説明

組換えルブリシン分子およびその使用

組換えルブリシン分子およびその使用。新規の組換えルブリシン分子、ならびに、例えば、滑膜関節部、半月板、腱、腹膜、心膜および胸膜のための潤滑剤、抗付着剤および/または関節内助剤としてのそれらの使用を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の組換えルブリシン分子、ならびに、例えば、滑膜関節部、半月板、腱、腹膜、心膜および胸膜のための潤滑剤、抗癒着剤および/または関節内助剤としてのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
滑膜関節部の最適な機能性は、関節で繋がっている組織間の極めて低い摩擦係数に依存する。通常、連続的な良好に潤滑された表面が関節軟骨上に維持される。しかし、骨関節炎(OA)の間、潤滑の減少は、軟骨マトリックスの分解および線維化に寄与し;次いで、これらは、関節部機能異常および疼痛に寄与する。潤滑の減少はまた、慢性関節リウマチ(RA)を含む他の形態の関節炎における関節機能異常および疼痛をもたらす。
【0003】
他の組織(例えば、腱)についても、潤滑された表面は最適な機能性に寄与する。潤滑された表面を必要とすることに加えて、正常な腱の機能は、腱表面に対する細胞癒着の防止を必要とする。屈筋の損傷および修復では、例えば、腱癒着の形成は最も一般的な合併症である。
【0004】
生来ルブリシン蛋白は、巨核球刺激因子(MSF)前駆体蛋白に関連する。PRG4(プロテオグリカン4)は、UCL/HGNC/HUGO Human Gene Nomenclatureデータベースに受容されているMSFの名称である。PRG4蛋白(即ち、MSF前駆体蛋白)については、特許文献1および特許文献2に記載されている(本明細書において引用されるすべての特許および特許出願は、出典明示によりその内容を本明細書の一部とする)。PRG4遺伝子のエキソン6によってコードされるポリペプチドは重度にグルコシル化され、PRG4関連蛋白が、例えば、関節軟骨の表面間で潤滑剤としての役割を果たすことを必要とするようである。
【0005】
研究は、PRG4糖蛋白が腱鞘を裏打ちする内膜の滑膜細胞によっても合成されることを示し;糖蛋白も腱細胞を起源とする可能性が高い(非特許文献1)。糖蛋白は、腱の線維軟骨性領域に優位に存在する。その滑液の機能に相補的な様式で、糖蛋白は、腱表面に対する細胞癒着を防止し、ならびに正常な腱機能中に潤滑を提供することによって、腱に対して重要な細胞保護的役割を果たし得る。
【0006】
PRG4(「ルブリシン」とも呼ばれる)遺伝子のエキソン6は、KEPAPTT類似配列の約76〜78リピートおよびXXTTTX様配列の6リピートをコードする。本発明に従う組換えルブリシン蛋白において比較可能な反復配列の数を変動することにより、関節部における潤滑を増強し、組織間の所望されない癒着を阻止するための改善されたバイオ治療の開発が可能である。
【特許文献1】米国特許第6433142号明細書
【特許文献2】米国公開特許第20020137894号明細書
【非特許文献1】Reesら、2002,Matrix Biology21:593−602
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、新規の組換えルブリシン分子、ならびに潤滑剤、抗癒着剤および/または関節内助剤としてのそれらの使用に関する。
【0008】
発現パラメータを最適化し、すべての約76〜78KEPAPTT類似配列の機能的必要性を調べるために、O結合型オリゴ糖置換の程度を変動することにより、組換えルブリシン蛋白の合成を可能にするルブリシン発現構築物を設計した。このことは、エキソン1〜5、エキソン6の5’および3’フランキング領域、ならびにエキソン7〜12よりなる「コア」cDNA構築物に組み入れることによって、達成される。複数のKEPAPTT様配列をコードする「合成cDNAカセット」のリピート挿入は、異なるサイズの組換えルブリシン構築物の作製を容易にする。これらの研究の当初の焦点は、構築物PRG4−Lub:1(4つのKEPAPTT配列をコードする「合成cDNAカセット1」(配列番号1)のDNAを含有する)にあった。
【0009】
本発明のルブリシンは、生来のヒトルブリシンのいくらかのイソ型と1次構造を共有する(米国特許第6743774号明細書、米国公開特許第20040072741号明細書、および国際公開第0064930号パンフレットを参照のこと)。特徴付けられたイソ型の間で、各イソ型は、イソ型の1次構造をコードするPRG4遺伝子のエキソンの組成が異なる。例えば、PRG4遺伝子のエキソン1〜12は、全長のイソ型を表すV0イソ型をコードする一方、エキソン1〜4および6〜12は、エキソン5によってコードされる唯一のセグメントを欠くV1イソ型をコードする。エキソン1〜3および6〜12は、エキソン4および5によってコードされるセグメントを欠くV2イソ型をコードする。最後に、エキソン1、3および6〜12は、エキソン2、4および5によってコードされるセグメントを欠くV3イソ型をコードする。他のイソ型もおそらく存在し、いくつかの関連する変異蛋白が記載されている(米国公開特許第20020086824号明細書を参照のこと)。
【0010】
特に、本発明は、反復KEPAPTT様配列を含んでなる組換えルブリシン蛋白を提供する。好適な実施態様では、本発明は、配列番号9、13、17、21または25を含んでなる単離された蛋白を提供する。本発明は、関連する実施態様において、配列番号7、11、15、19または23を含んでなる単離された蛋白を提供する。さらに関連する実施態様では、本発明は、組換えルブリシン蛋白をコードする核酸配列を含んでなる単離されたポリヌクレオチドを提供する。好適な実施態様では、本発明は、蛋白をコードする核酸配列を含んでなる単離されたポリヌクレオチドを提供する。さらに関連する実施態様では、本発明は、配列の全体の長さにわたって、配列番号6、10、14、18または22に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%または99%の同一性を有する単離されたポリヌクレオチドを提供する。
【0011】
関連する態様では、本発明はまた、配列番号27の(N−2)リピート(ここで、Nは3〜200の整数に等しい)に連結された配列番号26を含んでなる単離された蛋白を提供する。さらに関連する実施態様では、本発明は、配列番号26+配列番号28+[配列番号27の(N−2)リピート]+配列番号29(ここで、Nは3〜200の整数に等しい)を含んでなる単離された蛋白を提供する。この段落において認められる本発明の関連する態様の実施態様では、より好ましくは、Nは5〜50の整数に等しく、なおより好ましくは、Nは10〜30の整数に等しい。
【0012】
【表1−1】

【表1−2】

【0013】
本発明はまた、関連する実施態様で、医薬上許容されるキャリアにおいて治療有効量の組換えルブリシン蛋白を含んでなる組成物を提供する。いくつかの実施態様において、組成物は、ヒアルロナンまたはヒラン(hylan)をさらに含んでなる。
【0014】
本発明は、組換えルブリシン蛋白組成物を入手すること;および前記組成物を被験体の組織に投与することを含んでなる、被験体を処置する方法をさらに提供する。本発明の本方法の関連する実施態様では、組織は、軟骨、滑膜、半月板、腱、腹膜、心膜、および胸膜よりなる群から選択される。本発明の本方法のさらに関連する実施態様では、方法は、麻酔薬を被験体に提供すること;抗炎症薬を被験体に提供すること;抗生物質を被験体に提供すること;被験体から液体を吸引すること;被験体の組織を洗浄すること;および被験体の組織を画像化することよりなる群から選択される工程をさらに含んでなる。他の関連する実施態様では、被験体は、マウス、ラット、ネコ、イヌ、ウマおよびヒトよりなる群から選択される。
【0015】
他の実施態様では、本発明はまた、組換えルブリシン蛋白をコードするポリヌクレオチドを含んでなる発現ベクターを提供し、ここで、ポリヌクレオチドは発現制御配列に操作可能に連結される。関連する実施態様では、本発明は、発現ベクターで形質転換された細胞を液体培養培地において増殖させること;および培地から組換えルブリシン蛋白を回収することを含んでなる、組換えルブリシン蛋白を産生させる方法を提供する。蛋白を回収する工程は:膜を介して培地をろ過することによって、蛋白を濃縮すること;膜から保持された蛋白を回収すること;および0.1〜2.0Mの濃度の範囲でL−アルギニン塩酸塩を含有する緩衝生理食塩水に、回収された蛋白を溶解することをさらに含んでなる。
【0016】
別の関連する実施態様では、本発明は、組換えルブリシン蛋白に特異的な単離された抗体を提供する。
【0017】
本発明の特徴および利点は、以下のその好適な実施態様の説明、および特許請求の範囲から明らかになろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
組換えルブリシン蛋白を作製するのに利用される塩基DNA構築物は、PRG4遺伝子のエキソン6の配列5’および3’の変動可能な整列を含むことができる。例えば、塩基DNA構築物は、ソマトメジンB様ドメイン(エキソン2〜4)またはヘモペキシン様ドメイン(エキソン7〜9)をコードする配列の変動可能な整列を含むことができる。
【0019】
エキソン6の3’側の多様なエキソン整列を有する塩基DNA構築物の実施態様は、個々にエキソン7、8、9、10、11、もしくは12のみ、またはエキソンの2つ組(7および8)、(7および9)、(7および10)、(7および11)、(7および12)、(8および9)、(8および10)、(8および11)、(8および12)、(9および10)、(9および11)、(9および12)、(10および11)、(10および12)、もしくは(11および12)、またはエキソンの3つ組(7、8および9)、(7、8および10)、(7、8、および11)、(7、8、および12)、(7、9および10)、(7、9および11)、(7、9および12)、(7、10および11)、(7、10および12)、(7、11および12)、(8、9および10)、(8、9および11)、(8、9および12)、(8、10および11)、(8、10および12)、(8、11および12)、(9、10および11)、(9、10および12)、(9、11および12)、もしくは(10、11および12)、またはエキソンの4つ組(7、8、9および10)、(7、8、9および11)、(7、8、9および12)、(7、8、10および11)、(7、8、10および12)、(7、8、11および12)、(7、9、10および11)、(7、9、10および12)、(7、9、11および12)、(7、10、11および12)、(8、9、10および11)、(8、9、10および12)、(8、9、11および12)、(8、10、11および12)、もしくは(9、10、11および12)、またはエキソンの5つ組(7、8、9、10および11)、(7、8、9、10および12)、(7、8、9、11および12)、(7、8、10、11および12)、(7、9、10、11および12)、もしくは(8、9、10、11および12)、またはエキソン6つ組(7、8、9、10、11および12)を含む塩基DNA構築物を含むことができる。
【0020】
さらに、エキソン6の5’側の多様なエキソン整列を有する塩基DNA構築物の実施態様は、個々にエキソン1、2、3、4、もしくは5のみ、またはエキソンの2つ組(1および2)、(1および3)、(1および4)、(1および5)、(2および3)、(2および4)、(2および5)、(3および4)、(3および5)、もしくは(4および5)、またはエキソンの3つ組(1、2および3)、(1、2および4)、(1、2および5)、(1、3および4)、(1、3および5)、(1、4および5)、(2、3および4)、(2、3および5)、(2、4および5)、もしくは(3、4および5)、またはエキソンの4つ組(1、2、3および4)、(1、2、3および5)、(1、2、4および5)、(1、3、4および5)、もしくは(2、3、4および5)、またはエキソンの5つ組(1、2、3、4および5)を含む塩基DNA構築物を含むことができる。
【0021】
本発明はまた、塩基DNA構築物によってコードされる蛋白を包含し、即ち、ここで、エキソン6配列によりコードされるポリペプチドの一部またはすべてが欠失し、合成cDNAカセット由来の挿入物によってコードされるアミノ酸は付加されていない。
【0022】
本発明はまた、本明細書において概略される特定の実施態様に相同であり、例えば、指定されたDNA配列に少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%または99%配列同一性を有するポリヌクレオチドを包含する。本発明は、高いストリンジェンシー条件下で指定されたDNA配列の相補体に対し機能的ドメインの長さにわたってハイブリダイズすることが可能な核酸配列を有するポリヌクレオチドをさらに含む。本発明はまた、これらの相同またはハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされる蛋白を含む。
【0023】
本発明のより明確な実施態様を描写するために、以下の定義が提供される。
【0024】
定義。語句「反復KEPAPTT様配列」は、(a)配列「APTTPKEPAPTTTKSAPTTPKEPAPTTTKEPAPTTPKEPAPTTTK」(配列番号26;45アミノ酸)に対し少なくとも90%、93%、95%、96%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有し、かつ少なくとも1つのO結合型置換を有する;(b)配列「KEPAPTTTKEPAPTTTKSAPTTPKEPAPTTP」(配列番号27;31アミノ酸)に対し少なくとも90%、93%、95%、96%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有し、かつ少なくとも1つのO結合型置換を有する;または(c)配列「EPAPTTTKSAPTTPKEPAPTTP」(配列番号28;22アミノ酸)に対し少なくとも90%、93%、95%、96%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有し、かつ少なくとも1つのO結合型置換を有するアミノ酸配列を意味する。反復KEPAPTT様配列は、好ましくは、2、3、4もしくはそれ以上のO結合型置換を有することができる。
【0025】
2つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列間の同一性を測定するための多くの方法が存在する一方、用語「同一性」は当業者に周知であり、所定の指定された方法に関連する規定の意味を有する。本明細書に記載の配列同一性は、NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/;Tatusova and Madden(1999)もまた参照のこと)を介して利用可能なBLAST2SEQUENCESツールを使用して測定される。アミノ酸配列では、使用されるパラメータは、expect=1000;word size=2;filter=off;およびデフォルト値に設定された他のパラメータである。これらの同じパラメータは、word size=8を除いて、核酸配列について使用される。アミノ酸配列比較のためのデフォルト値は:Matrix=BLOSUM62;open gap=11;extension gap=1ペナルティ;およびgap x_dropoff=50である。核酸配列比較のためのデフォルト値は:reward for a match=1;penalty for a mismatch=2;strand option=両鎖;open gap=5;extension gap=2ペナルティ;およびgap x_dropoff=50である。
【0026】
組換えルブリシンのO結合型置換は、潤滑性オリゴ糖β−(1−3)−Gal−GalNac、あるいは人工または天然に存在する炭水化物部分(例えば、ケラタン硫酸もしくはコンドロイチン硫酸)を含む他の部分による置換であってもよい。いくつかの実施態様では、O結合型置換は、組換えルブリシンが界面活性リン脂質(SAPL)または界面活性剤として作用する能力に寄与する部分を伴い得る(Hills,2002)。グリコシル化または置換のパーセントは、重量(乾燥重量)によって決定される。
【0027】
DNA:DNAハイブリダイゼーションに関して使用される場合、高いストリンジェンシー条件は、5×SSPE(43.8g/l NaCl、6.9g/l NaHPO・HOおよび1.85g/l EDTA、NaOHで7.4に調整されたpH)、0.5%SDS、5×デンハルト試薬ならびに100μg/ml変性サケ精子DNAよりなる溶液における42℃での結合またはハイブリダイゼーション、続いて、500ヌクレオチド長のプローブが用いられる場合、0.1×SSPE、1.0%SDSを含んでなる溶液における42℃で洗浄するのに等価な条件を含んでなる。
【0028】
本明細書に記載のポリペプチドまたは他の化合物は、それらが少なくとも50重量%(乾燥重量)の目的の化合物である調製物内にある場合、「単離される」と呼ばれる。本明細書に記載のポリペプチドまたは他の化合物は、それらが少なくとも80重量%(乾燥重量)の目的の化合物である調製物内にある場合、「実質的に純粋」と呼ばれる。本明細書に記載のポリペプチドまたは他の化合物は、それらが少なくとも95重量%、好ましくは99重量%(乾燥重量)の目的の化合物である調製物内にある場合、「相同」と呼ばれる。純度は、還元ポリアクリルアミドゲル電気泳動および増強されたクマシーブルー染色、続いて、バンドの光学密度とレースによって測定される(即ち、蛋白の純度は光学的デンシトメトリーを介して測定される)。
【0029】
「パイロジェンフリー」とは、エンドトキシンを含む発熱性混入物を含まないことを意味する。混入物の測定は、連邦食品医薬品局(U.S.Food and Drug Administration)によって設定される適用可能な標準試験によって実施されるべきである。
【0030】
本明細書において使用される用語「治療有効量」は、意義のある患者の利益、即ち、関連の医学的病態の処置、治癒、防止もしくは改善、またはそのような病態の処置、治癒、防止もしくは改善の割合の増加を示すのに十分である関連の薬学的組成物または方法の各活性成分の合計量を意味する。単独で投与される個々の有効成分に適用される場合、用語は該単独の成分を指す。組み合わせに適用される場合、用語は、組み合わせで、連続的にまたは同時に投与されるかどうかにかかわらず、治療効果を生じる有効成分の組み合わされた量を指す。
【0031】
本発明の実施態様は、関節内助剤として使用してもよい。ルブリシンから誘導されない化合物による関節内補充が、関節部の治療として実践されている。例えば、高分子ヒアルロナン(HA)およびより高い分子量のヒラン(hylan)(例えば、WYETH(登録商標)ファーマシューティカルズ(Pharmaceuticals)より配布されているSYNVISC(登録商標)粘弾性液体「HylanG−F20」)による「粘性補充」は、OA関連膝痛を処置するために臨床的に使用される。この粘性補充は、特に患者の荷重痛を減少することにおいて重要な臨床的価値を示す(Wobigら、1998)。
【0032】
HylanG−F20は、雄鶏またはニワトリの鶏冠から得られるいくらかのHA分子を架橋することによって作製される。HylanG−F20での粘性補充は、より低い分子量のHAによる粘性補充よりも痛みを軽減するのにより有意に有効であり得る(Wobigら、1999)。さらに、HylanG−F20での粘性補充による痛みを軽減することは、NSAIDに忍容性を示さない患者のためのNSAIDの投与に特に好適であり得る(例えば、高リスクの胃腸合併症を伴う患者において;Espallargues and Pons,2003)。HylanG−F20粘性補充は関節部の摩擦を改善しながら痛みの症状において短期間(即ち、処置後3〜6箇月まで)の減少を提供する安全かつ忍容性の高い治療法であるが、該治療法はOA患者の膝置換の終局的必要性を顕著に抑制するとは言えない(Espallargues and Pons,2003)。
【実施例】
【0033】
実施例1:組換えルブリシンのクローニング
構築物。いくつかの実施態様では、組換えルブリシン分子の作製のための塩基DNA構築物は、配列番号6のMetコドン(ATG)〜BssHII制限部位(G^CGCGC)(即ち、塩基番号1〜1123)および配列番号6のBspEI制限部位(T^CCGGA)〜終止コドン(TAA)(即ち、塩基番号1269〜2946)よりなる。これらの配列、即ち、配列番号6の塩基番号1〜1123および1269〜2946は、生来の全長ルブリシン(即ち、PRG4)のアミノ酸M1〜S373(エキソン1〜5およびエキソン6の約174フランキング5’コドンによりコードされる)ならびにE848〜P1404(エキソン6の約293フランキング3’コドンおよびエキソン7〜14によりコードされる)をコードする。塩基DNA構築物には存在しないエキソン6の部分は、生来のPRG4のアミノ酸A374〜P847(エキソン6によりコードされる約940アミノ酸には存在しない474アミノ酸)をコードするDNA配列に対応する。この存在してないアミノ酸配列には、KEPAPTT様配列が豊富に存在する。
【0034】
合成cDNAカセット1のDNA配列(配列番号1)は、塩基構築物にBssHII/BspEIで付加され、組換えPRG4−Lub:1cDNA構築物(配列番号6)が作製される。配列番号6は、生来のPRG4のアミノ酸M1〜S373をコードするDNAとE848〜P1404をコードするDNAとの間のLub:1DNA挿入物(配列番号8;その4KEPAPTT配列を伴う配列番号9の51アミノ酸をコードする)よりなる。言い換えれば、生来のPRG4のA374〜P847(474アミノ酸)の代わりに、組換えルブリシンPRG4−LUB:1は、4つの完全なKEPAPTT配列および約3つの不完全なKEPAPTT配列を形成する51アミノ酸を含む。
【0035】
合成cDNAカセット2のDNA配列(配列番号3)は、PRG4−Lub:1構築物にBsu36I/BspEIで付加され、PRG4−Lub:2cDNA構築物(配列番号10)が作製される。PRG4−Lub:1cDNA構築物は、1つのBsu36I制限部位(CC^TNAGG、即ち、CC^TAAGG;配列番号6の塩基番号1225〜1231)を有する。合成cDNAカセット2がPRG4−Lub:1cDNA構築物に付加される場合、このBsu36I部位は破壊されるが、合成カセット2は別の内部Bsu36I制限部位(CC^TNAGG、即ち、CC^TAAGG;配列番号3の塩基番号92〜98)を含有する。従って、PRG4−Lub:N+1構築物は、合成cDNAカセット2を、合成cDNAカセット2により提供されるこの内部Bsu36I制限部位において先のPRG4−Lub:N構築物にBsu36I/BspEIで付加することによって作製することができる。
【0036】
cDNAカセットを一本鎖オリゴヌクレオチドとして合成し、共にハイブリダイズさせて、粘着末端を伴う二本鎖DNAフラグメントを生成する。これが、末端のBssHII、Bsu36I、およびBspEI部位が不完全であると思われる理由である。合成cDNAカセット1(配列番号1)では、残存するフランキングBssHII(G^CGCGC)およびBspEI(T^CCGGA)制限部位が結合する配列は、内部Bsu36I制限部位(CC^TNAGG、即ち、CC^TAAGG)を含み;制限部位に下線を付して以下に示す:
CGCGCCCACAACTCCAAAAGAGCCCGCACCTACCACGACAAAGTCAGCTCCTACTACGCCCAAAGAGCCAGCGCCGACGACTACTAAAGAACCGGCACCCACCACGCCTAAGGAGCCAGCTCCTACTACAACGAAACCGGCACCAACCACTCCGG
【0037】
配列番号1の翻訳である配列番号2は、完全一致である4つのKEPAPTT配列を含む(以下に強調した):

【0038】
合成cDNAカセット2(配列番号3)も同様に、残存する5’末端Bsu36I制限部位(即ち、CC^TNAGG、TAA配列によってのみ照明される)、3’末端の残存するBspEI制限部位(T^CCGGA)、および内部Bsu36I制限部位(CC^TNAGG)を有し;制限部位に下線を付して以下に示す:
TAAAGAACCAGCCCCTACTACGACAAAGGAGCCTGCACCCACAACCACGAAGAGCGCACCCACAACACCAAAGGAGCCGGCCCCTACGACTCCTAAGGAACCCAAACCGGCACCAACCACTCCGG
【0039】
配列番号3の翻訳である配列番号4は、完全一致である3つのKEPAPTT配列を含む(以下に強調した):

【0040】
pTmed2ベクターにおける組換えPRG4−Lub:1cDNA構築物(配列番号6)(構築物+ベクターは配列番号5に等しい)は、SalI(G^TCGAC;配列番号5の塩基番号1027〜1032)およびNotI(GC^GGCCGC;配列番号5の塩基番号3984〜3991)制限部位によって隣接される。SalI部位は、翻訳開始コドンATG(配列番号5の塩基番号1038〜1040)の前に、改変されたKozak翻訳開始配列(CCCACC;配列番号5の塩基番号1032〜1037)を組み入れる。BssHII(G^CGCGC;配列番号5の塩基番号2155〜2160)とBspEI(T^CCGGA;配列番号5の塩基番号2306〜2311)制限部位との間には、内部Bsu36Iクローニング部位(CC^TNAGG、即ち、CC^TAAGG;配列番号5の塩基番号2262〜2268)が見出される。
【0041】
PRG4−Lub:1cDNA構築物(配列番号6)は、PRG4−LUB:1蛋白(配列番号7)に翻訳される。PRG4−LUB:1蛋白全体(配列番号7)のS373とE425(即ち、生来のPRG4のE848)との間の挿入物は、配列番号9の51アミノ酸である。これらは、Lub:1DNA挿入物(配列番号8)から翻訳され、4つの完全なKEPAPTT配列を含む。BssHII制限部位(G^CGCGC;配列番号6の塩基番号1118〜1123)とBspEI制限部位(T^CCGGA;配列番号6の塩基番号1269〜1274)制限部位との間には、内部Bsu36Iクローニング部位(CC^TNAGG、即ち、CC^TAAGG;配列番号6の塩基番号1225〜1231)が見出される。
【0042】
pTmed2ベクターにおける組換えPRG4−Lub:1構築物に関して、pTmed2ベクターにおける組換えPRG4−Lub:2cDNA構築物(配列番号10)は、SalI(G^TCGAC)およびNotI(GC^GGCCGC)制限部位によって隣接され;SalI部位は、翻訳開始コドンATG(配列番号10の塩基番号1〜3)の前に改変されたKozak翻訳開始配列(CCCACC)を組み入れる。同様に、pTmed2ベクターにおける組換えPRG4−Lub:3cDNA構築物(配列番号14)、組換えPRG4−Lub:4cDNA構築物(配列番号18)、および組換えPRG4−Lub:5cDNA構築物(配列番号22)は、それぞれ、SalI(G^TCGAC)およびNotI(GC^GGCCGC)制限部位により隣接され;SalI部位は、翻訳開始コドンATG(それぞれ、配列番号14、18、および22の塩基番号1〜3)の前に改変されたKozak翻訳開始配列(CCCACC)を組み入れる。
【0043】
PRG4−Lub:2cDNA構築物内では、内部Bsu36Iクローニング部位(CC^TNAGG、即ち、CC^TAAGG;配列番号10の塩基番号1318〜1324)が、BssHII(G^CGCGC;塩基番号1118〜1123)とBspEI(T^CCGGA;塩基番号1347〜1352)制限部位との間に見出される。PRG4−Lub:2構築物(配列番号10)は、PRG4−LUB:2蛋白(配列番号11)に翻訳される。PRG4−LUB:2蛋白全体(配列番号11)のS373とE451(即ち、生来のPRG4のE848)との間の挿入物は、配列番号13の77アミノ酸である。これらは、Lub:2DNA挿入物(配列番号12)から翻訳される。生来のPRG4のA374〜P847(474アミノ酸)の代わりに、組換えルブリシンPRG4−LUB:2の77アミノ酸は、6つの完全なKEPAPTT配列および約4つの不完全なKEPAPTT配列を形成する。
【0044】
PRG4−Lub:3cDNA構築物内では、内部Bsu36Iクローニング部位(CC^TNAGG、即ち、CC^TAAGG;配列番号14の塩基番号1411〜1417)が、BssHII(G^CGCGC;塩基番号1118〜1123)とBspEI(T^CCGGA;塩基番号1440〜1445)制限部位との間に見出される。PRG4−Lub:3構築物(配列番号14)は、PRG4−LUB:3蛋白(配列番号15)に翻訳される。PRG4−LUB:3蛋白全体(配列番号15)のS373とE482(即ち、生来のPRG4のE848)との間の挿入物は、配列番号17の108アミノ酸である。これらは、Lub:3DNA挿入物(配列番号16)から翻訳される。生来のPRG4のA374〜P847(474アミノ酸)の代わりに、組換えルブリシンPRG4−LUB:3の108アミノ酸は、9つの完全なKEPAPTT配列および約5つの不完全なKEPAPTT配列を形成する。
【0045】
PRG4−Lub:4cDNA構築物内では、内部Bsu36Iクローニング部位(CC^TNAGG、即ち、CC^TAAGG;配列番号18の塩基番号1504〜1510)が、BssHII(G^CGCGC;塩基番号1118〜1123)とBspEI(T^CCGGA;塩基番号1533〜1538)制限部位との間に見出される。PRG4−Lub:4構築物(配列番号18)は、PRG4−LUB:4蛋白(配列番号19)に翻訳される。PRG4−LUB:4蛋白全体(配列番号19)のS373とE513(即ち、生来のPRG4のE848)との間の挿入物は、配列番号21の139アミノ酸である。これらは、Lub:4DNA挿入物(配列番号20)から翻訳される。生来のPRG4のA374〜P847(474アミノ酸)の代わりに、組換えルブリシンPRG4−LUB:4の139アミノ酸は、12つの完全なKEPAPTT配列および約6つの不完全なKEPAPTT配列を形成する。
【0046】
PRG4−Lub:5cDNA構築物内では、内部Bsu36Iクローニング部位(CC^TNAGG、即ち、CC^TAAGG;配列番号22の塩基番号1597〜1603)が、BssHII(G^CGCGC;塩基番号1118〜1123)とBspEI(T^CCGGA;塩基番号1626〜1631)制限部位との間に見出される。PRG4−Lub:5構築物(配列番号22)は、PRG4−LUB:5蛋白(配列番号23)に翻訳される。PRG4−LUB:5蛋白全体(配列番号23)のS373とE544(即ち、生来のPRG4のE848)との間の挿入物は、配列番号25の170アミノ酸である。これらは、Lub:5DNA挿入物(配列番号24)から翻訳される。生来のPRG4のA374〜P847(474アミノ酸)の代わりに、組換えルブリシンPRG4−LUB:5の170アミノ酸は、15つの完全なKEPAPTT配列および約7つの不完全なKEPAPTT配列を形成する。
【0047】
重要なことに、合成cDNAカセット2を挿入するプロセスは、不確定に反復され得る。それぞれの反復により、3つの完全なKEPAPTT配列の付加が生じる。挿入配列の使用を介するこの様式で組換えルブリシンPRG4−LUB:2〜PRG4−LUB:5が構築されるように、組換えルブリシンPRG4−LUB:6〜PRG4−LUB:Nが構築される。表2は、BssHII/BspE1挿入配列の概要を提供する。
【0048】
【表2−1】


【表2−2】

【0049】
本発明者らは、すべての12エキソン(エキソン6の中央部分を欠く)を含有する全長PRG4により塩基DNA構築物を例示してきたが、所望される多様な活性および長さに依存して、PRG4のスプライス変異体を用いてもよい。さらに、異なる制限酵素を類似のストラテジーにおいて用いてもよいが、但し、それらの局在は、PRG4蛋白をコードする核酸配列内に適宜局在する。他の実施態様では、塩基DNA構築物は生来のエキソン6配列を欠くが、生来のPRG4遺伝子のエキソン1〜エキソン5配列またはエキソン7〜エキソン12配列の1つもしくはそれ以上を含む。他の実施態様では、塩基DNA構築物は、エキソン6の配列の一部もしくはすべてが存在しないことを除いて、米国特許第6433142号明細書または米国公開特許第20020137894号明細書に記載の組換えMSF配列に同一である。
【0050】
本発明は、好適な実施態様として、真核生物の発現ベクターpTmed2のSalI(G^TCGAC;配列番号5の塩基番号1027〜1032)およびNotI(GC^GGCCGC;配列番号5の塩基番号3984〜3991)制限部位にクローニングされる組換えルブリシンをコードするcDNA構築物(例えば、pTmed2発現ベクターにおける組換えPRG4−Lub:1cDNA構築物は配列番号5において塩基番号1038〜3983に局在する)を提供する。SalI部位は、メチオニン開始コドン(ATG;配列番号5の塩基番号1038〜1040)の前に、改変されたKozak翻訳開始配列の最初の塩基(CCACC;配列番号5の塩基番号1032)を組み入れる。本発明の他の実施態様は、他の制限部位の組み合わせおよび他の発現ベクターを含む。
【0051】
好適な実施態様では、反復(interative)プロセスは、BssHII(G^CGCGC)およびBspEI(T^CCGGA)のための制限部位により隣接される発現ベクターpTmed2における合成cDNAカセット1(配列番号1)、および内部Bsu36I制限部位(CC^TNAGG、即ち、CC^TAAGG;配列番号1の塩基番号107〜113)を含む合成cDNAカセット1を利用する。この好適な実施態様においてKEPAPTT様配列を含有する組換えルブリシン構築物の反復作製のために、組換え構築物のBsu36IおよびBspEI部位の間に合成cDNAカセット2(配列番号3)が挿入される。合成cDNAカセット2(配列番号3)は、改変された残存するBsu36I部位(TAAAG)および残存するBspEI(ACTCCGG)部位により隣接される。それはまた、内部Bsu36I部位(CC^TNAGG、即ち、CC^TAAGG;配列番号3の塩基番号92〜98)を含む。合成cDNAカセット2を組換えルブリシン構築物のBsu36IおよびBspEI部位にクローニングするときに、本来の構築物のBsu36Iクローニング部位は破壊され、新たな構築物において1つの独特なBsu36Iクローニング部位が残る。
【0052】
この好適な実施態様では、アミノ酸配列「APTTPKEPAPTTTKSAPTTPKEPAPTTKEPAPTTKEPAPTTTK」(配列番号26;45アミノ酸)は、各PRG4−LUB:N蛋白(ここで、N=1もしくはそれ以上の整数)の部分を保持する。さらに、アミノ酸配列「KEPAPTTKEPAPTTTKSAPTTPKEPAPTTP」(配列番号27;31アミノ酸)は、合成cDNAカセット2のPRG4−Lub:NcDNA構築物へのBsu36I/BspEIでの付加を介して各PRG4−Lub:N+1cDNA構築物の部分となるDNA挿入物によってコードされる。PRG4−LUB:N蛋白(ここで、Nは3を超えるかまたは等しい整数である)については、好適な実施態様において、アミノ酸配列「EPAPTTTKSAPTTPKEPAPTTP」(配列番号28;22アミノ酸)は、配列番号26を配列番号27の(N−2)リピートに接続する。さらに、PRG4−LUB:N蛋白(ここで、Nは2を超えるかまたは等しい整数である)の好適な実施態様では、アミノ酸配列「KEPKPAPTTP」(配列番号29;10アミノ酸)は、配列番号27の最後の挿入リピートのすぐ後に続く。
【0053】
それらは少なくとも2つのKEPAPTT配列を形成するため、配列番号26、配列番号27、および配列番号28は、本明細書において、「反復KEPAPTT様配列」と称される(配列番号28がPRG4−LUB:N蛋白において2つのKEPAPTT配列を形成するように、配列番号28のN末端はK残基に連結する)。
【0054】
従って、組換えルブリシン蛋白PRG4−LUB:N(ここで、Nは1もしくはそれ以上の整数に等しい)について、PRG4−LUB:N蛋白は、好適な実施態様において、配列番号26を含んでなる。さらに、組換えルブリシン蛋白PRG4−LUB:N(ここで、Nは2もしくはそれ以上の整数に等しい)について、PRG4−LUB:N蛋白は、好適な実施態様において、配列番号27を含んでなる。配列番号27は、これらの好適な実施態様において、各PRG4−LUB:N蛋白内で(N−1)回反復される。PRG4−LUB:2において、配列番号26および配列番号27は重複する(即ち、それらはKEPAPTT配列を共有する)。
【0055】
Nは3を超えるかまたは等しい整数である他の好適な実施態様では(例えば、ここで、Nは3〜200の整数に等しい、あるいはより好適な実施態様では、Nは5〜50の整数に等しい、あるいはさらにより好適な実施態様では、Nは10〜30の整数に等しい)、組換えルブリシン蛋白は、配列番号26のN末端に配向された45アミノ酸を配列番号27の31アミノ酸の(N−2)リピートに接続する配列番号28の22アミノ酸を含んでなり、ここで、配列番号29の10アミノ酸は配列番号27の最後の31アミノ酸リピートに対するC末端である。
【0056】
【表3】

【0057】
PRG4−LUB:N蛋白は、一般に、好適な実施態様において、KEPAPTT配列の(Nの3倍)リピートを有し、ここで、Nは反復KEPAPTT様配列の数に等しい。組換えルブリシンPRG4−LUB:5(好適な実施態様において3×N=3×5=15コピーのKEPAPTT配列を有する)は、最も大きな組換えルブリシンPRG4−LUB:Nであり、その配列を本明細書において詳述する。しかし、本発明の組換えルブリシンについて、数値Nは、5を超えてもよく、例えば、7、10、12、15、20、25、30、40、50、100、150、200もしくはそれ以上である。
【0058】
特に、蛋白PRG4−LUB:1、PRG4−LUB:2、PRG4−LUB:3、PRG4−LUB:4、およびPRG4−LUB:5は、それぞれ4、6、9、12および15の完全なKEPAPTT配列と共に本明細書において詳述する。しかし、本明細書において記載の反復Lub:N挿入手順を継続することによって、増加数のKEPAPTT配列を追加することが可能である。小さな蛋白ほど合成および操作が容易であるため、本発明者らは、生来のPRG4/ルブリシン蛋白と比較して相対的に低い数のKEPAPTTまたはKEPAPTT様配列を伴うPRG4−LUB:N組換えルブリシンに関する詳細な説明を提供している。
【0059】
また、生来のPRG4蛋白において認められる数よりもKEPAPTT様配列の数を増加することを所望してもよい。このことは、組換えルブリシンPRG4−LUB:N蛋白において78を超えるKEPAPTT様配列が存在するように本明細書に記載の反復Lub:N挿入手順を継続するか、またはPRG4 cDNAのエキソン6欠失もしくはエキソン6減少バージョンではなく、無傷なPRG4 cDNAから開始することによって、達成することができる。従って、添加される任意のKEPAPTT様配列は、生来のPRG4蛋白において見出される数よりも多い。無傷なPRG4cDNAからのより大きな組換えルブリシン蛋白の作製に使用される挿入手順、ならびにPRG4cDNAのエキソン6欠失またはエキソン6減少バージョンを使用する挿入手順も本発明に包含される。
【0060】
実施例2:「LUB」蛋白の発現および精製
PRG4−Lub:1cDNA構築物(配列番号6;合成cDNAカセット1配列を含有する)を、以下のように、安定にトランスフェクトされた前適応CHO DUKX細胞系統において発現させ、順化培地から精製し、500mM L−アルギニン塩酸塩を含有するPBSに溶解した。
【0061】
PRG4−Lub:1cDNA構築物を、安定にトランスフェクトされたCHO DUKX細胞系統において発現させ、順化培地を回収した。この順化培地の2リットルの容積を、圧縮窒素ガス(40psi)下、10kDaの見かけの分子量限界(NMWL)、30kDa NMWLまたは100kDa NMWL PALL FILTRON(登録商標)OMEGATMディスク膜のいずれかを具備するAMICON(登録商標)M2000TMろ過ユニットを使用して、フィルター濃縮した。培地を約100mlの容積に濃縮し、ディスク膜から吸引した。次いで、ディスク膜をAMICON(登録商標)M2000TMろ過ユニットから取り出した。ディスク膜の表面に蓄積した「粘液性」保持物をセルスクレーバーを使用して回収し、マイクロ遠心チューブに移した。マイクロ遠心チューブ内のサンプルを12,000×gで10分間、遠心分離し、水性上清を取り出した。残留する「ルブリシン富化」ペレットを、500mM L−アルギニン塩酸塩を含有するリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)に溶解した。L−アルギニン塩酸塩濃度は、100mM〜2.0Mの範囲であり得る。
【0062】
上記の手順を使用して、PRG4−LUB:2〜PRG4−LUB:5糖蛋白(およびPRG4−LUB:N蛋白、ここで、N=6もしくはそれ以上の負でない整数、ならびにKEPAPTT様配列を含有する他の糖蛋白)を、ディスク膜から直接回収し、即ち、上記のディスク膜に残留する濃縮物の精製を伴わない。即ち、これらの組換えルブリシン糖蛋白は、10kDa NMWL、30kDa NMWL、または100kDa NMWL PALL FILTRON(登録商標)OMEGATMろ過ユニットのディスク膜から直接単離される。場合によって、これらの糖蛋白はまた、クロマトグラフィー技術もしくは電気泳動技術または両方を介して、上記のディスク膜に残留する濃縮物から精製してもよい。組換えルブリシン蛋白ならびに糖蛋白はまた、クロマトグラフィーおよび他の当該分野において公知の技術(例えば、MSF蛋白についての米国特許第6433142号明細書に記載の通り;Deutscher,1990;およびScopes,1994も参照のこと)を使用して精製してもよい。
【0063】
実施例3:免疫組織化学
正常および骨関節炎関節部におけるルブリシンの細胞供給源について、免疫組織化学技術を使用して調べた。さらに、胸膜、心膜、腹膜、および髄膜を含む他の組織表面上のルブリシンの存在を、以下の方法に従って調べた。
【0064】
骨関節炎の軟骨および滑膜は、膝置換術を経験した患者のインフォームドコンセントによって得た。調べた他の組織は、正常なヒト滑膜ならびに正常非ヒト霊長類(NHP)滑膜、軟骨、胸膜、心膜、腹膜、髄膜、脳、腱、および靭帯、ならびにイヌ正常ならびに骨関節炎半月板、軟骨、滑膜、靭帯、および腱であった。組織は、回収直後または補足のモネンシン(5μM)を伴うおよび伴わない培地における24時間のインキュベーション後に4%パラホルムアルデヒドに固定化した。免疫組織化学的研究のために、組織を、24時間、4%パラホルムアルデヒドにおいて固定化し、6〜8ミクロンのパラフィン切片を得た。化合物を凍結する光干渉断層撮影(OCT)において組織のサブセットを凍結し、5〜10ミクロン間隔で切断し、続いて、アセトン固定に供した。
【0065】
免疫組織化学および免疫蛍光分析は、組換えルブリシンの短縮された形態による免疫および蛋白Aカラム上での精製によって作製される精製されたポリクローナルウサギ抗ヒトルブリシン抗体(Ab 06A10)を利用した。CD16抗体(NEOMARKERS(登録商標)、Fremontカリフォルニア州)を使用して、マクロファージ(Fcy受容体III)を同定した。CD106/VCAM−1抗体(NEOMARKERS(登録商標))を使用して、クライオスタット切片内の線維芽細胞を標識した。コントロール切片のために、等価濃度のRIgG(ベクターLABSTM、カリフォルニア州)、MIgG(DAKO(登録商標))、およびMIgG2a(DAKO(登録商標))を一貫して使用した。Dextran Technology System(ENVISION+TM;DAKO(登録商標))を使用して、結合している抗体を可視化し、メイヤー(Mayer)のミョウバン−ヘマトキシリンによって対比染色した。上記の1次抗体を使用して免疫蛍光を実施し、2次抗体(Alexa Dyes−MOLECULAR PROBESTM、Oregon)546nmでのヤギ抗ウサギAlexa色素および488nmでのヤギ抗マウスAlexa色素で探索した。抗体の蛍光結合を、NIKON(登録商標)蛍光顕微鏡によって検出した。
【0066】
ルブリシンを、正常ならびに骨関節炎ヒト関節軟骨および滑膜の表面に沿って検出した。ルブリシンの厚い層は、線維化した骨関節炎表面を完全に被覆していた。CD106免疫蛍光は滑膜の内膜線維芽細胞の強度の細胞膜染色を示し;ルブリシン蛋白もまた、滑膜細胞内の染色として可視化した。CD106+ルブリシンに対する二重免疫染色は、明らかに、滑膜の内膜線維芽細胞内の同時局在を示した。滑液マクロファージのCD16染色は、滑膜の層全体のこれらの細胞の存在を実証したが、ルブリシンとの同時局在は認められなかった。
【0067】
NHPおよびイヌ関節組織(正常ならびにOA)のルブリシン抗体に夜染色により、滑膜、軟骨、半月板、および腱の表面層を被覆するルブリシンが示された。NHP軟骨はまた、糖蛋白の細胞内貯蔵を増加するためのモネンシンの添加を伴わずに、表層細胞だけではなく、移行細胞においても強力な免疫活性を示した。腹膜、心膜、および胸膜を裏打ちする細胞もまた、ルブリシン発現を示したが、髄膜または脳では免疫活性は観察されなかった。
【0068】
要約すると、正常ならびに骨関節炎の両方の滑膜、腱、半月板および軟骨は、ルブリシンの実質的な層によって被覆されていた。糖蛋白は、OA関節部内の組織上に明確に存在する。ヒトOA滑膜の二重免疫蛍光染色は、内膜線維芽細胞様滑膜細胞(intimal fibroblast synoviocyte)はルブリシンの合成を担うことを実証した。
【0069】
関節部組織以外のルブリシン蛋白の局在については、これまで記載されていなかった。ルブリシンの表層は、肺胸膜、心膜、および腹膜上で明確に実証された。ルブリシンは滑膜関節部内で潤滑機能を有すると評価されているが、他の組織における潤滑および抗癒着機能を含むがこれらに限定されない複数の役割を有し得る。ルブリシンによるこれらの他の組織の補充は、本発明に包含される生物学的治療である。
【0070】
実施例4:機械的潤滑剤としての組換えルブリシン
組換えルブリシンは、一般に、例えば、シール部およびベアリング部などを伴う潤滑剤として使用し得る。例えば、米国特許第3973781号明細書(発明の名称「Self−lubricating seal」)、同第4491331号明細書(発明の名称「Grooved mechanical face seal」)、同第4560174号明細書(発明の名称「Multi lip seal」)、および同第4973068号明細書(発明の名称「Differential surface roughness dynamic seals and bearings」)は、それぞれ、様々なデザインのシール部について説明している。組換えルブリシンは、これらのシール部を伴う潤滑剤として使用し得る。
【0071】
特に、組換えルブリシンは、特に、生体適合性潤滑剤が要求される医療デバイス、補綴、およびインプラントのための潤滑剤として使用し得る。さらに、アプリケーションは医療用である必要はないが、生体適合性潤滑剤が所望され得る環境の影響を受けやすい状況でのアプリケーションを含み得る。
【0072】
実施例5:組換えルブリシン組成物
本発明の組換えルブリシンは、医薬上許容されるキャリアと組み合わされる場合、薬学的組成物において使用することができる。そのような組成物はまた、(蛋白およびキャリアに加えて)希釈剤、充填剤、塩、緩衝液、安定化剤、溶解剤、ならびに当該分野において周知の他の材料を含有してもよい。用語「医薬上許容される」とは、有効成分の生物学的活性の有効性を妨害しない非毒性材料を意味する。キャリアの特徴は投与経路に依存する。本発明の薬学的組成物はまた、サイトカイン、リンフォカイン、または他の造血因子、例えば、M−CSF、GM−CSF、TNF、IL−1、IL−2、IL−3、IL4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、IL−14、IL−15、TNF1、TNF2、G−CSF、MEG−CSF、トロンボポエチン、幹細胞因子、およびエリスロポエチンを含有する。薬学的組成物は、蛋白の活性を増強するかまたは処置におけるその活性もしくは使用を補完する他の薬剤をさらに含有し得る。そのようなさらなる因子および/または薬剤は、本発明の蛋白との相乗効果を生じるか、または副作用を最小限にする薬学的組成物に含まれ得る。逆に言えば、本発明の蛋白は、特定のサイトカイン、リンフォカイン、他の造血因子、血栓溶解もしくは抗血栓因子、または抗炎症剤の処方に含まれ、副作用を最小限にし得る。
【0073】
先に記載の高分子ヒアルロナン(HA)およびより高い分子量のヒラン(hylan)との組み合わせでの関節内補助のための組換えルブリシン蛋白のための使用は、特に好適である。関節内補助における使用のための他の好適な組み合わせは、組換えルブリシン蛋白の麻酔薬(例えば、リドカイン)、ステロイド(例えば、トリアムシノロンヘキサアセトニド)、または放射性同位元素(例えば、イットリウム)との使用を含む。関節内補助における使用のための他の好適な組み合わせは、(例えば、自己もしくは異種のいずれから誘導されるかにかかわらず培養された軟骨細胞、滑膜細胞、もしくは幹細胞の)自己または異種細胞調製物を含むことができる。
【0074】
本発明の組換えルブリシンは、多量体(例えば、へテロ二量体もしくはホモ二量体)あるいはそれ自体または他の蛋白との複合体において活性であり得る。結果として、本発明の薬学的組成物は、そのような多量体または複合化された形態で本発明の蛋白を含んでなり得る。
【0075】
本発明の薬学的組成物は、本発明の組換えルブリシン蛋白と蛋白またはペプチド抗原との複合体の形態であり得る。蛋白および/またはペプチド抗原は、BおよびTリンパ球の両方に刺激信号を送達する。Bリンパ球は、それらの表面免疫グロブリン受容体を介して、抗原に応答する。Tリンパ球は、MHC蛋白による抗原の提示後、T細胞受容体(TCR)を介して抗原に応答する。宿主細胞上のMHCならびにクラスIおよびクラスII MHC遺伝子によってコードされるそれらを含む関連蛋白は、Tリンパ球にペプチド抗原を提示する役割を果たす。抗原成分は、単独かまたはT細胞に直接シグナル伝達することができる同時刺激分子を伴う精製されたMHCペプチド複合体として供給され得る。あるいは、B細胞上の表面免疫グロブリンおよび他の分子に結合することか可能な抗体、ならびにT細胞上のTCRおよび他の分子に結合することが可能な抗体は、本発明の薬学的組成物と組み合わせることができる。
【0076】
本発明の薬学的組成物は、本発明の蛋白を、他の医薬上許容されるキャリアに加えて、両親媒性薬剤、例えば、ミセル、不溶解性一重膜、液晶、または水溶液中のラメラ層として凝集された形態で存在する脂質と組み合わせたリポソームの形態であってもよい。リポソーム処方に適切な脂質として、モノグリセリド、ジグリセリド、スルファチド、リゾレシチン、リン脂質、サポニン、胆汁酸などが挙げられるが、これらに限定されない。そのようなリポソーム処方の調製は当該分野の技術レベルの範囲内であり、例えば、米国特許第4235871号明細書、同第4501728号明細書、同第4837028号明細書、および同第4737323号明細書に開示されている。
【0077】
本発明の処置または使用の方法を実施する際、本発明の治療有効量の蛋白が、処置すべき病態を有する被験体(例えば、哺乳動物)に投与される。本発明の蛋白は、単独か、または他の両方、例えば、サイトカイン、リンフォカイン、他の造血因子、もしくは細胞に基づく補助を用いる処置との組み合わせで、本発明の方法に従って投与することができる。1つもしくはそれ以上のサイトカイン、リンフォカイン、他の造血因子、または細胞に基づく補助と共に同時投与する場合、本発明の蛋白は、サイトカイン、リンフォカイン、他の造血因子、血栓溶解もしくは抗血栓因子、または細胞に基づく補助と共に同時に、あるいは連続的に投与することができる。連続投与する場合、担当医は、サイトカイン、リンフォカイン、他の造血因子、血栓溶解もしくは抗血栓因子、または細胞に基づく補助と組み合わされた本発明の蛋白を投与する適切な順序を決定する。
【0078】
薬学的組成物において使用されるまたは本発明の方法を実践するための本発明の蛋白の投与は、従来の様々な方法、例えば、皮膚、皮下、腹腔内、非経口もしくは静脈内注入、または場合によって、経口摂取、吸入、局部適用で行うことができる。関節部組織への注入による患者への投与が、一般に好適である(Schumacher,2003)。
【0079】
本発明の治療有効量の蛋白を経口的に投与する場合、本発明の蛋白は、錠剤、カプセル、散剤、溶液またはエリキシルの形態である。錠剤の剤形で投与する場合、本発明の薬学的組成物は、ゼラチンまたはアジュバントのような固体キャリアをさらに含有してもよい。錠剤、カプセル、および散剤は、約5〜95%の本発明の蛋白、好ましくは、約25〜90%の本発明の蛋白を含有する。液体の剤形で投与する場合、液体キャリア、例えば、水、石油、動物または植物起源の油、例えば、ピーナツ油、鉱油、ダイズ油、もしくはゴマ油、あるいは合成油を添加してもよい。薬学的組成物の液体の剤形は、生理食塩水、デキストロースまたは他の糖溶液、あるいはグリコール、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールもしくはポリエチレングリコールをさらに含んでもよい。液体の剤形で投与する場合、薬学的組成物は、約0.5〜90重量%の本発明の蛋白、好ましくは、約1〜50%の本発明の蛋白を含有する。
【0080】
本発明の治療有効量の蛋白を、静脈内、皮膚または皮下注入によって投与する場合、本発明の蛋白は、パイロジェンフリーの非経口的に許容可能な水溶液の形態である。そのような非経口的に許容可能な蛋白溶液の調製は、pH、等張性、安定性などを十分顧慮して、当該分野の技術の範囲内にある。静脈内、皮膚、または皮下注入のための好適な薬学的組成物は、本発明の蛋白に加えて、等張性ビヒクル、例えば、塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、デキストロース注射液、デキストロースおよび塩化ナトリウム注射液、乳酸リンゲル注射液、または当該分野において公知の他のビヒクルを含有すべきである。本発明の薬学的組成物はまた、安定化剤、保存剤、緩衝液、抗酸化剤、または当業者に公知の他の添加物を含有してもよい。例えば、リドカインもしくは他の局所麻酔薬、ステロイドもしくは副腎性コルチコイド、HAおよび/またはヒラン(hylan)、または放射性同位元素に関連する、あるいは組み合わされた注射液は、すべて、本発明に包含される。
【0081】
本発明の薬学的組成物における本発明の蛋白の量は、処置する病態の性質および重症度、および患者が経験した以前の処置の性質に依存する。究極的には、担当医が、それぞれの個々の患者を処置する本発明の蛋白の量を決定する。はじめに、担当医は、低い用量の本発明の蛋白を投与し、患者の応答を観察する。患者に対し最適な治療効果が観察され、そのポイントで用量がさらに増加されなくなるまで、より大きな用量の本発明の蛋白を投与することができる。本発明の方法を実践するために使用される多様な薬学的組成物は、投与方法および履行される正確な治療経過に依存して、1kgの体重あたり約0.01μg〜約100mg(好ましくは、約0.1μg〜約10mg、より好ましくは、約0.1μg〜約1mg)の本発明の蛋白を含有すべきであることが考慮される。
【0082】
静脈内投与する場合、本発明の組換えルブリシンを含んでなる薬学的組成物を使用する静脈内治療の期間は、治療する疾患の重症度ならびにそれぞれの個々の患者の病態および潜在的な特異的応答に依存して変動する。本発明の蛋白のそれぞれの適用期間は、12〜24時間の連続静脈内投与の範囲であり得ることが考慮される。究極的には、担当医が、本発明の薬学的組成物を使用する静脈内治療の適切な期間を決定する。
【0083】
骨、軟骨、腱または靭帯治療に有用である本発明の組成物について、治療方法は、組成物を、インプラントまたはデバイスとして、局部的、全身、もしくは局所的に投与することを含む。投与する場合、本発明における使用のための治療組成物は、もちろん、パイロジェンフリーの生理学的に許容可能な形態である。さらに、組成物は、骨、軟骨もしくは組織損傷の部位への送達のための粘性形態でのカプセル化または注入が所望され得る。局部投与は、いくつかの創傷治癒および組織修復状況において適切であり得る。場合により、上記の組成物にも含まれ得る治療上有用な薬剤は、代替的に、またはさらに、本発明の方法において本発明のルブリシンを含んでなる組成物と共に同時にもしくは連続的に投与することができる。好ましくは、組成物は、蛋白含有組成物を骨および/または軟骨損傷の部位に送達することが可能な、おそらく、骨および軟骨を発達させるための構造を提供することが可能な、および最適には、身体に再吸収させることが可能なマトリックスを含む。そのようなマトリックスは、他のインプラントされた医療アプリケーションに現在使用されている材料より形成される。
【0084】
マトリックスを使用する場合、マトリックス材料の選択は、生体適合性、生分解性、機械的特性、表面の外観および界接面の特性に基づく。組成物の特定のアプリケーションは、適切な処方を規定する。組成物の潜在的マトリックスは、生分解性であり、化学的に規定された硫酸カルシウム、リン酸三カルシウム、ハイドロキシアパタイト、ポリ乳酸、ポリグリコール酸およびポリ酸無水物であり得る。他の潜在的マトリックスは、生分解性であり、骨または皮膚コラーゲンのように、生物学的に良好に規定される。さらに、マトリックスは、純粋な蛋白または細胞外マトリックス成分よりなる。他の潜在的マトリックスは、非生物分解性であり、焼結ハイドロキシアパタイト(hydroxapatite)、バイオグラス、アルミネート、または他のセラミックスのように、化学的に規定される。マトリックスは、例えば、ポリ乳酸およびハイドロキシアパタイトまたはコラーゲンおよびリン酸三カルシウムのような上記のタイプの材料のいずれかの組み合わせよりなり得る。バイオセラミックスは、カルシウム−アルミネート−リン酸のような組成を変更してもよく、ポアサイズ、粒子サイズ、粒子の形状、および生分解性を変更するためにプロセシングに供される。
【0085】
さらなる組成物では、本発明の蛋白は、骨および/または軟骨欠損、創傷、または問題の組織の処置に有益な他の薬剤と組み合わせることができる。これらの薬剤は、多様な増殖因子、例えば、上皮増殖因子(EGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF−αおよびTGF−β)、およびインスリン様増殖因子(IGF)を含む。
【0086】
治療用組成物はまた、獣医アプリケーションに現在、貴重である。特に、ネコおよびイヌのような家畜、マウスおよびラットのような研究用動物、ならびにウマは、ヒトに加えて、本発明の組換えルブリシン蛋白によるそのような処置のための特に所望される被験体または患者である。
【0087】
組織再生において使用すべき蛋白含有薬学的組成物の用量レジメンは、蛋白の作用を改変する多様な因子、例えば、形成すべき組織重量の量、損傷の部位、損傷した組織の状態、創傷のサイズ、損傷した組織のタイプ(例えば、軟骨または腱)、患者の年齢、性別、および食事、任意の感染賞の重症度、投与回数ならびに他の臨床的要因を考慮する担当医によって決定される。用量は、再構成において使用されるマトリックスのタイプおよび薬学的組成物における他の蛋白の封入によって変動し得る。例えば、IGF I(インスリン様増殖因子I)のような他の既知の増殖因子を最終組成物に添加することもまた、用量に影響を及ぼし得る。組織/骨成長および/または修復の定期的な評価、例えば、X線、組織形態決定およびテトラサイクリンラベリングによって、進行をモニターすることができる。
【0088】
本発明のポリヌクレオチドはまた、遺伝子治療のためにも使用することができる。そのようなポリヌクレオチドは、被験体(例えば、哺乳動物)における発現のために、インビボまたはエクスビボのいずれかで、細胞に導入することができる。本発明のポリヌクレオチドはまた、核酸の細胞またはオルガネラ(ウイルスベクターもしくは裸のDNAの形態を含むがこれらに限定されない)への導入のための他の既知の方法によっても投与することができる。
【0089】
細胞はまた、そのような細胞において所望される効果もしくは活性を増殖または生成するために、本発明の核酸あるいは蛋白の存在下、エクスビボで培養することもできる。次いで、処置した細胞を、インビボで治療目的のために導入することができる。
【0090】
実施例6:抗ルブリシン抗体
また、本発明の組換えルブリシン蛋白を使用して動物を免疫し、蛋白またはいくつかの実施態様においてその生来の対応物に特異的に反応するポリクローナルおよびモノクローナル抗体を得ることもできる。そのような抗体は、完全な組換えルブリシン蛋白または免疫原としてのそのフラグメントのいずれかを使用することができる。ペプチド免疫原は、カルボキシル末端にシステイン残基をさらに含有してもよく、キーホールリンペットヘモシニアン(KLH)のようなハプテンにコンジュゲートされる。そのようなペプチドを合成するための方法は、当該分野において既知である(例えば、Merrifield,1963;およびKrstenanskyら、1987におけるように)。本発明のルブリシンに結合するモノクローナル抗体は、関連する蛋白の免疫検出のための有用な診断薬剤であり得る。これらの関連する蛋白に結合するモノクローナル抗体もまた、ルブリシンに関連する病態または、いくつかの場合、いくつかの形態の癌(ここで、ルブリシンの異常発現は(例えば、骨膜腫)に関与する)の処置の両方について有用な治療であり得る。
【0091】
組換えルブリシン蛋白のポリペプチドコアに対する抗体に加えて、組換えルブリシン蛋白の糖部分または糖蛋白複合体に対する抗体が所望される。グリコシル化組換えルブリシン(しかし、脱クリコシル型ではない)に結合する抗体を作成するために、免疫原は、好ましくは、アミノ酸配列が組換えルブリシンの高度にグリコシル化された部分に及ぶ糖ペプチド、例えば、反復KEPAPTT様配列である。より短い糖ペプチド、同じ高度にグリコシル化された溶域内の例えば、8〜15アミノ酸長もまた、免疫原として使用される。高度にグルコシル化された生体分子に対する抗体を作製する方法は、当該分野において既知である(例えば、Schneersonら、1980において記載のように)。
【0092】
実施例7:組換えルブリシンの送達
組換えルブリシンの送達のための標準的な方法を使用する。関節内投与のために、組換えルブリシンを、20〜500μg/mlの範囲の濃度、1回注入あたり約0.1〜2mlの容積で、滑膜腔に送達する。例えば、200〜300μg/mlの濃度の1mlの組換えルブリシンは、細い(例えば、4〜30ゲージ、好ましくは、18〜26ゲージ)針を使用して、膝関節部に注入される。本発明の組成物はまた、非経口投与、例えば、静脈内、皮下、筋肉内、または腹腔内投与に、および好適な実施態様では、腹腔、心膜、もしくは胸膜の表面上にも有用である。
【0093】
適切な針の配置は、関節部治療における注入によって送達される組換えルブリシン蛋白の有効性は極めて重要である(Schumacher,2003)。適切な針の配置は、超音波技術の使用を介して容易にされ得る。首尾よい注入は、液体の首尾よい吸引が得られた後が最も一般的である。膝蓋上包への上側アプローチが、膝関節部空間への最も信頼できるアクセスを提供することが示唆されている。関節内注入によって組換えルブリシンを投与することに加えて、(例えば、遺伝子治療アプリケーションにおける)組換えルブリシンをコードする核酸を、関節内注入によって、滑膜腔に投与することができる。
【0094】
手術癒着の防止のためは、本明細書に記載の組換えルブリシンは、ゲル状、泡状、線維状または布状の形態で投与される。そのような様式で処方される組換えルブリシンは、対置している表面間での癒着形成を防止するために、損傷または暴露された組織界接面上および間に配置される。効果的であるためには、ゲルが最終的に分散し、組織が接触する場合にそれらがもはや癒着する傾向を有さないような十分に長い時間、ゲルまたはフィルムを所定の位置に保持し、組織の接触を防止する。癒着形成の阻害または防止のために処方された組換えルブリシンは、(例えば、膜状、布状、泡状、またはゲル状の形態で)ラット盲腸癒着モデルにおける手術後癒着の防止について評価される(Goldbergら、1993)。組成物は、外科的に磨耗されたラット盲嚢の周りに配置され、非処置コントロール(盲嚢が磨耗されたが、何ら処置を受けなかった動物)と比較される。処方物の非存在下の量と比較した、組換えルブリシン処方物の存在下におけるラットモデルの癒着形成の量の減少は、処方物が、組織癒着形成を減少するのに、臨床的に有効であることを示す。しかし、組織の癒着が所望される(例えば、軟骨裂傷の治癒が所望される)状況では、組換えルブリシンの使用が最も良好に回避され得る。軟骨表面に潤滑を提供することは、軟骨軟骨同化を減少する(Schaeferら、2004)。
【0095】
組換えルブリシンはまた、動物への移植前に、人工肢および関節部を被覆するのに使用される。例えば、そのようなデバイスは、例えば、米国特許第5709020号明細書または同第5702456号明細書に記載の方法に従って、組換えルブリシンの溶液に浸漬されるかまたは浴され得る。しかし、補綴付近に潤滑を提供する際の組換えルブリシンのインビボ使用では、注意しなければならない。PRG4遺伝子発現(即ち、MSF遺伝子発現)の顕著なアップレギュレーションについては、補綴のぐらつきに関連することが報告されており;ルブリシンは、骨と補綴との間の緊密な相互作用を妨害し、従って、補綴のぐらつきに寄与し得る(Morawietzら、2003)。
【0096】
実施例8:OAモデル
ルブリシン調製物の関節内投与の有効性を評価するために、骨関節炎/軟骨侵食のマウスモデルを調製する。骨関節炎の外科的導入のために、マウスを250mg/kg腹腔内トロブロモエタノール(シグマ(SIGMA)(登録商標)Chemical)で麻酔し、無菌的手術のために、膝を調製する。膝蓋靭帯の中心軸に対する縦切開を行い、関節包を開放し、半月脛骨靭帯(meniscotibial ligament)(内側半月板を脛骨プラトーに固定している)を同定する。一部分の動物では、さらなる操作を実施せず、このグループをシャムオペとみなす。実験群では、内側半月脛骨靭帯(meniscotibial ligament)を横切断し、内側半月板の不安定化(DMM)を得る。シャムおよびDMMの両方の動物において、関節包および皮下層を個別に縫合して閉じ、皮膚を、NEXABAND(登録商標)S/C組織接着剤(Abbott、North Chicago、イリノイ州)の塗布によって閉じる。Buprenorphine(BUPRENEX(登録商標);Reckitt&Coleman、Kingston−upon−Hull、英国)を、術前後に投与する。
【0097】
組換えルブリシン調製物を、30ゲージ針を使用する関節内注入によって投与する。膝関節あたり5〜10マイクロリットルの注入を、手術の1週間後に投与する。場合により、1週間ごとにさらなる注入を投与する。術後4週間および術後8週間に、動物を二酸化炭素で屠殺する。
【0098】
骨関節炎の進行および重症度を評価するために、無傷な膝関節を4%パラホルムアルデヒドに24時間配置し、次いで、EDTA/ポリビニルピロリドンにおいて5日間、カルシウムを除去する。関節部をパラフィン中に包埋し、関節部全体を通して6μmの前額断を得る。スライドをSafranin O−fast greenで染色し、判定量評価システム(Chambersら、2001)の改変型(「0」=正常軟骨;「0.5」=構造的変化を伴わないSafranin Oの消失;「1」=粗関節面および小さな線維化;「2」=浅層部のすぐ下の層にまで及んだ線維化およびいくつかの表面薄層の消失;「3」=軽度(<20%);「5」=中等度(20〜80%);ならびに「6」=重度(>80%)非石灰化軟骨の消失)を使用して、関節部全体を通して70μm間隔で等級付けする。「4」(骨への侵食)の評価はこのモデルの特徴ではない。関節部のすべての四分円(内側脛骨プラトー、大腿骨内側顆、外側脛骨プラトー、および大腿骨外側顆)を個別に評価する。各膝関節部に対し、最低でも12レベルをブラインドされた観察者によって評価する。スコアを、各関節部において見出される最大組織学的評価または合計した組織学的スコアとして表す。合計したスコアは、関節部を通した各組織学的切片上の各四分円についての相加的スコアを示す。この解析方法は、病巣の重症度ならびにOA様病巣を患う軟骨の表面積の評価を可能にする(Glassonら、2004)。
【0099】
参考文献:(1)Chambersら、2001,Arthritis Rheum.44:145565;(2)Deutscher,1990,Methods in Enzymology,Vol.182:Guide to Protein Purification,Academic Press;(3)Espallargues and Pons,2003,Int’l J.Tech.Assess.Health Care19:41−56;(4)Flanneryら、1999,Biochem.Biophys.Res.Comm.254:53541;(5)Glassonら、2004,Arthritis Rheum.50:2547−58;(6)Goldbergら、1993,In:Gynecologic Surgery and Adhesion Prevention,Willey−Liss,pp.191204;(7)Hills,2002,J.Rheumatology29:20001;(8)Ikegawaら、2000,Cytogenet.Cell Genet.90:291−297;(9)Jayら、2001,J.Orthopaedic Research19:67787;(10)Jayら、2002,Glycoconjugate Journal18:80715;(11)Krstenanskyら、1987,FEBS Lett.211:1016;(12)Marcelinoら、1999,Nature Genetics23:319322;(13)Merbergら、1993,Biology of Vitronectins and their Receptors,Pressner et al.(eds.):Elsevier Science Publishers,pp.4553;(14)Merrifield,1963,J.Amer.Chem.Soc.85:214954;(15)Morawietzら、2003,Virchows Arch.443:5766;(16)Reesら、2002,Matrix Biology21:593602;(17)Schneersonら、1980,J.Exp.Med.152:361−76;(18)Scopes,1994,Protein Purification:Principles and Practice(3rdedition),Springer Verlag;(19) Schaeferら、2004,Biorheology41:503−508;(20)Schumacher,2003,Arthritis&Rheumatism49:413−20;(21)Tatusova and Madden,1999,FEMS Microbiol Lett.174:247−50;(22)Wobigら、1998,Clin.Ther.20:41023;および(23)Wobigら、1999,Clin.Ther.21:1549−62.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号9、13、17、21または25を含む、単離された蛋白。
【請求項2】
配列番号27のN−2リピート(ここで、Nは3〜200の整数に等しい)に連結された配列番号26を含む、単離された蛋白。
【請求項3】
Nは5〜50の整数に等しい、請求項2記載の蛋白。
【請求項4】
Nは10〜30の整数に等しい、請求項2記載の蛋白。
【請求項5】
配列番号26+配列番号28+[配列番号27のN−2リピート]+配列番号29(ここで、Nは10〜30の整数に等しい)を含む、単離された蛋白。
【請求項6】
請求項1に記載の蛋白をコードする核酸配列を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項2に記載の蛋白をコードする核酸配列を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項3に記載の蛋白をコードする核酸配列を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項4に記載の蛋白をコードする核酸配列を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項5に記載の蛋白をコードする核酸配列を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項11】
配列番号7、11、15、19または23を含む、単離された蛋白。
【請求項12】
請求項11に記載の蛋白をコードする核酸配列を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項13】
配列番号8、12、16、20または24を含む、請求項6記載のポリヌクレオチド。
【請求項14】
配列番号6、10、14、18または22を含む、請求項12記載のポリヌクレオチド。
【請求項15】
配列の全体の長さにわたって配列番号6、10、14、18または22に対して少なくとも80%の同一性を有するポリヌクレオチドを含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項16】
少なくとも90%の同一性を有するポリヌクレオチドを含む、請求項15記載のポリヌクレオチド。
【請求項17】
少なくとも95%の同一性を有するポリヌクレオチドを含む、請求項15記載のポリヌクレオチド。
【請求項18】
少なくとも99%の同一性を有するポリヌクレオチドを含む、請求項15記載のポリヌクレオチド。
【請求項19】
β−(1−3)−Gal−GalNacによるO−結合型である、請求項1または2記載の蛋白。
【請求項20】
医薬上許容されるキャリアにおいて請求項19に記載の治療有効量の蛋白を含む組成物。
【請求項21】
ヒアルロナンまたはヒラン(hylan)をさらに含む、請求項20記載の組成物。
【請求項22】
請求項20に記載の組成物を得;および
該組成物を対象の組織に投与する
ことを含む、対象を処置する方法。
【請求項23】
組織が、軟骨、滑膜、半月板、腱、腹膜、心膜、および胸膜よりなる群から選択される、請求項22記載の方法。
【請求項24】
組織は軟骨である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
麻酔薬を対象に提供すること;抗炎症薬を対象に提供すること;抗生物質を対象に提供すること;対象から液体を吸引すること;対象の組織を洗浄すること;および対象の組織を画像化することからなる群より選択される工程をさらに含む、請求項22記載の方法。
【請求項26】
対象が、マウス、ラット、ネコ、イヌ、ウマおよびヒトよりなる群から選択される、請求項22記載の方法。
【請求項27】
対象がヒトである、請求項26記載の方法。
【請求項28】
発現制御配列に操作可能に連結された請求項6または7に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
【請求項29】
請求項28に記載の発現ベクターで形質転換された細胞を液体培地において増殖させること;および
その培地から組換え蛋白を回収すること、
を含む、組換え蛋白の産生方法。
【請求項30】
蛋白を回収することが:
膜を介して培地をろ過することによって、蛋白を濃縮し;
膜から保持された蛋白を回収し;および
0.1〜2.0Mの濃度の範囲でL−アルギニン塩酸塩を含有する緩衝生理食塩水に、回収された蛋白を溶解する
ことを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
L−アルギニン塩酸塩濃度が0.5Mである、請求項30記載の方法。
【請求項32】
請求項1または2に記載の蛋白に特異的な単離された抗体。

【公表番号】特表2007−502122(P2007−502122A)
【公表日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523436(P2006−523436)
【出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【国際出願番号】PCT/US2004/026508
【国際公開番号】WO2005/016130
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(591011502)ワイス (573)
【氏名又は名称原語表記】Wyeth
【Fターム(参考)】