説明

紫外線吸収性ポリマー組成物

【課題】架橋剤で架橋することなく、耐候性はもとより、耐可塑剤移行性に優れ、塗膜としての諸特性(耐指紋性、耐ブロッキング性)も良好な紫外線吸収層を形成し得る紫外線吸収性ポリマー組成物を提供する。
【解決手段】樹脂成形体表面に紫外線吸収層を形成するために用いられ、(A)紫外線吸収性モノマー20〜50質量%、(B)アクリル酸、メタクリル酸、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレートおよび2−ヒドロキシプロピルメタクリレートよりなる群から選択される1種以上の親水性モノマー30〜70質量%、(C)その他のモノマー0〜50質量%からなるモノマー混合物から合成される紫外線吸収性ポリマーを含むことを特徴とする一液型紫外線吸収性ポリマー組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑剤が含まれている樹脂製のフィルム、板等の成形体等に耐候性を付与するために形成される紫外線吸収層用の一液型紫外線吸収性ポリマー組成物に関するものであり、特に、耐可塑剤移行性や耐指紋性に優れる紫外線吸収層を形成することのできる紫外線吸収性ポリマー組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニルは、燃焼によって腐食性の塩化水素ガスを発するという短所はあるものの、透明性、強度、防湿性、耐薬品性、電気絶縁性等の各種特性に優れているため、依然として国内プラスチック生産量が第3位と上位にある。ポリ塩化ビニルは、農業用シートや、電線被覆材料等、紫外線による劣化を受けやすい屋外での用途も多い。
【0003】
一般的に、プラスチックの紫外線劣化を防止するには、プラスチックの表面に紫外線を吸収することのできる皮膜(紫外線吸収層)を設ければよいことが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2)が、ポリ塩化ビニルには、無可塑タイプを除き、可塑剤が含まれていることから、紫外線吸収層をポリ塩化ビニル製成形体表面に設けると、紫外線吸収層内へ可塑剤が移行して来て、ポリ塩化ビニル製成形体が脆くなってしまうという問題があった。また、紫外線吸収層がポリ塩化ビニル製成形体表面に設けられていない場合でも、紫外線吸収層を有する部材とポリ塩化ビニル製成形体が接したときに、紫外線吸収層内へ可塑剤が移行して、両者が融着して容易に剥がすことができなくなるといった不具合が発生していた。
【0004】
また、一方で、紫外線吸収層ではないが、特定組成のアクリル系粘着剤に可塑剤を配合し、さらにイソシアネートで架橋することにより、ポリ塩化ビニル基材から粘着剤層への可塑剤の移行を抑制する技術が開発されている(特許文献3)。
【0005】
しかし、紫外線吸収層を形成するための塗工液に架橋剤を配合した後は、貯蔵安定性に乏しいため、直ぐに塗工しなければならず、何らかの原因で製造ラインが止まったりすると、塗工液を廃棄しなければならなくなる。また、架橋剤で架橋するには、製造設備として加熱炉が必要となる。さらに長時間の養生も必要となるため、生産コスト・生産効率的に望ましくない。
【特許文献1】特開平11−348199号公報
【特許文献2】特開平8−48802号公報
【特許文献3】特開平5−43863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献2には、農業用塩化ビニル系樹脂フィルムの片面に紫外線吸収層を設けることが記載されているが、可塑剤の移行の問題については何ら触れられていない。また、特許文献3の技術では、上記したように、生産コスト・生産効率的に好ましくない。
【0007】
そこで本発明では、可塑剤を含む樹脂製のフィルムや板等の成形体に別体の紫外線吸収層を接触させる場合や、前記成形体表面に紫外線吸収層を設ける場合を考慮して、架橋剤で架橋することなく、耐候性はもとより、耐可塑剤移行性に優れ、塗膜としての諸特性(耐指紋性、耐ブロッキング性)も良好な紫外線吸収層を形成し得る紫外線吸収性ポリマー組成物の提供を課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、樹脂成形体表面に紫外線吸収層を形成するために用いられる紫外線吸収性ポリマー組成物であって、
(A)紫外線吸収性モノマー20〜50質量%、
(B)アクリル酸、メタクリル酸、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレートおよび2−ヒドロキシプロピルメタクリレートよりなる群から選択される1種以上の親水性モノマー30〜70質量%、
(C)その他のモノマー0〜50質量%、
からなるモノマー混合物から合成される紫外線吸収性ポリマーを含むところに特徴がある。
【0009】
上記その他のモノマー(C)が炭素数2以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを含む態様、紫外線吸収性ポリマーのTgが50℃以上100℃未満である態様、上記親水性モノマー(B)が、2−ヒドロキシエチルメタクリレートおよび/または2−ヒドロキシプロピルメタクリレートである態様、上記紫外線吸収性モノマー(A)が、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収性モノマーを含む態様は、いずれも本発明の好ましい実施態様である。
【0010】
本発明には、一液型紫外線吸収性ポリマー組成物を樹脂成形体表面に塗布することにより紫外線吸収層を積層した紫外線吸収性積層体も含まれる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一液型紫外線吸収性ポリマー組成物は、架橋剤を用いずとも、耐可塑剤移行性に優れ、塗膜としての諸特性(耐指紋性、耐ブロッキング性)も良好な紫外線吸収層を形成することができた。従って、樹脂成形体表面、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂製の農業用フィルムや電線被覆層等の表面に、良好な特性の紫外線吸収層を形成することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、一液型紫外線吸収性ポリマー組成物に関する。ここで、「一液型」とは、架橋剤を配合せずに、紫外線吸収層を形成するために用いられるという意味である。
【0013】
本発明の一液型紫外線吸収性ポリマー組成物の主成分である紫外線吸収性ポリマーは、 (A)紫外線吸収性モノマー20〜50質量%、
(B)アクリル酸、メタクリル酸、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレートおよび2−ヒドロキシプロピルメタクリレートよりなる群から選択される1種以上の親水性モノマー30〜70質量%、
(C)その他のモノマー0〜50質量%、
からなるモノマー混合物から合成される。
【0014】
紫外線吸収性モノマー(A)は、紫外線吸収性基を有し、耐候性を確保するために必要なモノマーである。紫外線吸収性モノマー(A)としては、下記式(1)で示されるベンゾトリアゾール系モノマーが好適例として挙げられる。
【0015】
【化1】

(式中、R1は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、シアノ基またはニトロ基を表し、R2は、炭素数1〜8のアルキレン基を表し、R3は、水素原子またはメチル基を表し、R4は、水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す。)
【0016】
上記ハロゲン原子とは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素のいずれかを表す。炭素数1〜8のアルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の鎖式アルキル基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等の脂環式アルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ベンジル基、フェネチル基等の芳香族アルキル基;等を挙げることができる。炭素数1〜6のアルコキシ基とは、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基である。
【0017】
2で表される炭素数1〜6のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等の直鎖状アルキレン基;イソプロピレン基、イソブチレン基、sec−ブチレン基、t−ブチレン基、イソペンチレン基、ネオペンチレン基等の分枝鎖状アルキレン基;等を挙げることができる。
【0018】
上記式(1)で表される化合物の具体例として、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシメチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチル−3’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−5−メトキシ−2H−ベンゾトリアゾール等を挙げることができる。これらのモノマーは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0019】
紫外線吸収性モノマーとして、下記式(2)で示されるベンゾフェノン系モノマーを用いてもよい。
【0020】
【化2】

(式中、R5はR4と、R6はR3と同じ意味を表し、R7は水素原子または水酸基を表し、R8は水素原子または炭素数1〜6のアルコキシ基を表し、R9は炭素数1〜10のアルキレン基、または炭素数1〜10のオキシアルキレン基を表し、X1はエステル結合、アミド結合、エーテル結合、またはウレタン結合を表す。mは0または1を表す。)
【0021】
上記式(2)において、炭素数1〜10のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基等を挙げることができる。炭素数1〜6のアルキレン基が好ましい。また、炭素数1〜10のオキシアルキレン基としては、例えば、オキシメチレン基、オキシエチレン基、オキシプロピレン基等を挙げることができる。
【0022】
ベンゾフェノン系モノマーの好ましい具体例としては、2−ヒドロキシ−4−(メタ)アクロイルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]エトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]ブトキシベンゾフェノン、2,2'−ジヒドロキシ−4−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]エトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]エトキシ−4'−(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−4−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]エトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−4−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]ブトキシベンゾフェノン等を挙げることができる。これらのモノマーは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0023】
また、下記式(3)で表されるトリアジン系紫外線吸収性モノマーを用いてもよい。
【0024】
【化3】

【0025】
(式中、R10〜R17はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、または炭素数1〜10のアルコキシ基を表し、R18は水素原子またはメチル基を表し、X2は、−(CH2CH2O)n−、−CH2CH(OH)−CH2O−、−(CH2)p−O−、−CH2CH(CH2OR19)−O−、−CH2CH(R19)−O−、または、−CH2(CH2)qCOO−X3−O−を表し、R19は炭素数1〜10のアルキル基を表し、X3は、メチレン基、エチレン基、または、−CH2CH(OH)−CH2−を表し、pは1〜20の整数を表し、qは0または1を表す。)
【0026】
トリアジン系モノマーの具体例としては、2,4−ジフェニル−6−[2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロイルオキシ)フェニル]−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2−メチルフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2−メトキシフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2−エチルフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2−エトキシフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−[2−ヒドロキシ−4−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2−メチルフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2−メトキシフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2−エチルフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2−エトキシフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2,4−ジメトキシフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2,4−ジエトキシフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2,4−ジエチルフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]−1,3,5−トリアジン、2−[2−ヒドロキシ−4−(11−アクリロイルオキシ−ウンデシルオキシ)フェニル]−4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン、2−[2−ヒドロキシ−4−(11−メタクリロイルオキシ−ウンデシルオキシ)フェニル]−4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン、2−[2−ヒドロキシ−4−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]−4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン、2−[2−ヒドロキシ−4−(11−アクリロイルオキシ−ウンデシルオキシ)フェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(11−メタクロイルオキシウンデシルオキシ)フェニル]−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(2−メタクロイルオキシエトキシ)フェニル]−1,3,5−トリアジン等を挙げることができる。これらのモノマーは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0027】
前記ベンゾトリアゾール系紫外線吸収性モノマーとは異なる構造の下記ベンゾトリアゾール系モノマー(4)も好適に用いることができる。
【0028】
【化4】

(式中、R20は水素結合を形成し得る元素を有する基を表し、R21は、水素原子またはメチル基を表し、R22は、水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、R23は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、シアノ基またはニトロ基を表す。)
【0029】
上記において、水素結合を形成し得る元素を有する基としては、例えば、−NH−、−CH2NH−、−OCH2CH(OH)CH2O−、−CH2CH2COOCH2CH(OH)CH2O−等を挙げることができる。これらの基のうち、活性水素を有する窒素原子が含まれている点で、−NH−、−CH2NH−が好適であり、−CH2NH−が特に好適である。
【0030】
上記において、炭素数1〜12のアルキル基としては、例えば、上記炭素数1〜8のアルキル基として列挙した上記の置換基に加えて、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等の直鎖状または分枝状アルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ベンジル基、フェネチル基等の芳香族アルキル基;等を挙げることができる。これらの置換基のうち、炭素数4〜12の直鎖状または分岐状アルキル基が好適であり、1,1,3,3−テトラメチルブチル基等の嵩高い分岐状アルキル基(またはこれらを有している基)が特に好適である。
【0031】
上記式(4)で表されるベンゾトリアゾール系モノマーの具体例としては、2−[2’−ヒドロキシ−3’−(メタ)アクリロイルアミノフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−(メタ)アクリロイルアミノメチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−(メタ)アクリロイルアミノ−5’−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−(メタ)アクリロイルアミノメチル−5’−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール等を挙げることができる。これらのモノマーは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0032】
なお、これらのモノマーのうち、嵩高い置換基R22が5位に結合している、2−[2’−ヒドロキシ−3’−(メタ)アクリロイルアミノ−5’−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、および、2−[2’−ヒドロキシ−3’−(メタ)アクリロイルアミノメチル−5’−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾールが好適である。
【0033】
上記式(1)または(4)で示されるベンゾトリアゾール系モノマーは、例えば、対応するベンゾトリアゾール(紫外線吸収剤として市販されている)に(メタ)アクリル酸クロライドやN−メチロールアクリルアミドまたはそのアルキルエーテルを反応させる等の方法で合成することができる。例えば、2−[2’−ヒドロキシ−3’−メタクリロイルアミノ−5’−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾールは、2−[2’−ヒドロキシ−3’−アミノ−5’−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニル]−ベンゾトリアゾールとメタクリル酸クロライドを反応させて得ることができる。また、2−[2’−ヒドロキシ−3’−メタクリロイルアミノメチル−5’−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾールは、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニル]−ベンゾトリアゾール(例えば、CYASORB(登録商標)UV−5411、CYTEC社製)にN−メチロールアクリルアミド(例えば、日東化学工業株式会社製等)を反応させて得ることができる。
【0034】
上記の紫外線吸収性モノマーは、紫外線吸収性ポリマーの原料であるモノマー混合物100質量%中、20〜50質量%の範囲で用いる。紫外線吸収性モノマーを多く用いるほど得られるポリマーの紫外線吸収能は高くなるが、紫外線吸収性モノマーは常温(25℃)で固体状であり、そもそも溶媒に溶けにくいため、50質量%を超えて用いようとすると、溶液重合の際の溶媒量を多くせざるを得ず、塗工に適した粘度にするのに煩雑な処理が必要となる。また、紫外線吸収性モノマーは疎水性が高いため、親水性モノマーの使用で紫外線吸収層を親水性にして耐可塑剤移行性を高める、という本発明の効果を阻害する。紫外線吸収性モノマー量が上記範囲であれば、好適な不揮発分濃度で溶液重合を行うことができ、しかも、薄膜でも充分な耐候性を確保することができる。より好ましい下限は25質量%、より好ましい上限は45質量%である。
【0035】
本発明の紫外線吸収性ポリマーは、紫外線吸収性モノマー(A)の他に、親水性モノマー(B)を必須構成モノマーとする。
【0036】
本発明で用い得る親水性モノマー(B)は、アクリル酸、メタクリル酸、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレートおよび2−ヒドロキシプロピルメタクリレートよりなる群から選択される1種以上のモノマーである。親水性モノマー(B)は紫外線吸収層の親水性を高めるため、可塑剤を含む樹脂製成形体から疎水性の可塑剤が紫外線吸収層へ移行してくるのを有効に抑制する。また、上記6種類のモノマーは、それぞれのホモポリマーのTgが比較的高いため、得られる紫外線吸収性ポリマーのTgを後述する好適範囲に調整するのに好適である。耐可塑剤移行性や耐指紋性の観点からは、2−ヒドロキシエチルメタクリレートと2−ヒドロキシプロピルメタクリレートが好ましい。なお、親水性モノマーとしては、側鎖にオキシアルキレン鎖を有する、例えば、アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等の側鎖の長い親水性モノマーも知られているが、耐可塑剤移行性を確保できる量を共重合すると得られる紫外線吸収性ポリマーのTgがかなり低くなるため、耐可塑剤移行性、耐指紋性、耐ブロッキング性等の各特性が劣化し、本発明には好適でない。
【0037】
上記親水性モノマー(B)は、紫外線吸収性ポリマーの原料であるモノマー混合物100質量%中、30〜70質量%の範囲で用いる。30質量%より少ないと、耐可塑剤移行性や耐指紋性が発現しない。70質量%を超えても、耐可塑剤移行性が低下する。また、紫外線吸収層が吸湿し易くなって耐ブロッキング性が低下するため好ましくない。より好ましい親水性モノマー(B)の量の下限は40質量%であり、上限は60質量%である。
【0038】
本発明の紫外線吸収性ポリマーの原料モノマー混合物には、紫外線吸収性モノマー(A)と親水性モノマー(B)以外の、その他のモノマー(C)が含まれていてもよい。このその他のモノマー(C)としては、紫外線吸収性モノマー(A)および親水性モノマー(B)との共重合が可能なモノマーであれば特に限定されないが、耐候性に優れたポリマーを合成することができ、紫外線吸収性モノマー(A)との共重合性が良好な(メタ)アクリレート類が好ましい。より好ましいのは、炭素数2以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートである。具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート等である。紫外線吸収性ポリマーのTgや紫外線吸収層の物性を考慮すると、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等が好ましい。
【0039】
また、その他のモノマー(C)としては、上記以外の(メタ)アクリレート類;酢酸ビニル等のビニルエステル類;トリフルオロエチル(メタ)アクリレート等のハロゲン含有モノマー類;アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン等の窒素含有モノマー類;ビニルメチルエーテル等のビニルエーテル類;4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン(例えば、ADEKA社製「アデカスタブ(登録商標)LA87」)、4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン(例えば、ADEKA社製「アデカスタブ(登録商標)LA−82」)、4−(メタ)アクリロイルアミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等の紫外線安定性モノマー類;スチレン等のスチレン誘導体類;等も使用可能である。
【0040】
上記その他のモノマー(C)は、紫外線吸収性ポリマーの原料であるモノマー混合物100質量%中、0〜50質量%の範囲で用いる。より好ましい上限は20質量%である。その他のモノマー(C)が多すぎると、結果的に紫外線吸収性モノマー(A)や親水性モノマー(B)の量が少なくなって、充分な耐候性や耐可塑剤移行性等を確保することができない。
【0041】
紫外線吸収性モノマー(A)、親水性モノマー(B)およびその他のモノマー(C)からなるモノマー混合物を重合することで、本発明の紫外線吸収性ポリマーを合成することができる。紫外線吸収性ポリマーを合成する際の重合方法には、公知の重合法、例えば溶液重合法、塊状重合法、水溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などを使用することができるが、特に、溶液重合法は、得られた反応生成物をそのままあるいは希釈するだけで本発明の紫外線吸収性ポリマー組成物として用いることができることから好ましい。
【0042】
溶液重合の際に用いる有機溶媒としては、トルエン、キシレン、その他の芳香族系溶媒;n−ブチルアルコール、プロピレングリコールメチルエーテル、ダイアセトンアルコール、エチルセロソルブなどのアルコール系溶媒;酢酸ブチル、酢酸エチル、セロソルブアセテートなどのエステル系溶媒;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;ジメチルホルムアミドなどを使用することができる。使用する有機溶媒の種類はこれらに限定されるものではない。これらの有機溶媒は1種のみを使用してもよいし、2種以上を混合溶媒として使用してもよい。有機溶媒の使用量は、モノマー濃度や、紫外線吸収性ポリマーの所望の分子量、あるいはポリマー溶液濃度などを考慮して適宜定めればよい。
【0043】
溶液重合に用いることのできる重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビス−(2−ジメチルバレロニトリル)、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイドなどの公知のラジカル重合開始剤を挙げることができる。重合開始剤の使用量は、特に限定はないが、モノマー混合物100質量部に対し0.01質量部以上が好ましく、0.05質量部以上がより好ましく、30質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。また必要に応じて、例えば、n−ドデシルメルカプタンのような連鎖移動剤を1種以上添加し、紫外線吸収性ポリマーの分子量を調整してもよい。
【0044】
本発明では、溶媒に溶解しにくい紫外線吸収性モノマー(A)を比較的多量に用いているので、溶液重合をするに際しては、モノマー滴下法ではなく、一括仕込み重合法を用いることが好ましい。すなわち、固体(通常、粉体)である紫外線吸収性モノマー(A)、親水性モノマー(B)、その他のモノマー(C)、重合溶媒といった、重合開始剤以外の原料を先に一括して反応容器に仕込み、80℃程度に加熱しながらよく撹拌して、紫外線吸収性モノマー(A)を、溶媒とモノマー(B)および(C)の混合物に溶解させてから、重合開始剤を添加して重合を開始するとよい。モノマー滴下法では、滴下ロートに加熱手段を設けなければ、紫外線吸収性モノマーが析出してくるおそれがある。なお、重合開始剤は溶媒と共に滴下しても構わない。
【0045】
重合反応の温度は、50℃〜120℃程度が好ましい。50℃よりも低温では、一旦溶媒に紫外線吸収性モノマーを溶解させても、固体として析出してくるおそれがあるからである。反応時間は、用いるモノマー混合物の組成や重合開始剤の種類などに応じて、重合反応が効率よく完結し得るように適宜設定すればよい。
【0046】
紫外線吸収性ポリマーの質量平均分子量(Mw)は、3000〜20万が好ましい。Mwが3000より小さいと、耐可塑剤移行性が不充分となるおそれがある。Mwが20万を超えると、紫外線吸収性ポリマー組成物のレベリング性が低下して、紫外線吸収層の外観が悪くなる場合があるため好ましくない。
【0047】
また、紫外線吸収性ポリマーの好ましいTgは50℃以上〜100℃未満である。50℃よりも低いと、耐指紋性、耐可塑剤移行性、耐ブロッキング性が不充分となるおそれがある。Tgが100℃以上になると、紫外線吸収層の加工性が低下することがあるため、好ましくない。より好ましいTgの範囲は75℃以上95℃以下である。TgはDSC(示差走査熱量測定装置)やTMA(熱機械測定装置)によって求めることができる。また、下記式によって求められる計算値を目安とすると、簡便である。
【0048】
【数1】

【0049】
式中、Tgはガラス転移温度(K)を示し、W、W、…Wは、各モノマーの質量分率を示し、Tg、Tg、…Tgは、対応するモノマーのホモポリマーのガラス転移温度(K)を示す。なお、ホモポリマーのTgは、「POLYMER HANDBOOK 第4版」(John Wiley & Sons, Inc.発行)等の刊行物に記載されている数値を採用すればよい。
【0050】
本発明の紫外線吸収性ポリマー組成物は、上記溶液重合による生成物であり、紫外線吸収性ポリマー溶液である。塗工に適した粘度にするために、さらに溶媒で希釈してもよい。また、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系、インドール系等の有機系紫外線吸収剤や酸化亜鉛等の無機系紫外線吸収剤;立体障害ピペリジン化合物(例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製の「チヌビン(登録商標)123」、「チヌビン144」、「チヌビン765」等)等の添加型の紫外線安定剤;塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂等の他の樹脂;レベリング剤、酸化防止剤、タルク等の充填剤、防錆剤、蛍光性増白剤、酸化防止剤、帯電防止剤、顔料、染料、増粘剤、コロイダルシリカ、アルミナゾル等の無機微粒子やポリメチルメタクリレート系のアクリル系微粒子、成膜助剤等の塗料分野で一般的な添加剤を添加してもよい。これらの他の添加成分は、紫外線吸収層における本発明の紫外線吸収性ポリマー量が50質量%以上(より好ましくは80質量%以上)になるように使用することが望ましい。
【0051】
本発明の一液型紫外線吸収性ポリマー組成物には、架橋剤は配合しない。前記したとおり、架橋剤を配合することによるデメリットを避けるためである。
【0052】
本発明の一液型紫外線吸収性ポリマー組成物は、可塑剤を含む樹脂成形体の表面に塗工され、紫外線吸収層を形成する。これにより、耐可塑剤移行性に優れた紫外線吸収層を備えた積層体を得ることができる。また、可塑剤を含まない樹脂成形体の表面に塗工してもよい。可塑剤を含む樹脂と接触した場合でも、可塑剤が紫外線吸収層へ移行しにくいため、紫外線吸収層と、可塑剤を含む樹脂とが融着して、剥がれにくくなるのを防止することができる。
【0053】
可塑剤としては、ジオクチルフタレート(DOP)、ジノニルフタレート(DNP)、ジイソノニルフタレート(DINP)等のフタレート類;ジオクチルアジペート(DOA)等のアジペート類;トリクレジルフォスフェート(TCP)等のリン酸エステル類;トリメリット酸エステル類;ポリエステル系可塑剤;エポキシ系可塑剤;エポキシ化大豆油等が挙げられる。
【0054】
樹脂成形体の素材としては、ポリ塩化ビニル樹脂やそのコポリマー類の他、ポリカーボネート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ABS系樹脂、ポリスチレン系樹脂等が挙げられる。また、トリアセチルセルロース、ポリエーテルスルホン、芳香族ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂等に適用してもよい。さらには、「ARTON(登録商標)」(JSR社製)、「ZEONEX(登録商標)」(日本ゼオン社製)、「OPTREZ(登録商標)」(日立化成社製)等の光学用樹脂等に適用してもよい。
【0055】
また、下記一般式(5)
【0056】
【化5】

【0057】
[式中、R24、R25、R26は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。]
で示されるラクトン構造を有するポリマーのフィルムであってもよい。上記有機残基としては、炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキレン基、芳香環等を挙げることができる。
【0058】
上記成形体の形状や製法はどのようなものでもよく、特に限定はないが、汎用性の高いものは、平板状や曲板状、波板状等の板状あるいはフィルム状のものである。上記樹脂から成形体を形成する際には、従来公知の添加剤が添加されていてもよい。また、木目印刷等の印刷を施した意匠性のある樹脂基材を使用することも可能である。
【0059】
紫外線吸収性ポリマー組成物を成形体に塗布する方法としては、浸漬、吹き付け、刷毛塗り、カーテンフローコート、グラビアコート、ロールコート、スピンコート、バーコート等の公知の塗工方法がいずれも採用可能である。
【0060】
紫外線吸収層の紫外線吸収性能は、層の厚みと、Lambert−Beerの法則により、ポリマーに導入されている紫外線吸収性基の量、すなわち重合の際の紫外線吸収性モノマーの使用量に依存する。従って、ポリマー中の紫外線吸収性基の量と、紫外線吸収層に要求される耐候性や紫外線吸収性能を勘案して、紫外線吸収層の厚さを決定すればよいが、本発明の紫外線吸収性ポリマーの原料モノマー混合物には、紫外線吸収性モノマーが比較的多く含まれているので、紫外線吸収層を薄膜化しても充分な耐光性が確保できるため、0.3〜10μmが好適である。0.3μmよりも薄膜では、耐可塑剤移行性、耐指紋性、耐候性が低下し、10μmを超えると、塗膜の乾燥性が低下し、耐指紋性や耐ブロッキング性が不充分となることがあるため、好ましくない。
【0061】
本発明の組成物を成形体に薄膜状に塗布して紫外線吸収層を形成するときの乾燥温度は、通常、室温(あるいは外気温)〜200℃で乾燥させるのが好ましい。
【0062】
本発明の紫外線吸収性積層体は、成形体と紫外線吸収層(成形体と紫外線吸収層との間に可塑剤移行性の他の層があっても構わない)の積層構造である場合、紫外線吸収層が耐水性・強度・耐候性等種々の特性に優れているものであるため、このまま種々の用途に活用することができるが、最表面に、ハードコート層を備える構造のものであってもよい。ハードコート層は、高硬度で耐擦傷性に優れた塗膜を形成することのできる樹脂を用いて形成することが好ましく、このような樹脂であれば特に限定されないが、例えば、特開2000−177070号公報で開示されているようなシリコーン系硬化性樹脂や有機系硬化性樹脂等が好ましく使用できる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例および比較例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるわけではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお下記実施例および比較例において、「部」および「%」とあるのは、それぞれ質量部および質量%を表す。
【0064】
合成例1
撹拌機、滴下口、温度計、冷却管および窒素ガス導入口を備えたフラスコに、粉体の2−〔2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾールを20部、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート30部、メチルメタクリレート50部、酢酸エチル30部とメチルエチルケトン50部を仕込んで、窒素ガスを流入しながら撹拌し、80℃まで昇温した。滴下槽に酢酸エチル20部と2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1部の混合物を仕込み、2時間かけて滴下した。滴下が終了してから2時間経過後に還流反応を始め、滴下終了時から6時間経過したところで、反応系を冷却した。反応生成物を不揮発分が40%となるようにメチルエチルケトンで希釈した。得られた紫外線吸収性ポリマーNo.1の質量平均分子量(Mw)は72000であり、Tgは79℃であった。
【0065】
[Mwの測定]
GPC装置:「HLC−8120GPC」(東ソー社製)と、カラム:TSK−GEL GMHXL−Lを用いて、ポリスチレン標準試料換算値をMwとした。
【0066】
[Tgの測定]
ポリマー溶液を200℃で15分乾燥し、乾燥物を乳鉢で粉砕した。この粉砕試料10mgを簡易密封容器に詰め、DSC装置:「DSC6200」(Seiko Instruments Inc.社製)を用いて、窒素気流下、20℃から170℃まで、昇温速度10℃/分で昇温後、30℃/分で20℃まで急冷した。5分後に再び20℃から170℃まで昇温速度10℃/分で昇温し、得られたDSC曲線のピークの中点をガラス転移温度(℃)とした。
【0067】
合成例2〜11
表1に示した組成に変更した以外は、合成例1と同様にして紫外線吸収性ポリマーNo.2〜11を合成した。
【0068】
実施例および比較例
表2に示したNo.の紫外線ポリマーを用い、各特性を評価した。合成例で得た不揮発分40.0%のポリマー溶液をメチルエチルケトンで不揮発分が30%になるまで希釈して、紫外線吸収性ポリマー組成物(塗工液)を調製した。これを片面が易接着処理された厚み188μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(「コスモシャイン(登録商標)A4100」;東洋紡績社製)にバーコーターで塗工して、80℃で1分乾燥し、乾燥膜厚が3μmの紫外線吸収層を形成した。得られた積層体(PETフィルム+紫外線吸収層)について、下記特性を評価し、結果を表2に示した。
【0069】
なお、比較例7は、ポリマーNo.8の100部に対し、イソシアネート系架橋剤「デスモジュール(登録商標)N3200」(住化バイエルウレタン社製)10部添加し、メチルエチルケトンで不揮発分30%になるまで希釈して、紫外線吸収性ポリマー組成物(塗工液)を調製した例である。
【0070】
[耐候性]
上記積層体を紫外線劣化促進試験機(「アイスーパーUVテスター UV−W131」:岩崎電気社製)にセットして、80℃、60%RHの雰囲気下で、紫外線吸収層側から100mW/cm2の紫外線を8時間連続照射した。照射後の積層体を白い紙の上に置いて、塗膜外観を目視で観察し、全く黄変がないか、ほとんど黄変のないものを○、黄変があるものを×とした。
【0071】
[耐指紋性]
上記積層体の紫外線吸収層の表面に指紋を付着させた後、80℃の雰囲気下に4時間および8時間放置した。放置後の塗膜外観を目視で観察し、外観に全く異常がないものを○、微小クラックがわずかにあるものを△、微小クラックが多数あるものを×とした。
【0072】
[耐可塑剤移行性]
軟質ポリ塩化ビニルフィルム(「アルトロン(登録商標)#3300;厚み0.1mm;三菱化学MKV社製」)の表面に、上記積層体の紫外線吸収層を密着させ、60℃の雰囲気下で、48時間、96時間および144時間放置し、ポリ塩化ビニルフィルムを剥がした。紫外線吸収層表面に可塑剤が移行した場合は、ポリ塩化ビニルフィルムと紫外線吸収層が付着するので、両者を剥離した場合に紫外線吸収層表面に油を塗ったような剥がし跡が残る。このような跡残りの全くないものを○、わずかに跡残りがあるものを△、著しく跡残りがあるものを×とした。
【0073】
[耐ブロッキング性]
上記積層体を形成した後、直ぐに、紫外線吸収層表面にガーゼ(日本薬局方のガーゼ:タイプ1:萬星衛生材料社から入手)を5枚重ねておき、100g(直径1cm)の分銅を載せた。塗膜面にガーゼ痕が付かなくなるまでの時間を測定し、30分未満を○、30分以上1時間未満を△、1時間以上を×として評価した。
【0074】
[塗工液の貯蔵安定性]
上記で調製した紫外線吸収性ポリマー組成物(塗工液)を、容器に入れて密栓した後、30℃で8時間放置した。放置前後の粘度(B型粘度計による25℃での粘度)の上昇率から、貯蔵安定性を判断した。上昇率は、100×(8時間放置後の粘度)/(放置する前の粘度)で求めた。粘度変化のないものを○、上昇率が50%以上のものを×とした。
【0075】
なお、表1中の略語は以下の意味である。
UVA:2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
HPMA:2−ヒドロキシプロピルメタクリレート
MAA:メタクリル酸
CHMA:シクロヘキシルメタクリレート
M−90G:メトキシポリエチレングリコール#400メタクリレート:「NKエステルM−90G」(新中村化学工業社製)
MMA:メチルメタクリレート
EMA:エチルメタクリレート
PGME:プロピレングリコールモノメチルエーテル
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の一液型紫外線吸収性ポリマー組成物は、架橋剤を用いずとも、耐可塑剤移行性に優れ、塗膜としての諸特性(耐指紋性、耐ブロッキング性)も良好な紫外線吸収層を形成することができた。従って、可塑剤を含む樹脂成形体表面、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂製の農業用フィルム、パスケース、カードケース、ファイルシート、電線被覆層、屋外貯蔵タンク、波板等の表面に、良好な特性の紫外線吸収層を形成することができる。
【0079】
本発明の一液型紫外線吸収性ポリマー組成物は、可塑剤を含む樹脂成形体と接触する可能性のある、可塑剤を含まない樹脂成形体表面に耐可塑剤移行性に優れた紫外線吸収層を形成するためにも、利用することができる。
【0080】
また、内容物や基材を紫外線から保護するための劣化保護用途、例えば、薬品・食品等を包装する材料やガラス瓶等に紫外線吸収層を形成するためのコーティング剤として利用可能である。染料等の色素の退色防止用コーティング剤としてや、フッ素樹脂フィルム等のプラスチック基材同士を貼り合わせする際の粘着剤や接着剤、あるいはシリコーン系やアクリル系のハードコート層用のプライマーとしても使用できる。さらには、耐候性記録液、繊維処理剤、絶縁素子や表示素子の絶縁用コーティング剤としても用い得る。
【0081】
本発明の紫外線吸収性積層体(「フィルム」と表現される積層体も含む)は、記録材料(可逆性感熱用、溶融転写用、昇華転写用、インクジェット用、感熱用、ICカード、ICタグ等)、薬品・食品等の包装材、太陽電池用バックシート、マーキングフィルム、感光性樹脂版、粘着シート、色素増感型太陽電池、高分子固体電解質、紫外線吸収絶縁膜、各種光学フィルム(偏光板保護フィルム、反射防止フィルム、反射フィルム、光拡散フィルム等)、建築材料用フィルム(ガラス飛散防止フィルム、化粧シート、窓用フィルム)、屋内外のオーバーレイ用フィルム(表示材料、電飾看板)等として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形体表面に紫外線吸収層を形成するために用いられる紫外線吸収性ポリマー組成物であって、
(A)紫外線吸収性モノマー20〜50質量%、
(B)アクリル酸、メタクリル酸、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレートおよび2−ヒドロキシプロピルメタクリレートよりなる群から選択される1種以上の親水性モノマー30〜70質量%、
(C)その他のモノマー0〜50質量%、
からなるモノマー混合物から合成される紫外線吸収性ポリマーを含むことを特徴とする一液型紫外線吸収性ポリマー組成物。
【請求項2】
上記その他のモノマー(C)が、炭素数2以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを含む請求項1に記載の一液型紫外線吸収性ポリマー組成物。
【請求項3】
上記紫外線吸収性ポリマーのTgが、50℃以上100℃未満である請求項1に記載の一液型紫外線吸収性ポリマー組成物。
【請求項4】
上記親水性モノマー(B)が、2−ヒドロキシエチルメタクリレートおよび/または2−ヒドロキシプロピルメタクリレートである請求項1〜3のいずれかに記載の一液型紫外線吸収性ポリマー組成物。
【請求項5】
上記紫外線吸収性モノマー(A)が、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収性モノマーを含む請求項1〜4のいずれかに記載の一液型紫外線吸収性ポリマー組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の一液型紫外線吸収性ポリマー組成物を樹脂成形体表面に塗布することにより紫外線吸収層を積層したことを特徴とする紫外線吸収性積層体。

【公開番号】特開2009−79156(P2009−79156A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−250193(P2007−250193)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】