粗面形成ローラ、粗面形成装置及び粗面線材並びに粗面形成方法
【課題】 摩擦係数が高く、生産性が向上し、コストを低くすることができる粗面形成ローラ、粗面形成装置及び粗面線材並びに粗面形成方法を提供する。
【解決手段】 線材Wの表面に粗面を設ける粗面形成ローラ10であって、中心に回転軸22を備えるための回転軸穴11Aを有するローラ本体11と、線材Wが接触し、ローラ本体11の外周面に沿って環状に設けられる少なくとも一条の溝12Aを有する溝部12と、溝12Aの溝面12Bに設けられ、線材Wに粗面を形成する複数の尖鋭な突起部13とを備えることを特徴とする。
【解決手段】 線材Wの表面に粗面を設ける粗面形成ローラ10であって、中心に回転軸22を備えるための回転軸穴11Aを有するローラ本体11と、線材Wが接触し、ローラ本体11の外周面に沿って環状に設けられる少なくとも一条の溝12Aを有する溝部12と、溝12Aの溝面12Bに設けられ、線材Wに粗面を形成する複数の尖鋭な突起部13とを備えることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線材の表面に粗面を形成する粗面形成ローラ、粗面形成装置及び粗面形成方法及び表面に粗面が形成された粗面線材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から用いられている粗面線材は、10%Al・Zn合金で付着量がMIN660g/m2のメッキ層が施されている。この粗面線材を用いて護岸工事用金網(かごマット)を製造した場合、その護岸工事用金網の摩擦係数は、湿潤状態において0.86〜0.96程度の摩擦係数となるものが一般的となっている。この粗面線材の粗面は、線材のメッキ層にコンプレッサでブラスト材を吹き付けて形成される。具体的には、ブラスト装置内に設けられた大型のコンプレッサにより、所定のブラスト圧力でブラスト材を線材に吹きつけることで得られる打痕が粗面となる。なお、ブラスト材には、カットワイヤ(硬鋼線、ステンレス線)やグリッド(鋳鉄、鋳鋼、アルミナ等)等を用いている。
したがって、線材に十分な粗面を形成するために、ブラスト条件(ブラスト圧力、ブラスト材使用量、ブラスト材の材質、通線速度等)を最適な組み合わせとなるように決定する(例えば、特許文献1参照)。
例えば、摩擦係数の大きい粗面線材を製造する場合、供給する線材の走行速度を遅くし、ブラスト材を吹き付けるコンプレッサの噴射圧力を大きくし、質量の大きいブラスト材を用い、このブラスト材の使用量を多くする。これにより、線材には、高密度で打痕深さ(以下、「痕深さ」という場合がある。)が大きく、摩擦係数が大きい粗面が形成される。
また、ブラスト材の質量を前記条件より小さくし、他を前記条件と同様とした場合は、前記条件で形成される打痕よりも吹き付けられた粒状体の打痕が小さく、摩擦係数も小さい粗面が形成されることとなる。
このように、各条件を変更することによって、摩擦係数が異なる粗面線材を製造することができる。
【特許文献1】特開2004−176169号公報(段落0002〜0008、図27)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ブラスト材は消耗品であり、線材に吹き付けられることで磨耗し、ブラスト材の角が丸みを帯びてきたり、粒径が小さくなって、線材に形成する打痕が小さくなってしまうことから、定期的な交換が必要である。ブラスト材の交換は、粒径等を管理しながら行われるため、作業が煩雑であり、維持管理にコストがかかってしまう。
また、粗面線材の製造を早めようとして線材の通線速度(供給速度)を速めると、線材に吹き付けられるブラスト材が少なくなる。つまり、打痕の密度が小さくなって摩擦係数が小さくなる。したがって、摩擦係数の大きい粗面線材を製造する場合、粗面線材の生産性を向上させるのには限界がある。
また、ブラスト装置に用いる大型のコンプレッサは、設置価格が高く、消費電力が大きいため、コストを増大させる要因となっている。
【0004】
そこで、本発明では、前記した問題を解決し、摩擦係数が高く、生産性が向上し、コストを低くすることができる粗面形成ローラ、粗面形成装置及び粗面線材並びに粗面形成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明は、線材の表面に粗面を設ける粗面形成ローラであって、中心に回転軸を備えるための回転軸穴を有するローラ本体と、前記線材が接触し、前記ローラ本体の外周面に沿って環状に設けられる少なくとも一条の溝を有する溝部と、前記溝の溝面に設けられ、前記線材に前記粗面を形成する複数の尖鋭な突起部とを備えることを特徴とする粗面形成ローラである。
【0006】
このように、ローラ本体に溝を設け、この溝の溝面に複数の尖鋭な突起部を設けたので、線材が溝に接触することにより、溝の溝面に設けた複数の尖鋭な突起部が線材に食い込むようにして凹凸を付けて粗面を形成することができるようになっている。
【0007】
また、本発明は、前記突起部を、前記溝の溝面に穴加工した際に当該穴の外縁に生じる返りとしても良い。
【0008】
このように、突起部を穴加工した際に当該穴の外縁に生じる返りとすることにより、溝面に突起部を容易に設けことができ、また、線材に粗面を容易に形成することができるようになっている。
また、線材がメッキ層を有している場合は、この穴により、メッキ層の溝への付着を抑制することができるようにもなっている。
【0009】
また、本発明は、前記粗面形成ローラに焼入れを施しても良い。
【0010】
このように、粗面形成ローラに焼入れを施すので、溝の溝面に設けた突起部の強度を高くすることができる。
これにより、繰り返して使用しても突起部の磨耗を少なくすることができる。
【0011】
また、本発明は、線材の表面に粗面を設ける粗面形成装置であって、走行する線材を挟むように、この線材に対して対称位置に配置される2体1組の請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の粗面形成ローラを少なくとも1組備えたことを特徴とする粗面形成装置である。
【0012】
このように、粗面形成ローラの溝に線材を接触させつつ対称位置に配置し、この線材を挟むようにして2体1組の粗面形成ローラを少なくとも一組備えることにより、線材が走行するとともに粗面形成ローラが回転し、粗面形成ローラの溝の溝面に設けられた突起部と線材との接触位置で線材に粗面が形成することができるようになっている。
【0013】
また、本発明は、前記線材にブラスト加工を施すブラスト装置をさらに備えても良い。
また、本発明は、前記粗面形成ローラの前段又は後段に、前記線材にブラスト加工を施すブラスト装置を備えても良い。
【0014】
このように、粗面形成ローラとブラスト装置とで粗面を形成することで、より凹凸の密度が高い粗面を線材に形成することができるようになっている。
【0015】
また、本発明は、前記粗面形成装置により、線材に粗面が形成されたことを特徴とする粗面線材である。このように、本発明の粗面線材は、粗面形成装置が備える粗面形成ローラによって形成された粗面を有している。この粗面は、ブラスト処理で形成される打痕(粗面)よりも大きな凹凸が形成された粗面となっている。
【0016】
また、本発明は、前記線材がメッキ層を有しており、前記粗面の最大痕深さがメッキ層を超えて素地に達して形成されていても良い。
このように、粗面の最大痕深さがメッキ層を超えて素地にまで達することにより、メッキ層が磨耗しても、素地にも粗面が形成されていることとなるので、磨耗によってメッキ層が消失しても、粗面線材の摩擦係数の減少を小さくすることができるようになっている。
【0017】
また、本発明は、前記粗面形成装置により、前記線材に、前記ブラスト装置によるブラスト加工を施しても良い。本発明の粗面線材は、粗面形成装置が備える粗面形成ローラとブラスト装置とによって形成された粗面を有している。この粗面は、ブラスト処理で形成される打痕と、その打痕よりも大きな凹凸が形成された粗面とで形成されている。
【0018】
また、本発明は、線材を供給する線材供給工程と、供給された前記線材に対して粗面を形成する粗面形成ローラが備える溝の溝面に設けられた突起部を所定の圧力で押し当てて、前記線材に前記粗面を形成する粗面形成工程と、を有することを特徴とする粗面形成方法である。
【0019】
このように、線材供給工程で線材を供給し、粗面形成工程でその線材に粗面形成ローラを所定の圧力で押し当てるので、容易に線材に粗面を形成することができる。
【0020】
また、本発明は、前記粗面形成工程の前又は後に、ブラスト装置によって前記線材にブラスト加工を施すブラスト工程を有しても良い。
【0021】
このように、粗面形成工程の前又は後に、ブラスト工程で前記線材にブラスト装置によるブラスト加工を施すので、密度の高い粗面を線材に形成することができる。
【発明の効果】
【0022】
このような粗面形成ローラによれば、ブラスト装置より大きな粗面を線材に形成することができるので、粗面線材の摩擦係数を大きくすることができる。
また、粗面形成装置によれば、摩擦係数が高い粗面線材を製造することができ、また、ブラスト装置を多用することなく粗面形成ローラで粗面を線材に形成するので、コストを低くすることができる。
また、このような粗面線材によれば、湿潤状態でも高い摩擦係数を有しているので、例えば雨天時にこの粗面線材の上を踏んでも滑りにくくなっている。
さらに、このような粗面形成方法によれば、摩擦係数が高い粗面線材を製造することができ、また、このような粗面線材の生産性が向上し、コストを低くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、本発明を実施するための最良の一形態(以下「実施形態」という)について、図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
なお、各実施形態において、最初に線材に粗面を形成する位置を「前段(又は「前」)」といい、前段で粗面を施した後にさらに粗面を形成する位置を「後段(又は「後」)」という。
また、各実施形態において、「左」及び「右」を示す場合は、走行する線材の走行方向を基準にする。さらに、「上」及び「下」を示す場合は、紙面に対して手前側を「下」、その反対側を「上」とする。
また、ブラスト装置によってブラスト加工して線材に形成された打痕をブラスト粗面という。
また、本実施形態において、メッキ層を有する線材を用いた場合について説明する。
【0025】
(第一の実施形態)
図1は本発明の第一の実施形態に係る粗面形成装置の一例を示す斜視図である。図2は本発明の第一の実施形態に係る粗面形成ローラの一例を示す斜視図である。図3は本発明の第一の実施形態に係る粗面形成ローラの一例を示す断面図である。図4は線材を粗面形成ローラで挟み込んだ状態を示す断面図である。
【0026】
本発明の第一の実施形態に係る粗面形成装置100は、図1に示すように、線材Wに粗面を形成する粗面形成ローラ10と、2つの粗面形成ローラ10を上下方向に支持する2基の粗面形成ローラ支持装置20A,20Aと、左右方向に支持する2基の粗面形成ローラ支持装置20B,20Bと、線材Wに粗面を形成するブラスト装置30とから構成されており、線材Wに、粗面形成ローラ10による粗面とブラスト装置30によるブラスト粗面を形成する役割を果たす。
【0027】
ここで、線材Wは、所定の速度で粗面形成装置100に供給されており(線材供給工程)、素地にメッキ層を施した後に粗面形成装置100によって粗面が形成される。
【0028】
粗面形成ローラ10は、図2に示すように、ローラ本体11と溝部12と突起部13とから構成されており、ブラスト装置30で形成されるブラスト粗面より大きい粗面(凹凸)を線材Wに形成する役割を果たす。この粗面形成ローラ10には焼入れが施されており、突起部13の耐久性を向上させている。
つまり、粗面形成ローラ10のローラ本体11,溝部12,突起部13に焼入れが施され、特に、焼入れによって突起部13が消耗しにくくなることで、繰り返し使用に耐えられるようになっている。
【0029】
ローラ本体11は、図2に示すように、円盤状に形成されており、その円盤の中心に回転軸21を備えるための回転軸穴11Aが設けられており、走行する線材Wを押し付ることで、回転軸21を中心に回転する役割を果たす。
【0030】
溝部12は、図2に示すように、ローラ本体11の外周面に沿って設けられた環状となる3条の溝12A,12A・・・から構成されており、この3条の溝12A,12A・・・のいずれか1つに線材Wを接触させるようになっている。
また、溝12Aは、図4に示すように、線材Wの径よりも大きく形成されている。
具体的には、線材Wに形成された粗面(凹凸)の破壊を防止するために、溝12Aの幅は、線材Wの径よりも20〜60%大きく形成するのが好ましい。
これは後述する粗面形成ローラ10,10・・・を前段及び後段に配置した際に、前段の粗面形成ローラ10,10で形成された粗面を後段の粗面形成ローラ10,10で破壊されないようにするためである。
したがって、線材Wの径より大きくする形成する溝12Aの幅が、線材Wの径の20%未満では、粗面が溝12Aと接触して破壊される恐れがあり、60%を超えると、突起部13との接触面積が減少し、粗面が効率よく形成されないからである。
【0031】
また、溝部12に3条の溝12A,12A・・・を設けたことで、いずれか1つの溝12Aの溝面12Bに設ける後述する突起部13が消耗しても、他の溝12Aに線材Wを接触させることで、十分な突起状態となっている突起部13で線材Wに粗面を形成することができる。
【0032】
突起部13は、図2及び図3に示すように、各溝12Aの溝面12Bに設けられており、線材Wに粗面(凹凸)を形成する役割を果たす。
この突起部13は、センターポンチにより穴加工された穴Hの外縁に生じた返りによって形成されている。この返りは、粗面形成ローラ10を線材Wに押し付けたとき、線材Wのメッキ層を超えて素地まで達する程度に尖鋭に突起している。
【0033】
粗面形成ローラ支持装置20Aは、図1に示すように、回転軸21、軸支部22、固定部23、ネジ24から構成されており、粗面形成ローラ10を線材Wに押し当てた状態を維持するように固定する役割を果たす。
【0034】
この粗面形成ローラ支持装置20Aは、2つの粗面形成ローラ10を支持することができ、この2つの粗面形成ローラ10を線材Wに対して対称位置に配置することができるようになっている。これにより、線材Wは、2つの粗面形成ローラ10によって挟まれた状態で押し付けられる(図4参照)。
【0035】
回転軸21は、図1に示すように、粗面形成ローラ10のローラ本体11に設けられた回転軸穴11Aに挿通されるとともに軸支部22によって軸支される。この回転軸21によってローラ本体11が回転することができる。
【0036】
軸支部22は、図1に示すように、コの字型に形成されており、開口している側で回転軸21を軸支することができるようになっている。
【0037】
固定部23Aは、図1に示すように、軸支部22を狭持して粗面形成ローラ10の位置を固定する役割を果たし、形状が略Uの字型に形成されており、開口側が上を向きつつ線材Wが開口側の中央を通るように配置される。そして、固定部23Aの開口側の両端部で、粗面形成ローラ10の溝12Aを線材W側に向けた状態で軸支部22,22を線材Wの方向に近づけるように左右方向にスライド自在に狭持している。このとき、粗面形成ローラ10の溝12Aは、線材Wの走行方法と平行になっている。
【0038】
ネジ24は、図1に示すように、粗面形成ローラ10を線材Wに所定の押圧力で押し当て、スライド自在に狭持される軸支部22のスライド位置を固定する役割を果たす。このネジ24をねじ込むことにより、線材Wの方向にスライドさせた軸支部22のスライド位置を固定し、線材Wに粗面形成ローラ10が押し当てられた状態にすることができる。よって、左右方向の両側(線材Wに対して対称位置)から粗面形成ローラ10,10で線材Wを挟んだ状態となる。これにより、線材Wが走行すると、粗面形成ローラ10,10は、線材Wとの摩擦抵抗により回転を始めることとなる。
なお、線材Wを挟みつける押圧は、線材の径が替わっても、適宜、調節が可能となっている。つまり、ネジ24をねじ込み又は緩めることにより調節が可能となっている。
【0039】
粗面形成ローラ支持装置20Bは、図1に示すように、固定部23Bが、線材Wの方向に近づけるように上下方向にスライド自在に狭持している点で粗面形成ローラ支持装置20Aの固定部23と異なっている。
これにより、ネジ24で、線材Wの方向に近づくように上下方向にスライドさせた軸支部22のスライド位置を固定し、線材Wに粗面形成ローラ10が押し当てられた状態にすることができる。よって、上下方向の両側(線材Wに対して対称位置)から粗面形成ローラ10,10で線材Wを挟んだ状態となる。
【0040】
このように、所定の圧力で粗面形成ローラ10,10によって挟まれた線材Wは、図4に示すように、粗面形成ローラ10の突起部13により、突起部13がメッキ層を超えて素地に至るまで食い込んで線材Wに所定の痕深さまで達する凹部を形成する。これにより、突起部13が食い込んだ部分のメッキ材及び素地が突起部13によって押しのけられて線材Wに凸部(返り)を形成する。この凹凸が粗面となる。
【0041】
したがって、粗面形成ローラ10が回転することによって、線材Wには、粗面形成ローラ10の突起部13によって、粗面の最大痕深さが線材Wの有するメッキ層を超えて素地に至り、環状の凹凸又は/および略半月形状の複数の凹凸からなる粗面が形成される(粗面形成工程)。
【0042】
ここで、粗面形成ローラ支持装置20A,20Aと粗面形成ローラ支持装置20B,20Bとは、交互に配置されており、線材Wに密度が高い粗面を形成することができるようになっている。
【0043】
ブラスト装置30は、図1に示すように、従来から用いられているブラスト装置を使用し、線材Wのメッキ層にクレータ状の打痕からなるブラスト粗面を形成する役割を果たす。このブラスト装置30は、粗面形成ローラ10,10・・・の後段に配置され、粗面形成ローラ10による粗面の形成が終了した後に、ブラスト処理によりブラスト粗面を形成する(ブラスト工程)。
ここで、ブラスト装置30で行われるブラスト処理は、すでに粗面形成ローラ10,10・・・で粗面が形成されているので、コンプレッサによるエアの使用量やブラスト材の使用量を従来のブラスト装置のみからブラスト粗面を形成する場合に比べて少なくすることができる。
【0044】
このように粗面形成装置を構成したので、粗面の最大痕深さが線材Wの素地まで達して粗面を形成しつつメッキ層にクレータ状の打痕からなる粗面を線材Wに形成することができるので、ブラスト装置のみから粗面を形成したものより摩擦係数の高い粗面線材SWを製造することができる。
また、ブラスト装置30で行われるブラスト処理が従来のブラスト装置のみからブラスト粗面を形成する場合に比べて、コンプレッサによるエアの使用量やブラスト材の使用量を少なくすることができるので、コストを低くすることができる。
さらに、粗面形成ローラ10,10・・・は、線材Wとの摩擦抵抗により線材Wの走行速度に応じて回転するので、正確かつ確実に粗面を線材Wに形成することから、粗面線材SWの生産性を向上させることができる。
【0045】
なお、このようにして製造された粗面線材SWは、大きな凹部を有する粗面となっており、粗面の凹部開口の幅が100〜3000nmでかつ凹部の長さが線材Wの径の20〜90%、痕深さが50〜350μm、粗面の加工面積が線材Wの全表面に対して20%以上となり、ブラスト装置のみでは形成できない摩擦係数が大きい粗面を有している。
このように形成された粗面は、内部に泥や砂をため易くなるので、例えば、護岸工事でこの粗面線材SWを用いた場合であってこの粗面線材SWの上を歩行する場合は、靴底に付着した泥や砂が粗面の内部に入り込み、靴底が線材の粗面に直接接触することができるようになる。また、凹部の外縁である凸部(返り)がスパイク効果を生じるとともに凹部に靴底のゴムが食い込み易くなっていることにより、滑りにくくなっている。
したがって、滑り易い環境にあっても、この粗面線材SWを用いることにより、滑りにくくすることができる。
【0046】
(第二の実施形態)
図5は本発明の第二の実施形態に係る粗面形成装置の一例を示す斜視図である。
本発明の第二の実施形態に係る粗面形成装置101は、図5に示すように、ブラスト装置30が粗面形成ローラ10,10・・・よりも前段に配置されている点で第一の実施形態と異なる。
このように粗面形成装置101を構成しても、後に粗面形成ローラ10,10・・・によって正確かつ確実に粗面が形成されるので、ブラスト装置30で行われるブラスト処理が従来のブラスト装置のみからブラスト粗面を形成する場合に比べて、コンプレッサによるエアの使用量やブラスト材の使用量を少なくすることができ、コストを低くすることができる。
したがって、粗面形成装置101は、第一の実施形態に係る粗面形成装置100と同様の効果を奏する。
【0047】
(第三の実施形態)
図6は本発明の第三の実施形態に係る粗面形成装置の一例を示す斜視図である。
本発明の第三の実施形態に係る粗面形成装置102は、図6に示すように、粗面形成ローラ10,10・・・のみで構成されている点で第一の実施形態と異なる。
このように、粗面形成ローラ10,10・・・のみで粗面線材SWを製造する場合は、ブラスト装置によるメッキ層へのブラスト粗面の形成を考慮する必要がないため、より高速に粗面線材SWを製造することができる。また、ブラスト装置を用いないため、このブラスト装置にかかるコストを考慮する必要もなくなる。
したがって、容易かつ低コストで、摩擦係数の高い粗面線材SWを高速で製造することができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態には限定されない。例えば、粗面形成ローラ10の突起部は、突起状の部材、例えばスパイクであっても良い。その場合、溝12Aの溝面12Bにネジが切られた穴を設けておき、その穴にスパイクを羅合させて突起部とする。
また、粗面形成ローラ10の突起部は、ドリル等で穴を抉るように開けて、その穴の外縁に生じさせたバリを突起部としても良い。
また、突起部を、歯車の歯末の形状に形成しても良い。このとき、歯末の形状を形成する場合は、尖鋭な突起となるように形成するのが好ましい。
【0049】
また、粗面形成装置100(101,102)に設けた粗面形成ローラ10は、線材Wに対して少なくとも一つの対称位置に配置されていれば良く、その数に制限はない。
また、線材は、メッキ層を有したものに限定されず、メッキ層を有さない素線であってもよい。また、線材の径も限定されない。
【0050】
また、粗面形成ローラ10を線材Wに押し付けるために、ネジ24を用いたが、このネジ24に替えて油圧式の押圧装置(例えば油圧ジャッキ)を用い、この油圧式の押圧装置により、油圧で押圧を調節するようにしても良い。
【実施例】
【0051】
次に、本発明の効果を確認した実施例について説明する。本実施例では、前記粗面形成ローラ10のみを使用した場合の粗面、ブラスト装置30のみを使用した場合のブラスト粗面、水冷滑面、空冷粗面で、粗面形成結果を比較した。
【0052】
線材としては、φ4.0mm及びφ5.0mmの10%Al・Zn合金メッキ鉄線MIN660g/m2を用いた。
また、粗面形成ローラには、材質がSKD11、硬度がHV800、無酸化加熱をした後にオイル焼入れをして焼鈍の熱処理をしたものを用いた。
この粗面形成ローラの外周面に溝を設け、その溝の溝面にセンターポンチによるポンチ穴を複数設けた。ポンチ穴の外縁には返りが形成されており、溝にφ5.0mmの線材を接触させることで線材に返りを押し付けて粗面を形成した例を実施例1とする。また、溝にφ4.0mmの線材を接触させることで線材に返りを押し付けて粗面を形成した例を実施例2とする。
また、ブラスト装置によりブラスト材をφ5.0mmの線材に吹き付けてブラスト粗面を形成した例を比較例1とする。また、φ5.0mmの線材の粗さが水冷滑面となっている例を比較例2とし、空冷粗面となっている例を比較例3とする。
また、ブラスト装置によりブラスト材をφ4.0mmの線材に吹き付けてブラスト粗面を形成した例を比較例4とする。また、φ4.0mmの線材の粗さが水冷滑面となっている例を比較例5とし、空冷粗面となっている例を比較例6とする。
【0053】
粗面の良否は、粗面の粗さ及び摩擦係数を測定することにより行う。
測定する粗面の粗さは、中心線平均粗さ(Ra)、最大粗さ(Rmax)、10点平均粗さ(Rz)(いずれも単位は「μm」である。)の3項目について測定した。その結果を表1に示す。
摩擦係数の測定は、線材を網状にした試験片(2.0m×2.0m)を形成し、湿潤状態でその試験片に滑り片を通常速度100mm/minですべられせることで摩擦係数を測定する国土交通省で採用されている面的摩擦試験にて行う。この滑り片において、全質量が30kgで、試験片と接触する部分には、JIS T 8101に規定されているゴムが用いられ、その接触面積は450cm2(長辺30cm、短辺15cm)となっている。このようにして測定した結果を表2に示す。
なお、線材を網状にした試験片は、いわゆる護岸工事等で用いられる金網(かごマット)形状で形成される。
【0054】
表1より明らかなように、実施例1の中心線平均粗さ(Ra)は4.0μmであり、比較例1の中心線平均粗さ(Ra)が1.8μm、比較例2の中心線平均粗さ(Ra)が0.7μm、比較例3の中心線平均粗さ(Ra)が2.0μmとなり、各比較例の値よりも高くなった。また、実施例1の最大粗さ(Rmax)は161.4μmであり、比較例1の最大粗さ(Rmax)が38.2μm、比較例2の最大粗さ(Rmax)が5.0μm、比較例3の最大粗さ(Rmax)が38.3μmとなり、各比較例の値よりも高くなった。また、実施例1の10点平均粗さ(Rz)は22.2μmであり、比較例1の10点平均粗さ(Rz)が13.1μm、比較例2の10点平均粗さ(Rz)が3.7μm、比較例3の10点平均粗さ(Rz)が12.8μmとなり、各比較例の値よりも高くなった。
【0055】
さらに、実施例2の中心線平均粗さ(Ra)は3.4であり、比較例4の中心線平均粗さ(Ra)が2.6μm、比較例5の中心線平均粗さ(Ra)が0.6μm、比較例6の中心線平均粗さ(Ra)が1.3μmとなり、各比較例の値よりも高くなった。また、実施例2の最大粗さ(Rmax)は139.8であり、比較例4の最大粗さ(Rmax)が55.8μm、比較例5の最大粗さ(Rmax)が5.2μm、比較例6の最大粗さ(Rmax)が28.5μmとなり、各比較例の値よりも高くなった。また、実施例2の10点平均粗さ(Rz)は18.6であり、比較例4の10点平均粗さ(Rz)が12.8μm、比較例5の10点平均粗さ(Rz)が3.2μm、比較例6の10点平均粗さ(Rz)が9.9μmとなり、各比較例の値よりも高くなった。
【0056】
【表1】
【0057】
図7は線材に粗面形成ローラで形成した粗面部表面の走査型電子顕微鏡による拡大写真(×35)である。図8は線材にブラスト装置で形成したブラスト粗面部表面の走査型電子顕微鏡による拡大写真(×35)である。図9は粗面形成ローラで形成した粗面を有する線材の粗面部縦断面の光学顕微鏡による拡大写真(×50)である。図10は粗面形成ローラで形成した粗面を有する線材の粗面部縦断面の光学顕微鏡による拡大写真(×200)である。図11はブラスト装置で形成したブラスト粗面を有する線材の粗面部縦断面の光学顕微鏡による拡大写真(×50)である。図12はブラスト装置で形成したブラスト粗面を有する線材の粗面部縦断面の光学顕微鏡による拡大写真(×200)である。
【0058】
ここで、実施例1と比較例1に注目して説明する。
図7、図9及び図10は、実施例1に係る粗面線材の粗面の状態を示しており、図8、図11及び図12は、比較例1に係る粗面線材の粗面の状態を示している。
図7及び図8からも明らかなように、実施例1(図7)の方が比較例1(図8)よりも大きな痕が線材に形成されている。つまり、この痕が大きいほど線材の持つ摩擦係数も大きくなる。
また、図9〜図12からも明らかなように、実施例1(図9,図10)の方が比較例1(図11,図12)よりも痕の深さ及び返りが大きくなっている。したがって、痕の深さ及び返りが大きいほど線材の持つ摩擦係数も大きくなる。
【0059】
これは、表2から明らかである。つまり、実施例1の摩擦係数は、1.00〜1.15となり、比較例1の摩擦係数の0.86〜0,96を超える値となっている。
参考に、比較例2の摩擦係数は0.70〜0.85であり、実施例1の摩擦係数よりも低い値となっている。
【0060】
これにより、粗面形成ローラを用いて線材に形成する粗面は、ブラスト装置で形成するブラスト粗面よりも粗く、摩擦係数の大きい粗面となることが確認された。
【0061】
【表2】
【0062】
次に、粗面形成ローラの材質又は突起部の形状を変えて、線材への粗面の形成状態を確認した。
実施例3は、実施例1及び実施例2で粗面を形成した粗面形成ローラであって、粗面形成ローラの材質がSKD11で突起部がセンターポンチで形成されたポンチ穴外縁の返りとなっている。また、実施例4は、粗面形成ローラの材質がS45C、硬度がHV600程度であって、表面高周波焼入加工を施しており、突起部が実施例3と同様となっている。また、実施例5は、突起部が歯車の歯末となっている以外は実施例3と同じ条件となっている。また、実施例6は、粗面形成ローラの材質がS45Cで、突起部がHV300程度の硬度を有するハステロイ系のアーク式溶射となっている。
【0063】
表3に示すように、実施例3は、線材に良好な粗面を形成した。実施例4は、初期の段階では良好な粗面を形成していたが、次第に線材に形成される粗面が浅くなり、最終的に粗面が消失した。これは、粗面形成ローラの材質がS45Cであることから、実施例1の材質よりも硬度が低いために起きた現象である。実施例5は、実施例1に比べて浅い粗面となった。実施例6は、粗面形成ローラに線材のメッキ材が付着し、粗面が消失した。
【0064】
【表3】
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る粗面形成装置の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明の第一の実施形態に係る粗面形成ローラの一例を示す斜視図である。
【図3】本発明の第一の実施形態に係る粗面形成ローラの一例を示す断面図である。
【図4】線材を粗面形成ローラで挟み込んだ状態を示す断面図である。
【図5】本発明の第二の実施形態に係る粗面形成装置の一例を示す斜視図である。
【図6】本発明の第三の実施形態に係る粗面形成装置の一例を示す斜視図である。
【図7】線材に粗面形成ローラで形成した粗面部表面の走査型電子顕微鏡による拡大写真(×35)である。
【図8】線材にブラスト装置で形成したブラスト粗面部表面の走査型電子顕微鏡による拡大写真(×35)である。
【図9】粗面形成ローラで形成した粗面を有する線材の粗面部縦断面の光学顕微鏡による拡大写真(×50)である。
【図10】粗面形成ローラで形成した粗面を有する線材の粗面部縦断面の光学顕微鏡による拡大写真(×200)である。
【図11】ブラスト装置で形成したブラスト粗面を有する線材の粗面部縦断面の光学顕微鏡による拡大写真(×50)である。
【図12】ブラスト装置で形成したブラスト粗面を有する線材の粗面部縦断面の光学顕微鏡による拡大写真(×200)である。
【符号の説明】
【0066】
100,101,102 粗面形成装置
10 粗面形成ローラ
11 ローラ本体
11A 回転軸穴
12 溝部
12A 溝
12B 溝面
13 突起部(返り)
20A,20B ローラ支持装置
21 回転軸
22 軸支部
23A,23B 固定部
24 ネジ
30 ブラスト装置
H 穴
W 線材
SW 粗面線材
【技術分野】
【0001】
本発明は、線材の表面に粗面を形成する粗面形成ローラ、粗面形成装置及び粗面形成方法及び表面に粗面が形成された粗面線材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から用いられている粗面線材は、10%Al・Zn合金で付着量がMIN660g/m2のメッキ層が施されている。この粗面線材を用いて護岸工事用金網(かごマット)を製造した場合、その護岸工事用金網の摩擦係数は、湿潤状態において0.86〜0.96程度の摩擦係数となるものが一般的となっている。この粗面線材の粗面は、線材のメッキ層にコンプレッサでブラスト材を吹き付けて形成される。具体的には、ブラスト装置内に設けられた大型のコンプレッサにより、所定のブラスト圧力でブラスト材を線材に吹きつけることで得られる打痕が粗面となる。なお、ブラスト材には、カットワイヤ(硬鋼線、ステンレス線)やグリッド(鋳鉄、鋳鋼、アルミナ等)等を用いている。
したがって、線材に十分な粗面を形成するために、ブラスト条件(ブラスト圧力、ブラスト材使用量、ブラスト材の材質、通線速度等)を最適な組み合わせとなるように決定する(例えば、特許文献1参照)。
例えば、摩擦係数の大きい粗面線材を製造する場合、供給する線材の走行速度を遅くし、ブラスト材を吹き付けるコンプレッサの噴射圧力を大きくし、質量の大きいブラスト材を用い、このブラスト材の使用量を多くする。これにより、線材には、高密度で打痕深さ(以下、「痕深さ」という場合がある。)が大きく、摩擦係数が大きい粗面が形成される。
また、ブラスト材の質量を前記条件より小さくし、他を前記条件と同様とした場合は、前記条件で形成される打痕よりも吹き付けられた粒状体の打痕が小さく、摩擦係数も小さい粗面が形成されることとなる。
このように、各条件を変更することによって、摩擦係数が異なる粗面線材を製造することができる。
【特許文献1】特開2004−176169号公報(段落0002〜0008、図27)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ブラスト材は消耗品であり、線材に吹き付けられることで磨耗し、ブラスト材の角が丸みを帯びてきたり、粒径が小さくなって、線材に形成する打痕が小さくなってしまうことから、定期的な交換が必要である。ブラスト材の交換は、粒径等を管理しながら行われるため、作業が煩雑であり、維持管理にコストがかかってしまう。
また、粗面線材の製造を早めようとして線材の通線速度(供給速度)を速めると、線材に吹き付けられるブラスト材が少なくなる。つまり、打痕の密度が小さくなって摩擦係数が小さくなる。したがって、摩擦係数の大きい粗面線材を製造する場合、粗面線材の生産性を向上させるのには限界がある。
また、ブラスト装置に用いる大型のコンプレッサは、設置価格が高く、消費電力が大きいため、コストを増大させる要因となっている。
【0004】
そこで、本発明では、前記した問題を解決し、摩擦係数が高く、生産性が向上し、コストを低くすることができる粗面形成ローラ、粗面形成装置及び粗面線材並びに粗面形成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明は、線材の表面に粗面を設ける粗面形成ローラであって、中心に回転軸を備えるための回転軸穴を有するローラ本体と、前記線材が接触し、前記ローラ本体の外周面に沿って環状に設けられる少なくとも一条の溝を有する溝部と、前記溝の溝面に設けられ、前記線材に前記粗面を形成する複数の尖鋭な突起部とを備えることを特徴とする粗面形成ローラである。
【0006】
このように、ローラ本体に溝を設け、この溝の溝面に複数の尖鋭な突起部を設けたので、線材が溝に接触することにより、溝の溝面に設けた複数の尖鋭な突起部が線材に食い込むようにして凹凸を付けて粗面を形成することができるようになっている。
【0007】
また、本発明は、前記突起部を、前記溝の溝面に穴加工した際に当該穴の外縁に生じる返りとしても良い。
【0008】
このように、突起部を穴加工した際に当該穴の外縁に生じる返りとすることにより、溝面に突起部を容易に設けことができ、また、線材に粗面を容易に形成することができるようになっている。
また、線材がメッキ層を有している場合は、この穴により、メッキ層の溝への付着を抑制することができるようにもなっている。
【0009】
また、本発明は、前記粗面形成ローラに焼入れを施しても良い。
【0010】
このように、粗面形成ローラに焼入れを施すので、溝の溝面に設けた突起部の強度を高くすることができる。
これにより、繰り返して使用しても突起部の磨耗を少なくすることができる。
【0011】
また、本発明は、線材の表面に粗面を設ける粗面形成装置であって、走行する線材を挟むように、この線材に対して対称位置に配置される2体1組の請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の粗面形成ローラを少なくとも1組備えたことを特徴とする粗面形成装置である。
【0012】
このように、粗面形成ローラの溝に線材を接触させつつ対称位置に配置し、この線材を挟むようにして2体1組の粗面形成ローラを少なくとも一組備えることにより、線材が走行するとともに粗面形成ローラが回転し、粗面形成ローラの溝の溝面に設けられた突起部と線材との接触位置で線材に粗面が形成することができるようになっている。
【0013】
また、本発明は、前記線材にブラスト加工を施すブラスト装置をさらに備えても良い。
また、本発明は、前記粗面形成ローラの前段又は後段に、前記線材にブラスト加工を施すブラスト装置を備えても良い。
【0014】
このように、粗面形成ローラとブラスト装置とで粗面を形成することで、より凹凸の密度が高い粗面を線材に形成することができるようになっている。
【0015】
また、本発明は、前記粗面形成装置により、線材に粗面が形成されたことを特徴とする粗面線材である。このように、本発明の粗面線材は、粗面形成装置が備える粗面形成ローラによって形成された粗面を有している。この粗面は、ブラスト処理で形成される打痕(粗面)よりも大きな凹凸が形成された粗面となっている。
【0016】
また、本発明は、前記線材がメッキ層を有しており、前記粗面の最大痕深さがメッキ層を超えて素地に達して形成されていても良い。
このように、粗面の最大痕深さがメッキ層を超えて素地にまで達することにより、メッキ層が磨耗しても、素地にも粗面が形成されていることとなるので、磨耗によってメッキ層が消失しても、粗面線材の摩擦係数の減少を小さくすることができるようになっている。
【0017】
また、本発明は、前記粗面形成装置により、前記線材に、前記ブラスト装置によるブラスト加工を施しても良い。本発明の粗面線材は、粗面形成装置が備える粗面形成ローラとブラスト装置とによって形成された粗面を有している。この粗面は、ブラスト処理で形成される打痕と、その打痕よりも大きな凹凸が形成された粗面とで形成されている。
【0018】
また、本発明は、線材を供給する線材供給工程と、供給された前記線材に対して粗面を形成する粗面形成ローラが備える溝の溝面に設けられた突起部を所定の圧力で押し当てて、前記線材に前記粗面を形成する粗面形成工程と、を有することを特徴とする粗面形成方法である。
【0019】
このように、線材供給工程で線材を供給し、粗面形成工程でその線材に粗面形成ローラを所定の圧力で押し当てるので、容易に線材に粗面を形成することができる。
【0020】
また、本発明は、前記粗面形成工程の前又は後に、ブラスト装置によって前記線材にブラスト加工を施すブラスト工程を有しても良い。
【0021】
このように、粗面形成工程の前又は後に、ブラスト工程で前記線材にブラスト装置によるブラスト加工を施すので、密度の高い粗面を線材に形成することができる。
【発明の効果】
【0022】
このような粗面形成ローラによれば、ブラスト装置より大きな粗面を線材に形成することができるので、粗面線材の摩擦係数を大きくすることができる。
また、粗面形成装置によれば、摩擦係数が高い粗面線材を製造することができ、また、ブラスト装置を多用することなく粗面形成ローラで粗面を線材に形成するので、コストを低くすることができる。
また、このような粗面線材によれば、湿潤状態でも高い摩擦係数を有しているので、例えば雨天時にこの粗面線材の上を踏んでも滑りにくくなっている。
さらに、このような粗面形成方法によれば、摩擦係数が高い粗面線材を製造することができ、また、このような粗面線材の生産性が向上し、コストを低くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、本発明を実施するための最良の一形態(以下「実施形態」という)について、図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
なお、各実施形態において、最初に線材に粗面を形成する位置を「前段(又は「前」)」といい、前段で粗面を施した後にさらに粗面を形成する位置を「後段(又は「後」)」という。
また、各実施形態において、「左」及び「右」を示す場合は、走行する線材の走行方向を基準にする。さらに、「上」及び「下」を示す場合は、紙面に対して手前側を「下」、その反対側を「上」とする。
また、ブラスト装置によってブラスト加工して線材に形成された打痕をブラスト粗面という。
また、本実施形態において、メッキ層を有する線材を用いた場合について説明する。
【0025】
(第一の実施形態)
図1は本発明の第一の実施形態に係る粗面形成装置の一例を示す斜視図である。図2は本発明の第一の実施形態に係る粗面形成ローラの一例を示す斜視図である。図3は本発明の第一の実施形態に係る粗面形成ローラの一例を示す断面図である。図4は線材を粗面形成ローラで挟み込んだ状態を示す断面図である。
【0026】
本発明の第一の実施形態に係る粗面形成装置100は、図1に示すように、線材Wに粗面を形成する粗面形成ローラ10と、2つの粗面形成ローラ10を上下方向に支持する2基の粗面形成ローラ支持装置20A,20Aと、左右方向に支持する2基の粗面形成ローラ支持装置20B,20Bと、線材Wに粗面を形成するブラスト装置30とから構成されており、線材Wに、粗面形成ローラ10による粗面とブラスト装置30によるブラスト粗面を形成する役割を果たす。
【0027】
ここで、線材Wは、所定の速度で粗面形成装置100に供給されており(線材供給工程)、素地にメッキ層を施した後に粗面形成装置100によって粗面が形成される。
【0028】
粗面形成ローラ10は、図2に示すように、ローラ本体11と溝部12と突起部13とから構成されており、ブラスト装置30で形成されるブラスト粗面より大きい粗面(凹凸)を線材Wに形成する役割を果たす。この粗面形成ローラ10には焼入れが施されており、突起部13の耐久性を向上させている。
つまり、粗面形成ローラ10のローラ本体11,溝部12,突起部13に焼入れが施され、特に、焼入れによって突起部13が消耗しにくくなることで、繰り返し使用に耐えられるようになっている。
【0029】
ローラ本体11は、図2に示すように、円盤状に形成されており、その円盤の中心に回転軸21を備えるための回転軸穴11Aが設けられており、走行する線材Wを押し付ることで、回転軸21を中心に回転する役割を果たす。
【0030】
溝部12は、図2に示すように、ローラ本体11の外周面に沿って設けられた環状となる3条の溝12A,12A・・・から構成されており、この3条の溝12A,12A・・・のいずれか1つに線材Wを接触させるようになっている。
また、溝12Aは、図4に示すように、線材Wの径よりも大きく形成されている。
具体的には、線材Wに形成された粗面(凹凸)の破壊を防止するために、溝12Aの幅は、線材Wの径よりも20〜60%大きく形成するのが好ましい。
これは後述する粗面形成ローラ10,10・・・を前段及び後段に配置した際に、前段の粗面形成ローラ10,10で形成された粗面を後段の粗面形成ローラ10,10で破壊されないようにするためである。
したがって、線材Wの径より大きくする形成する溝12Aの幅が、線材Wの径の20%未満では、粗面が溝12Aと接触して破壊される恐れがあり、60%を超えると、突起部13との接触面積が減少し、粗面が効率よく形成されないからである。
【0031】
また、溝部12に3条の溝12A,12A・・・を設けたことで、いずれか1つの溝12Aの溝面12Bに設ける後述する突起部13が消耗しても、他の溝12Aに線材Wを接触させることで、十分な突起状態となっている突起部13で線材Wに粗面を形成することができる。
【0032】
突起部13は、図2及び図3に示すように、各溝12Aの溝面12Bに設けられており、線材Wに粗面(凹凸)を形成する役割を果たす。
この突起部13は、センターポンチにより穴加工された穴Hの外縁に生じた返りによって形成されている。この返りは、粗面形成ローラ10を線材Wに押し付けたとき、線材Wのメッキ層を超えて素地まで達する程度に尖鋭に突起している。
【0033】
粗面形成ローラ支持装置20Aは、図1に示すように、回転軸21、軸支部22、固定部23、ネジ24から構成されており、粗面形成ローラ10を線材Wに押し当てた状態を維持するように固定する役割を果たす。
【0034】
この粗面形成ローラ支持装置20Aは、2つの粗面形成ローラ10を支持することができ、この2つの粗面形成ローラ10を線材Wに対して対称位置に配置することができるようになっている。これにより、線材Wは、2つの粗面形成ローラ10によって挟まれた状態で押し付けられる(図4参照)。
【0035】
回転軸21は、図1に示すように、粗面形成ローラ10のローラ本体11に設けられた回転軸穴11Aに挿通されるとともに軸支部22によって軸支される。この回転軸21によってローラ本体11が回転することができる。
【0036】
軸支部22は、図1に示すように、コの字型に形成されており、開口している側で回転軸21を軸支することができるようになっている。
【0037】
固定部23Aは、図1に示すように、軸支部22を狭持して粗面形成ローラ10の位置を固定する役割を果たし、形状が略Uの字型に形成されており、開口側が上を向きつつ線材Wが開口側の中央を通るように配置される。そして、固定部23Aの開口側の両端部で、粗面形成ローラ10の溝12Aを線材W側に向けた状態で軸支部22,22を線材Wの方向に近づけるように左右方向にスライド自在に狭持している。このとき、粗面形成ローラ10の溝12Aは、線材Wの走行方法と平行になっている。
【0038】
ネジ24は、図1に示すように、粗面形成ローラ10を線材Wに所定の押圧力で押し当て、スライド自在に狭持される軸支部22のスライド位置を固定する役割を果たす。このネジ24をねじ込むことにより、線材Wの方向にスライドさせた軸支部22のスライド位置を固定し、線材Wに粗面形成ローラ10が押し当てられた状態にすることができる。よって、左右方向の両側(線材Wに対して対称位置)から粗面形成ローラ10,10で線材Wを挟んだ状態となる。これにより、線材Wが走行すると、粗面形成ローラ10,10は、線材Wとの摩擦抵抗により回転を始めることとなる。
なお、線材Wを挟みつける押圧は、線材の径が替わっても、適宜、調節が可能となっている。つまり、ネジ24をねじ込み又は緩めることにより調節が可能となっている。
【0039】
粗面形成ローラ支持装置20Bは、図1に示すように、固定部23Bが、線材Wの方向に近づけるように上下方向にスライド自在に狭持している点で粗面形成ローラ支持装置20Aの固定部23と異なっている。
これにより、ネジ24で、線材Wの方向に近づくように上下方向にスライドさせた軸支部22のスライド位置を固定し、線材Wに粗面形成ローラ10が押し当てられた状態にすることができる。よって、上下方向の両側(線材Wに対して対称位置)から粗面形成ローラ10,10で線材Wを挟んだ状態となる。
【0040】
このように、所定の圧力で粗面形成ローラ10,10によって挟まれた線材Wは、図4に示すように、粗面形成ローラ10の突起部13により、突起部13がメッキ層を超えて素地に至るまで食い込んで線材Wに所定の痕深さまで達する凹部を形成する。これにより、突起部13が食い込んだ部分のメッキ材及び素地が突起部13によって押しのけられて線材Wに凸部(返り)を形成する。この凹凸が粗面となる。
【0041】
したがって、粗面形成ローラ10が回転することによって、線材Wには、粗面形成ローラ10の突起部13によって、粗面の最大痕深さが線材Wの有するメッキ層を超えて素地に至り、環状の凹凸又は/および略半月形状の複数の凹凸からなる粗面が形成される(粗面形成工程)。
【0042】
ここで、粗面形成ローラ支持装置20A,20Aと粗面形成ローラ支持装置20B,20Bとは、交互に配置されており、線材Wに密度が高い粗面を形成することができるようになっている。
【0043】
ブラスト装置30は、図1に示すように、従来から用いられているブラスト装置を使用し、線材Wのメッキ層にクレータ状の打痕からなるブラスト粗面を形成する役割を果たす。このブラスト装置30は、粗面形成ローラ10,10・・・の後段に配置され、粗面形成ローラ10による粗面の形成が終了した後に、ブラスト処理によりブラスト粗面を形成する(ブラスト工程)。
ここで、ブラスト装置30で行われるブラスト処理は、すでに粗面形成ローラ10,10・・・で粗面が形成されているので、コンプレッサによるエアの使用量やブラスト材の使用量を従来のブラスト装置のみからブラスト粗面を形成する場合に比べて少なくすることができる。
【0044】
このように粗面形成装置を構成したので、粗面の最大痕深さが線材Wの素地まで達して粗面を形成しつつメッキ層にクレータ状の打痕からなる粗面を線材Wに形成することができるので、ブラスト装置のみから粗面を形成したものより摩擦係数の高い粗面線材SWを製造することができる。
また、ブラスト装置30で行われるブラスト処理が従来のブラスト装置のみからブラスト粗面を形成する場合に比べて、コンプレッサによるエアの使用量やブラスト材の使用量を少なくすることができるので、コストを低くすることができる。
さらに、粗面形成ローラ10,10・・・は、線材Wとの摩擦抵抗により線材Wの走行速度に応じて回転するので、正確かつ確実に粗面を線材Wに形成することから、粗面線材SWの生産性を向上させることができる。
【0045】
なお、このようにして製造された粗面線材SWは、大きな凹部を有する粗面となっており、粗面の凹部開口の幅が100〜3000nmでかつ凹部の長さが線材Wの径の20〜90%、痕深さが50〜350μm、粗面の加工面積が線材Wの全表面に対して20%以上となり、ブラスト装置のみでは形成できない摩擦係数が大きい粗面を有している。
このように形成された粗面は、内部に泥や砂をため易くなるので、例えば、護岸工事でこの粗面線材SWを用いた場合であってこの粗面線材SWの上を歩行する場合は、靴底に付着した泥や砂が粗面の内部に入り込み、靴底が線材の粗面に直接接触することができるようになる。また、凹部の外縁である凸部(返り)がスパイク効果を生じるとともに凹部に靴底のゴムが食い込み易くなっていることにより、滑りにくくなっている。
したがって、滑り易い環境にあっても、この粗面線材SWを用いることにより、滑りにくくすることができる。
【0046】
(第二の実施形態)
図5は本発明の第二の実施形態に係る粗面形成装置の一例を示す斜視図である。
本発明の第二の実施形態に係る粗面形成装置101は、図5に示すように、ブラスト装置30が粗面形成ローラ10,10・・・よりも前段に配置されている点で第一の実施形態と異なる。
このように粗面形成装置101を構成しても、後に粗面形成ローラ10,10・・・によって正確かつ確実に粗面が形成されるので、ブラスト装置30で行われるブラスト処理が従来のブラスト装置のみからブラスト粗面を形成する場合に比べて、コンプレッサによるエアの使用量やブラスト材の使用量を少なくすることができ、コストを低くすることができる。
したがって、粗面形成装置101は、第一の実施形態に係る粗面形成装置100と同様の効果を奏する。
【0047】
(第三の実施形態)
図6は本発明の第三の実施形態に係る粗面形成装置の一例を示す斜視図である。
本発明の第三の実施形態に係る粗面形成装置102は、図6に示すように、粗面形成ローラ10,10・・・のみで構成されている点で第一の実施形態と異なる。
このように、粗面形成ローラ10,10・・・のみで粗面線材SWを製造する場合は、ブラスト装置によるメッキ層へのブラスト粗面の形成を考慮する必要がないため、より高速に粗面線材SWを製造することができる。また、ブラスト装置を用いないため、このブラスト装置にかかるコストを考慮する必要もなくなる。
したがって、容易かつ低コストで、摩擦係数の高い粗面線材SWを高速で製造することができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態には限定されない。例えば、粗面形成ローラ10の突起部は、突起状の部材、例えばスパイクであっても良い。その場合、溝12Aの溝面12Bにネジが切られた穴を設けておき、その穴にスパイクを羅合させて突起部とする。
また、粗面形成ローラ10の突起部は、ドリル等で穴を抉るように開けて、その穴の外縁に生じさせたバリを突起部としても良い。
また、突起部を、歯車の歯末の形状に形成しても良い。このとき、歯末の形状を形成する場合は、尖鋭な突起となるように形成するのが好ましい。
【0049】
また、粗面形成装置100(101,102)に設けた粗面形成ローラ10は、線材Wに対して少なくとも一つの対称位置に配置されていれば良く、その数に制限はない。
また、線材は、メッキ層を有したものに限定されず、メッキ層を有さない素線であってもよい。また、線材の径も限定されない。
【0050】
また、粗面形成ローラ10を線材Wに押し付けるために、ネジ24を用いたが、このネジ24に替えて油圧式の押圧装置(例えば油圧ジャッキ)を用い、この油圧式の押圧装置により、油圧で押圧を調節するようにしても良い。
【実施例】
【0051】
次に、本発明の効果を確認した実施例について説明する。本実施例では、前記粗面形成ローラ10のみを使用した場合の粗面、ブラスト装置30のみを使用した場合のブラスト粗面、水冷滑面、空冷粗面で、粗面形成結果を比較した。
【0052】
線材としては、φ4.0mm及びφ5.0mmの10%Al・Zn合金メッキ鉄線MIN660g/m2を用いた。
また、粗面形成ローラには、材質がSKD11、硬度がHV800、無酸化加熱をした後にオイル焼入れをして焼鈍の熱処理をしたものを用いた。
この粗面形成ローラの外周面に溝を設け、その溝の溝面にセンターポンチによるポンチ穴を複数設けた。ポンチ穴の外縁には返りが形成されており、溝にφ5.0mmの線材を接触させることで線材に返りを押し付けて粗面を形成した例を実施例1とする。また、溝にφ4.0mmの線材を接触させることで線材に返りを押し付けて粗面を形成した例を実施例2とする。
また、ブラスト装置によりブラスト材をφ5.0mmの線材に吹き付けてブラスト粗面を形成した例を比較例1とする。また、φ5.0mmの線材の粗さが水冷滑面となっている例を比較例2とし、空冷粗面となっている例を比較例3とする。
また、ブラスト装置によりブラスト材をφ4.0mmの線材に吹き付けてブラスト粗面を形成した例を比較例4とする。また、φ4.0mmの線材の粗さが水冷滑面となっている例を比較例5とし、空冷粗面となっている例を比較例6とする。
【0053】
粗面の良否は、粗面の粗さ及び摩擦係数を測定することにより行う。
測定する粗面の粗さは、中心線平均粗さ(Ra)、最大粗さ(Rmax)、10点平均粗さ(Rz)(いずれも単位は「μm」である。)の3項目について測定した。その結果を表1に示す。
摩擦係数の測定は、線材を網状にした試験片(2.0m×2.0m)を形成し、湿潤状態でその試験片に滑り片を通常速度100mm/minですべられせることで摩擦係数を測定する国土交通省で採用されている面的摩擦試験にて行う。この滑り片において、全質量が30kgで、試験片と接触する部分には、JIS T 8101に規定されているゴムが用いられ、その接触面積は450cm2(長辺30cm、短辺15cm)となっている。このようにして測定した結果を表2に示す。
なお、線材を網状にした試験片は、いわゆる護岸工事等で用いられる金網(かごマット)形状で形成される。
【0054】
表1より明らかなように、実施例1の中心線平均粗さ(Ra)は4.0μmであり、比較例1の中心線平均粗さ(Ra)が1.8μm、比較例2の中心線平均粗さ(Ra)が0.7μm、比較例3の中心線平均粗さ(Ra)が2.0μmとなり、各比較例の値よりも高くなった。また、実施例1の最大粗さ(Rmax)は161.4μmであり、比較例1の最大粗さ(Rmax)が38.2μm、比較例2の最大粗さ(Rmax)が5.0μm、比較例3の最大粗さ(Rmax)が38.3μmとなり、各比較例の値よりも高くなった。また、実施例1の10点平均粗さ(Rz)は22.2μmであり、比較例1の10点平均粗さ(Rz)が13.1μm、比較例2の10点平均粗さ(Rz)が3.7μm、比較例3の10点平均粗さ(Rz)が12.8μmとなり、各比較例の値よりも高くなった。
【0055】
さらに、実施例2の中心線平均粗さ(Ra)は3.4であり、比較例4の中心線平均粗さ(Ra)が2.6μm、比較例5の中心線平均粗さ(Ra)が0.6μm、比較例6の中心線平均粗さ(Ra)が1.3μmとなり、各比較例の値よりも高くなった。また、実施例2の最大粗さ(Rmax)は139.8であり、比較例4の最大粗さ(Rmax)が55.8μm、比較例5の最大粗さ(Rmax)が5.2μm、比較例6の最大粗さ(Rmax)が28.5μmとなり、各比較例の値よりも高くなった。また、実施例2の10点平均粗さ(Rz)は18.6であり、比較例4の10点平均粗さ(Rz)が12.8μm、比較例5の10点平均粗さ(Rz)が3.2μm、比較例6の10点平均粗さ(Rz)が9.9μmとなり、各比較例の値よりも高くなった。
【0056】
【表1】
【0057】
図7は線材に粗面形成ローラで形成した粗面部表面の走査型電子顕微鏡による拡大写真(×35)である。図8は線材にブラスト装置で形成したブラスト粗面部表面の走査型電子顕微鏡による拡大写真(×35)である。図9は粗面形成ローラで形成した粗面を有する線材の粗面部縦断面の光学顕微鏡による拡大写真(×50)である。図10は粗面形成ローラで形成した粗面を有する線材の粗面部縦断面の光学顕微鏡による拡大写真(×200)である。図11はブラスト装置で形成したブラスト粗面を有する線材の粗面部縦断面の光学顕微鏡による拡大写真(×50)である。図12はブラスト装置で形成したブラスト粗面を有する線材の粗面部縦断面の光学顕微鏡による拡大写真(×200)である。
【0058】
ここで、実施例1と比較例1に注目して説明する。
図7、図9及び図10は、実施例1に係る粗面線材の粗面の状態を示しており、図8、図11及び図12は、比較例1に係る粗面線材の粗面の状態を示している。
図7及び図8からも明らかなように、実施例1(図7)の方が比較例1(図8)よりも大きな痕が線材に形成されている。つまり、この痕が大きいほど線材の持つ摩擦係数も大きくなる。
また、図9〜図12からも明らかなように、実施例1(図9,図10)の方が比較例1(図11,図12)よりも痕の深さ及び返りが大きくなっている。したがって、痕の深さ及び返りが大きいほど線材の持つ摩擦係数も大きくなる。
【0059】
これは、表2から明らかである。つまり、実施例1の摩擦係数は、1.00〜1.15となり、比較例1の摩擦係数の0.86〜0,96を超える値となっている。
参考に、比較例2の摩擦係数は0.70〜0.85であり、実施例1の摩擦係数よりも低い値となっている。
【0060】
これにより、粗面形成ローラを用いて線材に形成する粗面は、ブラスト装置で形成するブラスト粗面よりも粗く、摩擦係数の大きい粗面となることが確認された。
【0061】
【表2】
【0062】
次に、粗面形成ローラの材質又は突起部の形状を変えて、線材への粗面の形成状態を確認した。
実施例3は、実施例1及び実施例2で粗面を形成した粗面形成ローラであって、粗面形成ローラの材質がSKD11で突起部がセンターポンチで形成されたポンチ穴外縁の返りとなっている。また、実施例4は、粗面形成ローラの材質がS45C、硬度がHV600程度であって、表面高周波焼入加工を施しており、突起部が実施例3と同様となっている。また、実施例5は、突起部が歯車の歯末となっている以外は実施例3と同じ条件となっている。また、実施例6は、粗面形成ローラの材質がS45Cで、突起部がHV300程度の硬度を有するハステロイ系のアーク式溶射となっている。
【0063】
表3に示すように、実施例3は、線材に良好な粗面を形成した。実施例4は、初期の段階では良好な粗面を形成していたが、次第に線材に形成される粗面が浅くなり、最終的に粗面が消失した。これは、粗面形成ローラの材質がS45Cであることから、実施例1の材質よりも硬度が低いために起きた現象である。実施例5は、実施例1に比べて浅い粗面となった。実施例6は、粗面形成ローラに線材のメッキ材が付着し、粗面が消失した。
【0064】
【表3】
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る粗面形成装置の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明の第一の実施形態に係る粗面形成ローラの一例を示す斜視図である。
【図3】本発明の第一の実施形態に係る粗面形成ローラの一例を示す断面図である。
【図4】線材を粗面形成ローラで挟み込んだ状態を示す断面図である。
【図5】本発明の第二の実施形態に係る粗面形成装置の一例を示す斜視図である。
【図6】本発明の第三の実施形態に係る粗面形成装置の一例を示す斜視図である。
【図7】線材に粗面形成ローラで形成した粗面部表面の走査型電子顕微鏡による拡大写真(×35)である。
【図8】線材にブラスト装置で形成したブラスト粗面部表面の走査型電子顕微鏡による拡大写真(×35)である。
【図9】粗面形成ローラで形成した粗面を有する線材の粗面部縦断面の光学顕微鏡による拡大写真(×50)である。
【図10】粗面形成ローラで形成した粗面を有する線材の粗面部縦断面の光学顕微鏡による拡大写真(×200)である。
【図11】ブラスト装置で形成したブラスト粗面を有する線材の粗面部縦断面の光学顕微鏡による拡大写真(×50)である。
【図12】ブラスト装置で形成したブラスト粗面を有する線材の粗面部縦断面の光学顕微鏡による拡大写真(×200)である。
【符号の説明】
【0066】
100,101,102 粗面形成装置
10 粗面形成ローラ
11 ローラ本体
11A 回転軸穴
12 溝部
12A 溝
12B 溝面
13 突起部(返り)
20A,20B ローラ支持装置
21 回転軸
22 軸支部
23A,23B 固定部
24 ネジ
30 ブラスト装置
H 穴
W 線材
SW 粗面線材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線材の表面に粗面を設ける粗面形成ローラであって、
中心に回転軸を備えるための回転軸穴を有するローラ本体と、
前記線材が接触し、前記ローラ本体の外周面に沿って環状に設けられる少なくとも一条の溝を有する溝部と、
前記溝の溝面に設けられ、前記線材に前記粗面を形成する複数の尖鋭な突起部とを備えることを特徴とする粗面形成ローラ。
【請求項2】
前記突起部が、
前記溝の溝面に穴加工した際に当該穴の外縁に生じる返りであることを特徴とする請求項1に記載の粗面形成ローラ。
【請求項3】
焼入れを施したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の粗面形成ローラ。
【請求項4】
線材の表面に粗面を設ける粗面形成装置であって、
走行する線材を挟むように、この線材に対して対称位置に配置される2体1組の請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の粗面形成ローラを少なくとも1組備えたことを特徴とする粗面形成装置。
【請求項5】
前記線材にブラスト加工を施すブラスト装置をさらに備えたことを特徴とする請求項4に記載の粗面形成装置。
【請求項6】
前記粗面形成ローラの前段又は後段に、前記線材にブラスト加工を施すブラスト装置を備えたことを特徴とする請求項5に記載の粗面形成装置。
【請求項7】
請求項4に記載の粗面形成装置により、線材に粗面が形成されたことを特徴とする粗面線材。
【請求項8】
前記線材がメッキ層を有しており、
前記粗面の最大痕深さがメッキ層を超えて素地に達して形成されていることを特徴とする請求項7に記載の粗面線材。
【請求項9】
請求項5又は請求項6に記載の粗面形成装置により、前記線材に、前記ブラスト装置によるブラスト加工が施されたことを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の粗面線材。
【請求項10】
線材を供給する線材供給工程と、
供給された前記線材に対して粗面を形成する粗面形成ローラが備える溝の溝面に設けられた突起部を所定の圧力で押し当てて、前記線材に前記粗面を形成する粗面形成工程と、
を有することを特徴とする粗面形成方法。
【請求項11】
前記粗面形成工程の前又は後に、ブラスト装置によって前記線材にブラスト加工を施すブラスト工程を有することを特徴とする請求項10に記載の粗面形成方法。
【請求項1】
線材の表面に粗面を設ける粗面形成ローラであって、
中心に回転軸を備えるための回転軸穴を有するローラ本体と、
前記線材が接触し、前記ローラ本体の外周面に沿って環状に設けられる少なくとも一条の溝を有する溝部と、
前記溝の溝面に設けられ、前記線材に前記粗面を形成する複数の尖鋭な突起部とを備えることを特徴とする粗面形成ローラ。
【請求項2】
前記突起部が、
前記溝の溝面に穴加工した際に当該穴の外縁に生じる返りであることを特徴とする請求項1に記載の粗面形成ローラ。
【請求項3】
焼入れを施したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の粗面形成ローラ。
【請求項4】
線材の表面に粗面を設ける粗面形成装置であって、
走行する線材を挟むように、この線材に対して対称位置に配置される2体1組の請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の粗面形成ローラを少なくとも1組備えたことを特徴とする粗面形成装置。
【請求項5】
前記線材にブラスト加工を施すブラスト装置をさらに備えたことを特徴とする請求項4に記載の粗面形成装置。
【請求項6】
前記粗面形成ローラの前段又は後段に、前記線材にブラスト加工を施すブラスト装置を備えたことを特徴とする請求項5に記載の粗面形成装置。
【請求項7】
請求項4に記載の粗面形成装置により、線材に粗面が形成されたことを特徴とする粗面線材。
【請求項8】
前記線材がメッキ層を有しており、
前記粗面の最大痕深さがメッキ層を超えて素地に達して形成されていることを特徴とする請求項7に記載の粗面線材。
【請求項9】
請求項5又は請求項6に記載の粗面形成装置により、前記線材に、前記ブラスト装置によるブラスト加工が施されたことを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の粗面線材。
【請求項10】
線材を供給する線材供給工程と、
供給された前記線材に対して粗面を形成する粗面形成ローラが備える溝の溝面に設けられた突起部を所定の圧力で押し当てて、前記線材に前記粗面を形成する粗面形成工程と、
を有することを特徴とする粗面形成方法。
【請求項11】
前記粗面形成工程の前又は後に、ブラスト装置によって前記線材にブラスト加工を施すブラスト工程を有することを特徴とする請求項10に記載の粗面形成方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−122993(P2006−122993A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−318173(P2004−318173)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(301076979)サクラテック株式会社 (6)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(301076979)サクラテック株式会社 (6)
【Fターム(参考)】
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