説明

精密機器用密封・緩衝構造体

【課題】ガスケット2による密封機能と緩衝体3による衝撃吸収機能とを兼備する精密機器用密封・緩衝構造体を提供する。
【解決手段】互いに対峙してHDDの容器を構成する二部材のうち一方の容器構成部材としてのカバー1に、前記二部材間に介在されるガスケット2と、カバー1の角部1aの外面に位置する緩衝体3が一体に設けられている。ガスケット2と緩衝体3は、互いに連続したゴム状弾性材料からなる。このため、ガスケット2と緩衝体3は、カバー1に同時に一体成形することができ、しかも、ガスケット単体に比較してカバー1に対する接着面が大きくなり、ガスケット2の剥離が生じにくい構造となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばデジタルカメラや携帯電話機等、携帯用電子機器に組み込まれるハードディスクドライブ(以下、HDDという)等、小型の精密機器における密封及び緩衝を行うための構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の急速なモバイル技術の発達において、デジタルカメラや携帯電話機等についても、近年、ますますデータ記憶容量の大容量化及び記憶媒体の軽薄短小化が要求されており、そのデータ記憶媒体として超小型のHDDの開発が進んでいる。例えば、このHDDは、ディスクサイズが1.0インチ以下、全体サイズでは一辺が2〜3cm程度の大きさである。
【0003】
デジタルカメラや携帯電話機は、これまでHDDが使われて来た例えばパソコン等の機器に比較して、ぶつけたり落としたりされやすく、粗雑に取り扱われがちであるため、HDDが衝撃を受けやすい。そして、携帯時あるいは動作時に衝撃が加わると、磁気ディスクが磁気ヘッドとの接触によって損傷を受け、これが原因となってデータの破損障害を発生するおそれがある。
【0004】
従来、このような衝撃による障害を防止するための対策としては、下記の特許文献1に開示されているように、磁気ディスク等が収められているケースの角部(少なくとも四箇所)に、ゴム状弾性材料からなる緩衝体を配置することが知られている。しかしながら、この方法では、予め緩衝体を別途に成形しておいて、これをケースの角部にそれぞれ嵌め込んで行く作業が必要であり、工数が多いものとなっていた。
【0005】
一方、HDDは、データの書き込み及び読み出しの妨げとなる塵埃や水分が外部から侵入するのを極力防止しなければならない。このため、磁気ディスク等が収められているケースと、これを密閉するカバーとの間には無端形状のガスケットが設けられ、下記の特許文献2に開示されているように、この種のガスケットは、従来、射出成形等によってカバーに一体成形されている。
【0006】
しかしながら、HDDの小型化によって、ガスケット成形位置がカバー外周の側壁に近付くため、ディスペンサ等によるガスケット成形面への接着剤の塗布が難しくなり、塗布不良(接着不良)が懸念される。また、HDDの小型化によって、ガスケット幅も一層狭く制限されることになるため、接着面を大きく取ることができない。したがってこれらのことから、ガスケットが剥離しやすく、良好な密封機能を奏し得なくなるおそれがある。なお、ガスケットの剥離は、特にカバーの四隅部で発生しやすいことが指摘されている。
【0007】
【特許文献1】特開2003−281877号公報
【特許文献2】特開2004−36630号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような問題に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、携帯用電子機器に組み込まれるHDD等、小型の精密機器において、ガスケットによる密封機能と緩衝体による衝撃吸収機能とを兼備する精密機器用密封・緩衝構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係る精密機器用密封・緩衝構造体は、互いに対峙して精密機器の容器を構成する二部材のうち一方の容器構成部材に、前記二部材間に介在されるガスケット及び前記容器構成部材の外面に位置する所要数の緩衝体が一体に設けられ、前記ガスケットと緩衝体が互いに連続したゴム状弾性材料からなるものである。
【0010】
上記構成によれば、互いに連続したゴム状弾性材料からなるガスケットと緩衝体は、容器構成部材に同時に一体成形することができる。しかも、ガスケット単体に比較して容器構成部材に対する接着面が大きくなり、容器構成部材からのガスケットの剥離が生じにくい構造となる。
【0011】
請求項2の発明に係る精密機器用密封・緩衝構造体は、請求項1に記載の構成において、緩衝体が、容器構成部材の角部の外面に設けられたものである。
【0012】
上記構成によれば、緩衝体が、容器構成部材の角部に位置して設けられることによって、精密機器の容器を安定的に支持することができる。また、容器構成部材の角部は、従来からガスケットの剥離を生じやすい箇所であったが、ここに、ガスケットと連続した緩衝体が設けられたことによって、前記角部でのガスケットの接着面積が実質的に増大することになるので、その剥離を有効に防止することができる。
【0013】
請求項3の発明に係る精密機器用密封・緩衝構造体は、請求項1又は2に記載の構成において、ガスケットから延在されたゴム状弾性材料からなる被覆層が、容器構成部材の外周部を覆うように一体に設けられ、緩衝体が、前記被覆層の一部に形成されたものである。
【0014】
上記構成によれば、被覆層によって、ガスケットの接着面積が実質的に増大することになるので、その剥離を有効に防止することができる。
【0015】
請求項4の発明に係る精密機器用密封・緩衝構造体は、請求項1〜3のいずれかに記載の構成において、緩衝体が、容器構成部材に開設された貫通孔を介してガスケットと連続しているものである。
【0016】
上記構成によれば、ガスケットが、容器構成部材に開設された貫通孔を介して緩衝体に固定されることになるので、容器構成部材からのガスケットの剥離を一層確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1〜4の発明に係る精密機器用密封・緩衝構造体によれば、予めガスケットと別に成形した緩衝体を容器構成部材に嵌めこんでいく場合に比較して、工数が大幅に減少するので、低コスト化を図ることができる。しかも、衝撃吸収のための緩衝体によって、ガスケットの剥離が防止されるため、密封機能の信頼性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る精密機器用密封・緩衝構造体の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。まず図1は、本発明に係る精密機器用密封・緩衝構造体を小型HDD用カバーに適用した好ましい実施の形態をZ方向から見た図、図2は、図1と反対側から見た図、図3は、図1のIII−III線におけるY方向の断面図、図4は、図1のIV−IV線におけるY方向の断面図である。
【0019】
図1及び図2に示されるカバー1は、例えばデジタルカメラや携帯電話機等、携帯用電子機器に組み込まれる小型HDDにおいて、磁気ディスクや、この磁気ディスクに対するデータの読み出し及び書き込みを行う磁気ヘッド及びこれを駆動するアクチュエータ等を収容するための容器の一部を構成するもので、すなわち互いに対峙して容器をなす二部材のうち一方の容器構成部材に相当する。
【0020】
カバー1は、ステンレス鋼やアルミニウム等の金属板あるいは強度及び剛性の高い合成樹脂材からなるものであって、略長方形の平板状のカバー本体11と、その周縁から立ち上がった側板12からなり、直方体の箱状に形成されている。カバー本体11の四隅部には、それぞれ、当該カバー1を他方の容器構成部材である不図示のケースに緊結固定するための螺子部材を挿通する複数の取付孔11aが開設されている。
【0021】
カバー1におけるカバー本体11の内面には、ゴム状弾性材料からなるエンドレス形状のガスケット2が一体に設けられており、また、このカバー1の外面には、四方の角部1aに位置して、それぞれゴム状弾性材料からなる緩衝体3が一体に設けられている。また、これらの緩衝体3は、ガスケット2から延在されてカバー1における側板12を覆うように一体に設けられた、ゴム状弾性材料からなる被覆層4の一部に形成されている。すなわち、ガスケット2と緩衝体3は、被覆層4を介して互いに連続した成形体をなしている。
【0022】
互いに連続したガスケット2、緩衝体3及び被覆層4を成形しているゴム状弾性材料としては、ゴムや軟質の合成樹脂、熱可塑性エラストマ(TPE)等が挙げられるが、なかでも熱可塑性エラストマが好ましい。
【0023】
ガスケット2は、図3及び図4に示されるように、カバー1におけるカバー本体11の外周部から側板12にかけての内面に一体的に加硫接着された基部21と、この基部21における不図示のケースとの対向端部(図3及び図4における上端部)に半円形の断面形状をなして突出したシールリップ22を有する。基部21には、図1及び図3に示されるように、カバー1の四隅部において、取付孔11aを露出させる円形孔21aが形成されており、シールリップ22は、前記四隅部付近では、前記円形孔21aの開設位置よりも内側を通るように延在されている。
【0024】
すなわちこのガスケット2は、カバー1を、取付孔11aに挿通した螺子部材で不図示のケースに緊結することによって、シールリップ22がつぶされた状態で前記ケースの外周縁部に全周密接し、容器内部への塵埃や水分の侵入を遮断するものである。
【0025】
緩衝体3は、それぞれカバー1におけるカバー本体11の外面(図3における下面)に設けられたZ方向緩衝部33と、そこからカバー1における側板12の外面に沿って延在されたX方向緩衝部31及びY方向緩衝部32とからなる。Z方向緩衝部33は、図2及び図3に示されるように、カバー本体11の取付孔11aを塞がないように、その外側を延びる略L字形をなして形成されている。そして、X方向緩衝部31は、X方向、すなわち図1及び図2における左右方向に対する緩衝機能を奏するものであり、Y方向緩衝部32は、Y方向、すなわち図1及び図2における上下方向に対する緩衝機能を奏するものであり、Z方向緩衝部33は、Z方向、すなわち図1及び図2の投影方向(図3の上下方向)に対する緩衝機能を奏するものである。
【0026】
被覆層4は、ガスケット2の基部21から、カバー1の側板12を覆うように膜状に延びて、この側板12に加硫接着され、各緩衝体3と連続している。
【0027】
カバー1におけるカバー本体11には、その四隅の取付孔11aの近傍に、それぞれ複数の貫通孔11bが開設されており、これらの貫通孔11bには、ガスケット2及び緩衝体3を形成しているゴム状弾性材料の一部が充填されている。すなわち、ガスケット2の基部21は、カバー本体11の四隅において、前記貫通孔11b内のゴム状弾性材料を介して、各緩衝体3のZ方向緩衝部33と連続している。
【0028】
なお、カバー1と、これに対峙される不図示のケースとで構成される容器は、先に述べたように、デジタルカメラや携帯電話機等、携帯用電子機器に組み込まれる小型HDD用であって、これに収容される磁気ディスクは、例えばディスクサイズが1.0インチ以下の小さなものであり、したがって前記容器(カバー1)も、一辺が2〜3cm程度の小さなものである。
【0029】
上記構成の精密機器用密封・緩衝構造体の製造においては、予め加硫接着剤を塗布したカバー1のカバー本体11を、不図示の金型でZ方向両側から挟み込むようにセットし、この金型によってカバー1の外周部に沿って画成されたキャビティに、未加硫の成形材料を充填する。この充填過程では、例えばガスケット成形部に供給された成形材料が、カバー1の側板12に沿ってその外周側へ廻り込むと共に、カバー本体11の四隅部では、貫通孔11bを介してこのカバー本体11の外側へ廻り込む。そして、この成形材料を加熱・加圧することによって、ガスケット2、緩衝体3及び被覆層4が互いに連続して成形されると共に、カバー1の表面に一体に加硫接着される。
【0030】
したがって、カバー1とこれに対峙される不図示のケースとの間を密封するガスケット2と、落下等の衝撃を吸収する緩衝体3を、同時にカバー1の表面に一体成形できるため、従来のように、予めガスケットと別に成形した緩衝体をカバーの角部1aに嵌め込んで行く場合に比較して、工数が大幅に減少し、低コストで生産することができる。
【0031】
また、例えばカバー1にガスケット2のみを一体成形(加硫接着)する場合は、型締め圧力が作用しないカバー1の側板12の内面は、ガスケット成形用キャビティから成形材料が僅かに流出して薄バリが形成されてしまうことが避けられず、このため、成形後にバリの除去作業を余儀なくされる。しかしながら、図示の形態によれば、カバー1の側板12を、ガスケット2から延びる被覆層4で覆ってしまうように成形するので、このようなバリは発生せず、したがってバリ除去作業も不要となる。
【0032】
そして、上述のように、カバー1のサイズが小さなものであることから、ガスケット2の幅も狭いものとなっており、したがって従来は、特にカバー1の角部1aの近傍(四隅部)でガスケット2の剥離が生じやすくなっていたが、図示の形態によれば、ガスケット2の基部21は、カバー1の四隅部で、被覆層4を介して、角部1aにおける側板12の外面の緩衝体3(X方向緩衝部31及びY方向緩衝部32)と連続しているので、接着面が大きくなっており、しかもガスケット2の基部21は、貫通孔11bを介して緩衝体3のZ方向緩衝部33と連続しているので、一層確実にカバー1からの剥離が防止される。
【0033】
また、ガスケット2の基部21からは、カバー1の四隅部以外の部分でも、カバー1の側板12を覆う被覆層4が連続して形成されているため、ガスケット2の剥離を、全周で防止することができる。
【0034】
なお、上述の形態では、緩衝体3をカバー1の四箇所の角部1aに設けたが、これは全周に設けても良い。すなわち、この場合は被覆層4の肉厚を全周で厚くして、緩衝機能を持たせる。また、緩衝体3の形状や肉厚は、設定すべきバネ定数などを考慮して適切に決めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る精密機器用密封・緩衝構造体を小型HDD用カバーに適用した好ましい実施の形態をZ方向から見た図である。
【図2】図1と反対側から見た図である。
【図3】図1のIII−III線におけるY方向の断面図である。
【図4】図1のIV−IV線におけるY方向の断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 カバー(一方の容器構成部材)
1a 角部
11 カバー本体
11a 取付孔
11b 貫通孔
12 側板
2 ガスケット
21 基部
21a 円形孔
22 シールリップ
3 緩衝体
31 X方向緩衝部
32 Y方向緩衝部
33 Z方向緩衝部
4 被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対峙して精密機器の容器を構成する二部材のうち一方の容器構成部材(1)に、前記二部材間に介在されるガスケット(2)及び前記容器構成部材(1)の外面に位置する所要数の緩衝体(3)が一体に設けられ、前記ガスケット(2)と緩衝体(3)が互いに連続したゴム状弾性材料からなることを特徴とする精密機器用密封・緩衝構造体。
【請求項2】
緩衝体(3)が、容器構成部材(1)の角部(1a)の外面に設けられたことを特徴とする請求項1に記載の精密機器用密封・緩衝構造体。
【請求項3】
ガスケット(2)から延在されたゴム状弾性材料からなる被覆層(4)が、容器構成部材(1)の外周部を覆うように一体に設けられ、緩衝体(3)が、前記被覆層(4)の一部に形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の精密機器用密封・緩衝構造体。
【請求項4】
緩衝体(3)が、容器構成部材(1)に開設された貫通孔(11b)を介してガスケット(2)と連続していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の精密機器用密封・緩衝構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−161942(P2006−161942A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−353605(P2004−353605)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】