説明

結合構造物

【課題】熱膨張率が異なる2つの部材間の位置決めが可能なノックピンを備える結合構造物において、ノックピンの損傷を防止する。
【解決手段】結合構造物であるコンデンサ26は、熱膨張率が異なるコンデンサ素子28及びケース30と、ケース30に対するコンデンサ素子28の位置を決定するノックピン32と、ノックピン32により位置決めされたコンデンサ素子28及びケース30を締結する複数のボルト34とを有する。ノックピン32は、互いに対向するボルト34の外側にそれぞれ位置する。この構成により、コンデンサ26の温度が変化したとしても、熱応力によるノックピン32の損傷を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結合構造物に関し、特に、ノックピンを用いて2つの部材間の位置を決定する結合構造物の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、異なる2つの部材と、これらの部材を締結する締結部材とを備えた結合構造物が知られている。この結合構造物は、組み立て工程の手間を省く観点から、締結部材による2つの部材の締結前に、これらの部材間の位置決めが可能なノックピンを備える例がある。2つの部材間の位置決めとは、これらの部材における締結部材の各締結位置をそれぞれ一致させることである。したがって、その位置決めを行なうノックピンは、通常、締結位置付近に設けられる。
【0003】
下記特許文献1には、アルミニウム製の2つの部材であるサイドケース及びパワードライブユニットケースと、これらのケースを締結するボルトとを備えた車両用結合構造物が記載されている。この構造物においては、パワードライブユニットケースが、ノックピンが設けられた固定座を有し、サイドケースが、固定座に対応し、ノックピンの受け入れ部が設けられた取付部を有する。ノックピンには、中央部に、ボルト用のネジ孔が形成されている。この構造物では、ノックピンが受け入れ部へ挿入されると、サイドケースに対するパワードライブユニットケースの位置が決定し、その後、ボルトが取付部を通してネジ孔にネジ込まれることで、サイドケースとパワードライブユニットケースが結合される。
【0004】
下記特許文献2には、半田付けにより、パワーモジュールを収容する樹脂製の収容ケースと、制御回路基板とを結合して構成される結合構造物が記載されている。この構造物においては、半田付け前の位置決めを考慮し、制御回路基板に対向する収容ケースの面には、収容ケースに対し一体的に形成された第1の位置決めピンが設けられ、制御回路基板には、第1の位置決めピンが挿通されるべき第1の挿通孔が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−303305号公報
【特許文献2】特開2006−81308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の結合構造物においては、2つの部材間の位置決めを行なうために、ノックピンが設けられる。このノックピンは、位置決め機能しか有しておらず、当然に構造的な強度は比較的低い。このため、熱膨張率が異なる2つの部材を有する結合構造物においては、温度変化で発生した熱応力により、ノックピンが破損してしまう可能性がある。
【0007】
このようなノックピンの破損を防止するため、熱応力に耐え得る強度を備えたノックピンを設けることが考えられる。しかしながら、そのような耐性を備えようとすると、ノックピンが大型化してしまい、締結部材の締結位置の確保が困難になってしまう。一方、ノックピンを単に大型化せずに、応力集中を緩和させる形状、または耐熱応力に優れた材質を採用しようとすると、製造コストがかかってしまう。
【0008】
本発明の目的は、熱膨張率が異なる2つの部材を含む結合構造物において、簡易な構造で、温度変化で発生する熱応力によるノックピンの損傷を確実に防止することができる結合構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、熱膨張率が異なる第1及び第2部材と、第2部材に対する第1部材の位置を決定するノックピンと、ノックピンにより位置決めされた第1及び第2部材を締結する複数の締結部材と、を有する結合構造物において、ノックピンは、互いに対向する締結部材の外側にそれぞれ位置することを特徴とする。
【0010】
また、ノックピンは、前記互いに対向する締結部材を結ぶ線分の延長線上にそれぞれ位置することができる。
【0011】
また、前記互いに対向する締結部材は、互いの距離が最も大きい2つの締結部材であることが好適である。
【0012】
また、この結合構造物は、第1部材を樹脂モールドされたコンデンサ素子とし、第2部材を、コンデンサ素子を収容するアルミニウム製のケースとするコンデンサであることが好適である。
【0013】
また、第1部材は、ノックピンが一体に形成され、締結部材用のカラーが嵌められた樹脂製のボスを有し、第2部材は、ボスに対応し、ノックピンが挿入される挿入孔と、締結部材がネジ込まれるネジ孔が形成された取付座を有することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の結合構造物においては、結合構造物の温度が変化すると、熱膨張率が大きい部材のほうがより大きく膨張変形しようとする。しかし、第1及び第2部材が締結部材により締結されているので、その変形が締結部材により拘束される。具体的には、互いに対向する締結部材間における膨張変形が拘束され、その互いの締結部材に熱応力が発生する。このように締結部材に熱応力が発生することで、締結部材の外側は、上記の膨張変形の影響を受けない。したがって、本発明の締結構造物によれば、その外側に位置するノックピンにおける熱応力の発生が抑制され、ノックピンの破損を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係る電気自動車の構成を示す図である。
【図2】コンデンサ素子の構成を示す平面図である。
【図3】図2のA部を示す詳細図である。
【図4】コンデンサの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る結合構造物の実施形態について、図を用いて説明する。一例として、電動機の出力で走行する電気自動車を挙げ、この自動車に搭載される結合構造物の一つであるコンデンサについて説明する。
【0017】
なお、本発明は、電気自動車に搭載されるコンデンサに限らず、その他の機器、例えばインバータにも適用できる。また、本発明は、電気自動車以外の車両、例えば内燃機関で駆動する自動車、またはハイブリッド自動車に搭載される機器にも適用できる。さらに、本発明は、自動車に搭載される結合構造物に限らず、熱膨張率が異なる2つの部材間の位置決めが決定可能なノックピンを備える、あらゆる結合構造物に適用できる。
【0018】
まず、本実施形態に係るコンデンサを搭載する電気自動車の構成について、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る電気自動車の構成を示す図である。
【0019】
電気自動車10は、原動機として電動機12を有する。電動機12には、動力伝達機構14を介して駆動輪16が接続される。電動機12の動力は、動力伝達機構14を介して、駆動輪16に伝達され、電気自動車10が走行する。
【0020】
また、電気自動車10は、パワーコントロールユニット(以下、「PCU(Power Control Unit)」と記す)18と、バッテリ20とを有する。電動機12は、PCU18を介してバッテリ20に電気的に接続される。電動機12とPCU18とは、交流用の導線、例えばバスバー22を介して接続される。一方、PCU18とバッテリ20とは、直流用の導線、例えばケーブル24を介して接続される。
【0021】
PCU18は、例えば数百Vもの高電圧が印加される高電圧機器であり、インバータ(図示せず)とコンデンサ26(図2,4に示す)とコンバータ(図示せず)とを含む。
【0022】
インバータは、6個のスイッチング素子を含む三相ブリッジ回路を有し、これらのスイッチング素子のスイッチング動作により直流電力を三相交流電力に変換したり、三相交流電力を直流電力に変換したりする装置である。
【0023】
コンデンサ26は、インバータの1次側に設けられ、バッテリ20からインバータに供給される直流の電圧を平滑化する装置である。本実施形態におけるコンデンサ26の具体的な構成については、後述する。なお、インバータの2次側にコンデンサ26を設けて、インバータから電動機12に供給される電圧の高周波成分を除去することもできる。
【0024】
コンバータは、リアクトルとスイッチング素子とを有し、スイッチング素子のスイッチング動作によりリアクトルにおけるエネルギの蓄積と放出とを繰り返し、入力電圧を変換して出力電圧を得る装置である。
【0025】
バッテリ20は、充放電可能な二次電池であり、例えばニッケル水素バッテリ、リチウムイオンバッテリなどで構成される。もちろん、バッテリ20が、二次電池以外の充放電可能な蓄電器、例えばキャパシタで構成されてもよい。
【0026】
バッテリ20に蓄えられた電力は、PCU18により昇圧されるとともに直流から交流に変換された後に、バスバー22を介して電動機12のコイルに供給され、電動機12を駆動する。また、回生時に電動機12により発電された電力は、PCU18により交流から直流に変換されるとともに降圧された後に、バッテリ20に送られて蓄えられる。
【0027】
次に、コンデンサ26の構成について、図2から図4を用いて説明する。図2は、コンデンサ素子の構成を示す平面図であり、図3は、図2のA部を示す詳細図であり、図4は、コンデンサの断面図である。
【0028】
本実施形態のコンデンサ26は、異なる第1及び第2部材を有する結合構造物である。第1部材は、コンデンサ素子28であり、第2部材は、コンデンサ素子28を収容するケース30である。これらの部材28,30は、後述するように材質が異なり、熱膨張率も異なる。
【0029】
コンデンサ素子28は、誘電体フィルムに電極となる金属を蒸着したものを一対にして巻回し、これを樹脂によりモールド成形して構成される。一方、ケース30は、コンデンサ素子28を保護可能な強度を有する金属、例えばアルミニウムからなり、ダイキャストにより成形される。このように、コンデンサ素子28は、これの外周部が樹脂製であり、ケース30はアルミニウム製であるので、これらの熱膨張率は異なる。すなわち、コンデンサ素子28の熱膨張率のほうが、ケース30のそれより大きい。なお、本発明は、この構成に限定されず、熱膨張率が互いに異なるのであれば、2つの部材が、それぞれ、他の材質で構成されてもよい。
【0030】
本実施形態のコンデンサ26は、ケース30に対するコンデンサ素子28の位置を決定するノックピン32と、ノックピン32により位置決めされたコンデンサ素子28とケース30とを締結する複数のボルト34とを有し、ノックピン32が、互いに対向するボルト34の外側にそれぞれ位置する。ここで、外側とは、ボルト34が対向する側に対して反対側のことである。
【0031】
このような構成のコンデンサ26においては、このコンデンサ26の温度が変化、例えばコンデンサ素子28が発熱した場合、熱膨張率が大きいコンデンサ素子28が、ケース30より大きく膨張変形しようとする。しかし、コンデンサ素子28とケース30とがボルト34により締結されているので、その変形がボルト34により拘束される。具体的には、互いに対向するボルト34間における膨張変形が拘束される。このとき、その互いのボルト34に熱応力が発生する。このようにボルト34に熱応力が発生することで、それらのボルト34の外側は、上記の膨張変形の影響を受けない。したがって、その外側に位置するノックピン32における熱応力の発生が抑制され、ノックピンの破損を確実に防止することができる。
【0032】
コンデンサ素子28は、図2,3に示されるように、樹脂モールド時に一体に成形され、外周から張り出したボス36を4個有する。なお、ボス36の数は一例であって、本発明は、ボス36の数が複数であれば、ボス36の数4個に限定されない。
【0033】
各ボス36は、ボルト34が貫通する貫通孔36aをそれぞれ有し、その孔36aには、ボルト34用のカラー38がそれぞれ嵌められている。また、2つのボス36には、それぞれ、ノックピン32が一体に形成される。なお、ノックピン32の数は一例であって、本発明は、位置決めに必要な数2個以上であれば、ノックピン32の数2個に限定されず、ノックピン32が3個であってもよい。
【0034】
本実施形態のノックピン32は、ボルト34の外側であって、互いに対向するボルト34を結ぶ線分の延長線(図2,3の符号40)上にそれぞれ位置する。互いに対向するボルト34を結ぶ線分における膨張変形は、それらのボルト34により拘束されるので、その延長線40は、ボルト34間の膨張変形の影響を最も受けない、言い換えれば熱応力の発生が最も抑制されるからである。
【0035】
一般的に、ノックピンは、正基準となるノックピンと、副基準となるノックピンとの少なくとも2個を有し、これらのノックピン間の距離が大きいほど正確な位置決めの決定が可能となる。よって、本実施形態のノックピン32は、図2に示されるように、互いの距離が最も大きい2つのボルト34を結ぶ線分の延長線40上にそれぞれ位置することが好適である。
【0036】
次に、ケース30の構成について、図4を用いて説明する。図4は、図2,3に示される一点鎖線40を断面線とするコンデンサ26の断面図である。ケース30は、ボス36に対応する取付座42を4個有する。なお、取付座42の数は一例であって、本発明は、ボス36に対応するのであれば、取付座42の数4個に限定されない。
【0037】
各取付座42は、ボルト34がネジ込まれるネジ孔44をそれぞれ有する。また、ノックピン32が形成されたボス36に対応する取付座42は、それぞれ、ノックピン32が挿入される挿入孔46を有する。
【0038】
このように構成されるコンデンサ26においては、まず、ノックピン32が挿入孔46へ挿入されると、ケース30に対するコンデンサ素子28の位置が決定する。そして、ボルト34がボス36のカラー38を通してネジ孔44にネジ込まれることで、コンデンサ素子28とケース30が結合され一体的な結合構造物が構成される。
【0039】
本実施形態のコンデンサ26では、上述したように、ノックピン32が、互いに対向するボルト34の外側にそれぞれ位置するように構成される。この構成により、コンデンサ26の温度が変化した場合であっても、コンデンサ26の膨張変形がボルト34により拘束され、それらのボルト34の外側においては、その膨張変形の影響を受けないので、ノックピン32における熱応力の発生が抑制され、ノックピンの破損を確実に防止することができる。
【0040】
本実施形態においては、ノックピン32がコンデンサ素子28に設けられる場合について説明したが、本発明はこの構成に限定されず、ノックピン32がケース30に設けられてもよい。この場合であっても、本実施形態と同様に、ノックピン32に生じる熱応力を抑制することができ、結果としてノックピン32及びこれに対応する挿入孔46の破損を防止することができる。
【符号の説明】
【0041】
10 電気自動車、26 コンデンサ、28 コンデンサ素子、30 ケース、32 ノックピン、34 ボルト、36 ボス、38 カラー、42 取付座、44 ネジ孔、46 挿入孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱膨張率が異なる第1及び第2部材と、
第2部材に対する第1部材の位置を決定するノックピンと、
ノックピンにより位置決めされた第1及び第2部材を締結する複数の締結部材と、
を有する結合構造物において、
ノックピンは、互いに対向する締結部材の外側にそれぞれ位置する、
ことを特徴とする結合構造物。
【請求項2】
請求項1に記載の結合構造物において、
ノックピンは、前記互いに対向する締結部材を結ぶ線分の延長線上にそれぞれ位置する、
ことを特徴とする結合構造物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の結合構造物において、
前記互いに対向する締結部材は、互いの距離が最も大きい2つの締結部材である、
ことを特徴とする結合構造物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の結合構造物において、
この結合構造物は、第1部材を樹脂モールドされたコンデンサ素子とし、第2部材を、コンデンサ素子を収容するアルミニウム製のケースとするコンデンサである、
ことを特徴とする結合構造物。
【請求項5】
請求項4に記載の結合構造物において、
第1部材は、ノックピンが一体に形成され、締結部材用のカラーが嵌められた樹脂製のボスを有し、
第2部材は、ボスに対応し、ノックピンが挿入される挿入孔と、締結部材がネジ込まれるネジ孔が形成された取付座を有する、
ことを特徴とする結合構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−256985(P2011−256985A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134075(P2010−134075)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】