説明

箔転写射出成形方法および箔転写射出成形装置、ならびに金型

【課題】立体形状の成形品を箔転写射出成形しても、フィルムのしわや破れを回避できる箔転写射出成形方法を提供する。
【解決手段】第1金型11と第2金型12を接近させて、第2金型12に設けられた枠状の可動ブロック15を第1金型11に当接させ、第1金型11と第2金型12との間に配置されたフィルム13と、第2金型12と、可動ブロック15とで、密閉された空間を形成し、第2金型12に設けられた気体注入路18から前記密閉された空間に気体を注入して、フィルム13を第1金型11の凹部11aに沿うようにプリフォームする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品の射出成形と同時に、その成形品の表面にフィルムの転写層を転写する箔転写射出成形方法および箔転写射出成形装置、ならびに、箔転写射出成形に使用される金型に関する。
【背景技術】
【0002】
箔転写射出成形は、成形品の射出成形と同時に、その成形品の表面にフィルムの転写層を転写することにより、成形品の表面を加飾したり、成形品の表面に所望の機能を付与する工法である。具体的には、例えば色、絵柄、模様等の意匠が印刷された意匠膜を有する転写層、あるいは、例えば抗菌、シールド効果、指紋レスなどの機能を持つ機能膜を有する転写層が基材上に積層された構造のフィルムを上型と下型との間に配置して型締めし、上型と下型によって形成される空間(キャビティ)に樹脂を射出注入した後、型開きすることで、成形品を成型すると同時に、その成形品の表面にフィルムの転写層を転写することができる。なお、箔転写射出成形には、金型の型開き時に、基材から転写層を剥離して、転写層のみを成形品の表面に接着させるものと、金型の型締め時にフィルムの必要部分を打ち抜き、基材ごと成形品の表面に接着させるものがある。
【0003】
以上のように箔転写射出成形は、表面に転写層を有する成形品を射出成形によって得ることができる。しかし、箔転写射出成形を立体形状の成形品に適用した場合、溶融樹脂の射出圧力によるフィルムの伸びが均一にならず、しわが発生するおそれがある。また、成形品の隅部においては、射出圧力が集中してフィルムの伸びが大きくなるため、破れが発生するおそれがある。したがって、成形品が立体形状の場合、フィルムの伸びの不均衡や、フィルムの局部への射出圧力の集中が、実用化への課題となっている。
【0004】
上記課題に対し、金型に吸引機構を設け、その吸引力によりフィルムを予め金型の凹面の沿わすことにより、フィルムの伸びの不均衡によるしわや、フィルムの局部への射出圧力の集中による破れの防止を図る射出成形同時転写装置が、例えば特許文献1に提案されている。
【0005】
図12に、特許文献1に開示されている射出成形同時転写装置を示す。この図12に示す射出成形同時転写装置は、一対の金型1、2の間に、転写層を有する転写フィルム3を送り込み、金型のパーティング面4に設けられたエアー吸引部5によって転写フィルム3を吸い付け、金型のパーティング面4の所定位置に固定した後、金型1のキャビティ形成部6に形成されている吸気孔7より転写フィルム3を吸引して金型1のキャビティの表面に沿わせた後、金型を型閉めし、溶融樹脂を射出して、冷却固化し、型開きすることにより、成形品の射出成形と同時に、その成形品の表面にフィルムの転写層を転写する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−200780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の装置では、吸引力にてフィルムを金型の凹面に沿わすので、金型の凹面にフィルムを沿わせる力は最大でも1気圧(1kg/cm)となり、金型の凹面にフィルムを密着させて沿わすには圧力が不足する。つまり、フィルムの伸びが不足する。そのため、金型の凹面にフィルムが完全に密着せず、最終的に、溶融樹脂の射出圧力によってフィルムを金型の凹面に沿わせることになる。その結果、フィルムを伸ばす作用が局所的に急に働くことになり、フィルムが破れたり、フィルムの伸びの不均衡からフィルムにしわが発生するおそれがある。したがって、吸引力によりフィルムを金型の凹面に沿わす方法は、伸び率の少ない、平面形状に近い成形品への適用に限定される。
【0008】
本発明は、上記従来の問題点に鑑み、立体形状の成形品を箔転写射出成形しても、フィルムのしわや破れを回避できる箔転写射出成形方法および装置、ならびに、箔転写射出成形に使用される金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の箔転写射出成形方法は、第1金型と第2金型との間にフィルムを配置し、前記フィルムを前記第1金型の凹部に沿うようにプリフォームし、前記第1金型と前記第2金型を型締めして、前記第1金型と前記第2金型によって形成される空間に、前記第2金型に設けられた樹脂注入路から樹脂を射出注入した後、前記第1金型と前記第2金型を型開きすることで、成形品を成形すると同時に、前記フィルムの転写層を前記成形品の表面に転写する箔転写射出成形方法であって、前記フィルムをプリフォームする際に、前記第1金型と前記第2金型を接近させて、前記第2金型に設けられた枠状の可動ブロックを前記第1金型に当接させ、前記第1金型と前記第2金型との間に配置された前記フィルムと、前記第2金型と、前記可動ブロックとで、密閉された空間を形成し、前記第2金型に設けられた気体注入路から前記密閉された空間に気体を注入して、前記フィルムを前記第1金型の凹部に沿うようにプリフォームすることを特徴とする。
【0010】
本発明の箔転写射出成型方法は、前記密閉された空間を形成する際に、前記第2金型に設けられた凸部を前記フィルムに接触させ、フィルム加熱手段によって加熱された前記第2金型の凸部の熱を前記フィルムへ伝熱させてもよい。
【0011】
本発明の箔転写射出成型方法は、前記密閉された空間への気体の注入開始後に、前記第2金型に設けられた冷却手段による冷却を開始してもよい。
【0012】
本発明の箔転写射出成型方法は、前記密閉された空間へ注入する気体として、熱風を用いてもよい。
【0013】
本発明の箔転写射出成型方法は、前記密閉された空間に気体を注入する際に、前記第1金型に設けた可動入れ子を駆動して、前記第1金型の凹部の底面の少なくとも一部を後退させ、その後退により形成された空間内に前記フィルムの一部が到達した後に元の位置に戻し、前記フィルムを前記第1金型の凹部に沿うようにプリフォームしてもよい。
【0014】
また、本発明の箔転写射出成形装置は、第1金型と第2金型との間にフィルムを配置し、前記フィルムを前記第1金型の凹部に沿うようにプリフォームしてから、前記第1金型と前記第2金型を型締めして、前記第1金型と前記第2金型によって形成される空間に、前記第2金型に設けられた樹脂注入路から樹脂を射出注入した後、前記第1金型と前記第2金型を型開きすることで、成形品を成形すると同時に、前記フィルムの転写層を前記成形品の表面に転写する箔転写射出成形装置であって、前記第2金型に、前記第1金型と前記第2金型が接近すると前記第1金型に当接して、前記第1金型と前記第2金型との間に配置された前記フィルムおよび前記第2金型とともに、密閉された空間を形成する枠状の可動ブロックと、前記密閉された空間に気体を注入するための気体注入路と、を設け、前記気体注入路から前記密閉された空間に気体を注入することによって、前記フィルムを前記第1金型の凹部に沿うようにプリフォームすることを特徴とする。
【0015】
本発明の箔転写射出成形装置は、前記第2金型に、前記密閉された空間が形成されるときに前記フィルムに接触する凸部と、その凸部を加熱するフィルム加熱手段と、を設け、前記第2金型の凸部に接触する前記フィルムを加熱してもよい。
【0016】
本発明の箔転写射出成形装置は、前記第2金型に冷却手段を設け、前記密閉された空間への気体の注入開始後に、前記冷却手段による冷却を開始してもよい。
【0017】
本発明の箔転写射出成形装置は、前記密閉された空間へ注入する気体に熱を与える気体加熱手段を備えてもよい。
【0018】
本発明の箔転写射出成形装置は、前記第1金型に、前記第1金型の凹部の底部の少なくとも一部を成す可動入れ子を設け、前記可動入れ子を後退させて、その後退により形成された空間内に、前記フィルムの一部が、前記密閉された空間への気体の注入によって到達した後に、前記可動入れ子を元の位置に戻し、前記フィルムを前記第1金型の凹部に沿うようにプリフォームしてもよい。
【0019】
また、本発明の金型は、一対の第1金型と第2金型からなり、前記第2金型に、前記第1金型と前記第2金型が接近して前記第1金型に当接すると、前記第1金型と前記第2金型との間に配置されたフィルムおよび前記第2金型とともに、密閉された空間を形成する枠状の可動ブロックと、前記密閉された空間に気体を注入するための気体注入路と、前記第1金型と前記第2金型が型締めされて形成される空間に樹脂を注入するための樹脂注入路と、を設けたことを特徴とする。
【0020】
本発明の金型は、前記第2金型に、前記密閉された空間が形成されるときに前記フィルムに接触する凸部と、その凸部を加熱するフィルム加熱手段と、を設けてもよい。
【0021】
本発明の金型は、前記第2金型に冷却手段を設けてもよい。
【0022】
本発明の金型は、前記第1金型に、前記第1金型の凹部の底部の少なくとも一部を成す可動入れ子を設けてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、立体形状の成形品を射出成形すると同時に、その成形品の表面にフィルムの転写層を転写する場合でも、フィルムを均一に伸ばすことができ、フィルムのしわや破れを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態1に係る箔転写射出成形装置の要部を示す断面図
【図2】本発明の実施の形態1に係る箔転写射出成形の密閉空間形成工程を示す工程断面図
【図3】本発明の実施の形態1に係る箔転写射出成形のフィルムプリフォーム工程を示す工程断面図
【図4】本発明の実施の形態1に係る箔転写射出成形の型締め工程を示す工程断面図
【図5】本発明の実施の形態1に係る箔転写射出成形の溶融樹脂充填工程を示す工程断面図
【図6】本発明の実施の形態1に係る箔転写射出成形の成形品取り出し工程を示す工程断面図
【図7】本発明の実施の形態1に係る箔転写射出成形のフィルムプリフォーム工程において、フィルムが金型に当接する前の状態を示す工程断面図
【図8】本発明の実施の形態1に係る箔転写射出成形のフィルムプリフォーム工程において、フィルムが金型の凹部の底面に当接した直後の状態を示す工程断面図
【図9】本発明の実施の形態1に係る箔転写射出成形のフィルムプリフォーム工程において、フィルムが金型の凹部に完全に沿う直前の状態を示す工程断面図
【図10】本発明の実施の形態2に係る箔転写射出成形のフィルムプリフォーム工程において、可動入れ子を後退させている状態を示す工程断面図
【図11】本発明の実施の形態2に係る箔転写射出成形のフィルムプリフォーム工程において、可動入れ子を元の位置に戻した状態を示す工程断面図
【図12】従来の射出成形同時転写装置を示す図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。但し、同じ構成要素には同じ符号を付して、重複する説明を省略する場合もある。なお、図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示している。また、図示された各構成要素の厚み、長さ、個数等は図面作成の都合上から、実際とは異なる。
【0026】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1に係る箔転写射出成形装置の要部を示す断面図である。
【0027】
図1に示すように、この装置は、一対の第1金型11と第2金型12からなる金型と、その第1金型11と第2金型12との間に、成形ショットごとにフィルム13を送って配置するためのフィルム送り装置14と、を備えている。
【0028】
フィルム13は、転写層13aが基材13b上に積層された構造となっている。転写層13aは、例えば色、絵柄、模様等の意匠が印刷された意匠膜、あるいは、例えば抗菌、シールド効果、指紋レスなどの機能を持つ機能膜を有する。
【0029】
この実施の形態1における金型は、下型である第1金型11に凹部11aが設けられており、上型である第2金型12に、第1金型11の凹部11aに入り込む凸部12aが設けられており、第1金型11と第2金型12が型締めされると、第1金型11の凹部11aと、その凹部11aに入り込んだ第2金型12の凸部12aとの隙間によってキャビティが形成され、そのキャビティに、第2金型12に形成されている樹脂注入路12bから溶融樹脂が射出注入される構造となっている。
【0030】
第2金型12には、枠状の可動ブロック15が、第1金型11の凹部11aを囲むように、バネ16によって支持されて設けられている。この可動ブロック15の先端面には、弾性体の一例であるOリング17が設けられている。
【0031】
さらに、第2金型12には気体注入路18が形成されている。気体注入路18は、図示しない圧縮気体供給手段から送り込まれた圧縮気体をフィルム13へ向けて噴出して、フィルム13を第1金型11の凹部11aに沿うようにプリフォームする。圧縮気体供給手段は、例えば、ガスボンベと、そのガスボンベに接続された弁等を用いて構成することができる。
【0032】
また、第2金型12には、フィルム加熱手段の一例である加熱ヒータ19が設けられている。この加熱ヒータ19は、図示しないヒータ駆動手段に接続されており、そのヒータ駆動手段から電流が供給されることで熱を発生して第2金型12の凸部12aを昇温させ、第2金型12の凸部12aに接触しているフィルム13を加熱軟化させて伸びやすい状態にする。したがって、加熱ヒータ19は第2金型12の凸部12aに設けるのが好適である。なお、フィルム加熱手段はヒータに限定されるものではなく、例えば、第2金型12に熱風回路を形成して、その熱風回路に熱風を送りこむなどしてもよい。
【0033】
また、第2金型12には、冷却手段の一例である冷却水路20が形成されている。この冷却水路20に、図示しないポンプから冷却水が送り込まれて、金型が冷却されることで、キャビティに充填された溶融樹脂が冷却、固化される。なお、金型を冷却する手段は冷却水に限定されるものではなく、例えば、第2金型12に冷媒路を形成して、その冷媒路に冷媒を送りこむなどしてもよい。
【0034】
また、第2金型12には、気体注入路18に送り込まれる圧縮気体を加熱するための気体加熱手段の一例である熱風ユニット21が設けられている。熱風ユニット21は、例えばヒータ等で構成することができる。
【0035】
続いて、以上のように構成された箔転写射出成形装置の動作について説明する。図2〜図6は、本発明の実施の形態における箔転写射出成形の各工程の断面図である。
【0036】
まず、フィルム送り装置14によりフィルム13の所定の範囲が第1金型11と第2金型12との間に送られて配置された後、図2に示すように、第2金型12を第1金型11へ向けて移動させて、第1金型11と第2金型12とを接近させることにより、枠状の可動ブロック15を押し出すバネ16のバネ力の作用でOリング17を第1金型11に押し付けて、フィルム13と可動ブロック15と第2金型12によって、気密性が確保された密閉空間を形成する。
【0037】
密閉空間を形成する際には、第2金型12aの凸部12aをフィルム13に接触させて、加熱ヒータ19によって昇温された第2金型12の凸部12aの熱をフィルム13に伝熱させ、フィルム13を加熱軟化させて伸びやすい状態にする。したがって、第2金型12aの凸部12aがフィルム13に接触した時点においてフィルム軟化温度まで昇温しているように、第2金型12に設けられた加熱ヒータ19を駆動させるのが好適である。このようにすれば、例えば、第2金型12aの凸部12aがフィルム13に接触してから加熱ヒータ19を駆動する場合よりも、成形サイクルタイムを短くすることができる。
【0038】
加熱ヒータ19による加熱動作は、例えば、第2金型12の凸部12aに温度測定手段を設けておき、第2金型12の凸部12aがフィルム軟化温度に達すると停止するように制御してもよい。
【0039】
なお、Oリング17等の弾性体は必要に応じて設ければよく、無くても密閉空間の気密性を確保できるのであれば、設けなくてもよい。
【0040】
次に、図3に示すように、フィルム13と可動ブロック15と第2金型12によって密閉された空間へ、気体注入路18から、熱風ユニット21によって加熱された圧縮気体を注入することにより、フィルム13を第1金型11の凹部11aに沿うようにプリフォームする。
【0041】
このように、熱風ユニット21によって加熱された圧縮気体を注入することにより、第2金型12の凸部12aから離れたことによるフィルム13の温度の低下を抑制して、伸びやすい状態を保ちながらフィルム13をプリフォームすることができる。
【0042】
なお、圧縮気体の注入によってフィルム13が第2金型12の凸部12aから離れると、第2金型12の凸部12aの熱が必要無くなる上、後の工程において、溶融樹脂をキャビティに射出充填した後に冷却して固化するので、圧縮気体の注入の開始後に、冷却水路20に冷却水を注入して、加熱ヒータ19によって昇温された第2金型12の冷却を開始するのが好適である。
【0043】
冷却水の注入動作は、第2金型12の凸部12aに温度測定手段を設けておき、第2金型12の凸部12aが所定の温度(例えば、金型のキャビティに充填した溶融樹脂が固化する温度)に達すると停止するように制御してもよい。冷却水の注入動作停止後は、冷却水路20の中から冷却水が無くなるまで、エアーパージを行う。
【0044】
このように、圧縮気体の注入によってフィルム13が第2金型12の凸部12aから離れるときに、冷却水路20への冷却水の注入を開始することで、例えば、溶融樹脂がキャビティに充填された後に冷却水の注入を開始する場合に比べて、成形サイクルタイムを短くすることができる。
【0045】
冷却水によって第2金型12の凸部12aが所定の温度に到達するまでの時間は、冷却水の温度を低くすればすれほど、短くすることができる。また、冷却水の温度を低くすればするほど、第2金型12の凸部12aに対して設定する所定の温度(冷却水の注入を停止させるための温度)を下げることができ、キャビティに充填した溶融樹脂の固化に要する時間を短縮できる。したがって、冷却水の温度は、金型のキャビティへ注入中の溶融樹脂の流動性を考慮に入れて、その流動性が阻害されない範囲で、可能な限り低く設定するのが好適である。
【0046】
次に、図4に示すように、圧縮気体の注入を停止し、第1金型11を型閉め方向へさらに移動させて型締めする。
【0047】
次に、図5に示すように、第1金型11と第2金型12により形成されたキャビティ22に、第2金型12の樹脂注入路12bから溶融樹脂23を射出注入して充填する。この充填された溶融樹脂23は、冷却されて固化する。
【0048】
最後に、図6に示すように、第1金型11を型開き方向へ移動させて型開きする。これにより、表面に転写層13aが転写された成形品24を得る。
【0049】
なお、以上説明した箔転写射出成形装置の動作は、記憶部にあらかじめ記憶されている、装置全体の動作を規定するプログラムに従って、制御部が装置全体の動作を制御することで実現することができる。
【0050】
以上のように、この実施の形態1によれば、フィルム13と可動ブロック15と第2金型12とによって密閉された空間へ圧縮気体を注入するので、フィルム13が第2金型12側から受ける圧力を第1金型11側から受ける圧力より高くすることができ、かつ、第1金型11側からフィルム13に均一に力をかけることができる。したがって、フィルム13を均一に伸ばして、第1金型11の凹部11aに密着させることができ、フィルム13のしわや破れを抑制することができる。よって、表面にしわや破れの無い立体形状の成形品を得ることができる。
【0051】
また、この実施の形態1によれば、圧縮気体によってフィルム13を伸ばす前に、フィルム13を加熱軟化させて伸びやすい状態にするので、フィルム13をより均一に伸ばすことが可能となり、フィルム13のしわや破れをより抑制することができる。
【0052】
さらに、この実施の形態1によれば、フィルム13を伸ばす圧縮気体も加熱しているので、フィルム13が第2金型12から離れた後も、フィルム13の温度が下がるのを防止することができる。したがって、フィルム13のしわや破れをより抑制することができる。
【0053】
また、この実施の形態1によれば、現在、塗装や、溶剤を使用した表面処理によって実施されている立体形状の成形品の表面コーティングを、箔転写射出成形にて実現できるようになるので、近年重要視されている環境問題を解決することができる。
【0054】
(実施の形態2)
続いて、実施の形態2について説明する。但し、前述した実施の形態1と異なる点を説明して、実施の形態1と重複する説明は省略する。
【0055】
まず、図7〜図9を用いて、実施の形態1において説明した箔転写射出成形工程のうち、図2に示す状態から図3の状態に至るまでのフィルム13の状態の変化を、時間の経緯とともに、もう少し詳しく説明する。
【0056】
図2に示す状態において、フィルム13と可動ブロック15と第2金型12とによって密閉された空間へ圧縮気体の注入を開始すると、フィルム13に完全に均一な圧力がかかり、図7に示すように、フィルム13の全面が均一に伸びる。
【0057】
その後、更にフィルム13が伸びて、図8に示すように、第1金型11の凹部11aの底面にフィルム13が当接する。そのフィルム13の第1金型11と当接している部分25は、フィルム13と第1金型11との摩擦力により、その他のフィルム13の部位に比べて、伸び率が少なくなる。
【0058】
そして、図9に示すように、第1金型11の凹部11aの隅部11bに向かってフィルム13が伸びて、図3に示すように、フィルム13は、完全に第1金型11の凹部11aに沿った状態にプリフォームされる。したがって、第1金型11の凹部11aの隅部11bに対面するフィルム13の部位の伸びが最後まで続くので、その部位の伸び量が他の部位に比べて大きくなる。
【0059】
このように、前述した実施の形態1でも、フィルム13の伸びに若干の不均衡が生ずる。
【0060】
そこで、この実施の形態2では、図10に示すように、第1金型11の凹部11aの底部の少なくとも一部を可動入れ子26によって構成し、圧縮気体を注入する際に、図示しないアクチュエータによって可動入れ子26を駆動して、フィルム13が伸びても金型に当接しないように後退させておき、フィルム13が所定量伸びて、その一部が可動入れ子26の後退によって生じた空間に到達した段階で、図11に示すように元の位置に移動させ、フィルム13を第1金型11の凹部11aに沿うようにプリフォームする。
【0061】
以上説明した実施の形態2によれば、フィルム13を第1金型11の凹部11aに沿わす際に、第1金型11の凹部11a側に伸びたフィルム11が第1金型11の凹部11aの底面に触れないように、第1金型11の凹部11aの底部に設けた可動入れ子26をフィルム13から逃げる方向へ移動させるので、フィルム13の全体をより均一に伸ばすことができる。つまり、成形品の隅部に対面するフィルム13の部位も含めて均一に伸ばすことができるので、更にフィルム13の伸びを均一にすることができる。したがって、前述した実施の形態1に比べて、より深絞りの成形品への適用が可能となる。
【0062】
なお、以上説明した実施の形態1および2では、上型である第2金型12のみが可動して、下型である第1金型11に対して接近および離間する場合について説明したが、無論、下型である第1金型11のみが可動する場合や、下型である第1金型11と上型である第2金型12が共に可動する場合も同様に実施することができる。
【0063】
また、上記した実施の形態1および2では、金型の型開き時に、基材13bから転写層13aが剥離して、転写層13aのみが成形品の表面に接着する場合について説明したが、無論、金型の型締め時にフィルムの必要部分を打ち抜き、基材ごと転写層を成形品の表面に接着させる場合も同様に実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明にかかる箔転写射出成形方法および箔転写射出成形装置、ならびに金型によれば、立体形状の成形品を箔転写射出成形しても、フィルムのしわや破れを抑制することができ、深絞り立体形状の成形品に有用である。
【符号の説明】
【0065】
1 金型
2 金型
3 転写フィルム
4 パーティング面
5 エアー吸引部
6 キャビティ形成部
7 吸気孔
11 第1金型
11a 凹部
11b 隅部
12 第2金型
12a 凸部
12b 樹脂注入路
13 フィルム
13a 転写層
13b 基材
14 フィルム送り装置
15 可動ブロック
16 バネ
17 Oリング
18 気体注入路
19 加熱ヒータ
20 冷却水路
21 熱風ユニット
22 キャビティ
23 溶融樹脂
24 成形品
25 フィルムが金型と当接している部分
26 可動入れ子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金型と第2金型との間にフィルムを配置し、前記フィルムを前記第1金型の凹部に沿うようにプリフォームし、前記第1金型と前記第2金型を型締めして、前記第1金型と前記第2金型によって形成される空間に、前記第2金型に設けられた樹脂注入路から樹脂を射出注入した後、前記第1金型と前記第2金型を型開きすることで、成形品を成形すると同時に、前記フィルムの転写層を前記成形品の表面に転写する箔転写射出成形方法であって、前記フィルムをプリフォームする際に、
前記第1金型と前記第2金型を接近させて、前記第2金型に設けられた枠状の可動ブロックを前記第1金型に当接させ、前記第1金型と前記第2金型との間に配置された前記フィルムと、前記第2金型と、前記可動ブロックとで、密閉された空間を形成し、
前記第2金型に設けられた気体注入路から前記密閉された空間に気体を注入して、前記フィルムを前記第1金型の凹部に沿うようにプリフォームする
ことを特徴とする箔転写射出成形方法。
【請求項2】
前記密閉された空間を形成する際に、前記第2金型に設けられた凸部を前記フィルムに接触させ、フィルム加熱手段によって加熱された前記第2金型の凸部の熱を前記フィルムへ伝熱させることを特徴とする請求項1記載の箔転写射出成形方法。
【請求項3】
前記密閉された空間への気体の注入開始後に、前記第2金型に設けられた冷却手段による冷却を開始することを特徴とする請求項2記載の箔転写射出成形方法。
【請求項4】
前記密閉された空間へ注入する気体として、熱風を用いることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の箔転写射出成形方法。
【請求項5】
前記密閉された空間に気体を注入する際に、前記第1金型に設けた可動入れ子を駆動して、前記第1金型の凹部の底面の少なくとも一部を後退させ、その後退により形成された空間内に前記フィルムの一部が到達した後に元の位置に戻し、前記フィルムを前記第1金型の凹部に沿うようにプリフォームすることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の箔転写射出成形方法。
【請求項6】
第1金型と第2金型との間にフィルムを配置し、前記フィルムを前記第1金型の凹部に沿うようにプリフォームしてから、前記第1金型と前記第2金型を型締めして、前記第1金型と前記第2金型によって形成される空間に、前記第2金型に設けられた樹脂注入路から樹脂を射出注入した後、前記第1金型と前記第2金型を型開きすることで、成形品を成形すると同時に、前記フィルムの転写層を前記成形品の表面に転写する箔転写射出成形装置であって、
前記第2金型に、前記第1金型と前記第2金型が接近すると前記第1金型に当接して、前記第1金型と前記第2金型との間に配置された前記フィルムおよび前記第2金型とともに、密閉された空間を形成する枠状の可動ブロックと、前記密閉された空間に気体を注入するための気体注入路と、を設け、
前記気体注入路から前記密閉された空間に気体を注入することによって、前記フィルムを前記第1金型の凹部に沿うようにプリフォームする
ことを特徴とする箔転写射出成形装置。
【請求項7】
前記第2金型に、前記密閉された空間が形成されるときに前記フィルムに接触する凸部と、その凸部を加熱するフィルム加熱手段と、を設け、前記第2金型の凸部に接触する前記フィルムを加熱することを特徴とする請求項6記載の箔転写射出成形装置。
【請求項8】
前記第2金型に冷却手段を設け、前記密閉された空間への気体の注入開始後に、前記冷却手段による冷却を開始することを特徴とする請求項7記載の箔転写射出成形装置。
【請求項9】
前記密閉された空間へ注入する気体に熱を与える気体加熱手段を備えることを特徴とする請求項6ないし8のいずれかに記載の箔転写射出成形装置。
【請求項10】
前記第1金型に、前記第1金型の凹部の底部の少なくとも一部を成す可動入れ子を設け、前記可動入れ子を後退させて、その後退により形成された空間内に、前記フィルムの一部が、前記密閉された空間への気体の注入によって到達した後に、前記可動入れ子を元の位置に戻し、前記フィルムを前記第1金型の凹部に沿うようにプリフォームすることを特徴とする請求項6ないし9のいずれかに記載の箔転写射出成形装置。
【請求項11】
一対の第1金型と第2金型からなり、
前記第2金型に、
前記第1金型と前記第2金型が接近して前記第1金型に当接すると、前記第1金型と前記第2金型との間に配置されたフィルムおよび前記第2金型とともに、密閉された空間を形成する枠状の可動ブロックと、
前記密閉された空間に気体を注入するための気体注入路と、
前記第1金型と前記第2金型が型締めされて形成される空間に樹脂を注入するための樹脂注入路と、
を設けたことを特徴とする金型。
【請求項12】
前記第2金型に、前記密閉された空間が形成されるときに前記フィルムに接触する凸部と、その凸部を加熱するフィルム加熱手段と、を設けたことを特徴とする請求項11記載の金型。
【請求項13】
前記第2金型に冷却手段を設けたことを特徴とする請求項12記載の金型。
【請求項14】
前記第1金型に、前記第1金型の凹部の底部の少なくとも一部を成す可動入れ子を設けたことを特徴とする請求項11ないし13のいずれかに記載の金型。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−250379(P2012−250379A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122991(P2011−122991)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】