説明

細胞外Hsp90阻害剤

本発明は、細胞外Hsp90阻害剤を記載する。細胞外Hsp90の阻害は、腫瘍細胞の浸潤性の低下をもたらす。さらに、本発明は、癌細胞の浸潤および/もしくは転移能の処置または予防のための薬物を製造するための、細胞外Hsp90機能を阻害する分子の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞外Hsp90阻害剤に関する。なお、本発明は、National Institute of Healthにより与えられたCA81668による政府支援でなされた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
悪性腫瘍は、細胞を離脱し、新しい組織へ移動して、二次腫瘍を生じる。二次腫瘍を発生させる過程は、転移と呼ばれ、腫瘍細胞が原発腫瘍から離れた部位にコロニーを形成する複雑な過程である。Liotta((1986) Cancer Res. 46, 1-7)は、転移の過程について3段階仮説を提案した:第一段階は、細胞表面受容体を介した腫瘍細胞接着である。固着した腫瘍細胞は、次に、加水分解性酵素を分泌する、または酵素を分泌するように宿主細胞を誘導し、マトリックスを局所的に分解することができる。マトリックス溶解は、腫瘍細胞表面に近い非常に限局化された領域に起こる可能性が最も高い。第三段階は、タンパク質分解により改変されたマトリックスの領域への腫瘍細胞移動運動である。このように、マトリックスの浸潤は、単に受動的増殖圧力によるだけでなく、能動的な生化学的機構を必要とする。周囲の正常な組織の分解は、悪性腫瘍の浸潤性の主眼点である。転移形成の過程は、腫瘍細胞の浸潤性に依存する。それゆえに、浸潤性を阻害し、それを以て、原発腫瘍の転移を防ぐ薬剤を開発することが有用であると思われる。
【0003】
最近、研究は、より良い診断的または改善された治療的ストラテジーのための基礎として用いられうる、転移に関与する特定のタンパク質を同定することに集中している。分子シャペロン分子として同定され、かついくつかの発癌性タンパク質の安定性および機能に必須であるタンパク質は、熱ショックタンパク質90(Hsp90)である。この名前は、Hsp90 αおよびβと名付けられた2つのアイソフォームを表現するために用いられる総称である。Hsp90のアイソフォームの構造および機能は、Csermely et al.: Pharmacol. Ther. Vol. 79, 1998, No. 2, The 90-kDa Molecular Chaperone Family: Structure, Function, and Clinical Applicationsに記載されている。総合的概説、p. 131、p.146。Hsp90は、真核細胞のサイトゾルにおいて最も豊富なシャペロンの1つであり、細胞において全タンパク質のおよそ1〜2%を構成する。Hsp90の細胞内機能は、タンパク質(ステロイド受容体)の安定化、ならびにキナーゼおよび他のシグナル伝達タンパク質のようなタンパク質の成熟を含む。しかしながら、Hsp90は、突然変異したタンパク質の進化的安定性、細胞骨格の再編成、核輸送、細胞増殖およびアポトーシス、タンパク質分解、抗原提示、ならびにリポ多糖認識を含む幅広い種類の機能に関与していた。細胞において非常に豊富にあるため、Hsp90はまた、癌から自己免疫疾患、心血管疾患まで、多くの疾患に関連づけられた。例えば、Hsp90の免疫優性LKVIRKエピトープに対するモノクローナル抗体は、真菌感染に対する処置において治療的活性を示し、商標名Mycogrip(登録商標)として会社Neutecにより臨床試験に用いられた。
【0004】
Hsp90はストレスに応答して細胞から分泌されることも示されたが(Liao et al. (2000) J. Biol. Chem. 275, 189-96)、この分泌には、いずれの既知の機能も関連していなかった。
【0005】
Hsp90は、細胞内では、十分確立された機能をもつが、細胞外発生およびそれの機能の報告は乏しい。Hsp90は、抗原提示細胞上の受容体への有効な抗原性ペプチドプレゼンターであることが見出された。それはまた、細胞の細胞外表面上の脂質ラフトに関連した4つのタンパク質の1つであり、リポ多糖に結合し、細胞内応答を惹起することが見出された(Triantafilou et al. (2002) Trends in Immunology 23, 301-4)。Hsp90はまた、いくつかの腫瘍細胞:マイクロシトマス、黒色腫および肝腫瘍細胞系、の表面上に過剰発現されていることが見出された(Ferrarini et al. (1992) Int. J. Cancer 51, 613-19)。これらの細胞系の表面上におけるHsp90の発現は抗原提示と関係があると仮説を立てられたが、明らかな証拠はまだ得られていない。
【0006】
Hsp90はまた、腫瘍の表現型を作動させるのに重要であるいくつかのシグナル伝達経路を制御することへのそれの関与により、抗癌薬開発における細胞内標的として、現在、評価されつつある。Hsp90機能の阻害は、細胞増殖、細胞周期制御およびアポトーシスに関与するシグナル伝達タンパク質の選択的分解を引き起こすことが示された。いくつかの既知の抗生物質(例えば、ゲルダナマイシン、ラディシコールおよびクメルマイシンA1)は、最近、Hsp90阻害剤であることが示され、WO 00/53169に記載されている。この文献において、シャペロンタンパク質のそれのクライアントとの結合を阻害する方法が提案されており、その方法は、シャペロンタンパク質をクマリンまたはクマリン誘導体と接触させることを提案している。しかしながら、WO 00/53169の教示は、単に、細胞内Hsp90タンパク質の阻害へ方向づけるにすぎない。
【0007】
ゲルダナマイシン類似体17-AAGのような阻害剤は、すでに臨床試験で試験されているが、すべての細胞区画に渡ってそのタンパク質の非特異的阻害を生じる毒性の心配がある(Dunn (2002) J. Natl. Cancer Inst 94, 1194-5)。さらに、様々な細胞シグナル伝達過程におけるHsp90のクライアントタンパク質との相互作用の理解の欠如は、細胞内Hsp90を毒性阻害剤で阻害するという潜在的リスクを生じる。
【0008】
タンパク質の生理学的役割の決定は、このタンパク質への干渉が疾患の処置として可能性のある道でありうるかどうかを決定するための前提条件である。生理学的設定において、すなわち、患者の天然に存在する腫瘍細胞において、Hsp90は、他のタンパク質と共に働き、お互いに調節かつ干渉することができることを留意しなければならない。それの生理学的役割を決定するのは、Hsp90と相互作用するタンパク質の間の機能的相互作用である。
【0009】
Hsp90はまた、核において膜貫通タンパク質輸送のための分子シャペロンとして働くことが報告され(Schlatter et al. (2002) Biochem. J. 362, 675-84)、白血病、肺および卵巣の癌腫細胞における薬物流出に結びつけられた(Rappa et al. (2002) Oncol. Res. 12, 113-9およびRappa, et al. (2000) Anticancer Drug Des 15, 127-34)。
【0010】
本発明は、細胞外Hsp90の阻害が腫瘍細胞の浸潤性の低下へ導くことを初めて、実証している。本発明は、細胞内Hsp90を攻撃することに付随した副作用を防ぐことができる、細胞外Hsp90を阻害する新規な道を示している。
【0011】
本発明はまた、Hsp90阻害とマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の分泌の間の相互関係を示している。MMPは、細胞が高密度な組織を通って移動することを可能にするように周囲の細胞外マトリックスを消化することにより、浸潤において働く。本発明者らの結果は、Hsp90が、線維肉腫細胞において過剰発現される場合、MMPの分泌または活性を増加させることにより癌細胞の浸潤にとって重要な意味をもつことを示した。本発明者らはさらに、Hsp90依存性浸潤が、本発明の分子を用いることにより阻害されうることを示した。
【0012】
本発明は、特定の癌の処置として、腫瘍細胞上の細胞外Hsp90の機能に干渉する分子の使用に関する。特定の腫瘍細胞の浸潤性および/または転移能を低下させるまたは阻害するために有用である化合物、組成物および方法が提供されている。さらに、腫瘍細胞がそれの浸潤性および/または転移能について機能性細胞外Hsp90に依存しているかどうかを決定することを可能にする方法が提供されている。
【発明の開示】
【0013】
発明の概要
本発明は、細胞外Hsp90に特異的に結合することができる分子に関する。さらに、本発明の分子は、望ましい場合には、検出可能な群で標識されうる、または生物結合体の部分でありうる。
【0014】
本発明はさらに、細胞外Hsp90阻害剤を含む薬学的組成物に関する。
【0015】
さらなる態様において、本発明は、阻害剤がポリペプチド、抗体または抗体断片を含む群より選択される場合には、細胞外Hsp90阻害剤をコードする核酸分子、加えて、そのような核酸を含むベクター、およびそのようなベクターを含む宿主細胞に関する。
【0016】
さらなる態様において、本発明は、癌細胞の浸潤および/または転移能の処置または防止のための薬物を製造するための、細胞外Hsp90を阻害する分子の使用に関する。
【0017】
さらなる態様において、本発明は、患者において細胞の浸潤および/または転移能を処置するまたは防止する方法に関し、その方法は、本発明による治療的有効量の分子および/または薬学的組成物をそれらを必要とする人へ投与する段階を含む。
【0018】
さらなる態様において、本発明は、癌細胞の浸潤性の、細胞外Hsp90の機能性への依存性を測定するための方法関する。
【0019】
さらなる態様において、本発明は、癌細胞の浸潤性を阻害するために有用な分子の同定、特に、Hsp90に結合するそのようなリガンドの同定のための方法に関する。
【0020】
さらなる態様において、本発明は、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の活性を低下させるための分子のクラスの使用に関する。
【0021】
定義
本明細書に用いられる場合、他に規定がない限り、以下の定義が適用されるものとする。
【0022】
本明細書に用いられる場合の「ポリペプチド」は、10個より多く、好ましくは20個より多く、最も好ましくは30個より多く、かつ10000個より少ない、より好ましくは2500個より少ない、最も好ましくは1000個より少ないアミノ酸を含む分子である。修飾されたまたは非天然のアミノ酸を含むポリペプチドもまた、含まれる。
【0023】
本明細書に用いられる場合、用語「抗体」および「免疫グロブリン」は、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体を含む、任意の免疫学的結合作用物質を指す。重鎖における定常ドメインの型により、抗体は、5つの主なクラス:IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMの1つに割り当てられる。これらのいくつかは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4などのようなサブクラスまたはアイソタイプへさらに分類される。
【0024】
抗体はまた、改変された免疫グロブリン、例えば、化学的または組換え的に作製された抗体、CDR移植抗体またはヒト化抗体、CDR領域、特にCDR3領域、において本発明の対応する抗体断片と実質的なアミノ酸配列同一性を示し、かつ実質的に、対応する抗体断片とHsp90結合について同じ親和性を保持する、部位特異的突然変異を誘発された抗体から選択されうる。
【0025】
抗体のCDR(相補性決定領域)は、それらの特異性を決定し、かつ特定のリガンドと接触するこれらの分子の部分である。CDRは、分子の最も可変性の高い部分であり、これらの分子の多様性に寄与している。
【0026】
本明細書に用いられる場合の実質的なアミノ酸配列同一性とは、2つの整列させたアミノ酸配列の、特に整列させたCDRの、アミノ酸の少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、より好ましくは5個を除いた全部、さらにより好ましくは3個を除いた全部、なおさらにより好ましくは1個を除いた全部が同一であることを意味する。
【0027】
用語「抗体断片」は、抗原結合領域を有する抗体様分子の任意の断片を指すのに用いられ、この用語は、scFv、dsFv、Fab'、Fab、F(ab')2、Fv、単一ドメイン抗体(DAB)、ダイアボディ(diabody)などを含む。様々な抗体に基づいた構築物および断片を調製かつ使用するための技術は、当技術分野においてよく知られており(Kabat et al. (1991) J. Immunol. 147, 1709-19を参照)、本明細書に参照として明確に組み入れられている。
【0028】
「scFv」抗体断片は、抗体のVHおよびVLドメインを含み、これらのドメインは、単一のポリペプチド鎖に存在している。一般的に、scFvポリペプチドはさらに、scFvが抗原結合について望ましい構造を形成できるようにする、VHとVLドメインの間にポリペプチドリンカーを含む。
【0029】
「Fv」断片は、無傷の抗原結合部位を保持する最小の抗体断片である。
【0030】
「dsFv」は、ジスルフィド安定化Fvである。
【0031】
「Fab」断片は、重鎖のVHおよびCH1ドメインと対になった完全な軽鎖を含む、抗原結合断片である。
【0032】
「Fab」断片は、還元されたF(ab')2断片である。
【0033】
「F(ab')2」断片は、ヒンジ領域におけるジスルフィド架橋により連結された2つのFab断片を含む二価の断片である。
【0034】
「単一ドメイン抗体(DAB)」は、抗体構造のドメインの1つのみに由来するたった1つ(2つの代わりに)のタンパク質鎖をもつ抗体である。DABは、いくつかの抗体について、抗体分子の半分が、分子全体とほとんど同様に、それの標的抗原に結合するという発見を利用している(Davies et al. (1996) Protein Eng. 9:531-537)。
【0035】
「ダイアボディ(diabody)」は、VHおよびVLドメインが単一のポリペプチド鎖上に発現されているが、同じ鎖上のその2つのドメイン間で対になるのを可能にするには短すぎるリンカーを用いて、それにより別の鎖の相補性ドメインと対になるようにドメインを強制し、2つの抗原結合部位を生じる、二価または二重特異性抗体である(Holliger et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 6444-6448)。
【0036】
本明細書に用いられる場合の用語「生物結合体」は、細胞外Hsp90阻害剤が、それぞれ、別のタンパク質、固体マトリックス(例えば、ビーズのような)、多量体を形成するようにそれ自身と、標的細胞に対する毒性をさらに増強させる細胞毒性剤、細胞増殖抑制剤、プロドラッグ、またはHsp90を発現させる細胞を改変するもしくは免疫細胞を補充することができるエフェクター分子と、共有結合性または非共有結合性に、連結および/またはカップリングされていることを意味する。
【0037】
用語「標識」または「標識された」は、検出可能なマーカー、または、それぞれ、例えば、フルオロフォア標識された、発色団標識された、もしくは放射性標識されたアミノ酸の取り込み、またはフルオロフォア標識、発色団標識、もしくは放射性標識のリガンドへの付着、または光学的もしくは比色方法により検出されうる蛍光マーカーもしくは酵素活性を含む標識された第二分子により検出されうる部分の付着による、そのようなものの取り込みを指す。そのような2段階検出系についての例は、よく知られたビオチン-アビジン系である。ポリペプチドおよび糖タンパク質を標識する様々な方法は、当技術分野において知られており(例えば、Lobl et al. (1988) Anal. Biochem., 170, 502-511)、異なるクラスの分子に適用されうる。
【0038】
「エピトープ」は、免疫グロブリンまたは抗体断片への特異的結合の能力がある任意のタンパク質決定基を含む。エピトープの決定基は、通常、露出したアミノ酸、アミノ糖、または他の糖側鎖のような分子の化学的活性のある表面群からなり、通常、固有の3次元構造的特徴、加えて固有の電荷特性をもつ。
【0039】
本明細書に用いられる場合、「転移性腫瘍を処置すること」または「微小転移巣を処置すること」とは、腫瘍の転移が、単一の薬物としてかまたは他の薬物と併用してのいずれかで、本発明の分子により、安定化される、防止される、遅延される、または抑制されることを意味する。安定な疾患または「変化なし」(NC)は、少なくとも4週間に渡って、転移の変化なしか、または50%未満の低減もしくは25%未満の増加のいずれかである疾患の経過についての記述である。防止は、例えば、処置が開始された後、新しい転移が検出されないことでありうる。これは、処置されていない患者と比較して処置された患者の2倍〜3倍の中央値および/または%年生存率へ導きうる。遅延は、処置が開始された後、新しい転移が検出されない、少なくとも8週間、3ヶ月、6ヶ月または1年までもの期間を意味しうる。抑制は、新しい転移の平均サイズまたは総数が、処置されていない群と比較して本発明の分子で処置された群において少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%までも少ないことを意味しうる。転移の数、サイズおよび有病率は、例えば、Harrisons Principles of Internal Medicine 第15版、2001 Mc Graw Hillに概略を述べられているような、転移の検出について一般に認められている実施および診断手順に従って、腫瘍学の分野における熟練した従業者により検出されうる。
【0040】
本明細書に用いられる場合、「転移性腫瘍」は、転移する能力がある原発部位における腫瘍、および二次部位における転移した腫瘍の両方を含む。
【0041】
「微小転移巣」は、2 mmより小さいサイズである腫瘍細胞の集積であり、通常、組織学的方法により検出されうるのみである。
【0042】
本明細書に用いられる場合、「浸潤性」とは、細胞の、他の細胞の層を通って移動する、または細胞外マトリックスを通って移動する能力である。浸潤性は、実施例に記載されたマトリゲル(Matrigel)アッセイにより評価されうる。浸潤は、特定のインキュベーション期間中にフィルターの下層表面に達する細胞のパーセンテージとして測定される。
【0043】
本明細書に用いられる場合、「転移能」は、腫瘍細胞の、その腫瘍細胞が由来した原発腫瘍から遠く離れた部位に新しい腫瘍を形成する能力である(転移)。「治療的有効量」は、患者の腫瘍負荷量を除去するもしくは低減させる、または転移を防止する、遅延させるもしくは抑制する、量である。投与量は、腫瘍の性質、患者の病歴、患者の健康状態、細胞毒性剤の可能性のある同時使用、および投与方法を含む、多くのパラメーターに依存するものである。投与方法は、注射(例えば、非経口、皮下、静脈内、腹腔内など)を含み、それ用として、細胞外Hsp90機能を阻害する分子が、非毒性の薬学的に許容される担体において提供される。一般的に、適した担体および希釈剤は、水、食塩水、リンガー溶液、ブドウ糖溶液、5%ヒト血清アルブミン、固定油、オレイン酸エチル、またはリポソームのような、結合作用物質の生物活性(例えば、結合特異性、親和性または安定性)を有意に損なうことのないように選択される。許容される担体は、生体適合性、不活性または生体吸収性の、塩、緩衝剤、オリゴ糖もしくは多糖、ポリマー、ヒアルロン酸のような粘弾性化合物、増粘剤、防腐剤などを含みうる。さらに、薬学的組成物または製剤はまた、他の担体、アジュバント、または非毒性、非治療的、非免疫原性安定化剤などを含みうる。典型的投与量は、約0.01 mg/kgから約20 mg/kgまで、より特には、約1 mg/kgから約10 mg/kgの範囲でありうる。
【0044】
Hsp90機能を阻害する分子を用いる治療方法は、腫瘍の型、患者の健康状態、他の健康問題および様々な因子に依存して、化学療法、外科治療および放射線療法と併用されうる。Hsp90機能を阻害する分子はまた、治療的組成物の単一の有効な薬物として用いられうる。
【0045】
「細胞外Hsp90を阻害する分子」は、結果として、細胞外Hsp90の生物活性の阻害を生じる分子である。細胞外Hsp90の生物活性の阻害は、Hsp90依存性浸潤性のような細胞外Hsp90の生物活性の1つまたは複数の指標を測定することにより評価されうる。Hsp90の生物活性のこれらの指標は、いくつかのインビトロもしくはインビボアッセイの1つまたは複数により評価されうる(実施例を参照)。好ましくは、Hsp90活性を阻害する分子の能力は、浸潤ヒト細胞、具体的には実施例に用いられた細胞、のHsp90誘導性浸潤性の阻害により評価される。
【0046】
本発明の「細胞外Hsp90機能を阻害する分子」は、プロテアーぜのような、変性剤、例えば尿素もしくは塩酸グアニジニウム、のような、重金属原子のような、または生体分子(脂質、タンパク質、糖)と共有結合性にかつ非特異的に反応する低分子(例えば、アルデヒドまたはイソシアネート)のような、タンパク質機能の一般的な阻害剤である分子ではない。阻害は、同じ実験条件であるが、本発明の分子を含まない陰性対照と比較した場合の、機能における減少として理解される。
【0047】
さらに、本発明のポリペプチド、特に本発明の抗体または抗体断片、の場合、本発明のポリペプチドは、その抗体断片が1 nM〜50 μM、好ましくは約20 μM、の濃度で存在する場合、実施例に記載されているような実験において、それが癌細胞の浸潤性を30%より多く、好ましくは60%より多く、低下させるならば、細胞外Hsp90の生物学的機能を阻害するとみなされる。
【0048】
さらに、細胞外Hsp90阻害剤に関して、そのような阻害剤は、10 nM〜100 μMの濃度で、好ましくは約1 μMで、存在する場合、実施例に記載されているような実験において、それが浸潤癌細胞の浸潤性を30%より多く、好ましくは60%より多く、低下させるならば、本発明に含まれる。
【0049】
本明細書に用いられる場合、「細胞外Hsp90」は、細胞膜にゆるく会合して、細胞の外側にあるHsp90であり、単離されたHsp90を含むものと理解されるべきではない。これは、翻訳後修飾による膜におけるHsp90挿入、もしくはそれを細胞の細胞外表面へ露出させるような物理的組込み、または細胞外間隙へのHsp90の分泌を含みうる。
【0050】
細胞外Hsp90の「阻害剤」という用語は、細胞外Hsp90を結合して、それの機能、特に、浸潤性および/または転移能のような細胞性質に関して、を減少させる任意のエンティティである。そのようなエンティティは、イオンもしくは非イオンの有機または非有機低分子(すなわち、好ましくは1500 Da未満の分子量をもつ)、天然に存在するおよび天然に存在しない巨大分子、特に天然に存在するおよび天然に存在しない糖部分で、修飾されうる、または別なふうに化学修飾されうるポリペプチド、抗体、特にモノクローナル抗体、抗体断片などでありうる。
【0051】
用語「一つの(a)」は、「1(one)」を意味すると解釈されるべきではなく、他に規定がない場合には、「1および/または1より大きい」も意味しうる。
【0052】
本発明の詳細な説明
本明細書に記載された発明がより完全に理解されうるために、以下の詳細な説明が提供される。
【0053】
本発明は、細胞外Hsp90を特異的に結合することができる、より特に、癌細胞の浸潤性および/または転移能に関してHsp90機能を阻害することができる、阻害剤に関する。細胞外Hsp90阻害剤は、好ましくは、本質的に細胞へ入ることができないか、または修飾がそれの細胞取り込みを本質的に妨げるような様式で修飾されるかのいずれかである。本発明の阻害剤の修飾は、ポリペプチド、糖のような天然に存在する巨大分子に、または人工的に作製された生物学的適合性ポリマーに、阻害剤を結合させることにより達成されうる。
【0054】
好ましくは、本発明の阻害剤は、それぞれ、別のタンパク質、固体マトリックス(例えば、ビーズのような)、多量体を形成するようにそれ自身と、標的細胞に対する毒性をさらに増強させる細胞毒性剤、細胞増殖抑制剤、プロドラッグ、またはHsp90を発現させる細胞を改変するもしくは免疫細胞を補充することができるエフェクター分子との、生物結合体である。
【0055】
細胞外Hsp90を阻害するための本発明の阻害剤は、このように、細胞外Hsp90を阻害するために用いられることがある場合、ゲルダナマイシンのような(細胞内Hsp90の)すでに知られた阻害剤および17 AAGのようなそれの類似体、ラディシコール、ノボビオシンのようなクマリン抗生物質、またはPU3のようなプリンに基づいたHsp90阻害剤でありうる。しかしながら、既知の阻害剤は、(細胞内)Hsp90阻害剤の可能性のある毒性に関連したいずれの副作用も排除されるために細胞取り込みが本質的に妨げられるように、修飾されることが好ましい。
【0056】
細胞毒性剤のリストは、限定されるものではないが、ダウノルビシン、タキソール、アドリアマイシン、メトトレキセート、5 FU、ビンブラスチン、アクチノマイシンD、エトポシド、シスプラチン、ドキソルビシン、ゲニステイン、およびリボソーム阻害剤(例えば、トリコサンチン)、または様々な細菌毒素(例えば、シュードモナス(Pseudomonas)外毒素;スタフィロコッカスオーレウス(Staphylococcus aureus)プロテインA)を含む。
【0057】
本発明の阻害剤は、好ましくは、ポリペプチド、抗体、抗体断片、クマリンおよび/またはプリンに基づいたHsp90阻害剤ならびにそれらの類似体を含む群より選択される。
【0058】
本発明のポリペプチド、特に本発明の抗体断片または抗体、を細胞毒性部分と共に含む生物結合体は、様々な二官能性タンパク質カップリング剤を用いて作製される。そのような試薬のいくつかの例は、N-スクシニミジル3-(2-ピリジルジチオ)-プロピオネート(SPDP)、ジメチルアジピミデートHClのようなイミドエステルの二官能性誘導体、ジスクシニミジルスベレートのような活性エステル、グルタルアルデヒドのようなアルデヒド、(R-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミンのようなビスアジド化合物、ビス-(R-ジアゾニウムベンゾイル)エチレンジアミンのようなビスジアゾニウム誘導体、トリレン2,6-ジイソシアネートのようなジイソシアネート、および1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼンのようなビス活性化フッ素化合物である。生物結合体の作製に有用な方法は、March's Advanced Organic Chemistry: Reactions, Mechanisms and Structure、第5版、Wiley-Interscience;またはBioconjugate Techniques, Ed. Greg Hermanson, Academic Pressに詳細に記載されている。
【0059】
もう一つの好ましい態様において、本発明のポリペプチドは、抗体であり、一つの好ましい態様において、scFv抗体断片由来の抗体、もう一つの好ましい態様において、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体、特にヒトモノクローナル抗体である。
【0060】
細胞外Hsp90に結合する抗ヒトHsp90抗体は、本発明の対応する抗体断片に対して、CDR領域において、特にCDR3領域において、実質的アミノ酸配列同一性を示し、かつ対応する抗体断片と実質的に同じHsp90結合についての親和性を保持する、改変された免疫グロブリン、例えば、化学的もしくは組換え的に作製された抗体またはヒト化抗体、部位特異的突然変異を誘発された抗体、より選択されうる。
【0061】
もう一つの好ましい態様において、抗ヒトHsp90抗体は、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM、特にIgGおよびIgM、より特にはIgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4からなる群より選択される。
【0062】
本発明のもう一つの好ましい態様において、本発明の阻害剤は、特に抗体断片である。
【0063】
好ましくは、本発明の阻害剤は、抗体断片、特に、scFv、dsFv、Fab'、Fab、F(ab')2、Fv、単一ドメイン抗体またはダイアボディ、より特に、scFv、dsFv、Fv、単一ドメイン抗体またはダイアボディ、なおより特に、scFv、単一ドメイン抗体またはダイアボディ、よりいっそう好ましくはscFvである。
【0064】
もう一つの態様において、本発明の抗体断片は、1つもしくは複数の、Hsp90のエピトープ、またはHsp90の保存された変異体のエピトープ、またはHsp90のペプチド断片を特異的に認識する。
【0065】
例として、本発明の分子の生物活性を増加させる一つの方法は、CALI(Chromophore-assisted Laser/Light Inactivation)(レーザー/光分子不活性化法)と組み合わせて分子(またはリガンド)を用いることである。
【0066】
CALI(レーザー/光分子不活性化法)の原理は、次には標的分子を選択的に改変して、それの機能的不活性化を引き起こす、短寿命反応性種の生成へ導く光化学反応の局所的開始に基づく。高度に特異的であるが、非阻害性のリガンド(例えば、抗体、抗体断片、低分子)が、適したフルオロフォア(例えば、フルオレセインイソチオシアネート)で標識される。標的分子(例えば、タンパク質)とリガンドとの間の複合体形成後、複合体は、レーザー光線または白色光で照射され、それぞれ、発色団またはフルオロフォアを励起させる。励起は、短寿命反応性種(例えば、ヒドロキシルラジカルまたは高反応性酸素種)の生成を開始する光化学反応を引き起こす。これらの反応性種は、生成部位の周りの小さな半径内でタンパク質を改変する。反応性種が移動することができる距離は、それの短い寿命のために非常に短い。それゆえに、タンパク質内のアミノ酸残基の改変は、リガンドの結合部位に極めて接近して起こる。損害を与える効果は、約80Åにある(300 mg/mlの平均サイトゾルタンパク質濃度および50 kDaの平均タンパク質サイズを仮定すれば)、細胞内の2つのタンパク質の平均距離より十分下である、15〜40Åの半径に制限され、過程の高い空間的分解能を保証する。この原理は図12に示されている。リガンドの結合部位がタンパク質の重要な機能性ドメイン近くまたは内にある場合、これらの引き起こされた改変は、タンパク質の永久的不活性化へ導く。タンパク質の機能的不活性化は、適切な読み出しアッセイで測定され、細胞浸潤、細胞接着、細胞シグナル伝達またはアポトーシスのような疾患関連生理学的機能の関係において評価される。
【0067】
CALIでのタンパク質の不活性化は、それぞれのタンパク質に対して非常に特異的であることが示された。Linden et al.は、β-ガラクトシダーゼが、同じ溶液中でのアルカリホスファターゼの存在下でさえも、マラカイトグリーン標識抗β-ガラクトシダーゼ抗体で効率的に不活性化されうることを示した。アルカリホスファターゼが少しも影響を及ぼされないのに対して、β-ガラクトシダーゼは、レーザー照射の10分後、95%、不活性化された(Linden et al. (1992) Biophys. J. 61, 956-962)。Jayもまた、タンパク質の単一エピトープに結合した色素標識抗体がアセチルコリンエステラーゼを不活性化するのに十分であることを実証した(Jay (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 5454-58)。
【0068】
Henning et al.は、CALIが、タンパク質の多様なアレイに対して首尾よく用いられることを記載した(Henning et al. Drug Discovery 62-71)。これらのタンパク質は、膜タンパク質(例えば、T細胞受容体のα-、β-、ε-鎖、β1インテグリン、エフリンA5、またはFAS受容体)、シグナル伝達分子(例えば、カリシネウリン、シクロフィリンAまたはPKC)、細胞骨格タンパク質(例えば、アクチン、エズリンまたはキネシン)、または転写因子を含む。Henning et al.はさらに、CALIが、薬物標的としての新規なタンパク質の同定、および同時に、対象となる生物学的関係におけるそれらの機能の解明のために用いられうることを記載した(Henning et al. (2002) Current Drug Discovery May, 17-19)。
【0069】
CALIのいくつかの適用例は、この技術が、特異的であるが非阻害性のリガンドを遮断試薬へ変えることができることを示している。それゆえに、これらのリガンドは、阻害性リガンドの作用を調節するために用いられうる。CALIはまた、単独で阻害効果をすでにもっているリガンドの阻害効果をさらに増強させるために用いられうる。実験の部は、CALIが浸潤または接着アッセイに組み込まれている実施例を示す。
【0070】
分子の化学修飾は、発色団またはフルオロフォアの付加でありうる。発色団は、光と相互作用する可動性電子による高光学活性をもつ分子のその部分である。発色団は、それらが、スペクトルの可視範囲における光を吸収する場合には、フルオロフォアと呼ばれる。発色団のいくつかの例は、例えば、フルオレセイン誘導体、ローダミン誘導体、クマリン誘導体、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体、ナフタロシアニン誘導体、エオシン誘導体、トリフェニルメタン誘導体、またはアクリジン誘導体である。生体分子を化学修飾するための発色団および有用な誘導体のリストは、The Sigma Aldrich Handbooks of Stains and Dyes, Ed., F.J. Green (1990) ISBN No. 0-941633-22-5に開示されている。
【0071】
本発明のもう一つの局面において、阻害剤は、検出可能な標識で標識される。特に、検出可能な標識についての例は、放射性同位元素、発色団、フルオロフォアまたは酵素である。
【0072】
癌関連Hsp90抗原の発現は、本発明の生物結合体またはポリペプチド、特に本発明の抗体または抗体断片、を用いることにより検出されうる。試料は、対象から採取されるが、例えば、腫瘍をもつのではないかと疑われる組織から採取された生検標本である。一般的に、試料は、アッセイが行われる前に処理される。用いられうるアッセイは、ELISA、RIA、EIA、ウエスタンブロット分析、免疫組織学的染色などを含む。用いられるアッセイに応じて、抗原または抗体は、酵素、フルオロフォアまたは放射性同位元素により標識されうる。(例えば、Coligan et al. (1994) Current Protocols in Immunology, John Wiley & Sons Inc., New York, New York;およびFrye et al. (1987) Oncogene 4, 1153-1157を参照。)
【0073】
もう一つの態様において、本発明の修飾されたポリペプチドまたは生物結合体は、ヒト細胞外Hsp90に結合し、癌細胞の浸潤性および/または転移能を低下させる。ヒト癌細胞の浸潤性の程度を測定する一つの方法は、実施例に与えられている。
【0074】
本発明はまた、特に、癌細胞の浸潤性および/または転移能を低下させるための、細胞外Hsp90阻害剤の有効量を含む薬学的組成物に関する。好ましくは、阻害剤は、本質的に細胞へ入ることができないか、または阻害剤の細胞取り込みが本質的に妨げられるような様式で修飾されるかのいずれかである。本発明の薬学的組成物は、癌または転移のような増殖性疾患の予防および/または処置のための薬物の調製に用いられうる。
【0075】
本発明はまた、少なくとも1つの阻害剤、特に1つの抗体または抗体断片、の有効量を含む薬学的組成物、および増殖性疾患、癌もしくは転移、の予防および/または処置のための薬物の調製としての抗体または抗体断片の使用に関する。
【0076】
もう一つの態様において、本発明は、診断キットを含む。そのようなキットは、少なくとも1つの生物結合体および/または少なくとも1つの阻害剤もしくはこれらの標識バージョンを含み、かつ追加的に、標準的な競合またはサンドイッチアッセイを実行するために必要な試薬および材料からなる。その診断キットは、生体試料、特に特定の癌細胞型、の浸潤能力の測定のために用いられうる。キットはさらに、典型的には、容器を含むものである。
【0077】
もう一つの局面において、本発明は、以下の段階を含む、エキソビボで細胞の浸潤および/もしくは転移挙動をスクリーニングまたは試験するための方法を含む:
a)細胞へのHsp90阻害剤の取り込みを本質的に妨げる条件下で、細胞を1つまたは複数のHsp90阻害剤に接触させる段階;
b)段階a)に従って処理された細胞の移動を分析する段階;
c)段階a)に従って処理された細胞の移動を、処理されていない細胞と比較する段階、および任意で
d)段階a)に従って処理された細胞の移動のパーセンテージを、処理されていない細胞に対して決定する段階。
【0078】
本発明のこの局面の好ましい態様において、スクリーニングは、細胞が、細胞の増殖に適した条件下でゲル様マトリックスと接触するように行われ、段階b)は、それに従って、マトリックスを通っての細胞の移動を分析する段階を含む。
【0079】
本明細書に用いられる場合、用語「ゲル様マトリックス」は、マトリックスと接触して癌細胞の培養を可能にし、かつ0.1 mm〜1 mm、好ましくは0.3 mmの厚さ、のその「ゲル様マトリックス」のスラブを通っての浸潤性癌細胞の移動を可能にするが、非浸潤性細胞の移動を許さない、少なくとも90%の水分含量をもつ半固体物質であると理解される。そのような「ゲル様マトリックス」についての例は、タンパク質および糖の構成における細胞外マトリックスに似ている物質であり、特に商業的に入手できる「マトリゲル(Matrigel)」である。特に、「ゲル様マトリックス」は、タンパク質コラーゲンIV型、フィブロネクチンおよびラミニンからなる群より選択されるタンパク質の1つを含む。より特に、ゲル様マトリックスは、タンパク質コラーゲンIV型、フィブロネクチンおよびラミニンを含む。より好ましくは、ゲル様マトリックスは、タンパク質コラーゲンIV型、ラミニン、エンタクチン、ニドゲンおよびヘパラン硫酸プロテオグリカン、またはコラーゲンIV型、フィブロネクチン、ラミニン、ニドゲン、エンタクチンおよびビトロネクチンを含む。
【0080】
本発明はさらに、ALDUのライブラリーをスクリーニングすることにより、Hsp90に特異的に結合する阻害剤を同定する方法であって、これらの阻害剤が、癌細胞のHsp90関連浸潤性、接着性および/または転移能を阻害する能力がある、方法を提供する。その方法は、以下の段階を含む:
a)増幅可能なリガンドディスプレイユニット(amplifiable ligand-displaying unit)(ALDU)のライブラリーを癌細胞、例えば肉腫細胞に接触させる段階;
b)その癌細胞およびそれに結合したALDUを、その癌細胞に結合していないALDUから分離する段階;
c)その癌細胞に結合したALDUを増幅する段階;
d)ALDU、または段階c)後のALDUに由来する、Hsp90のその生物活性に影響を及ぼすリガンドを、機能スクリーニングアッセイにより同定する段階;
e)ALDU、または段階d)後のALDUに由来する、Hsp90に結合する能力があるリガンドを、同定する段階;および
f)リガンドの化学的独自性(identity)を測定する段階。
【0081】
段階の好ましい(しかし、唯一の可能なことというのではない)順序は、a、b、c、d、eおよび任意でfである。
【0082】
本明細書に用いられる場合、「増幅可能なリガンドディスプレイユニット(amplifiable ligand-displaying unit)」(ALDU)は、二重の機能:それらがリガンドを介して標的細胞に結合することができる;および、それらがリガンドと物理的に会合して、個々のユニットが同定かつ増幅されるのを可能にするそれの独自性についての情報を所有する、をもつ分子または分子の収集物である。ALDUの例は、選択-増幅(SELEX)の工程に有用なオリゴヌクレオチド、特にRNA、ファージディスプレイライブラリーのファージ、ウイルスディスプレイライブラリーのウイルス、リボソームディスプレイ技術のリボソームであるが、また、同定可能な分子またはリガンド、特に化学的エンティティ、を所有する個別化ビーズ、例えば、不活性化学的タグにより認識できる、ビーズに結合した低分子である。好ましいのは、同定可能な構成要素として核酸を含む、そのようなALDUである。そのようなALDUは、例えば、RT-PCR、PCR、LCRなどのような核酸増幅方法により、インビトロで増幅されうるか、またはそれらがインビボで増幅されうる、例えば、個々のファージが細菌に感染し、感染の数サイクル後、何百万という事実上同一の子孫を生じることができる、のいずれかである。ALDUのライブラリーは、類似しているが、一般的には非同一のALDUの収集物であり、例えば、他の点では同一のファージ表面の関連において異なるscFvをディスプレイするファージライブラリーのファージである。
【0083】
本明細書に記載される場合、「ALDU由来の」リガンドとは、標的細胞の表面に結合することにより選択された、そのようなALDUによりディスプレイされたリガンドである。例として、ALDUがscFvをディスプレイするファージライブラリーのファージである場合には、この場合における「ALDU由来のリガンド」は、ポリペプチド、ここではscFvである。もう一つの例として、リボソームのディスプレイの場合、「ALDU由来の」リガンドは、リボソームを含む複合体、RNAおよびポリペプチド、により提示されているポリペプチドである。
【0084】
方法は、癌細胞の表面への結合に基づいたスクリーニング段階を、機能アッセイに基づいたスクリーニング段階と有利に組み合わせている。それゆえに、ALDUのライブラリーは、癌細胞の表面抗原に対する特異性をもつライブラリーのそれらのALDUが、例えば癌細胞の表面に付随した構造に結合することができるような様式で、癌細胞と接触させられる。例えば、抗体または抗体断片をディスプレイするファージライブラリーのファージは、培養された癌細胞に結合することを可能にされうる、もう一つの例として、RNA-オリゴヌクレオチドライブラリーのRNAは、そのような癌細胞に結合することを可能にされうる。
【0085】
段階d)で得られた抗体または抗体断片を示しているALDUの独自性は、例えば、抗体もしくは抗体断片をコードするDNAをシーケンシングすることにより、または、グリッドの入ったもしくは番号が付けられたファージをもつ市販用ライブラリーの場合では、ファージのグリッド位置もしくは番号を測定することにより、決定されうる。グリッド位置または番号は、その後、ALDUにより示された抗体または抗体断片の独自性を明らかにすることができる。
【0086】
本明細書に用いられる場合、「リガンド」は、増幅可能なリガンドディスプレイユニット(ALDU)によりディスプレイ可能な分子である。リガンドは、細胞外Hsp90を結合し、かつそれの機能を阻害する任意のエンティティでありうる。リガンドは、ALDUがそれを通じて標的に結合することができる、ALDUのその部分である。
【0087】
本明細書に記載されている場合、「細胞外Hsp90に特異的に結合する」リガンドは、実施例に与えられた緩衝条件下でHsp90に結合するリガンドでありうる。リガンドとHsp90の間の解離定数は、例えば、いわゆるBIACOREシステム(例えば、Fivash et al. Curr Opin Biotechnol. (1998) 9, 97-101を参照)の使用により、測定されうり、その後、「特異的に結合すること」は、リガンドとHsp90の間の解離定数が、標準条件下、例えば、20℃、周囲圧力で、適切な緩衝液、例えば、7.0の全体的pHで、20 mM トリス、100 mM NaCl、0.1 mM EDTA、において測定される場合には、10 μM未満、好ましくは1 μM未満、より好ましくは500 nM、400 nM、300 nM、200 nM、100 nM、50 nM、20 nM未満、最も好ましくは0.1 nMから20 nMまでであることを意味するものと理解されうる。
【0088】
本明細書に用いられる場合、2つの構成要素の「接触させること」とは、2つの構成要素がお互いに物理的に会合し、お互いに結合することを可能にすることを意味する。
【0089】
本明細書に用いられる場合、「分離すること」とは、2つまたはそれ以上の構成要素の物理的分離を意味し、例えば、ALDUがそれに結合している細胞は、遠心分離により遊離ALDUから分離されうり、ALDUがそれに結合している細胞はペレットにされ、遊離ALDUは上清にとどまっている。
【0090】
本明細書に用いられる場合、「増幅すること」とは、少なくとも2個の因子により、好ましくは10個、100個、1,000個、10,000個、100,000個、1,000,000個、10,000,000個または10億個までもの因子により、ALDUまたはALDU由来のリガンドの数を増加させる任意の過程である。例えば、単一ファージは、細菌に感染することにより増幅されうり、感染された細菌は、その後、感染しているファージのほとんど同一のいくつかのコピーを生成する、またはDNA分子は、PCRの過程により増幅され、104個もしくはそれ以上のほとんど同一の娘DNA分子を生じることができる。
【0091】
本明細書に用いられる場合、「同定すること」とは、個々の構成要素、例えばALDU、を特別な性質で位置づけるまたは認識し、その個々の構成要素を単離することを意味する。
【0092】
本明細書に用いられる場合、「リガンドの化学的独自性を決定すること」とは、リガンドの構造的構成を決定することを意味する。例えば、ALDUライブラリーがscFvをディスプレイするファージライブラリーである場合には、「リガンドの化学的独自性を決定すること」とは、例えば、それが由来するファージのsdFvをコードする領域をシーケンシングすることにより、scFvポリペプチドの配列を決定することを意味する。
【0093】
本明細書に用いられる場合、「スクリーニングアッセイ」は、特別の性質をもつ個体、例えばALDU、をわずかに異なる性質をもつ他の類似した個体の中で検出することを目的としている。スクリーニングアッセイの資格を得るために、少なくとも3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、20個、30個、40個、50個または100個までもの個体が、所望の機能をもつ個体がそれらの中で検出されるのを見出すように特定の機能アッセイにおいて試験されなければならない。
【0094】
本発明による分離段階(b)において、癌細胞に対する特異性をもつそれらのALDUについて選択するために、癌細胞およびそれに結合したALDUは、結合していないALDUから分離される。分離は、例えば、培養フラスコに接着的に増殖した培養癌細胞から、接触段階が行われた溶液を、および溶液と共に結合していないALDUを、除去することにより、達成されうる;もう一つの例として、SELEXライブラリーのRNAがそれらに結合している癌細胞が、遠心分離によりペレットにされうるが、結合していないRNAは、接触段階が行われた溶液の一部として上清に残る。または、分離は、遠心分離、密度遠心分離、濾過、FACSソーティング、免疫沈降または固体支持体上への固定化により達成されうる。例えば、癌細胞に結合したALDUは、標的に結合したALDUの複合体が結合していないALDUと比較して異なる生化学的性質をもつという事実を利用して、結合していないALDUから分離されうる。それらの変化した生化学的性質は、サイズ、特異的結合、電荷密度、密度などでありうる。
【0095】
濾過は、例えば、フィルターのサイズが、癌細胞に結合したALDUはフィルターの細孔により保持されるが、結合していないALDUはフィルターの細孔を通過することができるようである場合には、結合したALDUを結合していないALDUから分離することができる。それゆえに、サイズによる濾過は、標的が癌細胞のように大きく、かつALDUが小さい、例えば、リガンドをディスプレイするファージ、ウイルス、核酸またはリボソーム、の場合には、有用である。
【0096】
密度遠心分離は、それらの密度に従って生体分子を分離する。密度遠心分離は、標的に結合したALDUの密度が結合していないALDUのそれと異なる場合に、適用されうる。例えば、密度遠心分離は、ALDUが高密度である、例えば、リガンドをディスプレイするリボソーム、かつ標的が、肉腫細胞または癌細胞の膜由来の媒体のように、それほど高密度ではない場合に、適用されうる。
【0097】
FACSは、癌細胞に結合したALDUの複合体を結合していないALDUから、標的の蛍光に基づいて分離することができる。FACSは、癌細胞を蛍光色素で標識し、その後、各癌細胞が小さな別々の液滴中にあるように、懸濁媒中の標識された癌細胞を狭い滴下ノズルを通過させることにより行われうる。レーザーに基づいた検出器システムは、しばしば、蛍光色素を励起させるために用いられ、例えば、蛍光陽性癌細胞を含む液滴は、電荷を与えられる。荷電したおよび荷電していない液滴は、その後、それらが電荷プレートを通過する時に分離されうり、2つの異なるチューブに収集されうる。このようにして、癌細胞に結合しているALDUを含む小さな液滴は、結合していないALDUを含むバルク溶液から分離される。
【0098】
固体支持体上への癌細胞の固定化は、固定化癌細胞に結合したALDUを結合していないALDUから分離するために行われうる。固体支持体上への癌細胞の固定化は、しばしば、表面活性化固体支持体、または例えば、癌細胞への特異的結合性質をもつ生体分子を用いる癌細胞との固体支持体表面の特異的結合を用いることにより、行われる。固定化癌細胞に結合しているALDUを結合していないALDUから分離するために、固定化癌細胞は、結合していないALDUを含むバルク溶液から分離される。
【0099】
固定化癌細胞に結合したALDUの、結合していないALDUを含むバルク溶液からの分離は、結合していないALDUを含むバルク溶液を固定化癌細胞から除去することにより行われうる。例えば、癌細胞が、例えば、プラスチックのマイクロタイタープレートのウェル上に共有結合性相互作用により固定されている場合には、結合していないALDUを含むバルク溶液は、溶液を除去し、洗浄溶液でウェルを洗浄することにより分離されうる。
【0100】
本発明の方法による増幅段階(c)において、標的に結合したALDUは、それらが機能スクリーニングに適用されるのに有用であるようにALDUの非常に十分な濃度を得るために増幅される。この増幅段階は、増幅可能でありうるALDUの本来備わっている性質を利用している。例として、例えば、抗体または抗体断片をディスプレイするファージは、段階b)において非結合のファージから分離されているのだが、まだ癌細胞に結合しており、例えば、ファージを癌細胞から溶離することにより、まず、結合したファージを回収し、その後、回収されたファージ溶離液を用いて細菌、例えば大腸菌(Escherichia coli)、を感染させることにより、増幅されうる。大腸菌におけるファージの増幅は、その後、総ファージ数の有意な増加であるが、癌細胞に結合する能力があったそれらの個々のファージの濃度が劇的に増加するような様式での増加へと導く。好ましい態様により、増幅の段階は、癌細胞に結合したALDUを溶離するか、またはALDUが増幅可能なままである条件下で癌細胞を溶解するかのいずれかで、そしてその後の増幅により、実現される。癌細胞に結合したALDUは、実施例に実証されているように、例えば、低pHおよび/または高塩での溶液の使用により、まず、癌細胞から溶離され、その後、例えば、多数の子孫ファージを産生するために、溶離されたファージを用いて大腸菌に感染するように、増幅されうる。しかしながら、標的からの溶離段階は、便利でありうるが、例えば、ファージライブラリーの場合において、癌細胞にまだ結合しているファージでも大腸菌に感染する能力がある、だから、多数の同一の子孫を産生する能力がある、だから、癌細胞にまだ結合している場合でさえも増幅可能であるために、必要ではない。従って、標的細胞にまだ結合しているファージが添加された細菌に感染することができ、それゆえに増幅されうるために、ファージは、必ずしも標的細胞から除去される必要はない。
【0101】
もう一つの例として、リボソームのディスプレイライブラリーのmRNAは、癌細胞の表面と、mRNAに対応するポリペプチドをディスプレイするリボソームへのそれの付着により結びつけられているのだが、標的を増幅する前に標的から無傷のALDUを除去する必要なしに、RT-PCRに直接的に用いられうる。このように、標的に結合したALDUが、ALDUを増幅する前に標的から回収される段階は、任意の段階である。
【0102】
ALDUを増幅することはまた、癌細胞に結合しているそのようなALDUのリガンドの化学的独自性を決定し、その後、リガンドを増幅することにありうる。すなわち、例えば、抗体または抗体断片をディスプレイするファージライブラリーの場合、それらのリガンドをコードするDNAは、例えばPCRにより、癌細胞に結合しているファージからクローニングされうり、リガンド、例えば抗体または抗体断片、はその後、機能スクリーニングアッセイに有用であるために十分な量のリガンドを生じるように組換え的に産生されうる。そのような方法において、ALDU自身は増幅されないが、ALDUによりディスプレイされたリガンドは増幅される。これは、しかしながら、増幅段階の目的が機能スクリーニングアッセイに有用であるのに非常に十分なリガンド濃度の生成であり、これは、リガンドかまたはそれをディスプレイするALDUのいずれかを増幅することにより達成されうるため、本発明の範囲内である。
【0103】
本発明の方法による同定段階(d)において、癌細胞に結合した、ALDUまたはALDU由来のリガンドは、機能スクリーニングアッセイにおいて試験されるHsp90の生物学的機能へのそれの効果に基づいて同定される。そのような機能スクリーニングアッセイについて、ALDUまたはそれら由来のリガンドは、機能スクリーニングアッセイからのシグナルまたはパターンが、個別のALDUまたはリガンドの個別の型に関係づけられるように、有利に個別化される。これは、例えば、個々のリガンド、それぞれでマルチウェルプレートの別々のウェルを満たし、その後、それらの個々のウェルにおいてHsp90の所望の生物学的機能についてのアッセイを行うことにより、なされる。
【0104】
もう一つの例において、癌細胞に結合し、かつ結合していないファージから分離されたファージは、細菌に感染し、個々のファージのクローンを表す個々のプラークが形成されるように、例えば軟寒天に、感染された細菌を蒔くことにより個別化されうる。それらの個々のプラークは、その後、Hsp90機能についての生物学的スクリーニングアッセイにおいてそれらの効果について試験されうる。そのようなアッセイにおいて、Hsp90機能についての機能スクリーニングアッセイにおいて効果をもつ個別のプラークは同定可能である。プラークのファージによりディスプレイされたリガンドは、その後、例えば、最初に癌細胞に結合するそれの能力により選択された、単一ファージのクローンを表す単離されたプラークのファージDNAをシーケンシングすることにより、同定されうる。このように、ALDU自身が機能スクリーニングアッセイに用いられるそれらの場合において、ALDUによりディスプレイされたリガンドの独自性は、必要に応じて決定されうる。
【0105】
好ましい態様において、リガンドは、Hsp90の生物学的機能を阻害する能力がある。例えば、Hsp90の生物学的機能は、浸潤、または接着でありうる。
【0106】
もう一つの態様において、ALDUまたはALDU由来のリガンドは、本発明による修飾されていないリガンドを同定する本発明による方法の段階d)においてのような機能スクリーニングアッセイに用いられる。
【0107】
本発明のさらにもう一つの態様において、本発明によるリガンドを同定する方法の段階d)による機能スクリーニングアッセイに用いられるALDUまたはALDU由来のリガンドは、それらの生物活性を増加させるまたはALDUもしくはリガンドに生物活性を与えるために化学修飾される。例として、ALDUもしくはリガンドの生物活性を増加させるための、またはALDUもしくはリガンドに生物活性を与えるための一つの方法は、前に記載されているように、レーザー分子不活性化法(CALI)と組み合わせてALDUまたはリガンドを用いることである。CALIはまた、単独で中和および阻害効果をすでにもつリガンドの阻害効果をさらに増強するために用いられうる。
【0108】
これはまた、ALDU上にディスプレイされたリガンドの性質は、適した分子を同定するためには重大な意味をもたず、本発明によるHsp90阻害分子についてのスクリーニングの成功に影響を及ぼすのは、むしろ、同定可能かつ増幅可能であるALDUの能力である。
【0109】
しかしながら、前に説明されているように、ALDUの増幅は、個別のALDUの数を増加させることにより達成されうるが、また、個別のALDUによりディスプレイされたリガンドの数を増加させることによることでもある。これはまた、原理において、コンビナトリアルケミカルライブラリー(Ohlmeyer et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci USA 90, 10922-26; Liu et al. J. Am. Chem. Soc. (2002) 124, 7678-80; Liang et al. Science (1996) 274, 1520-2を参照)における小さな化学物質をディスプレイする個別のビーズにより達成されうるため、そのようなビーズ形式ライブラリーもまた、ALDUのライブラリーである。低分子は、不活性の化学的タグでインデックスを付けられうるミクロスフィアビーズ上で合成されうる。合成スキームの各段階中、段階番号およびその段階に用いられる化学試薬をコードするタグ分子がビーズに取り付けられる。このタグのアレイは、その後、各ビーズの反応歴を記録する2進コードとして用いられうる。同定された化合物は、その後、より大きな規模で容易に合成されうる。
【0110】
本発明により用いられるALDUは、その独自性についての情報が核酸、例えばRNAまたはDNA、として保存されている生物学的ALDUである。好ましい態様において、ALDUは、ウイルスディスプレイに有用なウイルス、ファージディスプレイに有用なファージ、細菌ディスプレイに有用な細菌リボソームディスプレイに有用なリボソーム、酵母ディスプレイに有用な酵母、ならびに選択および増幅に有用なオリゴヌクレオチドからなる群より選択される。
【0111】
ファージディスプレイに有用なファージは、培養から得られうる、および遺伝子工学技術を受け入れられて、それらの表面上に外来のリガンドをディスプレイする能力がある、すべてのファージでありうる。ファージディスプレイは、Smith et al. (1985) Science, 228, 1315-17に開示されており、抗体のファージディスプレイは、WO 91/17271に開示されている。
【0112】
細菌ディスプレイに有用な細菌は、培養で維持されうる、遺伝子工学技術を受け入れられる、およびそれらの表面上にリガンドをディスプレイすることができる、細菌である。細菌ディスプレイに有用な細菌の例は、Dougherty et al., (1999) Protein Eng. 12,613-21;およびWesterlund-Wickstrom B. (2000) Int. J. Meth. Microbiol. 290, 223-30に開示されている。
【0113】
リボソームディスプレイに有用なリボソームは、Shaffizel et al., (1999) J. Immunol. Methods 231, 119-35;およびWillson et al., (2001) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 3750-5に開示されている。
【0114】
選択/増幅(Selex)に有用なオリゴヌクレオチドは、Tuerk and Gold (1990) Science 249, 505-10、およびTuerk et al., (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89, 6988-92に開示されている。
【0115】
しかしながら、培養されうり、かつ遺伝子工学技術を受け入れられ、従って、それらの表面上に外来のリガンドをディスプレイすることができる低級な真核生物もまた、ALDUとして有用であり、例えば、Boder and Wittrup (2000) Methods Enzymol. 328, 430-44に開示されているような、遺伝子改変された酵母がある。
【0116】
本発明の方法、本発明のリガンドを同定する方法は、同定段階d)として、得られる結果が個別のALDUに割り当てられうるような様式で、ALDUのプールの異なるALDUの空間的分離、およびその後、Hsp90の生物学的機能へのそれらの効果についての空間的に分離されたALDUのスクリーニングを含む。ALDUのプールの異なるALDUの空間的分離は、マルチウェルプレートの別々のウェルを個々のリガンド、それぞれで満たし、その後、機能スクリーニングアッセイにおいてそれらのマルチウェルプレートを用いることによりなされうる。例えば、1つのウェルにおいてHsp90の生物学的機能が阻害される場合には、実験者は、彼が各個々のウェルへ入れた各リガンドの独自性を知っているため、Hsp90のその生物学的機能を阻害するリガンドが同定される。
【0117】
もう一つの好ましい態様において、本発明によるリガンドを同定する方法は、リガンドの独自性を決定する段階であって、この決定段階が、同定されたALDUのDNAをシーケンシングし、同定されたALDUの核酸のPCRフィンガープリントを取ることにより、またはALDU由来のリガンドの場合では、そのようなリガンドの質量分析法により、達成される、段階を含みうる。例えばファージの、PCRフィンガープリント法は、Marks et al. (J. Mol. Biol. (1991) 222, 581-97)に開示されている。リガンド、例えばポリペプチド、の質量分光測定の分析は、Shevchenko et al. ((1996) Anal. Chem. 68, 850-58)またはSpengler et al. ((1992) Rapid. Commun. Mass. Spectrom. 6, 105-8)に開示されている。
【0118】
本発明によるリガンドを同定する方法は、ALDUをスクリーニングする少なくとも1つの追加の段階であって、例えば、スクリーニングがALDUの生化学的性質に基づいている、段階をさらに含みうる。そのような追加のスクリーニング段階は、フローサイトメトリー、ELISA、免疫沈降、結合アッセイ、免疫組織化学的実験、アフィニティー研究、免疫ブロット、およびタンパク質アレイからなる群より選択される方法を含みうる。生化学的性質は、ALDUもしくはALDU由来のリガンドのサイズ、形、密度、電荷密度、疎水性、または結合特異性により決定されうる。ALDUまたはALDU由来のリガンドの生化学的性質は、ALDUをスクリーニングするための上記の方法の適用性の基礎を形成する。フローサイトメトリーは、通常、細胞を蛍光色素で標識し、その後、懸濁媒中のそれらの標識された細胞を、各細胞が小さな別々の液滴にあるように、狭い滴下ノズルを通過させることにより行われる。レーザーに基づいた検出器システムは、しばしば、例えば、蛍光陽性細胞が登録されている蛍光色素および液滴を励起するために用いられる。
【0119】
本発明のもう一つの好ましい態様において、本発明のリガンドを同定する方法は、減算の選択段階をさらに含みうる。減算の選択段階は、望ましくない性質をもつALDUを除去する段階である。例えば、減算の選択段階は、対照細胞へ結合する性質が望ましくない場合には、対照細胞に結合する能力があるALDUを除去することにより影響を与えうる。例として、癌細胞に特異的なALDUについて選択したい場合には、まず、癌細胞に結合するそれらのALDUを選択し、結合したALDU、例えばファージ、を溶離し、その後、例えば、溶離されたALDUのプールを非癌細胞と接触させて、非癌細胞に結合したそれらのALDUを除去することにより、非癌細胞に結合する能力があるそれらのALDUを除去することができる。その結果、上清に残っているALDUは、癌細胞に特異的なALDUであり、その後、本発明のリガンドを同定する方法による機能スクリーニングアッセイに用いられうる。
【0120】
段階e)において、ALDU、例えばファージ、のプールは、Hsp90に結合するALDUの中に濃縮される。Hsp90に結合するそれらのALDUは、最終的に、当技術分野において公知の多数の方法により段階f)において同定されうる。
【0121】
本発明の好ましい態様において、上記の方法は、段階e)およびf)の代わりとして、以下のさらなる段階を含む:
e)ALDU、例えば、単離されたファージ、を組換えHsp90に接触させる段階;
f)そのHsp90を緩衝界面活性剤および/または高塩溶液で洗浄する段階;ならびに
g)ALDU、例えばHsp90に結合したファージ、を溶離する段階;ならびに
h)リガンド、例えばその溶離されたALDU、例えばファージ、により示される抗体または抗体断片の独自性を決定する段階。
【0122】
用いられる「界面活性剤」は、界面活性剤溶液、好ましくは緩衝化したものであってもよく、0.001%〜0.5%、好ましくは0.01%〜0.1%、の濃度でのツイーンでありうる。本明細書に用いられる場合、「高塩」とは、高塩溶液、好ましくは緩衝化した、を意味し、10 mM〜1 M、特に20 mM〜500 mM、より特に50 mM〜350 mM、よりいっそう好ましくは80 mM〜250 mMのイオン強度をもつ。典型的な有用な陰イオンは、例えば、塩化イオン、クエン酸、リン酸、リン酸水素、またはホウ酸である。典型的な有用な陽イオンは、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、またはマグネシウムである。
【0123】
上の段落における緩衝溶液は、典型的には、7〜8のpHをもつ。例えば、DMEMまたはPBS、特に1%〜20%、より特に5%〜15%、よりいっそう好ましくは約10%のFCSをもつ、が緩衝剤として用いられうる。
【0124】
細胞に結合したファージを含む細胞の単離は、200から300までのg値で、3〜20分間、特に5〜10分間、穏やかな遠心分離により果たされる。細胞へ、および固定化されたHsp90への両方の、結合したファージの溶離は、2 mM〜100 mM、特に4 mM〜50 mM、より特に5 mM〜20 mM、よりいっそう好ましくは約10 mMのグリシンで、0から2.5まで、特に1から2.5まで、より特に1.5から2.5まで、のpHにおける洗浄により果たされる。
【0125】
なおさらに、細胞外Hsp90のすべての阻害剤は、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)を調節するために、ならびに特に、マトリックスメタロプロテアーゼの活性を低下させる、および/または分泌を低下させるために、本発明に従って用いられうる。
【0126】
行われた実験および達成された結果を含む、以下の実施例は、例証する目的のためのみ提供されており、本発明における限定として解釈されるべきではない。
【0127】
実施例
実施例1:モノクローナル抗体(例えば、mAb 1.5.1)の作製
マウスを、3ヶ月に渡って、2回、固定または溶解のいずれかのHT-1080細胞で免疫した。固定については、集密的な(1x107個/75cm2フラスコ)HT-1080細胞を、PBSで1回、洗浄し、その後、PBSおよび掻爬で取り出した。細胞をピペッティングにより再懸濁し、220Xgで5分間、遠心分離し、10 mlの2% パラホルムアルデヒドで、4℃、10分間、固定した。細胞をPBSで洗浄し、その後、1 MLのPBSに再懸濁した。溶解された細胞は、集密的なHT-1080細胞をトリプシン処理し、PBSで1回、洗浄し、その後、12000xgで1分間、ペレット化することにより作製された。その後、細胞を、室温で5分間、溶解緩衝液(0.33 M トリス-HCl、pH 7.5における0.67 トリトン-X-100)中で溶解させた。その後、可溶化液を12000xgで5分間、遠心分離した。可溶化液をPD-10カラムに添加し、3.5 mL PBSでタンパク質を溶出させることにより、トリトン-X-100を除去した。タンパク質を、Micro-BCAキット(Pierce)を用いて定量し、150 μg/mL/マウスを免疫化に用いた。
【0128】
ハイブリドーマの作製は、以前に記載されているように(Harlow and Lane, 1988)、行われた。
【0129】
ハイブリドーマ上清は、HT-1080細胞の集密的な単層(96ウェルの透明で薄い底のプレートのウェルあたり40,000個)を4% パラホルムアルデヒド/PBSにおいて室温で30分間、固定し、その後、0.2% トリトン-X-100において5分間、透過処理することにより、まず、スクリーニングされた。希釈されていないハイブリドーマ上清とのインキュベーション後、リン酸緩衝食塩水(PBS)中の0.1% ウシ血清アルブミン(BSA)の5分間洗浄を3回、行った。FITC標識ウサギ抗マウス二次抗体を室温で1時間、加えた。同じ0.1% BSA/PBS洗浄を繰り返し、三次FITC標識のヤギ抗ウサギ抗体を室温で1時間、加えた。洗浄の最終ラウンド後、細胞を画像化するまで4℃でPBS中に保存した。画像は、FITCについて480における励起フィルターセットおよび535における発光フィルターセットを用いて、収集された(Neofluar 40X/0.75開口数レンズを用いるZeiss Axiovert 10)。細胞は、陽性対照(抗β1インテグリン、Chemicon #MAB1963および抗ゲルゾリン、Sigma #G4896)および陰性対照(一次抗体なし)と比較して染色について得点をつけられた。
【0130】
HT-1080結合について陽性を示したハイブリドーマを、その後、表面免疫細胞化学により表面発現について試験した。表面タンパク質免疫細胞化学について、HT-1080細胞の集密的な単層(96ウェルの透明で薄い底のプレートのウェルあたり40,000個)をハイブリドーマ上清と37℃/5% CO2で1時間、インキュベートした。リン酸緩衝食塩水(PBS)中の0.1% ウシ血清アルブミン(BSA)の5分間洗浄の3回後、細胞を2% パラホルムアルデヒドにおいて2時間、固定した。0.1% BSA/PBS洗浄のもう1ラウンドを行い、FITC標識ウサギ抗マウス二次抗体を室温で1時間、加えた。同じ洗浄を繰り返し、三次FITC標識ヤギ抗ウサギ抗体を室温で1時間、加えた。洗浄の最終ラウンド後、細胞を画像化するまで4℃でPBS中に保存した。表面染色は、Neofluar 40X/0.75開口数レンズを用いるZeiss Axiovert 10における顕微鏡により可視化された。画像は、FITCについて480における励起フィルターセットおよび535における発光フィルターセットを用いて、収集された。細胞は、陽性対照(抗β1インテグリン、Chemicon #MAB1963および抗ゲルゾリン、Sigma #G4896)および陰性対照(一次抗体なし)と比較して表面染色について得点をつけられた。
【0131】
実施例2:免疫ライブラリーの構築
2匹のBALB/cマウスをそれぞれ、2 x 107個のパラホルムアルデヒド固定化HT-1080細胞(ヒト線維肉腫細胞系;ATCC、CCL-121)で皮内に免疫化した。最初の免疫化後、39日の期間において2回、注射を繰り返し、マウスを屠殺し、脾臓を摘出して、液体窒素中に凍結させた。
【0132】
各脾臓調製物の半分を用い、全RNAを、RNeasy Midiキット(QIAGEN #75142)を使用して製造会社により記載されているように単離した。RNA濃度および純度は、変性ホルムアルデヒドゲルおよび光度測定により測定された。
【0133】
cDNAは、8.9 μgの新鮮に調製されたRNAおよび10 pmolのプライマー混合物(IgG1-c、IgG2a-c、IgG2b-c、IgG3-c、VLL-c、VLK-c)を用い、Superscript(商標)IIキット(GibcoBRL Life Technologies #18064-014)を使用して合成された。これらのプライマーは、カッパおよびラムダファミリーのIgG重鎖(VH)遺伝子ならびに軽鎖(VL)遺伝子をコードするRNAにアニールする。VH遺伝子は、制限部位を含まない9つのフォワードプライマー(M-VH1、M-VH2、M-VH3、M-VH4、M-VH5、M-VH6、M-VH7、M-VH8、M-VH9)および4つのバックワードプライマー(M-JH1、M-JH2、M-JH3、M-JH4)の36個の個々の組み合わせを用いて1 μlのcDNAからPCR増幅された。VL遺伝子は、制限部位を含まない1つのプライマー混合物(M-VK1、M-VK2、M-VK3、M-VK4、M-VL1、M-JK1、M-JK2、M-JK3、M-JL1)でPCR増幅された。PCR産物は、ゲル精製され(QIAquickゲル抽出キット、#28706)、VHについて、制限部位を含む9つのフォワードプライマー(MVH1 SfiI、MVH2 SfiI、MVH3 SfiI、MVH4 SfiI、MVH5 SfiI、MVH6 SfiI、MVH7 SfiI、MVH8 SfiI、MVH9 SfiI)および4つのバックワードプライマー(M-JH1 SalI、M-JH2 SalI、M-JH3 SalI、M-JH4 SalI)の個々の組み合わせ、ならびにVLについて、制限部位を含む1つのプライマー混合物(M-VK1 ApaLI、M-VK2 ApaLI、M-VK3 ApaLI、M-VK4 ApaLI、M-VL1 ApaLI、M-JK1 NotI、M-JK2 NotI、M-JK3 NotI、M-JL1 NotI)を用いて再増幅された。PCR産物はゲル精製され(QIAquickゲル抽出キット、#28706)、制限部位のVHについてSfiI/SalIおよびVLについてApaLI/NotIを用いてファージディスプレイベクターpXP10へクローニングされた。ライゲーション混合物は、大腸菌TG-1へ電気穿孔法によりトランスフェクションされ、結果として、異なる一本鎖抗体断片(scFv)を発現させる107個の独立したクローン(ファージ)のライブラリーサイズを生じた。
【0134】
実施例3:scFvの選択およびスクリーニング(固定細胞上での選択)
一本鎖Fvは、固定HT-1080細胞で免疫化されたマウスから作製されたファージディスプレイライブラリーから選択された。ライブラリーは、ファージディスプレイベクターpXP10を用いて作製された。
【0135】
腫瘍細胞への高い親和性をもつscFvを発現させるファージは以下のように選択された:HT-1080細胞を0.05% EDTAで収集し、パラホルムアルデヒドで固定し、PBSにおいて1x107細胞/mlに希釈し、96ウェルUV架橋プレート(Corning Costar)のウェル上へ固定化した。UV架橋プレートのウェルを、PBS中の5% スキムミルクパウダー(#70166, Fluka)(MPBS)でブロッキングした。1012 cfu(コロニー形成単位)のファージライブラリー/106細胞をMPBSで25℃、1時間、あらかじめブロッキングし、その後、細胞と室温(RT)で1.5時間、インキュベートした。UV架橋プレートのウェルをPBS+0.05%ツイーン-20で6回、洗浄し、続いてPBSで6回、洗浄した。結合したファージを10 mM グリシン、pH 2.2の添加により溶離し、1 M トリス/HCl、pH 7.4で中和した。典型的には、103〜106 cfuが選択の第一ラウンドにおいて溶離され、従って、濃縮されたレパートリーの多様性は、最初のレパートリーと比較して減少している。濃縮されたレパートリーを含む溶離液を、指数関数的に増殖している大腸菌TG1に感染させることにより増幅した。ファージミド含有大腸菌を選択し、100 μg/ml アンピシリンおよび1% グルコースを追加したLB寒天プレート上の30℃での一晩(o/n)の増殖により増殖させた。この段階後、濃縮されたレパートリーは、ポリクローナルプールとして増幅され、所望の性質への収束が達成されるまで反復様式で、選択のさらなるラウンドに用いられうるか、または空間的に分離され、単一クローンレベルでスクリーニングされうるかのいずれかである。選択の次のラウンドのためのファージ粒子は、選択の前のラウンドの指数関数的に増殖している培養物をヘルパーファージVCS-M13(Stratagene, La Jolla, CA)に重複感染させ、100 μg/ml アンピシリン(amp)および50 μg/ml カナマイシン(kan)を追加した2xTYにおいて20℃で一晩、培養物を増殖させることにより、生成された。選択準備ができているファージを、透明細菌上清から0.5 M NaCl/4% PEG-6000で沈澱させ、PBSに再沈澱させた。選択の1ラウンドを行い、続いて、実施例4に記載されているように単一クローンレベルでスクリーニングした。
【0136】
実施例4:scFvの選択およびスクリーニング(固定細胞におけるスクリーニング)
スクリーニングのために、ファージディスプレイベクターに含まれる、選択されたscFvをコードする遺伝子を、発現ベクターpXP14に再クローニングした。このベクターは、StrepタグおよびEタグと融合したscFvの発現を方向づけ、繊維状ファージ遺伝子-3を含まない。単一コロニー由来の発現ベクター含有大腸菌TG1を、各ウェルが1つのscFvクローンのみを含むようにマイクロタイタープレートの個々のウェルにおいて増殖させた。細菌を96ウェルマイクロタイタープレート(#9297, TPP)での100 μg/ml アンピシリンおよび0.1% グルコースを追加した2xTYにおいて、0.7のOD600まで、30℃で増殖させた。発現を、0.5 mMの最終濃度でのIPTGで誘発し、25℃で一晩、継続させた。一本鎖Fv含有透明可溶化物を、25℃で1時間の50 μg/mlの最終濃度までの鶏卵リソチーム(#L-6876, Sigma)の添加および3000 x gで15分間の遠心分離により調製した。スクリーニングELISAの前に、透明可溶化物を、1時間のDMEM+10% FCSの等量の添加によりブロッキングした。スクリーニングELISAのために、HT-1080細胞を0.05% EDTAで収集し、パラホルムアルデヒドで固定し、PBSにおいて1x107細胞/mlまで希釈し、96ウェルUV架橋プレート(Corning Costar)のウェル上へ固定化した。UV架橋プレートのウェルをMPBSでブロッキングし、scFv含有のブロッキングされた透明可溶化物を25℃で1.5時間、加えた。プレートをPBS+0.1% ツイーン-20で2回、およびPBSで1回、洗浄し、HRP結合α-Eタグ(#27-9413-01, Pharmacia Biotech;0.1% ツイーン-20でMPBSに1:5000に希釈)と1時間、インキュベートし、PBS+0.1% ツイーン-20で3回、およびPBSで3回、洗浄し、POD(#1 484 281, Roche)で発色させて、シグナルを370 nmで読んだ。
【0137】
陽性クローンを、上記のELISAスクリーニング手順を用いてHT-1080細胞および対照ヒト線維芽細胞Hs-27(ATCC CRL-1634)に対して再試験し、グリセロール保存液に保存した。典型的スクリーニングにおいて、2760個(30x92)のクローンをHT-1080細胞への結合についてスクリーニングし、5%の陽性体がバックグラウンドを引き算したシグナル>0.1を与えるクローンとして定義された。155個の陽性クローンをHs-27対照細胞と比較してHT-1080への特異的結合について再試験し、28%の陽性体が、Hs-27対照細胞におけるシグナル値の少なくとも2倍のHT-1080におけるバックグラウンドを引き算したシグナルを与えるクローンとして定義された。
【0138】
実施例5:シーケンシングおよび大量発現
scFv1およびそれの遺伝子のシーケンシングは、プライマーpXP2 Seq2

およびpXP2 Seq1

を用いて、Sequiserve GmbH, Vaterstetten, Germanyにより行われた。アミノ酸配列およびヌクレオチド配列は図に示されている。
【0139】
シーケンシングにより同定された固有のクローンをグリセロール保存液からLB/Amp(100 μg/ml)/1% グルコース寒天プレート上へ画線し、o/n、30℃でインキュベートした。10 ml LB/Amp/Glu(1%)培地に単一コロニーを接種し、o/n、30℃および200 rpm振盪で増殖させた。次の朝、一晩培養物は、2L エルレンマイヤーフラスコにおける100 μg/ml アンピシリンおよび0.1% グルコースを追加した1 L 2xTY培地の接種まで氷上に置かれた。培養物を、OD600 0.5〜0.6が達成されるまで、25℃の振盪で増殖させ、その後、IPTG 0.1 mM 最終濃度で誘発した。新鮮なアンピシリンを50 μg/mlまで添加し、22℃、o/n、振盪でインキュベーションを続行した。朝、培養物を4℃で15分間、5000 x gで遠心分離し、上清を捨て、ペレットをプロテアーゼ阻害剤コンプリート(#1697498, Roche)を含む10 mlのあらかじめ冷却されたPBS-0.5 M Na緩衝液にピペットで、氷上、注意深く再懸濁させた。再懸濁が完了した後、細菌懸濁液を20 ml オークリッジ遠心分離管へ移し、鶏卵リゾチーム(#L-6876, Sigma)を50 μg/mlの最終濃度まで、1時間、氷上で加えた。溶解された細菌を20000 x gで、4℃、15分間、遠心分離し、上清(溶菌液)を15 ml プラスチックチューブへ移した。アフィニティー精製のために、溶菌液を、並行タンパク質精製システムによって、10カラム体積(CV) PBS-0.5 M Na緩衝液と平衡化された1 ml StrepTactin(# 2-1505-010, IBA)カラム上に1 ml/minで添加した。PBSでの10 CV洗浄後、溶出液を5 CV PBS/5 mM デスチオビオチン(Desthiobiotin)(#D-1411, Sigma)で行い、1 ml 画分を収集した。画分をUV280で測定し、タンパク質含有画分をプールし、Amicon超遠心濾過機装置10.000 MWCO (#UFC801024, Millipore)を用いて4700 x gで濃縮した。濃縮されたscFvを、クーマシーブルーで染色された12% ビス-トリス SDS-PAGEゲル上で精製について調べ、-80℃で20 % グリセロールを含むアリコートにおいて凍結させた。
【0140】
実施例6:癌細胞特異的結合についてのFACS分析
精製された抗HT-1080scFvの標的細胞へ特異的に結合する能力を試験するために、本発明者らは、HT-1080細胞(ATCC CCL-121)および対照細胞系としてHs-27細胞(106細胞/ml)を用いて蛍光活性化セルソーター(FACS)分析を行った(図参照)。細胞をCellWash(BD(Becton, Dickinson and Company) #349524)において4℃で20分間、純粋なscFvの10 μg/mlとインキュベートし、洗浄し、結合したscFvを、二次のFITC標識抗Eタグモノクローナル抗体(Amersham #27-9412-01))で検出した。試料を洗浄し、Becton Dickinson FACSscan上で分析した。図8は、scFv1と反応する細胞について、対数蛍光強度(FL1-H;x軸)対相対的細胞数(カウント;y軸)を示している。細い線は、対照細胞系(HS-27)を、太い線は、HT-1080細胞を表している。scFv1は、対照細胞系と比較して10倍まで高いシグナルをもって腫瘍細胞系を特異的に染色している。
【0141】
実施例7:scFvのFITCでの標識
scFvを以下の方法によりフルオレセインイソチオシアネート(FITC)(Molecular Probes, Eugene, USA #F1906)で標識した:乾燥ジメチルスルホキシドにおけるFITCの10 mg/ml溶液のアリコートを、PBS/0.5 M NaHCO3、pH 9.5に溶解されたscFv1の100 μgに、30:1(FITC:scFv1)の比率において添加した。試料を室温で撹拌しながら2時間、インキュベートし、遊離FITCを脱塩カラム(2 Micro Spin G-25, Pharmacia 27-5325-01)を用いて分離した。標識の比率を質量分析法およびUV/VIS分光法により測定し、タンパク質濃度を280 nmで、FITC濃度を494 nmで計算した。
【0142】
実施例7.1:mAb 1.5.1のFITCでの標識
新鮮に作製された乾燥ジメチルスルホキシドにおける10 mg/mL FITCの溶液に、精製されたmAb 1.5.1抗体(T-gel Absorbant, Pierce Biotechnology #20500)を1:5の分配で添加した。0.5 M NaHCO3、pH 9.5の等量をその反応物に添加し、反応物を室温で2時間、揺り動かしながらインキュベートした。遊離FITCを脱塩カラム(PD-10, Amersham #17-0851-01)を用いて分離した。比率は、494 nMにおけるVIS分光法によりFITC濃度を計算し、その標識からの完全なタンパク質回収を仮定することにより、決定された。
【0143】
実施例8:阻害性抗体断片の同定のための浸潤アッセイ
ChemoTx(登録商標)システム(Neuro Probe Inc. #106-8, Gaithersburg)が、8 μm フィルタートラックをエッチングされたポリカーボネート細孔サイズ、5.7 mm直径/部位である96ウェル型での使い捨ての走化性/細胞遊走チャンバーとして用いられる。
【0144】
ダルベッコのPBS(Gibco #14040-091)に希釈された0.3 mg/ml マトリゲル(マトリゲルは、エンゲルブレス-ホルム-スワム(Engelbreth-Holm-Swarm)(EHS)マウス肉腫、細胞外マトリックスタンパク質に富んでいる腫瘍から抽出された可溶化基底膜調製物である。それの主な成分は、ラミニン、続いて、コラーゲンIV型、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、エンタクチンおよびニドゲンである。それはまた、TGF-β線維芽細胞成長因子、組織プラスミノーゲンアクチベーター、およびEHS腫瘍に天然に存在している他の成長因子も含む。)(Becton Dickenson, BD #356234)の13.3 μlを列B〜Hにおける96ウェルプレートの膜フィルター上に加え、列Aにおいては、コラーゲンS I型(Roche #10982929)の1.2 μg/部位を0.05 M HCl(Sigma #945-50)に希釈し、ゲル化のためにデシケーターにおいて20℃で一晩、インキュベートする。HT-1080細胞を10% FCS(Gibco #10270106)を含むグルタマックスI(GlutamaxI)(862 mg/l(Gibco #31966-021))を追加したDMEMにおいて70〜80%集密まで増殖させる。細胞を、DMEM/グルタマックスI/0.1% BSA(Sigma #A-7030)で2回、洗浄し、その後、ビスベンズイミドH 33342(Sigma #B-2261)でインサイチューで標識し、DMEM/グルタマックスI/0.1% BSAにおいて、37℃、7.5% CO2で15分間、1:100に希釈する。細胞を、DMEM/グルタマックスI/0.1% BSAで2回、洗浄し、回収のために、DMEM/グルタマックスI/0.1% BSAを37℃、7.5% CO2で15分間、負荷する。PBS w/o Ca2+、Mg2+(Gibco, 10010-015)での2回の洗浄後、細胞を、0.5 mM EDTA(Sigma #E8008)で脱離させ、ダルベッコのPBS/0.1% BSA/10 mM ヘペス(Hepes)(Gibco #15630-056)で収集し、ダルベッコのPBS/0.1% BSA/10 mM ヘペスで2回、洗浄し、ダルベッコのPBS/0.1% BSA/10 mM ヘペスに懸濁し、ダルベッコのPBS/0.1% BSA/10 mM ヘペスで6.7 x 106細胞/mlまで希釈する。6.7 x 106細胞/mlを、浸潤の阻害についての陰性対照として対照scFvの40 μg/mlと、およびHT-1080特異的scFvと、1:1で、氷上で1時間、インキュベートする。DMEM/グルタマックスI/0.1% BSAでの6.7 x 105細胞/mlへの希釈後、HT-1080細胞およびHT-1080細胞/scFvの希釈物を、3.4 x 104細胞/ウェルの密度で、走化性チャンバー(列B〜H)上へ3連でピペットで移し、37℃、7.5% CO2で6時間、インキュベートする。5% FCSを含むDMEM/グルタマックスIを下層チャンバーにおける化学誘引物質として用いる。1 x 104細胞/部位から4 x 104細胞/部位までの標準曲線は、コラーゲンS I型をコーティングされた走化性チャンバーの列Aで行われる。DMEM/グルタマックスI/0.1% BSAが、下層チャンバー(細胞が移動していない)において用いられる。膜の上面から移動していない細胞を掻爬した後(列Aにおける標準曲線を除く)、膜を通って移動した(標準曲線の場合は、移動しなかった)細胞の蛍光を、370/460 nmの励起/発光波長を用いてFluostar Galaxy (bMG)マイクロプレートリーダー上で測定する。
【0145】
実施例9:CALIを含む、標的同定のための浸潤アッセイ
この実施例は、FITC標識scFvの使用(標識については実施例7を参照)および浸潤アッセイの間のCALI過程の組み込みを除いて、一般的には、実施例8と同一である。
【0146】
ChemoTx(登録商標)システム(Neuro Probe Inc. #106-8, Gaithersburg)が、8 μm フィルタートラックをエッチングされたポリカーボネート細孔サイズ、5.7 mm直径/部位である96ウェル型での使い捨ての走化性/細胞遊走チャンバーとして用いられた。
【0147】
ダルベッコのPBS(Gibco #14040-091)に希釈された0.3 mg/ml マトリゲル(実施例8を参照)の13.3 μlを列B〜Hにおける96ウェルプレートの膜フィルター上に加え、列Aにおいては、コラーゲンS I型(Roche #10982929)の1.2 μg/部位を0.05 M HCl(Sigma #945-50)に希釈し、ゲル化のためにデシケーターにおいて20℃で一晩、インキュベートした。HT-1080細胞を10% FCS(Gibco #10270106)を含むグルタマックスI(862 mg/l(Gibco #31966-021))を追加したDMEMにおいて70〜80%集密まで増殖させた。細胞を、DMEM/グルタマックスI/0.1% BSA(Sigma #A-7030)で2回、洗浄し、その後、ビスベンズイミドH 33342(Sigma #B-2261)でインサイチューで標識し、DMEM/グルタマックスI/0.1% BSAにおいて、37℃、7.5% CO2で15分間、1:100に希釈した。細胞を、DMEM/グルタマックスI/0.1% BSAで2回、洗浄し、回収のために、DMEM/グルタマックスI/0.1% BSAを37℃、7.5% CO2で15分間、負荷した。PBS w/o Ca2+、Mg2+(Gibco, 10010-015)での2回の洗浄後、細胞を、0.5 mM EDTA(Sigma #E8008)で脱離させ、ダルベッコのPBS/0.1% BSA/10 mM ヘペス(Gibco #15630-056)で収集し、ダルベッコのPBS/0.1% BSA/10 mM ヘペスで2回、洗浄し、ダルベッコのPBS/0.1% BSA/10 mM ヘペスに懸濁し、ダルベッコのPBS/0.1% BSA/10 mM ヘペスで6.7 x 106細胞/mlまで希釈した。6.7 x 106細胞/mlを、CALI後の浸潤の阻害についての対照としてFITC標識抗ベータ1 インテグリンモノクローナル抗体(JB1, Chemicon #MAB1963)の40 μg/mlと、およびHT-1080特異的FITC標識scFvと、1:1で、氷上で1時間、インキュベートした。1.3 x 105個のHT-1080細胞/ウェルまたはHT-1080細胞/scFvもしくはモノクローナル抗体の希釈物を、2つの96ウェルプレートの、黒色の、超薄型透明平底のオプティックス(Costar #3615)に3連でピペットで移した。一方のプレートを暗闇に氷上で保持したが、他方のプレートには488 nmでの連続波レーザーを氷塊上で照射した(0.5 W、30秒)。DMEM/グルタマックスI/0.1% BSAでの6.7 x 105細胞/mlへの希釈後、HT-1080細胞およびHT-1080細胞/scFvの希釈物を、3.4 x 104細胞/ウェルの密度で、走化性チャンバー(列B〜H)上へ3連(照射された3連に加えて非照射の3連)でピペットで移し、37℃、7.5% CO2で6時間、インキュベートした。5% FCSを含むDMEM/グルタマックスIを下層チャンバーにおける化学誘引物質として用いた。1 x 104細胞/部位から4 x 104細胞/部位までの標準曲線は、コラーゲンS I型をコーティングされた走化性チャンバーの列Aで行われた。DMEM/グルタマックスI/0.1% BSAが、下層チャンバー(細胞が移動していない)において用いられた。膜の上面から移動していない細胞を掻爬した後(列Aにおける標準曲線を除く)、膜を通って移動した(標準曲線の場合は、移動しなかった)細胞の蛍光を、370/460 nmの励起/発光波長を用いてFluostar Galaxy (bMG)マイクロプレートリーダー上で測定した。一般的な実験において、45000という値は、100%移動した細胞に対応した。
【0148】
HT-1080細胞の浸潤表現型は、上記のTranswell培養システムを用いて腫瘍細胞外マトリックス(マトリゲル)を浸潤するそれらの相対的能力を比較することにより評価された。scFv1は、CALI後、HT-1080細胞の浸潤に46%の阻害効果を示した。CALIを含む浸潤アッセイの結果は、図3に示されている。図3は、CALIがscFv1を阻害性抗体断片に変えることを示している。
【0149】
実施例9.1:CALIを含む、標的同定のための抗体(例えば、mAb 1.5.1)での浸潤アッセイ
ChemoTx(登録商標)システム(Neuro Probe Inc. #106-8, Gaithersburg)が、8 μm フィルタートラックをエッチングされたポリカーボネート細孔サイズ、5.7 mm直径/部位である96ウェル型での使い捨ての走化性/細胞遊走チャンバーとして用いられた。
【0150】
冷却ダルベッコのPBS(Gibco #14040-091)に希釈された0.3 mg/ml マトリゲル(実施例8を参照)の13.3 μlを列B〜Hにおける96ウェルプレートの膜フィルター上に加え、列Aにおいては、マウスコラーゲンIV型(Becton-Dickenson #354233)の0.3 μg/部位を0.05 M HCl(Sigma #945-50)に希釈し、ゲル化のためにデシケーターにおいて20℃で一晩、インキュベートした。HT-1080細胞をMEM非必須アミノ酸(IX, Gibco #11140050)および10% FBS(Hyclone #SH30070.03)を含むペニシリン/ストレプトマイシン(1X, Gibco #15140122)を追加したDMEMにおいて70〜80%集密まで増殖させた。細胞を、DMEM/MEM非必須アミノ酸/0.1% BSA/MEMアミノ酸/ペニシリン-ストレプトマイシン(BSA, Sigma #A-7030)で1回、洗浄し、その後、DMEM/MEM非必須アミノ酸/0.1% BSA/MEMアミノ酸/ペニシリン-ストレプトマイシンにおいて、37℃、7.5% CO2で15分間、3 μM Cell Tracker Orange(Molecular Probes #C-2927)でインサイチューで標識した。細胞を、回収のために、DMEM/MEM非必須アミノ酸/0.1% BSA/MEMアミノ酸/0.1% BSA/MEMアミノ酸/ペニシリン-ストレプトマイシンで1回、37℃、7.5% CO2で15分間、洗浄した。ハンクス平衡塩類溶液(HBSS) w/o Ca2+、Mg2+(Gibco, #14170112)での1回の洗浄後、細胞を、Versene(Gibco #15040066)で脱離させ、HBSS/MEM非必須アミノ酸/0.1% BSA/MEMアミノ酸/ペニシリン-ストレプトマイシン(HBSS, Gibco +14025092)で収集し、HBSS/MEM非必須アミノ酸/0.1% BSA/MEMアミノ酸/ペニシリン-ストレプトマイシンで2回、洗浄し、HBSS/MEM非必須アミノ酸/0.1% BSA/MEMアミノ酸/ペニシリン-ストレプトマイシンに懸濁し、HBSS/MEM非必須アミノ酸/0.1% BSA/MEMアミノ酸/ペニシリン-ストレプトマイシンで8 x 106細胞/mlまで希釈した。8 x 106細胞/mlを、CALI後の浸潤の阻害についての対照としてFITC標識抗ベータ1 インテグリンモノクローナル抗体(JB1, Chemicon #MAB1963)の40 μg/mlと、およびmAbと、1:1で、氷上で1時間、インキュベートした。3 x 105個のHT-1080細胞/ウェルまたはHT-1080細胞/mAbを、2つの透明な96ウェルプレート(Costar #3370)に3連でピペットで移した。一方のプレートを暗闇に氷上で保持したが、他方のプレートには300 W 青色フィルターを通った光(Roscolux, #69, ブリリアントブルー)を氷塊上で1時間、照射した。DMEM/MEM非必須アミノ酸/0.1% BSA/MEMアミノ酸/ペニシリン-ストレプトマイシンでの8 x 105細胞/mlへの希釈後、HT-1080細胞およびHT-1080細胞/mAbの希釈物を、4 x 104細胞/ウェルの密度で、走化性チャンバー(列B〜H)上へ3連(照射された3連に加えて非照射の3連)でピペットで移し、37℃、7.5% CO2で6時間、インキュベートした。5% FCSを含むDMEMを下層チャンバーにおける化学誘引物質として用いた。1 x 104細胞/部位から4 x 104細胞/部位までの標準曲線は、マウスコラーゲンIV型でコーティングされた走化性チャンバーの列Aで行われた。DMEM/MEM非必須アミノ酸/0.1% BSA/MEMアミノ酸/ペニシリン-ストレプトマイシンが、下層チャンバー(細胞が移動していない)において用いられた。膜の上面から移動していない細胞を掻爬した後(列Aにおける標準曲線を除く)、膜を通って移動した(標準曲線の場合は、移動しなかった)細胞の蛍光を、Tecan Spectrafluor Plus蛍光プレートリーダー(励起:544 nm、発光:590 nm)上で測定した。β1インテグリン(データ示されず)およびmAb 1.5.1の両方を認識する陽性対照は、光照射後、浸潤の有意な(p<0.01、対応のないt検定)低下を示した(データは図2に示されている)。陰性対照(抗体なし)は低下を示さなかった。各バーは、陰性対照に対して標準化され、3連における2つの実験の平均+s.e.m.を表している。
【0151】
実施例10:細胞-マトリックス接着アッセイ
96ウェルプレート(TPP #9296)(細胞培養処理された)は、列B〜Hにおいて、ダルベッコのPBS(Gibco #14040-091)におけるコラーゲンS I型 1 μg/ウェル(Roche #10982929)でコーティングされ、列Aウェル10〜12においては、2% BSA(Sigma #A-7030)/ダルベッコのPBSで、4℃で一晩、コーティングされた。プレートをダルベッコのPBSで洗浄し、列B〜Hおよび列Aウェル10〜12を2% BSA/ダルベッコのPBSで、37℃で1時間、ブロッキングし、ダルベッコのPBSで再び、洗浄した。HT-1080細胞を、10% FCS(Gibco #10270106)を含むグルタマックスI(862 mg/l (Gibco #31966-021)を追加したDMEMにおいて70〜80%集密まで増殖させた。細胞を、DMEM/グルタマックスI/0.1% BSA(Sigma #A-7030)で2回、洗浄し、その後、ビスベンズイミドH 33342(Sigma #B-2261)でインサイチューで標識し、DMEM/グルタマックスI/0.1% BSAにおいて、37℃、7.5% CO2で15分間、1:100に希釈した。細胞を、DMEM/グルタマックスI/0.1% BSAで2回、洗浄し、回収のために、DMEM/グルタマックスI/0.1% BSAを37℃、7.5% CO2で15分間、負荷した。PBS w/o Ca2+、Mg2+(Gibco, 10010-015)での2回の洗浄後、細胞を、0.5 mM EDTA(Sigma #E8008)で脱離させ、ダルベッコのPBS/0.1% BSA/10 mM ヘペス(Gibco #15630-056)で収集し、ダルベッコのPBS/0.1% BSA/10 mM ヘペスで2回、洗浄し、ダルベッコのPBS/0.1% BSA/10 mM ヘペスに懸濁し、ダルベッコのPBS/0.1% BSA/10 mM ヘペスで6.7 x 106細胞/mlまで希釈した。6.7 x 106細胞/mlを、CALI後の接着の阻害についての対照としてFITC標識抗ベータ1 インテグリンモノクローナル抗体(JB1, Chemicon #MAB1963)の40 μg/mlと、およびHT-1080特異的FITC標識scFvと、1:1で、氷上で1時間、インキュベートした。1.3 x 105個のHT-1080細胞/ウェルまたはHT-1080細胞/scFvもしくはモノクローナル抗体の希釈物を、2つの96ウェルプレートの、黒色の、超薄型透明平底のオプティックス(Costar #3615)に3連でピペットで移した。一方のプレートを暗闇に氷上で保持したが、他方のプレートには488 nmでの連続波レーザーを氷塊上で照射した(0.5 W、30秒)。DMEM/グルタマックスI/0.1% BSAでの6.7 x 105細胞/mlへの希釈後、HT-1080細胞およびHT-1080細胞/scFvの希釈物を、コーティングおよびブロッキングされたプレート上へ3連(照射された3連に加えて非照射の3連)でピペットで移した。列Aウェル10〜12において、DMEM/グルタマックスI/0.1% BSAを含む6.7 x 105細胞/mlをバックグラウンド対照としてピペットで移した。プレートを37℃、7.5% CO2で1時間、インキュベートし、ダルベッコのPBSで2回、洗浄し、非接着細胞を洗い流した。列Aウェル1〜9において、1 x 104細胞/ウェルから4 x 104細胞/ウェルまでの標準曲線を行い、すべての他のウェルにおいては、50 μl ダルベッコのPBSをピペットで移した。コラーゲンS I型に接着した(標準曲線の場合は、接着しなかった)細胞の蛍光を、370/460 nmの励起/発光波長を用いてFluostar Galaxy (bMG)マイクロプレートリーダー上で測定した。scFv1は、コラーゲンS I型へのHT-1080細胞の接着を50%、阻害した(データ示されず)。
【0152】
実施例11:免疫沈降
mAbの免疫沈降のために、HT-1080細胞の集密単層を、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Boehringer Mannheim)を含む1 mM トリス-Cl、pH 8.0を用いて、4℃で15分間、溶解させた。細胞を、ダンス型ホモジナイザーを用いて5分間、さらに溶解させた。可溶化物を、抗マウスIgG-アガロース(Sigma)に4℃で1時間、あらかじめ吸着させた。標的ハイブリドーマクローン(10 μL/1 mg 抽出された細胞)由来の腹水を4℃で一晩、インキュベートした。抗体-タンパク質複合体を、抗マウスIgG-アガロースビーズを用いて、4℃で1時間、単離した。免疫沈降されたタンパク質をSDS-PAGEおよびクーマシー染色により分析し、mAb免疫沈降物を標的腹水での免疫ブロットによりさらに分析した。
【0153】
scFv免疫沈降のために、HT-1080特異的scFvをStrepTactinセファロースにカップリングさせ(50 μg/50 μl樹脂)、洗浄されたscFv-ビーズを透明可溶化物(1 mg総タンパク質)へ4℃で2〜3時間、加えた。scFv-標的複合体をPBS 0.1% ツイーン20における50 μl 10 mM D-デスチオビオチンで溶出した。免疫沈降されたタンパク質をSDS-PAGEおよび銀染色により分析した。
【0154】
実施例12:質量分析法によるタンパク質同定
mAb標的同定のために、SDS-PAGEにより分離された免疫沈降物からのクーマシー染色バンドを次に、ゲル内消化にかけた。トリプシン処理されたペプチド断片を、75 μM ナノスプレーC18カラム(New Objectives)をもつSurveyor HPLC and LCQ Deca Ion Trap質量分析計(ThermoFinningan)上に走らせた。得られたPMF(ペプチド質量断片)を、NCBIおよびSwissProtデータベースにおいて、種ヒト(Homo sapiens)についてのすべてのエントリーを検索するために用いた。
【0155】
scFv標的同定のために、染色されたバンドを切り出し、トリプシンでのゲル内消化にかけた。ペプチド断片をゲル小片から抽出し、ZipTip μC18上で脱塩し、溶出したペプチドをテフロンコーティングされたMALDI標的(Applied Biosystems)上にスポットした。試料を、STR-DE Voyager MALDI質量分析計(Applied Biosystems)上で分析し、得られたペプチド質量をPMF(ペプチド質量フィンガープリント)によるタンパク質同定に用い、NCBIおよびSwiss-Protデータベースにおいて、種ヒトについてのすべてのエントリーを検索した。
【0156】
実施例13:免疫細胞化学
表面タンパク質免疫細胞化学のために、HT-1080細胞の集密単層(96ウェルの透明薄型底プレートのウェルあたり40,000個)を、ハイブリドーマ上清と37℃/7% CO2で1時間、インキュベートした。3回の、5分間、リン酸緩衝食塩水(PBS)における0.1% ウシ血清アルブミン(BSA)の洗浄後、細胞を2% パラホルムアルデヒドにおいて2分間、固定した。0.1% BSA/PBSの洗浄のもう1ラウンドを行い、FITC-ウサギ-抗マウス二次抗体を室温で1時間、加えた。同じ洗浄を繰り返し、三次FITC-ヤギ-抗ウサギ抗体を室温で1時間、加えた。洗浄の最終ラウンド後、細胞を画像化まで4℃でPBS中に保存した。表面染色は、Neofluar 40X/0.75開口数レンズを用いるZeiss Axiovert 10における顕微鏡観察法により可視化された。画像は、FITCについて480での励起フィルターセットおよび535での発光フィルターセットを用いて収集された。結果は、図6、6.1および6.2に示されている。
【0157】
実施例14:細胞表面のビオチン化
細胞表面タンパク質のビオチン化は、Hanwell at al(J Biol Chem 277:9772)に記載されているように行われた。表面ビオチン化プールおよび非ビオチン化細胞内プールをSDS-PAGEゲル上で分離し、抗Hsp90(Stressgen #SPA-830)または抗α-アクチニン-4(Martin A. Pollak, Childrens Hospital, Boston, MA)での免疫ブロッティングのために転写した。結果は、図7に示されている。Hsp90は、表面(S)および細胞内(IC)の両方の局在性を示すが、α-アクチニンは、細胞内プールにおいてのみ見出される。mAb 1.5.1もまた、表面および細胞内局在性を示す(データ示されず)。
【0158】
実施例15:HT-1080細胞の浸潤におけるノボビオシンまたはナリジクス酸の濃度依存性
8 x 106個のHT-1080細胞/mLを示された濃度におけるノボビオシンまたはナリジクス酸で1時間、前処理し、浸潤アッセイを実施例9.1に記載されているように行った。ノボビオシンは、浸潤の用量依存性阻害を示す(>0.5 mMにおいてp<0.01)。ナリジクス酸は、浸潤に影響を及ぼさない。このアッセイにおけるノボビオシン処理された細胞の生存度は、影響を及ぼされなかった(データ示されず)。各データ点は、薬剤なしの対照に対して標準化され、3連での2つの実験の平均+s.e.m.を表している。
【0159】
実施例16:MMP分泌の阻害
40,000個のHT-1080細胞を所定の濃度におけるノボビオシンまたはナリジクス酸で6時間、処理した。処理された細胞からの条件培地を、10 mg/mL ゼラチンを含むSDS-PAGEゲルを用いて分離した。SDSを、2.5% トリトン-X-100を用いて室温で30分間、ゲルから除去した。タンパク質を、消化緩衝液(0.1 M トリス-Cl2、pH 8.0、5 mM CaCl2、0.04% NaN3)において37℃で48時間、ゼラチンを消化するようにさせておいた。ゲルをクーマシー染色し、濃度測定のために乾燥させた。平行なゲルを、タンパク質の等しい負荷を示すために銀染色した(データ示されず)。MMP活性は、試験されたノボビオシンの最高濃度において>75%減少し、酵素活性の低下は、ナリジクス酸については見られなかった。結果は、図11に示されている。
【0160】
実施例17:ノボビオシンのセファロースへの共有結合性カップリングおよびMMP活性の阻害
この実施例は、HT-1080細胞の表面におけるHsp90機能の阻害を実証する。ノボビオシン、クマリン抗生物質でのHT-1080線維肉腫細胞の処理が、基底膜障壁を侵入する細胞の能力を低下させ、また、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)活性/分泌を有意に低下させることが示された。実験は、短い時間尺度(6時間)で行われるため、細胞内Hsp90標的の有意な欠乏は起こりえない。
【0161】
ノボビオシンの、セファロースのような高分子担体への共有結合性カップリングは、ノボビオシンの細胞取り込み、およびその結果として、Hsp90のどんな細胞内阻害も妨げる。Marcu et al.は、セファロースへのノボビオシン結合についてのプロトコールを記載した(Marcu et al. (2000) J Natl Cancer Inst 92, 242-8; Staudenbauer and Orr (1981) Nucleic Acids Res. 9, 3589-603)。この手順において、エポキシ活性化セファロース6B(Sigma Chemical Co)を、まず、洗浄し、蒸留水で膨潤させる。膨潤したビーズを、カップリング緩衝液(0.3 M 炭酸ナトリウム、pH 9.5)でさらに洗浄する。ノボビオシンは、正式には、カップリング緩衝液における37℃で20時間の膨潤したビーズとのインキュベーションによりビーズに結合される。結合していないノボビオシンを、カップリング緩衝液を用いて洗い流し、残っている非結合エポキシ活性基を1 M エタノールアミンで30℃で12時間、ブロッキングする。カップリング緩衝液中の0.5 M NaCl、蒸留水、0.1 M 酢酸ナトリウム(pH 4.0)中の0.5 M NaClを用いるビーズの徹底的な洗浄を、どれほどの過剰ノボビオシンおよびエタノールアミンでも除去するように行う。その後、ノボビオシン-セファロースビーズを、1 mM EDTA、10% エチレングリコール、および200 mM KClを含む25 mM HEPES (pH 8.0)において、4℃、暗闇で平衡化させる。
【0162】
ゼラチナーゼ実験へ進む前に、ノボビオシン-セファロース結合体のHsp90への効率的な結合を、インビトロ結合アッセイにより実証する。HT-1080細胞をプロテアーゼ阻害剤(錠剤。Boehringer Mannheim)を含むTNESV(1% ノニデットP-40、2 mM EDTAおよび100 mM NaCl、ならびに1 mM オルトバナジウム酸ナトリウム)において溶解させる。この可溶化物の300 μgを、ノボビオシン-セファロース結合体の100 μLと、4℃で1時間、インキュベートする。TNESVでの徹底的な洗浄後、ビーズに結合したタンパク質を2x SDS-PAGE添加液(125 mM トリス-HCl、pH 6.8、10% 2-メルカプトエタノール、10 SDS、10% グリセロールおよび微量ブロモフェノールブルー)で溶出し、5分間、煮沸する。タンパク質を、10% SDS-PAGEゲル上に走らせる。これらのゲルを銀染色するか、または抗Hsp90抗体(AC88, Stressgen, Inc.)での免疫ブロッティングのためにニトロセルロースへ転写するかのいずれかである。
【0163】
ゼラチナーゼアッセイのために、接着HT-1080細胞を、まず、ヴェルセン(Versene)で組織培養皿から優しく取り出す。無血清DMEMにおける5 x 104細胞を、ノボビオシン-セファロース結合体の0.1 μL、1 μLまたは10 μLと混合し、シリコン処理されたエッペンドルフチューブにおいて、穏やかに揺り動かしながら、室温で1時間、インキュベートする。ノボビオシンに結合していないセファロースビーズを含む対照試料を並行して行う。このインキュベーション後、細胞を、組織培養処理された96ウェルプレートへ移し、37℃/5% CO2で6時間、さらにインキュベートする。これらの試料からの条件培地を、その後、2x SDS-PAGE添加液(2-メルカプトエタノールを含まない)と混合する。これらの試料を、10 mg/mL ゼラチンを含む10% SDS-PAGEゲル上に走らせる。その後、SDSを、2.5% トリトン-X-100と室温で30分間、インキュベートすることにより、ゲルから除去する。タンパク質を、消化緩衝液(0.1 M トリス-HCl、pH 8.0、5 mM CaCl2、0.04% NaN3)において38℃で48時間、ゼラチンを消化させるようにさせておく。ゲルをクーマシー染色し、濃度測定のために乾燥させる。平行したゲルを、タンパク質の等しい負荷を示すために銀染色する。MMP活性は、ノボビオシン-セファロースの量が増加していくにつれて減少する。
【0164】
実施例18:ゲルダナマイシンおよび固定化ゲルダナマイシン(GAビーズ)によるMMP活性の阻害
マトリックスメタロプロテイナーゼMMP2はHT-1080条件培地由来のHsp90αと免疫共沈降することが示されうる(図17)。その後、本発明者らは、Hsp90の阻害がMMP2活性を低下させるかどうかを試験するために、既知のHsp90阻害剤、ゲルダナマイシン、をHT-1080細胞へ適用した。HT-1080細胞を無血清培地において20 μM ゲルダナマイシン(GA)で処理し、分泌されたMMP2を酵素電気泳動法によりアッセイした。MMP2(72 kDa ゼラチナーゼ)活性は、GA処理後、〜35%(p<0.01)減少した。等しい負荷を保証するために、条件培地における総タンパク質含有量を銀染色により可視化した。(図18を参照)。
【0165】
ゲルダナマイシンは、よく知られた細胞浸透のHsp90阻害剤である。10 μM ゲルダナマイシン(GA)での1時間の処理は、活性化MMP2(100 ng)が添加された場合に消去される、HT-1080細胞の浸潤の有意な〜35%減少(p<0.05、t検定)を引き起こした。(データ示されず)。ゲルダナマイシンは、それの細胞透過性のために、Hsp90の細胞内および細胞外局在を分離することができない。腫瘍細胞浸潤におけるHsp90の細胞外の役割を示すために、ゲルダナマイシンを、原形質膜の横断を防ぐためにアガロースビーズ(GAビーズ)上に固定した。(実験の詳細について、Whitesell et al. Proc Natl Acad Sci USA 91, 8324-8 (1994)を参照)。HT-1080細胞のGAビーズでの処理後、活性MMP2の80%低下が条件培地に見られたが、MMP2前駆体(pro-MMP2)については15%低下のみであった(図19)。GAビーズで処理されたHT-1080細胞は、インビトロ浸潤アッセイ(実施例8を参照)を用いて浸潤性の有意な45%低下(p<0.01、t検定)を示した。処理されていないビーズもまた、おそらくビーズによる細孔の物理的な封鎖のために、限られた程度までは(<15%)浸潤を阻害した。(図20を参照)。これらの結果のすべて合わせると、細胞外Hsp90αのMMP2前駆体への結合が、そのプロテアーゼの活性化において援助し、浸潤性表現型へ導くことを示唆している。Hsp90αの阻害は、活性MMP2の低下および腫瘍細胞の浸潤性の低下へ導く。
【図面の簡単な説明】
【0166】
【図1】マトリゲルをコーティングされた8 μmフィルターを通っての染色されたHT-1080細胞の浸潤を示す(左写真)。右写真は、対照としてのHS-27細胞の浸潤を示す。蛍光は、37℃での6時間のインキュベーション後に定量された。提示されたデータは、n=3ウェルの平均+/-SDである。
【図2】HT-1080細胞の浸潤へのmAb 1.5.1の阻害効果を示す。浸潤は、光照射後のマトリゲルをコーティングされた細胞遊走チャンバーを用いる走化性アッセイにおいて測定された(CALIを含む)。いずれの阻害性分子も存在しない場合におけるHT-1080細胞の浸潤が、対照として用いられた(左バー)。mAb 1.5.1は、HT-1080細胞の浸潤を約35%、阻害した(p値<0.001)。
【図3】HT-1080細胞の浸潤へのscFv1の阻害効果を示す。浸潤は、光照射後のマトリゲルをコーティングされた細胞遊走チャンバーを用いる走化性アッセイにおいて測定された(CALIを含む)。いずれの阻害性分子も存在しない場合におけるHT-1080細胞の浸潤が、対照として用いられた(左バー)。scFv1は、HT-1080細胞の浸潤を約46%、阻害した(p値<0.05)。
【図4】浸潤の阻害の、抗体濃度との相関を示す。Hsp90、Hsp90α、Hsp90β、(すべてStressgen)、α-アクチニン-4(Martin R. Pollak, Children's Hospital, Boston, MA)に特異的な抗体、およびmAb 1.5.1をFITC標識し、3つの濃度(10 μg/mL、20 μg/mL、および40 μg/mL)において、光照射後、浸潤アッセイで試験した。陽性対照β1-インテグリン(Chemicon、20 μg/mL)および陰性対照(0、抗体無し)もまた示されている。mAb 1.5.1、Hsp90およびHsp90α抗体はすべて、濃度依存性浸潤の阻害を実証したが、Hsp90βおよびα-アクチニン-4は実証しなかった。各バーは、暗闇対照に対して標準化され、3連での少なくとも2つの実験の平均±s.e.m.を表している。
【図5】免疫沈降実験の結果を示す。mAb 1.5.1または抗Hsp90抗体(Stressgen #SPA-830)をHT-1080細胞の可溶化物とインキュベートした。免疫複合体をSDS-PAGEにより分離し、mAb 1.5.1または抗Hsp90抗体で免疫ブロッティングした。同じ特定のバンドが両方の抗体により認識され、両方の抗体が同じタンパク質を結合することを示している。
【図6】Hsp90およびmAb 1.5.1の共免疫細胞化学を示す。第一のパネルは、HT-1080細胞の先端近くのHsp90α/βの局在性(Affinity Bioreagents #PA3012 & PA3-013)を示す。第二のパネルは、mAb 1.5.1を用いた、先端近くの同じ局在性を示す。完全なタンパク質共局在は、画像が重ね合わされている場合に見られうる(右写真)。これは、mAb 1.5.1およびHsp90が同じタンパク質を認識することを実証している。画像は、ローダミン(赤色、Hsp90α/β)およびFITC(緑色、mAb 1.5.1)について、546および480における励起フィルターセットならびに590および535における発光フィルターセットを用いて収集された(Neofluar 40-X/0.75開口数レンズを用いるZeiss Axiovert 10)。画像におけるスケールバーは、10 μmを表している。図6.1:β1-インテグリン(c)およびHsp90α(e)に対する抗体を用いるHT-1080細胞における表面免疫細胞化学は、別々の表面染色を示している。陰性対照[マウス二次単独(a)およびウサギ二次単独(b)]、α-アクチニン-4(d)、およびHsp90β(f)は、検出可能な表面染色を示さない。画像は、Olympus BH-3を用いて可視化され、SPOTデジタルカメラ(Digital Instruments)を用いて収集された。図6.2:β1-インテグリン(c)およびHsp90α(e)に対する抗体を用いるMD-MDA231腺癌細胞における表面免疫細胞化学は、別々の表面染色を示している。陰性対照[マウス二次単独(a)およびウサギ二次単独(b)]、α-アクチニン-4(d)、およびHsp90β(f)は、検出可能な表面染色を示さない。画像は、Olympus BH-3を用いて可視化され、SPOTデジタルカメラ(Digital Instruments)を用いて収集された。図6.3:Hsp90αおよびHsp90β特異的抗体でのHT-1080条件培地の免疫ブロッティングは、Hsp90αの細胞外の位置を示しているが、Hsp90βを示さない。Hsp90αは、HT-1080細胞由来の無血清条件培地に存在するが、Hsp90βは存在しない。
【図7】前に記載されているように、生きているHT-1080細胞で行われた表面タンパク質ビオチン化実験を示す。表面ビオチン化タンパク質および非ビオチン化細胞内タンパク質の両方が、SDS-PAGEにより分離された。Hsp90抗体およびα-アクチニン-4抗体が、免疫ブロット分析に用いられた。Hsp90は、表面(S)および細胞内(IC)の両方の局在を示すが、α-アクチニンは、細胞内プールにおいてのみ見出される。
【図8】FACS分析の結果を示す。scFv1のHT-1080細胞(太い線)および対照としてのHS-27細胞(細い線)への結合活性が例証されている。
【図9】質量分析法解析からのペプチド一致を示す。mAb 1.5.1免疫沈降からのトリプシン処理されたペプチド断片を、75 μM ナノスプレーC18カラム(New Objectives)をもつSurveyor HPLC and LCO Deca Ion Trap質量分析計(ThermoFinnigan)上に走らせた。得られたPMF(ペプチド質量断片)を、NCBIおよびSwiss-Protデータベースにおいて、種ヒト(Homo sapiens)についてのすべてのエントリーを検索するために用いた。一致したペプチドは、Hsp90αの24%(172/732残基)およびHsp90βの33%(241/724残基)に及ぶ。
【図10】HT-1080細胞の浸潤へのノボビオシンの濃度依存性効果を示す。HT-1080細胞をノボビオシンまたはナリジクス酸で1時間、前処理して、浸潤アッセイを行った。ノボビオシンは、浸潤の用量依存性阻害を示している(ANOVAにより、>0.05 mMにおいてp≦0.01)。ナリジクス酸は、浸潤に影響を及ぼさない。このアッセイにおける細胞の生存度は、影響を及ぼされなかった(データ示されず)。各データ点は、薬剤なしの対照に対して標準化され、3連での2つの実験の平均±s.e.m.を表している。
【図11】ノボビオシンの添加後、MMP分泌が減少することを示す。40,000個のHT-1080細胞を所定の濃度におけるノボビオシンまたはナリジクス酸(対照として)で6時間、処理した。MMP活性は、試験されたノボビオシンの最高濃度において>75%減少し、酵素活性の低下は、ナリジクス酸については見られなかった。2つのバンド(AおよびB)は、未同定のMMPに対応する。(明瞭にするために画像は反転されている。)
【図12】レーザー/光分子不活性化法(Chromophore-Assisted Laser/Light Inactivation)(CALI)の原理を示す。
【図13】scFvディスプレイベクターpXP10のベクターマップおよび対応する配列を示す。
【図14】scFv発現ベクターpXP14のベクターマップおよび対応する配列を示す。
【図15】マウスライブラリーのための構築プライマーについての配列を示す。
【図16】scFv1のアミノ酸配列(SEQ ID NO.: 1)(CDR3領域は下線が引かれている)およびヌクレオチド配列(SEQ ID NO.: 2)を示す。
【図17】抗Hsp90α抗体がHT-1080条件培地からMMP2を免疫共沈降させることを示す。免疫沈降したタンパク質を抗MMP2または抗Hsp90αで免疫ブロッティングした。Hsp90の阻害は、MMP2分泌を阻害する。
【図18】ゲルダナマイシン(GA)処理後の条件培地におけるMMP2含有量を示す。HT-1080細胞を無血清培地において20 μM ゲルダナマイシン(GA)で処理し、酵素電気泳動法によりアッセイした。MMP2(72 kDa ゼラチナーゼ)活性は、GA処理後、〜35%減少した。等しい負荷を保証するために、総タンパク質含有量を銀染色により可視化した。
【図19】MMP2含有量とHsp90α含有量の間の相関を示す。HT-1080細胞を、ゲルダナマイシン結合アガロースビーズ(GAビーズ)もしくは対照ビーズ(ビーズ)で処理した、または処理しないままにしておいた(0)。条件培地をMMP2またはHsp90αについて免疫ブロッティングした。GAビーズ処理後、活性MMP2のレベルは、80%減少し、MMP2前駆体のレベルは、15%減少した。
【図20】ゲルダナマイシン結合アガロースビーズ(GAビーズ)の異なる量で処理した後の腫瘍細胞の浸潤性の減少を示す。HT-1080細胞は、ビーズなし、5%もしくは10%(v/v)のGAビーズ、または対照ビーズのいずれかで処理され、浸潤性についてアッセイされた。浸潤性において、GAビーズ処理された細胞は、45%低下を示しているが、対照ビーズ処理された細胞は、ただ15%低下だけを示している(p<0.01、t検定)。各データ点は、処理なしの対照に対して標準化され、2つの3連アッセイの平均±標準誤差を表している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト細胞外Hsp90阻害剤を含む薬学的組成物であって、阻害剤は本質的に細胞へ入ることができない、薬学的組成物。
【請求項2】
阻害剤が、ポリペプチド、抗体、抗体断片、ならびに担体に結合したクマリンおよびプリンに基づくHsp90阻害剤、ならびにそれらの類似体からなる群より選択される、請求項1または2記載の薬学的組成物。
【請求項3】
Hsp90阻害剤が、ゲルダナマイシンおよび17 AAGのようなその類似体、ラディシコール、ならびにノボビオシンのようなクマリン抗生物質、ならびにPU3のようなプリンに基づいたHsp90阻害剤からなる群より選択される1つまたは複数の化合物を含む、請求項1または2のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項4】
阻害剤が抗体である、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項5】
阻害剤がモノクローナル抗体である、請求項4記載の薬学的組成物。
【請求項6】
阻害剤が抗体断片である、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項7】
阻害剤が検出可能な標識で標識されている、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項8】
増殖性疾患、癌もしくは転移の予防および/または処置のための薬学的組成物を調製するための請求項1〜7のいずれか一項記載の阻害剤の使用。
【請求項9】
阻害剤が、ポリペプチド、抗体、抗体断片、クマリンおよびプリンに基づいたHsp90阻害剤からなる群より選択される、請求項8記載の使用。
【請求項10】
阻害剤が抗体、特にモノクローナル抗体である、請求項9記載の使用。
【請求項11】
阻害剤が抗体断片である、請求項10記載の使用。
【請求項12】
ヒト細胞外Hsp90阻害剤をコードする核酸分子であって、阻害剤は抗体または抗体の断片である、核酸分子。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれか一項記載の阻害剤および適した試験容器を含むキット。
【請求項14】
阻害剤が標識されている、請求項13記載のキット。
【請求項15】
以下の段階を含む、エキソビボで、細胞の浸潤および/もしくは転移挙動をスクリーニングまたは試験するための方法:
a)細胞へのHsp90阻害剤の取り込みを本質的に妨げる条件下で、細胞を1つまたは複数のヒトHsp90阻害剤に接触させる段階;
b)段階a)に従って処理された細胞の移動を分析する段階;
c)段階a)による細胞の移動を、処理されていない細胞と比較する段階、および任意で
d)処理されていない細胞と比較して移動のパーセンテージを決定する段階。
【請求項16】
段階a)が、細胞の増殖に適した条件下で細胞をゲル様マトリックスに接触させる段階をさらに含み、かつ段階b)が、ゲル様マトリックスを通過する細胞の移動を分析する段階を含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
請求項7記載の標識された分子を用いて、増殖性疾患、癌または細胞の転移能を診断するための方法。
【請求項18】
以下の段階を含む、ヒト細胞外Hsp90に特異的に結合するリガンドを同定する方法であって、該リガンドは癌細胞の浸潤性、接着性および/または転移能を阻害する能力がある、方法:
a)増幅可能なリガンドディスプレイユニット(amplifiable ligand-displaying unit)(ALDU)のライブラリーを癌細胞に接触させる段階;
b)該癌細胞およびそれに結合したALDUを、該癌細胞に結合していないALDUから分離する段階;
c)該癌細胞に結合したALDUを増幅する段階;
d)ALDU、または段階c)後のALDUに由来する、癌細胞の浸潤性、接着性および/もしくは転移能に影響を及ぼすリガンドを、同定する段階;
e)ALDU、または段階d)後のALDUに由来する、Hsp90に結合する能力があるリガンドを、同定する段階;
f)および任意で、該ALDUにより示されたリガンドの独自性(identity)を決定する段階。
【請求項19】
段階e)およびf)の代わりとして、以下の段階をさらに含む、請求項18記載の方法:
e)段階c)のALDUを固定化Hsp90と接触させる段階;
f)該固定化Hsp90およびそれに結合したALDUを、該固定化Hsp90に結合していないALDUから分離する段階;
g)該固定化Hsp90に結合したALDUを増幅する段階;
h)および任意で、該ALDUにより示されたリガンドの独自性を決定する段階。
【請求項20】
請求項20または21記載の方法により得られる細胞外Hsp90阻害剤。
【請求項21】
マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)を調節するための、特に、活性を低下させるおよび/または分泌を低下させるための、請求項1〜7のいずれか一項記載の阻害剤の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公表番号】特表2007−524586(P2007−524586A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504609(P2006−504609)
【出願日】平成16年3月9日(2004.3.9)
【国際出願番号】PCT/EP2004/002422
【国際公開番号】WO2004/081037
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(503216502)タフツ ユニバーシティー (7)
【Fターム(参考)】