説明

箱抜き型枠及び箱抜き穴の施工方法

【課題】木製であっても複数回の転用を可能にし、かつ脱型作業を容易に行うことができる箱抜き型枠を提供する。
【解決手段】コンクリート構造物11に凹状の箱抜き穴13を成形するために用いられる箱抜き型枠10である。箱抜き型枠10は、複数の分割型枠211〜216を並べた状態で互いに連結することによって構成され、複数の分割型枠211〜216の間には、間隔保持部材51が挿入されている。この間隔保持部材51は、複数の分割型枠211〜216の間に形成される隙間Sの寸法と同一の厚さ寸法を有するとともに、この厚さ寸法を縮小するように変形可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル等のコンクリート構造物に凹状の箱抜き穴を成形するために用いられる箱抜き型枠、及びこの箱抜き型枠を使用した箱抜き穴の施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物であるトンネルには、例えば図15に示すように、非常電話、通報装置、消火器具等の各種設備を設けるための凹状の箱抜き穴313が形成されている。この箱抜き穴313は、例えば覆工コンクリート312の打設時に予め箱抜き型枠をセットしておくことによって覆工コンクリート312と同時に成形されるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、箱抜き穴313を成形するために用いられる箱抜き型枠として、従来、鋼製のものや木製のものが用いられている。鋼製の箱抜き型枠は耐久性が高く、多数回の転用が可能であるが、製造コストが高く、重量物であるために運搬や設置が煩雑になるという欠点がある。これに対して木製の箱抜き型枠は、比較的安価に製造することができ、運搬や設置も容易に行うことが可能であるが、耐久性が低く、脱型時に1回きりの使用で取り壊してしまうのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−110347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、トンネル内には、トンネルの延長が大きいほど、また交通量が多いほど、多種類の設備を設置することが要求され、その設置間隔も種類毎に所定に定められている。そのため、大規模のトンネルでは多くの箱抜き穴を形成する必要があり、製造コストや設置の煩雑さ等の欠点を考慮したとしても、多数回の転用が可能な鋼製の箱抜き型枠を使用することが有益である。
一方、数回程度の箱抜き型枠の転用が要求される小規模のトンネルにおいて、鋼製の箱抜き型枠を使用することはその利点よりも欠点の方が顕著となるため、専ら、木製の箱抜き型枠が使用される。この場合、箱抜き穴の数に応じて複数個の木製の箱抜き型枠を予め準備しておき、1箇所の箱抜き穴につき1個の箱抜き型枠を使用しているのが現状である。
【0006】
しかし、近年においては、工事費の削減や破壊された箱抜き型枠から生じる廃棄物の削減等の要請から、木製の箱抜き型枠においても数回の転用を可能にする試みがなされつつある。転用を可能にした従来の木製の箱抜き型枠の一例を図16に示す。
この箱抜き型枠310は複数個の分割型枠321を上下左右に並べることによって構成されており、各分割型枠321の間には間隔保持部材351が挿入されている。この間隔保持部材351は、箱抜き穴313の成形後に各分割型枠321間から取り外すことができるように、容易に取り壊すことができる発泡スチロールによって形成されている。
【0007】
そして、この箱抜き型枠310の周囲にコンクリートを打設して硬化させた後、各分割型枠321を脱型するには、まず、分割型枠321の間から発泡スチロール製の間隔保持部材351を取り外し、分割型枠321の間に隙間を形成する。そして、この隙間にバール等の工具を挿入しつつ、分割型枠321を隙間内で移動させることによって箱抜き穴313から各分割型枠321を取り外す。これにより、箱抜き型枠321自体は取り壊すことなく箱抜き穴313から脱型することができ、数回程度の転用であれば実用に耐え得るものであった。
【0008】
しかし、間隔保持部材351は、分割型枠321からの圧力がかかった状態で分割型枠321間から引き抜かなければならないので取り外しが非常に困難であり、この引き抜きの途中で間隔保持部材351が引きちぎられてしまうので、一層取り外しが困難となっていた。そのため、脱型作業に多くの時間と労力が必要になるという問題があった。また、引き抜かれた間隔保持部材351は破損していることから再利用することができず、箱抜き型枠321の転用の際には新たな間隔保持部材351が必要になるという問題もあった。さらに、箱抜き穴313の底面や内側面に発泡スチロールの残留物が付着し、箱抜き穴313の仕上がり状態が悪化するという問題もあった。
【0009】
本発明は、木製であっても複数回の転用を可能にし、かつ脱型作業を容易に行うことができる箱抜き型枠、及びこの箱抜き型枠を使用した箱抜き穴の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、コンクリート構造物に凹状の箱抜き穴を成形するために用いられ、当該箱抜き穴の底面を成形する底面成形部と当該箱抜き穴の内側面を成形する側面成形部とを有している箱抜き型枠であって、
当該箱抜き型枠は、前記底面成形部の一部と前記側面成形部の一部とを有する複数の分割型枠を並べた状態で互いに連結することによって構成されており、更に、複数の分割型枠の間に形成される隙間の寸法と略同一の厚さ寸法を有するとともにこの厚さ寸法を縮小するように変形可能であり、かつ厚さ方向と前記分割型枠の並び方向とを一致させた状態で前記隙間に挿入されることによって当該隙間の寸法を保持する間隔保持部材を備えていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、箱抜き型枠を構成する複数の分割型枠の間には間隔保持部材が挿入され、この間隔保持部材はその厚さを縮小可能であるので、分割型枠の脱型の際には、間隔保持部材の厚さを縮小することによって、複数の分割型枠の間から間隔保持部材を簡単に取り外すことができる。また、間隔保持部材を取り外すことによって、例えば複数の分割型枠の間に形成された隙間にバール等の工具を挿入するとともに当該工具を分割型枠に引っ掛け、当該分割型枠を隙間の範囲で移動させることができ、これによって分割型枠を取り壊すことなく簡単に脱型することができる。したがって、分割型枠が木製であっても複数回の転用が可能になる。また、間隔保持部材についても破損することなく簡単に取り外すことができるので再利用が可能となる。
【0012】
前記間隔保持部材は、厚さ方向に重合された複数の分割体から構成されており、複数の分割体の重合面は、厚さ方向に垂直な方向に対して傾斜する傾斜面とされていることが好ましい。
この構成によれば、複数の分割体を重合面に傾斜に沿って移動させることで間隔保持部材の厚さを容易に縮小することができる。
【0013】
また、間隔保持部材が、上記のように複数の分割体からなる場合、箱抜き型枠は、隣接する分割型枠とこの間に挿入された間隔保持部材とを当該間隔保持部材の厚さ方向に貫通するとともに、これら分割型枠及び間隔保持部材を共締め固定する連結具を、さらに備えていることが好ましい。
この構成によって、連結具により間隔保持部材の厚さ寸法を所定に保持可能であり、連結具を取り外すことによって、間隔保持部材の厚さ寸法を縮小することができるとともに、分割型枠の間から間隔保持部材を取り外すことが可能となる。
【0014】
前記間隔保持部材は、前記分割型枠の側面成形部と面一になるように配置されていることが好ましい。
この構成によって、間隔保持部材を利用して箱抜き穴の内側面を成形することができる。
【0015】
互いに隣接する分割型枠の底面成形部は、テーパー面からなる突き合わせ面を介して突き合わされていることが好ましい。
箱抜き型枠の周囲にコンクリートを打設すると、このコンクリートは硬化に伴って収縮し、箱抜き型枠に圧縮力を与える。箱抜き型枠の隣接する分割型枠は、底面成形部において突き合わされているが、この突き合わせ面が成形面に対して垂直な面であると上記圧縮力によって底面成形部が突っ張り合い、分割型枠を箱抜き穴から脱型することが困難となる。
本発明では、隣接する分割型枠の底面成形部の突き合わせ面がテーパー面とされているので、上記圧縮力は底面成形部同士を前後にずらす方向に作用し、これによって箱抜き穴から分割型枠を容易に脱型することが可能となる。
【0016】
また、上述の箱抜き型枠を使用してコンクリート構造物に箱抜き穴を成型する、本発明の箱抜き穴の施工方法は、複数の分割型枠を並べた状態で互いに連結するとともに、隣接する分割型枠の間に間隔保持部材を挿入することによって箱抜き型枠を組み立て、この箱抜き型枠を箱抜き穴の成形部位にセットするセット工程と、前記箱抜き型枠の周囲にコンクリートを打設して箱抜き穴を成型する成型工程と、成型された箱抜き穴から箱抜き型枠を脱型する脱型工程とを含み、前記脱型工程が、前記間隔保持部材の厚さ寸法を縮小して隣接する分割型枠の間から間隔保持部材を取り外す工程と、隣接する分割型枠の間に形成された隙間の範囲で各分割型枠を移動させながら脱型する工程とを含むこと特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の箱抜き型枠及び箱抜き穴の施工方法によれば、木製であっても複数回の転用が可能になり、脱型作業も容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)は本発明の第1の実施形態に係る箱抜き型枠の側面図、(b)は(a)のA部拡大図である。
【図2】箱抜き型枠の正面図である。
【図3】(a)は箱抜き型枠の上部側の平面図、(b)は(a)のB部拡大図である。
【図4】(a)は箱抜き型枠の下部側の平面図、(b)は(a)のC部拡大図である。
【図5】箱抜き型枠の上部側の分解斜視図である。
【図6】箱抜き型枠の下部側の分解斜視図である。
【図7】間隔保持部材の使用状態を示す斜視図である。
【図8】間隔保持部材の使用状態を示す断面図である。
【図9】間隔保持部材の分解斜視図である。
【図10】箱抜き型枠の脱型の手順を説明する説明図である。
【図11】箱抜き型枠の脱型の手順を説明する説明図である。
【図12】変形例に係る間隔保持部材の使用状態を示す断面図である。
【図13】本発明の第2の実施形態に係る箱抜き型枠の正面図である。
【図14】図13のE部拡大図である。
【図15】箱抜き穴が形成されたトンネルの一部断面図である。
【図16】従来の箱抜き型枠を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1(a)は本発明の第1の実施形態に係る箱抜き型枠10の側面図、(b)は(a)のA部拡大図である。図2は、箱抜き型枠10の正面図である。本実施形態の箱抜き型枠10は、トンネル11の覆工コンクリート12の内周面に対して、径方向内方(矢印F方向)に開放する凹状の箱抜き穴13を成形するものである。本実施形態の箱抜き穴13は、その上部側の左右幅、上下高さ、及び深さの各寸法が下部側の各寸法よりも大きく形成されている。したがって、この箱抜き穴13を成形する箱抜き型枠10も、上部側が大きく下部側が小さく形成されている。なお、以下の説明においては、矢印Fで示す方向を前方とし、その反対方向を後方とする。
【0020】
箱抜き型枠10は、木製の板材を組み合わせて接合することによって形成されており、箱抜き穴13の上部側を成形する上側型枠15と、箱抜き穴13の下部側を成形する下側型枠16とを備えている。上側型枠15及び下側型枠16は、それぞれ箱抜き穴13の底面17を成形する底面成形部18と、箱抜き穴13の内側面19を成形する側面成形部20とを有している。
また、箱抜き型枠10は、複数の分割型枠(第1〜第6分割型枠)211〜216を上下方向及び左右方向に並べて連結することによって構成されている。各分割型枠211〜216は、前方Fが開放した略直方体の箱型であり、それぞれ底面成形部18の一部と側面成形部20の一部とを有している。
【0021】
図5は、箱抜き型枠10の上部側(上側型枠15)を背面側から見た分解斜視図である。
図1,図2,及び図5に示すように、上側型枠15は、合計4個の分割型枠(第1〜第4分割型枠)211〜214から構成され、各分割型枠211〜214は、上下、左右に2個ずつ並設されている。本実施形態では、図2の左上側(図5の右上側)に配置された分割型枠を第1分割型枠211、図2の左下側(図5の右下側)に配置された分割型枠を第2分割型枠212、図2の右上側(図5の左上側)に配置された分割型枠を第3分割型枠213、図2の右下側(図5の左下側)に配置された分割型枠を第4分割型枠214とそれぞれ呼称する。
【0022】
図5に示すように、第1〜第4分割型枠211〜214は、それぞれ上側型枠15全体の底面成形部18の概ね1/4の大きさの分割底面成形部(第1〜第4分割底面成形部)181〜184を有しており、各分割底面成形部181〜184は、四角形状の板材から形成されている。
また、第1〜第4分割型枠211〜214は、それぞれ分割底面成形部181〜184の前面に固定された四角筒形状の枠本体部24を備えており、この枠本体部24の直交する2つの外面が上側型枠15の側面成形部20の一部を成形する分割側面成形部(第1〜第4分割側面成形部)201〜204とされている。図2に示すように、枠本体部24の筒内には十字状に補強板25が設けられている。
【0023】
図3(a)は箱抜き型枠10の上部側(上側型枠15)の平面図、(b)は(a)のB部拡大図である。図1〜図3に示すように、第1〜第4分割型枠211〜214は、互いに隣接する第1〜第4分割底面成形部181〜184の端面同士を突き合わせた状態で連結されている。そして、第1〜第4分割底面成形部181〜184の端面同士を突き合わせたとき、隣接する枠本体部24の間には隙間S(図2参照)が形成されるようになっている。この隙間Sは、第2〜第4分割型枠212〜214の第2〜第4分割底面成形部182〜184が、それぞれ第2〜第4枠本体部24から突出する突出部27を有していることによって形成されるものである。
【0024】
具体的には、図5に示すように、第2分割型枠212の第2分割底面成形部182の上部には突出部27が設けられ、第3分割型枠213の第3分割底面成形部183の右側部には突出部27が設けられ、第4分割型枠214の第4分割底面成形部184の上部及び右側部には突出部27が設けられている。第1分割型枠211の第1分割底面成形部181には突出部27は設けられていない。
【0025】
この分割底面成形部181〜184における突出部27の有無は、複数の分割型枠211〜214を箱抜き穴13から脱型する際の順序に関係している。具体的には、隣接する2つの分割型枠のうち、後から脱型される一方の分割型枠の分割底面成形部に、先に脱型される他方の分割型枠へ向けた突出部27が形成されている。
【0026】
図3及び図5に示すように、第1〜第4分割底面成形部181〜184の突き合わせ面は、成形面に対して約45°の傾斜を持ったテーパー面(傾斜面)とされている。具体的に、第1分割底面成形部181の下縁に形成されたテーパー面31は、背面側に向かうに従い上側へ傾斜し、左縁(第3分割型枠213側の縁)に形成されたテーパー面32は、背面側に向かうに従って右側(反第3分割型枠213側)へ傾斜している。
【0027】
第2分割底面成形部182の上縁に形成されたテーパー面33は背面側に向かうに従い上側へ傾斜して、前記テーパー面31に突き合わされ、左縁(第4分割型枠214側の縁)に形成されたテーパー面34は背面側に向かうに従い右側(反第4分割型枠214側)へ傾斜している。
第3分割底面成形部183の右縁(第1分割型枠211側の縁)に形成されたテーパー面35は背面側に向かうに従い右側(第1分割型枠211側)へ傾斜して、前記テーパー面32に突き合わされ、下縁に形成されたテーパー面36は背面側に向かうに従い上側へ傾斜している。
【0028】
さらに、第4分割底面成形部184の上縁に形成されたテーパー面37は背面側に向かうに従い上側へ傾斜して、前記テーパー面36に突き合わされ、右縁(第2分割型枠212側の縁)に形成されたテーパー面38は背面側に向かうに従い右側(第2分割型枠212側)へ傾斜して、前記テーパー面34に突き合わされる。
なお、テーパー面の角度は、約45°に限定されず、これよりも大きく又は小さくすることも可能である。
【0029】
図6は、箱抜き型枠10の下部側(下側型枠16)を背面側から見た分解斜視図である。
図1,図2,図6に示すように、下側型枠16は、合計2個の分割型枠(第5,第6分割型枠)215,216から構成され、各分割型枠215,216は左右に並べて配置されている。本実施形態では、図2の左側(図6の右側)に配置された分割型枠を第5分割型枠215と呼称し、図2の右側(図5の左側)に配置された分割型枠を第6分割型枠216と呼称する。
【0030】
図6に示すように、第5,第6分割型枠215,216は、それぞれ下側型枠16全体の底面成形部18の概ね1/2の大きさの分割底面成形部(第5,第6分割底面成形部)185,186を有しており、各分割底面成形部185,186は、四角形状の板材から形成されている。
【0031】
また、第5,第6分割型枠215,216は、それぞれ分割底面成形部185,186の前面に固定された四角筒形状の枠本体部24を備えており、この枠本体部24の直交する2つの面が、下側型枠16の側面成形部20の一部を成形する分割側面成形部205,206とされている。枠本体部24の筒内には一文字状に補強板43(図2参照)が設けられている。また、図2に示すように第5,第6分割型枠215,216の上面は、上側型枠15の下面に当接されているため、直接、箱抜き穴13の内側面19を成形するためには利用されていない。
【0032】
図4の(a)は箱抜き型枠10の下部側(下側型枠16)の平面図、(b)は(a)のC部拡大図である。
図2及び図4に示すように、第5,第6分割型枠215,216は、第5,第6分割底面成形部185,186の端面同士を突き合わせた状態で連結されている。そして、第5,第6分割底面成形部185,186の端面同士を突き合わせたとき、隣接する枠本体部24の間には隙間S(図2参照)が形成されるようになっている。この隙間Sは、第6分割型枠216の第6分割底面成形部186が枠本体部24から突出する突出部27を有していることによって形成されるものである。
【0033】
具体的には、図6に示すように、第6分割型枠216の第6分割底面成形部186の右側部に突出部27が設けられている。第5分割型枠215の第5分割底面成形部185には突出部27は設けられていない。
この分割底面成形部185,186における突出部27の有無は、複数の分割型枠215,216を箱抜き穴13から脱型する際の順序に関係している。具体的には、隣接する2つの分割型枠のうち、後に脱型される一方の分割型枠の分割底面成形部に、先に脱型される他方の分割型枠へ向けた突出部27が形成されている。
【0034】
図4(b)及び図6に示すように、第5,第6分割底面成形部185,186の突き合わせ面は、約45°の傾斜を持ったテーパー面とされている。具体的には図6に示すように、第5分割底面成形部185の左縁(第6分割型枠216側の縁)に形成されたテーパー面47は、背面側に向かうに従い右側(反第6分割型枠216側)へ傾斜している。逆に、第6分割底面成形部186の右縁(第5分割型枠215側の縁)に形成されたテーパー面48は、背面側に向かうに従って右側(第5分割型枠215側)へ傾斜して、テーパー面47に突き合わされる。
【0035】
以上に説明した第1〜第6分割型枠211〜216のテーパー面31〜38,47,48の傾斜方向は、箱抜き穴13から第1〜第6分割型枠211〜216を脱型する際の順番に関係して形成されている。この脱型の手順については後に詳細に説明する。
【0036】
図1及び図2に示すように、互いに隣接する分割型枠211〜216の枠本体部24の間には、間隔保持部材51が挿入されている。なお、図1,図2においては間隔保持部材51をわかりやすく示すためにハッチングを施している。本実施形態では、上側型枠15においては、隣接する第1〜第4分割型枠211〜214の各隙間Sに2個の間隔保持部材51が間隔をあけて挿入されている。下側型枠16においては、隣接する第5,第6分割型枠215,216の隙間Sに3個の間隔保持部材51が間隔をあけて挿入されている。
【0037】
以下、間隔保持部材51について、図2のD部に配置されたものを例に詳細に説明する。図7は、間隔保持部材51の使用状態を示す斜視図(図2のD部における斜視図)、図8は、間隔保持部材51の使用状態を示す断面図(図2のD部における正面断面図)、図9は、間隔保持部材51の分解斜視図である。
この間隔保持部材51は、一般にキャンバーと呼ばれるものであり、木製の2つの分割体53を重ね合わせることによって構成され、全体として略直方体のブロック形状に形成されている。この間隔保持部材51の厚さtは、隣接する分割型枠213,214の枠本体部24間に形成される隙間Sの寸法と同一寸法とされている。また、間隔保持部材51は、各分割型枠213,214の枠本体部24の奥行き寸法と略同一の長さ寸法Lを有し、枠本体部24の左右方向長さ及び上下方向長さよりも小さい幅寸法Wを有している。
【0038】
2つの分割体53の重合面55は、厚さt方向に垂直な方向に対して傾斜する傾斜面とされている。したがって、2つの分割体53を傾斜面55に沿って幅方向外側(図9の矢印a方向)にずらすことにより、間隔保持部材51の厚さtを縮小することができる。
【0039】
図8に示すように、この間隔保持部材51は、ボルト56及びナット57からなる連結具58によって分割型枠213,214に連結されている。具体的には、隣接する2つの分割型枠213,214の枠本体部24と間隔保持部材51とを貫通するボルト挿通孔59a,59bにボルト56を挿通し、このボルト56にナット57を締結することによって分割型枠213,214と間隔保持部材51とが連結されている。また、この連結具58によって隣接する分割型枠213,214同士も連結されている。
【0040】
間隔保持部材51は、2つの分割体53が連結具58により連結されることによって、分割型枠213,214の枠本体部24間の隙間S寸法に一致するように厚さtが保持される。そして、この連結具58を取り外せば、図9に示すように、2つの分割体53の相対位置規制が解かれるので、矢印a方向への相対移動により厚さ寸法tを縮小することができる。なお、間隔保持部材51に形成されたボルト挿通孔59bは、連結具58のボルト56の直径とほぼ同じ内径に形成され、両者の間にほとんど隙間が生じないように形成されている。これによって、連結具58によって連結された2つの分割体53の相対位置がガタツキなく定まり、厚さtを正確に設定することが可能となる。
【0041】
図7及び図8に示すように、間隔保持部1材51の一側面51aは、枠本体部24の側面成形部203,204と面一に配置されており、枠本体部24における側面成形部203,204とともに、箱抜き穴13の内側面19を成型するために利用されている。
【0042】
以上のように構成された箱抜き型枠10は、トンネル11内において覆工コンクリート12を打設する前にトンネル11内に設置され、覆工コンクリート12の打設時に同時に箱抜き穴13を成形する。また、箱抜き型枠10の底面成形部18及び側面成形部20には、成形後の箱抜き穴13からの脱型を容易にするために、剥離剤が塗布される。
【0043】
覆工コンクリート12が硬化した後、箱抜き型枠10は以下の手順で箱抜き穴13から脱型することができる。
まず、図2に示すように、分割型枠211〜216の枠本体部24同士、及び枠本体部24と間隔保持部材51とを連結する全ての連結具58を取り外す。間隔保持部材51は、箱抜き型枠10の周囲のコンクリートが硬化に伴い収縮することによって枠本体部24から圧縮力を受けるが、間隔保持部材51は、図9に示すように各分割体53の位置を傾斜面55に沿って幅方向にずらすことで厚さtを縮小することができるので、枠本体部24の隙間Sから間隔保持部材51を簡単に取り外すことができる。
【0044】
全ての間隔保持部材51を取り外した後、各分割型枠211〜216を箱抜き穴13から脱型する。この手順を図2、図10、及び図11を参照して説明する。図10及び図11は、箱抜き型枠10の脱型の手順を説明する図であり、これらの図では、箱抜き型枠10のうち、上側型枠15の底面成形部181〜184のみを正面側から見た状態が概略的に示されている。また、図10(a)は脱型前の各分割底面成形部181〜184の状態を示している。
【0045】
まず、第1分割型枠211を脱型する。具体的には、図2に示すように、各分割型枠211〜214の枠本体部24間に形成された隙間Sにバール等の工具を挿入して第1分割型枠211に引っ掛け、この第1分割型枠211を隙間Sの範囲で移動させることによって箱抜き穴13からの脱型を行う。この際、図10(b)に示すように、第1分割型枠211の第1分割底面成形部181は、第2分割底面成形部182及び第3分割底面成形部183に突き合わされているが、これらの突き合わせ面はテーパー面31,32,33,35とされているので、これらのテーパー面31,32,33,35に略沿った矢印I方向へ簡単に第1分割型枠211を移動させることができる。
【0046】
次いで、図2に示すように、上記と同様に隙間Sにバール等を挿入して第2分割型枠212に引っ掛け、第2分割型枠212を隙間Sの範囲で移動させることによって箱抜き穴13からの脱型を行う。この際、図10(c)に示すように、第2分割型枠212の第2分割底面成形部182と第4分割底面成形部184とはテーパー面34,38を介して突き合わされているので、このテーパー面34,38に略沿った矢印II方向へ向けて簡単に第2分割型枠212を移動させることができる。
【0047】
次いで、図2に示すように、上記と同様に隙間Sをバール等を挿入して第3分割型枠213に引っ掛け、第3分割型枠213を隙間Sの範囲で移動させることによって箱抜き穴13からの脱型を行う。この際、図11(a)に示すように、第3分割型枠213の第3分割底面成形部183と第4分割底面成形部184とはテーパー面36,37を介して突き合わされているので、これらテーパー面36,37に略沿った矢印III方向へ第3分割型枠213を簡単に移動させることができる。
【0048】
次いで、図2に示すように、バール等を第4分割型枠214に引っ掛け、第4分割型枠214を移動させることによって箱抜き穴13からの脱型を行う。この際、図11(b)に示すように、第4分割型枠214の周囲には広いスペースが形成されているので、当該スペースを利用して、例えば矢印IV方向へ第4分割型枠214を簡単に移動させ、脱型することができる。
【0049】
同様の要領で、残りの第5分割型枠215、第6分割型枠216をこの順で脱型する。第5分割型枠215を脱型する際、第5分割型枠215の第5分割底面成形部185は、第6分割底面成形部186と突き合わされているが、図6に示すように、これらの突き合わせ面がテーパー面47,48とされているので、このテーパー面47,48に略沿った方向へ第5分割型枠215を簡単に移動させることができる。
【0050】
以上に説明した本実施形態によれば、箱抜き型枠10は、複数の分割型枠211〜216を並べて連結することによって構成され、各分割型枠211〜216の間には間隔保持部材51が挿入されている。間隔保持部材51は、脱型時に厚さtを縮小することが可能であるので、各分割型枠211〜216の間から間隔保持部材51を破損することなく簡単に取り外すことができる。したがって、脱型作業に要する時間や労力を低減することが可能であり、間隔保持部材51を再利用することもできる。
【0051】
また、各分割型枠211〜216間から間隔保持部材51を取り外した後、各分割型枠211〜216間に形成された隙間Sを利用することによって分割型枠211〜216を取り壊すことなく容易に箱抜き穴13から脱型することができる。したがって、箱抜き型枠10の複数回の転用が可能になり、小・中規模のトンネル工事にも効率的に利用することができる。
【0052】
間隔保持部材51は、厚さ方向に重ね合わされた複数の分割体53により構成されており、複数の分割体53の重合面55は、厚さ方向に垂直な方向に対して傾斜する傾斜面とされているので、複数の分割体53を幅方向外側にずらすだけで簡単に厚さtを縮小することができる。
また、間隔保持部材51は、分割型枠211〜216に対して連結具58によって共締め固定されており、この連結具58によって複数の分割体53の厚さtが保持されている。したがって、連結具58を取り外すだけで、間隔保持部材51の厚さtを縮小可能な状態にすることができるとともに、分割型枠211〜216の脱型が可能な状態にすることができる。
【0053】
分割型枠211〜216の底面成形部181〜186は、互いにテーパー面31〜38,47,48で突き合わされているので、コンクリートの硬化に伴う収縮により分割型枠211〜216が圧縮力を受けても、その圧縮力は底面成形部181〜186の突き合わせ面31〜38,47,48を前後にずらす方向に作用する。そのため、底面成形部181〜186の突き合わせ面31〜38,47,48を簡単に離反させて各分割型枠211〜216を脱型することができる。
【0054】
間隔保持部材51は、分割型枠211〜216の各隙間Sに対して複数個が間隔をあけて設けられているので、間隔保持部材51として小型のものを使用することができ、隙間Sからの取り外しも容易に行うことができる。
【0055】
図12は、変形例に係る間隔保持部材の使用状態を示す断面図である。この間隔保持部材51は、厚さ方向に3つの分割体53a,53b,53cから構成されており、各分割体53a,53b,53cの重合面55は、厚さt方向に垂直な方向に関して傾斜する傾斜面とされている。したがって、3つの分割体53を傾斜面55に沿って幅方向外側に相対的にずらすことにより、間隔保持部材51の厚さtを縮小することができる。特に、中間の分割体53bにはハの字状に傾斜面55が形成されているので、両端の分割体53a,53cに対して容易に幅方向に位置をずらすことができる。
【0056】
また、変形例の間隔保持部材51では、厚さt方向の両端に配置され、枠本体部24に隣接する分割体53a,53cを、接着剤や釘等により枠本体部24に固定することもできる。この場合、両端の分割体53a,53cの間に対して中間の分割体53bを着脱するだけでよいので、箱抜き型枠10の組み立てや脱型の作業性をより向上させることができる。
【0057】
図13は、本発明の第2の実施形態に係る箱抜き型枠の正面図である。この実施形態の箱抜き型枠10は、第1の実施形態と同様に上側型枠15と下側型枠16とから構成されているが、各型枠15,16を構成する分割型枠211〜216の大きさが異なっている。
また、間隔保持部材51は、枠本体部24の角部や、枠本体部24に補強板25が突き合わされている部分に対応して配置されている。このような配置によって、コンクリートの硬化に伴う圧縮力で、隙間Sに挟まれた間隔保持部材51の存在により枠本体部24の板材が撓んでしまうことがなく、枠本体部24の変形を防止し、脱型の際の間隔保持部材51の取り外しも容易に行うことができる。
【0058】
図14は、図13のE部拡大図であり、上側型枠15を構成する4つの分割型枠211〜214の角部が集中する位置には、間隔保持部材51だけでなく、第2の間隔保持部材61が設けられている。すなわち、第1,第2分割型枠211,212の間、及び第3,第4分割型枠213,214の間には間隔保持部材51が設けられているが、第1,第3分割型枠211,213の間、及び第2,第4分割型枠212,214の間には第2の間隔保持部材61が設けられ、これらの隙間が第2の間隔保持部材61によって保持されている。第2の間隔保持部材61は板材から構成され、間隔保持部材51のように厚さを縮小することはできない。なお、図14においては、両間隔保持部材51,61の形状を解りやすく示すために、これらにハッチングを施している。
【0059】
第2の間隔保持部材61の幅方向の両端部にはハの字状にテーパー面61aが形成され、第1〜第4分割型枠211〜214の角部にも、テーパー面61aに適合するテーパー面24aがそれぞれ形成されている。また、第2の間隔保持部材61は、間隔保持部材51と各分割型枠211〜214とによって挟まれることによって保持され、取付のためにボルト等の連結具は用いられていない。
そして、この第2の間隔保持部材61は、第1,第2分割型枠211,212の間、及び第3,第4分割型枠213,214の間からそれぞれ間隔保持部材51を取り外すことによって取り外すことができる。
【0060】
本実施形態では、分割型枠211〜214の角部が集中する箇所において、間隔保持部材51が集中して配置されるのを防ぎ、構造が簡単で連結具が不要な第2の間隔保持部材61で代替することにより、箱抜き型枠10の組み立てや脱型をより容易に行うことができる。
【0061】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく適宜設計変更可能である。
例えば、箱抜き型枠10を構成する分割型枠211〜216の大きさ、個数、並べ方等は、成型する箱抜き穴13の大きさや形状等に応じて適宜変更することができる。また、使用する間隔保持部材51の大きさや個数についても適宜変更可能である。また、分割型枠211〜216は底面成形部18の一部及び側面成形部20の一部の少なくとも一方を備えたものであってもよい。
本発明の箱抜き型枠10の構成は、木製の箱抜き型枠10だけでなく、鋼製の箱抜き型枠10にも適用することが可能である。また、本発明は、トンネル11に限らず、各種コンクリート構造物用の箱抜き型枠10として適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
10 箱抜き型枠
11 トンネル
13 箱抜き穴
17 箱抜き穴の底面
18 底面成形部
181〜186 分割底面成形部
19 箱抜き穴の内側面
20 側面成形部
201〜206 分割側面成形部
211〜216 分割型枠
31〜38 テーパー面
47,48 テーパー面
51 間隔保持部材
53 分割体
55 傾斜面
58 連結具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物に凹状の箱抜き穴を成形するために用いられ、かつ当該箱抜き穴の底面を成形する底面成形部と当該箱抜き穴の内側面を成形する側面成形部とを有している箱抜き型枠であって、
当該箱抜き型枠は、前記底面成形部の一部及び前記側面成形部の一部との少なくとも一方を有する複数の分割型枠を並べた状態で互いに連結することによって構成されており、
更に、複数の分割型枠の間に形成される隙間の寸法と略同一の厚さ寸法を有するとともにこの厚さ寸法を縮小するように変形可能であり、かつこの厚さ方向と前記分割型枠の並び方向とを一致させた状態で前記隙間に挿入されることによって当該隙間の寸法を保持する間隔保持部材を備えていることを特徴とする箱抜き型枠。
【請求項2】
前記間隔保持部材が、厚さ方向に重合された複数の分割体から構成されており、
複数の分割体の重合面が、厚さ方向に垂直な方向に対して傾斜する傾斜面とされている請求項1に記載の箱抜き型枠。
【請求項3】
隣接する分割型枠とこの間に挿入された前記間隔保持部材とを、当該間隔保持部材の厚さ方向に貫通するとともに、これら分割型枠及び間隔保持部材を共締め固定する連結具を備えている請求項2に記載の箱抜き型枠。
【請求項4】
前記間隔保持部材が、前記分割型枠の側面成形部と面一になるように配置されている請求項1〜3のいずれかに記載の箱抜き型枠。
【請求項5】
互いに隣接する分割型枠の底面成形部が、テーパー面からなる突き合わせ面を介して突き合わされている請求項1〜4のいずれかに記載の箱抜き型枠。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の箱抜き型枠を使用してコンクリート構造物に箱抜き穴を成型する、箱抜き穴の施工方法であって、
複数の分割型枠を並べた状態で互いに連結するとともに、隣接する分割型枠の間に間隔保持部材を挿入することによって箱抜き型枠を組み立て、この箱抜き型枠を箱抜き穴の成形部位にセットするセット工程と、
前記箱抜き型枠の周囲にコンクリートを打設して箱抜き穴を成型する成型工程と、
成型された箱抜き穴から箱抜き型枠を脱型する脱型工程とを含み、
前記脱型工程が、前記間隔保持部材の厚さ寸法を縮小して隣接する分割型枠の間から間隔保持部材を取り外す工程と、隣接する分割型枠の間に形成された隙間の範囲で各分割型枠を移動させながら脱型する工程とを含むことを特徴とする箱抜き穴の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−52431(P2011−52431A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201698(P2009−201698)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(509245832)光洋商事株式会社 (2)
【Fターム(参考)】