説明

端子付電線、該端子付電線を用いたコネクタおよび前記端子付電線の製造方法

【課題】導体を伝ってコネクタ内に水が浸入するのを防ぐ止水処理を、コネクタ端子の形状や大きさに制約を受けることなく、簡単かつ確実に行う。
【解決手段】本発明の端子付電線は、導体およびその外側を被覆する絶縁材を有し、端末で導体が露出してなる電線と、電線の端部に設けられたシール栓と、シール栓から導出された電線の導体の端部に接続されたコネクタ端子と、絶縁材の端末をふさぐ止水剤とを備えている。とくに、シール栓は、電線の絶縁材の外周面に密着可能な内周面を有する筒状の電線密着部と、コネクタ端子側先端に、電線密着部よりも大きな内径を有し、かつ、絶縁材の端末を径方向外側から覆う形状を有する止水剤溜め部とを有し、止水剤は、絶縁材の端末をふさぐように止水剤溜め部分内に充填される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子付電線、該端子付電線を用いたコネクタおよび前記端子付電線の製造方法に関する。さらに詳しくは、電線と、シール栓と、コネクタ端子とを有し、電線の内部を伝って水がコネクタ内に浸入するのを防止するための止水剤が充填されている端子付電線、該端子付電線を用いたコネクタおよび前記端子付電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図7に示されるような防水コネクタが一般的に知られている。この防水コネクタは、電線4の端部に設けられるシール栓20および図略のコネクタ端子とコネクタハウジング6とを備える。シール栓20がコネクタハウジング6の差込口6aの内側表面に圧接されることにより、シール栓20は、コネクタハウジング6を密栓し、電線4の外側表面を伝ってくる水がコネクタ内部へ浸入するのを防ぐ。
【0003】
しかしながら、図7の防水コネクタでは、電線4の外側表面を伝ってくる水が、コネクタ内部へ浸入することを防ぐことはできても、電線4の内部の導体を伝ってコネクタ内部に浸入する水までをも防ぐことはできない。たとえば、電線4の被覆材に傷などが発生した場合には、その傷から雨水などが電線4内部に浸入し、さらに、電線4内の導体を伝ってコネクタ内部に水が浸入してしまう。
【0004】
このような問題を解決するために、特許文献1には、電線4の内部からコネクタ内部に水が浸入するのを防止するための防水コネクタの端末処理構造が開示されている。このなかで、樹脂中に金属粉を分散させた止水剤が、コネクタ端子の所定の位置に、あらかじめ塗布されたコネクタ端子が開示されている。止水剤は、ちょうど、導体がかしめ付けられる位置であって、被覆材の末端部が配置される位置に塗布されている。
【特許文献1】特開平6−349542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、コネクタ端子の形状や大きさ(とくに、コネクタ端子が小さい場合)によっては、止水剤を定められた位置に所定の量だけ充填することができない。また、止水剤に対しては、金属粉を所定量含有させる必要があり、コネクタ端子の製造に工数の増加を伴ってしまう。さらに、コネクタ端子を導体に固定する際のかしめ方によっては、止水剤で被覆材の末端部を確実にシールできないことがある。
【0006】
本発明は、上記従来の問題に鑑みたもので、導体を伝ってコネクタ内に水が浸入するのを防ぐ止水処理を、コネクタ端子の形状や大きさに制約を受けることなく、簡単かつ確実に行うことができる端子付電線、該端子付電線を用いたコネクタおよび前記端子付電線の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の端子付電線は、コネクタハウジングに設けられる差込口に挿入される端子付電線であって、導体およびその外側を被覆する絶縁材を有し、端末で導体が露出してなる電線と、前記電線の端部に設けられ、前記差込口を囲むコネクタハウジングの内周面に密着可能なシール栓と、前記シール栓から導出された前記電線の導体の端部に接続されたコネクタ端子と、前記電線の絶縁材の内側に浸入した水が前記コネクタ端子側に伝わるのを防ぐために、前記絶縁材の端末をふさぐ止水剤とを備えてなる端子付電線であって、前記シール栓は、前記電線の絶縁材の外周面に密着可能な内周面を有する筒状の電線密着部と、前記コネクタ端子側先端に、前記電線密着部よりも大きな内径を有し、かつ、前記絶縁材の端末を径方向外側から覆う形状を有する止水剤溜め部とを有し、前記止水剤は、前記絶縁材の端末をふさぐように前記止水剤溜め部内に充填されることにより上記目的が達成される。
【0008】
また、前記シール栓は、弾性材により形成され、前記シール栓の電線密着部の外周に、全周にわたって前記コネクタハウジングの内周面に密着可能な突条が形成されていることが好ましい。
【0009】
さらに、本発明のコネクタは、前記端子付電線を用いた防水コネクタであって、前記端子付電線の端末を内部に収容するためのコネクタハウジングを有し、このコネクタハウジングは、前記端子付電線の端末が挿入可能な差込口を有し、前記端子付電線の端末は、そのシール栓の外周面が前記差込口を囲む前記コネクタハウジングの内周面に密着するように前記差込口内に挿入されることにより上記目的が達成される。
【0010】
さらに、本発明の端子付電線の製造方法は、導体およびその外側を被覆する絶縁材を有し、端末で導体が露出してなる電線と、前記電線の端部に設けられたシール栓と、前記シール栓から導出された前記電線の導体の端部に接続されたコネクタ端子と、前記電線の絶縁材の内側に浸入した水が前記コネクタ端子側に伝わるのを防ぐために、前記絶縁材の端末をふさぐ止水剤とを備え、コネクタハウジングに設けられる差込口に挿入される端子付電線の製造方法であって、前記電線の絶縁材の外周面に密着可能な内周面を有する筒状の電線密着部と、前記コネクタ端子側先端に、前記電線密着部に形成された孔と連通し、前記電線密着部よりも大きな内径を有し、かつ、前記絶縁材の端末を径方向外側から覆う形状を有する止水剤溜め部とを有し、前記止水剤が、前記絶縁材の端末をふさぐように前記止水剤溜め部内に充填されるシール栓を形成するシール栓形成工程と、前記電線を、前記シール栓の貫通孔に挿通するシール栓装着工程と、前記コネクタ端子を前記電線の端末に固定する端子固定工程と、前記電線の前記シール栓および前記コネクタ端子が装着された側の端部を上方へ向けて、前記シール栓の止水剤溜め部によって形成された空間に、止水剤を供給する止水剤供給工程とを含むことにより上記目的が達成される。
【0011】
また、前記止水剤供給工程の後に、前記止水剤溜め部内で前記止水剤を硬化させる止水剤硬化工程を含むことが好ましい。
【0012】
また、前記止水剤供給工程で用いられる止水剤の初期粘度が、0.06〜6.0Pa・sであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の請求項1の端子付電線によれば、シール栓が、電線の絶縁材の外周面に密着可能な内周面を有する筒状の電線密着部と、コネクタ端子側先端に、電線密着部よりも大きな内径を有し、かつ、前記絶縁材の端末を径方向外側から覆う形状を有する止水剤溜め部とを有することにより、コネクタ端子の大きさや形状に制約を受けず、止水剤を止水剤溜め部の内部に入れるだけで、簡単かつ確実に絶縁材の端末部分に止水処理を施すことができる。
【0014】
また、請求項2の端子付電線によれば、シール栓が、弾性材により形成され、シール栓の電線密着部の外周に、全周にわたってコネクタハウジングの内周面に密着可能な突条が形成されていることにより、コネクタハウジングに接続した際にコネクタハウジングを密栓することができる。
【0015】
また、請求項3のコネクタによれば、端子付電線の端末を、シール栓の外周面が差込口を囲むコネクタハウジングの内周面に密着するように差込口内に挿入することにより、シール栓がコネクタハウジングを密栓して、電線の外側を伝ってコネクタハウジング内部に水が浸入するのを防止することができる。
【0016】
また、請求項4の端子付電線の製造方法によれば、止水剤供給工程において、電線のシール栓およびコネクタ端子が装着された側の端部を上方へ向けて、シール栓の止水剤溜め部によって形成された空間に、止水剤を供給する。これにより、止水剤溜め部の開口が上方を向くので、止水剤を供給しやすくなる。
【0017】
また、請求項5の端子付電線の製造方法によれば、止水剤を硬化させる止水剤硬化促進工程を含むことにより、止水剤が止水剤溜め部の内部から漏れ出すのを防止できる。
【0018】
また、請求項6の端子付電線の製造方法によれば、止水剤供給工程で用いられる止水剤として、比較的低い粘度の止水剤を使用することもできる。流動性の高い止水剤の使用によって、止水剤を導体の間に充分に行き届かせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の端子付電線は、導体およびその外側を被覆する絶縁材を有し、端末で導体が露出してなる電線と、電線の端部に設けられたシール栓と、シール栓から導出された電線の導体の端部に接続されたコネクタ端子と、電線の絶縁材の内側に浸入した水がコネクタ端子側に伝わるのを防ぐために、絶縁材の端末をふさぐ止水剤とを備えている。とくに、シール栓は、電線の絶縁材の外周面に密着可能な内周面を有する筒状の電線密着部と、コネクタ端子側先端に、電線密着部よりも大きな内径を有し、かつ、絶縁材の端末を径方向外側から覆う形状を有する止水剤溜め部とを有する。そして、止水剤は、絶縁材の端末をふさぐように止水剤溜め部内に充填される。すなわち、本発明は、電線内部の導体を伝ってコネクタ内部に水が浸入するのを防止するための止水処理を簡単かつ確実に行うために、シール栓の形状に工夫を施したものである。
【0020】
ここで、本明細書中において、コネクタは、コネクタハウジング、コネクタ端子、シール栓および電線を含むものとする。
【0021】
以下で、本発明の端子付電線、該端子付電線を用いたコネクタおよび前記端子付電線の製造方法について、図面を用いて詳細に説明する。
【0022】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1の端子付電線100のコネクタ側端末が、コネクタハウジング6に接続される様子を説明するための斜視図である。図1に示されるように、端子付電線100のコネクタ側端末は、たとえば、ECU(electronic control unit)7に設けられたコネクタハウジング6の差込口6aに嵌入される。コネクタハウジング6を介して、ECU7と端子付電線100とが接続される。
【0023】
図2は、実施の形態1の端子付電線100を説明するための図であり、(a)は端子付電線100の平面図、(b)は端子付電線100の側面図である。実施の形態1の端子付電線100は、図2に示されるように、端末で導体41が露出している電線4と、電線4の端部に設けられるシール栓2と、シール栓2から導出された電線4の導体41の端部に接続されたコネクタ端子3と、電線4の絶縁材の内側に浸入した水がコネクタ端子3側に伝わるのを防ぐために、絶縁材42の端末をふさぐ止水剤Aとから構成されている。
【0024】
電線4は、導電性材料からなる導体41と、導体41の外側を被覆する絶縁性を有する被覆材42(絶縁材)とから構成されている。電線4の両端では、導体41が露出するように、被覆材42が取り除かれている。この導体41が露出している部分に後述のコネクタ端子3が圧着されることにより、電気的に接続される。
【0025】
図3は、実施の形態1の端子付電線100のコネクタ側端末に設けられるシール栓2を説明するための断面図である。シール栓2は、図3に示されるように、中心に貫通孔(後述の電線挿通孔22aおよび該電線挿通孔22aに連通する止水剤溜め空間21a)が形成された部材である。シール栓2は、電線4に密着状態で装着される電線密着部22と、電線密着部22の一方の端に設けられ、止水処理が施される部分である止水剤溜め部21とから構成されている。
【0026】
電線密着部22は、コネクタ端子3の一部が巻きつけられる部分であるバレル巻着部22bと、コネクタハウジング6に端子付電線100を接続した際に、コネクタハウジング6内部に電線4の外側表面を伝って水が浸入するのを防ぐためのシール部22cとから構成されている。シール部22cには、2つのシール用突条22d(突条)が形成されている。シール用突条22dは、シール部22cの外周全周にわたって凸状に形成されている。シール用突条22dの表面は、コネクタハウジング6の差込口6a内に端子付電線100のコネクタ側端末を挿入したときに、差込口6aの内側面(コネクタハウジング6の内周面)に圧接して、コネクタハウジング内部を密栓する。したがって、、シール栓2のシール用突条22dの部分の外径は、コネクタハウジング6の内径よりも僅かに大きい。また、電線密着部22の中央には、電線4を挿通させるための電線挿通孔22aが形成されている。電線密着部22は、その内周面が前記電線挿通孔22aに挿通される電線4の外周面に密着するような内径を有する。
【0027】
止水剤溜め部21は、電線密着部22と一体に形成されている。止水剤溜め部21は、電線密着部22のコネクタ端子側先端に形成されており、電線密着部22よりも大きな内径を有し、かつ、被覆材42の端末を径方向外側から覆う形状を有する。具体的には、電線装着部22の内径が徐々に拡大する形状、換言すれば、電線装着部22の端部から離れるにしたがって、電線4の外周面から径方向に離れる形状を呈している。すなわち、止水剤溜め部21によって、電線密着部22に形成された電線挿通孔22aに連通するとともに、電線挿通孔22aの内径より徐々に拡幅した止水剤溜め空間21aが設けられる。止水剤溜め空間21aは、電線密着部22から離れる方向へむけて広がるように開口している。本発明では、シール栓2に止水剤溜め空間21aが形成されていることにより、端子の大きさが小さい場合であっても、止水剤Aの充填位置を特定しやすいので、止水剤の充填作業を容易に行うことができる。
【0028】
また、シール栓2の材質としては、コネクタハウジング6の差込口6aに挿入した際に、変形できる程度の適度な弾性を有する材質であれば、とくに限定されない。
【0029】
シール栓2は、金型などを用いて成型することができるので、止水剤溜め部21を設けたとしても、シール栓2の製造に工数の増化を伴わない。
【0030】
コネクタ端子3は、端子付電線100の先端に設けられている。コネクタ端子3は、シール栓2および電線4の導体41に圧着される。コネクタ端子3は、導電性金属平板を所定の形状に打ち抜いて、その一部をシール栓2の外周と電線4の導体41の外周とに巻きつけたものである。コネクタ端子3は、電気的接触部分となるコネクタ接続部31と、導体41の外周に巻きつけられる導体バレル32と、シール栓2のバレル巻着部22bに巻きつけられるインシュレーションバレル33とを有する。
【0031】
また、実施の形態1の端子付電線100は、被覆材42の末端部であって、コネクタ端子3側先端に形成されたシール栓2の止水剤溜め空間21aの内部に止水剤Aが充填されている(図4参照)。この止水剤Aは、電線4の内部を伝ってくる水が、コネクタ内部に浸入するのを防止する。
【0032】
止水剤Aとしては、供給時に流動性を有し、使用時には適度な柔軟性を有するものであれば、とくに限定されるものではないが、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、グリース、その他粘性および弾性を有する接着剤を用いることができる。なかでも、撥水性、耐久性に優れるという理由からシリコーン樹脂を用いることが好ましい。
【0033】
止水剤Aの初期粘度は、0.06〜6.0Pa・sが好ましく、0.6〜3.0Pa・sがより好ましい。止水剤Aの初期粘度が、0.06Pa・s未満であると、素線間を伝い流れ出してしまう傾向がある。また、止水剤Aの初期粘度が、6.0Pa・sを超えると、素線間に隙間なく満たされない傾向がある。とくに、本発明では、シール栓2に止水剤Aを溜めるための空間が形成されているので、従来より低い粘度の止水剤Aを使用することができる。流動性の高い止水剤Aの使用によって、止水剤Aを電線4の内部に充分に行き渡らせることができる。
【0034】
図4は、実施の形態1の端子付電線100のコネクタ側端末が、コネクタハウジング6に接続された状態を説明するための断面図である。図4に示されるように、コネクタ側端末がコネクタハウジング6に形成された差込口6aに挿入されると、シール栓2に形成された突条23は、差込口6aの内周に全周にわたって密着する。これにより、コネクタハウジング6の内部は密栓され、電線の外側からコネクタハウジング6の内部に水が浸入するのを防止する。さらに、電線4の内部を伝ってくる水は、止水剤溜め部21の内部に充填された止水剤Aによって防水される。
【0035】
上記構成により、本実施の形態1の端子付電線100の製造方法を以下で詳細に説明する。
【0036】
端子付電線100の製造方法には、電線密着部22と止水剤溜め部21とが一体に形成されたシール栓2を形成するためのシール栓形成工程と、電線4をシール栓2の貫通孔に挿通するシール栓装着工程と、コネクタ端子3を電線4の端末に固定する端子固定工程と、電線4のシール栓2およびコネクタ端子3が装着された側の端部を上方へ向けて、止水剤溜め部21内に止水剤Aを供給する止水剤供給工程と、止水剤溜め部21内で止水剤Aを硬化させる止水剤硬化工程とが含まれる。
【0037】
1)シール栓形成工程
シール栓形成工程では、電線密着部22と、止水剤溜め部21とが一体に形成することができるような金型を用いてシール栓2を成型する。
【0038】
2)シール栓装着工程
シール栓装着工程では、電線4をシール栓2に形成された貫通孔に挿通する。まず、電線4の先端をシール栓2の電線挿通孔22aの側から挿入する。つぎに、電線4の先端であって、導体4が露出した部分をシール栓2の止水剤溜め空間21aの側から導出する。とくに、この工程では、被覆材41の末端部が、シール栓2の止水剤溜め空間21aの内部に収まるようにシール栓2を電線4に装着する。
【0039】
3)端子固定工程
端子固定工程では、シール栓装着工程で一体となった電線4とシール栓2にコネクタ端子3を圧着固定する。具体的には、導体バレル32をかしめ付けることで導体4を圧着し、インシュレーションバレル33をかしめ付けることでシール栓2のバレル巻着部22bを圧着する。
【0040】
4)止水剤供給工程
前記各工程により完成された端子付電線100に対して止水剤Aを供給する。図5は、実施の形態1の端子付電線100のコネクタ側端末に止水処理を施す工程を説明するための断面図であり、コネクタ側端末の先端を上方へ向けて、ディスペンサDにより止水剤Aを滴下している状態である。また、図6は、シール栓2の止水剤溜め空間21aに止水剤Aが溜められた状態を示している。まず、図5に示されるように、シール栓2およびコネクタ端子3が装着された側の端部を上方へ向ける。これにより、シール栓2の止水剤溜め空間21aが上方へ向けて開口した状態になり、止水剤Aを供給しやすくなる。この状態で、ディスペンサDの注入口先端を止水剤溜め空間21aに向ける。ディスペンサDは、図示せぬポンプなどからの圧力を受けて、ディスペンサDの内部に貯留された止水剤Aを所定量滴下する。止水剤溜め部21および止水剤溜め空間21aは、ちょうど、ディスペンサDから滴下される止水剤Aの受け皿のように機能する。したがって、止水剤溜め空間21aにコネクタ内部をシールするために必要な量の止水剤Aを、過不足なく容易に充填することができる(図6参照)。また、充填された止水剤Aは、止水剤Aの自重により下方へ移動し、電線4内で充分に行き届く。本発明では、止水剤Aを滴下する際に、シール栓2の止水剤溜め空間21aを上方へ向けている。したがって、電線4の他端から吸引などを行わなくてもよい。このようにして、止水剤Aは、被覆材42の端末をふさぐように止水剤溜め部21内に充填される。
【0041】
5)止水剤硬化工程
この止水剤硬化工程では、止水剤供給工程において供給した止水剤Aを強制的に硬化させる。なお、止水剤を硬化させる方法については、止水剤Aの種類にもよるが、たとえば、止水剤Aに所定の照度の光を所定時間照射して硬化させてもよいし、滴下した止水剤Aを加熱して硬化させてもよし、2種の止水剤を混合して硬化させてもよい。止水剤Aを硬化させることにより、止水剤Aが止水剤溜め部21の内部(止水剤溜め空間21a)から漏れ出すのを防止することができる。とくに、止水剤Aとして、初期粘度が低いものを使用する場合には、止水剤Aを強制的に硬化させて、止水剤Aが止水剤溜め空間21aから漏れ出すのを防止する。
【0042】
ただし、上記実施の形態では、端子付電線100の製造方法において、止水剤Aを強制的に硬化させる場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、止水剤として、自然に硬化するタイプのものを用いて、止水剤を自然に硬化させてもよい。
【0043】
以上のように、実施の形態1の端子付電線100によれば、シール栓2のコネクタ端子側先端に、止水剤溜め空間21aが形成された止水剤溜め部21を設けることにより、コネクタ端子の大きさや形状に制約を受けず、止水剤を止水剤溜め部の内部に入れるだけで、簡単かつ確実に絶縁材の端末部分に止水処理を施すことができる。とくに、コネクタ端子3が小さい場合であっても、コネクタ端子3とシール栓2との間に止水剤Aを充填する際に、電線4の末端部をシールするために必要な量の止水剤Aを過不足なく容易に充填することができる。また、止水剤Aを浸透させるための減圧工程などを必要とせず、製造工程の削減を図ることができる。また、既存のコネクタ端子3、コネクタハウジング6をそのまま用いることもできる。
【実施例1】
【0044】
上記の方法により、以下に示す条件で止水処理を実施した。
【0045】
止水剤…スリーボンド社製、TB−3161(紫外線硬化型シリコーン樹脂)
電線断面積…0.5mm
端子…TS025防水
シール栓…電線密着部22と一体に止水剤溜め部21が形成されたシール栓2
端子固定工程後、電線のコネクタ端子が装着された側を上へ向け、シール栓の止水剤溜め空間に止水剤を滴下した。その後、滴下した止水剤に対して、紫外線を1W/cmの照度で10秒間照射した。
【0046】
上記の条件で止水処理を行った後、コネクタ側端末を水槽に浸漬した状態で、コネクタ端子が装着された側の反対側から空気を供給したところ、水槽内に気泡は発生せず、空気漏れのないことを確認することができた。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施の形態1の端子付電線のコネクタ側端末が、コネクタハウジングに接続される様子を説明するための斜視図である。
【図2】実施の形態1の端子付電線を説明するための図であり、(a)は端子付電線の平面図、(b)は端子付電線の側面図である。
【図3】実施の形態1の端子付電線のコネクタ側端末に設けられるシール栓を説明するための断面図である。
【図4】実施の形態1の端子付電線のコネクタ側端末が、コネクタハウジングに接続された状態を説明するための断面図である。
【図5】実施の形態1の端子付電線のコネクタ側端末に止水処理を施す工程を説明するための断面図であり、コネクタ側端末の先端を上方へ向けて、ディスペンサにより止水剤を滴下している状態である。
【図6】実施の形態1の端子付電線のコネクタ側端末に止水処理を施す工程を説明するための断面図であり、シール栓の止水剤溜め空間に止水剤が溜められた状態を示している。
【図7】従来の端子付電線のコネクタ側端末が、コネクタハウジングに接続された状態を説明するための図である。
【符号の説明】
【0048】
100 端子付電線
110 コネクタ
2 シール栓
21 止水剤溜め部
21a 止水剤溜め空間
22 電線密着部
22a 電線挿通孔
22d シール用突条(突条)
3 コネクタ端子
4 電線
41 導体
42 被覆材(絶縁材)
6 コネクタハウジング
A 止水剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コネクタハウジングに設けられる差込口に挿入される端子付電線であって、
導体およびその外側を被覆する絶縁材を有し、端末で導体が露出してなる電線と、
前記電線の端部に設けられ、前記差込口を囲むコネクタハウジングの内周面に密着可能なシール栓と、
前記シール栓から導出された前記電線の導体の端部に接続されたコネクタ端子と、
前記電線の絶縁材の内側に浸入した水が前記コネクタ端子側に伝わるのを防ぐために、前記絶縁材の端末をふさぐ止水剤とを備えてなる端子付電線であって、
前記シール栓は、
前記電線の絶縁材の外周面に密着可能な内周面を有する筒状の電線密着部と、
前記コネクタ端子側先端に、前記電線密着部よりも大きな内径を有し、かつ、前記絶縁材の端末を径方向外側から覆う形状を有する止水剤溜め部とを有し、前記止水剤は、前記絶縁材の端末をふさぐように前記止水剤溜め部内に充填されることを特徴とする端子付電線。
【請求項2】
前記シール栓は、弾性材により形成され、
前記シール栓の電線密着部の外周に、全周にわたって前記コネクタハウジングの内周面に密着可能な突条が形成されていることを特徴とする請求項1記載の端子付電線。
【請求項3】
請求項1または2記載の端子付電線を用いた防水コネクタであって、
前記端子付電線の端末を内部に収容するためのコネクタハウジングを有し、
このコネクタハウジングは、前記端子付電線の端末が挿入可能な差込口を有し、前記端子付電線の端末は、そのシール栓の外周面が前記差込口を囲む前記コネクタハウジングの内周面に密着するように前記差込口内に挿入されることを特徴とするコネクタ。
【請求項4】
導体およびその外側を被覆する絶縁材を有し、端末で導体が露出してなる電線と、
前記電線の端部に設けられ、前記差込口を囲むコネクタハウジングの内周面に密着可能なシール栓と、前記シール栓から導出された前記電線の導体の端部に接続されたコネクタ端子と、前記電線の絶縁材の内側に浸入した水が前記コネクタ端子側に伝わるのを防ぐために、前記絶縁材の端末をふさぐ止水剤とを備え、コネクタハウジングに設けられる差込口に挿入される端子付電線の製造方法であって、前記電線の絶縁材の外周面に密着可能な内周面を有する筒状の電線密着部と、前記コネクタ端子側先端に、前記電線密着部に形成された孔と連通し、前記電線密着部よりも大きな内径を有し、かつ、前記絶縁材の端末を径方向外側から覆う形状を有する止水剤溜め部とを有し、前記止水剤が、前記絶縁材の端末をふさぐように前記止水剤溜め部内に充填されるシール栓を形成するシール栓形成工程と、
前記電線を、前記シール栓の貫通孔に挿通するシール栓装着工程と、
前記コネクタ端子を前記電線の端末に固定する端子固定工程と、
前記電線の前記シール栓および前記コネクタ端子が装着された側の端部を上方へ向けて、前記シール栓の止水剤溜め部によって形成された空間に、止水剤を供給する止水剤供給工程とを含む端子付電線の製造方法。
【請求項5】
前記止水剤供給工程の後に、前記止水剤溜め部内で前記止水剤を硬化させる止水剤硬化工程を含む請求項4記載の端子付電線の製造方法。
【請求項6】
前記止水剤供給工程で用いられる止水剤の初期粘度が、0.06〜6.0Pa・sであることを特徴とする請求項4または5記載の端子付電線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−282673(P2008−282673A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125880(P2007−125880)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】