筒型繊維強化樹脂成形品の製造方法
【課題】マトリックス樹脂の未含浸部分の発生がなく、強度的に優れ、かつ、水密性に優れた筒状繊維強化樹脂成形品を安定して製造することができる方法を提供することを目的としている。
【解決手段】筒状または柱状をした成形型の型面に沿って強化繊維からなる強化繊維層を設け、気密性フィルムと成形型との間に形成される気密空間内に少なくとも強化繊維層を収容し、気密空間内を大気圧より減圧したのち、この減圧状態を保ちながら気密空間外からマトリックス樹脂を気密空間内に供給してマトリックス樹脂を強化繊維層に含浸させる工程を備える筒型繊維強化成形品の製造方法において、成形型を立てた状態でマトリックス樹脂を強化繊維層の下端から含浸させること特徴としている。
【解決手段】筒状または柱状をした成形型の型面に沿って強化繊維からなる強化繊維層を設け、気密性フィルムと成形型との間に形成される気密空間内に少なくとも強化繊維層を収容し、気密空間内を大気圧より減圧したのち、この減圧状態を保ちながら気密空間外からマトリックス樹脂を気密空間内に供給してマトリックス樹脂を強化繊維層に含浸させる工程を備える筒型繊維強化成形品の製造方法において、成形型を立てた状態でマトリックス樹脂を強化繊維層の下端から含浸させること特徴としている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフュージョン成形方法を用いた筒型繊維強化樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から筒型繊維強化樹脂成形品を製造する方法としては、シートワインディング成形方法が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、この方法ではマトリックス樹脂を含浸させた、樹脂が乾いていない状態の強化繊維を円筒成形型に巻き付けていくことから、巻き付けた強化繊維層の寸法計測が正確にできず、硬化後の成形品の肉厚管理が難しいという問題があった。
更に、マトリックス樹脂に硬化剤を混合した場合には、時間が経過するにつれてマトリックス樹脂の硬化が始まるため、強化繊維を成形型に巻き付けていく作業を途中で中断することができないという問題もあった。
【0003】
一方、上記シートワインディング成形方法の上記問題点を解決できる筒型繊維強化樹脂成形品を製造する方法として、真空成形方法の一種であるインフュージョン成形方法を用いた方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
この先に提案されたインフュージョン成形方法を用いた筒型繊維強化樹脂成形品の製造方法は、図12に示すように、円筒型をした成形型101の型面に沿って強化繊維を巻き付けて筒状をした強化繊維層102を設けたのち、この強化繊維層102の表面に沿って樹脂拡散媒体103を敷設した状態で強化繊維層102をバッグフィルムと称される気密性フィルムによって気密空間内106に覆い、強化繊維層102を気密空間内106に収容したのち、吸引口105から気密空間内106の空気を吸引排気して気密空間内106を減圧状態にし、樹脂供給口104から気密空間内106にマトリックス樹脂を供給してマトリックス樹脂を強化繊維層102に含浸させ、含浸後マトリックス樹脂を硬化させるようにしている。
しかしながら、上記方法では、成形型101を横に寝かせた状態で、マトリックス樹脂を強化繊維層102の側面から含浸させるようにしているため、マトリックス樹脂がまず筒型をした強化繊維層102の外周に沿って流れたのち、含浸してしまうことから、表面の含浸部分がバリヤ層となり、強化繊維層の内部に残った空気の抜けが悪くなり、そのため未含浸部分が残りやすくなり、成形品の強度や水密性などに悪影響を及ぼすという課題があった。
【0004】
【特許文献1】特開2007−136997号公報
【特許文献2】特開2002−337244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みて、マトリックス樹脂の未含浸部分の発生がなく、強度的に優れ、かつ、水密性に優れた筒状繊維強化樹脂成形品を安定して製造することができる方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明にかかる筒型繊維強化樹脂成形品の製造方法は、筒状または柱状をした成形型の型面に沿って強化繊維からなる筒型をした強化繊維層を設け、気密性フィルムと成形型との間に形成される気密空間内に少なくとも強化繊維層を収容し、気密空間内を大気圧より減圧したのち、この減圧状態を保ちながら気密空間外からマトリックス樹脂を気密空間内に供給して強化繊維層に含浸させる工程を備える筒型繊維強化成形品の製造方法であって、成形型を立てた状態でマトリックス樹脂を強化繊維層の下端から含浸させることを特徴としている。
【0007】
ここで、成形型を立てた状態については、必ずしも成形型を垂直に立てる必要はなく、強化繊維層の筒型の一方の開口端が他方の開口端より高い位置に保持できれば特に限定されないが、成形型の軸方向を水平面に対し、45度以上となるようにすることが好ましい。
さらに、またマトリックス樹脂を強化繊維層の下端から供給する際には、強化繊維層中の空気を上端に押し上げながら排出できれば、必ずしも強化繊維層の下端全面から供給する必要はなく、下端の一部から供給してもよい。
【0008】
また、本発明にかかる筒型繊維強化樹脂成形品の製造方法は、気密空間内が減圧状態になっていれば構わないことから、減圧状態を確認して吸引排気作業を停止した後に樹脂を供給することもできるが、強化繊維層の上方に設けた吸気口から気密空間内の空気を気密空間外に排気するとともに気密空間内を減圧状態に吸引しながらマトリックス樹脂を供給することが好ましい。
【0009】
ここで、本発明において用いられる樹脂供給口は成形型を立てた状態にした際の強化繊維層下端に設置し、吸気口は該成形型の上端に設置する。
【0010】
マトリックス樹脂の供給方法としては、強化繊維層の下端にマトリックス樹脂が供給できれば特に限定されず、成形型内に設けられた樹脂流路を介して型面に設けられた樹脂供給口にマトリックス樹脂を供給しても構わないし、複数の樹脂供給口をあけた管を強化繊維層の下端に沿うように成形型の円周に巻きつけてもよい。また、複数の樹脂供給口を備えた管については、マトリックス樹脂をまんべんなく供給できるように、例えば、電気コードなどを束ねるために巻き付けて使用するスパイラルホースなどと言われる螺旋状のプラスチック樹脂のような、管の円周全体から樹脂がしみ出す構造をもつ管を用いるようにしてもよい。
【0011】
空気の吸引排気方法としては、気密空間内の空気を吸引できる方法であれば特に限定されず、成形型内に設けられた吸気路を介して型面に設けられた吸気口から吸引排気するようにしてもよいし、吸気排出路が貫通する管を成形型の上端に沿うように成形型の円周に巻きつけてもよい。また、必要に応じて気密空間内の圧力が把握できるように圧力計を接続してもよい。
【0012】
本発明において用いられる樹脂供給口と空気吸気口の数は特に限定されず、2つ以上設けるようにしても構わない。樹脂供給口と空気吸気口を複数個設けることによって、マトリックス樹脂の含浸を促進させることができる。
【0013】
マトリックス樹脂の含浸状態は、強化繊維層の色がマトリックス樹脂の色に変化することから容易に把握することができる。また、含浸の終了は、強化繊維層全体の色がマトリックス樹脂の色に変化した時や強化繊維層の上端からマトリックス樹脂が染み出してきた時や空気吸気口がマトリックス樹脂を吸引し始めた時などを目安とすることができる。
【0014】
本発明において用いられる強化繊維はガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維が好ましいが、必要に応じて、ポリビニルアルコール繊維、塩化ビニル繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維、ポリウレタン繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリスチレン繊維、アセテート繊維等の他の有機合成繊維や、金属繊維等の他の無機繊維や、麻や竹などの天然繊維やレーヨン等の再生繊維等を用いることもできる。
また、これらの繊維は混合して使用してもよいし、より強度を発現させるためにかかる繊維をマット状やクロス状にするなど、シート状態に加工をしてもよい。
なお、用いられる強化繊維の強度および強化繊維層の強化繊維密度は、所望する成形品の強度と肉厚から適宜選択すればよい。
【0015】
本発明において用いられるマトリックス樹脂は、所望する成形品に応じて適宜選択でき、特に限定されないが、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、アルキド樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、シリコン樹脂などの熱硬化性樹脂や、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリブタジエン樹脂、スチレンブタジエン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリオキシベンゾイル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、酢酸セルロース樹脂などの熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0016】
また、用いられるマトリックス樹脂は強化繊維層への含浸を促進させるため、粘度が0.2Pa・s以下であることが好ましい。粘度が0.2Pa・sを超えるとマトリックス樹脂が強化繊維層に含浸しにくくなり、含浸不良を起こす可能性が高くなる。従って、用いられるマトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である場合には、供給する樹脂はあらかじめ加温して溶融状態にするとともに、粘度を低下させておくことが必要になる場合がある。
なお、マトリックス樹脂には着色用の顔料や、成形後の耐久性などを考慮し、酸化防止剤、難燃剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤などを適宜配合してもよい。
【0017】
本発明において用いられる気密性フィルムは、バッグフィルムとも言われる物であり、フィルムで覆われた空間内を減圧時に気密状態に保持することができれば材質は特に問わないが、例えば、ポリアミド、ナイロン樹脂などをフィルム状にしたものを用いることが好ましい。
【0018】
本発明においては、気密性フィルムで覆われた空間内を気密状態にするために気密性フィルムと成形型との間にシール材を用いる。ここで用いられるシール材は、減圧時に気密性フィルムで覆われた空間内に空気が入らないように気密状態に保持することができれば、材質は特に問わないが、ブチルゴムテープなどを用いることが好ましい。
【0019】
なお、本発明においては、強化繊維層を成形型に巻きつけることにより、成形品の形状が決定されることから、円筒状、角筒状のいずれの形状の成形品の製造にも使用できる。
【0020】
本発明の製造方法においては、従来からのインフュージョン成形方法に用いられている強化繊維層の表面に配置される樹脂拡散媒体(以下、「表面拡散媒体」と記す)のほかに、強化繊維層を厚み方向に分かれた複数の分割層に分割し、分割層と分割層の間にも樹脂拡散媒体を挟み込ませることができる。
【0021】
ここで、分割層間に配置される樹脂拡散媒体(以下、「層間拡散媒体」と記す)は、マトリックス樹脂の流動拡散を促進し、強化繊維層内にマトリックス樹脂を均一かつ迅速に含浸させるためのもので、マトリックス樹脂が毛管現象等を利用して拡散しながら流動するような拡散流路を備えていれば特に限定されず、従来からインフュージョン成形に用いられている樹脂拡散媒体(例えば、AIRTECH社製GreenFlow75)を用いることができる。
【0022】
このような構造の樹脂拡散媒体としては、例えば図3、図4のように下材となるガラス繊維糸(モノフィラメントを含む)などを並列に配置した後、その上に交差するように上材となるガラス繊維糸などを配置し、繊維同士の接触部分を上記熱硬化性樹脂や上記熱可塑性樹脂などで結合したり、繊維同士を融着させて形成したシート状のものや、あるいは、図5のような形状にした上記熱可塑性樹脂のシート状の射出成形品などが挙げられる。さらに、ガラス繊維糸などを織物にしたものも用いることができる。
【0023】
また、ガラス繊維糸などは、マトリックス樹脂が糸を構成する繊維間に含浸せず、マトリックス樹脂の拡散流動がスムースに行えるように、また、樹脂拡散媒体の強度を確保するために、集束剤や上記熱硬化性樹脂や上記熱可塑性樹脂などによって繊維同士が結束状態となったものを用いることが好ましい。
また、層間拡散媒体は、成形品の一部を構成することから、成形品内における強度不良箇所とならないようにするため、かかる層間拡散媒体に用いる材料は、強化繊維層を構成する強化繊維あるいはマトリックス樹脂と同じ材料を用いることが好ましい。
【0024】
なお、層間拡散媒体は、分割層と分割層との間に挟まれるため、上下の分割層を構成する強化繊維が拡散流路内に入り込んでマトリックス樹脂の流動が妨げられないような構造とする必要がある。
因みに、図3〜図5に示すような構造の樹脂拡散媒体を用いる場合、並列に並ぶガラス繊維糸の間隔が大きくなりすぎるとガラス繊維糸間をマトリックス樹脂がスムースに流動しないし、逆にガラス繊維糸の間隔が小さくなりすぎるとマトリックス樹脂が流動するスペースが存在しなくなることから、ガラス繊維糸の間隔を2〜5mm程度にすることが好ましい。
また、樹脂拡散媒体が織物の場合、織り方については特に限定させず、平織、綾織、朱子織など、どのような織り方でもよいが、織目が大きくなりすぎると織目の間をマトリックス樹脂がスムースに流動しないし、また、織目が小さくなりすぎるとマトリックス樹脂が含浸するスペースが存在しなくなることから、織目は、2〜5mm程度にすることが好ましい。
【0025】
層間拡散媒体の強度については、マトリックス樹脂を含浸する際の減圧雰囲気下において、拡散流路が減圧によって大気圧を受けた場合にも、層間拡散媒体の厚みが1mm以上の厚みを保ち、拡散流路となる空間を十分に確保できる強度にしておくことが好ましい。
また、層間拡散媒体は、その大きさや分割層間に配置される位置等は所定の流動拡散を行うことができれば特に限定されないが、少なくとも一部を強化繊維層の端縁から強化繊維層の外側にはみ出すように設けられ、このはみ出し部分にマトリックス樹脂が供給されるようにすることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明にかかる筒型繊維強化樹脂成形品の製造方法は、強化繊維を外周に積層させた成形型を立てた状態でマトリックス樹脂を強化繊維層の下端から含浸させるように構成されているので、マトリックス樹脂の含浸に伴い強化繊維層中の空気が上端に向かって押し上げられながら排出されるため、強化繊維層に効率よくマトリックス樹脂を含浸させ、含浸不良のない筒型繊維強化樹脂成形品を製造することができる。
【0027】
また、強化繊維層の上方に設けた吸気口から気密空間内の空気を気密空間外に排気するとともに気密空間内を減圧状態に吸引しながらマトリックス樹脂を供給すれば、毛管現象によってマトリックス樹脂が強化繊維層に含浸されるだけでなく、強制的に引き込む作用を加えることができることから、さらに強化繊維層に効率よくマトリックス樹脂を含浸させ、含浸不良のない筒型繊維強化樹脂成形品を製造することができる。
【0028】
更に、樹脂を含浸してない状態の強化繊維層を成形型に巻付けた後にマトリックス樹脂の含浸を行うことから、強化繊維層の巻付け量が必要量・必要肉厚になっているか否かを容易に確認できるため、筒型繊維強化樹脂成形品の肉厚管理を正確に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に、本発明を、その実施の形態をあらわす図面を参照しつつ詳しく説明する。
図1は、本発明にかかる筒型繊維強化樹脂成形品の製造方法の一例における樹脂含浸前の模式図を表している。
図1おいて、1は円柱成形型、2は強化繊維層、3は樹脂拡散媒体、4は気密性フィルム、5は樹脂供給管、6は空気吸気管、7はシール材、8は気密空間である。
【0030】
図2は、本発明にかかる筒型繊維強化樹脂成形品の製造方法の一例における強化繊維層の積層方法の模式図を表している。
図2において、1は円柱成形型、2は強化繊維層、9は強化繊維、10は成形型1を回転する回転装置である。
【0031】
まず、回転装置10に成形型1を取り付け、回転装置10を稼働させ、成形型1を回転させることによって、長尺の強化繊維9を成形型1の型面に巻回して円筒型をした強化繊維層2を型面に沿って設ける。その後、強化繊維層2の外周に樹脂拡散媒体3を巻きつける。なお、強化繊維層2の肉厚が薄い場合や用いる強化繊維9の密度が低い強化繊維層2の場合など、マトリックス樹脂の強化繊維層2への含浸を促進する必要がないと考えられる場合には、かかる樹脂拡散媒体3を用いる必要はない。
【0032】
次に、強化繊維層2の下端部または樹脂拡散媒体3の下端部にリング状をして樹脂供給口(図示せず)を備えた樹脂供給管5を外嵌させ、成形型1の上端にはリング状をして吸気口(図示せず)を備えた空気吸気管6を配置する。その後、かかる成形型1を気密性フィルム4で覆い、成形型1の上下で、成形型1と気密性フィルム4との間にシール材7を設け、強化繊維層2を気密空間8内に収容する。
【0033】
次に、成形型1を回転装置10から取り外し、図1に示すように、成形型1を成形型1の軸が水平面に対して略垂直となるように立てて、空気吸気管6を図示していない真空ポンプに接続し、樹脂供給管5を図示していないマトリックス樹脂を入れた容器と接続する。その後、上記真空ポンプを稼動させて、空気吸気管6の吸引口から気密空間8内の空気を吸引排気して、気密空間8内の気圧がー0.08MPa以下になるまで減圧する。そして、減圧が完了したのち、真空ポンプの稼動を続けて減圧を続けながら上記容器内のマトリックス樹脂を樹脂供給管5の樹脂供給口から気密空間8内に供給して、強化繊維層2の下端からマトリックス樹脂を強化繊維層2に含浸させる。
【0034】
そして、強化繊維層2の上端までマトリックス樹脂の含浸が完了すると、真空ポンプの稼動を停止する。なお、マトリックス樹脂の含浸が完了したか否かは、強化繊維層2の色の変化を観察することによって容易かつ正確に判断できる。すなわち、樹脂含浸途中の状態を模式的に示す図6を用いて説明すると、マトリックス樹脂が含浸されると、強化繊維層2の色が強化繊維自体の色からマトリックス樹脂11の色に変化する。従って、強化繊維層2の色の変化を観察し、強化繊維層2の色が下端から上端までマトリックス樹脂11の色に完全に変化したことを確認すれば、強化繊維層2へのマトリックス樹脂含浸完了を容易に把握することができる。
【0035】
そして、マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂の場合にはマトリックス樹脂を加熱硬化させる、あるいは予め硬化剤を混合しておくことによってマトリックス樹脂の硬化を行う。また、マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂の場合には、供給時に溶融状態になるまで加温した樹脂を冷却させることによってマトリックス樹脂の固化を行う。
【0036】
最後に、マトリックス樹脂が硬化あるいは固化後、気密性フィルム4、樹脂拡散媒体3、を取り除くことによって成形品を得る。
【0037】
以下に、本発明の具体的な実施例を比較例と対比させて説明する。
(実施例)
以下に示す条件で、図1、図2に示す実施の形態と同様にして成形品を得た。
円柱成形型1:鋼鉄製金型(φ300 L300)
樹脂拡散媒体3:AIRTECH社製GreenFlow75(ポリプロピレン製)
気密性フィルム4:AIRTECH社製WRIGHTLON5400(ナイロン製)
シール材7:AIRTECH社製GS−AT−200Y
強化繊維9:日東紡績社製商品名ロービングクロスWR570B(目付570g/m2)
マトリックス樹脂11:ビニルエステル樹脂(日本ユピカ社製ネオポール8250)
減圧時の気密空間8内の圧力:−0.08MPa以下
含浸時間:30分
熱硬化温度:70℃
熱硬化時間:4時間
図7に樹脂含浸途中の筒型繊維強化樹脂成形品の断面図を示すが、マトリックス樹脂11の未含浸部分はなく、上記条件で得られた成形品に強度的な欠陥は認められなかった。
【0038】
(比較例)
図8に示すように、強化繊維層2を積層させた円柱成形型1を横に寝かせた状態にし、かかる状態における強化繊維層2の下端となる強化繊維層2の側面からマトリックス樹脂を供給したこと以外は、実施例1と同様にしてマトリックス樹脂の含浸を行った。
その結果、比較例においては、含浸開始から30分経過後に強化繊維層2の外周がマトリックス樹脂11の色に変化したことから、マトリックス樹脂の供給を停止し、成形品の作成を行った。
図8〜図11に、比較例における樹脂の含浸状態を表す図を示すが、最初に強化繊維層2の外周にマトリックス樹脂11が含浸し、強化繊維層2の内部に充分なマトリックス樹脂11が行き渡る前に強化繊維層2の全面の色が変化してしまっており、樹脂硬化後の成形品において未含浸部分12が認められた。
【0039】
上記実施例及び比較例から、円柱成形型1を立てた状態でマトリックス樹脂を強化繊維層2の下端から含浸させれば、強化繊維層2の厚みが増えても迅速にマトリックス樹脂の含浸をすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の筒型繊維強化樹脂成形品の製造方法は、例えば、繊維強化樹脂パイプや管継手などの筒型成形品の製造や、洗浄塔の筒状部などの製造に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明にかかる筒型繊維強化樹脂成形品の製造方法の一例における樹脂含浸前の状態を説明する模式図である。
【図2】本発明にかかる筒型繊維強化樹脂成形品の製造方法の一例における強化繊維層の積層方法の模式図である。
【図3】本発明にかかる樹脂拡散媒体の1例を示す斜視図である。
【図4】図3の樹脂拡散媒体のA−A線断面図である。
【図5】樹脂拡散媒体の他の例を示す斜視図である。
【図6】実施例の製造方法の樹脂含浸途中の状態を説明する模式図である。
【図7】図6のB−B線断面図である。
【図8】比較例の製造方法の樹脂含浸途中の状態を説明する模式図である。
【図9】図8のC−C線断面図である。
【図10】比較例の製造方法の樹脂含浸終了時の状態を説明する模式図である。
【図11】図10のD−D線断面図である。
【図12】従来技術における筒型繊維強化樹脂成形品の製造方法の模式図である。
【符号の説明】
【0042】
1 円柱成形型
2 強化繊維層
3 樹脂拡散媒体
4 気密性フィルム
5 樹脂供給管
6 空気吸気管
7 シール材
8 気密空間
9 強化繊維
10 回転装置
11 マトリックス樹脂
12 未含浸部分
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフュージョン成形方法を用いた筒型繊維強化樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から筒型繊維強化樹脂成形品を製造する方法としては、シートワインディング成形方法が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、この方法ではマトリックス樹脂を含浸させた、樹脂が乾いていない状態の強化繊維を円筒成形型に巻き付けていくことから、巻き付けた強化繊維層の寸法計測が正確にできず、硬化後の成形品の肉厚管理が難しいという問題があった。
更に、マトリックス樹脂に硬化剤を混合した場合には、時間が経過するにつれてマトリックス樹脂の硬化が始まるため、強化繊維を成形型に巻き付けていく作業を途中で中断することができないという問題もあった。
【0003】
一方、上記シートワインディング成形方法の上記問題点を解決できる筒型繊維強化樹脂成形品を製造する方法として、真空成形方法の一種であるインフュージョン成形方法を用いた方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
この先に提案されたインフュージョン成形方法を用いた筒型繊維強化樹脂成形品の製造方法は、図12に示すように、円筒型をした成形型101の型面に沿って強化繊維を巻き付けて筒状をした強化繊維層102を設けたのち、この強化繊維層102の表面に沿って樹脂拡散媒体103を敷設した状態で強化繊維層102をバッグフィルムと称される気密性フィルムによって気密空間内106に覆い、強化繊維層102を気密空間内106に収容したのち、吸引口105から気密空間内106の空気を吸引排気して気密空間内106を減圧状態にし、樹脂供給口104から気密空間内106にマトリックス樹脂を供給してマトリックス樹脂を強化繊維層102に含浸させ、含浸後マトリックス樹脂を硬化させるようにしている。
しかしながら、上記方法では、成形型101を横に寝かせた状態で、マトリックス樹脂を強化繊維層102の側面から含浸させるようにしているため、マトリックス樹脂がまず筒型をした強化繊維層102の外周に沿って流れたのち、含浸してしまうことから、表面の含浸部分がバリヤ層となり、強化繊維層の内部に残った空気の抜けが悪くなり、そのため未含浸部分が残りやすくなり、成形品の強度や水密性などに悪影響を及ぼすという課題があった。
【0004】
【特許文献1】特開2007−136997号公報
【特許文献2】特開2002−337244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みて、マトリックス樹脂の未含浸部分の発生がなく、強度的に優れ、かつ、水密性に優れた筒状繊維強化樹脂成形品を安定して製造することができる方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明にかかる筒型繊維強化樹脂成形品の製造方法は、筒状または柱状をした成形型の型面に沿って強化繊維からなる筒型をした強化繊維層を設け、気密性フィルムと成形型との間に形成される気密空間内に少なくとも強化繊維層を収容し、気密空間内を大気圧より減圧したのち、この減圧状態を保ちながら気密空間外からマトリックス樹脂を気密空間内に供給して強化繊維層に含浸させる工程を備える筒型繊維強化成形品の製造方法であって、成形型を立てた状態でマトリックス樹脂を強化繊維層の下端から含浸させることを特徴としている。
【0007】
ここで、成形型を立てた状態については、必ずしも成形型を垂直に立てる必要はなく、強化繊維層の筒型の一方の開口端が他方の開口端より高い位置に保持できれば特に限定されないが、成形型の軸方向を水平面に対し、45度以上となるようにすることが好ましい。
さらに、またマトリックス樹脂を強化繊維層の下端から供給する際には、強化繊維層中の空気を上端に押し上げながら排出できれば、必ずしも強化繊維層の下端全面から供給する必要はなく、下端の一部から供給してもよい。
【0008】
また、本発明にかかる筒型繊維強化樹脂成形品の製造方法は、気密空間内が減圧状態になっていれば構わないことから、減圧状態を確認して吸引排気作業を停止した後に樹脂を供給することもできるが、強化繊維層の上方に設けた吸気口から気密空間内の空気を気密空間外に排気するとともに気密空間内を減圧状態に吸引しながらマトリックス樹脂を供給することが好ましい。
【0009】
ここで、本発明において用いられる樹脂供給口は成形型を立てた状態にした際の強化繊維層下端に設置し、吸気口は該成形型の上端に設置する。
【0010】
マトリックス樹脂の供給方法としては、強化繊維層の下端にマトリックス樹脂が供給できれば特に限定されず、成形型内に設けられた樹脂流路を介して型面に設けられた樹脂供給口にマトリックス樹脂を供給しても構わないし、複数の樹脂供給口をあけた管を強化繊維層の下端に沿うように成形型の円周に巻きつけてもよい。また、複数の樹脂供給口を備えた管については、マトリックス樹脂をまんべんなく供給できるように、例えば、電気コードなどを束ねるために巻き付けて使用するスパイラルホースなどと言われる螺旋状のプラスチック樹脂のような、管の円周全体から樹脂がしみ出す構造をもつ管を用いるようにしてもよい。
【0011】
空気の吸引排気方法としては、気密空間内の空気を吸引できる方法であれば特に限定されず、成形型内に設けられた吸気路を介して型面に設けられた吸気口から吸引排気するようにしてもよいし、吸気排出路が貫通する管を成形型の上端に沿うように成形型の円周に巻きつけてもよい。また、必要に応じて気密空間内の圧力が把握できるように圧力計を接続してもよい。
【0012】
本発明において用いられる樹脂供給口と空気吸気口の数は特に限定されず、2つ以上設けるようにしても構わない。樹脂供給口と空気吸気口を複数個設けることによって、マトリックス樹脂の含浸を促進させることができる。
【0013】
マトリックス樹脂の含浸状態は、強化繊維層の色がマトリックス樹脂の色に変化することから容易に把握することができる。また、含浸の終了は、強化繊維層全体の色がマトリックス樹脂の色に変化した時や強化繊維層の上端からマトリックス樹脂が染み出してきた時や空気吸気口がマトリックス樹脂を吸引し始めた時などを目安とすることができる。
【0014】
本発明において用いられる強化繊維はガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維が好ましいが、必要に応じて、ポリビニルアルコール繊維、塩化ビニル繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維、ポリウレタン繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリスチレン繊維、アセテート繊維等の他の有機合成繊維や、金属繊維等の他の無機繊維や、麻や竹などの天然繊維やレーヨン等の再生繊維等を用いることもできる。
また、これらの繊維は混合して使用してもよいし、より強度を発現させるためにかかる繊維をマット状やクロス状にするなど、シート状態に加工をしてもよい。
なお、用いられる強化繊維の強度および強化繊維層の強化繊維密度は、所望する成形品の強度と肉厚から適宜選択すればよい。
【0015】
本発明において用いられるマトリックス樹脂は、所望する成形品に応じて適宜選択でき、特に限定されないが、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、アルキド樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、シリコン樹脂などの熱硬化性樹脂や、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリブタジエン樹脂、スチレンブタジエン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリオキシベンゾイル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、酢酸セルロース樹脂などの熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0016】
また、用いられるマトリックス樹脂は強化繊維層への含浸を促進させるため、粘度が0.2Pa・s以下であることが好ましい。粘度が0.2Pa・sを超えるとマトリックス樹脂が強化繊維層に含浸しにくくなり、含浸不良を起こす可能性が高くなる。従って、用いられるマトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である場合には、供給する樹脂はあらかじめ加温して溶融状態にするとともに、粘度を低下させておくことが必要になる場合がある。
なお、マトリックス樹脂には着色用の顔料や、成形後の耐久性などを考慮し、酸化防止剤、難燃剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤などを適宜配合してもよい。
【0017】
本発明において用いられる気密性フィルムは、バッグフィルムとも言われる物であり、フィルムで覆われた空間内を減圧時に気密状態に保持することができれば材質は特に問わないが、例えば、ポリアミド、ナイロン樹脂などをフィルム状にしたものを用いることが好ましい。
【0018】
本発明においては、気密性フィルムで覆われた空間内を気密状態にするために気密性フィルムと成形型との間にシール材を用いる。ここで用いられるシール材は、減圧時に気密性フィルムで覆われた空間内に空気が入らないように気密状態に保持することができれば、材質は特に問わないが、ブチルゴムテープなどを用いることが好ましい。
【0019】
なお、本発明においては、強化繊維層を成形型に巻きつけることにより、成形品の形状が決定されることから、円筒状、角筒状のいずれの形状の成形品の製造にも使用できる。
【0020】
本発明の製造方法においては、従来からのインフュージョン成形方法に用いられている強化繊維層の表面に配置される樹脂拡散媒体(以下、「表面拡散媒体」と記す)のほかに、強化繊維層を厚み方向に分かれた複数の分割層に分割し、分割層と分割層の間にも樹脂拡散媒体を挟み込ませることができる。
【0021】
ここで、分割層間に配置される樹脂拡散媒体(以下、「層間拡散媒体」と記す)は、マトリックス樹脂の流動拡散を促進し、強化繊維層内にマトリックス樹脂を均一かつ迅速に含浸させるためのもので、マトリックス樹脂が毛管現象等を利用して拡散しながら流動するような拡散流路を備えていれば特に限定されず、従来からインフュージョン成形に用いられている樹脂拡散媒体(例えば、AIRTECH社製GreenFlow75)を用いることができる。
【0022】
このような構造の樹脂拡散媒体としては、例えば図3、図4のように下材となるガラス繊維糸(モノフィラメントを含む)などを並列に配置した後、その上に交差するように上材となるガラス繊維糸などを配置し、繊維同士の接触部分を上記熱硬化性樹脂や上記熱可塑性樹脂などで結合したり、繊維同士を融着させて形成したシート状のものや、あるいは、図5のような形状にした上記熱可塑性樹脂のシート状の射出成形品などが挙げられる。さらに、ガラス繊維糸などを織物にしたものも用いることができる。
【0023】
また、ガラス繊維糸などは、マトリックス樹脂が糸を構成する繊維間に含浸せず、マトリックス樹脂の拡散流動がスムースに行えるように、また、樹脂拡散媒体の強度を確保するために、集束剤や上記熱硬化性樹脂や上記熱可塑性樹脂などによって繊維同士が結束状態となったものを用いることが好ましい。
また、層間拡散媒体は、成形品の一部を構成することから、成形品内における強度不良箇所とならないようにするため、かかる層間拡散媒体に用いる材料は、強化繊維層を構成する強化繊維あるいはマトリックス樹脂と同じ材料を用いることが好ましい。
【0024】
なお、層間拡散媒体は、分割層と分割層との間に挟まれるため、上下の分割層を構成する強化繊維が拡散流路内に入り込んでマトリックス樹脂の流動が妨げられないような構造とする必要がある。
因みに、図3〜図5に示すような構造の樹脂拡散媒体を用いる場合、並列に並ぶガラス繊維糸の間隔が大きくなりすぎるとガラス繊維糸間をマトリックス樹脂がスムースに流動しないし、逆にガラス繊維糸の間隔が小さくなりすぎるとマトリックス樹脂が流動するスペースが存在しなくなることから、ガラス繊維糸の間隔を2〜5mm程度にすることが好ましい。
また、樹脂拡散媒体が織物の場合、織り方については特に限定させず、平織、綾織、朱子織など、どのような織り方でもよいが、織目が大きくなりすぎると織目の間をマトリックス樹脂がスムースに流動しないし、また、織目が小さくなりすぎるとマトリックス樹脂が含浸するスペースが存在しなくなることから、織目は、2〜5mm程度にすることが好ましい。
【0025】
層間拡散媒体の強度については、マトリックス樹脂を含浸する際の減圧雰囲気下において、拡散流路が減圧によって大気圧を受けた場合にも、層間拡散媒体の厚みが1mm以上の厚みを保ち、拡散流路となる空間を十分に確保できる強度にしておくことが好ましい。
また、層間拡散媒体は、その大きさや分割層間に配置される位置等は所定の流動拡散を行うことができれば特に限定されないが、少なくとも一部を強化繊維層の端縁から強化繊維層の外側にはみ出すように設けられ、このはみ出し部分にマトリックス樹脂が供給されるようにすることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明にかかる筒型繊維強化樹脂成形品の製造方法は、強化繊維を外周に積層させた成形型を立てた状態でマトリックス樹脂を強化繊維層の下端から含浸させるように構成されているので、マトリックス樹脂の含浸に伴い強化繊維層中の空気が上端に向かって押し上げられながら排出されるため、強化繊維層に効率よくマトリックス樹脂を含浸させ、含浸不良のない筒型繊維強化樹脂成形品を製造することができる。
【0027】
また、強化繊維層の上方に設けた吸気口から気密空間内の空気を気密空間外に排気するとともに気密空間内を減圧状態に吸引しながらマトリックス樹脂を供給すれば、毛管現象によってマトリックス樹脂が強化繊維層に含浸されるだけでなく、強制的に引き込む作用を加えることができることから、さらに強化繊維層に効率よくマトリックス樹脂を含浸させ、含浸不良のない筒型繊維強化樹脂成形品を製造することができる。
【0028】
更に、樹脂を含浸してない状態の強化繊維層を成形型に巻付けた後にマトリックス樹脂の含浸を行うことから、強化繊維層の巻付け量が必要量・必要肉厚になっているか否かを容易に確認できるため、筒型繊維強化樹脂成形品の肉厚管理を正確に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に、本発明を、その実施の形態をあらわす図面を参照しつつ詳しく説明する。
図1は、本発明にかかる筒型繊維強化樹脂成形品の製造方法の一例における樹脂含浸前の模式図を表している。
図1おいて、1は円柱成形型、2は強化繊維層、3は樹脂拡散媒体、4は気密性フィルム、5は樹脂供給管、6は空気吸気管、7はシール材、8は気密空間である。
【0030】
図2は、本発明にかかる筒型繊維強化樹脂成形品の製造方法の一例における強化繊維層の積層方法の模式図を表している。
図2において、1は円柱成形型、2は強化繊維層、9は強化繊維、10は成形型1を回転する回転装置である。
【0031】
まず、回転装置10に成形型1を取り付け、回転装置10を稼働させ、成形型1を回転させることによって、長尺の強化繊維9を成形型1の型面に巻回して円筒型をした強化繊維層2を型面に沿って設ける。その後、強化繊維層2の外周に樹脂拡散媒体3を巻きつける。なお、強化繊維層2の肉厚が薄い場合や用いる強化繊維9の密度が低い強化繊維層2の場合など、マトリックス樹脂の強化繊維層2への含浸を促進する必要がないと考えられる場合には、かかる樹脂拡散媒体3を用いる必要はない。
【0032】
次に、強化繊維層2の下端部または樹脂拡散媒体3の下端部にリング状をして樹脂供給口(図示せず)を備えた樹脂供給管5を外嵌させ、成形型1の上端にはリング状をして吸気口(図示せず)を備えた空気吸気管6を配置する。その後、かかる成形型1を気密性フィルム4で覆い、成形型1の上下で、成形型1と気密性フィルム4との間にシール材7を設け、強化繊維層2を気密空間8内に収容する。
【0033】
次に、成形型1を回転装置10から取り外し、図1に示すように、成形型1を成形型1の軸が水平面に対して略垂直となるように立てて、空気吸気管6を図示していない真空ポンプに接続し、樹脂供給管5を図示していないマトリックス樹脂を入れた容器と接続する。その後、上記真空ポンプを稼動させて、空気吸気管6の吸引口から気密空間8内の空気を吸引排気して、気密空間8内の気圧がー0.08MPa以下になるまで減圧する。そして、減圧が完了したのち、真空ポンプの稼動を続けて減圧を続けながら上記容器内のマトリックス樹脂を樹脂供給管5の樹脂供給口から気密空間8内に供給して、強化繊維層2の下端からマトリックス樹脂を強化繊維層2に含浸させる。
【0034】
そして、強化繊維層2の上端までマトリックス樹脂の含浸が完了すると、真空ポンプの稼動を停止する。なお、マトリックス樹脂の含浸が完了したか否かは、強化繊維層2の色の変化を観察することによって容易かつ正確に判断できる。すなわち、樹脂含浸途中の状態を模式的に示す図6を用いて説明すると、マトリックス樹脂が含浸されると、強化繊維層2の色が強化繊維自体の色からマトリックス樹脂11の色に変化する。従って、強化繊維層2の色の変化を観察し、強化繊維層2の色が下端から上端までマトリックス樹脂11の色に完全に変化したことを確認すれば、強化繊維層2へのマトリックス樹脂含浸完了を容易に把握することができる。
【0035】
そして、マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂の場合にはマトリックス樹脂を加熱硬化させる、あるいは予め硬化剤を混合しておくことによってマトリックス樹脂の硬化を行う。また、マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂の場合には、供給時に溶融状態になるまで加温した樹脂を冷却させることによってマトリックス樹脂の固化を行う。
【0036】
最後に、マトリックス樹脂が硬化あるいは固化後、気密性フィルム4、樹脂拡散媒体3、を取り除くことによって成形品を得る。
【0037】
以下に、本発明の具体的な実施例を比較例と対比させて説明する。
(実施例)
以下に示す条件で、図1、図2に示す実施の形態と同様にして成形品を得た。
円柱成形型1:鋼鉄製金型(φ300 L300)
樹脂拡散媒体3:AIRTECH社製GreenFlow75(ポリプロピレン製)
気密性フィルム4:AIRTECH社製WRIGHTLON5400(ナイロン製)
シール材7:AIRTECH社製GS−AT−200Y
強化繊維9:日東紡績社製商品名ロービングクロスWR570B(目付570g/m2)
マトリックス樹脂11:ビニルエステル樹脂(日本ユピカ社製ネオポール8250)
減圧時の気密空間8内の圧力:−0.08MPa以下
含浸時間:30分
熱硬化温度:70℃
熱硬化時間:4時間
図7に樹脂含浸途中の筒型繊維強化樹脂成形品の断面図を示すが、マトリックス樹脂11の未含浸部分はなく、上記条件で得られた成形品に強度的な欠陥は認められなかった。
【0038】
(比較例)
図8に示すように、強化繊維層2を積層させた円柱成形型1を横に寝かせた状態にし、かかる状態における強化繊維層2の下端となる強化繊維層2の側面からマトリックス樹脂を供給したこと以外は、実施例1と同様にしてマトリックス樹脂の含浸を行った。
その結果、比較例においては、含浸開始から30分経過後に強化繊維層2の外周がマトリックス樹脂11の色に変化したことから、マトリックス樹脂の供給を停止し、成形品の作成を行った。
図8〜図11に、比較例における樹脂の含浸状態を表す図を示すが、最初に強化繊維層2の外周にマトリックス樹脂11が含浸し、強化繊維層2の内部に充分なマトリックス樹脂11が行き渡る前に強化繊維層2の全面の色が変化してしまっており、樹脂硬化後の成形品において未含浸部分12が認められた。
【0039】
上記実施例及び比較例から、円柱成形型1を立てた状態でマトリックス樹脂を強化繊維層2の下端から含浸させれば、強化繊維層2の厚みが増えても迅速にマトリックス樹脂の含浸をすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の筒型繊維強化樹脂成形品の製造方法は、例えば、繊維強化樹脂パイプや管継手などの筒型成形品の製造や、洗浄塔の筒状部などの製造に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明にかかる筒型繊維強化樹脂成形品の製造方法の一例における樹脂含浸前の状態を説明する模式図である。
【図2】本発明にかかる筒型繊維強化樹脂成形品の製造方法の一例における強化繊維層の積層方法の模式図である。
【図3】本発明にかかる樹脂拡散媒体の1例を示す斜視図である。
【図4】図3の樹脂拡散媒体のA−A線断面図である。
【図5】樹脂拡散媒体の他の例を示す斜視図である。
【図6】実施例の製造方法の樹脂含浸途中の状態を説明する模式図である。
【図7】図6のB−B線断面図である。
【図8】比較例の製造方法の樹脂含浸途中の状態を説明する模式図である。
【図9】図8のC−C線断面図である。
【図10】比較例の製造方法の樹脂含浸終了時の状態を説明する模式図である。
【図11】図10のD−D線断面図である。
【図12】従来技術における筒型繊維強化樹脂成形品の製造方法の模式図である。
【符号の説明】
【0042】
1 円柱成形型
2 強化繊維層
3 樹脂拡散媒体
4 気密性フィルム
5 樹脂供給管
6 空気吸気管
7 シール材
8 気密空間
9 強化繊維
10 回転装置
11 マトリックス樹脂
12 未含浸部分
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状または柱状をした成形型の型面に沿って強化繊維からなる筒型をした強化繊維層を設け、気密性フィルムと前記成形型との間に形成される気密空間内に少なくとも前記強化繊維層を収容し、前記気密空間内を大気圧より減圧したのち、この減圧状態を保ちながら気密空間外からマトリックス樹脂を前記気密空間内に供給して前記強化繊維層に含浸させる工程を備える筒型繊維強化成形品の製造方法であって、前記成形型を立てた状態で前記マトリックス樹脂を前記強化繊維層の下端から含浸させることを特徴とする筒型繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
前記強化繊維層の上方に設けた吸気口から前記気密空間内の空気を前記気密空間外に排気するとともに前記気密空間内を減圧状態に吸引しながら、マトリックス樹脂を供給する請求項1に記載の筒型繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項1】
筒状または柱状をした成形型の型面に沿って強化繊維からなる筒型をした強化繊維層を設け、気密性フィルムと前記成形型との間に形成される気密空間内に少なくとも前記強化繊維層を収容し、前記気密空間内を大気圧より減圧したのち、この減圧状態を保ちながら気密空間外からマトリックス樹脂を前記気密空間内に供給して前記強化繊維層に含浸させる工程を備える筒型繊維強化成形品の製造方法であって、前記成形型を立てた状態で前記マトリックス樹脂を前記強化繊維層の下端から含浸させることを特徴とする筒型繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
前記強化繊維層の上方に設けた吸気口から前記気密空間内の空気を前記気密空間外に排気するとともに前記気密空間内を減圧状態に吸引しながら、マトリックス樹脂を供給する請求項1に記載の筒型繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−248553(P2009−248553A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103195(P2008−103195)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】
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