種印刷方法で施すことができる。
【0127】
印刷柄(C)30の絵柄は、石目調、タイル調、あるいは幾何学模様、抽象模様等任意である。部分印刷でも全面ベタ印刷でも良く、部分印刷層とベタ印刷層の両方が施されていてもよい。印刷インクの種類は特に制限されず、アクリル系、ウレタン系、ポリエステル系、酢酸ビニル系、ニトロセルロース等の改質繊維素系等、各種公知のものを用いることができる。
【0128】
印刷柄(C)30は、A層10と積層することになるB層20の表面に印刷を施して形成してもよいし、B層20と積層することになるA層10の表面に印刷を施して形成してもよい。
【0129】
本発明においては、A層10とB層20とを熱融着積層で一体化できることが、生産コストの点から利点となっている。両層の間に印刷柄(C)30が存在する場合も、印刷インクのバインダーを適宜選定することにより、熱融着性を保持することができる。
【0130】
<積層シートの全体厚み>
積層シート100A〜100C全体の好ましい厚みは、下限が好ましくは75μm以上、より好ましくは120μm以上であり、上限が好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下である。積層シート全体の厚みが薄すぎる場合は、各層に必要な機能を充分に付与することが難しい。例えば、B層20の厚みを薄くすることによる隠蔽性の不足や、A層10の厚みを薄くすることによる表面硬度の低下等をきたすおそれがある。一方、積層シート全体の厚みが厚すぎる場合は、軟質PVCシート被覆金属板の折り曲げ加工等の成形加工に従来から用いられてきた成形金型の使用が困難になる等、2次加工性に問題を生じるおそれがある。
【0131】
<積層シート100A、100Bの製造方法>
A層10の押出しシートと、B層20との熱融着積層による一体化は、エンボス付与機300の加熱ロール310への導入部分で実施するのが工程上好ましい。また、積層方法はこれに限定されず、他工程で熱融着積層を行っても良い。また、ドライラミ接着剤等の加熱架橋型接着剤を用いてA層10およびB層20を積層することができる。A層10が実質的に透明である場合は、紫外線硬化型の接着剤を用いて積層することができる。
【0132】
<エンボス意匠を有する積層シート100C>
本発明の積層シート100A、100Bは、A層10側表面にエンボス版により凹凸形状を付与して、エンボス意匠を有する積層シート100Cとすることができる。図1(c)は、積層シート100Aにエンボスを付与して形成した積層シート100Cの模式図である。エンボス版としては、エンボス意匠が形成された版であれば、その形状は特に限定されず、枚葉でエンボス処理するための平板状のものであっても、連続でエンボス処理することができるロール状のものであってもよい。なお、以下において説明する従来の軟質PVCシートに使用されていたエンボス付与機300においては、エンボス版として、ロール状のエンボスロール350を使用している。
【0133】
また、エンボス柄の意匠は、特に制限は無いが、精細な線状の凹凸等により形成された幾何学模様や抽象柄模様を有する精密エンボス意匠を付与する場合に、本発明の積層シートは、精密エンボスの転写性に優れるという効果を発揮することができる。
【0134】
また、A層10に光輝性粒子を添加する場合は、A層10の表面に平滑な部分と、精細な線状の凹凸等が形成された部分とを有するようなエンボスを付与することで、平滑な部分では内部の光輝性粒子の視認性が高くなり、逆に精細な線状のエンボスを付与した部分においては視認性が相対的に低下することから、より高い意匠感を得ることができる。
【0135】
(エンボス付与機300)
図2に、従来、軟質PVCシートにエンボス意匠を付与するために一般的に用いられてきたエンボス付与機300の一例を示す。図示したエンボス付与機300は、加熱ロール310、テイクオフロール320、赤外線ヒーター330、ニップロール340、エンボスロール350および冷却ロール360により構成されている。図2に示す形態では、押出し製膜法で製膜したA層10と、カレンダー製膜法で製膜したB層20の各単層シートを供給し、上記のようにエンボス付与機300の加熱ロール310で熱融着積層を行っている様子を示している。
【0136】
本発明の積層シート100は、B層20の組成として、架橋弾性体成分を含むアクリロニトリル・スチレン系共重合樹脂、および/または、架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂を主体として用いることで、エンボス付与機300により従来の軟質PVCシートと同様にエンボス意匠を付与することができる。すなわち、B層20は、100℃〜140℃程度に加熱された加熱ロール310に対して非粘着性を有している。また、ヒーター330によるシート加熱温度である160℃〜190℃でも、積層シート100は、幅縮み、皺入り、破断等を生ずることない。
また、芳香族ポリカーボネート系樹脂、または、ポリエステル系樹脂と芳香族ポリカーボネート系樹脂とのブレンド組成物を主体としてなるA層10は、特に精密エンボスの転写に対して良好なエンボス付与適性を有している。これにより、良好な外観のエンボス意匠が付与されたエンボス意匠シート100Cを得ることができる。
また、エンボスロール350の温度をA層10の樹脂混合物が充分高い弾性率を発現する温度域に適宜調整することで、積層シート100がエンボスロール350と接触した際、エンボス意匠の付与と同時に冷却によるエンボス意匠の固定がなされる。これにより、エンボス付与工程でのエンボス戻り防ぎ、精密エンボス意匠であっても、良好に転写することができる。
【0137】
上記エンボスロール350の温度は、A層10の樹脂組成物の貯蔵弾性率(E’)が、1×10Pa以下となる温度をTa(℃)として、Ta(℃)−70℃以上、Ta(℃)−25℃以下の温度に温調されていることが好ましい。エンボスロールの温度がこれより低い場合は、エンボスが付与される層であるA層10の冷却が急激であり、充分なエンボスの転写が得られない内にA層10の弾性率が上昇し、良好な転写を得られないおそれがある。また、これより温度が高い場合は、A層10がエンボスロール350に粘着してしまうおそれがあり、また、冷却ロール360に到達するまでの弾性回復により良好なエンボスの転写が得られないおそれがある。
【0138】
エンボス付与により形成されたA層10表面の凹部には、いわゆるワイピング印刷による着色意匠を施してもよい。ワイピング印刷によりエンボス凹部に形成される着色インキ層は、2液硬化型のウレタン系樹脂等を使用した着色インキで形成するのが好ましいが、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂等からなる1液インキを使用して形成してもよい。着色インキに使用する顔料としては、通常の印刷インク用に用いられる顔料を用いることができる。さらに、該ワイピング印刷を施した後に、透明系のコーティング等により表面保護層を形成しても良く、これら手法は、軟質PVCシートを用いたエンボス意匠シートの時代から実施されてきたものであり、ドクターブレード法、ロールコート法など各種公知の方法によって付与することができる。
【0139】
また、A層10の表面に、スクリーン印刷等で柄印刷を施した構成としても良く、これに関しても、軟質PVCのシートを用いた樹脂被覆金属板において用いられてきた意匠性付与の方法であり、各種公知の方法により実施することができる。
【0140】
<積層シート被覆金属板200>
図1(d)に層構成を模式的に示したように、本発明の積層シート被覆金属板200は、上記により作製した積層シート100および金属板50を備え、積層シート100A〜100CのB層20側が接着剤40を介して金属板50上にラミネートされた構成を有している。
【0141】
本発明の積層シート被覆金属板200に用いる金属板50としては、熱延鋼板、冷延鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、スズメッキ鋼板、アルミニウム・亜鉛合金メッキ鋼鈑、アルミニウム・マグネシウム・亜鉛合金メッキ鋼鈑、ステンレス鋼板等の各種鋼板や、アルミニウム板、アルミニウム系合金板、チタン系合金板、マグネシウム系合金板等が使用できる。また、これらは通常の化成処理を施した後に使用しても良い。金属板50の厚さは、積層シート被覆金属板200の用途等により異なるが、概ね0.1mm以上3mm以下の範囲である。
【0142】
積層シート100を金属板50にラミネートする方法は特に制限はないが、従来の軟質PVCシートを金属板にラミネートする際と同様の方法とすることが、既存設備を利用できる点から好ましい。すなわち、接着剤40を用いてラミネートすることが好ましい。接着剤としては、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤等の樹脂シートを金属板にラミネートして樹脂被覆金属板を作製する際に一般的に使用される熱硬化型接着剤を用いることができる。中でも、シートがアクリル系樹脂からなることから、アクリル系の接着剤を用いるのが好ましい。
【0143】
具体的なラミネート方法としては、金属板50にリバースコーター、キスコーター等の一般的に使用されるコーティング設備を使用して、積層シート100を貼り合せる金属50の面に、乾燥後の接着剤40の膜厚が1μm以上10μm以下程度になるように上記の熱硬化型接着剤を塗布した後、赤外線ヒーターおよび/または熱風加熱炉により塗布面の乾燥および加熱を行う。そして、金属板50の表面温度を、220℃以上250℃以下程度の温度に保持しつつ、直ちにロールラミネーターを用いて積層シート100A〜100CのB層20側が接着面となるように被覆、しかる後に冷却することにより積層シート被覆金属板200を得ることができる。
【0144】
ただし、ラミネート方法はこれに限定されるものではなく、積層シート被覆金属板200の用途によっては、熱可塑性の接着性樹脂や、粘着剤等を用いてもよい。
【0145】
本発明の積層シート100は、高い表面硬度を有し、十分な良好な耐傷入り性を備えている。また、精密エンボスの転写性が優れている。また、B層20の樹脂組成を限定することにより、B層20をカレンダー製膜することが可能となり、小ロットでの各種色味のシートを高い生産性で製造することができる。そして、積層シート被覆金属板200とした場合に、良好な加工性を発揮することができる。
【0146】
よって、本発明の積層シート100で被覆した積層シート被覆金属板200は、広範な用途で使用することができる。例えば、ユニットバス壁材、ユニットバス天井材等のユニットバス部材、クローゼットドア材、バーティション材、パネル材等の建築内装材、鋼製家具部材、AV機器、エアコンカバー等の家電製品筐体部材、エレベーター内装材等の用途の意匠性パネル材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0147】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に示す実施例の形態に限定されるものではない。
【0148】
<サンプルの作成>
実施例1〜25、および、比較例1〜11
(A層10の原料コンパウンドの作製と押出製膜)
各実施例および比較例について表3に示したA層10のサンプル番号に対応する、表1に記載の樹脂組成に従って、口径35mmの同方向2軸混練機により熔融混練を行い、ストランドダイから直径約3mm程度の線状に押出した後、水冷し、ペレタイザーで連続的にカットして長さ約5mm程度のブレンド組成物のペレットを得た。口径35mmの同方向二軸混練機のシリンダー設定温度は270℃であった。なお、A層10が芳香族ポリカーボネート系樹脂あるいはポリエステル系樹脂のみからなる場合は、コンパウンドの作製は実施していない。
【0149】
また、A層10に光輝性粒子を含むものに関しては、樹脂原料と、光輝性粒子とをそれぞれ別の定量供給フィーダーを用いて、混練機のフィード部に投入した。表1中のサンプル番号「a−17」は、光輝性粒子として以下に説明する平板状ガラスフレークの表面に金属薄膜をコーティングしたものを0.8質量部(樹脂成分100質量部に対する値)含んでいる。また、サンプル番号「a−18」は、光輝性粒子としてアルミフレークを0.8質量部(樹脂成分100質量部に対する値)含んでいる。
【0150】
φ65mmのベント付き単軸押出機、Tダイ、および各種導管類やキャスティングロール他必要な設備を用いて、上記で得られた、A層10の原料コンパウンドから、A層10の樹脂シートを作成した。得られたA層10の厚みを表1に記載した。単軸押出機のシリンダー設定温度は、A層10が芳香族ポリカーボネート系樹脂のみからなる場合で、フィード側260℃、口金側280℃、接続導管280℃の設定とし、ポリエステル系樹脂のブレンド比率が増え、流動性が向上するのに併せて、適宜シリンダー温度を下げた。また、Tダイは設定温度を270℃とし、製膜の情況に応じて適宜微調整を行うと同時に、やはりポリエステル系樹脂のブレンド比率が増えるに従って設定温度を低下させた。
【0151】
オイル循環機構を有するキャスティングロールを設定温度120℃として、Tダイから熔融流下する樹脂を引き取り、冷却固化し、幅1000mmのA層10のシートを得た。該キャスティングロールの温度は、ポリエステル系樹脂のブレンド比率が増えるに従って適宜低下させた。
【0152】
(B層20のカレンダー製膜)
各実施例および比較例について表3に示したB層20のサンプル番号に対応する、表2に記載の架橋ゴム弾性体成分を含むアクリルニトリル・スチレン系共重合樹脂、または、架橋ゴム弾性体成分を含むアクリル系樹脂を用い、該樹脂成分の合計を100質量部として、滑剤である「メタブレンL−1000」(三菱レイヨン社製)を0.5質量部、および、顔料酸化チタンと有機系青色顔料が混合された淡青色系顔料を20質量部添加して樹脂混合物を得た。
【0153】
そして、この樹脂混合物に対して、前工程に予備混練ロールを有し、金属ロール4本からなるカレンダー製膜装置を用いて、ロール温度180℃〜200℃の条件下でシート圧延を行い、厚み100μm、幅1200mmの淡青色シートを得た。各B層20のシートの23℃での引張り破断伸びを表2中に示した。なお、表2中、「b−7」として示すシートは、「b−6」と同一組成からなるシートをカレンダー法で製膜した後、アクリル・ウレタン系インクを用いたグラビア印刷により表面に濃青色の抽象柄の模様を印刷したものである。
【0154】
また、比較例10では、B層20として、市販の金属板被覆用PP系カレンダーシートを用いた(サンプル番号「b−13」)。該シートは色味が淡青色で、金属板とのラミネート用側に易接着性プライマーが付与されている。本比較例においては、A層10およびB層20との接着の際の接着面として該易接着性プライマーが付与された層を用いた。比較例10の積層シートを金属板にラミネートする際においては、事前に、積層シートのB層20側表面に易接着性プライマーを再度塗布・乾燥して易接着層を形成した。
【0155】
また、比較例11では、B層20として、市販の非晶性ポリエステルカレンダーシートを用いた(サンプル番号「b−14」)。該シートは、色味が淡青色で、A層10とB層20との積層一体化は、他の実施例、および比較例と同様にエンボス付与機での熱融着積層によって行った。
【0156】
上記の実施例、および、比較例で使用した原料は以下の通りである。
(A層10樹脂成分)
「ノバレックス(登録商標)7025A」は、三菱エンジニアリングプラスチックス社製のビスフェノールA型ポリカーボネート系樹脂である。粘度平均分子量:25000、融点:観察されず、ガラス転移温度:149.5℃。
【0157】
「PCTG・5445」は、イーストマン・ケミカル・カンパニー社製の実質的に非結晶性のポリエステル樹脂として扱うことが可能な低結晶性のポリエステル樹脂である。ジカルボン酸成分はテレフタル酸であり、ジオール成分の約65モル%が1,4−シクロヘキサンジメタノール、約35モル%がエチレングリコールである。融点:観察されず、ガラス転移温度:86℃。
【0158】
「ダイヤナイト(登録商標)DN−124」は、三菱レイヨン社製の実質的に非晶性のポリエステル樹脂として扱うことが可能な低晶性のポリエステルエラストマーである。ジカルボン酸成分はテレフタル酸であり、ジオール成分の約26モル%が1,4−シクロヘキサンジメタノール、約68モル%がエチレングリコール、約6モル%が数平均分子量約1000のポリテトラメチレングリコールである。融点:観察されず、ガラス転移温度:19℃。
【0159】
「イースターPETG 6763」は、イーストマン・ケミカル・カンパニー社製の実質的に非結晶性のポリエステル樹脂である(表中では、「PET G 6763」と省略している。)。ジカルボン酸成分はテレフタル酸であり、ジオール成分の約30モル%が1,4−シクロヘキサンジメタノール、約70モル%がエチレングリコールである。融点:観察されず、ガラス転移温度:78℃。
【0160】
(光輝性粒子)
「メタシャイン(登録商標)MC2040PS」は、日本板硝子社製のガラスフレークの表面に金属箔膜がコーティングされた光輝性粒子であり、平均粒径は40μm、平均厚み2μm、コーティングされている金属種は銀である。表1中では「ガラス」と表示している。
【0161】
「鱗片状アルミ」は、メタリック塗料等に用いられるもので、ノンリーフタイプと呼ばれる表面処理のないものから、比較的粒径の大きなものを選択したものである。平均粒径は60μm、平均厚み0.5μmである。表1中では「アルミ」と表示している。
【0162】
(B層20樹脂成分)
「クララスチックSXG−358」は、日本エイアンドエル社製のAAS系樹脂であり、アクリロニトリル・スチレン系共重合樹脂にアクリル系架橋弾性体成分を含むものである。
【0163】
「低白化ABS樹脂」は、テクノポリマー社製のABS系樹脂であり、アクリロニトリル・スチレン系共重合樹脂にアクリル系架橋弾性体成分を含むものである。ABS系樹脂としては、比較的引張り破断伸びが大きく、低剛性、低白化性であることを特徴とするものである。
【0164】
「メタブレンW−377」は、三菱レイヨン社製の、アクリル樹脂系架橋弾性体成分を多量に含むアクリル系樹脂であり、カレンダー製膜用の軟質アクリル樹脂として市販されているものである。参考分析値として、23℃でのテトラヒドロフラン(THF)への溶解分は、25質量%で、不溶解分は75質量%、溶解分は、その全量を基準(100質量%)として、91質量%がメタクリル酸メチル、9質量%がアクリル酸ブチルであった。架橋弾性体成分はアクリル系で、スチレン系成分を含んでいる。
【0165】
「メタブレンH−660」は、三菱レイヨン社製の、架橋ゴム弾性体成分を含まないポリメチルメタアクリレート(PMMA)樹脂である。23℃でのTHFへの溶解分は100質量%であり、その全てがPMMAであった。
【0166】
「パラペットSA」は、クラレ社製のアクリル樹脂系架橋弾性体成分を多量に含み、高い柔軟性を有しつつ、良好な流動性を兼ね備えていることを特徴とする軟質アクリル原料で、射出成形品での軟質PVC代替用途に特に好適な特徴を有するものである。23℃でのTHF溶解分は23質量%、溶解分は、その全量を基準(100質量%)として、うち91質量%がメタクリル酸メチル、9質量%がアクリル酸ブチル。架橋弾性体成分は、スチレン系成分を含むアクリル系であった。
【0167】
「パラペットGR−F」は、クラレ社製のオーバーレイ用シートの用途に適した柔軟性を有するアクリル樹脂系架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂である。23℃でのTHF溶解分は44質量%、その全量を基準(100質量%)として、93質量%がメタクリル酸メチル、7質量%がアクリル酸ブチル。架橋弾性体成分は、スチレン系成分を含まないアクリル系であった。
【0168】
(A層10の貯蔵弾性率およびTaの測定)
押出し製膜したA層10に関し、100℃の貯蔵弾性率(E’)および貯蔵弾性率(E’)が、1×10Pa以下となる温度Ta(℃)を以下の方法により測定した。
【0169】
岩本製作所製粘弾性スペクトロメーターを使用し、JIS K 7244−4:1999「プラスチック−動的機械特性の試験方法−第4部:引張振動−非共振法」に準じて行った。具体的には、上記の粘弾性スペクトロメーターを用いて、引張り法により、測定周波数10Hzにおいて、−100℃から昇温速度3℃/分で昇温し、250℃までの測定を実施した後、100℃における貯蔵弾性率(E’)を読みとった。また、同時に昇温に従って貯蔵弾性率(E’)が、1×10Pa以下となる温度Ta(℃)を読み取った。これらは表1に示した。
【0170】
(B層20の23℃での引張り破断伸びの測定)
カレンダー製膜したB層20、および、市販のシートを用いたB層20に対して、引張り破断伸びを以下の方法により測定した。
23℃の恒温室内に設置した万能材料試験機(インテスコ社製)を用いて、JIS K7127−1999(プラスチック−引張り特性の試験方法−第3部:フィルム及びシートの試験条件)に準拠した試験片形状により引張り試験を行い破断伸びを測定した。測定方向は製膜時の流れ方向(MD)、および、それに直交する方向(TD)で、施行数(n=5)で実施し平均値により評価した。結果を表2に示した。
【0171】
【表1】

【0172】
【表2】

【0173】
(A層10とB層20との積層一体化ならびにエンボス付与)
A層10とB層20との熱融着積層一体化、およびエンボス柄の転写は、図2に示すエンボス付与機300を用いて行った。各実施例および比較例のA層10とB層20の組み合わせを、表3に示す。加熱ロール310は140℃に設定し、A層10のシートおよびB層20のシートを図2に示すように2本の巻き出し軸から供給し、加熱ロール310への接触部分で重ね合わせ、熱融着積層により一体化した。引き続き、積層一体化されたシートを非接触式の赤外ヒーター330でシート表面温度が180℃になるまで加熱し、エンボスロール350によりエンボス柄を付与すると同時に、押圧によりA層10とB層20との間の熱融着積層をより確実なものとした。エンボスロール350は蒸気加熱で温調されており、A層10の樹脂組成物の動的粘弾性引っ張り法10hzでの貯蔵弾性率(E’)が、1×10Pa以下となる温度をTa(℃)として、Ta−45℃を基準に設定した。エンボスロールの設定温度を、表3中に示す。
【0174】
付与したエンボス柄を図5に示す。エンボス柄は、8mm×8mmの正方形の精密エンボス部510およびエンボスが施されていな鏡面部520からなる。精密エンボス部に付与された精密エンボスは、Ry(最大高さ)=14μm、Ra(中心線平均粗さ)=2.2μmのプリズム状の微細な突起である。なお、図5においては、510の図番を一つだけ表示し、他を省略している。
【0175】
【表3】

【0176】
また、エンボス付与機でのエンボス付与適性に関し、以下の評価を実施した。評価結果は表4に示す。
【0177】
(耐粘着性)
図2に示すエンボス付与機300でエンボスを付与した際に、加熱ロール310にシートが粘着して作業が困難となったものを「×」、粘着しなかったものは「○」として評価した。
【0178】
(耐溶断性)
図2に示すエンボス付与機300でエンボスを付与した際に、ヒーター330による積層シートの加熱中にシートが熔融破断して作業が困難となったものや、著しいシートの伸びや皺入り、幅縮みを生じ、良好なエンボス付与シートを得られなかったものを「×」、全く問題を生じなかったものを「○」、作業の継続は可能で、シートの伸びや皺入り、幅縮みが発生したが、顕著なものでは無かった場合を「△」として評価した。
【0179】
(転写性)
図2に示すエンボス付与機300でエンボスを付与したシートを、目視で観察し、綺麗にエンボス柄が転写されているものを「○」、これに比べてやや転写が浅い場合を「△」、転写が悪く、浅いエンボス柄になっているもの、あるいは、エンボス柄に無関係に単に表面が荒れているものを「×」として評価した。
【0180】
<積層シート被覆金属板200の作製>
次に軟質PVCシート被覆金属板用として一般的に用いられているアクリル系熱硬化型接着剤(三菱レイヨン社製)を、厚み0.45mmの亜鉛めっき鋼板の表面に乾燥後の接着剤膜厚が2〜4μm程度になるようにロールコーターで塗布した。次いで、熱風加熱炉および赤外線ヒーターにより塗布面の乾燥および加熱を行い、亜鉛めっき鋼板の表面温度が225℃になるように設定した。そして、直ちにロールラミネーターを用いて、上記で作製した積層シートを被覆し、水冷にて冷却することにより積層シート被覆金属板200を作製した。ラミネートの条件は、すべての実施例および比較例で同一である。
【0181】
得られた積層シート被覆金属板200に対して、以下の評価を実施した。評価結果は表4に示す。
【0182】
(エンボス耐熱性試験)
積層シートをラミネートした金属板を沸騰水中に1時間浸漬した後のエンボスの外観変化を目視で観察し、沸騰水中に浸漬する前と比較してエンボスの形状がほとんど変化していないものを「○」、これに比べてややエンボス戻りが発生している場合を「△」、エンボス戻りが顕著な場合、あるいはエンボス柄が完全に消失し単に表面が荒れているものを「×」として評価した。
【0183】
(折り曲げ加工性:180度曲げ(2T曲げ・0T曲げ))
まず、積層シート被覆金属板200の長さ方向および幅方向からそれぞれ50mm×150mmの試料を切り出し、手動による折り曲げ機を用いて、直径4mmの丸棒490を挟んで積層シート被覆面が外側になるように内半径2mmで180度に折り返したもの(図3(b)、図4)に示したような予備曲げ試験片450)を作製した。
【0184】
この予備曲げ試験片450に、スクリュー曲げ試験装置400を用いて、180度曲げ(2T曲げおよび0T曲げ)を実施した。図4に、2T曲げの説明図を示す。スクリュー曲げ試験装置400(図3(a))は、上型昇降用ハンドル410、上型昇降スクリュー420、上型設置部分430および下型設置部分440を備えている。上型昇降スクリュー420上部に設けられた上型昇降用ハンドル410を手動で回すことによって、上型昇降スクリュー420が上下方向に移動し、それに伴って、上型昇降スクリュー420の下端に設けられた上型設置部分430が上下方向に移動する。
【0185】
また、図4(a)に180度曲げ部分の拡大図を示したように、上型設置部分430には、180度曲げ用上型460が設けられ、下型設置部分440には、180度曲げ用下型470が設けられている。そして、上型昇降用ハンドル410を操作することによって、上型設置部分430に設けた180度曲げ用上型460を下方向に移動し、試験片450を180度曲げ用下型470との間で挟み込むことによって、試験片450に折り曲げを施す。
【0186】
試験片は樹脂被覆面が折り曲げ後に外表面となるように設置され、該試験装置400は23℃に保たれた恒温室内に置かれており、測定試験片も23℃で1時間以上保った後に試験に供される。また、2T曲げとは、折り曲げの内直径が金属板200の厚みの2倍である曲げ試験である。2T曲げを実施するために、上記で作成した予備曲げ試験片450に、厚み0.55mmの金属板より切り出した保持板480を2枚を重ねて、予備曲げ試験片450の内側に挟み込んだ状態で上型460を降下させ、所要の曲げを施した。また、0T曲げとは、内半径が零となるいわゆる密着曲げであり、予備曲げ試験片450に金属の保持板を挟まない以外は2T曲げと同様にして曲げ加工を行った。
【0187】
曲げ加工部の積層シートの面状態を目視で判定し、樹脂層に割れが発生し実用的な加工性を有しないと判断されたもの、および割れは発生しなかったが、著しい白化を生じたものを「×」、極く微細なクラックが発生したもの、わずかな白化を生じたものを「△」、これらの異常が認められないものを「○」として評価した。
【0188】
(鉛筆硬度試験)
B、2Bの鉛筆を用いて、JIS S1005 9.8(2)鉛筆引っ掻き試験に従い、80mm×60mmに切り出した積層シート被覆金属板200の樹脂シート面に対し45°の角度を保ちつつ1kgの加重を掛けた状態で線引きをできる治具を使用して線引きを行い、該部分の樹脂シートの面状態を目視で判定し、Bの鉛筆で全く傷が付かなかったものを「○」、Bでは傷が入るが、2Bの鉛筆では全く傷が付かなかったものを「△」、2Bの鉛筆でも傷が付いたものを「×」として評価した。
【0189】
<評価結果>
【0190】
【表4】

【0191】
比較例1は、ガラス転移温度が100℃より低い実質的に非晶性のポリエステル系樹脂のみからなるA層を用いた場合であり、精密エンボスの転写性自体は良好であったが、沸騰水浸漬時のエンボス戻りが顕著な結果となった。比較例3についても同様である。
【0192】
比較例2は、実質的に非晶性であるポリエステル系樹脂と芳香族ポリカーボネート系樹脂のブレンド組成から成るA層を用いているが、100℃における貯蔵弾性率が本発明の範囲より低く、やはりエンボスの耐熱性に関して良い結果が得られていない。比較例4についても同様である。比較例4のA層に用いたPETGは、PCTGよりも芳香族ポリカーボネート系樹脂との相容性に劣る事により、芳香族ポリカーボネート系樹脂のブレンド比率が、比較例2のA層より多いに関わらず、100℃での貯蔵弾性率は比較例2のA層より低い値しか得られていない。
【0193】
比較例5についても同様に、A層の100℃での貯蔵弾性率が本発明の範囲より低く、エンボス耐熱性が悪い結果となっている。比較例6は、本発明のA層が備えるべき厚みよりも薄いA層を用いた場合で、厚みの薄いA層でも精密エンボスの転写には問題がないものの、表面硬度が低い結果となっている。B層のアクリル系樹脂の柔軟性が最表面に反映されたためである。
【0194】
比較例7は、B層として柔軟性が過剰なアクリル系樹脂を用いた場合であり、A層の厚みとして、本発明のA層が備えるべき厚みを有しているにも関わらず、表面硬度は低い結果となっている。比較例8は、逆に本発明のB層が備えるべき引張破断伸びを有さないものを用いた場合であり、樹脂被覆金属板としての折り曲げ加工性が悪い結果となっている。比較例9は、B層として架橋弾性体成分を含むアクリロニトリル・スチレン系共重合樹脂を用いた場合であるが、やはり本発明のB層が備えるべき引張破断伸びが得られておらず、折り曲げ加工性が悪い結果となっている。
【0195】
比較例10は、B層として市販のポリプロピレン系カレンダーシートを用いた場合であるが、エンボス付与機で積層シートが180℃に加熱された際、熔融張力が不足してシート破断を起こす結果となった。該構成では、従来から用いられて来た形態のエンボス付与機によるエンボス付与には適さないと考えられる。また、ポリプロピレン系樹脂が芳香族ポリカーボネート系樹脂、および、芳香族ポリカーボネート系樹脂とポリエステル系樹脂のブレンド組成物との熱融着性を有さない事から、接着性プライマーの付与を必要としており、製造工程が増える事となる。比較例11に関しても、同様にエンボス付与機でのシート加熱で熔融破断を生ずる結果となっている。
【0196】
これらに対し、本発明の実施例1〜25では、いずれもエンボス付与機でのエンボス付与適性を有しており、精密エンボスの良好な転写が得られており、また、転写されたエンボスの耐熱性も実用上問題のないレベルが得られている。また、樹脂被覆金属板としての折り曲げ加工性も良好であり、表面硬度も高く、耐傷入り性の良好な樹脂被覆金属板が得られている。更に、実施例20では、これらの特徴に加えて、印刷意匠も有する樹脂被覆金属板が得られており、実施例24、実施例25では上記特徴に加えて、光輝性粒子が点状に分散した意匠感が得られている。
【0197】
実施例1は、A層の100℃での貯蔵弾性率が本発明の下限に近い場合であり、沸騰水浸漬後のエンボス意匠感が、やや低下する結果となった。実施例8についても同様である。実施例3は、エンボス付与機のエンボスロールの温度が、A層の貯蔵弾性率が1×10Pa以下となる温度Ta(℃)より約106℃低い場合であり、エンボスの転写がやや悪い結果となった。エンボスの転写とシートの冷却速度のバランスが悪いものと推定される。実施例3の試料に関しても、エンボスの耐熱性に関しては問題がなかった。
【0198】
実施例4および実施例5は、実施例3と同一のA層を備える積層シートに対して、Taより約46℃低い、および、約26℃低いエンボスロール温度でエンボスを転写した場合であり、良好なエンボス転写が得られている。
【0199】
実施例6は、更にエンボスロールの温度を上げて、Taより約16℃低い温度とした場合で、この場合も転写性は悪化している。エンボスを転写されたA層が充分に冷却されない事により、冷却ロールに至るまでの間に、エンボスの戻りを生じたと思われる。実施例12は、実施例3〜6とは別の組成のA層に対して、そのTaより約107℃低い温度のエンボスロールを用いた場合であり、やはりエンボスの転写がやや悪くなっている。この場合もエンボス耐熱性は問題がなかった。
【0200】
実施例15は、本発明のA層が備えるべき厚みの下限にあるもので、表面硬度がやや低下している。実施例16は、本発明のB層が備えるべき破断伸びの上限に近い柔軟性を有するB層を用いた場合であり、やはり表面硬度がやや低下している。これに対して、実施例21は、本発明のB層が備えるべき破断伸びの下限に近い比較的硬質のB層を用いた場合であり、この場合は、やや加工性が低下する結果となっている。実施例25の加工性がやや低下しているのは、A層に比較的粒径の大きい鱗片状アルミを添加した事に起因しており、良好な意匠感を有しているものの、用途によっては使用に制限を受ける可能性がありそうだ。
【0201】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う積層シートおよび該積層シート被覆金属板もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0202】
【図1】本発明の積層シートおよび積層シート被覆金属板の層構成を示す模式図である。
【図2】本発明の積層シートにエンボス付与するために好適に使用されるエンボス付与機300の説明図である。
【図3】(a)は、スクリュー曲げ試験装置400の説明図である。(b)は、予備曲げの説明図である。
【図4】2T曲げの説明図である。
【図5】実施例にて付与したエンボス模様の模式図である。
【符号の説明】
【0203】
10 A層
20 B層
30 印刷柄(C)
40 接着剤
50 金属板
100A〜100C 積層シート
200 積層シート被覆金属板
300 エンボス付与機
400 スクリュー曲げ試験装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側から順に下記A層、B層の2層を備え、積層シートの総厚みが75μm以上で、300μm以下の範囲である精密エンボスの付与適性に優れた積層シート。
A層:芳香族ポリカーボネート系樹脂を主体としてなるか、ポリエステル系樹脂と芳香族ポリカーボネート系樹脂とのブレンド組成物を主体としてなる実質的に透明な層であり、動的粘弾性引っ張り法による、10hz、100℃での貯蔵弾性率(E’)が、6×10Pa以上、6×10Pa以下であり、厚みが30μm以上である無配向の樹脂層。
B層:架橋弾性体成分を含むアクリロニトリル・スチレン系共重合樹脂、および/または、架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂を主体としてなり、顔料成分が添加されることにより着色されており、23℃での引張り破断伸びが100%以上350%以下であり、厚みが45μm以上である樹脂層。
【請求項2】
前記A層が、テレフタル酸またはジメチルテレフタル酸をジカルボン酸成分の主体とし、50モル%以上75モル%以下の1,4−シクロヘキサンジルタノールおよび25モル%以上50モル%以下のエチレングリコールをジオール成分とする芳香族ポリエステル系樹脂と、芳香族ポリカーボネート系樹脂とのブレンド組成物であることを特徴とする、請求項1に記載の積層シート。
【請求項3】
前記B層の前記架橋弾性体成分が、架橋されたアクリル系ゴム相に、マトリクスとの相容性を得るためのアクリル系組成物をグラフト重合したコア・シェル型アクリル系架橋弾性体成分であることを特徴とする、請求項1または2に記載の積層シート。
【請求項4】
前記A層と前記B層との間に印刷柄(C)が付与されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の積層シート。
【請求項5】
前記A層に、鱗片状または平板状の形状をした光輝性粒子が、A層の樹脂成分全質量を100質量部として、0.5質量部以上5質量部以下添加されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の積層シート。
【請求項6】
積層シートの表面である前記A層の表面にエンボスによる凹凸意匠が付与されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の積層シート。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の積層シートを下記温度Ta(℃)以上に加熱する工程、
Ta−70(℃)以上、Ta−25(℃)以下に温調されたエンボスロールにより、前記A層表面にエンボス付与を連続的に行う工程、を備えた、エンボス意匠を有する積層シートの製造方法。
温度Ta(℃):動的粘弾性引っ張り法による、10hzでの、前記A層の貯蔵弾性率(E’)が、1×10Pa以下となる温度(℃)
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の積層シートおよび金属板を備え、該積層シートの前記B層側が接着剤により金属板上にラミネートされている、積層シート被覆金属板。
【請求項9】
請求項8に記載の積層シート被覆金属板を用いた建築内装材。
【請求項10】
請求項8に記載の積層シート被覆金属板を用いたユニットバス部材。
【請求項11】
請求項8に記載の積層シート被覆金属板を用いた鋼製家具部材。
【請求項12】
請求項8に記載の積層シート被覆金属板を用いた家電製品部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−188970(P2008−188970A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−28874(P2007−28874)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】