説明

積層樹脂フィルムおよびその製造方法

【課題】 プレートアウトによるロール汚染、ダイスのメヤニ、ダイスからのミスト(発煙)がなく、製膜性(耳のトリミング性)が良好で、外観性(フィッシュアイ、ブツ)、耐衝撃性、透明性(ヘーズ)に優れた積層樹脂フィルムおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 ポリ乳酸系樹脂層の両面に、ポリオレフィン系樹脂層を積層してなる積層樹脂フィルムであって、前記ポリ乳酸系樹脂層と両面に積層されてなるポリオレフィン系樹脂層が、多層押出機を用いて押し出されて積層されてなることを特徴とする積層樹脂フィルム。乳酸系樹脂およびポリオレフィン系樹脂を多層押出機から押し出し、前記ポリ乳酸系樹脂層の両面に前記ポリオレフィン系樹脂層を積層する工程を有する製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層樹脂フィルムおよびその製造方法に関するものであり、詳しくは、プレートアウトによるロール汚染、ダイスのメヤニ、ダイスからのミスト(発煙)がなく、製膜性(耳のトリミング性)が良好で、外観性(フィッシュアイ、ブツ)、耐衝撃性、透明性(ヘーズ)に優れた積層樹脂フィルムおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、レジ袋、ゴミ袋、包装袋、土嚢袋、農業用マルチフィルムは、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンやポリプロピレン等汎用樹脂から製造される。これらの汎用樹脂のフィルムは、安価で強度があり、長持ちする特徴がある一方、自然環境下で殆ど分解されないために、使用後の埋設処理した場合は半永久的に残留したり、投棄された場合は環境問題を引き起こす等の問題を抱えている。
これに対して、熱可塑性樹脂で生分解性を有する樹脂として、ポリ乳酸等のポリヒドロキシカルボン酸、及び脂肪族多価アルコールと脂肪族多価カルボン酸から誘導される脂肪族ポリエステル等が開発されている。これらのポリマーは、動物の体内で数ヶ月から1年以内に100%生分解し、または、土壌や海水中に置かれた場合、湿った環境下では数週間で分解し始め、約1年〜数年で消滅する。さらに、分解生成物は、人体に無害な乳酸と二酸化炭素と水になる特性を有している。
特にポリ乳酸は、近年、原料のL−乳酸が発酵法により大量かつ安価に製造されるようになってきたことや、堆肥(コンポスト)の中での分解速度が速く、カビに対する抵抗性、食品に対する耐着臭性や耐着色性等、優れた特徴を有することにより、その利用分野の拡大が期待されている。しかしながらポリ乳酸は剛性が高いために、フィルムや包装材料等の柔軟性が要求される用途には適切な樹脂とは言い難い。
【0003】
そこで、ポリ乳酸を軟質化する技術として、例えば、乳酸樹脂(A)と、乳酸系樹脂及びジオール・ジカルボン酸の共重合体(B)とを含み、成分(A)及び成分(B)に占める成分(A)の割合が10〜40質量%であり、成分(B)の割合が90〜60質量%である乳酸系樹脂組成物を用いてなる乳酸系軟質フィルムであって、当該乳酸系樹脂組成物は、示差走査熱量測定において加熱速度10℃/分で測定されるガラス転移温度が単一となり、そのガラス転移温度が、成分(A)のガラス転移温度と成分(B)のガラス転移温度との間にある乳酸系樹脂組成物であることを特徴とする乳酸系軟質フィルムが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、上記構成の乳酸系軟質フィルムは、Tダイ押出機を用いて押出し製膜した場合、プレートアウトによるロール汚染、ダイスのメヤニ、ダイスからのミスト(発煙)等の問題がある。また、耳のトリミング性が悪く、製膜性に劣るという問題がある。さらに、フィッシュアイ、ブツによる外観性、透明性(ヘーズ)が十分満足するものではなく、改善の余地があった。
【特許文献1】特開2005−336468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって本発明の目的は、プレートアウトによるロール汚染、ダイスのメヤニ、ダイスからのミスト(発煙)がなく、製膜性(耳のトリミング性)が良好で、外観性(フィッシュアイ、ブツ)、耐衝撃性、透明性(ヘーズ)に優れた積層樹脂フィルムおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下のとおりである。
1.ポリ乳酸系樹脂層の両面に、ポリオレフィン系樹脂層を積層してなる積層樹脂フィルムであって、前記ポリ乳酸系樹脂層と両面に積層されてなるポリオレフィン系樹脂層が、多層押出機を用いて押し出されて積層されてなることを特徴とする積層樹脂フィルム。
2.前記ポリ乳酸系樹脂層の樹脂成分が、ポリ乳酸30〜95質量%と、ポリ乳酸およびジオール・ジカルボン酸の共重合体70〜5質量%とからなることを特徴とする前記1に記載の積層樹脂フィルム。
3.前記ポリ乳酸およびジオール・ジカルボン酸の共重合体が、ポリ乳酸およびプロピレングリコール・コハク酸の共重合体であることを特徴とする前記2に記載の積層樹脂フィルム。
4.前記ポリ乳酸系樹脂層が、前記樹脂成分100質量部に対して、さらにグリセリンジアセトモノエステル0.2〜10質量部を含有してなることを特徴とする前記2または3に記載の積層樹脂フィルム。
5.前記ポリオレフィン系樹脂層の樹脂成分が、低密度ポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂からなることを特徴とする前記1に記載の積層樹脂フィルム。
6.前記ポリオレフィン系樹脂層が、使用時に剥して使用する保護フィルムであることを特徴とする前記1〜5のいずれかに記載の積層樹脂フィルム。
7.前記1〜6のいずれかに記載の積層樹脂フィルムを製造する方法であって、乳酸系樹脂およびポリオレフィン系樹脂を多層押出機から押し出し、前記ポリ乳酸系樹脂層の両面に前記ポリオレフィン系樹脂層を積層する工程を有することを特徴とする前記製造方法。
【発明の効果】
【0006】
特許文献1に記載の乳酸系軟質フィルムを、一般的な製膜方法、例えばTダイ押出機を用いて単層押出しにより製膜した場合、プレートアウトによるロール汚染、ダイスのメヤニ、ダイスからのミスト発生、また製膜性および外観性が悪化するという問題があった。これに対し本発明では、乳酸系樹脂およびポリオレフィン系樹脂を多層押出機から押し出し、ポリ乳酸系樹脂層の両面にポリオレフィン系樹脂層を積層することにより、乳酸系樹脂層がポリオレフィン系樹脂層に挟み込まれ、ロールやダイスの吐出口端部に直接接触することがなく、ロール汚染、メヤニの問題が解決される。またポリオレフィン系樹脂層によってポリ乳酸系樹脂層からのミストがブロックされ、ミスト発生の問題も解消する。また、従来技術において単層のポリ乳酸系樹脂層の耳部をトリミングしようとすると、ポリ乳酸系樹脂層の剛性が高いがために、トリミングされた耳部に割れや破断が生じ、連続的なトリミングが不可能であり、連続生産に悪影響を及ぼしていた。これに対し本発明では、剛性の高いポリ乳酸系樹脂層が、柔軟性の高いポリオレフィン系樹脂層に挟み込まれているため、該ポリオレフィン系樹脂層が緩衝材としての役割を果たし、トリミングされた耳部に割れや破断が生じない。これにより、製膜性、ひいては生産性を高めることができる。また、本発明の好適な形態である、ポリ乳酸系樹脂層の樹脂成分がポリ乳酸とポリ乳酸およびジオール・ジカルボン酸の共重合体とからなり、該共重合体の分散剤としてグリセリンジアセトモノエステルを使用する形態では、得られる積層樹脂フィルムの耐衝撃性を高めるとともに、外観性も向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
【0008】
(ポリ乳酸系樹脂層)
ポリ乳酸系樹脂層の樹脂成分に用いられるポリ乳酸としては、構造単位がL−乳酸であるポリ(L−乳酸)、構造単位がD−乳酸であるポリ(D−乳酸)、構造単位がL−乳酸及びD−乳酸であるポリ(DL−乳酸)、或いはこれらの混合体を用いることができる。中でも本発明の場合、結晶性が高い方が好ましく、この観点から、ポリ(L−乳酸)を用いるのが好ましい。
但し、ここでいうポリ(L−乳酸)は、理想的にはL−乳酸100%からなるポリマーであるが、重合に際し不可避的に異なる乳酸が含まれる可能性があるため、L−乳酸を98%以上含むものである。
【0009】
上記混合体としては、D−乳酸(D体)とL−乳酸(L体)との構成比が、L体:D体=100:0〜90:10、もしくは、L体:D体=0:100〜10:90であることが好ましい。D体とL体との構成比が、この範囲内であれば、得られる成形品の耐熱性が高く、用途が制限されることがない。中でも好ましくは、L体:D体=99.5:0.5〜94:6、もしくは、L体:D体=0.5:99.5〜6:94である。
なお、L体とD体との共重合比が異なるポリ乳酸をブレンドしてもよい。この場合、複数のポリ乳酸のL体とD体との共重合比の平均値が上記範囲内に入るようにすればよい。L体とD体のホモポリマーと、共重合体をブレンドすることにより、ブリードのし難さと耐熱性の発現とのバランスをとることができる。
【0010】
ポリ乳酸の重合法としては、縮合重合法、開環重合法、その他公知の重合方法を採用することができる。例えば縮合重合法では、L−乳酸またはD−乳酸、あるいはこれらの混合物等を直接脱水縮合重合して任意の組成を有するポリ乳酸を得ることができる。また、開環重合法(ラクチド法)では、乳酸の環状二量体であるラクチドを、必要に応じて重合調節剤等を用いながら、適当な触媒を使用して任意の組成、結晶性を有するポリ乳酸を得ることができる。ラクチドには、L−乳酸の二量体であるL−ラクチド、D−乳酸の二量体であるD−ラクチド、或いはL−乳酸とD−乳酸からなるDL−ラクチドがあり、これらを必要に応じて混合して重合することにより任意の組成、任意の結晶性を有するポリ乳酸を得ることができる。
【0011】
本発明に用いられるポリ乳酸は、重量平均分子量が5万〜40万の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは10万〜25万の範囲である。ポリ乳酸の重量平均分子量が5万以上であれば機械物性や耐熱性等の実用物性を確保することができ、40万以下であれば溶融粘度が高過ぎて成形加工性が劣るようになることがない。
【0012】
好ましく使用される市販のポリ乳酸としては、例えば(株)島津製作所製の商品名「ラクティ」シリーズ、三井化学(株)製の商品名「レイシア」シリーズ、カーギル・ダウ社製の商品名「Nature Works」シリーズ等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0013】
本発明では、ポリ乳酸系樹脂層の樹脂成分が、(A)ポリ乳酸30〜95質量%と、(B)ポリ乳酸およびジオール・ジカルボン酸の共重合体70〜5質量%とからなることが好ましい。(B)共重合体を使用することにより、ポリ乳酸系樹脂層に柔軟性を付与し、積層樹脂フィルムの耐衝撃性を高めることができる。
【0014】
(B)共重合体を構成するポリ乳酸は、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸のいずれかであればよいが、(A)のポリ乳酸の構造単位と同じ構造のものが特に好ましい。
【0015】
他方、ジオール・ジカルボン酸のジオール成分は、特に限定するものではないが、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール等の直鎖状ジオール、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2,3−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,3−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール等の分岐鎖状ジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、テトラメチレングリコール等のポリオールを挙げることができ、中でもプロピレングリコールが好ましい。
【0016】
ジオール・ジカルボン酸のジカルボン酸成分は、特に限定するものではないが、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の直鎖状ジカルボン酸、メチルコハク酸、ジメチルコハク酸、エチルコハク酸、2−メチルグルタル酸、2−エチルグルタル酸、3−メチルグルタル酸、3−エチルグルタル酸、2−メチルアジピン酸、2−エチルアジピン酸、3−メチルアジピン酸、3−エチルアジピン酸、メチルグルタル酸等の分岐状ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘキサハイドロフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、無水フタル酸、ビスフェノールA、ビフェノール等の芳香族ジカルボン酸を挙げることができ、中でもコハク酸が好ましい。
【0017】
本発明において、ポリ乳酸系樹脂層の樹脂成分は、(A)ポリ乳酸40〜85質量%と、(B)ポリ乳酸およびジオール・ジカルボン酸の共重合体60〜15質量%とからなることがさらに好ましい。
【0018】
また本発明では、ポリ乳酸系樹脂層の樹脂成分100質量部に対して、グリセリンジアセトモノエステル0.2〜10質量部を含有してなることがさらに好ましい。該グリセリンジアセトモノエステルは、前記(B)共重合体の分散剤として機能し、得られる積層樹脂フィルムの耐衝撃性を高めるとともに、前記(B)共重合体の分散不良によるフィッシュアイやブツを防止し、外観性も向上する。
【0019】
グリセリンジアセトモノエステルとしては、上記の効果に加え、相溶性や生分解性の観点から、分子量2,000以下、例えば500〜1,000の1種類或いは2種類以上の組合わせからなるものが好ましい。モノエステル部分としては、炭素数5〜20の直鎖または分岐のアルキレン基を有するものが好ましい。
【0020】
本発明において、ポリ乳酸系樹脂層の樹脂成分100質量部に対して、グリセリンジアセトモノエステル0.5〜5質量部を含有してなることがとくに好ましい。
【0021】
(オレフィン系樹脂層)
本発明におけるオレフィン系樹脂層の樹脂成分としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン−1、4−メチルペンテン−1等のオレフィンの単独重合体、またはこれらのオレフィンを主体とする共重合体が挙げられる。該共重合体に用いるコモノマーとしては、炭素数2〜10のα−オレフィン、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、3−メチルペンテン−1、オクテン−1等が挙げられる。
これらの樹脂成分は、上記モノマーを通常の方法によって重合することにより合成され、その際に使用される触媒としては、チーグラー・ナッタ系触媒やメタロセン系触媒等が挙げられる。
【0022】
本発明におけるオレフィン系樹脂層の樹脂成分の好ましい例としては、低密度ポリエチレン系樹脂(LDPE)、ポリプロピレン系樹脂が挙げられる。なお、上記各樹脂は、エチレンもしくはプロピレンの単独重合体以外にも、上記で例示したコモノマーを本発明の効果が損なわれない範囲において配合することもできる。
本発明におけるオレフィン系樹脂層のポリエチレン系樹脂成分の190℃、21.18N荷重下のMFRは、好ましくは0.5〜15g/10分、より好ましくは1〜10g/10分である。又、ポリプロピレン系樹脂成分の230℃、21.18N荷重下のMFRは、好ましくは0.5〜15g/10分、より好ましくは1〜10g/10分である。
【0023】
なお本発明において、ポリ乳酸系樹脂層および/またはポリオレフィン系樹脂層には、必要に応じて公知の紫外線吸収剤、滑剤、抗酸化剤等を添加することもできる。またポリオレフィン系樹脂層はポリ乳酸系樹脂層の両面に設けられるが、ポリオレフィン系樹脂層は両面において同じあるいは異なっていてもよい。
【0024】
(多層押出機)
本発明における多層押出機は、とくに制限されず、公知の多層押出機を使用することができる。一般的に多層押出機は、フィードブロックあるいはマルチマニホールドダイを用い、複数の樹脂をTダイより同時に押し出す機構を有している。
本発明では、ポリ乳酸系樹脂層の押出温度は、160〜210℃が好ましく、ポリオレフィン系樹脂層の押出温度は、170〜220℃が好ましい。フィードブロックを用いる場合、フィードブロック温度は180〜220℃が好ましく、Tダイ温度は、180〜220℃が好ましい。
本発明の積層樹脂フィルムにおいて、ポリ乳酸系樹脂層の厚さは30〜200μm、好ましくは50〜100μm、ポリオレフィン系樹脂層の厚さは5〜80μm、好ましくは20〜50μmである。
【0025】
上記のようにして得られた本発明の積層樹脂フィルムは、ポリ乳酸系樹脂層からポリオレフィン系樹脂層を容易に剥離することができる。したがって、ポリオレフィン系樹脂層は、使用時に剥して使用する、ポリ乳酸系樹脂層の保護フィルムとなり得る。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0027】
実施例および比較例で使用した各種成分を以下に示す。
・ポリ乳酸(1):三井化学製、商品名 LACEA H−440、重量平均分子量21万、L体/D体=96/4、融点155℃。
・ポリ乳酸(2):三井化学製、商品名 LACEA H−400、重量平均分子量22万、L体/D体=98/2、融点165℃。
・ポリ乳酸およびジオール・ジカルボン酸の共重合体(1):大日本インキ化学工業製、商品名 プラメートPD−350、ポリ乳酸/プロピレングリコール・コハク酸=50/50(wt%)、プロピレングリコール/コハク酸=51/49(mol%)、重量平均分子量6万。)
・ポリ乳酸およびジオール・ジカルボン酸の共重合体(2):大日本インキ化学工業製、商品名 プラメートPD−150、ポリ乳酸/プロピレングリコール・セバシン酸=51/49(wt%)、重量平均分子量10万。
・グリセリンジアセトモノエステルマスターバッチ:理研ビタミン社製、商品名 GPR−043、ポリ乳酸樹脂のグリセリンジアセトモノエステル20%マスターバッチ、ポリ乳酸樹脂/グリセリンジアセトモノエステル=80/20(wt%)、酢酸/直鎖カルボン酸/グリセリン=2/1/1(mol%)、直鎖カルボン酸の平均構造はC715COOH。分散剤。
・LDPE:低密度ポリエチレン、東ソー(株)製、商品名 ペトロセン339、MFR値=3g/10分(230℃、21.18N荷重)、融点=113℃。
・PP:プロピレンとエチレンのランダム共重合体、出光興産社製、商品名 F−730NV、MFR値=6.5g/10分(230℃、21.18N荷重)、融点=137℃、エチレン単位=3.4質量%。
・LDPEフィルム(比較例6〜8):低密度ポリエチレン(東ソー(株)製、商品名 ペトロセン339、MFR値=3g/10分)を40mm押出機〔(株)池貝製、〕を用いて、35mm厚に製膜したフィルム。
【0028】
実施例1
多層押出機〔(株)池貝製、40mm押出機(主層用)にTダイ方式のフィードブロックを装着し、サイドに30mm押出機(副層用)2台を取り付けた多層押出機〕を用いて、下記配合のポリ乳酸系樹脂層(主層)を厚さ80μmとして、その両面にLDPE(副層)を厚さ35μmとして多層押出成形し、積層樹脂フィルムを製膜した。
多層押出条件は、主層用押出機(40mm押出機)のバレル温度:C1〜C4=160℃〜190℃、スクリュー回転:60rpm、副層用押出機(30mm押出機)のバレル温度:C1〜C4=170℃〜190℃、スクリュー回転:30rpm、フィードブロック温度:210℃、Tダイ(600mm幅)温度:200℃で行った。
ポリ乳酸系樹脂層の配合は、ポリ乳酸(1)を50質量部、ポリ乳酸およびジオール・ジカルボン酸の共重合体(1)を50質量部、グリセリンジアセトモノエステルマスターバッチを5質量部(グリセリンジアセトモノエステルとして1質量部)とした。
【0029】
得られた積層樹脂フィルムについて、下記の評価を行った。
(1)プレートアウト性
押出機のダイスから出た溶融樹脂は、金属ロール(シボロール)とゴムロールに挟まれ冷却されるが、金属ロール(シボロール)の汚染状況を目視で観察し、下記の基準により評価した。
・プレートアウト性の評価基準
○:全く汚染されていない。
△:汚染されているが製品に影響が出るレベルではない。
×:汚染がひどく製品に影響が出るレベルである。
【0030】
(2)押出機ダイスのメヤニ
押出機ダイスのリップ口の汚染状況を目視で観察し、下記の基準により評価した。
・メヤニの評価基準
○:全く汚染されていない。
△: 汚染されているが製品に影響が出るレベルではない。
×:汚染がひどく製品に影響が出るレベルである。
【0031】
(3)押出機ダイスからのミスト(発煙性)
押出機ダイスからの発煙性の状況を目視で観察し、下記の基準により評価した。
・発煙性の評価基準
○:発煙が全く発生しない。
△:発煙が発生しているが生産に影響するレベルではない。
×:発煙が大きく生産できないレベルである。
【0032】
(4)製膜性(耳トリミング性)
600mm幅のTダイから押出された積層樹脂フィルムをロール冷却後、巾30cmに耳カッターでスリットして積層樹脂フィルムを巻き取り機で巻き取ったが、両側の耳についても、耳巻き取り機で巻き取った。耳カッター、耳巻き取りの状況を目視で観察し、耳トリミング性を下記の基準により評価した。
・耳トリミング性の評価基準
○:耳巻き取りのトラブルがなく、生産する上で問題ない。
△:耳巻き取りのトラブルが時々あり、生産する上でやや問題がある。
×:耳巻き取りのトラブルが多発し、耳巻取りが出来きず生産出来ない。
【0033】
(5)外観性(フィッシュアイ、ブツ)
積層樹脂フィルムの両面のLDPEを剥したポリ乳酸系樹脂フィルムについて、フィッシュアイ、ブツを目視で観察し、下記の基準により評価した。
・外観性の評価基準
○:フィッシュアイ、ブツが全くない。
△:フィッシュアイ、ブツが少しある。
×:フィッシュアイ、ブツが多い。
【0034】
(6)耐衝撃性
ASTM D−1790に準じ耐衝撃性を測定した。測定温度は、23℃で行い、下記の基準により評価した。
・耐衝撃性の評価基準
○:10回の耐衝撃試験において割れが無い。
△:10回の耐衝撃試験において1以上または9以下の割れがある。
×:10回の耐衝撃試験において全て割れる。
【0035】
(7)ヘーズ
JIS K 7136にしたがい、濁度計〔日本電色工業(株) NDH2000〕を用いて測定した。
【0036】
評価結果を表1に示す。
【0037】
実施例2
実施例1において、グリセリンジアセトモノエステルマスターバッチを使用しなかったこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表1に示す。
【0038】
実施例3
実施例1において、共重合体(1)およびグリセリンジアセトモノエステルマスターバッチを使用せず、ポリ乳酸(1)の配合量を100質量部に変更したこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表1に示す。
【0039】
実施例4
実施例1において、LDPEの替わりにPPを用い、ポリ乳酸(1)の配合量を80質量部に、共重合体(1)の配合量を20質量部に変更したこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表1に示す。
なお、多層押出条件は、主層用押出機(40mm押出機)のバレル温度:C1〜C4=190℃〜220℃、スクリュー回転:60rpm、副層用押出機(30mm押出機)のバレル温度:C1〜C4=190℃〜220℃、スクリュー回転:30rpm、フィードブロック温度:220℃、Tダイ(600mm幅)温度:210℃で行った。
【0040】
実施例5
実施例1において、ポリ乳酸(1)の配合量を20質量部に、共重合体(1)の配合量を80質量部に、グリセリンジアセトモノエステルマスターバッチの配合量を10質量部に変更したこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表1に示す。
【0041】
実施例6
実施例1において、ポリ乳酸(1)をポリ乳酸(2)に変更したこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表2に示す。
【0042】
実施例7
実施例6において、グリセリンジアセトモノエステルマスターバッチを使用しなかったこと以外は、実施例6を繰り返した。結果を表2に示す。
【0043】
実施例8
実施例1において、共重合体(1)を共重合体(2)に変更したこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表2に示す。
【0044】
比較例1
押出機〔(株)池貝製、40mm押出機〕を用いて、下記配合のポリ乳酸系樹脂層を厚さ80μmとして押出成形し、樹脂フィルムを製膜した。
押出条件は、押出機(40mm押出機)のバレル温度:C1〜C4=180℃〜190℃、スクリュー回転:50rpm、Tダイ(600mm幅)温度:200℃で行った。
ポリ乳酸系樹脂層の配合は、ポリ乳酸(1)を50質量部、ポリ乳酸およびジオール・ジカルボン酸の共重合体(1)を50質量部、グリセリンジアセトモノエステルマスターバッチを5質量部(グリセリンジアセトモノエステルとして1質量部)とした。
実施例1と同様の評価を行った。結果を表3に示す。
【0045】
比較例2
比較例1において、グリセリンジアセトモノエステルマスターバッチを使用しなかったこと以外は、比較例1を繰り返した。結果を表3に示す。
【0046】
比較例3
比較例1において、共重合体(1)およびグリセリンジアセトモノエステルマスターバッチを使用せず、ポリ乳酸(1)の配合量を100質量部に変更したこと以外は、比較例1を繰り返した。結果を表3に示す。
【0047】
比較例4
比較例1において、ポリ乳酸(1)の配合量を80質量部に、共重合体(1)の配合量を20質量部に変更したこと以外は、比較例1を繰り返した。結果を表3に示す。
【0048】
比較例5
比較例1において、ポリ乳酸(1)の配合量を20質量部に、共重合体(1)の配合量を80質量部に変更したこと以外は、比較例1を繰り返した。結果を表3に示す。
【0049】
比較例6
押出機〔(株)池貝製、40mm押出機〕を用いて、下記配合のポリ乳酸系樹脂層を厚さ80μmとして押出成形し、その両面に、繰り出したLDPEフィルムをラミネートし、積層樹脂フィルムを製膜した。
押出条件は、押出機(40mm押出機)のバレル温度:C1〜C4=180℃〜190℃、スクリュー回転:50rpm、Tダイ(600mm幅)温度:200℃で行った。
ポリ乳酸系樹脂層の配合は、ポリ乳酸(1)を50質量部、ポリ乳酸およびジオール・ジカルボン酸の共重合体(1)を50質量部、グリセリンジアセトモノエステルマスターバッチを5質量部(グリセリンジアセトモノエステルとして1質量部)とした。
実施例1と同様の評価を行った。結果を表4に示す。
【0050】
比較例7
比較例6において、グリセリンジアセトモノエステルマスターバッチを使用しなかったこと以外は、比較例6を繰り返した。結果を表4に示す。
【0051】
比較例8
比較例6において、ポリ乳酸(1)の配合量を20質量部に、共重合体(1)の配合量を80質量部に変更したこと以外は、比較例6を繰り返した。結果を表4に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
【表4】

【0056】
表1〜4の結果から、以下の事項が導き出される。
・実施例1は、ポリ乳酸系樹脂層と両面に積層されてなるポリオレフィン系樹脂層が、多層押出機を用いて押し出されて積層されてなり、また、ポリ乳酸およびジオール・ジカルボン酸の共重合体およびポリ乳酸およびプロピレングリコール・コハク酸の共重合体を適切量でもって配合しているので、プレートアウトによるロール汚染、ダイスのメヤニ、ダイスからのミスト(発煙)がなく、製膜性(耳のトリミング性)が良好で、外観性(フィッシュアイ、ブツ)、耐衝撃性、透明性(ヘーズ)に優れる積層樹脂フィルムを提供することができる。
なお、外観性(フィッシュアイ、ブツ)、耐衝撃性(23℃)、ヘーズは、両面のLDPEを剥したポリ乳酸系樹脂フィルムでの評価である。
・実施例2は、グリセリンジアセトモノエステルマスターバッチを使用しなかった例であり、外観性(フィシュアイ、ブツ)が、△評価になった。それ以外の性能は良好であった。
・実施例3は、共重合体(1)およびグリセリンジアセトモノエステルマスターバッチを使用せず、ポリ乳酸(1)の配合量を100質量部に変更した例であり、耐衝撃性(23℃)が、△評価になった。それ以外の性能は良好であった。
・実施例4は、LDPEの替わりにPPを用い、ポリ乳酸(1)の配合量を80質量部に、共重合体(1)の配合量を20質量部に変更した例であり、実施例1と同様の性能を示した。
・実施例5は、ポリ乳酸(1)の配合量を20質量部に、共重合体(1)の配合量を80質量部に、グリセリンジアセトモノエステルマスターバッチの配合量を10質量部に変更した例であり、外観性(フィシュアイ、ブツ)が、△評価になった。
・実施例6は、ポリ乳酸(1)をポリ乳酸(2)に変更した例であり、実施例1と同様の性能を示した。
・実施例7は、グリセリンジアセトモノエステルマスターバッチを使用しなかった例であり、外観性(フィシュアイ、ブツ)が、△評価になった。それ以外の性能は良好であった。
・実施例8は、共重合体(1)を共重合体(2)に変更した例であり、ヘーズがやや悪化した。
【0057】
・比較例1は、実施例1のポリ乳酸系樹脂層を単層押出しした例である。プレートアウト性(ロール汚染)、メヤニ(押出機ダイス)、ダイスからのミスト(発煙性)は、×評価であった。製膜性(トリミング性)は、△評価であった。ヘーズもやや悪化した。
・比較例2は、実施例2のポリ乳酸系樹脂層を単層押出しした例である。プレートアウト性(ロール汚染)、メヤニ(押出機ダイス)、ダイスからのミスト(発煙性)は、×評価であった。製膜性(トリミング性)、外観性(フィッシャイ、ブツ)は、△評価であった。ヘーズもやや悪化した。
・比較例3は、実施例3のポリ乳酸系樹脂層を単層押出しした例である。製膜性(耳トリミング性)が×評価、耐衝撃性(23℃)が△評価であった。ヘーズもやや悪化した。
・比較例4は、実施例4のポリ乳酸系樹脂層を単層押出しした例である。製膜性(耳トリミング性)が、×評価、プレートアウト性(ロール汚染)、メヤニ(押出機ダイス)、ダイスからのミスト(発煙性)が△評価であった。ヘーズもやや悪化した。
・比較例5は、実施例5のポリ乳酸系樹脂層を単層押出しした例である。プレートアウト性(ロール汚染)、メヤニ(押出機ダイス)、ダイスからのミスト(発煙性)は、×評価、外観性(フィシュアイ、ブツ)が、△評価であった。ヘーズもやや悪化した。
・比較例6は、実施例1のポリ乳酸系樹脂層を中間層とし、両面をLDPEフィルムで押出ラミネートした例である。プレートアウト性(ロール汚染)、メヤニ(押出機ダイス)、ダイスからのミスト(発煙性)は、×評価であった。ヘーズもやや悪化した。
・比較例7は、実施例2のポリ乳酸系樹脂層の配合を中間層とし、両面をLDPEフィルムで押出ラミネートした例である。プレートアウト性(ロール汚染)、メヤニ(押出機ダイス)、ダイスからのミスト(発煙性)は、×評価であった。外観性(フィッシャイ、ブツ)は、△評価であった。ヘーズもやや悪化した。
・比較例8は、実施例5のポリ乳酸系樹脂層を中間層とし、両面をLDPEフィルムで押出ラミネートした例である。プレートアウト性(ロール汚染)、メヤニ(押出機ダイス)、ダイスからのミスト(発煙性)は、×評価であった。外観性(フィッシャイ、ブツ)は、△評価であった。ヘーズもやや悪化した。
【0058】
上記各実施例で作製した積層樹脂フィルムは、ポリ乳酸系樹脂層からポリオレフィン系樹脂層を容易に剥離することができた。したがって、ポリオレフィン系樹脂層は、使用時に剥して使用する、ポリ乳酸系樹脂層の保護フィルムとなり得ることが確認された。保護フィルムが取り除かれたポリ乳酸系樹脂層からなるフィルムは、粘着剤層を適宜設ける等して、ステッカーのようなラベル材料として有用である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の積層樹脂フィルムは、生分解性を有するとともに、プレートアウトによるロール汚染、ダイスのメヤニ、ダイスからのミスト(発煙)がなく、製膜性(耳のトリミング性)が良好で、外観性(フィッシュアイ、ブツ)、耐衝撃性、透明性(ヘーズ)に優れているので、各種包装材料、農業用資材、とくに上記のようなラベル材料としてとくに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂層の両面に、ポリオレフィン系樹脂層を積層してなる積層樹脂フィルムであって、前記ポリ乳酸系樹脂層と両面に積層されてなるポリオレフィン系樹脂層が、多層押出機を用いて押し出されて積層されてなることを特徴とする積層樹脂フィルム。
【請求項2】
前記ポリ乳酸系樹脂層の樹脂成分が、ポリ乳酸30〜95質量%と、ポリ乳酸およびジオール・ジカルボン酸の共重合体70〜5質量%とからなることを特徴とする請求項1に記載の積層樹脂フィルム。
【請求項3】
前記ポリ乳酸およびジオール・ジカルボン酸の共重合体が、ポリ乳酸およびプロピレングリコール・コハク酸の共重合体であることを特徴とする請求項2に記載の積層樹脂フィルム。
【請求項4】
前記ポリ乳酸系樹脂層が、前記樹脂成分100質量部に対して、さらにグリセリンジアセトモノエステル0.2〜10質量部を含有してなることを特徴とする請求項2または3に記載の積層樹脂フィルム。
【請求項5】
前記ポリオレフィン系樹脂層の樹脂成分が、低密度ポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の積層樹脂フィルム。
【請求項6】
前記ポリオレフィン系樹脂層が、使用時に剥して使用する保護フィルムであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の積層樹脂フィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の積層樹脂フィルムを製造する方法であって、乳酸系樹脂およびポリオレフィン系樹脂を多層押出機から押し出し、前記ポリ乳酸系樹脂層の両面に前記ポリオレフィン系樹脂層を積層する工程を有することを特徴とする前記製造方法。

【公開番号】特開2009−6554(P2009−6554A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168954(P2007−168954)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000250384)リケンテクノス株式会社 (236)
【Fターム(参考)】