説明

立体造形物の造形方法及び造形装置

【課題】液体で立体造形物を造形する。
【解決手段】液体を吐出する液体吐出部のノズルから液滴を対象物に吐出して立体造形物を造形する立体造形物の造形方法において、液体に、少なくとも水と、水に溶解又は分散する着色剤とを含有させ、液体が単独の液滴として飛翔した時の体積から、理想的な真球として近似したときの比表面積が、0.2m/g以上0.5m/g以下であり、この比表面積を有する液滴を対象物上に1Hz以上、100Hz以下で連続的に吐出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水と着色剤とを含有する液体を用いて、立体造形物を造形する造形方法及び造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、インク液滴を形成し、それらの一部若しくは全部を被記録材に付着させて記録を行う。近年、インクジェット記録方式は、幅広い分野で使用され、厚みを持つ構造体や三次元形状物の造形にも利用されている。その中でも、直接、造形材料を吐出して三次元形状物を造形するダイレクト造形方法は、造形に寄与しない余分な材料をインクからなくすか、少なくすることが可能である。
【0003】
このようなダイレクト造形方法としては、例えば、特許文献1〜4に開示されている方法がある。特許文献1では、絶縁体である基板の表面に貼り付けられた銅箔等の導電体の表面に、インクジェットヘッドからレジストインクを吐出して、電極配線パターンに対応するレジストパターンを描画することにより、配線基板の作製を省略する方法が提案されている。
【0004】
特許文献2では、発泡材と熱可塑性樹脂とを含有するインクを用いて、立体イメージを形成することが提案されている。
【0005】
特許文献3や特許文献4では、インクジェットヘッドを用いて光硬化性樹脂を噴出して造形する方法が提案されている。
【0006】
特許文献1〜特許文献3に記載されている三次元形状物は、水溶性、非水溶性に因らず、水に溶解又は再分散しないものである。これは、インクジェット方式が液体を吐出するための技術であるため、固体の造形物を得るために、硬化処理を施す必要があることに起因するものである。
【0007】
特許文献1〜特許文献3に記載されているダイレクト造形方法にこれまで利用されてきた硬化処理は、水に溶解又は分散しない処理である。このため、硬化処理後の造形物は、水に溶解又は分散しないため、造形物を元の状態に戻すことはできず、多くの場合不可逆的である。
【0008】
ところで、一般的なインクジェット記録方式における問題点の一つとして、廃インク吸収体に石筍/鍾乳石(stalagmites/stalactites)状のインク堆積が発生することが知られている。これらの堆積物を回避する方法について特許文献5及び特許文献6では、廃棄インクタンクや吸収体に対しての改良が提案されている。インク堆積が発生する原因として、特許文献5には、凝集し易い色材やインク組成の場合に、堆積物が出来易いことが記載されている。特許文献6には、異なる2種類のインクが混合することで堆積物が出来ることが記載されている。
【0009】
また、非特許文献1では、静電力を用いたインクジェット記録技術の一例として、1kHzで同じ位置に液滴を吐出し続けることで、インク滴着弾位置に色材の柱が成長することが記載されている。
【0010】
特許文献5、特許文献6、非特許文献1の記載から、特定の要件を満たすことで、強度的に十分な強度を持つ色材からなる構造物を得ることが出来ることがいえる。
【0011】
色材からなる構造物を得るのは、廃液として濃縮されたり、又は静電力を用いたインクジェットヘッドでみられるノズル先端で、吐出される前にインクが濃縮されることで、著しく色材の濃度が高くなった場合に限られる。
【0012】
しかしながら、一般に、インクジェットプリントヘッドにおいて、このような色材濃度の高いインクを用いると、インクの粘度が高すぎるためにインクを吐出することができない。
【0013】
特許文献7では、吐出時にインクを濃縮させず、吐出された後、基材上でゲル化させ、これを積層することで柱状の構造物を得る造形方法が提案されている。この造形方法は、インクにゲル化剤を添加することで、増粘による吐出不良を避けつつ、UV硬化等の硬化方法を利用しない立体造形方法である。
【0014】
上述の特許文献及び非特許文献は、上述のインクジェット方式を用いて三次元の立体構造物を形成するものであるが、それぞれ、以下に説明する問題点を有する。すなわち、特許文献1〜4に開示されている方法では、いずれも得られる立体構造物は水に溶解することが出来ない。また、特許文献1〜4に開示されている方法では、熱又は光により硬化させる工程が入るので、造形に時間がかかる上、装置も大型化せざるを得ないという問題がある。
【0015】
従って、このように従来知られているインクジェット方式を用いる立体構造物の造形方法では、商業的に利用可能な安定性を有するインクジェット方式による立体構造物の形成は困難であった。特に、水で溶解可能な立体構造物を得ることは不可能であった。
【0016】
非特許文献1では、濃縮させたインク滴を連続的に着弾させることで、色材の柱が形成できることが記載されている。しかしながら、非特許文献1には、インク滴の吐出を制御する制御方法については全く記載されておらず、得られた構造物も変形した円柱でしかない。即ち、この非特許文献1に記載されている方法では、単に基材に対して垂直な色材の柱を形成することができることを示したにすぎない。
【0017】
特許文献7では、積層させる液滴にゲル化剤が添加されている。特許文献7に記載された造形方法では、吐出中や着弾後に液滴を乾燥させ、ゲル化を起こさせるために、液滴にゲル化剤を添加する必要がある。更に、特許文献7では、ゲル化剤や樹脂を添加することで粘性を与えることが記載されているが、吐出される液滴の比表面積や吐出周波数について全く記載されていない。更に、特許文献7では、吐出される液組成物は、液滴の状態ではなく、柱状に吐出されることが記載されている。
【0018】
また、特許文献8では、一般的なインクジェット技術による液滴の吐出方法に対して、着弾物の比表面積を0.6以上としているが、単位が記載されていない。仮に単位がm/gだとしても、液滴が非常に小さく、着弾位置の正確に合わせることが困難であり、立体構造を造形することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特許第3353928号
【特許文献2】特許第3385854号
【特許文献3】特許第2697136号
【特許文献4】特許第2738017号
【特許文献5】特開2009−12457号公報
【特許文献6】特許第4121705号
【特許文献7】特開2004−324755公報
【特許文献8】特開2005−59301号公報
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】日本画像学会誌、Vol.40.No.1(2001).pp.40−47 村上他:「静電力を用いた超高精細インクジェット記録技術の開発」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
そこで、本発明は、液体を液滴の状態で対象物に吐出することによって、対象物上に立体造形物を安定で高速に造形することができる立体造形物の造形方法及びこの造形方法に用いられる造形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上述した目的を達成する本発明に係る立体造形物の造形方法は、液体を吐出する液体吐出部のノズルから液滴を対象物に吐出して立体造形物を造形する立体造形物の造形方法であり、液体は、水と、上記水に溶解又は分散する着色剤とを含有し、上記液体が単独の液滴として飛翔したとき、理想的な真球として近似した当該液滴の質量当りの比表面積が0.2m/g以上、0.5m/g以下である液滴を、対象物上に1Hz以上、100Hz以下で連続的に吐出し、液滴を積層することで、液滴の吐出軸と同方向に伸びる立体造形物を造形する。
【0023】
上述した目的を達成する本発明に係る造形装置は、液体の液滴を吐出するノズルを有する液体吐出部と、液滴が着弾する対象物が載置される造形ステージと、液体吐出部及び/又は造形ステージを液滴の吐出軸と同方向のZ軸方向に移動させるZ軸移動部とを有し、液体吐出部は、水と、水に溶解又は分散する着色剤とを含有した液体が単独の液滴として飛翔したとき、理想的な真球として近似した当該液滴の質量当りの比表面積が、0.2m/g以上0.5m/g以下である液滴を対象物上に1Hz以上、100Hz以下で連続的に吐出し、液滴を積層しながら、Z軸移動部で液体吐出部及び/又は造形ステージをZ軸方向に移動させることで、Z軸方向に伸びる立体造形物を造形する装置である。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、液体に少なくとも水と、水に溶解又は分散する着色剤とを含有させる。本発明では、液体が単独の液滴として飛翔したとき、理想的な真球として近似した当該液滴の質量当りの比表面積が、0.2m/g以上0.5m/g以下となるようにし、この液滴を1Hz以上、100Hz以下で連続的に吐出することによって、液体の吐出軸方向に液滴が積層し、立体構造を造形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明を適用した立体造形物の造形方法に用いられる造形装置の斜視図である。
【図2】(A)は、同液体吐出装置の液体吐出ヘッドの平面図であり、(B)は、(A)中の線分A−Aにおける断面図である。
【図3】(A)は、液滴を吐出して、立体造形物を造形しているところの概略図であり、(B)は、立体造形物の概略図である。
【図4】(A)は、造形開始から0.5秒後の立体造形物、(B)は、造形開始から1秒後の立体造形物、(C)は、造形開始から5秒後の立体造形物の概略図である。
【図5】(A)は、液滴の比表面積が0.2m/gの立体造形物、(B)は、液滴の比表面積が0.5m/gの立体造形物の概略図である。
【図6】(A)は、Z軸方向に伸びる略円柱状の立体造形物、(B)は、斜め方向に成長させた立体造形物の概略図である。
【図7】(A)は、Z軸方向に伸びる柱を形成した状態を示し、(B)は、1つの柱を斜め方向に成長させた状態を示し、(C)は、隣接する柱を斜め方向に成長させた状態を示し、(D)は、隣接する柱同士を架橋した状態を示し、(E)は、すべての柱を架橋した状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を適用した立体造形物の製造方法及び立体造形物を造形する造形装置について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は、以下の順序で行う。
【0027】
1.立体造形物を造形する造形装置
(1)液体吐出部
(2)造形ステージ
(3)Z軸移動部
(4)X軸移動部
(5)Y軸移動部
2.立体造形物の造形方法
(1)液体
(2)立体造形物
1.立体造形物を造形する造形装置
造形装置1を図1及び図2に示す。造形装置1は、支持台2と、液体3を吐出する液体吐出部4と、この液体吐出部4の液体3が吐出される面4aと対向して設けられ、液体吐出部4から吐出された液滴3aが着弾する対象物5が載置される造形ステージ6とを有する。更に、造形装置1には、液体吐出部4から対象物5に向かって液滴3aが吐出される方向の液滴3aの吐出軸方向、ここではZ軸方向に液体吐出部4を移動させるZ軸移動部7を有する。また、造形装置1は、造形ステージ6をZ軸方向と略直交する面内のX軸方向に移動させるX軸移動部8と、Y軸方向に移動させるY軸移動部9とを有する。また、この造形装置1は、液体3が収容された液体タンク10を取り付け可能に備え、液体タンク10から液体供給部11を介して液体吐出ヘッド4に液体3が供給可能となっている。この造形装置1は、液体吐出部4が液滴3aを吐出して、図3に示すような液滴3aの吐出軸方向であるZ軸方向に伸びる柱状の立体造形物12を造形することができる。
【0028】
(1)液体吐出部
液体吐出部4は、後述する液体3を普通紙や光沢用紙、基板等の対象物5に対して液滴3aの状態にして吐出する液体吐出ヘッド4である。液体吐出ヘッド4は、図1に示すように、略長尺状に形成され、長辺の一端がZ軸移動部7に着脱可能に取り付けられ、造形ステージ6と略平行となるように設けられている。
【0029】
液体吐出ヘッド4は、液体3を圧力発生素子で押圧して、液体3を吐出させる。具体的に、液体吐出ヘッド4は、図2に示すように、液体タンク10から供給された液体3を吐出するヘッドチップ21を有する。ヘッドチップ21は、圧力発生素子として例えば発熱抵抗体のヒータ22aと液体3を予備加熱する加温用ヒータ22bとが設けられた回路基板22と、液体3を吐出する吐出口であるノズル23aが設けられたノズルシート23とを有する。ヒータ22aは、液体タンク10から供給された液体3が充填される液体加圧室24に設けられている。この液体加圧室24は、ヒータ22aが設けられた回路基板22で上面が形成され、ノズルシート23及びこのノズルシート23と一体に形成された壁部で下端面及び周囲三側面が形成されている。液体加圧室24は、他の一側面が室内に液体3を供給するための流路25側に開放した構成を有している。
【0030】
ヒータ22aは、ノズル23aと対向する位置に設けられ、例えば20μm角に形成された発熱抵抗体である。このヒータ22aは、周囲の液体3を加熱することにより、気泡を発生し、この気泡が膨張しながら液体3を加圧することで、押し退けられた液体3が液滴3aの状態でノズル23aから吐出させる。
【0031】
加温用ヒータ22bは、流路25に設けられている。この加温用ヒータ22bは、任意に、吐出する液体3の温度を制御する。加温用ヒータ22bは、例えば液体3がノズル23aから吐出された後、飛翔中及び対象物5に着弾した後に適度に乾燥しやすくするため、ヒータ22aで加熱する前に、液体3を加熱するものである。
【0032】
ノズルシート23は、樹脂で形成されている。ノズルシート23には、例えば約17μmの径を有する円形状で、吐出面4a側に向かって狭まったテーパー状のノズル23aが複数並設されている。ノズルシート23には、ノズル径が異なる複数のノズル23aが形成されていたり、楕円形等の他の形状のノズル23aが形成されていてもよい。
【0033】
また、液体吐出ヘッド4には、ノズル23aと対象物5と間の空間の温度や湿度を測定する温湿度センサ26が設けられている。
【0034】
また、液体吐出ヘッド4には、対象物5上に造形された造形物を観察する観察用カメラ27も設けられている。
【0035】
以上のような構成からなる液体吐出ヘッド4は、電気制御装置のコントローラから入力された立体造形物12のデータに基づいた吐出制御信号により、液体3を吐出させるヘッドチップ21の回路基板22の制御回路を制御する。そして、液体吐出ヘッド4は、選択されたヒータ22aにパルス電流を供給し、ヒータ22aを加熱する。液体吐出ヘッド4では、ヒータ22aを加熱することによって、気泡を発生させ、この気泡により周囲の液体3を押圧し、図2(B)に示すように、液体3を液滴3aの状態でノズル23aより吐出する。この液体吐出ヘッド4は、図1に示す、後述するX軸移動部8、Y軸移動部9、Z軸移動部7によって、X、Y、Z軸方向に移動する可能である。
【0036】
(2)造形ステージ
造形ステージ6は、液体吐出ヘッド4から液体3の液滴3aが吐出される普通紙や光沢用紙、基板等の対象物5が載置され、対象物5を液体吐出ヘッド4の吐出面4aに対して略平行に支持するものである。この造形ステージ6は、後述するX軸移動部8、Y軸移動部9、Z軸移動部7によって、X、Y、Z軸方向に移動可能である。
【0037】
(3)Z軸移動部
図1において、Z軸移動部7は、液体吐出ヘッド4を造形ステージ6に対して近接離間する方向に移動させる手段である。Z軸移動部7は、Z軸ガイド部材33に沿って液体吐出ヘッド4を移動させる。Z軸移動部7は、液体3が吐出される吐出軸と同方向のZ軸方向に移動可能にZ軸ガイド部材33に取り付けられたZ軸ステージ31と、このZ軸ステージ31をZ軸ガイド部材33に沿ってZ軸方向に移動させるZ軸モータ32とから構成されている。Z軸移動部7は、例えばZ軸モータ32の回転軸を介して駆動力がZ軸ステージ31に伝達され、Z軸ステージ31をZ軸方向に移動させる。Z軸移動部7は、Z軸ステージ31をZ軸方向に移動させることによって、液体吐出ヘッド4をZ軸方向に移動させる。
【0038】
なお、Z軸移動部7を造形ステージ6側に設けて、造形ステージ6が液体吐出ヘッド4に対して近接離間するように、造形ステージ6をZ軸方向に移動させる構成としてもよい。また、Z軸移動部7を液体吐出ヘッド4及び造形ステージ6に共に設けて、液体吐出ヘッド4及び造形ステージ6を共にZ軸方向に移動させて、互いに近接離間するように、液体吐出ヘッド4及び造形ステージ6をZ軸方向に移動させる構成としてもよい。
【0039】
(4)X軸移動部
図1において、X軸移動部8は、造形ステージ6をX軸方向に移動させる。X軸移動部8は、Y軸移動部9上に設けられている。このX軸移動部8は、造形ステージ6が設けられたX軸ステージ41と、このX軸ステージ41をX軸方向に移動させるX軸モータ42とから構成されている。X軸移動部8は、X軸モータ42の回転軸42aを介して駆動力がX軸ステージ41に伝達され、X軸ステージ41をX軸方向に移動させる。X軸移動部8は、X軸ステージ41をX軸方向に移動させることによって、造形ステージ6をX軸方向に移動させる。
【0040】
なお、X軸移動部8を液体吐出ヘッド4、又は液体吐出ヘッド4及び造形ステージ6に共に設けて、液体吐出ヘッド4、又は液体吐出ヘッド4及び造形ステージ6を共にX軸方向に移動させる構成としてもよい。
【0041】
(5)Y軸移動部
図1において、Y軸移動部9は、支持台2とX軸ステージ41との間に設けられている。Y軸移動部9は、造形ステージ6をY軸方向に移動させる。Y軸移動部9は、造形ステージ6及びX軸ステージ41が設けられたY軸ステージ51と、このY軸ステージ51をY軸方向に移動させるY軸モータ52とから構成されている。Y軸移動部9は、Y軸モータ52の回転軸52aを介して駆動力がY軸ステージ51に伝達され、Y軸ステージ51をY軸方向に移動させる。Y軸移動部9は、Y軸ステージ51をY軸方向に移動させることによって、造形ステージ6をY軸方向に移動させる。
【0042】
なお、Y軸移動部9を液体吐出ヘッド4、又は液体吐出ヘッド4及び造形ステージ6に共に設けて、液体吐出ヘッド4、又は液体吐出ヘッド4及び造形ステージ6を共にY軸方向に移動させる構成としてもよい。
【0043】
なお、造形装置1には、対象物5に対して安定な造形を行うことができる温度や湿度の環境整え、その環境を一定とするため、制御部28を設けるようにしてもよい。制御部28は、温湿度センサ26により温度や湿度を測定した結果に基づいて、ノズル23aと対象物5との間の空間の環境が一定になるように、送風機、熱交換器、加湿器、エアフィルタ等を納めた空調機からなる。
【0044】
2.造形方法
(1)液体
液体3は、少なくとも水と、水に溶解又は分散する着色剤とを含有する。着色剤としては、水溶性インクに使用され、凝集しやすいものが選択される。具体的には、スイスのイルフォードイメージング社から市販されているイエロー染料Y1189などが挙げられる。なお、このイエロー染料Y1189に限定されるものではなく、他の染料であっても本発明が成り立たない訳ではなく、適時、他の着色剤を選択することができる。顔料を分散した水性の液体3も使用することができる。顔料を分散した水性の液体3では、水で容易には再分散されないので、造形された立体造形物12は水溶性ではなくなる。
【0045】
その他、液体吐出ヘッド4のノズル23a内で液体3が乾燥しないように、保湿剤を含有させてもよい。保湿剤の含有量は、着色剤の濃度以下の量である。保湿剤としては、トリメチロールプロパン等が挙げられる。立体造形物の強度を弱めないという点から、常温常圧の通常環境下で固体の保湿剤を選択するほうがより強度が強い構造体が得られる。
【0046】
なお、液体3としては、水と着色剤とを含有するものに限られず、着色剤に代えて、水溶性の塩で、分子量が適度に大きい、例えば数百〜数千の分子量のものを用い、溶媒が乾燥することで、粘性を生じるものであれば用いることができる。
【0047】
(2)造形方法
上述の造形装置1では、造形ステージ6上に普通紙や基板等の対象物5を載置し、液体吐出ヘッド4のノズル23aと対象物5が対向するように、対象物5を配置する。造形装置1では、液体タンク10から液体3が流路25を介して液体吐出ヘッド4の液体加圧室24に供給される。そして、造形装置1では、液体加圧室24に供給された液体3をヒータ22aを発熱させて押圧し、ノズル23aから液滴3aを対象物5に吐出する。液体3を吐出する際には、液体3が単独の液滴3aとして飛翔したとき、理想的な真球として近似した液滴3aの質量当りの比表面積が、0.2m/g以上、0.5m/g以下である。また、この比表面積を有する液滴3aを対象物5上に1Hz以上、100Hz以下で連続的に例えば同じ位置に吐出する。造形装置1は、液滴3aの比表面積及び液滴3aの吐出周波数を制御することによって、液滴3aの飛翔中及び対象物5に着弾後の乾燥、着色剤の凝集を制御し、図3に示すような、略円柱状の立体造形物12を造形することができる。
【0048】
ここで、液体3が単独の液滴3aとして飛翔したとき、理想的な真球として近似した液滴3aの質量当りの比表面積は、次のようにして求めることができる。先ず、1滴の体積を求める。主たる液滴サイズは、吐出される液滴3aをストロボ撮影することで測定できる。他の方法として、サテライトが十分に少ない場合は、吐出発数に対して使用された液体3の量を求めることで、1滴あたりの液量を近似的に求めることができる。このようにして求められた液滴3a(1滴)の体積から理想的な球形として、その半径r(μm)を求める。求めた半径r(μm)を元に、理想的な球形に近似すると、表面積は4πr、体積は(4/3)πrで求められる。液体3の密度をρ(g/cm)(ρは、ほぼ1である)とすると、比表面積(Sm)は、Sm=3/(r・ρ)(m/g)から求めることができる。
【0049】
このように求められた比表面積が0.2m/gを下回る場合には、1滴の液量が多いため、ノズル23aから吐出された液体3が十分に乾燥する前に造形ステージ6上の対象物5に着弾してしまい、積層による立体造形に適さない。逆に比表面積が0.5m/gを上回る場合には、1滴の液量が少ないため、乾燥は十分であるものの、より空気抵抗の影響を受け易く、着弾位置を正確に合わせることが困難となり、やはり積層による立体造形に適していない。
【0050】
なお、液滴3aは、吐出直後から着弾までに形状を変化させながら飛翔するので、その形状を特定することは出来ないということが知られている。しかしながら、基本的には、球形から振動しつつ紡錘形や涙形を取るので、一定条件での乾燥・凝集への影響を考えるときには、理想的な球形での比表面積として取り扱うことで、十分な制御が可能となる。本発明では、液体3が単独の液滴3aとして飛翔したとき、理想的な真球として近似した液滴3aの質量当りの比表面積を取り扱っている。
【0051】
また、造形装置1では、液滴3aを1Hz以上、100Hz以下の吐出周波数で吐出する。1秒間に1発から100発の液滴3aを重ねて着弾させることによって、対象物5に着弾するまでの数10μ秒から数100μ秒という短時間に、液滴3aの表面から溶媒が蒸発し、同時に着色剤の凝集が始まる。液滴3aの表面が薄く凝集した状態で、対象物5に着弾すると、液滴3aは対象物5上で更に固化が進み、対象物5上に半球状で着弾する。更に、次の液滴3aを重ねるまでに、10m秒から1000m秒間隔を空けることで、更に対象物5上で乾燥と凝集が進み、もはや次の液滴3aが重なっても大きなドットとなることはなく、液滴3aの吐出軸方向(Z軸方向)に積層を続けることになる。液滴3aの吐出周波数は、液滴3aの飛翔中及び対象物5上に着弾した後に乾燥し、液滴3aが積層できるように、造形装置1の周囲の温度や湿度等の環境に合わせて決定する。例えば、乾燥しにくい環境の場合には、液滴3aの吐出間隔を大きく、乾燥しやすい環境の場合には、液滴3aの吐出間隔を狭くする。
【0052】
この造形方法では、図3(A)に示すように、1秒間に1発から100発の液滴3aを成長点13に重ねて着弾させる。これにより、造形方法は、あたかも石筍や鍾乳石が成長するかのように、1秒間に数μmから数十μmの速度で凝集した着色剤による略円柱状の立体造形物12が図3(B)に示すように形成される。なお、図3(B)に示す略円柱状の立体造形物12は、液滴3aの比表面積が0.3m/g以上で、液滴3aの吐出周波数が10Hzの条件で造形したものであり、直径が24μmである。なお、立体造形物12の形状は、略円柱状に限らず、ノズル23aの形状によって変えることができる。
【0053】
造形装置1では、1滴目の液滴3aが吐出され、対象物5に着弾し、着弾した1滴目の液滴3aが成長点13となり、この成長点13上に2滴目の液滴3aが積み重なる。そして、3滴目は着弾した2滴目の液滴3aが成長点13となり、この成長点13上に積み重なり、4滴目以降も同様に前に着弾した液滴3a上に積み重なる。
【0054】
1滴目を吐出する際には、液体吐出ヘッド4のノズル23(吐出面4a)と対象物5との距離が所定の距離となるように、Z軸移動部7で液体吐出ヘッド4をZ軸方向、即ち対象物5に対して近接離間する方向に移動させて、液体吐出ヘッド4の位置を調整する。続いて、2滴目以降を吐出する際には、対象物5に着弾した液滴3aのうち最も上に位置する液滴3a(成長点13)と液体吐出ヘッド4のノズル23a(吐出面4a)の距離を調整する。この調整は、1滴目を吐出する際に調整した液体吐出ヘッド4のノズル23a(吐出面4a)と対象物5との所定の距離と略同じになるように、液体吐出ヘッド4をZ軸方向、即ち対象物5から離れる方向に上昇させる。また、液体吐出ヘッド4と対象物5との間の湿度及び温度がほぼ一定となるように、温湿度センサ26で液体吐出ヘッド4と対象物5との間の湿度及び温度を測り、湿度及び温度を調整する。液体吐出ヘッド4と対象物5との間の湿度及び温度をほぼ一定とすることによって、吐出した液滴3aの乾燥を一定とすることができ、安定して立体造形物12を造形できる。
【0055】
造形装置1では、以上のような条件で液体3を吐出することによって、吐出された液滴3aは飛翔している間及び対象物5に着弾後に乾燥し、着色剤が凝集して、適度に固化し、着弾した液滴3aが対象物5の面方向に広がらず、対象物5上に半球状に着弾する。これにより、造形装置1では、液滴3aを同じ位置に吐出した場合、図3(B)に示すように、液滴3aの吐出軸方向(Z軸方向)に伸びる略円柱状の立体造形物12を液体3で造形することができる。ここで、液滴3aの吐出軸とは、液体吐出ヘッド4のノズル23aから対象物5に対して液滴3aが吐出される方向と略平行な軸を示す。
【0056】
例えば、吐出した液滴3aの比表面積が0.3m/g、吐出周波数10Hzで液滴3aを同じ位置に吐出した場合、図4に示すように、液滴3aが積み重なり、液体3の吐出軸と同方向(Z軸方向)に伸びる直径24μmの略円柱状の立体造形物12が造形される。図4(A)は、造形開始から0.5秒後の立体造形物12であり、対象物5上に液滴3aが積み重なり、半球状に液滴3aが着弾している。図4(B)は、造形開始から1秒後の立体造形物12である。この立体造形物12は、液滴3aが吐出軸と同方向(Z軸方向)に積み重なることによって、略円柱状の立体造形物12の成長点13が吐出軸と同方向(Z軸方向)に向かって成長して造形される。更に、液滴3aの吐出を続けると、立体造形物12が吐出軸と同方向(Z軸方向)に向かって更に成長し、造形開始から5秒後では、図4(C)に示すような立体造形物12を造形できる。
【0057】
また、吐出した液滴3aの比表面積が0.2m/g、吐出周波数が1Hzの場合には、図5(A)に示すような、直径が40μmの立体造形物12が得られる。吐出した液滴3aの比表面積が0.5m/g、吐出周波数が10Hzの場合には、図5(B)に示すような、直径が14μmの立体造形物12が得られる。
【0058】
このような造形方法では、吐出軸方向(Z軸方向)の円柱状の立体造形物12だけではなく、図6に示すように、液滴3aの吐出軸方向(Z軸方向)に対して、90度以下の角度で斜め又は真横に伸びる立体造形物12を造形することもできる。90度以下の角度で斜め又は真横に伸びる立体造形物12を造形するには、2滴目以降において、液滴3aを吐出する際に、直前に吐出した液滴3aが着弾した位置と同じ位置ではなく、先に対象物5に着弾した液滴3aの直径以下の量の範囲で着弾位置をずらして液滴3aを積層する。
【0059】
図6(A)は、吐出軸方向(Z軸方向)に伸びる略円柱状の立体造形物12を示している。図6(A)では、1滴目の液滴3a(A1)が吐出されて対象物5上に着弾し、続いて2滴目の液滴3a(B1)が吐出されて、対象物5上に着弾した液滴3a(A1)上に積み重なる。同様に、3滴目の液滴3a(C1)が液滴3a(B1)上に積み重なり、液滴3a(C1)上に液滴3a(D1)が積み重なり、液滴3a(D1)上に液滴3a(E1)が積み重なる。即ち、液滴3a(A1)〜液滴3a(E1)を略同じ位置に着弾させることで、略円柱状の立体造形物12の先端が成長点13となり、Z軸方向に成長し、立体造形物12が形成される。ここで、液滴3a(A1)〜(E1)を吐出する際に、立体造形物12の成長点13と液体吐出ヘッド4のノズル23a(吐出面4a)との距離が一定となるように、液体吐出ヘッド4をZ軸方向に移動させる。
【0060】
図6(B)は、液滴3aの着弾位置を、先に対象物5に着弾した液滴3aの直径以下の量の範囲でX軸方向にずらすことによって、吐出軸方向(Z軸方向)に対して、90度以下の角度で斜めに成長した立体造形物12を示している。先に対象物5に着弾した液滴3aの直径以下の量の範囲で液滴3aの着弾位置をずらすとは、後述するように、先に吐出した液滴3aによって形成された吐出軸方向(Z軸方向)の円柱状の立体造形物12の先端、即ち液滴3aが着弾して立体造形物12が成長する成長点13の直径以下の量の範囲で液滴3aの着弾位置をずらすことである。
【0061】
図6(B)では、1滴目の液滴3a(F1)が吐出されて対象物5上に着弾し、続いて2滴目の液滴3a(G1)が吐出されて、対象物5上に着弾した液滴3a(F1)の直径以下の量の範囲内で着弾位置をずらして、液滴3a(F1)上に液滴3a(G1)を積み重ねる。即ち、対象物5上に着弾した液滴3a(F1)が立体造形物12の成長点13となり、この成長点13の直径以下の量の範囲内で着弾位置をずらして、液滴3a(G1)を成長点13に着弾させる。同様に、3滴目の液滴3a(H1)は、液滴3a(G1)が着弾してできた成長点13に対して、この成長点13の直径以下の量の範囲内で着弾位置をずらして吐出し、成長点13に着弾させる。4滴目以降の液滴3a(I1)(J1)についても、成長点13の直径以下の量の範囲内で着弾位置をずらして成長点13に積み重ねる。ここで、液滴3a(F1)〜(J1)を吐出する際に、成長点13と液体吐出ヘッド4のノズル23a(吐出面4a)との距離が一定となるように、液体吐出ヘッド4をZ軸方向に移動させる。
【0062】
なお、図6(B)では、着弾前の液滴3a(F1)〜(J1)の軌道が重なっている状態を示しているが、このようにずらして順々に液滴3a(F1)〜(J1)を吐出することによって、着弾しても液滴3a(F1)〜(J1)は上述したように成長点13で重なる。また、本発明では、少なくとも着弾した液滴3aが成長点13で重なっていればよい。
【0063】
ここで、液滴3aは、対象物5上に着弾、及び先に吐出された液滴3a上に着弾すると、環境や吐出周波数によって、着弾前の液滴3aの直径よりもやや大きくなる。このことについて、発明者らが確認したところ、比表面積が0.2m/gの液滴3aを吐出周波数10Hzで吐出した場合には、液滴3aの直径は30μmであるが、着弾すると、直径が40μmとなる。比表面積が0.3m/gの液滴3aを吐出周波数10Hzで吐出した場合には、液滴3aの直径は20μmであるが、着弾すると、24μmとなる。比表面積が0.5m/gの液滴3aを吐出周波数10Hzで吐出した場合には、液滴3aの直径は12μmであるが、着弾すると、14μmとなる。
【0064】
造形装置1では、液滴3aの着弾位置をずらすには、対象物5が載置された造形ステージ6をX軸移動部8でX軸方向に移動又はY軸移動部9でY軸方向に、即ち立体造形物12を成長させる方向とは反対方向に、立体造形物12の成長点13の直径以下の量の範囲で移動させる。
【0065】
これにより、造形装置1では、造形ステージ6をX軸方向又はY軸方向に移動させることによって、液体3の着弾位置がずれるため、吐出軸方向(Z軸方向)に対して、90度以下の角度で斜めに立体造形物12が成長する。その結果、図6(B)に示すような立体造形物12を造形することができる。この造形装置1では、吐出軸方向(Z軸方向)と直交する方向、即ち真横に伸びる柱状の立体造形物12を造形することができる。なお、造形装置1では、液体吐出ヘッド4を立体造形物12の成長方向に移動させることで、図6(B)に示すような立体造形物12を造形するようにしてもよい。
【0066】
例えば、図7に示すように、吐出軸方向(Z軸方向)に伸びる隣接する円柱状の立体造形物を接続するように、架橋構造を造形することができる。このような架橋構造は、図7(A)に示すように、吐出軸方向(Z軸方向)に伸びる円柱状の立体造形物を造形する。なお、図7の説明において、吐出軸方向(Z軸方向)に伸びる円柱状の立体造形物を柱12a〜12dという。次に、図7(B)に示すように、柱12aに隣接する他の柱12bの方向に向かって、90度以下の角度で斜めに柱12aを成長させる。柱12aを成長させるには、柱12aの成長点13に液滴3aを吐出する際に、造形ステージ6を成長させる方向とは反対方向、例えばX軸方向に、成長点13の直径以下の量の範囲で移動させることによって、柱12aと隣接する他の柱12bの方向に向かって、90度以下の角度で斜めに成長する。同様にして、造形ステージ6を柱12cの方向に移動させながら、この柱12aに隣接する他の柱12bの成長点13に液滴3aを吐出する。これにより、図7(C)に示すように、柱12aの方向に向かって、90度以下の角度で斜めに柱12bが成長する。そして、図7(D)に示すように、どちらか一方又は両方の柱12a、12bを更に成長させることによって、隣接する柱12aと柱12bとが接続され、架橋構造が形成される。同様にして、図7(E)に示すように、更に隣接する柱12c、12dとで架橋構造を形成することによって、複数の柱12a〜12dを接続した架橋構造を造形することができる。
【0067】
この図7に示す架橋構造は、吐出した液滴3aの比表面積が0.5m/g、吐出周波数10Hzで液滴3aを吐出して造形した。吐出軸方向(Z軸方向)に伸びる柱12a〜12dは、円柱状であり、直径が24μm、柱12a〜12dの間隔が100μmである。なお、図7に示す架橋構造を造形する際に、造形ステージ6をX軸方向に移動させて造形したが、柱12a〜12dの位置や成長させる方向によって、Y軸移動部9で、造形ステージ6をY軸方向に移動させて、柱12を90度以下の角度で斜めに成長させてもよい。架橋構造を造形するに当って、上記比表面積、吐出周波数は一例であり、他の条件で造形しても、架橋構造を得ることができる。
【0068】
また、図7の架橋構造では、柱12a〜12dを90度以下の角度で斜めに成長させたが、吐出軸方向(Z軸方向)に対して直交方向に真横に成長させてもよい。また、図7に示す架橋構造は、更に、同様の構造のものを吐出軸方向(Z軸方向)に積層して、網のように造形したり、Y軸方向に更に柱を形成して立方体等の三次元造形物を造形してもよい。
【0069】
以上のように、造形装置1では、液体3が単独の液滴3aとして飛翔したとき、理想的な真球として近似した当該液滴の質量当りの比表面積が、0.2m/g以上、0.5m/g以下であり、この液滴3aを対象物5上に1Hz以上、100Hz以下で連続的に吐出する。このような条件で吐出することによって、液滴3aは飛翔中又は対象物5に着弾した後、乾燥し、着色剤が凝集することによって、固化し、対象物5上で広がらず、半球状となる。これにより、この造形装置1による造形方法では、連続して液滴3aを同じ位置に吐出することによって、吐出軸方向(Z軸方向)に伸びる立体造形物12を造形することができる。また、この造形方法では、着弾位置を僅かにずらして液滴3aを着弾させることで、液滴3aの吐出方向に対して斜めや殆ど真横にまで伸長させることができる。
【0070】
また、この造形方法では、1秒間に1発から100発の液滴3aを重ねて着弾させるため、1秒間に数μmから数十μmの速度で、微細な柱状の立体造形物12を造形することができる。また、造形された立体造形物12は、水と着色剤とを含む液体3を吐出して、乾燥することによって着色剤が凝集してできたものであるから、再度水に溶解させることが可能である。なお、造形後に後処理を行ったり、液体3に硬化剤を添加することで、立体造形物12を水に不溶にでき、立体造形物12の用途が限定されず、汎用性に富んでいる。また、この造形方法では、立体造形物12を造形した後に、熱や光による硬化工程が必要ないため、造形時間が短く、装置の大型も防ぐことができ、小型の造形装置1で造形できる。造形して得られた立体造形物12は、溶媒が乾燥しても収縮せず、歪みが発生することを防止できる。
【0071】
この造形方法では、液体3にゲル化剤を含有せずとも、吐出する際の液滴3aの比表面積と吐出周波数を制御することで、飛翔中及び着弾後の液滴3aが適度に固化し、積層させることができる。これにより、液体3の汎用性が著しく大きくなる。
【0072】
この造形方法では、1:100以上の圧倒的なアスペクト比の立体造形物を得ることができる。
【0073】
また、この造形方法では、通常の水性インクジェットインクと異なり、飛翔中から乾燥・凝集を十分に行うことができ、溶剤を吸収するような対象物5を使用する必要がない。即ち、インクジェット用紙と呼ばれるインク受容層を有した樹脂層を持たないガラス表面や金属表面にも、直接、着色剤の凝集によって立体造形物12を自由に形成することができる。
【0074】
また、この造形方法では、対象物5を乗せる造形ステージ6を加熱することで、より液組成物の乾燥を促進することもできる。なお、この造形方法では、基材の熱伝導率や厚みによって、その成長度が大きく変わる場合があるため、吐出させる液滴3aの温度を一定に加温することで液滴3aの乾燥性を制御し、より安定な積層速度の制御を可能にする。
【0075】
この造形方法は、得られた立体造形物12が商業的に利用可能な安定性を有し、且つ圧倒的な速度で立体造形物の造形することが可能である。
【0076】
また、このような造形方法では、基材は特に撥水処理等を行なう必要は無い。かりに撥水処理を行なったとしても、2層目以降は1層目に対する濡れ性で直径が決まってくるので、意味が無いからである。本発明において、柱構造物の径は、吐出される液滴の比表面積と吐出周波数及び温度と湿度などの積層時の環境に依存することになる。
【実施例】
【0077】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について、実験結果をもとに詳細に説明する。まず、実験に使用した造型用の液体組成物(以下、インクという。)の組成について説明する。
【0078】
(インクA)
イオン交換水に、スイスのイルフォードイメージング社から市販されているイエロー染料Y1189の濃度が20質量%、界面活性剤としてサーフィノールE1010(日信化学工業(株)製)が0.3質量%になるように計量し、インクAを調製した。
【0079】
(インクB)
イオン交換水に、スイスのイルフォードイメージング社から市販されているイエロー染料Y1189の濃度が16質量%、トリメチロールプロパンが16質量%、界面活性剤としてサーフィノールE1010(日信化学工業(株)製)が0.3質量%になるように計量し、インクBを調製した。
【0080】
(インクC)
イオン交換水に、スイスのイルフォードイメージング社から市販されているイエロー染料Y1189の濃度が16質量%、トリメチロールエタンが12質量%、界面活性剤としてサーフィノールE1010(日信化学工業(株)製)が0.3質量%になるように計量し、インクを調製した。
【0081】
(インクD)
イオン交換水に、スイスのイルフォードイメージング社から市販されているイエロー染料Y1189の濃度が16質量%、キシリトールが8質量%、界面活性剤としてサーフィノールE1010(日信化学工業(株)製)が0.3質量%になるように計量し、インクを調製した。
【0082】
(インクE)
イオン交換水に、スイスのイルフォードイメージング社から市販されているイエロー染料Y1189の濃度が16質量%、D−マンニトールが4質量%、界面活性剤としてサーフィノールE1010(日信化学工業(株)製)が0.3質量%になるように計量し、インクを調製した。
【0083】
以上のようにして調整したインクA〜Eを用いて、実施例1〜9、比較例1〜3において造形物を造形した。ここで、実施例及び比較例では、ノズルシートの厚みが10〜20μm、ノズルの径が9〜30μm、ヒータのサイズが20μm×20μm、液体加圧室の高さが8〜12μmのサイズの異なる複数のインクジェットヘッド(液体吐出ヘッド)を使用した。インクジェットヘッドは、駆動周波数を10KHz以上まであげることが出来るが、立体造形は1Hz以上100Hz以下で行なった。この時の駆動パルスは、1.3μs、駆動電圧を9.8Vとしている。
【0084】
(実施例1)
液組成物としてインクA、基材(対象物)としてスライドグラスを用い、インクジェットヘッド(液体吐出ヘッド)との距離を100μmとした。その後、基材上に10Hzで比表面積が0.5m/gの液滴を同じ位置に着弾させた。この時、インクジェットヘッドと基材間は、25℃±5℃、相対湿度50%±10%となるように実験を行なった。
【0085】
この時、毎秒5μmで柱状造形物が成長するのに合わせ、インクジェットヘッドを基材から毎秒5μmで離すことで、成長点からノズルまでの距離を一定になるようにして、安定な造形物を得るようにした。
【0086】
60秒間、液滴の数として600発を積層することで、図5(B)のように直径14μm、高さ300μmの円柱状の造形物が得られた。
【0087】
(実施例2)
液組成物としてインクB、基材としてスライドグラスを用い、インクジェットヘッドとの距離を400μmとした。その後、基材上に1Hzで比表面積が0.2m/gの液滴を同じ位置に着弾させた。この時、インクジェットヘッドと基材間は、25℃±5℃、相対湿度50%±10%となるように実験を行なった。
【0088】
毎秒0.2μmで柱状造形物が成長するのに合わせ、インクジェットヘッドを基材から毎秒0.2μmで離すことで、成長点からノズルまでの距離を一定になるようにして、安定な造形物を得るようにした。
【0089】
1200秒間、液滴の数として1200発を積層することで、図5(A)のように直径40μm、高さ約250μmの円柱状の造形物が得られた。
【0090】
(実施例3)
液組成物としてインクB、基材としてスライドグラスを用い、インクジェットヘッドとの距離を400μmとした。その後、基材上に10Hzで比表面積が0.3m/gの液滴を同じ位置に着弾させた。この時、インクジェットヘッドと基材間は、25℃±5℃、相対湿度50%±10%となるように実験を行なった。
【0091】
毎秒20μmで柱状造形物が成長するのに合わせ、インクジェットヘッドを基材から毎秒20μmで離すことで、成長点からノズルまでの距離を一定になるようにして、安定な造形物を得るようした。
【0092】
60秒間、液滴の数として600発を積層することで、図3のように直径24μm、高さ約500μmの円柱状造形物が得られた。積層の途中経過は図4に示した。
【0093】
(実施例4)
液組成物としてインクA、基材としてスライドグラスを用い、インクジェットヘッドとの距離を100μmとした。その後、更にインクジェットヘッドの液温を60℃に加温して、基材上に100Hzで比表面積が0.5m/gの液滴を同じ位置に着弾させた。この時、インクジェットヘッドと基材間は、25℃±5℃、相対湿度50%±10%となるように実験を行なった。
【0094】
毎秒50μmで柱状造形物が成長するのに合わせ、インクジェットヘッドを基材から毎秒50μmで離すことで、成長点からノズルまでの距離を一定になるようにして、安定な造形物を得るようにした。
【0095】
0.5秒間、液滴の数として500発を積層することで、直径15μm、高さ約200μmの円柱状造形物が得られた。
【0096】
(実施例5)
液組成物としてインクC、基材としてスライドグラスを用い、インクジェットヘッドとの距離を400μmとした。その後、基材上に10Hzで比表面積が0.3m/gの液滴を同じ位置に着弾させた。この時、インクジェットヘッドと基材間は、25℃±5℃、相対湿度50%±10%となるように実験を行なった。
【0097】
毎秒20μmで柱状造形物が成長するのに合わせ、インクジェットヘッドを基材から毎秒20μmで離すことで、成長点からノズルまでの距離を一定になるようにして、安定な造形物を得るようした。
【0098】
60秒間、液滴の数として600発を積層することで、直径25μm、高さ約450μmの円柱状造形物が得られた。
【0099】
(実施例6)
液組成物としてインクD、基材としてスライドグラスを用い、インクジェットヘッドとの距離を400μmとした。その後、基材上に10Hzで比表面積が0.3m/gの液滴を同じ位置に着弾させた。この時、インクジェットヘッドと基材間は、25℃±5℃、相対湿度50%±10%となるように実験を行なった。
【0100】
毎秒20μmで柱状造形物が成長するのに合わせ、インクジェットヘッドを基材から毎秒20μmで離すことで、成長点からノズルまでの距離を一定になるようにして、安定な造形物を得るようした。
【0101】
60秒間、液滴の数として600発を積層することで、直径24μm、高さ約420μmの円柱状造形物が得られた。
【0102】
(実施例7)
液組成物としてインクE、基材としてスライドグラスを用い、インクジェットヘッドとの距離を400μmとした。その後、基材上に10Hzで比表面積が0.3m/gの液滴を同じ位置に着弾させた。この時、インクジェットヘッドと基材間は、25℃±5℃、相対湿度50%±10%となるように実験を行なった。
【0103】
毎秒20μmで柱状造形物が成長するのに合わせ、インクジェットヘッドを基材から毎秒20μmで離すことで、成長点からノズルまでの距離を一定になるようにして、安定な造形物を得るようした。
【0104】
60秒間、液滴の数として600発を積層することで、直径24μm、高さ約400μmの円柱状造形物が得られた。
【0105】
(実施例8)
液組成物としてインクB、基材としてスライドグラスを用い、インクジェットヘッドとの距離を400μmとした。その後、基材上に10Hzで比表面積が0.3m/gの液滴を同じ位置に着弾させた。この時、インクジェットヘッドと基材間は、25℃±5℃、相対湿度50%±10%となるように実験を行なった。
【0106】
柱状構造物が成長するのに応じて、インクジェットヘッドを基材の距離を離すことで、成長点からノズルまでの距離を一定になるようにして、安定な造型を得るようにした。
【0107】
基材の乗った造型ステージを10秒で一周するように、半径40μmの円運動をさせたところ、スプリング状の構造物を得ることができた。
【0108】
(実施例9)
液組成物としてインクB、基材としてスライドグラスを用い、インクジェットヘッドとの距離を400μmとした。その後、基材上に10Hzで比表面積が0.3m/gの液滴を同じ位置に着弾させた。この時、インクジェットヘッドと基材間は、25℃±5℃、相対湿度50%±10%となるように実験を行なった。
【0109】
柱状構造物が成長するのに応じて、インクジェットヘッドを基材の距離を離すことで、成長点からノズルまでの距離を一定になるようにして、安定な造形物を得るようにした。
【0110】
その後、以下の通りに造型ステージを移動することで、図7のような造形物を得た。
【0111】
高さ100μmの柱状造形物を作った後、基材の乗ったステージを100μmピッチでX軸方向に移動させた。同様に100μmの柱造形物を作成し、造型ステージを移動させるという動作を繰り返し、4本の直径24μm、高さ100μmの柱群を作製した。
【0112】
続いて、柱の先端に液滴を着弾させた後、1滴毎に20μmずつX軸方向に基材を移動させて45°の角度で柱を伸ばした。更に隣の柱から逆方向に柱を伸ばし、結合させることで、アーチ構造を得た。この作業を繰り返すことで、図7のような架橋構造物を得た。
【0113】
(比較例1)
液組成物としてインクA、基材としてスライドグラスを用い、インクジェットヘッドとの距離を100μmとした。その後、基材上に10Hzで比表面積が0.15m/gの液滴を同じ位置に着弾させた。この時、インクジェットヘッドと基材間は、25℃±5℃、相対湿度50%±10%となるように実験を行なった。
【0114】
60秒間、液滴の数として600発を吐出したところ、柱状の造形物は得られず、半球状のインク液が基材上に残った。このインク液は、数十分後、十分乾燥すると厚みが1μm以下の円形のドットになる。
【0115】
(比較例2)
液組成物としてインクA、基材としてスライドグラスを用い、インクジェットヘッドとの距離を100μmとした。その後、基材上に300Hzで比表面積が0.5m/gの液滴を同じ位置に着弾させた。この時、インクジェットヘッド1と基材間は、25℃±5℃、相対湿度50%±10%となるように実験を行なった。
【0116】
2秒間、液滴の数として600発を吐出したところ、柱状の構造物は得られず、半球状のインク液が基材上に残った。
【0117】
このインク液は、数十分後、十分乾燥すると厚みが1μm以下の円形のドットになる。
【0118】
(比較例3)
液組成物としてインクA、基材としてスライドグラスを用い、インクジェットヘッドとの距離を100μmとした。その後、2秒間に一回(0.5Hz)、吐出パルスで比表面積が0.5m/gの液滴を吐出可能なインクジェットヘッドに送った。この時、インクジェットヘッドと基材間は、25℃±5℃、相対湿度50%±10%となるように実験を行なった。
【0119】
この条件下では、吐出方向が安定せず、或いは不吐出となり、造形物の作成が出来なかった。
【0120】
実施例及び比較例の実験結果を表1に示す。
【0121】
【表1】

【0122】
表1に示すように、実施例1〜実施例9は、基材上に、1Hz以上、100Hz以下の範囲で比表面積が0.2m/g以上0.5m/g以下の範囲の液滴を吐出して造形したので、柱状の造形物を造形することができた。一方、これらの要件を満たしていない比較例1〜比較例3は、造形物を造形することができなかった。
【0123】
なお、基材には、特に撥水処理等を行なう必要は無い。かりに撥水処理を行なったとしても、2層目(2滴目)以降は、1層目(着弾した1滴目)に対する濡れ性で直径が決まってくるので、意味が無いからである。本発明において、柱構造物の径は、吐出される液滴の比表面積と吐出周波数及び温度と湿度などの積層時の環境に依存する。
【符号の説明】
【0124】
1 造形装置、2 支持台、3 液体、4 液体吐出ヘッド、5 対象物、6 造形ステージ、7 Z軸移動部、8 X軸移動部、9 Y軸移動部、12 立体造形物、12a 柱、22a ヒータ、22b 加温用ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する液体吐出部のノズルから液滴を対象物に吐出して立体造形物を造形する立体造形物の造形方法において、
上記液体は、水と、上記水に溶解又は分散する着色剤とを含有し、
上記液体が単独の液滴として飛翔したとき、理想的な真球として近似した当該液滴の質量当りの比表面積が0.2m/g以上、0.5m/g以下である液滴を、上記対象物上に1Hz以上、100Hz以下で連続的に吐出し、
上記液滴を上記対象物上に積層して、上記液滴の吐出軸と同方向に伸びる立体造形物を造形する立体造形物の造形方法。
【請求項2】
上記対象物に着弾した上記液滴の直径以下の量の範囲で着弾位置をずらして上記液滴を積層することによって、上記液滴の吐出軸に対し、90度以下の角度で斜め又は真横に伸びる立体造形物を造形する請求項1記載の立体造形物の造形方法。
【請求項3】
上記液体には、上記着色剤の濃度以下の量で保湿剤が添加されている請求項1又は請求項2記載の立体造形物の造形方法。
【請求項4】
上記液体吐出部に充填されている液体を加温する請求項1乃至請求項3の何れか1項記載の造形方法。
【請求項5】
液体の液滴を吐出するノズルを有する液体吐出部と、
上記液滴が着弾する対象物が載置される造形ステージと、
上記液体吐出部及び/又は上記造形ステージを上記液滴の吐出軸と同方向のZ軸方向に移動させるZ軸移動部とを有し、
上記液体吐出部は、水と、上記水に溶解又は分散する着色剤とを含有した液体が単独の液滴として飛翔したとき、理想的な真球として近似した当該液滴の質量当りの比表面積が0.2m/g以上、0.5m/g以下である液滴を、上記対象物上に1Hz以上、100Hz以下で連続的に吐出し、上記液滴を積層しながら、上記Z軸移動部で上記液体吐出部及び/又は上記造形ステージを上記Z軸方向に移動させることで、上記Z軸方向に伸びる立体造形物を造形する造形装置。
【請求項6】
更に、上記液体吐出部及び/又は造形ステージを上記Z軸と直交する面内のX軸方向に移動させるX軸移動部と、Y軸方向に移動させるY軸移動部とを有し、
上記X軸移動部及び/又は上記Y軸移動部が、上記液体吐出部及び/又は上記造形ステージを上記Z軸と略直交する面内を移動させて、上記対象物に着弾した上記液滴の直径以下の量の範囲で着弾位置をずらして上記液滴を積層することによって、上記Z軸方向に対し、90度以下の角度で斜め又は真横に伸びる立体造形物を造形する請求項5記載の造形装置。
【請求項7】
上記液体吐出部と上記造形ステージとの間の温湿度を測定する測定部と、湿度及び温度を制御する制御部とを有する請求項5又は請求項6記載の造形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−101834(P2011−101834A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257008(P2009−257008)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】