説明

粘性液体供給ノズルへの潤滑性メッキ層の形成方法及び粘性液体供給ノズル

【課題】微量な粘性流体の安定した供給を可能とする。
【解決手段】先端が吐出口7である細く長い孔9を備えたノズル本体3を備え、粘性液体供給装置に用いられて吐出口7から接着剤を吐出させる粘性液体供給ノズル1を、潤滑性メッキ液を収容したメッキ槽内に浸して無電解メッキを行い、少なくとも吐出口7内外に潤滑性メッキ層11を形成し、又は、ノズル本体3の基端に広口部5を備え、潤滑性メッキ液を収容したメッキ槽内に浸して広口部5に前記潤滑性メッキ液を収容し、広口部5から潤滑性メッキ液を加圧又は重力によりノズル本体3の細く長い孔に流通させて吐出口7から吐出させ少なくとも吐出口7内外に潤滑性メッキ層11を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばパーソナルコンピュータ等の情報処理装置に内蔵されるディスク装
置用のヘッド・サスペンションの製造などに供されるに粘性液体供給ノズルへの潤滑性メッキ層の形成方法及び粘性液体供給ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の粘性液体供給ノズルは、粘性流体供給装置に用いられる。例えばデュアル・アクチュエータ方式のヘッド・サスペンションでは、圧電素子を粘性流体である接着剤により取り付けている。この接着剤の供給を微細な圧電素子に対し微細な粘性液体供給ノズルを用いて行っている。
【0003】
この粘性液体供給ノズルは、極めて微量の接着剤の塗布に使用されるため、内径が0.05〜0.4mmで長さが数ミリといったアスペクト比の大きな細く長いノズルとなる。このため、微量の接着剤塗布を繰り返した場合、ノズル先端に接着剤がまとわりつき、糸をひいたり、逆に球になってまとまって落ちる等、接着剤塗布量の安定化が難しいという問題があった。
【0004】
これに対し特許文献1では、撥水性部材でノズルを構成するもの、或いは先端部を撥水コーティングしたノズルが開示されている。 また、特許文献2では、ノズルの孔内周にも撥水処理を行う例が開示されている。
【0005】
しかし、単品で内径0.5mmといったある程度内径の大きいノズルの場合は、撥水性部材から加工することも容易だが、内径がそれより小さくなると加工そのものが困難となる。例え、加工できても、樹脂ノズルでは剛性が低く、高精度位置決めした上での塗布が難しくなる。
【0006】
また、粘性液体供給ノズルに撥水処理を行う場合は、一般にテフロン(登録商標)加工等のフッ素コーティングが行われている。一般的にフッ素コーティングの場合、内径0.05〜0.4mm、かつ長さ数ミリ言ったアスペクト比の大きな細く長いノズルの内周に安定して処理を行うことは困難である。
【0007】
さらに、フッ素コーティングには一般的に紛体塗装、静電スプレーなどが用いられるが、どちらも微細な孔の内径部への適用は困難である。
【0008】
その理由は、紛体塗装では、粉が均一に微細孔内径部へ入り込まないからであり、また静電式でも、図5のように、対象のノズル101の尖端部103は電力線が集中して厚くなり、微細孔105の内径部に電力線が入らず、塗着がほとんど発生しないからである。しかも、電力線が集中する尖端部103に塗着107が集中し易く、微細孔105の吐出口が塞がれる恐れがある。
【0009】
さらに、尖端部103に塗着107が集中するため、接着剤塗布時にノズル先端に接着剤がまとわりつき、糸をひいたり、逆に球になってまとまって落ちる等、接着剤塗布量の安定化が難しいという問題を助長することにもなる。
【0010】
さらに、何れのフッ素コーティングであっても400℃程度での焼付け工程が必要で、熱処理済み加工品への適用は困難である。
【0011】
また、浸漬が用いられることもあるが、液状の塗料を付着、乾燥させる工法のため、ノズルの微細孔105が塗料により塞がれることが多くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平11−07897号公報
【特許文献2】特開平11−330679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
解決しようとする問題点は、微量な粘性流体の安定した供給が困難であった点である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、微量な粘性流体の安定した供給を可能とするために、先端が吐出口である細く長い孔を備えたノズル本体を備え、粘性液体供給装置に用いられて前記吐出口から粘性液体を吐出させる粘性液体供給ノズルを、潤滑性メッキ液を収容したメッキ槽内に浸し、少なくとも前記吐出口内外に無電解メッキによる潤滑性メッキ層を形成したことを方法の特徴とする。
【0015】
前記粘性液体供給ノズルへの潤滑性メッキ層の形成方法により潤滑性メッキ層を形成した粘性液体供給ノズルであって、先端が吐出口である細く長い孔を備えたノズル本体と、 このノズル本体の基端に備えられた広口部と、少なくとも前記吐出口内外に潤滑性メッキ層を形成したことを粘性液体供給ノズルの特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の粘性液体供給ノズルへの潤滑性メッキ層の形成方法は、上記構成であるから、少なくとも吐出口内外に潤滑性メッキ層を容易に形成することができる。
【0017】
本発明の粘性液体供給ノズルは、少なくとも吐出口内外に潤滑性メッキ層により、微量な粘性流体の安定した供給が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】粘性液体供給ノズルの支持状態を示す断面図である。(実施例1)
【図2】潤滑性メッキ層を示す要部拡大断面図である。(実施例1)
【図3】マルチノズルの粘性液体供給ノズルを示す斜視図である。(実施例1)
【図4】マルチノズルの粘性液体供給ノズルを示す拡大断面図である。(実施例1)
【図5】電力線及び塗着の集中を示す断面図である。(従来例)
【発明を実施するための形態】
【0019】
微量な粘性流体の安定した供給を可能にするという目的を、潤滑性メッキ層により実現した。
【実施例1】
【0020】
[粘性液体供給ノズル]
図1は、粘性液体供給ノズルの支持状態を示す断面図、図2は、潤滑性メッキ層を示す要部拡大断面図である。
【0021】
図1のように、粘性液体供給ノズル1は、ステンレス等で形成され、ノズル本体3と広口部5とを備えている。
【0022】
ノズル本体3は、先端が吐出口7である細く長い孔9を備えている。ノズル本体3の長さLは、孔9の内径dの3倍以上でありノズルとしての剛性を維持できる範囲内である。孔9の内径dは、例えば0.05〜0.4mmである。
【0023】
広口部5は、ノズル本体3の基端に備えられ、縦断面が漸次拡径し横断面円形状に形成されている。広口部5は、縦断面を均一寸法に形成することもでき、横断面を角形状に形成することもできる。
【0024】
なお、ノズル本体3と広口部5とを別体に形成して、後付けで一体に形成することもできる。この場合、広口部5を樹脂で形成し、ステンレス製などのノズル本体3と一体的に形成することもできる。
【0025】
この粘性液体供給ノズル1は、図2のように、少なくとも吐出口7内外に潤滑性メッキ層11を形成している。潤滑性メッキ層11は、フッ素含有潤滑メッキ層、又はPTFE複合無電解Niメッキ層、又はカニフロン(登録商標)メッキ層である。
【0026】
この粘性液体供給ノズル1は、粘性液体供給装置に用いられて、シリンジに収容した粘性液体として、例えば接着剤を、広口部5に受け、シリンジに掛けられる空気圧等により吐出口7から吐出させるものである。
[潤滑性メッキ層の形成方法]
図1のように、ノズル本体3を差し込む支持孔13を複数備えたジグ15を用い、各支持孔13にノズル本体3の複数をそれぞれ差し込み、広口部5の複数を上方に向けて支持する。なお、図1では、説明を簡単にするため、単一の粘性液体供給ノズル1を示す。
【0027】
メッキ槽内には、潤滑性メッキ液として、フッ素含有潤滑メッキ液、又はPTFE複合無電解Niメッキ液、又はカニフロン(登録商標)メッキ液が収容されている。
【0028】
ジグ15に支持した粘性液体供給ノズル1を、潤滑性メッキ液を収容したメッキ槽内に浸して無電解メッキを行なう。このときジグ15をメッキ槽内、或いはメッキ層から引き上げて上下させ、広口部5内に収容した潤滑性メッキ液に慣性力を働かせ、孔9側に対する圧力Pの加圧を行うとよい。
【0029】
圧力Pは、別個に用意した装置により広口部5へ適度な空気圧を掛けることにより形成することもできる。
【0030】
圧力Pは、重力で代用することもできる。重力の場合は、ジグ15をメッキ槽に浸して広口部5内に潤滑性メッキ液を収容し、これを槽内から引き上げる。広口部5内の潤滑性メッキ液が重力により孔9内へ流下し、吐出口7から吐出される。
【0031】
このように、望ましくは加圧又は重力によりノズル本体3の細く長い孔9に潤滑性メッキ液を流通させて吐出口7から吐出させ、無電解メッキにより、少なくとも吐出口7内外に潤滑性メッキ層11を形成する。
【0032】
特に、PTFE複合無電解Niメッキ、カニフロン(登録商標)メッキは無電解メッキであるため、細長い孔9内でも、安定かつ均一な処理が可能である。このため、細長い孔9内から吐出口7及びノズル本体3の外面に渡り、従来のような尖端角部に集中して尖る層ではなく、均一な厚みの潤滑性メッキ層11を形成することができる。
【0033】
無電解メッキのため、図5のような問題はなく、細長い孔9内にも撥水処理が可能である。
【0034】
ノズル本体3のサイズは内径0.05mm〜0.4mmで、内径の3倍以上の全長であっても適用できる。
【0035】
粘性液体供給ノズル1の潤滑性メッキ層11は、コーティングのように焼き付けが不要であり、熱処理品を用いて上記メッキ処理を行わせることが可能となる。このため、熱処理品による高耐久性と高い寸法精度との両立を図ることができる。
【0036】
粘性液体供給ノズル1は脱磁処理をしっかり行うことで、金属系の異物付着を防ぎ、専用メッキ槽以外でも加工可能である。
【0037】
図3は、マルチノズルの粘性液体供給ノズルを示す斜視図、図4は、マルチノズルの粘性液体供給ノズルを示す拡大断面図である。
【0038】
この粘性液体供給ノズル1Aは、広口部5Aが複数のノズル本体3A・・・に対応して大きく形成され、この広口部5Aから各ノズル本体3Aが突出する形態となっている。ノズル本体3Aは、広口部5Aの圧入孔5Aa・・・にそれぞれ圧入されている。ノズル本体3Aを圧入によらず広口部5Aに一体に形成することもできる。
【0039】
このマルチノズルの粘性液体供給ノズル1Aにおいても、上記とほぼ同様の作業により潤滑性メッキ液に浸し、圧力Pにより潤滑性メッキ液を孔9Aに通して吐出口7Aから吐出させ、少なくとも吐出口7A内外に同様に潤滑性メッキ層を形成することができる。[実施例1の効果]
本発明の粘性液体供給ノズル1への潤滑性メッキ層の形成方法は、先端が吐出口7である細く長い孔9を備えたノズル本体3と、このノズル本体3の基端に備えられた広口部5とを備え、粘性液体供給装置に用いられて吐出口7から接着剤を吐出させる粘性液体供給ノズル1への潤滑性メッキ層11の形成方法であって、粘性液体供給ノズル1を、潤滑性メッキ液を収容したメッキ槽内に浸して、望ましくは広口部5に潤滑性メッキ液を収容し、広口部5から潤滑性メッキ液を加圧又は重力によりノズル本体3の細く長い孔9に流通させて吐出口7から吐出させ、無電解メッキを行により少なくとも吐出口7内外に潤滑性メッキ層11を形成した。
【0040】
このため、少なくとも吐出口7内外に潤滑性メッキ層11を容易に形成することができる。
【0041】
ノズル本体3を差し込む支持孔13を複数備えたジグ15を用い、各支持孔13にノズル本体3の複数をそれぞれ差し込み広口部5の複数を上方に向けて支持し、ジグ15をメッキ層内で上下させて孔9に対する圧力Pの加圧を行う。
【0042】
このため、細く長い孔9であっても、メッキ液を確実に通すことができ、吐出口7内外に潤滑性メッキ層11を確実に形成することができる。
【0043】
前記粘性液体供給ノズル1への潤滑性メッキ層11の形成方法により潤滑性メッキ層11を形成した粘性液体供給ノズル1であって、先端が吐出口5である細く長い孔9を備えたノズル本体3と、このノズル本体3の基端に備えられた広口部5と、少なくとも吐出口7内外に潤滑性メッキ層11を形成した。
【0044】
このため、潤滑性メッキ層11潤滑性によりの微量な接着剤の安定した供給が可能となる。
【0045】
なお、上記実施例では、潤滑性メッキ液を圧力Pにより孔9,9Aに通すようにしたが、粘性液体供給ノズル1,1Aを単に潤滑性メッキ層に浸すメッキ作業でも、無電解メッキであるから潤滑性メッキ液が孔9,9A内へ行き渡り、少なくとも吐出口7,7A内外に潤滑性メッキ層11を形成することができる。
【0046】
また、このようなメッキ作業の場合、広口部5を備えない、ノズル本体3のみを備え、ノズル本体3がそのまま粘性液体供給ノズルとなる形態のものにも適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1,1A 粘性液体供給ノズル
3,3A ノズル本体
5,5A 広口部
7,7A 吐出口
9,9A 孔
11 潤滑性メッキ層
13 支持孔
15 ジグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端が吐出口である細く長い孔を備えたノズル本体を備え、粘性液体供給装置に用いられて前記吐出口から粘性液体を吐出させる粘性液体供給ノズルを、潤滑性メッキ液を収容したメッキ槽内に浸し、少なくとも前記吐出口内外に無電解メッキによる潤滑性メッキ層を形成した、
ことを特徴とする粘性液体供給ノズルへの潤滑性メッキ層の形成方法。
【請求項2】
請求項1記載の粘性液体供給ノズルへの潤滑性メッキ層の形成方法であって、
前記ノズル本体の基端に広口部を備え、前記粘性液体供給装置に用いられて前記吐出口から粘性液体を吐出させる粘性液体供給ノズルを、潤滑性メッキ液を収容したメッキ槽内に浸して前記広口部に前記潤滑性メッキ液を収容し、
前記広口部から前記潤滑性メッキ液を加圧又は重力により前記ノズル本体の細く長い孔に流通させて前記吐出口から吐出させ少なくとも前記吐出口内外に潤滑性メッキ層を形成した、
ことを特徴とする粘性液体供給ノズルへの潤滑性メッキ層の形成方法。
【請求項3】
請求項2記載の粘性液体供給ノズルへの潤滑性メッキ層の形成方法であって、
前記ノズル本体を差し込む支持孔を複数備えたジグを用い、前記各支持孔に前記ノズル本体の複数をそれぞれ差し込み前記広口部の複数を上方に向けて支持し、
前記ジグを前記メッキ層内で上下させて前記加圧を行う、
ことを特徴とする粘性液体供給ノズルへの潤滑性メッキ層の形成方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の粘性液体供給ノズルへの潤滑性メッキ層の形成方法であって、
前記ノズル本体の長さは、前記孔の内径の3倍以上でありノズルとしての剛性を維持できる範囲内である、
ことを特徴とする粘性液体供給ノズルへの潤滑性メッキ層の形成方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の粘性液体供給ノズルへの潤滑性メッキ層の形成方法であって、
前記潤滑性メッキ液は、フッ素含有潤滑めっき、又はPTFE複合無電解Niメッキ、又はカニフロン(登録商標)メッキである、
ことを特徴とする粘性液体供給ノズルへの潤滑性メッキ層の形成方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の粘性液体供給ノズルへの潤滑性メッキ層の形成方法により潤滑性メッキ層を形成した粘性液体供給ノズルであって、
先端が吐出口である細く長い孔を備えたノズル本体と、
このノズル本体の基端に備えられた広口部と、
少なくとも前記吐出口内外に潤滑性メッキ層を形成した、
ことを特徴とする粘性液体供給ノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−136755(P2012−136755A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291212(P2010−291212)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】