説明

紫外線硬化樹脂組成物及びそれにより成形した光学素子、積層型回折光学素子及び光学系

【課題】可視領域全域における回折効率を向上させ、且つ、フレア光やゴースト発生を低減させるとともに、各波長域における部分的な回折効率の落ち込みが発生しない微粒子分散系紫外線硬化樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】少なくとも(A)分子内にエチレン性不飽和基を有するカルバゾールモノマー又は数平均分子量(Mn)が20000〜150000の範囲のポリマー、若しくはそれらの混合物、及び(B)架橋剤、(C)光重合開始剤、(D)分散剤から成ることを特徴とする樹脂が、(E)ITO微粒子を含有して紫外線硬化樹脂組成物を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折光学素子及び回折光学素子の光学素子に使用される紫外線硬化樹脂組成物に関するものである。特に、屈折率分散が高い紫外線硬化樹脂組成物及びそれにより形成された光学素子、積層型回折光学素子を有する光学系に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から光の屈折のみによって構成される屈折光学系においては、分散特性の異なる硝材を組み合わせることによって色収差を減らしている。例えば、望遠鏡等の対物レンズでは分散の小さい硝材を正レンズ、分散の大きい硝材を負レンズとし、これらを組み合わせて用いることで軸上に現れる色収差を補正している。
【0003】
このため、レンズの構成、枚数が制限される場合や使用される硝材が限られている場合等では、色収差を十分に補正することが非常に困難である。硝材の組み合わせによりレンズ系の色収差を減じる方法に対して、レンズの表面や系の一部に回折作用を有する回折光学素子を設けることでレンズ系の色収差を減じる方法が、非特許文献1や特許文献1〜3等により開示されている。この回折光学素子を用いる方法は、屈折面と回折面とでは、或る基準波長の光線に対する色収差の出方が逆方向に発現するという物理現象を利用したものである。又、回折光学素子は、その周期的構造の周期を適宜変化させることで非球面レンズ的な効果を持たせることができるので、色収差以外の収差の低減にも効果がある。
【0004】
ここで、光線の回折作用について説明する。
【0005】
一般に屈折系の光学素子である球面及び非球面レンズに入射した1本の光線は、その球面及び非球面で屈折した後も1本の光線となる。これに対し、回折系の光学素子である回折光学素子に入射した1本の光線は、回折作用により各次数の複数の光に分かれる。そのため、光学系として用いられた回折光学素子の特長を充分に発揮させるには、使用波長領域の光束を特定次数(以後、「設計次数」とも言う)に集中させなければならない。
【0006】
使用波長領域の光束が設計次数に集中している場合は、それ以外の回折次数の回折光の強度は非常に低いものとなる。そのため、設計次数以外の光線が設計次数の光線とは別な所に結像してしまうフレア光となることはない。使用波長領域の光束が設計次数に集中するように、回折格子の格子構造を予め決定し、回折効率を十分に高くする構成は、特許文献4〜7に開示されている。これらは複数の光学素子を組み合わせて構成されており、各光学素子の屈折率分散と光学素子の境界面に形成される格子の形状を最適に選ぶことで、広波長範囲で高い回折効率を有する構成となっている。具体的には、基板上に複数の光学材料を積層し、その境界面の少なくとも1つにレリーフパターン、階段形状、キノフォーム等を形成することで、所望の回折光学素子を形成している。
【0007】
これらの先行特許においては、広い波長範囲で高い回折効率を有する構成を得るために、相対的に屈折率分散の低い材料と屈折率分散の高い材料との組み合わせている。具体的には、特許文献4(特開平09−127321号公報)の場合は、屈折率分散の低い材料としてBMS81(nd=1.64,νd=60.1:オハラ製)を、屈折率分散の高い材料としてプラスチック光学材料PC(nd=1.58,νd=30.5:帝人化成)を用いている。同様に特許文献5(特開平09−127322号公報)の場合は、屈折率分散の低い材料としてLaL14(nd=1.698,νd=55.5:オハラ製)、アクリル樹脂(nd=1.49,νd=57.7)、Cytop(nd=1.34149,νd=93.8:旭硝子製)を、屈折率分散の高い材料としてプラスチック光学材料PC(nd=1.58,νd=30.5:帝人化成)を用いている。特許文献6(特開平11−044808号公報)及び特許文献7(特開平11−044810号公報)の場合は、屈折率分散の低い材料としてC001(nd=1.525,νd=50.8:大日本インキ製)、PMMA(nd=1.4917,νd=57.4)、BMS81(nd=1.64,νd=60.1:オハラ製)を、屈折率分散の高い材料としてプラスチック光学材料PC(nd=1.58,νd=30.5:帝人化成)、PS(nd=1.5918,νd=31.1)、等を用いている。
【0008】
又、屈折率分散の高い材料と低い材料において、屈折率分散の差が大きいほど構成される光学素子の回折効率は高くなり、光学素子の画角は広くなる。そのためには、より屈折率分散の高い(アッベ数が小さい)材料を使用することが必要であり、それにより色収差をより正確に補正することができる。
【0009】
図1は光学材料として市販されている材料の、アッベ数と屈折率を示したグラフである。図1において縦軸は屈折率(nd)、横軸はアッベ数(νd)である。前述した特許文献4〜7号に記載された光学材料は図1に含まれている。
【0010】
【非特許文献1】SPIE Vol.1354International Lens Design Conference(1990)
【特許文献1】特開平4−213421号公報
【特許文献2】特開平6−324262号公報
【特許文献3】米国特許第5,044,706号公報
【特許文献4】特開平09−127321号公報
【特許文献5】特開平09−127322号公報
【特許文献6】特開平11−044808号公報
【特許文献7】特開平11−044810号公報
【特許文献8】特開平10−268116号公報
【特許文献9】特開平16−126499号公報
【特許文献10】特開平13−074901号公報
【特許文献11】特開平16−145273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、回折光学素子の更なる機能向上のためには、単に屈折率分散の高い(アッベ数が小さい)材料を使用するだけでは、可視領域全域の回折効率は高まるがものの、使用波長領域において部分的に回折効率の落ち込みが発生してしまう。例えば、有機高分子の中でアッベ数が17.3と最も小さいことが知られているポリビニルカルバゾールを多層回折光学素子に使用した場合、使用波長領域(400nm〜700nm)において、400〜420nm、630〜700nmにおける回折効率は98%以下と非常に低いものとなり、特に短波長領域における回折効率の低下が顕著である。そのため更なる改良が必要となっている。
【0012】
そうした観点において、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、2次分散(θg, F)との関係を考慮した光学材料を使用することで、可視領域全域における回折効率を向上させるとともに、各波長域における部分的な回折効率の落ち込みが発生しない紫外線硬化樹脂組成物が開示されている(特許文献8〜11)。このれらの文献において、そうした特性を付与するために、バインダー樹脂に微粒子としてITO、ATO、ZnO等の透明導電性金属酸化物を混合、分散させることが挙げられている。
【0013】
一方で、回折光学素子においては、その形状のため光線の入射角が大きい場合、回折格子の側面に光線がけられてフレア光やゴーストが発生するという問題が重要となっている。そこで、回折格子の総厚(格子高さ)を光学設計上で薄くするために、従来の光学材料よりもより屈折率分散の大きな材料を使用することが必要である。
【0014】
このようの状況に鑑み、本発明は、単に屈折率分散の高い(アッペ数が小さい)材料を使用するだけでなく、「屈折率(nd)とアッベ数(νd)の関係」、「アッベ数(νd)と2次分散(θg,F)の関係」及び「屈折率(nd)と2次分散(θg,F)の関係」を考慮した光学材料を使用することで、可視領域全域における回折効率を向上させ、且つ、フレア光やゴースト発生を低減させるとともに、各波長域における部分的な回折効率の落ち込みが発生しない微粒子分散系紫外線硬化樹脂組成物及び光学素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そこで、本発明は、前述の課題を解決するために、以下の構成である微粒子分散系紫外線硬化樹脂組成物によって成形された光学素子、積層型回折光学素子及び該光学素子を有する光学系を提供している。
【0016】
本発明は、少なくとも(A)分子内にエチレン性不飽和基を有するカルバゾールモノマー又は数平均分子量(Mn)が20000〜150000の範囲のポリマー、若しくはそれらの混合物及び(B)架橋剤、(C)光重合開始剤、(D)分散剤から成ることを特徴とする樹脂が、(E)ITO微粒子を含有していることを特徴とする紫外線硬化樹脂組成物を提供している。
【0017】
又、本発明は、(B)架橋剤として、分子内に共重合可能な不飽和基を1個以上有する重合性モノマー若しくは数平均分子量(Mn)が1000〜5000の範囲のオリゴマーから選択された1種又はそれ以上の光硬化性化合物が、前記記載の(A)成分重量に対して10.0〜90.0重量%の範囲であることを特徴とする前記記載の紫外線硬化樹脂組成物を提供している。
【0018】
又、本発明は、前記ITO微粒子の粒径が2〜50nmであり、前記記載の(A)又は(A)+(B)成分重量に対して、5.0〜75.0重量%の範囲であることを特徴とする紫外線硬化樹脂組成物を提供している。
【0019】
又、本発明は、前記記載の紫外線硬化樹脂のアッベ数νdが30以下であることを特徴とする紫外線硬化樹脂組成物を提供している。
【0020】
又、本発明は、前記記載の紫外線硬化樹脂から成形することを特徴とする光学素子を提供している。
【0021】
又、本発明は、前記記載の光学素子の表面は、回折形状が形成された回折面であることを特徴とする回折光学素子を提供している。
【0022】
又、本発明は、前記記載の光学素子の表面は、屈折形状が形成された屈折面であることを特徴とする屈折光学素子を提供している。
【0023】
又、本発明は、前記記載の紫外線硬化樹脂により成形され、一方の表面が回折形状を有する回折面である第1の回折光学素子と、該第1の回折光学素子の紫外線硬化樹脂よりもアッベ数が大きい紫外線硬化樹脂により成形されていて、一方の表面が回折形状を有する回折面である第2の回折光学素子とを有し、該第1の回折光学素子と第2回折光学素子は、お互いの回折面が対向して配置されていることを特徴とする積層型回折光学素子を提供している。
【0024】
又、本発明は、少なくとも2層から成り、各層が異なる紫外線硬化樹脂から形成されている積層型回折光学素子において、一方の表面が回折形状を有する回折面である第1の層と、該第1の層を形成する紫外線硬化樹脂よりもアッベ数が大きいく、一方の表面が回折形状を有する回折面である第2の層とを有することを特徴とする積層型回折光学素子を提供している。
【0025】
又、本発明は、少なくとも前記記載の何れか1つの積層型回折光学素子を含むことを特徴とする光学系を提供している。
【0026】
又、本発明は、前記光学系は、投影光学系であることを特徴とする光学系を提供している。
【0027】
又、本発明は、前記光学系は、撮影光学系であることを特徴とする光学系を提供している。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、少なくとも(A)分子内にエチレン性不飽和基を有するカルバゾールモノマー又は数平均分子量(Mn)が20000〜150000の範囲のポリマー、若しくはそれらの混合物及び(B)架橋剤、(C)光重合開始剤、(D)分散剤、(E)ITO微粒子から成る微粒子分散系紫外線硬化樹脂を調整し、(B)架橋剤の種類、含有量(E)ITO微粒子の含有量をそれぞれ光学設計に合わせて最適化することで、屈折率nd、アッベ数νd、2次分散θg, Fの各々の関係を考慮した微粒子分散系紫外線硬化樹脂を得ることができる。その紫外線硬化樹脂を光学素子に用いることで、可視領域全域における回折効率を向上させ、且つ、回折格子の総厚(格子高さ)を薄く設計できることからフレア光やゴースト発生を低減させると共に、各波長域における部分的な回折効率の落ち込みが発生しない光学素子、回折光学素子、積層型回折光学素子、該光学系を実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明において、前記構成の樹脂を光学設計に合わせてそれぞれ最適に調整することで、屈折率nd、アッベ数νd、2次分散θg, Fの各々の関係を考慮した微粒子分散系紫外線硬化樹脂を得ることができる。この該紫外線硬化樹脂を成形材料として用いることにより、可視領域全域における回折効率を向上させ、且つ、回折格子の総厚(格子高さ)を薄く設計出来ることからフレア光やゴースト発生を低減させると共に、各波長域における部分的な回折効率の落ち込みが発生しないで収差をより正確に補正された光学素子を提供できる。
【0030】
本発明の紫外線硬化樹脂組成物は、以下の(A)〜(E)の成分から成ることを特徴とする。
【0031】
・(A)分子内にエチレン性不飽和基を有するカルバゾールモノマー又は数平均分子量(Mn)が20000〜150000の範囲のポリマー、若しくはそれらの混合物。
【0032】
・(B)分子内に共重合可能な不飽和基を1個以上有する重合性モノマー若しくは数平均分子量(Mn)が1000〜5000の範囲のオリゴマーである架橋剤。架橋剤の割合は(A)成分重量に対して10.0〜90.0重量%の範囲であることが好ましい。
【0033】
・(C)(A)、(B)成分の不飽和基を紫外線によって反応させるための光重合開始剤。
【0034】
・(D)(A)、(B)成分に(E)成分のITO微粒子を凝集しないよう均一に分散させるための分散剤。
【0035】
・(E)粒径が2〜50nm以下のITO微粒子。(A)又は(A)+(B)成分重量に対して、5.0〜75.0重量%の範囲であることが好ましい。
【0036】
本発明に使用する(A)成分は分子内にエチレン性不飽和基を有するカルバゾールモノマー又は数平均分子量(Mn)が20000〜150000の範囲のポリマー、若しくはそれらの混合物であるカルバゾール骨格を有する化合物で構成される。それらの樹脂は、紫外線照射することで光重合開始剤から発生したラジカルにより各分子内のエチレン性不飽和基が重合し硬化物と成り得る。分子内のエチレン性不飽和基としては、ビニル、アクリル系が望ましい。
【0037】
具体的な不飽和モノマーとしては、N−ビニルカルバゾール(9−アクリルカルバゾール)、N−アクリルカルバゾール(9−アクリルカルバゾール)、3, 6−ジビニルアミドカルバゾール、3, 6−ジアクリルアミドカルバゾール等が代表的なものとして挙げられる。又、それらのポリマーとしては数平均分子量(Mn)が20000〜150000の範囲のものが望ましい。
【0038】
一般にカルバゾール骨格を有するモノマーは、室温で結晶状態である。そのため材料調整の段階で他の化合物等と相溶させるためには加熱等により前記モノマーを溶融させる必要がある。カルバゾール骨格を有するモノマーとそれらのポリマーの混合物を得るためにはモノマーの溶融体にポリマーを相溶させる必要があり、その際にポリマーの数平均分子量が150000以上に高いと溶融したモノマーへの相溶が困難になる。モノマーとポリマーの混合物にする利点としては、最終的に得られる樹脂の粘度調整の他、硬化した際の硬化物の強度向上等が考えられる。
【0039】
これらの範囲であれば単独又は2種以上のモノマーを混合して用いることができ、又、1種以上のポリマーとの混合物としても用いることができる。この際、紫外線硬化樹脂が結晶性を伴うならば、加熱成形が必要である。
【0040】
又、本発明に使用する架橋剤としての(B)成分は分子内に共重合可能な不飽和基を1個以上有する重合性モノマー若しくは数平均分子量(Mn)が1000〜5000の範囲のオリゴマーで構成される。架橋剤としては、2種或は3種以上の不飽和基含有化合物の混合体であることが好ましく、室温で溶融体であることが好ましい。
【0041】
分子内に1個以上の2重結合や3重結合を有するものであれば、特に限定はされないが、不飽和基含有化合物のモノマー又はオリゴマーの具体的な例としては、1, 4−ジビニルシクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、4, 4−ジメチル−ヘプタ−1−エン−6−イン、ジビニルベンゼン、1, 6−ジビニルナフタレン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、エトキシ化ビスフェノールAジビニルエーテル、プロポキシ化ビスフェノールAジビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の単官能のアクリレートやメタクリレート;ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ネオベンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ (メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリ(アクリロイロキシエチル)イソシアヌレート、クリセリンやトリメチロールエタン等の多価アルコールにエチレンオキサイドやプロピレンオキサイドを付加させた後(メタ)アクリレート化したもの、特公昭48−417G8号、特公昭50−6034号、特開昭51−37193号各公報に記載されているようなウレタンアクリレート類、特開昭48−64183号、特公昭49−43191号、特公昭52−30490号各公報に記載されているポリエステルアクリレート類、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸を反応させたエポキシアクリレート類等の多官能のアクリレートやメタクリレートを挙げることができる。
【0042】
これら架橋剤の割合は(A)成分重量に対して10.0〜90.0重量%の範囲であることが好ましい。これらの範囲であれば特に限定されることはないが、光学系の光学設計に基づいて最終的な樹脂として要求される屈折率nd、アッベ数νd、2次分散θg, F特性を(B)架橋剤含有量の調整によって適宜調節することが可能である。
【0043】
又、前述した樹脂としての(A)成分は、単独でも用いることが可能であるが、単独であると室温で結晶性を有していることが考えられる。この場合、成形時には加熱が必要となりやや利便性に欠けることとなる。そのため(B)架橋剤の含有量を調整することで、要求特性の調節と共に最終的に得られる樹脂の結晶化を防止することができる。これにより室温で溶融状態を保つことができる樹脂を調整可能であり、成形等の際、加熱の必要がなくなる。室温で(A)成分の結晶化を防止するためには、(A)成分重量に対して(B)架橋剤を60. 0重量%以上含有することが好ましい。
【0044】
又、本発明に使用する(C)成分は(A)又は(A)+(B)成分の不飽和基を紫外線によって反応させるための光重合開始剤である。光重合開始剤としては、ラジカル開始剤を利用して、光照射によるラジカル生成機構を利用するものとでき、通常、レンズ等のレプリカ成形に好ましいものとなる。前記樹脂において、具体的に利用可能な光重合開始剤としては、例えば、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−1−ブタノン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、ビス(2, 46, −トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、4−フェニルベンゾフェノン、4−フェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジフェニルベンゾフェノン、4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン等を好適なものとして挙げることができる。
【0045】
尚、樹脂に対する光重合開始剤の添加比率は、光照射量、更には、付加的な加熱温度に応じて適宜選択することができ、又、得られる重合体の目標とする平均分子量に応じて、調整することもできる。本発明に係る樹脂の硬化・成形に利用する場合、可視光に吸収を有する(E)成分のITO微粒子の含有量にもよって異なってくるが、(A)、(B)成分重量に対して、光重合開始剤の添加量は0.01〜10.00重量%の範囲に選択することが好ましい。光重合開始剤の添加量の量が多過ぎと得られた硬化物が黄変する場合があるため、更に好ましくは0.01〜3.00重量%の範囲に選択することが望ましい。
【0046】
又、本発明に使用する(D)成分は、(A)又は(A)+(B)成分中に(E)成分のITO微粒子を凝集しないよう均一に分散させるための分散剤(界面活性剤)である。一般に分散剤を用いて微粒子を樹脂に分散する場合、分散剤に関して、添加する分散剤の種類、添加量、分子量、極性、親和性等によって全く異なった分散状態を示すことが知られている。本発明に使用する分散剤としては顔料の誘導体や樹脂型の分散剤や活性剤型の分散剤を好適に用いることができる。
【0047】
ここで、分散剤としては、カチオン系、弱カチオン系、ノニオン系或は両性界面活性剤が有効である。特に、ポリエステル系、ε−カプロラクトン系、ポリカルボン酸塩、ポリリン酸塩、ハイドロステアリン酸塩、アミドスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩、オレフィンマレイン酸塩共重合物、アクリル−マレイン酸塩共重合物、アルキルアミン酢酸塩、アルキル脂肪酸塩、脂肪酸ポリエチレングリコールエステル系、シリコン系、フッ素系を用いることができるが、本発明においてはアンモニア及び有機アミン類から選択される少なくとも一種の塩基を用いることが望ましい。
【0048】
具体的には、ディスパービックシリーズ(ビッグケミー・ジャパン社製)の中ではディスパービック161、162、163、164、ソルスパースシリーズ(ゼネガ社製)の中ではソルスパース3000、9000、17000、20000、24000、41090或はTAMNシリーズ(日光ケミカル社製)の中ではTAMN−15等のアルキルアミンのPO若しくはEO変成物がある。
【0049】
斯かる分散剤として添加する量としては、大きく分けて分散剤の種類、微粒子の種類、微粒子を混合する分散樹脂の種類等、分散溶媒の種類に応じて異なってくるが、本発明においては(E)ITO微粒子の重量に対して0.1〜25.0重量%の範囲であることが望ましい。分散剤の添加量が多すぎると白濁の原因となり光学的散乱が生じてしまうため、又、微粒子を含有して得られた樹脂の特性(屈折率、アッベ数、2次分散、弾性率等)を必要以上に低下させてしまうため、好ましくは8.0〜20.0重量% の範囲であることが望ましい。又、分散剤は1種類のみで使用することもできるし、2種類以上を併用して使用することもできる。
【0050】
本発明に用いるITO微粒子においては、分散安定性を良好にし光学的散乱を低減するためにはその粒径が2〜50nmであることが望ましい。更には、レイリー散乱による透過光強度の減衰を低減するためには、特に粒径が15nm未満程度の粒子を用いることが好ましい。且つ、できる限り狭い粒径分布をもって調製して分散させることが好ましく、添加濃度としては(A)又は(A)+(B)成分重量に対する割合が、5.0〜75.0重量%の範囲であることが好ましい。
【0051】
微粒子の量が多過ぎるとITO自身の有する着色のため高い透過率を確保することが困難になる。又、微粒子の多次凝集によって分散性を確保することが困難になり光散乱が飛躍的に増大するため、更に好ましくは60.0重量%以下であることが望ましい。余りに少量であるとITOに起因した屈折率分散、2次分散特性の効果が得られないため、微粒子添加量は35.0〜50.0重量%の範囲であることが望ましい。又、粒径が2nm以下になると表面の量子硬化が大きくなり、ITOの特性を示しにくくなる。
【0052】
本発明に用いるのに適当な分散溶媒の例としては、樹脂を溶解させITO微粒子を予備的に溶媒で溶けた樹脂に分散させておくため、トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、DMF、DMAc、NMP等のアミド系、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素、ジエチルエーテル、ブチルカルビトール等のエチル類、ジクロロメタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。用いるITO微粒子の親和性に合わせて有機溶媒を選択することができ、又、有機溶媒は1種類のみで使用することもできるし、分散性を損なわない範囲において2種類以上を併用して使用することもできる。最終的に溶媒は、取り除くので沸点が余り高い溶媒は使用しにくい。又、沸点が低過ぎても溶媒揮発等のためITO、樹脂濃度等の安定性が図れず、良好な分散性は得られにくい。
【0053】
次に、本発明において、係る(A)〜(E)成分及び分散溶媒を用いて成る該紫外線硬化樹脂組成物の調整工程について述べる。
【0054】
先ず、選択した有機溶媒に最適化した(D)分散剤を溶解させ、後にスターラーチップ等を用いて攪拌させながら適当量の(E)ITO微粒子を少しずつ添加混合させていく。その際、分散の程度を観察しながら最適に溶媒量を調整する。好適に分散していることを確認したら、(A)成分樹脂、(B)成分架橋剤及び(C)光重合開始剤を同様に攪拌させながら徐々に添加、溶解させる。完全に溶解していることを確認した後、エバポレーターを用いて溶媒を除去する。この際、溶媒の沸点、残留溶媒量等に応じて減圧度を適宜調整することが望ましい。急激な溶媒の蒸発、除去は微粒子の凝集の程度を悪化させ、分散性を損なうことがある。又、減圧による溶媒除去の際、必要に応じて分散性を損なわない程度に加熱することも可能である。このようにして本発明の紫外線硬化樹脂を得る。得られた紫外線硬化樹脂には除去し切れなかった残留溶媒を含有することがあり、その含有率によっては後の成形品等における耐久性、光学特性に影響を及ぼすことが考えられる。そのため、残留溶媒の含有率は溶媒重量を差し引いた全重量に対して、0.01〜0.20重量%の範囲であることが望ましい。減圧度が高過ぎると、又は減圧と同時に過度の加熱を伴うことで、若しくは長時間に渡る減圧工程を経ることで、溶媒と共に、分子量、骨格にもよるが、添加した分散剤及び光重合開始剤、樹脂を組成しているモノマー等も留去される恐れがある。そのため個々の分子量、沸点、昇華性等を考慮した減圧度、温度、時間等の調整が必要である。
【0055】
本発明に係る回折光学素子の成形において、光重合法を利用して、前記紫外線硬化樹脂より型成形体層を形成する過程を示す。基板として用いる光透過性材料上に膜厚の薄い層構造を形成する際には、例えば、ガラス平板を基板に利用し、一方、微細な回折格子構造に対応する型に金属材料を利用する際、両者の間に、流動性を示す該紫外線硬化樹脂を流し込み、軽く抑えることで、型成形を成す。その状態に保ったまま該紫外線硬化樹脂の光重合を行う。
【0056】
斯かる光重合反応に供する光照射は、光重合開始剤を利用したラジカル生成に起因する機構に対応して、好適な波長の光、通常、紫外光若しくは可視光を利用して行う。例えば、前記基板に利用する光透過性材料、具体的には、ガラス平板を介して、成形されている紫外線硬化樹脂のモノマー等原料体に対して、均一に光照射を実施する。照射される光量は、光重合開始剤を利用したラジカル生成に起因する機構に応じて、又、含有される光重合開始剤の含有比率に応じて、適宜選択される。
【0057】
一方、斯かる光重合反応による該紫外線硬化樹脂の型成形体層の作製においては、照射される光が型成形されているモノマー等原料体全体に均一に照射されることがより好ましい。従って、利用される光照射は、基板として用いる光透過性材料、例えば、ガラス平板を介して、均一に行うことが可能な波長の光を選択することが一層好ましい。その際、基板に利用する光透過性材料上に形成する該紫外線硬化樹脂の型成形体を含む回折格子の総厚を薄くする形態は、本発明にはより好適なものとなる。
【0058】
又、紫外線硬化樹脂が室温で結晶性を有しているような場合は、加熱成形が望ましい。この場合、成形において利用する該金型、基板を一定温度に加熱しておくことが可能である。その際、用いる該紫外線硬化樹脂もシリンダー等で金型等と同程度の温度に保持しておくと良い。保持温度は紫外線硬化樹脂が成形に際して差し支えない程度の流動性を示す程度に溶融する温度が望ましく、粘度としては5000〜50000cpsの範囲であることが望ましい。尚、加熱成形を行う際には、その重合速度は加熱温度にも依存するため、短時間に重合を完了させる際には、加熱温度をより高く選択することができる。
【0059】
又、基板と金型に用いる材料間で、熱膨張率に大きな差異を有する場合には、前記加熱処理を実施する温度を高くし過ぎると、僅かながら、室温と前記加熱温度との間で、型形状の回折格子間隔等に不一致が生じることもある。その不一致を回避するためには、熱重合における加熱温度を、150℃以下に選択することが好ましい。但し、加熱処理の温度が低くなるとともに、結晶体と成り易くなり、重合を完了させるために要する時間が長くなるため、作業効率上、少なくとも、加熱温度を、70℃以上に選択することが好ましい。更には130℃以上ではモノマーが揮発してしまう場合があり、加熱成形をする際には、加熱温度を70℃〜130℃の範囲に選択することが好ましい。
【0060】
本発明における紫外線硬化樹脂を用いて上記方法を利用することで、光波長分散の異なる材料から成る層複数を基板上に積層し、使用波長域全域で特定次数(設計次数)の回折効率を高くする設計とした回折光学素子を、短時間で作製することが可能となる。又、必要に応じて同時に離型剤、増感剤、安定剤、増粘剤等を含有させても良い。
【0061】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明がそれらによって何ら制約されるものではない。
【0062】
先ず、本発明における紫外線硬化樹脂の調整について具体的に説明する。以下に記述する各実施例及び比較例で得た紫外線硬化樹脂の(A)、(B)成分の重量%、(E)体積%及び光学特性(屈折率nd、アッベ数νd、2次分散θg, F)の測定結果を表1に示す。表1の各値はアッベ屈折計率(カルニュー光学工業(株)社製)を用いて測定、算出した。各紫外線硬化樹脂の硬化には15J/cm2 の照射(EX250W、HOYA−SHOTT社製)を行った。硬化の際、必要に応じて樹脂、金型、基板等を80℃に加熱して硬化を行った。
[実施例1]
【0063】
分散溶媒としてのキシレン溶媒88.1wt%に対して、(D)分散剤としてDisperbyk−180(ビッグケミー・ジャパン社製)を2.0wt%になるように分散剤含有キシレン溶液を調整した。続いて平均粒径10nmの(E)ITO微粒子を前記に得られたキシレン溶液に対しての9.9wt%の濃度になるように添加、分散させた。得られたITO微粒子含有キシレン溶液75.79重量部に対して、(A)成分としてビニルカルバゾールを9.70重量部及び数平均分子量20000のポリビニルカルバゾールを1.08重量部、(C)光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロエキシルフェニルケトン(イルガキュア184)を0.22重量部加え、完全に溶解させた。その後、約80℃のオイルバスで加熱しながら減圧吸引してキシレン溶剤を除去し(E)ITO微粒子10. 0体積%の実施例1の紫外線硬化樹脂11を得た。得た紫外線硬化樹脂11を用いて厚さ10μmの塗膜を作製し、光学特性の測定を行った。結果を表1に示す。
[実施例2]
【0064】
分散溶媒としてのキシレン溶媒88.1wt%に対して、(D)分散剤としてDisperbyk−180(ビッグケミー・ジャパン社製)を2.0wt%になるように分散剤含有キシレン溶液を調整した。続いて平均粒径10nmの(E)ITO微粒子を前記に得られたキシレン溶液に対しての9.9wt%の濃度になるように添加、分散させた。得られたITO微粒子含有キシレン溶液75.79重量部に対して、表1記載の比率になるよう(A)成分としてビニルカルバゾールを3.97重量部、(B)架橋剤として数平均分子量5000のウレタン変性ポリエステルアクリレートオリゴマ―を2.18重量部、トリス(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート1.12重量部、ペンタエリスリトールトリアクリレート1.41重量部、ジシクロペンテニオキシエチルメタアクリレート2.18重量部、(C)光重合開始剤として1-ヒドロキシシクロエキシルフェニルケトン(イルガキュア184)を0.16重量部加え、完全に溶解させた。その後、約45℃のオイルバスで加熱しながら減圧吸引してキシレン溶剤を除去し(E)ITO微粒子10. 0体積%の実施例2の紫外線硬化樹脂12を得た。得た紫外線硬化樹脂12を用いて厚さ10μmの塗膜を作製し、光学特性の測定を行った。結果を表1に示す。
[実施例3−4]
【0065】
表1記載の比率になるよう、実施例2の(A)、(B)、(C)成分の量を調整し、(E)ITO微粒子10. 0体積%の実施例3、4の紫外線硬化樹脂13、14を得た。得た紫外線硬化樹脂13,14を用いて厚さ10μmの塗膜を作製し、光学特性の測定を行った。結果を表1に示す。
[実施例5]
【0066】
表1記載の比率になるよう実施例1の(A)、(C)成分の量を調整し、(E)ITO微粒子13.5体積%の実施例5の紫外線硬化樹脂21を得た。得た紫外線硬化樹脂21を用いて厚さ10μmの塗膜を作製し、光学特性の測定を行った。結果を表1に示す。
[実施例6−8]
【0067】
表1記載の比率になるよう、実施例2の(A)、(B)、(C)成分の量を調整し、(E)ITO微粒子13.5体積%の実施例6,7,8の紫外線硬化樹脂22,23,24を得た。得た紫外線硬化樹脂22,23,24を用いて厚さ10μmの塗膜を作製し、光学特性の測定を行った。結果を表1に示す。
[実施例9]
【0068】
表1記載の比率になるよう、実施例1の(A)、(C)成分の量を調整し、(E)ITO微粒子15.0体積%の実施例9の紫外線硬化樹脂31を得た。得た紫外線硬化樹脂31を用いて厚さ10μmの塗膜を作製し、光学特性の測定を行った。結果を表1に示す。
[実施例10−12]
【0069】
表1記載の比率になるよう、実施例2の(A)、(B)、(C)成分の量を調整し、(E)ITO微粒子15.0体積%の実施例10,11,12の紫外線硬化樹脂32,33,34を得た。得た紫外線硬化樹脂32,33,34を用いて厚さ10μmの塗膜を作製し、光学特性の測定を行った。結果を表1に示す。
【0070】
<比較例0>
(A)成分としてビニルカルバゾールを90.0重量部及び数平均分子量20000のポリビニルカルバゾールを1.00重量部、(B)架橋剤としてエトキシ化ビスフェノールAジビニルエーテルを10.0重量部、(C)光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロエキシルフェニルケトン(イルガキュア184)を0.30重量部混合し、80℃で2時間加熱、溶解した。完全に混合、溶融したことを確認し、比較例0の紫外線硬化樹脂00を得た。得た紫外線硬化樹脂00を用いて厚さ10μmの塗膜を作製し、光学特性の測定を行った。結果を表1に示す。
【0071】
<比較例1>
分散溶媒としてのキシレン溶媒88.1wt%に対して、(D)分散剤としてDisperbyk−180(ビッグケミー・ジャパン社製)を2.0wt%になるように分散剤含有キシレン溶液を調整した。続いて平均粒径10nmの(E)ITO微粒子を前記に得られたキシレン溶液に対しての9.9wt%の濃度になるように添加、分散させた。得られたITO微粒子含有キシレン溶液75.79重量部に対して、(B)架橋剤として数平均分子量5000のウレタン変性ポリエステルアクリレートオリゴマ―を3.41重量部、トリス(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート1.76重量部、ペンタエリスリトールトリアクリレート2.20重量部、ジシクロペンテニオキシエチルメタアクリレート3.41重量部、(C)光重合開始剤として1-ヒドロキシシクロエキシルフェニルケトン(イルガキュア184)を0.22重量部加え完全に溶解させた。その後、約45℃のオイルバスで加熱しながら減圧吸引してキシレン溶剤を除去し(E)ITO微粒子10. 0体積%の比較例1の紫外線硬化樹脂01を得た。得た紫外線硬化樹脂01を用いて厚さ10μmの塗膜を作製し、光学特性の測定を行った。結果を表1に示す。
【0072】
<比較例2−3>
表1記載の比率になるよう、比較例1の(B)、(C)成分の量を調整し、(E)ITO微粒子13.5、15.0体積%の比較例2,3の紫外線硬化樹脂02、03を得た。得た紫外線硬化樹脂02、03を用いて厚さ10μmの塗膜を作製し、光学特性の測定を行った。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
又、表1のプロットを図2(a)〜(c)に示した。
【0075】
屈折率に関して(A)成分のカルバゾール系化合物の含有量が多くなるほど屈折率ndは上昇傾向にある。又、アッベ数νdは低下傾向、2次分散θg, Fは上昇傾向にある。これらは(A)成分のカルバゾール系化合物の物性に起因した傾向である。又、(E)ITO含有量の増加10.0〜15.0体積%に伴い、アッベ数νd、2次分散θg, Fは共に低下傾向を示した。これはITO微粒子に起因した物性である。又、(B)成分の架橋剤が添加されることで、アッベ数νdと屈折率nd、2次分散θg, Fのトレードオフの関係が得られる。この関係を利用し、光学設計に合わせた屈折率nd、アッベ数νd、2次分散θg, Fの値を選択することが可能である。
【0076】
<実施の形態2>
図3及び図4を参照して、本発明における回折光学素子、積層型回折光学素子の構成とその製造方法を説明する。本実施形態における回折光学素子は400nm〜700nmの波長領域の光束が設計次数に集中するように、回折光学素子41〜44と回折光学素子51〜54(積層型回折光学素子61〜64)に用いる紫外線硬化樹脂の特性に合わせた素子を設計した。本実施の形態では、積層型回折光学素子の一例として2積層型回折光学素子の実施形態について示したが、本発明がそれらによって何ら制約されるものではない。
[実施例13]
【0077】
図3(a)に示すように、回折格子形状に加工された金型71に実施の形態1に記載した実施例8の紫外線硬化樹脂24を供給した。次に、図3(b)に示すように、紫外線硬化樹脂24上に平板ガラス91(BK7)を載せ、樹脂を加圧し所望の範囲まで延伸させ、UV露光機(EX250W:HOYA−SHOTT社製)
で15J/cm2 (40mW/cm2 )で照射した。その後、図3(c)に示すように、平板ガラス91と一体化した硬化物を金型71から離型して回折光学素子41を製造した。
【0078】
一方、もう1つの紫外線硬化樹脂として光学特性が(nd=1.523、νd=51.5)の紫外線硬化樹脂81(RC−C001:大日本インキ化学工業製)を準備した。図3(a)〜(c)に示す前記手法と同様にして、平板ガラスと紫外線硬化樹脂81の硬化物が一体化した回折光学素子51を製造した。
【0079】
次に、上記で得た回折光学素子41と回折光学素子51の回折面に反射防止膜を成膜した後、図4に示すように、お互いの回折格子が対向するように組み合わせて積層型回折光学素子61を製造した。101は回折光学素子41と回折光学素子51の間隔を決定するスペーサである。回折光学素子41と回折光学素子51のそれぞれの格子間ピッチは共に80.00μmである。回折光学素子41と回折光学素子51の互いの回折格子の谷間の間隔(格子高さ総厚)は18.36μm、山間の間隔は1.50μmである。回折光学素子41の格子高さは7.26μm、回折光学素子51の格子高さは9.60μmである。
[実施例14]
【0080】
図3に示すように、前記実施例1と同様の方法で、紫外線硬化樹脂24の代わり実施の形態1に記載した実施例12の紫外線硬化樹脂34を用いて回折光学素子42を製造した。又、同様に紫外線硬化樹脂81を用いて回折光学素子52を製造し、同様の処方にて積層型回折光学素子62を製造した。回折光学素子42と回折光学素子52の互いの回折格子の谷間の間隔(格子高さ総厚)は17.10μm、山間の間隔は1.50μmである。回折光学素子42の格子高さは6.66μm、回折光学素子52の格子高さは8.94μmである。
【0081】
<比較例1>
図3に示すように、前記実施例1と同様の方法で、紫外線硬化樹脂24の代わりに実施の形態1に記載した比較例0の紫外線硬化樹脂00を用いて回折光学素子43を製造した。この際、樹脂、金型、平板ガラスを80℃に加熱保持して成形を行った。又、同様に紫外線硬化樹脂81を用いて回折光学素子53を製造し、同様の処方にて積層型回折光学素子63を製造した。回折光学素子43と回折光学素子53の互いの回折格子の谷間の間隔(格子高さ総厚)は14.07μm、山間の間隔は1.50μmである。回折光学素子43の格子高さは5.02μm、回折光学素子53の格子高さは7.55μmである。
【0082】
<比較例2>
図3に示すように前記実施例1と同様の方法で、紫外線硬化樹脂24の代わりに実施の形態1に記載した比較例1の紫外線硬化樹脂02を用いて回折光学素子44を製造した。又、同様に紫外線硬化樹脂81を用いて回折光学素子54を製造し、同様の処方にて積層型回折光学素子64を製造した。回折光学素子44と回折光学素子54の互いの回折格子の谷間の間隔(格子高さ総厚)は25.50μm、山間の間隔は1.50μmである。回折光学素子44の格子高さは11.03μm、回折光学素子54の格子高さは12.97μmである。
【0083】
前述した通り、回折光学素子においては、その形状のため光線の入射角が大きい場合、光線がけられてフレア光やゴーストが発生するという問題が生じる。そこで回折格子の格子高さは低い程望ましい。本実施例、比較例で得られた各回折光学素子の格子高さの結果を表2に示す。
【0084】
実施例1,2、比較例1,2で製造された積層型回折光学素子61〜64における、入射角度0°の一次回折光の各波長(400〜700nm)における強度をそれぞれ図5−1〜図5−4に示す。横軸は波長、縦軸は回折効率を示している。一般に積層型回折光学素子の回折効率は、99%以上であれば良好であると言える。そこで、今回実験におけるの良否の判定は400〜700nmの可視領域全域に亘って回折効率が99%以上かどうかにより決定した。又、使用波長領域400〜700nmにおける最低回折効率値を、格子高さと合わせて表2に示す。
【0085】
【表2】

【0086】
図5−1〜図5−4において、それぞれ波長400nmの時の回折効率は99.3%、99.4%、97.4%、99.7%、波長500nmの時の回折効率は99.7%、99.7%、98.6%、100.0%、波長600nmの時の回折効率は100.0%、100.0%、100.0%、99.7%、波長700nmの時の回折効率は99.6%、99.6%、96.3%、99.3%である。
【0087】
比較例1に係る紫外線硬化樹脂00および紫外線硬化樹脂81を用いて作製した積層型回折光学素子63の格子高さは本発明実施の中で最も低い値であった。従って、格子高さ壁面における入射光のけられによるフレア光やゴーストの発生は最も少ないと考えられる。一方で回折効率は、400,500,700nm波長付近で99%を下回り、部分的な回折効率の落ち込みが激しく、本発明の回折光学素子としは好ましくない。
【0088】
又、比較例2に係る紫外線硬化樹脂02及び紫外線硬化樹脂81を用いて作製した積層型回折光学素子64の格子高さは本発明実施の中で最も高い値であった。従って、格子高さ壁面における入射光のけられによるフレア光やゴーストの発生は最も多く、本発明の回折光学素子としは好ましくないと考えられる。一方で回折効率は、使用波長の全域において99%以上の強度を有しており、非常に良好で安定した波長分布の結果を示している。
【0089】
又、実施例1に係る紫外線硬化樹脂24及び紫外線硬化樹脂81を用いて作製した積層型回折光学素子61の格子高さは、比較例1よりもやや高いが、比較例2より充分低い値(28%減)を示した。従って、格子高さ壁面における入射光のけられによるフレア光やゴーストの発生は比較的小さいと考えられる。一方で回折効率は、比較例2同様、使用波長の全域において99%以上の強度を有しており、非常に良好で安定した波長分布の結果を示している。
【0090】
実施例2に係る紫外線硬化樹脂34及び紫外線硬化樹脂81を用いて作製した積層型回折光学素子62の格子高さは、実施例1よりも更に低く、より比較例1に近い値を示した。従って、格子高さ壁面における入射光のけられによるフレア光やゴーストの発生は実施例1よりも小さいと考えられる。一方で回折効率は、実施例1及び比較例2同様、使用波長の全域において99%以上の強度を有しており、非常に良好で安定した波長分布の結果を示している。
【0091】
即ち、比較例1のように、(E)ITO微粒子を含有せずに屈折率分散が高い(A)成分のカルバゾール系化合物が組成の主を占めた場合には、(A)成分に依存してアッベ数νdが小さい樹脂となり格子高さを低く設計できるため、フレア等の発生をより小さくすることが可能であるが、同様に(A)成分に依存した2次分散θg, Fが大きいため回折効率の落ち込み発生の点で好ましくない。又、比較例2のように(E)ITO微粒子を含有し(A)成分を有さない組成においては、(E)成分に依存した2次分散θg, Fの低下の影響が大きく良好な波長分散の回折効率を得られるが、アッベ数νdは比較的大きいままであり、格子高さをそれほど小さくすることはできない。
【0092】
そこで、単に屈折率分散が高い(アッベ数νdが小さい)材料、若しくは2次分散θg, Fが低い材料を使用するだけでなく、実施例1、実施例2のように樹脂に(A)成分、(E)成分を適度に含有させた紫外線硬化樹脂を調整することで、光学系の光学設計に合わせた屈折率nd、アッベ数νd、2次分散θg, Fの特性を調節可能となる。それにより格子高さ壁面における入射光のけられによるフレア光やゴーストの発生をより低減することができ、部分的な落ち込みがない良好な波長分散の回折効率を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によれば、少なくとも(A)分子内にエチレン性不飽和基を有するカルバゾールモノマー又は数平均分子量(Mn)が20000〜150000の範囲のポリマー、若しくはそれらの混合物、及び(B)架橋剤、(C)光重合開始剤、(D)分散剤、(E)ITO微粒子から成る微粒子分散系紫外線硬化樹脂を調整し、(B)架橋剤の種類、含有量(E)ITO微粒子の含有量をそれぞれ光学設計に合わせて最適化することで、屈折率nd、アッベ数νd、2次分散θg、Fの各々の関係を考慮した微粒子分散系紫外線硬化樹脂を得ることができる。その紫外線硬化樹脂を光学素子に用いることで、可視領域全域における回折効率を向上させ、且つ、回折格子の総厚(格子高さ)を薄く設計できることからフレア光やゴースト発生を低減させると共に、各波長域における部分的な回折効率の落ち込みが発生しないで収差をより正確に補正された光学素子、回折光学素子、積層型回折光学素子、該光学系を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】光学ガラス、ポリマーの屈折率nd、アッベ数νd分布を示す図である。
【図2】実施例、比較例における紫外線硬化樹脂の屈折率ndを示す図である。
【図3】本発明の実施の形態2の実施例1、実施例2、比較例1、比較例2における回折光学素子の成形プロセスを示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態2の実施例1、実施例2、比較例1、比較例2における積層型回折光学素子の構造を示す断面図である。
【図5−1】本発明の実施の形態2の実施例1における積層型回折光学素子の一次回折光強度を示すグラフである。
【図5−2】本発明の実施の形態2の実施例2における積層型回折光学素子の一次回折光強度を示すグラフである。
【図5−3】本発明の実施の形態2の比較例1における積層型回折光学素子の一次回折光強度を示すグラフである。
【図5−4】本発明の実施の形態2の比較例2における積層型回折光学素子の一次回
【符号の説明】
【0095】
00,01〜03,11〜14,21〜24,31〜34,81 紫外線硬化樹脂
41〜44,51〜54 回折光学素子
61〜64 積層型回折光学素子
71 金型
91 平板ガラス(BK7)
101 スペーサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも(A)分子内にエチレン性不飽和基を有するカルバゾールモノマー又は数平均分子量(Mn)が20000〜150000の範囲のポリマー、若しくはそれらの混合物、及び(B)架橋剤、(C)光重合開始剤、(D)分散剤から成ることを特徴とする樹脂が、(E)ITO微粒子を含有していることを特徴とする紫外線硬化樹脂組成物。
【請求項2】
前記(B)架橋剤として、分子内に共重合可能な不飽和基を1個以上有する重合性モノマー若しくは数平均分子量(Mn)が1000〜5000の範囲のオリゴマーから選択された1種又はそれ以上の光硬化性化合物が、前記(A)成分重量に対して10.0〜90.0重量%の範囲であることを特徴とする請求項1記載の紫外線硬化樹脂組成物。
【請求項3】
前記ITO微粒子の粒径が2〜50nm以下であり、前記記載の(A)又は(A)+(B)成分重量に対して、5.0〜75.0重量%の範囲であることを特徴とする請求項1記載の紫外線硬化樹脂組成物。
【請求項4】
前記記載の紫外線硬化樹脂のアッベ数νdが30以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の紫外線硬化樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の紫外線硬化樹脂から成形することを特徴とする光学素子。
【請求項6】
表面が回折形状が形成された回折面であることを特徴とする請求項5記載の光学素子。
【請求項7】
表面が屈折形状が形成された屈折面であることを特徴とする請求項5記載の光学素子。
【請求項8】
請求項1〜4の何れかに記載された紫外線硬化樹脂により成形され、一方の表面が回折形状を有する回折面である第1の回折光学素子と、該第1の回折光学素子の紫外線硬化樹脂よりもアッベ数が大きい紫外線硬化樹脂により成形されていて、一方の表面が回折形状を有する回折面である第2の回折光学素子とを有し、該第1の回折光学素子と第2回折光学素子は、互いの回折面が対向して配置されていることを特徴とする積層型回折光学素子。
【請求項9】
少なくとも2層から成り、各層が異なる紫外線硬化樹脂から形成されている積層型回折光学素子において、一方の表面が回折形状を有する回折面である第1の層と、該第1の層を形成する紫外線硬化樹脂よりもアッベ数が大きいく、一方の表面が回折形状を有する回折面である第2の層とを有することを特徴とする積層型回折光学素子。
【請求項10】
少なくとも請求項8又は9の何れか1項に記載の積層型回折光学素子を含むことを特徴とする光学系。
【請求項11】
投影光学系であることを特徴とする請求項10記載の光学系。
【請求項12】
撮影光学系であることを特徴とする請求項10記載の光学系。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図5−4】
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【公開番号】特開2006−276195(P2006−276195A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−91556(P2005−91556)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】