説明

粘度指数向上剤組成物および潤滑油組成物

【課題】 従来のポリメタクリレート系粘度指数向上剤組成物よりも、酸化安定性に優れた粘度指数向上剤組成物を提供する。
【解決手段】 アルキル基の炭素数が1〜30の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)を必須構成単量体としてなる重合体(A)および稀釈剤(B)を含有してなる粘度指数向上剤組成物であって、(B)が(B)の質量にもとづいて0.5質量%以下の硫黄を含有する希釈剤であることを特徴とする粘度指数向上剤組成物、並びに該粘度指数向上剤組成物と基油を含有してなる潤滑油組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘度指数向上剤組成物に関する。詳しくは、硫黄含有量が0.5質量%以下の希釈剤およびポリ(メタ)アクリレート系重合体を含有する粘度指数向上剤組成物およびそれを含む潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、潤滑油基油に粘度指数向上剤を添加して潤滑油組成物を製造する場合、粘度指数向上剤の粘度が高いため、通常は希釈剤で粘度指数向上剤を稀釈した稀釈液を添加することが多かった(特許文献1)。しかし、これらの稀釈液を添加して得られる潤滑油組成物は酸化安定性が十分ではなく、しかも酸化防止剤や分散剤の添加をしても満足には改善されなかった。
【特許文献1】特開平7-62372号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、潤滑油基油に添加しても潤滑油組成物の酸化安定性が低下しない粘度指数向上剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、鋭意検討した結果、硫黄含量の低い希釈剤および特定の単量体から構成される重合体からなる粘度指数向上剤組成物が、潤滑油基油に添加された場合に潤滑油組成物の酸化安定性に優れていることを見出し本発明に至った。
すなわち本発明は、アルキル基の炭素数が1〜30の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)を必須構成単量体としてなる重合体(A)および硫黄含有量が希釈剤の質量にもとづいて0.5質量%以下である希釈剤(B)を含有してなる粘度指数向上剤組成物および該粘度指数向上剤組成物を含有してなる潤滑油組成物である
【発明の効果】
【0005】
本発明の粘度指数向上剤組成物を使用した潤滑油組成物は、従来の潤滑油組成物と比べ、酸化安定性に優れることから潤滑油組成物の長寿命化の要求に対応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の粘度指数向上剤組成物は、重合体(A)と希釈剤(B)からなり、(B)の硫黄含有量が以下の範囲であることを特徴とする。
(B)の硫黄含有量は(B)の質量に基づき通常0.5質量%以下であり、好ましくは0.1%以下(以下において特に限定しない限り、%は質量%を表す)、特に好ましくは0.01%以下である。0.5%を越えると酸化安定性に乏しくなる。なお、(B)の硫黄含有量は、高周波誘導結合プラズマ発光分析法によって測定されるものであり、検量線法により求めたものである。
【0007】
本発明における希釈剤(B)としては、
脂肪族溶剤[炭素数6〜18の脂肪族炭化水素(ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、オクタン、デカリンおよび灯油など)];
芳香族溶剤[炭素数7〜15の芳香族溶剤{トルエン、キシレン、エチルベンゼンおよび炭素数9の芳香族混合溶剤(トリメチルベンゼンおよびエチルトルエンなどの混合物)}、炭素数10〜11の芳香族混合溶剤など];
鉱物油[例えば、溶剤精製油、パラフィン油、イソパラフィンを含有するおよびまたは水素化分解による高粘度指数油、ナフテン油];および合成潤滑油[炭化水素系合成潤滑油(ポリαオレフィン系合成潤滑油)、エステル系合成潤滑油];などが挙げられ、これらのうち好ましいものは鉱物油である。
本発明において粘度指数向上剤組成物に含まれる(B)の割合の下限は、(A)の質量に基づいて、好ましくは10%、さらに好ましくは30%、特に好ましくは40%であり、上限は、(A)の質量に基づいて好ましくは900%、さらに好ましくは800%、特に好ましくは600%である。
(B)の比率が高いほうが基油に容易に溶解する点で好ましいが、あまり多いのは経済的ではない。
【0008】
本発明における(B)は、通常1〜15mm2/s、好ましくは2〜6mm2/sの100℃での動粘度を有し、通常70以上、好ましくは100以上、さらに好ましくは105〜180の粘度指数を有する。このような(B)を含有する粘度指数向上剤組成物を添加した潤滑油は、粘度指数がさらに高くなり省燃費性が良好となる。
【0009】
重合体(A)の必須構成単量体であるアルキル基の炭素数が1〜30の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)としては以下の(a1)〜(a5)が挙げられる。
(a1)アルキル基の炭素数1〜4の(メタ)アクリル酸アルキルエステル:
例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル(以下MMAと略す)、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−またはiso−プロピル、(メタ)アクリル酸n−、iso−またはsec−ブチルなどが挙げられ、好ましいのはメタクリル酸メチル、メタクリル酸n−ブチルである。
【0010】
(a2)アルキル基の炭素数8〜15(直鎖及び/または分岐)の(メタ)アクリル酸アルキルエステル:
例えば、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−デシル、(メタ)アクリル酸n−イソデシル、(メタ)アクリル酸n−ウンデシル、(メタ)アクリル酸n−ドデシル、(メタ)アクリル酸2−メチルウンデシル、(メタ)アクリル酸n−トリデシル、(メタ)アクリル酸2−メチルドデシル、(メタ)アクリル酸n−テトラデシル、(メタ)アクリル酸2−メチルトリデシル、(メタ)アクリル酸n−ペンタデシル、(メタ)アクリル酸2−メチルテトラデシル、オキソ合成により製造されたアルコール[例えば、商品名「ドバノール23」(三菱化学製)、「トリデカノール」(協和発酵製)、「オキソコール1213」(日産化学製)、「ドバノール45」(三菱化学製)、「オキソコール1415」(日産化学製)との(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる(以下、「ドバノール23」とのメタクリル酸エステルをD23、「ドバノール45」とのメタクリル酸エステルをD45と略す)。これらのなかで好ましいのは、炭素数12〜15の直鎖及び/または分岐アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルである。
【0011】
(a3)アルキル基の炭素数16〜24(直鎖及び/または分岐)の(メタ)アクリル酸アルキルエステル:
例えばアクリル酸n−ヘキサデシル、メタクリル酸n−ヘキサデシル(以下HMAと略す)、アクリル酸n−オクタデシル、メタクリル酸n−オクタデシル(以下OMAと略す)、(メタ)アクリル酸n−エイコシル、(メタ)アクリル酸n−ドコシル、(メタ)アクリル酸2メチルペンタデシル、(メタ)アクリル酸2−ヘキシルデシル基、(メタ)アクリル酸2−メチルヘキサデシル、(メタ)アクリル酸2−オクチルデシル、(メタ)アクリル酸2−ヘキシルドデシル、(メタ)アクリル酸2−メチルヘプタデシル、(メタ)アクリル酸2−メチルオクタデシル基、(メタ)アクリル酸2−オクチルドデシル、(メタ)アクリル酸2−デシルテトラデシルなど、これらのなかで好ましいのは、炭素数16〜18の直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび(メタ)アクリル酸2−デシルテトラデシルである。
【0012】
(a4)アルキル基の炭素数5〜7(直鎖及び/または分岐)の(メタ)アクリル酸アルキルエステル:
(メタ)アクリル酸n−、iso−、sec−およびネオペンチル(メタ)アクリル酸、ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチルなどである。
(a)のなかで好ましいのは、(a1)〜(a3)およびこれらの2種以上の併用である。
【0013】
重合体(A)において、(a)以外に使用できる単量体として以下の(d)〜(n)が挙げられる。
【0014】
(d)窒素原子含有単量体;
(d1)ニトロ基含有単量体:
例えば、4−ニトロスチレンなど、
【0015】
(d2)1〜3級アミノ基含有ビニル単量体:
1級アミノ基含有ビニル単量体、例えば、炭素数3〜6のアルケニルアミン[(メタ)アリルアミン、クロチルアミンなど]、アミノアルキル(炭素数2〜6)(メタ)アクリレート[アミノエチル(メタ)アクリレートなど]、2級アミノ基含有ビニル単量体、例えば、アルキル(炭素数1〜6)アミノアルキル(炭素数2〜6)(メタ)アクリレート[t−ブチルアミノエチルメタクリレート、メチルアミノエチル(メタ)アクリレートなど]、ジフェニルアミン(メタ)アクリルアミド[4−ジフェニルアミン(メタ)アクリルアミド、2−ジフェニルアミン(メタ)アクリルアミドなど]、炭素数6〜12のジアルケニルアミン[ジ(メタ)アリルアミンなど]、3級アミノ基含有ビニル単量体、例えば、ジアルキル(炭素数1〜4)アミノアルキル(炭素数2〜6)(メタ)アクリレート[ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートなど、ジアルキル(炭素数1〜4)アミノアルキル(炭素数2〜6)(メタ)アクリルアミド[ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなど]、3級アミノ基含有芳香族ビニル系単量体[N,N−ジメチルアミノスチレン、など]、含窒素複素環含有ビニル系単量体[モルホリノエチル(メタ)アクリレート、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、N−ビニルピロール、N−ビニルピロリドン、N−ビニルチオピロリドンなど]、
【0016】
(d3)第4級アンモニウム塩基含有ビニル単量体:
例えば、前述の3級アミノ基含有ビニル単量体を、4級化剤(炭素数1から12のアルキルクロライド、ジアルキル硫酸、ジアルキルカーボネート、およびベンジルクロライド等)を用いて4級化したものなどが挙げられる。具体的には、アルキル(メタ)アクリレート系第4級アンモニウム塩としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルメチルモルホリノアンモニウムクロライドなど;アルキル(メタ)アクリルアミド系第4級アンモニウム塩としては、例えば、(メタ)アクリロイルアミノエチルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルアミノエチルトリエチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルアミノエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライドなど;その他の第4級アンモニウム塩基含有ビニル系単量体としては、例えば、ジメチルジアリルアンモニウムメチルサルフェート、トリメチルビニルフェニルアンモニウムクロライドなど、
【0017】
(d4)両性ビニル単量体:
N−(メタ)アクリロイルオキシ(もしくはアミノ)アルキル(炭素数1〜10)N,N−ジアルキル(炭素数1〜5)アンモニウム−N−アルキル(炭素数1〜5)カルボキシレート(もしくはサルフェート)、例えば、N−(メタ)アクリロイルオキシエチルN,N−ジメチルアンモニウムN−メチルカルボキシレート、N−(メタ)アクリロイルアミノプロピルN,N−ジメチルアンモニウムN−メチルカルボキシレート、およびN−(メタ)アクリロイルオキシエチルN,N−ジメチルアンモニウムプロピルサルフェートなど、
【0018】
(d5)ニトリル基含有単量体:
(メタ)アクリロニトリルなど、
【0019】
(e)脂肪族炭化水素系ビニル単量体:
例えば、炭素数2〜20のアルケン[エチレン、プロピレン、ブテン、イソブチレン、ペンテン、ヘプテン、ジイソブチレン、オクテン、ドデセン、オクタデセンなど]、および炭素数4〜12のアルカジエン[ブタジエン、イソプレン、1,4−ペンタジエン、1,6ヘプタジエン、1,7−オクタジエンなど]、
【0020】
(f)脂環式炭化水素系ビニル単量体:
例えば、シクロヘキセン、(ジ)シクロペンタジエン、ピネン、リモネン、インデン、ビニルシクロヘキセン、およびエチリデンビシクロヘプテンなど、
【0021】
(g)芳香族炭化水素系ビニル単量体:
例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、2,4−ジメチルスチレン、4−エチルスチレン、4−イソプロピルスチレン、4−ブチルスチレン、4−フェニルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ベンジルスチレン、4−クロチルベンゼン、および2−ビニルナフタレンなど、
【0022】
(h)ビニルエステル、ビニルエーテル、ビニルケトン類:
例えば、炭素数2〜12の飽和脂肪酸のビニルエステル[酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、オクタン酸ビニルなど]、炭素数1〜12のアルキル、アリールもしくはアルコキシアルキルのビニルエーテル[メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、ビニル2−メトキシエチルエーテル、ビニル2−ブトキシエチルエーテルなど]、および炭素数1〜8のアルキルもしくはアリールのビニルケトン[メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、フェニルビニルケトンなど]、
【0023】
(i)エポキシ基含有ビニル単量体;
例えば、グリシジル(メタ)アクリレートグリシジル(メタ)アリルエーテルなど、
【0024】
(j)ハロゲン元素含有ビニル単量体;
例えば、塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、塩化(メタ)アリル、ハロゲン化スチレン(ジクロルスチレンなど)など、
【0025】
(k)不飽和ポリカルボン酸のエステル;
例えば、不飽和ポリカルボン酸のアルキル、シクロアルキルもしくはアラルキルエステルが挙げられ、このうち不飽和ジカルボン酸[マレイン酸、フマール酸、イタコン酸など]の炭素数1〜8のアルキルジエステル[ジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルマレエート、ジオクチルマレエート]など、
【0026】
(l)ヒドロキシル基含有ビニル単量体;
例えば、ヒドロキシル基含有芳香族ビニル単量体[p−ヒドロキシスチレンなど]、ヒドロキシアルキル(炭素数2〜6)(メタ)アクリレート[2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2または3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなど]、モノ−またはジ−ヒドロキシアルキル(炭素数1〜4)置換(メタ)アクリルアミド[N,N−ジヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ−2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミドなど]、ビニルアルコール(酢酸ビニル単位の加水分解により形成される)、炭素数3〜12のアルケノール[(メタ)アリルアルコール、クロチルアルコール、イソクロチルアルコール、1−オクテノール、1−ウンデセノールなど]、炭素数4〜12のアルケンジオール[1−ブテン−3−オール、2−ブテン−1−オール、2−ブテン−1,4−ジオールなど]、ヒドロキシアルキル(炭素数1〜6)アルケニル(炭素数3〜10)エーテル[2−ヒドロキシエチルプロペニルエーテルなど]、多価(3〜8価)アルコール(アルカンポリオール、その分子内もしくは分子間脱水物、糖類、例えばグリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、ジグリセリン、蔗糖)のアルケニル(炭素数3〜10)エーテルもしくは(メタ)アクリレート[蔗糖(メタ)アリルエーテル]など、
【0027】
(m)ポリオキシアルキレン鎖含有ビニル単量体;
例えば、ポリオキシアルキレングリコール(アルキレン基の炭素数2〜4、重合度2〜50)、もしくはポリオキシアルキレンポリオール[上記3〜8価のアルコールのポリオキシアルキレンエーテル(アルキル基の炭素数2〜4、重合度2〜100)]、またはそれらのアルキル(炭素数1〜4)エーテルのモノ(メタ)アクリレート[ポリエチレングリコール(分子量100〜300)モノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(分子量130〜500)モノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(分子量110〜310)(メタ)アクリレート、ラウリルアルコールエチレンオキシド付加物(2〜30モル)(メタ)アクリレート、モノ(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレン(分子量150〜230)ソルビタン]など、
【0028】
(n)カルボキシル基含有ビニル単量体;
モノカルボキシル基含有ビニル単量体、例えば、不飽和モノカルボン酸[(メタ)アクリル酸、α−メチル(メタ)アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸など]、不飽和ジカルボン酸のモノアルキル(炭素数1〜8)エステル[マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステルなど];2個以上のカルボキシル基を含有するビニル単量体、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸など、が挙げられる。
【0029】
これらの(d)〜(n)の単量体のうち、好ましいものは(d)、(l)およびこれらの併用、さらに好ましいものは(d)、特に好ましいものは(d2)、とりわけ好ましいものはジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート(以下DAEと略す)、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートおよびモルホリノエチル(メタ)アクリレートである。
【0030】
(A)を構成する単量体中の(a1)の割合は、粘度指数と基油に対する溶解性の観点から、下限は通常0%、好ましくは5%、さらに好ましくは10%であり、上限は好ましくは45%、さらに好ましくは40%、特に好ましくは35%、とりわけ好ましくは25%、最も好ましくは22%である。
【0031】
(a2)の割合は、粘度指数と基油に対する溶解性の観点から、下限は好ましくは0.1%、さらに好ましくは20%、特に好ましくは30%、とりわけ好ましくは40%、最も好ましくは50%であり、上限は通常100%、好ましくは95%である。
【0032】
(a3)の割合は粘度指数と低温粘度の観点から、下限は通常0%、好ましくは5%であり、上限は好ましくは75%、さらに好ましくは65%、特に好ましくは50%、とりわけ好ましくは20%である。
【0033】
(A)を構成する単量体中の(d)の割合は、下限は通常0%、スラッジ分散性の観点から、好ましくは0.1%、さらに好ましくは1%、特に好ましくは2%であり、上限は好ましくは10%、さらに好ましくは7%、特に好ましくは5%である。
【0034】
(A)のうちの(a1)、(a2)および(a3)の割合の好ましい組み合わせは、(a1)が0〜45%、(a2)が0.1〜100%および(a3)が0〜75%であり、さらに好ましい組み合わせは、(a1)が5〜40%、(a2)が20〜95%および(a3)が5〜65%である。
【0035】
(A)の重量平均分子量(以下、Mwと略記する)は、好ましくは5,000〜1,000,000、さらに好ましくは15,000〜500,000、特に好ましくは20,000〜100,000である。本発明におけるMwはゲルパーミュエーションクロマトグラフィーにより、ポリスチレンを標準として測定されるものである。
Mwを調整する手段としては、例えば、後述の重合時の温度、単量体濃度(希釈剤濃度)、触媒量および連鎖移動剤量などにより調整できる。
【0036】
本発明の粘度指数向上剤組成物は、1種の組成のもしくは1種のMwの(A)を含有するか、または2種もしくはそれ以上の組成のおよび/または2種もしくはそれ以上のMwの(A)を含有する。
好ましいのは低温粘度の観点から、2種以上の(A)を含有してなる、特に2種以上の組成の(A)を含有してなる粘度指数向上剤組成物である。
【0037】
2種以上の組成の(A)を含有する場合の好ましい組み合わせは、(a2)を必須構成単量体とし必要により(a1)および/または(a3)を構成単量体とする重合体(A1)と、(a2)を必須構成単量体とし必要により(a3)を構成単量体とする重合体(A2)との組み合わせである。
(A1)を構成する単量体の質量比は好ましくは(a1)/[(a2)+(a3)]=(5〜30)/(95〜70)、さらに好ましくは(10〜22)/(90〜78)である。
(A2)における単量体の好ましい構成は、単量体のうち少なくとも1種が炭素数12〜18のものを含み、平均炭素数が12〜16である。
質量比(A1)/(A2)の好ましい質量比は、低温粘度の観点から、(99〜85)/(1〜15)である。
【0038】
2種以上の(A)を含有する場合の(A)の具体例としては、
(A1);例えばメタクリル酸メチル/アルキル基の炭素数12〜15のメタクリル酸エステル/アルキル基の炭素数16〜20のメタクリル酸エステル(0〜22%/20〜90%/0〜20%)共重合体など、
(A2);例えばメタクリル酸ドデシル/メタクリル酸ヘキサデシル(10〜50%/50〜90%)共重合体[平均炭素数:14.0〜15.6]、メタクリル酸ドデシル/メタクリル酸テトラデシル(90〜70%/10〜30%)共重合体[平均炭素数:12.2〜12.6]、およびD23/HMA/OMA(30〜70%/5〜50%/3〜20%)共重合体[平均炭素数:13.7〜15.4]などが挙げられる。
【0039】
(A)は、公知の製造方法によって得ることができる。例えば前記の単量体を、必要により前述の希釈剤(B)を使用して、重合触媒存在下にラジカル重合することにより得られる。
(B)の使用割合は、単量体の合計質量に基づいて通常5〜80%、好ましくは10〜60%である。
重合触媒としては、アゾ系触媒(例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(以下AMBNと略す)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(以下ADVNと略す)、ジメチル2,2−アゾビスイソブチレートなど)や過酸化物系(例えば、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−アミルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、ジブチルパーオキシトリメチルアジペート、ベンゾイルパーオキシド、クミルパーオキシド、ラウリルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、クミルパーオキシド、ラウリルパーオキシドなど)を用いることができる。
さらに、必要により連鎖移動剤を併用してもよく、このようなものとしては、例えばチオカルボン酸類(n−ラウリルメルカプタン(以下DMと略す)、メルカプトエタノール、メルカプトプロパノール等)、チオール酸類(チオグリコール酸、チオリンゴ酸等)、アミン類(ジブチルアミン等)等を挙げることができ、連鎖移動剤の量は単量体の質量に対して、好ましくは0.001〜5%、さらに好ましくは0.05〜3%である。反応温度としては、50〜140℃、好ましくは70〜120℃である。また、上記の希釈剤を使用した溶液重合の他に、塊状重合、乳化重合または懸濁重合により得ることもできる。さらに、(A)が共重合体の場合の重合様式としては、ランダム共重合、交互共重合またはブロック共重合のいずれでもよく、また(A)は直鎖状または分岐状のいずれでもよい。
【0040】
本発明の粘度指数向上剤組成物の製造は、
(1)単量体を(B)の存在下に重合させる、または必要により、さらに(B)で希釈する方法。
(2)重合時は(B)を使用せずに、後に(B)で希釈する方法。
などが挙げられる。好ましいのはハンドリングの観点から(1)の方法である。
【0041】
本発明の粘度指数向上剤組成物は、他の添加剤を含有してもよい。他の添加剤としては流動点降下剤(例えば、アルキルナフタレン、エチレン−プロピレン共重合物、エチレン−ビニルアセテート共重合物、α−オレフィン共重合物、アルケニルこはく酸アミド等)、清浄剤(スルフォネート系、サリシレート系、フェネート系、ナフテネート系等のCaやMg塩、炭酸カルシウム)、分散剤(コハク酸イミド系;ヒ゛スタイフ゜、モノタイフ゜、ホ゛レートタイフ゜、マンニッヒ縮合物系等)、抗酸化剤(ジンクジチオフォスフェート、アミン系;ジフェニルアミン、ヒンダードフェノール系、チオリン酸亜鉛、トリアルキルフェノール等)、油性向上剤(長鎖脂肪酸系;オレイン酸、長鎖脂肪酸エステル;オレイン酸エステル、長鎖アミン系:オレイルアミン等、長鎖アミド;オレアミド)、摩擦摩耗調整剤(モリブデンジチオフォスフェート、モリブデンカーバメイト、ジンクジアルキルジチオフォスフェート等)、極圧剤(硫黄リン系、硫黄系、リン系、クロル系等)、消泡剤(シリコーン油、金属石けん、脂肪酸エステル、リン酸エステル等)、抗乳化剤(4級アンモニウム塩、硫酸化油、リン酸エステル)、および腐食防止剤(ベンゾトリアゾールなどの窒素化合物、1,3,4−チオジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカルバメートなどの硫黄および窒素含有化合物)等が挙げられる。
粘度指数向上剤組成物の質量に基づく他の添加剤の添加量は、流動点降下剤は0〜20%、好ましくは0.1〜10%、さらに好ましくは0.1〜5%、清浄剤は0〜30%好ましくは0.1〜20%、分散剤は0〜30%、好ましくは0.2〜20%、抗酸化剤は0〜10%好ましくは0.1〜2%、油性向上剤は0〜5%、好ましくは0.1〜2%、摩擦摩耗調整剤は0〜5%好ましくは0.1〜3%、極圧剤は0〜40%好ましくは0.1〜10%、消泡剤は2〜1000ppm、好ましくは10〜700ppm、抗乳化剤は0〜3%、好ましくは0〜1%、腐食防止剤は0〜3%、好ましくは0〜2%である。
粘度指数向上剤組成物の質量に基づく他の添加剤の添加量の合計は、通常0〜50%、好ましくは0〜30%さらに好ましくは0〜20%である。
本発明の潤滑油用添加剤組成物における(A)/(B)/他の添加剤の割合は、通常30〜80/70〜20/0〜50、好ましくは40〜75/60〜25/0〜30、さらに好ましくは50〜75/50〜25/0〜20である。
【0042】
本発明の潤滑油組成物は、上記の粘度指数向上剤組成物と基油を含有する。
基油の曇点(JIS K2269−1993年)は−5℃以下が好ましい。さらに好ましくは−15℃〜−60℃である。基油の曇点がこの範囲であるとワックスの析出量が少なく得られる潤滑油組成物の低温粘度が良好である。基油としては、溶剤精製油、イソパラフィンを含有するおよびまたは水素化分解による高粘度指数油、炭化水素系合成潤滑油(ポリαオレフィン系合成潤滑油)、エステル系合成潤滑油、ナフテン油などが挙げられる。これらのうち好ましいのは、イソパラフィンを含有するおよびまたは水素化分解による高粘度指数油である。
【0043】
本発明の潤滑油組成物は、基油の質量に基づいて、(A)として好ましくは0.5〜30%含有する。
【0044】
潤滑油組成物がエンジン油の場合には、100℃の動粘度が3〜10mm2/sの基油の質量に基づいて、(A)として0.5〜15%が添加されることが好ましい。
ギヤ油の場合には100℃の動粘度が3〜10mm2/sの基油の質量に基づいて、(A)として3〜30%が添加されることが好ましい。
自動変速機油(ATF、ベルトCVT油)の場合には100℃の動粘度が2〜6mm2/sの基油の質量に基づいて、(A)として2〜25%が添加されることが好ましい。
トラクション油の場合には100℃の動粘度が1〜5mm2/sの基油の質量に基づいて、(A)として0.5〜15%が添加されることが好ましい。
作動油の場合には100℃の動粘度が1〜10mm2/sの基油の質量に基づいて、(A)として0.5〜25%が添加されることが好ましい。
【0045】
本発明の潤滑油組成物は、輸送用機器、各種工作機器などのエンジン油、ギヤ油、自動変速機油(ATF、CVT油)、トラクション油、ショックアブソーバー油、パワーステアリング油などに使用される。
【0046】
<実施例>
以下に実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の部は質量部を表す。
【0047】
実施例1〜3、および比較例1;
撹拌装置、加熱冷却装置、温度計、滴下ロート、および窒素吹き込み管を備えた反応容器に、重合時の希釈剤として以下の鉱物油25部を仕込み、別のガラス製ビーカーに、表1に記載の単量体を合計100部、ラジカル重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル:ADVNと略記)および連鎖移動剤としてDMを表1記載の量を仕込み、20℃で撹拌、混合して単量体溶液を調製し、滴下ロートに仕込んだ。反応容器の気相部の窒素置換を行った後に密閉下85℃で4時間かけて単量体溶液を滴下し、滴下終了から2時間、85℃で熟成した後、130℃、3時間、減圧下で低沸成分を除去し得られた重合体125部に以下の追加の希釈剤42部を加えて希釈し、粘度指数向上剤組成物(A−1)〜(A−3)、および(X−1)を得た。
実施例1〜3では、ダイアナフレシア K−8(鉱物油;硫黄分=0.01質量%、100℃動粘度=2.3mm2/s、粘度指数=78;出光興産製)、および
比較例1では、ダイアナフレシア U−46(鉱物油;硫黄分=0.94質量%、100℃動粘度= 5.540mm2/s、粘度指数=27 ;出光興産製)を重合時の希釈剤および追加の希釈剤とした。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例4〜7、および比較例2;
撹拌混合装置の付いたステンレス製容器を用い、基油(100℃の動粘度:3.0mm2/s、粘度指数:117、曇点:−23℃、硫黄分=0.01質量%以下)に、(A−1)〜(A−3)および(X−1)を表2記載の添加量で配合し、溶解させた。
得られた潤滑油組成物の酸化安定性を評価した結果を表2に示す。
【0050】
(酸化安定性試験の方法)
JIS−K−2514に規定される試験方法の試験条件を130℃、72時間に変更して行った。そして、試験後の潤滑油組成物のペンタン不溶解分をJPI−5S−18−80のA法で求めた。値が小さいほど、酸化安定性に優れることを示す。
【0051】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の粘度指数向上剤組成物を使用した潤滑油組成物は、従来のPMA系粘度指数向上剤組成物を使用した潤滑油組成物と比べ、酸化安定性に優れることから今後の自動車の潤滑油の長寿命化の要求に対応できる。従って、駆動系潤滑油(マニュアルトランスミッション油、デファレンシャルギヤ油、オートマチックトランスミッション油、ベルトCVT油など)、作動油(機械の作動油、パワーステアリング油、ショックアブソーバー油など)、エンジン油(ガソリン用、ディーゼル用等)、トラクション油に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキル基の炭素数が1〜30の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)を必須構成単量体としてなる重合体(A)および稀釈剤(B)を含有してなる粘度指数向上剤組成物であって、(B)が(B)の質量にもとづいて0.5質量%以下の硫黄を含有する希釈剤であることを特徴とする粘度指数向上剤組成物。
【請求項2】
希釈剤(B)が、1〜15mm2/sの100℃での動粘度を有し、かつ70以上の粘度指数を有する請求項1の粘度指数向上剤組成物。
【請求項3】
重合体(A)が、アルキル基の炭素数が1〜4の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)、アルキル基の炭素数が8〜15の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)およびアルキル基の炭素数が16〜24の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a3)を構成単量体とし、単量体の合計質量に基づいて(a1)の割合が0〜45質量%、(a2)の割合が0.1〜100質量%および(a3)の割合が0〜75質量%である請求項1または2記載の粘度指数向上剤組成物。
【請求項4】
2種以上の異なる(A)を含有してなる請求項1〜3いずれか記載の粘度指数向上剤組成物。
【請求項5】
重合体(A)の質量に基づく希釈剤(B)の割合が10〜900質量%である請求項1〜4のいずれか記載の粘度指数向上剤組成物。
【請求項6】
さらに他の添加剤を含有してなる請求項1〜5のいずれか記載の粘度指数向上剤組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか記載の粘度指数向上剤組成物と基油を含有してなる潤滑油組成物。

【公開番号】特開2006−124513(P2006−124513A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−314959(P2004−314959)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】