説明

積層体、粘着ラベル、転写箔、記録媒体、ラベル付き物品、キット及び判別方法

【課題】可視化した潜像の視認性を損なうことなく、複屈折性層を薄くすることを可能とすること。
【解決手段】本発明の識別用積層体10は、反射層13bと、前記反射層13bの前面の一部と向き合った第1複屈折性部12aと前記前面の他の部分と向き合い且つ前記第1複屈折性部12aとは遅相軸の方向が異なる第2複屈折性部12bとを含んだ複屈折性層12と、前記反射層13bと前記複屈折性層12との間に介在したコレステリック液晶層19とを具備し、前記第1及び第2複屈折性部12a,12bの各々は波長λが550nmのときのリターデイションが3λ/32乃至5λ/32の範囲内にあることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品を真正品と非真正品との間で判別する判別技術に関する。
【背景技術】
【0002】
キャッシュカード、クレジットカード及びパスポートなどの認証媒体並びに商品券及び株券などの有価証券媒体には、偽造が困難であることが望まれる。そのため、従来から、そのような媒体には、その偽造を抑止すべく、偽造が困難なラベルが貼り付けられている。
【0003】
また、近年では、認証媒体及び有価証券媒体以外の物品についても、偽造品の流通が問題視されている。そのため、このような物品に、認証媒体及び有価証券媒体に関して上述した偽造防止技術を適用する機会が増えている。
【0004】
偽造防止技術は、オバート技術とコバート技術とに分類することができる。
オバート技術は、一般のユーザが物品への適用を容易に認めることができ且つ容易に真偽判定をすることができる偽造防止技術である。代表的なオバート技術では、ホログラムなどの回折構造又はOptically Variable Ink(OVI)などの多層干渉膜を利用する。
【0005】
コバート技術は、物品への適用が一般のユーザに分かり難く、物品へのコバート技術の適用を知っている特定のユーザのみが真偽判定できることを狙った偽造防止技術である。代表的なコバート技術では、蛍光印刷又は万線モアレを利用する。
【0006】
特許文献1には、他のコバート技術が記載されている。このコバート技術では、反射層と配向膜と複屈折性層とを含んだラベルを使用する。配向膜は、反射層の前面上に形成されており、配向方向が45°異なる2つの部分を含んでいる。複屈折性層は、配向膜上に形成された高分子液晶材料からなる。複屈折性層は、配向膜の2つの部分に対応して、遅相軸の方向が45°異なると共に各々が四分の一波長板としての役割を果たす2つの部分を含んでいる。
【0007】
偏光フィルムを介することなしにこのラベルを観察した場合、複屈折性層の一方の部分に対応した領域と他方の部分に対応した領域とを判別することは困難である。偏光フィルムを介して観察すると、それら領域の一方は、他方の領域と比較してより暗く見える。この明部と暗部とが形成する可視像を利用して、このラベルを支持した物品の真正を確認する。
【0008】
ところで、上記のラベルには、薄いことが望まれる。例えば、薄いラベルは、切欠き及び/又はミシン目を形成することにより容易に脆性にすることができる。そのようなラベルは、物品から剥がそうとすると容易に破壊する。したがって、ラベルの貼り替えが困難となる。また、ラベルを薄くすると、材料の使用量が減少する。
【0009】
しかしながら、例えば、上記ラベルの複屈折性層を薄くすると、可視化した潜像のコントラスト比が低下する。すなわち、複屈折性層を薄くすると、可視化した潜像が見辛くなる。
【特許文献1】特開平8−43804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、可視化した潜像の視認性を損なうことなく、複屈折性層を薄くすることを可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1側面によると、反射層と、前記反射層の前面の一部と向き合った第1複屈折性部と前記前面の他の部分と向き合い且つ前記第1複屈折性部とは遅相軸の方向が異なる第2複屈折性部とを含んだ複屈折性層と、前記反射層と前記複屈折性層との間に介在したコレステリック液晶層とを具備し、前記第1及び第2複屈折性部の各々は波長λが550nmのときのリターデイションが3λ/32乃至5λ/32の範囲内にあることを特徴とする識別用積層体が提供される。
【0012】
本発明の第2側面によると、第1側面に係る積層体と、前記積層体の背面に支持された粘着層とを具備したことを特徴とする粘着ラベルが提供される。
【0013】
本発明の第3側面によると、紙と、前記紙の一方の主面に支持された粘着層と、背面が前記粘着層と向き合うように前記紙の中に埋め込まれた第1側面に係る積層体とを具備したことを特徴とする粘着ラベルが提供される。
【0014】
本発明の第4側面によると、基材と、前記基材に前面が剥離可能に支持された第1側面に係る積層体と、前記積層体の背面に支持された粘着層とを具備したことを特徴とする転写箔が提供される。
【0015】
本発明の第5側面によると、紙と、前記紙の中に埋め込まれた第1側面に係る積層体とを具備したことを特徴とする記録媒体が提供される。
【0016】
本発明の第6側面によると、真正さが確認されるべき物品と、前記真正さが確認されるべき物品に支持された第1側面に係る積層体とを具備したことを特徴とするラベル付き物品が提供される。
【0017】
本発明の第7側面によると、反射層と、前記反射層の前面の一部と向き合った第1複屈折性部と前記前面の他の部分と向き合い且つ前記第1複屈折性部とは遅相軸の方向が異なる第2複屈折性部とを含んだ第1複屈折性層と、前記反射層と前記複屈折性層との間に介在したコレステリック液晶層とを備えた識別用積層体と、直線偏光子と、前記直線偏光子の光入射面と向き合った第2複屈折性層とを備えた検証具とを含み、前記第1複屈折性部の波長λにおけるリターデイションと前記第2複屈折性層の前記波長λにおけるリターデイションとの和はλ/4であり、前記第2複屈折性部の前記波長λにおけるリターデイションと前記第2複屈折性層の前記波長λにおけるリターデイションとの和はλ/4であることを特徴とするセキュリティキットが提供される。
【0018】
本発明の第8側面によると、真正さが未知の物品を真正品と非真正品との間で判別する方法であって、前記真正品は、真正さが確認されるべき物品と、前記真正さが確認されるべき物品に支持された識別用積層体とを具備したラベル付き物品であり、前記識別用積層体は、反射層と、前記反射層の前面の一部と向き合った第1複屈折性部と前記前面の他の部分と向き合い且つ前記第1複屈折性部とは遅相軸の方向が異なる第2複屈折性部とを含んだ第1複屈折性層と、前記反射層と前記第1複屈折性層との間に介在したコレステリック液晶層とを備え、前記第1及び第2部分の波長λにおける第1リターデイションはλ/4未満であり、検証具を介して前記真正さが未知の物品を観察することにより視認可能な画像に基づいて、前記真正さが未知の物品を前記真正品と前記非真正品との間で判別することを含み、前記検証具は、直線偏光子と、前記直線偏光子の光入射面と向き合った第2複屈折性層とを備え、前記第1リターデイションと前記第2複屈折性層の前記波長λにおける第2リターデイションとの和はλ/4であることを特徴とする方法が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、可視化した潜像の視認性を損なうことなく、複屈折性層を薄くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0021】
図1は、本発明の第1態様に係る識別用積層体を概略的に示す平面図である。図2は、図1に示す積層体のII−II線に沿った断面図である。
【0022】
この識別用積層体10は、図2に示すように、基材16と反射層13bとコレステリック液晶層19と配向膜17と複屈折性層12とを含んでいる。反射層13bとコレステリック液晶層19と配向膜17と複屈折性層12とは、基材16上に順次積層されている。
【0023】
基材16は、例えば、樹脂フィルムである。樹脂フィルムの材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、トリアセチルセルロース、及びポリエチレンナフタレートを使用することができる。樹脂フィルムの厚さは、例えば、12μm乃至200μmの範囲内とする。基材16は、省略することができる。
【0024】
反射層13bは、例えば、金属層、合金層、又は高屈折率層である。金属層の材料としては、例えば、アルミニウム、錫、銀、クロム、ニッケル、及び金を使用することができる。合金層の材料としては、例えば、ニッケル−クロム−鉄合金、青銅、及びアルミ青銅を使用することができる。高屈折率層の材料としては、例えば、二酸化チタン、硫化亜鉛、及び三酸化二鉄などの無機誘電体を使用することができる。反射層13bとして、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層してなる誘電体多層膜を使用してもよい。
【0025】
基材16を使用した場合には、反射層13bは、基材16上に形成することができる。この反射層13bは、例えば、蒸着、スパッタリング、又はイオンプレーティングにより形成することができる。この反射層13bの厚さは、例えば、約10nm乃至約100nmの範囲内とする。なお、反射層13bは、例えば、パスター加工、水洗シーライト加工、又はレーザ加工を利用することによりパターニングされた層として形成することができる。すなわち、反射層13bは、基材16の前面全体を被覆していてもよく、或いは、基材16の前面の一部のみを被覆していてもよい。
【0026】
基材16を省略した場合、後で転写箔について説明するように、反射層13bは、複屈折性層12などの上に形成してもよい。この場合、反射層13bは、上記と同様の方法により形成することができる。或いは、基材16を省略した場合、反射層13bとして、金属箔及びセラミック板のようにそれ自体を単独で取り扱えるものを使用してもよい。
【0027】
反射層13bがハーフミラーや高屈折率層や誘電体多層膜のように光透過性を有している場合、反射層13bの背面側に光吸収層を設けてもよい。これにより、可視化した潜像の視認性を高めることができる。光吸収層を設ける場合、光吸収層は、反射層13bの背面全体と向き合っていてもよく、或いは、反射層13bの背面の一部のみと向き合っていてもよい。光吸収層は、例えば、印刷又はコーティング法により形成することができる。
【0028】
コレステリック液晶層19は、螺旋構造を形成している液晶分子又はメソゲン基を含んでいる。この螺旋構造の螺旋軸は、コレステリック液晶層19の主面に対してほぼ垂直である。また、この螺旋構造の螺旋ピッチは、可視光線の何れかの光成分の波長と等しい。例えば、この螺旋ピッチは、後述する波長λとほぼ等しくする。
【0029】
コレステリック液晶層19は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。後者の場合、層間で、螺旋ピッチ及び/又は螺旋の回転方向を異ならしめる。
【0030】
コレステリック液晶層19は、反射層13bの前面の一部と向き合っている。また、コレステリック液晶層19は、面内でほぼ一様な光学特性を有していている。
【0031】
コレステリック液晶層19は、面内で光学特性の分布を有していてもよい。例えば、コレステリック液晶層19は、面内方向に隣り合い且つ螺旋ピッチ及び/又は螺旋の回転方向が異なる複数の部分を含んでいてもよい。或いは、コレステリック液晶層19は、面内方向に隣り合い且つ層構造が異なる複数の部分を含んでいていてもよい。
【0032】
コレステリック液晶層19は、反射層13bの前面の全体と向き合っていてもよい。この場合、コレステリック液晶層19は、面内方向に隣り合い且つ螺旋ピッチ及び/又は螺旋の回転方向が異なる複数の部分を含んでいてもよい。或いは、コレステリック液晶層19は、面内方向に隣り合い且つ層構造が異なる複数の部分を含んでいていてもよい。
【0033】
コレステリック液晶層19は、例えば、コレステリック相を呈している液晶材料を固体化することにより得られる。この液晶材料としては、例えば、コレステリック液晶化合物を使用することができる。或いは、この液晶材料として、ネマチック液晶化合物とカイラル剤とを含有し且つコレステリック相を呈する液晶組成物を使用してもよい。
【0034】
コレステリック液晶層19は、例えば、ガラス転移温度が積層体10の使用温度域と比較して十分に高い液晶材料からなる層を形成し、必要に応じ、この層に熱又は熱及び圧力を加えることにより得ることができる。例えば、この液晶材料からなる層は、そのような液晶材料を含んだインキを塗布することにより形成することができる。インキの塗布には、例えば、スクリーン印刷又はグラビア印刷を利用することができる。
【0035】
コレステリック液晶層19は、他の方法で形成してもよい。例えば、まず、コレステリック相を呈しており且つ架橋性の液晶材料を含有した膜を形成する。この膜は、例えば、スクリーン印刷又はグラビア印刷を利用して形成することができる。次いで、液晶材料の架橋を生じさせる。これにより、コレステリック液晶層19を得ることができる。
【0036】
配向膜17は、複屈折性層12に液晶材料を使用した場合、そのメソゲン基の配向を制御するのに利用する。コレステリック液晶層19を複屈折性層12上に形成する場合、配向膜17は、複屈折性層12を間に挟んでコレステリック液晶層19と向き合っていてもよい。或いは、配向膜17は、省略してもよい。
【0037】
配向膜17は、面内方向に隣り合う第1配向部17aと第2配向部17bとを含んでいる。第1配向部17aと第2配向部17bとには、複屈折性層12を形成する前に、例えば光配向法又はラビング法を利用した配向処理を施してある。第1配向部17aと第2配向部17bとでは、液晶材料のメソゲン基を配向させる方向(以下、配向方向という)が異なっている。
【0038】
光配向法では、膜に偏光などの異方性を有する光を照射して、膜内の分子の再配列又は化学反応を誘起する。例えば、アゾベンゼン誘導体の光異性化、桂皮酸エステル、クマリン、カルコン、及びベンゾフェノンなどの誘導体の光二量化又は架橋、並びにポリイミドなどの光分解を生じさせる。これにより、その膜に異方性を付与する。
【0039】
ラビング法では、ポリイミド層及びポリビニルアルコール層などのポリマー層を形成し、その表面をラビング布で擦る。液晶材料のメソゲン基は、ラビング布で擦った方向,すなわち、ラビング方向,に配向する。
【0040】
光配向法を利用する場合、配向膜17は、例えば以下の方法により形成することができる。まず、上記の材料からなる膜を形成する。この膜は、例えば、グラビアコーティング法又はマイクログラビアコーティング法を利用して形成することができる。次いで、その膜の一部を、直線偏光で露光する。その後、先の膜の他の一部を、偏光面(電場ベクトルの振動面)が異なる直線偏光で露光する。これにより、配向方向が互いに異なる第1配向部17aと第2配向部17bとを含んだ配向膜17が得られる。
【0041】
光配向法を利用する場合、配向膜17は、他の方法で形成することもできる。まず、上記の材料からなる膜を形成し、その膜の一部を斜め方向から自然光で露光する。次いで、光照射方向を膜面法線の周りで回転させ、その膜の他の一部を斜め方向から自然光で露光する。これにより、配向方向が互いに異なる第1配向部17aと第2配向部17bとを含んだ配向膜17が得られる。
【0042】
ラビング法を利用する場合、配向膜17は、例えば以下の方法により形成することができる。まず、ポリマー膜を形成する。ポリマー膜は、例えば、グラビアコーティング法又はマイクログラビアコーティング法を利用して形成することができる。次いで、ポリマー膜の全面を、ラビング布で一方向に擦る。次いで、ポリマー膜上にマスクを設置し、これをラビング布で別の方向に擦る。その後、ポリマー膜からマスクを取り除くことにより、配向方向が互いに異なる第1配向部17aと第2配向部17bとを含んだ配向膜17が得られる。
【0043】
複屈折性層12は、面内方向に隣り合う第1複屈折性部12a及び第2複屈折性部12bを含んでいる。第1複屈折性部12aは、コレステリック液晶層19の前面の一部及び反射層13bの前面の一部と向き合っている。第2複屈折性部12bは、コレステリック液晶層19の前面の他の一部及び反射層13bの前面の他の一部と向き合っている。
【0044】
第1複屈折性部12aは、面内でほぼ一様な光学特性を有している。同様に、第2複屈折性部12bも、面内でほぼ一様な光学特性を有している。典型的には、第1複屈折性部12aと第2複屈折性部12bとは、同一の光学特性を有している。
【0045】
第1複屈折性部12aと第2複屈折性部12bとは、遅相軸の方向が異なっている。第1複屈折性部12aの遅相軸と第2複屈折性部12bの遅相軸とがなす角度は、例えば45°以上であり、通常は80°以上である。典型的には、第1複屈折性部12aと第2複屈折性部12bとは、それらの遅相軸が直交するように配置する。
【0046】
第1複屈折性部12a及び第2複屈折性部12bの各々は、波長がλである光についてのリターデイションがλ/4未満である。波長λは、可視光域内の一波長であって、例えば、緑色光の波長,すなわち、500nm乃至600nmの範囲内の波長,である。典型的には、第1複屈折性部12a及び第2複屈折性部12bの各々において、波長λが550nmの光についてのリターデイションは、3λ/32乃至5λ/32の範囲内の値に設定する。例えば、第1複屈折性部12a及び第2複屈折性部12bの各々において、波長λが550nmの光についてのリターデイションをλ/8に設定する。
【0047】
複屈折性層12は、コレステリック液晶層19の前面及び/又は反射層13bの前面と直接に接触していてもよい。或いは、複屈折性層12とコレステリック液晶層19及び/又は反射層13bとの間には、光学的に等方性の透明層が介在していてもよい。
【0048】
第1複屈折性部12a及び第2複屈折性部12bの材料としては、例えば、液晶材料を使用することができる。この液晶材料としては、例えば、積層体10の使用温度域で固体であり且つネマチック相又はスメクチック相を呈する液晶材料,典型的にはサーモトロピック液晶材料又は高分子液晶材料,を使用することができる。この場合、複屈折性層12は、例えば、以下の方法により形成することができる。
【0049】
まず、配向膜17上に、サーモトロピック液晶層を形成する。サーモトロピック液晶層は、例えば、グラビアコーティング法又はマイクログラビアコーティング法を利用して形成することができる。次いで、このサーモトロピック液晶層を、ネマチック−等方相転移温度(NI点)以下の温度に加熱する。これにより、メソゲン基の配向変化を生じ易くする。第1配向部17a及び第2配向部17bの上部で、それらの配向方向に沿ってメソゲン基が十分に配向した後、サーモトロピック液晶層を冷却する。これにより、遅相軸の方向が異なる第1複屈折性部12aと第2複屈折性部12bとを含んだ複屈折性層12が得られる。
【0050】
或いは、配向膜17上に、反応性官能基を有する液晶モノマーを含んだ塗膜を形成する。この塗膜は、例えば、グラビアコーティング法又はマイクログラビアコーティング法を利用して形成することができる。次いで、この塗膜に、電子線又は紫外線などのエネルギー線を照射する。或いは、この塗膜を加熱する。これにより、塗膜を硬化させる。以上のようにして、各々が高分子液晶材料からなると共に遅相軸の方向が異なる第1複屈折性部12aと第2複屈折性部12bとを含んだ複屈折性層12が得られる。
【0051】
配向膜17が複屈折性を有している場合、配向膜17に関して説明した方法により形成した膜を複屈折性層12として使用すると共に、配向膜17を省略してもよい。或いは、配向膜17に関して説明した方法により形成した膜と複屈折性層12に関して説明した方法により形成した膜との積層体を複屈折性層12として使用すると共に、配向膜17を省略してもよい。
【0052】
第1複屈折性部12a及び第2複屈折性部12bの各々として、複屈折性の延伸フィルムを使用してもよい。この延伸フィルムとしては、例えば、一軸又は二軸延伸したポリオレフィンフィルム及びポリエステルフィルムを使用することができる。
【0053】
図3は、図1及び図2に示す識別用積層体の変形例を概略的に示す平面図である。図4は、図3に示す積層体のIV−IV線に沿った断面図である。この識別用積層体10は、以下の構造を採用したこと以外は図1及び図2を参照しながら説明した識別用積層体10と同様の構造を有している。
【0054】
図3及び図4に示す積層体10は、基材16と反射層13bとの間に介在した回折構造形成層18をさらに含んでいる。回折構造形成層18の反射層13b側の主面は、凸パターン又は凹パターンを含んでいる。反射層13bの前面は、回折構造形成層18の凸パターン又は凹パターンに対応した凸パターン又は凹パターンを含んでいる。この凸パターン又は凹パターンは、回折構造としてホログラム又は回折格子を形成している。この回折構造は、積層体の前面に回折画像を形成する。図3には、一例として、ホログラフィにより形成した回折画像HGを描いている。
【0055】
ホログラムは、例えば、以下の方法により形成することができる。まず、光学的な撮影方法を利用して、微細な凸パターン又は凹パターンからなるレリーフ型のマスター版を作製する。次いで、電気メッキ法を利用して、マスター版から凹パターン又は凸パターンを複製したニッケル製のプレス版を作製する。その後、回折構造形成層18に、プレス版を加熱しながら押し付ける。これにより、回折構造形成層18に、凸パターン又は凹パターンを転写する。さらに、回折構造形成層18上に、反射層13bを形成する。以上のようにして、ホログラムを形成することができる。
【0056】
ホログラムは、他の方法で形成することも可能である。すなわち、まず、平坦な回折構造形成層18上に、反射層13bを形成する。次に、反射層13bに、プレス版を加熱しながら押し付ける。これにより、反射層13b及び回折構造形成層18に、凸パターン又は凹パターンを転写する。以上のようにして、ホログラムを形成することができる。
なお、このタイプのホログラムは、レリーフ型ホログラムと呼ぶ。
【0057】
回折格子は、光学的な撮影方法を利用しないこと以外はホログラムに関して説明したのと同様の方法により形成することができる。回折格子を形成する場合、各々が回折格子を含んだ複数の画素を配置することにより、グレーティングイメージ又はドットマトリクス(ピクセルグラム等)と呼ばれる画像を表示させてもよい。
【0058】
回折構造形成層18は、省略することができる。例えば、基材16の表面に上述した凸パターン又は凹パターンを形成可能な場合には、回折構造形成層18は不要である。
【0059】
この積層体10は、上記の回折構造を有している。そのため、図3及び図4を参照しながら説明した積層体10は、図1及び図2を参照しながら説明した積層体10と比較して偽造等がより難しい。
【0060】
以下、図1乃至図4を参照しながら説明した積層体10の前面のうち、第1複屈折性部12a及び第2複屈折性部12bに対応した領域を、それぞれ、領域A1及びA2と呼ぶ。また、この積層体10の前面のうち、コレステリック液晶層19に対応した領域とそれ以外の領域とを、それぞれ、領域B1及びB2と呼ぶ。そして、領域A1と領域B1との重複部、領域A1と領域B2との重複部、領域A2と領域B1との重複部、及び領域A2と領域B2との重複部を、それぞれ、領域A1B1、A1B2、A2B1、及びA2B2と呼ぶ。
【0061】
領域A1B1及びA1B2の各々は、互いからの判別が困難な潜像を形成している。すなわち、偏光子を使用することなしに積層体10の前面を直接に観察した場合、領域A1B1と領域A1B2との相違を見出すことは難しい。後述する検証具などの偏光子を介して積層体10の前面を観察すると、領域A1B1と領域A1B2との間に明るさの相違を生じる。これにより、潜像が可視化する。
【0062】
また、領域A1B2及びA2B2の各々も、互いからの判別が困難な潜像を形成している。すなわち、偏光子を使用することなしに積層体10の前面を直接に観察した場合、領域A1B2と領域A2B2との相違を見出すことは難しい。後述する検証具などの偏光子を介して積層体10の前面を観察すると、領域A1B2と領域A2B2との間に明るさの相違を生じる。これにより、潜像が可視化する。
【0063】
なお、領域B1は、コレステリック液晶層19に対応した領域である。したがって、その選択反射に起因して、領域B1の色は、積層体10の主面の法線と視線とがなす角度に応じて変化する可能性がある。すなわち、領域B1では、カラーシフトを生じ得る。他方、領域B2では、選択反射に起因したカラーシフトは生じ得ない。
【0064】
図5は、検証具を介して図3及び図4に示す積層体を観察した場合に見える画像の一例を概略的に示す平面図である。図6は、検証具を介して図3及び図4に示す積層体を観察した場合に見える画像の他の例を概略的に示す平面図である。なお、図6に示す状態は、図5に示す状態から検証具200を法線の周りで90°回転させた状態に相当している。
【0065】
図5及び図6では、一例として、以下の条件を想定している。第1複屈折性部12a及び第2複屈折性部12bの各々は、λ/8波長板である。すなわち、第1複屈折性部12a及び第2複屈折性部12bの各々は、偏光面がその遅相軸に対して斜めであり且つ波長がλの直線偏光を入射させた場合に、偏光面がその進相軸に平行な第1直線偏光と、偏光面が遅相軸に平行であり且つ第1直線偏光に対して位相がλ/8だけ遅れた第2直線偏光とを放出する。また、この積層体10では、第1複屈折性部12aの遅相軸と第2複屈折性部12bの遅相軸とがなす角度を90°としている。さらに、コレステリック液晶層19は、その主面に対して垂直に入射する右円偏光及び左円偏光のうち、波長がλの左円偏光について最大の反射率を示す。そして、検証具200として、左楕円偏光子を使用している。
【0066】
図5に示す例では、領域A1B2及びA2B1は明部として見え、領域A2B2は暗部として見え、領域A1B1は領域A1B2及びA2B1と比較してより暗く且つ領域A2B2と比較してより明るく見えている。他方、図6に示す例では、領域A1B1及びA2B2は明部として見え、領域A1B2は暗部として見え、領域A2B1は領域A1B1及びA2B2と比較してより暗く且つ領域A1B2と比較してより明るく見える。このような明るさの相違を生じた結果、観察者は、これら領域が形成している潜像を可視像として知覚することができる。
次に、上述した明るさの相違を生じる理由を説明する。
図7乃至図10は、図3及び図4に示す積層体が保持している潜像を可視化する方法の一例を概略的に示す図である。図7には、領域A1B1が光を反射する様子を描いている。図8には、領域A1B2が光を反射する様子を描いている。図9には、領域A2B1が光を反射する様子を描いている。図10には、領域A2B2が光を反射する様子を描いている。
【0067】
図7乃至図10に示す積層体10は、図5及び図6を参照しながら説明した積層体10と同様の構造を有している。すなわち、第1複屈折性部12a及び第2複屈折性部12bの各々は、λ/8波長板である。換言すれば、第1複屈折性部12a及び第2複屈折性部12bの各々は、偏光面がその遅相軸ASに対して斜めであり且つ波長がλの直線偏光を入射させた場合に、偏光面がその進相軸AFに平行な第1直線偏光と、偏光面が遅相軸ASに平行であり且つ第1直線偏光に対して位相がλ/8だけ遅れた第2直線偏光とを放出する。また、この積層体10では、第1複屈折性部12aの遅相軸ASと第2複屈折性部12bの遅相軸ASとがなす角度を90°としている。さらに、コレステリック液晶層19は、その主面に対して垂直に入射する右円偏光及び左円偏光のうち、波長がλの左円偏光について最大の反射率を示す。ここでは、簡略化のため、波長がλの左円偏光についてコレステリック液晶層19が示す反射率を100%とする。
【0068】
図7乃至図10に示す方法では、光源300からの光を検証具200に透過させ、この透過光を積層体10の前面に照射する。そして、積層体10からの反射光を検証具200に透過させ、観察者400は、この透過光を観察する。
【0069】
ここで、検証具200について説明する。
検証具200は、直線偏光子201と複屈折性層202とを含んでいる。複屈折性層202は、直線偏光子201の光入射面の1つと向き合っている。
【0070】
直線偏光子201は、例えば、吸収型偏光層である。吸収型偏光層としては、例えば、延伸したポリビニルアルコール層に沃素を含浸させてなる偏光層を使用することができる。直線偏光子201は、偏光層でなくてもよい。例えば、直線偏光子201として、偏光プリズムを使用してもよい。
【0071】
複屈折性層202は、先の波長λにおけるリターデイションがλ/4未満である。複屈折性層202の波長λにおけるリターデイションと第1複屈折性部12aの波長λにおけるリターデイションとの和はほぼλ/4であり、複屈折性層202の波長λにおけるリターデイションと第2複屈折性部12bの波長λにおけるリターデイションとの和はほぼλ/4である。典型的には、複屈折性層202の波長λが550nmの光についてのリターデイションは、3λ/32乃至5λ/32の範囲内の値に設定する。例えば、複屈折性層202の波長λが550nmの光についてのリターデイションをλ/8に設定する。複屈折性層202としては、例えば、第1複屈折性部12a及び第2複屈折性部12bについて例示したものを使用することができる。
【0072】
直線偏光子201と複屈折性層202とは、複屈折性層202の遅相軸AS’及び進相軸AF’が、直線偏光子201を透過した直線偏光の偏光面に対して斜めになるように配置する。複屈折性層202の遅相軸AS’と直線偏光子201が透過した直線偏光の偏光面とがなす角度は、例えば40°乃至50°の範囲内とし、典型的には45°とする。
【0073】
図7乃至図10の方法では、一例として、検証具200に以下の構成を採用している。すなわち、直線偏光子201として吸収型偏光層を使用し、複屈折性層202としてλ/8波長板を使用している。そして、直線偏光子201の透過軸AT’と複屈折性層202の遅相軸AS’とがなす角度を45°としている。
【0074】
また、図7乃至図10の方法では、積層体10及び検証具200は、直線偏光子201が光源300及び観察者400と向き合い且つ複屈折性層202が積層体10と向き合うように配置している。ここでは、一例として、複屈折性層202の遅相軸AS’と第1複屈折性部12aの遅相軸ASとを直交させ、複屈折性層202の遅相軸AS’と第2複屈折性部12bの遅相軸ASとを平行としている。加えて、この方法では、積層体10と光源300と観察者400とを、積層体10が光源300からの光を鏡面反射した場合に観察者400が反射光を観察できるように配置している。
【0075】
検証具200を使用することなしに積層体10の前面を観察した場合、領域A1B1、A1B2、A2B1、及びA2B2の何れも明部として見え、それらの間に明るさの相違は殆ど生じない。但し、上記の通り、領域A1B1及びA2B1はカラーシフトを生じるのに対し、領域A1B2及びA2B2はカラーシフトを生じない。したがって、この場合、領域A1B1と領域A2B1との相違並びに領域A1B2と領域A2B2との相違を見出すことは極めて難しい。加えて、この場合、領域B1と領域B2との相違を見出すことは可能であるが、それらの見え方に大きな違いがある訳ではない。
【0076】
検証具200を使用して積層体10の前面を観察する場合、図7乃至図10に示すように、光源300が放出する光,例えば自然光LN,を、検証具00の直線偏光子201に入射させる。なお、ここでは、簡略化のため、光源300は、波長がλの光のみを放出するとする。直線偏光子201は、自然光LNのうち、偏光面が透過軸AT’に対して平行な第1直線偏光LL1を透過させ、偏光面が透過軸AT’に対して垂直な第2直線偏光LL2を吸収する。
【0077】
直線偏光子201から出射した第1直線偏光LL1は、複屈折性層202に入射する。複屈折性層202は、第1直線偏光LL1を第1右楕円偏光LRE1へと変換する。なお、この第1右楕円偏光LRE1を反射層13b側から見た場合、電場ベクトルの終端の軌跡が形成する楕円の長軸は、複屈折性層202の遅相軸AS’に対して反時計回りに45°傾いている。
【0078】
複屈折性層202から出射した第1右楕円偏光LRE1は、領域A1B1に対応した部分では、図7に示すように第1複屈折性部12aに入射する。第1複屈折性部12aは、第1右楕円偏光LRE1を第1直線偏光LL1へと変換する。
【0079】
第1複屈折性部12aから出射した第1直線偏光LL1は、コレステリック液晶層19に入射する。コレステリック液晶層19は、第1直線偏光LL1のうち、右円偏光LRCを透過させ、左円偏光LLCを選択反射する。ここでは、まず、コレステリック液晶層19を透過した光成分が観察者400へと到達する過程を説明し、その後、コレステリック液晶層19によって反射された光成分が観察者400へと到達する過程を説明する。
【0080】
コレステリック液晶層19を透過した右円偏光LRCは、反射層13bによって反射される。これにより、右円偏光LRCは、左円偏光LLCへと変換される。この左円偏光LLCは、コレステリック液晶層19によって選択反射され、その後、反射層13bによって反射される。その結果、左円偏光LLCは、右円偏光LRCへと変換される。この右円偏光LRCは、コレステリック液晶層19を透過する。
【0081】
コレステリック液晶層19から出射した右円偏光LRCは、第1複屈折性部12aに入射する。第1複屈折性部12aは、右円偏光LRCを第2右楕円偏光LRE2へと変換する。なお、この第2右楕円偏光LRE2を観察者400側から見た場合、電場ベクトルの終端の軌跡が形成する楕円の長軸は、第1複屈折性部12aの遅相軸ASに対して時計回りに45°傾いている。
【0082】
第1複屈折性部12aから出射した第2右楕円偏光LRE2は、複屈折性層202に入射する。複屈折性層202は、第2右楕円偏光LRE2を右円偏光LRCへと変換する。
【0083】
複屈折性層202から出射した右円偏光LRCは、直線偏光子201に入射する。直線偏光子201は、右円偏光LRCのうち、第1直線偏光LL1を透過させ、その偏光面と垂直な偏光面を有する第2直線偏光LL2を吸収する。
【0084】
コレステリック液晶層19を透過することなくコレステリック液晶層19によって選択反射された左円偏光LLCは、第1複屈折性部12aに入射する。第1複屈折性部12aは、左円偏光LLCを第1左楕円偏光LLE1へと変換する。なお、この第1左楕円偏光LLE1を観察者400側から見た場合、電場ベクトルの終端の軌跡が形成する楕円の長軸は、第1複屈折性部12aの遅相軸ASに対して反時計回りに45°傾いている。
【0085】
第1複屈折性部12aから出射した第1左楕円偏光LLE1は、複屈折性層202に入射する。複屈折性層202は、第1左楕円偏光LLE1を左円偏光LLCへと変換する。
【0086】
複屈折性層202から出射した左円偏光LLCは、直線偏光子201に入射する。直線偏光子201は、左円偏光LLCのうち、第1直線偏光LL1を透過させ、その偏光面と垂直な偏光面を有する第2直線偏光LL2を吸収する。
【0087】
このように、領域A1B1からの反射光は楕円偏光であり、この楕円偏光は複屈折性層202によって円偏光へと変換される。したがって、検証具200は、理想的には、領域A1B1からの反射光のうち半分を吸収し、残りの半分を観察者400に向けて放出する。
【0088】
領域A1B2に対応した部分では、検証具200から出射した第1右楕円偏光LRE1は、図8に示すように第1複屈折性部12aに入射する。第1複屈折性部12aは、第1右楕円偏光LRE1を第1直線偏光LL1へと変換する。
【0089】
第1複屈折性部12aから出射した第1直線偏光LL1は、反射層13bによって反射され、第1複屈折性部12aに再び入射する。第1複屈折性部12aは、第1直線偏光LL1を第1右楕円偏光LRE1へと変換する。
【0090】
第1複屈折性部12aから出射した第1右楕円偏光LRE1は、複屈折性層202に入射する。複屈折性層202は、第1右楕円偏光LRE1を第1直線偏光LL1へと変換する。
【0091】
複屈折性層202から出射した第1直線偏光LL1は、直線偏光子201に入射する。直線偏光子201は、理想的には、第1直線偏光LL1を吸収することなく透過させる。すなわち、検証具200は、理想的には、領域A1B2からの反射光の全てを観察者400に向けて放出する。
【0092】
領域A2B1に対応した部分では、検証具200から出射した第1右楕円偏光LRE1は、図9に示すように第2複屈折性部12bに入射する。第2複屈折性部12bは、第2右楕円偏光LRE2を右円偏光LRCへと変換する。
【0093】
第2複屈折性部12bから出射した右円偏光LRCは、コレステリック液晶層19に入射する。コレステリック液晶層19は、右円偏光LRCを透過させる。
【0094】
コレステリック液晶層19を透過した右円偏光LRCは、反射層13bによって反射される。これにより、右円偏光LRCは、左円偏光LLCへと変換される。この左円偏光LLCは、コレステリック液晶層19によって選択反射され、その後、反射層13bによって反射される。その結果、左円偏光LLCは、右円偏光LRCへと変換される。この右円偏光LRCは、コレステリック液晶層19を透過する。
【0095】
コレステリック液晶層19から出射した右円偏光LRCは、第2複屈折性部12bに入射する。第2複屈折性部12bは、右円偏光LRCを第1右楕円偏光LRE1へと変換する。
【0096】
第2複屈折性部12bから出射した第1右楕円偏光LRE1は、複屈折性層202に入射する。複屈折性層202は、第1右楕円偏光LRE1を第1直線偏光LL1へと変換する。
【0097】
複屈折性層202から出射した第1直線偏光LL1は、直線偏光子201に入射する。直線偏光子201は、理想的には、第1直線偏光LL1を吸収することなく透過させる。すなわち、検証具200は、理想的には、領域A2B1からの反射光の全てを観察者400に向けて放出する。
【0098】
領域A2B2に対応した部分では、検証具200から出射した第1右楕円偏光LRE1は、図10に示すように第2複屈折性部12bに入射する。第2複屈折性部12bは、第1右楕円偏光LRE1を右円偏光LRCへと変換する。
【0099】
第2複屈折性部12bから出射した右円偏光LRCは、反射層13bによって反射される。これにより、右円偏光LRCは、左円偏光LLCへと変換される。
【0100】
反射層13bからの左円偏光LLCは、第2複屈折性部12bに入射する。第2複屈折性部12bは、左円偏光LLCを第2左楕円偏光LLE2へと変換する。なお、この第2左楕円偏光LLE2を観察者400側から見た場合、電場ベクトルの終端の軌跡が形成する楕円の長軸は、第1複屈折性部12aの遅相軸ASに対して反時計回りに45°傾いている。
【0101】
第2複屈折性部12bから出射した第2左楕円偏光LLE2は、複屈折性層202に入射する。複屈折性層202は、第2左楕円偏光LLE2を第2直線偏光LL2へと変換する。
【0102】
複屈折性層202から出射した第2直線偏光LL2は、直線偏光子201に入射する。直線偏光子201は、理想的には、第2直線偏光LL2を透過させることなく吸収する。すなわち、検証具200は、理想的には、領域A2B2からの反射光の全てを吸収する。
【0103】
このように、検証具200は、領域A1B1からの反射光の一部のみを透過させ、領域A1B2及びA2B1からの反射光のほぼ全てを透過させ、領域A2B2からの反射光のほぼ全てを吸収する。したがって、観察者400は、領域A1B2及びA2B1を明部として知覚し、領域A2B2を暗部として知覚し、領域A1B1を明部と比較してより暗く且つ暗部と比較してより明るい中間部として知覚する。すなわち、検証具200を使用することにより、図5に示すように潜像を可視化することができる。
【0104】
なお、検証具200を光線の回りで90°回転させると、領域A1B1と領域A2B1との間で中間部と明部との位置が入れ替わり、領域A1B2と領域A2B2との間で明部と暗部との位置が入れ替わる。したがって、この場合、観察者400は、図6に示す可視像を知覚する。
【0105】
以上説明したように、この技術では、積層体10の複屈折性層12を薄くすることに伴って不足するリターデイションを、検証具200の複屈折性層202で補っている。これにより、積層体10の複屈折性層12を薄くすることに伴うコントラスト比の低下を防止している。すなわち、この技術によると、可視化した潜像の視認性を損なうことなく、積層体10の複屈折性層12を薄くすることができる。
【0106】
上述した積層体10は、真正さが確認されるべき物品に、直接又は間接的に支持させる。そして、真正さが未知の物品を真正品と偽造品などの非真正品との間で判別する場合に、以下に説明するように積層体10を利用することができる。
【0107】
上記の通り、積層体10は、反射層13bを含んでいる。したがって、この積層体10を支持させた物品は、光反射性の領域を有している。それゆえ、真正さが未知の物品が光反射性の領域を有していない場合には、この物品は非真正品であると判断することができる。
【0108】
また、この積層体10は、検証具200を介して観察することにより可視化する潜像を有している。すなわち、この積層体10を支持させた物品の少なくとも一部の領域は、検証具200を介して観察することにより可視化する潜像を有している。それゆえ、真正さが未知の物品がそのような潜像を有していない場合には、この物品は非真正品であると判断することができる。
【0109】
また、この潜像は、反射層13b上に形成されている。それゆえ、真正さが未知の物品が光反射性の領域と潜像を有している領域とを含んでいたとしても、それら領域が同一でなければ、この物品は非真正品であると判断することができる。
【0110】
真正さが未知の物品が先の潜像を保持している場合、可視化した潜像の形状及び/又は大きさを、真正品のそれと比較してもよい。可視化した潜像の形状及び/又は大きさが真正品のそれと異なっていれば、その物品は非真正品であると判断することができる。
【0111】
真正さが未知の物品が先の潜像を保持している場合、可視化した潜像のコントラスト比を利用して、真正さが未知の物品を真正品と非真正品との間で判別してもよい。
【0112】
上述した技術では、積層体10が含む複屈折性層12のリターデイションと検証具200が含む複屈折性層202のリターデイションとの双方をλ/8とした場合に、可視化した潜像のコントラスト比を最大とすることができる。例えば、このような設計を採用した場合、非真正品が先の潜像を保持していても、その複屈折性層のリターデイションがλ/8に設定されていない限り、検証具200によって可視化された潜像のコントラスト比は、真正品のそれには及ばない。
【0113】
したがって、例えば、可視化した潜像のコントラスト比を、真正品のそれと比較してもよい。可視化した潜像のコントラスト比が真正品のそれと異なっていれば、その物品は非真正品であると判断することができる。
【0114】
或いは、複屈折性層202のリターデイションが異なる複数の検証具200を用いるか又はリターデイションが異なる複数の複屈折性層202を含んだ検証具200を用いて潜像を可視化してもよい。例えば、複屈折性層202に、リターデイションがλ/8の部分とλ/4の部分とが面内方向に隣り合った構造を採用する。そして、複屈折性層202を、直線偏光子201の光入射面の一部のみと対向させる。すなわち、検証具200に、直線偏光子、楕円偏光子、及び円偏光子としての機能を与える。直線偏光子又は円偏光子を用いて可視化した潜像のコントラスト比が、楕円偏光子を用いて可視化した画像のコントラスト比と比較してより大きい場合、その物品は非真正品であると判断することができる。
【0115】
物品の判定には、上述した方法の1つのみを利用してもよく、複数を組み合わせて利用してもよい。また、この技術は、他の判定技術と組み合わせてもよい。例えば、コレステリック液晶層19に起因したカラーシフト及び/又は図3及び図4を参照しながら説明した回折画像HGを用いる判定技術を利用してもよい。物品の判定に利用する方法を増やすと、非真正品を真正品と誤って判断する確率が低くなる。
【0116】
次に、本発明の第2態様について説明する。第2態様は、積層体10に以下の構成を採用すること以外は、第1態様と同様である。
【0117】
図11は、本発明の第2態様に係る識別用積層体を概略的に示す断面図である。この識別用積層体10は、反射層13bとコレステリック液晶層19との間に介在した光吸収層13aをさらに含んでいること以外は、図1及び図2を参照しながら説明した積層体10と同様である。
【0118】
光吸収層13aは、黒色層であってもよく、或いは、可視光の一部のみを吸収し且つ他の一部を反射する層であってもよい。ここでは、一例として、光吸収層13aは黒色層であるとする。
【0119】
光吸収層13aは、例えば、顔料及び/又は染料と樹脂とを含有したインキを反射層13bの前面に塗布することにより得られる。なお、反射層13bのうち光吸収層13aと基材16との間に介在した部分は、省略してもよい。
【0120】
この構造を採用すると、検証具200を使用することなく積層体10を観察した場合、領域B1は、領域B2と比較してより暗く見える。また、この構造を採用すると、選択反射に起因した領域B1のカラーシフトが大きくなる。したがって、カラーシフトを利用した物品の判定が容易になる。さらに、検証具200を介して図11の積層体10を観察した場合、図5乃至図10を参照しながら説明したのとは異なる画像が見える。
【0121】
図12は、検証具を介して図11に示す積層体を観察した場合に見える画像の一例を概略的に示す平面図である。図13は、検証具を介して図11に示す積層体を観察した場合に見える画像の他の例を概略的に示す平面図である。なお、図13に示す状態は、図12に示す状態から検証具200を法線の周りで90°回転させた状態に相当している。
【0122】
図12及び図13では、一例として、以下の条件を想定している。第1複屈折性部12a及び第2複屈折性部12bの各々は、λ/8波長板である。すなわち、第1複屈折性部12a及び第2複屈折性部12bの各々は、偏光面がその遅相軸に対して斜めであり且つ波長がλの直線偏光を入射させた場合に、偏光面がその進相軸に平行な第1直線偏光と、偏光面が遅相軸に平行であり且つ第1直線偏光に対して位相がλ/8だけ遅れた第2直線偏光とを放出する。また、この積層体10では、第1複屈折性部12aの遅相軸と第2複屈折性部12bの遅相軸とがなす角度を90°としている。さらに、コレステリック液晶層19は、その主面に対して垂直に入射する右円偏光及び左円偏光のうち、波長がλの左円偏光について最大の反射率を示す。そして、検証具200として、左楕円偏光子を使用している。
【0123】
図12に示す例では、領域A1B2は明部として見え、領域A2B1及びA2B2は暗部として見え、領域A1B1は領域A1B2と比較してより暗く且つ領域A2B1及びA2B2と比較してより明るく見えている。他方、図13に示す例では、領域A1B1及びA1B2は暗部として見え、領域A2B2は明部として見え、領域A2B1は領域A1B1及びA1B2と比較してより明るく且つ領域A2B2と比較してより暗く見える。このような明るさの相違を生じた結果、観察者は、これら領域が形成している潜像を可視像として知覚することができる。
【0124】
この積層体10は、第1態様で説明した回折構造を含んでいてもよい。この場合、積層体10は、図3及び図4を参照しながら説明した回折構造形成層18をさらに含んでいてもよい。但し、反射層13bに回折構造を設ける場合、光吸収層13aと回折構造とが向き合った位置に図3に示す回折画像HGを形成することはできない。
【0125】
第1及び第2態様に係る積層体10は、様々な形態で使用され得る。以下、図1及び図2に示す積層体の用途を使用するが、図3及び図4に示す積層体10並びに図11に示す積層体10も同様の用途に供することができる。
【0126】
図14は、図1及び図2に示す積層体を含んだ粘着ラベルの一例を概略的に示す断面図である。この粘着ラベル20は、積層体10と、その背面上に設けられた粘着層21とを含んでいる。この粘着ラベル20は、例えば、真正さが確認されるべき物品に貼り付けるか、或いは、そのような物品に取り付けられるべきタグなどの他の物品に貼り付ける。こうすると、上述した方法で、物品の真正を確認することができる。
【0127】
この粘着ラベル20は、脆性であってもよい。そのような粘着ラベル20は、例えば、積層体10に、切欠き及び/又はミシン目を形成することにより得られる。粘着ラベル20が脆性である場合、真正さが確認されるべき物品に貼り付けた粘着ラベルを剥がすと、積層体10は容易に破壊する。したがって、粘着ラベル20の貼り替えが困難となる。
【0128】
図15は、図1及び図2に示す積層体を含んだ記録媒体の一例を概略的に示す断面図である。この記録媒体30は、紙31と、この中に埋め込まれた積層体10とを含んでいる。紙31のうち積層体10の前面を被覆している部分には開口が設けられている。これにより、可視化した潜像の視認性を高めている。なお、潜像の可視化が可能であれば、紙31に先の開口は設けなくてもよい。
【0129】
この記録媒体30は、例えば、キャッシュカード、クレジットカード及びパスポートなどの認証媒体又は商品券及び株券などの有価証券媒体のための用紙として使用することができる。或いは、この記録媒体30は、後述する粘着ラベルの一部として使用することができる。或いは、この記録媒体30は、真正さが確認されるべき物品に取り付けられるべきタグ又はその一部として使用することができる。或いは、この記録媒体30は、真正さが確認されるべき物品を収容する包装体又はその一部として使用することができる。
【0130】
記録媒体30は、例えば、抄紙の際に繊維の層の間に積層体10を挟みこむことにより得られる。このような方法で得られる記録媒体30は、偽造等が難しい。
【0131】
図16は、図15の記録媒体を含んだ粘着ラベルの一例を概略的に示す断面図である。この粘着ラベル40は、記録媒体30と、その背面上に設けられた粘着層41とを含んでいる。この粘着ラベル40は、例えば、真正さが確認されるべき物品に貼り付けるか、或いは、そのような物品に取り付けられるべきタグの基材などの他の物品に貼り付ける。
【0132】
図17は、図1及び図2に示したのと類似の構造を有する積層体を用いた転写箔の一例を概略的に示す断面図である。
【0133】
この転写箔50は、基材52と偽造防止用積層体10と接着層51とを含んでいる。基材52は、積層体10の前面を剥離可能に支持している。接着層51は、積層体10の背面に支持されている。
【0134】
基材52は、例えば、樹脂フィルム、紙、又はそれらを含んだ複合材である。樹脂フィルムの材料としては、例えば、基材16に関して例示した材料を使用することができる。
【0135】
積層体10は、基材52上に積層された配向膜17と複屈折性層12とコレステリック液晶層19と反射層13bとを含んでいる。配向膜17と複屈折性層12とコレステリック液晶層19と反射層13bとは、基材52上に順次形成されている。積層体10が含む各構成要素は、図1及び図2を参照しながら説明したのと同様である。
【0136】
なお、複屈折性層12とコレステリック液晶層19と反射層13bとの積層体を基材10から剥離したときに、配向膜17が基材52上に残留するか又は配向膜17の凝集破壊を生じる場合、配向膜17は積層体10の一部とは考えない。また、配向膜17は、省略することができる。
【0137】
基材52と積層体10との間には、剥離層を介在させてもよい。剥離層の材料としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン樹脂、及び硝化綿を使用することができる。剥離層は、例えば、グラビアコーティング法又はマイクログラビアコーティング法を利用して形成することができる。また、反射層13bの前面は、図3及び図4を参照しながら説明した回折構造を含んでいてもよい。
【0138】
接着層51は、例えば、熱可塑性樹脂からなる。この熱可塑性樹脂としては、例えば、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体を使用することができる。
【0139】
この転写箔50は、例えば、以下のようにして使用する。まず、例えばロール転写機又はホットスタンプを用いて、転写箔50を被転写体に接着する。次いで、積層体10から基材52を剥離する。これにより、積層体10を被転写体に貼り付けることができる。
【0140】
サーモトロピック液晶材料又は高分子液晶材料からなる複屈折性層12の多くは、他の高分子材料からなる同じ厚さの層と比較してより強靭である。そのため、特に、複屈折性層12がサーモトロピック液晶材料又は高分子液晶材料からなり且つ厚いと、作業性が損なわれることがある。例えば、積層体10を基材52から剥がしたときにバリを生じる可能性がある。複屈折性層12が薄ければ、高い作業性を達成することができる。
【0141】
図18は、偽造防止用積層体を含んだラベル付き物品の一例を概略的に示す断面図である。このラベル付き物品100は、物品101と上述した積層体10とを含んでいる。
【0142】
物品101は、真正さが確認されるべき物品である。物品101は、例えば、キャッシュカード、クレジットカード及びパスポートなどの認証媒体又は商品券及び株券などの有価証券媒体である。物品101は、認証媒体及び有価証券媒体以外の物品でもよい。例えば、物品101は、工芸品又は美術品であってもよい。或いは、物品101は、包装体とこれに収容された内容物とを含んだ包装品であってもよい。
【0143】
積層体10は、物品101に支持されている。例えば、積層体10は、物品101に貼り付けられる。この場合、例えば、図14に示す粘着ラベル20又は図16に示す粘着ラベル40を物品101に貼り付けることにより、積層体10を物品101に支持させることができる。或いは、図17に示す転写箔50を用いて、積層体10を物品101に支持させてもよい。
【0144】
積層体10は、他の方法で物品101に支持させてもよい。
例えば、物品101が紙を含んでいる場合、この紙の中に積層体10を埋め込んでもよい。この場合、ラベル付き物品100は、例えば、抄紙の際に繊維の層の間に積層体10を挟みこみ、その後、必要に応じて紙面への印刷等を行うことにより得られる。なお、潜像の可視化を容易にすべく、紙のうち積層体10の前面を被覆している部分には開口を設けてもよい。また、紙に埋め込む積層体10の形状に特に制限はない。例えば、スレッド状の積層体10を紙に埋め込んでもよい。
【0145】
積層体10を含んだタグを物品101に取り付けることにより、積層体10を物品101に支持させてもよい。物品101へのタグの付け替えが一般ユーザにとって困難であれば、積層体10は、物品101の真正を確認するのに十分に役立つ。
【0146】
積層体10、粘着ラベル20、記録媒体30、粘着ラベル40、転写箔50、及び検証具200の各々は、それ自体を単独で流通させてもよく、或いは、先に説明した判別方法を記載した使用説明書を添付して流通させてもよい。或いは、検証具200と、積層体10、粘着ラベル20、記録媒体30、粘着ラベル40、及び転写箔50の少なくとも1つとを含んだセキュリティキットを流通させてもよい。このセキュリティキットには、上記の使用説明書を添付することができる。
【実施例】
【0147】
以下、本発明の実施例について説明する。
グラビアコーティング法により、厚さが16μmのポリエチレンテレフタレート基材上に、大日本インキ工業社製の光配向剤IA−01を0.1μmの厚さに塗布した。次いで、この塗膜の全面を、波長が365nmの直線偏光を用いて、1.0J/cm2の照度で露光した。その後、先の塗膜を、波長が365nmの直線偏光を用いて、2.0J/cm2の照度でパターン露光した。このパターン露光には、フォトマスクを使用した。また、この直線偏光は、その偏光面が全面露光に使用した直線偏光の偏光面に対して垂直となるように照射した。以上のようにして、配向方向が互いに異なる第1及び第2配向部を含んだ配向膜を得た。
【0148】
次いで、マイクログラビアコーティング法により、配向膜上に、大日本インキ製造社製の紫外線硬化型液晶UCL−008を印刷した。65℃で60秒間の加熱後、窒素雰囲気中、この塗膜を0.5J/cm2の照度で紫外線露光して、塗膜を硬化させた。これにより、遅相軸の方向が90°異なる第1及び第2複屈折性部を含んだ複屈折性層を得た。なお、複屈折性層の厚さは0.4μmであり、第1及び第2複屈折性部の各々において常光線屈折率と異常光屈折率との差Δnは0.18であった。すなわち、第1及び第2複屈折性部の各々は、波長λが550nmの一対の直線偏光を透過することにより、それら直線偏光にλ/8の位相差を与えるλ/8波長板である。
【0149】
その後、スクリーン印刷法により、複屈折性層上に、コレステリック液晶顔料を含んだ印刷パターンを形成した。コレステリック液晶顔料としては、( )製の( )を使用した。なお、これにより得られたコレステリック液晶層において、メソゲン基は左回りの螺旋構造を形成しており、その螺旋ピッチは約550nmであった。
【0150】
次に、スクリーン印刷法により、コレステリック液晶層上に、黒色顔料を含有したインキを印刷して、光吸収層を形成した。
【0151】
次いで、複屈折性層及び光吸収層上に、アクリルポリオールとイソシアネートとを含有した塗工液をコーティングして、厚さが1.0μmの回折構造形成層を形成した。この回折構造形成層には、熱エンボスにより回折構造を転写した。
【0152】
次に、蒸着法により、回折構造形成層上に、厚さが50nmのアルミニウム反射層を形成した。さらに、グラビアコーティング法により、反射層上に、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体からなる厚さが2μmの粘着層を形成した。以上のようにして、転写箔を得た。
【0153】
この転写箔と紙とを粘着層が紙と向き合うように配置し、ホットスタンプにより転写箔を紙に接着した。次いで、複屈折性層からポリエチレンテレフタレート基材を剥離した。以上のようにして、複屈折性層と反射層とを含んだ積層体を、基材から紙へと転写した。
【0154】
この積層体を、検証具を使用することなしに観察した。その結果、第1複屈折性部と第2複屈折性部とを判別することはできなかった。
【0155】
次に、この積層体を、検証具を用いて観察した。検証具としては、吸収型の偏光フィルムとλ/8波長板とを、偏光フィルムの透過軸と波長板の遅相軸とが45°の角度をなすように、アクリル系接着剤を介して貼り合せてなるものを使用した。その結果、第1複屈折性部に対応した領域と第2複屈折性部に対応した領域とを、それぞれ、暗部及び明部として見ることができた。すなわち、潜像を可視像化することができた。
【0156】
次いで、検証具を光線の周りで90°回転させた。この状態で検証具を介して積層体を観察したところ、第1複屈折性部に対応した領域と第2複屈折性部に対応した領域とを、それぞれ、明部及び暗部として見ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】本発明の一態様に係る識別用積層体を概略的に示す平面図。
【図2】図1に示す積層体のII−II線に沿った断面図。
【図3】図1及び図2に示す識別用積層体の変形例を概略的に示す平面図。
【図4】図3に示す積層体のIV−IV線に沿った断面図。
【図5】検証具を介して図3及び図4に示す積層体を観察した場合に見える画像の一例を概略的に示す平面図。
【図6】検証具を介して図3及び図4に示す積層体を観察した場合に見える画像の他の例を概略的に示す平面図。
【図7】図3及び図4に示す積層体が保持している潜像を可視化する方法の一例を概略的に示す図。
【図8】図3及び図4に示す積層体が保持している潜像を可視化する方法の一例を概略的に示す図。
【図9】図3及び図4に示す積層体が保持している潜像を可視化する方法の一例を概略的に示す図。
【図10】図3及び図4に示す積層体が保持している潜像を可視化する方法の一例を概略的に示す図。
【図11】本発明の第2態様に係る識別用積層体を概略的に示す断面図。
【図12】検証具を介して図11に示す積層体を観察した場合に見える画像の一例を概略的に示す平面図。
【図13】検証具を介して図11に示す積層体を観察した場合に見える画像の他の例を概略的に示す平面図。
【図14】図1及び図2に示す積層体を含んだ粘着ラベルの一例を概略的に示す断面図。
【図15】図1及び図2に示す積層体を含んだ記録媒体の一例を概略的に示す断面図。
【図16】図15の記録媒体を含んだ粘着ラベルの一例を概略的に示す断面図。
【図17】図1及び図2に示したのと類似の構造を有する積層体を用いた転写箔の一例を概略的に示す断面図。
【図18】偽造防止用積層体を含んだラベル付き物品の一例を概略的に示す断面図。
【符号の説明】
【0158】
10…識別用積層体、12…複屈折性層、12a…第1複屈折性部、12b…第2複屈折性部、13a…光吸収層、13b…反射層、16…基材、17…配向膜、17a…第1配向部、17b…第2配向部、18…回折構造形成層、19…コレステリック液晶層、20…粘着ラベル、21…粘着層、30…記録媒体、31…紙、40…粘着ラベル、41…粘着層、50…転写箔、51…接着層、52…基材、100…ラベル付き物品、101…物品、200…検証具、300…光源、400…観察者、A1…領域、A1B1…領域、A1B2…領域、A2…領域、A2B1…領域、A2B2…領域、AF…進相軸、AF’…進相軸、AS…遅相軸、AS’…遅相軸、AT’…透過軸、LL1…直線偏光、LL2…直線偏光、LLC…左円偏光、LLE1…左楕円偏光、LLE2…左楕円偏光、LN…自然光、LRC…右円偏光、LRE1…右楕円偏光、LRE2…右楕円偏光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射層と、前記反射層の前面の一部と向き合った第1複屈折性部と前記前面の他の部分と向き合い且つ前記第1複屈折性部とは遅相軸の方向が異なる第2複屈折性部とを含んだ複屈折性層と、前記反射層と前記複屈折性層との間に介在したコレステリック液晶層とを具備し、前記第1及び第2複屈折性部の各々は波長λが550nmのときのリターデイションが3λ/32乃至5λ/32の範囲内にあることを特徴とする識別用積層体。
【請求項2】
前記反射層の前記前面をその法線方向から見た場合に、前記第1複屈折性部はその一部のみが前記コレステリック液晶層と重なり合い、前記第2複屈折性部はその一部のみが前記コレステリック液晶層と重なり合っていることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記第1及び第2複屈折性部の各々は波長λが550nmのときのリターデイションがλ/8であることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
第1複屈折性部の遅相軸は第2複屈折性部の遅相軸に対して垂直であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の積層体。
【請求項5】
前記反射層は回折構造を含んでいることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の積層体。
【請求項6】
前記反射層と前記コレステリック液晶層との間に介在した光吸収層をさらに具備したことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の積層体。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の積層体と、前記積層体の背面に支持された粘着層とを具備したことを特徴とする粘着ラベル。
【請求項8】
紙と、前記紙の一方の主面に支持された粘着層と、背面が前記粘着層と向き合うように前記紙の中に埋め込まれた請求項1乃至6の何れか1項に記載の積層体とを具備したことを特徴とする粘着ラベル。
【請求項9】
基材と、前記基材に前面が剥離可能に支持された請求項1乃至6の何れか1項に記載の積層体と、前記積層体の背面に支持された粘着層とを具備したことを特徴とする転写箔。
【請求項10】
紙と、前記紙の中に埋め込まれた請求項1乃至6の何れか1項に記載の積層体とを具備したことを特徴とする記録媒体。
【請求項11】
真正さが確認されるべき物品と、前記真正さが確認されるべき物品に支持された請求項1乃至6の何れか1項に記載の積層体とを具備したことを特徴とするラベル付き物品。
【請求項12】
反射層と、前記反射層の前面の一部と向き合った第1複屈折性部と前記前面の他の部分と向き合い且つ前記第1複屈折性部とは遅相軸の方向が異なる第2複屈折性部とを含んだ第1複屈折性層と、前記反射層と前記複屈折性層との間に介在したコレステリック液晶層とを備えた識別用積層体と、
直線偏光子と、前記直線偏光子の光入射面と向き合った第2複屈折性層とを備えた検証具とを含み、
前記第1複屈折性部の波長λにおけるリターデイションと前記第2複屈折性層の前記波長λにおけるリターデイションとの和はλ/4であり、前記第2複屈折性部の前記波長λにおけるリターデイションと前記第2複屈折性層の前記波長λにおけるリターデイションとの和はλ/4であることを特徴とするセキュリティキット。
【請求項13】
前記反射層の前記前面をその法線方向から見た場合に、前記第1複屈折性部はその一部のみが前記コレステリック液晶層と重なり合い、前記第2複屈折性部はその一部のみが前記コレステリック液晶層と重なり合っていることを特徴とする請求項12に記載のセキュリティキット。
【請求項14】
前記第1複屈折性部と前記第2複屈折性部と前記第2複屈折性層との各々は前記波長λにおけるリターデイションがλ/8であることを特徴とする請求項12又は13に記載のキット。
【請求項15】
前記波長λは550nmであることを特徴とする請求項12乃至14の何れか1項に記載のキット。
【請求項16】
真正さが未知の物品を真正品と非真正品との間で判別する方法であって、
前記真正品は、真正さが確認されるべき物品と、前記真正さが確認されるべき物品に支持された識別用積層体とを具備したラベル付き物品であり、
前記識別用積層体は、反射層と、前記反射層の前面の一部と向き合った第1複屈折性部と前記前面の他の部分と向き合い且つ前記第1複屈折性部とは遅相軸の方向が異なる第2複屈折性部とを含んだ第1複屈折性層と、前記反射層と前記第1複屈折性層との間に介在したコレステリック液晶層とを備え、前記第1及び第2部分の波長λにおける第1リターデイションはλ/4未満であり、
検証具を介して前記真正さが未知の物品を観察することにより視認可能な画像に基づいて、前記真正さが未知の物品を前記真正品と前記非真正品との間で判別することを含み、
前記検証具は、直線偏光子と、前記直線偏光子の光入射面と向き合った第2複屈折性層とを備え、前記第1リターデイションと前記第2複屈折性層の前記波長λにおける第2リターデイションとの和はλ/4であることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2008−137232(P2008−137232A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−324759(P2006−324759)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】