説明

経皮ドラッグデリバリ用マイクロニードルの製造方法

【課題】生分解性材料を被加工物として用いてドライエッチングにより得ることができる経皮ドラッグデリバリ用マイクロニードルの製造方法を提供する。
【解決手段】Siウェーハ10にポリ乳酸膜12を形成し(STEP1)、ポリ乳酸膜12の上にAl膜14を形成し(STEP2)、AL膜14を加工してパターン化された加工マスク20を得(STEP5)、ドライエッチングによりポリ乳酸膜12を加工してマイクロニードル22を得る(STEP6)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経皮ドラッグデリバリ用マイクロニードルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲み薬や注射は、薬を一度に体内に入れるため、時間をかけて少しずつ投薬する用途に向いていない。また、薬を与えることが有効な時間と、例えば寝ている間等の無意味な時間があり、例えば比較的少量の薬を一定量に保って供給し続けたり、一定時間間隔での投薬など、最も治療効果の上がるタイミングで必要量を投薬することにより高価な薬品を節約しかつ副作用を最小限に抑えたりするためにはコントロールされた投薬が求められている。
【0003】
皮膚を通して薬品を体内に入れる経皮ドラッグデリバリ用マイクロニードル(microneedle for transdermal drug delivery :経皮吸収用マイクロニードルともいう。)は、上記のコントロールされた投薬に向いている(例えば非特許文献1参照)。
この場合、マイクロニードルの長さ寸法は、マイクロニードルの先端を最外皮層である角質層を貫通させるには例えば20μm以上程度が必要であり、またさらに、角質層の下層の表皮を貫通させるには例えば60〜200μm程度が必要である。さらにまた、マイクロニードルの長さ寸法は、皮膚がマイクロニードルで押し込まれ、めり込んだときでも確実に表皮下にマイクロニードル先端が達するためには500μm程度あることが望ましい。一方、マイクロニードルの長さ寸法は、極端に長すぎると、マイクロニードルの先端が神経層まで到達して痛みの抑制効果が阻害されるので好ましくないといわれている。なお、基部上に多数の突起(マイクロニードル本体部)がアレイ状に設けられるマイクロニードルの場合、突起の高さとして上記の寸法が必要となる。
マイクロニードルの径寸法は、皮膚を穿孔するのに必要な十分な細さである例えば数〜100μm程度であることが望ましい。
このような経皮ドラッグデリバリ用マイクロニードルとして、MEMS(Micro Electro Mechanical System 微小電子機械システム:マイクロマシンシステムともいう。)技術を用いて、Siを材料として加工して得るマイクロニードルの製造方法が提案されている(例えば非特許文献2参照)。このMEMSは、微小加工技術である半導体プロセス技術を利用して小型のメカニカルデバイスや構造体を得るのに広く用いられている技術である。
【0004】
しかし、仮に、マイクロニードルが折れて体内にとどまった場合のことを考えると、マイクロニードルは生体に影響を及ぼさない材料で形成することが必要であるが、Siについては、有害で無いことの実証がいまだなされていない。
【0005】
そこで、生分解性材料を用いたマイクロニードルが検討されている。生分解性材料は、たとえ体内にとどまっても時間とともに分解され、生体に無害である。このような生分解性材料としては、例えばポリ乳酸等が用いられる。
この場合、MEMS技術で加工してマイクロニードルを得ようとすると、例えば融点が170〜180℃程度のポリ乳酸に代表されるように、低融点の生分解性材料が発熱を伴う加工過程で溶融する等してマイクロニードルを得ることが困難である。
このため、生分解性材料製のマイクロニードルの製造方法としては、Siで原型を作り、例えばPDMS(polydimethylsiloxane : ポリジメチルシロキサン)等の樹脂で型をとり、この型で生分解性材料を成形して作る方法が一般的である(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−142183号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Park, J., Allen, M.G., and Prausnitz, M.R.,Polymer Microneedles for Controlled-Release Drug Delivery, PharmaceuticalResearch, 2006
【非特許文献2】McAllister, D.V., et al., Microfabricatedneedles for transdermal delivery of macromolecules and nanoparticles:Fabrication methods and transport studies, PNASm Vol.100, No.24,pp.13755-13760, 2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の生分解性材料製のマイクロニードルの製造方法では、原型を作る工程等の多数の工程が必要である。また、先端部の先鋭化が求められるとともに、幅に対する長さについて高いアスペクト比が必要となるマイクロニードルを得るためには、製造工程が複雑となる。このことは、プロトタイプ作りや研究等の多品種少量生産を行ううえでも適当ではない。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、生分解性材料を被加工物として用いてドライエッチングにより得ることができる経皮ドラッグデリバリ用マイクロニードルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る経皮ドラッグデリバリ用マイクロニードルの製造方法は、ステージ上に配置される基板上に設ける生分解性材料からなる被加工物に金属エッチングマスクを形成し、ドライエッチングにより被加工物を加工してマイクロニードルを得ることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る経皮ドラッグデリバリ用マイクロニードルの製造方法は、好ましくは、前記金属エッチングマスクの形成された前記被加工物を露出する開口を有する遮蔽部で前記ステージを覆ってドライエッチングすることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る経皮ドラッグデリバリ用マイクロニードルの製造方法は、好ましくは、ICP−RIEによりドライエッチングすることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る経皮ドラッグデリバリ用マイクロニードルの製造方法は、好ましくは、前記生分解性材料がポリ乳酸であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る経皮ドラッグデリバリ用マイクロニードルの製造方法は、好ましくは、前記基板上に設けた前記生分解性材料からなる被加工物を脱気した後に、前記金属エッチングマスクを形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る経皮ドラッグデリバリ用マイクロニードルの製造方法は、ステージ上に配置される基板上に設ける生分解性材料からなる被加工物に金属エッチングマスクを形成し、ドライエッチングにより被加工物を加工してマイクロニードルを得るため、エッチングマスクとして、例えば酸素プラズマで加工する際に表面が硬化するため、レジスト兼加工マスクとして使えるSPP(Silicone-based Positive Photoresist)等のレジストを用いた場合にレジスト成分、溶媒との化学反応やドライエッチングの際に加わる熱により生じうる被加工物の損傷を、軽減することができる。また、金属エッチングマスクの材料にレジストを設けてパターニングにより金属エッチングマスクを得る際にベーキング等により加わる熱で被加工物に生じうる損傷を、金属エッチングマスクの材料あるいは金属エッチングマスクが熱に対する保護膜として作用することで軽減することができる。
また、本発明に係る経皮ドラッグデリバリ用マイクロニードルの製造方法は、好ましくは、金属エッチングマスクの形成された被加工物を露出する開口を有する遮蔽部でステージを覆ってドライエッチングするため、ドライエッチングの際に加わる熱により被加工物に生じうる損傷を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は経皮ドラッグデリバリ用マイクロニードルの製造方法の一例を説明するための図である。
【図2】図2は遮蔽部を含む構造物を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態について、図を参照して、以下に説明する。
【0018】
本実施の形態に係る経皮ドラッグデリバリ用マイクロニードルの製造方法は、ステージ上に配置される基板上に設ける、生分解性材料からなり、マイクロニードルに加工される被加工物の表面に、金属材料からなるエッチング用マスクである金属エッチングマスク(金属加工マスク)を形成し、ドライエッチングにより被加工物を加工してマイクロニードルを得る。
【0019】
ステージ及び基板(substrate)は、Si(Silicon)で形成することが好ましいが(SiチップあるいはSi ウェーハ)、これに限らず、Al(アルミニウム)、Cu(銅)等の適宜の材料で形成することができる。
【0020】
生分解性材料は、ポリ乳酸(Polylactic
acid)を用いることが好ましいが、これに限らず、ポリカプロラクトン、変性ポリビニルアルコール、カゼイン、ポリグリコール酸等適宜のものを用いることができる。
【0021】
金属エッチングマスク(金属製エッチングマスク)は、Alで形成することが好ましいが、これに限らず、Ti(チタン)、Au(金)等の適宜の金属材料で形成することができる。
【0022】
ドライエッチングは、パターンに忠実なエッチングができる点(異方性)、基板等に与える損傷が比較的小さい点(低損傷)、エッチング速度が大きい点(高速性)及び被加工物を重金属汚染しない点(低汚染性)において優れる。
ドライエッチングは、ICP−RIE(Inductive
Coupled Plasma-Reactive Ion etching 誘導結合型反応性イオンエッチング)を用いることが好ましい。ただし、これに限らず、プラズマ発生法としては、CCP(Capacitive Coupled Plasma)、ECR(Electron Cyclotron Resonance)等の適宜の方法を用いることができ、また、反応性イオンエッチング法に変えて、イオンビームエッチング、スパッタエッチング等の適宜の方法を用いることができる。
【0023】
以上説明した本実施の形態に係る経皮ドラッグデリバリ用マイクロニードルの製造方法によれば、エッチングマスクとして例えば酸素プラズマで加工する際に表面が硬化するため、レジスト兼加工マスクとして使えるSPP(Silicone-based Positive
Photoresist)等のレジストを用いた場合にレジスト成分、溶媒との化学反応やドライエッチングの際に加わる熱により生じうる被加工物の損傷を軽減することができる。また、金属エッチングマスクの材料にレジストを設けてパターニングにより金属エッチングマスクを得る際にベーキング等により加わる熱で被加工物に生じうる損傷を、金属エッチングマスクの材料(金属膜)あるいはパターニングした金属エッチングマスクが熱に対する保護膜として作用することで軽減することができる。
【0024】
つぎに、図1を参照して、本実施の形態に係る経皮ドラッグデリバリ用マイクロニードルの製造方法の一例についてさらに詳細に説明する。
【0025】
まず、Siウェーハ(基板)10に塗布法その他の適宜の方法によりポリ乳酸膜(生分解性材料膜)12を形成する(図1中、STEP1参照)。例えば、粉末タイプのポリ乳酸をSiウェーハ上に配置し、例えばホットプレート、オーブンを用い、あるいは電磁誘導加熱して溶融させSiウェーハ上に展開させてポリ乳酸膜12を形成する。その後、ポリ乳酸膜を冷却する。
【0026】
この場合、得られるポリ乳酸膜12が内部に気泡を含みあるいはその表面に気泡が付着するおそれがあるため、真空脱気法、加熱脱気法等の適宜の脱気法(脱泡法)により、気泡を取り除いておくと、ドライエッチングの際に気泡の存在によって生じうる突沸を確実に防止することができてより好ましい。
【0027】
つぎに、ポリ乳酸膜12の上に、例えばスパッタ法等の適宜の方法によりAl膜(金属膜)14を形成する(図1中、STEP2参照)。
【0028】
つぎに、例えばフォトリソグラフィ等の適宜の方法を用いたパターニングによりAl膜14を加工して、パターン化された加工マスク(金属エッチングマスク)20を得る(図1中、STEP3−STEP5参照)。
このとき、まず、例えばフェノール樹脂、アジド化合物等の適宜の材料のフォトレジスト16を用いるとともに例えばガラスの表面にチタンあるいはエマルジョン等の適宜の材料によりパターンが形成されているフォトマスク18を透過させて、例えば紫外線を照射して、(図1中、STEP3参照:露光工程)、フォトレジスト16をパターニングする(図1中、STEP4参照:現像工程)。
ついで、例えばウエットエッチングによりパターン化された加工マスク20を形成する(図1中、STEP5参照)。ウエットエッチングを行う場合、例えばリン酸、硝酸及び酢酸の混合液をエッチング剤として用いることができる。
この工程において、レジストのベーク等で熱を使うことになるが、パターン化される前後のAl膜14あるいは加工マスク20に保護されるポリ乳酸膜12が溶けることはほとんどない。
【0029】
つぎに、例えばICP−RIE等の適宜のドライエッチングによりポリ乳酸膜12を加工してマイクロニードル22を得る(図1中、STEP6参照)。なお、ここでは図示を省略しているが、説明を後述する図2に示すように、ポリ乳酸膜12が形成された基板10は、陰極となるステージ上に配置される。
マイクロニードル22は、基部22aと基部22aから突設される多数のマイクロニードル本体部22bで構成されるアレイ形状タイプである。マイクロニードル本体部22bの先端に残存するフォトレジスト等は適宜の方法により除去する。なお、本製造方法は1本あるいは分離した複数本のマイクロニードルを得る場合にも用いることができることはいうまでもない。
このとき、例えばエッチングガスとして酸素を用いると、ポリ乳酸膜12を保護する保護膜として酸素プラズマに耐えるものを用いる必要があるが、加工マスク20はこのような保護膜として好適である。
【0030】
この場合、ドライエッチングを図2に示す構造物を用いて行うと、より好ましい。
図2に示す構造物は、ポリ乳酸膜12等が形成されたSiウェーハ10(図1中、STEP5参照。図2では、加工マスク20等の図示を省略している。)が、例えばSiウェーハ製の基台24の上に置かれ、さらに、陰極となるステージ26の凹部26a内に置かれる。
ステージ26は、好ましくは、窒素あるいはヘリウム等を用いた冷却装置により下面側から冷却される。
ステージ26の周壁26bの上部に、ポリ乳酸膜12(被加工物)等を露出する開口28aを有し、ステージ26を覆う遮蔽部28が設けられる。
遮蔽部28は、ドライエッチングの際の発熱に耐性を有するものである限り適宜の材料で形成することができるが、例えばAl等の金属で形成することがより好ましい。ドライエッチングの際の例えば酸素プラズマは、ポリ乳酸膜12等へ照射されるほかは、ステージ26等への照射は遮蔽部28により遮断される。
これにより、ステージ26等が酸素プラズマによって加熱され、熱伝導等によってSiウェーハ10さらにはポリ乳酸膜12が加熱されることが軽減されるため、ポリ乳酸膜12の変形や溶解等の損傷をより好適に防止することができる。
【0031】
なお、本発明者らは、ドライエッチングにより被加工物を加工してマイクロニードルを得る際の熱による被加工物の損傷を軽減する上記以外の方法として、遮蔽部を設けることなく冷却したヘリウムガスでステージ上の被加工物を冷却することを試みたが、加工マスクのパターンの損傷が見られた。また、ポリ乳酸膜12も溶解したものと思われる。
【0032】
本実施の形態に係る経皮ドラッグデリバリ用マイクロニードルの製造方法により得られるマイクロニードル22は、図1に示すような非孔性のものであってもよいが、これに限らず、適宜の製造過程で適宜の方法によりマイクロニードル22の軸方向に貫通孔を形成したものであってもよい。
前者の非孔性マイクロニードルの場合、マイクロニードルの表面に塗布した薬液が皮下で溶解する。一方、後者の貫通孔を形成したマイクロニードルの場合、貫通孔を介して皮下に薬液が注入される。
【符号の説明】
【0033】
10 基板(Si)
12 ポリ乳酸膜
14 Al膜
16 フォトレジスト
18 フォトマスク
20 加工マスク
22 マイクロニードル
24 基台(Siウェーハ)
26 ステージ
26a 凹部
26b 周壁
28 遮蔽部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステージ上に配置される基板上に設ける生分解性材料からなる被加工物に金属エッチングマスクを形成し、ドライエッチングにより該被加工物を加工してマイクロニードルを得ることを特徴とする経皮ドラッグデリバリ用マイクロニードルの製造方法。
【請求項2】
前記金属エッチングマスクの形成された前記被加工物を露出する開口を有する遮蔽部で前記ステージを覆ってドライエッチングすることを特徴とする請求項1記載の経皮ドラッグデリバリ用マイクロニードルの製造方法。
【請求項3】
ICP−RIEによりドライエッチングすることを特徴とする請求項1または2に記載の経皮ドラッグデリバリ用マイクロニードルの製造方法。
【請求項4】
前記生分解性材料がポリ乳酸であることを特徴とする請求項1または2記載の経皮ドラッグデリバリ用マイクロニードルの製造方法。
【請求項5】
前記基板上に設けた前記生分解性材料からなる被加工物を脱気した後に、前記金属エッチングマスクを形成することを特徴とする請求項1または2に記載の経皮ドラッグデリバリ用マイクロニードルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−98130(P2011−98130A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255659(P2009−255659)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【Fターム(参考)】