説明

積層接着シート、金属層付き積層接着シートおよび回路基板

【課題】 耐熱性、フレキシブル性をより高いレベルで具備し、特定範囲の低い線膨張係数と接着性を備えた、軽少(軽薄)化を達成し得る積層接着シートを提供すること。
【解決手段】 (a)層:Tg(ガラス転移点)が130℃以上300℃未満、吸水率が2%未満である熱可塑性樹脂の層と、(b)層:引張弾性率≧5GPa、線膨張係数が−3〜10ppm/℃である熱硬化性ポリイミド樹脂の層との、(a)層と(b)層とが少なくとも積層されてなる積層接着シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線膨張係数が低めの特定範囲にある、耐熱性に優れたポリイミドフィルムを基材フィルム(b)として使用し、その表面を特定熱可塑性樹脂層(a)で積層することで基材フィルム(b)の前記特性を保持し表面物性を特定熱可塑性樹脂層(a)保有の接着性に優れた物性とした多層ポリイミドフィルムである接着シート、およびそれを使用した金属層付き接着シートおよび回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは、−269℃〜300℃までの広い温度範囲での物性変化が極めて少ないために、電気および電子分野での応用、用途が拡大している。電気分野では、例えば車両用モーターや産業用モーター等のコイル絶縁、航空機電線および超導電線の絶縁等に使用されている。一方、電子分野では、例えばフレキシブルプリント基板や、半導体実装用フィルムキャリヤーのベースフィルム等に利用されている。このようにポリイミドフィルムは、種々の機能性ポリマーフィルムの中でも極めて信頼性の高いものとして、電気および電子分野で広く利用されている。しかしながら、最近では電気および電子分野等のファイン化にともなって大きな問題が顕在化してきている。例えば、銅を蒸着又はメッキ等によって銅張したポリイミドフィルム基材からなるプリント基板は、経時変化、環境変化によって銅層の密着力が低下し、更には剥離が発生する傾向にあった。
【0003】
また、情報通信機器(放送機器、移動体無線、携帯通信機器等)、レーダーや高速情報処理装置などといった電子部品の基材の材料として、従来、セラミックが用いられていた。セラミックからなる基材は耐熱性を有し、近年の情報通信機器の信号帯域の高周波数化(GHz帯に達する)にも対応し得る。しかし、セラミックはフレキシブルでなく、薄くできないので使用できる分野が限定される。
そのため、有機材料からなるフィルムを電子部品の基材として用いる検討がなされ、ポリイミドからなるフィルム、ポリテトラフルオロエチレンからなるフィルムが提案されている。ポリイミドからなるフィルムは耐熱性に優れ、また、強靭であるのでフィルムを薄くできるという長所を備えているが、高周波の信号への適用において、信号強度の低下や信号伝達の遅れなどといった問題が懸念され、引張破断強度、引張弾性率でまだ不十分であり、線膨張係数においても大きすぎるなどの課題を有している。ポリテトラフルオロエチレンからなるフィルムは、高周波にも対応し得るが、引張弾性率が低いのでフィルムを薄くできない点、表面への金属導体や抵抗体などとの接着性が悪いという点、線膨張係数が大きく温度変化による寸法変化が著しくて微細な配線をもつ回路の製造に適さない点等が問題となり、使用できる分野が限定される。このように、耐熱性、高機械的物性、フレキシブル性を具備した基材用として十分な物性のフィルムは未だ得られていない。
引張弾性率を高くしたポリイミドフィルムとして、ベンゾオキサゾール環を主鎖に有するポリイミドからなるポリイミドベンゾオキサゾールフィルムが提案されている(特許文献1参照)。このポリイミドベンゾオキサゾールフィルムを誘電層とするプリント配線板も提案されている(特許文献2、特許文献3参照)。
これらのベンゾオキサゾール環を主鎖に有するポリイミドからなるポリイミドベンゾオキサゾールフィルムは、引張破断強度、引張弾性率で改良され、線膨張係数において満足し得る範囲のものとなっているが、その優れた機械的物性の反面でその表面特性が接着性において不十分であるなどの課題を有していた。
【特許文献1】特開平06−56992号公報
【特許文献2】特表平11−504369号公報
【特許文献3】特表平11−505184号公報
【0004】
優れた物性のポリイミドの接着性を改良するために種々の提案がなされている、例えば接着性を有しないポリイミドフィルムの少なくとも片面に熱可塑性樹脂層を形成するもの(特許文献4参照)、ポリイミドフィルムとポリアミド系樹脂からなるフィルムとが積層される少なくとも2層フイルム(特許文献5参照)などである。
これらのポリイミドフィルム上に熱可塑性樹脂層を設けたものは、接着性の改良においては満足し得ても、これら熱可塑性樹脂の耐熱性の低さは折角のポリイミドフィルムの耐熱性を台無しにする傾向を有していた。
【特許文献4】特開平09−169088号公報
【特許文献5】特開平07−186350号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、線膨張係数が低めの特定範囲にあり、耐熱性に優れたポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの優れた機械的特性を持ち、かつ接着性などの表面特性が改良された従来の接着シートにない性能を保有した接着シートこの接着シートを使用した金属層付き接着シートおよびこれらを用いた回路基板を提供することを課題とする
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定構造を有するポリイミドフィルムに特定接着剤層を積層することによって、線膨張係数が低めの特定範囲にあり、耐熱性、高周波対応、フレキシブル性をより高いレベルで具備し、特殊ポリイミドを絶縁層として用いて絶縁性の信頼性と軽少(軽薄)化をも達成した接着シートを提供せんとするものである。
すなわち本発明は以下の構成からなる。
1.下記(a)層と(b)層とが少なくとも積層されてなる構成を特徴とする積層接着シート。
(a)層:Tg(ガラス転移点)が130℃以上300℃未満、吸水率が2質量%未満である熱可塑性樹脂の層。
(b)層:引張弾性率が5GPa以上、線膨張係数が−3〜10ppm/℃である熱硬化性ポリイミド樹脂の層。
2.層構成が(a)/(b)/(a)の三層構造である前記1の積層接着シート。
3.(b)層が少なくとも芳香族テトラカルボン酸類の残基としてピロメリット酸残基、および芳香族ジアミン類の残基としてベンゾオキサゾール骨格を有するジアミン残基を有するポリイミドである前記1〜2いずれかの積層接着シート。
4.(a)層と(b)層との厚さの比(a)/(b)が0.001〜1であり、(b)層の厚さが3〜50μmである前記1〜3のいずれかの積層接着シート。
5.接着シートの面方向での線膨張係数が1〜15ppm/℃である前記1〜4いずれかの積層接着シート。
6.前記1〜5いずれかの積層接着シートの少なくとも一面に金属層を積層した金属層付き積層接着シート。
7. 前記1〜6いずれかの積層接着シートを用いた回路基板。
【発明の効果】
【0007】
本発明の(a)層のTg(ガラス転移点)が130℃以上300℃未満、吸水率が2質量%未満である熱可塑性樹脂の層と(b)層の引張弾性率が5GPa以上、線膨張係数が−3〜10ppm/℃である熱硬化性ポリイミド樹脂の層とを積層した接着シートであって、接着シートの面方向での線膨張係数が1〜15ppm/℃であり、(a)層と(b)層の厚さの比(a)/(b)が0.001〜1.0であり、(b)層の厚さが3〜50μmである接着シートは、(b)層のポリイミドフィルムの有する高い引張弾性率と引張破断強度と特定範囲の低い線膨張係数とを保持し、かつその金属などと接する表面が(a)層の接着性に優れた熱可塑性樹脂の保有する物性となり両者の優れた点を具備するフィルムとなり、金属層付き接着シート、金属箔との接合積層フィルムの基材フィルムなどに有効であり、例えばフレキシブルプリント基板など回路基板として極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の多層ポリイミドフィルムである積層接着シートは、(a)層と(b)層とが少なくとも積層されてなる構成のものであり、(a)層はTg(ガラス転移点)が130〜300℃、吸水率が2%未満である熱可塑性樹脂の層からなり、(b)層は引張弾性率が5GPa以上、線膨張係数が−3〜10ppm/℃である熱硬化性ポリイミド樹脂の層であり、(a)層と(b)層の厚さの比(a)/(b)が0.001〜1.0であり、(b)層の厚さが3〜50μmである多層ポリイミドフィルムである。
【0009】
本発明における(b)層の引張弾性率が5GPa以上、線膨張係数が−3〜10ppm/℃である熱硬化性ポリイミド樹脂はかかる物性を有するポリイミドであれば特に限定されるものではないが、好ましくは下記の芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸(無水物)類との組み合わせが好ましい例として挙げられる。
A.ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸類との組み合わせ。
B.ジアミノジフェニルエーテル骨格を有する芳香族ジアミン類とピロメリット酸骨格を有する芳香族テトラカルボン酸類との組み合わせ。
C.フェニレンジアミン骨格を有する芳香族ジアミン類とビフェニルテトラカルボン酸骨格を有する芳香族テトラカルボン酸類との組み合わせ。
D.上記のABCの一種以上の組み合わせ。
中でも特にA.のベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン残基を有するポリイミドフィ
ルムを製造するための組み合わせが好ましい。
本発明で特に好ましく使用できるベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸無水物類とを反応させて得られるポリイミドベンゾオキサゾールを主成分とするポリイミドベンゾオキサゾールに使用される、ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類として、下記の化合物が例示できる。
本発明におけるポリイミド樹脂の層はこれらのポリイミドから作成されるフィルムが好ましい形態であり、フィルムは、例えばピロメリット酸(無水物、誘導体も含む)などの芳香族テトラカルボン酸とベンゾオキサゾール骨格を有するジアミンとを溶媒中で反応せしめそのポリイミドの前駆体であるポリアミド酸溶液を得て、該溶液を支持体上に流延し、乾燥してポリイミドの前駆体フィルム(グリーンフィルムともいう)を得て、該前駆体フィルムをさらに熱処理してイミド化しポリイミドフィルムを得る方法で製造することができる。
芳香族ジアミン類の残基としてベンゾオキサゾール骨格を有するジアミン残基を有するポリイミドオヨ細のフィルムについて以下詳述する。
好ましく用いられるベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類としては、具体的には以下のものが挙げられる。
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

【0012】
【化3】

【0013】
【化4】

【0014】
【化5】

【0015】
【化6】

【0016】
【化7】

【0017】
【化8】

【0018】
【化9】

【0019】
【化10】

【0020】
【化11】

【0021】
【化12】

【0022】
【化13】

【0023】
これらの中でも、合成のし易さの観点から、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールの各異性体が好ましい。ここで、「各異性体」とは、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールが有する2つアミノ基が配位位置に応じて定められる各異性体である(例;上記「化1」〜「化4」に記載の各化合物)。
これらのジアミンは、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。本発明においては、前記ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミンを70モル%以上使用することが好ましい。
【0024】
前記ジアミンに限定されず下記のジアミン類を使用することができる。これらのジアミン類としては、例えば、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−アミノベンジルアミン、p−アミノベンジルアミン、
【0025】
3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、
【0026】
1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノシ)フェニル]ブタン、2,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、
【0027】
1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4’−ビス[(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、
【0028】
2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、4,4’−ビス[3−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、ビス[4−{4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル]スルホン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−トリフルオロメチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−フルオロフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−メチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−シアノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、
【0029】
3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−ビフェノキシベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、2,6−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾニトリルおよび上記芳香族ジアミンにおける芳香環上の水素原子の一部もしくは全てがハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基またはアルコキシル基、シアノ基、またはアルキル基またはアルコキシル基の水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換された炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基またはアルコキシル基で置換された芳香族ジアミン等が挙げられる。
【0030】
フィルムとして好ましく使用されるポリイミドフィルムの製造に使用される酸性分として好ましいのは、ピロメリット酸無水物(化14)である。
芳香族テトラカルボン酸(無水物)類としてピロメリット酸無水物以外に使用してもよい芳香族テトラカルボン酸無水物類としては、具体的には、以下のものが挙げられる。
【0031】
【化14】

【0032】
【化15】

【0033】
【化16】

【0034】
【化17】

【0035】
【化18】

【0036】
【化19】

【0037】
これらのテトラカルボン酸無水物はピロメリット酸無水物単独で用いてもよいし、ピロメリット酸に加えてさらにこれらの酸を併用してもよいが、芳香族テトラカルボン酸類におけるピロメリット酸の使用量は80モル%以上好ましくは90モル%である。
本発明においては、全芳香族テトラカルボン酸類の30モル%未満であれば下記に例示される非芳香族のテトラカルボン酸二無水物類を一種または二種以上、適宜併用してもよい。
非芳香族のテトラカルボン酸二無水物類としては、例えば、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ペンタン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサ−1−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−エチルシクロヘキサン−1−(1,2),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、
【0038】
ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0039】
芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸無水物類とを重合してポリアミド酸を得るときに用いる溶媒は、原料となるモノマーおよび生成するポリアミド酸のいずれをも溶解するものであれば特に限定されないが、極性有機溶媒が好ましく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−アセチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックアミド、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、スルホラン、ハロゲン化フェノール類等があげられる。
【0040】
重合反応によって得られるポリアミド酸溶液に占めるポリアミド酸の濃度は、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは10〜30質量%であり、前記溶液の粘度はブルックフィールド粘度計による測定(25℃)で、送液の安定性の点から、好ましくは10〜2000Pa・sであり、より好ましくは100〜1000Pa・sである。
本発明におけるポリアミド酸の還元粘度(ηsp/C)は、特に限定するものではないが、引張弾性率、引張破断強度、引張破断伸度を向上するために3.0〜7.0dl/gが好ましく、4.0dl/g以上がさらに好ましい。
【0041】
本発明における(b)層においては、そのポリイミド中に滑剤を添加・含有せしめて、層(フィルム)表面に微細な凹凸を付与し層(フィルム)の接着性などを改善することが好ましい。滑剤としては、無機や有機の0.03μm〜3μm程度の平均粒子径を有する微粒子が使用でき、具体例として、酸化チタン、アルミナ、シリカ、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム、燐酸水素カルシウム、ピロ燐酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、粘土鉱物などが挙げられる。
これらの微粒子はフィルムに対して好ましくは、0.20〜2.0質量%の範囲で含有させることが必要である。微粒子の含有量が0.20質量%未満であるときは、接着性の向上がそれほどなく好ましくない。一方2.0質量%を超えると表面凹凸が大きくなり過ぎ接着性の向上が見られても平滑性の低下を招くなどによる課題を残し好ましくない。
【0042】
重合反応により得られるポリアミド酸溶液から、ポリイミド層(フィルム)を形成する方法としては、ポリアミド酸溶液を支持体上に塗布して乾燥するなどによりグリーンフィルムを得て、次いで、グリーンフィルムを熱処理に供することでイミド化反応させる方法が挙げられる。
ポリアミド酸溶液を塗布する支持体は、ポリアミド酸溶液をフィルム状に成形するに足る程度の平滑性、剛性を有していればよく、表面が金属、プラスチック、ガラス、磁器などであるドラムまたはベルト状回転体などが挙げられる。中でも、支持体の表面は好ましくは金属であり、より好ましくは錆びなくて耐腐食に優れるステンレスである。支持体の表面にはCr、Ni、Snなどの金属メッキを施してもよい。支持体表面は必要に応じて鏡面にする、あるいは梨地状に加工することができる。またポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルムなどの高分子フィルムを支持体として用いることも可能である。
支持体へのポリアミド酸溶液の塗布は、スリット付き口金からの流延、押出機による押出し、スキージコーティング、リバースコーティング、ダイコーティング、アプリケータコーティング、ワイヤーバーコーティング等を含むが、これらに限られず、従来公知の溶液の塗布手段を適宜用いることができる。
ポリアミド酸溶液をフィルム状に成形して前駆体フィルム(グリーンフィルム)を得て、これをイミド化して、(b)層であるポリイミドフィルムを得る。その具体的なイミド化方法としては、従来公知のイミド化反応を適宜用いることが可能である。例えば、閉環触媒や脱水剤を含まないポリアミド酸溶液を用いて、加熱処理に供することでイミド化反応を進行させる方法(所謂、熱閉環法)やポリアミド酸溶液に閉環触媒および脱水剤を含有させておいて、上記閉環触媒および脱水剤の作用によってイミド化反応を行わせる、化学閉環法を挙げることができるが、ポリイミドフィルム表裏面の表面面配向度の差が小さいポリイミドフィルムを得るためには、熱閉環法が好ましい。
【0043】
熱閉環法の加熱最高温度は、100〜500℃が例示され、好ましくは200〜480℃である。加熱最高温度がこの範囲より低いと充分に閉環されづらくなり、またこの範囲より高いと劣化が進行し、フィルムが脆くなりやすくなる。より好ましい態様としては、150〜250℃で3〜20分間処理した後に350〜500℃で3〜20分間処理する2段階熱処理が挙げられる。
化学閉環法では、ポリアミド酸溶液を支持体に塗布した後、イミド化反応を一部進行させて自己支持性を有するフィルムを形成した後に、加熱によってイミド化を完全に行わせることができる。この場合、イミド化反応を一部進行させる条件としては、好ましくは100〜200℃による3〜20分間の熱処理であり、イミド化反応を完全に行わせるための条件は、好ましくは200〜400℃による3〜20分間の熱処理である。
【0044】
本発明における(a)層のTg(ガラス転移点)が130℃以上300℃未満、吸水率が2質量%未満である熱可塑性樹脂の層に使用される熱可塑性樹脂は、前記の特定物性を保有するものであれば特に限定されるものではない。例えば、熱可塑性ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミド、熱可塑性ポリイミドシロキサン、熱可塑性ポリアミドイミドシロキサン、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、ポリフェニレンオキシド、エポキシ系樹脂などが挙げられ、またこれら樹脂の一種以上の樹脂ブレンドが挙げられ、この層には必要に応じて有機、無機のフィラー、難燃剤などを添加することが出来る。Tg(ガラス転移点)が130℃未満の場合は(b)層の耐熱性を損なう場合が多くなり好ましくなく、またTg(ガラス転移点)が300℃以上になる場合は、(b)層との積層時における取扱い難いなどの課題が多くなり好ましくない。
本発明における接着シートの面方向の線膨張係数が1〜15ppm/℃であり、好ましくは2から10ppm/℃、さらに好ましくは3〜8ppm/℃である。
かかる接着シートの物性を得るためには、(b)層のポリイミドの引張弾性率が5GPa以上、面方向での線膨張係数が−3〜10ppm/℃であることが必須であり、(a)層との積層による接着シートが前記物性を保有することになる。
接着シートの面方向での線膨張係数がこの範囲を超えると接着シートの寸法安定性が低下し、かつ金属層を構成する銅などの金属の線膨張係数との乖離が大きくなり、反りや剥離などの問題が発生し易くなる。
本発明における接着シートの吸水率は好ましくは2.0質量%以下であり、さらに好ましくは1.5質量%以下である。これは(a)層の熱可塑性樹脂の吸水率を2.0%以下にすることで達成できる。
熱可塑性樹脂の吸水率は150℃にて1時間以上乾燥させた測定物を、25℃の純水に24時間浸漬し、その前後の質量増加より求めるものである。吸水率はこの範囲を超えると積層加工時に気泡が発生する場合がある。また吸水率の下限は特に限定されず、理論的には0.0質量%であることが望まれる。
【0045】
本発明の接着シートの多層化(積層)方法は、両層の密着に問題が生じなければ、特に限定されるものではなく、例えば、共押し出しによる方法、一方の層である(b)層のポリイミドフィルム上に他方の熱可塑性ポリイミドのポリアミド酸溶液を流延してこれをイミド化する方法、(b)層上に(a)の熱可塑性ポリイミドのポリアミド酸溶液をスプレーコートなどで塗布してイミド化する方法などが挙げられる。
多層の構成は、少なくとも(a)層、(b)層が積層されておればよく、(b)層上に(a)層が積層されたもの、(a)/(b)/(a)の構成である(b)層の両面に(a)層が積層されたものなどが好ましい。
本発明の接着シートにおける(a)/(b)の厚さの比は、本発明の主旨からして(a)/(b)の厚さの比(三層構成の場合においても(a)は単層としての合計での計算である)は0.001〜1.0が好ましく、より好ましくは0.005〜0.20である。(a)/(b)の厚さの比が1.0を超えると機械的強度が不足したり線膨張係数が大きくなりすぎ所定の接着シートを得ることが困難になる場合が多い。一方0.001未満の場合、表面特性の改良効果が不足する場合が多くなる。機械的強度を主に担う(b)層の厚さが3〜50μmであることが好ましく、3μm未満の場合は機械的強度が不足がちとなり、50μm以上の場合は回路の軽少短薄化において支障が多くなる。
これらの構成によって耐熱性を保持して、かつ面方向での線膨張係数が1〜15ppm/℃である接着シートとなる。
【0046】
本発明における面方向での線膨張係数(CTE)の測定は下記による。
<(b)層のフィルム及び接着シートの面方向での線膨張係数>
測定対象のフィルム及び接着シートについて、下記条件にてMD方向およびTD方向の伸縮率を測定し、90℃〜100℃、100℃〜110℃、…と10℃の間隔での伸縮率/温度を測定し、この測定を400℃まで行い、100℃から200℃までの全測定値の平均値をCTE(平均値)として算出した。MD方向、TD方向の意味は、流れ方向(MD方向;長尺フィルムの長さ方向)および幅方向(TD方向;長尺フィルムの幅方向)を示すものである。面方向での線膨張係数はMD方向、TD方向の値の平均値である。
装置名 ; MACサイエンス社製TMA4000S
試料長さ ; 10mm
試料幅 ; 2mm
昇温開始温度 ; 25℃
昇温終了温度 ; 400℃
昇温速度 ; 5℃/min
雰囲気 ; アルゴン
【0047】
本発明における引張弾性率の測定は下記による。
<(b)層のフィルムの引張弾性率>
測定対象のポリイミドフィルムを、MD方向およびTD方向にそれぞれ100mm×10mmの短冊状に切り出したものを試験片とした。引張試験機(島津製作所製、オートグラフ、機種名AG−5000A)を用い、引張速度50mm/分、チャック間距離40mmの条件で、MD方向、TD方向それぞれについて、引張弾性率を測定した。MD方向、TD方向の区別を明記しないときはMD方向の値である。
【0048】
本発明の接着シートにおける(a)層、(b)層には、滑剤をその層中に添加含有せしめるなどして層(フィルム)表面に微細な凹凸を付与し層の滑り性などを改善することが好ましい。
滑剤としては、無機や有機の0.03μm〜3μm程度の平均粒子径を有する微粒子が使用でき、具体例として、酸化チタン、アルミナ、シリカ、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム、燐酸水素カルシウム、ピロ燐酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、粘土鉱物などが挙げられる。
本発明においては得られた接着シートの表面(特に(a)の表面)を、コロナ処理、大気圧プラズマ処理、真空プラズマ放電処理することは、更なる接着力を高めるために好ましい実施態様である。
【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の評価方法は前記した以外は以下の通りである。
1.ポリアミド酸の還元粘度(ηsp/C)
ポリマー濃度が0.2g/dlとなるようにN−メチル−2−ピロリドンに溶解した溶液をウベローデ型の粘度管により30℃で測定した。
2.層の厚さ
マイクロメーター(ファインリューフ社製、ミリトロン1254D)を用いて測定した。
3.積層接着シートの吸水率
接着シートを約10cm×10cmにカットして試験とした。まず試験片を150℃のドライオーブンにて1時間乾燥し、直後にその質量を測定し初期値とし、ついで25℃のイオン交換水に試験片を24時間入れ、その後に表面の水滴を十分に拭き取って再秤量し吸水値とした。下記式より吸水率を求めた。
(吸水率)=100×{(吸水値)−(初期値)}/(初期値) [質量%]
【0050】
〔ポリアミド酸溶液の重合例1〕
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、500質量部の5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾールを入れた。次いで、5000質量部のN−メチル−2−ピロリドンを加えて完全に溶解させてから、485質量部のピロメリット酸二無水物を加えて、25℃にて48時間攪拌すると、褐色の粘調なポリアミド酸溶液が得られた。この還元粘度(ηsp/C)は4.2dl/gであった。
【0051】
〔ポリアミド酸溶液の重合例2〕
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、200質量部のジアミノジフェニルエーテルを入れた。次いで、4200質量部のN−メチル−2−ピロリドンを加えて完全に溶解させてから、217質量部のピロメリット酸二無水物を加えて、25℃にて5時間攪拌すると、褐色の粘調なポリアミド酸溶液が得られた。この還元粘度(ηsp/C)は3.7dl/gであった。
【0052】
〔製造例1〕
重合例1で得たポリアミド酸溶液を、ポリエチレンテレフタレート製フィルムA−4100(東洋紡績(株)製)の無滑剤面上に、コンマコーターを用いてコーティングし(ギャップは、200μm、塗工幅1240mm)、4つの乾燥ゾーンを有する連続式乾燥炉に通して、温度90℃、各15分計60分乾燥した。
乾燥後に自己支持性となったポリアミド酸フィルムをポリエステルフィルムから剥離して、両端をカットし、厚さ22μm、幅1200mmのそれぞれのグリーンフィルムを得た。
得られたグリーンフィルムを、ピンテンターにて両端を把持した状態で窒素置換された連続式の熱処理炉に通し、第1段が170℃で3分乾燥し、昇温速度4℃/秒で昇温して第2段として450℃で7分の条件で2段階の加熱を施して、イミド化反応を進行させた。その後、5分間で室温にまで冷却することで、褐色を呈する厚さ15μmのポリイミドフィルム(F1)を得た。得られたポリイミドフィルムの引張弾性率は8.2GPa、CTEは2.1ppmであった。
【0053】
〔製造例2〕
重合例2で得たポリアミド酸溶液を、ポリエチレンテレフタレート製フィルムA−4100(東洋紡績(株)製)の無滑剤面上に、コンマコーターを用いてコーティングし(ギャップは、200μm、塗工幅1240mm)、4つの乾燥ゾーンを有する連続式乾燥炉に通して、温度90℃、各15分計60分乾燥し、以下製造例1と同様にして褐色を呈する厚さ15μmのポリイミドフィルム(F2)を得た。得られたポリイミドフィルムの引張弾性率は2.8GPa、CTEは29ppmであった。
【0054】
〔熱可塑性樹脂A1の調整〕
ポリエーテルエーテルケトン樹脂[ビクトレックス社製、PEEK381G]をSUS製の5μmのスペーサーを用いてヒートプレス機(SA303型:テスター産業(株)製)にて設定温度370℃、圧力2MPaにて1分間プレスすることにより、厚さ3μmのPEEKフィルム(熱可塑性樹脂A1)を得た。この熱可塑性樹脂の物性を表1に示す。
【0055】
〔熱可塑性樹脂A2の調整〕
ポリエーテルエーテルケトン樹脂[ビクトレックス社製、PEEK381G]をSUS製の20μmのスペーサーを用いてヒートプレス機(SA303型:テスター産業(株)製)にて設定温度370℃、圧力2MPaにて1分間プレスすることにより、厚さ12μmのPEEKフィルム(熱可塑性樹脂A2)を得た。この熱可塑性樹脂の物性を表1に示す。
【0056】
〔熱可塑性樹脂Bの調整〕
ポリイミドシロキサン樹脂(UPA8517C:宇部興産製)をアプリケーターを用いてポリエチレンテレフタレート製フィルムA−4100(東洋紡績(株)製)の無滑剤面上にギャップを40μmでコーティングし、温度90℃で15分乾燥することで、自己支持性のあるポリアミド酸フィルムを得た。このフィルムを金枠で固定し、室温から200℃まで昇温速度5℃/分で昇温させ、200℃で60分間保持することにより厚みが3μmの熱可塑性ポリイミドシロキサンフィルム(熱可塑性樹脂B)を得た。この熱可塑性樹脂の物性を表1に示す。
【0057】
〔熱可塑性樹脂Cの調整〕
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、200質量部のジフェニルエーテルを入れた。次いで、4200質量部のN−メチル−2−ピロリドンを加えて完全に溶解させてから、217質量部のベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物を加えて、25℃にて5時間攪拌すると、褐色の粘調なポリアミド酸溶液が得られた。この還元粘度(ηsp/C)は3.4dl/gであった。
得られたポリマー溶液を、アプリケーターを用いてポリエチレンテレフタレート製フィルムA−4100(東洋紡績(株)製)の無滑剤面上にギャップを40μmでコーティングし(その後、温度90℃で60分乾燥することで、自己支持性のあるポリアミド酸フィルムを得た。このフィルムを金枠で固定し、室温から350℃まで昇温速度25℃/分で昇温させ、350℃で10分間保持することにより厚みが3μmの熱可塑性ポリイミドフィルム(熱可塑性樹脂C)を得た。この熱可塑性樹脂の物性を表1に示す。
【0058】
〔熱可塑性樹脂Dの調整〕
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、200質量部の1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンを入れた。次いで、4200質量部のN−メチル−2−ピロリドンを加えて完全に溶解させてから、217質量部のベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物を加えて、25℃にて5時間攪拌すると、褐色の粘調なポリアミド酸溶液が得られた。この還元粘度(ηsp/C)は2.4dl/gであった。
得られたポリマー溶液を、アプリケーターを用いてポリエチレンテレフタレート製フィルムA−4100(東洋紡績(株)製)の無滑剤面上にギャップを40μmでコーティングし(その後、温度90℃で60分乾燥することで、自己支持性のあるポリアミド酸フィルムを得た。このフィルムを金枠で固定し、室温から350℃まで昇温速度25℃/分で昇温させ、350℃で10分間保持することにより厚みが3μmの熱可塑性ポリイミドフィルム(熱可塑性樹脂D)を得た。この熱可塑性樹脂の物性を表1に示す。
【0059】
〔熱可塑性樹脂Eの調整〕
温度計、攪拌機、還流式冷却管および蒸留管を具備した反応容器に、トルエン100質量部、ニトリルブタジエンゴム、NIPOL1001(日本ゼオン(株)製、ニトリル含有率40.5質量%)を38質量部、同じくNIPOL1312(日本ゼオン(株)製、ニトリル含有率31〜36質量%)4質量部を仕込み溶解後、フェノールノボラック型エポキシ樹脂のBREN(日本化薬(株)製)58質量部、イミダゾール化合物のキュアゾール2E4MZ−CN(四国化成(株)製)0.6質量部を加え、十分に混合し接着剤溶液とした。アプリケーターを用いて接着剤溶液をポリエチレンテレフタレート製フィルムA−4100(東洋紡績(株)製)の無滑剤面上にギャップを40μmでコーティングしその後、温度90℃で60分乾燥することで、厚みが3μm自己支持性のある熱可塑性樹脂Eのフィルムを得た。
Eの物性評価用サンプルは、ヒートプレスにて160℃、2hr硬化処理することで調整した。この熱可塑性樹脂の物性を表1に示す。
【0060】
〔実施例1〕
(b)層としてポリイミドフィルム(F1)と(a)層として前記熱可塑性樹脂A1のフィルムをラミネーターで150℃、5MPa、0.5m/minで張り合わせた。積層体をヒートプレスにより200℃、10MPa、60minの条件で加熱処理することにより(a)/(b)/(a)の層構成の接着シートを作製した。この接着シートの評価結果を表2に示す。
【0061】
〔実施例2〕
(b)層としてポリイミドフィルム(F1)と(a)層として熱可塑性樹脂Bフィルムをラミネーターで250℃、5MPa、0.5m/minで張り合わせた。積層体をヒートプレスにより250℃、10MPa、60minの条件で加熱処理することにより(a)/(b)/(a)の層構成の積層接着シートを作製した。この積層接着シートの評価結果を表2に示す。
【0062】
〔実施例3〕
(b)層としてポリイミドフィルム(F1)と(a)層として熱可塑性樹脂Cフィルムをラミネーターで300℃、5MPa、0.5m/minで張り合わせた。積層体をヒートプレスにより300℃、20MPa、60minの条件で加熱処理することにより(a)/(b)/(a)の層構成の積層接着シートを作製した。この積層接着シートの評価結果を表2に示す。
【0063】
〔実施例4〕
ポリイミドフィルム(F1)を連続式スパッタ装置に装着し、周波数13.56MHz、出力400W、ガス圧0.8Paの条件、ニッケル−クロム(クロム含有量10%)合金のターゲット用い、アルゴン雰囲気下にてRFスパッタ法により、10Å/秒のレートで厚さ50Åのニッケル−クロム合金被膜を形成した。次いで、100Å/秒のレートで銅を蒸着し、厚さ0.3μmの銅薄膜を形成させた。その後、このフィルムを250mm×400mmに切り出し、プラスチック製の枠に固定し直し、硫酸銅めっき浴を用いて、厚さ5μmの厚付け銅メッキ層を上記銅薄膜上に形成して、金属化ポリイミドフィルム(金属化フィルム)を得た。
(b)層として金属化ポリイミドフィルムと(a)層として熱可塑性樹脂A1フィルムをラミネーターで150℃、5MPa、0.5m/minで張り合わせた。積層体をヒートプレスにより200℃、10MPa、60minの条件で加熱処理することにより(a)/(b)/(c)の層構成の積層接着シートを作製した。この積層接着シートの評価結果を表2に示す。
【0064】
〔比較例1〕
(b)層としてポリイミドフィルム(F1)と(a)層として熱可塑性樹脂Dフィルムをラミネーターで250℃、5MPa、0.5m/minで張り合わせた。積層体をヒートプレスにより250℃、20MPa、60minの条件で加熱処理することにより(a)/(b)/(a)の層構成の積層接着シートを作製した。この積層接着シートの評価結果を表2に示す。
【0065】
〔比較例2〕
(b)層としてポリイミドフィルム(F1)と(a)層として熱可塑性樹脂Eフィルムをラミネーターで100℃、5MPa、0.5m/minで張り合わせた。積層体をヒートプレスにより160℃、10MPa、120minの条件で加熱処理することにより(a)/(b)/(a)の層構成の積層接着シートを作製した。この積層接着シートの評価結果を表2に示す。
【0066】
〔比較例3〕
(b)層としてポリイミドフィルム(F2)と(a)層として熱可塑性樹脂A1フィルムをラミネーターで150℃、5MPa、0.5m/minで張り合わせた。積層体をヒートプレスにより200℃、10MPa、60minの条件で加熱処理することにより(a)/(b)/(a)の層構成の積層接着シートを作製した。この積層接着シートの評価結果を表2に示す。
【0067】
〔比較例4〕
(b)層としてポリイミドフィルム(F1)と(a)層として熱可塑性樹脂A2フィルムをラミネーターで150℃、5MPa、0.5m/minで張り合わせた。積層体をヒートプレスにより200℃、10MPa、60minの条件で加熱処理することにより(a)/(b)/(a)の層構成の積層接着シートを作製した。この積層接着シートの評価結果を表2に示す。
【0068】
(銅張り積層接着シートの製造と接着強度の評価)
ロール内部加熱及び外部加熱併用方式のシリコーンゴムロール・ラミネート機を用い、加熱により、ロール表面温度を178℃に設定した。ロール間に〔実施例1〕で作製した積層接着シートを通し、その両側から、厚み12.5μmの電解銅箔(USLP−SE:日本電解製)を供給し、銅箔/熱融着性多層ポリイミドフィルム/銅箔からなる両面銅張り積層フィルムを得た。同様にして、各実施例、比較例で使用したフィルムと銅箔との張り合わせを、熱可塑性樹脂層のガラス転移温度より30℃高い温度で行い、両面銅張り積層フィルムを作製した。実施例4の銅層付き積層接着シートは、熱可塑性樹脂層の面のみを、銅箔と張り合わせ、銅張り積層フィルムを作製した。
上記にて作製した、銅張り積層接着シートを2mm幅にスリットし、まず、端面より銅箔と接着シートの界面が出るようにカッターナイフを用いて引張試験機でチャッキング可能な長さまで剥離した。引張試験機(島津製作所製、オートグラフ、機種名AG−5000A)を用い、引張速度50mm/分にて90度剥離試験を行い、得られたチャートより銅箔面との接着強度、フィルム面との接着強度を読み分けた。評価結果を表3に示す。
(ポリイミド積層接着シートの製造と接着強度の評価)
上記の銅箔の代わりに、製造例1で作製したポリイミドフィルム(F1)を銅張り積層接着シートの製造と同様の条件でポリイミド積層接着シートを作製した。ポリイミド積層接着シートを2mm幅にスリットし、まず、端面よりポリイミドと接着シートとの界面が出るようにカッターナイフを用いて引張試験機でチャッキング可能な長さまで剥離した。引張試験機(島津製作所製、オートグラフ、機種名AG−5000A)を用い、引張速度50mm/分にて90度剥離試験を行い、得られたチャートより銅箔面との接着強度、フィルム面との接着強度を読み分けた。評価結果を表3に示す。
【0069】
(多層基板1の製造)
実施例1で使用した厚さ15μmのポリイミドフィルムの両面を、アルゴン/酸素=85:15(質量部比)のガス中でプラズマ処理し、各面全面にニッケル・クロム(80:20質量部比)を100Åの厚さでスパッタリングして形成し、次いで同じく銅を1000Åの厚さでその上にスパッタリングして形成し、両面導電化フィルムを作製した。
作製した両面導電化フィルムの片面に液状レジストを用いて膜厚6μmのネガレジストを形成し、電気鍍金で3μm厚みで銅を厚付けし、レジストを剥離し、フラッシュエッチングとニッケルリムーバーで導電化層を除去し、線間/線幅が10μm/10μmの微細線を含むLCDドライバ搭載用を想定した5cm×5cmのテスト用回路パターンを形成した。裏面には同様にして、5mm角の正方形パターンをパターン間0.5mmで格子状に形成し、テスト用回路基板を同様にして多数作製した。パターンの面積密度は表裏とも50%である。
作製したテスト用回路基板を3枚用意し、各基板間と上下とに実施例1で得た積層接着シートを挟み、ホットプレスにて積層を施し7層のテスト用多層基板を作製した。
作製したテスト用多層基板を用いて接着強度などの次の評価を行った。
同様にして、各実施例、比較例で使用したフィルムを使用してテスト用回路基板を同様にして多数作製した。作製したテスト用回路基板を3枚用意し、各基板間と上下とに各実施例、比較例の同一の積層接着シートを挟み、ホットプレスにて積層を施し7層のテスト用多層基板を作製した。
【0070】
(多層基板2の製造)
実施例4で作製した銅層付積層接着フィルムの銅層面にフォトレジスト(FR−200、シプレー社製)を塗布・乾燥後にガラスフォトマスクで密着露光し、さらに1.2質量%KOH水溶液にて現像した。次に、HClと過酸化水素を含む塩化第二銅のエッチングラインで、40℃、2kgf/cm2のスプレー圧でエッチングし、線間/線幅が25μm/25μmの微細線を含むLCDドライバ搭載用を想定した5cm×5cmのテスト用回路パターンを形成した。
このテストパターンを内層部材として同一方向に5枚、最外層として(多層基板1の製造)で作製した両面導電化フィルム2枚を上下面に挟み、ホットプレスにて積層を施し7層のテスト用多層基板を作製した。
【0071】
(多層基板の評価)
1.外観
定盤に乗せての観察、10倍の実体顕微鏡による拡大観察により、ソリ、歪みの有無、ならびにブリスターの発生有無、その他外観異常の観察を目視で行った。
2.断面観察
テスト用多層基板を微細線パターンの幅方向の断面が出る方向に切断し、樹脂にて包埋し端面研磨した後に顕微鏡で拡大観察し、次の点を評価した。
(1)回路間の埋め込み性
線間100カ所についてボイドの有無を観察した。
その評価結果を下記表3に示す。
3.加速試験
テスト用の基板を、PCT環境(121℃、100%RH、2atom、168hr)に放置した後、300℃半田浴に1分間浸漬させ、サンプルを取り出した。外観を目視により観察し、接着シートの発泡、膨れが確認された場合は不良、確認されなかった場合は良好とした。
4.ドリル加工性
テスト用の基板に対してNCドリルマシンを用い、穴径φ250μmのスルーホールを作製した。ドリルの回転速度は12000rpmである。スルーホール形成後、エポキシ樹脂で包埋し穴内部を端面研磨した後に顕微鏡で拡大観察した。スルーホール内部での熱可塑性樹脂層と熱硬化性ポリイミド層との界面に段差が確認されないものを○、小さな段差が見られるものを△、大きな段差が見られるものを×とした。評価結果を表3に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の積層接着シートは、高温での金属薄膜や金属箔との接合に優れ、かつ高温時における変形・反り・歪みなどのないフレキシブルな金属積層板たとえばフレキシブルプリント回路板などの層間絶縁層として極めて有用であり、絶縁層形成時の加圧加熱成型時において、基材のポリイミド層(フィルム)の変形が抑制されたものであり、かつ(a)層の接着剤層への加圧均等性が向上して前記接着剤層の回路間への浸透が効率よく達成できる。(b)層の絶縁層厚さの保障による耐熱性絶縁保障が可能なものであり、さらに総厚さを薄くすることが可能であり多層プリント配線板などの層間絶縁に使用した場合に得られる多層プリント配線板などの軽少(軽薄)化を達成しうるものであり、電子機器の高機能化、高性能化、軽小化に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)層と(b)層とが少なくとも積層されてなる構成を特徴とする積層接着シート。
(a)層:Tg(ガラス転移点)が130〜300℃、吸水率が2質量%未満である熱可塑性樹脂の層。
(b)層:引張弾性率が5GPa以上、面方向での線膨張係数が−3〜10ppm/℃である熱硬化性ポリイミド樹脂の層。
【請求項2】
層構成が(a)/(b)/(a)の三層構造である請求項1記載の積層接着シート。
【請求項3】
(b)層が少なくとも芳香族テトラカルボン酸類の残基としてピロメリット酸残基、および芳香族ジアミン類の残基としてベンゾオキサゾール骨格を有するジアミン残基を有するポリイミドである請求項1〜2いずれかに記載の接着シート。
【請求項4】
(a)層と(b)層との厚さの比(a)/(b)が0.001〜1であり、(b)層の厚さが3〜50μmである請求項1〜3のいずれかに記載の積層接着シート。
【請求項5】
接着シートの面方向での線膨張係数が1〜15ppm/℃である請求項1〜4いずれかに記載の積層接着シート。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載の積層接着シートの少なくとも一面に金属層を積層した金属層付き積層接着シート。
【請求項7】
請求項1〜6いずれかに記載の積層接着シートを用いた回路基板。

【公開番号】特開2007−254530(P2007−254530A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−78635(P2006−78635)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】