説明

等価光幕輝度測定装置、トンネル照明システム及び情報表示システム

【課題】高輝度物体の影響を受けずに等価光幕輝度を測定可能にする。
【解決手段】視認対象を撮影した撮影画像20の撮影画像データに対し、前記撮影画像を構成する各画素の階調値Gに基づいて前記画素ごとの輝度値Lbを示す輝度分布データを生成し、前記輝度分布データに基づいて、前記視認対象の等価光幕輝度Leqを算出する等価光幕輝度測定装置3において、前記撮影画像に含まれる高輝度物体のみの等価光幕輝度Leq2を、前記輝度分布データに基づいて算出する高輝度物体等価光幕輝度算出部11と、前記撮影画像から前記高輝度物体を除いた全体の等価光幕輝度Leq1を、前記輝度分布データに基づいて算出する非高輝度物体等価光幕輝度算出部10と、それぞれの等価光幕輝度Leq1及びLeq2を合算し、前記視認対象の等価光幕輝度Leqを算出する合算部12とを備える構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両を運転する運転者の目の順応状態を定量化する等価光幕輝度の測定技術、当該等価光幕輝度の測定技術を用いた照明技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、照明技術への等価光幕輝度の応用が提案されている。光幕輝度とは、霧や煙により生じた光の散乱によって大気中に発生した光の幕(光幕)の輝度を指し、光幕が存在すると、光幕の背後にある対象物の輝度の輝度対比が低下し視認しづらくなる。眼球においても、光の散乱による光幕が発生しているが、眼球内の光幕輝度を直接測定できないため、眼球と対象物との間に仮想的な光幕を設け、その光幕輝度を、実際の眼球内で生じる光幕輝度と等価な作用をもつ輝度として表したものが等価光幕輝度である。
【0003】
この等価光幕輝度は、車両を運転する運転者の目の順応状態を近似的に示すとの報告がされている。近年では、トンネルの入口照明の調光制御において、トンネル坑口の等価光幕輝度を実測し、この等価光幕輝度に応じてトンネルの入口照明の調光制御を行うことにより、トンネルに進入してくる運転者の目の順応状態に合わせた調光を行う技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、明るさが可変自在な照明装置において、建物内に置かれた表示装置の表示画像の見えやすさに応じて、上記照明装置の明るさを制御するために、表示画像の見えやすさを左右する光環境を、等価光幕輝度を用いて定量化する技術も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
通常、上記等価光幕輝度は、グレアレンズを装着した等価光幕輝度計を用いて測定されるものの、グレアレンズを装着した等価光幕輝度計は一般に高価であり、各地のトンネル坑口に等価光幕輝度計を設置すると非常に膨大なコストを要する。上記特許文献1には、トンネル坑口を撮影した画像データから、輝度分布データを画像処理によって抜き出し、等価光幕輝度を算出する技術が示されており、この技術を用いることで、等価光幕輝度を比較的に安価に測定できる。
【0005】
【特許文献1】特開2004−87215号公報
【特許文献2】特開平7−146670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、輝度分布データに基づいて算出された等価光幕輝度は、撮影画像内に例えば太陽等の高輝度な物体が写っていると精度のよい等価光膜輝度を測定することができなくなる、といった問題がある。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、高輝度物体の影響を受けずに等価光幕輝度を測定可能な等価光幕輝度測定装置、この等価光幕輝度測定装置を用いて調光制御を行うトンネル照明システム、及び、情報表示システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、視認対象を撮影した撮影画像の撮影画像データに対し、前記撮影画像を構成する各画素の階調値に基づいて前記画素ごとの輝度値を示す輝度分布データを生成し、前記輝度分布データに基づいて、前記視認対象の等価光幕輝度を算出する等価光幕輝度測定装置において、前記撮影画像に含まれる高輝度物体のみの等価光幕輝度を、前記輝度分布データに基づいて算出する高輝度物体等価光幕輝度算出部と、前記高輝度物体を除いた前記撮影画像の全体の等価光幕輝度を、前記輝度分布データに基づいて算出する非高輝度物体等価光幕輝度算出部と、前記高輝度物体のみの等価光幕輝度、及び、前記高輝度物体を除いた前記撮影画像の全体の等価光幕輝度を合算し、前記視認対象の等価光幕輝度を算出する合算部とを備えることを特徴とする。
【0008】
また本発明は、上記発明において、前記撮影画像データの各画素の階調値に基づいて前記画素ごとの輝度値を算出し、前記輝度分布データを生成する輝度分布算出部を更に備え、前記撮影画像は、光量調整用のレンズフィルタが装着された撮影装置により撮影され、前記輝度分布算出部は、前記輝度分布データを生成する際に、前記レンズフィルタの透過率に基づいて前記画素ごとの輝度値を補正することを特徴とする。
【0009】
上記発明において、前記全体等価光幕輝度算出部は、前記輝度分布データにより示される各画素の輝度値Lb、前記撮影画像の中心に対する各画素の鉛直角θ、前記画素ごとの立体角Δω、及び、前記撮影画像の対角画角πに基づいて、次式(1)により前記撮影画像から高輝度物体を除いた全体の等価光幕輝度Leq1を算出すると共に、前記高輝度物体等価光幕輝度算出部は、前記輝度分布データにより示される各画素の輝度値Lbに基づいて、前記高輝度物体を含む画素を特定し、前記撮影画像の中心の画素から前記高輝度物体の画素までの鉛直角θa、及び、前記高輝度物体の画素の立体角Δωaに基づいて、次式(2)により前記高輝度物体のみの等価光幕輝度Leq2を算出する構成としても良い。
【数1】

【数2】

但し、αは高輝度物体に応じて決定される定数
なお、上記式(1)及び式(2)のそれぞれに含まれる各定数は、発明者の実験によって求められた値であり、実験条件が異なればその値も変わる。
【0010】
また上記目的を達成するために、本発明は、トンネル内に設けられた複数のトンネル照明器具と、トンネル坑口及びその近傍を撮影する撮影装置と、前記撮影装置によって撮影された撮影画像を構成する各画素の階調値に基づいて前記画素ごとの輝度値を示す輝度分布データを生成し、前記輝度分布データに基づいて、前記トンネル坑口の等価光幕輝度を算出する等価光幕輝度測定装置と、前記トンネル照明器具のうち、トンネル入口側に配置された複数のトンネル照明器具を、前記等価光幕輝度測定装置により測定された等価光幕輝度に基づいて調光制御する調光装置とを備え、前記等価光幕輝度測定装置は、前記撮影画像に含まれる高輝度物体のみの等価光幕輝度を、前記輝度分布データに基づいて算出する高輝度物体等価光幕輝度算出部と、前記高輝度物体を除いた前記撮影画像の全体の等価光幕輝度を、前記輝度分布データに基づいて算出する非高輝度物体等価光幕輝度算出部と、前記高輝度物体のみの等価光幕輝度、及び、前記高輝度物体を除いた前記撮影画像の全体の等価光幕輝度を合算し、前記視認対象の等価光幕輝度を算出する合算部とを有し、前記調光装置は、前記等価光幕輝度に基づいて前記トンネル入口側に配置された複数のトンネル照明器具の各々を調光することを特徴とするトンネル照明システムを提供する。
【0011】
また本発明は、上記発明において、前記調光装置は、所定の輝度と前記等価光幕輝度とのそれぞれの大きさの比に応じて多段階に調光を行うことを特徴とする。
【0012】
また上記目的を達成するために、本発明は、表示の明るさを調整可能な内照式又は自発光式の情報表示板と、前記情報表示板を撮影する撮影装置と、前記撮影装置によって撮影された撮影画像を構成する各画素の階調値に基づいて前記画素ごとの輝度値を示す輝度分布データを生成し、前記輝度分布データに基づいて、前記照明対象物の等価光幕輝度を算出する等価光幕輝度測定装置とを備え、前記等価光幕輝度測定装置は、前記撮影画像に含まれる高輝度物体のみの等価光幕輝度を、前記輝度分布データに基づいて算出する高輝度物体等価光幕輝度算出部と、前記高輝度物体を除いた前記撮影画像の全体の等価光幕輝度を、前記輝度分布データに基づいて算出する非高輝度物体等価光幕輝度算出部と、前記高輝度物体のみの等価光幕輝度、及び、前記高輝度物体を除いた前記撮影画像の全体の等価光幕輝度を合算し、前記視認対象の等価光幕輝度を算出する合算部とを有し、前記情報表示板は、前記情報表示板の等価光幕輝度に基づいて、前記表示の明るさを調整することを特徴とする情報表示システムを提供する。
【0013】
なお本発明は、照明対象物に照明光を投光して照明する投光照明装置と、前記投光照明装置により投光照明された前記照明対象物を撮影する撮影装置と、前記撮影装置によって撮影された撮影画像を構成する各画素の階調値に基づいて前記画素ごとの輝度値を示す輝度分布データを生成し、前記輝度分布データに基づいて、前記照明対象物の等価光幕輝度を算出する等価光幕輝度測定装置とを備え、前記等価光幕輝度測定装置は、前記撮影画像に含まれる高輝度物体のみの等価光幕輝度を、前記輝度分布データに基づいて算出する高輝度物体等価光幕輝度算出部と、前記高輝度物体を除いた前記撮影画像の全体の等価光幕輝度を、前記輝度分布データに基づいて算出する非高輝度物体等価光幕輝度算出部と、前記高輝度物体のみの等価光幕輝度、及び、前記高輝度物体を除いた前記撮影画像の全体の等価光幕輝度を合算し、前記視認対象の等価光幕輝度を算出する合算部とを有し、前記投光照明装置は、前記照明対象物の等価光幕輝度に基づいて、前記照明光の出力を可変することを特徴とする投光照明システムとしても実施可能である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、視認対象を撮影した撮影画像に含まれる高輝度物体のみの等価光幕輝度と、当該高輝度物体を除いた撮影画像全体の等価光幕輝度とのそれぞれを算出し、これらを合算して視認対象の等価光幕輝度を算出する構成により、高輝度物体が撮影画像の画角内に存在する場合でも、当該高輝度物体の影響を受けずに、視認対象の等価光幕輝度が測定可能となる。さらに、このようにして測定した等価光幕輝度をトンネル照明システム及び情報表示システムに用いることで、太陽等の高輝度物体が撮影画像内に含まれる場合でも、トンネル坑口に対する運転者の順応輝度に合わせた調光制御や、情報表示板の情報表示面に対する運転者の視認性に合わせた調光制御が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
図1は、本実施形態に係る等価光幕輝度測定システム1の構成を示すブロック図である。等価光幕輝度測定システム1は、例えばトンネル坑口、若しくは、道路の路肩等に設置された表示板等の対象物を撮影し撮影画像データを生成する撮影カメラ2と、撮影カメラ2が生成した撮影画像データに基づいて、対象物に対する等価光幕輝度を算出し出力する等価光幕輝度測定装置3とを有している。
【0016】
等価光幕輝度測定装置3は、演算実行手段としてのCPUや、記憶手段としてのROM、CPUのワークエリアとして機能するRAM、外部機器との接続インタフェース等を有する一般的なコンピュータシステムを用いて構成されている。
すなわち、等価光幕輝度測定装置3は、コンピュータシステムを等価光幕輝度測定装置3として機能させる等価光幕輝度算出プログラム4を格納する記憶部5と、撮影カメラ2の撮影によって生成された撮影画像データが入力される画像入力部6と、この撮影画像データを構成する各画素の階調値に基づいて輝度分布データを生成する輝度分布算出部7と、この輝度分布算出部7によって算出された輝度分布データに基づいて等価光幕輝度を算出する等価光幕輝度算出部8と、この等価光幕輝度算出部8によって算出された等価光幕輝度を出力する出力部9とを有している。
【0017】
さらに、等価光幕輝度算出部8は、撮影画像に含まれる高輝度物体のみの等価光幕輝度を、上記輝度分布データに基づいて算出する高輝度物体等価光幕輝度算出部11と、当該高輝度物体を除いた撮影画像の全体の等価光幕輝度を、上記輝度分布データに基づいて算出する非高輝度物体等価光幕輝度算出部10と、高輝度物体のみの等価光幕輝度、及び、高輝度物体を除いた撮影画像の全体の等価光幕輝度を合算し、視認対象の実際の等価光幕輝度を算出する合算部12とを有している。
上記出力部9から出力された等価光幕輝度は、例えばディスプレイ等の表示装置や他の外部機器に出力され、或いは、記憶部5に等価光幕輝度の測定データとして出力される。
なお、高輝度物体とは、例えば晴天の空や太陽等の高輝度な自然物、或いは、電光掲示板等の高輝度に発光する人工物である。
【0018】
上記撮影カメラ2のカメラレンズの前には、光量調整用のレンズフィルタであるND(Neutral Density)フィルタ2Aが配置されており、撮影カメラ2が撮影する画角内に高輝度物体が存在する場合に、撮影画像を構成する各画素の階調値が飽和して、いわゆる白飛びが生じることを防止している。なお、本実施形態において、撮影カメラ2には、対角画角が64°以上のカメラレンズが用いられている。また、撮影カメラ2は、カラー画像を撮影するものとする。
【0019】
図2は、等価光幕輝度算出処理のフローチャートである。
撮影カメラ2により生成された撮影画像データが画像入力部6から等価光幕輝度測定装置3に入力されると(ステップSa1)、輝度分布算出部7は、撮影画像を構成する各画素の階調値G(RGB値)を、グレースケール(モノクロ)画像における輝度値に変換し、各画素の輝度値を示す輝度分布データを生成する(ステップSa2)。具体的には、輝度分布算出部7は、撮影画像を構成する各画素の階調値Gを、次式(1)又は(2)を用いてグレースケール画像の画素の明るさを示す明るさ値Yに変換し、さらに、この明るさ値Yを、撮影カメラ2の性能を反映する次式(3)又は(4)を用いて、輝度値Laに変換し、この輝度値Laを次式(5)に示すように、NDフィルタ2Aのフィルタ透過率Tk(=0.0026)で除して輝度値Lb(cd/m2)を算出し、各画素の輝度値Lbの分布を示す輝度分布データを生成する。なお、撮影カメラ2は白黒画像(グレースケール画像)を撮影するものであっても良く、この場合は、上記ステップSa2において、撮影された白黒画像を輝度分布算出部7がそのまま輝度値に変換し、各画素の輝度値を示す輝度分布データを生成する。
【0020】
1)20≦階調値G≦100の場合
【数3】

【数4】

【0021】
2)100≦G<220の場合
【数5】

【数6】

【0022】
【数7】

但し、式(2)及び式(4)において、EVはカメラの露出、fはカメラの絞り、SSはカメラのシャッタースピードであり、カメラの露出EVは、f及びSSを用いて、次式(6)により求められる。
【数8】

【0023】
上記ステップSa2において輝度分布データが生成されると、等価光幕輝度算出部8の非高輝度物体等価光幕輝度算出部10は、撮影画像の各画素の輝度値Lbに基づいて、撮影画像から高輝度物体に対応する画素を除いた全体の等価光幕輝度Leq1を算出する(ステップSa3)。すなわち、非高輝度物体等価光幕輝度算出部10は、高輝度物体とみなせる輝度閾値Lthと、撮影画像の各画素の輝度値Lbとを比較し、輝度値Lbが輝度閾値Lth以上の画素を特定して、高輝度物体に対応する画素を特定し、これらの画素を除いた撮影画像全体の画素の輝度値Lbに基づいて等価光幕輝度Leq1を算出する。
【0024】
図3は撮影画像を模式的に示す図である。My×Mx個の画素がマトリクス状に配置された撮影画像20に対し、その中央の画素を原点Oとし、この原点Oを通る水平方向をX軸、鉛直方向をY軸とした直交座標系を規定すると、原点Oから任意の画素PまでのX軸方向の距離をkx、原点Oから任意の画素PまでのY軸方向の距離をky、画素Pの原点Oからの鉛直角をθ、1画素あたりの立体角をΔωとした場合、上記高輝度物体を除いた撮影画像20全体の等価光幕輝度Leq1は、次式(7)により求められる。すなわち、ステップSa3におていは、この式(7)を用いて上記非高輝度物体等価光幕輝度算出部10が、高輝度物体を除いた撮影画像全体の等価光幕輝度Leq1を算出する。
【0025】
【数9】

但し、Kは定数
【0026】
式(7)におけるΔθ、θ及びΔωはそれぞれ次式(8)〜(10)により求められる。
【数10】

【数11】

【数12】

【0027】
次いで、高輝度物体等価光幕輝度算出部11は、上記ステップSa3において特定された高輝度物体の画素の輝度閾値Lthに基づいて、高輝度物体のみの等価光幕輝度Leq2を算出する(ステップSa4)。高輝度物体の画素について、上記Δθ、θ及びΔωをそれぞれΔθa、θa及びΔωaとすると、高輝度物体のみの等価光幕輝度Leq2は次式(11)により求められる。したがって、このステップSa4においては、この式(11)を用いて上記高輝度物体等価光幕輝度算出部11が高輝度物体のみの等価光幕輝度Leq2を算出する。
【0028】
【数13】

なお、αは高輝度物体に応じて定まる定数であり、例えば高輝度物体が太陽である場合には、定数α=1.24×1010となる。高輝度物体が太陽等の自然物である場合には定数αはデータブック等の各種資料に記載されている値が用いられ、また、高輝度物体が車両のヘッドライト等の人工物である場合には予め実験などにより求めた値がαとして用いられる。
【0029】
上記ステップSa3及びSa4により、高輝度物体を除いた撮影画像20の全体の等価光幕輝度Leq1、及び、高輝度物体のみの等価光幕輝度Leq2が算出されると、合算部12は、各等価光幕輝度Leq1、Leq2を合算して、高輝度物体を加味した実際の等価光幕輝度Leqを算出し(ステップSa5)、この等価光幕輝度Leqを出力部9を介して出力して(ステップSa6)、処理を終了する。
なお、高輝度物体を除いた撮影画像20の全体の等価光幕輝度Leq1の算出、及び、高輝度物体のみの等価光幕輝度Leq2の算出は、どちらを先に算出しても良いことは勿論である。
また、高輝度物体のみの等価光幕輝度Leq2の算出する際に、撮影画像の中に高輝度物体の画素が複数含まれている場合には、高輝度物体の各画素ごとに、上記式(11)を用いて等価光幕輝度Leq2が算出され、それぞれの等価光幕輝度Leq2が合算部12により合算されて、高輝度物体を加味した実際の等価光幕輝度Leqが算出される。
【0030】
発明者の実験によれば、等価光膜輝度測定装置3が求めた等価光膜輝度Leqと、そのときの等価光膜輝度計による実測値との相関係数は、0.79の直線が得られている。すなわち、高い相関が得られている。これにより、高輝度物体が撮影画像の画角内に存在する場合でも、当該高輝度物体の影響を受けずに、等価光幕輝度Leqを精度良く算出可能であることが示される。
【0031】
このように、本実施形態によれば、視認対象を撮影した撮影画像から高輝度物体を除いた全体の等価光幕輝度と、撮影画像に含まれる高輝度物体のみの等価光幕輝度とのそれぞれを算出し、これらを合算して視認対象の等価光幕輝度を算出する構成により、高輝度物体が撮影画像の画角内に存在する場合でも、当該高輝度物体の影響を受けずに、視認対象の等価光幕輝度が精度良く測定可能となる。
【0032】
さらに本実施形態によれば、撮影カメラ2のカメラレンズの前に、光量調整用のレンズフィルタであるNDフィルタ2Aを配置したため、撮影カメラ2が撮影する画角内に高輝度物体が存在する場合でも、撮影画像を構成する各画素の階調値が飽和していわゆる白飛びが生じることが防止される。さらに、NDフィルタ2Aを撮影カメラ2に装着した場合であっても、輝度分布算出部7が、輝度分布データを生成する際に、NDフィルタ2Aのフィルタ透過率Tkに基づいて、上記式(5)を用いて画素ごとの輝度値Laを補正するため、NDフィルタ2Aの影響を受けずに、正確な輝度分布データを生成することができる。
【0033】
(第2実施形態)
次いで、第1実施形態にて説明した等価光幕輝度測定システム1を備えたトンネル照明システム30を説明する。
図4はトンネル照明システム30の構成を模式的に示す図であり、図5はトンネル照明システム30の機能的構成を示すブロック図である。なお、冗長な説明を避けるため、第1実施形態で既に説明したものについては同一の符号を付し、その説明を省略する。
トンネル照明システム30は、トンネル31内に設けられた複数のトンネル照明器具32と、トンネル坑口33を撮影する位置に撮影カメラ2が配置された上記等価光幕輝度測定システム1と、この等価光幕輝度測定システム1の等価光幕輝度測定装置3と制御線34を介して接続され、当該等価光幕輝度測定装置3から一定時間おきに等価光幕輝度Leqを取得し、等価光幕輝度Leqに基づいて、トンネル照明器具32のうち、トンネル31の入口から所定距離の間に配置された入口照明用のトンネル照明器具32を対象にリアルタイムに調光する調光制御盤35とを有している。
【0034】
図5に示すように、調光制御盤35は、等価光幕輝度測定装置3から等価光幕輝度Leqを取得する等価光幕輝度取得部40と、この等価光幕輝度Leqに基づいて上記のトンネル照明器具32を調光する調光部42とを有している。
【0035】
調光部42は、トンネルの入口照明を運転者の目の順応状態に合わせて調光すべく、トンネル照明器具32のうち、トンネルの入口から所定距離内に配置されている各トンネル照明器具32を等価光幕輝度測定装置3から取得した等価光幕輝度Leqに基づいて調光する。なお、トンネルの入口から所定距離以上離れた他のトンネル照明器具32の出力は、所定の値に維持される。
入口照明の調光において、調光部42は、設定輝度Ldと等価光幕輝度Leqとのそれぞれの大きさの比に基づいて調光を行う。設定輝度Ldとは、トンネル入口照明設計時に設定されている順応輝度であり、年間を通じて最も高い順応輝度が設定されている。
【0036】
図6は、設定輝度Ldと等価光幕輝度Leqとのそれぞれの大きさの比と調光レベルとの関係を規定する調光パターンテーブル50を示す図である。この調光パターンテーブル50は、例えば調光部42に設けられた図示せぬROM等の記憶装置に格納されている。
この図に示すように、本実施形態では、等価光幕輝度Leqが設定輝度Ldの50%に満たない場合、調光部42は、調光レベル3〜調光レベル1の3段階で各トンネル照明器具32を調光する。すなわち、等価光幕輝度Leqが設定輝度Ldの25%以上のときには各トンネル照明器具32を50%の能力で点灯させ(調光レベル3)、等価光幕輝度Leqが設定輝度Ldの5%以上25%未満のときには各トンネル照明器具32を25%の能力で点灯させ(調光レベル2)、また、等価光幕輝度Leqが設定輝度Ldの4%以下のときには各トンネル照明器具32を消灯させる(調光レベル1)。
【0037】
一方、等価光幕輝度Leqが設定輝度Ldの50%以上の場合には、調光部42は、50%未満のときに比べて等比級数的(等差級数的でも良い)に調光のステップを細かくし、調光レベル4〜調光レベル9の6段階で各トンネル照明器具32を調光する。
ここで、従来においては一般に、トンネル坑口33の輝度が設定輝度Ldの50%以上の場合には、例えば特開2004−127845号公報に示されているように、100%の能力で点灯させている。これに対して、本実施形態によれば、等価光幕輝度Leqが設定輝度Ldの50%以上の場合でも、等価光幕輝度Leqと設定輝度Ldとの比に応じて多段階に細かく制御するため、実際の等価光幕輝度Leqを的確に反映し、運転者の目の順応状態に合った調光が可能となり、さらに、多段階に調光しトンネル照明器具32を最適な能力で点灯させることが可能であるため、無駄な電力を消費することがなく、省エネルギー化を図ることができる。
なお、上記の多段階調光には、連続調光と間引きの段調光の任意のものを用いることができる。
【0038】
このように、本実施形態によれば、第1実施形態にて述べた効果に加え、次のような効果を奏する。
【0039】
本実施形態によれば、調光部42は、設定輝度Ldと等価光幕輝度Leqとのそれぞれの比に基づいて調光を行い、少なくとも等価光幕輝度Leqが設定輝度Ldの50%よりも大きい場合には、設定輝度Ldと等価光幕輝度Leqとのそれぞれの大きさの比に応じて多段階に調光を行う構成としたため、実際の等価光幕輝度Leqを的確に反映し、運転者の目の順応状態に合った調光が可能となり、さらに、無駄な電力を消費することがなく省エネルギー化を図ることができる。
【0040】
なお、上述した実施の形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の範囲内で任意に変形および応用が可能である。
例えば、第2実施形態では、第1実施形態に係る等価光幕輝度測定システム1をトンネル照明システムに用いた場合を例示したが、当該等価光幕輝度測定システム1は、野外において運転者や歩行者が視認する対象物を照明する照明システ-ムに広く適用することが可能であり、例えば、表示面を照明する照明装置を内蔵した内照式の情報表示板、又は、LED等の発光素子が表示面に設けられて各種情報を表示する自発光式の情報表示板を備えた情報表示システムにも本発明を適用することが可能である。
この情報表示システムにおいては、撮影装置としての撮影カメラ2が、情報表示板の注視開始点に配置され、当該情報表示板を撮影し、上記等価光幕輝度測定装置3が、第1実施形態と同様にして、撮影カメラ2によって撮影された撮影画像を構成する各画素の階調値に基づいて画素ごとの輝度値を示す輝度分布データを生成し、この輝度分布データに基づいて、情報表示板の等価光幕輝度を算出する。この等価光幕輝度は、情報表示板が備える調光制御部に入力され、当該情報表示板は、等価光幕輝度に応じて情報表示の明るさを調整し、運転者或いは歩行者の順応輝度に合わせた出力で情報を表示する。
【0041】
また例えば、標識や広告看板等を照明対象物とし、当該照明対象物に照明光を投光して照明する投光照明装置を備えた投光照明システムにも本発明を適用可能である。
この投光照明システムにおいては、撮影装置としての撮影カメラ2が、照明対象物の注視開始点に配置され、当該照明対象物を撮影し、上記等価光幕輝度測定装置3が、第1実施形態と同様にして、撮影カメラ2によって撮影された撮影画像を構成する各画素の階調値に基づいて画素ごとの輝度値を示す輝度分布データを生成し、この輝度分布データに基づいて、照明対象物の等価光幕輝度を算出する。この等価光幕輝度は、上記投光照明装置に入力され、当該投光照明装置は、等価光幕輝度に応じて照明光の出力を可変し、運転者或いは歩行者の順応輝度に合わせた出力で照明対象物に投光する。
【0042】
また、第2実施形態において、等価光幕輝度測定装置3を1つのトンネル31ごとに配置する場合を例示したが、これに限らない。すなわち、トンネル坑口33を撮影する撮影カメラ2のみを各トンネル31に配置し、各撮影カメラ2が撮影した撮影画像のデータを、例えば、移動電話網等の各種の無線通信網、或いは、有線ケーブルを介して、上記等価光幕輝度測定装置3として機能するコンピュータシステムに送信し、このコンピュータシステムが、各トンネル坑口33の等価光幕輝度を一括して算出し、各々のトンネル31の調光制御盤35に送信する構成としても良い。
この構成によれば、トンネル31ごとに等価光幕輝度測定装置3を配置する必要がないため、装置コストを削減し、また、メンテナンスが容易となる。さらに、各撮影カメラ2からの撮影画像に基づいて、各トンネル31のトンネル坑口33の状況を監視する等の応用も可能である。
【0043】
また、第2実施形態において、調光部42は等価光幕輝度Leqに基づいて調光を行ったが、これに限らず、等価光幕輝度Leqに基づいて等価均一輝度を算出し、この等価均一輝度に基づいて調光を行っても良い。すなわち、調光制御盤35は、中心窩順応輝度による輝度差弁別閾値と、等価光幕輝度による輝度差弁別閾値とをトンネル31内の設定路面輝度に基づいて算出し、これら輝度差弁別閾値及び輝度差弁別閾値に基づいて等価均一輝度を算出し、この等価均一輝度に基づいて調光部42が調光を行う。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態に係る等価光幕輝度測定システムの構成を示す図。
【図2】等価光幕輝度算出処理のフローチャート。
【図3】等価光幕輝度の算出方法を説明するための図。
【図4】トンネル照明システムを模式的に示す図。
【図5】トンネル照明システムの機能的構成を示すブロック図。
【図6】調光パターンテーブルを模式的に示す図。
【符号の説明】
【0045】
1 等価光幕輝度測定システム
2 撮影カメラ
2A NDフィルタ
3 等価光幕輝度測定装置
7 輝度分布算出部
8 等価光幕輝度算出部
10 非高輝度物体等価光幕輝度算出部
11 高輝度物体等価光幕輝度算出部
12 合算部
30 トンネル照明システム
32 トンネル照明器具
33 トンネル坑口
35 調光制御盤
42 調光部
50 調光パターンテーブル
Leq、Leq1、Leq2 等価光幕輝度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
視認対象を撮影した撮影画像の撮影画像データに対し、前記撮影画像を構成する各画素の階調値に基づいて前記画素ごとの輝度値を示す輝度分布データを生成し、前記輝度分布データに基づいて、前記視認対象の等価光幕輝度を算出する等価光幕輝度測定装置において、
前記撮影画像に含まれる高輝度物体のみの等価光幕輝度を、前記輝度分布データに基づいて算出する高輝度物体等価光幕輝度算出部と、
前記高輝度物体を除いた前記撮影画像の全体の等価光幕輝度を、前記輝度分布データに基づいて算出する非高輝度物体等価光幕輝度算出部と、
前記高輝度物体のみの等価光幕輝度、及び、前記高輝度物体を除いた前記撮影画像の全体の等価光幕輝度を合算し、前記視認対象の等価光幕輝度を算出する合算部と
を備えることを特徴とする等価光幕輝度測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の等価光幕輝度測定装置において、
前記撮影画像データの各画素の階調値に基づいて前記画素ごとの輝度値を算出し、前記輝度分布データを生成する輝度分布算出部を更に備え、
前記撮影画像は、光量調整用のレンズフィルタが装着された撮影装置により撮影され、
前記輝度分布算出部は、前記輝度分布データを生成する際に、前記レンズフィルタの透過率に基づいて前記画素ごとの輝度値を補正する
ことを特徴とする等価光幕輝度測定装置。
【請求項3】
トンネル内に設けられた複数のトンネル照明器具と、
トンネル坑口及びその近傍を撮影する撮影装置と、
前記撮影装置によって撮影された撮影画像を構成する各画素の階調値に基づいて前記画素ごとの輝度値を示す輝度分布データを生成し、前記輝度分布データに基づいて、前記トンネル坑口の等価光幕輝度を算出する等価光幕輝度測定装置と、
前記トンネル照明器具のうち、トンネル入口側に配置された複数のトンネル照明器具を、前記等価光幕輝度測定装置により測定された等価光幕輝度に基づいて調光制御する調光装置とを備え、
前記等価光幕輝度測定装置は、
前記撮影画像に含まれる高輝度物体のみの等価光幕輝度を、前記輝度分布データに基づいて算出する高輝度物体等価光幕輝度算出部と、
前記高輝度物体を除いた前記撮影画像の全体の等価光幕輝度を、前記輝度分布データに基づいて算出する非高輝度物体等価光幕輝度算出部と、
前記高輝度物体のみの等価光幕輝度、及び、前記高輝度物体を除いた前記撮影画像の全体の等価光幕輝度を合算し、前記視認対象の等価光幕輝度を算出する合算部とを有し、
前記調光装置は、前記等価光幕輝度に基づいて前記トンネル入口側に配置された複数のトンネル照明器具の各々を調光する
ことを特徴とするトンネル照明システム。
【請求項4】
請求項3に記載のトンネル照明システムにおいて、
前記調光装置は、所定の輝度と前記等価光幕輝度とのそれぞれの大きさの比に応じて多段階に調光を行うことを特徴とするトンネル照明システム。
【請求項5】
表示の明るさを調整可能な内照式又は自発光式の情報表示板と、
前記情報表示板及びその近傍を撮影する撮影装置と、
前記撮影装置によって撮影された撮影画像を構成する各画素の階調値に基づいて前記画素ごとの輝度値を示す輝度分布データを生成し、前記輝度分布データに基づいて、前記照明対象物の等価光幕輝度を算出する等価光幕輝度測定装置とを備え、
前記等価光幕輝度測定装置は、
前記撮影画像に含まれる高輝度物体のみの等価光幕輝度を、前記輝度分布データに基づいて算出する高輝度物体等価光幕輝度算出部と、
前記高輝度物体を除いた前記撮影画像の全体の等価光幕輝度を、前記輝度分布データに基づいて算出する非高輝度物体等価光幕輝度算出部と、
前記高輝度物体のみの等価光幕輝度、及び、前記高輝度物体を除いた前記撮影画像の全体の等価光幕輝度を合算し、前記視認対象の等価光幕輝度を算出する合算部とを有し、
前記情報表示板は、前記情報表示板の等価光幕輝度に基づいて、前記表示の明るさを調整することを特徴とする情報表示システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−241380(P2008−241380A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80569(P2007−80569)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000000192)岩崎電気株式会社 (533)
【Fターム(参考)】