説明

窒化物半導体レーザ素子

【課題】発光効率に優れた窒化物半導体レーザ素子を得ること課題とする。
【解決手段】窒化物半導体レーザ素子100は、n側領域10、活性領域20及びp側領域30を順に備える。n側領域10は、ホールをブロックすることが可能なホールブロック層11を有し、p側領域30は、電子をブロックすることが可能な電子ブロック層31を有する。また、ホールブロック層11は、電子ブロック層31よりもバンドギャップエネルギーが大きくなるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窒化物半導体レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、窒化物半導体を用いた窒化物半導体レーザ素子が開発されている。窒化物半導体レーザ素子として、キャリアの閉じ込めのためにホールブロック層と電子ブロック層とを備える構造が提案されている(例えば特許文献1及び特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−021287号公報
【特許文献2】特開2010−251810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、単純にホールブロック層と電子ブロック層を設けても発光効率は向上し難いという問題があった。本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、主に発光効率に優れた窒化物半導体レーザ素子を得ること課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様に係る窒化物半導体レーザ素子は、n側領域、活性領域及びp側領域を順に備える。n側領域は、ホールをブロックすることが可能なホールブロック層を有し、p側領域は、電子をブロックすることが可能な電子ブロック層を有する。また、ホールブロック層は、電子ブロック層よりもバンドギャップエネルギーが大きい。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本発明の一実施形態である窒化物半導体レーザ素子を示す模式的断面図である。
【図2】実施例1と比較例1のI−L特性を対比するための図である。
【図3】実施例1と比較例1のI−V特性を対比するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態を説明する。ただし、以下に示す形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明を以下に限定するものではない。本明細書において「窒化物半導体」とは窒素を含む半導体であり、代表的には一般式InxAlyGa1−x−yN(0≦x、0≦y、x+y≦1)で示すことができる。
【0008】
本発明の一実施形態に係る窒化物半導体レーザ素子100の断面図を図1に示す。窒化物半導体レーザ素子100は、n側領域10、活性領域20及びp側領域30を順に備える。n側領域10は、ホールをブロックすることが可能なホールブロック層11を有し、p側領域30は、電子をブロックすることが可能な電子ブロック層31を有する。また、ホールブロック層11は、電子ブロック層31よりもバンドギャップエネルギーが大きい。
【0009】
これにより、発光効率(量子効率)を向上させることができる。詳細は不明であるが、ホールブロック層11及び電子ブロック層31を設けることで活性領域20内にキャリアを効果的に閉じ込めることができ、さらに、ホールブロック層11のバンドギャップエネルギーを電子ブロック層よりも大きくすることでより確実にホールを閉じ込めることができるためと考えられる。以下、窒化物半導体レーザ素子100を構成する主な構成要素について説明する。
【0010】
(n側領域10)
本実施形態では、n側領域10は、活性領域20の側から順に、ホールブロック層11と、n側光ガイド層12と、n側クラッド層13と、n側コンタクト層14と、から構成される。ホールブロック層11は、p側領域30からのホール(正孔)をブロックし、活性領域20に閉じ込めるための層であり、例えばAlGaNで構成される。ホールブロック層11は、ホールを効率よくブロックするために、活性領域20と接するように構成することができる。n側光ガイド層12は、活性領域20で生じた光を活性領域20近傍に留めておくための層であり、例えばGaNから構成される。n側クラッド層13は、n側光ガイド12層と一体となって活性領域20で生じた光を活性領域20近傍に留めておくための層であり、例えばAlGaNから構成される。つまり、n側光ガイド層12の屈折率をn側クラッド層13よりも大きくすることで、両者の界面を境として、その内側(活性領域20の側)に光を閉じ込めやすくすることができる。n側コンタクト層14は、n電極を設けるための層であり、例えばGaNから構成される。
【0011】
また、これらの層の一部を省略することもできる。例えば、n側光ガイド層12とn側コンタクト層14とで、光を閉じ込めるための屈折率差が十分に確保できる場合は、n側クラッド層13を省略することができる。反対に、他の層を設けてもよいことは言うまでもない。
【0012】
(活性領域20)
活性領域20の層構造は限定されず種々のものを採用することができる。例えば、1つの井戸層を有する単一量子井戸構造(SQW)、2以上の井戸層を有する多重量子井戸構造(MQW)を採用することができる。活性領域20が量子井戸構造を有する場合、最もn側を井戸層とし、最もp側を障壁層とすることができる。活性領域20の最初の層(n側領域10に最も近い層)を井戸層とすることにより、それに接するホールブロック層11でホールをより確実にブロックすることができる。ただし、障壁層から始まるように活性領域20を構成してもよいことは言うまでもない。
【0013】
(p側領域30)
本実施形態では、p側領域30は、活性領域20から順に、電子ブロック層31と、p側光ガイド層32と、p側クラッド層33と、p側コンタクト層34と、から構成される。電子ブロック層31は、n側領域10からの電子をブロックし、活性領域20に閉じ込めるための層であり、例えばAlGaNで構成される。電子ブロック層31は、電子を効率よくブロックするために、活性領域20と接するように構成することができる。p側光ガイド層32は、活性領域10で生じた光を活性領域20近傍に留めておくための層であり、例えばGaNから構成される。p側クラッド層33は、p側光ガイド層32と一体となって活性領域20で生じた光を活性領域20近傍に留めておくための層であり、例えばAlGaNから構成される。つまり、p側光ガイド層32の屈折率をp側クラッド層33よりも大きくすることで、両者の界面を境として、その内側(活性領域20の側)に光を閉じ込めやすくすることができる。p側コンタクト層34は、p電極を設けるための層であり、例えばGaNから構成される。
【0014】
また、これらの層の一部を省略することもできる。例えば、p側光ガイド層32とp側コンタクト層34とで、光を閉じ込めるための屈折率差が十分に確保できる場合は、p側クラッド層33を省略することができる。反対に、他の層を設けてもよいことは言うまでもない。
【0015】
<実施例1>
以下、本実施例に係る窒化物半導体レーザ素子(発振波長405nm)の主な構成について説明する。本実施例では、成長方法としてMOCVD法(有機金属気相成長法)を用いる場合について説明する。
【0016】
(n側コンタクト層14)
先ず、n側コンタクト層14として、市販されているn型GaNよりなる膜厚400μmの窒化物半導体基板を準備した。
【0017】
(n側クラッド層13)
次に、SiドープAl0.03Ga0.97Nを膜厚2μmで成長させてn側クラッド層13とした。
【0018】
(n側ガイド層12)
次に、ノンドープGaNを膜厚150nm、SiドープIn0.02Ga0.98Nを膜厚14nmで成長させて、2層よりなるn側ガイド層12を形成させた。
【0019】
(ホールブロック層11)
次に、SiドープAl0.23Ga0.77Nを膜厚2.5nmで成長させて、ホールブロック層11とした。
【0020】
(活性領域20)
次に、n側から順に、井戸層としてノンドープIn0.06Ga0.94Nを膜厚7nmで、障壁層としてSiドープIn0.02Ga0.98Nを膜厚14nmで、井戸層としてノンドープIn0.06Ga0.94Nを膜厚7nmで、障壁層としてノンドープIn0.02Ga0.98Nを膜厚14nmで、成長させて活性領域20とした。つまり、本実施例では、n側領域10から順に、井戸層/障壁層/井戸層/障壁層からなるMQWの活性領域20とした。
【0021】
(電子ブロック層31)
次に、MgドープAl0.20Ga0.80Nを膜厚10nmで成長させて、電子ブロック層11とした。
【0022】
(p側ガイド層32)
次に、ノンドープGaNを膜厚0.15μmで成長させて、p側ガイド層32とした。
【0023】
(p側クラッド層33)
次に、ノンドープAl0.08Ga0.92NよりなるA層を膜厚2.5nmで成長させ、続いて、MgドープGaNよりなるB層を膜厚2.5nmで成長させた。そして、この操作を順に繰り返してA層とB層を積層し、総膜厚450nmの多層膜(超格子構造)よりなるp側クラッド層33を形成した。
【0024】
(p側コンタクト層34)
次に、MgドープGaNを膜厚15nmで成長させて、p側コンタクト層34とした。
【0025】
(その他の工程)
反応終了後、RIE(反応性イオンエッチング)により、リッジをストライプ状に形成した。リッジ幅は2μmである。次に、ZrOよりなる絶縁膜40を形成した。次にp側コンタクト層34上にNi/Au/Pt/Ni/Pd/Auよりなるp電極50を形成し、n側コンタクト層34上にTi/Au/Pt/Auよりなるn電極60を形成した。以上の構成を有するウエハを窒化物半導体基板側から研磨して80μmとした後、M面を劈開面としてウエハをバー状に劈開して共振器を作製した。レーザ光の出射面側及び反射面側にはSiO、Al及びZrOよりなる誘電体多層(図示せず)膜を形成し、最後にリッジに平行な方向で、バーを切断して405nmで発振するレーザ素子とした。
【0026】
<比較例1>
ホールブロック層11を備えない以外は、実施例1と同様の窒化物半導体レーザ素子を作製した。
<特性の評価>
【0027】
図2に、実施例1の窒化物半導体レーザ素子と比較例1の窒化物半導体レーザ素子のI−L特性(電流−光出力特性)を比較したグラフを示す。ここでは、実施例1の評価結果を実線で示し、比較例1の評価結果を破線で示す。図2から明らかなように、実施例1は比較例1に比較して、駆動電流が大きくなるほどI−L特性が向上することが判明した。これは、電子ブロック層31よりもバンドギャップの大きいホールブロック層11を設けることにより、ホールがホールブロック層11でより効率的に閉じ込められたためと考えられる。
【0028】
図3に、実施例1の窒化物半導体レーザ素子と比較例1の窒化物半導体レーザ素子のI−V特性(電流−電圧)を比較したグラフを示す。ここでは、実施例1の評価結果を実線で示し、比較例1の評価結果を破線で示す。図3から明らかなように、両者のI−V特性はほとんど同じであった(図3では、実線しか確認できないかもしれないが、これは実線と破線が重なっているためである。)。これにより、ホールブロック層11が抵抗成分になり電圧を上昇させていないことが確認できた。ホールブロック層11の膜厚を、電子がトンネルできる程度に薄くしたためと考えられる。
【符号の説明】
【0029】
100…窒化物半導体レーザ素子
10…n側領域
11…ホールブロック層
12…n側光ガイド層
13…n側クラッド層
14…n側コンタクト層
20…活性領域
30…p側領域
31…電子ブロック層
32…p側光ガイド層
33…p側クラッド層
34…p側コンタクト層
40…絶縁部
50…p電極
60…n電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n側領域、活性領域及びp側領域を順に備える窒化物半導体レーザ素子であって、
前記n側領域は、ホールをブロックすることが可能なホールブロック層を有し、
前記p側領域は、電子をブロックすることが可能な電子ブロック層を有し、
前記ホールブロック層は、前記電子ブロック層よりもバンドギャップエネルギーが大きいことを特徴とする窒化物半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記ホールブロック層及び前記電子ブロック層は、前記活性領域に接していることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記n側領域は、前記ホールブロック層の前記活性領域から離れた側に、n側光ガイド層を有し、
前記p側領域は、前記電子ブロック層の前記活性領域から離れた側に、p側光ガイド層を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記n側領域は、前記n側光ガイド層の前記活性領域から離れた側に、n側クラッド層を有し、
前記p側領域は、前記p側光ガイド層の前記活性領域から離れた側に、p側クラッド層を有することを特徴とする請求項3に記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記n側領域は、前記n側クラッド層の前記活性領域から離れた側に、n側コンタクト層を有し、
前記p側領域は、前記p側クラッド層の前記活性領域から離れた側に、p側コンタクト層を有することを特徴とする請求項4に記載の窒化物半導体レーザ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−69945(P2013−69945A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208342(P2011−208342)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】