説明

粒子状物質検出装置及びパティキュレートフィルタの故障検出装置

【課題】PMセンサの付着部にPM以外の成分が付着した場合であってもPMを精度良く検出できる粒子状物質検出装置を提供すること。
【解決手段】PMセンサの基板(付着部)に付着したPMを燃焼除去して、PMセンサの再生を行う(S11)。再生後のPMセンサの出力を確認する(S12)。その出力に基づいて、PMセンサの基板に付着しているPM以外の導通成分の付着量を推定する(S13)。その導通成分付着量に基づいて、PMセンサの出力をどの程度補正すればよいのかを示した補正係数を算出する(S14)。PMセンサの出力に補正係数を乗算して、PMセンサの出力を小さい値に補正する(S15)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気中の粒子状物質を検出する粒子状物質検出装置及び粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタの故障検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される煤を抑制するために、煤を構成する粒子状物資(PM)を捕集するディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF、パティキュレートフィルタ)が排気通路に設けられることがある。そのDPFは、DPFに堆積したPMを燃焼除去する再生処理が定期的に行われることで、繰り返し使用できるようになっている。しかし、その再生処理などが原因でDPFが過昇温する場合があり、その過昇温が原因でDPFが溶損したり割れたりすること(DPFの故障)がある。DPFが故障すると、そのDPFを通過してしまうPMが多くなってしまうので、排ガス規制を満たさなくおそれがでてくる。また、近年、車両に搭載されるコンピュータが行う自己故障診断(OBD:On−board−diagnostics)の要請により、DPFの故障を検出する故障検出装置の開発が望まれている。そして、従来、その故障検出装置として、PMを検出する電極式のPMセンサ(特許文献1、2参照)を利用した故障検出装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
電極式のPMセンサは、一対の電極が形成された絶縁体の付着部を有する。そのPMセンサは、排気通路に設けられ、一対の電極間に電圧が印加されて使用される。排気に含まれるPMは、PMセンサの付着部に付着する。PMはカーボン粒子から構成されており導電性を有するので、付着部にPMが一定以上付着すると電極間に電流が流れる(通電する)。その電流の値は、PMの付着量に応じた値、つまり、排気に含まれるPM量に応じた値となるので、その電流値(電流値に相当する電極間の抵抗値)を読み取ることでPM量を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−144577号公報
【特許文献2】特開昭62−35252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、PMセンサの付着部には、エンジンオイルに由来するアッシュ成分や排気通路を構成する金属成分などPM以外の成分が付着することがある。PM以外の成分が付着すると、そのPM以外の成分によって電極間の電気的特性が変化するので、PMセンサが通電するタイミングや、PMセンサから出力される検出値が変化してしまう。つまり、PM量の検出精度が低下してしまう。また、PM以外の成分が付着したPMセンサを用いてパティキュレートフィルタの故障の有無を判定しようとすると、故障であるにもかかわらず正常であると判定したり、逆に正常であるにもかかわらず故障であると判定したりする誤判定をするおそれがある。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、PMセンサの付着部にPM以外の成分が付着した場合であってもPMを精度良く検出できる粒子状物質検出装置及びパティキュレートフィルタの故障の有無を精度良く判定できるパティキュレートフィルタの故障検出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の粒子状物質検出装置は、内燃機関の排気通路に設けられ、一対の電極が形成された絶縁体の付着部を有し、排気中の粒子状物質が前記付着部に一定以上付着したときに前記一対の電極間が通電して、その通電時に前記付着部に付着した粒子状物質の量に応じた検出値を出力するPMセンサと、
前記付着部に付着した粒子状物質を除去する除去手段と、
前記除去手段による粒子状物質の除去後に前記PMセンサから出力される検出値である除去後検出値に基づいて、前記付着部に粒子状物質以外の導通成分が付着しているかを判断する第一の付着判断手段と、
前記第一の付着判断手段が前記導通成分が前記付着部に付着していると判断した場合に、前記検出値を所定値分小さい値に補正する第一の補正手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、除去手段によって、付着部に付着した粒子状物質が除去される。ここで、付着部に、粒子状物質以外の導通成分が付着している場合には、その導通成分が電極間を通電させる方向に働くので、PMセンサの出力(除去後検出値)が初期値(粒子状物質が付着していないときの値)に戻らない。よって、第一の付着判断手段は、その除去後検出値を確認することで、付着部に、粒子状物質以外の導通成分が付着しているかを判断することができる。また、付着部に導通成分が付着している場合には、その導通成分によって電極間が通電しやすくなるので、PMセンサの通電タイミングが早くなり、粒子状物質の付着量が同一であってもPMセンサの検出値が大きくなる。本発明では、付着部に導通成分が付着している場合には、第一の補正手段が、検出値を所定値分小さい値に補正するので、導通成分の付着によって大きくなった検出値を元の大きさの側に戻すことができる。よって、付着部に導通成分が付着した場合であっても、粒子状物質を精度良く検出できる。
【0009】
また、本発明の粒子状物質検出装置は、内燃機関の排気通路に設けられ、一対の電極が形成された絶縁体の付着部を有し、排気中の粒子状物質が前記付着部に一定以上付着したときに前記一対の電極間が通電して、その通電時に前記付着部に付着した粒子状物質の量に応じた検出値を出力するPMセンサと、
前記内燃機関から排出される所定の非導通成分の排出量を推定する排出量推定手段を含み、その排出量推定手段が推定した前記非導通成分の排出量に基づいて、前記付着部に前記非導通成分が付着しているかを判断する第二の付着判断手段と、
前記第二の付着判断手段が前記非導通成分が前記付着部に付着していると判断した場合に、前記検出値を所定値分大きい値に補正する第二の補正手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
PMセンサの付着部には内燃機関から排出された所定の非導通成分が付着する場合があり、その非導通成分の付着は、内燃機関から排出される非導通成分の排出量と相関があると考えられる。本発明によれば、排出量推定手段が、内燃機関から排出される所定の非導通成分の排出量を推定するので、第二の付着判断手段は、その非導通成分の排出量に基づいて、付着部に非導通成分が付着しているかを判断することができる。また、付着部に非導通成分が付着している場合には、その非導通成分によって電極間が通電しにくくなるので、PMセンサの通電タイミングが遅くなり、粒子状物質の付着量が同一であってもPMセンサの検出値が小さくなる。本発明では、付着部に非導通成分が付着している場合には、第二の補正手段が、検出値を所定値分大きい値に補正するので、非導通成分の付着によって小さくなった検出値を元の大きさの側に戻すことができる。よって、付着部に非導通成分が付着した場合であっても、粒子状物質を精度良く検出できる。
【0011】
また、本発明における第一の付着判断手段は、除去後検出値に基づいて、付着部に付着した導通成分の量である導通成分付着量を推定する第一の付着量推定手段を含み、
第一の補正手段は、第一の付着量推定手段が推定した導通成分付着量に応じた分だけ検出値を小さい値に補正することを特徴とする。
【0012】
これによれば、付着部に付着している導通成分の量(導通成分付着量)とPMセンサの検出値(除去後検出値)とは相関を有すると考えられるので、第一の付着量推定手段は、除去後検出値に基づいて導通成分付着量を推定することができる。そして、第一の補正手段は、導通成分付着量に応じた分だけ検出値を小さくするので、導通成分付着量の分だけ大きくなった検出値を元の大きさに戻すことができる。
【0013】
また、本発明におけるPMセンサは、付着部を加熱するヒータを有し、
除去手段は、ヒータを制御して、粒子状物質が燃焼される温度まで付着部を加熱させるものであることを特徴とする。これによって、付着部に付着した粒子状物質を燃焼除去することができる。
【0014】
また、本発明における第一の付着判断手段は、除去手段による粒子状物質の除去後に一対の電極間に交流電圧を印加することで除去後検出値を取得する検出値取得手段を含むことを特徴とする。
【0015】
PMセンサの一対の電極間に導通成分が付着している場合には、導通成分付着量に応じた静電容量が電極間に発生する。検出値取得手段は、一対の電極間に交流を印加しているので、発生した静電容量を除去後検出値として取得することができる。これによって、導通成分付着量が、電極間が通電されない一定量に満たない場合であっても、その導通成分付着量が反映された除去後検出値を取得することができる。
【0016】
また、本発明における排気通路には排気中の粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタが設けられ、
PMセンサはパティキュレートフィルタの下流に設けられたことを特徴とする。これによって、パティキュレートフィルタを通過した粒子状物質を検出できる。
【0017】
また、本発明における第二の付着判断手段は、非導通成分の排出量に基づいて、付着部に付着した非導通成分の量である非導通成分付着量を推定する第二の付着量推定手段を含み、
第二の補正手段は、第二の付着量推定手段が推定した非導通成分付着量に応じた分だけ検出値を大きい値に補正することを特徴とする。
【0018】
これによれば、内燃機関から排出された非導通成分の排出量と付着部に付着している非導通成分の量(非導通成分付着量)とは相関を有すると考えられるので、第二の付着量推定手段は、非導通成分の排出量に基づいて非導通成分付着量を推定することができる。非導通成分付着量に応じた分だけ検出値が小さくなると考えられるので、第二の補正手段が、非導通成分付着量に応じた分だけ検出値を大きくすることで、非導通成分付着量の分だけ小さくなった検出値を元の大きさに戻すことができる。
【0019】
また、本発明において、非導通成分はアッシュであり、
排気通路には排気中の粒子状物質を捕集するとともにアッシュも捕集可能なパティキュレートフィルタが設けられ、
PMセンサは前記パティキュレートフィルタの下流に設けられ、
第二の付着判断手段は、パティキュレートフィルタによるアッシュの捕集率を推定する捕集率推定手段と、
排出量推定手段が推定したアッシュの排出量と捕集率推定手段が推定したアッシュの捕集率とに基づいて、パティキュレートフィルタをすり抜けたアッシュの量であるすり抜け量を推定するすり抜け量推定手段と、を含み、
第二の付着量推定手段は、すり抜け量推定手段が推定したすり抜け量に基づいて、付着部に付着したアッシュの付着量を非導通成分付着量として推定することを特徴とする。
【0020】
これによれば、PMセンサがパティキュレートフィルタの下流に設けられているので、パティキュレートフィルタを通過した粒子状物質を検出できる。また、第二の付着量推定手段は、付着部に付着したアッシュの付着量を非導通成分付着量として推定するので、付着部にアッシュが付着した場合であっても粒子状物質を精度良く検出できる。
【0021】
また、本発明において、内燃機関の運転状態と内燃機関から排出されるアッシュの排出量との対応関係が記憶された第一の対応関係記憶手段と、
内燃機関の運転状態を取得する運転条件取得手段と、を備え、
排出量推定手段は、運転状態取得手段が取得した内燃機関の運転状態と第一の対応関係記憶手段に記憶された対応関係とに基づいて、アッシュの排出量を推定することを特徴とする。
【0022】
アッシュはエンジンオイルに含まれる成分が内燃機関で燃焼されずに排出されたものであるので、アッシュの排出量と内燃機関の運転状態とは相関を有する。本発明によれば、内燃機関の運転状態とアッシュの排出量との対応関係が第一の対応関係記憶手段に記憶されているので、その対応関係を参照することで、内燃機関の運転状態が考慮されたアッシュの排出量を推定することができる。つまり、アッシュの排出量を正確に推定することができる。
【0023】
また、本発明において、内燃機関が搭載された車両の走行距離と各走行距離を走行するまでに内燃機関から排出されたアッシュの排出量との対応関係が記憶された第二の対応関係記憶手段と、
車両の走行距離を取得する走行距離取得手段と、を備え、
排出量推定手段は、走行距離取得手段が取得した車両の走行距離と第二の対応関係記憶手段に記憶された対応関係とに基づいて、アッシュの排出量を推定することを特徴とする。
【0024】
アッシュはエンジンオイルに由来するものであるので、車両の走行距離が大きくなるほど、アッシュの積算の排出量が増えていくと考えられる。つまり、車両の走行距離とアッシュの排出量とは相関を有すると考えられる。本発明によれば、車両の走行距離とアッシュの排出量との対応関係が第二の対応関係記憶手段に記憶されているので、その対応関係を参照することで、車両の走行距離が考慮されたアッシュの排出量を推定することができる。つまり、アッシュの排出量を正確に推定することができる。
【0025】
本発明のパティキュレートフィルタの故障検出装置は、
本発明の粒子状物質検出装置と、
第一の補正手段又は第二の補正手段によって補正されたPMセンサの出力が発生するタイミングが、所定タイミングより早い場合にはパティキュレートフィルタが故障していると判定し、所定タイミングより遅い場合にはパティキュレートフィルタは正常であると判定する故障有無判定手段と、を備えることを特徴とする。
【0026】
本発明の故障検出装置によれば、本発明の粒子状物質検出装置を使用しているので、粒子状物質以外に導通成分や非導通成分がPMセンサに付着した場合であっても、パティキュレートフィルタの故障の有無を精度良く判定できる。また、故障有無判定手段は、補正後のPMセンサの出力が発生するタイミング、つまりPMセンサの通電タイミングに基づいて、パティキュレートフィルタの故障の有無を判定しているので、温度等の影響でPMセンサの検出値が変動した場合であっても、正確にその判定をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】エンジンシステム1の構成を示した図である。
【図2】PMセンサ41の構造や機能を説明する図である。
【図3】PM以外に導通成分が付着した場合に、PMセンサ41の出力がどのように変化するかを説明する図である。
【図4】PM以外に非導通成分が付着した場合に、PMセンサ41の出力がどのように変化するかを説明する図である。
【図5】導通成分付着によって変化したPMセンサ41の出力を補正する補正処理1を示したフローチャートである。
【図6】再生後のPMセンサ41の出力が初期値に戻らないことを示した図である。
【図7】再生後出力y0と導通成分付着量zとの関係を例示した図である。
【図8】導通成分付着量zと補正係数k1との関係を例示した図である。
【図9】アッシュ成分付着によって変化したPMセンサ41の出力を補正する補正処理2を示したフローチャートである。
【図10】エンジン10の運転状態や走行距離に対するアッシュの排出量のマップを示した図である。
【図11】DPF30への堆積量とアッシュの捕集率との関係を示した図である。
【図12】アッシュの付着量wと補正係数k2との関係を示した図である。
【図13】DPF30の故障を検出する故障検出処理を示したフローチャートである。
【図14】DPF30の故障時、正常時におけるPMセンサ41の出力を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明に係る粒子状物質検出装置及びパティキュレートフィルタの故障検出装置の実施形態を図面を参照して説明する。図1は、本発明が具現化された車両のエンジンシステム1の構成を示した図である。エンジンシステム1は、内燃機関としてのディーゼルエンジン10(以下エンジンという)を備えている。そのエンジン10には、燃焼室内に燃料を噴射するインジェクタ11が設けられている。エンジン10は、そのインジェクタ11から噴射された燃料が燃焼室で自己着火することで、動力を生み出している。
【0029】
エンジン10の排気通路21には、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)30が設置されている。DPF30は公知の構造のセラミック製フィルタであり、例えば、コーディエライト等の耐熱性セラミックスをハニカム構造に成形して、ガス流路となる多数のセルを入口側または出口側が互い違いとなるように目封じして構成される。エンジン10から排出された排気は、DPF30の多孔性の隔壁を通過しながら下流へ流れ、その間に排気に含まれるPM(粒子状物質)がDPF30に捕集されて次第に堆積する。そのPMは、煤を構成するものであり、カーボン粒子から構成されている。
【0030】
DPF30は無尽蔵にPMを捕集できるわけではないので、DPF30に堆積されたPMの量(PM堆積量)が多くなると、堆積されたPMを燃焼除去してDPF30を再生させる再生処理が実行されるようになっている。その再生処理は、例えば、エンジン10の動力を得る(出力トルクを生成する)ためになされるメインの燃料噴射(主噴射)から所定時間遅れた時期に1回又は多段噴射のポスト噴射を実行することによって行われる。詳しくは、このポスト噴射により、排気温度を上昇させるとともに、DPF30の上流側に設けられた酸化触媒(DOC、図示外)に対して未燃燃料(炭化水素、HC)を添加してその反応熱でPMを燃焼させる。
【0031】
DPF30の再生処理が原因で、DPF30が過昇温する場合がある。詳しくは、再生処理からアイドル状態に変わったときに、アイドル状態では吸気が絞られているためにDPF30内にPM燃焼に伴い発生した熱がこもってしまい、それによって、DPF30が過昇温する場合がある。そして、その過昇温によって、DPF30が溶損したり、DPF30内の温度差による熱応力によってDPF30が割れたりすること(DPF30の故障)がある。DPF30が故障すると、PMの捕集能力が落ちてしまい、車外に排出されるPM量が増加してしまう。そこで、本実施形態のエンジンシステム1では、車外に排出されるPM量が所定の基準以上になる場合をDPF30の故障として、そのDPF30の故障を検出している。その検出方法は後述する。
【0032】
排気通路21のDPF30よりも下流側21aには、PM量を検出するPMセンサ41が設けられている。ここで、図2は、PMセンサ41の構造や機能を説明する図である。図2(a)は、図1のPMセンサ41付近の領域Aの拡大図を示している。なお、図2(a)では、カバー411内に設けられた基板412を透視して示している。また、図2(a)では、基板412を横から見た図を示している。図2(a)に示すように、PMセンサ41は、内部が中空にされたカバー411を備えており、そのカバー411が排気通路21a内に露出される形で設けられている。そのカバー411には、カバー411内外を連絡する複数の孔411aが形成されており、排気の一部がそれら孔411aからカバー411内に侵入できるようになっている。また、カバー411にはカバー411内に侵入した排気が排出される排出孔411bが形成されている。なお、図2(a)では、カバー411の先端に排出孔411bが形成されている例を示している。
【0033】
カバー411内には基板412が設けられる。その基板412はアルミナ等の絶縁体で構成された基板である。図2(b)は、基板412の一方の基板面412a(以下、表面という)を上から見た図を示している。図2(b)に示すように、基板412の表面412aには、互いに離間し、かつ対向する形で設けられた一対の電極413(電極413a、413b)が設けられている。それら電極413a、413b間には電圧源415(図2(c)参照)によって一定の電圧Vdが印加されている。カバー411内に侵入した排気に含まれるPMの一部は基板412の表面412a(厳密には、電極413a、413b間)に付着する。基板412に付着しなかったPMは、カバー411に形成された排出孔411bから排出される。
【0034】
また、基板412の他方の基板面412b(以下、裏面という)側には、基板412を加熱する白金Pt等の電熱線から構成されたヒータ414が設けられている(図2(a)参照)。そのヒータ414は、基板412を加熱して、基板412に付着したPMを燃焼除去するためのものである。これによって、PMセンサ41で繰り返しPM量を検出できるようにしている。
【0035】
電極413a、413b及びヒータ414は制御回路416(図2(a)参照)に接続されている。その制御回路416は、電極413a、413b間に流れる電流を測定して排気中のPM量を検出したり、ヒータ414の温度を制御したりするものである。ここで、図2(c)は、PMセンサ41の出力を測定する測定回路を示した図である。なお、その測定回路は制御回路416内に構成されている。また、図2(d)は、PMセンサ41の出力を例示した図であり、具体的には、基板412に付着したPM量(PM付着量)に対するPMセンサ41の出力の変化(PMセンサ41の出力の時間変化でもある)を示したライン101を示している。図2(c)に示すように、PMセンサ41の一対の電極413a、413b間に一定の直流電圧Vdを印加する電圧源415が設けられる。基板412は絶縁体で構成されており、二つの電極413a、413bは離間されているので、PMが付着されていない状態では、それら電極413a、413b間は絶縁されている。
【0036】
二つの電極413a、413b間にPMが付着したとしても直ちに通電されるわけではない。つまり、PM付着量が少ないうち(図2(d)の不感質量の範囲)は電極413a、413b間は通電されないで、この場合は、PMセンサ41の出力は発生しない。その後、時間の経過にともなって一定の量以上のPMが付着すると、PMはカーボン粒子から構成されており導電性を有するので、二つの電極413a、413b間の抵抗が小さくなって、電極413a、413b間が通電される。通電時に電極413a、413b間に流れる電流をI1とすると、図2(c)に示すように、その電流I1が流れるライン上には電流検出用の抵抗R1(シャント抵抗)が設けられている。そして、そのシャント抵抗R1の両端電圧を測定することで、電流I1に応じた出力(検出値)を得ることができる。
【0037】
また、基板412へのPM付着量が多くなるほど電極413a、413b間に流れる電流I1が大きくなるので、図2(d)のライン101が示すように、PM付着量が多くなるほどPMセンサ41の出力が大きくなっていく。そして、PM付着量と排気中のPM量とは相関していると考えられるので、PMセンサ41の出力から排気中のPM量を検出することができる。なお、図2(d)では、説明の便宜のために、PM付着量に対して直線的に出力が変化するライン101を示しているが、実際は直線的に出力が変化するとは限らない。
【0038】
また、基板412に付着できるPMは有限であるので、基板412へのPM付着量が一定以上になるとPMセンサ41の出力が飽和する。そこで、制御回路416は、定期的に、ヒータ414で基板412を加熱して、基板412に付着したPMを燃焼除去している(PMセンサ41の再生)。なお、制御回路416は、PMが燃焼除去される温度として例えば約700℃で基板412を加熱している。この場合、図2(d)に示す点P1でPMセンサ41の再生が行われたとすると、PMセンサ41の出力は点P1から初期値(ゼロ)にリセットされる。
【0039】
また、PMセンサ41では、電極413a、413b間の静電容量変化も検出できるようになっている。具体的には、電圧源415(図2(c)参照)で交流電圧も印加できるようになっており、その交流電圧によって電極413a、413b間の静電容量に応じた検出値が出力される。
【0040】
以上では、PMセンサ41の基板412にはPM以外の成分は付着しないものとして説明したが、実際は、基板412にPM以外の成分が付着する場合がある。具体的には、PM以外の成分として、例えば排気通路21を構成する金属粒子などの導通成分や非導通成分としてのアッシュ(Ash)がある。なお、アッシュとは、エンジンオイルに由来する成分であって、具体的には、エンジンオイルに含まれる成分がエンジン10で燃焼されずに排出されたものである。そして、これら導通成分や非導通成分が基板412に付着すると、その付着量によってはPMセンサ41の出力に影響を及ぼす。ここで、図3は、PM以外に導通成分が付着した場合に、PMセンサ41の出力がどのように変化するかを説明する図である。具体的には、図3(a)は、電極413a、413b間に導通成分51が付着した状態を模式的に示した図である。なお、図3(a)の図示方向は、図2(b)のB−B断面に対応している。また、図3(b)は、導通成分が付着した場合のPMセンサ41の出力(PM付着量に対する出力変化を示したライン120)を示している。なお、図3(b)には、導通成分が付着していないとき(正常時)のPMセンサ41の出力(PM付着量に対するPMセンサ41の出力変化を示したライン110)も示している。
【0041】
図3(a)に示すように、電極413a、413b間に導通成分51が付着すると、その導通成分51によって電極413a、413b間が通電しやすくなる。よって、導通成分51が付着していないときよりも少量のPMで電極413a、413b間が通電する。つまり、図3(b)に示すように、導通成分が付着したときには、正常時のPM付着量x1よりも少ないPM付着量x2でPMセンサ41の出力が発生する。別の言い方をすると、PMセンサ41の出力が発生するタイミング(電極413a、413b間が通電するタイミング)が正常時よりも早くなる。また、通電時においては、電極413a、413b間に流れる電流I2は、正常時に流れる電流I1よりも大きくなる。つまり、図3(b)に示すように、PM付着量が同一であっても、導通成分付着時のPMセンサ41の出力は、正常時の出力よりも大きくなる。なお、PMセンサ41の出力が発生するタイミング(通電タイミング)がどの程度早くなるか、PMセンサ41の出力がどの程度大きくなるかは、基板412に付着した導通成分の量(導通成分付着量)によって決まると考えられる。
【0042】
次に、非導通成分としてのアッシュが基板412に付着したときの影響について説明する。ここで、図4は、アッシュが付着した場合に、PMセンサ41の出力がどのように変化するかを説明する図である。具体的には、図4(a)は、電極413a、413b間にアッシュ52が付着した状態を模式的に示した図である。また、図4(b)は、アッシュが付着した場合のPMセンサ41の出力(PM付着量に対する出力変化を示したライン130)を示している。なお、図4(b)には、アッシュが付着していないとき(正常時)のPMセンサ41の出力(PM付着量に対する出力変化を示したライン110)も示している。
【0043】
図4(a)に示すように、電極413a、413b間にアッシュ52が付着すると、そのアッシュ52によって電極413a、413b間が通電しにくくなる。よって、アッシュ52が付着していないときよりも多量のPMが付着しないと、電極413a、413b間は通電しない。つまり、図4(b)に示すように、アッシュが付着したときには、正常時のPM付着量x1よりも多いPM付着量x3でPMセンサ41の出力が発生する。別の言い方をすると、PMセンサ41の出力が発生するタイミング(電極413a、413b間が通電するタイミング)が正常時よりも遅くなる。また、通電時においては、電極413a、413b間に流れる電流I3は、正常時に流れる電流I1よりも小さくなる。つまり、図4(b)に示すように、PM付着量が同一であっても、アッシュ付着時のPMセンサ41の出力は、正常時の出力よりも小さくなる。なお、PMセンサ41の出力が発生するタイミング(通電タイミング)がどの程度遅くなるか、PMセンサ41の出力がどの程度小さくなるかは、基板412に付着したアッシュの量(非導通成分付着量)によって決まると考えられる。
【0044】
以上のように、基板412にPM以外の成分(導通成分、アッシュ)が付着すると、PMセンサ41の出力が変化してしまうので、その出力に基づいて排気中のPM量を算出したり、DPF30の故障の有無を判定したりすると、正確な算出、判定ができなくなってしまう。そこで、本発明では、PM以外の成分が付着した場合には、PMセンサ41の出力を補正している。その補正方法については後に詳細に説明する。
【0045】
図1の説明に戻り、エンジンシステム1には、DPF30の前後差圧を検出する差圧センサ42が設けられている。その差圧センサ42は、一端側がDPF30上流の排気通路21に、他端側はDPF30下流の排気通路21にそれぞれ接続される。また、排気通路21のDPF30の上流側には、排気温を検出する排気温センサ43が設けられている。エンジンシステム1の吸気通路22には、新気量を検出するエアフロメータ44やエンジン10に取り込まれる新気量の増減を調整するスロットル弁45(吸気絞り弁)が設けられている。また、エンジンシステム1には、エンジン10の回転数を検出する回転数センサ46が設けられている。その回転数センサ46は、例えばエンジン10から連結されたクランク12の回転角度を計測するクランク角センサとすればよい。また、エンジンシステム1には、エンジンシステム1が搭載された車両の走行距離(現時点までの総走行距離)の情報が記憶された走行距離メモリ47が設けられている。車両の走行距離は、例えば、車輪の回転を計測するロータリーエンコーダの計測値に基づいて算出され、算出された走行距離の情報が走行距離メモリ47に逐次記憶されるようになっている。それら各センサ41〜46やメモリ47は後述するECU60に接続されている。
【0046】
エンジンシステム1は、エンジンシステム1の全体制御を司るECU60を備えている。そのECU60は、通常のコンピュータの構造を有するものとし、各種演算を行うCPU(図示外)や各種情報が記憶されたメモリ61を備えている。ECU60は、例えば、上記各種センサからの検出信号を基に運転状態を検出し、運転状態に応じた最適な燃料噴射量、噴射時期、噴射圧等を算出して、エンジン10への燃料噴射を制御する。また、ECU60は、PMセンサ41の出力を補正する補正処理を実行し、さらに、補正後のPMセンサ41の出力に基づいてDPF30の故障を検出する故障検出処理を実行する。以下では、先ず、PMセンサ41の出力を補正する補正処理の詳細を説明する。
【0047】
図5は、PMセンサ41(基板412)に、PM以外の導通成分が付着した場合におけるPMセンサ41の出力を補正する補正処理1の手順を示したフローチャートである。以下、図5を参照して、導通成分付着時の補正について説明する。なお、図5の処理は、DPF30の故障の検出時など、PMセンサ41の出力が必要な時に実行される。先ず、PMセンサ41の制御回路416(図2(a)に指示をして、ヒータ414で基板412を約700℃まで加熱させる(S11)。つまり、基板412に付着したPMを燃焼除去して、PMセンサ41の再生を行う(S11)。
【0048】
ここで、図6は、S11の処理によって、PMセンサ41の出力がどのように変化するかを説明する図であり、具体的には、PM付着量に対するPMセンサ41の出力のライン120を示している。PMセンサ41の再生が行われると、基板412からPMが除去される一方で、約700℃の加熱でも燃焼されなかったPM以外の導通成分が基板412に残る。そのため、例えば、図6の点P2で、PMセンサ41の再生が行われたとすると、再生後のPMセンサ41の出力(ライン121)は初期値(ゼロ)に戻らない。そこで、次いで、再生後のPMセンサ41の出力y0(除去後検出値)を確認する(S12)。具体的には、基板412に付着した導通成分によって、電極413a、413b間に静電容量が発生するので、その静電容量をPMセンサ41の出力y0として取得する(S12)。より具体的には、電圧源415(図2(c)参照)で、電極413a、413b間に交流電圧を印加する。すると、電極413a、413b間には静電容量に応じた電流が流れるので、その電流に相当する値を、再生後のPMセンサ41の出力y0として取得する(S12)。このように、静電容量を検出することで、電極413a、413b間の抵抗が大きい場合(電極413a、413b間が通電する程度の導通成分が付着していない場合)であっても、導通成分が付着していることを示した情報を得ることができる。
【0049】
次いで、S12で確認した再生後の出力y0に基づいて、PMセンサ41(基板412)に付着している導通成分の量z(導通成分付着量)を推定する(S13)。再生後の出力y0と導通成分付着量zとは相関があり、具体的には、再生後の出力y0が大きいほど導通成分付着量zが多くなると考えられる。そのため、S13では、例えば図7に示す再生後の出力y0に対する導通成分付着量zのマップ210を予めメモリ61(図1参照)に記憶しておく。そして、そのマップ210を参照して、今回の出力y0に対応する導通成分付着量zを求める。なお、図7では、再生後の出力y0に対して直線的に導通成分付着量zが変化するマップ210を示しているが、実際は、直線的に変化するとは限らない。
【0050】
次いで、S13で推定した導通成分付着量zに基づいて、PMセンサ41の出力をどの程度補正するかを示した補正係数k1を算出する(S14)。導通成分付着量zが多くなるほど、電極413a、413b間が通電しやすくなってPMセンサ41の出力が大きくなる。つまり補正すべき量(補正係数k1)が大きくなると考えられる。そのため、S14では、例えば図8に示す導通成分付着量zに対する補正係数k1のマップ220を予めメモリ61(図1参照)に記憶しておく。そして、そのマップ220を参照して、今回の導通成分付着量zに対応する補正係数k1を求める。なお、図8では、導通成分付着量zに対して直線的に補正係数k1が変化するマップ220を示しているが、実際は、直線的に変化するとは限らない。
【0051】
次いで、PMセンサ41の出力(図3(b)のライン120)に補正係数k1を乗算して、その出力を小さくする方向に補正する(S15)。これによって、導通成分が付着していないときの出力(図3(b)のライン110)に補正できる。その後、図5のフローチャートの処理を終了する。なお、以上では、補正係数k1で補正する例について説明したが、S14ではPMセンサ41の出力の補正量を算出し、S15でその補正量だけ出力を減算しても良い。
【0052】
次に、PMセンサ41(基板412)に、非導通成分としてのアッシュが付着した場合におけるPMセンサ41の出力の補正について説明する。図9は、その出力を補正する補正処理2の手順を示したフローチャートである。なお、図9の処理は、DPF30の故障の検出時など、PMセンサ41の出力が必要な時に実行される。先ず、エンジン10から排出されるアッシュの排出量を推定する(S21)。アッシュは、エンジンオイルに含まれる成分がエンジン10で燃焼されずに排出されるものであり、エンジン10の運転状態に依るところが大きい。そこで、S21では、例えばエンジン10の運転状態に基づいてアッシュの排出量を推定する。具体的には、図10(a)に示すように、エンジン10の運転状態としてのエンジン10の回転数NE及び燃料噴射量Qに対するアッシュの排出量のマップ301(対応関係)を予めメモリ61(図1参照)に記憶しておく。そして、そのマップ301を参照して、今回の回転数NE及び燃料噴射量Qに対応するアッシュの排出量を求める。なお、エンジン10の回転数NEは、回転数センサ46(図1参照)からの検出値に基づいて算出する。また、燃焼噴射量Qは、インジェクタ11に対する指令値を用いる。
【0053】
なお、車両の走行距離が長くなるほど、エンジン10から排出されるアッシュの積算排出量が増えていく。そこで、S21では、車両の走行距離に基づいてアッシュの排出量(積算値)を算出するようにしても良い。具体的には、図10(b)に示すように、走行距離に対するアッシュの排出量のマップ302(対応関係)を予めメモリ61に記憶しておく。そして、そのマップ302を参照して、現時点の走行距離に対応するアッシュの排出量を求める。車両の走行距離は、走行距離メモリ47に記憶された走行距離の情報を用いる。なお、図10(b)では、走行距離に対して直線的にアッシュの排出量が変化するマップ302を示している。
【0054】
次いで、DPF30が故障していない(正常)場合におけるそのDPF30によるアッシュの捕集率を推定する(S22)。DPF30はPMを捕集するものであるが、アッシュも捕集し得る。このS22では、例えばDPF30に堆積しているPMやアッシュの堆積量に基づいてアッシュの捕集率を推定する。ここで、図11は、PM及びアッシュの堆積量とアッシュの捕集率との関係を示したライン310を示している。そのライン310が示すように、DPF30への堆積量が少ない領域B(図11参照)においては、アッシュの捕集率はそれほど高くなっておらず、堆積量の増加にしたがって捕集率が増加する傾向とされている。これは、PMやアッシュがDPF30に捕集されると、その捕集されたPM、アッシュが別のPM、アッシュを捕集するという性質に基づくものである。つまり、堆積量が少ないと、捕集されたPM、アッシュによって別のPM、アッシュが捕集されるということが少なくなるので、捕集率は低くなると考えられる。その領域Bを超えると、捕集率は一定のレベル(例えば80%)に維持されている。S22では、図11のライン310(堆積量に対するアッシュの捕集率のマップ)を予め記憶しておく。そして、そのマップ310を参照して、現在の堆積量に対応するアッシュの捕集率を求める。なお、DPF30に堆積しているPM及びアッシュの堆積量はDPF30の前後差圧と相関を有すると考えられので、その前後差圧に基づいて堆積量を算出すれば良い。DPF30の前後差圧は、差圧センサ42(図1参照)の検出値を用いる。
【0055】
次いで、S21で推定したアッシュの排出量とS22で推定した捕集率とに基づいて、DPF30をすり抜けたアッシュのすり抜け量を推定する(S23)。次いで、S23で推定したアッシュのすり抜け量に基づいて、PMセンサ41(基板412)に付着したアッシュの付着量wを推定する(S24)。具体的には、例えばアッシュのすり抜け量に予め定められた係数を乗算することで、アッシュの付着量wを推定する。なお、基板412にどの程度付着するかは、基板412の温度及び排気温(厳密にはそれら温度差)によって変化すると考えられる。具体的には、基板412の温度のほうが排気温より高ければ、基板412から離れる方向に熱泳動による力が作用するので、基板412への付着率が小さくなると考えられる。反対に、排気温のほうが高ければ基板412への付着率が大きくなると考えられる。そこで、S24では、その熱泳動による影響を考慮して、アッシュの付着量wを推定するようにしても良い。基板412の温度は、例えばヒータ414(図2(a)参照)の抵抗値に基づいて推定すれば良い。また、排気温は、排気温センサ43(図1参照)の検出値に基づいて推定すれば良い。
【0056】
さらに、基板412にどの程度付着するかは、排気流量によっても変化すると考えられる。具体的には、排気流量が大きいと、排気の流速が速くなり、その結果、基板412への付着率が小さくなると考えられる。そこで、S24では、排気流量を考慮して、アッシュの付着量wを推定するようにしても良い。排気流量を算出するには、先ず、エアフロメータ44によって吸気量を算出する。そして、その吸気量を、排気温センサ43で検出される排気温に応じた排気の膨張分や、圧力センサ(図示外)で検出される圧力に応じた排気の圧縮分で補正することで、排気流量(体積流量)を算出すれば良い。
【0057】
次いで、S24で推定したアッシュの付着量wに基づいて、PMセンサ41の出力をどの程度補正するかを示した補正係数k2を算出する(S25)。アッシュの付着量wが多くなるほど、電極413a、413b間が通電しにくくなってPMセンサ41の出力が小さくなる。つまり補正すべき量(補正係数k2)が大きくなると考えられる。そのため、S25では、例えば図12に示すアッシュの付着量wに対する補正係数k2のマップ320を予めメモリ61(図1参照)に記憶しておく。そして、そのマップ320を参照して、今回のアッシュの付着量wに対応する補正係数k2を求める。なお、図12では、アッシュの付着量wに対して直線的に補正係数k2が変化するマップ320を示しているが、実際は、直線的に変化するとは限らない。
【0058】
次いで、PMセンサ41の出力(図4(b)のライン130)に補正係数k2を乗算して、その出力を大きくする方向に補正する(S26)。これによって、アッシュが付着していないときの出力(図4(b)のライン110)に補正できる。その後、図9のフローチャートの処理を終了する。なお、以上では、補正係数k2で補正する例について説明したが、S25ではPMセンサ41の出力の補正量を算出し、S26でその補正量だけ出力を加算しても良い。
【0059】
以上説明したように、図5の補正処理1及び図9の補正処理2を実行することで、基板412に導通成分及び非導通成分(アッシュ)が付着していたとしても、それら成分が付着していないときの出力に補正することができる。よって、補正後のPMセンサ41の出力に基づいて、排気中のPM量を正確に推定できるとともに、DPF30の故障の有無を正確に判定することができる。次に、DPF30の故障の有無の判定方法について説明する。図13は、ECU60が実行する、DPF30の故障を検出する故障検出処理の手順を示したフローチャートである。なお、図13のフローチャートの処理は、例えばECU60起動時に開始され、その後定期的に実行される。
【0060】
先ず、先に説明した補正処理1(図5参照)及び補正処理2(図9参照)を実行して、PMセンサ41の出力を補正する(S31)。次いで、補正後のPMセンサ41の出力に基づいて、DPF30の故障の有無を判定する(S32)。具体的には、PMセンサ41の出力が発生するタイミング(電極413a、413b間が通電する通電タイミング)に基づいて、DPF30の故障の有無を判定する。ここで、図14は、その判定の考え方を説明する図であり、具体的には、時間に対するPMセンサ41の出力変化を示している。なお、図14の横軸の時間は、PMセンサ41が再生されてからの時間である。DPF30が故障すると、DPF30を通過するPM量が多くなるので、PMセンサ41の基板412にはより早く多くのPMが付着する。つまり、DPF30が故障すると、電極413a、413b間が通電する通電タイミングが早くなって、その結果、PMセンサ41の出力が早く発生する。そこで、S32では、所定のタイミングよりも早く出力が発生した場合にDPF30が故障していると判定し、遅く出力が発生した場合にDPF30は故障していない(正常)と判定する。
【0061】
なお、ここで言う「DPF30の故障」とは、具体的には、故障によりDPF30の捕集率が著しく低下し、OBD(On−board−diagnostics)の規制値を満足することができない場合を言う。OBDの規制値は、EURO6等の法による規制値より厳しめに設定される。例えば、特定の走行モードにおいて、法による規制値がPM=4.5mg/kmとしたときに、OBDの規制値は例えばその2倍のPM=9.0mg/kmに設定される。そこで、図14に示すように、故障の有無を分ける閾値として、OBDの規制値(PM=9.0mg/km)のライン701を設定する。そして、PMセンサ41の出力が閾値のライン701よりも左側のライン702で示される場合、つまり通電タイミングt1が閾値の通電タイミングt0より早い場合には、DPF30が故障していると判定する(S32)。この場合には、例えば故障している旨をユーザに報知する。これに対し、PMセンサ41の出力が閾値のライン701よりも右側のライン703で示される場合、つまり通電タイミングt2が閾値の通電タイミングt0より遅い場合には、DPF30は故障していない(正常である)と判定する(S32)。
【0062】
なお、S31の補正処理を行っていないとすると、PM以外の導通成分がPMセンサ41に付着していることによって、PMセンサ41の出力が、正常時のライン703から故障時のライン702に変化してしまう場合がある。この場合には、DPF30が正常であるにもかかわらず故障していると誤判定してしまう。反対に、PMセンサ41にアッシュ成分が付着していることによって、PMセンサ41の出力が、故障時のライン702から正常時のライン703に変化してしまう場合がある。この場合には、DPF30が故障しているにもかかわらず正常であると誤判定をしてしまう。本発明では、S31で補正処理を行っているので、そのような誤判定を防止できる。S32の処理の後、図13のフローチャートの処理を終了する。
【0063】
このように、PMセンサ41の出力が発生するタイミングでDPF30の故障の有無を判定することで、精度良くその判定をすることができる。これに対し、PMセンサ41の出力の絶対値に基づいてDPF30の故障の有無を判定すると、電極413a、413b間に付着したPMの電気抵抗は温度の影響によって大きく変化するので、誤判定をする場合がある。
【0064】
なお、本発明に係る粒子状物質検出装置及びパティキュレートフィルタの故障検出装置は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の趣旨を逸脱しない限度で種々変形することができる。例えば、上記実施形態では、DPFの故障を検出するためにPMセンサを使用していたが、DPFの上流側にPMセンサを設けて、そのPMセンサの出力に基づいてDPFに堆積しているPMの堆積量を推定するようにしても良い。これによれば、PMセンサの出力が補正されるので、PMの堆積量を正確に推定できる。
【0065】
なお、上記実施形態において、図5のS11の処理を実行するECU60及びヒータ414が本発明の「除去手段」に相当する。図5のS12及びS13の処理を実行するECU60が本発明の「第一の付着判断手段」に相当する。図5のS14及びS15の処理を実行するECU60が本発明の「第一の補正手段」に相当する。図5のS12の処理を実行するECU60が本発明の「検出値取得手段」に相当する。図5のS13の処理を実行するECU60が本発明の「第一の付着量推定手段」に相当する。図9のS21の処理を実行するECU60が本発明の「排出量推定手段」、「運転状態取得手段」及び「走行距離取得手段」に相当する。図9のS21〜S24の処理を実行するECU60が本発明の「第二の付着判断手段」に相当する。図9のS25及びS26を実行するECU60が本発明の「第二の補正手段」に相当する。図9のS22の処理を実行するECU60が本発明の「捕集率推定手段」に相当する。図9のS23の処理を実行するECU60が本発明の「すり抜け量推定手段」に相当する。図9のS24の処理を実行するECU60が本発明の「第二の付着量推定手段」に相当する。メモリ61が本発明の「第一の対応関係記憶手段」及び「第二の対応関係記憶手段」に相当する。図13のS32の処理を実行するECU60が本発明の「故障有無判定手段」に相当する。
【符号の説明】
【0066】
1 エンジンシステム
10 ディーゼルエンジン(内燃機関)
21 排気通路
30 ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)
41 PMセンサ
411 カバー
411a 孔
412 基板
413、413a、413b 電極
414 ヒータ
415 電圧源
416 制御回路
60 ECU
61 メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ、一対の電極が形成された絶縁体の付着部を有し、排気中の粒子状物質が前記付着部に一定以上付着したときに前記一対の電極間が通電して、その通電時に前記付着部に付着した粒子状物質の量に応じた検出値を出力するPMセンサと、
前記付着部に付着した粒子状物質を除去する除去手段と、
前記除去手段による粒子状物質の除去後に前記PMセンサから出力される検出値である除去後検出値に基づいて、前記付着部に粒子状物質以外の導通成分が付着しているかを判断する第一の付着判断手段と、
前記第一の付着判断手段が前記導通成分が前記付着部に付着していると判断した場合に、前記検出値を所定値分小さい値に補正する第一の補正手段と、を備えることを特徴とする粒子状物質検出装置。
【請求項2】
内燃機関の排気通路に設けられ、一対の電極が形成された絶縁体の付着部を有し、排気中の粒子状物質が前記付着部に一定以上付着したときに前記一対の電極間が通電して、その通電時に前記付着部に付着した粒子状物質の量に応じた検出値を出力するPMセンサと、
前記内燃機関から排出される所定の非導通成分の排出量を推定する排出量推定手段を含み、その排出量推定手段が推定した前記非導通成分の排出量に基づいて、前記付着部に前記非導通成分が付着しているかを判断する第二の付着判断手段と、
前記第二の付着判断手段が前記非導通成分が前記付着部に付着していると判断した場合に、前記検出値を所定値分大きい値に補正する第二の補正手段と、を備えることを特徴とする粒子状物質検出装置。
【請求項3】
前記第一の付着判断手段は、前記除去後検出値に基づいて、前記付着部に付着した前記導通成分の量である導通成分付着量を推定する第一の付着量推定手段を含み、
前記第一の補正手段は、前記第一の付着量推定手段が推定した前記導通成分付着量に応じた分だけ前記検出値を小さい値に補正することを特徴とする請求項1に記載の粒子状物質検出装置。
【請求項4】
前記PMセンサは、前記付着部を加熱するヒータを有し、
前記除去手段は、前記ヒータを制御して、粒子状物質が燃焼される温度まで前記付着部を加熱させるものであることを特徴とする請求項1又は3に記載の粒子状物質検出装置。
【請求項5】
前記第一の付着判断手段は、前記除去手段による粒子状物質の除去後に前記一対の電極間に交流電圧を印加することで前記除去後検出値を取得する検出値取得手段を含むことを特徴とする請求項1、3、4のいずれか1項に記載の粒子状物質検出装置。
【請求項6】
前記排気通路には排気中の粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタが設けられ、
前記PMセンサは前記パティキュレートフィルタの下流に設けられたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の粒子状物質検出装置。
【請求項7】
前記第二の付着判断手段は、前記非導通成分の排出量に基づいて、前記付着部に付着した前記非導通成分の量である非導通成分付着量を推定する第二の付着量推定手段を含み、
前記第二の補正手段は、前記第二の付着量推定手段が推定した前記非導通成分付着量に応じた分だけ前記検出値を大きい値に補正することを特徴とする請求項2に記載の粒子状物質検出装置。
【請求項8】
前記非導通成分はアッシュであり、
前記排気通路には排気中の粒子状物質を捕集するとともにアッシュも捕集可能なパティキュレートフィルタが設けられ、
前記PMセンサは前記パティキュレートフィルタの下流に設けられ、
前記第二の付着判断手段は、前記パティキュレートフィルタによるアッシュの捕集率を推定する捕集率推定手段と、
前記排出量推定手段が推定したアッシュの排出量と前記捕集率推定手段が推定したアッシュの捕集率とに基づいて、前記パティキュレートフィルタをすり抜けたアッシュの量であるすり抜け量を推定するすり抜け量推定手段と、を含み、
前記第二の付着量推定手段は、前記すり抜け量推定手段が推定した前記すり抜け量に基づいて、前記付着部に付着したアッシュの付着量を前記非導通成分付着量として推定することを特徴とする請求項7に記載の粒子状物質検出装置。
【請求項9】
前記内燃機関の運転状態と前記内燃機関から排出されるアッシュの排出量との対応関係が記憶された第一の対応関係記憶手段と、
前記内燃機関の運転状態を取得する運転状態取得手段と、を備え、
前記排出量推定手段は、前記運転状態取得手段が取得した前記内燃機関の運転状態と前記第一の対応関係記憶手段に記憶された前記対応関係とに基づいて、前記アッシュの排出量を推定することを特徴とする請求項8に記載の粒子状物質検出装置。
【請求項10】
前記内燃機関が搭載された車両の走行距離と各走行距離を走行するまでに前記内燃機関から排出されたアッシュの排出量との対応関係が記憶された第二の対応関係記憶手段と、
前記車両の走行距離を取得する走行距離取得手段と、を備え、
前記排出量推定手段は、前記走行距離取得手段が取得した前記車両の走行距離と前記第二の対応関係記憶手段に記憶された前記対応関係とに基づいて、前記アッシュの排出量を推定することを特徴とする請求項8又は9に記載の粒子状物質検出装置。
【請求項11】
請求項6、8〜10のいずれか1項に記載の粒子状物質検出装置と、
前記第一の補正手段又は前記第二の補正手段によって補正された前記PMセンサの出力が発生するタイミングが、所定タイミングより早い場合には前記パティキュレートフィルタが故障していると判定し、前記所定タイミングより遅い場合には前記パティキュレートフィルタは正常であると判定する故障有無判定手段と、を備えることを特徴とするパティキュレートフィルタの故障検出装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−189049(P2012−189049A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55525(P2011−55525)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】