説明

窒化ホウ素被覆繊維およびそれを含む複合材物品

【課題】内部に窒化ホウ素被覆強化繊維を組み込んだセラミック母材複合材が提供される。
【解決手段】窒化ホウ素被覆繊維、およびこのような繊維を含む複合材物品が記載される。これらの繊維は、処理工程間でパージする必要なしに一つの連続したプロセスで脱サイズ剤化および被覆できる。繊維は、アンモニア雰囲気中で加熱し、次いで、ホウ素供給源と窒素供給源とを含む反応混合物と接触させることができる。一旦被覆すると、繊維は、セラミック母材複合材中に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般にセラミック母材複合材に関し、より詳細には内部に窒化ホウ素被覆強化繊維を組み込んだセラミック母材複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック母材複合材(ceramic matrix composite)(CMC)は、その最大耐負荷容量を超過したときの壊損を回避するその能力およびその高靭性によってさまざまな航空機用途および発電用途に大きな興味を引き付けてきた。CMCはまた、多くのガスタービンエンジン部品に現在使用されている超合金よりかなり軽量でありかつより高い温度性能を有しており、このためCMCは特に航空宇宙用途にとって魅力的である。CMCは一般に、三つの成分すなわち、セラミック母材と、セラミック母材中に埋め込まれた強化繊維と、強化繊維上の界面被覆とから成る。CMCの高靭性は、繊維とそれを取り囲む母材との間に生じる結合の弱さまたは限度に起因し、これによって、壊損が生じる代わりに母材から繊維が引き抜かれる。界面被覆をしばしばこのような繊維に付与して繊維とそれを取り囲む母材との間の化学的および機械的な界面結合を制御し、これらの間の結合を確実に弱いままとし、それによって、複合材の機械的性質(すなわち、強度、靭性その他)を改善する。これらの界面被覆はまた、取り扱いや処理中の機械的損傷から繊維を保護することができ、また、複合材の酸化を制限することもある。
【0003】
炭化ホウ素被覆が界面繊維被覆として多数の用途に利用されてきているとはいえ、炭化ホウ素被覆は、窒化ホウ素被覆が有する高い温度性能を有していない。従って、窒化ホウ素被覆は、約1200℃と同じほど高い温度の水性環境で作動するガスタービンエンジン内の末広(divergent)シールのような多数の用途にとってより望ましい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
窒化ホウ素で繊維を被覆する多数の方法が存在するとはいえ、これらは全て不利益を有する。従って、窒化ホウ素で繊維を被覆する方法を改善するのが望ましいであろう。また、繊維上に窒化ホウ素被覆を付与する前にこのような繊維からサイズ剤(sizing)を除去する方法を改善するのが望ましいであろう。さらに、繊維上に窒化ホウ素被覆を付与する前にホウ素が繊維中に拡散するのを防止するように繊維表面を窒化する方法を有するのが望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
既存の窒化ホウ素被覆方法の上述した欠点は、改善された窒化ホウ素被覆とこのような被覆を付与する方法とに関する本発明の実施態様によって克服される。本発明の方法により被覆された繊維は、例えばガスタービンエンジン部品に使用できるセラミック母材複合材などのようなさまざまな物品中に使用できる。
【0006】
本発明の実施態様は、窒化ホウ素で繊維を被覆する方法を含む。これらの方法は、複数の繊維を用意し、これらの繊維をアンモニア雰囲気中で加熱し、ホウ素供給源と窒素供給源とが互いに反応して繊維上に窒化ホウ素被覆を生成するように所定温度でホウ素供給源と窒素供給源とを含む反応混合物と繊維を接触させる、ことを含むことができる。加熱ステップは、アンモニアガスを所定流量で流しながら約0〜750トルの圧力下、約260〜1000℃に反応器を加熱することを含むことができる。繊維は次いで、反応混合物を所定流量で流しながら、約800〜1000℃および約0〜750トルで反応混合物と接触させることができる。
【0007】
繊維は、炭化ケイ素および/または窒化ケイ素を含むことができる。繊維は、例えば、繊維(fiber)、単繊維(monofilament)、織物(fabric)、ヤーン(yarn)、布(cloth)、ウィスカー(whisker)、バルク(bulk)材料その他などのような任意の適切な形態とすることができる。ホウ素供給源は、塩化ホウ素、フッ化ホウ素、またはアンモニアと反応すると窒化ホウ素を生成する任意の他のホウ素含有材料を含むことができる。窒素供給源はアンモニアを含むことができる。
【0008】
一旦被覆すると、繊維は、炭化ケイ素、酸化ジルコニウム、および/またはムライトその他などを含むセラミック母材複合材などのセラミック母材複合材中に使用できる。セラミック母材複合材は、窒化ホウ素被覆が各繊維を実質的に被覆している複数の窒化ホウ素被覆繊維を内部に封じ込めて(encapsulate)含むことができる。セラミック母材複合材は、末広シール、フラップ、火炎保持器テールコーン、および/または側壁ライナその他のようなガスタービンエンジン部品に使用できる。
【0009】
本発明のさらなる詳細は、以下の説明の間に当業者には明らかとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施態様は、同様の参照符号が図面を通して同様の部品を表すさまざまな図面を参照して以下本願で説明される。
【0011】
本発明の理解を促進する目的で、図1、図2に、およびこれらを記述するのに使用する特定の説明に例示するような本発明のいくつかの実施態様をここで参照する。ここで用いる用語は、限定のためではなく説明の目的のためのものである。ここに開示する特定の構造上および機能上の詳細は、限定としてではなく、本発明をさまざまに用いるのを当業者に教示するための単なる基礎として解釈される必要がある。図示した構造および方法における任意の変更物または変形物と、ここに例示するような、また当業者が通常思い付くような本発明の原理のさらなる適用とは、説明しかつ請求する本発明の趣旨および範囲内にあると考えられる。
【0012】
本発明は、繊維上の改善された窒化ホウ素被覆、特に炭化ケイ素繊維上の窒化ホウ素被覆と、このような被覆を付与する方法とに関する。これらの被覆は、既存の窒化ホウ素被覆より付与が容易であり、既存の窒化ホウ素被覆より少ない酸素を容易に含有し、しかも、既存の被覆繊維より優れた被覆繊維を容易に生成する。
【0013】
多数の商業的に入手可能な繊維を、さまざまな製造業者から購入できる。このような繊維は一般に、輸送および取り扱い中に繊維を保護するようにその上に保護サイズ剤を有して製造業者から届けられる。このサイズ剤は一般に、界面被覆を付与する際に界面被覆中に炭素および酸素が取り込まれるのを防止するように、界面被覆を繊維に付与できる前に、除去する必要がある。一旦サイズ剤が除去されると、窒化ホウ素被覆(および/または他の被覆)を繊維に付与することができ、次いで、被覆繊維は、セラミック母材複合材中に使用できる。
【0014】
ニカロンTM(NicalonTM)織物(日本カーボン株式会社、東京、日本、により製造されたSiC織物)が、セラミック母材複合材中に使用できる例示的な繊維状材料の一つである。ニカロンTM(NicalonTM)織物は一般に、その取り扱い中に織物を保護するように、タイプM(ポリ酢酸ビニル)サイジング剤をその上に有して届けられる。製造業者は、サイズ剤を除去するように、ニカロンTM(NicalonTM)織物を空気中、約350℃で約30分間加熱することを推奨する。この熱処理は、繊維表面に酸化物膜を形成することがあり、この酸化物膜は、繊維の強度を低下させ、取り扱い中に繊維が劣化を受け易くなることがある。従って、このサイズ剤を除去する他の方法が開発されてきた。
【0015】
このサイズ剤を除去する方法の一つは、二酸化炭素雰囲気中、約600〜700℃、約1〜3トルで約5〜10分間の熱処理を用いることを含む。この熱処理中に二酸化炭素は、サイズ剤中の炭素と反応して一酸化炭素を生成する。その後、反応器は、内部のCOおよびCO2を排気するようにパージする。次いで、以下の反応:
BCl3(g)+NH3(g)→BN(s)+3HCl(g) (1)
に示されるようにハロゲン化ホウ素(すなわち、塩化ホウ素)をアンモニアと反応させて窒化ホウ素を生成することにより繊維上に窒化ホウ素を堆積させることができる。このプロセスは多くの欠点を有する。第一に、反応器がパージされた後に残留COおよびCO2が反応器内に残ることがあり、かつ/または、COおよびCO2が織物中の繊維の表面に化学的に結合することがある。このような場合、COおよびCO2は次いで、窒化ホウ素被覆を付与する際に窒化ホウ素被覆中に取り込まれることがあり、このことは望ましくない。さらに最近、このような仕方で窒化ホウ素を被覆したニカロンTM(NicalonTM)織物が強度損失を示すことが発見された。走査オージェ顕微鏡法(scanning auger microscopy)(SAM)および透過電子顕微鏡法(transmission electron microscopy)(TEM)によって、低強度の複合材中の繊維/母材界面にSiO2層が存在する一方、高強度の複合材中にはSiO2層が存在しないことが示された。その後、SiO2層を形成する酸素は窒化ホウ素被覆プロセスに由来することが発見された。この酸素には可能性のある供給源が二つあると考えられる。第一に、窒化ホウ素被覆中の酸素は、繊維サイズ剤を除去するのに使用したCO2熱処理に由来する可能性がある。第二に、窒化ホウ素被覆中の酸素は、反応器内に吸着された水分に由来する可能性がある。
【0016】
窒化ホウ素を化学蒸着プロセスで約1500℃より低い温度で堆積させると、それは、室温での水分への暴露により劣化を受け易い。このような水分劣化は二段階で起こり得る。第一段階において、窒化ホウ素は室温で水分と反応して、
BN(s)+3H2O→H3BO3(s)+NH3(g) (2)
8BN(s)+10H2O→(NH42O・4B23・6H2O(s) (3)
反応(2)に示すようにホウ酸、または反応(3)に示すように水和ホウ酸アンモニウムを生成する。水和ホウ酸アンモニウムが、ホウ酸の生成における中間体となることも可能である。第二段階において、ホウ酸および/または水和ホウ酸アンモニウムは、
3BO3(s)→B23(s)+3H2O(g) (4)
(NH42O・4B23・6H2O(s)
→4B23(s)+7H2O(g)+2NH3(g) (5)
反応(4)および(5)にそれぞれ示すように、酸化ホウ素、アンモニア、および/または水に変換される。
【0017】
生成式のギブズ自由エネルギーを用いた熱力学計算は、反応(2)に示す反応が有利であり(25℃において、ΔG=−19.8kcal)、反応(4)に示す反応もまた有利である(200℃において、ΔG=−4.445kcal)ことを示す。しかしながら、この窒化ホウ素の酸化ホウ素への分解によって、後続の被覆の製造に問題が生じることがある。第一に、被覆中の織物/繊維を取り扱うのに使用する器具装置は、繰り返し再使用され、反応器が使用されていないときに水分を含有する空気に暴露される。この暴露によって、不使用時にどのくらい長く器具装置が大気に暴露されているかに応じて水和ホウ酸アンモニウム、ホウ酸、またはホウ酸アンモニウムおよびホウ酸の混合物の生成が生じる。第二に、反応器を分解して被覆織物/繊維を取り除くときに、空気が室内に入り、反応器を汚染する。新たな織物/繊維を、使用された器具装置内に配置し、反応器を窒化ホウ素を堆積させる堆積温度に加熱すると、器具装置および反応器壁面上の酸化ホウ素(約450℃の融点を有する)が融解および蒸発し、織物/繊維上に堆積しつつある窒化ホウ素と反応する。これは望ましくない。従って、酸化ホウ素が蒸発して窒化ホウ素被覆中に堆積するのを防止するために、酸化ホウ素は、不活性材料に変換する必要がある。最も論理的な方法は、
4B23(l)+2NH3(g)→2BN(s)+3H2O(g) (6)
反応(6)に示すように酸化ホウ素を窒化ホウ素に変換し戻すことであろう。熱力学計算を用いて反応(6)に対する生成のギブズ自由エネルギーを決定すると、この反応がほぼ600℃において生じることを決定できる(600℃におけるΔG=−0.418kcal、および700℃におけるΔG=−3.127kcal)。従って、アンモニア中で所望の堆積温度(すなわち、約600℃を超える)に織物/繊維を加熱することにより、揮発性酸化ホウ素の生成が防止されるはずであり、それによって、より強い被覆織物/繊維が生じる。
【0018】
この酸素の問題を解決する試みの際に意外にも、ニカロンTM(NicalonTM)織物をアンモニア含有雰囲気中で熱処理し、脱サイズ剤化(de−size)して、次いで、窒化ホウ素で被覆すると、二つのプロセスの間に独立したパージ工程を必要とせずに、それによって上述した両方の酸素供給源を除去できることが発見された。本発明は、必要とされる処理工程の数を低減するばかりでなく、より少ない酸素/水分をその上に有する繊維を生成し、繊維の表面を窒化してその中にホウ素が拡散するのを防止する。
【0019】
アンモニアガスが、
4NH3(g)+3C(s)→3CH4(g)+2N2(g) (7)
反応(7)に示すようにサイズ剤中の炭素と反応することによりサイズ剤を除去すると考えられる。このような繊維上のサイズ剤は、NH3ガスを任意の適切な流量で流しながら約0〜750トルの圧力下、約260〜1000℃に反応器を加熱し、次いで、炉温度に応じて約0.1〜1.0フィート/分の速度で少なくとも1回高温帯域を通して繊維を通過させることにより除去できる。実施態様において、反応器は約600℃に加熱でき、NH3ガスは、約300sccmの流量で流すことができ、繊維は、サイズ剤を除去するように、約1フィート/分の速度で高温帯域を通過させることができる。代替として、織物も、炉内に配置することができ、炉は、NH3ガスを流しながら堆積温度に持って行くことができるであろう。サイズ剤を除去するのに加えて、このような仕方でアンモニアを用いることで、織物中の繊維の表面も窒化して、次いでこのことによって、窒化ホウ素界面被覆をその上に付与する際に繊維中にホウ素が拡散するのを防止できる。繊維表面を窒化することにより、堆積の際に繊維表面に堆積するホウ素原子は、繊維中に拡散するよりは窒素原子と相互作用する可能性がかなり高い。これは、繊維中に拡散するホウ素が繊維強度を低下させるので望ましい。一旦サイズ剤が除去されると、反応器をパージせずに、次いで、上述の反応(1)に示すようにアンモニアと塩化ホウ素などのハロゲン化ホウ素を反応させることにより繊維上に窒化ホウ素を堆積させることができる。窒化ホウ素は、ハロゲン化ホウ素ガスおよびNH3ガスを適切な流量(すなわち、約1:1の割合でまたは過剰NH3で)で流しながら約0〜750トルの圧力下、約800〜1000℃に反応器を加熱し、次いで少なくとも1回高温帯域を通して繊維を通過させることにより除去できる。実施態様において、HClの代わりにNH3Clを生成するように過剰NH3が望ましいものとなり得る。
【0020】
本発明の有効性を確認にするために、ニカロンTM(NicalonTM)織物のさまざまな試料を被覆して評価した。第一に、基準試料を生成した。この試料では、CO2ガスを約300標準(standard)cm3/分(sccm)の流量で流しながら約1〜2トルの圧力下、約850℃に反応器を加熱し、次いで約1フィート/分の速度で1回高温帯域を通して織物を通過させることにより、ニカロンTM(NicalonTM)織物からポリマー系保護サイズ剤(すなわち、ポリ酢酸ビニル)を除去した。その後、反応器は、内部のCOおよびCO2を排気するようにパージした。次に、反応(1)に示すように、約1フィート/分の速度で約8回高温帯域を通して織物を通過させながら、約950℃の温度および約1トルの圧力で化学蒸着を介して塩化ホウ素をアンモニアと反応させることで、織物上に窒化ホウ素(約0.2〜0.3μm厚)を堆積させた。実施態様において、この反応は、約800〜1000℃で生じることができるが、その理由は、約700℃未満では、窒化ホウ素被覆が堆積速度および圧力に応じて、捕獲された塩化物などのような不純物を含有することがあるからである。その後、約1〜1.5フィート/分の速度で約10回高温帯域を通して織物を通過させながら、約950℃の温度および約0.5〜1トルの圧力で化学蒸着を介してアンモニアをSiCl4と反応させることにより、BN層の頂部に約0.1〜0.2μm厚のSi34の層を堆積させた。このSi34層は、窒化ホウ素被覆繊維/織物に環境/酸化保護を与える。
【0021】
次に本発明の実施態様に従って試験試料を生成した。この試料では、ニカロンTM(NicalonTM)織物を単一のプロセス(工程間で反応器をパージせず)で脱サイズ剤化および被覆した。この試料では最初に、アンモニアガスを約300sccmの流量で流しながら約1〜2トルの圧力下、約850℃に反応器を加熱した。その後、織物を脱サイズ剤化するように約1フィート/分の速度で1回高温帯域を通してニカロンTM(NicalonTM)織物を通過させた。先に述べたように、アンモニアガスが、上述の反応(7)に示すようにサイズ剤中の炭素と反応することによりサイズ剤を除去したと考えられる。この熱処理後、反応器をパージせずに、次いで、塩化ホウ素およびアンモニアをそれぞれ約1:4から約1:5の割合(すなわち、それぞれ約350sccmおよび2500sccmの流量)で流しながら約900℃の温度および約1トルの圧力で上述の反応(1)に示すようにアンモニアと塩化ホウ素反応させることにより化学蒸着を介して織物上に窒化ホウ素を堆積させ、所望の厚み(約0.2〜0.3μm)のBNを堆積させるまで約1フィート/分の速度で数回高温帯域を通して織物を通過させた。その後、塩化ホウ素を止め、約350sccmの流量でSiCl4を流し始め、それによって、窒化ホウ素層の頂部にSi34の層(約0.1〜0.2μm厚)を堆積させた。この試験試料では、堆積室は、窒化ホウ素被覆および窒化ケイ素被覆を付与する前に排気しなかった。一つの単一処理工程でサイズ剤を除去しかつ被覆を付与した。
【0022】
試料は次いで、走査オージェ顕微鏡法(SAM)および引張り強さデータを用いて比較した。図1は、被覆中に大量の酸素(約2〜3%)10を示す基準試料のSAM像である。図2は、被覆中にほんの微量の酸素20を示す試験試料のSAM像である。さらに、試験試料の引張り強さは、基準試料の引張り強さより約8%大きかった。
【0023】
化学蒸着を上述したとはいえ、これらの窒化ホウ素被覆は、例えば化学蒸着および/または化学的蒸気浸透(chemical vapor infiltration)を介するものなどのような任意の適切な方法で繊維上に堆積させることができる。
【0024】
窒化ホウ素被覆は、少なくとも繊維にさほど大きな部分が被覆されないまま残らないように、繊維上に堆積させる必要がある。好ましくは、繊維の全表面が完全に被覆される。この被覆は、連続かつ均一であり、しかも大きな細孔が全くないものである必要がある。この被覆は、任意の適切な厚みとすることができ、いくつかの実施態様では、約0.1〜0.5μmの厚みとすることができる。
【0025】
本発明では、例えば、三塩化ホウ素およびアンモニア、三フッ化ホウ素およびアンモニア、またはアンモニアと反応して窒化ホウ素を生成する任意の他のホウ素供給源などといった窒化ホウ素の任意の供給源を使用できる。
【0026】
本発明の窒化ホウ素被覆は、セラミックまたはガラス母材複合材内の強化相として使用できるさまざまな材料に付与できる。これらの被覆は、例えば、ニカロンTM(NicalonTM)SiC織物または他のSiC繊維、ティラノ(Tyranno)SiC繊維(UBE製)、Si34繊維その他などのような最も一般的な繊維および材料と適合できる。これらの繊維は、例えば、繊維、織物、ヤーン、単繊維、布、ウィスカーその他の形態などのような任意の適切な形態とすることができる。これらの被覆は、例えばバルクSiCその他などの他の基材(substrate)に付与することもできる。
【0027】
本発明の被覆で繊維を被覆した後、セラミックまたはガラス母材中に繊維を埋め込んで複合材を作成できる。繊維と適合できる任意の母材を使用できる。いくつかの適切な母材には、限定される訳ではないが、SiC、化学蒸着SiC、溶融浸透(melt infiltrate)SiC複合材、ポリマー浸透複合材、およびゾル−ゲル浸透複合材などが挙げられる。
【0028】
上述したように、本発明は、窒化ホウ素でさまざまな繊維状材料を被覆する方法を提供する。有利には本発明は、脱サイズ剤化作業と被覆作業とを結合して一つの処理工程にし、それによって、製造費用と汚染の可能性とを低減する。多数の他の実施態様および利点が、当業者には明らかとなるであろう。
【0029】
本発明を満足させるさまざまな条件を満たす本発明のさまざまな実施態様を説明してきた。これらの実施態様は、本発明のさまざまな実施態様の原理の単なる例示であると理解する必要がある。本発明の多くの変更および改変は、本発明の趣旨および範囲から逸脱せずに当業者には明らかになるであろう。従って、本発明は、添付の請求項およびその均等物の範囲に含まれるような適切な変更物および変形物全てを含むものとする。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】被覆中の大量の酸素を示している、標準CO2脱サイズ剤化プロセスを介して脱サイズ剤化し、標準アンモニア被覆プロセスで被覆した、その上に二重の被覆(一層のBNおよび第二層のSi34)を有するニカロンTM(NicalonTM)織物の走査オージェ顕微鏡像である。
【図2】図1の被覆より被覆中にかなり少ない量の酸素を示している、本発明の新規なアンモニア脱サイズ剤化/被覆プロセスを介して脱サイズ剤化および被覆した、その上に二重の被覆(一層のBNおよび第二層のSi34)を有するニカロンTM(NicalonTM)織物の走査オージェ顕微鏡像である。
【符号の説明】
【0031】
10…大量の酸素
20…微量の酸素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の繊維を用意し、
これらの繊維をアンモニア雰囲気中で加熱し、
ホウ素供給源と窒素供給源とが互いに反応して繊維上に窒化ホウ素被覆を生成するように所定温度でホウ素供給源と窒素供給源とを含む反応混合物と繊維を接触させる、
ことを含むことを特徴とする、窒化ホウ素で繊維を被覆する方法。
【請求項2】
前記繊維は、炭化ケイ素および窒化ケイ素の一方または両方を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記繊維は、繊維、単繊維、織物、ヤーン、布、ウィスカー、およびバルク材料のうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記の加熱することは、アンモニアガスを所定流量で流しながら約0〜750トルの圧力下、約260〜1000℃に反応器を加熱することを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記繊維は、反応混合物を所定流量で流しながら、約800〜1000℃および約0〜750トルで反応混合物と接触させることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記ホウ素供給源は、塩化ホウ素、フッ化ホウ素、およびアンモニアと反応すると窒化ホウ素を生成するホウ素含有材料のうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記窒素供給源は、アンモニアを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記被覆された繊維をセラミック母材複合材中に使用することをさらに含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記セラミック母材複合材は、炭化ケイ素、酸化ジルコニウム、およびムライトのうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記セラミック母材複合材は、ガスタービンエンジン部品を含むことを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項11】
前記ガスタービンエンジン部品は、以下のノズル部品すなわち、末広シール、フラップ、火炎保持器テールコーン、および側壁ライナのうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項12】
請求項1記載の方法により作成されたことを特徴とする窒化ホウ素被覆繊維。
【請求項13】
請求項1記載の方法により作成された繊維を含むことを特徴とするセラミック母材複合材。
【請求項14】
請求項1記載の方法により生成され、窒化ホウ素被覆が各繊維を実質的に被覆している複数の窒化ホウ素被覆繊維と、
この複数の窒化ホウ素被覆繊維を封じ込めるセラミック母材と、
を含むことを特徴とするセラミック母材複合材。
【請求項15】
複数の炭化ケイ素繊維を用意し、
アンモニアガスを所定流量で流しながら約0〜750トルで約260〜1000℃に反応器を加熱することにより、複数の炭化ケイ素繊維をアンモニアガス中で加熱し、
複数の炭化ケイ素繊維上に窒化ホウ素被覆を生成するように約800〜1000℃および約0〜750トルで、所定流量で流れる塩化ホウ素とアンモニアとを含む反応混合物と複数の炭化ケイ素繊維を接触させる、
ことを含むことを特徴とする、窒化ホウ素で炭化ケイ素繊維を被覆する方法。
【請求項16】
請求項15記載の方法により作成された繊維を含むことを特徴とするセラミック母材複合材。
【請求項17】
複数の炭化ケイ素繊維を用意し、
アンモニアガスを約300sccmの流量で流しながら約1〜2トルで約850℃に反応器を加熱することにより、複数の炭化ケイ素繊維をアンモニアガス中で加熱し、
複数の炭化ケイ素繊維上に窒化ホウ素被覆を生成するように約900℃および約1トルで、それぞれ約1:4から1:5の割合で流れる塩化ホウ素とアンモニアとを含む反応混合物と複数の炭化ケイ素繊維を接触させる、
ことを含むことを特徴とする、窒化ホウ素で炭化ケイ素繊維を被覆する方法。
【請求項18】
前記塩化ホウ素は、約350sccmの流量で流れ、前記アンモニアは、約2500sccmの流量で流れることを特徴とする請求項17記載の方法。
【請求項19】
窒化ホウ素被覆上に窒化ケイ素の層を堆積させることをさらに含むことを特徴とする請求項17記載の方法。
【請求項20】
前記窒化ケイ素は、約2500sccmの流量で流れるアンモニアと約350sccmの流量で流れる塩化ケイ素を反応させることにより、約900℃および約1トルで堆積させることを特徴とする請求項19記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−225832(P2006−225832A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−378(P2006−378)
【出願日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【出願人】(590005449)ユナイテッド テクノロジーズ コーポレイション (581)
【氏名又は名称原語表記】UNITED TECHNOLOGIES CORPORATION
【Fターム(参考)】