説明

積層電子部品の製造方法及びプレス用治具

【課題】静水圧プレスにおいて真空包装に用いる可撓性包装材の破れを防止でき、信頼性の向上を図ることができる積層電子部品の製造方法及びプレス用治具を提供する。
【解決手段】積層電子部品の製造方法では、セラミック積層体Cを静水圧プレスする際に用いるプレス用治具1において蓋部5を備えている。この蓋部5は、第2成形型2と第1成形型2及び枠体4の間とを一体的に覆う。そのため、第2成形型3と枠体4との間の継目や第1成形型2及び枠体4の間の継目が蓋部5にて覆われるため、パッキングフィルム25にてプレス用治具1を包装したときに、継目を起点としてパッキングフィルム25が破損することを防止できる。その結果、パッキングフィルム25内に水分が入ることを防止できるため、セラミック積層体Cの水分に起因する基板の割れを防止でき、信頼性の向上を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層電子部品の製造方法及びそれに用いるプレス用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
積層電子部品の製造方法として、例えば特許文献1に記載されているものが知られている。この特許文献1に記載の製造方法では、電極パターン(導電膜)が形成されたセラミックグリーンシートを複数積層して成るセラミック積層体をプレス用治具(プレス用金型)のベース板上に載置すると共にベース板に嵌合する環状の枠体をセラミック積層体の周面を囲うように配置し、このプレス用治具を可撓性包装材(袋)に入れて真空包装して静水圧プレス機にてプレスしている。この積層電子部品の製造方法では、プレスした後のセラミック積層体を切断し、焼成工程を行った後に外部電極を付与して積層セラミック電子部品を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−106190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、静水圧プレスする際にプレス用治具を真空包装する可撓性包装材は、厚みが数百μmと薄いため、プレス用治具に被せられたときにベース板と枠体との段差(継目)等を起点として破れることがある。可撓性包装材が破れると、プレス用治具内に水分が浸入し、その結果、セラミック積層体において水分に起因する基板の割れが生じるおそれがあった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、静水圧プレスにおいて真空包装に用いる可撓性包装材の破れを防止でき、信頼性の向上を図ることができる積層電子部品の製造方法及びプレス用治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る積層電子部品の製造方法は、複数のセラミックグリーンシートが積層されて成るセラミック積層体を準備するセラミック積層体準備工程と、セラミック積層体が載置される第1成形型と、第1成形型に載置されセラミック積層体を収容する空間を規定する枠体と、第1成形型に対向して配置され、枠体の内側を第1成形型との対向方向に移動可能な第2成形型と、弾性体から成り且つ第2成形型と第1成形型及び枠体の間とを一体的に覆う蓋部とを備えるプレス用治具を準備する治具準備工程と、セラミック積層体の全面を覆うように第1成形型、枠体及び第2成形型を配置する成形型配置工程と、蓋部と第2成形型とが当接するように蓋部を配置する蓋部配置工程と、プレス用治具を可撓性包装材にて真空包装する包装工程と、可撓性包装材にて包装されたプレス用治具を静水圧プレスするプレス工程と、を有することを特徴とする。
【0007】
この積層電子部品の製造方法では、セラミック積層体を静水圧プレスする際に用いるプレス用治具において蓋部を備えている。この蓋部は、第2成形型と第1成形型及び枠体の間とを一体的に覆う。これにより、第2成形型と枠体との間の継目や第1成形型及び枠体の間の継目を蓋部にて覆うことができるため、可撓性包装材にてプレス用治具を包装したときに継目を起点として可撓性包装材が破損することを防止できる。その結果、可撓性包装材内に水分が入ることを防止できるため、セラミック積層体の水分に起因する基板の割れを防止でき、信頼性の向上を図ることができる。なお、蓋部は、弾性体から形成されているので、圧力を受けた際に変形する。そのため、蓋部にて第2成形型と第1成形型及び枠体の間とを一体的に覆ったとしても、静水圧プレスの際の圧力を蓋部に当接する第2成形型に伝達することができ、セラミック積層体に圧力を加えることができる。
【0008】
また、蓋部配置工程において、蓋部を第2成形型と当接するように配置したときに、蓋部と枠体の上面との間に空隙が形成されることが好ましい。蓋部と枠体の上面との間に空隙が形成されない、つまり枠体の上面が第2成形型の上面よりも突出している場合には、枠体と第2成形型との間に、枠体の上面の方が高い位置となる段差が形成される。蓋部はある程度の厚みを有しているため、段差に蓋部を追従させることは容易ではない。そのため、静水圧プレスの際に、第2成形型の端部に圧力が付与されないため、セラミック積層体に均一に圧力を付与できない。そこで、蓋部と枠体の上面との間に空隙が形成される、つまり第2成形型の上面の方が枠体の上面よりも高い位置とすることで、蓋部を配置した場合でも第2成形型の全面に均一に圧力を付与することができる。これにより、セラミック積層体全体に均一に圧力を付与することができる。
【0009】
また、可撓性包装材の厚みをTとした場合、0.03mm≦T≦0.3mmの関係を満たすことが好ましい。可撓性包装材の厚みTを0.03mmよりも小さくすると、静水圧プレスに耐え得る十分な強度を確保できず、破損するおそれがある一方、可撓性包装材の厚みTを0.3mmよりも大きくすると、撓み性が不十分となり、プレス用治具への追従性が不十分となるおそれがある。そこで、可撓性包装材の厚みTを上記の範囲内にすることで、強度を確保しつつ追従性を確保することができる。
【0010】
また、蓋部の厚みをTとした場合、2.0mm≦T≦5.0mmの関係を満たすことが好ましい。蓋部の厚みTを2.0mmよりも小さくすると、プレス時における破損や自立性の乏しさに起因して作業性の低下を招来するおそれがある一方、蓋部の厚みTを5.0mmよりも大きくすると、静水圧プレスの際に変形せずセラミック積層体に圧力を付与できないといった問題が生じる。そこで、蓋部の厚みTを上記の範囲内とすることで、作業性を確保しつつ変形性を得ることができる。
【0011】
また、治具準備工程において準備される枠体は、空間を規定する第1の状態と空間が対向方向に直交する方向に拡大された第2の状態との間で変形可能とされていることが好ましい。このような構成により、枠体を第1成形型に載置する際に、空間が対向方向に直交する方向に拡大された第2の状態に枠体を変形させることで、セラミック積層体の外形よりも枠体の内寸法が大きくなる。これにより、セラミック積層体の周面と枠体との間に隙間ができるので、第1成形型にセラミック積層体を容易に載置することができ、作業性を確保することができる。また、プレス用治具を可撓性包装材にて真空包装して静水圧プレスを行うと、可撓性包装材の収縮により枠体がセラミック積層体を収容する空間を規定する第1の状態に戻り、枠体がセラミック積層体の周面に当接して密着する。そのため、枠体とセラミック積層体の周面との間の隙間に起因するセラミック積層体の変形を抑制できる。
【0012】
また、本発明は、上記のように積層電子部品の製造方法の発明として記述できる他に、以下のようにプレス用治具の発明としても記述することができる。これはカテゴリが異なるだけで、実質的に同一の発明であり、同様の作用及び効果を奏する。
【0013】
すなわち、本発明に係るプレス用治具は、複数のセラミックグリーンシートが積層されて成るセラミック積層体を静水圧プレスするためのプレス用治具であって、セラミック積層体が載置される第1成形型と、第1成形型に載置されセラミック積層体を収容する空間を規定する枠体と、第1成形型に対向して配置され、枠体の内側を第1成形型との対向方向に移動可能な第2成形型と、弾性体から成り且つ第2成形型と、枠体及び第1成形型の間とを一体的に覆う蓋部と、を備えることを特徴とする。
【0014】
また、蓋部と枠体の上面との間には、空隙が形成されていることが好ましい。
【0015】
また、枠体は、空間を規定する第1の状態と空間が対向方向に直交する方向に拡大された第2の状態との間で変形可能とされていることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、静水圧プレスにおいて真空包装に用いる可撓性包装材の破れを防止でき、信頼性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る積層電子部品の製造方法に用いられるプレス用治具を示す斜視図である。
【図2】枠体を上から見た図である。
【図3】枠体を構成する第1枠部材を示す図である。
【図4】枠体を構成する第2枠部材を示す図である。
【図5】図2におけるV−V線断面図である。
【図6】枠体の変形を説明する図である。
【図7】蓋部を示す図である。
【図8】積層電子部品の製造工程を示す図である。
【図9】積層電子部品の製造工程を示す図である。
【図10】変形例に係る蓋部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。なお、以下の実施形態では、積層電子部品として積層コンデンサを製造する。
【0019】
積層コンデンサは、複数の電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートを複数積層して成るセラミック積層体を静水圧プレスする工程を経て製造される。そこで、最初に静水圧プレスに用いるプレス用治具について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る積層電子部品の製造方法に用いられるプレス用治具を示す斜視図である。同図に示すように、プレス用治具1は、第1成形型2と、第2成形型3と、枠体4と、蓋部5とから構成されている。
【0020】
第1成形型2は、セラミック積層体Cが載置される部分である。この第1成形型2は、平面視において略矩形状を呈しており、後述する枠体4の載置面10A,11Aと対向する面2aを有している。この面2aの略中央には、枠体4の開口部4a内(空間S)に内挿可能な凸部6が設けられている。この凸部6の頂面6aは、セラミック積層体Cが載置されると共にプレス面となる面であって、平坦となっている。また、第1成形型2の角部2bは、所定の曲率Rを有している。
【0021】
第2成形型3は、セラミック積層体C上に載置され、セラミック積層体Cに圧をかける部分である。この第2成形型3は、枠体4の開口部4a内(空間S)に内挿可能な板形状を呈しており、その外形寸法は、対向方向への移動性を考慮し枠体4の開口部4aの内寸法よりも50μm〜100μmm程度小さくなっている。第2成形型3は、上面3a及び下面3bを有しており、この上面3a及び下面3bは、いずれも平坦となっている。また、下面3bは、プレス面となる面である。第2成形型3は、セラミック積層体Cを挟んで第1成形型2に対向して配置され、枠体4の内側を第1成形型2との対向方向に移動可能となっている。
【0022】
枠体4は、第1成形型2の面2aに載置され、セラミック積層体Cを収容する空間Sを規定する部分である。枠体4について、図2〜図5を参照しながら詳細に説明する。図2は、枠体を上から見た図であり、図3は、枠体を構成する第1枠部材を示す図であり、図3は、枠体を構成する第2枠部材を示す図であり、図5は、図2におけるV−V線断面図である。
【0023】
図2に示すように、枠体4は、互いに対向する一対の第1枠部材10a,10bと、互いに対向する一対の第2枠部材11a,11bとを備えて構成されている。この枠体4には、第1枠部材10a,10b及び第2枠部材11a,11bにより開口部4aが形成されており、開口部4aの内寸法は、第1成形型2の凸部6の外形寸法と略同一となっている。図3に示すように、第1枠部材10a,10bは、長尺状の部材である。第1枠部材10a,10bの長手方向の両端部には、第1成形型2の面2aと対向する載置面10A側に第1連結部12が形成されている。この第1連結部12の中央部分には、凹部13が形成されている。この凹部13は、円柱状を成しており、所定の深さに形成されている。また、第1枠部材10a,10bの角部は、所定の曲率を有している。
【0024】
また、図4に示すように、第2枠部材11a,11bは、長尺状の部材である。この第2枠部材11a,11bの長手方向の両端部には、第1成形型2の面2aと対向する載置面11Aとは反対の上面11B側に第2連結部14が形成されている。この第2連結部14の中央部分には、貫通孔15が設けられている。貫通孔15は、円柱状を成す第1貫通孔16と、この第1貫通孔16よりも直径の小さい円柱状の第2貫通孔17とから構成されている。第1貫通孔16の直径D1は、10mm程度であり、第2貫通孔17の直径D2は、7mm程度である。
【0025】
第1枠部材10a,10bと第2枠部材11a,11bとは、ストッパーピン(連結部材)18によって連結されている。図5に示すように、ストッパーピン18は、円板形状を呈する鍔部19と、鍔部19よりも直径の小さい円柱状の本体部20と、本体部20よりも直径の小さい円柱状の先端部21とから形成されている。鍔部19の直径d1は、9.5mm程度であり、本体部20の直径d2は、6.5mm程度であり、先端部21の直径d3は、5mm程度である。このストッパーピン18の先端部21の直径d3は、第1枠部材10a,10bの凹部13の直径よりもわずかに大きく形成されている。ストッパーピン18の先端部21は、第1枠部材10a,10bの第1連結部12と第2枠部材11a,11bの第2連結部14とが対向配置された状態で、第1及び第2貫通孔16,17を通って第1枠部材10a,10bの凹部13に圧入されている。また、ストッパーピン18の鍔部19は、ストッパーピン18が移動した際に第1貫通孔16と当接することにより係止される。このような構成により、第1枠部材10a,10bと第2枠部材11a,11bとが連結されている。
【0026】
ストッパーピン18の鍔部19の上面19aと第1貫通孔16との間には、第1枠部材10a,10bの第1連結部12と第2枠部材11a,11bの第2連結部14とが当接した状態において、0.1mm程度のクリアランス(間隔)が設けられている。また、ストッパーピン18の鍔部19の周面19bと第1貫通孔16との間には、0.5mm程度の所定のクリアランスが設けられている。さらに、ストッパーピン18の本体部20の周面20aと第2貫通孔17との間には、0.6mm程度の所定のクリアランスが設けられている。なお、図5においては、ストッパーピン18の鍔部19の下面19cが第2枠部材11a,11bの載置面11Aよりも内側に位置しているが、ストッパーピン18は、鍔部19の下面19cが第2枠部材11a,11bの載置面11Aよりも突出しなければよい。
【0027】
上述の構成により、枠体4は、セラミック積層体Cを収容する空間Sを規定する第1の状態と空間Sが第1成形型2と第2成形型3との対向方向に直交する方向(図2における上下・左右方向)に拡大された第2の状態との間で変形可能とされている。具体的には、枠体4では、第1枠部材10a,10b及び第2枠部材11a,11bが第1成形型2と第2成形型3との対向方向に直交する面内で相対移動可能とされている。第1枠部材10a,10b及び第2枠部材11a,11bの移動について、図6を参照しながら説明する。図6は、枠体の変形を説明する図である。
【0028】
図6(a)に示すように、第1枠部材10a及び第2枠部材11aが移動していない第1の状態においては、ストッパーピン18における鍔部19の周面19bと第1貫通孔16との間に所定のクリアランスが等間隔で設けられている。そして、図6(b)に示すように、例えば第2枠部材11aを外側にスライドさせると、第1貫通孔16とストッパーピン18とが当接する位置まで第2枠部材11aが移動する。つまり、第2枠部材11aが第1枠部材10aに対してクリアランスL分だけ移動する。これにより、空間Sが拡大された第2の状態となり、図2に示される枠体4の状態よりも内寸法が大きくなる。なお、第1枠部材10a,10b及び第2枠部材11a,11bの移動量は、特に規定されるものではないが、0.1mm〜0.4mm程度が好ましい。
【0029】
また、図7(a)及び(b)に示すように、蓋部5は、第2成形型3と枠体4及び第1成形型2の間とを一体的に覆う部材である。この蓋部5は、例えばウレタンゴム等の弾性体からなり、上面視において略矩形状を呈している。蓋部5の厚みTは、2.0mm〜5.0mm程度とすることができる。
【0030】
図7(b)に示すように、蓋部5は、断面凹状を成しており、凹部5aが形成されている。この凹部5aは、第1成形型2の一部、第2成形型3及び枠体4を収容する収容空間となっており、枠体4の空間Sを規定する第1の状態よりも拡大され且つ枠体4の空間Sが最大限に拡大された第2の状態よりも縮小された状態において枠体4を収容可能な寸法を有している。すなわち、蓋部5は、枠体4が第1成形型2の凸部6に当接しないように空間Sが拡大された状態において枠体4を収容可能とされている。また、凹部5aの深さHは、第1成形型2に枠体4が載置され且つ第1成形型2上に第2成形型3が配置された状態において、第1成形型2と枠体4との間、つまり第1成形型2と枠体4との継目を覆うと共に、第1成形型2の底面2cと蓋部5の端面5bとが面一とならない深さとなっている(図9参照)。
【0031】
続いて、上述のプレス用治具1を用いた積層コンデンサの製造方法について、図8及び図9を参照しながら説明する。まず、セラミック積層体準備工程として、セラミック積層体Cを準備する。このセラミック積層体Cを準備するにあたって、BaTiOを主成分とする誘電体材料を用い、複数のセラミックグリーンシートを作製する。次に、例えばNiを主成分とする導電ペーストをスクリーン印刷し、所定の乾燥工程を行うことにより、セラミックグリーンシート上に電極パターン26(図8参照)を形成する。各セラミックグリーンシートには、複数の電極パターン26が所定の間隔で形成される。複数の電極パターン26が形成されたセラミックグリーンシートを順次積層し、更に電極パターン26の形成されていないセラミックグリーンシートを積層する。これにより、複数のセラミックグリーンシートから成るセラミック積層体Cが得られる。このセラミック積層体Cは、一辺の長さが100mm〜500mm程度の正方形、厚さは0.5mm〜1mm程度となっている。なお、セラミック積層体Cは、上記の長さの範囲であれば長方形であってもよい。
【0032】
次に、治具準備工程として、プレス用治具1を準備する。そして、成形型配置工程として、図8(a)に示すように、第1成形型2の面2aに枠体4を載置する。このとき、第1枠部材10a,10b及び第2枠部材11a,11bを移動させて空間Sを拡大させた状態で第1成形型2の面2aに枠体4を載置する。もしくは、枠体4を第1成形型2の面2aに載置した後、第1枠部材10a,10b及び第2枠部材11a,11bを移動させる。そして、図8(b)に示すように、セラミック積層体Cを第1成形型2の頂面6a上に載置する。具体的には、セラミック積層体Cの一方の主面Cbが第1成形型2の頂面6a(プレス面)と対向し且つ当接するようにする。
【0033】
続いて、図8(c)に示すように、セラミック積層体C上に第2成形型3を載置する。具体的には、セラミック積層体Cの他方の主面Ccが第2成形型3の下面3b(プレス面)と対向し且つ当接するようにする。これにより、セラミック積層体Cの全面(主面Cb,Cc及び周面Ca)が第1成形型2、第2成形型3及び枠体4にて覆われる。
【0034】
そして、図9(a)に示すように、蓋部配置工程として、第2成形型3と、第1成形型2と枠体4との間とを一体的に覆うように蓋部5を配置する。具体的には、蓋部5と第2成形型3の上面3aとが当接すると共に、第1成形型2と枠体4との間、すなわち第1成形型2と枠体4との当接部分である継目を蓋部5で覆うようにする。このとき、蓋部5の凹部5aと枠体4の上面10B(11B)との間には、空隙Kが形成される。また、蓋部5の端面5bと第1成形型2の底面2cとは、面一とならないようになっている。より具体的には、蓋部5の端面5bは、第1成形型2の底面2cに対して、第1成形型2の角部2bの曲率(R)よりも大きい寸法分だけ高い位置に位置するように設定されている。
【0035】
そして、図9(b)に示すように、包装工程として、第1成形型2と第2成形型3との間にセラミック積層体Cを挟み、蓋部5を被せた状態で、プレス用治具1全体をパッキングフィルム(可撓性包装材)25にて真空包装する。このパッキングフィルム25は、例えばナイロンやPP(polypropylene:ポリプロピレン)等の材質から成り、その厚さTは、0.03mm〜0.3mm程度とすることができる。
【0036】
その後、図9(c)に示すように、プレス工程として、パッキングフィルム25にて真空包装されたプレス用治具1を図示しない静水圧プレス装置により静水圧プレスする。このとき、パッキングフィルム25が静水圧によって縮むことで、蓋部5に全方向から圧力が加わり、これに伴い第1枠部材10a,10b及び第2枠部材11a,11bが内側に移動してセラミック積層体Cを収容する空間Sを規定する第1の状態となり、第1成形型2の凸部6及びセラミック積層体Cの周面Caに当接(密着)する。このようにして、セラミック積層体Cが静水圧プレスされることにより、セラミックグリーンシート同士が圧着される。
【0037】
プレス後、パッキングフィルム25からプレス用治具1を取り出し、プレス用治具1からセラミック積層体Cを取り出す。具体的には、まず蓋部5を取り外して、次に第2成形型3を取り外す。続いて、第1枠部材10a,10b及び第2枠部材11a,11bを移動させて枠体4の内寸法を大きくし、空間Sを第2の状態として枠体4を取り外す。そして、セラミック積層体Cを第1成形型2から取り出す。
【0038】
セラミック積層体Cを取り出した後、セラミック積層体Cを切断ラインに沿って切断する。切断ラインは、電極パターン26を含まない領域上に位置している。セラミック積層体Cを切断ラインに沿って切断することにより、複数のグリーンチップが得られる。次に、得られた複数のグリーンチップを所定の温度で焼成する。これにより、コンデンサ素体が完成する。その後、コンデンサ素体に導電ペーストを塗布・焼付けして端子電極を形成し、端子電極にメッキ層を形成すると、積層コンデンサが完成する。
【0039】
以上説明したように、積層電子部品の製造方法では、セラミック積層体Cを静水圧プレスする際に用いるプレス用治具1において蓋部5を備えている。この蓋部5は、第2成形型2と第1成形型2及び枠体4の間とを一体的に覆う。これにより、第2成形型3と枠体4との間の継目や第1成形型2及び枠体4の間の継目を蓋部5にて覆うことができるため、パッキングフィルム25にてプレス用治具1を包装したときに、継目を起点としてパッキングフィルム25が破損することを防止できる。その結果、パッキングフィルム25内に水分が入ることを防止できるため、セラミック積層体Cの水分に起因する基板の割れを防止でき、信頼性の向上を図ることができる。なお、蓋部5は、ウレタンゴム等の弾性体から形成されているので、圧力を受けた際に変形する。そのため、蓋部5にて第2成形型3と第1成形型2及び枠体4の間とを一体的に覆ったとしても、静水圧プレスの際の圧力を蓋部5に当接する第2成形型3に伝達することができ、セラミック積層体Cに圧力を付与することができる。
【0040】
ここで、特に、枠体4のように第1枠部材10a,10b及び第2枠部材11a,11bが可動するように設けられている場合には、環状の固定された枠体よりも継目が多くなる。そのため、このような継目を全て覆う蓋部5を変形可能な枠体4に用いることは特に有効である。さらに、蓋部5で第1成形型2、第2形成型3及び枠体4を覆うことで、第1枠部材10a,10b及び第2枠部材11a,11bや第2成形型3が蓋部5の凹部5aに収容されるため、治具搬送やパッキングの際に枠体4や蓋部5自体がずれることがなくなり、作業性が向上する。
【0041】
また、蓋部5が第2成形型3と当接するように配置された状態において、蓋部5と枠体4の上面10B,11Bとの間には、空隙Kが形成されている。例えば、セラミック積層体C上に第2成形型3を載置した状態において、枠体4の上面10B,11Bが第2成形型3の上面3aよりも高いと、枠体4と第2成形型3との間に段差(隅部)が形成される。蓋部5は、2.0mm〜5.0mm程度の厚みを有しているため、段差に沿って追従させることは困難である。そのため、第2成形型3の端部に圧力が加わらず、第2成形型3に対して均一に圧力を加えることができない結果、セラミック積層体Cに均一に圧力を付与することができない。これに対して、本実施形態のプレス用治具1では、セラミック積層体C上に第2成形型3を載置した状態において、枠体4の上面10B,11Bは、第2成形型3の上面3aよりも低い位置となっており、蓋部5との間に空隙Kが形成されている。これにより、第2成形型3の上面3a全体に均一に圧力が加えられる。その結果、セラミック積層体Cを均等な圧力でプレスできる。
【0042】
また、パッキングフィルム25の厚みTは、0.03mm≦T≦0.3mmの関係を満たしている。パッキングフィルム25の厚みTを0.03mmよりも小さくすると、静水圧プレスに耐え得る十分な強度を確保できず、破損するおそれがある一方、パッキングフィルム25の厚みTを0.3mmよりも大きくすると、撓み性が不十分となり、プレス用治具1への追従性が不十分となるおそれがある。そこで、パッキングフィルム25の厚みTを上記の範囲内にすることで、強度を確保しつつ追従性を確保することができる。
【0043】
また、蓋部5の厚みTは、2.0mm≦T≦5.0mmの関係を満たしている。蓋部5の厚みTを2.0mmよりも小さくすると、プレス時における破損や自立性の乏しさに起因して作業性の低下を招来するおそれがある一方、蓋部5の厚みTを5.0mmよりも大きくすると、静水圧プレスの際に変形せずセラミック積層体Cに圧力を付与できないといった問題が生じる。そこで、蓋部5の厚みTを上記の範囲内とすることで、作業性を確保しつつ変形性を得ることができる。
【0044】
また、蓋部5の端面5bは、第1成形型2の底面2cに対して、第1成形型2の角部2bの曲率(R)よりも大きい寸法分だけ高い位置に位置するように設定されている。これにより、曲率を有する第1成形型2の角部2bと蓋部5の端面5bとの間において溝が形成されないため、この溝を起点としてパッキングフィルム25が破損することを防止できる。
【0045】
また、枠体4は、空間Sを規定する第1の状態と空間Sが第1成形型2と第2成形型3との対向方向に直交する方向に拡大された第2の状態との間で変形可能とされている。このような構成により、枠体4を第1成形型2に載置するときに、空間Sが対向方向に直交する方向に拡大された第2の状態に枠体4を変形させることで、セラミック積層体Cの外形よりも枠体4の内寸法が大きくなる。これにより、セラミック積層体Cの周面Caと枠体4との間に隙間ができるので、第1成形型2にセラミック積層体Cを容易に載置することができ、作業性を確保することができる。また、プレス用治具1をパッキングフィルム25にて真空包装して静水圧プレスを行うと、パッキングフィルム25の収縮により枠体4がセラミック積層体Cを収容する空間Sを規定する第1の状態に戻り、枠体4がセラミック積層体Cの周面Caに当接して密着する。そのため、枠体4とセラミック積層体Cの周面Caとの間の隙間に起因するセラミック積層体Cの変形を抑制できる。
【0046】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、蓋部5が第2成形型3の上面3aの全面を覆う構成となっているが、蓋部は例えば図10に示すような構成であってもよい。図10に示すように、蓋部5Aの中央には、開口5Aaが形成されている。このような構成であっても、第1成形型2と枠体4との継目や第2成形型3と枠体4との継目を蓋部5Aにて覆うことができるため、継目を起点とするパッキングフィルム25の破損を防止できる。
【0047】
また、上記実施形態では、第1成形型2上にセラミック積層体Cを載置し、その上に第2成形型3を配置する構成としているが、第1成形型2及び第2成形型3とセラミック積層体Cとの間には、弾性シートを挟んでもよい。
【0048】
また、上記実施形態では、第1枠部材10a,10bと第2枠部材11a,11bとから構成される変形可能な枠体4を例示しているが、枠体は、枠部材が固定された環状のものであってももちろんよい。
【符号の説明】
【0049】
1…プレス用治具、2…第1成形型、3…第2成形型、4…枠体、5…蓋部、10B,11B…上面、25…パッキングフィルム(可撓性包装材)、C…セラミック積層体、K…空隙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセラミックグリーンシートが積層されて成るセラミック積層体を準備するセラミック積層体準備工程と、
前記セラミック積層体が載置される第1成形型と、当該第1成形型に載置され前記セラミック積層体を収容する空間を規定する枠体と、前記第1成形型に対向して配置され、前記枠体の内側を前記第1成形型との対向方向に移動可能な第2成形型と、弾性体から成り且つ前記第2成形型と前記第1成形型及び前記枠体の間とを一体的に覆う蓋部とを備えるプレス用治具を準備する治具準備工程と、
前記セラミック積層体の全面を覆うように前記第1成形型、前記枠体及び前記第2成形型を配置する成形型配置工程と、
前記蓋部と前記第2成形型とが当接するように前記蓋部を配置する蓋部配置工程と、
前記プレス用治具を可撓性包装材にて真空包装する包装工程と、
前記可撓性包装材にて包装された前記プレス用治具を静水圧プレスするプレス工程と、を有することを特徴とする積層電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記蓋部配置工程において、前記蓋部を前記第2成形型と当接するように配置したときに、前記蓋部と前記枠体の上面との間に空隙が形成されることを特徴とする請求項1記載の積層電子部品の製造方法。
【請求項3】
前記可撓性包装材の厚みをTとした場合、
0.03mm≦T≦0.3mm
の関係を満たすことを特徴とする請求項1又は2記載の積層電子部品の製造方法。
【請求項4】
前記蓋部の厚みをTとした場合、
2.0mm≦T≦5.0mm
の関係を満たすことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の積層電子部品の製造方法。
【請求項5】
前記治具準備工程において準備される前記枠体は、前記空間を規定する第1の状態と前記空間が前記対向方向に直交する方向に拡大された第2の状態との間で変形可能とされていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の積層電子部品の製造方法。
【請求項6】
複数のセラミックグリーンシートが積層されて成るセラミック積層体を静水圧プレスするためのプレス用治具であって、
前記セラミック積層体が載置される第1成形型と、
前記第1成形型に載置され前記セラミック積層体を収容する空間を規定する枠体と、
前記第1成形型に対向して配置され、前記枠体の内側を前記第1成形型との対向方向に移動可能な第2成形型と、
弾性体から成り且つ前記第2成形型と、前記枠体及び前記第1成形型の間とを一体的に覆う蓋部と、
を備えることを特徴とするプレス用治具。
【請求項7】
前記蓋部と前記枠体の上面との間には、空隙が形成されていることを特徴とする請求項6記載のプレス用治具。
【請求項8】
前記枠体は、前記空間を規定する第1の状態と前記空間が前記対向方向に直交する方向に拡大された第2の状態との間で変形可能とされていることを特徴とする請求項6又は7記載のプレス用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−192741(P2011−192741A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56244(P2010−56244)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】