説明

積層型電子部品およびその製造方法

【課題】部品本体における複数の内部電極の各端部が露出した部分にめっきを施すことによって、外部端子電極を形成したとき、外部端子電極の端縁と部品本体との隙間からめっき液が浸入し、得られた積層型電子部品の信頼性を低下させることがある。
【解決手段】外部端子電極8,9として、複数の内部電極3,4を互いに接続するための第1のめっき層10,11と、その上に、積層型電子部品1の実装性を向上させるための第2のめっき層12,13とが形成されるとき、第1のめっき層10,11を形成した後、部品本体2全体を撥水処理剤で処理し、次いで、第1のめっき層10,11上の撥水処理剤を除去してから、第2のめっき層12,13を形成する。部品本体2の外表面上の第1のめっき膜10,11の端縁と部品本体2の外表面との隙間に撥水処理剤18が充填される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、積層型電子部品およびその製造方法に関するもので、特に、外部端子電極が複数の内部導体と電気的に接続されるようにして直接めっきにより形成された積層型電子部品およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5に示すように、積層セラミックコンデンサに代表される積層型電子部品101は、一般に、たとえば誘電体セラミックからなる積層された複数の絶縁体層102と、絶縁体層102間の界面に沿って形成された複数の層状の内部電極103および104とを含む、積層構造の部品本体105を備えている。部品本体105の一方および他方端面106および107には、それぞれ、複数の内部電極103および複数の内部電極104の各端部が露出していて、これら内部電極103の各端部および内部電極104の各端部を、それぞれ、互いに電気的に接続するように、外部端子電極108および109が形成されている。
【0003】
外部端子電極108および109の形成にあたっては、一般に、金属成分とガラス成分とを含む金属ペーストを部品本体105の端面106および107上に塗布し、次いで焼き付けることにより、ペースト電極層110がまず形成される。次に、ペースト電極層110上に、たとえばニッケルを主成分とする第1のめっき層111が形成され、さらにその上に、たとえば錫または金を主成分とする第2のめっき層112が形成される。すなわち、外部端子電極108および109の各々は、ペースト電極層110、第1のめっき層111および第2のめっき層112の3層構造より構成される。
【0004】
外部端子電極108および109に対しては、積層型電子部品101がはんだを用いて基板に実装される際に、はんだとのぬれ性が良好であることが求められる。同時に、外部端子電極108に対しては、互いに電気的に絶縁された状態にある複数の内部電極103を互いに電気的に接続し、かつ、外部端子電極109に対しては、互いに電気的に絶縁された状態にある複数の内部電極104を互いに電気的に接続する役割が求められる。はんだぬれ性の確保の役割は、上述した第2のめっき層112が果たしており、内部電極103および104相互の電気的接続の役割は、ペースト電極層110が果たしている。第1のめっき層111は、はんだ接合時のはんだ喰われを防止する役割を果たしている。
【0005】
しかし、ペースト電極層110は、その厚みが数十μm〜数百μmと大きい。したがって、この積層型電子部品101の寸法を一定の規格値に収めるためには、このペースト電極層110の体積を確保する必要が生じる分、不所望にも、静電容量確保のための実効体積を減少させる必要が生じる。一方、めっき層111および112はその厚みが数μm程度であるため、仮に第1のめっき層111および第2のめっき層112のみで外部端子電極108および109を構成できれば、静電容量確保のための実効体積をより多く確保することができる。
【0006】
たとえば、特開2004−146401号公報(特許文献1)には、導電性ペーストを部品本体の端面の少なくとも内部電極の積層方向に沿った稜部に、内部電極の引出し部と接触するよう塗布し、この導電性ペーストを焼き付けまたは熱硬化させて導電膜を形成し、さらに、部品本体の端面に電解めっきを施し、上記稜部の導電膜と接続されるように電解めっき膜を形成する方法が開示されている。これによると、外部端子電極の端面における厚みを薄くすることができる。
【0007】
また、特開昭63−169014号公報(特許文献2)には、部品本体の、内部電極が露出した側壁面の全面に対し、側壁面に露出した内部電極が短絡されるように、無電解めっきによって導電性金属膜を析出させる方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1および2に記載されている外部端子電極の形成方法では、内部電極の露出した端部に直接めっきを行なうため、内部電極と絶縁体層との間の界面に沿って部品本体中に浸入しためっき液が、絶縁体層を構成するセラミックや内部電極を浸食し、構造欠陥を引き起こすことがある。また、これにより、積層型電子部品の耐湿負荷特性が劣化するなどの信頼性不良が生じるという不具合がある。
【0009】
特に、錫または金めっきを施そうとする場合、錫または金めっき液は、一般的に浸食性の強い錯化剤が含まれているため、上述の問題がより引き起こされやすい。
【0010】
上記の問題を解決するため、たとえば国際公開第2007/119281号パンフレット(特許文献3)には、部品本体における内部電極の各端部が露出した端面に撥水処理剤を付与し、絶縁体層と内部電極との界面の隙間にこれを充填した後、端面に、外部端子電極の下地となるめっき層を形成することが提案されている。このような撥水処理剤の付与は、耐湿負荷試験における寿命特性を向上させることができる。
【0011】
しかしながら、上記特許文献3に記載の技術には、次のような課題がある。
【0012】
撥水処理剤は、内部電極が与える金属部分よりも絶縁体層が与えるセラミック部分に付着しやすい。仮に、内部電極間距離が広い場合(すなわち、絶縁体層が厚くかつ内部電極の積層数が少ない場合)、内部電極の各端部が露出した端面のほとんどが撥水処理剤によって覆われることになり、内部電極の露出した端面へのめっき析出力が低下する。
【0013】
また、外部端子電極の部品本体への固着力強化を目的として、下地となるめっき層の形成後に800℃程度以上の温度で熱処理を行なうことがあるが、このような熱処理によって撥水処理剤が消失してしまう。
【0014】
なお、外部端子電極を実質的にめっきだけで形成するのではなく、図5を参照して説明した従来技術のように、焼き付けによるペースト電極層を形成した後にめっきを施す場合、めっき処理の前に撥水処理剤を付与することが、たとえば特開2002‐28946号公報(特許文献4)に記載されている。上記焼き付けによるペースト電極層は、直方体形状の部品本体における内部電極の各端部が露出する端面上に形成されるばかりでなく、その端縁が端面に隣接する主面および側面上に位置するように形成される。
【0015】
しかしながら、上記特許文献4に記載の技術では、次のような問題に遭遇する。すなわち、焼き付けによるペースト電極層の端縁と部品本体との隙間より水分が浸入しやすい。なぜなら、この部分にはガラス成分が偏析しやすく、撥水処理剤で被覆しても、めっき液によりガラスが容易に溶かされてしまうためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2004−146401号公報
【特許文献2】特開昭63−169014号公報
【特許文献3】国際公開第2007/119281号パンフレット
【特許文献4】特開2002−289465号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
この発明の目的は、上記のような問題点を解決し得る積層型電子部品の製造方法を提供しようとすることである。
【0018】
この発明の他の目的は、上述した製造方法によって製造される積層型電子部品を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この発明は、複数の内部電極が内部に形成され、かつ内部電極の各一部が露出している、積層構造の部品本体を用意する工程と、内部電極と電気的に接続される外部端子電極を部品本体の外表面上に形成する工程とを備える、積層型電子部品の製造方法にまず向けられるものであって、上述した技術的課題を解決するため、上記外部端子電極形成工程は、部品本体における内部電極の露出面上に、第1のめっき層を形成する工程と、少なくとも第1のめっき層の表面上および部品本体の外表面における第1のめっき層の端縁が位置する部分上に撥水処理剤を付与する工程と、第1のめっき層の表面上に付与された撥水処理剤を除去する工程と、次いで、第1のめっき層上に、第2のめっき層を形成する工程とを備えることを特徴としている。
【0020】
上記外部端子電極形成工程は、第1のめっき層形成工程と撥水処理剤付与工程との間に、第1のめっき層が形成された部品本体を熱処理する工程をさらに備えることが好ましい。
【0021】
好ましくは、第1のめっき層形成工程は、銅を主成分とするめっき層の形成工程を含み、第2のめっき層形成工程は、ニッケルを主成分とするめっき層の形成工程および次いで実施される錫または金を主成分とするめっき層の形成工程を含む。
【0022】
この発明は、また、複数の内部電極が内部に形成され、かつ内部電極の各一部が露出している、積層構造の部品本体と、内部電極と電気的に接続され、かつ部品本体の外表面上に形成される、外部端子電極とを備える、積層型電子部品にも向けられる。この発明に係る積層型電子部品は、上記外部端子電極が、部品本体における内部電極の露出面上に形成された第1のめっき層、および第1のめっき層上に形成された第2のめっき層を備え、さらに、部品本体の外表面上における第1のめっき膜の端縁と部品本体の外表面との隙間に充填される撥水処理剤を備えることを特徴としている。
【0023】
この発明に係る積層型電子部品において、内部電極における、第1のめっき層との境界から長さ2μm以上の領域には、相互拡散層が存在することが好ましい。
【0024】
この発明に係る積層型電子部品において、第1のめっき層は銅を主成分とするめっき層を含み、第2のめっき層は、ニッケルを主成分とするめっき層およびその上の錫または金を主成分とするめっき層を含むことが好ましい。
【0025】
部品本体が、互いに対向する1対の主面、互いに対向する1対の側面および互いに対向する1対の端面を有する、実質的に直方体形状をなし、端面が内部電極の露出面とされ、第1のめっき層が、端面上に形成されるとともに、その端縁が端面に隣接する主面上および側面上に位置するように形成されるとき、この発明が特に有利に適用される。
【発明の効果】
【0026】
この発明によれば、第1のめっき層を形成した後であって、第2のめっき層を形成する前に、撥水処理剤が付与され、次いで、第1のめっき層の表面上に付与された撥水処理剤が除去される。このとき、撥水処理剤は、部品本体の外表面における第1のめっき層の端縁と部品本体の外表面との隙間を充填する状態で残留している。
【0027】
よって、第1のめっき層が複数の内部電極を互いに電気的に接続するためのものであり、第2のめっき層が積層型電子部品の実装性を向上させるためのものである場合、実装性を向上させるためのめっき層の形成より前に撥水処理剤が付与されることになる。したがって、実装性向上のためのたとえば錫めっきや金めっきのめっき液に用いられる浸食性の高い錯化剤が、第1のめっき層の端縁と部品本体との隙間から部品本体の内部に浸入することが防止され、積層型電子部品の信頼性を十分に確保することができる。
【0028】
また、撥水処理剤は、第1のめっき層の端縁と部品本体との隙間からの水分浸入を効果的に防止することができる。たとえば、部品本体が実質的に直方体形状をなす場合、第1のめっき層が、部品本体の端面上に形成されるとともに、その端縁が端面に隣接する主面および側面上に位置するように形成されると、第1のめっき層の端縁と主面および側面との隙間からの水分浸入を効果的に防止することができる。このような水分浸入の防止は、積層型電子部品の信頼性の向上をもたらす。
【0029】
また、前述のように、第2のめっき層を形成する前に、第1のめっき層の表面上に付与された撥水処理剤は除去されるので、第1のめっき層の表面上には、撥水処理剤がほとんど存在しない状態とすることができる。よって、第2のめっき層を形成する際、めっき膜が析出しにくいという問題は生じにくい。また、撥水処理剤として、強力な撥水性を有するものを用いることが可能となり、さらなる信頼性の向上に寄与する。
【0030】
この発明において、第1のめっき層形成工程と撥水処理剤付与工程との間で、第1のめっき層が形成された部品本体を熱処理するようにすれば、前述した水分浸入の問題をより確実に防止することができる。また、熱処理による撥水処理剤の消失という問題にも遭遇しない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明の一実施形態による製造方法によって製造された積層型電子部品1を示す断面図であり、一部を拡大して示している。
【図2】図1に示した積層型電子部品1の製造過程の途中であって、外部端子電極8を形成するため、第1のめっき層10を部品本体2上に形成し、次いで、熱処理を施した後の部品本体2の一部を示す拡大断面図である。
【図3】図1に示した積層型電子部品1の製造過程の途中であって、撥水処理剤を付与した後の部品本体2を示す断面図である。
【図4】図1に示した積層型電子部品1の製造過程の途中であって、撥水処理剤を除去した後の部品本体2を示す断面図であり、一部を拡大して示している。
【図5】従来の積層型電子部品101の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
この発明に係る積層型電子部品の製造方法は、外部端子電極の形成において、ペースト電極、スパッタ電極、蒸着電極などの形成を伴わず、部品本体の、内部電極の端部が露出した面に、直接、めっきを施すことを前提としている。そして、めっき膜は、少なくとも2層からなり、典型的には、第1のめっき層は、複数の内部電極を互いに電気的に接続するためのものであり、その上の第2のめっき層は、積層型電子部品の実装性を向上させるためのものである。この発明によれば、上記第1のめっき層を形成した後、少なくとも第1のめっき層の表面上および部品本体の外表面における第1のめっき層の端縁が位置する部分上に撥水処理剤を付与し、第2のめっき層を形成する前に、第1のめっき層の表面上に付与された撥水処理剤を除去することを特徴としている。このようにして得られた積層型電子部品の一例を図1に示す。
【0033】
図1を参照して、積層型電子部品1は、積層構造の部品本体2を備えている。部品本体2は、その内部に複数の内部電極3および4を形成している。より詳細には、部品本体2は、積層された複数の電気絶縁性の絶縁体層5と、絶縁体層5間の界面に沿って形成された複数の層状の内部電極3および4とを備えている。
【0034】
積層型電子部品1が積層セラミックコンデンサを構成するとき、絶縁体層5は、誘電体セラミックから構成される。なお、積層型電子部品1は、その他、インダクタ、サーミスタ、圧電部品などを構成するものであってもよい。したがって、積層型電子部品1の機能に応じて、絶縁体層5は、誘電体セラミックの他、磁性体セラミック、半導体セラミック、圧電体セラミックなどから構成されても、さらには、樹脂を含む材料から構成されてもよい。
【0035】
部品本体2の一方および他方端面6および7には、それぞれ、複数の内部電極3および複数の内部電極4の各端部が露出していて、これら内部電極3の各端部および内部電極4の各端部を、それぞれ、互いに電気的に接続するように、外部端子電極8および9が形成されている。
【0036】
なお、図示した積層型電子部品1は、2個の外部端子電極8および9を備える2端子型のものであるが、この発明は多端子型の積層型電子部品にも適用することができる。
【0037】
外部端子電極8および9の各々は、部品本体2における内部電極3および4の露出面、すなわち端面6および7上に直接めっきにより形成された第1のめっき層10および11と、その上に形成される第2のめっき層12および13とをそれぞれ備えている。
【0038】
第1のめっき層10および11は、それぞれ、複数の内部電極3および4を互いに電気的に接続するためのものであり、たとえば銅を主成分とするめっき層からなる。他方、第2のめっき層12および13は、積層型電子部品1の実装性を向上させ、または付与するためのものであり、それぞれ、たとえばニッケルを主成分とするめっき層からなるはんだバリア層14および15と、はんだぬれ性を付与するためにはんだバリア層14および15上に形成される、たとえば錫または金を主成分とするめっき層からなるはんだぬれ性付与層16および17とを備えている。なお、上述した錫を主成分とするめっきは、たとえばSn−Pbはんだめっきをも含む。また、ニッケルを主成分とするめっきは、無電解めっきによるNi−Pめっきをも含む。
【0039】
上述したように、第1のめっき層10および11を、銅を主成分とするめっき層から構成すると、銅のつきまわり性が良好であるので、めっき処理の能率化を図れ、かつ外部端子電極8および9の固着力を高めることができるが、第1のめっき層10および11をニッケルから構成し、第2のめっき層12および13を錫または金から構成することもある。
【0040】
第1のめっき層10および11ならびに第2のめっき層12および13を形成するためのめっき方法は、還元剤を用いて金属イオンを析出させる無電解めっき法であっても、あるいは、通電処理を行なう電解めっき法であってもよい。
【0041】
図1において、部品本体2の外表面上における第1のめっき膜10および11の端縁が位置する部分Aのうち、第1のめっき膜10の端縁が位置する部分Aが拡大されて示されている。なお、第2のめっき膜11の端縁が位置する部分Aについても、拡大して示した第1のめっき膜10の端縁が位置する部分Aと実質的に同様である。
【0042】
部品本体2の外表面上における第1のめっき膜10および11の端縁と部品本体2の外表面との隙間は、撥水処理剤18によって充填されている。撥水処理剤18は、めっき液や水分などの浸入を防ぐものであれば、その種類は特に限定されないが、たとえば、シランカップリング剤が好適である。
【0043】
次に、図1に示した積層型電子部品1の製造方法、特に、外部端子電極8および9の形成方法について説明する。
【0044】
まず、周知の方法により、部品本体2が作製される。次に、外部端子電極8および9が、内部電極3および4と電気的に接続されるように、部品本体2の端面6および7上に形成される。
【0045】
この外部端子電極8および9の形成にあたっては、まず、部品本体2の端面6および7上に、第1のめっき層10および11が形成される。めっき前の部品本体2においては、一方の端面6に露出している複数の内部電極3相互、ならびに他方の端面7に露出している複数の内部電極4相互が、電気的に絶縁された状態になっている。第1のめっき層10および11を形成するため、まず、内部電極3および4の各々の露出部分に対し、めっき液中の金属イオンを析出させる。そして、このめっき析出物をさらに成長させ、隣り合う内部電極3の各露出部および隣り合う内部電極4の各露出部のそれぞれにおけるめっき析出物を物理的に接続した状態とする。このようにして、均質で緻密な第1のめっき層10および11が形成される。
【0046】
この実施形態では、積層型電子部品1の部品本体2は、上述した1対の端面6および7に加えて、互いに対向する1対の主面19および20、ならびに互いに対向する1対の側面(図1では図示されない。)を有する、実質的に直方体形状をなしている。そして、上述した第1のめっき層10および11は、それぞれ、1対の端面6および7上に形成されるとともに、その端縁が端面6および7に隣接する1対の主面19および20上ならびに1対の側面上に位置するように形成される。
【0047】
上述したように、その端縁が1対の主面19および20上ならびに1対の側面上にまで達するように、第1のめっき層10および11を能率的に形成することを可能にするため、部品本体2の外層部には、内部ダミー導体21および22が端面6および7にそれぞれ露出するように形成される。さらに、部品本体2の主面19および20の、端面6および7に隣接する端部上には、図示しないが、外部ダミー導体が形成されてもよい。これら内部ダミー導体21および22ならびに外部ダミー導体は、電気的特性の発現に実質的に寄与するものではないが、第1のめっき層10および11の形成のための金属イオンの析出をもたらし、かつめっき成長を促進するように作用する。
【0048】
また、上述しためっき工程の前に、端面6および7での内部電極3および4ならびに内部ダミー導体21および22の露出を十分なものとするため、部品本体2の端面6および7に研磨処理を施しておくことが好ましい。この場合、内部電極3および4ならびに内部ダミー導体21および22の各露出端が、端面6および7から突出する程度にまで研磨処理を施せば、各露出端が面方向に広がるため、めっき成長に要するエネルギーを低減することができる。
【0049】
次に、好ましくは、上記のように第1のめっき層10および11が形成された部品本体2が熱処理される。熱処理温度としては、たとえば600℃以上、好ましくは800℃以上の温度が採用される。この熱処理後の状態が図2に示されている。図2では、内部電極3と第1のめっき層10とが図示されている。図2では図示されない内部電極4および第1のめっき層11側の構成は、図2に示した内部電極3および第1のめっき層10側の構成と実質的に同様であるので、その説明を省略する。
【0050】
図2を参照して、内部電極3と第1のめっき層10との間で相互拡散層25が形成される。この相互拡散層25は、内部電極3と第1のめっき層10との境界から2μm以上の長さLの領域に存在していることが好ましい。言い換えると、上記長さLが2μm以上となるような条件で熱処理を施すことが好ましい。このような相互拡散層25の形成により、部品本体2の内部への水分の浸入を防止する効果がより高められる。
【0051】
次に、前述した撥水処理剤18を付与する工程が実施される。撥水処理剤18は、少なくとも第1のめっき層10および11の表面上ならびに部品本体2の外表面における第1のめっき層10および11の各端縁が位置する部分上に付与されれば十分であるが、この実施形態では、撥水処理剤18を付与するために、撥水処理剤18を含む液体中に部品本体2を浸漬する方法が採用されることから、図3に示すように、第1のめっき層10および11が形成された部品本体2の全表面上に付与される。なお、撥水処理剤18の付与のため、噴霧方法など、他の方法が採用されてもよい。
【0052】
第1のめっき層10および11が形成された部品本体2の外表面の形状および撥水処理剤18が有する表面張力等に起因して、撥水処理剤18は、第1のめっき層10および11上では比較的薄く均一な膜を形成するように付着し、他方、部品本体2の主面19および20上ならびに側面上における第1のめっき層10および11の端縁が位置する部分Aでは、撥水処理剤18が比較的厚く付着する。なお、図3において、撥水処理剤18からなる膜は、その厚みがかなり誇張されて示されており、実際には、図示のような厚みはないと理解すべきである。
【0053】
また、撥水処理剤18として、前述したように、シランカップリング剤が用いられると、シランカップリング剤は、OH基に対して強力に結合するため、セラミックの表面に優先的に付着する。一方、第1のめっき層10および11の表面には、薄く均一な自然酸化皮膜が存在するため、ここには、撥水処理剤18が薄く均一に付与されることが可能となる。このことも、上述したような撥水処理剤18の付着状態の実現に寄与する。
【0054】
次に、第1のめっき層10および11の表面上に付与された撥水処理剤18が除去される。撥水処理剤18の除去のため、たとえば、撥水処理剤18を溶解し得る溶剤に第1のめっき層10および11が形成された部品本体2を浸漬したり、同溶剤を第1のめっき層10および11が形成された部品本体2の全表面に噴射したりすることが行なわれる。この工程の結果、図4における拡大した部分に示すように、撥水処理剤18は、部品本体2の主面19および20上ならびに側面上における第1のめっき層10および11の端縁と部品本体2との隙間を充填している分については、すべてが除去されることなく残される。他方、第1のめっき層10および11上の部分と部品本体の主面19および20ならびに側面の露出した部分とでは、撥水処理剤18のほとんどが除去される。
【0055】
このように、撥水処理剤18を上記隙間にのみ残すため、たとえば、部分A以外の部分に選択的に溶剤を噴射するなどの特別な対策を講じる必要はない。
【0056】
撥水処理剤18は、第1のめっき層10および11の端縁と主面19および20ならびに側面との隙間からの水分浸入をより効果的に防ぐように作用する。
【0057】
次に、第2のめっき層12および13が形成される。第2のめっき層12および13は、第1のめっき層10および11が形成された後であるので、通常の方法にて容易に形成されることができる。なぜなら、第2のめっき層12および13を形成しようとする段階では、めっきすべき場所が導電性を有する連続的な面となっているためである。
【0058】
また、第1のめっき層10および11の表面上に付与された撥水処理剤18は除去されているので、第1のめっき層10および11の表面上には、撥水処理剤18がほとんど存在しない状態となっている。よって、第2のめっき層12および13を形成する際、撥水処理剤18によってめっき膜の析出が阻害されるという問題は生じにくい。また、撥水処理剤18として、強力な撥水性を有するものを用いることが可能となり、さらなる信頼性の向上に寄与する。
【0059】
この実施形態では、第2のめっき層12および13を形成するため、たとえばニッケルからなるはんだバリア層14および15の形成工程、および、たとえば錫または金からなるはんだぬれ性付与層16および17の形成工程が順次実施される。
【0060】
次に、この発明による効果を確認するために実施した実験例について説明する。
【0061】
この実験例では、以下のような工程に従って、試料となる積層セラミックコンデンサを作製した。
【0062】
(1)部品本体準備
(2)電解銅めっき
(3)熱処理
(4)撥水処理剤付与および除去
(5)電解ニッケルめっき
(6)電解錫めっき。
【0063】
なお、上記(2)、(5)および(6)の各めっき工程の後には、純水を用いた洗浄を実施した。
【0064】
上記(1)〜(6)の各工程の詳細は以下のとおりである。
【0065】
(1)部品本体準備
長さ0.94mm、幅0.47mmおよび高さ0.47mmの積層セラミックコンデンサ用部品本体であって、絶縁体層がチタン酸バリウム系誘電体セラミックからなり、内部電極がニッケルを主成分とし、隣り合う内部電極間の絶縁体層の厚みが1.5μmであり、内部電極の積層数が220のものを用意した。また、この部品本体には、内部ダミー導体および外部ダミー導体を設けた。
【0066】
(2)電解銅めっき
めっき浴として、以下の表1に示す銅ストライク浴および表2に示す銅厚付け浴を準備した。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
部品本体500個を、容積300mlの水平回転バレル中に投入し、それに加えて、直径0.7mmの導電性メディアを100ml投入した。そして、上記水平回転バレルを、表1に示した銅ストライクめっき浴に浸漬し、バレル周速2.6m/分にて回転させながら、電流密度0.10A/dmにて通電し、1μmの膜厚が得られるまで銅ストライクめっきを実施した。
【0070】
次いで、同じ水平回転バレルを、表2に示した銅厚付け浴に浸漬し、同じバレル周速にて回転させながら、電流密度0.30A/dmにて通電し、5μmの膜厚が得られるまで銅厚付けめっきを実施した。
【0071】
(3)熱処理
上記のように銅めっき層が形成された部品本体を、800℃の温度で5分間熱処理した。
【0072】
(4)撥水処理剤付与および除去
次に、熱処理後の部品本体を、表3に示すような撥水処理剤を含む液体に減圧下で60分間浸漬し、その後、105℃で15分間、次いで180℃で1分間乾燥することにより、撥水処理剤を付与した。
【0073】
次に、表3に示すように、特定の試料を除いて、IPA(イソプロピルアルコール)に試料を5分間浸漬することにより、撥水処理剤除去工程を実施した。
【0074】
【表3】

【0075】
表3において、試料6では、試料1に係る撥水処理剤を用いたが、これを上記銅めっき後ではなく、後述する錫めっき後に付与した。
【0076】
(5)電解ニッケルめっき
次に、ワット浴(弱酸性ニッケル浴)を用い、これを温度60℃およびpH4.2に設定し、0.20A/dmの電流密度で60分間電解めっきを実施することにより、上記銅めっき層上に厚み約4μmのニッケルめっき層を形成した。
【0077】
(6)電解錫めっき
次に、めっき浴として、石原薬品社製NB‐RZSを用い、これを温度30℃およびpH4.5に設定し、0.10A/dmの電流密度で60分間電解めっきを施すことにより、上記ニッケルめっき層上に厚み約4μmの錫めっき層を形成した。
【0078】
このようにして得られた各試料に係る積層セラミックコンデンサについて、耐湿信頼性試験(温度125℃、相対湿度95%、印加電圧6.3V)を実施した。そして、144時間経過後、および288時間経過後にそれぞれ絶縁抵抗が1MΩ以下になった試料を不良とし、試料数70個中での不良個数を求めた。その結果が、表4において、「信頼性試験(144時間)不良個数」および「信頼性試験(288時間)不良個数」としてそれぞれ示されている。
【0079】
また、(5)電解ニッケルめっきの工程後のめっき面をマイクロスコープにより観察し、ニッケルめっき付け性を評価した。わずかでも下の銅が観察された試料を不良とし、試料数70個中での不良個数を求めた。その結果が、表4において、「Niめっき付け不良個数」として示されている。
【0080】
【表4】

【0081】
表3および表4において、試料1および2がこの発明の範囲内の実施例であり、試料3〜7がこの発明の範囲外の比較例である。
【0082】
まず、試料3および4では、原液のままの強力な撥水処理剤を使用しながら、この撥水処理剤の除去工程を実施しなかったため、めっき付け不良が発生し、また、144時間といった比較的短時間の信頼性試験で不良が発生した。
【0083】
試料5では、希釈した撥水処理剤を使用したため、撥水処理剤の除去工程を実施しなくても、めっき付け性、および144時間といった短時間の信頼性試験では不良が生じなかったものの、288時間といった比較的長時間の信頼性試験では不良が発生した。
【0084】
試料6では、撥水処理剤による、部品本体の主面上および側面上に位置する銅めっき層の端縁と部品本体の外表面との隙間における封止が十分でなく、信頼性試験において不良が発生した。
【0085】
試料7の場合には、撥水処理剤そのものがないため、試料6に比べても、信頼性により劣る結果となった。
【0086】
これらに対して、試料1および2では、原液のままの強力な撥水処理剤を使用しながらも、この撥水処理剤の除去工程を実施したため、めっき付け不良が発生せず、また、144時間だけでなく、288時間といった比較的長時間の信頼性試験であっても不良が発生しなかった。
【符号の説明】
【0087】
1 積層型電子部品
2 部品本体
3,4 内部電極
5 絶縁体層
6,7 端面
8,9 外部端子電極
10,11 第1のめっき層
12,13 第2のめっき層
14,15 はんだバリア層
16,17 はんだぬれ性付与層
18 撥水処理剤
19,20 主面
25 相互拡散層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の内部電極が内部に形成され、かつ前記内部電極の各一部が露出している、積層構造の部品本体を用意する工程と、
前記内部電極と電気的に接続される外部端子電極を前記部品本体の外表面上に形成する工程と
を備え、
前記外部端子電極形成工程は、
前記部品本体における前記内部電極の露出面上に、第1のめっき層を形成する工程と、
少なくとも前記第1のめっき層の表面上および前記部品本体の外表面における前記第1のめっき層の端縁が位置する部分上に撥水処理剤を付与する工程と、
前記第1のめっき層の表面上に付与された前記撥水処理剤を除去する工程と、次いで、
前記第1のめっき層上に、第2のめっき層を形成する工程と
を備える、積層型電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記外部端子電極形成工程は、前記第1のめっき層形成工程と前記撥水処理剤付与工程との間に、前記第1のめっき層が形成された前記部品本体を熱処理する工程をさらに備える、請求項1に記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項3】
前記第1のめっき層形成工程は、銅を主成分とするめっき層の形成工程を含み、前記第2のめっき層形成工程は、ニッケルを主成分とするめっき層の形成工程および次いで実施される錫または金を主成分とするめっき層の形成工程を含む、請求項1または2に記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項4】
前記部品本体は、互いに対向する1対の主面、互いに対向する1対の側面および互いに対向する1対の端面を有する、実質的に直方体形状をなし、前記端面が前記内部電極の露出面とされ、
前記第1のめっき層形成工程において、前記第1のめっき層は、前記端面上に形成されるとともに、その端縁が前記端面に隣接する前記主面上および前記側面上に位置するように形成される、請求項1ないし3のいずれかに記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項5】
複数の内部電極が内部に形成され、かつ前記内部電極の各一部が露出している、積層構造の部品本体と、
前記内部電極と電気的に接続され、かつ前記部品本体の外表面上に形成される、外部端子電極と
を備え、
前記外部端子電極は、前記部品本体における前記内部電極の露出面上に形成された第1のめっき層、および前記第1のめっき層上に形成された第2のめっき層を備え、さらに、
前記部品本体の外表面上における前記第1のめっき膜の端縁と前記部品本体の外表面との隙間に充填される撥水処理剤を備える、
積層型電子部品。
【請求項6】
前記内部電極における、前記第1のめっき層との境界から長さ2μm以上の領域には、相互拡散層が存在する、請求項5に記載の積層型電子部品。
【請求項7】
前記第1のめっき層は銅を主成分とするめっき層を含み、前記第2のめっき層は、ニッケルを主成分とするめっき層およびその上の錫または金を主成分とするめっき層を含む、請求項5または6に記載の積層型電子部品。
【請求項8】
前記部品本体は、互いに対向する1対の主面、互いに対向する1対の側面および互いに対向する1対の端面を有する、実質的に直方体形状をなし、前記端面が前記内部電極の露出面とされ、
前記第1のめっき層は、前記端面上に形成されるとともに、その端縁が前記端面に隣接する前記主面上および前記側面上に位置するように形成される、請求項5ないし7のいずれかに記載の積層型電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−165725(P2011−165725A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23707(P2010−23707)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】