説明

窒素含有排水の処理方法及び処理装置

【課題】比較的小さな設備面積の設備によって処理水質及び処理性能の良好な排水処理を行うことができる排水の処理方法及び装置を提供する。
【解決手段】硝化槽1に原水及び返送汚泥を導入し、曝気処理液を沈殿池4に導入して沈降分離処理する。硝化槽1から沈殿池4へ流入する曝気処理液のアンモニア性窒素濃度を1mg/L以下、好ましくは0.5mg/L以下とする。これにより、沈殿池4中のBOD成分濃度も十分に低いものとなり、沈殿池4における脱窒反応が防止ないし抑制され、この脱窒反応に起因した汚泥浮上が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はBODと窒素成分とを含む窒素含有排水の処理方法及び処理装置に係り、詳しくは有機態及び/又はアンモニア性窒素をBOD除去に必要な割合よりも過剰に含有した排水を処理する方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に活性汚泥法においては、BOD除去に必要な窒素成分はBOD100に対し5とされており、これを下回る窒素濃度の排水には、適宜窒素成分を添加すると良い。これを上回る窒素成分が原水に含まれる場合には、窒素成分の一部が硝化されることがある。この硝化により生じた硝酸態窒素が沈澱池に流入すると、汚泥中の有機物質を用いて脱窒反応が生じ、発生した窒素ガスによって沈澱池の汚泥が浮上して処理水質が悪化するとともに、保有MLSS濃度が低下して装置としての処理性能の低下を招くことがあった。
【0003】
特に、残留する硝酸態窒素濃度が10mg/L以上になると、著しい浮上を生じることが多かった(例えば、特開2001−255319号公報の0003段落)。
【0004】
このように、原水のBODに対して5%以上の窒素成分を含む排水においては、沈澱池における汚泥浮上の問題が生じやすい。そこで、従来は図4のように、原水を硝化槽1で曝気して硝化した後、脱窒槽2で脱窒し、次いで再曝気槽3で再曝気した後、沈殿池4にて固液分離する方法を採用し、硝酸態窒素を脱窒槽2で除去して極力沈殿池4に流入させないように処理していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−255319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記図4の従来方法では、BOD成分及び窒素成分の除去のための曝気設備として硝化槽1と再曝気槽3とを2段に設置しており、設備面積が大きなものとなっていた。
【0007】
本発明は、比較的小さな設備面積の設備によって処理水質及び処理性能の良好な排水処理を行うことができる窒素含有排水の処理方法及び処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の窒素含有排水の処理方法は、N/BODが重量比で0.05を超えるBODと有機態及び/又はアンモニア性窒素とを含有する窒素含有排水を原水として、活性汚泥の存在下に曝気槽で曝気処理し、その曝気処理液を固液分離手段で固液分離し、分離水を処理水として排出する方法において、該固液分離手段に流入する曝気処理液中のアンモニア性窒素濃度が1mg/L以下となるまで硝化反応が進行するように前記曝気処理を行うとともに、該固液分離手段で分離した汚泥の少なくとも一部を曝気槽に返送することを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の窒素含有排水の処理方法は、請求項1において、前記曝気処理液中のアンモニア性窒素濃度をアンモニア性窒素濃度計で測定し、該アンモニア性窒素濃度計の信号に基づいて、前記原水供給量を制御することにより曝気処理液中のアンモニア性窒素濃度を1mg/L以下とすることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3の窒素含有排水の処理方法は、請求項1又は2において、前記固液分離手段は沈降分離式のものであり、該固液分離手段で汚泥の一部が浮上した場合、この浮上した汚泥を捕集して前記曝気槽に返送することを特徴とするものである。
【0011】
請求項4の窒素含有排水の処理装置は、曝気槽と、該曝気槽に原水を供給する原水供給手段と、前記曝気槽の混合液を固液分離するための、浮上汚泥掻寄機を備えた沈殿槽と、該沈殿槽で沈降した汚泥の少なくとも一部と浮上汚泥を前記曝気槽へ返送する手段と、を有する窒素含有排水の処理装置において、前記沈殿槽に流入する前記混合液中のアンモニア性窒素濃度を測定するアンモニア性窒素濃度計と、該アンモニア性窒素濃度計の信号に基づいて、前記原水供給手段による原水供給量及び/又は曝気量を制御する制御手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0012】
請求項5の窒素含有排水の処理装置は、曝気槽と、該曝気槽に原水を供給する原水供給手段と、前記曝気槽の混合液を固液分離するための浮上分離槽と、該浮上分離槽の浮上汚泥の少なくとも一部を前記曝気槽へ返送する手段と、を有する窒素含有排水の処理装置において、前記浮上分離槽に流入する前記混合液中のアンモニア性窒素濃度を測定するアンモニア性窒素濃度計と、該アンモニア性窒素濃度計の信号に基づいて、前記原水供給手段による原水供給量及び/又は曝気量を制御する制御手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0013】
請求項6の窒素含有排水の処理装置は、請求項5において、前記浮上分離槽の分離水をさらに固液分離する第2の浮上分離槽を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、固液分離手段に流入する曝気処理液中のアンモニア性窒素濃度が1mg/L以下となるように十分に曝気処理して硝化反応を進行させる。一般に、窒素成分の硝化反応はBOD成分の好気性分解反応よりも反応は遅いため、上記の通り曝気処理液中のアンモニア性窒素濃度が1mg/L以下となるように十分に曝気処理すると、曝気処理液中の残存BOD濃度もきわめて低いものとなっている。
【0015】
このように残留BOD濃度が低くなった曝気処理液は、固液分離槽中に導入されても脱窒反応が生じることはなく、この脱窒反応に起因した汚泥の浮上が防止される。
【0016】
これについて更に詳述すると、次の通りである。
【0017】
前記図4に示した脱窒槽2と再曝気槽3とを省略した工程によって排水の処理方法を行った場合において、沈殿池4での汚泥浮上を防止し安定処理するために必要な手段は
(1) 生物処理反応槽の最後段でアンモニア性窒素が1mg/L以下となるように十分に硝化させること;
(2) 少量の浮上汚泥に対して浮上汚泥回収が可能な設備を持つ沈殿池で固液分離すること
である。
【0018】
沈殿池で脱窒反応が生じるためには、水中または汚泥中に電子供与体となる物質が必要であり、逆にいえば水中及び汚泥中に未分解の有機物質を残さないように生物処理反応槽で十分な分解を行うことで脱窒反応に必要な電子供与体が欠乏させ、脱窒反応を抑制することが可能となる。
【0019】
通常有機物分解は硝化反応よりも先に進行するため、生物処理反応槽の最後段においてアンモニア性窒素が実質的に完全に硝化されて1mg/L以下になるように負荷及び運転条件を調整することで、有機物質が十分に分解された状態を保つことが出来る。これによりほぼ安定した沈澱池の分離性を確保することが可能である。
【0020】
ただし、急激な負荷変動を生じた場合等は、一時的に少量の汚泥の浮上を生じることがある。そこで、少量の浮上汚泥を回収できる設備を沈澱池に設けることでこうした一時的な負荷変動へも対応が可能となり、安定した処理水質が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施の形態に係る排水処理装置のフロー図である。
【図2】実施の形態に係る排水処理装置のフロー図である。
【図3】実施の形態に係る排水処理装置のフロー図である。
【図4】従来例のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
図1〜3はいずれも本発明の排水の処理方法を実施するのに好適な排水処理装置のフロー図である。
【0024】
図1では、生物処理反応槽としての硝化槽1に原水及び返送汚泥を導入し、曝気処理液を沈殿池4に導入して沈降分離処理する。この沈殿池4の水面位付近には、槽壁の内周側から若干離隔して浮上汚泥の流出防止板4aが設けられている。曝気処理液はこの沈殿池4の中央付近に導入され、沈降した汚泥は汚泥返送ライン5によって硝化槽1に返送される。一部の浮上した汚泥は、かき取り機4bによって集泥ボックス(図示略)へ集められ、浮上汚泥返送ライン6によって硝化槽1へ返送される。なお、余剰汚泥は、汚泥返送ライン5から分岐した汚泥排出ライン5aによって排出される。
【0025】
汚泥が分離された上澄水は、流出防止板4aの外周側から処理水取出管7によって取り出される。
【0026】
この排水処理装置によって原水を処理する場合、硝化槽1から沈殿池4へ流入する曝気処理液のアンモニア性窒素濃度を1mg/L以下、好ましくは0.5mg/L以下とする。
【0027】
これにより、沈殿池4中のBOD成分濃度も十分に低いものとなり、沈殿池4における脱窒反応が防止ないし抑制され、この脱窒反応に起因した汚泥浮上が防止される。
【0028】
なお、急激な負荷変動等により沈殿池4で汚泥が浮上することがある。このような場合には、上記かき取り機4bによって浮上汚泥をかき取って硝化槽1へ返送する。
【0029】
上記のように、曝気処理液中のアンモニア性窒素濃度を1mg/L以下とするためには、この曝気処理液中のアンモニア性窒素濃度をアンモニア性窒素濃度計で測定し、このアンモニア性窒素濃度計の測定値が1mg/L以下となるように硝化槽1への原水流入量や曝気量を抑制するのが好ましい。
【0030】
この排水処理装置で有機物質の十分な分解を行うためには、水温を15℃以上、望ましくは20℃以上とし、汚泥負荷を0.3kg−BOD/kg−VSS/d以下、SRT7日以上の条件を整えることが好ましい。また、この場合MLSS濃度は4000〜6000mg/Lが望ましく、汚泥返送率は原水流量Qに対して0.5Q以上、好ましくは1.0Q以上である。
【0031】
また、硝化槽1に担体10を添加すると反応槽あたりの負荷が高められるとともに、低いMLSS濃度で運転できるためより効率的で汚泥浮上の少ない処理が可能となる。スポンジ等の担体は菌体を高密度に保持することが可能なので生物処理反応槽に添加することで菌体濃度を高め、より小さな反応槽で処理が可能となる。また逆に担体を添加することでMLSS濃度を低減しても同等の処理が可能となる。したがって担体を添加してMLSS濃度を低く保つと、より沈澱池における浮上を生じにくい処理が可能となる。担体の充填率は見かけ容積で槽容積に対して10〜70%、好ましくは20〜50%であり、MLSS濃度は3000〜5000mg/Lが望ましい。
【0032】
図2は、沈殿池4の代わりに、浮上分離装置8を用いた実施の形態を示している。この場合は浮遊汚泥濃度を高く保つことが比較的困難であるので、硝化槽1に担体10を添加するのが望ましい。担体の充填率は見かけ容積で硝化槽1の容積の10〜70%、好ましくは20〜50%であり、MLSS濃度は、2000〜5000mg/Lが望ましいが、担体が十分であれば低減しても良く、汚泥の返送を行わなくても良い。
【0033】
浮上分離設備は凝集剤を添加すると処理水質がよくなるのでより好ましい。図3のように、汚泥を返送する浮上分離装置8の後段に、凝集剤を添加して浮上分離処理する浮上分離装置9を追加するようにしても良い。
【実施例】
【0034】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0035】
実施例1
図1に示す装置で下記水質の窒素含有排水を原水として180L/日の処理量で処理を行い、硝化処理水水質と処理水水質を表1に示した。
【0036】
〔原水水質〕
ケルダール窒素 166.3mg/L
NH−N 22.9mg/L
BOD 872mg/L
〔硝化槽〕
槽容量 300L
MLSS 4000mg/L
〔沈澱池〕
分離面積 0.5m
返送汚泥量 180L/日
浮上汚泥返送量 20L/日
【0037】
比較例1
図4に示す装置で実施例1と同じ原水を同一処理量(180L/日)にて処理した。硝化槽及び沈殿池の仕様は、実施例1と同様であり、脱窒槽容量は200L、再曝気槽容量は100Lとした。このときの硝化処理水水質と処理水水質を表1に示す。
【0038】
実施例2
硝化槽1に担体を添加し、下記条件とした他は、実施例1と同一の装置で実施例1と同様の原水を同流量で処理を行い、硝化処理水水質と処理水水質を表1に示した。
〔硝化槽〕
槽容量 300L(実施例1と同一)
担体 3mm角のスポンジを見かけ容量で槽容量の50%添加。
MLSS 3000mg/L
【0039】
実施例3
図2に示す装置を前提として実施例2の硝化槽処理水を下記条件で回分式加圧浮上分離を行った。硝化槽処理水300mlをカラムに取り、下部より加圧水(加圧して空気飽和溶解させたもの)を注入し、注入5分後に下部より処理水を採取した。このときの処理水SS(加圧水量にて補正した。)を表1に示す。
〔浮上分離装置〕
加圧水圧力 0.4MPa
加圧水量比 (硝化槽処理水:加圧水=4:1)
分離カラム φ46mm 500ml
【0040】
実施例4
図3に示す装置を前提として実施例3の処理水に凝集剤としてポリ塩化アルミニウム(PAC)を添加し、下記条件で回分式加圧浮上分離を行った。実施例3の処理水300mlに凝集剤を添加してカラムに取り、下部より加圧水(加圧して空気飽和溶解させたもの)を注入し、注入5分後に下部より処理水を採取した。処理水SS(加圧水量にて補正した。)を表1に示す。
〔浮上分離装置〕
加圧水圧力 0.4MPa
加圧水量比 (硝化槽処理水:加圧水=4:1)
分離カラム φ46mm 500ml
凝集剤 PAC 300mg/L
【0041】
【表1】

【0042】
表1より次のことが明らかである。
【0043】
実施例1,2では比較例1と同等の良好な処理水質が得られた。
【0044】
実施例3の結果では、処理水SS濃度はやや高いがBOD500mg/L以上程度の高濃度の排水であれば、発生菌体濃度(通常BODの3割程度)が流出SS濃度を上回るため硝化槽に必要な汚泥は確保できる。
【0045】
実施例4では、凝集剤添加により良好な処理水質が得られている。
【0046】
以上の実施例及び比較例より明らかな通り、本発明によると、脱窒槽、再曝気槽を省略し、硝化槽を小さく出来る。また、脱窒に必要なメタノールが不要となりランニングコストを低減できる。
【符号の説明】
【0047】
1 硝化槽
2 脱窒槽
3 再曝気槽
4 沈殿池
4a 浮上汚泥の流出防止板
4b かき取り機
8,9 浮上分離装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N/BODが重量比で0.05を超えるBODと有機態及び/又はアンモニア性窒素とを含有する窒素含有排水を原水として、
活性汚泥の存在下に曝気槽で曝気処理し、その曝気処理液を固液分離手段で固液分離し、分離水を処理水として排出する方法において、
該固液分離手段に流入する曝気処理液中のアンモニア性窒素濃度が1mg/L以下となるまで硝化反応が進行するように前記曝気処理を行うとともに、
該固液分離手段で分離した汚泥の少なくとも一部を曝気槽に返送することを特徴とする窒素含有排水の処理方法。
【請求項2】
請求項1において、前記曝気処理液中のアンモニア性窒素濃度をアンモニア性窒素濃度計で測定し、
該アンモニア性窒素濃度計の信号に基づいて、前記原水供給量及び/又は曝気量を制御することにより曝気処理液中のアンモニア性窒素濃度を1mg/L以下とすることを特徴とする窒素含有排水の処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記固液分離手段は沈降分離式のものであり、
該固液分離手段で汚泥の一部が浮上した場合、この浮上した汚泥を捕集して前記曝気槽に返送することを特徴とする窒素含有排水の処理方法。
【請求項4】
曝気槽と、
該曝気槽に原水を供給する原水供給手段と、
前記曝気槽の混合液を固液分離するための、浮上汚泥掻寄機を備えた沈殿槽と、
該沈殿槽で沈降した汚泥の少なくとも一部と浮上汚泥を前記曝気槽へ返送する手段と、
を有する窒素含有排水の処理装置において、
前記沈殿槽に流入する前記混合液中のアンモニア性窒素濃度を測定するアンモニア性窒素濃度計と、
該アンモニア性窒素濃度計の信号に基づいて、前記原水供給手段による原水供給量及び/又は曝気量を制御する制御手段と
を備えたことを特徴とする窒素含有排水の処理装置。
【請求項5】
曝気槽と、
該曝気槽に原水を供給する原水供給手段と、
前記曝気槽の混合液を固液分離するための浮上分離槽と、
該浮上分離槽の浮上汚泥の少なくとも一部を前記曝気槽へ返送する手段と、
を有する窒素含有排水の処理装置において、
前記浮上分離槽に流入する前記混合液中のアンモニア性窒素濃度を測定するアンモニア性窒素濃度計と、
該アンモニア性窒素濃度計の信号に基づいて、前記原水供給手段による原水供給量及び/又は曝気量を制御する制御手段と
を備えたことを特徴とする窒素含有排水の処理装置。
【請求項6】
請求項5において、前記浮上分離槽の分離水をさらに固液分離する第2の浮上分離槽を備えたことを特徴とする窒素含有排水の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−92942(P2011−92942A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31742(P2011−31742)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【分割の表示】特願2004−350057(P2004−350057)の分割
【原出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】