説明

紙の表面粗さの評価方法及び評価装置

【課題】音叉型の水晶振動子を備えた触覚センサを用い、水晶振動子が紙表面に接触する前後のインピーダンス差△Rから、紙の表面粗さを評価する評価方法および評価装置を提供する。
【解決手段】紙の表面粗さを測定するために、紙の支持テーブルと窓付きセットシートを用いて、紙の露出部を小さく制限する。支持テーブル5と窓付きセットシート6はネオプレンゴム製振動ダンピング材であり、窓付きセットシート6には小さい窓(穴)があり、そこに露出する紙4の中心部分に触覚センサ1を一定荷重下で接触させる。紙4の上を窓付きセットシート6で覆うことで、紙面方向への伝播によるエネルギー損失が小さく制御されるので、触覚センサ1のインピーダンス差△Rは、紙の表面粗さのみに依存する値となり、△Rから紙の表面粗さの評価ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音叉型の水晶振動子を備えた触覚センサを用い、水晶振動子が紙に接触する前後のインピーダンス値の差から、紙の表面粗さを評価する評価方法及び評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、紙の表面粗さの測定装置として、王研式平滑度測定装置がある。この装置では、測定ヘッドを紙の上に置き、ヘッドの中を一定の空気圧に減圧し、ヘッドと紙との隙間を一定量の空気が流れる所要時間から、紙の表面粗さを評価している。紙の表面が粗い程、隙間を通して空気が流れやすいことによる。しかし、この方法による場合は、紙表面の柔らかさが空気の流れに影響する可能性があり、また、この装置は、紙を透過する空気量も測定する可能性がある。したがって、評価結果は表面の粗さのみに依存するものではないという問題点がある。
一方、音叉型水晶触覚センサを紙に接触させる前後のインピーダンス差△Rから、紙の表面粗さの評価が可能であることが知られている(非特許文献1、2参照)。
【0003】
【非特許文献1】H.Itoh, M.Nomuraand N.Katakura: Proc.of the 1998 IEEE U1trasonics Symp.,pp.559-562, 1998
【非特許文献2】吉田 忍、伊藤秀明、石川清志:第33回EMシンポジウム、pp.15- 18,2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の音叉型水晶触覚センサを用いる紙の表面粗さの測定方法では、紙の表面の粗さに加えて、紙を伝播するエネルギー損失も同時に測定している。したがって、紙の表面粗さのみを測定するには、振動エネルギーの伝播を制御する必要がある。
本発明は、音叉型の水晶振動子を備えた触覚センサを用い、水晶振動子が紙表面に接触する前後のインピーダンス差△Rに基づいて、紙の表面粗さを正確に評価することができる紙の表面粗さを評価する評価方法及び評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は次の構成を備える。
すなわち、音叉型の水晶振動子を備えた触覚センサを用いて紙の表面粗さを評価する方法であって、支持テーブルに被検体である紙をセットし、該支持テーブルにセットした被検体に、前記水晶振動子の基底部が挿入される窓が設けられた窓付きセットシートをのせた後、前記窓内に前記触覚センサを差し込み、前記水晶振動子の基底部が被検体に接触する前の水晶振動子のインピーダンス値と、前記水晶振動子の基底部を被検体に接触させ触覚センサに所定の接触荷重を加えた際の水晶振動子のインピーダンス値とを検出し、標準試料の紙のざらつき感を示す官能試験値と前記水晶振動子が前記標準試料に接触する前後のインピーダンス値の差との相関関係に基づき、前記測定によって得られたインピーダンス値の差から、前記被検体の表面粗さを評価することを特徴とする。
【0006】
また、音叉型の水晶振動子を備えた触覚センサを用いて紙の表面粗さを評価する装置であって、被検体である紙をセットする支持テーブルと、該支持テーブルにセットされた被検体上にセットされる前記水晶振動子の基底部が挿入される窓が設けられた窓付きセットシートと、前記窓内に前記触覚センサを差し込み、該触角センサを押圧して、前記水晶振動子の基底部を前記窓内で露出する前記被検体の表面に所定の接触荷重により押圧する押圧手段と、前記水晶振動子の基底部が被検体に接触する前の水晶振動子のインピーダンス値と、前記触覚センサに所定の接触荷重を加えて前記水晶振動子の基底部を被検体に押圧した際の水晶振動子のインピーダンス値とを検出する検出手段と、標準試料の紙のざらつき感を示す官能試験値と前記水晶振動子が前記標準試料に接触する前後のインピーダンス値の差との相関関係に基づき、前記検出手段によって得られたインピーダンス値の差から、前記被検体の表面粗さを評価する評価手段とを備えていることを特徴とする。
【0007】
また、前記触覚センサは、音叉型に形成された水晶振動子と、該水晶振動子の基底部を端部に露出させて支持するケースとを備え、前記押圧手段は、前記触覚センサを前記窓付きセットシートの窓に位置合わせして被検体の紙に接触させるロボットアームと、触覚センサの接触荷重を計測する圧力センサとを備え、前記検出手段は、前記水晶振動子のインピーダンス値を計測するインピーダンス計測器を備えていることを特徴とする。
【0008】
また、前記評価手段は、標準試料の紙のざらつき感を示す官能試験値と前記水晶振動子を標準試料の紙に接触させた前後のインピーダンス値の差との相関関係を評価基準値として記憶する記憶手段と、前記被検体の前記インピーダンス値の差と、前記記憶手段に記憶されている評価基準値に基づいて、被検体の表面粗さを評価する解析部と、評価結果を表示する表示部とを備えていることを特徴とする。
【0009】
また、前記窓付きセットシートが振動ダンピング材からなること、さらに前記支持テーブルが振動ダンピング材からなることにより、紙表面の振動エネルギーの伝播を抑制して、紙の表面粗さを的確に評価することができる。また、前記振動ダンピング材として、ネオプレンゴムが好適に用いられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、触覚センサに備えた水晶振動子を紙に接触させる前後のインピーダンス値の差△Rから、紙の表面粗さを正確に評価することができる。これを応用することで、表面粗さが異なる紙の認識・選別、及び、紙の局所的な粗さの違いを検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
紙の表面粗さの評価装置は、触覚センサ1と、圧力センサ2と、触覚センサの位置を調節するロボットアーム3と、紙4の支持テーブル5と、窓付きセットシート6と、インピーダンス計測器71と、解析部72と、記憶部73と、表示部74とで構成されている。
触覚センサ1、圧力センサ2、ロボットアーム3、紙4の支持テーブル5、窓付きセットシート6の配置側面図を図1に示した。また、支持テーブル5及び窓付きセットシート6の配置を表す側面図および平面図を図2(a)、(b)に示した。インピーダンス計測器71と、解析部72と、記憶部73と、表示部74のブロック図を図3に示した。
【0012】
触覚センサ1は、音叉型に形成された水晶振動子1aと、水晶振動子1aの基底部1bを露出させて支持するケース1cとを備え、基底部1bの端面を被検体の紙の表面に接触させる。前記触覚センサ1の基底部1bの端面(接触部)の好ましい形状は、大きさが1.4mm×0.75mmの四角形である。
【0013】
圧力センサ2は、触覚センサ1と紙4との接触荷重を計測し、紙4の表面に一定の接触荷重で触覚センサ1を接触させる際に圧力を検知する作用をする。好ましい接触荷重は前記接触部にたいして10gである。
被検体の紙4は、支持テーブル5の上に載せ、窓付きセットシート6で覆う。支持テーブル5及び窓付きセットシート6にはネオプレンゴム製振動ダンピング材を用い、窓付きセットシート6には小さい窓(穴)61があり、その窓61に露出する紙4の中心部分に触覚センサ1を一定荷重下で接触させる。ロボットアーム3により触覚センサ1を支持して、触覚センサ1の水晶振動子1aを紙4に押接し、圧力センサ2により接触荷重を検知しながら、所定圧力で触覚センサ1を紙4に押圧する。
【0014】
紙4の上を窓付きセットシート6で覆うことで、触覚センサ1のインピーダンス変化△Rが紙の表面粗さのみに依存するようになる。窓61の好ましい形状は10mm×10mmの四角形である。なお、窓付きセットシート6の窓61の大きさの効果については、実施例1で説明する。
【0015】
前記水晶振動子1aの基底部1bを被検体の紙4に接触させる前後の水晶振動子1aのインピーダンス値を、インピーダンス計測器71で計測し、解析部72で、前記インピーダンス値の差△Rと記憶部73に記憶されている基準値とから、紙4の表面粗さを評価し、表示部74で評価結果を表示する。
△Rと紙4の表面粗さの相関関係は、標準試料の紙を用いた実験で求めて評価基準値とした。被検体の紙4で実測した△R値から、前記評価基準値に基づいて紙4の表面粗さを評価する。なお、紙表面のざらつき感(表面粗さ)の評価方法及び△Rとざらつき感の相関関係については、実施例2と3で説明する。また、紙の表面粗さと各物理定数との関係については、実施例4で説明する。
【0016】
紙4の支持テーブル5と窓付きセットシート6をネオプレンゴム製振動ダンピング材によって形成し、窓付きセットシート6の窓61の大きさを小さく制限する。紙4の表面を窓付きセットシート6で覆い、小さく開口させた窓61で触覚センサ1を一定荷重下で接触させることにより、紙面方向への伝播によるエネルギー損失を抑制することができ、触覚センサ1のインピーダンス差△Rは、紙の表面粗さのみに依存する値となり、△Rから的確に紙の表面粗さを評価することができる。
【実施例1】
【0017】
(窓付きセットシートの寸法と△R)
ネオプレンゴム製支持台(支持テーブル)上に、一辺が16cmの正方形で表面粗さが異なる紙を置き、その上を中心部に5mm×130mmの四角形の穴がある窓付きセットシート(A)又は中心部に10mm×10mmの四角形の穴があるセットシート(B)で覆い、穴から露出した紙の中心部に触覚センサの接触部(四角形1.4mm×0.75mm)を接触させて△R値を求めた。その結果、穴が大きいセットシート(A)では、△R値は、表面粗さに加えてエネルギー伝播と粘弾性によるエネルギー損を反映し、ばらつきが大きくなった。一方、セットシート(B)では、△Rは、紙の表面粗さを反映することがわかった。
【実施例2】
【0018】
(官能試験による紙の表面粗さの評価)
10種類の紙を試料とし、8人の試験者が指で紙に触ってすべすべ程度を較べて1位から10位までの順位をつけた。ただし、このうちの2試料は、試験者の評価が大きくばらついたので、特異点として除外し、残る8試料の順位和(最低値8〜最高値80)を求めた。順位和を表1に示した。表1の試料1は順位和が27で最小であり、最もすべすべしていることを示している。試料8は順位和が75で最大であり、最もざらざらしていることを示している。
【表1】

【実施例3】
【0019】
(△R値と官能試験順位和(ざらつき感)の相関関係)
前記実施例2の8試料について、前記実施例1のセットシートBを用いて△Rを実測した。その結果を表1に示した。△Rと前記官能順位和との間には図4に示したように直線関係が認められた。この相関関係を評価基準値として、被検体の紙の△R値から紙のざらつき感を評価することが可能である。
【実施例4】
【0020】
(官能試験結果と物理定数との関連性)
前記実施例2の8試料の厚さ及び物理定数を測定した。その結果を表1に示した。官能順位和は、最小27から最大75まで変化したが、各物理定数とは良好な相関関係は認められない。この結果は、官能順位和は特定の物理定数のみに依存するものではなく、したがって、複数の物理的性質が紙のざらつき感に影響していることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】紙の表面粗さ識別装置の触覚センサ、圧力センサ、ロボットアーム、紙の支持テ ーブル、窓付きセットシートの配置を表す側面図である。
【図2】支持テーブルと窓付きセットシートと触覚センサの接触部の配置を表す側面図および平面図 である。
【図3】インピーダンス計測器、解析部、記憶部、表示部のブロック図である。
【図4】△R値とざらつき感の相関関係(基準値)を表すグラフである。
【符号の説明】
【0022】
1 触覚センサ
1a 水晶振動子
1b 基底部
1c ケース
2 圧力センサ
3 ロボットアーム
4 紙
5 支持テーブル
6 窓付きセットシート
61 窓
71 インピーダンス計測器
72 解析部
73 記憶部
74 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音叉型の水晶振動子を備えた触覚センサを用いて紙の表面粗さを評価する方法であって、支持テーブルに被検体である紙をセットし、該支持テーブルにセットした被検体に、前記水晶振動子の基底部が挿入される窓が設けられた窓付きセットシートをのせた後、前記窓内に前記触覚センサを差し込み、前記水晶振動子の基底部が被検体に接触する前の水晶振動子のインピーダンス値と前記水晶振動子の基底部を被検体に接触させ触覚センサに所定の接触荷重を加えた際の水晶振動子のインピーダンス値とを検出し、標準試料の紙のざらつき感を示す官能試験値と前記水晶振動子が前記標準試料に接触する前後のインピーダンス値の差との相関関係に基づき、前記測定によって得られたインピーダンス値の差から、前記被検体の表面粗さを評価することを特徴とする紙の表面粗さの評価方法。
【請求項2】
音叉型の水晶振動子を備えた触覚センサを用いて紙の表面粗さを評価する装置であって、被検体である紙をセットする支持テーブルと、該支持テーブルにセットされた被検体上にセットされる、前記水晶振動子の基底部が挿入される窓が設けられた窓付きセットシートと、前記窓内に前記触覚センサを差し込み、該触角センサを押圧して、前記水晶振動子の基底部を前記窓内で露出する前記被検体の表面に、所定の接触荷重により押圧する押圧手段と、前記水晶振動子の基底部が被検体に接触する前の水晶振動子のインピーダンス値と前記触覚センサに所定の接触荷重を加えて前記水晶振動子の基底部を被検体に押圧した際の水晶振動子のインピーダンス値とを検出する検出手段と、標準試料の紙のざらつき感を示す官能試験値と前記水晶振動子が前記標準試料に接触する前後のインピーダンス値の差との相関関係に基づき、前記検出手段によって得られたインピーダンス値の差から、前記被検体の表面粗さを評価する評価手段とを備えていることを特徴とする紙の表面粗さの評価装置。
【請求項3】
前記触覚センサは、音叉型に形成された水晶振動子と、該水晶振動子の基底部を端部に露出させて支持するケースとを備え、前記押圧手段は、前記触覚センサを前記窓付きセットシートの窓に位置合わせして被検体の紙に接触させるロボットアームと、触覚センサの接触荷重を計測する圧力センサとを備え、前記検出手段は、前記水晶振動子のインピーダンス値を計測するインピーダンス計測器を備えていることを特徴とする請求項2記載の紙の表面粗さの評価装置。
【請求項4】
前記評価手段は、標準試料の紙のざらつき感を示す官能試験値と前記水晶振動子を標準試料の紙に接触させた前後のインピーダンス値の差との相関関係を評価基準値として記憶する記憶手段と、前記被検体の前記インピーダンス値の差と前記記憶手段に記憶されている評価基準値に基づいて、被検体の表面粗さを評価する解析部と、評価結果を表示する表示部とを備えていることを特徴とする請求項2記載の紙の表面粗さの評価装置。
【請求項5】
前記窓付きセットシートが振動ダンピング材からなることを特徴とする請求項2記載の紙の表面粗さの評価装置。
【請求項6】
前記支持テーブルが振動ダンピング材からなることを特徴とする請求項5記載の紙の表面粗さの評価装置。
【請求項7】
前記振動ダンピング材として、ネオプレンゴムが用いられていることを特徴とする請求項5または6記載の紙の表面粗さの評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−39540(P2008−39540A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−213088(P2006−213088)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔発行者名〕 応用物理学会 〔刊行物名〕 第53回応用物理学会関係連合講演会講演予稿集第1分冊 〔巻数・号数〕 2006年春季 〔発行年月日〕 平成18年3月22日
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】