説明

空間変調光生成装置および画像記録装置

【課題】回折格子型の空間光変調器からの信号光のコントラストを向上する。
【解決手段】光学ヘッド10では、回折格子型の空間光変調器13にライン照明光を導く照明光学系12に、第1光学系12a、スリット部材125および第2光学系12bが設けられる。第1光学系12aにより、レーザ光源11からの光はスリット125aの位置にて縦方向に関して集光され、中間像が形成される。中間像は、光変調素子の配列方向に対応する横方向に長い像となる。中間像の上下に現れるサイドローブ等の不要光は、スリット125aにより遮られ、第2光学系12bにより中間像が再結像されることにより、幅の狭いライン照明光が空間光変調器13に導かれる。これにより、光変調素子にて可撓リボンが撓んで1次回折光が出射される状態において、リボンのの両端部から信号光である0次光が出射されることが防止される。その結果、信号光のコントラストが向上される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折格子型の空間光変調器を用いて空間変調された光を生成する技術に関連する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置製造技術を利用して基板上に固定リボンと可撓リボンとを交互に形成し、可撓リボンを固定リボンに対して撓ませることにより回折格子の深さを変更することができる回折格子型の光変調素子が開発されている。このような回折格子では溝の深さを変更することにより正反射光や回折光の光量が変化する。特許文献1ないし3では、光変調素子を直線状に配列した空間光変調器の画像記録技術への応用が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−4525号公報
【特許文献2】特開2002−72132号公報
【特許文献3】特許第3522133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、可撓リボンは両端部で支持された状態で撓むため、可撓リボンでは両端部に近いほど撓み量が小さくなる。そのため、この両端部にまで光が入射すると、光変調素子による変調が不良になり、コントラスト低下等の問題が生じる。これを防ぐためには、直線状に配列された光変調素子の列の中央に沿って、非常に幅の狭いライン照明光を正確に照射することが必要となる。レーザ光からこのようなライン照明光を生成するには、レーザ光源から光変調素子までの光学系に高精度で高価なレンズが必要となり、画像記録装置が高価なものとなってしまう。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、高価な光学素子を用いることなく回折格子型の空間光変調器に適したライン照明光を生成し、高い性能を有する空間変調光生成装置を低コストにて提供することを主たる目的としてる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、空間変調光生成装置であって、レーザ光源と、複数の光変調素子が素子配列方向に一列に配列された空間光変調器と、前記レーザ光源から出射された光から、光束断面が前記素子配列方向に長い線状であって前記複数の光変調素子上に導かれるライン照明光を生成する照明光学系とを備え、前記複数の光変調素子の各光変調素子が、前記素子配列方向に垂直な方向に細長い可撓反射面と固定反射面とを前記素子配列方向に交互に備え、前記可撓反射面の両端が支持された状態で前記可撓反射面が撓んで前記各光変調素子が0次光を出射する状態と1次回折光を出射する状態との間で切り替わることにより、前記複数の光変調素子からの0次光または1次回折光である信号光の集合が、空間変調光として生成され、前記照明光学系が、前記レーザ光源と前記空間光変調器との間の中間像位置に、前記素子配列方向に対応する横方向に垂直かつ光軸に垂直な方向である縦方向に関して前記レーザ光源の像を結ぶことにより、前記横方向に長い中間像を形成する第1光学系と、前記中間像位置に配置され、前記横方向に伸びるスリットを有し、前記中間像の前記縦方向両側または片側に現れる不要光を遮るスリット部材と、前記スリットを通過した光により、前記空間光変調器上にて少なくとも前記縦方向に関して前記中間像を再結像させることにより、前記ライン照明光を生成する第2光学系とを備える。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の空間変調光生成装置であって、前記各光変調素子において、前記信号光が出射される状態における前記可撓反射面の撓み量が、前記信号光が出射されない状態における撓み量よりも小さい。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の空間変調光生成装置であって、前記信号光が0次光であり、前記各光変調素子において、前記信号光が出射される状態における前記可撓反射面と前記固定反射面とがこれらの反射面に平行な基準面からほぼ同じ高さに位置する。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の空間変調光生成装置であって、前記各光変調素子において、前記信号光が出射される状態における前記可撓反射面と前記固定反射面とがこれらの反射面に平行な基準面から異なる高さに位置する。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の空間変調光生成装置であって、前記第1光学系が、前記中間像の前記横方向における光量分布を均一化する光学素子の少なくとも一部を備える。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載の空間変調光生成装置であって、前記レーザ光源、前記第1光学系および前記スリット部材を保持し、前記第2光学系に対して着脱可能な保持部材をさらに備える。
【0012】
請求項7に記載の発明は、記録材料に画像を記録する画像記録装置であって、請求項1ないし6のいずれかに記載の空間変調光生成装置と、前記空間変調光生成装置からの空間変調光を記録材料に対して相対的に移動しつつ前記記録材料に照射する移動機構とを備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、スリット部材にて中間像における不要光を遮ることにより、コントラストの高い空間変調光を得ることができる。また、各光変調素子に対して、素子配列方向に垂直な方向のビーム幅を均一に制限することにより、ビーム形状が均一化され、高品質の照明光が得られる。またそれにより高画質の記録画像が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】画像記録装置を示す図である。
【図2】光学ヘッドを展開して示す平面図である。
【図3】光学ヘッドを展開して示す側面図である。
【図4】空間光変調器を示す図である。
【図5.A】光変調素子の側面図である。
【図5.B】光変調素子の側面図である。
【図6.A】光変調素子の断面図である。
【図6.B】光変調素子の断面図である。
【図7】1次回折光を出射する状態における光変調素子上の0次の回折光の強度分布を示す図である。
【図8.A】スリットの位置における光強度分布を示す図である。
【図8.B】スリット通過後の光強度分布を示す図である。
【図9.A】光変調素子の他の例を示す断面図である。
【図9.B】光変調素子の他の例を示す断面図である。
【図9.C】光変調素子の他の例を示す断面図である。
【図10】画像記録装置の他の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る画像記録装置1を示す図である。画像記録装置1は、空間変調光生成装置である光学ヘッド10、および、記録材料9を外側面に保持する保持ドラム70を有する。記録材料9には光学ヘッド10からの空間変調された光が走査されつつ照射されることにより、画像が記録される(すなわち、光の照射により画像が描画される)。記録材料9としては、例えば、刷版、刷版形成用のフィルム等が用いられる。保持ドラム70として無版印刷用の感光ドラムが用いられてもよく、この場合、記録材料9は感光ドラムの表面に相当し、保持ドラム70が記録材料9を一体的に保持していると捉えることができる。
【0016】
保持ドラム70は円筒面の中心軸を中心にモータ81により回転し、これにより、光学ヘッド10が記録材料9に対して主走査方向に相対的に一定の速度で移動する。なお、走査方向は、後述する複数の光変調素子からの光が照射される位置の配列方向に対して交差する方向となっている。また、光学ヘッド10はモータ82およびボールねじ83により保持ドラム70の回転軸に平行な副走査方向に移動可能とされ、光学ヘッド10の位置はエンコーダ84により検出される。すなわち、モータ81,82、ボールねじ83を含む移動機構により、保持ドラム70の外側面および記録材料9が、光学ヘッド10(および空間光変調器からの光)に対して一定の速度で主走査方向に相対的に移動するとともに主走査方向に交差する副走査方向にも相対的に移動する。
【0017】
モータ81,82およびエンコーダ84並びに光学ヘッド10は全体制御部21に接続され、全体制御部21がモータ81,82および光学ヘッド10内の空間光変調器からの光の出射を制御することにより、保持ドラム70上の記録材料9に光による画像記録が行われる。
【0018】
記録材料9に記録される画像のデータは予め信号生成部23にて準備されており、信号処理部22が全体制御部21からの制御信号に基づいて信号生成部23から画像信号を受け取る。信号処理部22は受け取った画像信号を光学ヘッド10用の信号へと変換して全体制御部21に入力し、全体制御部21の制御により、空間光変調器の各光変調素子に画像信号を示す電圧が印加される。
【0019】
図2は、光学ヘッド10を光軸に沿って展開して示す平面図であり、図3は側面図である。図2および図3は、正確な平面図および側面図ではなく、光学素子の3次元的な配置関係を省略している。
【0020】
光学ヘッド10は、図2および図3の左側から、レーザ光源11、照明光学系12、空間光変調器13および結像光学系14を順に備える。レーザ光源11から出射されたレーザ光は、照明光学系12にてライン照明光へと変換されて空間光変調器13へと導かれる。空間光変調器13にて空間変調された光は結像光学系14にて記録材料9へと導かれる。レーザ光源11は半導体レーザであり、1つの半導体レーザであってもよく、複数の半導体レーザからの光を重ね合わせるものであってもよい。さらに、複数の発光点を図2の上下方向に配列して有するものであってもよい。照明光学系としては、例えば、特開2002−72132号公報に記載のようなアレイレンズをホモジナイザとして用いた均一化照明光学系が使用できる。
【0021】
図4は、空間光変調器13が備える複数の光変調素子131の拡大図であり、空間光変調器13において光変調素子131は一方向(以下、「素子配列方向」という。)に一列に配列される。ライン照明光の光束断面は、素子配列方向に長い線状であり、複数の光変調素子131上に照射される。各光変調素子131は格子の深さを変更することができる回折格子となっており、半導体装置製造技術を利用して製造される。光変調素子131には複数の可撓リボン131aおよび固定リボン131bが素子配列方向に交互に平行に配列形成され、各リボン131a,131bは、素子配列方向に垂直な方向に細長い形状を有する。可撓リボン131aは背後の基準面に対して相対的に昇降移動可能であり、固定リボン131bは基準面に対して固定される。回折格子型の光変調素子としては、例えば、GLV(グレーティング・ライト・バルブ)(シリコン・ライト・マシーンズ(サニーベール、カリフォルニア)の登録商標)が知られている。
【0022】
図5.Aおよび図5.Bは、可撓リボン131aを素子配列方向からみた側面図である。可撓リボン131aの上面は、基板の上面である基準面131cに平行かつ素子配列方向に垂直な方向に細長い帯状の可撓反射面となっている。図5.Aは可撓リボン131aが撓まない初期状態を示しており、図5.Bは可撓リボン131aと基準面131cとの間に電圧(電位差)が与えられ、静電気力により可撓リボン131aが基準面131cに向かって撓んだ状態を示している。可撓リボン131aは両端が支持され、撓むことにより中央の領域が基準面131cに近づく。
【0023】
固定リボン131bは図5.Aに示す可撓リボン131aと同様となっており、その上面が基板の上面である基準面131cに平行かつ素子配列方向に垂直な方向に細長い帯状の固定反射面となっている。ただし、固定リボン131bは撓まない。
【0024】
図6.Aおよび図6.Bは、可撓リボン131aおよび固定リボン131bに垂直な面による光変調素子131の断面を示す図である。図6.Aに示すように、可撓リボン131aと固定リボン131bとはほぼ同じ幅となっており、一定のピッチにて配列される。図6.Aに示す可撓リボン131aが撓まない状態では、可撓反射面132aの基準面131cからの高さと固定反射面132bの基準面131cからの高さとが等しい。この状態において、入射光L1に対して最大光量(すなわち、最大強度)の0次の回折光(正反射光であり、以下、「0次光」という。))L2が光変調素子131から出力される。一方、図6.Bは、可撓リボン131aが撓み、可撓反射面132aと固定反射面132bとの高さの差dが、((2n−1)/4)λ(ただし、λは入射光の波長であり、nは正の整数である。)となった状態を示す図である。図6.Bの状態では、光変調素子131から(±1)次回折光L3(さらには、高次の奇数次の回折光)の光量(強度)が最大となり、0次光の光量は最小となる。
【0025】
図6.Aおよび図6.Bは、入射光L1が基準面131cに対して垂直に入射する場合を示してるが、実際には、入射光は基準面131cに垂直かつリボンの伸びる方向に平行な面内にて傾斜している。可撓反射面132aを経由する光路と固定反射面132bを経由する光路との差が((2n−1)/2)λを満たす場合に1次回折光が出射されるため、入射角がθの場合、反射面132a,132bの高さの差は((2n−1)/4)λcosθとなる。後述の図9.Bにおいても同様である。
【0026】
以上のように、光変調素子131では、可撓リボン131aが撓まない状態における固定反射面132bと可撓反射面132aとの基準面131cからの高さがほぼ同じであり、入力される電圧に応じて可撓リボン131aが撓んで可撓反射面132aの基準面131cからの高さが変更されることにより、0次光を出射する状態と1次回折光を出射する状態との間で切り替わる。なお、実際には、各光変調素子131から0次光が出射される状態において、全ての光変調素子131からの0次光の光量が正確に等しくなるように、可撓リボン131aは僅かに撓んだ状態とされる。
【0027】
また、空間光変調器13では照明光が反射されることにより空間変調された光が生成されるが、図2および図3では、既述のように、空間光変調器13における光の反射による光軸J1の折れ曲がりを無視して描いている。
【0028】
照明光学系12はスリット部材125を有し、スリット部材125よりもレーザ光源11側の光学系を、以下、「第1光学系12a」と呼び、スリット部材125よりも空間光変調器13側の光学系を「第2光学系12b」と呼ぶ。
【0029】
第1光学系12aは、レーザ光源11から順に、コリメートレンズ121、レンズ122、フライアイレンズ123およびシリンドリカルレンズ124を備える。レーザ光源11から出射されたレーザ光は、コリメートレンズ121により図3における上下方向(以下、「縦方向」という。)に関してコリメートされ、レンズ122へと導かれる。レンズ122では、光は図2の上下方向(以下、「横方向」という。)に関して平行光とされ、縦方向に関して収束される。なお、「横方向」は、光軸J1に垂直かつ光変調素子131の配列方向に対応する方向であり、「縦方向」は、光軸J1に垂直かつ横方向に垂直な方向である。
【0030】
レンズ122からの光は、フライアイレンズ123により5つの領域に分割され、縦方向に関しては平行とされる。そして、シリンドリカルレンズ124により、縦方向に関して収束される。スリット部材125は、横方向に細長く伸びる開口であるスリット125aを有し、シリンドリカルレンズ124からの光は、スリット125aの位置にて最も収束する。すなわち、照明光学系12では、レーザ光源11と空間光変調器13との間に中間像位置が設けられ、この中間像位置にスリット部材125が配置される。スリット125aの位置には、レーザ光源11の中間像が形成される。中間像の結像は縦方向に関してのみであり、中間像は、フライアイレンズ123により横方向に細長くされる。
【0031】
第2光学系12bは、スリット部材125側からレンズ126およびシリンドリカルレンズ127を備える。フライアイレンズ123により横方向に分割された光は、スリット125aを通過し、レンズ126により空間光変調器13の位置で横方向に関して正確に重畳され、光量分布(すなわち、強度分布)が均一化される。縦方向に関しては、レンズ126およびシリンドリカルレンズ127により、空間光変調器13の位置にて中間像が再結像される。これによりライン照明光が生成される。なお、再結像は、縦方向のみの再結像であってもよい。
【0032】
結像光学系14は、空間光変調器13側から順に、レンズ141、遮光部材142およびレンズ143を備える。レンズ141は遮光部材142上に空間光変調器13の遠視野像(角度分布)を作る働きをしており、これにより各光変調素子131からの光は遮光部材142上で0次光、1次光さらには、高次光に分離される。遮光部材142の間隔は、0次光のみを通過させるように設計されており、空間光変調器13の各光変調素子131からの0次光は、レンズ141により遮光部材142の中央の間隙142aを通過してレンズ143を介して記録材料9へと導かれる。これにより、記録材料9上に光変調素子131の像が形成される。一方、光変調素子131から出射される1次回折光は、レンズ141により遮光部材142へと導かれて遮光される。その結果、0次光の集合である空間変調された光が記録材料9に導かれ、光変調素子131の像の集合が記録材料9に描画される。光変調素子131では、0次光を出射する状態が記録材料9に描画を行うON状態であり、1次回折光を出射する状態が記録材料9に描画が行われないOFF状態である。換言すれば、0次光が画像の記録に利用される信号光となっている。
【0033】
次に、スリット部材125の役割について説明する。図7は、1次回折光を出射する状態における光変調素子131の0次光の回折光強度(反射強度)分布を示す図である。図7における縦軸は、光変調素子131上のリボン方向に沿った位置を示し、0が光軸J1または光変調素子131の縦方向の中央位置を示す。横軸は、光変調素子131の全体に均一な光を照射した場合に、0次光が回折(反射)される方向における回折光強度分布(反射強度分布)を示す。図7に示すように、1次回折光が出射される状態においても、光変調素子131の可撓リボン131aおよび固定リボン131bの両端部近傍では、0次光の光強度が強くなる。一方、中央の一定の範囲では、十分に0次光が抑えられ、1次回折光が生じる状態となっている。このような現象は、図5.Bに示すように、可撓リボン131aでは両端部に近づくほど撓み量が小さく、中央部では基準面131cにほぼ平行に変位しているためである。以下、撓み量が一定の領域を「有効領域」と呼ぶ。図7の縦軸の範囲は200μmであり、有効領域の幅は70μmである。
【0034】
空間光変調器13に照射されるライン照明光の縦方向の幅(実際には、ライン照明光は空間光変調器13に対して傾斜して入射するため、照射範囲の幅)が、この有効領域の幅をはみ出すと、光変調素子131をOFF状態にしても有効領域外からの0次光が記録材料9へと導かれる。その結果、コントラスト(信号光の消光比であるON/OFF比)が劣化することとなる。
【0035】
ここで、仮に、レンズのみにより有効領域のみに照射されるライン照明光を生成するには、非常に高いレンズの面精度や位置調整精度が必要となり、光学ヘッド10の製造コストが高くなってしまう。特に、レーザ光源11の直後のコリメートレンズ121(FAC(Fast Axis Collimator)レンズとも呼ばれる。)に対して非常に厳しい面精度および位置精度が必要となる。
【0036】
図8.Aは、実用的なコストにて光学系を調整した場合のスリット125aの位置における光強度分布を示す図である。縦軸は縦方向の位置を示し、横軸は強度を示す。縦方向の中央では、縦方向に関してレーザ光源11の中間像が形成されるため、鋭いピークが現れるが、第1光学系12aの影響により、メインローブ61の両側(すなわち、縦方向両側)にサイドローブ62が現れる。ただし、第1光学系12aによっては、サイドローブがメインローブの片側のみに現れる場合もあり、さらに、サイドローブのような瘤状ではなく、メインローブから緩やかに広がる不要光が生じる場合もある。以下、このようなメインローブの主要部分以外の様々な不要な光を、「不要光」と総称し、メインローブに対応する光を「主ビーム」と呼ぶ。
【0037】
スリット125aは、主ビームの範囲のみに設けられ、不要光を遮る。これにより、図8.Bに示すように主ビームであるメインローブ61のみを有する光が第2光学系12bへと導かれ、不要光を有しないライン照明光が空間光変調器13に照射されることとなる。その結果、不要光がOFF状態の光変調素子131の有効領域外に照射されることが防止され、信号光のコントラストの低下が防止される。すなわち、質の高い空間変調された光が空間光変調器13にて生成される。
【0038】
以上のように、空間変調光生成装置である光学ヘッド10では、高価な光学素子を用いることなく回折格子型の空間光変調器に適したライン照明光を生成することができ、低コストにて高い性能が実現される。また、各光変調素子に対し、素子配列方向に垂直な方向のビーム幅を均一に制限することにより、ビーム形状が均一化され、高品質の照明光が得られ、またそれにより高画質の記録画像を得ることができる。
【0039】
なお、記録材料9が、相反則不軌を有する場合、すなわち、照射される光の量が一定量を超えると速やかに感光するため、高照度高速記録と低照度低速記録とで感度に差がでる場合、スリット125aを設けなくても不要光が画像記録に与える影響は限定的となる。しかし、記録材料9が、相反則不軌が少ない材料である場合、すなわち、照射光量と感光の程度とがおよそ比例する場合、サイドローブ等の不要光の影響が顕著となる。このように、スリット部材125を備える光学ヘッド10は、相反則不軌の少ない記録材料9への画像記録に特に適している。
【0040】
また、横方向における光量分布を均一化する光学素子(フライアイレンズ123およびレンズ126)の一部であるフライアイレンズ123が第2光学系12bではなく第1光学系12aに設けられることにより、複雑化された第1光学系12aからの光がスリット125aへと導かれ、第2光学系12bが簡素化される。その結果、第2光学系12bによるライン照明光の質の低下を抑制することができる。なお、横方向における光量分布を均一化する光学素子の全てが第1光学系12aに設けられてもよい。光量分布を均一化する光学素子としては他のホモジナイザ、例えばDOE素子(回折光学素子)やロッドレンズ等が用いられてもよい。
【0041】
次に、照明光学系12の一部を着脱する機構について説明する。図2および図3に示すように、レーザ光源11、照明光学系12の第1光学系12aおよびスリット部材125は、保持部材151上に固定される。実際には、これらの光学部品は保持部材151上に取り付けられた様々な支持部材により支持される。一方、第2光学系12b、空間光変調器13および結像光学系14は、画像記録装置1の基台に取り付けられる大型のベース152上に適宜、支持部材を介して取り付けられる。そして、保持部材151はベース152に対して(すなわち、第2光学系12bに対して)容易に位置決め可能となっており、ネジ等にて容易に着脱可能とされる。
【0042】
このように光学ヘッド10では、レーザ光源11、第1光学系12aおよびスリット部材125が、保持部材151に固定したユニットとして第2光学系12bを含む他の部位に対して着脱自在となっている。これにより、光源から中間像が形成される部位までの光学的な調整や変更を、この部位を取り外して容易に行うことが可能となり、また部品交換等の際も容易に脱着して交換でき、コントラスト低下等が生じない状態を容易に維持できる。なお、既述のように、光軸J1は空間光変調器13等の位置にて折れ曲がるため、ベース152の形状および配置は図3に示すものとは異なる。
【0043】
図9.Aおよび図9.Bは光変調素子131の他の例を示す図であり、図6.Aおよび図6.Bに対応する断面を示す。他の例に係る光変調素子131では、可撓リボン131aの上面は、基準面131cに平行かつ素子配列方向に垂直な方向に細長い帯状の可撓反射面132aとなっており、固定リボン131bは基準面131c上に固定され、その上面が基準面131cに平行かつ素子配列方向に垂直な方向に長い帯状の固定反射面132bとなっている。
【0044】
図9.Aは可撓リボン131aが撓まない状態(少し撓んだ状態であってもよい)を示している。光変調素子131では、この状態で可撓反射面132aと固定反射面132bとの高さの差dが(2n/4)λとなり、光変調素子131からの0次光L2の光量が最大となり、1次回折光の光量は最小となる。なお、既述のように、照明光が入射角θにて入射する場合、高さの差dは(2n/4)λcosθとなる(図9.Cにおいて同様)。
【0045】
図9.Bは可撓リボン131aと基準面131cとの間に電圧(電位差)が与えられ、静電気力により可撓リボン131aが基準面131cに向かって撓んだ状態を示している。図9.Bでは、可撓リボン131aが撓み、可撓反射面132aと固定反射面132bとの高さの差dが、((2n+1)/4)λとなる。その結果、光変調素子131から最大光量の(±1)次回折光L3(およびさらに高次の回折光)が出力される。このように、可撓反射面132aの撓みがない(または小さい)状態で0次光が出射され、撓みが大きい状態で1次回折光が出射される。
【0046】
光変調素子131では、0次光である信号光が出射される状態における可撓反射面132aと固定反射面132bとは基準面131cから異なる高さに位置する。このような光変調素子131では、反射面に垂直な方向から見た場合に、可撓反射面132aと固定反射面132bとの間に隙間をなくすことができるため、信号光のコントラストさらに向上することができる。
【0047】
図9.Aおよび図9.Bに示す光変調素子131を有する空間光変調器13の場合においても、スリット125aが設けられることにより、不要光が遮られたライン照明光が空間光変調器13に照射される。その結果、不要光が、OFF状態の光変調素子131の有効領域外に照射されることが防止され、質の高い空間変調された光が空間光変調器13にて生成される。
【0048】
画像記録装置1では、光変調素子として、可撓リボン131aが撓まない、または、少し撓んだ状態で図9.Bに示す1次回折光L3を出射するものが使用されてもよい。この場合、図9.Cに示すように、可撓リボン131aがさらに撓んだ状態で0次光L2が出射される。このような光変調素子131では、図9.Bに示す状態で反射面132a,132bの高さの差dが((2n−1)/4)λとなり、図9.Cに示す状態で差dが(2n/4)λとなる。
【0049】
一方、図9.Bおよび図9.Cの間で遷移する光変調素子131が使用される場合、画像記録装置1では1次回折光が描画に用いられる信号光とされてもよい。この場合においても、信号光が出射される状態における可撓反射面132aと固定反射面132bとは基準面131cから異なる高さに位置する。1次回折光が信号光として用いられる場合、図2の遮光部材142に代えて、光軸J1上にて0次光を遮り、光軸J1から離れる方向へと進む1次回折光を通過させる遮光部材が配置される。そして、遮光部材の後方にて大きなレンズにより(±1)次回折光の集合が空間変調された光として記録材料9上へと集光される。
【0050】
また、光変調素子131では、0次光を出射する状態にて可撓リボン131aが撓んでいるため、0次光を出射する状態で素子全体を照明した場合、1次回折光の縦方向の強度分布は図7に準じたものとなる。したがって、図9.Bおよび図9.Cに示す光変調素子131を用いて1次回折光を信号光として描画を行う場合、図8.Aおよび図8.Bに示すように、スリット部材125により不要光を遮ることにより、コントラストの高い信号光を安価に得ることができる。
【0051】
なお、信号光が出射される状態における可撓反射面132aの撓み量が、信号光が出射されない状態における撓み量よりも小さいタイプの光変調素子131において、照明光からの不要光の除去が信号光のコントラスト向上に大きく貢献するが、既述のように、通常、信号光を出射する状態でも光量調整のために可撓反射面132aは僅かに撓む状態とされる。したがって、可撓反射面132aの撓み量が大きい状態で信号光を出射するタイプの光変調素子131(図9.Aで非信号光、図9.Bで信号光を出射する光変調素子、または、図9.Bで非信号光、図9.Cで信号光を出射する光変調素子)においても、スリット部材125による不要光の除去は信号光のコントラスト向上に貢献する。
【0052】
図10は、画像記録装置の他の例を示す斜視図である。画像記録装置1aの制御ユニット20には、図1の全体制御部21、信号処理部22および信号生成部23が設けられる。
【0053】
画像記録装置1aは、ガラスマスクやTFT(Thin Film Transistor)液晶パネル等の製造用のガラス基板9aにマスクや配線等のパターンの画像を記録する装置であり、光の照射により画像を直接描画するいわゆる直描装置である。画像記録装置1aでは感光材料が塗布されたガラス基板9aが画像の情報が記録される記録材料となっている。画像記録装置1aは、ガラス基板9aを(+Z)側の上面上に保持するテーブル72を備え、テーブル72をY方向(主走査方向)に移動するテーブル移動機構85が基台74上に設けられる。基台74上には、テーブル72の位置を検出する位置検出モジュール85aが設けられる。
【0054】
テーブル72の上方にはガラス基板9aに向けて光を出射する光学ヘッド10が配置され、光学ヘッド10はヘッド移動機構86により副走査方向であるX方向に移動可能に支持される。すなわち、主走査方向および副走査方向は水平なテーブル72に平行であり、テーブル移動機構85およびヘッド移動機構86が、主走査方向にテーブル72を空間光変調器を含む光学ヘッド10に対して一定の速度で相対的に移動するとともに主走査方向に垂直な副走査方向にも相対的に移動する移動機構となっている。
【0055】
基台74にはテーブル72を跨ぐようにしてフレーム75が設けられ、ヘッド移動機構86はフレーム75に固定される。光学ヘッド10の基本構造は、図2および図3に示すものと同様であり、照明光学系12内の中間像位置にスリット部材125が設けられる。本実施の形態におけるガラス基板9aの(+Z)側の主面上には紫外線の照射により感光する感光材料(レジスト)の膜が予め形成されている。光学ヘッド10内に設けられた空間光変調器13の複数の光変調素子131(図3参照)の配列方向は、X方向である副走査方向に一致しているが、複数の光変調素子131の配列方向はY方向である主走査方向と交差する方向であれば、副走査方向と必ずしも一致していなくてもよい。すなわち、図1の場合と同様に、ガラス基板9aの移動方向である主走査方向は、光が照射される位置の配列方向に対して交差する方向であればよい。
【0056】
ガラス基板9aに画像が記録される際には、まず、テーブル移動機構85によりテーブル72が光学ヘッド10に対して(−Y)方向へと相対的に移動し、これにより、光学ヘッド10からの光の照射位置がガラス基板9aに対して(+Y)方向に相対的かつ連続的に移動する(すなわち、主走査する)。テーブル72の移動と並行して、位置検出モジュール85aからの信号に同期して信号光の出射が行われる。これにより、空間光変調器の像の大きさに対応した幅のY方向に長い帯状領域(スワス)に描画が行われる。
【0057】
照射位置がガラス基板9aの(+Y)側の端部まで到達すると、光学ヘッド10が帯状領域のX方向の幅に相当する距離だけ副走査方向(X方向)に移動するとともにテーブル72の移動方向が反転され、往路にて描画された帯状領域の横に接する新たな帯状領域に復路における描画が行われる。そして、画像記録装置1aでは、テーブル72がY方向に往復しつつ光学ヘッド10がX方向に間欠的に移動することにより、平面状のガラス基板9aの描画領域全体に画像が記録される。
【0058】
画像記録装置1aにおいても、照明光学系12の中間像位置にスリット部材125が設けられることにより、信号光のコントラスト向上が安価に実現される。その結果、容易に記録される画像の質を向上することができる。
【0059】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく様々な変形が可能である。
【0060】
可撓リボン131aおよび固定リボン131bは、厳密な意味でのリボン状である必要はない。例えば、固定リボン131bは、上面が固定反射面であるブロック状の部位として設けられてもよい。
【0061】
レーザ光源11は半導体レーザには限定されず、ガスレーザ、固定レーザ等であってもよい。
【0062】
記録材料9およびガラス基板9aは光学ヘッド10に対して相対的に移動可能であるならば他の手法により移動されてもよい。また、記録材料は、プリント配線基板や半導体基板等の感光性材料が塗布された、あるいは、感光性を有する他の材料であってもよく、光の照射による熱に反応する材料であってもよい。
【符号の説明】
【0063】
1,1a 画像記録装置
9 記録材料
9a ガラス基板
10 光学ヘッド
11 レーザ光源
12 照明光学系
12a 第1光学系
12b 第2光学系
13 空間光変調器
81,82 モータ
83 ボールねじ
85 テーブル移動機構
86 ヘッド移動機構
123 フライアイレンズ
125 スリット部材
125a スリット
131 光変調素子
131c 基準面
132a 可撓反射面
132b 固定反射面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間変調光生成装置であって、
レーザ光源と、
複数の光変調素子が素子配列方向に一列に配列された空間光変調器と、
前記レーザ光源から出射された光から、光束断面が前記素子配列方向に長い線状であって前記複数の光変調素子上に導かれるライン照明光を生成する照明光学系と、
を備え、
前記複数の光変調素子の各光変調素子が、前記素子配列方向に垂直な方向に細長い可撓反射面と固定反射面とを前記素子配列方向に交互に備え、
前記可撓反射面の両端が支持された状態で前記可撓反射面が撓んで前記各光変調素子が0次光を出射する状態と1次回折光を出射する状態との間で切り替わることにより、前記複数の光変調素子からの0次光または1次回折光である信号光の集合が、空間変調光として生成され、
前記照明光学系が、
前記レーザ光源と前記空間光変調器との間の中間像位置に、前記素子配列方向に対応する横方向に垂直かつ光軸に垂直な方向である縦方向に関して前記レーザ光源の像を結ぶことにより、前記横方向に長い中間像を形成する第1光学系と、
前記中間像位置に配置され、前記横方向に伸びるスリットを有し、前記中間像の前記縦方向両側または片側に現れる不要光を遮るスリット部材と、
前記スリットを通過した光により、前記空間光変調器上にて少なくとも前記縦方向に関して前記中間像を再結像させることにより、前記ライン照明光を生成する第2光学系と、
を備えることを特徴とする空間変調光生成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の空間変調光生成装置であって、
前記各光変調素子において、前記信号光が出射される状態における前記可撓反射面の撓み量が、前記信号光が出射されない状態における撓み量よりも小さいことを特徴とする空間変調光生成装置。
【請求項3】
請求項2に記載の空間変調光生成装置であって、
前記信号光が0次光であり、前記各光変調素子において、前記信号光が出射される状態における前記可撓反射面と前記固定反射面とがこれらの反射面に平行な基準面からほぼ同じ高さに位置することを特徴とする空間変調光生成装置。
【請求項4】
請求項2に記載の空間変調光生成装置であって、
前記各光変調素子において、前記信号光が出射される状態における前記可撓反射面と前記固定反射面とがこれらの反射面に平行な基準面から異なる高さに位置することを特徴とする空間変調光生成装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の空間変調光生成装置であって、
前記第1光学系が、前記中間像の前記横方向における光量分布を均一化する光学素子の少なくとも一部を備えることを特徴とする空間変調光生成装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の空間変調光生成装置であって、
前記レーザ光源、前記第1光学系および前記スリット部材を保持し、前記第2光学系に対して着脱可能な保持部材をさらに備えることを特徴とする空間変調光生成装置。
【請求項7】
記録材料に画像を記録する画像記録装置であって、
請求項1ないし6のいずれかに記載の空間変調光生成装置と、
前記空間変調光生成装置からの空間変調光を記録材料に対して相対的に移動しつつ前記記録材料に照射する移動機構と、
を備えることを特徴とする画像記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5.A】
image rotate

【図5.B】
image rotate

【図6.A】
image rotate

【図6.B】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8.A】
image rotate

【図8.B】
image rotate

【図9.A】
image rotate

【図9.B】
image rotate

【図9.C】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−69909(P2011−69909A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219465(P2009−219465)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】