細胞観察の画像解析方法、画像処理プログラム及び画像処理装置
【課題】細胞の運動状態を定量的に把握可能な手段を提供する。
【解決手段】細胞観察の画像処理プログラムは、撮像装置により撮影され観察領域内に複数の細胞を含む第1画像及び第1画像よりも所定時間前に撮像装置により撮影された前記観察領域の第2画像を取得するステップ(S40,S45)と、第1画像に含まれる複数の細胞から一の細胞を注目細胞として選択するステップ(S30)と、注目細胞の周辺に位置する細胞を周辺細胞として指定するステップ(S35)と、第1画像及び第2画像における注目細胞と周辺細胞の相対移動量に基づいて注目細胞に対する周辺細胞の速度の統計量を算出するステップ(S50)と、算出された各周辺細胞の速度の統計量を外部に出力するステップ(S55)とを備えて構成される。
【解決手段】細胞観察の画像処理プログラムは、撮像装置により撮影され観察領域内に複数の細胞を含む第1画像及び第1画像よりも所定時間前に撮像装置により撮影された前記観察領域の第2画像を取得するステップ(S40,S45)と、第1画像に含まれる複数の細胞から一の細胞を注目細胞として選択するステップ(S30)と、注目細胞の周辺に位置する細胞を周辺細胞として指定するステップ(S35)と、第1画像及び第2画像における注目細胞と周辺細胞の相対移動量に基づいて注目細胞に対する周辺細胞の速度の統計量を算出するステップ(S50)と、算出された各周辺細胞の速度の統計量を外部に出力するステップ(S55)とを備えて構成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定時間ごとに細胞観察を行って取得した画像から細胞の運動状態を解析する細胞観察の画像処理手段に関するものである。
【背景技術】
【0002】
細胞運動の基本的な情報として細胞分裂がある。一般的に細胞分裂と足場の形成には関連があるとされており、単一で存在する細胞よりも寄り集まった細胞集団の方が正常な増殖速度を維持できる。一方、細胞によってはPDGF(血小板由来増殖因子)のような成長因子を分泌し他集団の増殖を制御することもある(例えば、非特許文献1を参照)。この様に細胞増殖は社会的相互作用によって制御されている。
【0003】
従来では、上記のような細胞の増殖や抑制などの状況を、一定時間毎に顕微観察を行って顕微観察像を撮影し、撮影された多数の顕微観察画像を観察して判定していた。例えば、細胞観察する上で細胞同士が接着し合いコロニー化する状況を、細胞の挙動による単独からコロニーへの変化として二値の観察を行っていた。
【非特許文献1】ブルース・アルバート(Bruce Albert)他著、中村桂子監訳、松原謙一監訳、「細胞の分子生物学(Molecular biology of the Cell:米国)」、第2版、東京ニュートンプレス、1993年11月、p.748〜749,p.1188〜1189
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、従来の観察手法で把握される細胞の挙動は二値の変化にとどまり、細胞が集合しコロニー化するときの時系列変化や、細胞の増殖が抑制されて縮退してゆくときの時系列変化、細胞が離散してゆくときの時系列変化等について、「変化の定量化」が必要となった場合の解析手法が未解決であった。
【0005】
また、一定時間ごとの顕微観察による判定では、撮影された膨大な顕微観察画像に基づいて判定する必要があった。そのため、多数のパラメータを僅かずつ変化させ、組み合わせごとに細胞の挙動を観察する創薬のような技術分野において、挙動解析に多大な時間を要しており、研究者の健康衛生を確保する上でも課題として指摘されていた。さらに、薬剤の作用には、特定の細胞の細胞死を引き起こすものと増殖を阻害するものがある。これまで、細胞増殖を阻害する薬剤の評価は、一般的には細胞分裂アッセイ試薬を用いて行われており、単一種を培養する環境下でないと他種細胞の分裂を含んだ値しか出せなかった。しかし、実際には他種細胞との社会的作用により制御されている細胞もあり、これらの細胞についての評価が正確性の面で課題とされていた。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、細胞の運動状態を定量的に把握する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明を例示する第1の態様に従えば、撮像装置により撮影され観察領域内に複数の細胞を含む第1画像及び第1画像よりも所定時間前に撮像装置により撮影された前記観察領域の第2画像を取得し、第1画像に含まれる複数の細胞から一の細胞を選択して注目細胞とし、注目細胞の周辺に位置する細胞を周辺細胞として、第1画像及び第2画像における注目細胞に対する各周辺細胞の相対移動量に基づいて注目細胞に対する周辺細胞の速度の統計量(例えば、実施形態における引力斥力速度、引力斥力量)を算出して、注目細胞に関する各周辺細胞の相互作用の状態を判断可能に構成したことを特徴とする細胞観察の画像解析方法が提供される。
【0008】
本発明を例示する第2の態様に従えば、撮像装置により撮影され観察領域内に複数の細胞を含む第1画像及び第1画像よりも所定時間前に撮像装置により撮影された前記観察領域の第2画像を取得するステップと、第1画像に含まれる複数の細胞から一の細胞を注目細胞として選択するステップと、注目細胞の周辺に位置する細胞を周辺細胞として指定するステップと、第1画像及び第2画像における注目細胞と周辺細胞の相対移動量に基づいて注目細胞に対する周辺細胞の速度の統計量(例えば、実施形態における引力斥力速度、引力斥力量)を算出するステップと、算出された各周辺細胞の速度の統計量を外部に出力するステップとを備え、注目細胞に関する各周辺細胞の相互作用の状態を判断可能に構成したことを特徴とする細胞観察の画像処理プログラムが提供される。
【0009】
本発明を例示する第3の態様に従えば、細胞を撮影する撮像装置と、撮像装置により撮影された第1画像及び第1画像よりも所定時間前に撮像装置により撮影された第2画像を記憶する画像記憶部と、第1画像及び第2画像に基づいて観察領域内に位置する複数の細胞間の相互作用の状態を解析する画像解析部と、画像解析部による解析データを出力する出力部とを備え、画像解析部において、第1画像の観察視野内に含まれる複数の細胞から選択された一の注目細胞及び注目細胞の周辺に位置する周辺細胞について、第1画像及び第2画像における注目細胞と周辺細胞の相対移動量に基づいて注目細胞に対する周辺細胞の速度の統計量(例えば、実施形態における引力斥力速度、引力斥力量)を算出して、画像解析部において算出された速度の統計量を、出力部から出力させるように構成したことを特徴とする細胞観察の画像処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
上記のような細胞観察の画像解析方法、画像処理プログラム、画像処理装置によれば、細胞の運動状態を定量的に把握する手段を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態の具体的な説明に先立って、本実施形態を構成する基本原理について説明する。本実施形態は、社会的相互作用の一つである細胞間の引力・斥力を定量化することにより細胞状態を推定する新たな特徴量を提示するものである。
【0012】
図2は、一つの細胞(注目細胞)Ciと、その周辺の他の細胞(周辺細胞)Cjをモデル化して示す運動解析モデルの概念図である。細胞の時系列画像に対して、ある時刻tの画像における注目細胞Ciと周辺細胞Cjの面積および位置(細胞の領域に対する重心や細胞の核の位置)と、その前の時刻t−1の画像における同様の細胞の面積および位置を画像計測によって検出する。そして、注目細胞Ciについて、時刻t−1における両細胞間の距離dj、互いの細胞を結ぶ線分Lを基準として注目細胞側から移動方向を見たときの角度θj、及び時刻t−1から時刻tでの周辺細胞の移動量(注目細胞Ciに対する周辺細胞Cjの相対移動量)vjを算出する。このとき、注目細胞Ciの持つ周辺細胞Cjへの引力斥力速度Vijは、移動量vjを使って、
【数1】
となる。ただし、距離djが離れている場合については信頼性を考慮して重みづけをすることを考え、その重み関数をW(dj)とおくと、距離の重み関数を考慮した引力斥力速度は
【数2】
となる。周辺細胞がM個であれば引力斥力速度の総和(以下、「引力斥力量」という)Viは
【数3】
と表される。この引力斥力量Viを、注目細胞Ciにおけるi=1,...,Nとして画像内のすべての細胞について総和した統計量(特許請求の範囲における総合速度統計量、以下、「総引力斥力量」という)
【数4】
と計算する。
【0013】
引力斥力速度は、正負の符号が角度θjによって変化し、引力と斥力とで符号が反転する。従って、細胞同士に引力が大きく生じている場合は総引力斥力量Vallが正の大きい値を、斥力が大きく生じている場合は総引力斥力量Vallが負の大きい値となって示される。従って、細胞の観察過程において時刻t−1と時刻tの画像を解析して観察領域内の細胞の総引力斥力量を算出することにより、細胞の運動状態を定量的に把握することが可能となる。なお、距離djに応じた重み付けW(dj)については、例えば1/djなどの重み付けの他、二次の重み付けまたはガウシアンなど様々な重み付けが考えられる。これらは細胞同士の挙動を観察した上で決定することが望ましい。
【0014】
以上では画像全体の細胞の引力、斥力を見てきたが、細胞個々の平均的な値
【数5】
や、最大値、最小値、さらにはヒストグラムなども、細胞の運動状態を定量的に表すわかりやすい指標となる。従って、このような基本原理に基づいて時系列画像を解析することにより、細胞観察する過程において、細胞同士に引力または斥力が働いていることの時系列変化を観察することが可能となる。
【0015】
次に、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。本実施形態の細胞観察の画像処理装置を適用したシステムの一例として、培養観察システムの概要構成図及びブロック図を、それぞれ図3及び図4に示す。
【0016】
この培養観察システムBSは、大別的には、筐体1の上部に設けられた培養室2と、複数の培養容器10を収容保持する棚状のストッカー3と、培養容器10内の試料を観察する観察ユニット5と、培養容器10をストッカー3と観察ユニット5との間で搬送する搬送ユニット4と、システムの作動を制御する制御ユニット6と、画像表示装置を備えた操作盤7などから構成される。
【0017】
培養室2は、培養する細胞の種別や目的等に応じた培養環境を形成し及び維持する部屋であり、環境変化やコンタミネーションを防止するためサンプル投入後は密閉状態に保持される。培養室2に付随して、培養室内の温度を昇温・降温させる温度調整装置21、湿度を調整する加湿器22、CO2ガスやN2ガス等のガスを供給するガス供給装置23、培養室2全体の環境を均一化させるための循環ファン24、培養室2の温度や湿度等を検出する環境センサ25などが設けられている。各機器の作動は制御ユニット6により制御され、培養室2の温度や湿度、二酸化炭素濃度等により規定される培養環境が、操作盤7において設定された培養条件に合致した状態に維持される。
【0018】
ストッカー3は、図3における紙面直行の前後方向、及び上下方向にそれぞれ複数に仕切られた棚状に形成されている。各棚にはそれぞれ固有の番地が設定されており、例えば前後方向をA〜C列、上下方向を1〜7段とした場合に、A列5段の棚がA−5のように設定される。
【0019】
培養容器10は、フラスコやディッシュ、ウェルプレートなどの種類、丸型や角型などの形態、及びサイズがあり、培養する細胞の種別や目的に応じて適宜なものを選択し使用することができる。本実施形態ではディッシュを用いた構成を例示している。細胞などの試料は、フェノールレッドなどのpH指示薬が入った液体培地とともに培養容器10に注入される。培養容器10にはコード番号が付与され、ストッカー3の指定番地に対応づけて収容される。なお、培養容器10には、容器の種類や形態等に応じて形成された搬送用の容器ホルダが装着された状態で各棚に収容保持される。
【0020】
搬送ユニット4は、培養室2の内部に上下方向に移動可能に設けられてZ軸駆動機構により昇降されるZステージ41、Zステージ41に前後方向に移動可能に取り付けられてY軸駆動機構により前後移動されるYステージ42、Yステージ42に左右方向に移動可能に取り付けられてX軸駆動機構により左右移動されるXステージ43などからなり、Yステージに対して左右移動されるXステージ43の先端側に、培養容器10を持ちあげ支持する支持アーム45が設けられている。搬送ユニット4は、支持アーム45がストッカー3の全棚と観察ユニット5の試料台15との間を移動可能な移動範囲を有して構成される。X軸駆動機構、Y軸駆動機構、Z軸駆動機構は、例えばボールネジとエンコーダ付きのサーボモータにより構成され、その作動が制御ユニット6により制御される。
【0021】
観察ユニット5は、第1照明部51、第2照明部52及び第3照明部53と、試料のマクロ観察を行うマクロ観察系54、試料のミクロ観察を行う顕微観察系55、及び画像処理装置100などから構成される。試料台15は透光性を有する材質で構成されるとともに、顕微観察系55の観察領域に透明な窓部16が設けられている。
【0022】
第1照明部51は、下部フレーム1b側に設けられた面発光の光源からなり、試料台15の下側から培養容器10全体をバックライト照明する。第2照明部52は、LED等の光源と、位相リングやコンデンサレンズ等からなる照明光学系とを有して培養室2に設けられており、試料台15の上方から顕微観察系5の光軸に沿って培養容器中の試料を照明する。第3照明部53は、それぞれ落射照明観察や蛍光観察に好適な波長の光を出射する複数のLEDや水銀ランプ等の光源と、各光源から出射された光を顕微観察系55の光軸に重畳させるビームスプリッタや蛍光フィルタ等からなる照明光学系とを有して、培養室2の下側に位置する下部フレーム1b内に配設されており、試料台15の下方から顕微観察系5の光軸に沿って培養容器中の試料を照明する。
【0023】
マクロ観察系54は、観察光学系54aと観察光学系により結像された試料の像を撮影するCCDカメラ等の撮像装置54cとを有し、第1照明部51の上方に位置して培養室2内に設けられている。マクロ観察系54は、第1照明部51によりバックライト照明された培養容器10の上方からの全体観察画像(マクロ像)を撮影する。
【0024】
顕微観察系55は、対物レンズや中間変倍レンズ、蛍光フィルタ等からなる観察光学系55aと、観察光学系55aにより結像された試料の像を撮影する冷却CCDカメラ等の撮像装置55cとを有し、下部フレーム1bの内部に配設されている。対物レンズ及び中間変倍レンズは、それぞれ複数設けられるとともに、詳細図示を省略するレボルバやスライダなどの変位機構を用いて複数倍率に設定可能に構成されており、初期選択のレンズ設定に応じて、例えば2倍〜80倍等の範囲で変倍可能になっている。顕微観察系55は、第2照明部52により照明されて細胞を透過した透過光、若しくは第3照明部53により照明されて細胞により反射された反射光、または第3照明部53により照明されて細胞が発する蛍光、を顕微鏡観察した顕微観察像(ミクロ像)を撮影する。
【0025】
画像処理装置100は、マクロ観察系の撮像装置54c及び顕微観察系の撮像装置55cから入力された信号をA/D変換するとともに、各種の画像処理を施して全体観察画像または顕微観察画像の画像データを生成する。また、画像処理装置100は、これらの観察画像の画像データに画像解析を施し、タイムラプス画像の生成や細胞の移動量算出、細胞の運動状態の解析等を行う。画像処理装置100は、具体的には、次述する制御装置6のROMに記憶された画像処理プログラムが実行されることにより構築される。なお、画像処理装置100については、後に詳述する。
【0026】
制御ユニット6は、CPU61と、培養観察システムBSの作動を制御する制御プログラムや各部を制御するためのデータが設定記憶されたROM62と、画像データ等を一時記憶するRAM63などを有し、これらがデータバスにより接続されて構成される。制御ユニット6の入出力ポートには、培養室2における温度調整装置21、加湿器22、ガス供給装置23、循環ファン24及び環境センサ25、搬送装置4におけるX,Y,Zステージ43,42,41の各軸の駆動機構、観察ユニット5における第1,第2,第3照明部51,52,53、マクロ観察系54及び顕微観察系55、操作盤7における操作パネル71や表示パネル72などが接続されている。CPU61には上記各部から検出信号が入力され、ROM62に予め設定された制御プログラムに従って上記各部を制御する。
【0027】
操作盤7には、キーボードやシートスイッチ、磁気記録媒体や光ディスク等から情報を読み込み及び書き込みするリード/ライト装置などの入出力機器が設けられた操作パネル71と、種々の操作画面や画像データ等を表示する表示パネル72とが設けられており、表示パネル72を参照しながら操作パネル71で観察プログラム(動作条件)の設定や条件選択、動作指令等を入力することで、CPU61を介して培養観察システムBSの各部を動作させる。すなわち、CPU61は操作パネル71からの入力に応じて培養室2の環境調整、培養室2内での培養容器10の搬送、観察ユニット5による試料の観察、取得された画像データの解析及び表示パネル72への表示などを実行する。表示パネル72には、作動指令や条件選択等の入力画面のほか、培養室2の環境条件の各数値や、解析された画像データ、異常発生時の警告などが表示される。また、CPU61は有線または無線の通信規格に準拠して構成された通信部65を介して、外部接続されるコンピュータ等との間でデータの送受信が可能になっている。
【0028】
RAM63には、操作パネル71において設定された観察プログラムの動作条件、例えば培養室2の温度や湿度等の環境条件や、培養容器10ごとの観察スケジュール、観察ユニット5における観察種別や観察位置、観察倍率等の観察条件などが記録される。また、培養室2に収容された各培養容器10のコード番号、各コード番号の培養容器10が収容されたストッカー3の収納番地などの培養容器10の管理データや、画像解析に用いる各種データが記録される。RAM63には、観察ユニット5により撮影された画像データを記録する画像データ記憶領域(後述する画像記憶部110)が設けられ、各画像データには培養容器10のコード番号と撮影日時等を含むインデックス・データとが対応付けて記録される。
【0029】
このように概要構成される培養観察システムBSでは、操作盤7において設定された観察プログラムの設定条件に従い、CPU61がROM62に記憶された制御プログラムに基づいて各部の作動を制御するとともに、培養容器10内の試料の撮影を自動的に実行する。すなわち、操作パネル71に対するパネル操作(または通信部65を介したリモート操作)によって観察プログラムがスタートされると、CPU61が、RAM63に記憶された環境条件の各条件値を読み込むとともに、環境センサ25から入力される培養室2の環境状態を検出し、条件値と実測値との差異に応じて温度調整装置21、加湿器22、ガス供給装置23、循環ファン24等を作動させて、培養室2の温度や湿度、二酸化炭素濃度などの培養環境についてフィードバック制御が行われる。
【0030】
また、CPU61は、RAM63に記憶された観察条件を読み込み、観察スケジュールに基づいて搬送ユニット4のX,Y,Zステージ43,42,41の各軸の駆動機構を作動させてストッカー3から観察対象の培養容器10を観察ユニット5の試料台15に搬送して、観察ユニット5による観察を開始させる。例えば、観察プログラムにおいて設定された観察がマクロ観察である場合には、搬送ユニット4によりストッカー3から搬送してきた培養容器10をマクロ観察系54の光軸上に位置決めして試料台15に載置し、第1照明部51の光源を点灯させて、バックライト照明された培養容器10の上方から撮像装置54cにより全体観察像を撮影する。撮像装置54cから制御装置6に入力された信号は、画像処理装置100により処理されて全体観察画像が生成され、その画像データが撮影日時等のインデックス・データなどとともにRAM63に記録される。
【0031】
また、観察プログラムにおいて設定された観察が、培養容器10内の特定位置の試料のミクロ観察である場合には、搬送ユニット4により搬送してきた培養容器10の特定位置を顕微観察系55の光軸上に位置決めして試料台15に載置し、第2照明部52または第3照明部53の光源を点灯させて、透過照明、落射照明、蛍光による顕微観察像を撮像装置55cに撮影させる。撮像装置55cにより撮影されて制御装置6に入力された信号は、画像処理装置100により処理されて顕微観察画像が生成され、その画像データが撮影日時等のインデックス・データなどとともにRAM63に記録される。
【0032】
CPU61は、上記のような観察を、ストッカー3に収容された複数の培養容器の試料について、観察プログラムに基づいた30分〜2時間程度の時間間隔の観察スケジュールで全体観察像や顕微観察像の撮影を順次実行する。なお、本実施形態では、撮影の時間間隔は一定であってもよいし、異なっていてもよい。撮影された全体観察像や顕微観察像の画像データは、培養容器10のコード番号とともにRAM63の画像データ記憶領域(画像記憶部110)に記録される。RAM63に記録された画像データは、操作パネル71から入力される画像表示指令に応じてRAM63から読み出され、指定時刻の全体観察画像や顕微観察画像(単体画像)、あるいは指定時間領域の全体観察像や顕微観察像のタイムラプス画像が操作盤7の表示パネル72に表示される。
【0033】
さて、以上のように構成される培養観察システムBSにおいて、画像処理装置100は、上記したタイムラプス画像の生成などの基本機能に加えて、観察領域内の細胞の運動状態を解析する画像解析機能を備えている。以降、画像処理装置100が実行する画像解析の具体的な内容を説明するにあたり、まず2つの時系列画像から細胞の運動状態を定量的に算出する手法について説明する。
【0034】
(前処理)
図5は、ある時刻tに撮影された細胞の顕微観察画像を模式的に示した図である。まず、この画像について、細胞個々の領域を抽出しセグメンテーションする。たとえば輝度値による2値化、分散値による2値化、SnakesやLevel Set法などといった動的輪郭抽出手法といった方法が上げられる。これにより図6に示すようにセグメント化された細胞領域に対して、ラベリングを施し、各細胞ラベルに対して周辺細胞のラベルを計測する手法をとる。
【0035】
次に、図7に示すように、時刻tに撮影された画像の細胞(実線で示す細胞)と、所定時間前に撮影された時刻t−1の画像における細胞(点線で示す細胞)の対応付け、すなわち細胞トラッキングを行う。ここでは、時刻tと時刻t−1での細胞領域ラベルに対して互いに最も近傍かつ形状が似ているものを選択する。これにより各細胞の時刻t−1からtへの移動ベクトルを算出する。
【0036】
(引力、斥力の計算)
前処理で得られた各細胞の移動ベクトルに対し、注目細胞Ciと周辺細胞の一つCjに対して引力または斥力による速度の統計量を算出する。速度の統計量として、注目細胞Ciに対する周辺細胞Cjの引力斥力速度や引力斥力量が代表例として挙げられる。図2に示したように、注目細胞Ciに対してその周辺細胞の一つCjの時刻t−1からtでの特徴が
細胞面積sj・・・周辺細胞Cjの輪郭内部面積
移動量vj・・・・注目細胞Ciに対する周辺細胞Cjの相対移動量
距離dj・・・・・注目細胞Ciと周辺細胞Cjの距離
角度θj・・・・細胞を結ぶ線分Lを基準として移動方向を見たときの角度
であるとする。まず、細胞が何らかのイオン物質を出し合い、その濃度によって引力または斥力が効いてくるのであれば、細胞間の距離djに反比例するようなエネルギーが考えられ、この場合重み関数W(dj)は、
【数6】
面積に関係してくるならば、
【数7】
となる。または、重みを付ける範囲をある一定の範囲内として決めることができるならば、
【数8】
ここで、Dは細胞のインタラクション(相互作用)の範囲:ユーザー指定
といったことも考えられる。
さらに確率的に考えるならば、確率密度関数として正規分布
【数9】
σは標準偏差
といった定義も考えられる。
このとき、注目細胞Ciが一つの周辺細胞Cjに及ぼす引力斥力速度Vijは、
【数10】
となる。
これをすべての周辺細胞(M個)に適用すると、注目細胞Ciのもつ引力斥力量Viは、
【数11】
となる。これを画像内のすべての細胞について、注目細胞Ciにおけるi=1〜Nとして注目細胞を置き換えて総和した総引力斥力量
【数12】
を算出する。前述したように、細胞同士に引力が大きく生じている場合には総引力斥力量Vallが正の大きい値を、斥力が大きく生じている場合には総引力斥力量Vallが負の大きい値となる。従って、細胞の観察過程において時刻t−1と時刻tの2つの画像を解析して観察領域内の細胞の総引力斥力量Vallを算出することにより、細胞の運動状態を、引力であるか斥力であるかの別を含めて定量的に把握することが可能となる。
【0037】
さらに、図8(1)→(2)のような状態変化を生じる時系列データについて、所定時間ごとに算出された総引力斥力量の値を時系列に並べて表示し、例えば、図9に示すように横軸を時間軸としたグラフ上にプロットすることにより、引力の変化状況を可視化した変化グラフが得られる。これは、はじめ離散していた細胞が互いに固まりとなり、コロニーへと変貌を遂げる定量性を表すこととなり、細胞群の変化状況を定量的にかつ容易に把握することができる。
また、細胞個々の平均的な値や、最大値、最小値、
【数13】
さらにヒストグラムなどの統計量の時系列変化も、細胞の運動状態を表す指標として興味深いものとなる。また、正の値(引力)のみ、または負の値(斥力)のみを取り扱い、引力と斥力と別々に観察することも考えられる。
【0038】
このような速度の統計量を画像解析により求めて細胞同士のインタラクション観察を行う上で、その観察アプリケーションとして、以下のような例が挙げられる。
【0039】
(A:計測細胞の指定)
観察者が計測対象となる細胞を1つまたは複数指定し、指定した計測細胞に対する引力・斥力の速度総和計算をする。例えば、図10(1)(2)に例示するように、画像に含まれる多数の細胞の中から特定の細胞を計測細胞Csとして指定し、引力・斥力の有効な距離(範囲)を設定して、その指定した計測細胞Csに対する引力・斥力の速度総和を計算する。また、この計測対象となる1つの細胞Csへの周辺細胞のもつ引力斥力速度を、図11に示すようにそれぞれ表示させる。これにより、その計測対象細胞Csへの個々の運動状態や最も引力または斥力が働いている細胞等を知ることができる。
【0040】
(B:速度の統計量計算および時系列変化)
図12に示すように、Aで指定した計測細胞Csを順次他の細胞に置き換えてそれぞれ各細胞の引力斥力速度を求め、求めた引力斥力速度の総和を各細胞に対して計算して各細胞について引力斥力量を表示すると、その最大値から視野内において最も影響を及ぼしている細胞を知ることができる。また、細胞個々の速度総和の統計量として、その平均値や最大値、最小値、総引力斥力量、分散を表示することにより全体の状況を知ることができる。さらに、これらの時系列データを時間軸に沿ってグラフ表示させることにより時間領域での変化を容易に把握することができる。またAで指定した計測細胞Cs自身の速度、大きさ(面積)、形状(円形度や複雑度などを含む)などの時系列変化量についても表示させることができ、これにより細胞の運動状態を詳細に把握することができる。
【0041】
次に、画像処理装置100において実行される画像解析の具体的なアプリケーションについて生細胞の顕微観察画像(位相差画像)を解析する場合を例として説明する。図13に、画像処理装置100において細胞の運動状態の画像解析を行う画像解析部分の概要構成をブロック図として示す。
【0042】
画像処理装置100は、撮像装置(54c,55c)により撮影された第1画像、及び第1画像よりも所定時間前の時刻t−1に撮影された第2画像を記憶する画像記憶部110と、第1画像及び第2画像に基づいて観察領域内に位置する複数の細胞間に作用する相互作用の状態(引力または斥力の作用状態)を解析する画像解析部120と、画像解析部120による解析データを出力する出力部130とを備え、画像解析部120において第1画像及び第2画像における注目細胞と周辺細胞の相対位置と相対移動量に基づいて各細胞の引力斥力速度を算出するとともに、これを総和して注目細胞の引力斥力量を算出し、さらに注目細胞を順次置き換えて求めた引力斥力量を総和して細胞全体の総引力斥力量を算出して、出力部130から出力して、例えば表示パネル72に表示させるように構成される。
【0043】
なお、画像処理装置100は、ROM62に予め設定記憶された画像処理プログラムがCPU61に読み込まれ、画像処理プログラムに基づく処理がCPU61により実行されることによって構成される。
【0044】
本実施形態の画像解析の処理は、既に観察プログラムに基づいて所定時間ごとに撮影されて画像記憶部110に保存された時系列画像について実行可能であるのみならず、観察時点での細胞の運動状態を解析してリアルタイムでモニタリングすることが可能である。そこで、本実施例ではこのリアルタイムでの画像解析処理について、図1に示す画像処理プログラムGPのフローチャート、および図14に示す表示パネル72に表示される培養細胞運動解析インターフェースの表示画像を参照しながら説明する。
【0045】
このインターフェースでは、表示パネル72に「ディッシュ選択」枠721が表示されてストッカー3に格納された培養容器のコード番号が表示され、ステップS10において、観察対象の培養容器10の選択が行われる。図14では、操作パネル71に設けられたカーソルによりコード番号Cell-0002の培養細胞ディッシュ(培養容器)が選択された状態を示す。
【0046】
ステップS10において観察対象が選択されると、CPU61は、搬送ユニット4の各軸の駆動機構を作動させ、ストッカー3から観察対象の培養容器10を観察ユニット5に搬送する。そして、マクロ観察系54による全体観察像または顕微観察系55による顕微観察像を撮像装置(54c,55c)に撮影させ、その画像を「観察位置」枠722に表示させる。
【0047】
ステップS20では、どの領域を観察領域にするか観察位置の設定が行われる。図14では、観察者が操作パネル71に設けられたマウス等を利用して中央右よりの網掛け領域を指定した状態を示す。このとき、設定された観察領域の画像は、画像解析部120においてすぐにセグメンテーション処理が施され、位相差画像に細胞輪郭を重ね合わせた画像または細胞輪郭による模式図(セグメンテーション画像)が「観察画像」枠723に表示される。このとき、表示パネル72に、「計測細胞の指定」724a及び「周辺細胞の指定」724bを含む「運動解析オプション」枠724が表示される。
【0048】
ステップS30では、観察者が「観察画像」枠723に表示された模式図上でマウスにより引力斥力速度を知りたい計測対象の細胞を選択し、「計測細胞の指定」724aの決定ボタンを押して計測細胞Csを確定する。次にステップS35において周辺細胞Cjを手動で指定するか計測細胞Csからの距離(半径)で指定するかを「周辺細胞の指定」724bに設けられた選択ボタンにより選択する。手動を選択した場合には、周辺細胞Cjをマウスにより個々に選択して決定ボタンを押すことで確定し、半径指定を選択した場合にはその半径値を数値(単位はピクセルやμmなど)またはマウスで入力する。
【0049】
これを初期設定とし、観察プログラムに設定された所定時間ごとの観察スケジュールで観察画像の取り込み(ステップS40)、観察画像の保存(ステップS45)が実行されタイムラプス観察が行われる。ステップS30及びステップS35で指定された観察領域内の計測細胞Cs及び周辺細胞Cjは、観察スケジュールに設定された所定時間ごとに画像解析部120において細胞画像のセグメンテーションとトラッキングが行われ、ステップS50において各細胞の引力斥力速度が計算される。
【0050】
各細胞の引力斥力速度計算(ステップS50)の内容については、既に詳述したとおり、これをフローチャートに簡潔にまとめたのが図1中の右列のフロー(ステップS51〜ステップS55)である。すなわち、画像解析部120における各細胞の引力斥力速度計算は、時刻tの観察画像(第1画像)と所定時間前の時刻t−1の観察画像(第2画像)について、図6に示した細胞の最外殻輪郭抽出処理(セグメンテーション処理:ステップS51)、これらの2つの画像間において図7に示した計測細胞Cs及び周辺細胞Cjの対応付け(ステップS52)、この対応付けにより求められる計測細胞Csに対する周辺細胞Cjの移動ベクトルの算出(ステップS53)、図2の移動モデルで説明した手法により上記移動ベクトルに基づいて求められる計測細胞Csに対する各周辺細胞Cjの引力斥力速度の算出(ステップS54)が行われ、各細胞の引力斥力速度の計算、すなわち、M個の周辺細胞について注目細胞Ciに関する引力斥力量Viが計算されるとともに、注目細胞を置き換えた場合の各細胞の引力斥力量が算出されて、これらの計算結果が出力部130から出力される(ステップS55)。
【0051】
そして、ステップS60において、図11に示したように各周辺細胞Cjの引力斥力速度や、図12に示したような各細胞の引力斥力量が各観察ごとに「観察画像」枠723の表示画面にリアルタイムで表示され、算出された各細胞の引力斥力速度の値がRAM63に蓄積される。また、ステップS70において、計測細胞Csを注目細胞Ciとし、Ciにおけるi=1〜Nとして注目細胞を置き換えて観察領域に含まれる全細胞の引力斥力量の総和(総引力斥力量)Vallの計算が実行され、これらの計算結果がRAM63に蓄積される。インターフェースでは、図11に示す各周辺細胞の引力斥力速度の表示、あるいは図12に示す引力斥力量の表示などを、「観察画像」枠723に設けた選択ボタンにより選択し表示させることができるようになっている。
【0052】
タイムラプス観察の実行中には、これが「時系列変化グラフ」枠725にグラフとしてリアルタイム表示される。このグラフには、図12を参照して先に説明したように、各細胞の引力斥力量の最大値や最小値、総引力斥力量、平均、分散などの時間軸上での変化が表示される他に、計測細胞Csの面積、形状変化(円形度や複雑度など)の経時変化が表示可能になっており、時系列変化グラフの表示項目の選択によって切り替え表示させることができる。さらに、出力部130には出力端子が設けられて通信部65に接続されており、通信部65を介して外部接続されるコンピュータ等に計算結果をエクスポートできるようになっている。
【0053】
従って、このような画像解析手段(画像解析方法、画像処理プログラム、画像処理装置)によれば、タイムラプス観察の実行中に、観察対象の細胞の時々刻々の運動状態が具体的な数値やグラフでリアルタイム表示され、細胞の運動状態を迅速かつ定量的に把握することができる。
【0054】
なお、上記実施例では、タイムラプス観察を開始する際に計測細胞Cs及び周辺細胞Cjを指定して、タイムラプス観察の継続中に画像解析を並行して実行し、解析結果をリアルタイム表示する構成を例示したが、本発明の画像解析は、一定時間のタイムラプス観察の実行(実行中)、またはタイムラプス観察を終了して、画像記憶部110に保存された時系列画像について実施することも可能である。そこで、以下に、このような場合の画像解析の流れについて、図14及び図1を併せて参照しながら簡潔に説明する。
【0055】
まず、ステップS10において「ディッシュ選択」枠721に表示された培養容器のリストから観察対象のコード番号の培養容器(例えば前述したコード番号Cell-0002の培養細胞ディッシュ)を選択する。ここで選択された観察対象の時系列画像は既に画像記憶部110に保存されている(すなわち図1に示した画像処理プログラムにおけるステップS40及びステップS45は、ステップS10より以前に実行されている)。そこで、ステップS10で観察対象が選択されると、選択された培養容器の時刻tにおける観察画像(全体観察画像または顕微観察像)が画像記憶部110から読み出されて「観察位置」枠722に表示される。なお、観察期間中のどの時刻の画像を読み出すかを選択することができ、例えば観察開始時(第2番目のデータ)を選択し、あるいは観察期間の中間時や終了時を選択することができる。
【0056】
ステップS20では、「観察位置」枠に表示された画像から、どの領域を観察するか観察領域の設定を行う。設定された観察領域の画像は画像解析部120においてすぐにセグメンテーション処理が施され、位相差画像に細胞輪郭を重ね合わせた画像または細胞輪郭による模式図が「観察画像」枠に表示される。セグメンテーション処理は、時刻tとその所定時間前の時刻t−1の2枚に対して行われ、模式図の表示は時刻tのみ、もしくは両者を時系列表示できるものとする。
【0057】
次いで、ステップS30において「観察画像」枠723に表示された模式図上で計測対象の細胞を選択し「計測細胞の指定」724aの決定ボタンを押して計測細胞Csを確定する。また、ステップS35において周辺細胞Cjを手動または計測細胞Csからの距離(半径)で指定し、決定ボタンを押して確定する。これらの選択設定は前述同様である。
【0058】
ステップS30及びステップS35において計測細胞Cs及び周辺細胞Cjの設定が確定すると、画像解析部120は、まず、最初に画像記憶部110から読み出した時刻tと時刻t−1の画像についてステップS50の各細胞の引力斥力速度及び引力斥力量、ステップS70の全細胞の総引力斥力量の計算を実行してRAM63に記録する。また、既に所定の観察スケジュールで撮影され画像記憶部110に保存された観察画像(ステップS40、ステップS45)について時刻tを順次移動して読み出し、読み出された各画像からステップS20において設定された観察領域の画像を切り出して、セグメンテーションとトラッキングを行い、ステップS50及びステップS70の計算を順次実行してRAM63に記録する。
【0059】
そして、「観察画像」枠723に設けられた選択ボタンの選択に応じて、図11に示した周辺細胞の引力斥力速度、あるいは図12に示した全細胞の引力斥力量や総引力斥力量が表示される。なおこれらの表示は、任意に選択した特定時刻の計算結果を表示させることができる。また、タイムラプス観察の実行中の場合には「時系列変化グラフ」枠725に現時点までの引力斥力量(最大値や最小値、平均値等)の変化がグラフとして表示され、観察終了後の場合には観察開始から終了に至る引力斥力量の変化が表示される。
【0060】
以上説明したように、本発明の画像処理プログラムGP、この画像処理プログラムが実行されることより構成される画像解析方法及び画像処理装置100によれば、所定時間をおいて撮影された細胞観察像から、撮影時における細胞全体の総引力斥力量が算出される。このため、細胞全体の運動状態を迅速かつ定量的に把握する手段を提供することができる。
【0061】
前述したように、細胞増殖には社会的相互作用が重要である。本発明では、細胞間の相互作用、すなわち引力・斥力の作用状態を算出することにより、他細胞を引き付け足場を形成する過程や、他種の細胞への侵襲過程を定量的に評価することができる。つまり、他細胞から隔離して正常な増殖を抑制する試薬のスクリーニングや、他細胞への侵襲抑制試薬のスクリーニングに使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施例として示す画像処理プログラムのフローチャートである。
【図2】注目細胞と周辺細胞をモデル化して示す運動解析モデルの概念図である。
【図3】本発明の適用例として示す培養観察システムの概要構成図である。
【図4】上記培養観察システムのブロック図である。
【図5】時刻tに撮影された細胞の顕微観察画像を模式的に示した模式図である。
【図6】図5に示した時刻tの顕微観察画像をセグメント化した状態の模式図である。
【図7】時刻tに撮影された画像の細胞(実線で示す細胞)と、時刻t−1に撮影された画像の細胞(点線で示す細胞)との対応付けを説明するための説明図である。
【図8】細胞群の時系列変化の状態を例示する模式図であり、(1)はじめ離散していた細胞が、(2)のようにコロニーへと変化して行く状態を示す模式図である。
【図9】細胞群がコロニー化して行く場合に、所定時間ごとに算出された総引力斥力量の値を横軸を時間軸としたグラフ上にプロットしたときの総引力斥力量の変化グラフである。
【図10】計測対象となる計測細胞の指定について説明するための模式図である。
【図11】計測細胞に対する周辺細胞の引力斥力速度を表示する画面の構成例である。
【図12】引力斥力量を表示した画面の構成例である。
【図13】画像処理装置の概要構成を示すブロック図である。
【図14】画像解析プログラムを実行した場合に表示パネルに表示される培養細胞運動解析インターフェースの表示画像の構成例である。
【符号の説明】
【0063】
BS 培養観察システム
GP 画像処理プログラム
Ci 注目細胞 Cj 周辺細胞
Cs 計測細胞(注目細胞)
54 マクロ観察系 54c 撮像装置
55 顕微観察系 55c 撮像装置
100 画像処理装置 110 画像記憶部
120 画像解析部 130 出力部
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定時間ごとに細胞観察を行って取得した画像から細胞の運動状態を解析する細胞観察の画像処理手段に関するものである。
【背景技術】
【0002】
細胞運動の基本的な情報として細胞分裂がある。一般的に細胞分裂と足場の形成には関連があるとされており、単一で存在する細胞よりも寄り集まった細胞集団の方が正常な増殖速度を維持できる。一方、細胞によってはPDGF(血小板由来増殖因子)のような成長因子を分泌し他集団の増殖を制御することもある(例えば、非特許文献1を参照)。この様に細胞増殖は社会的相互作用によって制御されている。
【0003】
従来では、上記のような細胞の増殖や抑制などの状況を、一定時間毎に顕微観察を行って顕微観察像を撮影し、撮影された多数の顕微観察画像を観察して判定していた。例えば、細胞観察する上で細胞同士が接着し合いコロニー化する状況を、細胞の挙動による単独からコロニーへの変化として二値の観察を行っていた。
【非特許文献1】ブルース・アルバート(Bruce Albert)他著、中村桂子監訳、松原謙一監訳、「細胞の分子生物学(Molecular biology of the Cell:米国)」、第2版、東京ニュートンプレス、1993年11月、p.748〜749,p.1188〜1189
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、従来の観察手法で把握される細胞の挙動は二値の変化にとどまり、細胞が集合しコロニー化するときの時系列変化や、細胞の増殖が抑制されて縮退してゆくときの時系列変化、細胞が離散してゆくときの時系列変化等について、「変化の定量化」が必要となった場合の解析手法が未解決であった。
【0005】
また、一定時間ごとの顕微観察による判定では、撮影された膨大な顕微観察画像に基づいて判定する必要があった。そのため、多数のパラメータを僅かずつ変化させ、組み合わせごとに細胞の挙動を観察する創薬のような技術分野において、挙動解析に多大な時間を要しており、研究者の健康衛生を確保する上でも課題として指摘されていた。さらに、薬剤の作用には、特定の細胞の細胞死を引き起こすものと増殖を阻害するものがある。これまで、細胞増殖を阻害する薬剤の評価は、一般的には細胞分裂アッセイ試薬を用いて行われており、単一種を培養する環境下でないと他種細胞の分裂を含んだ値しか出せなかった。しかし、実際には他種細胞との社会的作用により制御されている細胞もあり、これらの細胞についての評価が正確性の面で課題とされていた。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、細胞の運動状態を定量的に把握する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明を例示する第1の態様に従えば、撮像装置により撮影され観察領域内に複数の細胞を含む第1画像及び第1画像よりも所定時間前に撮像装置により撮影された前記観察領域の第2画像を取得し、第1画像に含まれる複数の細胞から一の細胞を選択して注目細胞とし、注目細胞の周辺に位置する細胞を周辺細胞として、第1画像及び第2画像における注目細胞に対する各周辺細胞の相対移動量に基づいて注目細胞に対する周辺細胞の速度の統計量(例えば、実施形態における引力斥力速度、引力斥力量)を算出して、注目細胞に関する各周辺細胞の相互作用の状態を判断可能に構成したことを特徴とする細胞観察の画像解析方法が提供される。
【0008】
本発明を例示する第2の態様に従えば、撮像装置により撮影され観察領域内に複数の細胞を含む第1画像及び第1画像よりも所定時間前に撮像装置により撮影された前記観察領域の第2画像を取得するステップと、第1画像に含まれる複数の細胞から一の細胞を注目細胞として選択するステップと、注目細胞の周辺に位置する細胞を周辺細胞として指定するステップと、第1画像及び第2画像における注目細胞と周辺細胞の相対移動量に基づいて注目細胞に対する周辺細胞の速度の統計量(例えば、実施形態における引力斥力速度、引力斥力量)を算出するステップと、算出された各周辺細胞の速度の統計量を外部に出力するステップとを備え、注目細胞に関する各周辺細胞の相互作用の状態を判断可能に構成したことを特徴とする細胞観察の画像処理プログラムが提供される。
【0009】
本発明を例示する第3の態様に従えば、細胞を撮影する撮像装置と、撮像装置により撮影された第1画像及び第1画像よりも所定時間前に撮像装置により撮影された第2画像を記憶する画像記憶部と、第1画像及び第2画像に基づいて観察領域内に位置する複数の細胞間の相互作用の状態を解析する画像解析部と、画像解析部による解析データを出力する出力部とを備え、画像解析部において、第1画像の観察視野内に含まれる複数の細胞から選択された一の注目細胞及び注目細胞の周辺に位置する周辺細胞について、第1画像及び第2画像における注目細胞と周辺細胞の相対移動量に基づいて注目細胞に対する周辺細胞の速度の統計量(例えば、実施形態における引力斥力速度、引力斥力量)を算出して、画像解析部において算出された速度の統計量を、出力部から出力させるように構成したことを特徴とする細胞観察の画像処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
上記のような細胞観察の画像解析方法、画像処理プログラム、画像処理装置によれば、細胞の運動状態を定量的に把握する手段を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態の具体的な説明に先立って、本実施形態を構成する基本原理について説明する。本実施形態は、社会的相互作用の一つである細胞間の引力・斥力を定量化することにより細胞状態を推定する新たな特徴量を提示するものである。
【0012】
図2は、一つの細胞(注目細胞)Ciと、その周辺の他の細胞(周辺細胞)Cjをモデル化して示す運動解析モデルの概念図である。細胞の時系列画像に対して、ある時刻tの画像における注目細胞Ciと周辺細胞Cjの面積および位置(細胞の領域に対する重心や細胞の核の位置)と、その前の時刻t−1の画像における同様の細胞の面積および位置を画像計測によって検出する。そして、注目細胞Ciについて、時刻t−1における両細胞間の距離dj、互いの細胞を結ぶ線分Lを基準として注目細胞側から移動方向を見たときの角度θj、及び時刻t−1から時刻tでの周辺細胞の移動量(注目細胞Ciに対する周辺細胞Cjの相対移動量)vjを算出する。このとき、注目細胞Ciの持つ周辺細胞Cjへの引力斥力速度Vijは、移動量vjを使って、
【数1】
となる。ただし、距離djが離れている場合については信頼性を考慮して重みづけをすることを考え、その重み関数をW(dj)とおくと、距離の重み関数を考慮した引力斥力速度は
【数2】
となる。周辺細胞がM個であれば引力斥力速度の総和(以下、「引力斥力量」という)Viは
【数3】
と表される。この引力斥力量Viを、注目細胞Ciにおけるi=1,...,Nとして画像内のすべての細胞について総和した統計量(特許請求の範囲における総合速度統計量、以下、「総引力斥力量」という)
【数4】
と計算する。
【0013】
引力斥力速度は、正負の符号が角度θjによって変化し、引力と斥力とで符号が反転する。従って、細胞同士に引力が大きく生じている場合は総引力斥力量Vallが正の大きい値を、斥力が大きく生じている場合は総引力斥力量Vallが負の大きい値となって示される。従って、細胞の観察過程において時刻t−1と時刻tの画像を解析して観察領域内の細胞の総引力斥力量を算出することにより、細胞の運動状態を定量的に把握することが可能となる。なお、距離djに応じた重み付けW(dj)については、例えば1/djなどの重み付けの他、二次の重み付けまたはガウシアンなど様々な重み付けが考えられる。これらは細胞同士の挙動を観察した上で決定することが望ましい。
【0014】
以上では画像全体の細胞の引力、斥力を見てきたが、細胞個々の平均的な値
【数5】
や、最大値、最小値、さらにはヒストグラムなども、細胞の運動状態を定量的に表すわかりやすい指標となる。従って、このような基本原理に基づいて時系列画像を解析することにより、細胞観察する過程において、細胞同士に引力または斥力が働いていることの時系列変化を観察することが可能となる。
【0015】
次に、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。本実施形態の細胞観察の画像処理装置を適用したシステムの一例として、培養観察システムの概要構成図及びブロック図を、それぞれ図3及び図4に示す。
【0016】
この培養観察システムBSは、大別的には、筐体1の上部に設けられた培養室2と、複数の培養容器10を収容保持する棚状のストッカー3と、培養容器10内の試料を観察する観察ユニット5と、培養容器10をストッカー3と観察ユニット5との間で搬送する搬送ユニット4と、システムの作動を制御する制御ユニット6と、画像表示装置を備えた操作盤7などから構成される。
【0017】
培養室2は、培養する細胞の種別や目的等に応じた培養環境を形成し及び維持する部屋であり、環境変化やコンタミネーションを防止するためサンプル投入後は密閉状態に保持される。培養室2に付随して、培養室内の温度を昇温・降温させる温度調整装置21、湿度を調整する加湿器22、CO2ガスやN2ガス等のガスを供給するガス供給装置23、培養室2全体の環境を均一化させるための循環ファン24、培養室2の温度や湿度等を検出する環境センサ25などが設けられている。各機器の作動は制御ユニット6により制御され、培養室2の温度や湿度、二酸化炭素濃度等により規定される培養環境が、操作盤7において設定された培養条件に合致した状態に維持される。
【0018】
ストッカー3は、図3における紙面直行の前後方向、及び上下方向にそれぞれ複数に仕切られた棚状に形成されている。各棚にはそれぞれ固有の番地が設定されており、例えば前後方向をA〜C列、上下方向を1〜7段とした場合に、A列5段の棚がA−5のように設定される。
【0019】
培養容器10は、フラスコやディッシュ、ウェルプレートなどの種類、丸型や角型などの形態、及びサイズがあり、培養する細胞の種別や目的に応じて適宜なものを選択し使用することができる。本実施形態ではディッシュを用いた構成を例示している。細胞などの試料は、フェノールレッドなどのpH指示薬が入った液体培地とともに培養容器10に注入される。培養容器10にはコード番号が付与され、ストッカー3の指定番地に対応づけて収容される。なお、培養容器10には、容器の種類や形態等に応じて形成された搬送用の容器ホルダが装着された状態で各棚に収容保持される。
【0020】
搬送ユニット4は、培養室2の内部に上下方向に移動可能に設けられてZ軸駆動機構により昇降されるZステージ41、Zステージ41に前後方向に移動可能に取り付けられてY軸駆動機構により前後移動されるYステージ42、Yステージ42に左右方向に移動可能に取り付けられてX軸駆動機構により左右移動されるXステージ43などからなり、Yステージに対して左右移動されるXステージ43の先端側に、培養容器10を持ちあげ支持する支持アーム45が設けられている。搬送ユニット4は、支持アーム45がストッカー3の全棚と観察ユニット5の試料台15との間を移動可能な移動範囲を有して構成される。X軸駆動機構、Y軸駆動機構、Z軸駆動機構は、例えばボールネジとエンコーダ付きのサーボモータにより構成され、その作動が制御ユニット6により制御される。
【0021】
観察ユニット5は、第1照明部51、第2照明部52及び第3照明部53と、試料のマクロ観察を行うマクロ観察系54、試料のミクロ観察を行う顕微観察系55、及び画像処理装置100などから構成される。試料台15は透光性を有する材質で構成されるとともに、顕微観察系55の観察領域に透明な窓部16が設けられている。
【0022】
第1照明部51は、下部フレーム1b側に設けられた面発光の光源からなり、試料台15の下側から培養容器10全体をバックライト照明する。第2照明部52は、LED等の光源と、位相リングやコンデンサレンズ等からなる照明光学系とを有して培養室2に設けられており、試料台15の上方から顕微観察系5の光軸に沿って培養容器中の試料を照明する。第3照明部53は、それぞれ落射照明観察や蛍光観察に好適な波長の光を出射する複数のLEDや水銀ランプ等の光源と、各光源から出射された光を顕微観察系55の光軸に重畳させるビームスプリッタや蛍光フィルタ等からなる照明光学系とを有して、培養室2の下側に位置する下部フレーム1b内に配設されており、試料台15の下方から顕微観察系5の光軸に沿って培養容器中の試料を照明する。
【0023】
マクロ観察系54は、観察光学系54aと観察光学系により結像された試料の像を撮影するCCDカメラ等の撮像装置54cとを有し、第1照明部51の上方に位置して培養室2内に設けられている。マクロ観察系54は、第1照明部51によりバックライト照明された培養容器10の上方からの全体観察画像(マクロ像)を撮影する。
【0024】
顕微観察系55は、対物レンズや中間変倍レンズ、蛍光フィルタ等からなる観察光学系55aと、観察光学系55aにより結像された試料の像を撮影する冷却CCDカメラ等の撮像装置55cとを有し、下部フレーム1bの内部に配設されている。対物レンズ及び中間変倍レンズは、それぞれ複数設けられるとともに、詳細図示を省略するレボルバやスライダなどの変位機構を用いて複数倍率に設定可能に構成されており、初期選択のレンズ設定に応じて、例えば2倍〜80倍等の範囲で変倍可能になっている。顕微観察系55は、第2照明部52により照明されて細胞を透過した透過光、若しくは第3照明部53により照明されて細胞により反射された反射光、または第3照明部53により照明されて細胞が発する蛍光、を顕微鏡観察した顕微観察像(ミクロ像)を撮影する。
【0025】
画像処理装置100は、マクロ観察系の撮像装置54c及び顕微観察系の撮像装置55cから入力された信号をA/D変換するとともに、各種の画像処理を施して全体観察画像または顕微観察画像の画像データを生成する。また、画像処理装置100は、これらの観察画像の画像データに画像解析を施し、タイムラプス画像の生成や細胞の移動量算出、細胞の運動状態の解析等を行う。画像処理装置100は、具体的には、次述する制御装置6のROMに記憶された画像処理プログラムが実行されることにより構築される。なお、画像処理装置100については、後に詳述する。
【0026】
制御ユニット6は、CPU61と、培養観察システムBSの作動を制御する制御プログラムや各部を制御するためのデータが設定記憶されたROM62と、画像データ等を一時記憶するRAM63などを有し、これらがデータバスにより接続されて構成される。制御ユニット6の入出力ポートには、培養室2における温度調整装置21、加湿器22、ガス供給装置23、循環ファン24及び環境センサ25、搬送装置4におけるX,Y,Zステージ43,42,41の各軸の駆動機構、観察ユニット5における第1,第2,第3照明部51,52,53、マクロ観察系54及び顕微観察系55、操作盤7における操作パネル71や表示パネル72などが接続されている。CPU61には上記各部から検出信号が入力され、ROM62に予め設定された制御プログラムに従って上記各部を制御する。
【0027】
操作盤7には、キーボードやシートスイッチ、磁気記録媒体や光ディスク等から情報を読み込み及び書き込みするリード/ライト装置などの入出力機器が設けられた操作パネル71と、種々の操作画面や画像データ等を表示する表示パネル72とが設けられており、表示パネル72を参照しながら操作パネル71で観察プログラム(動作条件)の設定や条件選択、動作指令等を入力することで、CPU61を介して培養観察システムBSの各部を動作させる。すなわち、CPU61は操作パネル71からの入力に応じて培養室2の環境調整、培養室2内での培養容器10の搬送、観察ユニット5による試料の観察、取得された画像データの解析及び表示パネル72への表示などを実行する。表示パネル72には、作動指令や条件選択等の入力画面のほか、培養室2の環境条件の各数値や、解析された画像データ、異常発生時の警告などが表示される。また、CPU61は有線または無線の通信規格に準拠して構成された通信部65を介して、外部接続されるコンピュータ等との間でデータの送受信が可能になっている。
【0028】
RAM63には、操作パネル71において設定された観察プログラムの動作条件、例えば培養室2の温度や湿度等の環境条件や、培養容器10ごとの観察スケジュール、観察ユニット5における観察種別や観察位置、観察倍率等の観察条件などが記録される。また、培養室2に収容された各培養容器10のコード番号、各コード番号の培養容器10が収容されたストッカー3の収納番地などの培養容器10の管理データや、画像解析に用いる各種データが記録される。RAM63には、観察ユニット5により撮影された画像データを記録する画像データ記憶領域(後述する画像記憶部110)が設けられ、各画像データには培養容器10のコード番号と撮影日時等を含むインデックス・データとが対応付けて記録される。
【0029】
このように概要構成される培養観察システムBSでは、操作盤7において設定された観察プログラムの設定条件に従い、CPU61がROM62に記憶された制御プログラムに基づいて各部の作動を制御するとともに、培養容器10内の試料の撮影を自動的に実行する。すなわち、操作パネル71に対するパネル操作(または通信部65を介したリモート操作)によって観察プログラムがスタートされると、CPU61が、RAM63に記憶された環境条件の各条件値を読み込むとともに、環境センサ25から入力される培養室2の環境状態を検出し、条件値と実測値との差異に応じて温度調整装置21、加湿器22、ガス供給装置23、循環ファン24等を作動させて、培養室2の温度や湿度、二酸化炭素濃度などの培養環境についてフィードバック制御が行われる。
【0030】
また、CPU61は、RAM63に記憶された観察条件を読み込み、観察スケジュールに基づいて搬送ユニット4のX,Y,Zステージ43,42,41の各軸の駆動機構を作動させてストッカー3から観察対象の培養容器10を観察ユニット5の試料台15に搬送して、観察ユニット5による観察を開始させる。例えば、観察プログラムにおいて設定された観察がマクロ観察である場合には、搬送ユニット4によりストッカー3から搬送してきた培養容器10をマクロ観察系54の光軸上に位置決めして試料台15に載置し、第1照明部51の光源を点灯させて、バックライト照明された培養容器10の上方から撮像装置54cにより全体観察像を撮影する。撮像装置54cから制御装置6に入力された信号は、画像処理装置100により処理されて全体観察画像が生成され、その画像データが撮影日時等のインデックス・データなどとともにRAM63に記録される。
【0031】
また、観察プログラムにおいて設定された観察が、培養容器10内の特定位置の試料のミクロ観察である場合には、搬送ユニット4により搬送してきた培養容器10の特定位置を顕微観察系55の光軸上に位置決めして試料台15に載置し、第2照明部52または第3照明部53の光源を点灯させて、透過照明、落射照明、蛍光による顕微観察像を撮像装置55cに撮影させる。撮像装置55cにより撮影されて制御装置6に入力された信号は、画像処理装置100により処理されて顕微観察画像が生成され、その画像データが撮影日時等のインデックス・データなどとともにRAM63に記録される。
【0032】
CPU61は、上記のような観察を、ストッカー3に収容された複数の培養容器の試料について、観察プログラムに基づいた30分〜2時間程度の時間間隔の観察スケジュールで全体観察像や顕微観察像の撮影を順次実行する。なお、本実施形態では、撮影の時間間隔は一定であってもよいし、異なっていてもよい。撮影された全体観察像や顕微観察像の画像データは、培養容器10のコード番号とともにRAM63の画像データ記憶領域(画像記憶部110)に記録される。RAM63に記録された画像データは、操作パネル71から入力される画像表示指令に応じてRAM63から読み出され、指定時刻の全体観察画像や顕微観察画像(単体画像)、あるいは指定時間領域の全体観察像や顕微観察像のタイムラプス画像が操作盤7の表示パネル72に表示される。
【0033】
さて、以上のように構成される培養観察システムBSにおいて、画像処理装置100は、上記したタイムラプス画像の生成などの基本機能に加えて、観察領域内の細胞の運動状態を解析する画像解析機能を備えている。以降、画像処理装置100が実行する画像解析の具体的な内容を説明するにあたり、まず2つの時系列画像から細胞の運動状態を定量的に算出する手法について説明する。
【0034】
(前処理)
図5は、ある時刻tに撮影された細胞の顕微観察画像を模式的に示した図である。まず、この画像について、細胞個々の領域を抽出しセグメンテーションする。たとえば輝度値による2値化、分散値による2値化、SnakesやLevel Set法などといった動的輪郭抽出手法といった方法が上げられる。これにより図6に示すようにセグメント化された細胞領域に対して、ラベリングを施し、各細胞ラベルに対して周辺細胞のラベルを計測する手法をとる。
【0035】
次に、図7に示すように、時刻tに撮影された画像の細胞(実線で示す細胞)と、所定時間前に撮影された時刻t−1の画像における細胞(点線で示す細胞)の対応付け、すなわち細胞トラッキングを行う。ここでは、時刻tと時刻t−1での細胞領域ラベルに対して互いに最も近傍かつ形状が似ているものを選択する。これにより各細胞の時刻t−1からtへの移動ベクトルを算出する。
【0036】
(引力、斥力の計算)
前処理で得られた各細胞の移動ベクトルに対し、注目細胞Ciと周辺細胞の一つCjに対して引力または斥力による速度の統計量を算出する。速度の統計量として、注目細胞Ciに対する周辺細胞Cjの引力斥力速度や引力斥力量が代表例として挙げられる。図2に示したように、注目細胞Ciに対してその周辺細胞の一つCjの時刻t−1からtでの特徴が
細胞面積sj・・・周辺細胞Cjの輪郭内部面積
移動量vj・・・・注目細胞Ciに対する周辺細胞Cjの相対移動量
距離dj・・・・・注目細胞Ciと周辺細胞Cjの距離
角度θj・・・・細胞を結ぶ線分Lを基準として移動方向を見たときの角度
であるとする。まず、細胞が何らかのイオン物質を出し合い、その濃度によって引力または斥力が効いてくるのであれば、細胞間の距離djに反比例するようなエネルギーが考えられ、この場合重み関数W(dj)は、
【数6】
面積に関係してくるならば、
【数7】
となる。または、重みを付ける範囲をある一定の範囲内として決めることができるならば、
【数8】
ここで、Dは細胞のインタラクション(相互作用)の範囲:ユーザー指定
といったことも考えられる。
さらに確率的に考えるならば、確率密度関数として正規分布
【数9】
σは標準偏差
といった定義も考えられる。
このとき、注目細胞Ciが一つの周辺細胞Cjに及ぼす引力斥力速度Vijは、
【数10】
となる。
これをすべての周辺細胞(M個)に適用すると、注目細胞Ciのもつ引力斥力量Viは、
【数11】
となる。これを画像内のすべての細胞について、注目細胞Ciにおけるi=1〜Nとして注目細胞を置き換えて総和した総引力斥力量
【数12】
を算出する。前述したように、細胞同士に引力が大きく生じている場合には総引力斥力量Vallが正の大きい値を、斥力が大きく生じている場合には総引力斥力量Vallが負の大きい値となる。従って、細胞の観察過程において時刻t−1と時刻tの2つの画像を解析して観察領域内の細胞の総引力斥力量Vallを算出することにより、細胞の運動状態を、引力であるか斥力であるかの別を含めて定量的に把握することが可能となる。
【0037】
さらに、図8(1)→(2)のような状態変化を生じる時系列データについて、所定時間ごとに算出された総引力斥力量の値を時系列に並べて表示し、例えば、図9に示すように横軸を時間軸としたグラフ上にプロットすることにより、引力の変化状況を可視化した変化グラフが得られる。これは、はじめ離散していた細胞が互いに固まりとなり、コロニーへと変貌を遂げる定量性を表すこととなり、細胞群の変化状況を定量的にかつ容易に把握することができる。
また、細胞個々の平均的な値や、最大値、最小値、
【数13】
さらにヒストグラムなどの統計量の時系列変化も、細胞の運動状態を表す指標として興味深いものとなる。また、正の値(引力)のみ、または負の値(斥力)のみを取り扱い、引力と斥力と別々に観察することも考えられる。
【0038】
このような速度の統計量を画像解析により求めて細胞同士のインタラクション観察を行う上で、その観察アプリケーションとして、以下のような例が挙げられる。
【0039】
(A:計測細胞の指定)
観察者が計測対象となる細胞を1つまたは複数指定し、指定した計測細胞に対する引力・斥力の速度総和計算をする。例えば、図10(1)(2)に例示するように、画像に含まれる多数の細胞の中から特定の細胞を計測細胞Csとして指定し、引力・斥力の有効な距離(範囲)を設定して、その指定した計測細胞Csに対する引力・斥力の速度総和を計算する。また、この計測対象となる1つの細胞Csへの周辺細胞のもつ引力斥力速度を、図11に示すようにそれぞれ表示させる。これにより、その計測対象細胞Csへの個々の運動状態や最も引力または斥力が働いている細胞等を知ることができる。
【0040】
(B:速度の統計量計算および時系列変化)
図12に示すように、Aで指定した計測細胞Csを順次他の細胞に置き換えてそれぞれ各細胞の引力斥力速度を求め、求めた引力斥力速度の総和を各細胞に対して計算して各細胞について引力斥力量を表示すると、その最大値から視野内において最も影響を及ぼしている細胞を知ることができる。また、細胞個々の速度総和の統計量として、その平均値や最大値、最小値、総引力斥力量、分散を表示することにより全体の状況を知ることができる。さらに、これらの時系列データを時間軸に沿ってグラフ表示させることにより時間領域での変化を容易に把握することができる。またAで指定した計測細胞Cs自身の速度、大きさ(面積)、形状(円形度や複雑度などを含む)などの時系列変化量についても表示させることができ、これにより細胞の運動状態を詳細に把握することができる。
【0041】
次に、画像処理装置100において実行される画像解析の具体的なアプリケーションについて生細胞の顕微観察画像(位相差画像)を解析する場合を例として説明する。図13に、画像処理装置100において細胞の運動状態の画像解析を行う画像解析部分の概要構成をブロック図として示す。
【0042】
画像処理装置100は、撮像装置(54c,55c)により撮影された第1画像、及び第1画像よりも所定時間前の時刻t−1に撮影された第2画像を記憶する画像記憶部110と、第1画像及び第2画像に基づいて観察領域内に位置する複数の細胞間に作用する相互作用の状態(引力または斥力の作用状態)を解析する画像解析部120と、画像解析部120による解析データを出力する出力部130とを備え、画像解析部120において第1画像及び第2画像における注目細胞と周辺細胞の相対位置と相対移動量に基づいて各細胞の引力斥力速度を算出するとともに、これを総和して注目細胞の引力斥力量を算出し、さらに注目細胞を順次置き換えて求めた引力斥力量を総和して細胞全体の総引力斥力量を算出して、出力部130から出力して、例えば表示パネル72に表示させるように構成される。
【0043】
なお、画像処理装置100は、ROM62に予め設定記憶された画像処理プログラムがCPU61に読み込まれ、画像処理プログラムに基づく処理がCPU61により実行されることによって構成される。
【0044】
本実施形態の画像解析の処理は、既に観察プログラムに基づいて所定時間ごとに撮影されて画像記憶部110に保存された時系列画像について実行可能であるのみならず、観察時点での細胞の運動状態を解析してリアルタイムでモニタリングすることが可能である。そこで、本実施例ではこのリアルタイムでの画像解析処理について、図1に示す画像処理プログラムGPのフローチャート、および図14に示す表示パネル72に表示される培養細胞運動解析インターフェースの表示画像を参照しながら説明する。
【0045】
このインターフェースでは、表示パネル72に「ディッシュ選択」枠721が表示されてストッカー3に格納された培養容器のコード番号が表示され、ステップS10において、観察対象の培養容器10の選択が行われる。図14では、操作パネル71に設けられたカーソルによりコード番号Cell-0002の培養細胞ディッシュ(培養容器)が選択された状態を示す。
【0046】
ステップS10において観察対象が選択されると、CPU61は、搬送ユニット4の各軸の駆動機構を作動させ、ストッカー3から観察対象の培養容器10を観察ユニット5に搬送する。そして、マクロ観察系54による全体観察像または顕微観察系55による顕微観察像を撮像装置(54c,55c)に撮影させ、その画像を「観察位置」枠722に表示させる。
【0047】
ステップS20では、どの領域を観察領域にするか観察位置の設定が行われる。図14では、観察者が操作パネル71に設けられたマウス等を利用して中央右よりの網掛け領域を指定した状態を示す。このとき、設定された観察領域の画像は、画像解析部120においてすぐにセグメンテーション処理が施され、位相差画像に細胞輪郭を重ね合わせた画像または細胞輪郭による模式図(セグメンテーション画像)が「観察画像」枠723に表示される。このとき、表示パネル72に、「計測細胞の指定」724a及び「周辺細胞の指定」724bを含む「運動解析オプション」枠724が表示される。
【0048】
ステップS30では、観察者が「観察画像」枠723に表示された模式図上でマウスにより引力斥力速度を知りたい計測対象の細胞を選択し、「計測細胞の指定」724aの決定ボタンを押して計測細胞Csを確定する。次にステップS35において周辺細胞Cjを手動で指定するか計測細胞Csからの距離(半径)で指定するかを「周辺細胞の指定」724bに設けられた選択ボタンにより選択する。手動を選択した場合には、周辺細胞Cjをマウスにより個々に選択して決定ボタンを押すことで確定し、半径指定を選択した場合にはその半径値を数値(単位はピクセルやμmなど)またはマウスで入力する。
【0049】
これを初期設定とし、観察プログラムに設定された所定時間ごとの観察スケジュールで観察画像の取り込み(ステップS40)、観察画像の保存(ステップS45)が実行されタイムラプス観察が行われる。ステップS30及びステップS35で指定された観察領域内の計測細胞Cs及び周辺細胞Cjは、観察スケジュールに設定された所定時間ごとに画像解析部120において細胞画像のセグメンテーションとトラッキングが行われ、ステップS50において各細胞の引力斥力速度が計算される。
【0050】
各細胞の引力斥力速度計算(ステップS50)の内容については、既に詳述したとおり、これをフローチャートに簡潔にまとめたのが図1中の右列のフロー(ステップS51〜ステップS55)である。すなわち、画像解析部120における各細胞の引力斥力速度計算は、時刻tの観察画像(第1画像)と所定時間前の時刻t−1の観察画像(第2画像)について、図6に示した細胞の最外殻輪郭抽出処理(セグメンテーション処理:ステップS51)、これらの2つの画像間において図7に示した計測細胞Cs及び周辺細胞Cjの対応付け(ステップS52)、この対応付けにより求められる計測細胞Csに対する周辺細胞Cjの移動ベクトルの算出(ステップS53)、図2の移動モデルで説明した手法により上記移動ベクトルに基づいて求められる計測細胞Csに対する各周辺細胞Cjの引力斥力速度の算出(ステップS54)が行われ、各細胞の引力斥力速度の計算、すなわち、M個の周辺細胞について注目細胞Ciに関する引力斥力量Viが計算されるとともに、注目細胞を置き換えた場合の各細胞の引力斥力量が算出されて、これらの計算結果が出力部130から出力される(ステップS55)。
【0051】
そして、ステップS60において、図11に示したように各周辺細胞Cjの引力斥力速度や、図12に示したような各細胞の引力斥力量が各観察ごとに「観察画像」枠723の表示画面にリアルタイムで表示され、算出された各細胞の引力斥力速度の値がRAM63に蓄積される。また、ステップS70において、計測細胞Csを注目細胞Ciとし、Ciにおけるi=1〜Nとして注目細胞を置き換えて観察領域に含まれる全細胞の引力斥力量の総和(総引力斥力量)Vallの計算が実行され、これらの計算結果がRAM63に蓄積される。インターフェースでは、図11に示す各周辺細胞の引力斥力速度の表示、あるいは図12に示す引力斥力量の表示などを、「観察画像」枠723に設けた選択ボタンにより選択し表示させることができるようになっている。
【0052】
タイムラプス観察の実行中には、これが「時系列変化グラフ」枠725にグラフとしてリアルタイム表示される。このグラフには、図12を参照して先に説明したように、各細胞の引力斥力量の最大値や最小値、総引力斥力量、平均、分散などの時間軸上での変化が表示される他に、計測細胞Csの面積、形状変化(円形度や複雑度など)の経時変化が表示可能になっており、時系列変化グラフの表示項目の選択によって切り替え表示させることができる。さらに、出力部130には出力端子が設けられて通信部65に接続されており、通信部65を介して外部接続されるコンピュータ等に計算結果をエクスポートできるようになっている。
【0053】
従って、このような画像解析手段(画像解析方法、画像処理プログラム、画像処理装置)によれば、タイムラプス観察の実行中に、観察対象の細胞の時々刻々の運動状態が具体的な数値やグラフでリアルタイム表示され、細胞の運動状態を迅速かつ定量的に把握することができる。
【0054】
なお、上記実施例では、タイムラプス観察を開始する際に計測細胞Cs及び周辺細胞Cjを指定して、タイムラプス観察の継続中に画像解析を並行して実行し、解析結果をリアルタイム表示する構成を例示したが、本発明の画像解析は、一定時間のタイムラプス観察の実行(実行中)、またはタイムラプス観察を終了して、画像記憶部110に保存された時系列画像について実施することも可能である。そこで、以下に、このような場合の画像解析の流れについて、図14及び図1を併せて参照しながら簡潔に説明する。
【0055】
まず、ステップS10において「ディッシュ選択」枠721に表示された培養容器のリストから観察対象のコード番号の培養容器(例えば前述したコード番号Cell-0002の培養細胞ディッシュ)を選択する。ここで選択された観察対象の時系列画像は既に画像記憶部110に保存されている(すなわち図1に示した画像処理プログラムにおけるステップS40及びステップS45は、ステップS10より以前に実行されている)。そこで、ステップS10で観察対象が選択されると、選択された培養容器の時刻tにおける観察画像(全体観察画像または顕微観察像)が画像記憶部110から読み出されて「観察位置」枠722に表示される。なお、観察期間中のどの時刻の画像を読み出すかを選択することができ、例えば観察開始時(第2番目のデータ)を選択し、あるいは観察期間の中間時や終了時を選択することができる。
【0056】
ステップS20では、「観察位置」枠に表示された画像から、どの領域を観察するか観察領域の設定を行う。設定された観察領域の画像は画像解析部120においてすぐにセグメンテーション処理が施され、位相差画像に細胞輪郭を重ね合わせた画像または細胞輪郭による模式図が「観察画像」枠に表示される。セグメンテーション処理は、時刻tとその所定時間前の時刻t−1の2枚に対して行われ、模式図の表示は時刻tのみ、もしくは両者を時系列表示できるものとする。
【0057】
次いで、ステップS30において「観察画像」枠723に表示された模式図上で計測対象の細胞を選択し「計測細胞の指定」724aの決定ボタンを押して計測細胞Csを確定する。また、ステップS35において周辺細胞Cjを手動または計測細胞Csからの距離(半径)で指定し、決定ボタンを押して確定する。これらの選択設定は前述同様である。
【0058】
ステップS30及びステップS35において計測細胞Cs及び周辺細胞Cjの設定が確定すると、画像解析部120は、まず、最初に画像記憶部110から読み出した時刻tと時刻t−1の画像についてステップS50の各細胞の引力斥力速度及び引力斥力量、ステップS70の全細胞の総引力斥力量の計算を実行してRAM63に記録する。また、既に所定の観察スケジュールで撮影され画像記憶部110に保存された観察画像(ステップS40、ステップS45)について時刻tを順次移動して読み出し、読み出された各画像からステップS20において設定された観察領域の画像を切り出して、セグメンテーションとトラッキングを行い、ステップS50及びステップS70の計算を順次実行してRAM63に記録する。
【0059】
そして、「観察画像」枠723に設けられた選択ボタンの選択に応じて、図11に示した周辺細胞の引力斥力速度、あるいは図12に示した全細胞の引力斥力量や総引力斥力量が表示される。なおこれらの表示は、任意に選択した特定時刻の計算結果を表示させることができる。また、タイムラプス観察の実行中の場合には「時系列変化グラフ」枠725に現時点までの引力斥力量(最大値や最小値、平均値等)の変化がグラフとして表示され、観察終了後の場合には観察開始から終了に至る引力斥力量の変化が表示される。
【0060】
以上説明したように、本発明の画像処理プログラムGP、この画像処理プログラムが実行されることより構成される画像解析方法及び画像処理装置100によれば、所定時間をおいて撮影された細胞観察像から、撮影時における細胞全体の総引力斥力量が算出される。このため、細胞全体の運動状態を迅速かつ定量的に把握する手段を提供することができる。
【0061】
前述したように、細胞増殖には社会的相互作用が重要である。本発明では、細胞間の相互作用、すなわち引力・斥力の作用状態を算出することにより、他細胞を引き付け足場を形成する過程や、他種の細胞への侵襲過程を定量的に評価することができる。つまり、他細胞から隔離して正常な増殖を抑制する試薬のスクリーニングや、他細胞への侵襲抑制試薬のスクリーニングに使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施例として示す画像処理プログラムのフローチャートである。
【図2】注目細胞と周辺細胞をモデル化して示す運動解析モデルの概念図である。
【図3】本発明の適用例として示す培養観察システムの概要構成図である。
【図4】上記培養観察システムのブロック図である。
【図5】時刻tに撮影された細胞の顕微観察画像を模式的に示した模式図である。
【図6】図5に示した時刻tの顕微観察画像をセグメント化した状態の模式図である。
【図7】時刻tに撮影された画像の細胞(実線で示す細胞)と、時刻t−1に撮影された画像の細胞(点線で示す細胞)との対応付けを説明するための説明図である。
【図8】細胞群の時系列変化の状態を例示する模式図であり、(1)はじめ離散していた細胞が、(2)のようにコロニーへと変化して行く状態を示す模式図である。
【図9】細胞群がコロニー化して行く場合に、所定時間ごとに算出された総引力斥力量の値を横軸を時間軸としたグラフ上にプロットしたときの総引力斥力量の変化グラフである。
【図10】計測対象となる計測細胞の指定について説明するための模式図である。
【図11】計測細胞に対する周辺細胞の引力斥力速度を表示する画面の構成例である。
【図12】引力斥力量を表示した画面の構成例である。
【図13】画像処理装置の概要構成を示すブロック図である。
【図14】画像解析プログラムを実行した場合に表示パネルに表示される培養細胞運動解析インターフェースの表示画像の構成例である。
【符号の説明】
【0063】
BS 培養観察システム
GP 画像処理プログラム
Ci 注目細胞 Cj 周辺細胞
Cs 計測細胞(注目細胞)
54 マクロ観察系 54c 撮像装置
55 顕微観察系 55c 撮像装置
100 画像処理装置 110 画像記憶部
120 画像解析部 130 出力部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像装置により撮影され観察領域内に複数の細胞を含む第1画像、及び前記第1画像よりも所定時間前に前記撮像装置により撮影された前記観察領域の第2画像を取得し、
前記第1画像に含まれる複数の細胞から一の細胞を選択して注目細胞とし、
前記注目細胞の周辺に位置する細胞を周辺細胞とし、
前記第1画像及び前記第2画像における前記注目細胞と前記周辺細胞の相対移動量に基づいて前記注目細胞に対する各前記周辺細胞の速度の統計量を算出して、
前記注目細胞に関する各前記周辺細胞の相互作用の状態を判断可能に構成したことを特徴とする細胞観察の画像解析方法。
【請求項2】
前記選択した一の注目細胞を前記観察領域内に位置する他の細胞に順次置き換えて求めた前記速度の統計量を総和して前記観察領域内の細胞全体の総合速度統計量を算出し、
前記総合速度統計量により前記観察領域内の細胞間の相互作用の状態を判断可能に構成したことを特徴とする請求項1に記載の細胞観察の画像解析方法。
【請求項3】
前記速度の統計量に、前記注目細胞と前記周辺細胞との距離に応じた重みを付けるように構成したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の細胞観察の画像解析方法。
【請求項4】
前記相互作用の状態が、引力または斥力の作用状態であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の細胞観察の画像解析方法。
【請求項5】
撮像装置により撮影され観察領域内に複数の細胞を含む第1画像、及び前記第1画像よりも所定時間前に前記撮像装置により撮影された前記観察領域の第2画像を取得するステップと、
前記第1画像に含まれる複数の細胞から一の細胞を注目細胞として選択するステップと、
前記注目細胞の周辺に位置する細胞を周辺細胞として指定するステップと、
前記第1画像及び前記第2画像における前記注目細胞と前記周辺細胞の相対移動量に基づいて前記注目細胞に対する各前記周辺細胞の速度の統計量を算出するステップと、
算出された各前記周辺細胞の前記速度の統計量を外部に出力するステップとを備え、
前記注目細胞に関する各前記周辺細胞の相互作用の状態を判断可能に構成したことを特徴とする細胞観察の画像処理プログラム。
【請求項6】
前記選択した一の注目細胞を前記観察領域内に位置する他の細胞に順次置き換えて求めた前記速度の統計量を総和して前記観察領域内の細胞全体の総合速度統計量を算出するステップと、
算出された前記総合速度統計量を外部に出力するステップとを備え、
前記総合速度統計量により前記観察領域内の細胞間の相互作用の状態を判断可能に構成したことを特徴とする請求項5に記載の細胞観察の画像処理プログラム。
【請求項7】
前記速度の統計量に、前記注目細胞と前記周辺細胞との距離に応じた重みを付けるように構成したことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の細胞観察の画像処理プログラム。
【請求項8】
前記相互作用の状態が、引力または斥力の作用状態であることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか一項に記載の細胞観察の画像処理プログラム。
【請求項9】
前記撮像装置により前記所定時間ごとに撮影された3以上の画像について、撮影された画像を順次前記第1画像として前記所定時間ごとの前記総合速度統計量を算出して時系列に並べて画像表示装置に表示させるステップを備え、
前記総合速度統計量の時間的な変化を把握可能に構成したことを特徴とする請求項6から請求項8のいずれか一項に記載の細胞観察の画像処理プログラム。
【請求項10】
細胞を撮影する撮像装置と、
前記撮像装置により撮影された第1画像、及び前記第1画像よりも所定時間前に前記撮像装置により撮影された第2画像を記憶する画像記憶部と、
前記第1画像及び前記第2画像に基づいて観察領域内に位置する複数の前記細胞間の相互作用の状態を解析する画像解析部と、
前記画像解析部による解析データを出力する出力部とを備え、
前記画像解析部において、前記第1画像の前記観察領域に含まれる複数の細胞から選択された一の注目細胞及び前記注目細胞の周辺に位置する周辺細胞について、前記第1画像及び前記第2画像における前記注目細胞と前記周辺細胞の相対移動量に基づいて前記注目細胞に対する各前記周辺細胞の速度の統計量を算出して、
前記画像解析部において算出された前記速度の統計量を、前記出力部から出力させるように構成したことを特徴とする細胞観察の画像処理装置。
【請求項11】
前記選択された一の注目細胞を前記観察領域内に位置する他の細胞に順次置き換えて求めた前記速度の統計量を総和して前記観察領域内細胞全体の総合速度統計量を算出して、
前記画像解析部において算出された前記総合速度統計量を、前記出力部から出力させるように構成したことを特徴とする請求項10に記載の細胞観察の画像処理装置。
【請求項12】
前記速度の統計量に、前記注目細胞と前記周辺細胞との距離に応じた重みを付けるように構成したことを特徴とする請求項10または請求項11に記載の細胞観察の画像処理装置。
【請求項13】
前記相互作用の状態が、引力または斥力の作用状態であることを特徴とする請求項10から請求項12のいずれか一項に記載の細胞観察の画像処理装置。
【請求項14】
画像を表示する画像表示装置を備え、
前記画像解析部において、前記撮像装置により前記所定時間ごとに撮影された3以上の画像について、撮影された画像を順次前記第1画像として前記所定時間ごとの前記総合速度統計量を算出し、
前記所定時間ごとの前記総合速度統計量を前記出力部から前記画像表示装置に出力して画像表示装置に時系列に並べて表示させ、総合速度統計量の時間的な変化を視覚的に把握可能に構成したことを特徴とする請求項11から請求項13のいずれか一項に記載の細胞観察の画像処理装置。
【請求項1】
撮像装置により撮影され観察領域内に複数の細胞を含む第1画像、及び前記第1画像よりも所定時間前に前記撮像装置により撮影された前記観察領域の第2画像を取得し、
前記第1画像に含まれる複数の細胞から一の細胞を選択して注目細胞とし、
前記注目細胞の周辺に位置する細胞を周辺細胞とし、
前記第1画像及び前記第2画像における前記注目細胞と前記周辺細胞の相対移動量に基づいて前記注目細胞に対する各前記周辺細胞の速度の統計量を算出して、
前記注目細胞に関する各前記周辺細胞の相互作用の状態を判断可能に構成したことを特徴とする細胞観察の画像解析方法。
【請求項2】
前記選択した一の注目細胞を前記観察領域内に位置する他の細胞に順次置き換えて求めた前記速度の統計量を総和して前記観察領域内の細胞全体の総合速度統計量を算出し、
前記総合速度統計量により前記観察領域内の細胞間の相互作用の状態を判断可能に構成したことを特徴とする請求項1に記載の細胞観察の画像解析方法。
【請求項3】
前記速度の統計量に、前記注目細胞と前記周辺細胞との距離に応じた重みを付けるように構成したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の細胞観察の画像解析方法。
【請求項4】
前記相互作用の状態が、引力または斥力の作用状態であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の細胞観察の画像解析方法。
【請求項5】
撮像装置により撮影され観察領域内に複数の細胞を含む第1画像、及び前記第1画像よりも所定時間前に前記撮像装置により撮影された前記観察領域の第2画像を取得するステップと、
前記第1画像に含まれる複数の細胞から一の細胞を注目細胞として選択するステップと、
前記注目細胞の周辺に位置する細胞を周辺細胞として指定するステップと、
前記第1画像及び前記第2画像における前記注目細胞と前記周辺細胞の相対移動量に基づいて前記注目細胞に対する各前記周辺細胞の速度の統計量を算出するステップと、
算出された各前記周辺細胞の前記速度の統計量を外部に出力するステップとを備え、
前記注目細胞に関する各前記周辺細胞の相互作用の状態を判断可能に構成したことを特徴とする細胞観察の画像処理プログラム。
【請求項6】
前記選択した一の注目細胞を前記観察領域内に位置する他の細胞に順次置き換えて求めた前記速度の統計量を総和して前記観察領域内の細胞全体の総合速度統計量を算出するステップと、
算出された前記総合速度統計量を外部に出力するステップとを備え、
前記総合速度統計量により前記観察領域内の細胞間の相互作用の状態を判断可能に構成したことを特徴とする請求項5に記載の細胞観察の画像処理プログラム。
【請求項7】
前記速度の統計量に、前記注目細胞と前記周辺細胞との距離に応じた重みを付けるように構成したことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の細胞観察の画像処理プログラム。
【請求項8】
前記相互作用の状態が、引力または斥力の作用状態であることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか一項に記載の細胞観察の画像処理プログラム。
【請求項9】
前記撮像装置により前記所定時間ごとに撮影された3以上の画像について、撮影された画像を順次前記第1画像として前記所定時間ごとの前記総合速度統計量を算出して時系列に並べて画像表示装置に表示させるステップを備え、
前記総合速度統計量の時間的な変化を把握可能に構成したことを特徴とする請求項6から請求項8のいずれか一項に記載の細胞観察の画像処理プログラム。
【請求項10】
細胞を撮影する撮像装置と、
前記撮像装置により撮影された第1画像、及び前記第1画像よりも所定時間前に前記撮像装置により撮影された第2画像を記憶する画像記憶部と、
前記第1画像及び前記第2画像に基づいて観察領域内に位置する複数の前記細胞間の相互作用の状態を解析する画像解析部と、
前記画像解析部による解析データを出力する出力部とを備え、
前記画像解析部において、前記第1画像の前記観察領域に含まれる複数の細胞から選択された一の注目細胞及び前記注目細胞の周辺に位置する周辺細胞について、前記第1画像及び前記第2画像における前記注目細胞と前記周辺細胞の相対移動量に基づいて前記注目細胞に対する各前記周辺細胞の速度の統計量を算出して、
前記画像解析部において算出された前記速度の統計量を、前記出力部から出力させるように構成したことを特徴とする細胞観察の画像処理装置。
【請求項11】
前記選択された一の注目細胞を前記観察領域内に位置する他の細胞に順次置き換えて求めた前記速度の統計量を総和して前記観察領域内細胞全体の総合速度統計量を算出して、
前記画像解析部において算出された前記総合速度統計量を、前記出力部から出力させるように構成したことを特徴とする請求項10に記載の細胞観察の画像処理装置。
【請求項12】
前記速度の統計量に、前記注目細胞と前記周辺細胞との距離に応じた重みを付けるように構成したことを特徴とする請求項10または請求項11に記載の細胞観察の画像処理装置。
【請求項13】
前記相互作用の状態が、引力または斥力の作用状態であることを特徴とする請求項10から請求項12のいずれか一項に記載の細胞観察の画像処理装置。
【請求項14】
画像を表示する画像表示装置を備え、
前記画像解析部において、前記撮像装置により前記所定時間ごとに撮影された3以上の画像について、撮影された画像を順次前記第1画像として前記所定時間ごとの前記総合速度統計量を算出し、
前記所定時間ごとの前記総合速度統計量を前記出力部から前記画像表示装置に出力して画像表示装置に時系列に並べて表示させ、総合速度統計量の時間的な変化を視覚的に把握可能に構成したことを特徴とする請求項11から請求項13のいずれか一項に記載の細胞観察の画像処理装置。
【図1】
【図3】
【図4】
【図9】
【図12】
【図13】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図14】
【図3】
【図4】
【図9】
【図12】
【図13】
【図2】
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【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図14】
【公開番号】特開2009−229276(P2009−229276A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75670(P2008−75670)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】
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