説明

結晶粒子の製造方法および製造装置

【課題】結晶粒子を、安定した一様な形状および粒径で高効率に製造することができる結晶粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】結晶粒子の製造方法が、(1)鉛直方向に対して傾斜方向に貫通したノズル孔6を有するノズル部3が底部に設けられた坩堝1中において、結晶材料を溶融させて結晶材料の融液4を作製する工程と、(2)ノズル孔6から融液4を排出して粒状にする工程と、(3)粒状の融液4aを、落下中に冷却して凝固させる工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換装置に用いられる結晶粒子の作製に好適な粒状結晶の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、少ない結晶量でも十分な光電変換が可能であることから、大型の結晶インゴットの替わりに結晶粒子を光電変換素子として用いた光電変換装置が開発されており、光電変換装置に使用される結晶粒子の製造方法についても活発に開発がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、シリコン太陽電池の光電変換素子として用いられる結晶性の高い結晶シリコン粒子や、その他の金属粒子を安定して高効率に、しかも低コストで製造するための粒状金属結晶の製造方法として、金属を溶融させる坩堝の下部に取り付けられたノズル孔部から金属融液を滴状に排出して落下させるとともに、この滴状の金属融液を落下中に冷却して凝固させることによって粒状金属結晶を製造する粒状金属結晶の製造方法がある(例えば、特許文献1を参照)。この粒状金属結晶の製造方法において、坩堝は円筒状の本体部とこの本体部の底部に取り付けられる円盤状のノズル部とで構成され、このノズル部に設けられた金属融液を滴状に排出するノズル孔は、本体部の底部に水平に取り付けられたノズル部に、表面に対して垂直に貫通させたものが用いられていた。
【特許文献1】特開2003−128493号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1における結晶粒子の製造方法では、排出された金属坩堝は、互いに大きさや落下の速度が異なるため、タイミングをずらせて排出した場合であっても、金属融液同士が凝固する前に合体し、得られた粒状金属結晶の粒径に分布ができ、また、歩留りが低下していた。
【0005】
本発明は以上のような従来の技術における問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的は、結晶粒子を、安定した一様な形状および粒径で高効率に製造することができる結晶粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の結晶粒子の製造方法は、(1)鉛直方向に対して傾斜方向に貫通したノズル孔を有するノズル部が底部に設けられた坩堝中において、結晶材料を溶融させて前記結晶材料の融液を作製する工程と、(2)前記ノズル孔から前記融液を排出して粒状にする工程と、(3)前記粒状の融液を、落下中に冷却して凝固させる工程と、を含む。
【0007】
前記ノズル部において、前記ノズル孔が複数設けられており、前記複数のノズル孔から排出された前記粒状の融液が、それらの凝固前において別の粒状の融液と接触しないように、前記複数のノズル孔の傾斜がそれぞれ設定されていることが好ましい。
【0008】
前記複数のノズル孔の融液排出口は、第一の融液排出口と、前記坩堝底面からの距離が前記第一の融液排出口と異なる第二の融液排出口と、を含むことが好ましい。
【0009】
前記坩堝の平面視にて、前記複数のノズル孔が閉曲線上に位置し、複数の前記ノズル孔からの前記融液の排出方向がそれぞれ右回りまたは左回りに揃っていることが好ましい。
【0010】
工程(2)において、前記坩堝に対して、鉛直方向に振動を加えるようにしたことが好ましい。
【0011】
工程(2)において、前記坩堝に対して、平面視にて略円の軌跡を描く水平方向の振動を加えるようにしたことが好ましい。
【0012】
また、本発明の結晶粒子の製造装置は、鉛直方向に対して傾斜方向に貫通したノズル孔を有するノズル部が設けられ、結晶材料の融液を前記ノズル孔から排出して粒状にする坩堝と、前記ノズル孔から排出された前記粒状の融液を、内部を落下させる間に凝固させる管状体と、を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明の結晶粒子の製造方法によれば、(1)鉛直方向に対して傾斜方向に貫通したノズル孔を有するノズル部が底部に設けられた坩堝中において、結晶材料を溶融させて前記結晶材料の融液を作製する工程と、(2)前記ノズル孔から前記融液を排出して粒状にする工程と、(3)前記粒状の融液を、落下中に冷却して凝固させる工程と、を含むことから、前記ノズル孔から鉛直方向に対して傾斜方向に融液が排出されると、粒状の融液は、鉛直方向とともに水平方向にも速度成分を有することになる。そのため、同じノズル孔から排出される粒状の融液4aの落下の速度に差があったとしても、排出される前記融液の落下軌跡をずらすことができ、ノズル孔から排出される融液同士の接触を抑制し、一様な形状および粒径を持つ結晶粒子を効率良く安定して製造することができる。
【0014】
また、本発明の結晶粒子の製造方法において好ましくは、前記ノズル部において、前記ノズル孔が複数設けられており、前記複数のノズル孔から排出された前記粒状の融液が、それらの凝固前において別の粒状の融液とそれぞれ接触しないように、前記複数のノズル孔の傾斜が設定されていることにより、ノズルから排出された融液と別のノズルから排出された融液との接触を抑制するとともに、結晶粒子を多数製造できる。
【0015】
また、本発明の結晶粒子の製造方法において好ましくは、前記複数のノズル孔の融液排出口は、第一の融液排出口と、前記坩堝底面からの距離が第一の融液排出口と異なる第二の融液排出口と、を含むことにより、それぞれの排出口からの融液の排出位置が異なるため、融液同士が落下中に接触する確率を引き下げることができる。
【0016】
また、本発明の結晶粒子の製造方法において好ましくは、前記坩堝の平面視にて、前記複数のノズル孔が閉曲線上に位置し、複数の前記ノズル孔からの前記融液の排出方向がそれぞれ右回りまたは左回りに揃っていることにより、ノズルから排出された融液と別のノズルから排出された融液との接触をさらに抑制することができる。
【0017】
また、本発明の結晶粒子の製造方法において好ましくは、工程(2)において、前記坩堝に対して、鉛直方向に振動を加えるようにしたことにより、融液を均一径の粒状の液滴に分裂させることができる。
【0018】
また、本発明の結晶粒子の製造方法において好ましくは、工程(2)において、前記坩堝に対して、平面視にて略円の軌跡を描く水平方向の振動を加えるようにしたことにより、排出時の融液の位置と、水平方向における融液の排出初速度と、を時々刻々と変化させることができ、凝固前に互いに衝突して粒径が大きくなるのを防止することができる。
【0019】
本発明の結晶粒子の製造装置によれば、鉛直方向に対して傾斜方向に貫通したノズル孔を有するノズル部が設けられ、結晶材料の融液を前記ノズル孔から排出して粒状にする坩堝と、前記ノズル孔から排出された前記粒状の融液を、内部を落下させる間に凝固させる管状体と、を含むことから、落下軌跡をずらしながら坩堝のノズル孔から前記融液排出し、さらに、管状体中において前記融液を凝固させ、一様な形状および粒径を持つ結晶粒子を効率良く安定して製造することができる。
【0020】
以上のように、本発明の結晶粒子の製造方法および製造装置によれば、結晶粒子を得るための粒状の結晶材料融液の落下過程において、一様な形状および粒径を持つ結晶粒子を安定して製造することができるため、粒状シリコン等の粒状結晶粒子を製造する際の製造歩留りを向上させることができるとともに、異常形状粒の除去や分級工程を不要として製造コストを下げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の結晶粒子の製造方法の実施の形態の例を添付図面に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの図面に限定されるものではない。
【0022】
図1は、本発明の結晶粒子の製造方法に使用される結晶粒子の製造装置の実施の形態の一例を模式的に表した断面図である。
【0023】
図1において、1は坩堝、1aは坩堝底面、2は坩堝本体部、2aは坩堝本体内壁部、2bは坩堝本体外壁部、3はノズル部、4は結晶材料の融液、4aは粒状の融液、5は管状体、6はノズル孔、7は融液排出口を示している。
【0024】
図1における製造装置は、坩堝1と坩堝1の下方に上下方向に配置された管状体5とから構成されており、坩堝1は、その底部に設けられたノズル部3と、坩堝1の本体を構成している坩堝本体部2と、から構成されている。そして、ノズル部3には、鉛直方向に対して傾斜方向に貫通したノズル孔6が設けられている。
【0025】
以下に、図1における各構成について説明する。
【0026】
<坩堝本体部2>
坩堝本体部2は、耐熱性に優れ、結晶材料に対して反応性の低い材料から構成される。坩堝本体部2は、坩堝本体部の外部に位置する坩堝本体外壁部2bと坩堝本体部の内部に位置する坩堝本体内壁部2aとから構成されていることが好ましい。坩堝本体内壁部2aは、結晶材料と接するため、より優れた耐熱性および結晶材料との低反応性が必要であることから、例えば、酸化アルミニウム、炭化珪素、グラファイト、酸化珪素などの材料から構成されていることが好ましい。さらに、坩堝本体内壁部2aは、それらを鋳込み成型やホットプレス法などの焼結法により緻密化されることで作製されることが好ましい。なお、グラファイトで坩堝本体内壁部2aを構成する場合、グラファイトの純度を向上させるために、その形成後に酸などにより純化処理をおこなう。
【0027】
坩堝本体内壁部2aの内部には、アルゴンおよびヘリウムの混合ガスなどを供給するガス供給機構が設けられており、それにより、融液4を上から加圧することができる。
【0028】
ここで、図1において、坩堝1の内面が底部に近づくにつれ細くなっており、それにより、勢いよく乱れの無い粒状の融液4aを排出できるという効果が得られる。
【0029】
また、坩堝本体外壁部2bは、坩堝1の強度を確保するために設けられるものであり、鋳込み形成法やホットプレス法などにより緻密化された焼結体等(例えば、酸化アルミニウム、炭化珪素、グラファイト、窒化珪素)で構成されている。坩堝本体部2は、坩堝本体内壁部2aと坩堝本体外壁部2bとから構成されており、例えば、坩堝本体内壁部2aの外側と坩堝本体外壁部2bの内側とを、ネジなどを用いて組み立てられてもよい。
【0030】
<ノズル部3>
坩堝1の先端側である底部には、ノズル部3が設けられている。ここでノズル部3とは、鉛直方向に対して傾斜方向に貫通した孔(ノズル孔6)が設けられているものをいう。ノズル孔6は結晶材料の融液4を排出して粒状の融液4aを形成するために設けられている。
【0031】
ノズル部3は、窒化珪素,炭化珪素,窒化硼素、ダイヤモンド,酸化アルミニウム,立方晶窒化ホウ素等から構成される。さらにノズル部3は、その構成材料の緻密度を設定して形成されてもよく、例えば、ノズル孔6の磨耗を防止して安定した粒状結晶を形成するために、ノズル部3は、真比重が3.0g/cm以上の炭化珪素,3.30g/cm以上の立方晶窒化ホウ素,3.35g/cm以上のダイヤモンド等から構成されても、また、単結晶窒化珪素,単結晶炭化珪素,単結晶酸化アルミニウム(サファイヤ),単結晶立方晶窒化ホウ素,単結晶ダイヤモンド等から構成されてもよい。
【0032】
鉛直方向に対するノズル孔6の傾斜角は5〜60°であることが好ましい。傾斜角が5°未満では、同じノズル孔6から排出される粒状の融液4aのそれぞれの落下軌跡を十分にずらすことが困難になり、粒状の融液4a同士が凝固する前に合体し、得られた粒状金属結晶の粒径に分布ができる傾向がある。また、傾斜角が60°をこえると、排出された粒状の融液4aが管状体5の内壁への衝突する傾向がある。
【0033】
ノズル部3のノズル孔6の直径は50〜500μmが好ましい。ノズル孔6の直径が50μm未満では、精度に優れたノズル孔6を形成することが困難であり、また、粒状の融液4を排出するために大きな圧力を加える必要があるため、装置が大型化する傾向がある。さらに、ノズル孔6の直径が50μm未満では、粒状の融液4の粒径が小さくなる傾向がある。そのため、例えば、結晶粒子が結晶シリコンの場合には、それを用いた光電変換装置による太陽光の吸収効率が悪くなるなど、直径が小さ過ぎることによる弊害が生ずるようになる。一方、ノズル孔6の直径が500μmを超えると、融液4の粒子径が大きくなって凝固までの時間が長くなり装置が大型化してしまう、良好な粒状金属結晶を得るための過冷却度のマージンが狭くなるなどの弊害が生じる傾向がある。
【0034】
ノズル孔6は、ノズル部3に対して、機械加工、レーザ加工、放電加工、あるいは超音波加工等を行ったのち、必要に応じて同じ孔径になるようにワイヤー研磨仕上げを行なうことにより得られる。
【0035】
<管状体5>
坩堝1のノズル部3から下方に向けて上下方向に配置された管状体5は、ノズル部6から排出された粒状の融液4aを落下中に冷却して凝固させる容器である。この管状体5の内部は、所望の雰囲気下に制御されている。この所望の雰囲気としては、ヘリウム又はアルゴンが好ましい。ヘリウム又はアルゴンは不活性ガスであり、粒状の融液4への雰囲気からの不純物混入を防ぐことができる。
【0036】
管状体5は、ポンプやマスフローコントローラー等を用いて内部の圧力およびガス濃度等の雰囲気を調整できる。この管状体5は、Oリングやガスケット等を用いて、異なる管状の部が接触する部位が、気密に保たれるものが用いられ、例えば、石英管,アルミナセラミック管、あるいはステンレス管等を用いることができる。管状体5の内部の雰囲気を調整する方法は、管状体5内の圧力とガス濃度を調整できる方法であれば特に限定されるものではない。
【0037】
<図1の製造装置による結晶粒子の作製>
図1の製造装置による結晶粒子の製造の手順を説明する。
【0038】
まず、1つのノズル孔6を有する坩堝1中にて結晶材料を溶融させ、結晶材料の融液4を作製する。結晶材料の溶融には、例えば、誘導加熱ヒーター(不図示)や抵抗加熱ヒーター(不図示)などが用いられ、それらにより、結晶材料の融点以上にまで坩堝を温度上昇させることにより結晶材料を溶融させて融液4を作製する。例えば、結晶材料がシリコンの場合、シリコンの融点である1400℃以上にまで坩堝1の温度を向上させている。なお、このとき、坩堝内圧がコントロールされており、シリコン融液はまだ排出されない。
【0039】
次に、ノズル孔6から融液4を排出して、粒状の融液4aを連続して作製する。融液4の排出は、融液4の上部から、例えば、アルゴンガス等の不活性ガスにより融液4を加圧(0.01〜1MPaの圧力)することにより行われる。そして、鉛直方向に対して傾斜するノズル孔6下方の融液排出口7から、融液4aを鉛直方向に対して傾斜方向に排出する。融液排出口7から鉛直方向に対して傾斜方向に融液4aが排出されると、粒状の融液4aは、鉛直方向とともに水平方向にも速度成分を有することになる。そのため、同じノズル孔6から排出される粒状の融液4aの速度に差があったとしても、それぞれ異なる落下軌跡に沿って落下させることができる。
【0040】
そして、排出された粒状の融液4aは落下中に冷却凝固されて、粒状の結晶粒子が得られる。
【0041】
このように、図1の製造装置を用いることで、粒状の融液4aどうしが凝固前に生じる接触を低減させ、一様な形状および粒状を有する結晶粒子が得られる。
【0042】
ノズル孔6から融液4を排出する工程において、坩堝1に対して鉛直方向に振動を加えることが好ましい。坩堝1に対して鉛直振動を加えることによって、融液4を均一径の粒状の融液4aに分裂させて落下させることができる。
【0043】
また、ノズル孔6から融液4を排出する工程において、坩堝1に対して、平面視にて略円の軌跡(略円の軌道半径は0.05〜1mmが好ましい)を描く水平方向の振動(振動周波数は10〜1000Hzが好ましい)を加えることが好ましい。坩堝1に対してそのような振動を加えることにより、融液4が排出される位置と水平方向の初速度とを時々刻々と変化させることができるため、均一径に分裂した粒状の融液が、それらの凝固前に互いの衝突による粒径の増大化を抑制できる。
【0044】
<図2および図3の製造装置による結晶粒子の作製>
図2および図3として、ノズル孔を複数有する結晶粒子の製造装置を示す。なお、図2および図3における製造装置は、ノズル部3におけるノズル孔が異なる以外は、図1における製造装置と同様である。
【0045】
図2(a)および図3(a)は、坩堝2の中心軸に沿って切断した製造装置を示している。また、図2(b)および図3(b)は、図2(a)および図3(a)の製造装置の下方向からみたときのノズル部3の底面図と、ノズル孔61〜64の融液排出孔71〜74から排出される結晶粒子のそれぞれの排出方向(図中の矢印)に沿って切断したノズル孔の断面図を示している。
【0046】
図2では、円盤状のノズル部3に同心円上にノズル孔61〜64を4つ設け、同心円の接線方向に粒状の融液の排出方向を傾けて設けている。このように複数のノズル孔61〜64を設け、同心円の接線方向に排出方向を傾けることで、粒状の融液4aによる互いの接触を抑制することができ、一様な形状および粒径を持つ結晶粒子を一度に大量に製造することができるものとなる。
【0047】
また、図2では、粒状の融液の排出方向をノズル孔61〜64の同心円の接線方向に設けているが、例えば、図3では、ノズル孔71からノズル孔72へ融液の排出方向を向ける、ノズル孔72からノズル孔73へ融液の排出方向を向ける、というように、ノズル孔からの融液の排出方向をそのノズル孔に隣接するノズル孔へそれぞれ向けることで、粒状の融液による互いの接触を抑制することができるとともに、さらに、粒状の融液による管状体5の内壁への衝突をも抑制することができる。
【0048】
このようにして、複数のノズル孔から排出された粒状の融液が、それらの凝固前において別の粒状の融液とそれぞれ接触しないように、前記複数のノズル孔の傾斜を設定することができる。
【0049】
また、本発明の結晶粒子の製造方法において好ましくは、坩堝の平面視にて、複数のノズル孔が閉曲線上(図2および図3では円上)に位置し、複数のノズル孔からの粒状の融液の排出方向がそれぞれ右回りまたは左回りに揃っていることにより(図2および図3では、右回り)、ノズルから排出された融液と別のノズルから排出された融液との接触をさらに抑制することができる。
【0050】
さらに、本発明の結晶粒子の製造方法において好ましくは、図2(b)および図3(b)に示すように、複数のノズル孔の融液排出口71〜74が、第一の融液排出口71および73と、坩堝底面1aからの距離が第一の融液排出口と異なる第二の融液排出口72および74と、を含むことが好ましい。図2(b)および図3(b)の場合、第二の融液排出口72および74は、第一の融液排出口71および73よりも坩堝1の下方に突出している。粒状の融液の排出位置が第一の融液排出口および第二の融液排出口でそれぞれ異なり、さらに隣接するノズル同士が第一の融液排出口と第二の融液排出口との関係を有していることにより、排出された粒状の融液同士の接触確率を引き下げることができる。とくに、第二の融液排出口72および74までの長さと、第一の融液排出口71および73までの長さとが1mm以上異なっていることが好ましく、融液同士の接触確率をより引き下げることができる。
【実施例】
【0051】
以下に、本発明の結晶粒子の製造方法および製造装置の具体例を図2にもとづいて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0052】
<実施例>
ドリルを用いて、円盤状のノズル部3(外径が13mm、厚さが1mmの円盤状の炭化珪素)の直径6mmの同心円上の4箇所に穿孔を行うことにより、ノズル部に4個のノズル孔71〜74(直径350μm)を形成した。これらのノズル孔71〜74はいずれも、ノズル部3の表面に対して垂直な方向(作製された製造方法の使用時には鉛直となる方向)から45°傾斜している。また、坩堝底面1aから第一の融液排出口71および73までの距離と、坩堝底面1aから第二の融液排出口72までの距離との差は0.2mmであった。4個のノズル孔61〜64から排出されるシリコン原料の溶融液の排出方向は、平面視にて、ノズル部3中の直径6mmの同心円におけるそれぞれのノズル孔の接線方向を示すように設定した。
【0053】
次に、ノズル部3を、坩堝本体部2(内径19mm、外径25mm、長さ143mm、グラファイト製)の底部に取り付けることによって坩堝1を作製した。そして、融液としてシリコン原料を坩堝1に投入し、誘導加熱によりシリコン原料を溶融させた。
【0054】
次に、坩堝本体外壁部2bの側方に、坩堝1に対して、平面視にて略円の軌跡を描く水平方向の振動を加える機構を設け(不図示)、ノズル部3に前記水平方向の振動を加えて、シリコン原料の溶融液の排出をおこなった(排出速度1.5m/s)。なお、振動条件としては、坩堝のノズル孔の回転軌道半径を約0.5mmとし、ノズル孔の開口の水平方向の振動周波数を約11Hzとした。これらの振動条件は、結晶シリコン粒子が管状体に到達せず、隣り合うノズル孔から排出される原料融液の落下軌跡と重ならないように設定されている。
【0055】
<比較例>
ノズル部に設けられたノズル孔がノズル部の表面に対して垂直に貫通されて設けられ、さらに、坩堝の外壁部材に対して円運動する機構が設けられていない以外は、実施例1と同様にして坩堝を形成し、シリコン原料の溶融液の排出をおこなった。
【0056】
<実験結果>
実施例において、得られた結晶シリコン粒子は一様な形状および粒径であり、結晶シリコン粒子同士が接着したものは確認されなかった。このように、実施例では、一様な形状および粒径の結晶シリコン粒子を安定して効率良く得ることができた。
【0057】
一方、比較例においては、同じノズル孔から、粒径が1mmの結晶シリコン粒子が連続して排出されており、それらの結晶シリコン粒子の間隔が短く(約0.4mm)、前方の結晶シリコン粒子に対する後方の結晶シリコン粒子の相対速度が大きいため(約70mm/s)、この二つの液滴が同じ軌跡をたどる場合に合体するまでの時間は約0.006sと短いものであった。このように、比較例では、複数の結晶シリコン粒子が互いに接着して、作製された結晶シリコン粒子の大きさに分布ができるため、一様な形状および粒径の結晶シリコン粒子を安定して作製することはできなかった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の粒状金属結晶の製造方法に使用される製造装置の実施の形態の一例を示す断面図である。
【図2】(a)は本発明の粒状金属結晶の製造方法に使用される製造装置の実施の形態の一例を示す断面図、ならびに(b)はその製造装置におけるノズル部の平面図および断面図である。
【図3】(a)は本発明の粒状金属結晶の製造方法に使用される製造装置の実施の形態の一例を示す断面図、ならびに(b)はその製造装置におけるノズル部の平面図および断面図である。
【符号の説明】
【0059】
1 坩堝
2 坩堝本体部
2a 坩堝本体内壁部
2b 坩堝本体外壁部
3 ノズル部
4 結晶材料の融液
4a 粒状の融液
5 管状体
6 61 62 63 64 ノズル孔
7 71 72 73 74 融液排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)鉛直方向に対して傾斜方向に貫通したノズル孔を有するノズル部が底部に設けられた坩堝中において、結晶材料を溶融させて前記結晶材料の融液を作製する工程と、
(2)前記ノズル孔から前記融液を排出して粒状にする工程と、
(3)前記粒状の融液を、落下中に冷却して凝固させる工程と、
を含む結晶粒子の製造方法。
【請求項2】
前記ノズル部において、前記ノズル孔が複数設けられており、
前記複数のノズル孔から排出された前記粒状の融液が、それらの凝固前において別の粒状の融液と接触しないように、前記複数のノズル孔の傾斜がそれぞれ設定されている請求項1に記載の結晶粒子の製造方法。
【請求項3】
前記複数のノズル孔の融液排出口は、
第一の融液排出口と、
前記坩堝底面からの距離が前記第一の融液排出口と異なる第二の融液排出口と、
を含む請求項2に記載の結晶粒子の製造方法。
【請求項4】
前記坩堝の平面視にて、前記複数のノズル孔が閉曲線上に位置し、
複数の前記ノズル孔からの前記融液の排出方向がそれぞれ右回りまたは左回りに揃っている請求項2または3に記載の結晶粒子の製造方法。
【請求項5】
工程(2)において、前記坩堝に対して、鉛直方向に振動を加えるようにした請求項1乃至4のいずれかに記載の結晶粒子の製造方法。
【請求項6】
工程(2)において、前記坩堝に対して、平面視にて略円の軌跡を描く水平方向の振動を加えるようにした請求項1乃至5のいずれかに記載の結晶粒子の製造方法。
【請求項7】
鉛直方向に対して傾斜方向に貫通したノズル孔を有するノズル部が設けられ、結晶材料の融液を前記ノズル孔から排出して粒状にする坩堝と、
前記ノズル孔から排出された前記粒状の融液を、内部を落下させる間に凝固させる管状体と、
を含む結晶粒子の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−239448(P2008−239448A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85845(P2007−85845)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】