説明

窒化チタンスパッタリングターゲットおよびその製造方法

【課題】大面積樹脂フィルム上への連続的かつ均一な窒化チタン膜の工業的な成膜を可能とする。
【解決手段】平均粒径が0.4〜1.5μmのTiN粉末を用い、分散剤を、TiN粉末100質量部に対して0.5〜2.0質量部添加し、湿式粉砕し、噴霧乾燥し、98〜294MPaの圧力で成形し、大気圧還元性雰囲気で400〜1000℃で還元処理した後、大気圧窒素雰囲気中で、1800〜2100℃の温度で焼成し、加工し、一般式:TiNxにおいて0.8≦x≦1.0、相対密度:93〜100%、平均空孔径が0.1〜1.5μmの窒化チタンスパッタリングターゲットを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムの表面改質を含む広い分野に適用されている窒化チタン膜を形成するためのスパッタリングターゲットおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化チタン膜は、耐久性を要求される工具などの表面に形成される硬質膜として使用されているほか、その導電性からIC・半導体用途における導電膜としても使用されている。近年、導電性および耐食性を向上させるための表面改質を目的として、樹脂フィルム上に窒化チタン膜を形成することも要望されている。このような用途およびそれに伴う需要の拡大に応じて、窒化チタン膜には、大きな面積に均質な膜を形成することが要求されている。
【0003】
従来、窒化チタン膜の成膜には、チタンターゲットを用いた窒素雰囲気下での反応性スパッタリング技術が一般的に用いられている。しかしながら、反応性スパッタリングを行う場合には、窒素分圧や投入電力によって、得られる膜の比抵抗や結晶性、成膜速度などが変化しやすいうえに、膜の特性が装置内に残存する酸素によっても大きく変化してしまうという技術的問題がある。特に、樹脂フィルム上に窒化チタンを反応性スパッタリングにより成膜する場合には、樹脂フィルムから発生する水分や酸素によって、得られる窒化チタン膜に酸素が取り込まれ、膜の特性が変化することで、均一な膜特性を有する窒化チタン膜が得られないという問題がある。また、反応性スパッタリングにおいては、ターゲット表面にも窒化チタン膜が形成されることに起因して、成膜速度が急激に低下するという問題もある。
【0004】
このような状況から、チタンターゲットによる反応性スパッタリングの問題を解消するために、チタンターゲットに代替する成膜材料として、窒化チタンスパッタリングターゲットが強く要望されている。
【0005】
窒化チタンスパッタリングターゲットは、窒化チタン粉末を出発原料として粉末焼結法により得ることも可能であり、粉末焼結法としては、通常、ホットプレスやHIP(熱間静水圧プレス)などが用いられている。
【0006】
しかしながら、窒化チタンは難焼結性の材料であり、上記の粉末焼結法で窒化チタンスパッタリングターゲットを作製しても、焼結後の粒子間に多くの粗大空孔が存在するため、ターゲットが低密度となってしまう。この多数の空孔の存在により、スパッタリング成膜時に、ターゲットの表面にノジュール(突起状異物)が発生し、これが著しく成膜レートを低下させる要因となる。また、樹脂フィルム上への成膜時には、樹脂フィルムから発生する異物に起因して、ターゲット表面にノジュールがさらに発生しやすくなるという問題もある。したがって、このような問題を解決するため、窒化チタンスパッタリングターゲットの高密度化を可能とすることが急務となっている。
【0007】
窒化チタンスパッタリングターゲットの高密度化を図るために、原料粉末として水素化チタンを混合添加した窒化チタン粉末を用い、この粉末をホットプレスする際に、原料粉末のN/Tiモル比を調整することが開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、この技術では、窒化チタンスパッタリングターゲットの高密度化を実現するためには、ターゲット組成のN/Tiモル比を大幅に下げる必要があり、その結果として、窒化チタン膜の窒素品位を補うために、スパッタ成膜時に導入するガス中の窒素量を大量に増加させる必要がある。窒素ガスの導入は成膜速度の著しい低下を招くことになるため、このようなターゲットを工業的な窒化チタン膜の成膜に用いることは困難である。
【0008】
また、パーティクルの発生が少ない窒化チタンスパッタリングターゲットを、チタン粉末を焼結させて、その後窒化させる方法によって、得ることが開示されている(特許文献2、3参照)。しかしながら、この方法で製造される窒化チタンスパッタリングターゲットでは、平均空孔サイズが大きくなってしまうため、前述のように、フィルム成膜に際して樹脂フィルムから発生する異物に起因する、ノジュールの発生頻度が高くなり、成膜速度の向上を図ることはできない。
【0009】
さらには、ターゲットの高密度化を図るために採用されているホットプレス法やHIPでは、大量生産が困難でありコスト高となるため、これらの製造方法を工業的な手段として採用することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭63−259075号公報
【特許文献2】特開平6−212417号公報
【特許文献3】特開平6−212418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、大面積の樹脂フィルム上への連続的かつ均一な窒化チタン膜の成膜を可能とする、高密度の窒化チタンスパッタリングターゲットの提供を目的としている。また、この高密度の窒化チタンスパッタリングターゲットを、工業的な手段によって、安定的かつ低コストに供給できるようにすること目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、樹脂フィルム上に窒化チタン膜を成膜するための窒化チタンスパッタリングターゲットに関する。
【0013】
特に、本発明の窒化チタンスパッタリグターゲットは、その構成成分が、チタン、窒素、および不可避成分とからなり、その組成比が、一般式:TiNxにおいて0.8≦x≦1.0であり、その焼結体密度が理論密度比で93%〜100%の範囲にあり、かつ、その平均空孔径が0.1μm〜1.5μmの範囲にあることを特徴とする。なお、不可避成分には、酸素と炭素が含まれ、窒化チタンスパッタリングターゲット中の酸素および炭素の含有量は、それぞれ最大で10at%まで許容される。
【0014】
なお、窒化チタンスパッタリングターゲットを構成する窒化チタン粒の平均粒径は、5μm〜20μmの範囲にあることが好ましい。
【0015】
本発明の窒化チタンスパッタリングターゲットは、
(1)出発原料として、平均粒径が0.4μm〜1.5μmの範囲にある窒化チタン粉末を用いて、
(2)水溶媒中に、該窒化チタン粉末を、アクリル酸メタクリル酸共重合体アンモニア中和物およびアクリル酸系共重合物アミン塩から選択される分散剤とともに、該窒化チタン粉末100質量部に対して、該分散剤が0.5質量部〜2.0質量部の範囲となるように、投入して、湿式粉砕し、
(3)得られた粉砕物を噴霧乾燥し、
(4)得られた造粒粉を、冷間静水圧プレスを用いて、98MPa〜294MPaの範囲の圧力で成形し、
(5)得られた成形体を、還元性雰囲気中で、400℃〜1000℃の範囲の温度で還元処理を行った後、窒素雰囲気中で、1800℃〜2100℃の温度で焼成し、
(6)得られた焼結体を加工する、
という工程を備える製造方法により得ることができる。
【0016】
前記還元性雰囲気として、1体積%以上の水素を含有する窒素水素混合雰囲気または水素雰囲気を用いることが好ましい。
【0017】
また、前記還元処理を、大気圧または加圧の還元性雰囲気で行い、前記焼成処理を大気圧または加圧の窒素雰囲気中で行うことが好ましい。
【0018】
前記湿式粉砕工程において、バインダとして、前記窒化チタン粉末100質量部に対して1.0質量部〜2.0質量部のポリビニルアルコールを、さらに添加することが好ましい。
【0019】
また、前記噴霧乾燥工程において、スプレードライヤを用いて球状の造粒粉を得ることが好ましい。
【0020】
さらに、前記焼成工程において、カーボンヒータ炉を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の窒化チタンスパッタリングターゲットでは、粗大空孔の生成が抑制されるとともに、空孔自体の粗大化も抑制されている。よって、本発明の窒化チタンスパッタリングターゲットを用いることにより、成膜時に、粗大空孔に起因するターゲット表面へのノジュール発生が抑制され、さらには、成膜レートの著しい低下も抑制される。また、樹脂フィルム上への連続成膜時にも、窒化チタン膜の膜厚の変動が少なくなるという利点もある。
【0022】
また、窒化チタン粒の平均粒径を所定範囲に調整することで、焼結体の強度をさらに向上させることができ、高スパッタ電力を投入しても、成膜時にターゲットが割れることがなく、効率よく使用することができる窒化チタンスパッタリングターゲットが提供される。さらに、本発明の窒化チタンスパッタリングターゲットを用いて、直流スパッタリング法による成膜が可能となるため、従来の反応性スパッタリング法よりも成膜速度を向上させることができる。
【0023】
一方、樹脂フィルムへのダメージが少ない低電力による成膜を行う際にも、本発明の窒化チタンスパッタリングターゲットを用いることにより、結晶性の高い、低抵抗の窒化チタン膜が得られるという効果がもたらされる。
【0024】
以上のように、本発明の窒化チタンスパッタリングターゲットは、大面積の樹脂フィルム上への均一な窒化チタン膜の連続的な成膜に適した、高密度の窒化チタンスパッタリングターゲットであり、その価値は非常に高いということができる。
【0025】
また、本発明の窒化チタンスパッタリングターゲットの製造方法により、焼成工程において、1回の処理量が制限されるホットプレスなどとは異なり、焼成炉内で多段に成形体を配置して、大気圧雰囲気中で焼成することが可能となるため、処理量を多くでき、大量生産が可能となる。よって、本発明により、窒化チタン膜の成膜材料であるスパッタリングターゲット、ひいては窒化チタン膜を、安定的かつ低コストで提供することが可能となり、本発明の工業的意義は大きいといえる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本発明の実施例で得られた窒化チタン焼結体のXRD(X線回折)の測定結果を示すグラフである。
【図2】図2は、水素を含む窒素雰囲気中で還元処理を行った後に、焼成することによって得られた、本発明の窒化チタンスパッタリングターゲットの破断面のSEM画像である。
【図3】図3は、還元処理を行わずに焼成することによって得られた、窒化チタンスパッタリングターゲットの破断面のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の窒化チタンスパッタリングターゲットを構成する成分は、チタン、窒素、および、不可避成分、特に、酸素と炭素である。また、そのチタンと窒素の組成比は、一般式:TiNxにおいて0.8≦x≦1.0である。さらに、その理論密度比が93%から100%の範囲にあり、かつ、その平均空孔径が0.1μmから1.5μmの範囲にある。
【0028】
本発明の窒化チタンスパッタリングターゲットは、出発原料として窒化チタン粉末を用いるが、原料の窒化チタン粉末に不可避的に含有される成分が、チタンおよび窒素以外に含まれている。また、スパッタリングターゲットの製造工程において、酸素や炭素が不可避的に混入する。よって、その成分として、チタンおよび窒素のほかに、酸素、炭素、その他の成分を含む不可避成分が含まれることになる。
【0029】
なお、酸素および炭素の含有量については、それぞれ最大で10at%まで許容できる。これらが最大許容量をそれぞれ超えると、窒化チタンスパッタリングターゲット中のチタンと窒素の組成比が、一般式:TiNxにおいて0.8未満となってしまい、直流スパッタリング法により得られる窒化チタン膜の導電性が不十分となり、導電膜の用途に使用できなくなる。酸素および炭素の含有量の規制は、製造工程における雰囲気制御などにより行う。一方、酸素および炭素以外の不純物の含有量は、最大で0.1質量%程度である。これらの不純物の制御は、原料粉末の純度、粉砕調整などにより行う。
【0030】
上述のチタンと窒素の組成比が、一般式:TiNxにおいて0.8未満となった場合でも、スパッタ成膜時に窒素品位を補うことにより、その用途に沿った導電性と耐食性を備える窒化チタン膜を得られるが、本発明では、工業的な窒化チタン膜の成膜を可能にする観点から、その組成比を、一般式:TiNxにおいて0.8以上となるように規制している。
【0031】
本発明の窒化チタンスパッタリングターゲットの焼結体密度(相対密度)は、理論密度比の93%〜100%の範囲にあるが、このように高密度化することにより、ターゲット内の空孔がきわめて少なくなり、さらに、スパッタリングする際に、ターゲット表面にノジュールが発生することを抑制できるので、樹脂フィルム上への連続成膜が可能となる。なお、長尺安定成膜の観点から、理論密度比は95%〜100%の範囲にあるのがより好ましい。
【0032】
この焼結体密度の高密度化は、製造工程における各条件、具体的には出発原料の選定、冷間静水圧プレス(CIP)による成形およびその成形条件、還元処理および焼成における条件などを適宜制御することにより達成されるが、特に、平均空孔径が1.5μm以下となるように焼成条件を制御することが、上記のような高密度化の達成に大きく寄与することとなる。
【0033】
本発明の窒化チタンスパッタリングターゲットでは、その平均空孔径は、0.1μm〜1.5μmの範囲にある。平均空孔径が1.5μmを超えると、成膜時にターゲット表面にノジュールが発生することを十分に抑制できないこととなる。一方、平均空孔径の下限は小さい方が好ましいが、0.1μmを下回るようにするためには、成形時における成形圧力や、焼成時における焼成温度をさらに上げることが必要となってしまう。このような条件は、量産性に適しておらず、かつ、窒化チタンの分解による粗大空孔の生成を抑制できなくするため、平均空孔径をさらに小さくすることは、現在の製造条件では工業的生産の観点から困難であるといえる。
【0034】
このように、高密度化された本発明の窒化チタンスパッタリングターゲットを用いることにより、成膜レートの著しい低下が抑制され、フィルム上への連続成膜時にも膜厚変動の少ない、均一な成膜が可能となる。よって、本発明の窒化チタンスパッタリングターゲットは、大面積樹脂フィルム上への窒化チタン膜形成にきわめて適しているということができる。なお、ここでいう焼結体密度とは、得られた焼結体の試験片について体積と質量を測定し、求められた密度の、理論密度に対する理論密度比を算出したものである。
【0035】
また、本発明の窒化チタンスパッタリングターゲットにおけるチタンと窒素の組成比は、一般式:TiNxにおいて、0.8≦x≦1.0であることから、スパッタリング時の成膜ガス雰囲気が、Arのみの雰囲気を用いる成膜条件でも、窒素品位の高い窒化チタン膜が得られる。よって、スパッタリングの効率性を阻害する窒素ガスを導入することなく、導電性および耐食性のいずれにも優れる窒化チタン膜を得ることが可能となる。
【0036】
上述のように、窒素品位を示す、一般式:TiNxのxが0.8未満となると、成膜時に窒素ガスの添加が必要となり、成膜速度を著しく低下させてしまうため、本発明のように窒素品位を0.8≦x≦1.0とすることはきわめて重要である。このように、本発明は窒素品位の高い窒化チタンスパッタリングターゲットを実現した点において、きわめて有用であるということができる。なお、得られる窒化チタン膜の特性の観点から、この窒素品位は0.9以上であることが好ましい。
【0037】
また、本発明の窒化チタンスパッタリングターゲットの結晶粒は、焼結体強度や残存する空孔サイズの観点から、平均粒径が5μm〜20μmの範囲にあることが好ましい。平均粒径が5μmより小さいと、粒同士の結合が乏しくなり、ターゲットが低強度となることから好ましくない。一方、平均粒径20μmより大きくなると、粒子の大きさにバラつきが大きくなり、粗大粒子が多く存在するようになって、粒界割れが進みやすく、やはり低強度となってしまう。このようにターゲットが低強度となると、成膜時における熱負荷により、ターゲットが割れやすくなってしまうため、好ましくない。さらに、結晶粒が大きくなると、空孔サイズも大きくなって、ノジュールが発生しやすくなる点からも、好ましくない。このような窒化チタン焼結体の結晶性などの観点から、平均粒径が10μm〜15μmの範囲にあることがさらに好ましい。
【0038】
次に、本発明の窒化チタンスパッタリングターゲットの製造方法について説明する。
【0039】
(1)出発原料
まず、出発原料として窒化チタン粉末を使用する。窒化チタン粉末は、平均粒径が0.4μm〜1.5μmの範囲内にある粉末を用いる。一般に、スパッタリングターゲットの原料粉末を微細化することにより、ターゲットの焼結性の向上が期待されるが、平均粒径を0.4μmより微細化すると粉末が凝集しやすくなり、また、粉末の酸化が進んでしまうことから、かえって焼結性が阻害されてしまう。一方、平均粒径を1.5μmより大きくすると、粗大粒子が多くなり、著しく粉末の焼結性が阻害されてしまう。粉体の焼結性およびターゲット量産時の取扱い性の観点から、0.5μm〜1.1μmの範囲にある粉末を用いることがより好ましい。なお、溶媒中における粉末の粉砕を検討する場合であっても、出発原料の平均粒径を上記範囲とすることが必要である。
【0040】
また、一次粒子径の指標となるBET値は、1m2/g〜15m2/gの範囲にあることが望ましい。BET値が1m2/g未満の場合には、著しく焼結性が悪化し、ターゲット密度の向上を図ることが困難となり、一方、15m2/gより大きい場合には、凝集が強くなることで、取扱いが困難となる上に、酸素を取り込みやすくなるため、焼結性が阻害されてしまう。このBET値は、5m2/g〜10m2/gの範囲にあることがさらに望ましい。
【0041】
(2)湿式粉砕工程
次に、原料の窒化チタン粉末を湿式粉砕して微粒化する。窒化チタン粉末の湿式粉砕は、アクリル酸メタクリル酸共重合体アンモニア中和物、あるいは、アクリル酸系共重合物アミン塩を、分散剤として、水溶媒中で行うことが必要である。単に水を溶媒とした湿式粉砕は、工程として量産化しやすいが、粉末の酸化および窒化チタン粉末の水溶媒への分散が悪いという問題がある。
【0042】
そこで、本発明では、アクリル酸メタクリル酸共重合体アンモニア中和物、あるいは、アクリル酸系共重合物アミン塩を、分散剤として使用することで、撥水性に近い窒化チタン粉末を水溶媒中で高分散させることを可能ならしめている。すなわち、窒化チタン粉末の水溶媒中のスラリー濃度を50%以上、好ましくは70%程度まで高めることができるため、生産効率を高めることが可能となる。また、スラリー濃度が50%以上となった場合でも、スラリー粘度を100cps未満とすることができる。
【0043】
なお、アクリル酸メタクリル酸共重合体アンモニア中和物は、次の式で表される組成を有する。
【0044】
【化1】

【0045】
また、アクリル酸系共重合物アミン塩としては、たとえば、次の式で表される組成を有するものを挙げることができる。
【0046】
【化2】

【0047】
このアクリル酸系共重合物アミン塩の具体例としては、ポリアクリル酸アミン塩を挙げることができる。
【0048】
分散剤の添加量は、原料の窒化チタン粉末100質量部に対して、0.5質量部〜2.0質量部の範囲で添加することが必要であるが、0.5質量部〜1.0質量部のより微量の添加で処理することが望ましい。0.5質量部未満では添加効果が得られず、一方、2.0質量部を超えると、焼結脱バインダ工程時に割れが発生しやすくなるため好ましくない。
【0049】
なお、この湿式処理である粉砕工程において、窒化チタン粉末は表面酸化するが、この窒化チタン粉末の酸化の問題は、原料粉末の平均粒径が0.4μm〜1.5μmの範囲の粉末を選定することで、その後の焼成工程において、焼成温度と雰囲気を調整することにより、酸化から生じる問題を解消することが可能である。
【0050】
また、添加剤とは別に、有機バインダとして、ポリビニルアルコール(PVA:−[CH2CH(OH)]n−)を添加することが望ましい。PVAの添加により、成形時に高強度の成形体が得られ、かつ、PVAは、焼結時に容易に揮発させることが可能である。PVAとしては、ケン化度が90mol%〜100mol%の範囲内にあり、重合度が500〜1000の範囲内にあるものを用いることが好ましい。PVAの添加量としては、原料の窒化チタン粉末100質量部に対して1.0質量部〜2.0質量部の範囲とすることが望ましく、1.0質量部〜1.5質量部のより微量の添加で処理することが望ましい。1.0質量部未満では添加効果が得られず、2.0質量部を超えると、焼成工程における脱バインダ時に成形体に割れが発生しやすくなる。なお、有機バインダは、湿式粉砕工程の前に、分散剤と同時に添加してもよく、また、湿式粉砕後に粉砕物のスラリーに有機バインダを添加して、噴霧乾燥工程に供してもよい。
【0051】
なお、湿式粉砕は、ボールミル、ビーズミルなどの混合手段を用いることができる。容器にはポリビン、ウレタンライニング製ステンレス容器などを、また、メディアには、安定性、耐摩耗性などの観点からジルコニアボールなどを用いることが好ましい。また、粉砕混合時間は、ボールミル粉砕であれば5時間〜20時間程度行うことが好ましい。ボールミル条件は、処理粉末質量に対して3倍程度のメディアを用いて、周速を30m/分〜40m/分で行うことが望ましい。一方、ビーズミルの場合、φ0.5mmのビーズを用いて、1000rpm〜1500rpm程度で、1時間〜5時間程度、粉砕を行うことが望ましい。
【0052】
(3)噴霧乾燥工程
得られた粉砕物を含むスラリーについて、噴霧乾燥を行い、造粒粉を得る。特に、スプレードライヤを用いることにより、球状の造粒粉を得ることが好ましい。上述の通り、本発明においては、分散剤として、アクリル酸メタクリル酸共重合体アンモニア中和物、あるいは、アクリル酸系共重合物アミン塩を使用し、より好ましくは、有機バインダとして、PVAを用いることにより、窒化チタン粉末の凝集が阻止され、また、得られる造粒粉における空孔の発生も阻止される。
【0053】
なお、噴霧乾燥時の乾燥温度は、140℃〜200℃の範囲とすることが好ましい。また、装置に応じて、球状の造粒粉が得られるように排風量などにより乾燥速度を適宜調整する。噴霧乾燥には、量産性に優れたディスクを用いたスプレードライヤを用いることが好ましく、ディスク回転数:10000rpm〜15000rpm、スラリー濃度50%以上とすることで、球状の成形性に優れる造粒粉が得られる。乾燥温度を低くすることで、バインダが硬くならず、成形時に近接する粒同士が変形および密着することで、高強度の成形体が得られる。造粒粉の粒径は、平均粒径で50μm〜100μmとすることが望ましく、最大粒径を150μmとしてフルイがけを行い、タップ密度を安定化させることが望ましい。
【0054】
(4)成形工程
噴霧乾燥工程を経て得られた造粒粉をゴム型に充填し、冷間静水圧プレス(CIP)を用いて、98MPa〜294MPaの圧力、より好ましくは196MPa〜294MPaの圧力で、造粒粉を成形する。この際、一軸プレスによる予備成形を実施した後に、CIPを行ってもよい。98MPa〜294MPaの範囲の高圧力でのCIPを行うことで、ホットプレスやHIPの場合と異なり、造粒粉同士が密着されて空孔がなくなり、焼結での密度向上が図ることが可能となる。また、CIPは、生産の安定性に優れ、かつ、形状安定性にも優れる点に利点を有する。成形時における最高圧力の保持時間は、1分〜10分とすることが好ましい。
【0055】
前記条件で成形することで、高強度の成形体が得られ、成形体密度(相対密度)を50%以上とすることができる。ここでいう成形体密度とは、得られた成形体の試験片について体積と質量を測定し、求められた密度の、理論密度に対する理論密度比をいう。成形体密度が、50%より低い場合には、成形体の取扱いが困難になる上、焼結時に成形体の収縮が大きくなり、焼結割れを引き起こす可能性が高くなってしまう。
【0056】
なお、成形工程において、294MPaよりも高い成形圧力で成形することも可能であるが、装置の耐久性を考えると、量産には適しているとはいえない。
【0057】
(5)還元処理工程
成形工程で得られた成形体を、加熱炉を用いて、好ましくは大気圧(0.1MPa)の還元性雰囲気中で、400℃〜1000℃の温度で1時間〜15時間程度、還元処理を行う。
【0058】
成形体を炉内に設置し、炉内の圧力が5×10-2Pa〜7×10-3Pa程度になるまで真空引きした後、窒素水素混合ガスまたは水素ガスを炉内に導入し、大気圧還元性雰囲気とする。前記還元性雰囲気としては、1体積%以上の水素を含有する窒素水素混合雰囲気、または、水素雰囲気(水素100体積%)を用いることができる。窒素水素混合雰囲気を用いる場合には、水素の含有量が1体積%未満になると十分な効果を得ることができない。なお、還元処理の効率性の観点から、窒素水素混合雰囲気における水素の含有量は2体積%以上とすることが好ましい。また、還元処理時の温度は400℃〜1000℃、好ましくは500℃〜1000℃とすることが必要となる400℃未満では十分に還元反応が進まず、1000℃を超えると、水素化チタン、チタン金属などが発生してしまう。なお、成形体を均一に還元させるためには、昇温速度は1.0℃/分以上7.0℃/分以下、望ましくは2.0℃/分以上7.0℃/分以下とする。
【0059】
このように還元処理を行うことによって、酸化物の生成を防止するとともに、有機成分を除去することができ、高密度化の妨げとなる空孔の発生を抑止することができる。これにより、続いて行われる大気圧窒素雰囲気中での焼成工程時において、空孔の発生が十分に抑制されることとなる。
【0060】
なお、加熱炉としては、上記の温度域まで加熱できる炉であれば使用できるが、還元雰囲気を実現できるカーボンヒータ炉を用いることが望ましい。
【0061】
また、還元処理時の雰囲気は、0.9MPa程度までの加圧雰囲気中でも同様の効果を得ることができるが、量産性の観点から、大気圧の窒素水素混合雰囲気もしくは水素雰囲気を採用することが好ましい。
【0062】
(6)焼成工程
焼成工程は、還元処理工程と連続して同じ加熱炉を用いて行う。焼成工程は、大気圧(0.1MPa)の窒素雰囲気中で、1800℃〜2100℃の温度範囲、より好ましくは1900℃〜2100℃の温度範囲で焼成を行う。粒成長を十分に行わせるためには、1800℃以上の温度が必要である。1800℃より低い温度では、窒化チタンの粒成長が不十分で、粗大空孔が残留し、高密度の焼結体が得られない。そのため、成膜時にノジュールの発生を抑制できず、成膜速度が著しく低下してしまうため長時間の均一成膜ができない。また、2100℃を超えても、粒成長は生じ、相対密度の高い焼結体が得られるものの、窒化チタンが分解しやすくなるため、粗大空孔の生成は抑制できず、成膜時にノジュールを発生させる原因となるため、2100℃以下の温度で焼成する必要がある。
【0063】
なお、粒成長を行わせるためには、上記の焼成温度での保持時間を3時間以上とすることが望ましい。焼成の効率性から、上記の保持時間は3時間〜10時間の範囲とすることがさらに望ましい。粒成長を均一に行わせるためには、昇温速度を20℃/分以下とすることが必要であり、望ましくは3℃/分以上10℃/分以下の昇温速度とする。また、上記の焼成温度で所定時間保持した後は、2℃/分〜10℃/分の範囲の冷却速度で室温付近まで冷却することが好ましい。
【0064】
焼成雰囲気については、窒化チタンの分解が生じにくいように、窒素ガス中で加熱することが必要である。湿式処理工程における酸化は、還元処理工程の還元処理と、この焼成工程の加熱処理により除去することができる。焼成時の雰囲気は、0.9MPa程度までの加圧窒素雰囲気、大気圧窒素雰囲気のいずれでも粒成長を進められ、窒化チタンの焼結を行うことができる。ただし、量産性の観点からは、大気圧窒素ガス雰囲気を採用することが好ましい。
【0065】
(7)加工工程
得られた焼結体を、6inch(152mm)径や、150×150mm角などの適切な大きさに加工し、研磨した後、バッキングプレートにボンディングを行い、スパッタリングターゲットとする。なお、かかる加工は、ダイヤモンド砥粒を用いたホイールおよびミルによる平面研削および端面加工により構成されるが、これらの各工程には公知の加工手段を用いることができる。このようにして得られたスパッタリングターゲットの強度は、高スパッタ電力を投入しても、成膜時にターゲットが割れることがない。
【0066】
(8)成膜工程
本発明のスパッタリングターゲットを用いて成膜を行う際のスパッタリング法については、何ら制限されることなく、公知のいずれの手段をも用いることができるが、量産性の観点から直流スパッタリング装置を用いた手段を採ることが好ましい。本発明のスパッタリングターゲットは、理論密度比による成形体密度が93%以上と高く、空孔も問題とならない程度であることから、直流スパッタリングを用いても、ノジュールの発生は抑制される。
【0067】
なお、本発明のスパッタリングターゲットを用いて、通常のスパッタリング条件でスパッタリングを行った場合、成膜後の膜の組成はスパッタリングターゲットの組成とほぼ一致し、膜中における窒素分析を行うと、TiNxにおいて0.8≦x≦1.0となる。
【0068】
樹脂フィルム上への成膜においては、連続成膜が可能なロールコータを用いることが好ましい。Arガスを用いて、ガス圧0.2Pa〜0.3Paとすることで、投入電力3W/cm2〜22W/cm2で成膜ができる。樹脂フィルムへの影響を考慮に入れると、12W/cm2以下であれば、熱負荷が少なく良好である。また、膜へのダメージを少なくしつつ、低抵抗な窒化チタン膜を成膜するためには、7W/cm2〜12W/cm2の範囲とすることが望ましい。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により、本発明についてさらに具体的な説明を行うが、本発明は、実施例に限定されることはない。
【0070】
(実施例1)
平均粒径が1.1μmで、BET値が約3m2/gである窒化チタン粉末(日本新金属株式会社製)を100質量部、分散剤として、アクリル酸メタアクリル酸共重合体アンモニウム中和物(中部サイデン株式会社製)を1.5質量部、有機バインダとして、ケン化度が91mol%、重合度が500であるポリビニルアルコール(PVA:日本酢ビ・ボパール株式会社製)を1.5質量部、溶媒として水(純水)を100質量部(スラリー濃度:50%)となるようにそれぞれ秤量後、これらすべてを、φ5mmのジルコニアボール(株式会社ニッカトー製)とともに(窒化チタン粉末に対して約3倍)、10Lのポリビンに投入し、60rpmの回転数(周速約38m/分)で、ボールミル粉砕を15時間行った。得られたスラリーの粘度をB型粘度計(東京計器株式会社製)により測定したところ、50cpsであった。
【0071】
その後、得られたスラリーを、スプレードライヤ(大川原化工機株式会社製)を用いて、150℃の熱風温度で、噴霧乾燥を行い、造粒粉を得た。この造粒粉の形状を光学顕微鏡により確認すると球状であり、その平均粒径は約75μmであった。
【0072】
得られた造粒粉を、ゴム型(25cm幅×25cm長×1.4cm高)に充填し、静水圧成形装置(株式会社神戸製鋼所製)を用いて、294MPaの成形圧力で、6分間のCIP成形を行った。
【0073】
さらに、得られた成形体を、カーボン炉(株式会社ノリタケ・エンジニアリング製)に設置して、8×10-3Paまで真空引きを行った後、水素3体積%含有窒素ガスを大気圧(0.1MPa)となるまで導入しつつ、昇温速度4℃/分で800℃とし、この温度を維持しつつ、大気圧窒素水素混合雰囲気中で1時間保持することにより還元処理を行い、その後、大気圧窒素雰囲気に置換し、さらに焼成温度である1800℃まで昇温速度2℃/分で昇温し、その温度を10時間保持し、その後、冷却速度6℃/分で室温まで冷却して、焼結体を得た。
【0074】
得られた焼結体を、150×150×6mmの大きさに加工した。そのうちの1つをサンプルとして、アルキメデス法により焼結体密度を測定したところ、5.05g/cm3であり、窒化チタンの理論密度(5.43g/cm3)との比である相対密度は94%であり、焼結体の破断面のSEM像より平均空孔径は1.5μmであった。
【0075】
また、X線光電子分光(XPS)装置により、焼結体の窒素分析を行ったところ、TiNxにおいてx=0.92であった。また、焼結体について、X線回折(XRD)装置により測定を行ったところ、図1に示すとおり、窒化チタン(TiNx)のピークのみが現れ、酸化チタン(TiO2)の発生は見られなかった。さらに、窒化チタン粒の平均粒径を、電子顕微鏡を用いて確認したところ、その平均粒径は、10μmであった。
【0076】
その後、表面の研磨を行った加工後の焼結体をバッキングプレートに、ホットプレートを用いてボンディングを行い、スパッタリングターゲットを得た。
【0077】
次に、直流スパッタリング装置(連続式フィルムロールコータ)により、得られたスパッタリングターゲットを用いて、10W/cm2の投入電力、Arガスを導入し、0.3Paの圧力の雰囲気で、直流スパッタリングを施したところ、ノジュール発生による異常放電は、放電開始後10時間までは発生しなかった。また、放電開始時の成膜速度に対する放電終了時(約24時間後)の成膜速度の低下割合は、10%と良好であった。また、得られた膜についても、窒素分析を行ったところ、TiNxにおいてx=0.92であった。
【0078】
(実施例2)
焼成工程における焼成温度を1900℃とした以外は、実施例1と同じ条件として、スパッタリングターゲットを製造した。得られた焼結体の焼結体密度は95%、焼結体の破断面のSEM像より平均空孔径は1.2μm、TiNxにおいてx=0.94、窒化チタン粒の平均粒径は12μmであった。また、X線回折測定では酸化チタンの発生は見られなかった。同様にスパッタリング成膜を行って、ターゲットを評価したところ、ノジュールの発生はなく、良好な結果が得られた。また、成膜速度低下割合は、9%と良好であった。
【0079】
(実施例3)
焼成工程における焼成温度を2000℃としたこと以外は、実施例1と同じ条件として、スパッタリングターゲットを製造した。得られた焼結体の焼結体密度は96%、焼結体の破断面のSEM像より平均空孔径は0.9μm、TiNxにおいてx=0.93、窒化チタン粒の平均粒径は15μmであった。また、X線回折測定では酸化チタンの発生は見られなかった。同様にスパッタリング成膜を行って、ターゲットを評価したところ、ノジュールの発生はなく、良好な結果が得られた。また、成膜速度低下割合は、7%と良好であった。
【0080】
(実施例4)
還元処理工程の還元処理条件を、水素3体積%含有窒素ガスの代わりに、100体積%水素ガスを用いた水素雰囲気で行ったこと以外は、実施例3と同じ条件として、スパッタリングターゲットを製造した。得られた焼結体の焼結体密度は97%、焼結体の破断面のSEM像より平均空孔径は0.7μm、TiNxにおいてx=0.93、窒化チタン粒の平均粒径は15μmであった。また、X線回折測定では酸化チタンの発生は見られなかった。同様にスパッタリング成膜を行って、ターゲットを評価したところ、ノジュールの発生はなく、良好な結果が得られた。また、成膜速度低下割合は、6%と良好であった。
【0081】
(実施例5)
還元処理工程の還元処理条件を、水素3体積%含有窒素ガスの代わりに、水素1%含有窒素ガスを用いたこと以外は、実施例3と同じ条件として、スパッタリングターゲットを製造した。得られた焼結体の焼結体密度は96%、焼結体の破断面のSEM像より平均空孔径は0.8μm、TiNxにおいてx=0.93、窒化チタン粒の平均粒径は15μmであった。また、X線回折測定では酸化チタンの発生は見られなかった。同様にスパッタリング成膜を行って、ターゲットを評価したところ、ノジュールの発生はなく、良好な結果が得られた。また、成膜速度低下割合は、7%と良好であった。
【0082】
(実施例6)
成形工程における成形圧力を98MPaとした以外は、実施例3と同じ条件として、スパッタリングターゲットを製造した。得られた焼結体の焼結体密度は94%、焼結体の破断面のSEM像より平均空孔径は1.3μm、TiNxにおいてx=0.93、窒化チタン粒の平均粒径は14μmであった。また、X線回折測定では酸化チタンの発生は見られなかった。同様にスパッタリング成膜を行って、ターゲットを評価したところ、ノジュールの発生はなく、良好な結果が得られた。また、成膜速度低下割合は、10%と良好であった。
【0083】
(実施例7)
原料粉末である窒化チタン粉末をあらかじめ粉砕および分級して、平均粒径を0.5μmとした粉末を用いたこと以外は、実施例3と同じ条件として、スパッタリングターゲットを製造した。得られた焼結体の焼結体密度は98%、焼結体の破断面のSEM像より平均空孔径は0.6μm、TiNxにおいてx=0.93、窒化チタン粒の平均粒径は13μmであった。また、X線回折測定では酸化チタンの発生は見られなかった。同様にスパッタリング成膜を行って、ターゲットを評価したところ、ノジュールの発生はなく、良好な結果が得られた。また、成膜速度低下割合は、5%と良好であった。
【0084】
(実施例8)
還元処理における還元処理温度を1000℃としたこと以外は、実施例3と同じ条件として、スパッタリングターゲットを製造した。得られた焼結体の焼結体密度は97%、焼結体の破断面のSEM像より平均空孔径は0.7μm、TiNxにおいてx=0.92、窒化チタン粒の平均粒径は15μmであった。また、X線回折測定では酸化チタンの発生は見られなかった。同様にスパッタリング成膜を行って、ターゲットを評価したところ、ノジュールの発生はなく、良好な結果が得られた。また、成膜速度低下割合は、6%と良好であった。
【0085】
(実施例9)
分散剤として、アクリル酸メタクリル酸共重合体アンモニア中和物の代わりに、アクリル酸系共重合物アミン塩(楠本化成株式会社製、HIPLAAD)を用いたこと以外は、実施例3と同じ条件として、スパッタリングターゲットを製造した。得られた焼結体の焼結体密度は97%、焼結体の破断面のSEM像より平均空孔径は0.9μm、TiNxにおいてx=0.92、窒化チタン粒の平均粒径は15μmであった。また、X線回折測定では酸化チタンの発生は見られなかった。同様にスパッタリング成膜を行って、ターゲットを評価したところ、ノジュールの発生はなく、良好な結果が得られた。また、成膜速度低下割合は、8%と良好であった。
【0086】
(実施例10)
成形工程における成形圧力を98MPaとしたこと以外は、実施例9と同じ条件として、スパッタリングターゲットを製造した。得られた焼結体の焼結体密度は94%、焼結体の破断面のSEM像より平均空孔径は1.5μm、TiNxにおいてx=0.94、窒化チタン粒の平均粒径は14μmであった。また、X線回折測定では酸化チタンの発生は見られなかった。同様にスパッタリング成膜を行って、ターゲットを評価したところ、ノジュールの発生はなく、良好な結果が得られた。また、成膜速度低下割合は、10%と良好であった。
【0087】
(実施例11)
還元処理時間を10時間、焼結温度を2100℃としたこと以外は、実施例3と同じ条件として、スパッタリングターゲットを製造した。得られた焼結体の焼結体密度は99.5%、TiNxにおいてx=0.94、窒化チタン粒の平均粒径は20μmであった。また、焼結体の破断面のSEM像より平均空孔径は、0.1μmであった。また、X線回折測定では酸化チタンの発生は見られなかった。同様にスパッタリング成膜を行って、ターゲットを評価したところ、ノジュールの発生はなく、良好な結果が得られた。また、成膜速度低下割合は、3%と良好であった。
【0088】
(比較例1)
焼成工程において、大気圧窒素雰囲気中の焼成温度を1750℃としたこと以外は、実施例3と同じ条件として、スパッタリングターゲットを製造した。得られた焼結体の焼結体密度は92%、焼結体の破断面のSEM像より平均空孔径は3.0μm、TiNxにおいてx=0.93、窒化チタン粒の平均粒径は3μmであった。このように窒化チタンの粒成長が十分でなく、また粗大空孔が多く存在していることが、焼結体破断面の電子顕微鏡観察を行うことにより確認された。また、X線回折測定では酸化チタンの発生は見られなかった。同様にスパッタリング成膜を行って、ターゲットを評価したところ、ノジュールの発生が多く、また、成膜速度低下割合は15%であり、長時間の均一成膜には適しないことがわかった。
【0089】
(比較例2)
還元処理における還元処理温度を350℃としたこと以外は、実施例3と同じ条件として、スパッタリングターゲットを製造した。得られた焼結体の焼結体密度は95%、焼結体の破断面のSEM像より平均空孔径は2.0μm、TiNxにおいてx=0.93、窒化チタン粒の平均粒径は15μmであった。このように結晶粒は十分に成長していたが、数は少ないものの粗大空孔が存在することが、焼結体破断面の電子顕微鏡観察を行うことにより確認された。また、X線回折測定では酸化チタンの発生は見られなかった。同様にスパッタリング成膜を行って、ターゲットを評価したところ、異常放電の抑制の効果は認められ、ノジュールの発生はなかったが、成膜速度低下割合が12%であり、長時間の均一成膜には適しないことがわかった。
【0090】
(比較例3)
還元処理における還元処理温度を1100℃としたこと以外は、実施例3と同じ条件として、スパッタリングターゲットを製造した。得られた焼結体の焼結体密度は94%、焼結体の破断面のSEM像より平均空孔径は1.8μm、TiNxにおいてx=0.91、窒化チタン粒の平均粒径は15μmであった。このように結晶粒は十分に成長していたが、数は少ないものの粗大空孔が存在することが、焼結体破断面の電子顕微鏡観察を行うことにより確認された。また、X線回折測定では酸化チタンの発生は見られなかった。同様にスパッタリング成膜を行って、ターゲットを評価したところ、異常放電の抑制の効果は認められ、ノジュールの発生はなかったが、成膜速度低下が11%であり、長時間の均一成膜には適しないことがわかった。
【0091】
(比較例4)
原料粉末である窒化チタン粉末をあらかじめ粉砕および分級して、平均粒径を0.35μmとした粉末を用いたこと以外は、実施例3と同じ条件として、スパッタリングターゲットを製造した。得られた焼結体の焼結体密度は92%、焼結体の破断面のSEM像より平均空孔径は2.5μm、TiNxにおいてx=0.90、窒化チタン粒の平均粒径は16μmであった。このように結晶粒は十分に成長していたが、粗大空孔が多く存在することが、焼結体破断面の電子顕微鏡観察を行うことにより確認された。また、X線回折測定では酸化チタンの発生は見られなかった。同様にスパッタリング成膜を行って、ターゲットを評価したところ、ノジュールの発生が多く、また、成膜速度低下が14%であり、長時間の均一成膜には適しないことがわかった。
【0092】
(比較例5)
原料粉末である窒化チタン粉末をあらかじめ分級して、平均粒径を1.7μmとした粉末を用いたこと以外は、実施例3と同じ条件として、スパッタリングターゲットを製造した。得られた焼結体の焼結体密度は91%、焼結体の破断面のSEM像より平均空孔径は2.8μm、TiNxにおいてx=0.93、窒化チタン粒の平均粒径は12μmであった。このように結晶粒は十分に成長していたが、粗大空孔が多く存在することが、焼結体破断面の電子顕微鏡観察を行うことにより確認された。また、X線回折測定では酸化チタンの発生は見られなかった。同様にスパッタリング成膜を行って、ターゲットを評価したところ、ノジュールの発生が多く、また、成膜速度低下割合が16%であり、長時間の均一成膜には適しないことがわかった。
【0093】
(比較例6)
成形工程における成形圧力を90MPaとしたこと以外は、実施例3と同じ条件として、スパッタリングターゲットを製造した。得られた焼結体の焼結体密度は92%、焼結体の破断面のSEM像より平均空孔径は2.4μm、TiNxにおいてx=0.92、窒化チタン粒の平均粒径は12μmであった。このように結晶粒は十分に成長していたが、粗大空孔が多く存在することが、焼結体破断面の電子顕微鏡観察を行うことにより確認された。また、X線回折測定では酸化チタンの発生は見られなかった。同様にスパッタリング成膜を行って、ターゲットを評価したところ、ノジュールの発生が多く、また、成膜速度低下割合が14%であり、長時間の均一成膜には適しないことがわかった。
【0094】
(比較例7)
焼成工程における焼成温度を2150℃としたこと以外は、実施例3と同じ条件として、スパッタリングターゲットを製造した。得られた焼結体の焼結体密度は92%、焼結体の破断面のSEM像より平均空孔径は3.5μm、TiNxにおいてx=0.89、窒化チタン粒の平均粒径は25μmであった。このように結晶粒は十分に成長していたが、粗大空孔が多く存在することが、焼結体破断面の電子顕微鏡観察を行うことにより確認された。また、X線回折測定では酸化チタンの発生は見られなかった。同様にスパッタリング成膜を行って、ターゲットを評価したところ、ノジュールの発生が多く、また、成膜速度低下割合が16%であり、長時間の均一成膜には適しないことがわかった。
【0095】
(比較例8)
出発原料として、TiH2粉末(平均粒径3μm)とTiN粉末(平均粒径1.2μm)を混合したものを用いたこと、焼結温度1650℃で焼結を5時間行ったこと以外は、実施例3と同じ条件として、スパッタリングターゲットを製造した。得られた焼結体の焼結体密度は95%、焼結体の破断面のSEM像より平均空孔径は3.0μm、TiNxにおいてx=0.75、窒化チタン粒の平均粒径は3μmであった。このように窒化チタンの粒成長が十分でなく、粗大空孔が多く存在していることが、焼結体破断面の電子顕微鏡観察を行うことにより確認された。また、X線回折測定では酸化チタンの発生は見られなかった。フィルム上へのスパッタリング成膜によるターゲット評価を行った結果、ノジュールの発生が多く、長時間の成膜には適しないことがわかった。また、得られた膜についても、窒素分析を行ったところ、TiNxにおいてx=0.75ときわめて窒素品位が低かった。そこで、スパッタ導入ガス中への窒素ガスを添加するようにしたが、それに伴って、成膜速度低下割合が20%となった。
【0096】
【表1】

【0097】
(実施例12)
分散剤の添加量を0.5質量部としたこと以外は、実施例3と同じ条件で、スパッタリングターゲットを製造した。成形体密度が低くなる傾向を示したものの、成形工程での割れは発生せず、得られた焼結体の焼結体密度は94%、焼結体の破断面のSEM像より平均空孔径は1.3μm、TiNxにおいてx=0.94、窒化チタン粒の平均粒径は15μmであった。また、X線回折測定では酸化チタンの発生は見られなかった。同様にスパッタリング成膜を行って、ターゲットを評価したところ、ノジュールの発生はなく、良好な結果が得られた。また、成膜速度低下割合は、9%と良好であった。
【0098】
(実施例13)
分散剤の添加量を1.8質量部としたこと以外は、実施例3と同じ条件で、スパッタリングターゲットを製造した。焼成工程での割れは発生せず、得られた焼結体の焼結体密度は93%、焼結体の破断面のSEM像より平均空孔径は1.4μm、TiNxにおいてx=0.93、窒化チタン粒の平均粒径は15μmであった。また、X線回折測定では酸化チタンの発生は見られなかった。同様にスパッタリング成膜を行って、ターゲットを評価したところ、ノジュールの発生はなく、良好な結果が得られた。また、成膜速度低下割合は、10%と良好であった。
【0099】
(比較例9)
分散剤の添加量を0.4質量部としたこと以外は、成形工程まで実施例3と同じ条件で、スパッタリングターゲットを製造した。造粒工程においてスラリー粘度の上昇(>100cps)が見られ、球状の造粒粉が得られず、成形工程において成形体に割れが発生した。
【0100】
(比較例10)
分散剤の添加量を2.2質量部としたこと以外は、焼成工程まで実施例3と同じ条件で、スパッタリングターゲットを製造した。焼成工程における脱バインダの過程で、焼結体に割れが発生した。
【0101】
【表2】

【0102】
(実施例14)
ポリビニルアルコール(PVA)の添加量を1.1質量部としたこと以外は、実施例3と同じ条件で、スパッタリングターゲットを製造した。成形体強度の低下が見られ、欠けがやや発生しやすい傾向が見られたものの、成形工程における成形体の割れは発生せず、得られた焼結体の焼結体密度は95%、焼結体の破断面のSEM像より平均空孔径は0.8μm、TiNxにおいてx=0.93、窒化チタン粒の平均粒径は16μmであった。また、X線回折測定では酸化チタンの発生は見られなかった。同様にスパッタリング成膜を行って、ターゲットを評価したところ、ノジュールの発生はなく、良好な結果が得られた。また、成膜速度低下割合は、6%と良好であった。
【0103】
(実施例15)
ポリビニルアルコール(PVA)の添加量を1.8質量部としたこと以外は、実施例3と同じ条件で、スパッタリングターゲットを製造した。焼成工程における焼結体の割れは発生せず、得られた焼結体の焼結体密度は93%、焼結体の破断面のSEM像より平均空孔径は1.3μm、TiNxにおいてx=0.94、窒化チタン粒の平均粒径は15μmであった。また、X線回折測定では酸化チタンの発生は見られなかった。同様にスパッタリング成膜を行って、ターゲットを評価したところ、ノジュールの発生はなく、良好な結果が得られた。また、成膜速度低下割合は、10%と良好であった。
【0104】
(比較例11)
ポリビニルアルコール(PVA)の添加量を0.8質量部としたこと以外は、成形工程まで実施例1と同じ条件で、スパッタリングターゲットを製造した。成形体強度の低下が見られ、成形工程において成形体に割れが発生した。
【0105】
(比較例12)
ポリビニルアルコール(PVA)の添加量を2.2質量部としたこと以外は、焼成工程まで実施例1と同じ条件で、スパッタリングターゲットを製造した。焼成工程における脱バインダの過程で、焼結体に割れが発生した。
【0106】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルム上に窒化チタン膜を成膜するための窒化チタンスパッタリングターゲットであって、その構成成分は、チタン、窒素、および不可避成分とからなり、その組成比は、一般式:TiNxにおいて0.8≦x≦1.0であり、その焼結体密度は、理論密度比で93%〜100%の範囲にあり、かつ、その平均空孔径は、0.1μm〜1.5μmの範囲にあることを特徴とする、窒化チタンスパッタリングターゲット。
【請求項2】
窒化チタン粒の平均粒径は、5μm〜20μmの範囲にある、請求項1に記載の窒化チタンスパッタリングターゲット。
【請求項3】
(1)出発原料として、平均粒径が0.4μm〜1.5μmの範囲にある窒化チタン粉末を用いて、
(2)水溶媒中に、該窒化チタン粉末を、アクリル酸メタクリル酸共重合体アンモニア中和物およびアクリル酸系共重合物アミン塩から選択される分散剤とともに、該窒化チタン粉末100質量部に対して、該分散剤が0.5質量部〜2.0質量部の範囲となるように、投入して、湿式粉砕し、
(3)得られた粉砕物を噴霧乾燥し、
(4)得られた造粒粉を、冷間静水圧プレスを用いて、98MPa〜294MPaの範囲の圧力で成形し、
(5)得られた成形体を、還元性雰囲気中で、400℃〜1000℃の範囲の温度で還元処理を行った後、窒素雰囲気中で、1800℃〜2100℃の温度で焼成し、
(6)得られた焼結体を加工する、
という工程を備える、窒化チタンスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項4】
前記還元性雰囲気として、1体積%以上の水素を含有する窒素水素混合雰囲気または水素雰囲気を用いる、請求項3に記載の窒化チタンスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項5】
前記還元処理を、大気圧または加圧の還元性雰囲気で行い、前記焼成処理を大気圧または加圧の窒素雰囲気中で行う、請求項3に記載の窒化チタンスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項6】
前記湿式粉砕工程において、バインダとして、前記窒化チタン粉末100質量部に対して、1.0質量部〜2.0質量部のポリビニルアルコールをさらに添加する、請求項3に記載の窒化チタンスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項7】
前記噴霧乾燥工程において、スプレードライヤを用いて球状の造粒粉を得る、請求項3に記載の窒化チタンスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項8】
前記焼成工程において、カーボンヒータ炉を用いる、請求項3に記載の窒化チタンスパッタリングターゲットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−23745(P2013−23745A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161338(P2011−161338)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】