説明

結晶粒径計測装置、結晶粒径計測方法、プログラム及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体

【課題】 超音波を用いて被計測板の結晶粒径を計測する際に、超音波の減衰率の算出を正確にできるようにして、結晶粒径の計測を高精度に行うことができるようにする。
【解決手段】 第1の波形検出手段6で検出した板波Aの波形のうち、送信プローブ1が配置された第1の位置における板波Aの原波形と相関が一番強い第1の計算域波形部を抽出し、第1の計算域波形部におけるエネルギー値En1を算出するとともに、第2の波形検出手段8で検出した板波Aの波形のうち、前記第1の位置における板波Aの原波形と相関が一番強い第2の計算域波形部を抽出し、第2の計算域波形部におけるエネルギー値En2を算出して、算出したエネルギー値En1とエネルギー値En2とに基づいて板波Aの減衰率を算出して被計測板の結晶粒径を計測するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いて被計測板の結晶粒径を計測する結晶粒径計測装置、結晶粒径計測方法、結晶粒径計測装置での処理をコンピュータに実行させるためのプログラム及びこのプログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼板等の材料の結晶粒径を測定する方法として、材料の組織の顕微鏡写真を撮ることによって測定する方法が知られている。しかし、この方法は破壊試験であるため、例えば、鋼板等の製造プロセスおいては使用することができなかった。そこで、鋼板等の材料の結晶粒径を非破壊試験で測定する方法として、超音波の減衰率を利用した測定が考えられていた。
【0003】
例えば、従来の結晶粒径計測装置としては、超音波の送受信プローブを用いて、この送受信プローブから超音波を被計測板の表面に対して垂直方向に、すなわち被計測板の板厚方向に放射し、被計測板から返ってくる超音波をこの送受信プローブで受信して、放射した超音波に対する減衰率を算出して被計測板の結晶粒径を計測するものがある。また、超音波を用いた被検体の結晶形状を計測するものとして、下記の特許文献1に挙げるものもある。
【0004】
【特許文献1】特開平6−308100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、超音波を被計測板の板厚方向に放射して結晶粒径を計測する結晶粒径計測装置では、被計測板の板厚が薄い場合には、板厚方向への超音波の伝播と被計測板の表面からの反射波との分離が難しくなり、その結果、超音波の減衰率の算出に誤差が生じて高精度な結晶粒径の計測ができなかった。
【0006】
また、特許文献1では、超音波を被検体に表面波として伝播させており被検体の結晶粒のアスペクト比を計測するものであるが、この特許文献1の技術では、被計測板の結晶粒径の絶対値そのものを計測することはできなかった。
【0007】
本発明は上述の問題点にかんがみてなされたものであり、超音波を用いて被計測板の結晶粒径を計測する際に、超音波の減衰率の算出を正確にできるようにして、結晶粒径の計測を高精度に行うことができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の結晶粒径計測装置は、被計測板の表面の第1の位置に超音波を放射して、前記被計測板に板波を発生させる超音波放射手段と、前記超音波放射手段から放射された超音波を、前記第1の位置から第1の距離だけ離れた第2の位置で受信して第1の検出波形を検出する第1の波形検出手段と、前記第1の波形検出手段で検出した第1の検出波形のうち、前記超音波放射手段から放射された超音波の原波形と所定の相関関係にある第1の計算域波形部を抽出して第1のエネルギー値を算出する第1のエネルギー算出手段と、前記超音波放射手段から放射された超音波を、前記第1の位置から第2の距離だけ離れた第3の位置で受信して第2の検出波形を検出する第2の波形検出手段と、前記第2の波形検出手段で検出した第2の検出波形のうち、前記超音波放射手段から放射された超音波の原波形と所定の相関関係にある第2の計算域波形部を抽出して第2のエネルギー値を算出する第2のエネルギー算出手段と、前記第1のエネルギー算出手段で算出した第1のエネルギー値と、前記第2のエネルギー算出手段で算出した第2のエネルギー値とに基づいて、前記超音波放射手段から放射された超音波の減衰率を算出する減衰率算出手段と、前記減衰率算出手段で算出した超音波の減衰率に基づいて、前記被計測板における結晶粒径を算出する結晶粒径算出手段とを有する。
【0009】
本発明の結晶粒径計測方法は、超音波を放射する超音波放射手段を備えた結晶粒径計測装置で用いる結晶粒径計測方法であって、前記超音波放射手段から被計測板の表面の第1の位置に超音波を放射して、前記被計測板に板波を発生させる超音波放射ステップと、前記超音波放射手段から放射された超音波を、前記第1の位置から第1の距離だけ離れた第2の位置で受信して第1の検出波形を検出する第1の波形検出ステップと、前記第1の波形検出ステップで検出した第1の検出波形のうち、前記超音波放射手段から放射された超音波の原波形と所定の相関関係にある第1の計算域波形部を抽出して第1のエネルギー値を算出する第1のエネルギー算出ステップと、前記超音波放射手段から放射された超音波を、前記第1の位置から第2の距離だけ離れた第3の位置で受信して第2の検出波形を検出する第2の波形検出ステップと、前記第2の波形検出ステップで検出した第2の検出波形のうち、前記超音波放射手段から放射された超音波の原波形と所定の相関関係にある第2の計算域波形部を抽出して第2のエネルギー値を算出する第2のエネルギー算出ステップと、前記第1のエネルギー算出ステップで算出した第1のエネルギー値と、前記第2のエネルギー算出ステップで算出した第2のエネルギー値とに基づいて、前記超音波放射手段から放射された超音波の減衰率を算出する減衰率算出ステップと、前記減衰率算出ステップで算出した超音波の減衰率に基づいて、前記被計測板における結晶粒径を算出する結晶粒径算出ステップとを有する。
【0010】
本発明のプログラムは、超音波を放射する超音波放射手段を備えた結晶粒径計測装置での処理をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記超音波放射手段から被計測板の表面の第1の位置に超音波を放射して、前記被計測板に板波を発生させる超音波放射ステップと、前記超音波放射手段から放射された超音波を、前記第1の位置から第1の距離だけ離れた第2の位置で受信して第1の検出波形を検出する第1の波形検出ステップと、前記第1の波形検出ステップで検出した第1の検出波形のうち、前記超音波放射手段から放射された超音波の原波形と所定の相関関係にある第1の計算域波形部を抽出して第1のエネルギー値を算出する第1のエネルギー算出ステップと、前記超音波放射手段から放射された超音波を、前記第1の位置から第2の距離だけ離れた第3の位置で受信して第2の検出波形を検出する第2の波形検出ステップと、前記第2の波形検出ステップで検出した第2の検出波形のうち、前記超音波放射手段から放射された超音波の原波形と所定の相関関係にある第2の計算域波形部を抽出して第2のエネルギー値を算出する第2のエネルギー算出ステップと、前記第1のエネルギー算出ステップで算出した第1のエネルギー値と、前記第2のエネルギー算出ステップで算出した第2のエネルギー値とに基づいて、前記超音波放射手段から放射された超音波の減衰率を算出する減衰率算出ステップと、前記減衰率算出ステップで算出した超音波の減衰率に基づいて、前記被計測板における結晶粒径を算出する結晶粒径算出ステップとをコンピュータに実行させる。
【0011】
本発明のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体は、前記プログラムをコンピュータに読み取り可能に記憶する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被計測板の結晶粒径を計測する際に、第1の位置に配設された超音波放射手段から放射された超音波を、前記第1の位置からそれぞれ異なる距離だけ離れた位置に配設された第1及び第2の波形検出手段で受信して波形を検出し、検出した各波形から、前記超音波放射手段から放射された超音波の原波形と所定の相関関係にある各計算域波形部を抽出して各エネルギー値を求め、求めた各エネルギー値に基づいて超音波の減衰率を算出して被計測板の結晶粒径を計測するようにしたので、散乱ノイズの波形部を含まない各エネルギー値に基づいて超音波の減衰率を算出することができ、超音波の減衰率の算出を正確に行うことができる。これにより、結晶粒径の計測を高精度に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態における結晶粒径計測装置の概略構成を示すブロック図である。図1において、101は支持体102によって支持された鋼板等の被計測板であり、100は被計測板101の結晶粒径を測定する結晶粒径計測装置である。
【0014】
結晶粒径計測装置100では、被計測板101の表面に対して3つのプローブを配置して、被計測板101の結晶粒径を測定する。1は被計測板101の表面の所定位置(第1の位置)に配置され、被計測板101に対して超音波を放射する送信プローブである。2は送信プローブ1から第1の距離だけ離れた第2の位置に配置され、被計測板101を伝播してきた板波Aを受信する第1の受信プローブである。3は送信プローブ1から前記第1の距離とは異なる第2の距離だけ離れた第3の位置に配置され、被計測板101を伝播してきた板波Aを受信する第2の受信プローブである。
【0015】
図1において、4は超音波を発振する超音波発振部であり、発振した超音波を送信プローブ1を介して被計測板101に放射し、被計測板101に板波Aを発生させるものである。本実施の形態では、超音波発振部4及び送信プローブ1をあわせて超音波放射手段10と称する。
【0016】
5は送信プローブ1と被計測板101との接触面で反射した超音波Bの波形を検出する反射エコー検出手段である。本実施の形態では、反射エコー検出手段5で検出した超音波Bの波形を送信プローブ1から放射した板波Aの原波形として用いる。
【0017】
6は第1の受信プローブ2が配置された第2の位置で板波Aの波形を検出する第1の波形検出手段である。7は第1の波形検出手段6で検出した板波Aの波形のうち、反射エコー検出手段5で検出した板波Aの原波形(超音波Bの波形)と所定の相関関係にある波形部を抽出して第1のエネルギー値En1を算出する第1のエネルギー算出手段である。
【0018】
8は第2の受信プローブ3が配置された第3の位置で板波Aの波形を検出する第2の波形検出手段である。9は第2の波形検出手段8で検出した板波Aの波形のうち、反射エコー検出手段5で検出した板波Aの原波形と所定の相関関係にある波形部を抽出して第2のエネルギー値En2を算出する第2のエネルギー算出手段である。
【0019】
11は第1のエネルギー算出手段7で算出した第1のエネルギー値En1と、第2のエネルギー算出手段9で算出した第2のエネルギー値En2とに基づいて、板波Aの減衰率を算出する減衰率算出手段である。12は減衰率算出手段11で算出した板波Aの減衰率に基づいて、被計測板101における結晶粒径を算出する結晶粒径算出手段である。
【0020】
本実施の形態における結晶粒径計測装置100では、反射エコー検出手段5、第1のエネルギー算出手段6及び第2のエネルギー算出手段8をデジタルオシロスコープで構成し、第1のエネルギー算出手段7、第2のエネルギー算出手段9、減衰率算出手段11及び結晶粒径算出手段12をパーソナルコンピュータ(PC)等の情報処理装置で構成している。
【0021】
次に、結晶粒径計測装置100における計測方法について説明する。
図2は、本発明の実施の形態における結晶粒径計測装置100で行う結晶粒径計測方法の一例を示したフローチャートである。
【0022】
まず、ステップS101では、送信プローブ1を被計測板101の表面の第1の位置に配置した後、超音波発振部4から送信プローブ1を介して超音波を放射し、被計測板101に板波Aを発生させる。
【0023】
続いて、ステップS102では、反射エコー検出手段5で送信プローブ1と被計測板101との接触面で反射した超音波Bの波形を板波Aの原波形として検出する。
【0024】
続いて、ステップS103では、被計測板101を伝播してきた板波Aの波形を第2の位置において、第1の受信プローブ2を介して第1の波形検出手段6で検出する。この第1の波形検出手段6で検出された板波Aの波形(以下、第1の検出波形とする)の一例を図3に示す。
【0025】
図3に示された第1の検出波形は、その縦軸が板波Aの振幅の大きさを電圧で示したものであり、その横軸が経過時間を示したものである。本実施の形態においては、被計測板101の板厚が0.2mm、第1の受信プローブ2が送信プローブ1から60mm離れた位置に配置され、また、板波Aとして板厚変化による速度変化の小さいS0モードの板波を用いている。図3に示すように、第1の検出波形は、いくつかのまとまりを持った波形部で構成されていることがわかる。また、一番大きい振幅の大きさは0.9V程度となっている。
【0026】
続いて、ステップS104では、第1のエネルギー算出手段7において、ステップS103で検出された第1の検出波形と、ステップS102で検出された板波Aの原波形との相関演算を行い、ステップS103で検出された第1の検出波形のうち、ステップS102で検出された板波Aの原波形と相関が一番強い波形部を抽出する。
【0027】
この結果、図3に示された第1の検出波形を構成する波形部のうち、一番大きい振幅(0.9V程度)の前後を含む所定領域からなる第1の計算域波形部Yが抽出される。この抽出された第1の計算域波形部Yを図4に示す。図4に示すように、第1の計算域波形部Yは、0.9V程度の一番大きい振幅の前後を含む6.0μsec程度の領域である。また、図3に示された第1の検出波形を構成する波形部のうち、第1の計算域波形部Y以外の波形部は、板波Aが送信プローブ1から第1の受信プローブ2が配設されている第2の位置に至るまでの間に被計測板101の結晶の界面で散乱して、第1の受信プローブ2に遅れて到達した散乱ノイズの波形部である。
【0028】
続いて、ステップS105では、第1のエネルギー算出手段7において、ステップS104で抽出した第1の計算域波形部Yにおけるエネルギー値である第1のエネルギー値En1を算出する。具体的に、第1のエネルギー算出手段7は、例えば、振幅2乗の積分値、あるいは高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transformation)を用いた特定周波数領域のパワースペクトルを利用して第1のエネルギー値En1を算出する。図5に、第1の計算域波形部Yにおけるエネルギー値En1の算出イメージを示す。図5の斜線で示した部分の合計がエネルギー値En1となる。その後、第1の受信プローブ2を被計測板101の表面から離間させる。
【0029】
続いて、ステップS106では、第2の受信プローブ3を被計測板101の表面の第2の位置に配置した後、被計測板101を伝播してきた板波Aの波形を第3の位置において、第2の受信プローブ3を介して第2の波形検出手段8で検出する。この第2の波形検出手段8で検出された板波Aの波形(以下、第2の検出波形とする)の一例を図6に示す。
【0030】
図6に示された第2の検出波形は、図3に示された第1の検出波形と同様に、その縦軸が板波Aの振幅の大きさを電圧で示したものであり、その横軸が経過時間を示したものである。また、本実施の形態においては、被計測板101の板厚が0.2mm、第2の受信プローブ3が送信プローブ1から100mm離れた位置に配置され、板波Aとして板厚変化による速度変化の小さいS0モードの板波を用いている。図6に示すように、第2の検出波形も、いくつかのまとまりを持った波形部で構成されていることがわかる。また、一番大きい振幅の大きさは0.6V程度となっている。
【0031】
続いて、ステップS107では、第2のエネルギー算出手段9において、ステップS106で検出された第2の検出波形と、ステップS102で検出された板波Aの原波形との相関演算を行い、ステップS106で検出された第2の検出波形のうち、ステップS102で検出された板波Aの原波形と相関が一番強い波形部を抽出する。
【0032】
この結果、図6に示された第2の検出波形を構成する波形部のうち、一番大きい振幅(0.6V程度)の前後を含む所定領域からなる第2の計算域波形部Zが抽出される。また、図6に示された第2の検出波形を構成する波形部のうち、第2の計算域波形部Z以外の波形部は、板波Aが送信プローブ1から第2の受信プローブ3が配設されている第3の位置に至るまでの間に被計測板101の結晶の界面で散乱して、第2の受信プローブ3に遅れて到達した散乱ノイズの波形部である。
【0033】
続いて、ステップS108では、第2のエネルギー算出手段9において、ステップS107で抽出した第2の計算域波形部Zにおけるエネルギー値である第2のエネルギー値En2を算出する。この場合の第2のエネルギー値En2の算出方法は、ステップS105における第1のエネルギー値En1の算出方法と同様である。
【0034】
続いて、ステップS109では、減衰率算出手段11において、ステップS105で算出された第1のエネルギー値En1と、ステップS108で算出された第2のエネルギー値En2とに基づいて、板波Aの減衰率を算出する。
【0035】
ここで、具体的に、板波Aの減衰率の算出方法について説明する。
一般に、第1のエネルギー値En1と第2のエネルギー値En2との関係は、以下の数式1により表せる。
【0036】
【数1】

【0037】
数式1において、距離x及び被計測板101の板厚dは既知の値であるため、第1のエネルギー値En1及び第2のエネルギー値En2に基づいて、板波Aの減衰率αを算出することができる。
【0038】
続いて、ステップS110では、結晶粒径算出手段12において、ステップS109で算出した板波Aの減衰率αに基づいて、被計測板101の平均結晶粒径を算出する。
【0039】
ここで、具体的に、被計測板101の平均結晶粒径の算出方法について説明する。
まず、被計測板101に対して放射する超音波の所定波長における減衰率と平均結晶粒径との関係を実験等により予め算出しておく。図7は、減衰率と平均結晶粒径との関係を示した特性図である。図7に示す特性では、その縦軸が超音波の減衰率を示したものであり、その横軸が平均結晶粒径を示したものである。また、図7の●、○、*は、測定したサンプル毎の特性を示している。ここで、超音波の減衰率αは、結晶粒径D、超音波波長λに対して、例えば、Dがλと同程度の領域では、以下の数式2で示す依存性が理論的あるいは実験的にも検証されている。
【0040】
【数2】

【0041】
数式2からもわかるように、超音波波長λは既知の値であるため、超音波の減衰率αと結晶粒径Dとは1対1の相関関係にある。したがって、図7に示した特性により校正線を得ることができる。
【0042】
そして、ステップS110での平均結晶粒径を算出は、ステップS109で算出した板波Aの減衰率αと、予め算出していた図7に示す校正線とに基づいて行われる。
【0043】
このステップS101〜ステップS110までの処理を経ることにより、板波Aの減衰率による被計測板101の平均結晶粒径の算出が行われる。
【0044】
本実施の形態によれば、第1の波形検出手段6で検出した第1の検出波形のうち、送信プローブ1が配置された第1の位置における板波Aの原波形と相関が一番強い第1の計算域波形部Yを抽出して、第2の位置における第1のエネルギー値En1を算出するとともに、第2の波形検出手段8で検出した第2の検出波形のうち、前記第1の位置での板波Aの波形と相関が一番強い第2の計算域波形部Zを抽出して、第3の位置における第2のエネルギー値En2を算出して、算出した第1のエネルギー値En1と第2のエネルギー値En2とに基づいて、板波Aの減衰率を算出するようにしたので、板波Aの減衰率を算出する際に、散乱ノイズの波形部を含まない各エネルギー値に基づいて算出を行うことができ、超音波の減衰率の算出を正確に行うことができる。これにより、結晶粒径の計測を高精度に行うことが可能となる。
【0045】
なお、本実施の形態の結晶粒径計測装置100では、送信プローブ1から放射された板波Aの原波形を第2の位置及び第3の位置でそれぞれ検出するために、受信プローブを2つ備えるようにしているが、例えば、受信プローブを1つのみ備えるようにして、始めに第2の位置で板波Aの波形を検出し、その後、この受信プローブを第3の位置に移動させて板波Aの波形を検出するようにしてもよい。この場合には、波形検出手段及びエネルギー算出手段をそれぞれ1つずつ設けた構成とすることができ、このような構成の結晶粒径計測装置も本発明に含まれる。
【0046】
また、本実施の形態における結晶粒径計測装置を構成する図1の各手段、並びに結晶粒径計測方法を示した図2の各ステップは、コンピュータのRAMやROMなどに記憶されたプログラムが動作することによって実現できる。このプログラム及び当該プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体は本発明に含まれる。
【0047】
具体的に、前記プログラムは、例えばCD−ROMのような記憶媒体に記録し、あるいは各種伝送媒体を介し、コンピュータに提供される。前記プログラムを記録する記憶媒体としては、CD−ROM以外に、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、光磁気ディスク、不揮発性メモリカード等を用いることができる。他方、前記プログラムの伝送媒体としては、プログラム情報を搬送波として伝播させて供給するためのコンピュータネットワーク(LAN、インターネットの等のWAN、無線通信ネットワーク等)システムにおける通信媒体(光ファイバ等の有線回線や無線回線等)を用いることができる。
【0048】
また、コンピュータが供給されたプログラムを実行することにより本実施の形態における結晶粒径計測装置の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムがコンピュータにおいて稼働しているOS(オペレーティングシステム)あるいは他のアプリケーションソフト等と共同して本実施の形態における結晶粒径計測装置の機能が実現される場合や、供給されたプログラムの処理の全て、あるいは一部がコンピュータの機能拡張ボードや機能拡張ユニットにより行われて本実施の形態における結晶粒径計測装置の機能が実現される場合も、かかるプログラムは本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施の形態における結晶粒径計測装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態における結晶粒径計測装置で行う結晶粒径計測方法の一例を示したフローチャートである。
【図3】第1の波形検出手段で検出された第1の検出波形の一例を示した図である。
【図4】第1のエネルギー算出手段で抽出された第1の計算域波形部の一例を示した図である。
【図5】第1の計算域波形部におけるエネルギー値の算出イメージを示した図である。
【図6】第2の波形検出手段で検出された第2の検出波形の一例を示した図である。
【図7】減衰率と平均結晶粒径との関係を示した特性図である。
【符号の説明】
【0050】
1 送信プローブ
2 第1の受信プローブ
3 第2の受信プローブ
4 超音波発振部
5 反射エコー検出手段
6 第1の波形検出手段
7 第1のエネルギー算出手段
8 第2の波形検出手段
9 第2のエネルギー算出手段
10 超音波放射手段
11 減衰率算出手段
12 結晶粒径算出手段
100 結晶粒径計測装置
101 被計測板
102 支持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被計測板の表面の第1の位置に超音波を放射して、前記被計測板に板波を発生させる超音波放射手段と、
前記超音波放射手段から放射された超音波を、前記第1の位置から第1の距離だけ離れた第2の位置で受信して第1の検出波形を検出する第1の波形検出手段と、
前記第1の波形検出手段で検出した第1の検出波形のうち、前記超音波放射手段から放射された超音波の原波形と所定の相関関係にある第1の計算域波形部を抽出して第1のエネルギー値を算出する第1のエネルギー算出手段と、
前記超音波放射手段から放射された超音波を、前記第1の位置から第2の距離だけ離れた第3の位置で受信して第2の検出波形を検出する第2の波形検出手段と、
前記第2の波形検出手段で検出した第2の検出波形のうち、前記超音波放射手段から放射された超音波の原波形と所定の相関関係にある第2の計算域波形部を抽出して第2のエネルギー値を算出する第2のエネルギー算出手段と、
前記第1のエネルギー算出手段で算出した第1のエネルギー値と、前記第2のエネルギー算出手段で算出した第2のエネルギー値とに基づいて、前記超音波放射手段から放射された超音波の減衰率を算出する減衰率算出手段と、
前記減衰率算出手段で算出した超音波の減衰率に基づいて、前記被計測板における結晶粒径を算出する結晶粒径算出手段と
を有することを特徴とする結晶粒径計測装置。
【請求項2】
前記第1及び前記第2のエネルギー算出手段で抽出される第1及び第2の計算域波形部は、一番大きい振幅の前後を含む所定領域であることを特徴とする請求項1に記載の結晶粒径計測装置。
【請求項3】
前記第1及び前記第2のエネルギー算出手段は、第1及び第2の計算域波形部の抽出の際に用いる前記超音波の原波形として、前記超音波放射手段と前記被計測板との接触面で反射した超音波の波形を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の結晶粒径計測装置。
【請求項4】
超音波を放射する超音波放射手段を備えた結晶粒径計測装置で用いる結晶粒径計測方法であって、
前記超音波放射手段から被計測板の表面の第1の位置に超音波を放射して、前記被計測板に板波を発生させる超音波放射ステップと、
前記超音波放射手段から放射された超音波を、前記第1の位置から第1の距離だけ離れた第2の位置で受信して第1の検出波形を検出する第1の波形検出ステップと、
前記第1の波形検出ステップで検出した第1の検出波形のうち、前記超音波放射手段から放射された超音波の原波形と所定の相関関係にある第1の計算域波形部を抽出して第1のエネルギー値を算出する第1のエネルギー算出ステップと、
前記超音波放射手段から放射された超音波を、前記第1の位置から第2の距離だけ離れた第3の位置で受信して第2の検出波形を検出する第2の波形検出ステップと、
前記第2の波形検出ステップで検出した第2の検出波形のうち、前記超音波放射手段から放射された超音波の原波形と所定の相関関係にある第2の計算域波形部を抽出して第2のエネルギー値を算出する第2のエネルギー算出ステップと、
前記第1のエネルギー算出ステップで算出した第1のエネルギー値と、前記第2のエネルギー算出ステップで算出した第2のエネルギー値とに基づいて、前記超音波放射手段から放射された超音波の減衰率を算出する減衰率算出ステップと、
前記減衰率算出ステップで算出した超音波の減衰率に基づいて、前記被計測板における結晶粒径を算出する結晶粒径算出ステップと
を有することを特徴とする結晶粒径計測方法。
【請求項5】
前記第1及び前記第2のエネルギー算出ステップで抽出される第1及び第2の計算域波形部は、一番大きい振幅の前後を含む所定領域であることを特徴とする請求項4に記載の結晶粒径計測方法。
【請求項6】
前記第1及び前記第2のエネルギー算出ステップでは、第1及び第2の計算域波形部の抽出の際に用いる前記超音波の原波形として、前記超音波放射手段と前記被計測板との接触面で反射した超音波の波形を用いることを特徴とする請求項4又は5に記載の結晶粒径計測方法。
【請求項7】
超音波を放射する超音波放射手段を備えた結晶粒径計測装置での処理をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記超音波放射手段から被計測板の表面の第1の位置に超音波を放射して、前記被計測板に板波を発生させる超音波放射ステップと、
前記超音波放射手段から放射された超音波を、前記第1の位置から第1の距離だけ離れた第2の位置で受信して第1の検出波形を検出する第1の波形検出ステップと、
前記第1の波形検出ステップで検出した第1の検出波形のうち、前記超音波放射手段から放射された超音波の原波形と所定の相関関係にある第1の計算域波形部を抽出して第1のエネルギー値を算出する第1のエネルギー算出ステップと、
前記超音波放射手段から放射された超音波を、前記第1の位置から第2の距離だけ離れた第3の位置で受信して第2の検出波形を検出する第2の波形検出ステップと、
前記第2の波形検出ステップで検出した第2の検出波形のうち、前記超音波放射手段から放射された超音波の原波形と所定の相関関係にある第2の計算域波形部を抽出して第2のエネルギー値を算出する第2のエネルギー算出ステップと、
前記第1のエネルギー算出ステップで算出した第1のエネルギー値と、前記第2のエネルギー算出ステップで算出した第2のエネルギー値とに基づいて、前記超音波放射手段から放射された超音波の減衰率を算出する減衰率算出ステップと、
前記減衰率算出ステップで算出した超音波の減衰率に基づいて、前記被計測板における結晶粒径を算出する結晶粒径算出ステップと
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項8】
請求項7に記載のプログラムをコンピュータに読み取り可能に記憶したことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−284349(P2006−284349A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−104192(P2005−104192)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】