説明

組換え型ヒトα−フェトプロテインおよびその利用

【課題】組換え型ヒトα-フェトプロテイン、またはその免疫細胞抗増殖性断片もしくはアナログの治療上有効な量を哺乳類に投与することを含む、哺乳類における自己反応性免疫細胞の増殖を阻害する方法;組換え型ヒトα-フェトプロテインまたはその抗新生組織断片もしくはアナログの治療上有効な量を哺乳類に投与することを含む、哺乳類において新生組織を抑制する方法;および組換え型ヒトα-フェトプロテインまたはその断片もしくはアナログを含む培地を用いることを含む細胞培養法の提供。
【解決手段】特定のアミノ酸配列またはその断片またはその断片のいずれかと実質的に同一な配列を含む、実質的に純粋で生物学的に活性な組換え型ヒトα-フェトプロテインと、その産生に昆虫細胞を用いる方法、哺乳類における自己反応性免疫細胞の増殖を阻害する方法、細胞培養方法。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
本発明は、クローニングしたヒトα-フェトプロテインの発現および精製;自己免疫疾患の治療法;癌治療および診断法;ならびに細胞増殖および細胞培養に関する。
α-フェトプロテイン(AFP)は、通常、胎児血中にのみ有意な濃度で検出される血清蛋白である。成人血中では、α-フェトプロテイン濃度の増加は、肝再生および特定の癌に関連する。
【発明の開示】
【0002】
発明の概要
一般的に、本発明は、図1のアミノ酸1〜389(配列番号:9)またはその断片;図1のアミノ酸198〜590(配列番号:10)またはその断片;図1のアミノ酸198〜389(配列番号:7)またはその断片;図1のアミノ酸390〜590(配列番号:8)またはその断片;および図1のアミノ酸266〜590(配列番号:11)またはその断片のいずれかと実質的に同一な配列を含む、実質的に純粋で生物学的に活性な組換え型ヒトα-フェトプロテインを特徴とする。
【0003】
関連するもう一つの局面において、本発明は、以下を含む、生物学的に活性な組換え型ヒトα-フェトプロテインまたはその断片もしくはアナログの産生に昆虫細胞を用いる方法を特徴とする:
a) ヒトα-フェトプロテインまたはその断片もしくはアナログの発現を指向する発現調節因子に機能的に結合したヒトα-フェトプロテインまたはその断片もしくはアナログをコードする組換えDNA分子を含む形質転換した昆虫細胞(例えば、スポドプテラ・フルジペルダSpodoptera frugiperda)の提供;
b) 形質転換した細胞の培養;および
c) 生物学的に活性なヒトα-フェトプロテインまたはその断片もしくはアナログの回収。
【0004】
関連する局面において、本発明はまた、本明細書に記述された方法のいずれを用いても産生される実質的に純粋なヒトα-フェトプロテインまたはその断片もしくはアナログ、および本明細書に記述の発現システムのいずれを用いても産生される実質的に純粋なヒトα-フェトプロテイン(またはその断片もしくはアナログ)を含む治療用組成物を特徴とする。
【0005】
もう一つの局面において、本発明は、組換え型ヒトα-フェトプロテインまたはその免疫細胞抗増殖性断片もしくはアナログの治療上有効量を哺乳類に投与することを含む、哺乳類(例えば、ヒト患者)における自己反応性免疫細胞の増殖を阻害する方法を特徴とする。そのような方法は、原核生物(例えば大腸菌)において産生された非グリコシル化組換え型ヒトα-フェトプロテインが、哺乳類由来の自己反応性免疫細胞の阻害に有用であるという本発明者の発見に基づいている。好ましくはそのような免疫細胞には、T細胞またはB細胞が含まれ;かつそのような方法で用いられる組換え型ヒトα-フェトプロテイン(またはその免疫細胞抗増殖性断片もしくはアナログ)は、原核細胞(例えば大腸菌)で産生され、グリコシル化されていない。
【0006】
もう一つの局面において、本発明は、組換え型ヒトα-フェトプロテインまたはその免疫細胞抗増殖性断片もしくはアナログの治療上有効量を哺乳類に投与することを含む、哺乳類(例えば、ヒト患者)の自己免疫疾患を治療する方法を特徴とする。そのような自己免疫疾患は、多発性硬化症;リウマチ性関節炎;重症筋無力症;インスリン依存型真性糖尿病;または全身性エリテマトーデスである。その他の好ましい態様において、自己免疫疾患は後天性免疫不全症候群であり、または移植臓器、組織もしくは細胞の拒絶反応を含む。好ましくはそのような方法に用いられる組換え型ヒトα-フェトプロテインは原核細胞(例えば、大腸菌)において産生され、グリコシル化されていない。その他の好ましい態様において、そのような方法はさらに、免疫抑制剤を単独で用いる場合の標準用量より少ない有効量で免疫抑制剤を哺乳類に投与することを含む。好ましくはそのような免疫抑制剤はシクロスポリン;ステロイド;アザチオプリン;FK-506;または15-デオキシスペルガリンである。さらにもう一つの好ましい態様において、そのような方法は耐性剤の哺乳類への投与を含む。好ましくはそのような方法において用いられる組換え型ヒトα-フェトプロテインは原核細胞(例えば大腸菌)で産生され、グリコシル化されていない。
【0007】
本発明によれば、組換え型ヒトα-フェトプロテイン(「rHuAFP」)(またはその断片もしくはアナログ)の投与は、哺乳類の自己免疫疾患を予防または治療もしくは改善する有効な手段となりうる。これを説明するため、本発明者は、原核発現系において産生された組換え型HuAFPは、そのようなHuAFPは天然に生じるHuAFPと同様には修飾されないという事実にもかかわらず、自己抗原に反応したT細胞の増殖を抑制するのに有効であることを示した。天然のHuAFPが入手できなかったためにこれまでその利用は限られており、天然のHuAFPは、臍帯および臍帯血清の限られた供給源から困難な精製によって得られる。生物学的に活性なrHuAFPは今や、組換えDNA技法を用いて大量に調製することが可能であるため、現在では自己免疫疾患の治療にrHuAFPを利用することが可能である。rHuAFPの利用は、ヒトα-フェトプロテインに関連した既知の副作用がないため、特に有利で、比較的高用量を安全に投与することができると考えられている。
【0008】
さらに別の局面において、本発明は新生組織、特に癌の予防、治療および診断のための組成物および方法を特徴とする。本発明のこの局面は、原核細胞(例えば大腸菌)において産生された非グリコシル化組換え型ヒトα-フェトプロテインが、新生組織、特に、組換え型ヒトα-フェトプロテインによって認識される受容体を発現する悪性細胞の増殖によって引き起こされる乳癌または前立腺癌、およびその他の癌などの、悪性腫瘍を有する哺乳類の治療および診断に有用であるという本発明者の発見に基づく。
【0009】
一つの局面において、本発明は、哺乳類へ組換え型ヒトα-フェトプロテインまたはその抗新生組織断片もしくはアナログを治療上有効量投与することを含む、哺乳類(例えば、ヒト患者)の新生組織を阻害する方法を特徴とする。好ましくは新生組織は、悪性腫瘍(例えば乳癌または前立腺癌)であり;組換え型ヒトα-フェトプロテインは原核細胞(例えば、大腸菌)で産生され、グリコシル化されていない。好ましい態様において、新生組織の細胞は、組換え型ヒトα-フェトプロテインによって認識される受容体を発現する。そのような新生組織は一般に、腺癌または肉腫のような癌である。好ましい態様において、新生組織はホルモン、例えば、エストロゲンまたはアンドロゲンに反応して増殖する。好ましくは組換え型ヒトα-フェトプロテインの投与により、哺乳類の新生細胞の増殖が阻害されるか、または新生細胞が死滅する。本方法はさらに、哺乳類への化学療法剤の投与を含む。
【0010】
もう一つの局面において、本発明は、組換え型ヒトα-フェトプロテインの治療上有効量の哺乳類への投与を含む、新生組織の発症から哺乳類を保護する方法を特徴とする。好ましくは組換え型ヒトα-フェトプロテインは原核細胞(例えば、大腸菌)において産生され、グリコシル化されていない。
【0011】
もう一つの局面において、本発明は、細胞障害剤に結合した組換え型ヒトα-フェトプロテイン(またはその断片もしくはアナログ)を含むハイブリッドサイトトキシンを特徴とする。そのような細胞障害剤の例として、制限なく、ジフテリア毒素、シュードモナス(Pseudomonas)エキソトキシンA;リシンおよびアブリン、モデッシン(modeccin)、フォルケンシン(volkensin)、ビスクミン(viscumin)のような他の植物毒素;コレラ毒(コレラ菌(Vibrio Cholerae)によって産生される);いわゆる「志賀様(Shiga-like)」毒素(大腸菌およびその他の腸内細菌によって産生される);サルモネラ熱不安定性エンテロトキシン;ならびに大腸菌熱不安定性エンテロトキシンが含まれる。その他の好ましい態様において、細胞障害剤は、非蛋白様物質である。そのような非蛋白様細胞障害剤の例として、制限なく、アスタチンのようなα線放射性核種およびイットリウムのようなβ線放射性核種と同様、ドキソルビシンのような抗癌剤が含まれる。好ましくはハイブリッドサイトトキシンの細胞障害剤は、ペプチド結合によって組換え型ヒトα-フェトプロテインに結合しており、ハイブリッド毒素は遺伝子操作したハイブリッドDNA分子の発現によって産生される。別の好ましい態様において、ハイブリッドサイトトキシンの細胞障害剤は蛋白である;そのような細胞障害剤は、組換え型ヒトα-フェトプロテインに化学結合している。
【0012】
その他の局面において、本発明は、ヒト新生細胞に結合可能な、検出可能に標識された組換え型ヒトα-フェトプロテインまたは検出可能に標識されたその断片もしくはアナログを特徴とする。好ましくはそのような分子は、例えばテクネチウム-99m、ヨード-125、ヨード-131、またはインジウムなどの放射性核種によって標識する。その他の検出可能な標識として、制限なく、酵素、フルオロフォア、または検出可能なシグナル(例えば、放射活性、蛍光、着色)を放出、もしくは標識をその基質に暴露後に検出可能なシグナルを放出するその他の成分または化合物が含まれ、または検出可能なシグナルは抗体によって認識されるエピトープでもよい(例えば、α-フェトプロテインのエピトープ、またはHAもしくはmycエピトープのように、組換え型α-フェトプロテインの中に特異的に遺伝子操作されるエピトープ)。好ましくは分子は、組換え型ヒトα-フェトプロテイン(またはその断片もしくはアナログ)によって認識される受容体を発現する悪性腫瘍(例えば、乳房腫瘍、前立腺腫瘍、または癌)を標的とする。そのような組換え型α-フェトプロテインは、典型的に、原核細胞(例えば、大腸菌)において産生され、グリコシル化されていない。
【0013】
検出可能に標識された組換え型ヒトα-フェトプロテイン(またはその断片もしくはアナログ)は、インビボにおいてヒト患者の新生細胞含有領域を画像化する方法に有用である。一般的に、方法は:(a) 検出可能に標識した組換え型ヒトα-フェトプロテイン分子(またはその断片もしくはアナログ)を提供する;(b) 分子を患者に投与する;(c) 標識分子を結合させ、非結合分子をその領域から除去する;および(d) 新生細胞含有領域の画像を得る、ことを含む。好ましくはこの領域は、乳房または前立腺である。その他の好ましい態様において、領域は、制限なく、肝組織、肺組織、脾臓組織、膵組織、脳組織、リンパ組織、または骨髄である。好ましくは画像は、ダイナミックγ線シンチグラフィーを用いて得る。
【0014】
検出可能に標識された組換え型ヒトα-フェトプロテイン(またはその断片もしくはアナログ)はまた、哺乳類(例えば、ヒト患者)の新生組織を診断する方法にも用いることができる。そのような方法には:(a) 生物学的サンプルを、検出可能に標識した組換え型ヒトα-フェトプロテイン分子と接触させ;および(b) サンプルに結合した標識を検出することが含まれ、ここで基底レベル以上の標識が検出されれば患者が新生組織を有することを示している。好ましくは本方法は、接触段階の前に、細胞を含む生物学的サンプルを固定して切片にすることが含まれ、サンプルに結合した標識は、細胞の細胞膜に相当する領域に結合する。好ましい態様において、生物学的サンプルはヒト患者の乳房または前立腺由来である。
【0015】
検出可能に標識された組換え型ヒトα-フェトプロテイン(またはその断片もしくはアナログ)はまた、インビボにおいて哺乳類の新生組織を検出する方法にも用いることができる。そのような方法には:(a) 検出可能に標識した組換え型ヒトα-フェトプロテイン分子の診断学的有効量を投与する;および(b) 哺乳類組織に結合した検出可能な標識の有無を検出することが含まれ、ここで基底レベル以上の標識量が検出されれば、その哺乳類に新生組織が存在することを示す。好ましい態様において、本方法は、乳癌の疑いがあるヒト患者を含み、組織は乳房組織である。他の好ましい態様において、本方法は前立腺癌の疑いがあるヒト患者を含み、組織は前立腺組織である。好ましくは、検出可能に標識された組換え型ヒトα-フェトプロテインは放射性核種(例えば、テクネチウム-90)に結合し、検出段階は放射線造影(例えば、ダイナミックγ線シンチグラフィー)によって達成される。
【0016】
もう一つの局面において、本発明は、インビボ、インサイチュー、またはインビトロにおいて、組換え型ヒトα-フェトプロテイン(またはその断片もしくはアナログ)によって認識される受容体を発現する新生組織またはいかなる細胞も検出するキットを特徴とする。一般的に、キットは、新生組織によって認識され、検出可能に標識されうる組換え型ヒトα-フェトプロテインを含む。組換え型ヒトα-フェトプロテインが標識されていない場合、検出可能な標識を含む第二試薬(例えば、テクネチウム-90、ヨード-125、ヨード-131、またはインジウムなどの放射線核種)を好ましくは含む。検出可能な標識が酵素である場合、キットはさらに酵素に対する基質試薬を含む。キットは同様に、検出可能な標識を組換え型α-フェトプロテインに結合させる試薬を含んでもよい。もう一つの態様において、組換え型ヒトα-フェトプロテイン(またはその断片またはアナログ)によって認識される受容体を発現する新生組織またはいかなる望まない細胞も検出するキットは、組換え型ヒトα-フェトプロテインに特異的に結合する抗体を含む試薬、および抗α-フェトプロテイン抗体によって特異的に結合した検出可能に標識された組換え型ヒトα-フェトプロテインを含む試薬を含む。好ましくはキットの組換え型ヒトα-フェトプロテインは、原核細胞(大腸菌)において産生され、グリコシル化されていない。
【0017】
組換え型ヒトα-フェトプロテインを癌の治療および診断に用いれば、多くの利点が得られる。例えば、rHuAFPは、腫瘍部位に直接投与することができる。組換え型HuAFPはまた、化学的に定義して合成することができ、組換えDNA技術、例えば、本明細書に記載の方法を用いて大量に調製することができる。さらに、従来の癌化学療法および放射線療法とは異なり、組換え型ヒトα-フェトプロテインは、吐き気、嘔吐、および神経毒性のような副作用が最も少ない。したがって、比較的大量のrHuAFPを安全に投与することができる。
【0018】
本発明の診断法は、それによって新生組織の迅速かつ簡便な診断が可能になるため、有利である。例えば、rHuAFPの診断薬としての利用は(例えば、シンチグラフィーを用いての放射線造影による)、術後検査の際と同様、術前または術中の位置に関する癌のリアルタイム画像化にとって、および癌、例えば乳癌の進行期分類にとって特に有利である。そのような診断法の利用により、新生組織の有無、位置を非侵襲的に決定することが可能となり、これは、患者の状態のモニターにとって有利である。
【0019】
さらにその他の局面において、本発明は、組換え型ヒトα-フェトプロテインまたはその細胞刺激断片もしくはアナログを含む細胞培養培地を特徴とする。本発明のこの局面は、原核細胞(例えば、大腸菌)において産生された非グリコシル化組換え型ヒトα-フェトプロテインが、細胞増殖剤である、例えばインビトロで骨髄の増殖を促進するという本発明者の発見に基づく。好ましくは、そのような組換え型ヒトα-フェトプロテインは、原核細胞(例えば、大腸菌)において産生され、グリコシル化されていない。
【0020】
したがって、本発明のこの局面は、細胞培養法、すなわち(a) 組換え型ヒトα-フェトプロテインを含む細胞培養培地の提供;(b) 細胞の提供、(c) および細胞が増殖し維持される培地中で細胞を増殖させることを含む方法を特徴とする。好ましくは、細胞は哺乳類細胞である。そのような哺乳類細胞の例として、骨髄細胞(例えば、T細胞、ナチュラルキラー細胞、リンパ球)、ハイブリドーマ、または遺伝子操作した細胞株が含まれる。その他の細胞の例として、幹細胞、芽球細胞、前駆細胞(例えば、バースト形成単位などの赤血球前駆細胞およびコロニー形成単位)、骨髄芽球、マクロファージ、単球、マクロファージ、リンパ球、T-リンパ球、B-リンパ球、好酸球、好塩基球、組織肥満細胞、巨核球が含まれる(例えば、ベストおよびテイラーの診療の生理学的基礎、ジョンB.ウエスト編、Williams&Wilkins、バルチモア参照)。その他の好ましい態様において、本方法にはエクスビボ細胞培養が含まれる。
【0021】
もう一つの局面において、本発明は、組換え型ヒトα-フェトプロテインまたはその骨髄毒性阻害アナログもしくは断片の治療有効量を哺乳類に投与することを含む、哺乳類(例えば、ヒト患者)において骨髄毒性を阻害する方法を特徴とする。好ましくは、組換えヒトα-フェトプロテインは原核細胞(大腸菌)において産生され、グリコシル化されていない。
【0022】
もう一つの局面において、本発明は、哺乳類における骨髄細胞増殖抑制の阻害法、組換え型α-フェトプロテインまたはその抗抑制性断片もしくはアナログの有効量を哺乳類に投与することを含む方法を特徴とする。好ましくは、組換え型ヒトα-フェトプロテインは原核細胞(例えば、大腸菌)において産生され、グリコシル化されていない。
【0023】
もう一つの局面において、本発明は、組換え型ヒトα-フェトプロテインまたはその細胞刺激断片もしくはアナログの有効量を哺乳類に投与することを含む、哺乳類において骨髄細胞の増殖を促進する方法を特徴とする。好ましくは組換え型ヒトα-フェトプロテインは、原核細胞(例えば大腸菌)において産生され、グリコシル化されていない。
【0024】
もう一つの局面において、本発明は、組換え型ヒトα-フェトプロテインまたはその抗拒絶断片もしくはアナログの有効量を哺乳類に投与することを含む、哺乳類における骨髄細胞移植拒絶反応の予防法を特徴とする。好ましくは、組換え型ヒトα-フェトプロテインは原核細胞(例えば、大腸菌)において産生され、グリコシル化されていない。本発明の方法によれば、rHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)の投与は、インビトロ、エクスビボ、またはインビボにおける細胞増殖を促進し、助長する有効な手段となりうる。さらに、本発明の化合物の投与は、哺乳類における骨髄毒血症の予防、または治療もしくは改善の有効な手段ともなりうる。
【0025】
組織培養培地の主成分としてrHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)を利用することは、病原体による汚染の可能性がほとんどないため有利である。
【0026】
「ヒトα-フェトプロテイン」は、モリナガら((Morinaga),Proc.Natl.Acad.Sci., USA 80:4604 (1983))が記述したヒトα-フェトプロテイン遺伝子によってコードされる蛋白と実質的に同じアミノ酸配列を有するポリペプチドを意味する。原核細胞に組換え型ヒトα-フェトプロテインを産生する方法は、米国特許第5,384,250号に記述され、本明細書に記述の方法に従う。
【0027】
「発現調節因子」は、それに対して機能的に結合される蛋白コード配列の発現を調節する因子の認識配列を含む塩基配列を意味する。したがって、発現調節因子は一般的に、転写および翻訳の双方を調節する配列、例えば、プロモーター、リボゾーム結合部位、リプレッサー結合部位、およびアクチベーター結合部位を含む。
【0028】
「実質的に同じアミノ酸配列」とは、天然に生じるヒトα-フェトプロテインアミノ酸配列と少なくとも80%の相同性を示すポリペプチドを意味し、典型的には天然のヒトα-フェトプロテイン配列と少なくとも約85%の相同性を示し、より典型的には少なくとも約90%の相同性を有し、通常は少なくとも約95%の相同性を示し、およびより通常は天然型ヒトα-フェトプロテイン配列と少なくとも約97%の相同性を有する。比較配列の長さは一般的に、少なくともアミノ酸16個で、通常少なくともアミノ酸20個、より通常少なくともアミノ酸25個、典型的には少なくともアミノ酸30個、および好ましくはアミノ酸35個以上である。
【0029】
ポリペプチドに関する相同性は、典型的には配列解析ソフトウェアを用いて測定する(例えば、ジェネティクスコンピューターグループ(Genetics Computer Group)の配列解析ソフトウェアパッケージ、ウィスコンシン大学バイオテクノロジーセンター、1710 University Avenue, Madison, WI 53705)。蛋白質解析ソフトウェアは、様々な置換、欠失、置換、およびその他の修飾に対する相同性の程度を割り当てることによって類似配列と適合させる。保存的置換は典型的には以下のグループ内での置換を含む:グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン;セリン、トレオニン;リジン、アルギニン;およびフェニルアラニン、チロシン。
【0030】
本明細書に用いるように、「実質的に純粋」という用語は、本来それに付随する成分から分離された蛋白またはポリペプチドを示す。典型的には、サンプル中の総蛋白の少なくとも60〜75%が関係蛋白であれば、関係蛋白は実質的に純粋である。変化の程度が小さい変種または化学修飾は、典型的には同じポリペプチド配列を共有する。実質的に純粋な蛋白は、典型的にはサンプル中の蛋白の約85〜90%以上を構成し、より通常は少なくとも約95%を構成し、および好ましくは約99%以上純粋である。たいていの場合、純度はクロマトグラフィーカラム、ポリアクリルアミドゲル、またはHPLC分析によって測定する。
【0031】
蛋白は、その天然の状態でそれに付随する本来の混入物質から分離されたとき、天然関連成分を実質的に含まないものとする。このように、化学合成された、またはそれが本来由来する細胞とは異なる細胞系で産生された蛋白は、その天然関連成分を実質的に含まない。このように、この用語は、大腸菌およびその他の原核生物において合成された真核生物由来のポリペプチドおよび核酸の記述に用いることができる。
【0032】
本発明は、実質的に純粋なヒトα-フェトプロテインを提供する。ヒトα-フェトプロテインの構造的および機能的特性に一部基づいて、ヒトAFPを生物材料から単離する様々な方法を考案してもよい。または、抗AFP抗体を固体基質に固定化して、高度に特異的なアフィニティーカラムを作成してヒトAFPを精製してもよい。
【0033】
本発明は、実質的に完全な長さのポリペプチドの他にも、ヒトα-フェトプロテインの生物学的に活性な組換え型断片またはアナログを提供する。例えば、それはリガンド結合または免疫抑制に活性を示す断片である。
【0034】
ヒトα-フェトプロテインまたはその望ましい断片をコードする天然または合成DNA断片は、細胞培養に導入して発現させることが可能なDNA構築物に取り込まれる。そのような宿主細胞に導入するために調製したDNA構築物は、典型的には宿主細胞が利用可能な複製起点、ヒトα-フェトプロテインの望ましい部分をコードするDNA断片、α-フェトプロテインコード部分に機能的に結合した転写および翻訳開始制御配列、ならびにα-フェトプロテインコード部分に機能的に結合した転写および翻訳開始制御配列を含む。転写制御配列は、宿主によって認識されるヘテロのプロモーターを典型的には含む。適当なプロモーターの選択は宿主に依存するが、trp、tac、およびphageプロモーターのようなプロモーター、tRNAプロモーター、および解糖酵素プロモーターは、適当な条件下(サムブルック(Sambrook)ら著、「分子クローニング:実験室手引き(Molecular Cloning:Laboratory Manual)」, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, NY 1989)で用いてもよい。宿主細胞における転写を制御することができる因子のための適切に位置した認識配列を含むことが望ましい場合もある(例えば、大腸菌のlacリプレッサー)。発現すべき遺伝子をコードするDNA断片の挿入に都合のよい部位と共に、複製システムならびに転写および翻訳制御配列を含む市販の発現ベクターを用いてもよい。
【0035】
上記の様々なプロモーター、転写、および翻訳は、一般的に「発現調節因子」と呼ばれる。
宿主細胞の染色体にヒトAFPの全てまたは一部をコードするDNA断片を組み込むことも可能である。
関係するDNA部分を含むベクターは、細胞宿主のタイプによって異なる周知の方法によって宿主細胞に移すことができる(サムブルックら(Sambrook), 前記)。「形質転換細胞」という用語は、形質転換細胞の前駆体をも含むことを意味する。
組換え蛋白の高レベル発現に有用な原核細胞宿主には:様々な株の大腸菌、枯草菌(Bacillus subtilis)およびシュードモナス属(Psuedomonas)が含まれる。
本発明の方法は、それによって生物活性を有するヒトα-フェトプロテインを大量生産する手段を提供する。本発明の方法によって産生されたAFPは、天然に生じるヒトAFPと同じようには修飾されないという事実があるにもかかわらず、生物活性を有する。
【0036】
「免疫細胞抗増殖性」とは、望ましくない免疫細胞の増殖を阻害することができることを意味する(例えば、本明細書に記載の解析法を用いて測定する自己反応性T細胞)。
【0037】
「新生組織」とは、生理機能を示さない細胞の望ましくないいかなる増殖をも意味する。一般に、新生細胞はその正常な細胞分裂調節が外れており、すなわちその増殖が、細胞環境中の通常の生化学的および物理的影響によって制御されない細胞である。ほとんどの場合、新生細胞は増殖して、良性または悪性のいずれかとなる細胞のクローンを形成する。新生組織の例として、制限なく、形質転換した無限増殖性細胞、腫瘍、ならびに乳房細胞癌および前立腺癌などの癌が含まれる。
【0038】
「治療的有効量」とは、新生組織の増殖を阻害、または自己反応性免疫細胞の増殖を阻害、または細胞(例えば、骨髄細胞)の増殖を刺激することが可能な非グリコシル化組換え型ヒトα-フェトプロテインまたはその抗新生組織断片もしくはアナログの投与量を意味する。
【0039】
「診断学的有効量」とは、哺乳類(例えば、ヒト患者)の標的領域内で検出することができる、検出可能に標識された組換え型ヒトα-フェトプロテイン、または検出可能に標識されたその断片もしくはアナログの投与量を意味する。
【0040】
「細胞刺激」とは、細胞増殖の増加、細胞分裂の増加、細胞の分化および/もしくは発達の促進、または細胞寿命の延長を意味する。
【0041】
「骨髄毒性阻害」とは、骨髄障害の阻害を意味する。
【0042】
本発明のその他の特徴および利点は、その好ましい態様に関する以下の説明、および請求の範囲から明らかとなると思われる。
【0043】
詳細な説明
組換えヒトα-フェトプロテインの発現
cDNAライブラリーの構築
4.5ヶ月で流産したヒト胎児の肝細胞(生体重〜3 g)から分離したポリ(A)RNAから調製した、サイズ分画したcDNA(0.5〜3 kb)を用いて、cDNAライブラリーを構築した。(または、カリフォルニア州パロアルトのクローンテックラボラトリー社(Clontech Laboratories)から胎児cDNAライブラリーを購入することができる。)グアニジン・チオシアネート法によって全RNAを調製し(Chirgwinら、 Biochemistry 18: 5294, 1979)、オリゴ(dT)セルロースクロマトグラフィーによってmRNAを選択した(マサチューセッツ州ベドフォード、コラボレイティブリサーチ社(Collaborative Research))(Ausubelら編、分子生物学最新プロトコール、ウィリーインターサイエンス社、ニューヨーク、1989)。ライブラリアン(Librarian)II cDNA合成キット(カリフォルニア州サンディエゴ、インビトロジェン(Invitrogen)社)を用いてcDNAを合成し、1%アガロースゲルで分画した。0.5から3 kbの断片を抽出して、ベクターpTZ18-RB(インビトロジェン(Invitrogen)社)にライゲーションし、コンピテントセルの大腸菌DH1αF'(インビトロジェン(Invitrogen)社)を形質転換するために用いた。コロニー/プラークスクリーンフィルター(デラウエア州ウィルミントン、デュポン社)を用いてコロニーを採取し、移し換えた細菌のコロニーを、0.5 M NaOH、1.5 M NaClの溶液中で10分間インキュベートして、溶解、変性した。このフィルターを1.5 M NaCl、0.50 M トリス塩酸(pH 7.6)で5分間洗浄してから風乾した。次に、フィルターをクロロフォルムで5回洗浄し、細胞残渣を取り除くために0.3 M NaClに浸漬してから風乾した。減圧下で2時間、80℃で乾熱することによって、DNAをニトロセルロースに固定した。乾熱したフィルターを6×SSC(1×SSC=150 mM NaCl、15 mMクエン酸[pH 7.0])、1×デンハルツ(Denhart's)溶液(0.2 g/l ポリビニルピロリドン、0.2 g/l BSA、0.2 g/l フィコール400)0.05% ピロリン酸ナトリウム、0.5% SDS、100μg/mlの大腸菌DNAの中で、37℃で3時間プレハイブリダイズさせた。同じ溶液で、SDSを含まない、5'末端のリン酸化によって32P標識した2種類のオリゴヌクレオチド、1〜2×10cpm/mlを含む溶液中で、37℃で18〜24時間ハイブリダイゼーションを行なった(分子生物学最新プロトコール、前掲)。このライブラリーを検索するために用いたオリゴヌクレオチドの配列は、5'-TGTCTGCAGGATGGGGAAAAA-3'(配列番号:1)と5'-CATGAAATGACTCCAGTA-3'(配列番号:2)で、それぞれ、ヒトAFPのコード配列の772から792番目と、1405から1422番目に相当する。フィルターを、6×SSC、0.05% ピロリン酸ナトリウム中、37℃で30分間、2回洗浄し、同じ溶液中、48℃で30分間、1回洗浄した。陽性クローンを同定するために、デュポンクロネックス(Du Pont Cronex Lightning Plus)感光増強スクリーンの上で、乾燥フィルターをコダック(Kodak)XARフィルムに24〜48時間感光させた。陽性クローンを分離、増幅し、サザンブロット解析にかけた(分子生物学最新プロトコール、前掲)。簡単に述べると、精製DNAを、適当な制限酵素で加水分解し、その結果できた断片を1 % アガロースゲルで分離した。次に、このDNAをニトロセルロース膜に移した。ハイブリダイゼーション条件は、上記の2種類のプローブに加えて、ヒトAFPのコード領域の7から24番目を表す3番目の32P標識したオリゴヌクレオチド(5'-CATAGAAATGAATATGGA-3'(配列番号:3))を用いた以外は、上記の条件と同じであった。スクリーニングした3,000コロニーの中から5個の陽性クローンを同定した。以下に述べる構築には、1個のクローンpLHuAFPを用いた。
【0044】
全長ヒトAFP cDNAの構築
ヒトAFPのコード配列の前に翻訳開始コドンを含み、かつ翻訳終止コドンを含む構築物を、以下の5個のDNA断片を用いて作出した。
断片1:2種の脱リン酸化オリゴヌクレオチドをアニール化して、5'末端にEcoRI認識部位の粘着末端を有し、その後ろにATG開始コドン、ヒトAFP cDNAの60 bpまでの配列で、コード配列の60番目に位置するPstI部位を含む配列を有する二本鎖DNA分子を形成させた(この概要において、ヌクレオチドの一番目とは、成熟蛋白質の第一コドン(Thr)の一番目のヌクレオチドのことで、Morinagaら、前掲、の102番目のヌクレオチドに相当する)。この断片をpUC119(pUC19のNdeI部位に、M13の5465番目のHgiA I部位から5941番目のAhaIIまでの遺伝子間領域を挿入したpUC19)にライゲーションして、EcoRIとPstIで直鎖化した。こうしてできたDNAを大腸菌NM522(ニュージャージー州ピスカタウエイ、ファルマシア社)の中で増幅した。組換えプラスミドを制限酵素消化して、EcoRI-PstI挿入物を回収し、5%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動により分離して、ゲルから単離した。
断片2:pLHuAFPをPstIとNsiIで制限酵素消化して、97 bpのヒトAFPのcDNA断片(57番目から153番目)を得、上記のようにしてゲル精製した。このクローンには、ヒトAFPの全コード領域と、5'および3'の非翻訳配列とが含まれる。
断片3:pLHuAFPをNsiIとAlwNIで制限酵素消化して、224 bpのヒトAFPのcDNA断片(150番目から373番目)を得、上記のようにしてゲル精製した。
断片4:pLHuAFPをAlwNIとStyIで制限酵素消化して、1322 bpのヒトAFPのcDNA断片(371番目から1692番目)を得、上記のようにゲル精製した。
断片5:2種の脱リン酸化したオリゴヌクレオチドをアニール化して、ヒトAFP 配列のStyI部位の1693番目から、1773番目で、AFPのコード領域を終わらせるTAA終止コドンまでを含むヒトAFP配列で、その後ろにBamHI粘着部位を有する86 bpの二本鎖DNA分子を形成させた。これ以上の操作は加えずに、この合成DNAを用いた。
【0045】
pBlueScript(カリフォルニア州ラホヤ、ストラタジーン社)を、EcoRIとBamHIとで完全に加水分解して、上記の5種の精製断片を含むライゲーション混合液に加えた。対照用のライゲーション液には直鎖状にしたpBlueScriptのみを加えた。これら2つのライゲーション混合液の一部を用いて、コンピテントセル大腸菌DH5α(ニューヨーク州グランドアイランド、ギブコ(GIBCO)/BRL社)を形質転換した。いくつかの形質転換体から組換えプラスミドを単離して、広範な制限酵素解析とDNA配列決定によってスクリーニングを行なった。組換えプラスミドを一個選びpHuAFPと名付けた。この後、ヒトAFP遺伝子をいくつかの発現ベクターの中に挿入するためにこれを用いた。pHuAFPには、5'端のATG開始コドンと3'末端のTAA終止コドンに加えて、ヒトAFPの完全長のコード配列を含む独特なEcoRI-BamHI断片が含まれる。
【0046】
AFP発現ベクター
異なる3つの発現システムで、大腸菌の中でヒトAFPの高水準の合成がうまく行われた。TRPシステムは、直接発現を行わせる。RX1システムでは、trpEとベクター配列によってコードされる20アミノ酸を含む融合蛋白質が回収される。MALシステムは、malE遺伝子産物に融合されたAFP、すなわち42 kdのマルトース結合蛋白質を発現する。
【0047】
TRP発現システム:AFPをコードする1186 bpの、pHuAFPのEcoRI-BamHI断片を、発現ベクターpTrp4(Olsenら、 J. Biotechnol. 9: 179, 1989)のtrpプロモーターと改変リボソーム結合部位の下流にクローニングした。
簡単に説明すると、pHuAFPをEcoRIとBamHIで制限酵素消化してから、末端をクレノウポリメラーゼでフィリングした。次に、1186 bpのAFP断片をゲル精製した。pTrp4をClaIで制限酵素消化して、末端をクレノウポリメラーゼでフィリングし、直鎖状にしたベクターをゲル精製した。1186 bpのAFP断片とpTrp4のバックボーンを連結させて、以下の菌株のコンピテントな大腸菌を形質転換するのに用いた。すなわち、DH5α、BL21(F.W. Studier, ニューヨーク州アプトン、ブルックヘブン国立研究所(Brookhaven National Laboratory))、SG927(メリーランド州ロックビル、合衆国基準培養株保管所(American Type Culture Collection):寄託番号39627)、SG928(ATCC寄託番号39628)、およびSG935(ATCC寄託番号39623)。
【0048】
RX1発現システム:ヒトAFP cDNAを、発現ベクターpRX1(Rimmら、 Gene 75: 323, 1989)のtrpプロモーターに隣接する、TrpEの翻訳フレームの中にクローニングした。EcoRIとBamHIとで制限酵素消化して、pHuAFPからヒトAFP cDNAを切り出し、適当に処理されたpRX1(カリフォルニア州ハーキュリーズ、バイオラド(BioRad)研究所)の中にクローニングした。そして、pRX1/HuAFPと同定された最終的なプラスミド構築物で、上記の大腸菌株とGAG456(D.W.Cleveland、メリーランド州ボルティモア、ジョンズホプキンズ大学)を形質転換した。
【0049】
MAL発現システム:AFP cDNAを、発現ベクターpMAL(マサチューセッツ州ビバリー、ニューイングランドバイオラブズ社)の中、tacプロモーターの制御下、MalEの翻訳フレームの中に挿入した。簡単に説明すると、pHuAFPをBamHIで加水分解し、クレノウポリメラーゼを用いて末端を平滑化した。EcoRI制限酵素消化によって、ヒトAFPcDNAを残りのプラスミドDNAから解離してからゲル精製した。pMAL-Cを適当に制限酵素消化したものに精製した断片をライゲーションした。正しい方向性を有する組換えプラスミドをpMAL/HuAFPと名付け、大腸菌DH5α、TBI(ニューイングランドバイオラブズ社)およびSG935を形質転換した。
3種類の発現ベクターの構築で用いられたAFPのコード領域の配列を決定したところ、全長AFPをコードしていることが分かった。
【0050】
大腸菌におけるAFPの発現
細菌の培養液を通気しながら30℃または37℃でインキュベートした。大腸菌を一晩培養したものを、必要とされる適当な抗生物質を添加した(テトラサイクリン塩酸は50μg/ml、アンピシリンナトリウムは100μg/ml)LB培地中で増殖させた。
【0051】
TRPおよびRX1発現システム:トリプトファン欠乏条件下でtrpプロモーターが誘導される。以下のようにして調製されたM9CA培地の中で誘導が行われた。すなわち、カザミノ酸1g(ミシガン州デトロイト、ディフコ研究所)、NaHPO 6g、KHPO 3g、NaCl 0.5 g、NHCl 1 gを1リットルのミリQ(milli-Q)水(マサチューセッツ州ベドフォード、ミリポア社)に加え、pHを7.4に調整して、オートクレーブした。冷却した培地は、2 mM MgSO、0.1 mM CaCl、0.2%グルコースに調製される。一晩培養した培養液を、抗生物質を添加したM9CAで100倍に希釈した後、A550が0.4になるまで30℃で細胞を増殖させ、遠心分離をして回収し、沈殿物の状態で-20℃で保存した。
【0052】
MAL発現システム:tacプロモーターは、インデュサーであるIPTGによって誘導された。一晩培養した培養液を、抗生物質を添加したLB培地で100倍に希釈して、A550が0.4になるまで37℃で細胞を増殖させた。そして、最終濃度が0.3 mMになるようにIPTGを加え、さらに2時間細菌をインキュベートした。次に、遠心分離によって細胞を回収し、沈殿物の状態で-20℃で保存した。
【0053】
大腸菌で発現されたAFPの検出
組換えAFPの発現と作用を判定するために、解析的な研究を行なった。細胞沈殿物をSDS-溶解液(0.16 Mトリス塩酸[pH 6.8], 4% w/v SDS, 0.2 M DTT, 20% グリセロール, 0.02% ブロモフェノールブルー)に懸濁するか、5分間ボイルして、SDS-PAGEによる解析に用いるか、10 mM NaHPO, 30 mM NaCl, 0.25 % トウィーン(Tween)20, 10 mM EDTA, 10 mM EGTAを含む溶解バッファーに懸濁し、1 mg/mlのリゾチームとともに、4℃で30分間インキュベートしてから、50%出力、3×1分間のパルスモード(コネティカット州ダンベリー、ソニック・アンド・マテリアル社、VC300型超音波発生器)で超音波破砕を行なった。破砕物を、10,000 gで20分間遠心分離し、可溶性蛋白質を含む上清を静かに試験管へ注ぎ入れ、使用時まで-20℃で凍結しておいた。不溶性蛋白質を含む沈殿物は、SDS-溶解バッファーに懸濁し、5分間ボイルしてから、使用時まで-20℃で保存した。SDS-溶解バッファー中に解離された全蛋白質と、可溶性分画および沈殿物分画を、SDS-PAGEと、ウエスタンブロットで移した後の免疫学的検出法によって解析した。これらの実験では、クマシーブルー染色したゲルは、通常の手順としてビデオデンシトメータ(video densitometer)(バイオラド社、620型)でスキャンした。これによって、産生された組換えAFPの量を、全細胞内蛋白質に対する割合として評価することができた。
【0054】
TRPシステムで発現されたAFPの精製
特に記載のない限り、すべての実験は4℃で行われた。培養液1リットルから採集した細胞を沈殿させて凍結したものを、25 mlの溶解バッファーA(50 mMトリス塩酸[pH 7.5], 20 %蔗糖、100μg/mlリゾチーム、10μg/ml PMSF)に再懸濁して10分間インキュベートした。EDTAを最終濃度35 mMになるように加えて、抽出物をさらに10分間そのままの状態に置いた。25 mlの溶解バッファーB(50 mMトリス塩酸[pH 7.5], 25 mM EDTA、0.2% トライトン(Triton)X-100)を加えてから、溶解物をさらに30分間インキュベートした。細胞溶解物を12,000 gで20分間遠心分離し、組換えAFPを含む沈澱を、50 mlの洗浄バッファー(50 mMトリス塩酸[pH 8.0], 10 mM EDTA、0.2%トライトン(Triton)X-100)で2回洗浄し、洗浄する度に上記の遠心分離を行った。この沈殿物を50 mlの変性バッファー(0.1 M KHPO[pH 8.5], 6 M グアニジン塩酸、0.1 M 2-メルカプトエタノール)に溶解して、超音波破砕し、ニューテーター(Nutator)(クレイアダムス社)の上で4時間混合した。可溶化した抽出物を、50 mMトリス塩酸、100 mM NaCl、1 mM EDTAで50倍に希釈してから、組換えAFP蛋白質を復元させるために24時間おいた。希釈する前、AFPは微小な集塊になっていると考えられるため、この50倍希釈の段階は重要である。希釈と再濃縮を行なえば、AFPは集塊にならない。アミコン(Amicon)濾過ユニットを用いて、YM10メンブレン上で、この溶液を100倍に濃縮し、ミレックス(Millex)0.22μmのメンブレンフィルター(ミリポア社)に通して不純物を除去した。組換えAFPは、さらに、20 mMトリス塩酸[pH 8.0]で平衡化したモノQ(Mono Q)カラム(ファルマシア社)にかけ、結合した蛋白質を、0〜100%の1 M NaCl, 20 mMトリス塩酸(pH 8.0)の直線勾配を用いて室温下で精製した。画分を、SDS-PAGE、APAGE、および、ウエスタンブロッティングによって解析した。
ポリペプチド発現および精製に関するこれらの一般的技術は、また、有用なヒトα-フェトプロテイン断片またはアナログを産生させ、単離するためにも用いることができる(後述)。
【0055】
ポリアクリルアミドゲル電気泳動およびウエスタン免疫検出法
ミニプロティーン(mini-Protean)電気泳動装置(バイオラド社)を用いて、ヘイムズら(Hamesら)(「蛋白質のゲル電気泳動:実用研究(Gel Electrophoresis of Proteins: A Practical Approach)」、ロンドン、IRL出版、1981)に従って、不連続バッファーシステムにおけるSDS-PAGEとアルカリPAGEとを行なった。SDS-PAGEまたはAPAGEを行なった後、トランスファー緩衝液(12.5 mMトリス塩酸、96 mMグリシン、20% メタノール[pH 8.2])に15分間浸すことによって、組換えヒトAFPの免疫学的検出を行なった。それぞれのゲルは、イモビロン(Immobilon)PVDF膜(ミリポア社)と重ねて、ミニプロティーン(mini-Protean)トランスファー装置(バイオラド社)の二つの電極の間に、ただし、ゲルが陰極側になるようにはさんだ。このシステムをトランスファー緩衝液に浸し、150 mAの電流を2時間通電した。イモビロンPVDF膜の非反応部分を20 mMトリス塩酸(pH 7.5)、500 mM NaCl、3 %ゼラチンで1時間ブロッキングした。 ウサギ抗-ヒトAFP抗血清と、アルカリフォスファターゼに結合したヤギ抗-ウサギIgG抗体(バイオラド社)を、それぞれ一次および二次抗体として用いた。5-ブロム-4-クロロ-3-インドリルリン酸とp-ニトロブルーテトラゾリウム(バイオラド社)を用いて、アルカリフォスファターゼ活性を検出した。
【0056】
AFP発現の定量
ヒトAFP ELISAキット(イリノイ州シカゴ、アボット研究所)を用いて、組換えヒトAFPを定量した。
銀染色ゲルを調べて、AFPの収量を評価した。Trp発現システムを利用する、AFPをコードするプラスミドを用いてSG935細胞を形質転換すると、AFPが大腸菌の全細胞内蛋白質の2から5%を占めることになる(1リットルの培養液当たり約3〜7 mg)。上述したように、最初の抽出物におけるAFPの大部分は不溶性である。上述の再可溶化処理によって、安定した半精製状態の単量体AFPを50〜60%(おおよその収量は50 mg/ 20 lの大腸菌)回収できるようになる。これをさらに精製すると、純粋な単量体AFPを25 mg回収できる。
【0057】
N末端解析
配列が最適になるよう、統合的に特製された微穿孔HPLCを用いたポートン(Porton)蛋白質/ペプチドガス相マイクロシークエンサーを用いて、自動式エドマン分解を行なった。蛋白質の配列解析には、PC/ジーンソフトウエアパッケージ(インテリジェネティクス社)の中のプログラムから選択したプログラムの助けを借りた。
【0058】
バキュロウイルス発現系を用いた、HuAFPのクローニング、発現および精製
当業者に公知の標準的な方法を用いて(例えば、米国特許第4,745,051号)、HuAFP(またはその断片またはアナログ)を発現する組換えバキュロウイルスを構築する。一般的に、このプロセスには2つの段階が含まれる。発現されるべき遺伝子、例えば、rHuAFP、または、その断片またはアナログ(後述する)を、まず、プラスミド移行ベクターの中、バキュロウイルスDNAの非必須遺伝子座、例えば、ポリヘドリン遺伝子に由来するDNAに隣接するバキュロウイルスプロモーターの下流にクローニングする。次に、このプラスミドを、相同的組換えが起きるように、環状の野生型ゲノムDNAと一緒に昆虫細胞に導入する。この結果できた組換え体の後代を、例えば、非組換え親系統から切り離された組換えウイルスを精製するための連続プラーク解析法を用いてスクリーニングする。また、蛋白質を発現させるために充分な量のウイルスを得るためには、ウイルスを増幅することが一般的に必要である。当業者に周知の標準的な方法を用いて、組換えウイルスをプラーク精製して、DNA構造を確認する。
【0059】
EcoRI/BamHIによって、プラスミドpI18からrHuAFPのcDNA断片を分離し、後述するように、ジーンクリーン(Geneclean)を用いて精製した。プラスミドpVT-PLacZを用いて、バキュロウイルスにおけるHuAFP cDNAのクローニングと発現が行なわれた。昆虫由来のメリチン(melittin)のシグナルペプチド配列の3'末端にインフレームで、プラスミドpVT-PLacZ(図7)の中にヒトAFP cDNAをクローニングした。ポリクローニング部位を、5'方向と3'方向にEcoRIとBamHI制限酵素部位を有するオリゴヌクレオチド5'-GATCTAGAATTCGGATCCGGT-3'(配列番号:21)とその相補鎖で置換して、メリチンシグナルペプチド切断部位とAFP cDNA挿入配列の位置との間にある非AFPコードヌクレオチドの数がEcoRI制限酵素部位配列で減少するように、バキュロウイルスベクターpVT-PLacZを改変した。そして、この挿入配列を改変pVT-PLacZベクターに、EcoRIとBamHIDNA配列のところでライゲーションした。
【0060】
標準的な技術に従って、rHuAFPをコードする配列を含む組換えバキュロウイルスを作成した。これにより、pVT-PLacZ移行ベクターと野生型バキュロウイルスとで同時形質転換して、その後、プラーク精製を2回行なって、rHuAFPのコード配列を含む精製組換えバキュロウイルスを作成した。500 mlのスピナーフラスコに1×10細胞/mlの密度で入れたSf9昆虫細胞を、グレース(Grace)無血清培地の中、感染多重度5で、組換えバキュロウイルスを感染させた。分泌rHuAFPを含む上清を回収し、200×gで遠心分離して、細胞を除去した。rHuAFPを含む培地を、YM30アミコンメンブレンを用いた限外濾過によって10〜20倍に濃縮し、PBSに対して一晩透析してから、コン A(Con A)レクチンカラム(ファルマシア社)にかけた。結合したrHuAFPを、0.4 Mメチルα-Dマンノピラノシドで溶出し、20 mMリン酸バッファー(pH 8.0)中、0〜100%1 M NaClの直線勾配にあるモノQ(Mono Q)レシンからの溶出によって精製した。当業者に周知の方法によって組換えHuAFPの特徴を調べた。
【0061】
本発明者は、バキュロウイルスがrHuAFPを産生し、Sf9昆虫細胞によって無血清培地の中に分泌される全蛋白質の約20%を占めるのを発見した。また、非還元アルカリPAGEによって解析したところ、このAFPは単量体であることが分かった。バキュロウイルス由来のHuAFPの大部分が固定化Con Aに結合した。これによって、レクチンカラムに付着しない、不純な蛋白質の90%以上が効果的に除去できた。モノQビーズから、270〜310 mM NaClで蛋白質を抽出して、バキュロウイルス由来のrAFP調製物の最終精製を行ない、約68 kDの見かけ分子量を有する一種類のポリペプチドを回収した。培養培地1リットル当たり1mg以上の精製蛋白質が得られた。
【0062】
バキュロウイルス由来のrHuAFPの分子量は、天然のヒトの分子と同じである(図4B)。Con Aカラムにバキュロウイルス由来のrHuAFPが結合し、大腸菌由来のrHuAFPが付着しないことが観察されたことに加えて、この発見は、バキュロウイルス由来のrHuAFPがグリコシル化されていることを示している。しかし、組換えバキュロウイルスで形質転換されたSf9細胞は、高等真核生物由来の蛋白質で通常観察される複雑なグリコシル化を行なう能力に欠けていることが報告されているため、BrAFPのグリコシル化の程度は天然の分子ほどではないと思われる。APAGEとSDS-PAGEの単一バンド(図4Aおよび4B)と、図4Cおよび4Dそれぞれに示されたFPLCとHPLCクロマトグラフィーの全ピークによって、単離されたバキュロウイルス由来のrHuAFPの精製度が明らかにされた。さらに、N末端に配列によって、精製rHuAFPの同一性を確認した。rHuAFPのN末端配列は以下の通り、すなわち、Asp-Leu-Glu-Phe-Met-Thr-Leu-His-Arg-Asn(配列番号:22)である。組換えバキュロウイルスで形質転換したSf9細胞から採った無血清上清をウエスタンブロット解析したところ、単一特異性抗HuAFP抗体によって単一の免疫反応バンドを検出した。このバンドは、非形質転換Sf9細胞と野生型ウイルスで形質転換されたSf9細胞では検出されなかった。
【0063】
当業者において公知の方法によって、バキュロウイルスが産生したHuAFPの生物学的活性を評価するための実験を行なった。例えば、バキュロウイルスが産生したHuAFPの、100μg/mlでの免疫抑制活性を、上述したように、ヒトAMLRを抑制する能力によって評価した。図5および6Aに示したように、バキュロウイルス由来のrHuAFPは、144時間目に自己性非T細胞によって刺激を受ける自己反応性リンパ球の増殖応答を阻害した。ヒト血清アルブミンを同一量加えても、リンパ増殖応答を減少させることはできなかった。
【0064】
rHuAFPが、自己増殖するT細胞の阻害に関係する基質であることを明らかにするために、市販のマウス抗ヒトAFPモノクローナル抗体(Mab)を用いて、rHuAFPが介在するAMLR抑制を阻害した。図5に示されているように、100μg/mlの大腸菌由来およびバキュロウイルス由来のrHuAFPによる、増殖している自己反応性T細胞の抑制は、抗HuAFP Mabによって完全に阻害された。100μg/mlのHSAを添加してもAMLR応答は低下せず、反応培養液の中にMabだけを入れても、何の効果もなかった。
【0065】
さらに、2 mg/mlの精製ヒトアルブミン(オンタリオ州ミシソーガ、ICN社)のみを添加したRPMI組織培養培地において、マイトジェンで誘導された末梢血リンパ球(PBL)の増殖を抑制する、rHuAFPの生物学的活性を調べた。表II(下記)および図6Bに示されているように、100μg/mlのrHuAFPによって、ConAで刺激されるPBLsの抑制が起きたが、同濃度のアルブミンでは効果がなかった。
【0066】
標準的な方法、例えば、本明細書において説明されている方法のいずれかによって、上述のバキュロウイルス配列システムを用いて、別のHuAFP(例えば、rHuAFP(アミノ酸1(Thr)〜590(Val);配列番号:5);ドメインI(アミノ酸1(Thr)〜197(Ser);配列番号:6);ドメインII(アミノ酸198(Ser)〜389(Ser);配列番号:7);ドメインIII(アミノ酸390(Gln)〜590(Val);配列番号:8);ドメインI+II(アミノ酸1(Thr)〜389(Ser);配列番号:9);ドメインII+III(アミノ酸198(Ser)〜590(Val);配列番号:10);rHuAFP断片I(アミノ酸266(Met)〜590(Val);配列番号:11))を産生することができる。
【0067】
稼働している一つの実施例において、pVT-PLaczの構築において中間ベクターであるpVT-P10にHuAFPのcDNAを挿入して、pVT-PLacz/HuAFP(アミノ酸1〜590)を構築する(リチャードソンら(Richardsonら、 (1992)、バキュロウイルス発現システムを用いた分泌糖蛋白質の作出、スイス、バーゼル、ロシュ出版、J.M. Viak, E.-J. Schlaeger, and A. R. Bernard編、バキュロウイルスと組換え蛋白質産生法pp.67〜73より)。pVT-P10ベクターをBamHIで制限酵素消化してから、マングビーン・ヌクレアーゼを入れてインキュベートする(オンタリオ州ミシソーガ、ニューイングランドバイオラブ社)。次に、HuAFP cDNAの方向性をもたせたクローニングを容易にするために、このベクターの平滑末端化されたBamHI部位の下流をEcoRIでさらに加水分解する。アミノ酸1〜590をコードするrHuAFP cDNAを、以下のオリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCR増幅によって得る:Xho1部位を含む(5'-AAAAAACTCGAGATACACTGCATAGAAATGAA-3';配列番号:23)と、EcoRI部位を含む(5'-AAAAAAGAATTCTTAAACTCCCAAAGCAGCACG-3';配列番号:24)、および、HuAFPをコードする領域を含む鋳型DNAとしてのプラスミドpl18。PCR反応を標準的な方法によって行なう、例えば、34μLのH2O、10μLの10×反応バッファー、20μLのdNTP、2μLの鋳型DNA、10μLの10 pmol/μL 5'プライマー、10μLの10 pmol/μL 3'プライマー、1μLのグリセロール、10μLのDMSO、1μLのPfuポリメラーゼを含む反応混合液の中などで行なう。アニール化、伸長および変性温度も、例えば、それぞれ、50℃、72℃、94℃という標準的な条件にしたがって行われ、ジーンアンプPCRシステム9600(パーキンエルマーシータス社)を用いて30サイクル行なわれる。ジーンクリーン(Geneclean)キット(カリフォルニア州ラホヤ、バイオII社)を用いて、PCR反応から得られたDNAを精製する。rHuAFP cDNA断片を、まず、Xho1で消化してから、マングビーンヌクレアーゼで処理する。次に、HuAFP cDNAをEcoRIで制限酵素消化して、pVT-10への方向性をもたせたクローニングを容易にする。PCRで産生されたrHuAFP cDNAを、平滑末端化された5'側BamHI部位と、3'側EcoRI部位にライゲーションする。SV40由来で、3'末端にポリA付加部位を含むβ-ガラクトシダーゼ遺伝子を、制限酵素BamHIを用いて、ベクターpJV-Nhe1(Vialardら、(1990)、β-ガラクトシダーゼ遺伝子を有する、新しいバキュロウイルスベクターを用いた、麻疹ウイルスの膜融合および赤血球凝集素蛋白質の合成、J. Virology 64: 37〜50)から単離した後、親和性のあるBglII部位に挿入して、最終構築物、すなわち、pVT-PLacz/HuAFP(アミノ酸1〜590を含む)を作出する。そして、この構築物をrHuAFP(アミノ酸1〜590)を発現させるために用いる。
【0068】
断片およびアナログ
本発明は、rHuAFPの生物学的に活性のある断片を包含する。rHuAFPの生物学的に活性のある断片とは、以下の活性の一つ以上を有するものである。すなわち、(a)例えば、rHuAFPによって認識されるレセプター(例えば、MCF-7や骨髄細胞などの癌細胞の膜)を発現している細胞に結合するなど、標的細胞との特異的な相互作用を行わせる;(b)新生組織や自己反応性免疫細胞の増殖を停止、抑制または阻害する(例えば、細胞表面レセプターに結合して、抗増殖シグナルを伝える);骨髄細胞などの細胞増殖を刺激、上昇、展開するか、または、その他の方法で細胞増殖をもたらす(例えば、細胞表面レセプターに増殖または刺激シグナルを結合させる);または、免疫病理学的抗体反応を遮断、阻害または妨害する。rHuAFP断片またはアナログの、rHuAFPによって認識されるレセプターに結合する能力は、当業者に公知の標準的な結合解析法を用いて調べることができる。このような断片およびアナログの生物学的活性を、当業において既知の方法(例えば、本明細書において説明されている方法)によって調べる。
【0069】
一般的に、前述したポリペプチド発現と精製の技術にしたがって、rHuAFPの断片が作成される。例えば、適当な発現媒体の中の、HuAFPをコードするcDNA断片(例えば、上述のcDNA)の一部を用いて、適当な宿主細菌細胞を形質転換することによって、rHuAFPの適当な断片を作出することができる。または、このような断片は、PCRの標準的な技術によって作成することができ、発現ベクターにクローニングすることができる(前掲)。また、化学合成によって(例えば、イリノイ州ロックフォード、ピアス化学会社、固相ペプチド合成、第二版、1984、において述べられている方法によって)断片を作成することもできる。したがって、rHuAFPの断片が発現しさえすれば、当業者に公知のさまざまなクロマトグラフィー的および/または免疫学的方法によってrHuAFPの断片を単離することができる。アフィニティークロマトグラフィーを行なう前に、標準的な方法によって、rHuAFPを含む細胞の溶解と分画を行なってもよい。rHuAFPの候補断片がα-フェトプロテインの生物活性を示す能力を、当業者に公知の方法(例えば、本明細書で説明されている方法)によって評価する。
【0070】
上述のように、rHuAFP断片を、大腸菌において産生されるマルトース結合蛋白質との融合蛋白質として発現させてもよい。マルトース結合蛋白質融合および精製システム(マサチューセッツ州ビバリー、ニューイングランドバイオラブズ社)を用いて、クローン化されたヒトのcDNA配列を、マルトース結合蛋白質(MalE)をコードする遺伝子の下流にインフレームで挿入することができ、MalE融合蛋白質を過剰発現させることができる。ヒトcDNAに都合のよい制限酵素部位がないときには、ベクターの中にcDNA断片を挿入するのが容易になるよう、cDNA断片の5'および3'末端にベクターと親和性のある制限酵素部位を導入するためにPCRを用いることができる。融合蛋白質を発現させた後、アフィニティークロマトグラフィーによって精製することができる。例えば、この融合蛋白質のマルトース結合蛋白質部位は、カラムに固定されたアミロースに結合できるため、融合蛋白質を精製することができる。
【0071】
蛋白質精製を容易にするため、pMalEプラスミドは、cDNAがベクターに挿入された部位の上流にファクターXa切断部位を含んでいる。このため、上記のようにして精製された融合蛋白質をファクターXaで切断して、マルトース結合蛋白質と組換えヒトcDNA遺伝子産物の断片とを分離することができる。切断した産物は、さらに、マルトース結合蛋白質からrHuAFPを精製するためにクロマトグラフィーにかけることができる。または、rHuAFPの断片をポリヒスチジンのタグを有する融合蛋白質として発現させることもできる。そして、ポリヒスチジン領域に高い親和性をもって結合するニッケル部位を有するアフィニティーカラムに対して結合するポリヒスチジンのタグによって、このようなα-フェトプロテインの融合蛋白質を単離することができる。次に、アフィニティーカラムの中でpHを変化させて、この融合蛋白質を溶出してもよい。特異的なプロテアーゼで融合蛋白質を切断して、得られた融合蛋白質の中に存在するポリヒスチジン配列からrHuAFPを解離することができる。
【0072】
組換えHuAFP断片の発現産物(例えば、上述の原核生物のシステムのいずれかによって産生されたもの)は、ウエスタンブロット、組換え細胞抽出物の免疫沈降解析、または、蛍光抗体法(例えば、Ausubelら編、分子生物学最新プロトコール、グリーン出版連合およびウィリーインターサイエンス(ジョンウイリー・アンド・サン)社、ニューヨーク、1994、を用いて)などの免疫学的方法によって測定してもよい。
【0073】
必要であれば、周知の方法を用い(コリガン(Coligan)ら編、免疫学の最新プロトコール、1992、、グリーン出版連合およびウィリーインターサイエンス社)、精製した組換え遺伝子産物、または、その断片を用いて、ヒトの組換えα-フェトプロテインに対するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を作成することができる。モノクローナル抗体を作成するために、組換え蛋白質でマウスを免疫することができ、抗体分泌B細胞を分離して、非分泌ミエローマ細胞融合パートナーで不死化することができる。そして、ヒトα-フェトプロテイン(またはその断片またはアナログ)特異的な抗体産生に関して、ハイブリドーマをスクリーニングして、モノクローナル抗体を産生する均一な細胞集団を得るためにクローン化する。
【0074】
本明細書において用いられる「断片」という語は、rHuAFPポリペプチドに用いられるときは、好ましくは20個以上の連続したアミノ酸で、好ましくは50個以上の連続したアミノ酸、より好ましくは、200個以上から400個、または、それよりも長い連続したアミノ酸である。当業者に公知の方法、例えば、蛋白質分解的切断または組換えペプチドの発現、または、正常な蛋白質のプロセッシングの結果(例えば、生成したポリペプチドから生物学的活性に必要でないアミノ酸を除去すること)によって、rHuAFP分子の断片を作成することができる。
【0075】
目的の組換えHuAFP断片には、ドメインI(アミノ酸1(Thr)〜197(Ser)、図1参照、配列番号:6)、ドメインII(アミノ酸198(Ser)〜389(Ser)、図1参照、配列番号:7)、ドメインIII(アミノ酸390(Gln)〜590(Val)、図1参照、配列番号:8)、ドメインI+II(アミノ酸1(Thr)〜389(Ser)、図1参照、配列番号:9)、ドメインII+III(アミノ酸198(Ser)〜590(Val)、図1参照、配列番号:10)、および、rHuAFP断片I(アミノ酸266(Met)〜590(Val)、図1参照、配列番号:11)が含まれるが、これらに限定はされない。断片の活性は、例えば、本明細書で説明されている解析法などの、従来からの技術または解析法を用いて実験的に評価される。
【0076】
本発明は、さらに、全長のrHuAFPまたはその断片のアナログを含む。アナログは、アミノ酸配列の差異、または、配列とは関係のない修飾(例えば、翻訳後修飾)、または、その両方によってrHuAFPとは異なっている。本発明に係るアナログは、rHuAFPのアミノ酸配列の全部または一部と、一般的に80%、より好ましくは85%、最も好ましくは90%、さらに99%のアミノ酸同一性を示す。修飾(これは通常一次配列は変えない)には、インビボまたはインビトロにおける、ポリペプチドの化学誘導、例えば、アセチル化、またはカルボキシル化が含まれるが、このような修飾は、ポリペプチドの合成またはプロセッシングの過程や、単離された修飾酵素で処理した後に起こりうる。また、アナログは、例えば、アミノ酸を類似の性質を有する別のアミノ酸で置き換えたり(例えば、バリンをグリシンで、アルギニンをリシンで置き換えるなど)、生物学的活性を失わせることなく一個以上のアミノ酸を非保存的に置換、欠失または挿入することによって、一次配列を変えている点で、自然界に存在するrHuAFPと異なっている。これらには、自然に生じた変異体と、誘導された遺伝的変異体(例えば、放射線照射によるランダムな突然変異誘発やエタンメチル硫酸への被曝によって、または、サムブルック(Sambrook)らの「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning:Laboratory Manual)」、第二版、コールドスプリングハーバー出版、1989、または、Ausubelら、前掲において説明されているような部位特異的突然変異誘発によって生じたもの)とが含まれる。環状化されたペプチド分子や、L-アミノ酸以外の残基、例えば、D-アミノ酸、または、例えば、βもしくはγアミノ酸など、自然界には存在しないか、合成されたアミノ酸、または、自然には存在しない側鎖をもったL-アミノ酸(例えば、ノレン(Noren)ら、Science 244: 182, 1989参照)を有するアナログも含まれる。非天然アミノ酸を蛋白質の蛋白質基軸に部位特異的に取り込ませるための方法は、例えば、「エルマン(Ellman)ら、Science 255: 197, 1989」において述べられている。化学的に合成されたポリペプチドや、修飾されたペプチド結合(例えば、米国特許第4,897,445号および米国特許第5,059,653号で説明されているような非ペプチド結合)を有するペプチド、または、本明細書で説明されているような、望ましい薬剤特性を得るための修飾側鎖も含まれる。
【0077】
免疫抑制剤としての組換えHuAFP
インビボまたはインビトロにおける免疫制御活性を解析するための標準的な解析法によって、rHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)の免疫抑制特性を評価する。後に検討するように、本技術は、rHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)の、自己免疫疾患、例えば、非肥満性糖尿病(NOD)マウスに対する免疫抑制特性をインビボで調べるための多くの動物システムを提供する。さらに、さまざまなインビトロシステムを利用して、例えば、このようなインビトロ解析法の一つには、自己混合リンパ球反応(AMLR)における、自己抗原によって誘発されるT細胞増殖の阻害を評価するものなどがあるが、これを利用して、rHuAFPの免疫抑制的側面を調べることもできる。
【0078】
以下の実施例では、グリコシル化されていないrHuAFPと、rHuAFPの断片が、自己抗原に対する応答において、T細胞の自己増殖を阻害することが明らかにされている。これらの実施例は、本発明を例示するために提供されており、本発明を制限するものではない。
【0079】
実験
材料および方法
ゲル電気泳動、イムノブロッティングおよび精製
rHuAFPの精製および特徴決定を、常法によるドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)および非変性アルカリPAGEによって評価した。続いて、ゲルを、クーマシーブリリアントブルーを用いて染色するか、または電気泳動で分離したポリペプチドをイムノブロッティング分析のためのイモビロンPVDFメンブラン(Immobilon PVDF menbrane)(ミリポア(Millipore)、ミシソーガ(Mississauga)、オンタリオ州)に転写することによって分析した。組換えHuAFP−単特異性ウサギ抗天然HuAFPポリクローナル抗体複合体を、アルカリホスファターゼ結合ヤギ抗ウサギIgGによって同定し、免疫反応性を有するバンドを製品説明書に従い、BCI/NBT発色溶液(バイオラド・ラボラトリーズ(Bio-Rad Laboratories)、ミシソーガ、オンタリオ州)を用いて検出した。
カラムクロマトグラフィーは常法に従い行った。
【0080】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)rHuAFP断片
ヒトアルファ−フェトプロテインの断片をコードするプラスミド構築物を、分子生物学の技術分野に属する者にとっては公知のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法により、ヒトアルファ−フェトプロテイン遺伝子に特異的な部分を増幅させるように設計されたオリゴヌクレオチドプライマーを用いて調製した(例えば、PCR法(PCR Technology)、H. A. Erlich編、ストックトン・プレス(Stockton Press)、ニューヨーク、1989年;PCRプロトコル:方法および応用の手引き(PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications)、M. A. Innis、David H. Gelfand、John J. Sninsky、およびThomas J. White編、アカデミック・プレス社(Academic Press, Inc.)、ニューヨーク、1990年;およびAusubelら、前記、参照)。
【0081】
次の6つのrHuAFP断片を、その生物活性を評価するために調製した(例えばこの明細書で開示した方法により)。
ドメインI アミノ酸1(Thr)〜197(Ser)、(図1、配列番号:6)
ドメインII アミノ酸198(Ser)〜389(Ser)、(図1、配列番号:7)
ドメインIII アミノ酸390(Gln)〜590(Val)、(図1、配列番号:8)
ドメインI+II アミノ酸1(Thr)〜389(Ser)、(図1、配列番号:9)
ドメインII+III アミノ酸198(Ser)〜590(Val)、(図1、配列番号:10)
rHuAFP断片I アミノ酸266(Met)〜590(Val)、(図1、配列番号:11)
アミノ酸配列はヒトアルファ−フェトプロテイン(図1に示された1(Thy)〜590(Val);配列番号:5)について示された配列から推定した。ドメインI、ドメインII、ドメインIII、ドメインI+II、ドメインII+IIIおよびrHuAFP断片Iの断片は、標準的なPCR反応条件で、34μLのHO、10μLの10×反応緩衝液、20μLの1mM dNTP、2μLのDNA鋳型(pI18中にクローニングしたHuAFP)、適当な5'オリゴヌクレオチドプライマーおよび3'オリゴヌクレオチドプライマー(10μLの10pモル/μL 5'プライマー、10μLの10pモル/μL 3'プライマー)、1μLのグリセロール、10μLのDMSO、および1μLのPfuポリメラーゼ(ストラタジーン(Stratagene)、ラホラ(LaJolla)、カリフォルニア州)を含む100μLの反応溶液中で合成した。PCR増幅に用いたプライマーは、
DomI25 (配列番号:14)
DomI3 (配列番号:15)
DomII5 (配列番号:16)
DomII3 (配列番号:17)
DomIII5 (配列番号:18)
DomIII3 (配列番号:19)
5'rHuAFP断片I (配列番号:20)
であった。したがってプライマー対、DomI25とDomI3、DomII5とDomII3、DomIII5とDomIII3、5'rHuAFP断片IとDomIII3、DomI25とDomII3、およびDomII5とDomIII3は、それぞれrHuAFPのドメインI、ドメインII、ドメインIII、rHuAFP断片I、ドメインI+II、およびドメインII+IIIのcDNA配列を単離するために用いた。アニール化、鎖伸長、および変性の温度はそれぞれ50℃、72℃、および94℃で、30サイクル行った。PCR産物は常法にしたがって精製した。ドメインIおよびドメインI+IIをコードする精製されたPCR産物は、KpnIおよびBamHIを用いて別個に消化し、KpnI/BamHI処理したpTrp4に別々にクローニングした。ドメインII、ドメインIII、ドメインII+IIIおよびrHuAFP断片Iをコードする精製されたPCR産物は、Bsp106IおよびBamHIを用いて別個に消化し、Bsp106I/BamHI処理したpTrp4に別々にクローニングした。それぞれのプラスミド構築物は続いて、コンピテント大腸菌細胞に形質転換した。この発現産物は翻訳開始シグナルのメチオニンによってコードされたアミノ酸配列で開始されると考えられるため、このようなシグナルは除去されるか、またはいずれにしても最終的な発現産物の生物活性に影響を与えることはないと考えられる。
【0082】
自己混合リンパ球反応(AMLR)
ヒトの末梢血単核細胞(PBMC)の単離、非T細胞群への分画、およびAMLRは常法にしたがって行った。市販のIg−抗Igアフィニティカラム(バイオテック・ラボラトリーズ(Biotek Laboratories))に1.5×10個のPMBCを通過させることによって応答T細胞を単離し、続いて2×10個のその応答細胞を、1人のドナーから得られた137Cを照射(2500ラド)した2×10個の自己非T刺激細胞とともに培養した。用いた培地は、20mMのHEPES(ギブコ(Gibco))、5×10−5Mの2-メルカプトエタノール(BDH、モントリオール、ケベック州)、4mMのL-グルタミン(ギブコ)、100U/mlのペニシリン(ギブコ)および100μg/mlのストレプトマイシン硫酸を補充したRPMI-1640に、AMLRのための応答T細胞ドナーに対して自己の10%の新鮮なヒト血清が添加されているものであった。さまざまな濃度の精製したrHuAFP、ヒト血清アルブミン(HSA)、抗HuAFPモノクローナル抗体クローン#164(培養液中の最終濃度が125μg/ml)(レインコ・テクノロジーズ(Leinco Technologies)、セントルイス、ミズーリ州)を培養の開始時に添加した。AMLR培養物を4〜7日間、95%の空気と5%のCO中で37℃にてインキュベートした。指示された間隔で、DNA合成について、1μCiのH-チミジン(56〜80Ci/mmolの特異的活性、ICN)を用いて6時間パルスすることによって分析した。その培養物をマルチプルサンプル採集器(スカトロン(Skatron)、スターリン、バージニア州)を用いて採集し、H-TdRの取り込みをパッカード2500TR液体シンチレーションカウンターで測定した。結果は、3回培養または4回培養の平均cpm±標準偏差で表した。
【0083】
末梢血リンパ球(PBL)分析
正常ドナーから得られるヘパリン処理した血液をPBSを用いて1:1で希釈し、フィコール−ハイパック(シグマ(Sigma)、セントルイス、ミズーリ州)で密度遠心分離することによって赤血球細胞よりヒト末梢血リンパ球(PBL)を分離した。それらをPBSを用いて少なくとも3回洗浄し、トリパンブルー排除法によって細胞の生存能力について明らかにした。ヒトPBL(2.5×105細胞)を常法にしたがって培養した。結果は、3回培養の平均cpmチミジン取り込み±SEMで表した。
【0084】
結果
発現および精製
大腸菌で発現したrHuAFP単離物の純度は、クーマシー染色したAPAGEとSDS-PAGE上に現れる単一のバンドとして証明され、それらは図1A〜1Bにそれぞれ示されている。大腸菌由来の可溶性モノマーrHuAFPは、Q-セファロースクロマトグラフィーを用いてrHuAFPを含むタンパク質画分を溶出することによって得られた。細菌培養液1リットルあたり約1mgの純粋なrHuAFPが、220〜230mMのNaClを用いるFPLCモノQ陰イオン交換を行うことによって単一の均質なピークとして回収され、それはSDS-PAGE上では約65kDで移動した(図1B参照)。組換えHuAFPはSDS-PAGEにおいて天然のHuAFPよりも低分子量を示すが、これは、原核生物の発現系にはタンパク質のグリコシル化に必要な酵素機構が存在しないためである。FPLCおよびHPLCで再クロマトグラフィーした純粋なrHuAFPの試料では、図1Cおよび1Dに示されているような単一のピークが得られ、これによってrHuAFP調製物の純度が確認された。さらにN-末端配列のデータは、rHuAFPのN-末端にあると予測されるアミノ酸配列に対応していた。
【0085】
また、rHuAFPをコードする発現プラスミドを含む大腸菌を、前記に記載したように培養した。図2(レーンD)は、精製後のrHuAFP断片IについてのSDS-PAGEの様相を示している。N-末端アミノ酸配列の分析によって、rHuAFP断片Iが、開始メチオニンが細胞内で開裂しているrHuAFP断片I(図1、配列番号:11を参照)で予測されるN-末端アミノ酸配列に対応するアミノ酸配列、Ser267-Tyr-Ile-Cys-Ser-Gln-Gln-Asp-Thr275(配列番号:13)を所有していることが示された。
【0086】
自己混合リンパ球反応(AMLR)の阻害
rHuAFPの免疫抑制活性は、ヒトの自己混合リンパ球反応(AMLR)を抑制する能力によって評価した。図8Aに示されているように、rHuAFPは、自己増殖性を測定した4〜7日間を通して、自己非T細胞によって刺激される自己反応性のリンパ球の増殖応答性を阻害した。図8Bに示されているように、T細胞自己増殖のピークで行った用量−反応実験から得られた結果は、培養の開始時にrHuAFPを添加することにより用量依存的にAMLRが抑制されることを示している。更に、併行して行った生存性の実験により、ヒトの自己反応性のT細胞に対するrHuAFPの阻害活性が非特異な細胞毒性効果によるものではないことが確かになった。
【0087】
rHuAFPが自己増殖性のT細胞の阻害に応答可能な薬物であることを更に実証するために、AMLRのrHuAFP仲介型抑制の遮断を市販のマウス抗ヒトAFPモノクローナル抗体(MAb)を用いて行った。図5に示されているように、100μg/mlのrHuAFPによる増殖中の自己反応性のT細胞の抑制が、抗HuAFP MAbにより完全に遮断された。100μg/mlのHSAを添加してもAMLR反応性は減少せず、反応培養物にMAbのみが存在しても何の効果もなかった。
【0088】
原核生物の発現系で生成する組換えポリペプチドは、細菌から単離する際に宿主細胞のリポポリサッカライド(LPS)で汚染される危険性がある。少量のLPSはサイトカインの生物活性に拮抗することができ、そのためマクロファージの免疫応答性が損なわれることが明らかにされている。したがって種々のrHuAFP調製物に対する内毒素の影響は、デトキシ・ゲル(Detoxi-gel)(ピアス(Pierce))上を通過させることによって内毒素を涸渇させた組換えタンパク質を用いてAMLR実験を行い、処理を行わなかったrHuAFPと比較することにより評価した。これらの実験の結果から、両方の調製物が同等レベルの免疫抑制活性を有していることが示された。
【0089】
図8Aおよび図8Bに示されているように、この実験の結果からも、インビトロでの反応における自己増殖性のT細胞に対する阻害効果を明らかにすることによって、rHuAFPがグリコシル化nHuAFPと等価の能力で自己反応性のT細胞の増殖を抑制することが示されており、それは5μg/mlから100μg/mlの範囲内のrHuAFP濃度で達成される非常に有意な阻害である。また表Iおよび図3に示されているように、rHuAFP断片Iは、自己非T細胞により144時間で刺激した自己反応性リンパ球の増殖応答性を阻害した。さらに、図3に示されているように、ドメインIおよびドメインIIIはAMLRも阻害した。
【0090】
【表1】

【0091】
末梢血リンパ球反応(PBL)の阻害
100μg/mlのrHuAFP断片I、並びに大腸菌由来rHuAFPおよびバキュロウイルス由来rHuAFP(下記に記載されている)の免疫抑制活性も、ヒト末梢血リンパ球反応(PBL)を抑制する能力で評価した。表IIに示されているように、大腸菌由来rHuAFPおよびバキュロウイルス由来rHuAFP、ならびに断片I(上述のようにして作製した)は、ConAで刺激したヒト末梢血リンパ球の増殖応答性を阻害することが明らかとなった。
【0092】
【表2】

【0093】
自己免疫疾患
上記に記載したように、自己免疫疾患は、自己抗原に対する寛容が消失し、免疫系の細胞、例えばT細胞またはB細胞(もしくは両方)が自己組織抗原に対して反応するようになることに特徴がある。自己免疫疾患は、いずれの臓器系に関わることもありうるが、ある種の臓器が他の臓器よりも影響を受けることが多い。自己免疫状態により影響を受ける組織の例には、多発性硬化症における脳および脊髄の白質、リウマチ様関節炎における関節の内層、およびインシュリン依存性糖尿病における膵臓のインシュリン分泌性β島細胞が含まれる。この他の形態の自己免疫疾患は、重症筋無力症において神経と筋との間の連結を損傷したり、または全身性エリテマトーデスにおいて腎臓や他の臓器を損傷したりする。他の自己免疫疾患の例には、アジソン病、クローン病、グレイブス病、乾癬、強皮症、および潰瘍性大腸炎が含まれるが、これらに限られるわけではない。
【0094】
当技術分野において、自己免疫疾患が関与するヒトの疾患に対する治療法を試験するための、広範な実験動物系、即ちトランスジェニック動物系または非トランスジェニック動物系が提供されている(例えば、Paul, W. E.、免疫学の基礎(Fundamental Immunology)、第2版、レイベン・プレス(Raven Press)、ニューヨーク、1989年;およびKandelら、神経学の原理(Principles of Neural Science)、第3版、AppletonおよびLange、ノーウォーク、コネチカット州、1991年;および免疫学の最新プロトコル(Current Protocols In Immunology)、Coligan, J. E.、Kruisbeek, A. M.、Margulies, D. H.、Shevach, E. M.、およびStrober編、グリーン・パブリッシング・アソシエーツ(Green Publishing Associates)(ジョンウィリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons))、ニューヨーク、1992年、参照)。グリコシル化されていないrHuAFPの免疫抑制活性を示す上述した実験結果に基づき、原核動物系で産生された該rHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)を投与することによって、他の自己免疫疾患が治療できると考えられる。したがって本発明は、ある種の自己免疫疾患を治療(即ち、予防または抑制または改善または緩解促進)するためのrHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)の利用法を提供する。
【0095】
自己免疫疾患を治療する際に、組換えヒトアルファ−フェトプロテインまたは免疫細胞抗増殖性その断片もしくはアナログの効果を高めるために有用な以下のような動物系の例がある。これらの例は、例示の目的で提示したものであって、本発明を限定するものではない。
【0096】
多発性硬化症
多発性硬化症(MS)は中枢神経系の白質の散在領域に発生する脱髄性疾患である。MSではミエリン塩基性タンパク質およびプロテオリピドタンパク質が、他の免疫系の成分の中でもTリンパ球が関与する自己免疫応答の主要な標的となる。神経細胞のミエリン鞘の喪失(脱髄)は、ついには昏睡または麻痺に陥る神経学的な症状を引き起こす。
【0097】
実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)は、MSを治療する治療薬の有効性を調べ、評価するために当技術分野で用いられる主要なモデルである。EAEは、中枢神経系組織で免疫することによって実験動物に誘導した、炎症性の自己免疫性脱髄性疾患である。動物(例えばマウス、ラット、モルモット、ウサギ、サルなど)に、アジュバント、例えば完全フロイントアジュバントにミエリン塩基性タンパク質またはプロテオリピドタンパク質を加えて注入すると、MSと病理学的に類似したEAEが誘導される(例えば、Alvaordら、実験的アレルギー性脳脊髄炎−多発性硬化症(Experimental Allergic Encephalomyelitis-A Useful Model for Multiple Sclerosis)、Liss、ニューヨーク、1984年;Swanborg, Meth. Enzymol. 162: 413, 1988;およびMcCarronら、J. Immunol., 147: 3296, 1991、参照)。
【0098】
rHuAFPまたはその断片もしくはアナログを評価するために、EAEを適当な実験動物、例えばマウスまたはウサギに当技術分野において既知の方法にしたがって生じさせる。EAEに対するこの化合物の免疫抑制効果、即ちEAEを抑制したり改善したりする効果を評価するために、この化合物を常法にしたがって、例えば静脈内または腹腔内に毎日適当量を投与する。一般的に、投与は、EAEが誘導される前、および/またはEAEが臨床的に出現する後に開始される。対照の動物には、プラセボ、例えばヒト血清アルブミンを、rHuAFPもしくは関連する分子について行ったのと同様に投与する。EAEに対する被検分子の効果は、常法を行ってモニターする。例えばEAEを誘導した動物の体重減少や筋麻痺を毎日モニターする。必要に応じて、脳や脊髄の組織学的な検査を行い(例えば、標準的な組織化学的手法または免疫組織化学的手法を用いることによって行われる。例えばAusubelら、分子生物学の最新プロトコル(Current Protocols In Molecular Biology)、グリーン・パブリッシング・アソシエーツ(Green Publishing Associates)(ジョンウィリー・アンド・サンズ(John Wiley & Son))、ニューヨーク、1994年;BancroftおよびStevens、組織化学的手法の理論および実際(Theory and Practice of Histochemical Techniques)、チャーチル・リビングストン(Churchill Livingstone)、1982年)、そして組織試料をEAEの証拠、例えば周囲の血管細胞の浸潤という証拠について顕微鏡で検査する。処置を行った動物と対照の動物との間で比較研究を行うことで、EAEを抑制したり改善したりする被検分子の相対的な効果を調べることができる。EAEの症状を抑制したり改善したり(減少させたり抑制したり放散させたりその緩解を促進したり)する分子は本発明において有用であると考えられる。
【0099】
リウマチ様関節炎
リウマチ様関節炎(RA)は、複数の関節の滑膜が炎症を起こして軟骨および骨に損傷を生じさせるよく見られる慢性疾患である。RAはヒトリンパ球抗原(HLA)-DR4と関連しており、T細胞が関与する自己免疫性疾患であると考えられている。例えば「Sewellら、Lancet 341: 283, 1993」参照。RAは、滑液分泌細胞が、循環血流から関節の滑液分泌層に浸潤する種々の細胞性因子(およびそれらの可溶性生成物)と複雑な相互反応をすることにより起こる。一連の生物学的な事象が進行し、最終的には、関節のコラーゲンと軟骨基質を侵食しそして腐食する障害が引き起こされる。
【0100】
ヒト疾患に似た関節炎の状態を誘導された、多数のRA動物モデル、例えばMRL-lpr/lprマウスが当技術分野において知られている(例えば、Fundamental Immunology、前記)。また、自己免疫性コラーゲン関節炎(ACA)とアジュバント性関節炎(AA)は、標準的な方法によって適当な動物に誘導することができる。
【0101】
rHuAFPまたはその断片もしくはアナログのRAに対する免疫抑制性を評価するために、即ちRAを抑制したり改善したりする化合物の能力を評価するために、被検分子がMRL-lpr/lprマウスに常法にしたがって、例えば静脈内または腹腔内に毎日適当量で投与される。一般の場合に投与は、RAが誘導される前、および/またはRAが臨床的に出現する後に開始される。対照の動物には、プラセボ、例えばヒト血清アルブミンが、rHuAFPもしくは関連する分子について行ったのと同様に投与される。RAに対する被検分子の効果は、常法にしたがってモニターする。例えば滑膜性の連結の細胞成分の分析が毎日モニターされる。必要に応じて、滑液性の連結の組織学的な検査を行い(例えば、標準的な組織化学的な手法または免疫組織化学的な手法を用いることによって行われる。例えばAusubelら、前記;BancroftおよびStevens、前記、参照)、そして組織試料をRAの証拠、例えば関節内のコラーゲンや軟骨基質の腐食という証拠について顕微鏡で検査する。処置を行った動物と対照の動物との間で比較研究を行うことで、RAを抑制したり改善したりする被検分子の相対的な効果を調べることができる。RAの症状を抑制したり改善したり(減少させたり抑制したり放散させたりその緩解を促進したり)する被検分子は、本発明において有用であると考えられる。
【0102】
重症筋無力症
重症筋無力症(MG)は、神経筋接合部のアセチルコリン受容体に対する自己抗体が存在する、神経筋伝達の障害である。抗体が接合部を攻撃すると、弛緩や麻痺が起こる。女性には男性よりも2倍の頻度で起こり、通常は30代で発症する。筋力低下がこの疾患の顕著な特徴である。臨床上の兆候は眼瞼下垂と複視などである。MGと甲状腺機能亢進症の間には関連がある。
【0103】
実験的自己免疫性MG(EAMG)は、ウサギ、サル、ルイスラット、およびマウスの近交系などの種々の動物を用いて研究されており(例えば、Principles of Neural Science、前記)、EAMGの症状はヒトの疾患の本質的な特徴と類似している。アセチルコリン受容体、例えばウナギ、トルペド・カリフォルニカ(Torpedo californica)の発電器官から精製した受容体をアジュバントとともに一回注入すると、8〜12日以内に急性の筋力低下が引き起こされ、そして約30日後に慢性の筋力低下が引き起こされる。ウナギ受容体に対する応答は、T細胞依存性である。C57BL/6系統(H-2)はトルペド(Torpedo)受容体に対して強く反応し、EAMGに対する感受性が高い。
【0104】
rHuAFPまたはその断片もしくはアナログを評価するために、EAMGを適当な実験動物、例えばC57BL/6系統(H-2)マウスに当技術分野において公知の方法に従って導入する。EAMGに対する化合物の免疫抑制効果、即ちEAMGを抑制したり改善したりする化合物の能力を評価するために、化合物が常法にしたがって、例えば静脈内または腹腔内に毎日適当量で投与される。一般的に、投与は、EAMGが誘導される前、および/またはRAが臨床的に出現する後に解される。対照の動物には、プラセボ、例えばヒト血清アルブミンが、rHuAFPもしくは関連する分子について行ったのと同様に投与される。EAMGに対する被検分子の効果は、常法にしたがってモニターする。例えば、EAMG誘導動物において、筋電計による筋肉分析(例えば、Pachnerら、Ann. Neurol. 11:48, 1982に記載された方法に従う)における神経刺激を分析することができる。必要に応じて、組織試料の組織学的な検査を行い(例えば、標準的な組織化学的な手法または免疫組織化学的な手法を用いることによって行われる。例えばAusubelら、前記;BancroftおよびStevens、前記、参照)、そして組織試料をEAMGの証拠、例えば神経筋連合部のアセチルコリン受容体における単球の浸潤および/または自己抗体の局在という証拠について顕微鏡で検査する。処置を行った動物と対照の動物との間で比較研究を行うことで、EAMGを抑制したり改善したりする被検分子の相対的な効果を調べることができる。EAMGの症状を抑制したり改善したり(減少させたり抑制したり放散させたり緩解を促進したり)する分子は、本発明において有用であると考えられる。
【0105】
インシュリン依存性糖尿病
糖尿病は、ブドウ糖代謝の異常である。インシュリン依存性糖尿病(IDDM)はI型糖尿病としても知られており、ランゲルハンス島にある膵臓β細胞がT細胞により破壊されていることに特徴のある自己免疫疾患である。この病気においては、他の病理学上の事象のなかでも、自己ペプチドの多様性に対する免疫応答が起こり、それが高血糖がもたらされる。IDDMの患者は、正常なブドウ糖の代謝を維持するために外来性のインシュリンに依存している。IDDMを発症する危険性のあるヒトは、インシュリン、島細胞、グルタミン酸カルボキシラーゼ、およびその他の自己タンパク質に対する自己抗体を異常に発現することから、高血糖が起こる前に同定することが可能である(例えば、Baekkeskovら、J. Clin. Invest. 79: 926, 1987;Deanら、Diabetologia 29: 339, 1986;Rossiniら、Annu. Rev. Immunol. 3: 289, 1985;Srikantaら、N. Engl. J. Med. 308: 322, 1983参照)。通常、自己抗体のパターンから、結果的に起こる疾患の進行度および/またはこの疾患を発症する危険性が予測される(例えば、Kellerら、Lancet 341:927, 1993、参照)。
【0106】
ヒトの疾患に類似したIDDMを自発的に発症する動物モデルの例には、バイオ・ブリーディング(Bio-Breeding/BB)ラットや非肥満糖尿病(nonobese diabetic/NOD)マウスが含まれる。糖尿病はまた、ストレプトゾトシン(streptozotocin)によって実験的に誘導することもできる。
【0107】
BBラットは、インシュリン炎(膵臓の島への単核細胞の浸潤)と、自己細胞およびインシュリンに対する自己抗体とを伴う、IDDMと同様の疾患を自発的に発症する(例えばBaekkeskovらのJ. Clin. Invest. 79: 926, 1987;Rossiniら、前記;NakhoodaらのDiabetes 26: 100, 1977;DeanらのClin. Exp. Immunol. 69: 308, 1987参照)。
【0108】
NODマウスは、典型的には、5〜8週齢でインシュリン炎を起こし、7カ月までに雌の70%と雄の40%に糖尿病が発病する。糖尿病マウスから若い糖尿病でないNODマウスにT細胞を移植すると、2〜3週間以内に糖尿病が誘導される(例えば、BendelacらのJ. Exp. Med. 166:823, 1987参照)。NODマウスは、通常、インシュリン治療を受けない限り糖尿病を発病してから1〜2カ月以内に死亡する。
【0109】
少量のストレプトゾトシン、即ち膵臓のβ細胞に対して毒性のある薬物を複数回注入することにより、重篤なインシュリン炎と糖尿病を引き起こす糖尿病を化学的に誘導することも成功している(例えば、KikutaniらのAdv. Immunol. 51: 285, 1992参照)。
【0110】
このように、当技術分野において、rHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)が関与する糖尿病を抑制したり改善したりするための手段を試験し評価するために用いることのできる、ヒトIDDMに類似した種々の動物モデルが提供されている。
【0111】
糖尿病マウスの生育に対するrHuAFPまたはその断片もしくはアナログの免疫学的効果を評価するために、即ちインシュリン炎や糖尿病を治療したり抑制したりする化合物の能力を評価するために、被検化合物が適当な被検動物、例えばNODマウスに、常法にしたがって、例えば静脈内または腹腔内に毎日適当量で投与される。一般的に、投与は、インシュリン炎および糖尿病が誘導される前、および/または糖尿病の特徴が臨床的に出現する後に開始される。対照の動物には、プラセボ、例えばヒト血清アルブミンが、rHuAFPもしくは関連する分子について行ったのと同様に投与される。インシュリン炎および糖尿病に対する被検分子の効果は、常法にしたがってモニターする。例えば、体重減少量、ケトン体の形成、および血中のブドウ糖濃度が毎日モニターされる。必要に応じて、膵臓の島細胞の組織学的な検査を行い(例えば、標準的な組織化学的な手法または免疫組織化学的な手法を用いることによって行われる。例えばAusubelら、前記;BancroftおよびStevens、前記、参照)、そして組織試料をインシュリン炎およびβ細胞の崩壊の証拠について顕微鏡で検査する。処置を行った動物と対照の動物との間で比較研究を行うことで、糖尿病状態を抑制したり改善したりする被検分子の相対的な効果を調べることができる。糖尿病、例えばIDDMの症状を抑制したり改善したり(減少させたり抑制したり放散させたりその緩解を促進したり)できる分子は、本発明において有用であると考えられる。
【0112】
全身性エリテマトーデス
全身性エリテマトーデス(SLE)は、重篤な全身性の自己免疫疾患である。この疾患の患者の約90%は若い女性である。女性に起こるこの顕著な優位性は、思春期前または更年期後では見られない。この病気は通常、若年層で始まり、その際には特徴的な皮膚の発疹が頬骨と前頭に現れる。脱毛が一般的に起こり、重篤な腎臓の損傷、関節炎、心臓周囲の体液の蓄積、そして肺の内層の炎症も同様によく起こる。患者のほぼ半数で脳の血管も炎症を起こし、それによって麻痺や痙攣が生じる。他の自己免疫性疾患と同様に、この疾患の活動度も変動性であり、健康状態の良好な長い落ち着いた期間が、突然に原因不明に新しい発作が開始することで終わってしまう。非常に多くの異なる自己抗体、例えばDNA、RNAおよびヒストンに対する自己抗体がSLEでは発現することがわかっている(例えば、Fundamental Immunology、前記、参照)。
【0113】
多数のヒトSLE動物モデル、例えばNZBマウスやそれらのFハイブリッド、MRLマウス、およびBXSBマウスを含むマウス近交系統が当技術分野において知られている(例えば、BielschowskyらのProc. Univ. Otago Med. Sch. 37:9, 1959;BravermanらのJ. Invest. Derm. 50: 483, 1968;HowieらのAdv. Immunol. 9: 215, 1968;自己免疫疾患の遺伝学的制御(Genetic Control of Autoimmune Disease)、Rose, M.、Bigazzi, P. E.およびWarner, N. L.編、エルスビア(Elsevier)、アムステルダム、1979;および免疫学の最新プロトコル(Current Protocols In Immunology)、前記、参照)。例えば、NZB×NZW FマウスはヒトSLEについての優れたモデルであり、雌のマウスは高レベルの抗二本鎖DNA自己抗体、抗一本鎖DNA自己抗体、他の抗核抗体、および腎疾患を発生し、約8カ月で通常は死に至る(例えば、TheofilopoulosらのAdv. Immunol. 37: 269, 1985参照)。
【0114】
SLEに対するrHuAFPまたはその断片もしくはアナログの免疫抑制効果を評価するために、即ちSLEを治療したり抑制したりするrHuAFPの化合物の能力を評価するために、被検化合物が適当な被検動物、例えばNZB×NZW Fマウスに常法にしたがって、例えば静脈内または腹腔内に毎日適当量で投与される。一般的に、投与は、SLEが誘導される前、および/またはSLEが臨床的に出現する後に開始される。対照の動物には、プラセボ、例えばヒト血清アルブミンが、rHuAFPもしくは関連する分子について行ったのと同様に投与される。SLEに対する被検化合物の効果は、常法にしたがってモニターする。例えば、自己抗体、即ち抗DNA抗体の分析がモニターされる。必要に応じて、腎臓組織の組織学的な検査を行い(例えば、標準的な組織化学的な手法または免疫組織化学的な手法を用いることによって行われる。例えばAusubelら、前記;BancroftおよびStevens、前記、参照)、そして組織試料をSLEの証拠、例えばループス腎炎の証拠について顕微鏡で検査する。処置を行った動物と対照の動物との間で比較研究を行うことで、SLEを抑制したり改善したりする被検分子の相対的な効果を調べることができる。SLEの症状を抑制したり改善したり(減少させたり抑制したり放散させたりその緩解を促進したり)できる分子は、本発明において有用であると考えられる。
【0115】
治療上の投与法
上記で証明したように、組換えアルファ−フェトプロテイン、例えばrHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)は自己免疫細胞の増殖の阻害において有効であり、したがってこれらに限定するわけではないが、多発性硬化症、リウマチ様関節炎、糖尿病、全身性エリテマトーデス、および重症筋無力症を含む自己免疫疾患を抑制したり改善したりするために有用である。したがって、組換えヒトアルファ−フェトプロテイン(またはその断片もしくはアナログ)を、薬学的に有用な組成物を調製するために公知の方法にしたがって製剤化することができる。
【0116】
組換えアルファ−フェトプロテイン、例えばrHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)は、好ましくは、自己免疫疾患の症状を抑制したり改善したりするのに有効な量で患者に投与される。一般的には体重1kgあたり0.1ng〜10gの用量が適当である。必要に応じて、投与は毎日行われる。組換えヒトアルファ−フェトプロテインに関連して起こるとわかっている有害な副作用はないため、比較的高用量を安全に投与できると考えられる。例えば、ヒト患者の治療は、生理学的に許容される担体に入れた、治療に有効な量のrHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)を用いることで行うことができる。適当な担体およびそれらの製剤化については、例えば、E. W. Martinによる「レミントンの薬剤学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」に記載されている。投与されるべきrHuAFPの量は、投与方法、患者の年齢と体重、疾患のタイプ、および、患者がその疾患に対する素因を有していたりまたはその疾患に罹っていたりする程度に応じて変化するであろう。好ましい投与経路には、例えば皮下注射、静脈注射、筋肉内注射、または皮内注射が挙げられ、それは患者において連続的に薬物のレベルを維持する。他の好ましい投与経路において、rHuAFPは、徐放性の製剤、例えば徐々に崩壊するポリマー状や結晶状の形態の製剤を注入したり埋め込んだりすることによって患者に投与することができる。この種の持続的投与法は、まず、より一般的な経路(例えば上述した経路)によって薬物を供給した後で行うとよい。または、rHuAFPは、注入ポンプ(例えば、体外の注入ポンプまたは埋め込み式の注入ポンプ)を用いて投与し、これにより薬物の放出速度を正確に制御してもよく、またインシュリンの吸収を促進させるために用いられるのと同じ方法で鼻経路にrHuAFPを投与してもよい。鼻の粘膜を経由して吸収させる別法として、粉末状や溶液状のエアロゾル沈積によってrHuAFPを供給することもできる。
【0117】
さらに、本発明の方法はまた、組合せ療法を採用してもよく、この場合にはrHuAFPは、全身性の耐性薬や特異的な耐性薬、例えば抗イディオタイプ薬剤(例えばモノクローナル)、または治療用ワクチン、または経口剤(例えば、インシュリン、コラーゲンもしくはミエリン塩基性タンパク質)、またはサイトカイン(例えば、Il-15)、またはインターフェロン(α-インターフェロン)、または免疫抑制剤などと同時かまたは連続的に投与される。好ましくは、免疫抑制剤は、その免疫抑制剤が単独で用いられる場合の標準的な用量よりも低い有効量で投与される。好ましい免疫抑制剤は、シクロスポリン、FK-506、ステロイド、アザチオプリン、または15-デオキシスペルグアリンである。
【0118】
治療は、自己免疫疾患であると診断されるかまたはその疑いがある場合に通常は開始され、それは一般的には毎日繰り返される。自己免疫疾患が開始する前にrHuAFPを投与することによって、この疾患の発生(または進行もしくは再発)を予防したり阻止したりすることも可能である。必要に応じて、治療または予防の管理の効果は、自己免疫疾患について患者をモニターしたり診断したりする方法を行って評価される。
【0119】
癌の治療および診断における組換えヒトAFP
細胞障害性の薬物
rHuAFPのハイブリッド細胞毒は、従来法を用いて、完全長のrHuAFPまたはその断片もしくはアナログを、いくつかの既知の毒性物質に結合させることによって調製される。このような毒素は腫瘍の成長を阻害する(下記に記載したように)ために有用である。有用な細胞毒は好ましくは、細胞内に存在している場合のみ有意に細胞障害性であり、かつ標的となるドメインが存在しない場合には問題となっている細胞から実質的に排除される。下記に説明したようにペプチド毒素はこれらの両方の条件を満足し、ハイブリッド分子に容易に組み入れられる。必要に応じて、混合型の細胞毒(即ち、二種またはそれ以上の毒素の全部または一部を含む細胞毒)を用いることもできる。数種の有用な毒素をより詳細に下記に説明する。
【0120】
本発明の方法において有用な毒素分子は、好ましくは、細胞内に存在する場合にのみ有意に細胞障害性となる、ペプチド毒素のような毒素である。もちろんこれらの状況の下では、分子は標的の受容体を有している細胞に侵入することができなければならない。この能力は分子の性質と細胞受容体の性質とに依存する。例えば、リガンドを自然に取り込むことができる細胞受容体は、毒素を含む分子が受容体を有している細胞に侵入する手段を提供する可能性が高い。下記に説明するように、本発明の方法において有用なペプチド毒素は、ハイブリッドタンパク質分子をコードする組換えDNA分子を生成することによってrHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)結合ドメインと融合している。
【0121】
多くのペプチド毒素は、一般的な真核細胞の受容体結合ドメインを有しており、そのような場合には、毒素は非受容体保持細胞の毒性化を起こさないように修飾されていなくてはならない。このような修飾は、分子の細胞毒機能を保存する方法でなされる必要がある(米国保健社会福祉省、米国特許出願第401,412号参照)。可能性のある有用な毒素にはコレラ毒素、リシン(ricin)、O-Shiga様毒素(SLT-I、SLT-II、SLT II)、LT毒素、C3毒素、Shiga毒素、百日咳毒素、破傷風毒素、シュードモナス(Pseudomonas)外毒素、サポリン(saporin)、モデシン(modeccin)、およびゲラニン(gelanin)が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0122】
本発明において有用ないくつかの分子の細胞毒部分は、必要に応じて、混合毒素分子によって提供することができる。混合毒素分子は、二つの異なるポリペプチド毒素に由来する分子である。一般的には、上述したように、ポリペプチド毒素は、一般的な真核細胞結合のためのドメインに加えて、酵素活性ドメインおよび転移ドメインを有している。結合ドメインおよび転移ドメインは、細胞認識および毒素侵入にそれぞれ必要である。酵素活性ドメインは、分子が細胞内に侵入すると細胞毒活性を発揮するドメインである。
【0123】
転移ドメインを有していることがわかっている天然のタンパク質には、ジフテリア毒素、シュードモナス外毒素A、そしておそらくその他のペプチド毒素が含まれる。ジフテリア毒素とシュードモナス外毒素Aの転移ドメインは、充分に特徴が明らかにされており(例えば、HochらのProc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 1692, 1985;ColombattiらのJ. Biol. Chem. 261: 3030, 1986;およびDeleersらのFEBS Lett. 160: 82, 1983参照)、また他の分子におけるこのような部位の存在および位置は、「HwangらのCell 48: 129, 1987」および「GrayらのProc. Natl. Acad. Sci. USA 81: 2645, 1984」によって行われたような方法によって決定することができる。
【0124】
例えば、ある有用なrHuAFP/混合毒素ハイブリッド分子は、大腸菌Shiga様毒素の酵素活性Aサブユニット(例えば、CalderwoodらのProc. Natl. Acad. Sci. USA 84: 4364, 1987参照)をジフテリア毒素の転移ドメイン(アミノ酸残基202〜460位)に、そしてrHuAFPに融合することによって形成される。この3部分からなるハイブリッドのrHuAFP部分により、その分子が、rHuAFPによって認識される受容体を保持する細胞に特異的に結合し、そしてジフテリア毒素の転移ドメインによりShiga様毒素の酵素活性Aサブユニットが標的細胞に挿入される。Shiga様毒素の酵素活性部分は、ジフテリア毒素と同様にその細胞のタンパク質合成機構に作用してタンパク質合成を阻止し、そのためその細胞が殺される。
【0125】
本発明のハイブリッド細胞毒の機能的な成分は、非共有結合もしくは共有結合により、またはその両方により結合されている。非共有結合性の相互作用には、ロイシンジッパーや抗体−プロテインG相互作用に関与している相互作用のような、イオン結合、疎水結合、または親水結合がある(例えば、DerrickらのNature 359: 752, 1992参照)。共有結合の一例はジスルフィド結合である。
【0126】
ハイブリッド細胞毒は、既知の毒性物質、例えば上記に記載したようなもののいずれかにrHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)を化学的に結合させることによって調製される。このような反応は当業者に知られている常法によって行われる。タンパク質をタンパク質毒素(例えば、ジフテリア毒素やシュードモナス外毒素Aのような細菌毒素、またはリシンのような植物毒素)に結合させる通常の方法は、ジスルフィド結合を介した架橋(例えば、ChangらのJ. Biol. Chem. 252: 1515, 1977)またはヘテロ二官能基を有する分子(例えば、CawleyらのCell 22: 563, 1980参照)によるものである。また、スティーブンス(Stevens)らの米国特許第4,894,227号も参照のこと。
【0127】
またハイブリッド細胞毒は、該ハイブリッドを製造する技術分野の通常の技術を有する者にとって利用可能な手法を用いることで、rHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)と毒素(またはその毒性部分)の両方をコードするように操作したハイブリッドDNAを発現させることによっても調製できる(例えば、Murphyの米国特許第4,675,382号、およびChadharyらのProc, Natl. Acad. Sci. USA 84: 4538, 1987参照)。例えば、rHuAFPと細胞障害性物質との組換え融合タンパク質は、当技術分野において公知の方法にしたがって製造される(例えば、Murphy、前記、およびHustonらのMeth. Enzymol. 203:46, 1991、参照)。ハイブリッド細胞毒を融合遺伝子の発現によって作製する場合には、ペプチド結合が細胞障害性物質と標的リガンドとの間の結合部として機能する。タンパク質またはポリペプチドをタンパク質毒素に結合させるのに有用なこの他の方法では、「MaitiらのInt. J. Cancer Suppl. 3: 17, 1988」に記載されているような、ポリマーであるモノメトキシ−ポリエチレングリコール(mPEG)が用いられる。
【0128】
必要に応じて、合成した後、そのハイブリッド細胞毒は、その分子の標的部分に対する抗体、例えばヒトアルファ−フェトプロテインに対する抗体を用いて常法にしたがってアフィニティ精製される。同様に、細胞毒性物質に対する抗体も、標準的な免疫学的手法を用いてハイブリッド細胞毒分子を精製するために有用である。その後、得られたハイブリッド細胞毒は、薬学分野における標準的な操作を行った後、不要な細胞、例えば癌細胞に対する薬物として利用すべく製剤化される。
【0129】
本発明の分子は、当技術分野において既知の分析手段、例えば本明細書に記載した方法によって、標的の受容体を保持する細胞の生存性を減少させる能力についてスクリーニングを行うことができる。
【0130】
本発明のハイブリッド細胞毒が、rHuAFPによって認識される受容体を保持する細胞に対する強力な細胞毒性物質であるため、rHuAFPは不要なアルファ−フェトプロテイン受容体陽性細胞、例えば癌細胞が関与する疾患の治療に有用である。
【0131】
診断薬
組換えrHuAFPまたはその断片もしくはアナログを検出可能な標識に結合させ、インビボ、インサイチュー、またはインビトロで新生組織を検出したり位置を明らかにするために有用な試薬を作製することができる。タンパク質にこのような標識を結合させる方法は、当技術分野においては公知である。例えば、検出可能な標識は化学的な結合によって結合させられるが、その標識がポリペプチドである場合には別法として、遺伝子操作によって結合させることもできる。
【0132】
検出可能な標識は通常、当技術分野において公知の種々の標識から選択されるが、放射性同位元素、蛍光物質、酵素(例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ)、または検出可能なシグナル(例えば、放射能、蛍光、発色)を発するかもしくは標識に基質を作用させた後に検出可能なシグナルを発する、その他の物質もしくは化合物が一般的である。種々の検出可能な標識/基質の対(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ/ジアミノベンジジン、アビジン/ストレプトアビジン、ルシフェラーゼ/ルシフェリン、β−ガラクトシダーゼ/X-gal(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−D−ガラクトピラノシド))、およびこのような検出目的でタンパク質を標識する方法は、この技術分野においては公知である。例えばこのような薬物の有用性は、例えばMCF-7のような腫瘍細胞系を例えばマウスのような宿主に移植し、本発明の薬物がその移植された細胞によって生成された腫瘍を検出可能に標識しているか否かを例えばシンチグラフィーを用いた放射性画像化により検出することによって検定できる。このような薬物はまた、アルファ−フェトプロテイン受容体を保持する不要な細胞が存在することを、例えば公知の方法にしたがってなされるウエスターンブロット分析法や組織試料の組織化学的な染色法を用いて検定するためにも用いることができる。
【0133】
抗癌剤としての組換えHuAFP
本発明の抗癌剤(例えば、rHuAFPまたはその断片もしくはアナログ、またはrHuAFPのハイブリッド細胞毒)は、新生組織、例えば乳ガンや前立腺ガンを抑制するのに有用である。当業者は、インビトロであってもインビボであっても、本発明の方法において有用な抗癌剤の効果を調べるために何種類の方法を用いてもよいことを理解できるであろう。例えば、被検化合物を投与した後で腫瘍の成長が減少することを、前立腺ガン(例えば、LNCaPアンドロゲン受容体陽性なヒト前立腺ガン細胞系からなる腫瘍異種移植片)を発症しているマウスまたはラットでモニターすることができる。実施例では、この培養で増殖中のヒト腫瘍細胞系(例えば、MCF-7(ATCC HTB22)、T-47D(ATCC HTB133)、MDA-MB-231(ATCC HTB26)、BT-20(ATCC HTB19)、NIH:OV-CAR-3(ATCC HT161)、LnCaP.FGC(ATCC CRL1740)、およびDu-145(ATCC HTB81)のような細胞系)をトリプシン作用によって単層から放出させ、単一細胞懸濁液に希釈してから、遠心分離を行ってペレットへと固体化し、それを続いて15μlのフィブリノーゲン(50mg/ml)と10μlのトロンビン(50ユニット/ml)に37℃で30分間さらす。次に腫瘍を含むフィブリン塊を直径が約1.5mmの断片に切る。続いてそれぞれの腫瘍断片を、常法にしたがってマウスの腎臓被膜下に埋め込む。必要に応じて、従来法にしたがって腫瘍を移植する直前に、マウスの体重1kgあたり60mgのシクロスポリンA(Sandimmune IV)を毎日皮下注射(s.c.)することによって免疫抑制してもよい。必要に応じて、マウスのエストロゲンとアンドロゲンの補充を、標準的な方法によって、例えばエストラジオールを含むシラスティックチューブを移植することによって、またはプロピオン酸テストステロンを注射することによって行う。通常、ホルモンの補充は、腫瘍を移植した日に開始する。一般的に、被検分子の投与は、腫瘍を移植する前、および/または腫瘍を移植した後に開始する。対照動物にはプラセボ、例えばヒト血清アルブミンまたは希釈液が、rHuAFPもしくは関連する分子について行ったのと同様に投与される。腫瘍成長に対する被検分子の効果は、常法にしたがってモニターする。例えば、腫瘍の成長を接眼マイクロメーターを装着した切開用の顕微鏡を用い、開腹術を行って腫瘍の大きさを毎週測定することによりモニターする。このような移植された腫瘍の成長を停止、減少または阻害することが実験により示された分子は、本発明において有用であると考えられる。
【0134】
rHuAFPによって認識される受容体を保持する細胞に対する被検細胞の毒性は、いかなる標準的なプロトコルにしたがってもインビトロで試験することが可能である。例えば、培養された癌細胞系、例えばMCF-7エストロゲン受容体陽性ヒト乳ガン細胞系を、プラスチック製の組織培養フラスコ(コスター(Costar))内にてペニシリン(100U/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)、5%のウシ胎児血清、インシュリン(10ng/ml)、L-グルタミン(2mM)および非必須アミノ酸(1%)を含むDMEM中で維持する。細胞を96ウェルのV底プレート(リンブロ・フロー・ラボラトリーズ(Linbro-Flow Laboratories)、マクリーン(McLean)、バージニア州)に、完全培地中に1ウェルあたり1×10個が存在する濃度で植え付ける。推定されている毒素を種々の濃度(10−12M〜10−6M)で添加し、その培養物を18時間、37℃で5%のCO雰囲気中でインキュベートする。インキュベート後、そのプレートを5分間、170×gで遠心分離し、培地を除去してから8μCi/ml(H-ロイシン;ニューイングランド・ヌクレア(New England Nuclear)、ボストン、マサチューセッツ州)を含む100μlのロイシンを含まない培地(MEM、ギブコ)で置き換える。さらに90分間37℃で培養した後、プレートを5分間、170×gで遠心分離し、培地を除去してからその細胞を細胞採集器(スカトロン(Skatron)、スターリン、バージニア州)を用いてガラスファイバーフィルター上に集める。フィルターを洗浄、乾燥し、そして常法にしたがって計数する。培地のみを用いて培養した細胞は対照として用いる。処理を行わない対照細胞に比較して細胞成長を減少させたり停止させたり阻害させたりする被検化合物は、毒性の指標として検出され、本発明において有用と考えられる。
【0135】
被検化合物が新生組織(例えば、乳ガンまたは前立腺ガン)の成長に対する防御作用をもたらすかどうかを評価する場合、新生組織が発現することがわかっている動物(例えば、米国特許第4,736,866号に記載されたトランスジェニックマウス)が通常利用される。適当な動物を、標準的な方法にしたがって被検化合物で処理し、処理を行わない対照の動物に比較して新生組織の発生率が減少することを防御作用の指標として検出する。
【0136】
下記に説明するように本発明者は、原核生物の発現系で生成したグリコシル化されていないrHuAFPが癌の治療に有効であることを発見した。例えばrHuAFPは、インビトロの乳ガンの成長に対する強力な阻害剤であることを見いだした。
下記の実験例は、抗癌剤としてのrHuAFPの効果を示している。これら実施例は本発明を例示するために提供されたものであって、本発明を限定するものではない。
【0137】
実験
材料および方法
培養培地および腫瘍細胞
ダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM)、RPMI1640、ウシ胎児血清、グルタミン、非必須アミノ酸、およびペニシリン−ストレプトマイシン混合物は、ギブコ(GIBCO)(BRL)から得た。ドナーのウシ血清は、ハイクローン(Hyclone)(ローガン(Logan)、ユタ州)から、またブタインシュリンはスクイブ社(Squibb, Inc.)(プリンストン、ニュージャージー州)から得た。
【0138】
MCF-7エストロゲン受容体陽性ヒト乳ガン細胞系は、アルゼンチン、ブエノスアイレスの実験生物学および医学研究所(Institute of Experimental Biology and Medicine)のアルベルトC.バルディ(Alberto C. Baldi)博士から得た。ストック用の培養物は、プラスチック製の組織培養フラスコ(コスター(Costar))内にてペニシリン(100U/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)、5%のウシ胎児血清、インシュリン(10ng/ml)、L-グルタミン(2mM)および非必須アミノ酸(1%)を含むDMEM中に維持した。
【0139】
培養におけるエストロゲンにより刺激されたMCF-7細胞のコンフルエント後増殖
この検定法はエストロゲン含有培地中のMCF-7細胞はコンフルエント状態を越えて成長し、病巣に蓄積するが、エストロゲンが存在しない場合には細胞の増殖は細胞−細胞接触状態になった後で停止し、病巣が形成されないという知見に基づいている(例えば、GierthyらのBreast Cancer Res. Treat. 12:227, 1988参照)。1×10個のMCF-7乳ガン細胞を、24ウェルの組織培養プレートの16mmウェルに載せた。培養培地は、5%のドナーウシ血清(検出可能なエストロゲンが含まれないように予めスクリーニングしたもの)、L-グルタミン(2mM)、非必須アミノ酸(1×、ギブコ)、インシュリン(10ng/ml)、ペニシリン−ストレプトマイシン(1×、ギブコ)および最終濃度が1.8×10−9Mの濃度に希釈したエストラジオールを補充した、フェノールレッドを含まないDMEMである。培養物には、24時間目と、その後4日毎にrHuAFPおよびヒト血清アルブミンを含む培養培地2mlを、1ウェルあたり100μg/mlの最終タンパク質濃度となるように再度与えた。細胞は5日間でコンフルエント状態に達し、そして相当数の病巣がエストロゲンのみを含むウェルにおいて10日以内に出現した。細胞を緩衝化したホルマリンで固定化し、1%のロダミンBを用いて染色した。染色された病巣を、アルテック870マクロ−マイクロ自動コロニーカウンター(Artek 870 Macro-Micro Automated Colony Counter)を用いて定量した。データは、処理を行った群あたりの病巣の平均数で表わした。
【0140】
結果
MCF-7乳ガン細胞に対するrHuAFPの活性
図9に示された結果は、rHuAFPが、インビトロでMCF-7乳ガン細胞のエストロゲンにより刺激されたコンフルエント後増殖を阻害することを示している。ヒトアルブミンを用いるか、またはどのタンパク質も用いない対照の実験では、MCF-7病巣の形成に影響がなかった。これらのデータは、rHuAFPが癌細胞培養物の成長に対して直接的な阻害作用を有していることを示している。
【0141】
治療用の投与
上記で明らかにしたように、rHuAFPは、新生組織、例えば乳ガン細胞の阻害に有効である。したがって、本発明の化合物は、薬学的に有用な組成物を調製するために既知の方法にしたがって製剤化することができる。ヒトの患者の治療は、生理学的に許容される担体中に含まれる治療に有効な量のrHuAFPの抗癌剤を用いて行うことができる。適当な担体およびその製剤化は、例えば、E. W. Martinによる「レミントンの薬剤学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」に記載されている。投与されるべき抗癌剤の量は、投与方法、患者の年齢と体重、疾患のタイプ、および患者の疾患の進行度に応じて変化する。一般的な量は癌治療で用いられる他の薬物で利用する量の範囲内であろうが、ある例においては、化合物の特異性が大きいために必要とされる量は少ないであろう。例えば、rHuAFPは下記に説明するように、悪性腫瘍細胞の増殖を阻害する用量、即ち典型的には0.1ng/kg(体重)〜10g/kg(体重)の範囲内の用量で全身に投与される。
【0142】
さらにまた、本発明の方法は、組合せ療法を用いることも可能であり、この場合にはrHuAFPが、化学療法剤と同時にまたは連続的に投与される。典型的には、化学療法剤は、標準的な方法にしたがって投与されるか、または化学療法剤が単独で使用される場合の標準的な用量よりも少ない用量で投与される。化学療法剤の例には、メクロルエタミン(mechlorethamine)、シクロホスファミド(cyclophosphamide)、イフォスファミド(ifosfamide)、L-サルコリシン(L-sarcolysin)、クロルアムブシル(chlorambucil)、ヘキサメチルメラミン(hexamethylmelamine)、チオテパ(thiotepa)、ブサルファン(busulfan)、カルムスチン(carmustine)、ロムスチン(lomustine)、セムスチン(semustine)、ストレプトゾシン(streptozocin)、ダカルバジン(dacarbazine)、メトトレキセート(methotrexate)、フルオロウラシル(fluorouracil)、シタラビン(cytarabine)、メルカプトプリン(mercaptopurine)、チオグアニン(thioguanine)、ペントスタチン(pentostatin)、ビンブラスチン(vinblastine)、ビンクリスチン(vincristine)、エトポシド(etoposide)、テニポシド(teniposide)、アクチノマイシンD(actinomycin D)、ダウノマイシン(daunomycin)、ドキソルビシン(doxorubicin)、ブレオマイシン(bleomycin)、プリカマイシン(plicamycin)、マイトマイシン(mitomycin)、シスプラチン(cisplatin)、マイトキサントロン(mitoxantrone)、ハイドロキシウレア(hydroxyurea)、プロカルボジン(procarbozine)、マイトテイン(mitotane)、アミノグルテチミド(aminoglutethimide)、プレドニゾン(prednisone)、ハイドロキシプロゲステロン(hydroxyprogesterone)、ジエチルスチルベストール(diethylstilbestrol)、タモキシフェン(tamoxifen)、フルタミド(flutamide)、またはロイプロリド(leuprolide)が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0143】
一般的に、治療は、新生組織であると診断されるかその疑いがある場合に開始され、通常毎日繰り返し行われる。新生組織の成長の予防も、毎日rHuAFPを投与することで達成される。必要に応じて、治療管理または予防管理の効果は、患者を癌についてモニターしたり診断したりする方法で検定される。
【0144】
さらにまた、本発明の化合物は、病理学的状態に関連するアルファ−フェトプロテイン受容体を保持する不要な細胞を破壊する目的で、哺乳動物を治療すべく用いることもできる。本発明の方法はまた、非ヒト哺乳動物、例えば家庭用のペットや家畜を治療するためにも用いることができる。下記に説明したように、本発明の抗癌剤は、全身投与しても、局所投与してもよい。
【0145】
全身投与
抗癌剤として使用する際、本発明の化合物を、例えば生理食塩水などの薬学的に許容される緩衝液中に製剤化して全身に投与することができる。好ましい投与経路には、例えば皮下注射、静脈注射、腹腔内注射、筋肉内注射、または皮内注射が挙げられ、それは患者において持続的に薬物のレベルを維持させる。他の好ましい投与経路において、本発明の化合物は、例えば徐々に崩壊するポリマー状や結晶状の形態の徐放性製剤を注入することによって患者に投与することができる。この種の持続的投与法は、まず、より一般的な経路(例えば上述した経路)によって薬物を供給した後で行うとよい。また、この化合物は、薬物の放出速度を正確に制御することが可能な注入ポンプを用いて投与してもよいし、またインシュリンの吸収を促進させるために用いられるのと同じ方式で鼻経路に化合物を投与してもよい。鼻の粘膜を経由して吸収させる別法として、この化合物を、粉末状や溶液状のエアロゾル沈積により肺に供給することもできる。
【0146】
局所投与
本発明の抗癌剤はまた、癌を治療するために局所投与することもできる。抗癌剤は通常、制限された組織領域、例えば腫瘍において作用することが望ましいため、薬物が腫瘍付近で局所的に高濃度となるような方法によって薬物を供給することが特に望ましい。
【0147】
診断薬としての組換えHuAFP
検出可能な標識に結合させた組換えHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)は、新生組織(例えば、乳ガンや前立腺ガン)の存在の検出またはモニターまたは検定において診断のために利用することができる。
例えば、検出可能に標識されたrHuAFP(例えば、Tc-99m標識されたrHuAFP)を用いて新生組織の存在を確認するために、インビボでの実験をヒト患者に対して行うことができる。概略して述べると、検出可能に標識されたrHuAFPを静脈投与し、画像処理を、当業者に既知の方法、例えばシンチグラフィーを用いた放射性画像化法によってスキャナーを用いて行うことができる。
【0148】
他の実施例では、新生組織、即ちrHuAFPによって認識される受容体を保持する細胞が、検出可能な標識に結合したrHuAFP(または断片もくしくはそのアナログ)を用いることによって例えば生検材料や体液などの組織試料中に検出することができる。このような細胞の存在について患者を試験する必要があることが判明した後、組織試料、生検材料、または体液、好ましくはリンパ液、血液、血清、または尿がその患者から採集される。したがって、rHuAFPによって認識される受容体の細胞内の局在部位、または存在が、インサイチューまたはインビトロのいずれかで、何らかの標準的な生物化学的手法または組織化学的手法によって分画した細胞を用いることで検出される(例えば、Ausubelら、前記;BancroftおよびStevensの組織学的手法の理論および実際(Theory and Practice of Histological Techniques)、チャーチル・リビングストン(Churchill Livingstone)、1982年、参照)。この検定法で用いられる適当な対照試料としては、アルファ−フェトプロテインを保持する細胞を持たない個体から採集した組織試料または体液(陰性対照)、または既知の所定量のアルファ−フェトプロテイン受容体を含む試料(陽性対照)が挙げられる。
【0149】
診断用の検定法は、何らかの標準的な方法を用いて、溶液中で行ってもよいし、固体(不溶性)の支持体(例えば、ポリスチレン、ニトロセルロース、またはビーズ)を用いてもよいし、または組織学的な検査のために調製された組織試料で行ってもよい。例えば、被検試料を採集した患者がrHuAFPによって認識される受容体を保持する細胞を有しているかどうかを検出するためには、被検試料に含まれる検出可能に標識されたrHuAFPの結合レベルを陰性対照試料および/または陽性対照試料における結合レベルと比較する。被検試料における結合レベルが陰性対照試料における結合レベルよりも大きい場合、または陽性対照試料における結合レベルと少なくとも等しい場合に、その患者がアルファ−フェトプロテイン受容体を保持する細胞を有していることが示されている。
【0150】
本発明の方法にかかる診断用検定法を行うための材料は、使用説明書を備えたキットとして提供することができる。概略して言うと、そのキットは、その一部としてrHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)を含む。このキットはさらに、rHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)を標識するために用いられる第2の試薬、例えば検出可能な標識を含んでいてもよい。上記で例示したキットは、例えばヒト組織の試料に含まれる腫瘍の存在をインビトロで、またはインビボでの検査の目的で検出する際に用いられる。
【0151】
下記での実験例は、新生組織を診断するrHuAFPの効果を明らかにしている。これら実施例は本発明を例示するために提供されるものであって、本発明を限定するものではない。
【0152】
実験
材料および方法
動物
CB-17 SCIDマウスの側方胸郭に移植されたMCF-7ヒト乳ガン細胞は、当技術分野において公知の方法にしたがってエストロゲン刺激することにより直径1cm(約5グラム)の大きさにまで成長した。
【0153】
テクネチウム標識
99mTc標識された組換えアルファ−フェトプロテインは、0.9%の塩化ナトリウム注射用溶液(バクスター・ヘルスケア・コーポレーション(Baxter Healthcare Corporation)、ディアフィールド(Deerfield)、イリノイ州)、0.5mlと混合したAFPアリコートより調製した。この溶液を、アルゴン気流下で保存した凍結乾燥状態の塩化第1スズ二水和物、クエン酸ナトリウム二水和物、およびデキストロース無水物を含むUltraTag RBC反応容器(マリンクロット・メディカル社(Mallinckrodt Medical Inc.)、セントルイス、ミズーリ州63134、ロット番号0683040)に添加する。この容器内の内容物を緩和な攪拌によって混合し、5分間室温にてインキュベートする。インキュベートを終えた時点で、0.8〜1.2Gbpのテクネチウム99mTcソジウム・ペルテクネテート注入液(Technetium 99mTc Sodium Pertechnetate Injection)(99mTcジェネレーター・マリンクロット・メディカル社(99mTc Generator Mallincrokt Medical, Inc)、セントルイス、ミズーリ州)を容量1〜2mlで添加する。その容器中の内容物を緩和な攪拌によって混合し、15分間インキュベートする。用量アリコートを調製後、0、3、および6時間経過した時点で検定した。0.9%のNaClを含むITLC-SG(ゲルマン・インストルメント社(Gelman Instrument Co.)、アン・アーバー(Ann Arbor)、ミシガン州)を用いて調製物について行った薄層クロマトグラフィーにより、95〜99%の99Tcが組換えアルファ−フェトプロテインに結合していることが示された。
【0154】
画像化
実験動物をメダファン(Medafane)で鎮静化する。次に24ゲージで3/4インチのカテーテル(サーフロIVカテーテル(Surflo IV catheter)、テルモ・メディカル(Terumo Medical))を側方尾の静脈に固定する。つづいて、この動物に、体重1kgあたり20〜25mgのペントバルビタールを静脈内に徐々に注入することで麻酔をかける。麻酔は、必要であれば、5mgの追加のペントバルビタールを注入して維持する。
同位元素の生物分布データを、エルシント・ダイマックス(Elscint Dymax)409ガンマカメラを用いて収集する。このデータを続いてコンピュータ(シーマンズ・ガンマソニックス・マイクロデルタ(Siemans Gammasonics Microdelta))により分析する。3匹の動物を薄いポリエチレンパネル上に背側の横臥位で配設して画像化する。画像化の間の動きをなくすために、呼吸を制限しないように両手両足をテープ片で止めることによって動物をこれらのパネル上に必要に応じて制止させる。60分間で得られる動的画像を用いることで、標識されたタンパク質の生物分布を調べる。通常は12回の連続的な5分間の画像が低エネルギーの一般用途の視準で得られ、1.5ハードウェアが128×128ピクチャー要素を持つコンピュータマトリックスにズームする。実験動物は、典型的には、37MBqのTc-99m標識されたタンパク質を用いて注射される。
【0155】
結果
トレーサーの生物分布と動態
37MBq(約4〜6μgのTc-99m組換えヒトアルファ−フェトプロテイン)を尾の静脈に投与した後で、トレーサーの生物分布動態を注入後の1時間と24時間目に測定した。組織の取り込み動態は、100ROI(関心のある領域)ピクセル(%IA)あたりの注入された活性%で測定した。急速な腎クリアランスの起こる最初の1時間では肝臓にゆるやかに局在化し、他の組織にはほとんど明白な活性がなかった。1時目の腫瘍の取り込みは(平均±SEM:1.9±0.3%IA)であり、心臓に対する腫瘍(T/H)の領域比は0.84±0.23であった。24時間目までに、腫瘍の取り込みは(0.8±0.1%IA)となり、そしてT/Aおよびバックグラウンドに対する腫瘍(T/B上腕)の領域比は、それぞれ1.43±0.41および2.66±0.54であった。同じ動物で繰り返し行った、99mTc標識されたヒト血清アルブミン(非特異的なタンパク質対照として用いた)に対する、99mTc標識されたrHuAFPの比較実験では、T/B画像ROI活性割当が1時間目と24時間目でそれぞれ99mTc標識されたrHuAFPについては2.7と5.8であり、そして24時間では99mTc標識されたrHuAFPがTc-99mヒト血清アルブミンに比較して40%大きいことを示していた。これらの結果は、rHuAFPがTc-99mで標識できること、またこの標識された試薬が、低い非特異的な組織取り込み、血液からの急速な腎クリアランスを有していることを示している。ヒト乳ガンの外来移植片への局在化は最初は急速に起こり時間につれて増加するが、それは特異的な腫瘍取り込みによるものである。これらの結果は、Tc-99mで標識されたrHuAFPが乳ガン診断薬として有用なことを証明している。
【0156】
診断用の投与
上記に説明したように検出可能な標識に結合させたrHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)は、新生組織(例えば、乳ガンや前立腺ガン)の存在を検出またはモニターまたは検定において診断のために利用することができる。したがって、例えば乳ガンや前立腺ガンなどの癌の典型的な症状が起きていたり、このような癌にかかりやすいことを示す病歴を有している患者は、本発明の方法を用いて試験するとよい。このような試験を行うことが適当な他の患者としては、乳ガンや前立腺ガンの家族歴のある人が含まれる。薬物の投与を受けていたり、癌の発生に影響のある毒素にさらされている患者も試験すべきである。
本発明にかかる検出可能に標識されたrHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)を用いる診断方法は、癌が関与する臨床上の症状が現れる前、または現れた後で、癌の存在を検出すべく用いることができる。
本発明の方法は、臨床上の症状(例えば、明白な腫瘍塊)が現れる前か、現れると同時に新生組織を容易に診断できる。例えば、本発明の方法は、臨床状の症状が現れる前に乳ガンを診断する方法を提供する。さらに、本発明の方法により、医師は、乳ガンや前立腺ガンのような新生組織の的確な診断を行うことが可能となる。
本発明の診断用画像化法は、生理学的に許容される担体中に含まれる診断に有効な量のrHuAFPの診断薬を用いて行うことができる。適当な担体およびその製剤化は、例えば、E. W. Martinによる「レミントンの薬剤学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」に記載されている。投与されるべき診断薬の量は、投与方法、患者の年齢と体重、疾患のタイプ、疾患の程度、そしてその疾患にかかっている患者の体格に応じて変化する。しかしながら、一般的には、その量は、癌の診断に用いられる他の薬物で利用する量の範囲内であろうが、ある場合においては、化合物の特異性が大きいために必要な量はより低くなるであろう。例えば検出可能に標識されたrHuAFPは下記に説明するように、新生組織の画像化が可能となる用量、例えばシンチグラフィーを用いて放射性画像化を行うことが可能となる用量で静脈内に投与される。通常その用量は体重1kgあたり0.1〜10gの範囲内である。
【0157】
本明細書に記載した全ての刊行物、特許、および特許出願は、それぞれが参照として特別にそして個別に組み入れられているものとする。
【0158】
本発明の細胞培養培地
本発明はさらに、細胞培養を行うためのrHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)を含む培地を提供する。rHuAFPは血清の使用の代わりとなるかまたは補充するためのものであるため、本発明の培地には通常、血清(例えば、ウシ胎児血清、ウシ血清、ウマ血清、正常マウス血清、ヒト血清、ブタ血清、ウサギ血清など)の利用は必要でないが、当業者は必要に応じて血清を添加してもよいことを理解し認識することができる。培地の処方は通常、当業者にとって既知の方法により調製される。したがって、例えばRMPI-1630培地、CMRL培地、ダルベッコ修飾イーグル培地(D-MEM)、フィッシャー培地、イスコブ修飾ダルベッコ培地、マッコイ培地、最小必須培地、NCTC培地などの、いかなる標準的な培地を、所望の有効濃度でrHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)とともに処方することもできる。必要に応じて、培地の補充剤、例えば塩溶液(例えば、ハンク平衡塩溶液またはイーグル平衡塩溶液)、抗生物質、核酸、アミノ酸、炭水化物、およびビタミンが、既知の方法により添加される。必要に応じて、成長因子、コロニー刺激因子、サイトカインなども標準的な方法にしたがって培地に添加することができる。例えば、本発明の培地は、rHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)とともに、以下の物質のいずれかを単独でまたは組み合わせて含んでいてもよい:エリスロポエチン、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、インターロイキン(例えば、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5など)、インシュリン成長因子(IGF)、トランスフェリン、アルブミン、および幹細胞成長因子(SCF)。本発明の培地は種々の真核細胞、例えば哺乳動物細胞、酵母細胞、両性類細胞、および昆虫細胞を培養するために有用である。この培地はいかなる組織や器官を培養するためにも用いることができる。またこのような培地は、さまざまな培養条件で、さまざまな生物学的応用に対して用いることもできる。このような培養条件の例には、バイオリアクター(例えば、連続式バイオリアクターまたはフォローファイバー式バイオリアクター)、細胞懸濁培養、半固体培養、液体培養、および長期細胞懸濁培養が含まれるが、これらに限定するわけではない。本発明の培地はまた、産業上の用途、例えばハイブリドーマ細胞、遺伝子操作した哺乳動物細胞、組織または器官を培養するためにも有用である。
【0159】
細胞増殖剤としての組換えヒトアルファ−フェトプロテイン
rHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)についての細胞成長促進作用は、インビトロおよびインビボで細胞増殖を分析するための標準的な検定法によって評価する。以下に説明するように、当技術分野においては、rHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)の細胞成長の促進作用や刺激作用をインビボで試験するための動物系が提供されている。さらに、極めて多様なインビトロ系も、rHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)の成長促進作用や成長刺激作用を試験するために利用可能である。
【0160】
rHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)に応答して増殖するいかなる細胞に、この技術分野において公知の標準的な方法によって確認することができる。例示すると細胞(例えば骨髄細胞)の増殖は、人為的に無血清培地または血清を基本とする培地に添加された被検化合物を単独で含むかまたは他の成長因子と組み合わせて含む液体培地で培養することによってモニターすることができる。またこのような骨髄細胞は薄い寒天またはメチルセルロースからなる半固体状のマトリックスで培養してもよく、そして被検化合物は単独でまたは他の成長因子と組み合わせて無血清培地または血清を減少させた培地に人為的に添加してもよい。半固体状のマトリックスでは、一個の単離された前駆体細胞の子孫がrHuAFPまたはその断片もしくはアナログに応答して増殖していて、識別可能なコロニーとして集結する。例えば一個の骨髄細胞が、NK細胞のような複数個の骨髄細胞からなるクローンを形成することが観察されるであろう。このような培養系は、一個の細胞が単独の、または他の成長因子と組み合わせたrHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)に応答するか否かを検定するための容易な方法を提供する。
【0161】
必要に応じて、増幅された細胞型群の細胞を確認し分離することは、標準的な方法にしたがって行われる。例えば細胞を、蛍光活性化細胞選別法(FACS)によって分析することが可能である。この手法には通常、蛍光色素に結合した抗体を用いて細胞を標識する段階、およびFACS、例えばFACScan(ベクトン・ディックソン(Becton Dickson))で標識されていない細胞から標識された細胞を分離する段階が含まれる。したがって事実上いかなる細胞も、例えば細胞表面抗原の存在を分析することによって同定、分離することができる(例えば、ShahらのJ. Immunol. 140: 1861, 1988参照)。細胞群が得られると、続いてそれを生物化学的に分析したり、またはそれを更に細胞培養を行う際の出発細胞群として用い、それによって細胞の作用を培養における限定的な条件下で評価することが可能となる。
【0162】
ある実施例では、ヒト骨髄細胞の成長に対するrHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)の効果が以下のように調べられる。概略して述べると、インフォームドコンセントを行った後でヒトの骨髄試料を標準的な手法により採取する。例えば、骨髄を健常なドナーの腸骨稜から採取し、室温で燐酸緩衝溶液で希釈する。続いて細胞を洗浄し、適当な生育培地中で培養する。例えば培養物は、50U/mlのペニシリン、50U/mlのストレプトマイシン、および2mMのL-グルタミンを含むマッコイ培地、20〜30ml中に骨髄細胞を接種することによって開始することができる。培養物を被検化合物単独の存在下または非存在下でインキュベートするか、または他の成長因子、例えばトランスフェリンまたはGM-CSFと組み合わせた被検化合物の存在下または非存在下でインキュベートする。この培養物を続いて、5%のCO、5%のO、および90%のNを含む加湿した雰囲気中において、37℃で所望の期間だけインキュベートする。細胞増殖検定は標準的な方法によって行う。例えば被検化合物の存在下および非存在下で培養した複製試料は、1〜2μCiのHTdRで細胞をパルスすることによって分析する。インキュベート期間を終えてから培養物をガラスファイバー製のフィルター上に採集し、取り込まれたHを液体シンチレーションによって測定する。処理を行った細胞と対照の細胞との間の比較実験は、例えばrHuAFPの存在下で培養した細胞をrHuAFPの非存在下で培養した細胞との間の比較であって、それは細胞増殖を刺激する場合の被検分子の相対的な効果を調べるために用いられる。細胞増殖を刺激する分子は本発明において有用であると考えられる。
【0163】
rHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)の増殖効果、例えばインビボでの造血作用における被検化合物の効果を評価するために、被検分子を、ほぼ致死的に照射したマウス(またはシクロスポリンまたはFK-506のような免疫抑制剤で処置したマウス、もしくは5-フルオロウラシルまたはシクロホスファミドのような化学療法剤で処置したマウス、もしくは当技術分野において知られている骨髄を破壊するための他の方法で処置したマウス)と正常のマウスに、例えば静脈投与か腹腔内投与などの標準的な方法で毎日、その適当量を投与する。一般的に処置済のマウスへのこの被検化合物の投与は、例えばほぼ致死的に照射したり免疫療法を行ったり化学療法を行ったりして動物を処理する前、および/または後に開始する。対照動物にはプラセボ、例えばヒト血清アルブミンまたは希釈液が、rHuAFPもしくは関連する分子について行ったのと同様に投与される。造血作用に対する被検分子の効果は、常法にしたがってモニターする。例えば、処理済の動物と対照の動物の両方で末梢血液と脾臓に含まれる白血球細胞の数を分析する。骨髄の質的および量的分析、例えばリンパ球系統や骨髄系統や他の細胞型の分析も、従来の方法にしたがって検出し、分析することができる。処理を行った動物と対照の動物との間の比較データは、細胞増殖を促進する際の被検分子の相対的な効果、例えば骨髄細胞の生成、成熟したBリンパ球、胸腺細胞、または末梢Tリンパ細胞の生成における被検分子の相対的な効果を調べるために用いられる。細胞増殖を刺激する被検分子は、本発明において有用であると考えられる。
【0164】
以下の実施例は、グリコシル化されていないrHuAFPがインビトロで骨髄細胞の成長を刺激することを示している。本実施例は本発明を例示するために提供されているものであって、本発明を限定するものではない。
【0165】
実験
材料および方法
動物
成熟した雄と雌のCBA/Jマウスは、ジャクソン・ラボラトリー(Jackson Laboratory)(バー・ハーバー(Bar Harbor)、マイネ(Maine))より入手した。全てのマウスを、本発明者らの動物施設で飼育し、維持した。本実験で用いた動物は12〜20週齢であった。
【0166】
培養物
骨髄細胞は、滅菌シリンジと25ゲージ針を用い、修飾ダルベッコ燐酸緩衝溶液(PBS)でCBA/Jマウスのけい骨(tibia)および大腿骨を流すことによって採集した。均質な単一細胞の懸濁液は、細胞混合物をパスツールピペットに繰り返し通過させることによって得られた。全ての細胞は250gで10分間、遠心分離することによって2回洗浄し、続いてトリパンブルー色素排除法によって生存能力について評価した。95%またはそれ以上の細胞生存能力がすべての実験で記録された。それから細胞を使用する前に所望の濃度に調節した。骨髄細胞(250,000)を96ウェルの丸底マイクロタイタープレート(フロー・ラボラトリーズ(Flow Laboratories)、ミシソーガ、オンタリオ州、カナダ)中で培養した。培養倍地は、無血清RPMIに4mMのL-グルタミン、20mMのヘルペス、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン(ギブコ・ラボラトリーズ(GIBCO Laboratories)、バーリントン(Burlington)、オンタリオ、カナダ)、5μg/mlのトランスフェリン、および5×10−5の2-メルカプトエタノール(イーストマン・ケミカル社(Eastman Chemicals Co.)、ロチェスター、ニューヨーク州)を添加したものであった。細胞は、rHuAFPの存在下または非存在下でそれぞれ400μg/mlの濃度で培養した。すべての培養物の全容量は0.2mlであった。培養物は、95%の加湿された空気と5%のCOの雰囲気中、37℃で維持した。採集する前の6時間その培養物を1μCiのトリチウム化チミジン(NEN、特異的活性77.1Ci/mmol)でパルス処理した。続いて細胞をガラスファイバーマット(フロー・ラブズ(Flow Labs))上にマルチプルサンプル採集器(スカトロン、フロー・ラブズ)を用いて採集した。水に不溶性のトリチウム化チミジンの取り込みは、標準的なの液体シンチレーション法を用いてLKB 1215 ラックベータ(Rackbeta)IIで測定した。
【0167】
結果
無血清培地における骨髄増殖に対するrHuAFPの効果
培養したマウスの骨髄に対する精製したrHuAFPの効果は、無血清培地中で評価した。この実験では、CBA/Jマウスの骨髄から得られる2.5×10個の生細胞を72時間、無血清培地中において、最終濃度が400μg/mlのrHuAFPと最終濃度が5μg/mlのトランスフェリンの存在下または非存在下で培養した。図10に示したデータは、グリコシル化されていないrHuAFPの存在下で骨髄細胞が強い増殖反応、即ち刺激指標(SI)が35の増殖反応を受けることを示している。骨髄細胞をrHuAFPの非存在下で培養した場合には、このような増殖が見られなかった。
【0168】
治療法
上記に示したように、rHuAFPは細胞増殖の促進において効果があり、したがって、例えば骨髄細胞の増殖などの細胞増殖の促進が関与する治療法で有用であり、また免疫抑制療法、放射線療法、もしくは化学療法、または免疫系を弱めることおよび骨髄の生成を抑制することがわかっていて骨髄毒性を引き起こす他の治療法の副作用を抑制するための治療法において有用である。したがってrHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)は、造血系前駆細胞もしくは幹細胞の不足を治療したり、または関連する疾患を治療したりするために用いられる。また組換えHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)は、癌を治療するための方法でも用いることができるし、また骨髄毒性、放射線または薬物への被爆、そして例えば、白血球減少症、細菌やウイルスの感染症、貧血、自己骨髄移植または非自己骨髄移植の後で起こる免疫細胞や造血細胞の欠乏などのB細胞またはT細胞が欠乏症に至る他の病的な状態を治療するための方法でも用いることができる。組換えHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)はまた、インビトロまたはインビボで巨核細胞およびナチュラルキラー細胞の成長を刺激するためにも用いることが可能である。
【0169】
本発明の培地、条件、および方法はまた、患者から骨髄細胞を除去する段階、その患者に放射線治療または化学療法で処置を行いつつエクスビボでの培養でこれらの細胞を維持する段階、続いて患者の骨髄を回復させる処置を完全に行ったあとでこれらの細胞を患者に戻す段階が関与する骨髄移植(BMT)によって処置が行われる癌を治療するためにも有用である。したがってrHuAFPは、エクスビボでの細胞培養培地で骨髄を再構築させるため、またインビボでの骨髄細胞の増殖を促進させるための手段としてBMTに用いることができる。組換えHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)はまた、他の細胞治療法、例えば細胞増殖および/または遺伝子治療のプロトコル、即ちエクスビボでの細胞培養を必要とする治療法にも有用である。組換えHuAFP(または断片もしくはアナログ)はまた、自己由来のまた同種異系の骨髄移植による拒絶反応を抑制する際にも用いられる。
【0170】
治療上の投与
組換えHuAFP(または断片もしくはアナログ)は、薬学的に有用な組成物を調製するために既知の方法にしたがって製剤化することができる。組換えヒトアルファ−フェトプロテイン、例えばrHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)は好ましくは、骨髄毒性の症状を抑制したり改善したりするのに有効な量で患者に投与される。一般的には体重1kgあたり0.1ng〜10gの範囲の用量が適当である。例えば患者の治療は、生理的に許容される担体に含まれる治療に有効な量のrHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)を用いて行うことができる。適当な担体およびその製剤化は、例えば、E. W. Martinによる「レミントンの薬剤学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」に記載されている。投与されるべきrHuAFPの量は、投与方法、患者の年齢と体重、疾患のタイプ、および疾患の素因を有するか疾患に罹っている患者のサイズに応じて変化する。好ましい投与経路には、経口投与、皮下注射、静脈注射、腹腔内注射、筋肉内注射、経皮注射または皮内注射が含まれ、それは患者において持続的に薬物のレベルを維持させる。他の好ましい投与経路においてrHuAFPは、徐放性の製剤、例えば徐々に崩壊するポリマー状や結晶状の形態の製剤を注入または埋め込みによって患者に投与することができる。この種の持続的投与法は、まず、より一般的な経路(例えば上述した経路)によって薬物を供給した後で行うとよい。またrHuAFPは、薬物の放出速度を正確に制御することが可能な、体外の注入ポンプまたは埋め込み可能な注入ポンプを用いて投与してもよいし、またインシュリンの吸収を促進させるために用いられるのと同じ方式で鼻経路にrHuAFPを投与してもよい。鼻の粘膜を経由して吸収させる別法としてrHuAFPは、粉末状や溶液状のエアロゾルの堆積によって肺に供給することもできる。
【0171】
また本発明の治療方法および組成物は、他のヒト成長因子とともに同時投与法を行ってもよい。このような利用法で用いられる具体的なサイトカインまたは造血素には、例えばインターロイキン(例えばIL-1)、GM-CSF、G-CSF、M-CSF、腫瘍壊死因子(TNF)、トランスフェリン、およびエリスロポエチンのような因子が含まれるが、これらに限定されるわけではない。成長因子様のB細胞成長因子、B細胞分化因子、またはエオシン好性白血球分化因子も、rHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)とともに同時投与する場合に有効であると考えられる。上記に列挙した用量は、治療用組成物に含まれるこのような添加成分を補正するために調節することができる。治療を行った患者の経過は従来法によってモニターできる。
【0172】
治療は骨髄毒性があると診断されるか、またはその疑いがある場合に、一般的には開始され、その症状を改善したり進行や悪化を抑制したりするために規則的に、即ち通常毎日繰り返される。また骨髄毒性症状の発生の予防または抑制も、疾患が起こる前にrHuAFPを投与することによって達成される。必要に応じて治療管理や予防管理の効果は、骨髄毒性について患者をモニターしたり診断したりする方法で評価される。
また本発明の方法は、非ヒト哺乳動物である例えば家庭用ペットや家畜を治療するためにも適用することができる。
【0173】
他の態様
他の態様において本発明は、後天性免疫不全症候群(AIDS)を予防したり治療したりするためにrHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)を利用することを含む。AIDSに対するrHuAFPまたはその断片もしくはアナログの免疫抑制効果、即ちAIDSの自己免疫要素を抑制したり改善したりするといったその化合物の能力を評価するために、被検化合物を標準的な方法、例えば静脈投与または腹腔内投与により、上記に説明したように毎日適当量を適当な動物(例えば、患者)に投与する。一般的に投与は、AIDSが起こる前、および/またはAIDSが臨床的に出現する後に開始される。対照の動物には、プラセボ、例えばヒト血清アルブミンが、rHuAFPもしくは関連する分子について行ったのと同様に投与される。AIDSに対しての被検化合物の効果は、常法にしたがってモニターする。例えば、ヘルパーT細胞の破壊を阻害したり抑制したり改善したりする被検化合物の能力の分析がモニターされる。処置を行った動物と対照の動物との間の比較研究は、AIDSを抑制したり改善したりする被検分子の相対的な効果を調べるために用いられる。AIDSの症状を抑制したり改善したり(減少させたり抑制したり放散させたりその緩解を促進したり)できる分子は、本発明において有用であると考えられる。
【0174】
本発明にはまた、哺乳動物において移植された臓器(例えば、心臓、肝臓、肺、膵臓、および腎臓)、組織(例えば、皮膚、骨、骨髄、硬膜、骨、埋め込まれたコラーゲン、埋め込まれたバイオリアクター)、または細胞(例えば、膵臓β島細胞、幹細胞、造血細胞、リンパ細胞、神経内分泌系の細胞または副腎の細胞)の拒絶反応を阻害するために、治療に有効な量のrHuAFP(またはその断片もしくはアナログ)を使用することも含まれる。このような移植臓器、組織、または細胞はいかなる起源に由来するものであってもよく、例えばこのような生物材料は、同種異系の、表現発生型の(phenogenic)、自己由来の、合成の、人工の、または遺伝子操作したものである。例えばこの方法は、患者がもう一つの種より得た心臓や腎臓などの同種移植の受容者である場合に利用することもできる。
【0175】
ある実施例では、臨床的な移植に対するrHuAFPの免疫抑制効果、即ち移植の拒絶反応(例えば、超急性拒絶反応、急性拒絶反応および慢性拒絶反応)を抑制したり改善したりするrHuAFPの能力は、rHuAFPを標準的な方法、例えば静脈内または腹腔内投与により、毎日適当量をNIHミニブタに投与することによって評価される。一般的にrHuAFPの投与は、移植、例えば腎臓の移植を行う前、および/または移植段階を行った後に開始される。対照の動物には、プラセボ、例えばヒト血清アルブミンが、rHuAFPについて行ったのと同様に投与される。移植の拒絶反応に対するrHuAFPの効果は常法にしたがってモニターする。拒絶反応の経過が顕在化すると、移植した臓器の機能が減少し、例えば排泄尿の分析をモニターすることが可能となる。必要に応じて、腎臓組織の組織学的な検査を行い(例えば、標準的な組織化学的な手法または免疫組織化学的な手法を用いることによって行われる。例えばAusubelら、前記;BancroftおよびStevens、前記、参照)、そして組織試料を移植の拒絶反応の証拠、例えば慢性の間質の繊維化、血管の血栓形成、または異常なリンパ球浸潤の存在について生検を行い顕微鏡で検査する。処置を行った動物と対照の動物との間の比較研究は、移植の拒絶反応を抑制したり改善したりする場合のrHuAFPの相対的な効果を調べるために用いられる。移植の拒絶反応の症状を抑制したり改善したり(減少させたり抑制したり放散させたりその緩解を促進したり)できる組換えHuAFP(断片またはそのアナログ)は、本発明において有用であると考えられる。
【0176】
本明細書に記載した全ての刊行物、操作説明書、特許、および特許出願は、それぞれ参照として特別にそして個別に組み入れられているものとする。
【図面の簡単な説明】
【0177】
初めに図面について説明する。
【図1A】図1Aは、ヒトアルファ−フェトプロテインをコードするcDNAの核酸配列(配列番号:4)及び推定アミノ酸配列(配列番号:5)である。
【図1B】図1Bは、図1Aの続きを示す図である。
【図1C】図1Cは、図1Bの続きを示す図である。
【図1D】図1Dは、図1Cの続きを示す図である。
【図1E】図1Eは、図1Dの続きを示す図である。
【図1F】図1Fは、図1Eの続きを示す図である。
【図1G】図1Gは、図1Fの続きを示す図である。
【図2】図2は、rHuAFP断片I(配列番号:11)の10%SDS-PAGE分析である(レーンAはMWマーカー、レーンBは天然のヒトアルファ−フェトプロテイン(AFP)、レーンCは未精製のrHuAFP、レーンDはrHuAFP断片I、そしてレーンEはrHuAFP(図1のアミノ酸1〜590、配列番号:5)である)。
【図3】図3は、大腸菌由来のrHuAFP及びドメイン断片によるヒトAMLRの阻害を示す棒グラフである。
【図4−1】図4は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動とカラムクロマトグラフィーを用いて、バキュロウイルス由来rHuAFP及び大腸菌由来rHuAFPの純度及び生物化学的特徴を示す一連のグラフ(図4A〜4D)である。図4AはrHuAFPの純度を示す10%非変性アルカリポリアクリルアミドゲルである。マウスの羊水タンパク質(トランスフェリン、AFP及びアルブミン)がレーン1に示されており、天然のHuAFP(レーン2)、バキュロウイルス由来rHuAFP(レーン3)、及び大腸菌由来rHuAFP(レーン4)が示されている。図4Bはバキュロウイルスと大腸菌の発現系を用いて生成させたrHuAFPの純度を示す10%ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲルである。分子量マーカーがレーン1に示されており、天然のHuAFP、バキュロウイルス由来rHuAFP及び大腸菌由来rHuAFPがレーン2、3、及び4にそれぞれ示されている。図4Cは、天然のHuAFP、バキュロウイルス由来rHuAFP及び大腸菌由来rHuAFPをMonoQ陰イオン交換カラム上で溶出した一連のFPLCクロマトグラムである。重ね合わせたクロマトグラムにより、天然のHuAFP(クロマトグラム1)、バキュロウイルス由来rHuAFP(クロマトグラム2)及び大腸菌由来rHuAFP(クロマトグラム3)が同定される。図4Dは、50μgの天然のHuAFPとrHuAFPを逆相デルタパックC18カラム(Waters)を通過させ、0.1%TFA中の1〜100%アセトニロリル勾配で溶出させることによって得られた一連のHPLCクロマトグラムである。重ね合わせたクロマトグラムにより、天然のHuAFP(クロマトグラム1)、バキュロウイルス由来rHuAFP(クロマトグラム2)及び大腸菌由来rHuAFP(クロマトグラム3)が同定される。
【図4−2】図4-2は、図4-1の続きを示す図である。
【図5】図5は、抗天然HuAFP抗体が、バキュロウイルス発現系および大腸菌発現系を用いて生成させたrHuAFPによるAMLRの免疫抑制作用を遮断することを示す棒グラフである。バキュロウイルスと大腸菌の発現系を用いて生成させたrHuAFPによる免疫抑制作用は有意(p<0.002)であり、また抗天然HuAFP(a AFP)モノクローナル抗体による、AMLRによるrHuAFP仲介型免疫抑制作用の抑制も有意(p<0.03)であった。AMLR培養は、タンパク質の存在下または非存在下において、2×105個の応答性T細胞を用いて2.5×105個の照射された自己由来の非T細胞とともに開始し、144時間で採取してから、自己増殖性を自己反応性のT細胞によって取り込まれた3H-チミジンの量により測定した。rHuAFPの自己増殖効果の遮断は、マウスの抗ヒトAFPモノクローナル抗体を、100μg/mlのバキュロウイルス由来のrHuAFP(斜線の棒グラフ)によって抑制されたAMLR培養物及び100μg/mlの大腸菌由来のrHuAFP(白い棒グラフ)によって抑制されたAMLR培養物に、1/8(125μg/ml)に希釈して添加することによって行われた。対照の培養物は、抗ヒトAFP(a AFP)モノクローナル抗体を1/8に希釈して含むAMLR培養物からなる。
【図6】図6は、ヒトAMLR(図6A)とPBL(図6B)分析を用いてrHuAFP仲介型免疫抑制効果を示す一連の棒グラフ(図6Aおよび6B)である。図6Aは、250,000個のT細胞を等量の自己由来の照射された非Tリンパ球とともに混合培養することによって調製した自己混合リンパ球反応(AMLR)の結果を示す。大腸菌発現系およびバキュロウイルス発現系に由来する組換えHuAFP調製物およびアルブミンを培養の開始時に100μg/mlの濃度で添加した。増殖応答性は、144時間を経た時点での3H-チミジン取り込みによって測定した。図6Bは、1μg/mlのConAで刺激したPBL(2×105)を、2mg/mlのアルブミンのみを補充したRPMI培地中で48時間培養した結果を示す。アルブミン、ならびに大腸菌由来rHuAFPおよびバキュロウイルス由来rHuAFPを、開始時の培養物に100μg/mlの濃度で添加した。増殖応答性は、DNA合成を行う間に取り込まれたH-チミジンの量として測定した。SEMを平均値の5%以下となるように決定した。
【図7】図7は、pVT-PlacZのプラスミド地図である。
【図8】図8は、T細胞活性化の速度に対するrHuAFPの阻害効果(図8A)および自己増殖性T細胞に対するrHuAFPの用量−反応関係(図8B)を示す一連のグラフである。図8Aは、rHuAFPの非存在下(▽)および100μg/mlのrHuAFPの存在下(黒逆三角)で培養した細胞の4日間経過する間の増殖応答性を示すグラフである。(・)は別個に培養した応答細胞群についてのバックグラウンドの増殖性を示している。この時間経過でのAMLRに対する組換えHuAFP仲介型抑制作用は、有意であった(p<0.01)。図8Bは、6〜100μg/mlの範囲内のrHuAFPの量(黒逆三角)による144時間経過した時点における自己増殖性T細胞の阻害を示すグラフである。(▽)は、タンパク質の非存在下での反応の対照の応答性を示している。12.5〜100μg/mlの範囲内のrHuAFPによる自己反応性T細胞の阻害は有意である(p<0.005)。
【図9】図9は、エストロゲンにより刺激したMCF-7乳ガン細胞のコンフルエント後増殖に対するrHuAFPの効果を示す棒グラフである。
【図10】図10は、400μg/mlのrHuAFPおよび5μg/mlのトランスフェリンの両方の存在下または非存在下での、無血清RPMI培地中におけるマウスの骨髄増殖を示す棒グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
図1のアミノ酸1〜389(配列番号:9)と実質的に同一な配列またはその断片を含む、実質的に純粋な生物学的に活性な組換え型ヒトα-フェトプロテイン。
【請求項2】
ヒトα-フェトプロテインが原核細胞を用いて産生される、請求項1記載の純粋な組換え型ヒトα-フェトプロテイン。
【請求項3】
図1のアミノ酸198〜590(配列番号:10)と実質的に同一な配列またはその断片を含む、実質的に純粋な生物学的に活性な組換え型ヒトα-フェトプロテイン。
【請求項4】
ヒトα-フェトプロテインが原核細胞を用いて産生される、請求項3記載の純粋な組換え型ヒトα-フェトプロテイン。
【請求項5】
図1のアミノ酸198〜389(配列番号:7)と実質的に同一な配列またはその断片を含む、実質的に純粋な生物学的に活性な組換え型ヒトα-フェトプロテイン。
【請求項6】
ヒトα-フェトプロテインが原核細胞を用いて産生される、請求項5記載の純粋な組換え型ヒトα-フェトプロテイン。
【請求項7】
図1のアミノ酸390〜590(配列番号:8)と実質的に同一な配列またはその断片を含む、実質的に純粋な生物学的に活性な組換え型ヒトα-フェトプロテイン。
【請求項8】
ヒトα-フェトプロテインが原核細胞を用いて産生される、請求項7記載の純粋な組換え型ヒトα-フェトプロテイン。
【請求項9】
図1のアミノ酸267〜590(配列番号:11)と実質的に同一な配列またはその断片を含む実質的に純粋な生物学的に活性な組換え型ヒトα-フェトプロテイン。
【請求項10】
ヒトα-フェトプロテインが原核細胞を用いて産生される、請求項9記載の純粋な組換え型ヒトα-フェトプロテイン。
【請求項11】
請求項1、3、5、7、および9記載の実質的に純粋なヒト組換え型α-フェトプロテインを含む治療用組成物。
【請求項12】
以下を含む、生物学的に活性な組換え型ヒトα-フェトプロテインまたはその断片もしくはアナログを産生するために昆虫細胞を用いる方法。
a) 該ヒトα-フェトプロテインまたはその断片もしくはアナログの発現を指向する発現調節因子に機能的に結合した該ヒトα-フェトプロテインまたはその断片もしくはアナログをコードする組換え型DNA分子を含む形質転換した昆虫細胞の提供;
b) 該形質転換細胞の培養;および
c) 該生物学的に活性なヒトα-フェトプロテインまたはその断片もしくはアナログの回収。
【請求項13】
昆虫細胞がスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
請求項12記載の方法によって産生される、実質的に純粋なヒトα-フェトプロテインまたはその断片もしくはアナログ。
【請求項15】
請求項14記載の実質的に純粋なヒトα-フェトプロテインまたはその断片もしくはアナログを含む治療用組成物。
【請求項16】
組換え型ヒトα-フェトプロテインまたはその免疫細胞抗増殖性断片もしくはアナログの治療的有効量を哺乳類に投与することを含む、哺乳類における自己反応性免疫細胞の増殖を阻害する方法。
【請求項17】
免疫細胞がT細胞を含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
免疫細胞がB細胞を含む、請求項16記載の方法。
【請求項19】
哺乳類がヒト患者である、請求項16記載の方法。
【請求項20】
組換え型α-フェトプロテインが原核細胞において産生され、グリコシル化されていない、請求項16記載の方法。
【請求項21】
原核細胞が大腸菌である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
方法が組換え型ヒトα-フェトプロテインまたはその免疫細胞抗増殖性断片もしくはアナログの治療的有効量を哺乳類に投与することを含む、哺乳類における自己免疫疾患の治療法。
【請求項23】
自己免疫疾患が多発性硬化症である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
自己免疫疾患がリウマチ性関節炎である、請求項22記載の方法。
【請求項25】
自己免疫疾患が重症筋無力症である、請求項22記載の方法。
【請求項26】
自己免疫疾患がインスリン依存型真性糖尿病である、請求項22記載の方法。
【請求項27】
自己免疫疾患が全身性エリテマトーデスである、請求項22記載の方法。
【請求項28】
組換え型α-フェトプロテインが原核細胞において産生され、グリコシル化されていない、請求項22記載の方法。
【請求項29】
原核細胞が大腸菌である、請求項28記載の方法。
【請求項30】
免疫抑制剤を単独で使用する場合の標準用量より少ない有効量で免疫抑制剤を哺乳類に投与することをさらに含む、請求項16記載の方法。
【請求項31】
耐性化剤を哺乳類に投与することをさらに含む、請求項16記載の方法。
【請求項32】
組換え型ヒトα-フェトプロテインが原核細胞において産生され、グリコシル化されていない、請求項30または請求項31記載の方法。
【請求項33】
原核細胞が大腸菌である、請求項32記載の方法。
【請求項34】
免疫抑制剤がシクロスポリンである、請求項30記載の方法。
【請求項35】
免疫抑制剤がステロイド、アザチオプリン、FK-506、または15-デオキシスペルガリンである、請求項30記載の方法。
【請求項36】
組換え型ヒトα-フェトプロテインまたはその抗新生組織断片もしくはアナログの治療的有効量を哺乳類に投与することを含む、哺乳類において新生組織を阻害する方法。
【請求項37】
哺乳類がヒト患者である、請求項36記載の方法。
【請求項38】
新生組織が悪性腫瘍である、請求項36記載の方法。
【請求項39】
悪性腫瘍が乳癌である、請求項38記載の方法。
【請求項40】
悪性腫瘍が前立腺癌である、請求項38記載の方法。
【請求項41】
組換え型ヒトα-フェトプロテインが原核細胞において産生され、グリコシル化されていない、請求項36記載の方法。
【請求項42】
原核細胞が大腸菌である、請求項41記載の方法。
【請求項43】
新生組織の細胞が組換え型ヒトα-フェトプロテインによって認識される受容体を発現する、請求項36記載の方法。
【請求項44】
新生組織が癌である、請求項36記載の方法。
【請求項45】
新生組織が腺癌である、請求項36記載の方法。
【請求項46】
新生組織が肉腫である、請求項36記載の方法。
【請求項47】
新生組織がエストロゲンに反応して増殖する、請求項36記載の方法。
【請求項48】
投与により哺乳類における新生組織の細胞増殖が阻害される、請求項36記載の方法。
【請求項49】
投与により哺乳類における新生組織の細胞が死滅する、請求項36記載の方法。
【請求項50】
化学療法剤が単独で用いられる場合の標準用量より少ない有効量で化学療法剤を哺乳類に投与することをさらに含む、請求項36記載の方法。
【請求項51】
組換え型ヒトα-フェトプロテインの治療的有効量を哺乳類に投与することを含む、哺乳類を新生細胞発症から保護する方法。
【請求項52】
組換え型ヒトα-フェトプロテインが原核細胞において産生され、グリコシル化されていない、請求項51記載の方法。
【請求項53】
原核細胞が大腸菌である、請求項52記載の方法。
【請求項54】
細胞障害剤と結合した組換え型ヒトα-フェトプロテインを含むハイブリッドサイトトキシン。
【請求項55】
細胞障害剤が蛋白である、請求項54記載のハイブリッドサイトトキシン。
【請求項56】
細胞障害剤が組換え型ヒトα-フェトプロテインと化学結合する、請求項54記載のハイブリッドサイトトキシン。
【請求項57】
サイトトキシンがペプチド結合によって組換え型ヒトα-フェトプロテインに結合し、ハイブリッドトキシンが遺伝子操作したハイブリッドDNA分子の発現によって産生される、請求項54記載のハイブリッドサイトトキシン。
【請求項58】
ヒト新生細胞に結合できる、検出可能に標識した組換え型ヒトα-フェトプロテインまたは検出可能に標識したその断片もしくはアナログ。
【請求項59】
放射性核種によって標識した請求項58記載の分子。
【請求項60】
放射性核種がテクネチウム-99mである、請求項59記載の分子。
【請求項61】
組換え型ヒトα-フェトプロテインが原核細胞において産生され、グリコシル化されていない、請求項58記載の分子。
【請求項62】
原核細胞が大腸菌である、請求項61記載の分子。
【請求項63】
以下を含む、ヒト患者においてインビボで新生細胞含有領域を画像化する方法:
(a) 請求項58記載の検出可能に標識した分子を提供する;
(b) 該患者に該分子を投与する;
(c) 該標識分子を結合させ、該領域を含む該領域から非結合分子を除去させる;
(d) 該新生細胞含有領域の画像を得る。
【請求項64】
領域が乳房である、請求項63記載の方法。
【請求項65】
領域が前立腺である、請求項63記載の方法。
【請求項66】
領域が骨髄である、請求項63記載の方法。
【請求項67】
領域が肝臓である、請求項63記載の方法。
【請求項68】
画像がシンチグラフィーを用いて得られる、請求項63記載の方法。
【請求項69】
以下を含む、生物学的サンプルにおける新生組織の診断法:
(a) 生物学的サンプルを検出可能に標識した請求項58記載の分子と接触させ;および
(b) 基底レベル以上の標識が検出されることにより、患者が新生組織を有することが示される、該サンプルに結合した該標識の検出。
【請求項70】
生物学的サンプルが接触段階の前に固定および切片にした細胞を含み、該サンプルに結合した標識が該細胞の細胞膜に相当する領域に結合する、請求項69記載の方法。
【請求項71】
生物学的サンプルがヒト患者の乳房からのものである、請求項69記載の方法。
【請求項72】
生物学的サンプルがヒト患者の前立腺からのものである、請求項69記載の方法。
【請求項73】
以下を含む、インビボにおいて哺乳類の新生組織を検出する方法:
(a) 請求項58記載の検出可能に標識した分子の診断的有効量を投与し;および
(c) 標識が基底レベル以上の量であれば、哺乳類における該新生組織の存在を示す、該哺乳類の組織に結合した検出可能な標識の存在を検出する。
【請求項74】
哺乳類が乳癌の疑いがあるヒト患者であり、組織が乳房組織である、請求項73記載の方法。
【請求項75】
哺乳類が前立腺癌の疑いがあるヒト患者であり、組織が前立腺組織である、請求項73記載の方法。
【請求項76】
検出可能な標識が放射性核種であり、検出段階が放射線造影によって達成される、請求項73記載の方法。
【請求項77】
放射性核種がテクネチウム-99mであり、放射線造影がシンチグラフィーである、請求項76記載の方法。
【請求項78】
(a) 組換え型ヒトα-フェトプロテインまたはその断片もしくはアナログを含む第一試薬;および
(b) 検出可能な標識を含む第二試薬
を含むキット。
【請求項79】
検出可能な標識が放射性核種である、請求項78記載のキット。
【請求項80】
放射性核種がテクネチウム-99mである、請求項79記載のキット。
【請求項81】
放射性核種がヨードまたはインジウムを含む、請求項79記載のキット。
【請求項82】
検出可能な標識を組換え型ヒトα-フェトプロテインまたはその断片もしくはアナログに結合させるための第三試薬をさらに含む、請求項78記載のキット。
【請求項83】
検出可能な標識が酵素、蛍光、または抗体を含む、請求項78記載のキット。
【請求項84】
組換え型ヒトα-フェトプロテインまたはその断片もしくはアナログに結合した検出可能な標識を検出するための第四試薬をさらに含む、請求項78記載のキット。
【請求項85】
組換え型ヒトα-フェトプロテインが原核細胞において産生され、グリコシル化されていない、請求項78記載のキット。
【請求項86】
原核細胞が大腸菌である、請求項78記載のキット。
【請求項87】
組換え型ヒトα-フェトプロテインまたはその細胞刺激断片もしくはアナログを含む、細胞培養培地。
【請求項88】
組換え型ヒトα-フェトプロテインが原核細胞において産生され、グリコシル化されていない、請求項87記載の培地。
【請求項89】
原核細胞が大腸菌である、請求項88記載の培地。
【請求項90】
(a) 請求項87記載の培養培地を提供し;(b) 細胞を提供し;および(c) 該細胞が増殖し維持される該培地中で該細胞を増殖させることを含む、細胞培養法。
【請求項91】
細胞が哺乳類細胞である、請求項90記載の方法。
【請求項92】
細胞が骨髄細胞である、請求項91記載の方法。
【請求項93】
骨髄細胞がT細胞である、請求項92記載の方法。
【請求項94】
骨髄細胞がナチュラルキラー細胞である、請求項92記載の方法。
【請求項95】
骨髄細胞がリンパ球である、請求項92記載の方法。
【請求項96】
細胞がハイブリドーマである、請求項91記載の方法。
【請求項97】
方法がエクスビボ細胞培養を含む、請求項90記載の方法。
【請求項98】
組換え型ヒトα-フェトプロテインまたはその骨髄毒性阻害アナログもしくは断片の治療的有効量を哺乳類に投与することを含む、哺乳類において骨髄毒性を阻害する方法。
【請求項99】
哺乳類がヒト患者である、請求項98記載の方法。
【請求項100】
組換え型ヒトα-フェトプロテインが原核細胞で産生され、グリコシル化されていない、請求項99記載の方法。
【請求項101】
原核細胞が大腸菌である、請求項100記載の方法。
【請求項102】
組換え型α-フェトプロテインまたはその抗抑制性断片もしくはアナログの有効量を哺乳類に投与することを含む、哺乳類において骨髄細胞増殖の抑制を阻害する方法。
【請求項103】
組換え型ヒトα-フェトプロテインが原核細胞において産生され、グリコシル化されていない、請求項102記載の方法。
【請求項104】
原核細胞が大腸菌である、請求項103記載の方法。
【請求項105】
組換え型ヒトα-フェトプロテインまたはその細胞刺激断片もしくはアナログの有効量を哺乳類に投与することを含む、哺乳類において骨髄細胞増殖を促進する方法。
【請求項106】
組換え型ヒトα-フェトプロテインが原核細胞において産生され、グリコシル化されていない、請求項105記載の方法。
【請求項107】
原核細胞が大腸菌である、請求項106記載の方法。
【請求項108】
組換え型ヒトα-フェトプロテインまたはその抗拒絶断片もしくはアナログの有効量を哺乳類に投与することを含む、哺乳類において骨髄細胞移植拒絶反応を予防する方法。
【請求項109】
組換え型ヒトα-フェトプロテインが原核細胞において産生され、グリコシル化されていない、請求項108記載の方法。
【請求項110】
原核細胞が大腸菌である、請求項109記載の方法。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図1C】
image rotate

【図1D】
image rotate

【図1E】
image rotate

【図1F】
image rotate

【図1G】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4−1】
image rotate

【図4−2】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2008−73041(P2008−73041A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−243055(P2007−243055)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【分割の表示】特願平8−523001の分割
【原出願日】平成8年1月24日(1996.1.24)
【出願人】(507279303)メリマク ファーマシューティカルズ インコーポレーティッド (1)
【Fターム(参考)】