説明

積層体及びその製造方法

【課題】水系かつ一液で液安定性に優れかつ長期保存が可能な接着剤を用いて、皮革を含む基材間の接着性に優れる積層体を提供すること。
【解決手段】皮革基材(A)、接着層(B)及び基材(C)をこの順で積層してなる積層体であって、接着層(B)が、ポリオレフィン共重合体樹脂を含有する水性分散体より得られる塗膜である積層体、並びに、皮革基材(A)の表面の少なくとも一部に、ポリオレフィン共重合体樹脂を含有する水性分散体を塗布して接着層(B)を形成させる第一工程と、接着層(B)にマイクロ波を照射する第二工程と、接着層(B)表面に基材(C)を圧着させる第三工程とを含む積層体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮革基材を用いた積層体と、その積層体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然皮革や合成皮革などの皮革は、鞄、手袋、衣料、椅子などの多くの製品に用いられている。このような製品としては、皮革同士や皮革と他の基材とが接着剤で積層されたものが多く用いられている。
【0003】
皮革を積層する際に用いる接着剤として、特許文献1にポリウレタン樹脂からなる接着剤が提案されている。しかし、この接着剤は、樹脂を溶剤に溶解して得られる、所謂溶剤系の接着剤であり、使用者の健康や周囲の環境にとって好ましいとはいい難いものであった。この点を解決するため、特許文献2では、健康、環境面を配慮した水系のポリウレタン樹脂接着剤が提案されている。しかし、この接着剤は、二液混合型の接着剤であるため、混合後の液安定性、保存性(ポットライフ)などに難点があった。また、接着剤を大量に使用しなければ皮革間を強く接着できず、さらに、接着後のエージング処理も、40〜80℃で数日間にわたって行う必要があるなど、種々の問題があった。
【0004】
また、皮革は外観やさわり心地が一般に良好であるため、この質感を保持するため、保護クリームなどを使って手入れすることが多い。このとき、保護クリームに含まれる溶剤などの薬剤成分によって、皮革を含む基材間の接着強度が低下するなどの問題もある。
【0005】
さらに、両文献記載の発明とも、天然皮革に対しての接着性については検討されていない。
【0006】
また、特許文献3では、ポリオレフィン樹脂の水性分散体からなる接着剤が提案されている。しかし、基材として皮革を用いたときの接着性については検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−81275号公報
【特許文献2】特開2010−229267号公報
【特許文献3】特開2004−51884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するものであり、水系かつ一液で長期保存が可能な接着剤を用いて、皮革を含む基材間の接着性に優れる積層体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、接着剤としてポリオレフィン共重合樹脂を含有する水性分散体を用いれば、皮革基材を使用してもこれらを接着性よく積層できることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0011】
(1)皮革基材(A)、接着層(B)及び基材(C)をこの順で積層してなる積層体であって、接着層(B)が、ポリオレフィン共重合体樹脂を含有する水性分散体より得られる塗膜であることを特徴とする積層体。
(2)接着層(B)がさらに粘着付与成分を含有し、ポリオレフィン共重合体樹脂と粘着付与成分との質量比(ポリオレフィン共重合体樹脂/粘着付与成分)が99/1〜20/80であることを特徴とする上記(1)記載の積層体。
(3)接着層(B)に含まれる不揮発性成分の質量が、1〜500g/mであることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の積層体。
(4)積層体中の、皮革基材(A)と基材(C)とを剥離するのに必要な剥離強度が、10N/15mm以上であることを特徴とする上記(1)〜(3)いずれかに記載の積層体。
(5)皮革基材(A)の表面の少なくとも一部に、ポリオレフィン共重合体樹脂を含有する水性分散体を塗布して接着層(B)を形成させる第一工程と、接着層(B)にマイクロ波を照射する第二工程と、接着層(B)表面に基材(C)を圧着させる第三工程とを含むことを特徴とする上記(1)記載の積層体の製造方法。
(6)皮革基材(A)の表面の少なくとも一部に、ポリオレフィン共重合体樹脂と粘着付与成分とを含有しその質量比(ポリオレフィン共重合体樹脂/粘着付与成分)が99/1〜20/80である水性分散体を塗布して接着層(B)を形成させる第一工程と、接着層(B)にマイクロ波を照射する第二工程と、接着層(B)表面に基材(C)を圧着させる第三工程とを含むことを特徴とする上記(2)記載の積層体の製造方法。
(7)第二工程において、マイクロ波の照射により接着層(B)を50℃以上に加熱することを特徴とする上記(5)又は(6)記載の積層体の製造方法。
(8)第三工程において、基材(C)を圧着させる際の接着層(B)の温度が50℃以上であり、この温度範囲が第二工程でのマイクロ波照射の残熱によりもたらされるものであることを特徴とする上記(7)記載の積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の積層体は、過酷な条件下で使用しても基材間で優れた接着性を発揮し、その接着性は、溶剤などの薬剤成分によって低減され難いものである。本発明において接着剤として使用される水性分散体は、環境への負荷が少なく、一液で長期の保存安定性に優れている。しかも、少量使用しただけで、エージングしなくとも皮革を含む基材間を強固に接着できる。特に、この水性分散体中に粘着付与成分を含有させると、より強固に基材間を接着することができる。
【0013】
そして、本発明の製造方法によれば、上記の積層体を良好な作業環境のもとに製造することができる。また、製造時、接着層にマイクロ波を照射することで、基材同士をより強く接着させることができる。特に、マイクロ波の照射により接着層の温度を一定以上にしておいた上で基材を圧着させると、接着性の向上が顕著となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明の積層体は、皮革基材(A)、接着層(B)及び基材(C)をこの順で積層したものである。
【0016】
本発明における皮革基材(A)としては、天然皮革、人工皮革及び合成皮革などが使用でき、天然皮革が接着性の観点から好ましい。
【0017】
天然皮革としては、例えば、クロム、タンニン、明ばんなどを用いてなめし加工された動物の原皮に、加脂及び表面仕上げされたものなどがあげられる。動物の原皮としては、特に限定されず、牛、豚、羊、山羊、及びカンガルーなどの原皮があげられる。
【0018】
人工皮革としては、例えば、極細短繊維を交絡させた不織布に発泡ウレタン樹脂溶液を含浸させ、乾燥後、表面をバフして起毛したものや、同不織布表面にウレタン表層を積層したものなどがあげられる。極細短繊維の種類としては、ナイロン66やポリエステルなどがあげられる。
【0019】
合成皮革としては、例えば、織編物の表面に発泡もしくは未発泡のウレタン樹脂や塩化ビニル樹脂などを積層したものなどがあげられる。織編物としては、ナイロン66、ポリエステル、ビニロン又は綿などから構成されるものがあげられる。
【0020】
皮革基材(A)の厚みとしては、特に限定されないが、通常0.5〜20mmが好ましい。また、皮革基材(A)の形状、形態としても特に限定されないが、接着性を向上させるために表面処理したものを用いてもよい。表面処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、コロナ放電処理、フレームプラズマ処理、大気圧プラズマ処理、低圧プラズマ処理、オゾン処理、電子線照射処理、紫外線照射処理、熱処理、バフ掛け、サンドペーパー掛け、プライマー処理、アンカーコート処理、酸処理、アルカリ処理、薬品処理、溶剤処理、脱脂処理などが採用できる。
【0021】
次に、本発明に用いる接着層(B)について説明する。
【0022】
接着層(B)は、ポリオレフィン共重合体樹脂を含有する水性分散体より得られる塗膜である。
【0023】
ポリオレフィン共重合体樹脂は、オレフィン成分を主成分とする。オレフィン成分としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、2−ブテン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセンなどの炭素数2〜6のアルケンがあげられ、これらの混合物を用いてもよい。中でも、接着性を良好とするためにエチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテンなどの炭素数2〜4のアルケンが好ましく、エチレン、プロピレンがさらに好ましく、エチレンが最も好ましい。このようなオレフィン成分の含有量は、共重合体樹脂100質量%に対し10〜99.9質量%が好ましく、30〜99.8質量%がより好ましく、50〜99.7質量%が特に好ましく、70〜99.5質量%がさらに好ましく、80〜99.0質量%が最も好ましい。含有量が10質量%未満になると、積層体の耐薬剤性が低下する傾向にあり、一方、99.9質量%を超えると、接着性が低減したり、水性分散体が得られ難くなる傾向にあり、いずれも好ましくない。
【0024】
ポリオレフィン共重合体樹脂には、接着性を向上させたり、水性分散体への加工を容易にしたりする観点から、オレフィン成分以外の成分が共重合されており、特に酸成分が共重合されている酸変性ポリオレフィン共重合体樹脂であることが好ましい。酸成分としては、不飽和カルボン酸成分を用いることが、接着性を向上させやすく、また水性分散体に加工しやすいため、好ましい。不飽和カルボン酸成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミドなどがあげられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。
【0025】
不飽和カルボン酸成分は、ポリオレフィン共重合体樹脂中に共重合されていれば、その形態は限定されないが、通常、共重合の形態として、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)などが採用される。
【0026】
酸変性ポリオレフィン共重合体樹脂における不飽和カルボン酸成分の含有量は、0.1〜20質量%が好ましく、0.2〜15質量%がより好ましく、0.3〜10質量%が特に好ましく、0.5〜8質量%がさらに好ましく、1〜5質量%が最も好ましい。含有量が0.1質量未満になると、基材間の接着性が低下したり、水性分散体が得られ難くなる傾向にあり、一方、20質量%を超えると、積層体の耐薬剤性が低下する傾向があり、いずれも好ましくない。
【0027】
酸変性ポリオレフィン共重合体樹脂には、不飽和カルボン酸成分以外の成分が共重合されていることが好ましい。不飽和カルボン酸成分以外の成分としては、好ましくは接着性の観点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸エステル類、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチルなどのマレイン酸ジエステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどのビニルエステル類並びにビニルエステル類を塩基性化合物などでケン化して得られるビニルアルコール、(メタ)アクリル酸アミド類などやこれらの混和物があげられる。中でも、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸エステル類、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどのビニルエステル類成分が好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸エステル類がより好ましい。なお、「(メタ)アクリル酸〜」とは、「アクリル酸〜またはメタクリル酸〜」を意味する。
【0028】
これらの成分は、酸変性ポリオレフィン共重合体樹脂中に共重合されていればよい。共重合の形態は限定されないが、通常、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)などが採用される。
【0029】
不飽和カルボン酸成分以外の成分の含有量としては、ポリオレフィン共重合体樹脂100質量%に対して0.1〜90質量%であることが好ましく、0.5〜50質量%であることがより好ましく、1〜30質量%であることが特に好ましく、3〜20質量%であることがさらに好ましい。含有量が0.1質量%未満の場合は、共重合の効果が少なく、90質量%を超える場合は、基材間の接着性が低下してしまう傾向にある。
【0030】
ここで、本発明におけるポリオレフィン共重合体樹脂の具体例をあげると、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−プロピレン−(メタ)アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−ブテン−(メタ)アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、プロピレン−ブテン−(メタ)アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−(メタ)アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−プロピレン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−ブテン−無水マレイン酸共重合体、プロピレン−ブテン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−アクリル共重合体、酸変性エチレン酢酸ビニル共重合体などがあげられる。こられは単独で又は複数組み合わせて使用することができる。共重合体の形態は、前述のようにランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等のいずれでもよいが、入手が容易という点でランダム共重合体、グラフト共重合体が好ましい。
【0031】
ポリオレフィン共重合体樹脂は、融点が高くなるにつれ熱間での接着性に優れる傾向にある。したがって、ポリオレフィン共重合体樹脂の融点は、50℃以上であることが好ましく、60〜250℃がより好ましく、80〜200℃がさらに好ましい。
【0032】
また、共重合体樹脂の分子量としては、質量平均分子量で5000〜500000であることが好ましく、10000〜200000がより好ましく、15000〜100000がさらに好ましく、20000〜80000が特に好ましい。質量平均分子量が5000未満であると、接着性や耐薬剤性が低下したりする傾向にあり、一方、500000を超えると、水性分散化が困難となる傾向にあり、いずれも好ましくない。
一般に共重合体樹脂は、溶剤に対して難溶であるため、分子量測定が困難となる場合がある。そのような場合においては、溶融樹脂の流動性を示すメルトフローレート値が分子量の目安とされる。
【0033】
共重合体樹脂のメルトフローレート値(JIS K7210:1999記載(190℃、2160g荷重)に準ずる)としては、0.1〜2000g/10分が好ましく、0.5〜1000g/10分がよりに好ましく、1〜500g/10分がさらに好ましく、2〜200g/10分が特に好ましい。メルトフローレート値が、2000g/10分を超えると、基材間の接着性が低下する傾向にあり、一方、0.1g/10分未満になると、水性分散化が困難となる傾向にあり、いずれも好ましくない。
【0034】
本発明における接着層(B)を形成するには、水を主成分とする水性媒体中に上記ポリオレフィン共重合体樹脂を分散した水性分散体を利用する。樹脂を水性分散化する、すなわち水性分散体に加工する方法としては、特に限定されないが、自己乳化法や強制乳化法など公知の分散方法が採用できる。本発明では、水性分散体として、酸変性ポリオレフィン共重合体樹脂を水性媒体中で塩基性化合物により中和することで得られるアニオン性の水性分散体であることが、基材間の接着性向上の観点から好ましい。また、樹脂を水性分散化する際、界面活性剤、水溶性高分子及び高酸価ワックスなど、分散化促進のため任意で添加される不揮発性水性分散化助剤は、接着性及び耐水性の観点から、実質的に使用しないことが好ましい。
【0035】
水性分散体中に含有されるポリオレフィン共重合体樹脂の数平均粒子径は、接着層(B)の形成を良好にするために、1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下がより好ましく、0.2μm以下がさらに好ましく、0.1μm以下が特に好ましい。
【0036】
水性分散体におけるポリオレフィン共重合体樹脂の固形分濃度としては、特に限定されないが、基材に対する分散体の塗布を容易にし、かつ接着層の厚み調整を容易にする点などから、水性分散体全質量に対して、1〜60質量%が好ましく、2〜50質量%がより好ましく、5〜30質量%がさらに好ましい。
【0037】
本発明に用いる水性分散体には、基材間の接着性をより向上させる目的で、粘着付与成分が含有されていることが好ましい。粘着付与成分としては、各種公知のものを使用できる。例えば、ロジン類、ロジン誘導体、テルペン系樹脂、石油系樹脂、クマロン樹脂、インデン樹脂などがあげられ、これらを単独で又は複数組み合わせて使用することができる。ここで、ロジン類としては、重合ロジン、不均化ロジン、水素添加ロジン、マレイン化ロジン、フマル化ロジン、及びこれらのグリセリンエステル、ペンタエリスリトールエステル、メチルエステル、エチルエステル、ブチルエステル、エチレングリコールエステル、ジエチレングリコールエステル、トリエチレングリコールエステルなどがあげられる。テルペン系樹脂としては、低重合テルペン系、α−ピネン重合体、β−ピネン重合体、テルペンフェノール系、芳香族変性テルペン系、水素添加テルペン系などあげられる。石油系樹脂としては、炭素数5個の石油留分を重合した石油樹脂、炭素数9個の石油留分を重合した石油樹脂、及びこれらを水素添加した石油樹脂、マレイン酸変性、フタル酸変性した石油樹脂などがあげられる。本発明では、これらのうち、テルペン系樹脂が接着性の点で好ましく、中でも芳香族変性テルペン系樹脂、テルペンフェノール系樹脂がより好ましい。
【0038】
上記の粘着付与成分は、JIS K5903記載の方法により測定される環球法軟化点が80〜200℃であることが接着性の点で好ましく、90〜180℃であることがより好ましい。
【0039】
水性分散体中に上記粘着付与成分を含有させる方法としては、特に限定されないが、例えば、粘着付与成分を含有する水性分散体もしくは溶剤溶液を製造した後、これらのいずれかと、ポリオレフィン共重合体樹脂を含有する水性分散体とを混合攪拌する方法、又はポリオレフィン共重合体樹脂と粘着付与成分とを一括して水性分散化する方法などが採用できる。このとき、粘着付与成分を含有する溶剤溶液を作製する際に使用する溶剤としては、親水性有機溶剤を用いることが均一性に優れる水性分散体を得る点で好ましい。一方、粘着付与成分を水性分散化する方法としては、自己乳化法や強制乳化法など公知の分散方法が採用できる。
【0040】
水性分散体において、ポリオレフィン共重合体樹脂と粘着付与成分との固形分質量比としては、ポリオレフィン共重合体樹脂/粘着付与成分=99/1〜20/80の範囲であることが好ましく、97/3〜55/45の範囲がより好ましく、95/5〜60/40が特に好ましく、95/5〜65/35がさらに好ましく、93/7〜70/30が最も好ましい。両者の質量比が上記99/1〜20/80の範囲を外れると、基材間の接着性や耐水性の向上があまり期待できない傾向にあり、好ましくない。
【0041】
本発明における水性分散体には、本発明の効果を損なわない範囲で各種の添加剤が含有されていてもよい。添加剤としては、例えば、本発明におけるポリオレフィン共重合体樹脂以外の樹脂、各種架橋剤、各種無機微粒子などがあげられる。
【0042】
上述のポリオレフィン共重合体樹脂以外の樹脂(以下、「他の樹脂」と称する場合がある)は、特に限定されない。例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−アクリル共重合体、エチレン−アミノアクリルアミド共重合体、エチレン−アミノアクリレート共重合体、ポリ塩化ビリニデン、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸樹脂、スチレン−アミノアルキルマレイミド共重合体、スチレン−ブタジエン樹脂、スチレン系エラストマー、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、変性ナイロン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素含有樹脂、ポリエチレンイミン、UV硬化型樹脂などがあげられる。これらは、必要に応じて、単独で又は複数組み合わせて用いられる。このうち、基材間の接着性をより向上させる観点から、ウレタン樹脂が好ましく用いられ、これを水性分散体に含有させるには、水性分散体と、適量のウレタン樹脂水性分散体とを混合する方法が好適である。
【0043】
また、本発明における水性分散体に対し、架橋剤を添加することも、基材間の接着性を向上させたり、熱間での接着性を向上させたりする点で好ましい。架橋剤としては、自己架橋性を有する架橋剤、カルボキシル基などの官能基と反応可能な官能基を分子内に複数有する架橋剤、多価の配位座を有する金属錯体などを用いることができる。具体的には、ヒドラジド化合物、イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤、有機過酸化物などがあげられ、これらの架橋剤は、単独で又は複数組み合わせて用いられる。
【0044】
中でも、ポリオレフィン共重合体樹脂として酸変性ポリオレフィン共重合体樹脂を用いた場合には、酸変性ポリオレフィン共重合体樹脂が持つカルボキシル基などの官能基と反応可能な官能基を分子内に複数有する架橋剤が好ましく使用できる。このような架橋剤としては、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物、ヒドラジド化合物、アミン化合物、メラミン化合物、及びポリオールなどがあげられ、これらは、単独で又は複数組み合わせて用いられる。中でも、架橋効果に優れるオキサゾリン化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物が好ましく、オキサゾリン化合物、ヒドラジド化合物、アミン化合物、メラミン化合物がさらに好ましい。
【0045】
架橋剤の添加量としては、接着層(B)において架橋構造を十分に形成させる観点から、ポリオレフィン共重合体樹脂100質量部に対して架橋剤の固形分0.01〜300質量部の範囲が好ましく、0.1〜100質量部の範囲がより好ましく、0.2〜50質量部が特に好ましく、0.5〜30質量部がさらに好ましい。
【0046】
また、添加剤としての無機微粒子としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタンなどの金属微粒子や金属酸化物、炭酸カルシウム、シリカ、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、ゼオライト、カオリナイト、ハロイサイト、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、雲母、タルク、擬ベーマイト、アルミナ、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化ランタン、酸化イットリウムなどの無機粒子が使用できる。これらは、単独で又は複数組み合わせて用いられる。
【0047】
無機微粒子の平均粒子径としては、水性分散体の分散安定性の面から0.0005〜100μmが好ましく、0.005〜10μmがより好ましい。
【0048】
さらに、水性分散体に対して、必要に応じて、レベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤、触媒、光触媒、UV硬化剤、濡れ剤、浸透剤、柔軟剤、増粘剤、分散剤、ゴム成分、撥水剤、帯電防止剤などの各種薬剤、顔料、染料、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、ガラス繊維などを添加してもよい。無論、本発明の効果を損わない限り、上記以外の有機もしくは無機の化合物を水性分散体に適宜添加してよい。
【0049】
上記した添加剤は、単独で又は複数組み合わせて用いられる。
【0050】
本発明における接着層(B)は、上記水性分散体を用いることで形成される塗膜である。具体的には、皮革基材(A)及び基材(C)の少なくとも一方の表面に、当該水性分散体を塗布することにより形成される塗膜であることが好ましい。
【0051】
接着層(B)に含まれる不揮発性成分の質量は、接着性の向上並びに製造コスト削減の観点から、積層体の単位面積当たりで1〜500g/mの範囲が好ましく、2〜200g/mがより好ましく、3〜100g/mが特に好ましく、4〜80g/mがさら好ましく、5〜40g/mが最も好ましい。不揮発性成分の質量が1g/m未満になると、基材間の接着性が低下することがあり、一方、500g/mを超えると、接着性の向上が期待できないばかりか、コスト的にも不利であり、いずれも好ましくない。ここで、接着層(B)に含まれる不揮発性成分とは、接着層を得る際に用いた水性分散体の不揮発性成分のことであり、樹脂成分や不揮発性の架橋剤成分などがこれに相当する。
【0052】
次に、本発明に用いる基材(C)について説明する。
【0053】
基材(C)の形状、形態としては、特に限定されず、皮革基材(A)と同一のものを採用してよい他、成形体、シート、フィルム、織編物、不職布、発泡体、板、膜、箔、スポンジなど各種のものが採用できる。
【0054】
また、基材(C)を構成する素材としても、特に限定されず、皮革基材(A)と同じく各種皮革素材を採用してもよいし、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレートポリエチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレン−酢酸ビニル共重合体などのポリエチレン共重合体、ポリウレタン、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、塩化ビニル、ABS樹脂、アクリル樹脂などの樹脂又はこれらの混合物や、紙、合成紙、金属、ガラス、木材、コンクリートの他、オレフィン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマー、天然ゴム、SBR、BR、IR、NBAなどのゴム及びこれらの加硫物、ラテックス成形体、さらにこれらの素材の複合体を採用してもよい。
【0055】
また、基材(C)の表面は、接着性向上の観点から、表面処理されていてもよい。表面処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、コロナ放電処理、フレームプラズマ処理、大気圧プラズマ処理、低圧プラズマ処理、オゾン処理、電子線照射処理、紫外線照射処理、熱処理、バフ掛け、プライマー処理、アンカーコート処理、酸処理、アルカリ処理、薬品処理、溶剤処理、脱脂処理などが採用できる。
【0056】
さらに、基材(C)は、本発明に用いる水性分散体を塗布したものでもかまわないし、それにマイクロ波を照射して得られたものでも構わない。
【0057】
本発明の積層体は、皮革基材(A)、接着層(B)及び基材(C)をこの順に積層したものであるが、必要に応じて、皮革基材(A)及び基材(C)の接着層と接していない面や各層間に別の層を設けてもよい。
【0058】
本発明の積層体は、基材間の接着性に優れる。具体的には、後述の方法により測定される剥離強度が10N/15mm以上であることが好ましく、20N/15mm以上がより好ましく、40N/15mm以上が特に好ましく、70N/15mm以上がさらに好ましく、皮革基材(A)及び基材(C)の一方又は両者が材料破壊することが最も好ましい。剥離強度が10N/15mm未満になると、用途によっては接着強度が不十分となる場合があり、好ましくない。
【0059】
次に、本発明の積層体を製造する好ましい方法について説明する。
【0060】
本発明では、皮革基材(A)の表面の少なくとも一部に、ポリオレフィン共重合体樹脂を含有する水性分散体を塗布して接着層(B)を形成させる第一工程と、接着層(B)にマイクロ波を照射する第二工程と、接着層(B)表面に基材(C)を圧着させる第三工程とを含む製造方法を採用することが好ましい。
【0061】
第一工程は、皮革基材(A)の表面の少なくとも一部に既述の水性分散体を塗布して接着層(B)を形成させる工程である。このとき、水性分散体には、既述のように粘着付与成分が含有されているのが好ましく、このときの固形分質量比としては、ポリオレフィン共重合体樹脂/粘着付与成分=99/1〜20/80の範囲が好ましい。
【0062】
水性分散体を塗布する方法としては、公知の方法が採用でき、特に限定されない。例えば、キャスティングヘッドからの吐出、ロールコート、ナイフコート、エアナイフコート、グラビアロールコート、ドクターロールコート、ドクターナイフコート、カーテンフローコート、スプレーコート、シャワーコート、ワイヤーバー、ロッドコート、浸漬コート、筆塗り、刷毛塗りなどが採用でき、塗布の回数は任意でよい。
【0063】
なお、基材間の接着性をより向上させるため、基材(C)表面の少なくとも一部にも、同じく上記水性分散体を塗布し、接着層(B)を設けておくのが好ましい。
【0064】
接着層(B)は、皮革基材(A)の表面に上記水性分散体を塗布した後、水性分散体に含まれる水性媒体の一部又は全てを揮発させておくのがよい。水性媒体を揮発させるには、接着層(B)を乾燥すればよく、例えば、自然乾燥、熱風乾燥、赤外線照射など公知の方法で乾燥すればよい。
【0065】
第二工程は、第一工程の後に実施する工程であり、第一工程で形成された接着層(B)にマイクロ波を照射する工程である。
【0066】
接着層(B)にマイクロ波を照射する方法は、特に限定されず、公知のマイクロ波照射装置を用いて照射すればよい。マイクロ波照射装置としては、マイクロ波の周波数や出力が可変で調整でき、かつターンテーブルなどでマイクロ波ができるだけ均一に照射できるものが好ましい。
【0067】
照射するマイクロ波の好ましい周波数としては、0.9〜40GHzであり、一般的な加熱に用いられる2.4〜2.5GHzの範囲の周波数でかまわない。照射時間は、特に限定されないが、10〜600秒の範囲が好ましい。
【0068】
本発明では、接着層(B)にマイクロ波を照射することで、基材間の接着性を大幅に向上させることができる。
【0069】
マイクロ波を照射すると、接着層(B)は加熱される。このときの接着層(B)の温度としては、50℃以上が好ましく、70〜200℃がより好ましい。なお、第二工程におけるマイクロ波の照射は、接着層(B)に含まれる水性媒体を揮発させる効果も備えている。第二工程を経て形成された接着層(B)は、乾燥塗膜であることが接着性を良好に保つ観点から好ましい。
【0070】
第三工程は、第二工程の後に実施する工程であり、第二工程で形成された接着層(B)の表面に基材(C)を圧着させる工程である。つまり、接着層(B)を介して皮革基材(A)と基材(C)とを圧着し、基材(A)と基材(C)とを接着させるというものである。
【0071】
接着層(B)に基材(C)を圧着させる方法としては、特に限定されない。圧着の圧力は、皮革基材(A)、基材(C)の形状、形態及び使用素材などを考慮した上で、可能な限り高い圧力が好ましく、0.01〜20MPaの範囲で選べばよい。また、圧着の時間は、特に限定されないが、0.5〜300秒の範囲で選べばよい。
【0072】
圧着は、加熱しながら行うことでより優れた接着性を得ることができる。さらに、圧着開始時の接着層(B)の温度は、50℃以上であることが好ましく、70〜200℃がより好ましく、90〜150℃がより好ましい。この場合、特に、圧着開始時の好ましい温度範囲たる50℃以上という温度範囲が、第二工程でのマイクロ波照射の残熱によりもたらされるものであると、基材間の接着性をより高めることができる。
【0073】
本発明の積層体は、基本的に上記のように、皮革基材(A)の表面に、水性分散体を用いて接着層(B)形成し、後に該接着層(B)を介して皮革基材(A)と基材(C)とを圧着させることにより、製造することができ、さらに、必要に応じて、任意の工程を任意の段階で付加してもよい。
【0074】
本発明の積層体の用途としては、例えば、鞄、手袋、ベルト、衣服、財布、おもちゃ、椅子、ソファー、クッション、アルバム、手帳などがあげられる。
【実施例】
【0075】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0076】
各種特性について以下のように評価した。
【0077】
1.水性分散体及び水性ウレタン接着剤の保存性(ポットライフ)評価
各例における水性分散体及び水性ウレタン接着剤を透明なガラス容器に入れ、室温で100日間静置したときの外観を目視観察した。
【0078】
2.基材間の接着性評価
得られた積層体から15mm幅でサンプルを切り出し、引張試験機(インテスコ株式会社製「インテスコ精密万能材料試験機2020型」)を用いて、室温下、引張速度50mm/分の条件で、皮革基材(A)と基材(C)とを剥離する際の剥離強度を測定した。測定はn=5で行い、測定値は5回の平均値とした。
【0079】
3.積層体の耐薬剤性評価
得られた積層体から15mm幅でサンプルを切り出し、これを室温下で24時間エタノールに浸漬した後、取り出して室温下で5分間静置した。そして、上記「2.基材間の接着性評価」と同一条件にて、サンプルにおける剥離強度を測定した。
【0080】
<ポリオレフィン共重合体樹脂の製造>
英国特許2091745号明細書、米国特許4617366号明細書、米国特許644044号明細書に記載された方法に基づいて、酸変性ポリオレフィン共重合体樹脂であるエチレン−アクリル酸エチル−無水マレイン酸共重合体(以下、EAMAと称す)を製造した。取得したEAMAにおいて、共重合成分の質量比は、エチレン/アクリル酸エステル/無水マレイン酸=84/13/3であり、JIS K7210:1999記載(190℃、2160g荷重)の方法により測定したメルトフローレート値(MFR)は40g/10分であり、DSC(示差走査熱量測定)装置で測定した融点は、90℃であった。
【0081】
(ポリオレフィン共重合体樹脂水性分散体の製造1)
撹拌機及びヒーターを備えた1リットル容ガラス容器に、上記EAMAを100g、イソプロパノールを100g、トリエチルアミンを4g、蒸留水を296g仕込んだ。撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこで、この状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして、系内温度を120℃に保ってさらに120分間撹拌し分散化させた。その後、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ約80℃まで冷却したところで、系内を徐々に減圧して、イソプロパノールと水とを除去した。イソプロパノールを99g以上除去した後、系内温度が35℃になったところで、180メッシュのステンレス製フィルターで加圧濾過して、乳白色の均一なEAMAの水性分散体を得た。
【0082】
得られた水性分散体の固形分濃度は30質量%であり、水性分散体の数平均粒子径は0.085μmであった(日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150を用い、樹脂の屈折率を1.5として求めた)。
【0083】
(ポリオレフィン共重合体樹脂水性分散体の製造2)
撹拌機及びヒーターを備えた1リットル容ガラス容器に、エチレン−メタアクリル酸ランダム共重合体〔三井・デュポンポリケミカル社製ニュクレルN1525、エチレン/メタクリル酸成分の質量比が85/15、JIS K7210:1999記載(190℃、2160g荷重)の方法で測定したメルトフローレート値(MFR)10g/10分、融点93℃、以下、N1525と称す〕を75g、イソプロパノールを75g、トリエチルアミンを14g、蒸留水を336g仕込んだ。撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこで、この状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして、系内温度を140℃に保ってさらに120分間撹拌し分散化させた。その後、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ約80℃まで冷却したところで、系内を徐々に減圧して、イソプロパノールと水とを除去した。イソプロパノールを74g以上除去した後、系内温度が35℃になったところで、180メッシュのステンレス製フィルターで加圧濾過して、白色の均一なN1525の水性分散体を得た。
【0084】
得られた水性分散体の固形分濃度は25質量%であり、水性分散体の数平均粒子径は0.11μmであった(日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150を用い、樹脂の屈折率を1.5として求めた)。
【0085】
(ポリウレタン樹脂水性分散体の製造)
攪拌機、温度計、窒素シール管、冷却器のついた反応器に、数平均分子量1970のポリテトラメチレングリコールを345g、イソホロンジイソシアネートを77.8g、ジブチルチンジラウレートを0.03g仕込み、80℃で2時間反応させた。次いでこの反応液を50℃まで冷却した後、ジメチルプロパノールアミンを11.7g、トリエチルアミンを8.85g、アセトンを177g質量部添加し、3時間反応させた。さらに、この反応液にアセトンを175g加えて30℃まで冷却し、イソホロンジイソシアネート13.4g、モノエタノ−ルアミン1.07g、イソプロピルアルコール87.9g、水1039gからなる混合液を加えて高速攪拌し、この液からアセトン、水及びイソプロピルアルコールを留去して、ポリエーテル型のポリウレタン樹脂水性分散体(固形分濃度50質量%、以下、ここでの樹脂をPUと称す)を得た。
【0086】
(二液混合型水性ポリウレタン接着剤の製造)
反応容器に、水酸基価55のポリテトラメチレングリコールを175g、水酸基価74.0のポリエチレングリコールを18g、N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)アニリンを23g、1,4-シクロヘキサンジメタノールを5g、トリメチロールプロパンを3g、ジメチロールブタン酸を16g、メチルエチルケトンを76g仕込み、乾燥窒素で置換しながら90℃まで昇温して、透明状態にした。次いで、撹拌下、イソホロンジイソシアネート80gを30分間かけて滴下し、その後、徐々に120℃まで昇温した。120℃でさらに40分反応させ、その後20分かけてメチルエチルケトン29gを滴下した。そして、85℃でさらに3時間撹拌して数平均分子量約32000のポリウレタンを得た。次に、冷却しながらイソプロピルアルコール145gを徐々に加えて希釈した。その後、80℃で減圧脱溶剤し、75℃で1時間かけてアンモニア水5gを含む蒸留水435gを加え、さらに65℃で1時間熟成し、固形分約38質量%の水性ウレタン樹脂(一液、酸価20KOHmg/g)を得た。
【0087】
この水性ウレタン樹脂100質量部に対して、硬化剤(二液)として水性イソシアネート(日本ポリウレタン社製、アクアネート100)を15質量部加えて混合攪拌し、固形分30質量%の二液混合型水性ポリウレタン接着剤を得た。
【0088】
(実施例1)
まず、皮革基材(A)として、大きさが120mm×90mm×1mmであり、片面をバフ及びサウンドベーパー掛けしてスエード面に仕上げた天然皮革を用意し、基材(C)として、大きさが120mm×90mm×6mmであり、片面をアセトンで脱脂した後バフ掛けしたエチレン−酢酸ビニル共重合体シート(酢酸ビニル成分30質量%含有、以下、EVAと称す)を用意した。
【0089】
次に、天然皮革のスエード面及びEVAのバフ掛け面のそれぞれに、刷毛を用いてEAMAの水性分散体を均一に塗布することで、接着層(B)を備えた積層物を得、その後、得られた両積層物を熱風乾燥機へ導入し85℃で2分間乾燥した。乾燥後の接着層(B)の不揮発性成分の質量は、両者とも100g/mであった。以上が第一工程である。
【0090】
続いて、ターンテーブルを備えたマイクロ波照射装置に各積層物を導入し、周波数2.45GHzでマイクロ波を200秒間照射した。マイクロ波照射直後の接着層(B)の温度を非接触型の温度計で測定したところ、両者とも83℃であった(表1参照)。以上が第二工程である。
【0091】
そして、温度測定の後、直ちに、プレス機を用いて両積層物の接着層(B)同士を0.5MPaの圧力で20秒間圧着し、積層体を得た。なお、圧着開始時の接着層(B)の温度は80℃であった(表1参照)。以上が第三工程である。
【0092】
その後、得られた積層体を室温下で24時間静置した。
【0093】
(実施例2)
まず、粘着付与成分を含有する水性分散体として、ヤスハラケミカル社製、ナノレットR−1050(芳香族変性テルペン系樹脂水性分散体、固形分濃度50質量%、平均粒子径0.3μm、軟化点105℃、以下、ここでの樹脂をR−1050と称す)を用意した。
【0094】
次に、EAMAの水性分散体と、R−1050の水性分散体とを混合攪拌して、固形分質量比(EAMM/R−1050)75/25の水性分散体を調製した。
【0095】
そして、EAMAの水性分散体に代えて、EAMM/R−1050の水性分散体を用いる以外は、実施例1と同様に行って積層体を得た。
【0096】
(実施例3、4)
水性分散体として、EAMMとR−1050との固形分質量比が表1に示すものとなるよう調製された水性分散体を用いる以外は、実施例2と同様に行って積層体を得た。
【0097】
(実施例5)
第一工程において、各基材に対する水性分散体の塗布量を変更することで、乾燥後の接着層(B)の不揮発性成分の質量を両者とも20g/mとした以外は、実施例2と同様に行って積層体を得た
【0098】
(実施例6)
まず、EAMAの水性分散体、R−1050の水性分散体、PUの水性分散体を混合攪拌して、固形分質量比(EAMM/R−1050/PU)75/25/10の水性分散体を調製した。
【0099】
次に、EAMAの水性分散体に代えて、EAMM/R−1050/PUの水性分散体を用いる以外は、実施例1と同様に行って積層体を得た。
【0100】
(実施例7)
粘着付与成分を含有する水性分散体として、R−1050の水性分散体に代えて、荒川化学工業社製、スーパーエステルE−720(ロジン類樹脂水性分散体、固形分濃度50質量%、平均粒子径0.4〜0.7μm、軟化点100℃、以下、ここでの樹脂をE−720と称す)を用いる以外は、実施例2と同様に行って積層体を得た。
【0101】
(実施例8)
EVAに代えて、大きさが120mm×90mm×6mmであり、片面をアセトンで脱脂した後バフ掛けた加硫スチレン・ブタジエンゴムシート(以下、SBRと称す)を用いる以外は、実施例2と同様に行って積層体を得た。
【0102】
(実施例9、10)
天然皮革に代えて、大きさが120mm×90mm×1mmで、ポリエステル極細繊維とナイロン極細繊維とからなる不織布にポリウレタン樹脂溶液を含浸させ、乾燥後、表面を起毛仕上げした人工皮革(実施例9)、又は大きさが120mm×90mm×2mmで、ポリエステル糸とナイロン糸とからなる編物に発泡ポリウレタン樹脂を積層した合成皮革(実施例10)を用いる以外は、実施例2と同様に行って積層体を得た。
【0103】
(実施例11)
EAMAの水性分散体に代えてN1525の水性分散体を用いる以外は、実施例2と同様に行って積層体を得た。
【0104】
(実施例12)
第二工程の後、得られた積層物を室温下で60秒間静置してから次工程に移る以外は、実施例2と同様に行って積層体を得た。なお、圧着開始時の接着層(B)の温度は55℃であった(表1参照)。
【0105】
(実施例13)
第二工程を省く以外は、実施例2と同様に行って積層体を得た。なお、第三工程における圧着開始時の接着層(B)の温度は80℃であった(表1参照)。
【0106】
(比較例1)
接着剤として上記の二液混合型水性ポリウレタン接着剤を用いること、並びに得られた積層体を静置する際の条件を室温下24時間ではなく60℃下72時間とする以外、実施例13と同様に行って積層体を得た。なお、圧着開始時の接着層の温度は80℃であった(表1参照)。
【0107】
実施例、比較例にかかる積層体の評価結果を表1に示す。なお、剥離強度は、静置後の積層体について測定したものである。
【0108】
【表1】

【0109】
表1より明らかなように、実施例にかかる本発明の積層体は、基材間の接着性や耐薬剤性に優れるものであった。また、実施例により、かかる効果は、特定の水性分散体を接着剤として少量使用しただけで、積層体を特定温度域以上でエージング処理しなくても奏されることが確認できた。さらに、粘着付与成分を用いると、かかる効果が顕著になることも確認できた。他方、接着剤として使用した水性分散体は、保存性に優れるものであることも確認できた。
【0110】
これに対し、比較例にかかる積層体は、特定のポリオレフィン共重合体樹脂を用いないで接着層を構成したため、接着性、耐薬剤性に劣る結果となった。また、接着剤の保存性も、実施例のものと比べ劣るものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮革基材(A)、接着層(B)及び基材(C)をこの順で積層してなる積層体であって、接着層(B)が、ポリオレフィン共重合体樹脂を含有する水性分散体より得られる塗膜であることを特徴とする積層体。
【請求項2】
接着層(B)がさらに粘着付与成分を含有し、ポリオレフィン共重合体樹脂と粘着付与成分との質量比(ポリオレフィン共重合体樹脂/粘着付与成分)が99/1〜20/80であることを特徴とする請求項1記載の積層体。
【請求項3】
接着層(B)に含まれる不揮発性成分の質量が、1〜500g/mであることを特徴とする請求項1又は2記載の積層体。
【請求項4】
積層体中の、皮革基材(A)と基材(C)とを剥離するのに必要な剥離強度が10N/15mm以上であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の積層体。
【請求項5】
皮革基材(A)の表面の少なくとも一部に、ポリオレフィン共重合体樹脂を含有する水性分散体を塗布して接着層(B)を形成させる第一工程と、接着層(B)にマイクロ波を照射する第二工程と、接着層(B)表面に基材(C)を圧着させる第三工程とを含むことを特徴とする請求項1記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
皮革基材(A)の表面の少なくとも一部に、ポリオレフィン共重合体樹脂と粘着付与成分とを含有しその質量比(ポリオレフィン共重合体樹脂/粘着付与成分)が99/1〜20/80である水性分散体を塗布して接着層(B)を形成させる第一工程と、接着層(B)にマイクロ波を照射する第二工程と、接着層(B)表面に基材(C)を圧着させる第三工程とを含むことを特徴とする請求項2記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
第二工程において、マイクロ波の照射により接着層(B)を50℃以上に加熱することを特徴とする請求項5又は6記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
第三工程において、基材(C)を圧着させる際の接着層(B)の温度が50℃以上であり、この温度範囲が第二工程でのマイクロ波照射の残熱によりもたらされるものであることを特徴とする請求項7記載の積層体の製造方法。

【公開番号】特開2012−223972(P2012−223972A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93257(P2011−93257)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】