説明

精密ラジカル法アクリル共重合体増粘剤

本発明は、精密ラジカル法により合成されたアクリルブロック共重合体並びにそれらの油基材組成物における増粘剤としての用途に関する。それらは、潤滑油における粘度指数向上剤として特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2003年11月26日付け米国仮出願第60/525,549号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、精密ラジカル法により合成されたアクリルブロック共重合体並びにそれらの油基材組成物における添加剤及び増粘剤としての用途に関する。それらは、潤滑油における粘度指数向上剤として特に有用である。
【背景技術】
【0003】
潤滑油、例えば、モーター油、歯車油、油圧油及びトランスミッション油は、典型的に、それらの性能を向上させるためにいくつかの添加剤を含有する。それらには、分散剤、酸化防止剤、洗剤、摩擦変性剤、脱泡剤、流動点降下剤、粘度指数向上剤が包含される。
【0004】
潤滑油の粘度は温度に依存し、従って油の温度が上昇するにつれて粘度は典型的に低下し、逆に油の温度が低下すると粘度は上昇する。粘度の有意の低下は、保護しようとするエンジン部品の間に摩耗を生じさせ得るので有害となり得る。粘度指数向上剤(VII)は典型的には重合体物質であり、これは広範囲の温度にわたって粘度変化を最低限にさせることによって主に機能する。それらは、通常、加熱したときに潤滑油の粘度低下を弱めるために使用される。
【0005】
ランダム共重合体は通常はVIIとして使用される。これらの共重合体は、潤滑油基材中での溶解性を確実にするために、少なくとも1種の単量体であってそのホモ重合体が油溶性であるようなものから形成される。VIIとして通常使用されるランダム共重合体の三つのタイプは、ポリメタクリル酸エステル(US6,124,249)、オレフィン系共重合体(US2003/0073785)及び共役ジエン(US6,319,881)である。
【0006】
星形重合体(US6,034,042)やブロック共重合体を含めて制御された構造又は構成を有する重合体が斯界に報告された。これらの重合体は、種々のリビング陰イオン遊離ラジカル及びリビング(又は精密)遊離ラジカル重合技術により製造することができる。これらの技術は、主として分子量分布を制御するために使用された。
【0007】
US6,538,091には、遷移金属化合物とのレドックス反応に基づく原子移動法(ATRP)を使用する重合体構造の制御方法が記載されている。この方法は、予測可能な分子量及び制御された多分散性を有する共重合体を生じさせる開始系を使用する。この方法により製造された重合体は、成形材料、遮断材、熱可塑性エラストマー、両親媒性界面活性剤に有用であると説明されている。この精密(controlled)ラジカル重合技術は、いくつかの欠点、例えば、多くの用途にとって有害となり得る残留金属副生物(例えば、US6,610,802を参照。)並びに重合体組成物における制約という欠点を有する。更に、この参照文献は、潤滑油への共重合体のどんな使用も記載していない。
【0008】
ATRPにより製造されたランダム共重合体が、流動点降下剤(US6,391,996)及び粘度指数向上剤(US2002/0188081)として使用された。“081の参照文献は、ATRP法をブロック共重合体のために使用することができたと述べているが、そのような使用を記載し損なっており、又はこのようなブロック共重合体を潤滑油に使用するという大きなVIIの利益を認識し損なっている。また、ATRPにより合成された傾斜共重合体は、US6,403,745において流動点降下剤として有用であることが示された。更に、比較的高い触媒量の金属化合物を使用すると、残留金属汚染物を含有する生成物が得られる。これらの金属副生物は、エンジン型潤滑の用途においては有害であり、その除去を必要とするが、これは困難であり且つ骨の折れる操作を要求する。
【0009】
多機能性潤滑添加剤の使用がUS6,319,881に記載された。
【0010】
また、ブロック共重合体がVIIとして有用であることも示された。安定化遊離ラジカル重合によって製造されたビニル芳香族単量体とビニル芳香族−共−アクリルブロックとのブロック共重合体が特許US6,531,547に記載されている。これらの特許は、相当するブロック共重合体の合成のためにTEMPOをベースとしたニトロキシド誘導体を使用することを記載する。この部類の遊離ラジカル制御剤は、アクリル型単量体への制御を行なわない。具体的に言えば、メタクリル化合物を使用すると、副反応や、不均化のような停止反応を導くことになり、これはブロック共重合体及び長鎖分子の形成を禁止させる(アナチェンコ他により、Journal of Polymer Science:Part A:Polymer Chemistry、Vol.40、p.3264−3283に記載のように)。また、エチレンとα−オレフィンとのブロック共重合体がUS2003/0073785に記載され、ポリ(共役ジエン)とポリ(モノビニル芳香族炭化水素)とのブロック共重合体がUS6,303,550に記載された。しかし、上記の参照文献のどれも、少なくとも1個の純粋なアクリルブロックセグメントを有する制御された構造の共重合体をVIIとして使用させるものではない。
【0011】
US5,002,676には、選択的に水素化された共役ジエンとメタクリル酸t−ブチルを含有するブロック共重合体の製造が記載されている。US6,350,723には、共役ジエンとメタクリル酸アルキル単量体とのリビング陰イオン重合によるブロック共重合体の合成が教示されている。これらの参考文献は、共役ジエン及び水素化ジエンを含有するブロック共重合体の使用を例示しているが、本発明の特定の共重合体を教示し損なっている。また、これらの参考文献は、ブロックの溶解性を要求通りにする意義を教示していず、また傾斜組成物の生成を許容させるものではない。更に、リビング陰イオン重合は、いくつかの欠点、例えば、−20℃よりも高い温度での無効力、極性共単量体と非極性共単量体との間の劣った共重合並びに容易に脱プロトンできる単量体の使用不能という欠点を被る。従って、官能性単量体を組み入れることができず、単量体混合物の共重合は問題を含み及び(又は)役立たないものとなり得る。更に、この方法は、高価であり、塊状又は乳化技術を使用できないので工業的規模で実施することが困難であるか又は実用的ではなく、また極めて純粋な反応体が必要であり(プロトン物質が痕跡量でも重合を阻害する。)、不活性雰囲気が必要である。
【0012】
ニトロキシド族からの安定な遊離ラジカルの存在下で共重合体を製造するための方法がUS6,255,402に記載されている。ニトロキシドが介在する安定なラジカルが、US6,255,448及びUS2002/0040117に記載のように、制御されたブロック共重合体を製造するのに使用された。これらの参考文献(これらは引用によってここに含めるものとする。)は、共重合体を潤滑油に使用することを記載していない。
【0013】
驚いたことに、精密(controlled)ラジカル重合により形成されたアクリルブロック共重合体が潤滑油において優秀な粘度指数向上を生じさせることがここに見出された。本発明の重合体は、現在使用されているランダム共重合体又は他のブロック共重合体に見出されるよりも大きい粘度指数向上を生じさせる。伝統的な共重合体で達成される性質は典型的には結果として生じる組み入れられた単量体により付与される性質の平均であるが、該ブロック共重合体は、各セグメントを含む原ホモ重合体に固有の特徴的な性質を有する衣料をもたらす。従って、ブロック共重合体の使用は、多機能性を有する材料の形成にとって特に有益である。更に、この部類の重合体は、選定された単量体組成に起因する高い剪断安定性、制御された分子量、そして制御された重合方法によりもたらせる分子量分布を与えよう。潤滑油用途に対してこれらの共重合体の粘度を変性させる強みは、典型的なSAE標準規格J300粘度分類試験及びASTM D2270試験で証明される優秀な性能によって例示することができる。更に、これらのブロック共重合体は、どんな油基材組成物をも増粘させるのに使用することができる。
【0014】
【特許文献1】米国特許第6,124,249号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0073785号明細書
【特許文献3】米国特許第6,319,881号明細書
【特許文献4】米国特許第6,034,042号明細書
【特許文献5】米国特許第6,538,091号明細書
【特許文献6】米国特許第6,610,802号明細書
【特許文献7】米国特許第6,391,996号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2002/0188081号明細書
【特許文献9】米国特許第6,403,745号明細書
【特許文献10】米国特許第6,531,547号明細書
【特許文献11】米国特許第6,303,550号明細書
【特許文献12】米国特許第5,002,676号明細書
【特許文献13】米国特許第6,350,723号明細書
【特許文献14】米国特許第6,255,402号明細書
【特許文献15】米国特許第6,255,448号明細書
【特許文献16】米国特許出願公開第2002/0040117号明細書
【非特許文献1】アナチェンコ他、Journal of Polymer Science:Part A:Polymer Chemistry、Vol.40、p.3264−3283
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、油基材組成物を増粘させることができる制御された構造の共重合体を提供することである。
【0016】
本発明の他の目的は、精密ラジカル重合により合成されたアクリルブロック共重合体を使用することによって良好な粘度指数向上性を持った潤滑油を提供することである。
【0017】
本発明の更なる目的は、与えられた潤滑油において最適な粘度指数向上を図るために、精密ラジカル重合により合成されたアクリルブロック共重合体の共重合体組成及び物性を調節することである。
【0018】
また、本発明の目的は、ニトロキシドが介在する重合方法によってアクリルブロック共重合体を合成することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
これらの目的は、
a)1種以上の油99.999〜60.0重量%と、
b)精密ラジカル重合によって合成された少なくとも1個のアクリルブロックを有するブロック共重合体0.001〜40.0重量%
とを含む増粘された油組成物によって達成された。
【0020】
図面の説明
図1は、比較用VIIを含有する潤滑油及び本発明のブロック共重合体VIIを含有する潤滑油の換算粘度対濃度のグラフを示す。プロットは、比較用VIIが濃度の増大と共に換算粘度の直線的な増大を示すが、本発明のVIIが約5%の濃度よりも上では換算粘度の著しい増大又は拡がり(divergent)挙動を示すことを表わしている。
【0021】
図2は、図1と類似のプロットであって、図1に示したブロックと比べて約2倍のMnを有するブロック共重合体を表わしている。
【0022】
図3は、比較用VIIを含有する潤滑油組成物及び本発明のVIIを含有する潤滑油組成物の換算粘度(VI)対潤滑油組成物に配合された重合体の重量%のグラフを示す。プロットは、本発明のVIIが比較用VIIと比べてずっと低い重量%で類似するVII挙動を与えることを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の詳細な説明
【0024】
本発明は、少なくとも1個のアクリルブロックを有する制御された構造のブロック共重合体を含有する油基材組成物に関する。好ましくは、ブロック共重合体は両親媒性である。用語“両親媒性”とは、少なくとも1個のブロックセグメントが油に容易に可溶性であり及び1個のセグメントが油に部分的に又は完全に不溶性であるブロック共重合体を説明するための意味である。両親媒性は、勿論、油の性状又は種類に依存する。相当するブロック共重合体の特定の組成は、所望の両親媒性挙動を得るために、使用した基油に応じて注文通りにすることができる。
【0025】
特定の媒体中での重合体の溶解度を決定するための有用なガイドとしてヒルデブラントの溶解度パラメーターを使用することができる。このパラメーターの詳細な要旨は、E.A.グリュルケにより“Polymer Handbook”第4版(編者:J.ブランドラップ、E.J.インマーグット、E.A.グリュルケ、ジョンウイリー&ソンズ社、ニューヨーク、1999)の“溶解度パラメーターの値”と称する章に示されている。溶解度パラメーターは非極性の溶媒を最も良く説明するが、それらは、“Polymer Handbook”VII/677頁に記載されるように、極性溶媒及び重合体物質の双方をも包含するように拡張された。多数の商業用重合体の溶解度パラメーター並びに溶解度パラメーターを算定するための方法(実験的及び理論的な方法とも)も上記の参考文献に含まれている。潤滑油中の特定の重合体の溶解度は、分子量、温度などのような因子に依存するが、重合体が、(J/m31/2で与えられる溶解度パラメーターを基にして、それ自体の溶解度パラメーターの約1〜1.5単位の範囲内の溶解度パラメーターを有する溶媒に溶解することがしばしば見出される。ある種の油中におけるある種の重合体セグメントの溶解度を決定的に評価するためには、相当するホモ重合体を直接試験しなければならない。
【0026】
各セグメントの相溶性は、ヒルデブラントの溶解度パラメーターを使用して算定することができる。油溶性ブロックは、典型的に、選定された潤滑油の2.0(J/m31/2以内の溶解度パラメーター、好ましくは1.5(J/m31/2以内のパラメーターを有する。また、油不溶性ブロックは、1.5(J/m31/2よりも大きい溶解度パラメーター、好ましくは2.0(J/m31/2よりも大きいパラメーターを有する。両方のセグメントが油溶性であるブロック共重合体組成物を使用できるが、しかし、これは系に有益な寄与を与え得るミセル又は凝集塊を形成させる能力を最少にさせる。
【0027】
本発明のブロック共重合体は、他にもあるが、油基材処方物の増粘剤又は粘度変性剤としての用途がある。本発明で有用な油には、鉱油、合成油、シリコーンオイル、潤滑油があるが、これらに限られない。一つの好ましい場合に、これらのブロック共重合体は、潤滑油組成物を形成するように基油中で可溶化させることができる。油は、油組成物の60〜99.999重量%、好ましくは80〜99.99重量%になる。
【0028】
典型的なパラフィン系潤滑油は約16(J/m31/2の溶解度パラメーターを有するが、しかし溶解度パラメーターは、他の因子と共にナフテン系の含有量に依存して、変動する。従って、“可溶性”重合体ブロックはほぼ14〜18(J/m31/2の溶解度パラメーターを持つものであってよい。パラフィン系の油に非常に類似する溶解度パラメーターを有する油相溶性のブロックの例としては、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸C16〜C22エステルの混合物、アクリ酸C6〜C30線状又は分岐状エステル、メタクリル酸エステル及びそれらの2種以上の混合物の重合体があるが、これらに限られない。油不溶性のブロックは、所望の溶解度のセグメントを生じる1種以上の単量体から形成することができる。
【0029】
パラフィン系の油に不溶性である重合体ブロックの例としては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、ポリスチレン、アクリル酸メトキシメチル、ポリエチレングリコールメチルエーテルアクリレート及びメタクリレート、メタクリル酸C1〜C3エステル、アクリル酸のC1〜C4線状及び分岐状エステル、そしてこれらの2種以上の混合物から形成されるものが含まれるが、これらに限られない。油溶性重合体を形成する単量体は、油溶性重合体を形成する単量体と、生じるブロックセグメントが不溶性であるような比率で共重合させることができる。19(J/m31/2又はそれ以上の溶解度パラメーターを有する重合体を含む重合体ブロックを合成することができ、これらが本発明で使用するときに優秀な粘度指数向上性を示すことが見出された。
【0030】
用語“共重合体”とは、ここで使用するときは、少なくとも2種の化学的に異なった単量体から形成される重合体を意味する。共重合体には、三元共重合体並びに3種よりも多い単量体から形成された重合体も包含される。それぞれのブロックセグメントは、ホモ重合体からなっていてよく、又は2種以上の異なった単量体の共重合体であってもよい。
【0031】
本発明のブロック共重合体は、精密ラジカル重合(CRP)によって形成されるものである。それらは、統計学的な分布か又は単量体間の反応速度の相違のいずれかと関係するある種の単量体のいくつかのブロックを含有できる。これらのランダム重合においては、重合体の構造、分子量又は多分散性についての制御は実質的になく、従って個々の重合体連鎖の相対的な組成は均一ではない。本発明のブロック共重合体としては、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体、マルチブロック共重合体、星形重合体、櫛形重合体、傾斜重合体、そして嵩高構造を有する他の重合体が包含されるが、これらは当業者には周知である。
【0032】
ある共重合体セグメントがニトロキシド介在重合のようなCRP技術を使用して合成されるときは、それは傾斜重合体又は“プロファイルド”重合体と称される。このタイプの共重合体は、伝統的な遊離ラジカル法により得られる重合体とは異なっており、単量体の組成、制御剤及び重合条件に依存する。例えば、単量体混合物を伝統的な遊離ラジカル重合により重合させるときは、単量体混合物の組成が成長する連鎖の寿命期間(ほぼ1秒間)中は静止状態であるので、ランダム共重合体が生成する。更に、反応を通じて遊離ラジカルの一定の生成のために、連鎖の組成は均一ではない。精密ラジカル重合の間は、連鎖は、重合を通じて活性のままであり、しかして組成は均一であり、反応時間に関して相当する単量体混合物に依存する。しかして、2種の単量体の系であってその一方の単量体が他の単量体よりも早く反応する系においては、単量体単位の分布又は“プロファイル”は、一方の単量体単位が重合体セグメントの一端において濃度が高いようなものである。
【0033】
本発明の共重合体はアクリルブロック共重合体である。“アクリルブロック共重合体”とは、ここで使用するときは、その共重合体の少なくとも1個のブロックが1種以上のアクリル単量体から完全に形成され又はほとんど完全に形成されていることを意味する。アクリルブロックは、少なくとも90モル%、好ましくは少なくとも95モル%、最も好ましくは少なくとも98モル%のアクリル単量体単位を含有する。好ましい一具体例では、アクリルブロックは、100%のアクリル単量体単位を含有する。他のブロックはアクリルでも又は非アクリルであってもよい。
【0034】
“アクリル”とは、ここで使用するときは、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリルアミド類及びアクリロニトリル類(これらに限られない。)を含めてアクリル単量体から形成される重合体又は共重合体を意味する。また、それはアルクアクリル誘導体、特にメタクリル誘導体を包含する。官能性のアクリル単量体も包含される。有用なアクリル単量体の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル及び混合エステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、N及びN,N−置換(メタ)アクリルアミド、アクリロニトリル、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸及びこれらの相当する無水物、ハロゲン化カルボニル、アミド、アミド酸、アミド酸エステル及びこれらの完全及び部分エステルがあるが、これらに限られない。特に好ましいアクリル単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸C8〜C22アルキル及びこれらの2種以上の混合物が含まれる。
【0035】
共重合体の他のブロックは、アクリルであってよく、又は1種以上の非アクリルエチレン性不飽和単量体から形成されてもよい。好ましい一具体例では、共重合体のブロックの全てがアクリルブロックである。本発明において有用な他のエチレン性不飽和単量体は、無水物、ビニルエステル、α−オレフィン、不飽和ジカルボン酸の置換又は非置換モノ及びジアルキルエステル、ビニル芳香族、環状単量体、アルコキシル化側鎖を含有する単量体、スルホン化単量体及びビニルアミド単量体が含まれる。アクリル単量体は、任意の量で使用することができる。エチレン性不飽和単量体の組合せも使用することができる。好ましい非アクリル系単量体はスチレンである。
【0036】
原則として、どんなリビング重合又は精密重合技術も利用することができる。しかし、アクリル体を制御し且つ異なった極性の共重合体セグメント(官能性のアクリル体を含む。)を創生するという実用性のために、本発明のブロック共重合体は、好ましくは、精密ラジカル重合(CRP)によって形成される。
【0037】
これらの方法は、一般的に、典型的な遊離ラジカル開始剤を遊離ラジカル安定化用化合物と組み合わせて重合方法を制御し且つ制御された分子量及び狭い分子量範囲を有する特定の組成物の重合体を生成させるものである。使用される遊離ラジカル開始剤は、当業者に知られたものであって良く、遊離ラジカルを与えるように熱分解するペルオキシ化合物、過酸化物、ヒドロペルオキシド及びアゾ化合物が含まれるが、これらに限られない。
【0038】
精密ラジカル重合技術の例は当業者には明らかなものであり、原子移動ラジカル重合(ATRP)、可逆付加フラグメント化連鎖移動重合(RAFT)、ニトロキシド介在重合(NMP)、硼素介在重合及び触媒連鎖移動重合(CCT)が含まれるが、これらに限られない。これらのタイプの重合の説明及び比較がアメリカ化学会(ACS)シンポジウムシリーズ768:表題「精密/リビングラジカル重合:ATRP、NMP及びRAFTにおける進歩」(クルチストフ・マチヤゼフスキー編、アメリカ化学会、ワシントン、2000)に記載されている。
【0039】
好ましい精密ラジカル重合方法の一つは、ニトロキシド介在CRPである。ニトロキシド介在重合は、塊状、溶液及び水性重合で起こり、実在する装置において他の遊離ラジカル重合と類似する反応時間及び温度で使用することができる。ニトロキシド介在CRPの利点の一つは、ニトロキシドが一般的に無害であり且つ反応混合物中に留まることができるということであるが、他のCRP技術は最終重合体から制御化合物を除去する必要がある。
【0040】
この制御のための機構は、以下のように式で表わすことができる。
【化1】

ここに、Mは重合可能な単量体を表わし、Pは成長する重合体連鎖を表わす。
【0041】
制御の鍵は、定数kdeact、kact及びkpと関連している(T.福田及びA.後藤、Macromolecules、1999、32、p618−623)。kdeact/kactの比が高すぎるならば、重合は妨げられるが、これに対してkp/kdeactの比が高すぎるとき又はkdeact/kactの比が低すぎるときは、重合は制御されない。
【0042】
β−置換アルコキシアミンがいくつかのタイプの単量体の重合を有効に開始させ且つ制御するのを可能ならしめるが、これに対してTEMPOをベースとしたアルコキシアミン[例えば、Macromolecules、1996、29、p5245−5254に述べられた(2',2',6',6'−テトラメチル−1'−ピペリジルオキシ)メチルベンゼン]がスチレン及びスチレン誘導体の重合のみを制御することが見出された(P.トルド他、Polym.Prep.、1997、38、p729−730;C.J.ホーカー他、Polym.mater.Sci.Eng.、1999、80、p90−91)。従って、TEMPO及びTEMPOをベースとしたアルコキシアミンは、アクリル体の精密重合には適さない。
【0043】
ニトロキシド介在CRP法がUS6,255,448、US2002/0040117及びUS6,657,043(これらは参照することによってここに含める。)に記載されている。上記の特許は、種々の方法によるニトロキシド介在重合を記載する。これらの方法のそれぞれを本発明に記載の重合体を合成するのに使用することができる。
【0044】
一つの方法では、遊離ラジカル重合又は共重合は、当業者に知られているように、考慮中の単量体についての通常の条件下で実施され、ただ異なっているのはβ−置換された安定な遊離ラジカルが混合物に添加されることである。重合させようと望む単量体に応じて、当業者には明らかなように、伝統的な遊離ラジカル開始剤を重合混合物に導入する必要があるかもしれない。
【0045】
他の方法は、次式(I):
【化2】

(ここで、Aは1価又は多価の構造を表わし、RLは15よりも大きい分子量を表わし、1価の基であり、n≧1である。)
のβ−置換ニトロキシドから得られるアルコキシアミンを使用する考慮中の単量体の重合を記載する。
【0046】
別の方法は、多官能性単量体、例えばアクリル酸エステル単量体(これに限られない。)とアルコキシアミンとの高められた温度での反応に基づいて、式(I)の多価アルコキシアミンの形成を記載している。しかして、n≧2である式(I)の多官能性アルコキシアミンは、考慮中の単量体から星形及び分岐状の重合体及び共重合体物質を合成するのに使用することができる。
【0047】
別の方法は、考慮中の単量体の少なくとも1種が、nが0ではない整数である式(I)の序列を含むいくつかのアルコキシアミンの存在下で遊離ラジカル重合に付され、アルコキシアミンが異なったnの値を示す多モードの重合体の製造を記載している。
【0048】
前記したようなアルコキシアミン及びニトロキシル(このニトロキシルは相当するアルコキシアミンから既知の方法により別に製造することもできる。)は当業者に周知である。それらの合成は、例えばUS6,255,488及びUS6,624,322に記載されている。
【0049】
式(I)のポリアルコキシアミンは、文献で知られた方法に従って製造することができる。最も普通に使用される方法は、炭素をベースとした基とニトロキシド基とのカップリングを伴う。このカップリングは、D.グレツタ他によりMacromolecules、1996、29、p7661−7670に記載されたようなATRA(原子移動ラジカル付加)型の反応に従い、有機金属系、例えばCuX/配位子(X=Cl又はBr)の存在下にハロ誘導体A(X)nを使用して達成することができる。好ましい配位子は、次式:
【化3】

のN,N,N',N',N"−ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)である。
【0050】
本発明に従う式(I)のアルコキシアミンは、遊離ラジカル重合を受けることができる炭素−炭素二重結合を含有するどんな単量体の重合及び共重合にも使用することができる。重合又は共重合は、考慮中の単量体を考えて、当業者に知られた通常の条件下で達成される。従って、重合又は共重合は、塊状で、溶液状で、乳化状で又は懸濁状で、0℃〜250℃、好ましくは25℃〜150℃の温度で、どんな制限も意図せずに、達成することができる。本発明に従って使用できる単量体としては、スチレン、置換スチレンのようなビニル芳香族単量体、ジエン類、アクリル酸アルキル又はアリール、メタクリル酸アルキル又はアリールのようなアクリル単量体が挙げられ、場合により弗素を含有できるものも含まれるが、これらに限られない。例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル又はメタクリル酸メチル、N,N−ジメチルアクリルアミドのようなアクリルアミドである。この本発明による方法は、スチレン系、アクリル酸エステル、アクリルアミド類、メタクリル酸エステル及びジエン類について十分に働く。官能性単量体、例えばエポキシ単量体、ヒドロキシ単量体及び酸単量体もこの方法により容易に重合される。
【0051】
また、本発明に従う式(I)のアルコキシアミンは、第一工程において、式(I)のアルコキシアミンの存在下に遊離ラジカル重合を受けることができる炭素−炭素二重結合を含有する単量体M1又は単量体の混合物の塊状、溶液、懸濁液又は乳化重合を25℃〜250℃の温度で、好ましくは25℃〜150℃の温度で実施し、第二工程において、温度を低下させ、随意に残留単量体を蒸発させ、次いで第三工程において、上で得られた反応媒体に単量体M2又は新たな単量体の混合物を導入し、次いで単に温度を上昇させることにより重合を再開させることからなる操作に従って、“序列(sequenced)”ブロック共重合体を合成するのに使用することもできる。
【0052】
ニトロキシド介在法により製造された重合体は、ニトロキシド末端基及び相当するブロックの他端に又は中央に式(I)からのA基を有する。これらの比較的無害のニトロキシド末端基は、重合体連鎖の末端に留まることができ又は追加の処理工程により除去することができる。
【0053】
ニトロキシド介在重合は、ブロック共重合体を形成するのに使用することができるが、本発明のブロック共重合体は、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体、マルチブロック共重合体、星形重合体、櫛形重合体、傾斜重合体、そして嵩高構造を有する他の重合体であり、これらは当業者に知られている。マルチブロック共重合体及びトリブロック共重合体は、2種の化学的に区別されたセグメントからなっていてよく、例えば、A−B−Aトリブロック又は式(A−B)n(ここに、n>1であり、A及びBは化学的に区別されたブロックセグメントを表わす。)におけるようなものである。或いは、それらは、3種以上の化学的区別されたブロックを含有でき、例えば、A−B−Cトリブロック共重合体又はA−B−C−Dマルチブロック共重合体の如きである。星形重合体は3〜12個、更に好ましくは3〜8個のアームを含有でき、ジブロック、トリブロック又はマルチブロック共重合体からなることができる。これらの前記の構造は、当業者には明白である。上で定義したそれぞれのブロックセグメントは、ホモ重合体、ランダム共重合体からなり、又は2種以上の異なった単量体の傾斜共重合体として含まれてよい。
【0054】
本発明のブロック共重合体は、制御された分子量と分子量分布を有する。好ましくは、共重合体の分子量は1,000〜1,000,000g/モル、最も好ましくは5,000〜300,000g/モルである。分子量分布は、Mw/Mn又は多分散性により測定して、一般に4.0未満、好ましくは3.0以下である。
【0055】
本発明の一具体例は、増粘された潤滑油組成物である。このような潤滑油の用途には、モーター油、歯車油、ポンプ油、タービン油、油圧油、切削油、トランスミッション油が含まれるが、これらに限られない。ブロック共重合体は、独立して、又は伝統的な重合体とのブレンドとして使用することができる。潤滑油組成物には、上に述べた基油及び重合体に加えて、各種の添加剤が存在でき、その例として洗剤、消泡剤、流動点低下剤及び腐食防止剤が含まれるが、これらに限られない。
【0056】
これらの重合体は、分子量及び狭い分子量分布にわたる制御のために、高められた剪断安定性を示す。ブロック共重合体の両親媒性は、潤滑油組成物に分散性を付与するのを可能にさせる。アクリル酸ジメチルアミノエチル、ビニルピロリドン及びジメチルアクリルアミドを含めて(これらに限られない。)官能性単量体の加入はこれらのブロック共重合体の分散性を更に高めることが期待される。
【0057】
ブロック共重合体は、潤滑油組成物中に0.001〜40.0重量%、好ましくは0.01〜20.0重量%で存在する。共重合体の使用量は、所望するSAE粘度等級並びに使用する基油に依存する。当業者ならば、基油のブレンド並びに共重合体の添加量に依存してSAE等級を最適化することができよう。本発明のアクリル共重合体を使用することによって優秀なVIの向上が見出された。これらの共重合体の大きなVIの向上のために、高いVIを有する油を現在使用されているものと類似する共重合体量で処方することができ、或いは、現在使用されているものと類似するVIの向上を少ない量の本発明の共重合体で達成することができる。どの特定の理論にも結び付けるわけではないが、本発明の共重合体の嵩高性が高いVIの向上をもたらすものと思われる。
【0058】
本発明の潤滑油は、共重合体のいくつかの特性に基づいて最適化することができる。これらの特性は、例3において試験されたが、そのデータを表1に示す。ブロック共重合体の総分子量及び油不溶性ブロックの組成(即ち、溶解度パラメーター)がVIの向上に対して最大の影響を及ぼすことが分かった。また、重要なのは分子量と組成との間の相互作用であった。不溶性ブロックの重量%もVIに対して顕著な影響を及ぼした。VIは、総Mnが20,000から50,000に増大するにつれて増大することが見出された。また、不溶性ブロックをポリスチレン(18.4(J/m31/2の溶解度パラメーター)からポリアクリル酸メチルブロック(20.4(J/m31/2の溶解度パラメーター)への変更は、VIを増大させた。不溶性ブロックの重量%の増大もVIの増大をもたらした。
【0059】
更に、不溶性セグメントにおける溶解度パラメーターとVIの向上との間に相関関係があることが分かった。即ち、溶解度パラメーターの差が大きいほど、VIの向上における影響は大きい。
【0060】
結果として得られるこれらの物質の両親媒特性が、系に独特の性質を付与し得るミセルのような注文作りの構造を導き得ることが予期される。
【0061】
どの特定の理論にも結び付けるわけではないが、臨界ミセル容積(CMV)が基油に発生するものと思われる。この容積においては、図1において明らかな拡散的粘度挙動が観察される(図1においてブロック共重合体の約5重量%において)。この量は、共重合体の分子量並びに共重合体組成に依存する。ブロック共重合体の両親媒性が油不溶性のコア及び油溶性のコロナを含有するミセルのような構造を凝集させることが推察される。
【0062】
図1において分かるように、油溶液中でのブロック共重合体の換算粘度は、5%まで(ここで、換算粘度が拡がる。)濃度と共に直線的に増大する。ブロック共重合体の濃度は、溶液状の重合体により占められる容積分率に比例する。結果として得られた容積分率は重合体連鎖の溶媒和が高められたために油の温度の上昇と共に増大することが考えられる。粘度に対する容積分率増大効果は、直線領域においては、挙動が発現する拡散的領域と比べて、有意義ではない。このデータからは、特定の容積分率の限界(即ち、拡がりの起点)又は臨界容積分率(CVF)値よりも上では大きな粘度効果(即ち、高められたVI)を容易に得ることができることが推定できる。また、グラフに画かれているのは、40℃及び100℃での同じ分子量(44,000g/モル)のメタクリル酸ドデシル(DDMA)のホモ重合体についての点である。ホモ重合体においては拡がり挙動が観察されないことは明らかである。
【0063】
本発明の油組成物は、油圧油、トランスミッション油、歯車油、モーター油、油ベースの化粧品又は身辺ケア用処方物を含めて多くの用途において有用である。本発明のアクリルブロック共重合体により付与される増粘の利益から得られる油ベースの化粧品及び身辺ケア用処方物には、例えば、石けんなどの化粧品、クリーナー、リップスティック、デオドラントスティック、マニキュア、クリーム及びオイル、日焼け止めクリーム、保護ハンドクリーム、ナイトリニューアルクリーム、ボディミルク及びローション、ライトフェイシャルクリーム、保護ディクリーム、液状保湿乳液、水中油型クリーム及び油中水型クリーム、並びに化粧品、メイキャップ又は身辺ケア用品の除去用製品が含まれる。
【0064】
また、本発明の油組成物は、油ベースの塗料、インク、製薬活性物質の処方物も包含する。
【実施例】
【0065】
下記の一般的な操作手順を使用して、制御された構造のブロック共重合体を合成した。単量体対開始剤の濃度([M]/[I])を巧みに操作することによって分子量を目標に定めた。従って、目標とした分子量は、[M]/[I]比を設定し、次いで目標分子量に到達するのに必要な所望の転化率まで重合を実施することによって達成することができた。単量体の転化率は、ガスクロマトグラフィー(GC)分析又は真空下での単量体のフラッシュデボラチリゼーションにより簡単にモニターされた。重合体の実施例は何も加えないで又は溶液状で行なった。使用した典型的な溶媒は、トルエン、安息香酸エチル及びメチルエチルケトンであった。重合は、周囲圧力で又は60psiまでの窒素圧下で実施した。重合は、剪断力を有し及び剪断力を有しない標準的な重合容器において行なったが、適切な混合能力が好ましかった。
【0066】
目標のブロック共重合体を、以下に一般的に説明するような種々の伝統的な単量体添加及び重合体分離の操作手順によって製造したが、当業者には明らかであろうし、所望の最終ブロック共重合体に依存する。例えば、純粋なブロック共重合体は、第一ブロックの合成の終了時に残留単量体を揮発させ、続いて第一のものとは異なった第二の単量体組成物を添加することによって製造された。この第二の単量体組成物は続いて重合を受ける。この操作手順は、マルチブロックを得るように反復することができる。傾斜ブロック共重合体は、2種以上の単量体の混合物を重合させることによって合成された。この混合物は、例えば、残留第一単量体を揮発させる前に、初期の重合媒体に第二単量体を添加することによって生じさせ、又はマルチ単量体の混合物を第一ブロックとして重合させ、又はマルチ単量体の混合物を単離した純粋な第一ブロックに付加させることができた。
【0067】
本発明の共重合体の合成を以下の例1を参照することによって例示する。本発明の他の共重合体は、当業者には明らかなように、類似の態様で製造することができる。
【0068】
モノアルコキシアミン開始剤
【化4】

【0069】
ビスアルコキシアミン開始剤
【化5】

【0070】
遊離のニトロキシド
【化6】

【0071】
例1:重合体の合成
【0072】
例1:A−Bブロック共重合体の合成
Aブロックはポリアクリル酸メチル(PMA)であり、Bブロックはポリメタクリル酸ドデシルとポリアクリル酸メチルとの傾斜共重合体(PDDMA−co−PMA)であった。
【0073】
11.4g(30.0ミリモル)のモノアルコキシアミン開始剤、0.441g(1.5ミリモル)の遊離のニトロキシド及び600g(6.97モル)のアクリル酸メチルを含有する混合物をステンレス鋼樹脂反応釜に窒素雰囲気(約40psi)下に添加し、激しく撹拌しながら110℃に加熱した。この温度をほぼ3時間保持したが、この時点で反応は、ガスクロマトグラフィー(GC)により測定して50%の転化率に達した。反応混合物を次いで室温まで冷却した。寸法排除クロマトグラフィー(SEC)により決定して、Mw(重量平均分子量)=12,600g/モル及びMn(数平均分子量)=10,300g/モルであった。これをポリスチレン標準物質と称する。凝縮器を備えたガラス反応器に、40.5g(159.4ミリモル)のメタクリル酸ドデシルを窒素雰囲気下に激しく撹拌しながら100℃に加熱した。25.3gの上記からのPMA重合体と単量体の混合物に、2.18g(25.3ミリモル)のアクリル酸メチルを添加した。生じた重合体混合物(12.65gのPMA及び14.83gのアクリル酸メチル)をDDMA単量体に1分間で添加した。生じた混合物は、PMAがメタクリル酸ドデシルとアクリル酸メチル単量体の溶液に完全に可溶ではなかったので、濁っていた。温度を100〜105℃に保持し、濁った混合物は最初の30分間で透明になり、生じたブロックが相当する混合物のための安定剤として作用したのでブロック共重合体の形成が起こりつつあることを示した。GCによりモニターしてほぼ60%の単量体転化率となるまで、反応を行なった。反応はアクリル酸エステルが存在したときから数時間を要したが、メタクリル酸エステルのみが存在したならば、重合は一般に1時間以内でできた。生じた粘稠な液体を等容積のTHFにより希釈し、その溶液を冷撹拌エタノール中に沈澱させた。SEC分析により決定して、ポリスチレン標準物質と比較して、Mw=56,500g/モル、Mn=39,600g/モルであった。
【0074】
例1−1:PMA−b−PDDMA
【0075】
類似するA−Bブロック共重合体であってそのAブロックがポリアクリル酸メチル(PMA)であり且つBブロックがポリメタクリル酸ドデシル(PDDMA)の純粋なブロックであるものを製造した。例1からの第一ブロックPMAから残留単量体を除去した。次いで、このきれいなPMAをトルエン(ほぼ等重量)に溶解してから、加熱されたメタクリル酸ラウリル単量体溶液に添加した。この操作手順でPMAとPDDMAの純粋なブロック共重合体が生じた。
【0076】
例1−A〜1−P
【0077】
例1及び1−1について上で示した操作手順に従って、下記の重合体を製造した。ホモ重合体及びジブロックはモノアルコキシアミン開始剤を使用して合成したが、トリブロックは二官能性アルコキシアミン開始剤を使用して合成した。リストしたMn及びPDIの値は、ポリスチレン標準物質と比較したときの、SEC分析に基づいており、またリストした単量体の相対的重量%はGC又は1HNMR分析による転化率に基づいている。
【0078】
下記の例において、“co−”は共重合体を表わし、“b−”はブロックを表わす。
【0079】
例1−A(比較例):ポリアクリル酸エチルヘキシル(PEHA)ホモ重合体、Mn=26kg/モル及びPDI=1.4。
【0080】
例1−B(比較例):PEHA−co−ポリスチレン(PS)、Mn=49.5kg/モル、PDI=1.5及びPS=50重量%。
【0081】
例1−C:ポリメタクリル酸ドデシル(PDDMA)−b−PS、28.0kg/モル、PDI=1.6及びPS=16重量%。
【0082】
例1−D:PDDMA−b−PS−b−PDDMA、31.6kg/モル、PDI=1.7及びPS=35重量%。
【0083】
例1−E:PDDMA−co−PS−b−PS−b−PS−co−PDDMA、31.6kg/モル、PDI=1.7及びPS=48重量%。
【0084】
例1−F:PDDMA−b−PMA−b−PDDMA、23.0kg/モル、PDI=1.5及びPMA=48重量%。
【0085】
例1−G:PDDMA−co−PEHA−co−PS、25.6kg/モル、PDI=1.8及びPDDMA=64重量%、PEHA=24重量%。
【0086】
例1−H:PDDMA−b−ポリアクリル酸n−ブチル(PnBA)−b−PDDMA、
77.6kg/モル、PDI=1.8及びPnBA=65重量%。
【0087】
例1−I:PDDMA−b−PMA−b−PDDMA、76.0kg/モル、PDI=2.0及びPMA=60重量%。
【0088】
例1−J:ポリアクリル酸メトキシメチル(PMEA)−b−PDDMA。
【0089】
例1−K:PDDMA−b−PMEA−b−PDDMA。
【0090】
例1−L:ポリアクリル酸エチル(PEA)−b−PDDMA。
【0091】
例1−M:PDDMA−b−PEA−b−PDDMA。
【0092】
例1−N:ポリジメチルアクリルアミド(PDMAA)−co−PEA−b−PDDMA。
【0093】
例1−O:ポリアクリル酸ジメチルアミノエチル(PDMAEA)−co−PEA−b−PDDMA。
【0094】
例1−P:ポリアクリル酸(ポリエチレングリコールメトキシエーテル)(PEGME)−co−PEA−b−PDDMA。
【0095】
例2:重合体の試験
【0096】
例1の重合体1−A、1−B、1−C、1−D、1−H及び1−Iを軽質パラフィン系鉱油(基油1)にリストした%で溶解した。例1の重合体1−E、1−F及び1−GをTOTAL社製の150NSグループII基油にリストした%で溶解した。それぞれの潤滑油組成物の粘度をASTM標準規格D445に従って40℃及び100℃で共に測定した。得られたVIをASTM D2270を使用して計算した。結果を下記の表1に示す。
【表1】

【0097】
表1において明らかなように、ランダム共重合体(比較例)1−Bは基油に可溶ではなかった。ブロック共重合体は基油に可溶であり、VIは重合体の濃度が上昇するにつれ増大した。
【0098】
例3:VIの向上の最適化
【0099】
モノアルコキシアミン又は二官能性アルコキシアミンを使用して、16個の十分に規定されたブロック共重合体組成物を合成した。16個の組成物について、五つの可変因子、即ち、不溶性セグメント又は単量体組成物の溶解度(油中に僅かに不溶性から高度に不溶性又はPS対PMA)、不溶性セグメントの重量%、ブロック重合体の総Mn、不溶性成分の傾斜重量%及びブロックの構造(ジブロック対トリブロック)を研究した。
【0100】
結果の要約を下記の表2に示す。
【表2】

【0101】
第1欄は試料番号を示す。第2〜6欄は目標とした実験的デザインのパラメーター:総Mn、不溶性セグメント、不溶性ブロック重量%、傾斜率%及びブロックのタイプ(トリブロック(3)又はジブロック(2))を示す。DDMAをそれぞれの重合体における可溶性セグメントとして使用し、粘度の測定値はTOTAL社から受けた150NSグループII基油に重合体を溶解してなる5重量%重合体溶液について得た。
【0102】
表2は、1個のブロックセグメントの不混和性を増大させ(例9対例7におけるPSからPMAに)及び例10対例7におけるように分子量を変化させることによって得られた有意義なVIの増大を明示している。
【0103】
例4
多官能性アルコキシアミン(n>2である式(I))から出発し、例1に記載した重合操作を進めることによって、星形共重合体を合成した。僅かにモル過剰の(多官能性アクリル酸エステル中の不飽和基に対するアミノアルコキシアミンの)n=1である式(I)のモノアルコキシアミンを多官能性アクリル酸エステルに60℃で<1時間で添加する(エタノールを溶媒として使用する。)ことによって多官能性アクリル酸エステルが形成された。このモノアルコキシアミンは、解離温度が<60℃であるように選ばれる。
【0104】
例5
表2からの試料番号7及び16は、100NS又は150NS基油原料のような典型的な基油に1重量%及び5重量%で配合することができ、優秀な剪断安定性を示すことが予期できた。
【0105】
例5−A
モノアルコキシアミン及び例1からの標準的な重合条件を使用して、パラフィン系鉱油中でアクリル酸メチルの重合を直接実施した。数時間後に、重合混合物にPDDMAを添加した。相当するPMA−b−PMA−co−PDDMA重合体が油溶液中に残った。
【0106】
例5−B
例5−Aからの溶液をTOTAL社製の150NS基油で希釈し、VIIとして直接使用した。
【0107】
例5−C
例5−Aで得られた重合混合物を伝統的な遊離ラジカル開始剤により処理して残留DDMA及びMA単量体を反応させた(即ち、追い出した)。
【0108】
例5−D
例5−Cからの溶液をTOTAL社製の150NS基油で希釈し、VIIとして使用した。
【0109】
例5−E
例1−NをTOTAL社製の基油に1%添加し、分散剤として使用した。
【0110】
例5−F
例1−OをTOTAL社製の基油に1%添加し、分散剤として使用した。
【0111】
例5−G
表1からの試料16を航空機用油圧油に1%添加し、優秀な剪断安定性をもってVIIとして使用された。
【0112】
例5−H
表1からの試料16をマルチグレード油圧油に1%添加し、優秀な剪断安定性をもってVIIとして使用された。
【0113】
例6:図1及び2の結果をもたらした実験。
【0114】
モノアルコキシアミンを使用してDDMAホモ重合体を合成したが、これはMn=44.5kg/モル及びPDI=2.2を有した。ブロック共重合体(PMA−b−PDDMA)はMn=23kg/モル及びPDI=1.6を有した。PDDMA重量%は52%であった。上記のブロック共重合体及びPDDMAホモ重合体をTOTAL社製の150NS基油に溶解した。種々の重合体濃度でのこれらの溶液の換算粘度を40℃と100℃との双方でプロットした。このプロットから明らかになることは、類似するホモ重合体と比べたときの、ブッロク共重合体の独特な挙動である。どんな特別の理論とも結び付けるものではないが、アクリルブロックの両親媒性が図1により証明される独特な挙動の原因となっているものと思われる。この挙動は、相当するホモ重合体と比べて、ブロック共重合体により立証される優秀なVII挙動を生じさせる。
【0115】
例7
【0116】
ほぼ2倍の分子量を有するブロック共重合体(Mn=46.4kg/モル、PDI=2.0及び76.7重量%のPDDMA)を使用して、例6で行なったのと同じ実験を繰り返した。結果を図2に示す。分子量が増大し、従って重合体によって占められる溶液の容積分率が増大したために、拡がりの起点がもっと低い重合体濃度にシフトした。そして、臨界容積分率又はCVFに達するにつれて、拡がり挙動が観察される。このCVFはVIに重大な影響を及ぼし、これはブロック共重合体の場合には単純なホモ重合体又はランダム重合体について観察されるよりも著しい。ジブロックは、低い濃度(ほぼ3重量%)で拡がりの起点に達し、これは図3から分かるように、生じたVIに強い影響を及ぼす。図3は、VI対重量%重合体のプロットである。予期されるように、溶液状のブロック共重合体の量を増大させる(シリーズ2)と、VIの大きな増大がある。また、ホモ重合体(シリーズ1)のVIも濃度と共に大きな増大があるが、しかし、それは高い濃度では水平に移り始める。ブロック共重合体は、VIが濃度の増大するにつれて迅速に増大するので更に積極的な挙動を示し、その増大は更に高い濃度で著しい。このデータは、これらのタイプのブロック構造の有意義なコスト/性能の利点を示している。このことは、3重量%のブロック共重合体についてのVIが15重量%のホモ重合体についてのVIに等しい図3において明白である。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】比較用VIIを含有する潤滑油及び本発明のブロック共重合体VIIを含有する潤滑油の換算粘度対濃度のグラフを示す。
【図2】図1に示したブロックと比較して約2倍のMnを有するブロック共重合体についての、図1と類似するグラフを示す。
【図3】比較用VIIを含有する潤滑油組成物及び本発明のブロック共重合体VIIを含有する潤滑油組成物の換算粘度(VI)対潤滑油組成物に配合された重合体の重量%のグラフを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)1種以上の油99.999〜60重量%と、
b)精密ラジカル重合によって合成された少なくとも1個のアクリルブロックを有するブロック共重合体0.001〜40重量%
とを含む増粘された油組成物。
【請求項2】
0.01〜20重量%の該ブロック共重合体を含む請求項1に記載の増粘された油組成物。
【請求項3】
該油組成物が潤滑油組成物である請求項1に記載の増粘された油組成物。
【請求項4】
該ブロック共重合体が両親媒性ブロック共重合体である請求項1に記載の増粘された油組成物。
【請求項5】
該両親媒性ブロック共重合体が、
1)14〜18(J/m31/2の溶解度パラメーターを有する少なくとも1種の油溶性重合体ブッロクと、
2)18(J/m31/2よりも大きい溶解度パラメーターを有する少なくとも1種の非油溶性重合体ブッロク
とを含む請求項4に記載の増粘された油組成物。
【請求項6】
該非油溶性ブッロクが20(J/m31/2よりも大きい溶解度パラメーターを有する請求項5に記載の増粘された油組成物。
【請求項7】
該ブロック共重合体が、ニトロキシド介在精密ラジカル重合法により形成される請求項1に記載の増粘された油組成物。
【請求項8】
該アクリルブロック重合体が全てアクリル単量体から形成される請求項1に記載の増粘された油組成物。
【請求項9】
該非油溶性重合体ブッロクがポリ(アクリル酸メチル)又はポリスチレンを含む請求項5に記載の増粘された油組成物。
【請求項10】
該ブロック共重合体がブロック共重合体のミセルを含む請求項1に記載の増粘された油組成物。
【請求項11】
該油組成物が150よりも大きい粘度指数を有する請求項2に記載の増粘された油組成物。
【請求項12】
該粘度指数が200よりも大きい請求項9に記載の増粘された油組成物。
【請求項13】
該粘度指数が250よりも大きい請求項10に記載の増粘された油組成物。
【請求項14】
該油組成物が油圧油、トランスミッション油、歯車油、モーター油、化粧用処方物又は身辺ケア用処方物を含む請求項1に記載の増粘された油組成物。
【請求項15】
該ブロック共重合体が少なくとも90モル%の1種以上のアクリル単量体を含む請求項1に記載の増粘された油組成物。
【請求項16】
該アクリルブロックが少なくとも95モル%の1種以上のアクリル単量体を含む請求項1に記載の増粘された油組成物。
【請求項17】
洗剤、消泡剤及び腐食防止剤を更に含む請求項3に記載の増粘された油組成物。
【請求項18】
該ブロック共重合体が多官能性である請求項1に記載の増粘された油組成物。
【請求項19】
a)1種以上の油99.999〜60重量%と、
b)アクリル単量体から本質的になる少なくとも1個のブロックを有するブロック共重合体0.001〜40重量%
とを含む増粘された油組成物。
【請求項20】
該アクリル単量体から本質的になる1個のブロックが少なくとも90モル%のアクリル単量体を含む請求項19に記載の増粘された油組成物。
【請求項21】
0.01〜20重量%の該ブロック共重合体を含む請求項19に記載の増粘された油組成物。
【請求項22】
該油組成物が潤滑油組成物である請求項19に記載の増粘された油組成物。
【請求項23】
該ブロック共重合体が両親媒性ブロック共重合体である請求項19に記載の増粘された油組成物。
【請求項24】
該両親媒性ブロック共重合体が、
1)14〜18(J/m31/2の溶解度パラメーターを有する少なくとも1種の油溶性重合体ブッロクと、
2)18(J/m31/2よりも大きい溶解度パラメーターを有する少なくとも1種の非油溶性重合体ブッロク
とを含む請求項23に記載の増粘された油組成物。
【請求項25】
該非油溶性ブッロクが20(J/m31/2よりも大きい溶解度パラメーターを有する請求項24に記載の増粘された油組成物。
【請求項26】
該ブロック共重合体が、ニトロキシド介在精密ラジカル重合法により形成される請求項19に記載の増粘された油組成物。
【請求項27】
該アクリルブロック重合体から本質的になる1個のブロックが全てアクリル単量体から形成される請求項19に記載の増粘された油組成物。
【請求項28】
該非油溶性重合体ブッロクがポリ(アクリル酸メチル)又はポリスチレンを含む請求項24に記載の増粘された油組成物。
【請求項29】
該ブロック共重合体がブロック共重合体のミセルを含む請求項19に記載の増粘された油組成物。
【請求項30】
該油組成物が150よりも大きい粘度指数を有する請求項20に記載の増粘された油組成物。
【請求項31】
該粘度指数が200よりも大きい請求項28に記載の増粘された油組成物。
【請求項32】
該粘度指数が250よりも大きい請求項29に記載の増粘された油組成物。
【請求項33】
該油組成物が油圧油、トランスミッション油、歯車油、モーター油、化粧用処方物又は身辺ケア用処方物を含む請求項19に記載の増粘された油組成物。
【請求項34】
該アクリル単量体から本質的になる1個のブロックが少なくとも90モル%の1種以上のアクリル単量体を含む請求項19に記載の増粘された油組成物。
【請求項35】
該アクリル単量体から本質的になる1個のブロックが少なくとも95モル%の1種以上のアクリル単量体を含む請求項19に記載の増粘された油組成物。
【請求項36】
洗剤、消泡剤及び腐食防止剤を更に含む請求項21に記載の増粘された油組成物。
【請求項37】
該ブロック共重合体が多官能性である請求項19に記載の増粘された油組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−512413(P2007−512413A)
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541164(P2006−541164)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【国際出願番号】PCT/US2004/034236
【国際公開番号】WO2005/056739
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(500307340)アーケマ・インコーポレイテッド (119)
【Fターム(参考)】