説明

紙製容器およびその製造方法

【課題】 発泡状態が均一で、断熱性に優れる紙製容器を提供すること。
【解決手段】 胴部材と底板部材とからなる紙製容器であって、胴部材は、紙基材に発泡した熱可塑性樹脂層が形成されており、該発泡熱可塑性樹脂層は、紙基材の少なくとも片面に溶融状態の熱可塑性樹脂をTダイから紙基材に接するまでの時間が0.11〜0.33秒となるように押出しラミネートした熱可塑性樹脂層を設け、紙基材中の水分を加熱蒸発させることによって前記熱可塑性樹脂層が発泡したものであることを特徴とする紙製容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱性を必要とする紙製容器及び容器用の原材料シートに関する。さらに詳細には、自動販売機等に利用されるホットコーヒーなどの充填用のカップ、熱湯を注入することによって内填物を飲食し得る状態にするいわゆる即席可食品用容器、さらには電子レンジによる調理用の容器等に利用される断熱性を有する使い捨て容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ハンバーガーショップなどのファーストフード店や列車の車内あるいは自動販売機などでコーヒーあるいはスープなどの温飲料が購入者に供される場合、およびカップ入り即席ラーメンなどでは一般的に断熱容器が使用されている。
従来、このような用途に使用される容器としては、発泡ポリスチレン(EPS)製の断熱性を有するものが知られている。これはポリスチレンに発泡剤を加える工程を経た後、この材料をモールド内に注型し、その後、熱と圧力を加えて原料を発泡させ、成型容器を型から取り出すことによって製造される。このようにして得られた断熱性容器は断熱性の点では非常に優れている。しかし、この容器は全体のプラスチックを発泡させていることから嵩があり、ゴミ量が多くなる。そして、使用後にゴミとして焼却処分する際、高熱を発して燃焼するため焼却炉を損傷しやすく、石油資源の節約の観点からも見直しが求められている。また、環境ホルモンとしての人体への悪影響も懸念される、さらに、発泡ポリスチレンの外表面は微小な凹凸が多数存在するので、外表面に模様、文字、記号などを印刷しても鮮明に表現されない、紙カップに比べ肉厚強度が弱く即席麺などの比較的大きな容器の場合輸送中に割れたりすることがある、など欠点もあった。
【0003】
一方、前記の発泡プラスチック製容器の他に、例えば、特許文献1(特開昭57−110439号公報)には、容器胴部材及び底板部材からなる紙製容器において、容器胴部材の外壁面に低融点の熱可塑性合成樹脂フィルムをラミネートし、加熱することにより、基材である紙に含まれている水分の蒸気圧を利用してフィルムを凹凸に発泡させる技術が記載されている。このとき、紙の他面には、加熱時に蒸気圧を保持する層として、同様の発泡層となる熱可塑性合成樹脂フィルムをラミネートするか、又は、アルミ箔をコーティグすることが記載されている。この容器は比較的良好な断熱性を有し、安価に、かつ、容易に製造することができるなどの利点を有する。
同じく、紙に含有されている水分の加熱蒸発により発泡させる技術として、特許文献2(特許第3596681号公報)には、胴部材の一方の壁面に、紙の表面側から低融点の熱可塑性樹脂の発泡内層とこれよりも高い融点を有する熱可塑性樹脂の非発泡外層とからなる2層構造断熱膜が被着されており、発泡内層と紙との層間強度、紙の坪量、発泡層および非発泡外層の膜厚を規定した紙製容器が記載されている。特許文献2にはまた、紙の他面に、加熱時に蒸気圧を保持する層として高融点の熱可塑性樹脂をラミネートすることが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開昭57−110439号公報
【特許文献2】特許第3596681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1あるいは2に記載の容器は、紙を基材とし、ラミネート層(樹脂層)は石油を原料に作られているもののその厚さは断熱性に必要な最小限に抑えられている。そのため、化石燃料の使用が極力削減されており、全体が発泡ポリスチレンからなる容器に比べて環境負荷が小さく、また印刷性にも優れる。
しかし、紙基材中に含まれていた水分を加熱蒸発させ、この蒸発水分により熱可塑性樹脂層を発泡させて断熱性を付与する機構であることから制御が難しく、発泡不良が起こりピンホールが発生する、過発泡が起こる、また部分的に破裂したり紙基材から熱可塑性樹脂層が剥がれてしまうなどの問題が生じやすく、発泡状態が不均一になると十分な断熱性が得られない。
そこで、本発明は、均一な発泡状態が得られ、断熱性に優れる紙製容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)紙製容器における胴部材原材料シートの紙基材の少なくとも片面に、溶融状態の熱可塑性樹脂をTダイから紙基材に接するまでの時間が0.11〜0.33秒となるように押出しラミネートして熱可塑性樹脂層を設けた紙製容器の胴部材原材料シート。
(2)胴部材と底板部材とからなる紙製容器であって、胴部材は、紙基材に発泡した熱可塑性樹脂層が形成されており、該発泡熱可塑性樹脂層は、紙基材の少なくとも片面に溶融状態の熱可塑性樹脂をTダイから紙基材に接するまでの時間が0.11〜0.33秒となるように押出しラミネートした熱可塑性樹脂層を設け、紙基材中の水分を加熱蒸発させることによって前記熱可塑性樹脂層が発泡したものであることを特徴とする紙製容器。
(3)押出しラミネートされた熱可塑性樹脂層の樹脂酸化度がESCA分析値0.4%〜1.5%であることを特徴とする(2)記載の紙製容器。
(4)押出しラミネートされた熱可塑性樹脂層が低密度ポリエチレンからなることを特徴とする(2)又は(3)記載の紙製容器。
(5)胴部材の両方の壁面に熱可塑性樹脂層を有し、一方の壁面の熱可塑性樹脂層が、他方の壁面の熱可塑性樹脂層よりも融点の高い熱可塑性樹脂からなることを特徴とする(2)〜(4)のいずれかに記載の紙製容器。
(6)胴部材の両方の壁面に設けられた熱可塑性樹脂層の内、融点の高い熱可塑性樹脂の融点が125℃以上であって、胴部材の内壁面側の熱可塑性樹脂層であることを特徴とする(2)〜(5)のいずれかに記載の紙製容器。
(7) 下記A〜Cの工程を有する、胴部材と底板部材とからなる紙製容器の製造方法。
A.紙基材の少なくとも片面に、溶融状態の熱可塑性樹脂をTダイから紙基材に接するまでの時間が0.11〜0.33秒となるように押出しラミネートして熱可塑性樹脂層を積層し胴部材原料シートを作製する工程、
B.胴部材原料シートと底辺部材原材料シートとを組み立て紙製容器を成型する工程、
C.成型後の紙製容器を加熱処理し、胴部材の紙基材中の水分を蒸発させて前記熱可塑性樹脂層を発泡させる工程。
(8)低密度ポリエチレンは、MFR10.0〜14.0g/10分であることを特徴とする(4)記載の紙製容器。
【発明の効果】
【0007】
1.均一な発泡状態が得られ、断熱性が良好な紙製容器が提供できる。
2.均一な発泡層が形成されるので、きれいな印刷ができる。
3.発泡ポリスチレンを使用しない紙を主成分とする容器であり、環境に配慮した容器、人体への悪影響が少ない容器であって、紙系のゴミとして処理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の紙製容器は、大きく分けて、A.胴部材原材料シートの作製、B.紙製容器の成型、C.加熱処理による発泡、の3つの工程から製造される。以下、本発明について図面に基づき説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0009】
A.胴部材原材料シートの作製
(紙製容器の構成)
図1は、本発明による紙製容器の一例の断面図である。本発明の紙製容器1は、基本的に胴部材2と底板部材3とから構成されている。
図2は、図1においてYで示された胴部の部分拡大断面図である。本例では、胴部材の外壁面側(容器外側)に、紙基材4の表面に発泡した熱可塑性樹脂層5(以下、発泡熱可塑性樹脂層5という)が存在しており、発泡熱可塑性樹脂層5は、発泡セル6が並んだ構造となっている。胴部の内壁面側(容器内側)には、発泡熱可塑性樹脂層5の熱可塑性樹脂よりも融点の高い熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂層7(以下、非発泡熱可塑性樹脂層7という)が存在している。この非発泡熱可塑性樹脂層7は、後述するように、容器製造における加熱処理の際に発泡せず、紙基材からの蒸発水分の逃散を防止して発泡熱可塑性樹脂層5を確実かつ十分に発泡させるものである。
【0010】
また、図示しないが、底板部材3は、底板部材原材料シートとして、紙基材の少なくとも片面に1以上の熱可塑性樹脂層やアルミ箔等を設けたものが好ましく使用される。これは紙中への液体等の浸透防止のためである。底板部材に用いられる熱可塑性樹脂は、胴部材と同じであっても異なっていてもよく、積層方法も押出しラミネート法の他、ウェットラミネート法、ドライラミネート法等の予めフィルム状にしたものと貼合する方法が適宜使用できる。
【0011】
(押出しラミネート)
図3は、胴部材2の原材料となるシートの製造工程を示す。巻取8から繰り出された紙基材4の一表面に、Tダイ9から熱可塑性樹脂層5’を溶融樹脂膜の状態で押出し、クーリングロール10とこれに対向するニップロール11との間で冷却しつつ圧着し、胴部材原材料シート12を得る。ここで、Tダイから押出された溶融膜状態の熱可塑性樹脂が紙基材に接するまでの距離はエアギャップと呼ばれる。押出しラミネートにおいて、樹脂の溶融温度、積層速度などの操業条件は、用いる樹脂の種類や装置によって適宜設定すればよく特に制限されないが、一般に、例えば溶融温度は200〜350℃程度、積層速度は50〜200m/分程度である。なお、必要に応じて、紙基材や熱可塑性樹脂の接着性を向上させるために、コロナ処理、オゾン処理等を行ってもよい。また、ニップロールとしては硬度70度以上(JIS K−6253)のものを用い、線圧は15kgf/cm以上で押圧・圧着を行うことが好ましい。
【0012】
また、図示しないが、胴部材原材料シート12の熱可塑性樹脂層5’を設けた反対面には、非発泡熱可塑性樹脂層7が積層されている、非発泡熱可塑性樹脂層7は、熱可塑性樹脂層5’のラミネート前、同時あるいは後に、押出しラミネート他、ウェットラミネート法、ドライラミネート法等の予めフィルム状にしたものと貼合する方法で積層される。
【0013】
本発明では、溶融した熱可塑性樹脂がエアギャップを通過する時間が0.11〜0.33秒であることが重要である。本発明で規定する時間の範囲であることにより、加熱処理されたとき均一な発泡状態を得ることができる。この理由は明らかではないが、次のように推測される。
通常、押出しラミネート法では、溶融した熱可塑性樹脂が高温であるほど紙基材との密着性が高まるため、エアギャップの通過時間は短く設定される。通常は、エアギャップ130mmで積層速度130〜100m/分程度の例がある(例えば、特開2006−168775号公報参照、特許3586868号公報参照)。これは、通過時間にすると、0.06〜0.078秒に相当する。
これに対し、本発明は、熱可塑性樹脂がエアギャップを通過する時間が発泡性に影響することを見出しなされたものであり、本発明では熱可塑性樹脂が適度に酸化されることにより、樹脂表面が硬く縦方向に伸びやすくなり、良好な発泡状態が得られると考えられる。エアギャップの通過時間が0.11秒より短い場合は、酸化が不十分で軟らかい熱可塑性樹脂層が形成され発泡したときの発泡セルも軟らかくなるため、発泡セルが縦ではなく横方向に伸びる、過発泡になる、発泡セル壁が薄く弱く破裂しやすくなる、発泡セルの層間剥がれが起こるなど、均一な発泡状態が得られない。一方、0.33秒より長い場合は、紙基材との密着性が低下し、紙基材からの蒸発水分により熱可塑性樹脂層が押し上げられて剥離が生じ、紙基材との密着性に劣ると過発泡にもなりやすい。より好ましいエアギャップの通過時間は、0.15秒以上であり、また、0.30秒以下さらに好ましくは0.25秒以下が好ましい。また、酸化度としては、ESCA分析で0.4〜1.5%が好ましい。
【0014】
(紙基材)
本発明で使用される紙とは、植物繊維または植物繊維とその他の繊維とを絡み合わせ膠着させて製造したものをいい、植物繊維の原料としては針葉樹または広葉樹などの木材繊維、ミツマタ、コウゾなどの靭皮繊維、バガス、ケナフ、麻などの非木材繊維、木綿繊維、古紙等が挙げられ、また、紙の種類として上質紙、コート紙、再生紙等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。紙の坪量は、100g/m以上で400g/m以下程度のものが好適であり、坪量が低すぎると、発泡に必要な含水率が少ないためか十分に発泡せず、また容器を手で把持したときに熱さを感じやすい。好ましくは200g/m以上、さらに好ましくは250g/m以上である。一方、坪量が高すぎると、胴部材として所望の剛度を超えて不経済であり、また必要以上に発泡したり成型加工性も低下する。また、紙基材中の含水率としては、多すぎると剛度が低下して容器の成型加工性に劣ったり、また過発泡や発泡セルの破裂などを招くため、5〜15重量%が好ましいが、6〜10重量%であるとさらに好ましい。
【0015】
(発泡熱可塑性樹脂層)
発泡熱可塑性樹脂層となる熱可塑性樹脂としては、押出しラミネートが可能でかつ発泡可能であれば特に制限されず、結晶性樹脂、非結晶性樹脂のどちらの熱可塑性樹脂も使用することができる。結晶性樹脂としては高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂や、ポリエステル系樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、PPS樹脂等を挙げることができる。非結晶性樹脂としては、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂、アクリル樹脂、変性PPE、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、非結晶性ポリエチレンテレフタレート(PET)等を挙げることができる。これらの熱可塑性樹脂は単一の樹脂を単層で使用しても、複数の樹脂を複層で使用しても良いが、発泡性の点から単層であることが好ましい。
上記の熱可塑性樹脂の融点としては80〜120℃程度が好ましい。また、本発明では、ラミネート適性、発泡性に優れることからポリエチレンが好ましい。ポリエチレンは、大きくは直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンに区分される。密度としては、直鎖状低密度ポリエチレンは888〜910kg/m、低密度ポリエチレンは910〜925kg/m、中密度ポリエチレンは925〜940kg/m、さらに高密度ポリエチレンは940〜970kg/m程度である。融点としては、直鎖状低密度ポリエチレンは55℃〜120℃、低密度ポリエチレンは105〜120℃、中密度ポリエチレンは120〜125℃、さらに高密度ポリエチレンは125〜135℃程度である。熱可塑性樹脂として低密度ポリエチレンを用いた場合、押出しラミネート時の溶融温度は315℃以上、好ましくは330℃以上である。通常の場合は、300℃程度であるが、エアギャップを通過する時間が通常より長いので、それを考慮して高温を設定する。
なお、熱可塑性樹脂として低密度ポリエチレンを使用する場合、MFRが10.0〜14.0g/10分であることが好ましい。MFRとは樹脂流動性の指標であり、溶融した熱可塑性樹脂がエアギャップを通過する時間が0.11〜0.33秒である本発明の条件において、この範囲のMFRの低密度ポリエチレンを使用することにより発泡性が良好となる。
【0016】
(非発泡熱可塑性樹脂層)
本発明では、発泡効率を高めるために、胴部材の発泡熱可塑性樹脂層を有する壁面の反対壁面側を、発泡熱可塑性樹脂層よりも融点の高い熱可塑性樹脂からなるとともに加熱処理した際に発泡しない熱可塑性樹脂層(非発泡熱可塑性樹脂層)、あるいはアルミ箔等で被覆することが好ましい。紙基材の片面が地のままだと、加熱処理の際にこの未被覆面から紙中の水分が大気中に蒸散してしまい、十分確実に発泡させることが難しくなる。従って、このような被覆層を設けることにより、紙中の水分を効率良く発泡に寄与させることができる。なお、これらの非発泡熱可塑性樹脂層やアルミ箔などは、胴部材の内壁面側に存在すると、充填液体等が紙中へ浸透することを防止でき好ましい。
同様に、発泡効率を高める目的で、発泡熱可塑性樹脂層の上に、非発泡熱可塑性樹脂層を設けることもできる。発泡熱可塑性樹脂層が胴部材の外壁面側に存在するときは、その表面は凹凸があり平滑ではないため、非発泡熱可塑性樹脂層の存在により、滑らかな手触りと光沢のある外観を得ることができ、容器の防水性もより向上する。
これらの非発泡熱可塑性樹脂層の熱可塑性樹脂は、発泡熱可塑性樹脂層と同一であっても異なっていてもよい。同一の場合は、密度に差を持たせることにより融点に差を生じさせることができる。例えば、両者の熱可塑性樹脂としてポリエチレンを選択する場合、発泡熱可塑性樹脂層は低密度ポリエチレンとし、非発泡熱可塑性樹脂層は中密度または高密度ポリエチレンとする。発泡熱可塑性樹脂層と非発泡熱可塑性樹脂層の熱可塑性樹脂における融点の差は5℃以上あることが好ましく、非発泡熱可塑性樹脂層の熱可塑性樹脂の融点としては、加熱の際に融解せず蒸発水分の拡散を抑止できればよく特に制限されないが、125℃以上が好ましい。
【0017】
非発泡熱可塑性樹脂層の形成方法は特に制限されず、紙基材の発泡熱可塑性樹脂層とは反対面側あるいは発泡熱可塑性樹脂層上に、押出しラミネートにより積層してもよいし、ウェットラミネート法、ドライラミネート法等の予めフィルム状にしたものと貼合する方法が適宜使用できる。また、発泡熱可塑性樹脂層上に非発泡熱可塑性樹脂層を設ける場合や、発泡熱可塑性樹脂層を複数の熱可塑性樹脂層で形成する場合など、多層の熱可塑性樹脂層を積層するときは、熱可塑性樹脂層間の密着性や生産効率の点から、複数台の押出機を用いて各熱可塑性樹脂を溶融状態でそれぞれのTダイに導き、各Tダイから同時に押出して積層接着する方法が適している。このような2以上の熱可塑性樹脂層を同時に形成可能な方法は、押出しラミネート法の中で特に共押出しラミネート法と呼ばれる。さらに、熱可塑性樹脂層同士の間に接着性樹脂層を挟んで、樹脂層間の接着性を高めてもよい。なお、いずれの場合でも、必要に応じて紙基材や熱可塑性樹脂の接着性を向上させるために、コロナ処理、オゾン処理等を行ってもよい。
【0018】
(その他)
発泡熱可塑性樹脂層および非発泡熱可塑性樹脂層の各熱可塑性樹脂層の厚さについて、発泡熱可塑性樹脂層は、発泡させたときに所望の断熱性を付与するのに十分な厚さであればよく特に限定されないが、発泡前の厚さとして40〜80μm程度、発泡後は400〜2000μm程度である。また、非発泡熱可塑性樹脂層も、蒸発水分の飛散を防止するのに十分な厚さであって、胴部材の内壁面側に存在する場合は耐液体浸透性を確保できる厚さであれば特に限定されず、20〜50μm程度である。
また、胴部材の外壁面側および内壁面側は、同じ積層構成であってもよいし異なっていてもよい。使用される樹脂の種類やその他の素材も、同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0019】
また、発泡熱可塑性樹脂層および非発泡熱可塑性樹脂層の各熱可塑性樹脂層には、所望の効果を阻害しない範囲で一般的に使用される種々の添加剤を添加することができる。これらの添加剤としては、例えば、帯電防止剤、白色顔料(酸化チタン、炭酸カルシウム、クレー、タルク、シリカ等の無機顔料等)、耐ブロッキング剤(アクリルビーズ、ガラスビーズ、シリカ等)、紫外線吸収剤などがある。
【0020】
B.紙製容器の成型
本発明では、上記の胴部材原材料シート12と底板部材原料シートとを常用のカップ製造装置やカップ成型機により成型する。まず、巻き取りロールから胴部材原材料シート12を繰り出し、所定箇所に必要な印刷を施す。この段階でバーコードなどを印刷することもできる。印刷部分の位置決めなどは常用の手段または手順により行うことができる。
次に、それぞれの原材料シートから胴部材用ブランクと底板部材用ブランクを打ち抜き、常用のカップ成型機で容器の形に組み立てる。ここで、発泡熱可塑性樹脂層5は、胴部材の外壁面側および内壁面側のどちらか片方あるいは両方に存在すればよく、断熱性、手触り、外観審美性など所望に応じて適宜決定すればよいが、容器内部を発泡面とした場合、飲食の際に発泡樹脂が箸やフォーク等により傷付いて口の中に入り込むおそれがあるため、外壁面側に存在することが望ましい。そこで、例えば、胴部材原料シート12の熱可塑性樹脂層5’が容器外側に向くように、また、底板部材は熱可塑性樹脂層面が容器内側に向くようにして、組み立てる。
【0021】
C.加熱処理による発泡
成型後の紙製容器は、発泡させるために加熱処理を行う。本発明では、加熱処理により、胴部材2の紙基材4中に含まれる水分が蒸発して、熱可塑性樹脂層5’が発泡し発泡熱可塑性樹脂層5となる。
加熱温度および加熱時間は使用する紙基材および熱可塑性樹脂の種類に応じて変化し、使用する熱可塑性樹脂に対する最適な加熱温度と加熱時間の組み合わせは適宜決定することができるが、加熱温度は発泡する熱可塑性樹脂の融点よりもやや高い温度(融点+5〜10℃の範囲)が適し、一般的に、加熱温度約110℃〜約200℃程度、加熱時間約1分間〜6分間程度である。加熱手段は特に限定されず、熱風、電熱、電子線など任意の手段を使用できる。コンベヤによる搬送手段を備えたトンネル内で、熱風または電熱などによって加熱すれば、安価に大量生産することができる。
【0022】
その他.
本発明では、所望の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、紙製容器の分野で公知の技術を適用することができる。例えば、外壁面となる胴部材の一部に合成樹脂成分を5wt%〜40wt%含有する塗料を塗布し、部分的に発泡を抑制する技術(特許第3014629号公報)、外壁面となる胴部材の表面に発泡と同調して滑らかな印刷面を形成する同調インキを塗布する技術(特許第3408156号公報)、容器胴部材の開口上縁にフランジ部を設ける技術であって、断面角型に強制加工し内側巻き込み端をフランジ部の上部に重合させて二重構造にする技術(特開2001−354226号公報)等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。また、印刷適性を高めるために、胴部材の外壁面となる最表層に、顔料とバインダーを主成分とするインキ受理層を設けてもよい。
【0023】
以上のように、本発明は熱可塑性樹脂層を設けた紙を加熱して、紙に含まれる水分を蒸気化して、溶融している熱可塑性樹脂層中に水蒸気の泡を閉じこめて、発泡層を形成する技術を利用するものである。これは、熱可塑性樹脂層の溶融状態が低粘性であると蒸気が抜けてしまいピンホールが発生したり、小泡が結合して大きくなって破れたりする危険性がある。
これに対し、本発明は、エアギャップを通過する時間を長くすることにより、通常のラミネートでは悪影響となると考えられている樹脂の酸化を進めることにより、樹脂層表面を皮状に形成して、泡を樹脂層内に留め、小泡状態を保持し、ピンホールなどの発生を防止するものである。また、Tダイから押出した後、紙基材に熱可塑性樹脂が接触して接着する接着力を確保するために通常より高温で押出す。また、この高温は、酸化を促進する機能を果たすと考えられる。
本発明は、紙に含まれる水分を蒸気化し、薄い溶融状態にある熱可塑性樹脂層に閉じこめて多数の小泡を形成して、断熱性を発揮するものであるが、そのコントロールが難しく、良好な状態の断熱層を形成することは困難であったところ、ラミネート積層に当たり、エアギャップを通過する時間を長くすることにより、コントロールができることを見出したものである。
更に、紙基材の反対表面には、溶融温度が高い樹脂層を設けて、紙基材に含まれる水分が蒸気化したときの蒸気抜けを防止して、低温の溶融熱可塑性樹脂層に蒸気を留める精度を高めようとするものである。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明の効果を詳細に説明する。
【0025】
[実施例1]
坪量300g/m(含水率8%)の原紙の片面に、紙製容器としたときに胴部材の外壁面となる発泡熱可塑性樹脂層として、融点108℃、MFR13.8g/10分の低密度ポリエチレン(LDPE)を厚さ70μmとなるように340℃の溶融温度で押出し、この溶融樹脂と原紙とをクーリングロールと硬度70度のニップロールを用いて、線圧15kgf/cmで押圧・圧着した。このとき、Tダイから吐出した溶融樹脂が原紙に接触するまでの時間(エアギャップ通過時間)は0.112秒とした。また、原紙の反対面には、胴部材の内壁面となる非発泡熱可塑性樹脂層として、融点128℃、MFR6.5g/10分の中密度ポリエチレン(中密度PE)を厚さ40μmとなるように、320℃の溶融温度で押出しラミネートし、胴部材原材料シートを得た。
【0026】
[実施例2]
Tダイから吐出した溶融樹脂が原紙に接触するまでの時間を0.186秒とした以外は、実施例1と同様にして胴部材原材料シートを得た。
【0027】
[実施例3]
Tダイから吐出した溶融樹脂が原紙に接触するまでの時間を0.223秒とした以外は、実施例1と同様にして胴部材原材料シートを得た。
【0028】
[実施例4]
坪量300g/mの原紙を、坪量320g/m(含水率8%)の原紙に変更した以外は、実施例1と同様にして胴部材原材料シートを得た。
【0029】
[実施例5]
胴部材の内壁面となる非発泡熱可塑性樹脂層として、融点128℃の中密度ポリエチレン(中密度PE)に代えて、融点165℃のポリプロピレン(PP)に変更した以外は、実施例1と同様にして胴部材原材料シートを得た。
【0030】
[実施例6]
融点108℃の低密度ポリエチレン(LDPE)を厚さ50μmとなるようにラミネートした以外は、実施例1と同様にして胴部材原材料シートを得た。
【0031】
[実施例7]
実施例1で得た胴部材原材料シートを123℃4分間過熱させ、発泡サンプル片を得た。
【0032】
[実施例8]
発泡熱可塑性樹脂層として、融点108℃、MFR13.8g/10分の低密度ポリエチレン(LDPE)に代えて融点108℃、MFR13.8g/10分の低密度ポリエチレン(LDPE)88.5重量%、融点107℃、MFR8.2g/10分の低密度ポリエチレン(LDPE)11.5重量%から成る混合樹脂(融点108℃、MFR13.0g/10分)に変更した以外は、実施例1と同様にして胴部材原材料シートを得た。
【0033】
なお、混合樹脂のMFRは下記計算式にて求めた。

logX=alogY+blogZ
(a,b:各樹脂の配合比、X:混合樹脂のMFR、Y,Z:各樹脂のMFR)
【0034】
[実施例9]
発泡熱可塑性樹脂層として、融点108℃、MFR13.8g/10分の低密度ポリエチレン(LDPE)に代えて融点108℃、MFR13.8g/10分の低密度ポリエチレン(LDPE)90.0重量%、融点108℃、MFR7.5g/10分の低密度ポリエチレン(LDPE)10.0重量%から成る混合樹脂(融点108℃、MFR13.0g/10分)に変更した以外は、実施例1と同様にして胴部材原材料シートを得た。
【0035】
[実施例10]
発泡熱可塑性樹脂層として、融点108℃、MFR13.8g/10分の低密度ポリエチレン(LDPE)に代えて融点108℃、MFR13.8g/10分の低密度ポリエチレン(LDPE)20.0重量%、融点106℃、MFR22.0g/10分の低密度ポリエチレン(LDPE)80.0重量%から成る混合樹脂(融点106℃、MFR20.0g/10分)に変更した以外は、実施例1と同様にして胴部材原材料シートを得た。
【0036】
[実施例11]
発泡熱可塑性樹脂層として、融点108℃、MFR13.8g/10分の低密度ポリエチレン(LDPE)に代えて融点108℃、MFR13.8g/10分の低密度ポリエチレン(LDPE)77.0重量%、融点108℃、MFR7.5g/10分の低密度ポリエチレン(LDPE)23.0重量%から成る混合樹脂(融点108℃、MFR12.0g/10分)に変更した以外は、実施例1と同様にして胴部材原材料シートを得た。
【0037】
[比較例1]
Tダイから吐出した溶融樹脂が原紙に接触するまでの時間を0.335秒とした以外は、実施例1と同様にして胴部材原材料シートを得た。
【0038】
[比較例2]
Tダイから吐出した溶融樹脂が原紙に接触するまでの時間を0.098秒とした以外は、実施例1と同様にして胴部材原材料シートを得た。
上記の実施例および比較例で得られた胴部材原材料シートを用いて、以下の評価試験を行った結果を表1に示す。なお、実施例1で得られた胴部材原材料シートを用い、発泡させない場合を参考例1とした。
【0039】
<酸化度>
発泡前の胴部材原材料シートの発泡熱可塑性樹脂層について、ESCA分析にて酸化度を測定した。値が小さい方が、酸化度が低いことを示す。
ESCAとは、electron spectroscopy for analysisの略称である。X線を照射し、X線によって励起した原子からの光電子のエネルギーを測定し、原子固有のエネルギーを分析し、構成元素の同定を行うものである。
本発明では、表層を形成するポリエチレン層にX線を照射し、CとOの割合によって酸化度を求めている。通常、ポリエチレンはCH結合だけなのでOは入っていない(なお、Hはエネルギーが小さすぎてX線分析では測定できない)。
計測は、5mm角のサンプルをカットし、表層にX線を照射する。照射されたX線は紙原紙まで到達するが、原紙から励起する光電子が途中で吸収・分散されるので、実際は表層数μmのエネルギーを測定していることとなる。
【0040】
<発泡性(厚さ)>
発泡前の胴部材原材料シートの全体の厚さを測定した。次いで、サンプル片(10cm×10cm)を115℃または、123℃の乾燥機に入れ、4分間加熱して発泡熱可塑性樹脂層を発泡させ、発泡サンプル片を得た。発泡後の全体の厚さを測定した。
【0041】
<発泡性(状態)>
上記の発泡サンプル片について、発泡状態を次の基準で目視評価した。
◎…均一で微細な発泡状態であり良好。
〇…一部過発泡の状態があるものの、断熱性容器として問題なし。
△…過発泡の状態がややあるものの、断熱性容器として使用可能。
×…過発泡もしくは発泡不十分で、断熱性容器として使用できない。
【0042】
<紙基材との密着性>
発泡前の胴部材原材料シートのサンプル片(10cm×10cm)について、手で原紙と低密度ポリエチレン層との間で剥離を試み、そのときの剥離しやすさの程度を次の基準で評価した。
◎…強固に密着しており剥離できない。
〇…強く密着しており剥離しにくい。
△…抵抗はあるが剥離できる。
×…密着が弱いまたは密着しておらず容易に剥離できる。
【0043】
<断熱性>
胴部材原材料シートを、底板部材原材料シート(坪量220g/mの原紙に中密度ポリエチレンを厚さ40μmとなるように押出しラミネートしたもの)と組み合わせて、直径95mm、高さ115mmの容器を成型し、115℃の乾燥機で4分間加熱し、発泡させた。その後、発泡した容器に90℃のお湯を入れ、3分後、容器外壁面を手で触り次の基準で評価した。
◎…あまり熱くなく、手で容器を十分に保持することができ、断熱性に優れる。
〇…やや熱いが、手で容器を保持し続けることができ、断熱性良好。
△…熱く、手で容器を十分には保持することが難しく、断熱性やや良。
×…かなり熱く、手で容器を保持することが難しく、断熱性悪い。
【0044】
【表1】

【0045】
この結果から、エアギャップの通過時間は0.11〜0.33秒の範囲が適切であり、好ましくは0.15〜0.25秒である。酸化度は、0.4〜1.5%、特に1.0%以下が好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明による紙製容器の一例の断面図である。
【図2】図1においてYで示された胴部の部分拡大断面図である。
【図3】押出しラミネートによる製造方法を示す説明図である。
【図4】実施例1で得た胴部材原材料シートを用い、断熱性試験で成型・発泡させた容器胴部材の断面の光学顕微鏡写真(倍率150)である。発泡熱可塑性樹脂層の厚みは約700μmである。
【図5】比較例1で得た胴部材原材料シートを用い、断熱性試験で成型・発泡させた容器胴部材の断面の光学顕微鏡写真(倍率150)である。
【符号の説明】
【0047】
1 紙製容器
2 胴部材
3 底板部材
4 紙基材
5 発泡熱可塑性樹脂層
5’熱可塑性樹脂層
6 発泡セル
7 非発泡熱可塑性樹脂層
8 巻取
9 Tダイ
10 クーリングロール
11 ニップロール
12 胴部材原材料シート
13 エアギャップ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙製容器における胴部材原材料シートの紙基材の少なくとも片面に、溶融状態の熱可塑性樹脂をTダイから紙基材に接するまでの時間が0.11〜0.33秒となるように押出しラミネートして熱可塑性樹脂層を設けた紙製容器の胴部材原材料シート。
【請求項2】
胴部材と底板部材とからなる紙製容器であって、
胴部材は、紙基材に発泡した熱可塑性樹脂層が形成されており、
該発泡熱可塑性樹脂層は、紙基材の少なくとも片面に溶融状態の熱可塑性樹脂をTダイから紙基材に接するまでの時間が0.11〜0.33秒となるように押出しラミネートした熱可塑性樹脂層を設け、紙基材中の水分を加熱蒸発させることによって前記熱可塑性樹脂層が発泡したものであることを特徴とする紙製容器。
【請求項3】
押出しラミネートされた熱可塑性樹脂層の樹脂酸化度がESCA分析値0.4%〜1.5%であることを特徴とする請求項2記載の紙製容器。
【請求項4】
押出しラミネートされた熱可塑性樹脂層が低密度ポリエチレンからなることを特徴とする請求項2又は3記載の紙製容器。
【請求項5】
胴部材の両方の壁面に熱可塑性樹脂層を有し、一方の壁面の熱可塑性樹脂層が、他方の壁面の熱可塑性樹脂層よりも融点の高い熱可塑性樹脂からなることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の紙製容器。
【請求項6】
胴部材の両方の壁面に設けられた熱可塑性樹脂層の内、融点の高い熱可塑性樹脂の融点が125℃以上であって、胴部材の内壁面側の熱可塑性樹脂層であることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の紙製容器。
【請求項7】
下記A〜Cの工程を有する、胴部材と底板部材とからなる紙製容器の製造方法。
A.紙基材の少なくとも片面に、溶融状態の熱可塑性樹脂をTダイから紙基材に接するまでの時間が0.11〜0.33秒となるように押出しラミネートして熱可塑性樹脂層を積層し胴部材原料シートを作製する工程、
B.胴部材原料シートと底辺部材原材料シートとを組み立て紙製容器を成型する工程、
C.成型後の紙製容器を加熱処理し、胴部材の紙基材中の水分を蒸発させて前記熱可塑性樹脂層を発泡させる工程。
【請求項8】
低密度ポリエチレンは、MFR10.0〜14.0g/10分であることを特徴とする請求項4記載の紙製容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−105747(P2008−105747A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93934(P2007−93934)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【出願人】(502394520)日本紙パック株式会社 (33)
【Fターム(参考)】