説明

窒化珪素・メリライト複合焼結体及びそれを用いた装置

【課題】平均熱膨張係数(23〜150℃)が2〜6ppm/Kの範囲に任意に調節可能で、ヤング率が高くかつ機械的強度が大きく、焼結性に優れる窒化珪素・メリライト複合焼結体、およびそれを用いた装置を提供する。
【解決手段】窒化珪素・メリライト複合焼結体は、窒化珪素及びメリライト(MeSi、Meは窒化珪素とメリライトを形成する金属元素)を含む複合焼結体であって、Siを、Si換算で41〜83モル%、Meを、酸化物換算で13〜50モル%、含有する。また、装置は、半導体検査用装置であって、そのような窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プローブカード等の半導体検査用装置の構造材料として有用な窒化珪素・メリライト複合焼結体、及びそれを用いたプローブカード等の装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップを製造する過程で、シリコンウエハ等の半導体ウエハに形成された集積回路が正常に動作するか否かを検査するためにプローブカードと称する半導体検査用装置が使用されている。一般に、プローブカードはアルミナ等からなるセラミック基板の下面に、例えば針状のプローブ端子を備えた構造を有しており、このプローブ端子を半導体ウエハの端子パッドに接触させて電流を流し、集積回路の導通や各回路間の絶縁等の検査が行われる。
【0003】
今日、半導体ウエハに形成された集積回路の検査は、常温での動作状態のみならず、100℃以上(例えば、150℃)の高温での動作状態も検査する場合がある。この場合、プローブカードは、半導体ウエハとともに速やかに昇温し、半導体ウエハと同程度に熱膨張するものでなければならない。熱膨張に差があると半導体ウエハ上の端子パッドとプローブカードのプローブの間で接触不良が生じるおそれがあるからである。このため、半導体ウエハと同程度の熱膨張性を示すプローブカード、また、そのようなプローブカードを可能とするセラミック材料が求められている。具体的には室温(23℃)から150℃における平均熱膨張係数が2〜6ppm/K、好ましくは3〜5ppm/Kの範囲で必要とされる装置の要求特性にあわせて任意に調節可能で、かつ機械的強度の大きいセラミック材料が求められている。
【0004】
なお、上記のような集積回路の高温での検査に対応するため、窒化アルミニウム、窒化珪素等の非酸化物セラミックからなるセラミック基板を用いたプローブカードが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、このプローブカードは、熱伝導性に優れるものの、熱膨張係数は、例えば窒化アルミニウムは4ppm/K程度であり、半導体ウエハの熱膨張に近いものの任意の値に制御するのは困難であることから、近年のプローブカード等の高い要求にこたえることはできなかった。また、窒化珪素は2ppm/K程度以下と小さい。一方、セラミック基板材料として広く用いられている酸化物セラミックのアルミナは、熱膨張係数が6ppm/K程度以上と大きく、使用できなかった。
【0005】
このように半導体ウエハの検査に用いられるプローブカード等の用途に、室温から150℃における平均熱膨張係数が2〜6ppm/Kの範囲で任意に調整可能で、かつ機械的強度の大きいセラミック材料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−257853号公報
【特許文献2】特開平10−139550号公報
【特許文献3】特開2002−128567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さらに、窒化珪素を用いたセラミック材料として特許文献2および3が知られている。特許文献2に記載されたセラミック材料は、熱膨張係数が3.5〜4.1ppm/Kであり、上記熱膨張係数の条件に近いものであるが、近年の大型化されたセラミック基板に求められている高いヤング率を達成することはできなかった。また、特許文献3に記載されたセラミック材料は、上記熱膨張係数の条件、上記高ヤング率をともに達成することができなかった。
【0008】
本発明者らは、上記各種の条件を満たすセラミック材料を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の組成で窒化珪素とメリライトを複合化させることにより、室温から150℃における平均熱膨張係数を前記範囲に調節できるうえに、機械的強度、ヤング率が共に高く、さらに焼結性(製作安定性)にも優れる焼結体が得られることを見出した。
【0009】
本発明はかかる知見に基づいてなされたものであり、半導体ウエハの検査に用いられるプローブカードの用途に有用な、23℃から150℃における平均熱膨張係数を2〜6ppm/K程度、好ましくは3〜5ppm/Kの範囲で任意に調節可能で、しかも機械的強度、ヤング率が共に高く、焼結性に優れる窒化珪素・メリライト複合焼結体、およびそのような複合焼結体を用いて信頼性の高い検査を可能としたプローブカード等の半導体検査用装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するために以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0011】
[適用例1] 窒化珪素結晶相と、メリライト結晶相(MeSi、Meはメリライトを形成する金属元素)と、粒界相とを有する複合焼結体であって、前記複合焼結体の切断面における前記メリライト結晶相の占める割合が、20%以上であることを特徴とする窒化珪素・メリライト複合焼結体。
【0012】
適用例1に係る窒化珪素・メリライト複合焼結体によれば、熱膨張係数が小さい(2ppm/K程度以下)窒化珪素結晶相と、熱膨張係数が大きい(6ppm/K程度以上)メリライト結晶相が複合化されるので、任意の平均熱膨張係数に調節することができる。さらに、ガラス相と比較してヤング率が高いメリライト結晶相について、複合焼結体の切断面における前記メリライト結晶相の占める割合が20%以上となる構成としていることから、窒化珪素・メリライト複合焼結体のヤング率を充分に高いものとすることができる。なお、前記ガラス相は、粒界相が結晶化せずにガラス化した部分である。
【0013】
[適用例2] 前記複合焼結体の吸水率が1.5%以下であり、かつ、メリライト結晶相の占める割合と、前記切断面における前記窒化珪素結晶相の占める割合との和が、80%以上である適用例1に記載の窒化珪素・メリライト複合焼結体。
【0014】
適用例2に係る窒化珪素・メリライト複合焼結体によれば、複合焼結体の吸水率が1.5%以下の緻密な焼結体であり、複合焼結体の切断面における前記メリライト結晶相の占める割合が20%以上であり、かつ、複合焼結体の切断面におけるメリライト結晶相と窒化珪素結晶相との合計の占める割合が、80%以上となることから、結晶化している部分の割合を十分に大きくすることができる。したがって、気孔によるヤング率の低下が小さく、かつ結晶化している部分はヤング率の向上に貢献することができることから、窒化珪素・メリライト複合焼結体のヤング率をより一層高いものとすることができる。
【0015】
なお、適用例1および2における窒化珪素結晶相やメリライト結晶相の割合は、電子線マイクロアナライザ(EPMA:Electron−probe Microanalyzer)分析や、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)、X線回折(XRD:X−ray diffraction)、エネルギー分散型X線分析装置(EDS:Energy Dispersive X‐ray Spectrometer)等を駆使することにより求めることができる。また、同時にプラズマエッチング(例えば、CFエッチング等)やケミカルエッチング(例えば、フッ酸エッチング等)等により結晶以外の部分をエッチングすることで、より明確な分析が可能となる。
【0016】
[適用例3] Siを、Si換算で41〜83モル%、Meを、酸化物換算で13〜50モル%、含有する適用例1または2に記載の窒化珪素・メリライト複合焼結体。
【0017】
適用例3に係る窒化珪素・メリライト複合焼結体によれば、SiおよびMeが適切な量に調節されるので、熱膨張係数の調節がより的確になされる。
【0018】
[適用例4] Siを、Si換算で41〜79モル%、Meを、酸化物換算で13〜46モル%、添加物として、周期表IIa族元素を、酸化物換算で5〜20モル%、含有する適用例1ないし3のいずれかに記載の窒化珪素・メリライト複合焼結体。
【0019】
適用例4に係る窒化珪素・メリライト複合焼結体は、焼結性を高めるうえで好ましい組成を例示したものである。さらに、この構成によれば、添加物としての周期表IIa族元素を適切な量だけ含むことにより、ガス圧、HIP、ホットプレス等の加圧条件下で焼結させる以外に常圧での焼成が可能となる。すなわち、焼結体サイズや焼結体形状の制約低減、大量生産による製造コストの低減等の工業的メリットを得ることができる。
【0020】
[適用例5] 添加物として、Mg、Ca、およびSrの少なくとも1種が添加される適用例4に記載の窒化珪素・メリライト複合焼結体。
【0021】
適用例5に係る窒化珪素・メリライト複合焼結体は、好ましい添加物を例示したものであり、焼結性をより高めることができる。したがって、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体によれば、200GPa以上のヤング率と、2〜6ppm/Kの範囲で任意に調節可能な平均熱膨張係数(23〜150℃)を有する焼結体をより安定して得ることができる。
【0022】
[適用例6] 添加物として、Srが添加される適用例4に記載の窒化珪素・メリライト複合焼結体。
【0023】
適用例6に係る窒化珪素・メリライト複合焼結体は、より好ましい添加物を例示したものであり、焼結性をよりいっそう高めることができる。したがって、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体によれば、200GPa以上のヤング率と、2〜6ppm/Kの範囲で任意に調節可能な平均熱膨張係数(23〜150℃)を有する焼結体をより安定して得ることができる。
【0024】
なお、通常Mg、Ca、Srは酸化物(SrO等)の形で投入すると製作工程中に水分で水酸化物(Sr(OH)等)になりやすいので、炭酸塩(SrCO等)等の形で投入する。例えば炭酸塩の熱的安定性はMg<Ca<Srであり、安定した生産を行うためには特にSrが有効である。
【0025】
[適用例7] Siを、Si換算で45〜83モル%、Meを、酸化物換算で15〜49モル%、添加物として、La、Ce、およびPrの少なくとも1種を、酸化物換算で0.3〜12モル%、含有する適用例1ないし3のいずれかに記載の窒化珪素・メリライト複合焼結体。
【0026】
適用例7に係る窒化珪素・メリライト複合焼結体は、焼結性を高めるうえで好ましい組成を例示したものである。さらに、この構成によれば、添加物としてLa、Ce、およびPrの少なくとも1種を適切な量だけ含むことにより、ガス圧、HIP、ホットプレス等の加圧条件下で焼結させる以外に常圧での焼成が可能となる。すなわち、焼結体サイズや焼結体形状の制約低減、大量生産による製造コストの低減等の工業的メリットを得ることができる。また、前記窒化珪素・メリライト複合焼結体によれば、200GPa以上のヤング率と、2〜6ppm/Kの範囲で任意に調節可能な平均熱膨張係数(23〜150℃)を有する焼結体を安定して得ることができる。
【0027】
[適用例8] 添加物として、Al、Si、周期表IVa族元素、周期表Va族元素、および周期表VIa族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素がさらに添加される適用例4ないし7のいずれかに記載の窒化珪素・メリライト複合焼結体。
【0028】
適用例8に係る窒化珪素・メリライト複合焼結体では、添加物としてさらにAl、Si、周期表IVa族元素、周期表Va族元素および周期表VIa族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素が添加されるので、より安定した焼結性が得られる。また、W、Mo等の遷移金属を用いた場合には、黒色化が図られ、色むらの低減等が可能となる。添加物として、周期表VIIa族元素および周期表VIII族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を添加してもよい。
【0029】
[適用例9] Alを、酸化物換算で0.5〜10モル%含有する適用例8に記載の窒化珪素・メリライト複合焼結体。
【0030】
適用例9に係る窒化珪素・メリライト複合焼結体は、付加的に添加する添加物の好ましい種類および添加量を例示したものであり、焼結性をよりいっそう安定化することができる。例えばAlでは、添加量が0.5モル%以下においてその効果は顕著ではないが、0.5〜10モル%の添加で、その他の特性を低下させることなく、焼結温度を低下させることができ、焼結性をよりいっそう安定化することができる。
【0031】
[適用例10] Meが、周期表IIIa族元素である適用例1ないし9のいずれかに記載の窒化珪素・メリライト複合焼結体。
【0032】
適用例10に係る窒化珪素・メリライト複合焼結体は、窒化珪素とメリライトを形成する金属元素Meの好ましい例を示したものである。
【0033】
[適用例11] Meが、Yである適用例10に記載の窒化珪素・メリライト複合焼結体。
【0034】
適用例11に係る窒化珪素・メリライト複合焼結体は、窒化珪素とメリライトを形成する金属元素Meのより好ましい例を示したものである。Yは、窒化珪素とメリライトを形成しやすいうえに、入手も容易であり、したがって、200GPa以上のヤング率と、2〜6ppm/Kの範囲で任意に調節可能な平均熱膨張係数(23〜150℃)を有する焼結体をより容易かつ安定して製造することが可能になるとともに、製造コストを低減することができる。
【0035】
[適用例12] X線回折により得られる窒化珪素の主ピーク回折強度aおよびメリライトの主ピーク回折強度bが、50≦[b/(a+b)]×100≦98を満足する適用例1ないし11のいずれかに記載の窒化珪素・メリライト複合焼結体。
ここで、窒化珪素の主ピーク回折強度aとは、窒化珪素のピークのうち最も高いピークの回折強度をいい、また、メリライトの主ピーク回折強度bとは、メリライトのピークのうち最も高いピークの回折強度をいう。
【0036】
適用例12に係る窒化珪素・メリライト複合焼結体では、200GPa以上のヤング率と、2〜6ppm/Kの範囲で任意に調節可能な平均熱膨張係数(23〜150℃)を有する焼結体を安定して得ることができる。
【0037】
[適用例13] 平均熱膨張係数(23〜150℃)が2〜6ppm/Kである適用例1ないし12のいずれかに記載の窒化珪素・メリライト複合焼結体。
【0038】
適用例13に係る窒化珪素・メリライト複合焼結体では、2〜6ppm/Kの範囲で任意に調節可能な平均熱膨張係数(23〜150℃)を有する焼結体を確実に得ることができる。
【0039】
[適用例14] ヤング率が200GPa以上である適用例1ないし13のいずれかに記載の窒化珪素・メリライト複合焼結体。
【0040】
適用例14に係る窒化珪素・メリライト複合焼結体によれば、ヤング率が200GPa以上である焼結体を確実に得ることができる。
【0041】
[適用例15] 半導体の検査または製造を行うための装置であって、適用例1ないし14のいずれかに記載の窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いた部材を備えることを特徴とする半導体検査または製造用装置。
【0042】
適用例15に係る半導体検査または製造用装置は、平均熱膨張係数(23〜150℃)が2〜6ppm/Kである被対象に対し、信頼性の高い検査、製造を行うことができる。
【0043】
[適用例16] プローブカードである適用例15に記載の半導体検査または製造用装置。
【0044】
適用例16に係る半導体検査または製造用装置、すなわちブロードカードは、半導体ウエハに形成された集積回路に対し、信頼性の高い検査を行うことができる。具体的には、半導体ウエハ検査に用いられるプローブカード等に求められる熱膨張特性に対して、上記窒化珪素・メリライト複合焼結体は、既存の単一種のセラミックス(アルミナ、窒化アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素等)に比べ、熱膨張の調整を行うことにより、より要求熱膨張に近い材料を提供できる。そのため、適用例16に係る半導体検査または製造用装置を用いることで、信頼性の高い検査を行うことができる。
【0045】
[適用例17] 適用例1ないし14のいずれかに記載の窒化珪素・メリライト複合焼結体において、同じ組成を用いる場合であっても、微構造を調整することにより材料強度、ヤング率が向上することを特徴とする。
【0046】
微構造に影響を与える要因は、原料粒径、添加物量、原料酸素量及び焼成温度等である。図5は、同一組成の材料で形成された本発明の窒化珪素・メリライト複合焼結体の微構造の例を示すSEMによる3000倍の撮像写真であり、それらの各焼結体について測定した曲げ強度(JIS R 1601、23℃)を付してある。図5から明らかなように、組織は(a)、(b)、(c)、(d)の順に微細になっており、そして、その順で、すなわち焼結体の組織が微細になるほど曲げ強度が増大していることがわかる。
【0047】
[適用例18] 適用例1ないし14のいずれかに記載の窒化珪素・メリライト複合焼結体において、余剰酸素量がSiO2換算で2〜16モル%であることを特徴とする。
【0048】
ここで、余剰酸素量とは、焼結体中の全酸素量からSi以外の成分に帰属する酸素量を差し引いた残りの酸素量である。そのほとんどは窒化珪素に含まれる酸素、添加物の成分に含まれる酸素、場合によっては製造過程で吸着酸素等として混入するものや酸素源としてSiOを添加したものであり、基本的にSiOの状態で存在する。余剰酸素量がSiO換算で2モル%未満であると焼結性が低下し、16モル%より多いとメリライトや窒化珪素が凝集し、その凝集物が破壊起点となって強度が低下する。
【0049】
添加物の含有量や余剰酸素量によっては窒化珪素及びメリライト以外の結晶相が生じる。具体的には、例えばSrO量が過多であるとSrSiO、SrSiO等が生成し、余剰酸素量が過多であると、Y20Si1248等が生成する。その他にも焼成条件や製作工程の影響により、YSiO、YSi、YSi(J相)、YSiON(K相)、Y10Si23(H相)等が生成する。
【発明の効果】
【0050】
本発明によれば、半導体ウエハの検査に用いられるプローブカードの用途に有用な、23℃から150℃における平均熱膨張係数が2〜6ppm/Kの範囲で任意に調節可能で、しかも機械的強度、ヤング率が共に高く、焼結性に優れる窒化珪素・メリライト複合焼結体、およびそのような複合焼結体を用いた信頼性の高い検査が可能な半導体検査用の装置を提供することができる。また、そのような複合焼結体を用いた信頼性の高い製造が可能な半導体製造用装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1A】本発明の窒化珪素・メリライト複合焼結体の一例のSEMによる撮像写真である。
【図1B】図1Aに示す撮像写真の模写図である。
【図2】本発明の窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いたプローブカードの一例を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いたプローブカードの他の例を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いたプローブカードのさらに他の例を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明の窒化珪素・メリライト複合焼結体の他の例のSEMによる撮像写真である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明に係る実施の形態について説明する。
【0053】
本発明に係る実施の形態(以下、「本実施形態」と呼ぶ)としての窒化珪素・メリライト複合焼結体は、窒化珪素結晶相と、メリライト結晶相(MeSi、Meはメリライトを形成する金属元素)と、粒界相とを有する。ここで「メリライト結晶相」とは、YSiなどで示される結晶構造と同様な結晶構造を有する結晶相のことである。このため厳密な意味では、Y:Si:O:Nの比率は2:3:3:4から若干ずれる可能性もあるし、その他添加物が結晶構造中に取り込まれている可能性もある。
【0054】
本実施形態の窒化珪素・メリライト複合焼結体は、前記複合焼結体の切断面における前記メリライト結晶相の占める割合が、20%以上であるものである。また、本実施形態の窒化珪素・メリライト複合焼結体は、吸水率が1.5%以下であり、かつ、前記メリライト結晶相の占める割合と、前記切断面における前記窒化珪素結晶相の占める割合との和が、80%以上であるものである。
【0055】
さらに、本実施形態の窒化珪素・メリライト複合焼結体は、Siを、Si換算で41〜83モル%、Meを、酸化物換算で13〜50モル%、含有するものである。なお、SiとMeの測定および換算の方法は、ここでは、焼結体を溶解し、ICPを用いて各元素の比率を測定し(O,Nは除く)、得られた各元素の比率を、SiはSi3N4に換算し、Si以外は酸化物(例えばY、SrO、Alなど)に換算し、トータルを100モル%とし、各元素の含有比率を計算することにより行う。
【0056】
窒化珪素とメリライトを形成する金属元素Meとしては、周期表IIIa族元素、すなわち、Y、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ac、Th、Pa、U、Np、Pu、Am、Cm、Bk、Cf、Es、Fm、Md、No、Lrが挙げられる。これらのなかでも、原料コストやメリライトの生成しやすさ等の点から、Y、Nd、Sm、Gd、Dy、Er、Ybが好ましく、特に、Yが好ましい。
【0057】
本発明において、Siの含有量がSi換算で前記範囲に満たないと、熱膨張係数がアルミナとさほど変わらず、逆に前記範囲を超えると、メリライトが生成されないか又は生成されにくくなり、熱膨張係数は窒化珪素と変わらなくなる。また、窒化珪素とメリライトを形成する金属元素Meの含有量が酸化物換算で前記範囲に満たないと、メリライトが生成されないか又は生成されにくくなり、熱膨張係数は窒化珪素とさほど変わらず、逆に前記範囲を超えると、熱膨張係数がアルミナとさほど変わらなくなる。さらに、添加物を添加する場合に、その含有量が酸化物換算で前記範囲を超えると、機械的強度、またはヤング率が低下する。
【0058】
なお、MeとSiの化合物には、MeとSiが1:1であるMeSi(メリライト)の他、MeとSiが1:2であるMe・2Si、MeとSiが1:3であるMe・3Si、MeとSiが2:3である2Me・3Si等の化合物が存在する。本発明の窒化珪素・メリライト複合焼結体には、これらの化合物が含まれていてもよい。
【0059】
本発明においては、添加物として、周期表IIa族元素、La、Ce及びPrからなる群より選択される少なくとも1種の元素が使用されるが、(イ)周期表IIa族元素、すなわち、Be、Mg、Ca、Sr、Ba及びRaからなる群より選択される少なくとも1種の元素を使用する場合には、Siを、Si換算で41〜79モル%、Meを、酸化物換算で13〜46モル%、周期表IIa族元素を、酸化物換算で5〜20モル%含有するようにすることが好ましい。周期表IIa族元素を5モル%以上添加することで、常圧での焼成が可能となる。一方20モル%より多く添加すると、機械的強度及びヤング率の低下が認められる。また、(ロ)La、Ce及びPrからなる群より選択される少なくとも1種の元素を使用する場合には、Siを、Si換算で45〜83モル%、Meを、酸化物換算で15〜49モル%、La、Ce及びPrからなる群より選択される少なくとも1種の元素を、酸化物換算で0.3〜12モル%含有するようにすることが好ましい。0.3モル%以上添加することで常圧での焼成が可能となる。一方12モル%より多く添加すると、機械的強度またはヤング率の低下や、熱膨張が6ppm/℃以上になる事が認められる。
【0060】
上記(イ)の場合、焼結性をさらに高め、かつ安定化させるためには、添加物は、Mg、Ca及びSrからなる群より選択される少なくとも1種の元素であることが好ましく、Srであることがより好ましい。
【0061】
本発明においては、添加物として、さらに、上記元素以外の元素を添加することができる。このような元素としては、Al、Si、周期表IVa族元素、周期表Va族元素及び周期表VIa族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素が挙げられる。これらの元素を添加することにより、より安定した焼結性が得られる。また、W、Mo等の遷移金属を用いることで黒色化が図られ、色むらの低減等が可能となる。なお、このような効果を得るためには、例えば、Alでは、酸化物換算で0.5〜10モル%が含有させることが好ましい。しかし、Alを酸化物換算で、10モル%より多く添加した場合には、窒化珪素、メリライト相以外のその他の相が増加しヤング率の低下が認められる。
【0062】
図1Aは、本発明の窒化珪素・メリライト複合焼結体(後述する実施例31の焼結体)の切断面(鏡面及びエッチング処理後)のSEMによる5000倍の撮像写真であり、また、図1Bは、その模写図である。
【0063】
これらの図に示すように、本発明の典型的な窒化珪素・メリライト複合焼結体は、窒化珪素結晶相11と、メリライト結晶相13と、粒界相15とからなり、粒界相15はガラス相及び/又は結晶相(窒化珪素及びメリライト以外の結晶相)として存在する。
【0064】
本実施形態においては、焼結体の切断面における面積比が、窒化珪素結晶相2〜70面積%、メリライト結晶相20〜97面積%、ガラス相及び窒化珪素とメリライト以外の結晶相1〜20面積%であることが好ましい。ガラス相及び窒化珪素とメリライト以外の結晶相1〜20面積%であることが好ましいと言うことは、窒化珪素結晶相11とメリライト結晶相13との合計についての焼結体の切断面における面積比が80%以上となることがより好ましいと言える。また、窒化珪素結晶相が9〜60面積%、かつメリライト相が25〜90面積%とすることで、熱膨張を3〜5ppm/℃に制御でき、半導体ウエハとの熱膨張のマッチングの点で更に好ましい。
【0065】
窒化珪素結晶相、メリライト結晶相、並びに、ガラス相及び窒化珪素とメリライト以外の結晶相の面積比が上記範囲である場合に、焼結体は、2〜6ppm/Kの範囲、更に好ましくは3〜5ppm/℃の任意の平均熱膨張係数(23〜150℃)を有することができる。また、ヤング率が200GPa以上とすることができる。
【0066】
焼結体の切断面におけるメリライト結晶相の割合(面積比)は、前述したように、EPMA、TEM、SEM、XRD、EDS等を用いて求める。詳細には、それらを用いて、焼結体の結晶相の構成と、粒子1個1個の組成比と、更に必要に応じて粒子1個1個のTEMを用いた回折パターンから、主成分としてMe,Si,O,Nからなる結晶性粒子をメリライトと判定し、任意の大きさの視野でより大きな結晶性粒子から同定することにより比率を求める。また、窒化珪素粒子は、同様に主成分としてSi,Nからなる結晶性粒子を窒化珪素とした。
【0067】
本発明の窒化珪素・メリライト複合焼結体における窒化珪素およびメリライトの存在は、焼結体の粉末のX線回折によっても知ることができる。本発明においては、X線回折図において、窒化珪素の主ピーク回折強度(窒化珪素のピークのうち最も高いピークの回折強度)aおよびメリライトの主ピーク回折強度(メリライトのピークのうち最も高いピークの回折強度)bが、次式
50≦[b/(a+b)]×100≦98を満足していることが好ましい。この場合、焼結体は、2〜6ppm/Kの範囲の任意の平均熱膨張係数(23〜150℃)を有することができる。
【0068】
本発明の窒化珪素・メリライト複合焼結体は、例えば次のような方法で製造することができる。
【0069】
まず、窒化珪素粉末と、窒化珪素とメリライトを形成する金属元素Meを含む酸化物、有機酸塩等(例えばイットリア(Y)、ギ酸イットリウム、炭酸イットリウム等)と、周期表IIa族元素、La、Ce及びPrからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む添加物(配合する場合)とを、好ましくは分散剤とエタノール等の分散媒を、ボールミル容器中に投入し混合した後、乾燥し、造粒する。次いで、プレス成形法等により所要の形状に成形し、その後、成形体を焼成炉に、1700〜1800℃、0.1〜1.0MPaの窒素雰囲気下で2〜8時間保持して焼成する。なお、焼成方法は特に限定されるものではなく、また、複数の焼成方法を適宜組み合わせることも可能である。
【0070】
このようにして得られる本発明の窒化珪素・メリライト複合焼結体は、2〜6ppm/Kの範囲の任意の平均熱膨張係数(23〜150℃)を有し、かつ機械的強度にも優れることから、半導体ウエハの検査に用いられるプローブカード等の装置の基板材料あるいは構造材料として有用である。また、本発明の窒化珪素・メリライト複合焼結体は、半導体の製造を行うための装置としても有用である。
【0071】
図2〜図4は、それぞれ本発明の窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いたプローブカードを模式的に示す断面図である。図2に示すプローブカード20は、セラミック基板21の下面に多数のカンチレバー23が取り付けられ、これらのカンチレバー23の自由端先端に形成されたプローブ25が半導体ウエハの端子パッド(図示なし)に接触するようになっている。また、図3に示すプローブカード30は、セラミック基板31の下面に、その座屈応力によって半導体ウエハ(図示なし)の端子パッド(図示なし)に接触するように構成された多数のプローブ33が設けられている。図3において、35は、プローブ33の座屈を制限する部材を示している。さらに、図4に示すプローブカード40は、セラミック基板41の下面にクッション部材43及びメンブレン45が取り付けられ、セラミック基板41を半導体ウエハ(図示なし)に向けて押圧することにより、メンブレン45の下面に設けられた多数の端子47が半導体ウエハ(図示なし)の端子パッド(図示なし)に接触するようになっている。
【0072】
そして、これらのプローブカード20、30、40においては、少なくともセラミック基板21、31、41が本発明の窒化珪素・メリライト複合焼結体により構成されている。なお、セラミック基板21、31、41以外の部材にも、本発明の窒化珪素・メリライト複合焼結体が使用されてもよい。例えば、図3に示すプローブカード30において、座屈制限部材35を本発明の窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いて形成することができる。
【0073】
上記各プローブカード20、30、40においては、本特許の適切な熱膨張を有する材料を用いることで、常温から高温での動作状態を検査する場合も、常温から低温での動作状態を検査する場合も、半導体ウエハの端子パッドとプローブカード20、30、40のプローブ又は端子25、33、47の間で接触不良が生じるおそれがなく、信頼性の高い検査を行うことができる。
【実施例】
【0074】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0075】
実施例1〜67、比較例1、2
平均粒径0.7μmの窒化珪素(Si)粉末、平均粒径1.2μmのイットリア(Y)粉末、SrCO粉末、La粉末、CeO粉末およびAl粉末を用い、表1〜表5に示す組成の混合粉末を得た。得られた混合粉末とエタノールを、ボールミル容器中に投入し混合した後、加熱乾燥し、造粒した。
【0076】
次いで、実施例7〜20、24〜38、41〜67については、プレス成形により70mm×70mm×20mmの直方体状成形体に成形し、98MPaの圧力でコールドアイソスタティックプレス(CIP)を行った後、成形体を焼成炉にて、1700〜1800℃、0.1MPaの窒素雰囲気下で4時間焼成した。
【0077】
実施例1〜6、21、比較例1〜2については、プレス成形により70mm×70mm×20mmの直方体状成形体に成形した後、成形体をカーボンモールドに入れ、1750℃、30MPaで2時間のホットプレス焼成を行なって緻密化した。
【0078】
実施例22、39については、プレス成形により70mm×70mm×20mmの直方体状成形体に成形し、98MPaの圧力でコールドアイソスタティックプレス(CIP)を行った後、成形体を焼成炉にて、1750℃、0.1MPaの窒素雰囲気下で4時間焼成し、さらに、1700℃、8.0MPaで2時間のガス圧焼成を行って緻密化した。
【0079】
実施例23、40については、プレス成形により70mm×70mm×20mmの直方体状成形体に成形し、98MPaの圧力でコールドアイソスタティックプレス(CIP)を行った後、成形体を焼成炉にて、1750℃、0.1MPaの窒素雰囲気下で4時間焼成し、さらに、1700℃、100MPaで2時間のHIP焼成を行って緻密化した。
【0080】
上記各実施例および各比較例で得られた焼結体について、下記に示す方法で各種特性を測定評価した。
[理論密度比]
焼結体の寸法および重量を測定し、理論密度(イットリア(Y)粉末がすべてメリライト(MeSi)に変換され、残りの窒化珪素はそのままで、その他添加物は各酸化物の状態で存在したと仮定して計算)に対する比率を算出した。
【0081】
[吸水率]
焼結体に吸水処理(水中にて脱泡)を行った後、乾燥させ、次式により算出した。
吸水率(%)=[(W1−W)/W)]×100
(W1:吸水処理後の焼結体重量、W:乾燥後の焼結体重量)
[メリライト主ピーク強度比率]
焼結体を粉砕し、X線回折装置((株)リガク製 RU−200T)により、粉末X線回折を行い、メリライト(MeSi)の主ピーク回折強度bおよびSiの主ピーク強度aを求め、次式より算出した。
メリライト主ピーク強度比率(%)=[b/(a+b)]×100
【0082】
[平均熱膨張係数]
熱膨張係数測定機((株)リガク製 熱機械分析装置 8310シリーズ)を用いて、圧縮荷重法にて23〜150℃の平均熱膨張係数を求めた。
[曲げ強度]
JIS R 1601に準拠して室温(23℃)で測定した
[ヤング率]
JIS R 1602に規定する超音波パルス法により室温(23℃)で測定した。
【0083】
[面積比]
3mm×4mm×10mmの形状に切断した焼結体の4mm×10mmの表面に鏡面加工を施した後、その表面をSEM(日本電子(株)製 JSM−6460LA)にて観察し、さらにEPMA(日本電子(株)製 JXA−8500F)を用いて二次電子像、反射電子像の観察、及びWDS(波長分散型X線分光器)ビームスキャンマッピングを行い、その表面における窒化珪素結晶相、メリライト結晶相、並びに、ガラス相及び窒化珪素とメリライト以外の結晶相(表中、「その他」と記載)の面積比を求めた。なお、必要に応じて(ガラス相や窒化珪素とメリライト以外の結晶相が多く、前記機器による観察だけでは面積比を求めることが困難である場合等)、STEM(走査型透過電子顕微鏡)((株)日立ハイテクノロジーズ製HD−2000)及びEDS(エネルギー分散型X線分析装置)(EDAX製Genesis)を用いた。また、場合により、鏡面加工面にエッチング処理を行い、このエッチング面をSEM等で観察して面積比を求めた。
【0084】
これらの結果を表1〜表5に併せ示す。なお、実施例60〜67についてはさらに余剰酸素量を示した。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【0087】
【表3】

【0088】
【表4】

【0089】
【表5】

【0090】
表1〜表4から明らかなように、窒化珪素結晶相と、メリライト結晶相(Me2Si3O3N4、Meはメリライトを形成する金属元素)と、粒界相とを有する複合焼結体の切断面におけるメリライト結晶相の占める割合が、20%以上である実施例1〜67は、任意の平均熱膨張係数(23〜150℃)の焼結体が得られ、曲げ強度、ヤング率も良好であった。比較例1では、メリライト結晶相の割合が低く、熱膨張の値は低い値であった。比較例2では窒化珪素相が残存しておらず、ヤング率は低い値を示した。
【0091】
同様に、複合焼結体の吸水率が1.5%以下であり、かつ、切断面におけるメリライト結晶相の占める割合と窒化珪素結晶相の占める割合との和が80%以上である実施例1〜19、21〜24、26〜37、39〜42、44〜58、60〜67は、ヤング率200GPa以上と良好であった。
【0092】
同様に、SiをSi換算で41〜83モル%、Yを酸化物換算で13〜50モル%含有し、添加物を未配合とした実施例1〜6でも、ホットプレス焼成を行うことで、平均熱膨張係数(23〜150℃)が2〜6ppm/Kの焼結体が得られ、曲げ強度、ヤング率も良好であった。窒化珪素が90モル%以上の比較例1では、メリライト結晶相の割合が低く、熱膨張の値も低い値であった。また窒化珪素が40モル%以下の比較例2では、焼結後に窒化珪素相が残存しておらず、熱膨張も高い値を示した。
【0093】
同様に、SiをSi換算で41〜79モル%、Yを酸化物換算で13〜46モル%、周期表IIa族元素のSrを酸化物換算で5〜20モル%含有するようにした実施例7〜19では、Srを酸化物換算で5モル%より少ない実施例20〜23と比較すると焼結性に優れるとともに、平均熱膨張係数(23〜150℃)が2〜6ppm/Kで、曲げ強度の大きく、かつヤング率が高い焼結体が得られた。また、Srを酸化物換算で20モル%よりも多い実施例24、25では、ヤング率、機械的強度が低下傾向にある。
【0094】
同様に、SiをSi換算で45〜83モル%、Yを酸化物換算で15〜49モル%、Laを酸化物換算で0.3〜12モル%含有するようにした実施例26〜37でも、Laを酸化物換算で0.3モル%より少ない実施例38〜40と比較して焼結性に優れるとともに、平均熱膨張係数(23〜150℃)が2〜6ppm/Kで、曲げ強度の大きく、かつヤング率が高い焼結体が得られた。また、Laが酸化物換算で12モル%より多い実施例41およびCeが酸化物換算で12モル%より多い実施例42〜43では、熱膨張が高くなり、機械的強度が低下する傾向であった。
【0095】
また、SiをSi換算で41〜83モル%、Yを酸化物換算で13〜49モル%、Srを酸化物換算で0〜20モル%、La又はCeを酸化物換算で0〜12モル%含有するようにした実施例44〜58も同様であり、これらのなかでもAlを酸化物換算で0.5〜10モル%さらに含有するようにした実施例44〜46、48〜58では焼結性がより安定した。また、Alを酸化物換算で15モル%含有した実施例59では、窒化珪素とメリライト以外の相が増加し、ヤング率が低下する傾向であった。
【0096】
また、表5から明らかなように、一定量の余剰酸素量により焼結性が確保されるが、余剰酸素量が多くなると、曲げ強度が低下することが確認された。
【0097】
なお、表1〜表5に記載した複数の実施例のうちで添加物としてLaおよびCeを用いた実施例については、添加物をLaおよびCeに換えて、Prを用いる構成としてもよい。同様に、Srを用いた実施例については、添加物をSrに換えて、MgまたはCaを用いる構成としてもよい。それら実施例と同様の効果を得ることができる。また、添加物としてAlを用いた実施例については、添加物をAlに換えて、Al、Si、周期表IVa族元素、周期表Va族元素および周期表VIa族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を用いる構成としてもよく、それら実施例と同様により焼結性を安定させる効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0098】
11…窒化珪素粒子、13…メリライト粒子、15…粒界相、20,30,40…プローブカード。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化珪素結晶相と、メリライト結晶相(MeSi、Meはメリライトを形成する金属元素)と、粒界相とを有する複合焼結体であって、
前記複合焼結体の切断面における前記メリライト結晶相の占める割合が、20%以上であることを特徴とする窒化珪素・メリライト複合焼結体。
【請求項2】
前記複合焼結体の吸水率が1.5%以下であり、かつ、メリライト結晶相の占める割合と、前記切断面における前記窒化珪素結晶相の占める割合との和が、80%以上である請求項1に記載の窒化珪素・メリライト複合焼結体。
【請求項3】
Siを、Si換算で41〜83モル%、
Meを、酸化物換算で13〜50モル%、
含有する請求項1または2に記載の窒化珪素・メリライト複合焼結体。
【請求項4】
Siを、Si換算で41〜79モル%、
Meを、酸化物換算で13〜46モル%、
添加物として、周期表IIa族元素を、酸化物換算で5〜20モル%、
含有する請求項1ないし3のいずれかに記載の窒化珪素・メリライト複合焼結体。
【請求項5】
添加物として、Mg、Ca、およびSrの少なくとも1種が添加される請求項4に記載の窒化珪素・メリライト複合焼結体。
【請求項6】
添加物として、Srが添加される請求項4に記載の窒化珪素・メリライト複合焼結体。
【請求項7】
Siを、Si換算で45〜83モル%、
Meを、酸化物換算で15〜49モル%、
添加物として、La、Ce、およびPrの少なくとも1種を、酸化物換算で0.3〜12モル%、
含有する請求項1ないし3のいずれかに記載の窒化珪素・メリライト複合焼結体。
【請求項8】
添加物として、Al、Si、周期表IVa族元素、周期表Va族元素、および周期表VIa族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素がさらに添加される請求項4ないし7のいずれかに記載の窒化珪素・メリライト複合焼結体。
【請求項9】
Alを、酸化物換算で0.5〜10モル%含有する請求項8に記載の窒化珪素・メリライト複合焼結体。
【請求項10】
Meが、周期表IIIa族元素である請求項1ないし9のいずれかに記載の窒化珪素・メリライト複合焼結体。
【請求項11】
Meが、Yである請求項10に記載の窒化珪素・メリライト複合焼結体。
【請求項12】
X線回折により得られる窒化珪素の主ピーク回折強度aおよびメリライトの主ピーク回折強度bが、次式
50≦[b/(a+b)]×100≦98
を満足する請求項1ないし11のいずれかに記載の窒化珪素・メリライト複合焼結体。
【請求項13】
平均熱膨張係数(23〜150℃)が2〜6ppm/Kである請求項1ないし12のいずれかに記載の窒化珪素・メリライト複合焼結体。
【請求項14】
ヤング率が200GPa以上である請求項1ないし13のいずれかに記載の窒化珪素・メリライト複合焼結体。
【請求項15】
半導体の検査または製造を行うための装置であって、
請求項1ないし14のいずれかに記載の窒化珪素・メリライト複合焼結体を用いた部材
を備えることを特徴とする半導体検査または製造用装置。
【請求項16】
プローブカードである請求項15に記載の半導体検査または製造用装置。

【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1A】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−150123(P2010−150123A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216741(P2009−216741)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】