説明

積層セラミック電子部品の製造方法

【課題】グリーンシートおよび余白パターンに含まれるバインダが非相溶であっても、積層性を良好にし、余白パターン端部の突起を抑制し、焼成後のクラックを防止できる積層セラミック電子部品の製造方法を提供する。
【解決手段】ブチラール樹脂を含むグリーンシートと内部電極パターンとを積層し、積層体を得る工程を有する積層セラミック電子部品の製造方法であって、ブチラール樹脂の重合度が350以上1000未満であり、内部電極パターンの隙間には、余白パターンを形成し、電極段差吸収用ペーストが、セラミック粉末とバインダ(エチルセルロース、粘着付与剤として重合ロジン、テルペンフェノールおよび脂環族石油樹脂から選ばれる1つ以上)とを有し、バインダがセラミック粉末100重量部に対して3重量部超15重量部未満含有され、バインダ含有量に対する粘着付与剤の比率が10〜50重量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミック電子部品の製造方法に係り、さらに詳しくは、グリーンシートを薄層化した場合であっても、シート積層性およびシート接着性を良好にすることができる積層セラミック電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミック電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサは、通常、キャリアシート上に誘電体ペーストを用いてドクターブレード法などによりセラミックグリーンシートを形成し、この上に内部電極形成用の内部電極ペーストを所定パターンで印刷し、乾燥させて内部電極パターンを形成する。その後、キャリアシートからセラミックグリーンシートを剥離し、これを所望の層数まで積層する。
【0003】
ここで、積層前にセラミックグリーンシートをキャリアシートから剥離する剥離積層法と、積層圧着後にキャリアシートを剥離する熱圧着積層法と、の2種類の積層法が知られているが、両者ともに大きな違いはない。最後にこの積層体をチップ状に切断してグリーンチップが作成される。これらのグリーンチップを焼成後、外部電極を形成し積層セラミックコンデンサが得られる。
【0004】
しかしながら、積層セラミックコンデンサのように、セラミックグリーンシートと内部電極パターンとを交互に積層する場合には、セラミックグリーンシートの間に挟まれる内部電極パターンの同列上には、電極が形成されない隙間が形成される。この隙間のために、内部電極パターンが存在する部分との間で段差を生じ、それが原因で、製品チップの変形、クラック、シート間のデラミネーションなどが問題になる。特に、コンデンサの小型化・高容量化を目的として、内部電極および誘電体層を薄層化および多層化する場合、上記の問題が顕著になると共に段差が生じた部分で誘電体層が破断しやすくなり、その結果、内部電極間の短絡などによるショート不良を生じ易く、不良率が増大する傾向にあった。
【0005】
そこで近年、このような段差によって生じる諸問題を解決するために、内部電極(内部電極パターン層)の形成に引き続き、内部電極が形成されていない隙間に、電極段差吸収用印刷ペーストを用いて余白パターン層を形成し、形成面を平坦化しつつ積層していく技術が知られている。
【0006】
このような技術により、特にセラミックグリーンシートの薄層化(たとえば、1μm以下)を進めた場合、セラミックグリーンシートに含まれるセラミック粉体を微粉化することが求められる。また、セラミックグリーンシートの薄層化に伴い、内部電極パターン層および余白パターン層も薄層化が必要となる。このとき、焼成時の収縮挙動を誘電体層に含まれるセラミック粉体に合わせるため、余白パターン層に含まれるセラミック粉体も微粉化する必要が生じる。セラミック粉体を微粉化(微細化)すると、粉体の表面積が増加するため、バインダ量が不足し、積層が困難となってしまう。
【0007】
また、セラミックグリーンシート上に内部電極パターン層および余白パターン層を形成した場合、セラミックグリーンシート上に印刷された内部電極パターン層および余白パターン層中の溶剤が、セラミックグリーンシート中の有機バインダを膨潤または溶解させる現象、いわゆる「シートアタック」現象が問題となる。すなわち、「シートアタック」現象が生じると、セラミックグリーンシートにしわや穴、亀裂などが発生し、最終物たる積層セラミック電子部品に、ショート不良や層間剥離現象(デラミネーション)が発生してしまう。
【0008】
この「シートアタック」現象は、セラミックグリーンシート、内部電極パターンおよび余白パターンの厚みが薄くなるほど、顕著に表れ、これを防止するために、互いのバインダを非相溶である組合せとしている。たとえば、特許文献1では、セラミックグリーンシートに含まれる有機バインダとしてポリビニルブチラール樹脂を使用し、余白パターン層を形成するためのペーストに含まれる有機バインダとしてエチルセルロースを使用していることが開示されている。
【0009】
また、特許文献2では、グリーンシートに含まれる有機バインダ樹脂と、内部電極ペーストに含まれるエチルセルロースとの接着性を向上させるために、内部電極ペーストにロジン等の粘着付与剤を含有させていることが開示されている。
【0010】
しかしながら、上記のようにグリーンシートに含まれるバインダ樹脂と、余白パターン層を形成するためのペーストに含まれるバインダ樹脂とが非相溶である場合には、グリーンシートと余白パターン層との接着性が悪化する。このような場合における、グリーンシートと余白パターン層との接着性については、ほとんど検討されておらず、生産性の悪化を招いていた。
【0011】
さらに、通常、余白パターン層を形成する方法としては、スクリーン印刷法を用いている。しかしながら、これにより、余白パターン層を形成した場合、スクリーンが余白パターン層から離れる際に生じる摩擦力により、形成された余白パターンの端部が持ち上がる。そして、この状態で乾燥されると、図4に示すように、持ち上がった端部が、サドル形状の突起となることがあった。このような突起が存在する印刷シートを積層すると、電極が屈曲する原因となってしまうという問題があった。
【特許文献1】特開2005−243561号公報
【特許文献2】特開平5−90069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、セラミックグリーンシートの厚みを薄層化し、セラミックグリーンシートの強度が弱くなった場合、さらには、グリーンシートおよび余白パターン層に含まれるそれぞれのバインダが非相溶の組み合わせである場合であっても、グリーンシートの積層性および接着性を良好にし、焼成後のクラックなどを有効に防止できると共に、余白パターン層形成後のパターン端部における突起(サドル部)を効果的に抑制することができる積層セラミック電子部品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、余白パターン層およびグリーンシートに含まれるそれぞれのバインダとして、非相溶であるエチルセルロースとブチラール樹脂とを組み合わせた場合、余白パターン端部の突起(サドル部)を抑制しつつ、余白パターン層とグリーンシートとの接着性を向上させるためには、ブチラール樹脂の特性に応じて、特定の有機物を粘着付与剤として用いる必要があることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明に係る積層セラミック電子部品の製造方法は、
ブチラール樹脂を含むセラミックグリーンシートと、所定パターンの内部電極パターン層と、を交互に複数重ねて、グリーンセラミック積層体を得る工程を有する積層セラミック電子部品の製造方法であって、
前記ブチラール樹脂の重合度が、350〜1000(ただし、1000を除く)であり、
前記グリーンセラミック積層体を得る前に、所定パターンの前記内部電極パターン層の隙間部分には、前記内部電極パターン層と実質的に同じ厚みの余白パターン層を形成し、
前記余白パターン層を形成するための電極段差吸収用ペーストが、セラミック粉末と、有機バインダと、を有しており、
前記有機バインダは、エチルセルロースと、粘着付与剤としての重合ロジン、テルペンフェノールおよび脂環族石油樹脂から選ばれる少なくとも1つと、を有しており、
前記有機バインダが、前記セラミック粉末100重量部に対して、3重量部超15重量部未満含有され、前記有機バインダの含有量に対する前記粘着付与剤の含有比率が、10〜50重量%であることを特徴とする。
【0015】
セラミックグリーンシートに含まれるブチラール樹脂と、余白パターン層に含まれるエチルセルロースとは、非相溶の関係にあり、接着性が著しく悪いため、積層時に積層不良を生じてしまう。さらに、グリーンシートの柔軟性を利用して熱圧着積層するために、バインダ樹脂としては、低または中重合度のブチラール樹脂を用いている。
【0016】
本発明では、電極段差吸収用ペーストに、粘着付与剤として、重合ロジン、テルペンフェノールおよび脂環族石油樹脂から選ばれる少なくとも1つを上記の比率で含有させる。これらの粘着付与剤は、ブチラール樹脂とエチルセルロースの両者に対して相溶するものであり、電極段差吸収用ペーストに粘着付与剤を含有させることにより、本来、非相溶であるブチラール樹脂とエチルセルロースとを相溶にすることができる。その結果、余白パターン端部の突起(サドル部)を効果的に抑制しつつ、グリーンシートと余白パターン層との接着性を良好にし、シート積層性(スタック性)を向上させることができる。
【0017】
好ましくは、前記ブチラール樹脂が、前記セラミックグリーンシートに含まれるセラミック粉体100重量部に対して、5重量部超10重量部未満含有されている。
【0018】
好ましくは、前記エチルセルロースの重量平均分子量が、75000超250000未満である。
【0019】
好ましくは、前記エチルセルロースのエトキシル基含有率が、46.1重量%超52.0重量%未満である。
【0020】
前記粘着付与剤が、重合ロジンである場合には、好ましくは、前記ブチラール樹脂のブチラール化度が、73モル%より大きい。
前記粘着付与剤が、テルペンフェノールおよび脂環族石油樹脂から選ばれる少なくとも1つである場合には、好ましくは、前記ブチラール樹脂のブチラール化度が、65モル%より大きい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、エチルセルロースおよびブチラール樹脂の双方に相溶するバインダとして、上記のものを用いることで、グリーンシートおよび内部電極を薄層化および多層化した場合であっても、シート積層性を向上させることができる。また、余白パターン層の端部の突起(サドル部)を抑制することができる。その結果、焼成後におけるクラックやデラミネーション等の構造欠陥が効果的に抑制された積層セラミック電子部品を得ることができる。
【0022】
エチルセルロースおよびブチラール樹脂の特性を上記の範囲とすることにより、本発明の効果をさらに高めることができる。
【0023】
本発明に係る方法により製造される積層セラミック電子部品としては、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサ、積層セラミックインダクタ、積層セラミックLC部品、多層セラミック基板等が例示される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図、
図2(A)〜図2(C)は図1に示す積層セラミックコンデンサの製造工程の一部を示す要部断面図、
図3(A)および図3(B)は、図2(A)〜(C)に示す製造工程の続きを示す要部断面図、
図4は、従来例に係る余白パターン層端部の突起(サドル部)を示す模式図である。
【0025】
本実施形態では、積層セラミック電子部品として、積層セラミックコンデンサを例示して説明する。
【0026】
積層セラミックコンデンサ
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極層3とが交互に積層された構成のコンデンサ素体10を有する。このコンデンサ素体10の両側端部には、素体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4,4が形成してある。内部電極層3は、各側端面がコンデンサ素体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。一対の外部電極4,4は、コンデンサ素体10の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層3の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0027】
コンデンサ素体10の外形や寸法には特に制限はなく、用途に応じて適宜設定することができる。通常、外形はほぼ直方体形状とし、寸法は通常、縦(0.4〜5.6mm)×横(0.2〜5.0mm)×高さ(0.2〜1.9mm)程度とすることができる。
【0028】
誘電体層2は、後述する図2(A)〜図2(C)に示すセラミックグリーンシート30が焼成されて形成される。また、後述する図2(C)に示す余白パターン層60も、焼成後には誘電体層2を構成することとなる。誘電体層2の材質は、特に限定されず、たとえばチタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウムおよび/またはチタン酸バリウムなどの誘電体材料で構成される。誘電体層2の厚みは、本実施形態では、好ましくは1μm以下に薄層化されている。
【0029】
内部電極層3は、後述する図2(B)および(C)に示す所定パターンの内部電極パターン層40を焼成して形成される。内部電極層3の厚みは、本実施形態では、好ましくは1μm以下に薄層化されている。
【0030】
外部電極4の材質は、通常、銅や銅合金、ニッケルやニッケル合金などが用いられるが、銀や銀とパラジウムの合金なども使用することができる。外部電極4の厚みも特に限定されないが、通常10〜50μm程度である。
【0031】
積層セラミックコンデンサの製造方法
次に、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1の製造方法の一例を説明する。
【0032】
誘電体ペーストの準備
(1)まず、焼成後に図1に示す誘電体層2を構成することになるセラミックグリーンシートを製造するために、誘電体ペーストを準備する。
【0033】
本実施形態では、誘電体ペーストは、セラミック粉末(誘電体材料)と有機ビヒクルとを混練して得られる有機溶剤系ペーストで構成される。
【0034】
セラミック粉末としては、複合酸化物や酸化物となる各種化合物、たとえば炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物などから適宜選択され、混合して用いることができる。セラミック粉末は、通常、平均粒子径が2.0μm以下、好ましくは0.1〜0.8μm程度の粉体として用いられる。なお、きわめて薄いセラミックグリーンシートを形成するためには、セラミックグリーンシート厚みよりも細かい粉体を使用することが望ましい。
【0035】
有機ビヒクルに用いられる有機バインダとしてのブチラール樹脂は、本実施形態では、ポリビニルブチラール樹脂である。ポリビニルブチラール樹脂は、誘電体ペーストに含まれるセラミック粉体100重量部に対して、好ましくは5重量部超10重量部未満、より好ましくは6〜9重量部含有される。ポリビニルブチラール樹脂の含有量が少なすぎると、シート積層性(スタック性)が悪化する傾向にあり、多すぎると、脱バインダ工程において完全に除去されず、焼結体にクラックが多く発生する傾向にある。
【0036】
本実施形態では、ポリビニルブチラール樹脂の重合度は、350〜1000(ただし、1000を除く)、好ましくは500〜1000(ただし、1000を除く)である。すなわち、重合度が低あるいは中重合度であるポリビニルブチラール樹脂を使用することができる。このようなポリビニルブチラール樹脂を用いることにより、樹脂のガラス転移温度が低くなり、グリーンシートの柔軟性が向上する。その結果、積層工程において加熱圧着すると、グリーンシートの変形が大きくなり、後述する電極段差吸収用ペーストに含まれる粘着付与剤と組み合わせる効果と相まって、電極パターンおよび余白パターンが形成されたグリーンシートの接着がより容易となり、スタック性が向上する。しかも、後述する余白パターンのサドル部の突起をも抑制することができる。
【0037】
また、余白パターン層を形成するための電極段差吸収用ペーストに含まれる粘着付与剤として、重合ロジンを用いる場合には、ポリビニルブチラール樹脂のブチラール化度は、好ましくは73モル%より大きく、より好ましくは77モル%以上である。あるいは、粘着付与剤として、テルペンフェノールおよび脂環族石油樹脂から選ばれる少なくとも1つを用いる場合には、ポリビニルブチラール樹脂のブチラール化度は、65モル%より大きいことが好ましい。
【0038】
ブチラール化度が小さすぎると、ポリビニルブチラール樹脂の特性変化によりグリーンシートと余白パターン層との接着性(スタック性)が悪化する傾向にある。なお、ブチラール化度は、ポリビニルアルコールとブチルアルデヒドとのブチラール化反応により決まり、その上限は、81.6モル%である。また、ポリビニルブチラール樹脂中の残留アセチル基量は、好ましくは6%未満、より好ましくは3%以下である。
【0039】
有機ビヒクルに用いられる有機溶剤は、特に限定されるものではなく、各種アルコール類、ケトン類、芳香族類などが用いられ、これらの有機溶剤を混合して用いてもよい。
【0040】
誘電体ペースト中の各成分の含有量は、特に限定されるものではなく、たとえば、約30〜約90重量%の溶剤を含むように、誘電体ペーストを調製することができる。
【0041】
誘電体ペースト中には、主な成分としての誘電体粉末と樹脂バインダ成分の他に、必要に応じて、各種分散剤、可塑剤、副成分化合物、ガラスフリット、絶縁体などから選択される添加物が含有されていてもよい。誘電体ペースト中に、これらの添加物を添加する場合には、総含有量を、約10重量%以下にすることが望ましい。
【0042】
可塑剤としては、フタル酸ジオクチルやフタル酸ベンジルブチルなどのフタル酸エステル、アジピン酸、燐酸エステル、グリコール類などが例示される。可塑剤を配合する場合の塗料中における可塑剤の重量割合は、特に限定されないが、バインダ100重量部に対して、好ましくは40〜70重量部である。可塑剤が少なすぎると、グリーンシートの伸びおよび可撓性が悪化する傾向にあり、多すぎると、グリーンシート表面に可塑剤が滲み出し、取り扱いが困難である。
【0043】
本実施形態では、有機ビヒクル中の有機バインダとしてポリビニルブチラール樹脂を用いるので、この場合の可塑剤の含有量は、ポリビニルブチラール樹脂100重量部に対して、約25〜約100重量部であることが好ましい。
【0044】
誘電体ペーストは、上記各成分を、ボールミルなどで混練し、スラリー化することにより得ることができる。
【0045】
セラミックグリーンシートの形成
(2)次に、この誘電体ペーストを用いて、ワイヤーバーコータやドクターブレードなどにより、図2(A)に示すように、支持体としてのキャリアシート20上に、好ましくは1μm以下程度の厚みで、セラミックグリーンシート30を形成する。
【0046】
キャリアシート20としては、たとえばPETフィルムなどが用いられ、剥離性を改善するために、セラミックグリーンシート30が形成される面には、離型処理(シリコーンなどのコーティング)がしてあるものが好ましい。キャリアシート20の厚みは、特に限定されないが、好ましくは5〜100μmである。
【0047】
本実施形態では、後述するように、内部電極パターン層40および余白パターン層60が形成されたセラミックグリーンシート30を熱圧着しながら積層する(熱圧着工程)。この場合、シートを積層してから支持体を剥離するため、積層の際にグリーンシートの強度はあまり問題とならない。そのため、グリーンシートの強度に影響を与えるポリビニルブチラール樹脂の重合度の低いものを選択することができる。また、厚みが1.0μm以下の極めて薄いグリーンシートであっても、ハンドリング性を損なうことはない。
【0048】
セラミックグリーンシート30は、キャリアシート20に形成された後に乾燥される。セラミックグリーンシート30の乾燥温度は、好ましくは50〜100℃であり、乾燥時間は、好ましくは1〜20分である。
【0049】
乾燥後のセラミックグリーンシート30の厚みは、乾燥前の厚みから5〜25%収縮する。本実施形態では、乾燥後のセラミックグリーンシート30の厚みが、好ましくは0.4〜1μm、さらに好ましくは0.4〜0.8μmとなるように形成する。近年望まれている薄層化の要求に応えるためである。なお、グリーンシートの厚みが厚すぎると、内部電極パターン層の厚みによっては、1層あたりのバインダ樹脂含有量が多くなってしまい、焼成後にクラックが発生する傾向にある。
【0050】
内部電極ペーストの準備
(3)次に、焼成後に図1に示す内部電極層3を構成することになる内部電極パターン層40を、上記のセラミックグリーンシートの表面に形成するために、内部電極ペーストを準備する。
【0051】
内部電極ペーストは、導電体粉末と有機ビヒクルとを混練して得られる有機溶剤系ペーストで構成される。
【0052】
導電体粉末としては、特に限定されないが、Cu、Niおよびこれらの合金から選ばれる少なくとも1種で構成してあることが好ましく、より好ましくはNiまたはNi合金、さらにはこれらの混合物で構成される。
【0053】
NiまたはNi合金としては、Mn、Cr、CoおよびAlから選択される少なくとも1種の元素とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。なお、NiまたはNi合金中には、P、Fe、Mgなどの各種微量成分が0.1重量%程度以下含まれていてもよい。
【0054】
このような導電体粉末は、球状、リン片状等、その形状に特に制限はなく、また、これらの形状のものが混合したものであってもよい。また、導電体粉末の粒子径は、通常、球状の場合、平均粒子径が0.5μm以下、好ましくは0.01〜0.2μm程度のものを用いる。より一層確実に薄層化を実現するためである。
【0055】
導電体粉末は、内部電極ペースト中に、好ましくは30〜60重量%、より好ましくは40〜50重量%含まれる。
【0056】
有機ビヒクルは、有機バインダと溶剤とを主成分として含有するものである。有機バインダとしては、特に制限されないが、たとえば、エチルセルロース、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリスチレン、または、これらの共重合体などが例示される。本実施形態ではエチルセルロースを主成分とすることが好ましい。有機バインダとしてエチルセルロースを主成分とする場合の、バインダ中のエチルセルロースの含有量は、95重量%以上であることが好ましく、より好ましくは100重量%である。ごく微量ではあるが、エチルセルロースと組み合わせて用いることが可能な樹脂としては、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂などがある。
【0057】
本実施形態では、さらに、有機バインダとして、後述する電極段差吸収用ペーストに含まれる粘着付与剤を含むことが好ましい。内部電極ペーストにも、粘着付与剤が含まれることで、セラミックグリーンシートと内部電極パターンとの積層性および接着性を向上させることができ、焼成後のクラック等の内部欠陥を効果的に防止することができる。
【0058】
なお、内部電極ペーストに含まれる粘着付与剤は、電極段差吸収用ペーストに含まれる粘着付与剤と同じであってもよいし、異なっていてもよい。あるいは、複数の粘着付与剤を組み合わせて使用してもよい。
【0059】
有機バインダは、内部電極ペースト中に、導電体粉末100重量部に対して、好ましくは1〜10重量部で含まれる。内部電極ペーストに含まれる有機バインダ(エチルセルロース、粘着付与剤など)の含有比率、平均重量分子量などは、後述する電極段差吸収用ペーストに含まれるエチルセルロースおよび粘着付与剤と同様にすればよい。
【0060】
溶剤としては、特に制限されないが、たとえばターピネオール、ブチルカルビトール、ケロシン等公知のものはいずれも使用可能である。本実施形態では、後述する電極段差吸収用印刷ペーストと同様に、ターピニルアセテートと、イソボニルプロピオネート(isobornyl propionate)、イソボニルブチレート(isobornyl butyrate)及びイソボニルイソブチレート(isobornyl isobutyrete)から選択される1種以上と、を混合して得られる混合溶剤を用いることが好ましい。このような混合溶剤を用いる場合における、溶剤全体100重量%に対する、これらの溶剤の含有割合は、後述する電極段差吸収用印刷ペーストと同じ範囲とすればよい。また、その混合割合についても、後述する電極段差吸収用印刷ペーストと同様にすればよい。
【0061】
溶剤は、内部電極ペースト中に、導電体粉末100重量部に対して、好ましくは50〜150重量部、より好ましくは80〜100重量部で含まれる。溶剤量が少なすぎるとペースト粘度が高くなりすぎ、多すぎるとペースト粘度が低くなりすぎる不都合がある。
【0062】
有機ビヒクル中の上記バインダおよび溶剤の合計含有量は、95重量%以上であることが好ましく、より好ましくは100重量%である。バインダ及び溶剤とともに有機ビヒクル中に含有させることが可能なものとしては、可塑剤、レベリング剤などがある。
【0063】
内部電極ペースト中には、上記誘電体ペーストに含まれるセラミック粉末と同じセラミック粉末が共材として含まれていても良い。共材は、焼成過程において導電体粉末の焼結を抑制する作用を奏する。共材として用いるセラミック粉末は、内部電極ペースト中に、導電体粉末100重量部に対して、好ましくは5〜30重量部で含まれる。共材量が少なすぎると、導電体粉末の焼結抑制効果が低下し、内部電極の焼結が進んでしまうために、焼成後の内部電極層3が不連続(途切れ部分が発生)になってしまい、見かけの誘電率が低下する。一方で、共材量が多すぎると、印刷形成時点での内部電極の構造において不連続になってしまい、焼成後の内部電極層3のライン性が悪化しやすくなり、見かけの誘電率も低下する傾向にある。
【0064】
接着性の改善のために、内部電極ペーストには、可塑剤が含まれてもよい。この場合、可塑剤種および添加量は、上記の誘電体ペーストと同様とすればよい。
【0065】
内部電極ペーストは、上記各成分を、ボールミルなどで混練し、スラリー化することにより得ることができる。
【0066】
内部電極パターン層の形成
(4)次に、図2(B)に示すように、キャリアシート20上に形成されたセラミックグリーンシート30の表面に、所定パターンの内部電極パターン層40を形成する。
【0067】
内部電極パターン層40の形成方法は、層を均一に形成できる方法であれば特に限定されないが、本実施形態では、上記の内部電極ペーストを用いたスクリーン印刷法が用いられる。
【0068】
内部電極パターン層40の厚さは、好ましくは1.5μm以下、より好ましくは0.4〜1μmである。内部電極パターン層40の厚さが厚すぎると、グリーンシートの厚みによっては、1層あたりのバインダ樹脂含有量が多くなってしまい、焼成後にクラックが発生する傾向にある。さらに、積層数を減少せざるをえなくなり取得容量が少なくなり、高容量化しにくくなる。一方、厚みが薄すぎると均一に形成することが困難であり、電極途切れが発生しやすくなる。
【0069】
内部電極パターン層40の厚さは、現状の技術では前記範囲の程度であるが、電極の途切れが生じない範囲で薄い方がより望ましい。
【0070】
その後、内部電極パターン層40は、必要に応じて乾燥される。乾燥温度は、特に限定されないが、好ましくは50〜120℃であり、乾燥時間は、好ましくは1〜15分である。
【0071】
電極段差吸収用ペーストの準備
(5)次に、セラミックグリーンシート上に、内部電極パターンとは相補的に形成される余白パターン層60を形成するための電極段差吸収用ペーストを準備する。
【0072】
本実施形態では、電極段差吸収用ペーストは、セラミック粉末と有機ビヒクルとを混練して得られる有機溶剤系ペーストで構成される。なお、電極段差吸収用ペーストに含まれるセラミック粉体の組成は、上記の誘電体ペーストに含まれるセラミック粉体の組成と異なっていてもよいが、同一組成であることが好ましい。
【0073】
また、有機バインダはエチルセルロースおよび粘着付与剤を有している。上述したポリビニルブチラール樹脂を含むグリーンシートと、エチルセルロースを含む余白パターン層とに対し粘着性を与えるためには、粘着付与剤は、重合ロジン、テルペンフェノールおよび脂環族石油樹脂から選ばれる少なくとも1つであり、好ましくは重合ロジンである。このような粘着付与剤を選択することにより、粘着付与剤としての効果に加え、余白パターン端部の突起(サドル部)を効果的に抑制することができる。その結果、グリーンシートおよび内部電極を薄層化・多層化した場合であっても、シートの積層性を向上させると共に、電極の屈曲を低減することができる。
【0074】
なお、粘着付与剤が重合ロジンである場合には、ポリビニルブチラール樹脂のブチラール化度が上述した範囲にあることが好ましい。また、粘着付与剤がテルペンフェノールおよび脂環族石油樹脂である場合には、ポリビニルブチラール樹脂のブチラール化度が上述の範囲にあることが好ましい。
【0075】
有機バインダの含有量は、電極段差吸収用ペーストに含まれるセラミック粉末100重量部に対して、3重量部超15重量部未満、好ましくは6〜12重量部である。また、有機バインダの全含有量に対する粘着付与剤の含有比率が、10〜50重量%、より好ましくは30〜50重量%である。
【0076】
有機バインダの含有量が少なすぎると、電極段差吸収用ペーストの粘度が低くなり、スクリーン印刷ができない傾向にある。また、含有量が多すぎると、シートの接着性が悪化し、焼結体にクラックが多く発生する傾向にある。
【0077】
有機バインダの全含有量に対する粘着付与剤の含有比率が小さすぎると、シートの積層が困難となる傾向にある。また、含有比率が大きすぎると、電極段差吸収用ペーストの粘度が低くなり、スクリーン印刷ができない傾向にある。
【0078】
エチルセルロースの平均重量分子量(Mw)は、好ましくは75000超250000未満、より好ましくは、110000〜230000である。平均重量分子量が小さすぎると、電極段差吸収用ペーストの粘度が低くなり、スクリーン印刷ができない傾向にある。また、平均重量分子量が大きすぎると、シートの接着性が悪化し、焼結体にクラックが多く発生する傾向にある。
【0079】
また、エチルセルロースのエトキシル基の含有率は、好ましくは、46.1重量%超52.0重量%未満、より好ましくは、48.0〜49.5重量%である。エトキシル基の含有率が上記範囲外の場合には、シートの接着性が悪化し、焼結体にクラックが多く発生する傾向にある。
【0080】
溶剤としては、シートアタック現象を防止するために、セラミックグリーンシートに含まれるポリビニルブチラール樹脂を良好に膨潤または溶解させないもの、すなわち、非相溶のものが好ましい。具体的には、α−ターピニルアセテート、イソボニルアセテート、ジヒドロターピニルアセテート、ジヒドロターピニルメチルエーテル、ターピニルメチルエーテル、I−ジヒドロカルビルアセテートなどが例示される。
【0081】
溶剤は、電極段差吸収用ペースト中に、セラミック粉末100重量部に対して、好ましくは50〜150重量部、より好ましくは80〜100重量部で含まれる。溶剤量が少なすぎるとペースト粘度が高くなりすぎ、多すぎるとペースト粘度が低くなりすぎる不都合がある。
【0082】
接着性の改善のため、電極段差吸収用ペーストには、可塑剤が含まれてもよい。この場合、可塑剤種および添加量は、上記の誘電体ペーストと同様とすればよい。
【0083】
電極段差吸収用ペーストは、上記各成分を、ボールミルなどで混練し、スラリー化することにより得ることができる。
【0084】
余白パターン層の形成
(6)本実施形態では、セラミックグリーンシートの表面に、所定パターンの内部電極パターン層40を印刷法で形成した後、またはその前に、図2(B)に示す内部電極パターン層40が形成されていないセラミックグリーンシート30の表面隙間(余白パターン部分50)に、図2(C)に示すように、内部電極パターン層40と実質的に同じ厚みの余白パターン層60を形成する。
【0085】
余白パターン層60の形成方法は、層を均一に形成できる方法であれば特に限定されないが、本実施形態では、上記の電極段差吸収用ペーストを用いたスクリーン印刷法が用いられる。
【0086】
余白パターン層60の厚さを内部電極パターン層40と実質的に同じ厚みとするのは、実質的に同じでないと段差が生じ、特に多層化した場合に影響が増大するからである。
【0087】
その後、内部電極パターン層40および/または余白パターン層60は、必要に応じて乾燥される。乾燥温度は、特に限定されないが、好ましくは50〜120℃であり、乾燥時間は、好ましくは1〜15分である。
【0088】
外層の形成
(7)本実施形態では、所定パターンの内部電極パターン層40および余白パターン層60が表面に形成されたセラミックグリーンシート30を、保護するために、外層32を形成する。すなわち、所定数積層されたセラミックグリーンシート30が、外層32に挟まれる構成となる。外層32は内部電極パターン層40および余白パターン層60が形成されていないセラミックグリーンシートが1層あるいは複数積層された構成となっている。
【0089】
外層用グリーンシートは、セラミックグリーンシート30と同様に、外層用誘電体ペーストを用いてキャリアシート20上に形成される。外層用誘電体ペーストとしては、上記で作製した誘電体ペーストを用いてもよいが、バインダ種、バインダ添加量、バインダ重合度などを変えたものを用いてもよい。
【0090】
熱圧着工程
(8)次に、本実施形態では、図3(A)に示すように、キャリアシート20上に形成された外層32の上に、所定パターンの電極層40と余白パターン層60が表面に形成されたセラミックグリーンシート30を、加熱および加圧しながら積層して、キャリアシート20を剥離する。そして、図3(B)に示すように、上記の工程を所望の積層数まで繰り返し、グリーンセラミック積層体を得る。加圧温度は、50〜100℃、加圧力は、5〜25MPaとすることが好ましい。
【0091】
グリーンチップの作製、焼成など
(9)得られたグリーンセラミック積層体を所定サイズに切断し、グリーンチップを作製し、脱バインダ工程、焼成工程、必要に応じて行われるアニール工程を経て形成された、焼結体で構成されるコンデンサ素体10に、外部電極用ペーストを印刷または転写して焼成し、外部電極4,4を形成して、積層セラミックコンデンサ1が製造される。
【0092】
本実施形態で述べた方法により、セラミックグリーンシートの厚みを薄層化し、グリーンシートに含まれるポリビニルブチラールの重合度が低あるいは中程度のものを用いた場合であっても、電極段差吸収用ペーストに含まれる粘着付与剤としての重合ロジン、テルペンフェノールおよび脂環族石油樹脂から選ばれる少なくとも1つが、グリーンシートと余白パターン層とに相溶し粘着性を与える。また、粘着付与剤の種類によっては、ポリビニルブチラール樹脂のブチラール化度が特定の範囲にあることが好ましい。
【0093】
その結果、グリーンシートと余白パターン層との接着性および積層性を良好にすると共に、余白パターン端部の突起(サドル部)を抑制し、焼成後のクラックなどが有効に防止された積層セラミックコンデンサ1を提供することができる。
【0094】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0095】
たとえば、上述した実施形態では、本発明に係る電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係る電子部品としては、積層セラミックコンデンサに限定されず、多層セラミック基板などにも適用できることは勿論である。
【0096】
また、本発明に係る方法により形成されたセラミックグリーンシート30と、内部電極パターン層40および余白パターン層60とが複数積層された積層体ユニットを所定数形成し、さらにこれらの積層体ユニットを積層することで、最終的な積層体を作製しても良い。
【0097】
さらに、内部電極パターン層および余白パターン層を転写法により形成してもよい。
【実施例】
【0098】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0099】
実施例1
誘電体ペーストの調製
まず、セラミックグリーンシートを形成するための誘電体ペーストを調製した。まず、BaTiO系セラミック粉末と、有機バインダとしてのポリビニルブチラール樹脂(PVB)(重合度:800)と、溶剤としてのプロピルアルコール、キシレン、メチルエチルケトン、2−ブトキシエチルアルコール、可塑剤としてのフタル酸ジ−2−エチルヘキシルを準備した。次に、セラミック粉末100重量部に対して、6重量部のPVBと、150重量部の溶剤と、可塑剤をそれぞれ秤量し、直径2mmのジルコニアボールとともにボールミルで21時間混練し、スラリー化して誘電体ペーストを得た。なお、可塑剤は、ポリビニルブチラール100重量部に対して50重量部添加した。
【0100】
内部電極ペーストの調製
次いで、内部電極パターン層40を形成するための内部電極ペーストを調製した。まず、導電体粉末としての平均粒径が0.2μmのNi粒子と、共材としてのBaTiO系セラミック粉末と、エチルセルロースと、溶剤としてのα−ターピニルアセテートと、粘着付与剤としての重合ロジンを準備した。そして、導電体粉末100重量部、共材30重量部の合計130重量部に対して、122重量部のα−ターピニルアセテートと、5.58重量部のエチルセルロースと、2.22重量部の重合ロジンを添加し、これをボールミルおよび3本ロールで混練し、スラリー化して内部電極ペーストを得た。
【0101】
電極段差吸収用ペーストの調製
次いで、余白パターン層60を形成するための電極段差吸収用ペーストを調製した。まず、上記の誘電体ペーストに含まれるセラミック粉体と同一組成のBaTiO系セラミック粉末と、エチルセルロースと、溶剤としてのα−ターピニルアセテートと、粘着付与剤とを準備した。そして、セラミック粉末100重量部に対して、122重量部のα−ターピニルアセテートと、6重量部の有機バインダを添加し、これをボールミルおよび3本ロールで混練し、スラリー化して電極段差吸収用ペーストを得た。なお、有機バインダは、エチルセルロースと表1に示す粘着付与剤とから構成される。また、表1に示す粘着付与剤は、有機バインダ量100重量%に対して、添加比率40重量%で含有されている。すなわち、エチルセルロースは、セラミック粉末100重量部に対して、3.6重量部含まれ、表1に示す粘着付与剤は、2.4重量部含まれていることとなる。
【0102】
電極段差吸収用ペーストの評価
得られた電極段差吸収用ペーストについて、粘度および最大法線応力を測定した。粘度は、せん断速度500s−1時の粘度を測定した。なお、測定では、パラレルプレート型粘度計を用いた。粘度は、2.0Pa・s以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0103】
最大法線応力は、法線応力が測定可能な粘弾性測定装置(レオメータ)を用いて測定を行った。一対のパラレルプレート(円形)の直径が40mm、プレート間の距離が300μm、電極段差吸収用ペーストの温度が25℃、電極段差吸収用ペーストに対するせん断速度が1000〜10000[1/s]の条件下で、電極段差吸収用ペーストの法線応力を測定した。最大法線応力は、0.3N以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0104】
積層セラミックチップコンデンサ試料の作製
次いで、上記にて作製した誘電体ペースト、内部電極ペーストおよび電極段差吸収用ペーストを用い、以下のようにして、さらに、図1に示す積層セラミックチップコンデンサ1を製造した。
【0105】
まず、支持体としてのPETフィルムの離型処理された面上に、誘電体ペーストをワイヤーバーコータにより、所定厚みで塗布し、乾燥することで、厚みが0.6μmのグリーンシートを作製した。
【0106】
次に、得られたグリーンシートの上に、内部電極ペーストを用いたスクリーン印刷法により、スクリーンパターンが4.0×1.2mmの短冊状で、乾燥後の厚さが0.6μmとなるように内部電極パターン層40(図2(B)参照)を形成した。
【0107】
その後、グリーンシート上の内部電極パターン層40が形成されていない余白パターン部分50(図2(B)参照)に、電極段差吸収用ペーストを用いたスクリーン印刷法により内部電極パターン層40と実質的に同じ厚みの余白パターン層60(図2(C)参照)を形成し、図2(C)に示すような内部電極パターン膜40および余白パターン層60を持つセラミックグリーンシート30を得た。本実施例では、このセラミックグリーンシート30をグリーンシートとし、これを複数枚、準備した。
【0108】
余白パターン層の評価
上記で形成した余白パターン層について、突起(サドル部)の高さの評価を行った。突起の高さの評価方法としては、特に制限されず、表面の凹凸について計測する機器を用いて測定する方法であれば、接触式、非接触式のどちらであってもよい。本実施例では、接触式のサーフコーターを使用し、個々のパターンにおいて、平坦部分(パターン中央部)での高さと、パターンにおけるサドル部の突起の高さを測定し、その高さの差を突起の高さとして求めた。突起の高さは、0.2μm以下を良好とした。結果を表1に示す。
【0109】
次に、ポリビニルブチラール樹脂の重合度を1500とした以外は、上記で作製した誘電体ペーストと同様にして、外層用グリーンシート形成用の誘電体ペーストを調製した。この誘電体ペーストをPETフィルムの離型処理された面上にワイヤーバーコータを用いて、所定厚みで塗布し、乾燥することで、厚みが12μmの外層用グリーンシートを作製した。
【0110】
この外層用グリーンシートを8枚準備し、これらを熱圧着積層し、厚みが96μmの外層を形成した。
【0111】
得られた外層の上に、内部電極パターン層と余白パターン層とが形成されたセラミックグリーンシートを、温度75℃および圧力12MPaの条件で圧着し、PETフィルムを剥離した(図3(A)参照)。この工程を繰り返し、内部電極パターン層と余白パターン層とが形成されたセラミックグリーンシートを所望数積層した(図3(B)参照)。その後、さらに、上記の厚み96μmの外層を熱圧着により形成し、グリーンセラミック積層体を得た。
【0112】
なお、内部電極パターン層と余白パターン層とが形成されたセラミックグリーンシートの積層時には、直前に積層したセラミックグリーンシートに対し、内部電極部を短冊状の長手方向に半分だけずらし、かつ、短手方向には、各電極部が重なるように正確に位置決めを行った。
【0113】
グリーンセラミック積層体の評価
得られたグリーンセラミック積層体について、接着強度を測定した。
【0114】
グリーンセラミック積層体の接着性は、インストロン5543引張試験機を用いて積層体を引っ張り、剥離した時点での強度値を1cm角での積層体の接着強度に換算して求めた。シート接着性は、22N/cm以上、好ましくは23N/cm以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0115】
なお、上記の評価は、グリーンセラミック積層体の一方の外層を形成しない状態で行った。すなわち、外層を形成するグリーンシートについてではなく、内部電極パターン層と余白パターン層とが形成されたセラミックグリーンシートについて、グリーンシートの接着強度を評価した。
【0116】
次に、得られたグリーンセラミック積層体を所定サイズに切断した後、脱バインダ処理、焼成及びアニールを下記の条件にて行い、焼結体を得た。
脱バインダは、昇温速度:15℃/時間、保持温度:280℃、保持時間:8時間、処理雰囲気:空気雰囲気、の条件で行った。
焼成は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1200〜1380℃、保持時間:2時間、降温速度:300℃/時間、処理雰囲気:還元雰囲気(酸素分圧:10−6PaにNとHとの混合ガスを水蒸気に通して調整した)、の条件で行った。
アニールは、保持温度:900℃、保持時間:9時間、降温速度:300℃/時間、処理雰囲気:加湿したNガス雰囲気、の条件で行った。焼成及びアニールにおけるガスの加湿には、ウェッターを用い、水温は35℃とした。
【0117】
得られた焼結体のサイズは、縦1.6mm×横0.8mm×高さ0.8mmであり、一対の内部電極層間に挟まれる誘電体層2の厚みは約0.6μm、内部電極層3の厚みは0.6μmであった。
【0118】
焼結体の評価
得られた焼結体を切断し、その断面を観察して、クラックの有無を評価した。これを10個のコンデンサ試料に対して行った。10個すべてにクラックが観察されないことが好ましい。結果を表1に示す。
【0119】
【表1】

【0120】
表1に示すように、粘着付与剤が、重合ロジン、テルペンフェノールまたは脂環族石油樹脂である場合には(試料番号1〜3)、電極段差吸収用ペースト、余白パターンにおける突起(サドル部)の高さ、積層体、焼結体のいずれについても良好な結果が得られている。
一方、粘着付与剤が、ガムロジンまたはロジングリセリンエステルである場合には(試料番号4および5)、積層体の接着性に劣り、積層することができなかった。
【0121】
実施例2
粘着付与剤の添加比率、有機バインダの含有量およびポリビニルブチラールの重合度を表2に示す値とした以外は、試料番号1と同様にして、誘電体ペーストおよび電極段差吸収用ペーストを調製し、さらにグリーンセラミック積層体および焼結体を作製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表2に示す。
【0122】
【表2】

【0123】
表2より、粘着付与剤の添加比率が0、すなわち、重合ロジンが電極段差吸収用ペーストに添加されていない場合には(試料番号6)、接着性に劣るため、積層することができなかった。また、粘着付与剤の添加比率が5wt%の場合には(試料番号7)、接着性は良好であるものの、余白パターンにおける突起の高さを改善できず、焼結体にもクラックが見られる傾向にあった。一方、粘着付与剤の添加比率が本発明の範囲よりも大きい場合には(試料番号11)、電極段差吸収用ペーストの粘度が低く、スクリーン印刷が不可能であった。
【0124】
また、有機バインダの含有量が本発明の範囲よりも少ない場合には(試料番号12)、電極段差吸収用ペーストの粘度が低く、スクリーン印刷が不可能であった。一方、有機バインダの含有量が本発明の範囲よりも多い場合には(試料番号16)、樹脂量が多くなるため、焼結体にクラックが発生した。
【0125】
さらに、ポリビニルブチラールの重合度が本発明の範囲よりも小さい場合には(試料番号17)、バインダとしての機能が発揮されず、支持体であるPETフィルム上にシートを形成することができなかった。一方、ポリビニルブチラールの重合度が本発明の範囲よりも大きい場合には(試料番号21および22)、積層体の接着性に劣り、焼結体においてもクラックが観察された。
【0126】
実施例3
エチルセルロースの重量平均分子量およびエトキシル基含有率、ポリビニルブチラールの含有量を表3に示す数値とした以外は、試料番号1と同様にして、誘電体ペーストおよび電極段差吸収用ペーストを調製し、さらにグリーンセラミック積層体および焼結体を作製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表3に示す。
【0127】
【表3】

【0128】
表3より、エチルセルロースの重量平均分子量が本発明の好ましい範囲よりも小さい場合には(試料番号23)、電極段差吸収用ペーストの粘度が低く、スクリーン印刷が不可能であった。一方、エチルセルロースの重量平均分子量が本発明の好ましい範囲よりも大きい場合には(試料番号27)、積層体の接着性に劣り、焼結体においてもクラックが観察された。
【0129】
また、エチルセルロースのエトキシル基含有率が本発明の好ましい範囲外である場合には(試料番号28および31)、エチルセルロースの特性が変化してしまい、積層体の接着性に劣り、焼結体においてもクラックが観察された。
【0130】
また、ポリビニルブチラール樹脂の含有量が本発明の好ましい範囲よりも小さい場合には(試料番号32)、含有量が少ないため、積層体の接着性に劣り、焼結体においてもクラックが観察された。一方、ポリビニルブチラール樹脂の含有量が本発明の好ましい範囲よりも大きい場合には(試料番号37)、逆に、樹脂量が多すぎるため、焼結体にクラックが発生した。
【0131】
実施例4
粘着付与剤として表4に示すものを用い、ポリビニルブチラール樹脂のブチラール化度を表4に示す数値とした以外は、試料番号1と同様にして、誘電体ペーストおよび電極段差吸収用ペーストを調製し、さらにグリーンセラミック積層体および焼結体を作製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表4に示す。
【0132】
【表4】

【0133】
表4より、粘着付与剤が重合ロジンであって、ポリビニルブチラール樹脂のブチラール化度が本発明の好ましい範囲より小さい場合には(試料番号38)、ポリビニルブチラールの特性が変化してしまい、積層体の接着性に劣り、焼結体においてもクラックが観察された。同様に、粘着付与剤がテルペンフェノールまたは脂環族石油樹脂であって、ブチラール化度が本発明の好ましい範囲外である場合には(試料番号40および44)、ポリビニルブチラールの特性が変化してしまい、積層体の接着性に劣り、焼結体においてもクラックが観察された。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【図2】図2(A)〜図2(C)は図1に示す積層セラミックコンデンサの製造工程の一部を示す要部断面図である。
【図3】図3(A)および図3(B)は、図2(A)〜(C)に示す製造工程の続きを示す要部断面図である。
【図4】図4は、従来例に係る余白パターン層端部の突起(サドル部)を示す模式図である。
【符号の説明】
【0135】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… コンデンサ素体
2… 誘電体層
3… 内部電極層
4… 外部電極
20、200… キャリアシート
30、300… セラミックグリーンシート
32… 外層
40、400… 内部電極パターン層
50… 余白パターン部分
60、600… 余白パターン層
601… 突起(サドル部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブチラール樹脂を含むセラミックグリーンシートと、所定パターンの内部電極パターン層と、を交互に複数重ねて、グリーンセラミック積層体を得る工程を有する積層セラミック電子部品の製造方法であって、
前記ブチラール樹脂の重合度が、350〜1000(ただし、1000を除く)であり、
前記グリーンセラミック積層体を得る前に、所定パターンの前記内部電極パターン層の隙間部分には、前記内部電極パターン層と実質的に同じ厚みの余白パターン層を形成し、
前記余白パターン層を形成するための電極段差吸収用ペーストが、セラミック粉末と、有機バインダと、を有しており、
前記有機バインダは、エチルセルロースと、粘着付与剤としての重合ロジン、テルペンフェノールおよび脂環族石油樹脂から選ばれる少なくとも1つと、を有しており、
前記有機バインダが、前記セラミック粉末100重量部に対して、3重量部超15重量部未満含有され、前記有機バインダの含有量に対する前記粘着付与剤の含有比率が、10〜50重量%であることを特徴とする積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記ブチラール樹脂が、前記セラミックグリーンシートに含まれるセラミック粉体100重量部に対して、5重量部超10重量部未満含有されている請求項1に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項3】
前記エチルセルロースの重量平均分子量が、75000超250000未満である請求項1または2に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項4】
前記エチルセルロースのエトキシル基含有率が、46.1重量%超52.0重量%未満である請求項1〜3のいずれかに記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項5】
前記粘着付与剤が、重合ロジンである場合に、
前記ブチラール樹脂のブチラール化度が、73モル%より大きい請求項1〜4のいずれかに記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項6】
前記粘着付与剤が、テルペンフェノールおよび脂環族石油樹脂から選ばれる少なくとも1つである場合に、
前記ブチラール樹脂のブチラール化度が、65モル%より大きい請求項1〜4のいずれかに記載の積層セラミック電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−67719(P2010−67719A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231342(P2008−231342)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】