説明

管路補修部材およびそれを用いた管路ならびに管路補修部材の製造方法

【構成】 管路補修部材10は、管本体12および補強繊維14を含み、既設管路100内で拡径されてその内面と密着することによって、既設管路100を補修する。補強繊維14は、一般繊維によって形成される芯糸(22)と高強度繊維によって形成されて芯糸(22)の外面に巻き付けられる鞘糸(24)とを含む複合糸であり、管本体12の管壁部に周方向に巻回される。管路補修部材10が拡径される際には、芯糸(22)が伸長または破断し、それに伴って螺旋形状であった鞘糸(24)が真っ直ぐに伸びるように変形することによって、管路補修部材10が拡径可能となる。
【効果】 補強繊維によって補強しながらも拡径可能であり、かつコストを低減できる管路補修部材を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は管路補修部材およびそれを用いた管路ならびに管路補修部材の製造方法に関し、特にたとえば、既設管路内に挿通された後、拡径されて既設管路の内面に密着される、管路補修部材およびそれを用いた管路ならびに管路補修部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の管路補修部材の一例が特許文献1に開示されている。特許文献1の管路補修部材(管路の補修用管体)では、筒状織布の内外面に熱可塑性樹脂の被覆層を形成し、これら内外の被覆層同士を筒状織布の布目を通して一体化させている。そして、筒状織布のよこ糸には、ガラス繊維などの高剛性糸が使用され、筒状織布は、補修用管体が拡径できるように、周方向に織り縮み形状を有している。
【0003】
また、特許文献2には、鋳鉄管や鋼管等の金属パイプの代替として用いられるプラスチックパイプに関する技術が開示されている。特許文献2のプラスチックパイプでは、プラスチックからなる導管と防食層との間に補強用シートが配置されている。この補強用シートは、芳香族ポリアミド繊維などの高強度繊維によって形成される複数の補強繊維フィラメント束が、合成樹脂製の保持シートの表面に対して平行かつ直線状に配列した状態で貼り付けられて形成されている。
【特許文献1】特許第3473801号公報 [B29C 63/34]
【特許文献2】特許第3540205号公報 [F16L 11/00]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、補修用管体の補強用に筒状織布を用いているが、繊維を円筒状に織るための設備は、特殊かつ高価なものである。また、筒状織布の内外層に被覆層を均等に形成することも難しく、その設備も特殊かつ高価なものが必要となる。つまり、特許文献1の補修用管体は、製造することが難しく、設備コストも大きくなってしまう。
【0005】
また、特許文献2の技術では、補強繊維フィラメント束が、高強度を有する単一材料の連続体によって形成されており、プラスチックパイプの周方向の伸長が規制されている。つまり、特許文献2のプラスチックパイプは、拡径させることが困難であるので、既設管路内で拡径して既設管路に密着させる管路補修工法に用いる管路補修部材には適用できない。
【0006】
それゆえに、この発明の主たる目的は、新規な、管路補修部材およびそれを用いた管路ならびに管路補修部材の製造方法を提供することである。
【0007】
この発明の他の目的は、補強繊維によって補強しながらも拡径可能であり、かつコストを低減できる、管路補修部材およびそれを用いた管路ならびに管路補修部材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上記の課題を解決するために、以下の構成を採用した。なお、括弧内の参照符号および補足説明などは、本発明の理解を助けるために後述する実施の形態との対応関係を示したものであって、この発明を何ら限定するものではない。
【0009】
第1の発明は、既設管路内に挿通された後、拡径されて既設管路の内面に密着される管路補修部材であって、熱可塑性樹脂によって形成される管本体、および管本体の管壁部に配置されて、当該管本体の周方向に巻回される補強繊維を備え、補強繊維は、拡径時に伸長または破断する芯糸、および高強度繊維によって形成され、芯糸の外面に巻き付けられる鞘糸を含む、管路補修部材である。
【0010】
第1の発明では、管路補修部材(10)は、管本体(12)および補強繊維(14)を備え、既設管路(100)内に挿入された後に拡径されて、既設管路の内面と密着することによって、既設管路を補修する。管本体は、熱可塑性樹脂によって形成される。また、補強繊維は、管本体の管壁部、たとえば管壁内部や管壁外面に配置されるものであり、管本体の周方向に巻回される。補強繊維としては、芯糸(22)と芯糸の外面に巻き付けられる鞘糸(24)とによって形成される複合糸が用いられる。芯糸は、ナイロンやポリエステル等の一般繊維によって形成され、施工時において管路補修部材が拡径されたときに、伸長または破断するものである。すなわち、芯糸を形成する繊維としては、管路補修部材の拡径時の条件、一例として90−100℃程度の高温下において0.05−0.5MPa程度の圧力が加えられたときに、容易に伸長または破断する繊維が用いられる。鞘糸は、拡径後(施工後)の管路補修部材の強度および耐圧性を保持するものであり、芳香族ポリアミド繊維やガラス繊維などの高強度繊維によって形成される。ここで、高強度繊維とは、10cN/dtex以上の引張強度を有する繊維をいう。施工時に管路補修部材が拡径される際には、芯糸が伸長または破断し、それに伴って鞘糸が真っ直ぐに伸びるように変形することによって、管路補修部材が拡径可能となる。
【0011】
第1の発明によれば、補強繊維によって補強しながらも周方向に拡径可能な補修管路部材を提供できる。また、円筒状に織った補強繊維を製作する必要がないので、コストを低減でき、口径の大きい補修管路部材も比較的容易に製造できる。
【0012】
第2の発明は、第1の発明に従属し、拡径時の最大径が、鞘糸の周当たりの実効長によって規定される。
【0013】
第2の発明では、管路補修部材(10)の拡径時の最大径は、鞘糸(24)の周当たりの実効長(軸垂直方向の長さまたは断面投影長さ)によって規定される。したがって、既設管路の内面に対して管路補修部材を適切に密着させることができる。
【0014】
第3の発明は、第1または第2の発明に従属し、管路補修部材は、所定温度で加熱して前記拡径を行うものであり、芯糸の軟化温度は、前記所定温度以下であり、鞘糸の軟化温度は、前記所定温度より高い。
【0015】
第3の発明では、管路補修部材(10)は、所定温度で加熱することによって拡径される。芯糸(22)は、その所定温度(加熱温度)以下の軟化温度を有する繊維によって形成され、鞘糸(24)は、その所定温度より高い軟化温度を有する繊維によって形成される。
【0016】
第3の発明によれば、管路補修部材の拡径時に芯糸が軟化するので、芯糸が拡径時に伸長または破断し易くなり、管路補修部材をより容易に拡径させることができる。
【0017】
第4の発明は、第1ないし第3のいずれかの発明に従属し、補強繊維は、管本体の管軸方向に対して少なくとも内外2層に周方向に巻回される。
【0018】
第4の発明では、補強繊維(14)は、管本体(12)の管軸方向に対して、内外の少なくとも2層に周方向に巻回される2方向巻き(左右巻き)とされる。
【0019】
第4の発明によれば、管路補修部材の強度および耐圧性を向上させることができる。
【0020】
第5の発明は、第1ないし第4のいずれかの発明に従属し、補強繊維は、シート状に形成された後に管本体の管壁部に配置される。
【0021】
第5の発明では、補強繊維(14)を用いて補強繊維シート(30)を形成した後、その補強繊維シートを管本体(12)に対して周方向に巻回すことによって、補強繊維が管本体の周方向に巻回される。たとえば、補強繊維シートとしては、少なくとも経糸の一部に補強繊維を使用して平織りしたものが用いられる。
【0022】
第6の発明は、第1ないし第5のいずれかの発明に従属し、管本体の管壁部に配置されて管軸方向に延びる高強度糸をさらに備える。
【0023】
第6の発明では、管本体(12)の管壁部には、補強繊維(14)に加えて、管軸方向に直線状に延びる高強度糸(32)が設けられる。高強度糸は、鞘糸(24)と同様に、芳香族ポリアミド繊維やガラス繊維などの高強度繊維によって形成される。
【0024】
第6の発明によれば、管軸方向の伸びが規制されるので、既設管路内に引き込まれる際に破断し難くなる。
【0025】
第7の発明は、第1ないし第6のいずれかの発明の管路補修部材を用いて内面を補修した管路である。
【0026】
第7の発明においても、第1ないし第6のいずれかの発明と同様の作用効果を示すと共に、既設管路と管路補修部材とが協働することによって、内圧および外圧に耐え得る強度および耐圧性を有する管路を提供できる。
【0027】
第8の発明は、既設管路に挿通された後、拡径されて既設管路の内面に密着される管路補修部材の製造方法であって、(a)拡径時に伸長または破断する芯糸と、高強度繊維によって形成されて芯糸の外面に巻き付けられる鞘糸とによって形成される補強繊維を製作するステップ、(b)熱可塑性樹脂によって形成される円筒状の内層を形成するステップ、および(c)ステップ(a)で製作した補強繊維をステップ(b)で形成した内層の外面に周方向に巻回するステップを含む、管路補修部材の製造方法である。
【0028】
第8の発明では、ステップ(a)において、たとえば、複数本の一般繊維を下撚りして芯糸(22)を形成すると共に、複数本の高強度繊維を下撚りして鞘糸(24)を形成し、芯糸の外面に鞘糸を螺旋状に巻き付けることによって、補強繊維(14)を製作する。そして、ステップ(b)において、たとえば硬質ポリエチレン等の熱可塑性樹脂を円筒状に押し出して内層(18)を形成し、ステップ(c)において、形成した内層の外面に対して補強繊維を周方向に巻回すことによって、管路補修部材(10)を製造する。なお、内層に巻き付けた補強繊維の外側に硬質ポリエチレン等の熱可塑性樹脂をさらに被覆して外層(20)を形成することもできる。
【0029】
第8の発明によれば、補強繊維によって補強しながらも周方向に拡径可能な補修管路部材を低コストで製造できる。また、口径の大きい補修管路部材も比較的容易に製造できる。
【発明の効果】
【0030】
この発明によれば、補強繊維によって補強しながらも周方向に拡径可能な補修管路部材を提供できる。また、円筒状に織った補強繊維を製作する必要がないので、コストを低減でき、口径の大きい補修管路部材も比較的容易に製造できる。
【0031】
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う後述の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明の一実施例の管路補修部材を用いて管路を補修するときの管路補修部材の動作を示す図解図であり、(A)は既設管路内への管路補修部材の挿入時の様子を示し、(B)は管路補修部材の拡径途中の様子を示し、(C)は既設管路の内面に管路補修部材が密着した様子を示す図解図である。
【図2】図1の管路補修部材を示す断面図である。
【図3】補強繊維の配置態様を説明するために外層の一部を省略した管路補修部材を示す図解図である。
【図4】補強繊維の外観を示す図解図である。
【図5】管路補修部材の拡径時における補強繊維の動作の一例を模式的に示す図解図である。
【図6】撚り数を変更した際の補強繊維の伸び率と引張強さとの関係を示すグラフである。
【図7】管路補修部材の製造装置の一例を示す図解図である。
【図8】この発明の管路補修部材の他の実施例において、外層の一部および外側の補強繊維の一部を省略した管路補修部材を示す図解図である。
【図9】この発明の管路補修部材のさらに他の実施例において、外層の一部を省略した管路補修部材を示す図解図である。
【図10】この発明の管路補修部材のさらに他の実施例において、外層の一部を省略した管路補修部材を示す図解図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1を参照して、この発明の一実施例である管路補修部材10は、上下水道、農業用水路、工業用水路およびガス管路などの既設管路100を補修するためのものであり、既設管路100内に挿入された後に拡径されて、既設管路100の内面と密着することによって、既設管路100を補修する。詳細は後述するように、管路補修部材10は、補強繊維14によって補強されているので、上述の既設管路100の中でも特に、内圧が作用する地下埋設の既設管路100(内圧管)の補修に好適に用いられる。
【0034】
なお、補修する既設管路100の材質は、特に限定されず、管路補修部材10は、鉄筋コンクリート管、陶管、鋳鉄管、鋼管および合成樹脂管などの様々な既設管路100の補修に適用可能である。また、補修する既設管路100の大きさは、特に限定されないが、管路補修部材10は、呼び径(内径)が75−700mmであって、補修長さが数m−数100mである既設管路100の補修に好適に用いられる。
【0035】
図2に示すように、管路補修部材10は、硬質ポリエチレンや硬質ポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂によって形成される円筒状の管本体12、および管本体12の管壁内部に配置される補強繊維14を備える。すなわち、管路補修部材10は、補強繊維14を含む中間層16の内面および外面を、熱可塑性樹脂によって形成される内層18および外層20によって被覆した三層構造を有する長尺の筒状体である。この実施例では、熱可塑性樹脂は、高密度ポリエチレン樹脂である。
【0036】
管路補修部材10の外径は、既設管路100の内径よりも少し小さめに設定され、施工時における拡径後に、既設管路100の内径と同じ大きさ(ほぼ同じ大きさを含む)となるように設定される。また、管路補修部材10の管壁全体の厚みは、その外径に応じて設定され、たとえば2−10mmである。具体的には、管路補修部材10の外径が150mmの場合、管壁全体の厚みは、たとえば3−4mm程度である。
【0037】
補強繊維14は、図3に示すように、管本体12の周方向に巻回される。なお、図3では、補強繊維14が螺旋状に延びていることが分かりやすいように、隣り合う補強繊維14の間に間隔を形成しているが、隣り合う補強繊維14同士は、密に接していてもよいし、重なり合っていてもよい。もちろん、図3と同様に間隔が開くように配置してもよい。また、中間層16は、補強繊維14のみで形成されてもよいし、補強繊維14に加えて管本体12の管壁を形成する熱可塑性樹脂が含まれていてもよい。すなわち、内層18と外層20とが補強繊維14間を通る熱可塑性樹脂を介して一体化していてもよいし、内層18と外層20とが密に接する補強繊維14によって分断されていてもよい。
【0038】
図4は、補強繊維14の外観の一例を示す。図4を参照して、補強繊維14は、芯糸22および鞘糸(絡み糸)24によって形成される複合糸である。この実施例では、芯糸22は、棒状に形成され、その芯糸22の外面に沿って鞘糸24が巻き付けられる。
【0039】
芯糸22は、施工時において管路補修部材10が拡径されるときに、伸長または破断するものである。すなわち、芯糸22を形成する繊維としては、管路補修部材10を拡径するときの条件において、伸長または破断する繊維が用いられる。一例として、所定温度での加熱(通常、この加熱温度は、管本体12の管壁を形成する熱可塑性樹脂が軟化し始める温度以上に設定される)および所定圧力での加圧によって拡径される管路補修部材10の場合には、芯糸22を形成する繊維としては、その拡径時の条件、たとえば90−100℃程度の高温下において0.05−0.5MPa程度の圧力が加えられたときに、伸長または破断する繊維が用いられる。また、所定温度で加熱して拡径される管路補修部材10の場合には、芯糸22は、拡径時に伸長または破断し易いように、その所定温度(加熱温度)以下の軟化温度を有する繊維によって形成されることが好ましい。ただし、芯糸22は、後述する管路補修部材10の製造において管本体12内に補強繊維14が周方向に巻回されるときに、鞘糸24の螺旋形状を保持する必要があるので、少なくともそのための強度を有する。なお、芯糸22を形成する繊維は、後述する鞘糸24を形成する高強度繊維と比較して、低強度または高伸度を有する一般的な繊維を用いるので、以下、芯糸22を形成する繊維を一般繊維と呼ぶことがある。
【0040】
具体的には、芯糸22を形成する一般繊維としては、合成繊維、無機繊維および天然繊維などのいずれを用いてもよく、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維およびポリウレタン系繊維などの合成繊維、セルロース系繊維などの半合成繊維、綿、麻および羊毛などの天然繊維を例示でき、これらを単独で、或いは2種類以上を混合する等して用いることができる。この中でも特に、ポリアミド系繊維またはポリエステル系繊維が好ましい。また、これらの繊維は、長繊維を用いてもよいし、短繊維を用いてもよい。
【0041】
鞘糸24は、拡径後(施工後)の管路補修部材10或いは管本体12の強度および耐圧性を保持(補強)するものであり、高強度繊維によって形成される。ここで、高強度繊維とは、10cN/dtex以上の引張強度を有する繊維をいい、少なくとも管路補修部材10を拡径するときの条件において、伸長または破断しない繊維である。また、所定温度で加熱して拡径される管路補修部材10の場合には、鞘糸24は、その所定温度(加熱温度)よりも高い軟化温度を有する繊維によって形成される。
【0042】
具体的には、鞘糸24を形成する高強度繊維としては、芳香族ポリアミド繊維、ガラス繊維、炭素繊維、芳香族ポリエステル繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維(PBO繊維)および超高分子量ポリエチレン繊維などを用いることができる。なお、これらの高強度繊維は、長繊維を用いてもよいし、短繊維を用いてもよい。
【0043】
このような補強繊維14は、たとえば、1または複数本の一般繊維に下撚りを加えて芯糸22とすると共に、1または複数本の高強度繊維に下撚りを加えて鞘糸24とし、両者を合わせて上撚りを加えることで芯糸22の外面に鞘糸24が螺旋状に巻き付いた複合糸とすることによって製作される。このような補強繊維14の製作には、公知の撚糸機を用いることができる。なお、芯糸22および鞘糸24における下撚りは、必ずしも行う必要はない。たとえば、芯糸22は、管本体12内に補強繊維14を螺旋状に配置するときに、鞘糸24の螺旋形状を保持する強度を有すればよいので、モノフィラメントを用いてもよい。一方、高強度が求められる鞘糸24に関しては、複数本の高強度繊維に下撚りを加えて形成することが好ましい。
【0044】
補強繊維14の太さ(繊度)は、芯糸22および鞘糸24を形成する繊維の種類によって異なるが、たとえば補強繊維14全体で1000−20000dtexである。また、芯糸22全体では、たとえば500−10000dtexであり、鞘糸24全体では、たとえば500−10000dtexである。また、補強繊維14の撚り加工条件は、補強繊維14に求められる特性に応じて適宜設計可能であるが、下記の数式(数1)で表される撚り係数kが0.4−10.4の範囲であることが好ましく、2.0−7.5の範囲であることがより好ましい。
【0045】
【数1】

【0046】
ここで、kは撚り係数を示し、Tmは撚り数[回/m]を示す。また、Dは繊度[dtex]を示し、ρは繊維素材の密度[g/cm3]を示す。
【0047】
図5は、管路補修部材10の拡径時における補強繊維10の変化の様子(動作)の一例を模式的に示す図である。たとえば、施工時において管路補修部材10を拡径するときには、管路補修部材10は、蒸気または熱水などによって、90−100℃程度に加熱されると共に、0.05−0.5MPa程度の内圧が加えられる。つまり、管路補修部材10の拡径時には、補強繊維22は加熱されると共に、周方向に伸びる力が補強繊維22に作用する。このとき、芯糸22は、加熱によって低強度化して、或いは元々有する低強度または高伸度の性質により、加圧によって伸長する。一方、芯糸22に巻き付けた(螺旋形状であった)鞘糸24は、この芯糸22の伸長に伴って、管路補修部材10の周方向に対して真っ直ぐに伸びるように変形していく。なお、管路補修部材10は、加熱してから機械的に拡径される場合もある。また、管路補修部材10は、加熱せずに機械的に拡径される場合もあり、この場合には、芯糸22は、元々有する低強度または高伸度の性質により、管路補修部材10の機械的拡径によって伸長し、鞘糸24は、その芯糸22の伸長に伴って変形する。
【0048】
図5に示すような挙動を管路補修部材10の拡径時に補強繊維10が示すので、管路補修部材10は、補強繊維14を有しながらも拡径可能となる。また、鞘糸24が管路補修部材10の周方向に対して真っ直ぐになった状態(張った状態)になると、鞘糸24の強度が作用するので、管路補修部材10は、それ以上拡径しない。つまり、管路補修部材10の拡径時の最大径は、鞘糸24の周当たりの実効長(軸垂直方向の長さまたは断面投影長さ)によって規定される。なお、図5では、一例として芯糸22が伸長のみする様子を示しているが、芯糸22は、伸長すると共に破断してもよいし、伸長せずに破断のみしてもよい。また、芯糸22が伸長または破断して鞘糸24が真っ直ぐになる態様には、鞘糸24が芯糸22に食い込むようにして、芯糸22の内部を通って(貫いて)鞘糸24が真っ直ぐになることもあり得る。
【0049】
なお、補強繊維14の伸び率(延いては管路補修部材10の拡径率)は、たとえば5−15%に設定される。これは、補強繊維14の伸び率が5%よりも小さいと、既設管路100の曲管部や屈曲部などへの追従(密着)が困難になるからであり、補強繊維14の伸び率が15%よりも大きいと、均一な拡径が困難になる(局部的に伸びてしまう)からである。また、補強繊維14の伸び率または管路補修部材10の拡径率は、補強繊維14の太さ(特に芯糸22の太さ)および撚り数を変更することで、適宜調整可能である。たとえば、芯糸22および鞘糸24の繊度を一定とし、それぞれの下撚り数や上撚り数を変更することで、図6に示すように補強繊維14の伸び率を調整することが可能である。
【0050】
次に、管路補修部材10の製造方法について説明する。図7は、管路補修部材10を製造する製造装置50の一例を示す。製造装置50は、第1押出機52、巻付機54および第2押出機56を備え、管路補修部材10を連続的に製造する。
【0051】
製造装置50では、先ず、第1押出機52が溶融した硬質ポリエチレン等の熱可塑性樹脂を円筒状に押し出して内層18を形成し、形成した内層18を巻付機54に送り出す。巻付機54は、形成した内層18の外側で同軸に回転する回転胴58を有しており、この回転胴58には斜め方向に延びる支持軸60が固定され、支持軸60の先端には補強繊維14が巻かれたボビン62が回転可能に支持される。巻付機54は、回転胴58を回転させながらボビン62から補強繊維14を解除することによって、第1押出機52から送り出された内層18の外面に対して、補強繊維14を巻き付けていく。その後、第2押出機56が補強繊維14の外側に溶融した硬質ポリエチレン等の熱可塑性樹脂を被覆して外層20を形成することによって、管路補修部材10が製造される。
【0052】
なお、内層18の外面に対して補強繊維14を巻き付ける際には、第1押出機52から送り出される内層18に対してそのまま補強繊維14を巻き付けてもよいし、内層18の外面に対して接着剤を塗布してから補強繊維14を巻き付けてもよい。また、内層18の外面を加熱軟化させ、補強繊維14を内層18に食い込ませるようにして巻き付けてもよい。また、補強繊維14に外層20を被覆する際には、溶融した熱可塑性樹脂が補強繊維14間に充填されて中間層16の一部を形成してもよい。
【0053】
続いて、管路補修部材10を用いた既設管路100の補修方法の一例について説明する。管路補修部材10は、上述のように、内圧が作用する地下埋設の既設管路100の補修に好適に用いられる。
【0054】
既設管路100を補修する際には、先ず、補修対象とする既設管路100の両端部(始点および終点)に立坑を掘削して、その掘削した立坑の近辺に、蒸気発生装置やウインチなどの施工に必要な各種装置および管路補修部材10などを準備する。管路補修部材10は、たとえば、偏平させた状態で、ドラムに巻き付けられて施工現場に搬入される。
【0055】
次に、既設管路100内へ管路補修部材10を引き込み易いように、管路補修部材10を予備加熱によって軟化させ、その軟化させた状態で、牽引ワイヤやウインチ等を用いて、既設管路100内に管路補修部材10を挿通していく(図1(A)参照)。そして、既設管路100の補修対象の全長に亘って管路補修部材10が挿通されると、管路補修部材10内に蒸気(または熱水)を供給して、管路補修部材10を90−100℃程度に加熱する共に、0.05−0.5MPa程度の内圧を加える。すると、管路補修部材10は、内面側から十分に加熱軟化されて円筒状に復元するとともに(図1(B)参照)、加圧によって拡径し、既設管路100の内面全体に管路補修部材10の外面が密着する(図1(C)参照)。このとき、補強繊維14の芯糸22は、たとえば加熱によって低強度化して、加圧によって容易に伸長または破断する。そして、芯糸22の伸長または破断に伴い、鞘糸24が管路補修部材10の周方向に沿って真っ直ぐになることで(図5参照)、管路補修部材10は、補強繊維14によって補強しながらも周方向に拡径可能となるのである。
【0056】
既設管路100に管路補修部材10を拡径密着させると、内圧を保持した状態で、管路補修部材10内に冷却空気などを供給して、管路補修部材10を冷却固化させる。その後、管端処理などを適宜行うことによって、管路補修部材10を用いた既設管路100の補修が終了する。このように既設管路100と密着して一体化した管路補修部材10は、既設管路100と協働して、内部流体からの内圧および土砂などからの外圧に耐え得る強度および耐圧性を発揮する。たとえば、内圧であれば4MPa程度の短期強度が確保できる。
【0057】
この実施例によれば、補強繊維14によって補強しながらも周方向に拡径可能な管路補修部材10を提供できる。また、円筒状に織った補強繊維を製作する必要がないので、コストを低減でき、口径の大きい補修管路部材10も比較的容易に製造できる。
【0058】
また、拡径させることが可能であるため、補修管路部材10は適度な屈曲性を有する。したがって、補修管路部材10は、既設管路100内に挿入し易く、曲管部にも対応可能となる。
【0059】
さらに、管路補修部材10の拡径後の外径寸法の調整が可能であるので、既設管路100の内面に対して適切に密着させることができる。また、管路補修部材10の拡径後(施工後)は、補強繊維14の鞘糸24が内部流体の内圧を支えるので、内層18および外層20の厚みを薄くでき、管路補修部材10の薄肉化を図ることができる。
【0060】
なお、上述の実施例では、棒状の芯糸22に鞘糸24を巻き付けた補強繊維14を用いたが、これに限定されず、補強繊維14は、芯糸22を螺旋状に形成し、その芯糸22の外面に沿って鞘糸24が螺旋状に延びるように形成する、つまり芯糸22と鞘糸24とが相互に巻き付くようにすることもできる。ただし、補強繊維14の伸び易さを考慮すると、芯糸22は棒状であることが好ましい。
【0061】
また、上述の実施例では、補強繊維14は、管路補強部材10の管軸方向の1方向のみに螺旋状に延びるようにしたが、図8に示す他の実施例のように、補強繊維14は、管軸方向の2方向に螺旋状に延びてもよい。つまり、補強繊維14は、内外の2層に螺旋状に延びる2方向巻き或いは左右巻きであってもよい。なお、補強繊維14は、3層以上に形成してもよい。これによって、管路補修部材10の強度および耐圧性を向上させることができる。
【0062】
さらに、上述の実施例では、補強繊維14を含む中間層16の内面および外面を、熱可塑性樹脂によって形成される内層18および外層20によって被覆した三層構造を有するようにしたが、外層20は必ずしも形成する必要はない。すなわち、管路補修部材10は、管本体12の管壁外面に補強繊維14を周方向に巻回した二層構造とすることもできる。なお、二層構造の管路補修部材10を製造する場合には、上述の管路補修部材10の製造方法において、外層20を形成する工程が省略される。
【0063】
また、図9に示す他の実施例のように、補強繊維14を用いて補強繊維シート30を形成し、その補強繊維シート30を周方向に巻回させることによって、管本体12の管壁内部または管壁外面に補強繊維14を周方向に巻回させることもできる。補強繊維シート30としては、たとえば、ナイロンやポリエステルなどの芯糸22と同様の材料を用いてフィルムや不織布などの保持シートを作成し、その保持シートの長尺方向に延びるように補強繊維14を貼り付けたものを用いることもできるし、少なくとも経糸の一部に補強繊維14を使用して平織りしたものを用いることもできる。
【0064】
また、図10に示す他の実施例のように、管本体12の管壁内部または管壁外面には、螺旋状に延びる補強繊維14に加えて、高強度繊維によって形成される1または複数の高強度糸32を管軸方向に直線状に延びるように配置することもできる。高強度糸32は、たとえば、鞘糸24と同様に、芳香族ポリアミド繊維などの高強度繊維の複数本を撚り合わせることによって形成するとよい。なお、高強度糸32は、補強繊維14(または補強繊維シート30)の内側に配置されてもよいし、外側に配置されてもよい。このように高強度糸32を設けることによって、管路補修部材10の管軸方向の伸びが規制されるので、管路補修部材10は、既設管路100内に引き込まれる際に、破断し難い構造となることができる。
【0065】
なお、上で挙げた寸法などの具体的数値は、いずれも単なる一例であり、製品の仕様などの必要に応じて適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0066】
10 …管路補修部材
12 …管本体
14 …補強繊維
16 …中間層
18 …内層
20 …外層
22 …芯糸
24 …鞘糸
30 …補強繊維シート
32 …高強度糸
50 …管路補修部材の製造装置
100 …既設管路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設管路内に挿通された後、拡径されて前記既設管路の内面に密着される管路補修部材であって、
熱可塑性樹脂によって形成される管本体、および
前記管本体の管壁部に配置されて、当該管本体の周方向に巻回される補強繊維を備え、
前記補強繊維は、
前記拡径時に伸長または破断する芯糸、および
高強度繊維によって形成され、前記芯糸の外面に巻き付けられる鞘糸を含む、管路補修部材。
【請求項2】
前記拡径時の最大径が、前記鞘糸の周当たりの実効長によって規定される、請求項1記載の管路補修部材。
【請求項3】
前記管路補修部材は、所定温度で加熱して前記拡径を行うものであり、
前記芯糸の軟化温度は、前記所定温度以下であり、
前記鞘糸の軟化温度は、前記所定温度より高い、請求項1または2記載の管路補修部材。
【請求項4】
前記補強繊維は、前記管本体の管軸方向に対して少なくとも内外2層に周方向に巻回される、請求項1ないし3のいずれかに記載の管路補修部材。
【請求項5】
前記補強繊維は、シート状に形成された後に前記管本体の管壁部に配置される、請求項1ないし4のいずれかに記載の管路補修部材。
【請求項6】
前記管本体の管壁部に配置されて、管軸方向に延びる高強度糸をさらに備える、請求項1ないし5のいずれかに記載の管路補修部材。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかの管路補修部材を用いて内面を補修した、管路。
【請求項8】
既設管路内に挿通された後、拡径されて前記既設管路の内面に密着される管路補修部材の製造方法であって、
(a)前記拡径時に伸長または破断する芯糸と、高強度繊維によって形成されて前記芯糸の外面に巻き付けられる鞘糸とによって形成される補強繊維を製作するステップ、
(b)熱可塑性樹脂によって形成される円筒状の内層を形成するステップ、
(c)前記ステップ(a)で製作した補強繊維を前記ステップ(b)で形成した内層の外面に周方向に巻回すステップを含む、管路補修部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−250452(P2012−250452A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125017(P2011−125017)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(505142964)クボタシーアイ株式会社 (192)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】