説明

絞り加工缶用外面塗料および絞り加工缶の外面の塗装方法

【課題】エポキシ樹脂を含まない高い絞り加工性、高い付着性、高い耐傷付き性、高い熱水性および高い光沢を有する絞り加工缶用外面塗料および絞り加工缶の外面の塗装方法を提供する。
【解決手段】少なくとも下塗り塗料と上塗り塗料とから構成される絞り加工缶用外面塗料であって、下塗り塗料は、数平均分子量が14000〜20000、ガラス転移温度が45〜80℃、水酸基価が5〜15mgKOH/gである高分子ポリエステル樹脂と、ブロックイソシアネート化合物とを含み、上塗り塗料は、数平均分子量が10000〜25000、ガラス転移温度が15〜50℃、水酸基価が3〜20mgKOH/gである高分子ポリエステル樹脂と、アミノ樹脂とを含むことを特徴とする絞り加工缶用外面塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜の絞り加工性、付着性、耐傷付き性、耐熱水性、光沢の高い絞り加工缶用の外面塗料および絞り加工缶の外面の塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食缶などに使用される絞り加工缶は、金属板をプレスなどにより絞り加工して得られた一方の端にのみ底部を有する円筒状部材である缶胴と缶蓋との2つの部分から構成される。かかる絞り加工缶は、従来の缶底、缶胴(金属板を曲げ加工して得られた両端が開口している円筒状部材)および缶蓋からなる3ピース缶に比べて生産性が高く、また、缶底にも印刷が可能で意匠性が高いことから、食缶などに広く使用されている。
【0003】
かかる絞り加工缶は、絞り加工性を向上させるために、金属板表面に下塗り塗料、印刷用インキおよび上塗り塗料順次を塗布した後、絞り加工して缶胴を形成して、この缶胴の開口部に缶蓋で蓋をすることにより得られる。
【0004】
したがって、上記金属板に塗布される塗料、特に金属板の外面に塗布される外面塗料は、その塗膜が上記絞り加工およびその後の食缶としての使用に耐え得るような絞り加工性、付着性、耐傷付き性、耐熱水性、光沢を有していることが必要とされる。
【0005】
このため、絞り加工缶の外面塗料には、ポリエステル樹脂の他にエポキシ樹脂が必須成分として用いられてきた(たとえば、特許文献1)。しかし、エポキシ樹脂には、一般にビスフェノールAが含まれており、このビスフェノールAは近年の環境ホルモン問題において有害と見られている。そこで、エポキシ樹脂を含むことなく、高い絞り加工性、高い付着性、高い耐傷付き性および高い光沢を有する外面塗料の開発が望まれていた。
【特許文献1】特開2003−147263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、エポキシ樹脂を含まない高い絞り加工性、高い付着性、高い耐傷付き性、高い熱水性および高い光沢を有する絞り加工缶用外面塗料および絞り加工缶の外面の塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、少なくとも下塗り塗料と上塗り塗料とから構成される絞り加工缶用外面塗料であって、下塗り塗料は、数平均分子量が14000〜20000、ガラス転移温度が45〜80℃、水酸基価が5〜15mgKOH/gである高分子ポリエステル樹脂と、ブロックイソシアネート化合物とを含み、上塗り塗料は、数平均分子量が10000〜25000、ガラス転移温度が15〜50℃、水酸基価が3〜20mgKOH/gである高分子ポリエステル樹脂と、アミノ樹脂とを含むことを特徴とする絞り加工缶用外面塗料である。
【0008】
本発明にかかる絞り加工缶用外面塗料において、下塗り塗料は、さらにアミノ樹脂および/または充填材を含むことができる。また、上塗り塗料は、さらに数平均分子量が5000〜10000、ガラス転移温度が15〜50℃、水酸基価が10〜45mgKOH/gである低分子ポリエステル樹脂、潤滑材および/またはブロックイソシアネート化合物を含むことができる。
【0009】
また、本発明は、上記の絞り加工缶用外面塗料を用いた塗装方法であって、金属板の外面に下塗り塗料を塗布し下塗り層を形成する工程と、下塗り層の表面の少なくとも一部にインキを塗布しインキ層を形成する工程と、下塗り層および前記インキ層の表面に上塗り塗料を塗布し上塗り層を形成する工程と、下塗り層、インキ層および上塗り層から構成される塗膜を備える金属板を絞り加工する工程とを含む絞り加工缶の外面の塗装方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エポキシ樹脂を含まない高い絞り加工性、高い付着性、高い耐傷付き性、高い熱水性および高い光沢を有する絞り加工缶用外面塗料および絞り加工缶の外面の塗装方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明にかかる絞り加工缶用外面塗料は、少なくとも下塗り塗料と上塗り塗料とから構成される。下塗り塗料および上塗り塗料いずれにも高い絞り加工性、高い付着性、高い耐傷付き性、高い耐熱水性および高い光沢が要求されるが、下塗り塗料には特に缶を形成する金属板との高い接着性が、上塗り塗料には高い光沢が求められる。したがって、下塗りおよび上塗りについてそれぞれに最適な塗料を組み合わせることにより、絞り加工性、付着性、耐傷付き性、耐熱水性および光沢のいずれにも優れた絞り加工缶用外面塗料が得られる。
【0012】
本発明にかかる加工缶用外面塗料における下塗り塗料は、数平均分子量が14000〜20000、ガラス転移温度が45〜80℃、水酸基価が5〜15mgKOH/gである高分子ポリエステル樹脂と、ブロックイソシアネート化合物とを含む。かかる高分子ポリエステル樹脂とブロックイソシアネート化合物とを含む塗料を加熱することにより、ブロックイソシアネート化合物においてイソシアネート基をブロックしている基(ブロック基という、以下同じ)が解離し、活性化したイソシアネート基により高分子ポリエルテル樹脂が硬化して、絞り加工性、付着性、耐傷付き性、耐熱水性および光沢のいずれもが高く、特に金属板への付着性が高い下塗り塗料の塗膜が得られる。本発明における下塗り塗料は、ポリエステル樹脂とエポキシ樹脂とを含みアミノ樹脂で硬化させる従来の塗料に比べて、特に高い付着性を有する。
【0013】
下塗り塗料に含まれる高分子ポリエステル樹脂とブロックイソシアネート化合物の混合比は、特に制限はないが、絞り加工性、付着性、耐傷付き性、耐熱水性などをバランスよく高める観点から、85〜93質量部と15〜7質量部が好ましい。また、硬化条件は、使用されるブロックイソシアネート化合物においてブロック剤の解離が起こる温度であれば特に制限はないが、170〜190℃で5〜10分間が好ましい。また、下塗り塗料の目付け量は、特に制限はないが、絞り加工性および付着性などの観点から、硬化後の塗膜量として100cm2当たり100〜160mgが好ましい。
【0014】
上記の下塗り塗料に用いられる高分子ポリエステル樹脂は、数平均分子量が14000〜20000、ガラス転移温度が45〜80℃、水酸基価が5〜15mgKOH/gである。数平均分子量が14000未満であると絞り加工性が低下し、20000を超えると金属板への付着性が低下する。また、ガラス転移温度が45℃未満であると硬化塗膜のべたつきが大きくなり、80℃を超えると硬化後の塗膜が硬くなりすぎ加工性が低下する。また、水酸基価が5mgKOH/g未満であると硬化不足となり加工性が低下し、15mgKOH/gを超えると架橋密度が高くなりすぎ、また加工性が低下する。かかる高分子ポリエステル樹脂は、酸成分とアルコール成分とを直接エステル化またはエステル交換反応によって合成されるものである。
【0015】
ポリエステル樹脂を構成する酸成分としては、たとえば、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、コハク酸、フマル酸、アジピン酸、セバシン酸、無水マレイン酸などから選ばれる1種以上の二塩基酸およびこれらの酸の低級アルキルエステル化物が主として用いられ、必要に応じて安息香酸、クロトン酸、p−tert−ブチル安息香酸などの一塩基酸、無水トリメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸、無水ピロメリット酸などの3価以上の多塩基酸などが併用される。
【0016】
また、ポリエステル樹脂を構成するアルコール成分としては、たとえばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチルペンタンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ジメチロールシクロヘキサンなどの二価アルコールが主に用いられ、さらに必要に応じてグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの3価以上の多価アルコールを併用することができる。これらのアルコール成分は単独で、あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0017】
上記酸成分と上記アルコール成分とを常法により直接エステル化法またはエステル交換法により合成するに際し、カルボキシル基が水酸基に対して過剰となる条件下で反応を行なえば、カルボキシル基を主体に含有するポリエステル樹脂が得られ、水酸基がカルボキシル基に対して過剰となる条件下で反応を行なえば、水酸基を主体に含有するポリエステル樹脂が得られる。さらにこの水酸基を主体に含有するポリエステル樹脂に酸無水物を付加反応させることにより、単独樹脂中の水酸基とカルボキシル基の量を調製することが可能となる。この水酸基を主体に含有するポリエステル樹脂に反応させる酸無水物としては、無水フタル酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸などを挙げることができる。
【0018】
上記方法において、直接エステル化法またはエステル交換法による反応は、加圧または減圧操作、あるいは不活性ガスを流入させて反応を促進させることもできる。さらに反応の際にジ−n−ブチル錫オキサイドなどの有機金属触媒などをエステル化触媒として使用することができる。
【0019】
上記のポリエステル樹脂は、オイルフリーポリエステル樹脂、油変性アルキド樹脂、または、これらの樹脂の変性物、たとえばウレタン変性ポリエステル樹脂、ウレタン変性アルキド樹脂などのいずれであってもよいが、なかでもオイルフリーポリエステル樹脂であることが好適である。
【0020】
上記の下塗り塗料に用いられるブロックイソシアネート化合物とは、その含有するイソシアネート基がブロック剤を用いて一時的に不活性化されている化合物をいい、イソシアネート化合物とブロック剤とを反応させることにより形成される。すなわち、無触媒下またはジ−n−ブチル錫ジラウリレートなどの触媒下、イソシアネート化合物にブロック剤を約30〜約100℃程度の温度で反応させることにより、イソシアネート化合物のイソシアネート基にブロック剤が結合して、イソシアネート基が不活性化されたブロックイソシアネート化合物が形成される。かかるブロックイソシアネート化合物は、加熱されることによりブロック剤がそのイソシアネート基から解離し、イソイアネート基を活性化させることができる。
【0021】
ブロックイソシアネート化合物を形成するイソシアネート化合物は、特に制限はないが、トリレンジイソシアネート(TDI)、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ジメチルビフェニレンジイソシアネート、ジメトキシビフェニレンジイソシアネート、ジクロロビフェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族イソシアネート化合物、テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、シクロヘキシルジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水素添加キシリレンジイソシアネートなどの脂肪族イソシアネート化合物などが挙げられる。また、上記イソシアネート化合物の二量体、三量体なども用いることができる。脂肪族イソシアネート化合物は、芳香族イソシアネート化合物に比べて黄変性が少ない観点から、好ましく用いられる。
【0022】
ブロックイソシアネート化合物を形成するブロック剤は、特に制限はないが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノールなどのアルコール類、フェノール、レゾルシノール、クレゾール、ニトロフェノール、クロロフェノールなどのフェノール類、ベンゼンチオールなどのチオコール類、ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、アセチルアセトンなどのケトエノール類、メチルエチルケトオキシム、ジメチルケトオキシム、メチルブチルケトオキシムなどのケトオキシム類、ジメチルアミド、メチルフェニルアミドなどのアミド類、亜硫酸水素ナトリウムなどが挙げられる。
【0023】
本発明にかかる絞り加工缶用外面塗料における下塗り塗料は、上記高分子ポリエステル樹脂およびブロックイソシアネート化合物に加えて、さらにアミノ樹脂を含むことが好ましい。アミノ樹脂は、ブロックイソシアネート化合物とともに、高分子ポリエステル樹脂を硬化させる。ブロックイソシアネート化合物とともにアミノ樹脂が含まれる場合は、高分子ポリエステル樹脂とブロックイソシアネート化合物およびアミノ樹脂の合計量との配合比が、85〜93質量部と15〜7質量部であることが好ましい。アミノ樹脂をさらに含むことにより、塗膜形成能力および平滑性が高まる。
【0024】
下塗り塗料に用いられるアミノ樹脂は、特に制限はないが、メラミン、尿素、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、ステログアナミン、スピログアナミン、ジシアンジアミドなどのアミノ成分とメチロール成分とから構成されるメチロール化アミノ樹脂などが挙げられる。上記のアミノ成分と反応してメチロール成分を形成する化合物としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒドなどが挙げられる。さらに、塗膜の絞り加工性、付着性、耐傷付き性、耐熱水性および光沢を高める観点から、絞り加工性、上記メチロール化アミノ樹脂のメチロール成分の少なくとも一部を1価のアルコールでエーテル化したアルコキシ化アミノ樹脂が好ましく挙げられる。特に、アミノ成分としてはベンゾグアナミンが好ましく、メチロール成分の少なくとも一部はブタノールによりエーテル化されていることが好ましい。具体的には、ブトキシ化ベンゾグアナミン樹脂が特に好ましい。
【0025】
また、本発明にかかる絞り加工缶用外面塗料における下塗り塗料は、上記高分子ポリエステル樹脂およびブロックイソシアネート化合物に加えて、充填剤を含むことができる。充填剤には、本発明の目的に反しない限り特に制限はないが、金属板の色を隠し意匠性を高めるために、酸化チタン、アルミニウムペースト、パール粉末、高輝度無機化合物などが好ましく用いられる。たとえば、充填剤として酸化チタンを含む下塗り塗料は、ホワイトと呼ばれ、金属板との接着を高めるプライマーとしての役割と共に、金属板上に白色層を形成し、この下塗り塗膜上の少なくとも一部に塗布されるインキにより形成される意匠を高める着色層の役割を有する。
【0026】
上記の上塗り塗料に用いられる高分子ポリエステル樹脂は、数平均分子量が10000〜25000、ガラス転移温度が15〜50℃、水酸基価が3〜20mgKOH/gである高分子ポリエステル樹脂とアミノ樹脂とを含む。かかる高分子ポリエステル樹脂とアミノ樹脂との反応により硬化して、絞り加工性、付着性、耐傷付き性、耐熱水性および光沢のいずれもが高く、特に絞り部分の光沢が高い上塗り塗料の塗膜が得られる。
【0027】
上塗り塗料に含まれる高分子ポリエステル樹脂とアミノ樹脂との混合比は、特に制限はないが、絞り加工性、付着性、耐傷付き性、耐熱水性などの観点から、60〜80質量部と40〜20質量部が好ましい。アミノ樹脂が20質量部未満であると塗膜の白化が起こり、40質量部を超えると絞り加工性が低下する。また、硬化条件は、特に制限はないが、170〜190℃で5〜10分間が好ましい。また、上塗り塗料の目付け量は、特に制限はないが、絞り加工性および付着性などの観点から、硬化後の塗膜量として100cm2当たり60〜90mgが好ましい。
【0028】
上記の上塗り塗料に用いられる高分子ポリエステル樹脂は、数平均分子量が10000〜25000、ガラス転移温度が15〜50℃、水酸基価が3〜20mgKOH/gである。数平均分子量が10000未満であると耐傷付き性が低下し、25000を超えると光沢が低下する。また、ガラス転移温度が15℃未満であると硬化塗膜のべたつきが著しく大きくなり、50℃を超えると絞り加工性が低下する。また、水酸基価が3mgKOH/g未満であると架橋密度が低くなり過ぎて加工性、耐水性などが低下し、20mgKOH/gを超えると架橋密度が高くなり過ぎて加工性が特に低下する。かかる高分子ポリエステル樹脂は、酸成分とアルコール成分とを直接エステル化またはエステル交換反応によって合成されるものである。ここで、酸成分およびアルコール成分は、下塗り塗料において用いられる高分子ポリエステル樹脂と同様である。
【0029】
上記の上塗り塗料に用いられるアミノ樹脂は、上記下塗り塗料において説明したアミノ樹脂と同様である。すなわち、上塗り塗料に用いられるアミノ樹脂は、特に制限はないが、メラミン、尿素、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、ステログアナミン、スピログアナミン、ジシアンジアミドなどのアミノ成分とメチロール成分とから構成されるメチロール化アミノ樹脂などが挙げられる。さらに、塗膜の絞り加工性、付着性、耐傷付き性、耐熱水性および光沢を高める観点から、絞り加工性、上記メチロール化アミノ樹脂のメチロール成分の少なくとも一部を1価のアルコールでエーテル化したアルコキシ化アミノ樹脂が好ましく挙げられる。特に、アミノ成分としてはベンゾグアナミンが好ましく、メチロール成分の少なくとも一部はブタノールによりエーテル化されていることが好ましい。具体的には、ブトキシ化ベンゾグアナミン樹脂が特に好ましい。
【0030】
本発明にかかる絞り加工缶用外面塗料における上塗り塗料は、上記高分子ポリエステル樹脂およびアミノ樹脂に加えて、さらに数平均分子量が5000〜10000、ガラス転移温度が15〜50℃、水酸基価が10〜45mgKOH/gである低分子ポリエステル樹脂を含むことが好ましい。高分子ポリエステル樹脂および低分子ポリエステル樹脂を含むことにより、塗膜の絞り加工性および光沢がさらに高まる。低分子ポリエステル樹脂の数平均分子量が5000未満であると耐熱水性が低下する。また、ガラス転移温度が15℃未満であると硬化塗膜のべたつきが著しく大きくなり、50℃を超えると絞り加工性が低下する。また、水酸基価が10mgKOH/g未満であると架橋密度が低くなり過ぎて加工性、耐水性などが低下し、45mgKOH/gを超えると架橋密度が高くなり過ぎて加工性が特に低下する。
【0031】
また、ポリエステル樹脂全体における高分子ポリエステル樹脂と低分子ポリエステル樹脂との比率は、ポリエステル樹脂全体100質量%に対して、高分子ポリエステル樹脂70〜90質量%、低分子ポリエステル樹脂30〜10質量%であることが、加工性、耐水性などの特性が総合的に高い観点から、好ましい。
【0032】
本発明にかかる絞り加工缶用外面塗料における上塗り塗料は、上記高分子ポリエステル樹脂およびアミノ樹脂に加えて、さらにブロックイソシアネート化合物を含むことが好ましい。上塗り塗料に用いられるブロックイソシアネート化合物は、上記下塗り塗料において説明したブロックイソシアネート化合物と同様である。
【0033】
上記のブロックイソシアネート化合物は、アミノ樹脂とともに、高分子ポリエステル樹脂および低分子ポリエステル樹脂を硬化させる。上塗り塗料における高分子ポリエステル樹脂、低分子ポリエステル樹脂、アミノ樹脂およびブロックイソシアネート化合物の配合比は、高分子ポリエステル樹脂および低分子ポリエステル樹脂の合計量とアミノ樹脂およびブロックイソシアネート化合物の合計量とが、60〜80質量部と40〜20質量部であることが好ましい。
【0034】
本発明にかかる絞り加工缶用外面塗料における上塗り塗料は、上記高分子ポリエステル樹脂およびアミノ樹脂に加えて、さらに潤滑剤を含むことが好ましい。上塗り塗料は、潤滑剤を含むことにより、絞り加工の際の塗膜の傷付きを効果的に防止することができる。上塗り塗料において用いられる潤滑剤は、本発明の目的に反しない限り特に制限はなく、たとえば、植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックス、石油系ワックス、脂肪酸エステル系ワックス、フッ素系ワックス、ポリオレフィン系ワックスなどが好ましく挙げられる。また、上記ワックスを2種類以上併用してもよい。
【0035】
上記植物系ワックスとしては、カルナウバワックス、綿ワックス、木ロウなどが挙げられ、動物系ワックスとしては、ラノリンワックス、ゲイロウ、蜜ろうなどが挙げられ、鉱物系ワックスとしてはオゾケライト、モンタンワックスなどが挙げられる。石油系ワックスとしては、パラフィン系ワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムなどが挙げられ、脂肪酸エステル系ワックスとしては、脂肪酸蔗糖エステルポリグリセリンエーテルと脂肪酸とのエステル化物などが挙げられる。フッ素系ワックスとしては、ポリテトラフルオロエチレンワックスなどが挙げられる。ポリオレフィン系ワックスとしては、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックスなどが挙げられる。上記ワックスの添加量としては、上塗り塗料中の樹脂100質量部に対し、0.1〜30質量部が好ましく、1〜10質量部がより好ましい。
【0036】
本発明にかかる絞り加工缶の外面の塗装方法は、上記の絞り加工缶用外面塗料を用いた塗装方法であって、金属板の外面に下塗り塗料を塗布し下塗り層を形成する工程と、下塗り層の表面の少なくとも一部にインキを塗布しインキ層を形成する工程と、下塗り層およびインキ層の表面に上塗り塗料を塗布し上塗り層を形成する工程と、下塗り層、インキ層および上塗り層から構成される塗膜を備える金属板を絞り加工する工程とを含む。
【0037】
金属板は、本発明の目的に反しない限り特に制限はなく、TFS(無錫処理鋼)板、ブリキ板、アルミニウム板などが用いられる。ここで、金属板の外面とは、後の絞り加工により缶の外面となる面をいう。
【0038】
金属板の外面に下塗り塗料を塗布し下塗り層を形成する工程において、金属板の外面に下塗り塗料が塗布され、塗布された下塗り塗料が硬化されて下塗り層が形成される。
【0039】
金属板の外面に下塗り塗料を塗布する方法には、特に制限はなく、はけ塗り、ローラ塗り、バーコーター塗り、スプレー塗りなどの各種方法を用いることができる。下塗り塗料の目付け量は、特に制限はないが、硬化塗膜(下塗り層)として、プライマー仕様(充填剤がない場合)では10〜30mg/100cm2が好ましく、ホワイト仕様(充填剤が酸化チタンの場合)では100〜150mg/100cm2が好ましく、アルミニウム仕様(充填剤がアルミニウムペーストの場合)では40〜70mg/100cm2が好ましい。
【0040】
塗布された下塗り塗料を硬化させる方法には、高分子ポリエステル樹脂とイソシアネート化合物およびアミノ樹脂との硬化反応が起こる限り制限はないが、大気圧雰囲気下、170〜190℃で5〜10分間の熱処理する(焼き付けをするともいう、以下同じ)ことが、絞り加工性、付着性、耐傷付き性および耐熱水性の高い下塗り層を効率的に形成する観点から、好ましい。
【0041】
下塗り層の表面の少なくとも一部にインキを塗布しインキ層を形成する工程において、下塗り層の表面の少なくとも一部にインキが塗布され、塗布されたインキが硬化されてインキ層が形成される。
【0042】
下塗り層の表面にインキを塗布する方法には、特に制限はなく、スクリーン印刷、はけ塗り、ローラ塗り、バーコーター塗り、スプレー塗りなどの各種方法を用いることができる。
【0043】
塗布されたインキを硬化させる方法には、特に制限はないが、大気圧雰囲気下、130〜150℃で7〜10分間の熱処理する(焼き付けをするともいう、以下同じ)ことが、生産性、インキのにじみ防止の観点から、好ましい。
【0044】
絞り加工缶の外面塗装においては、異なる2以上のインキを用いて多色にする場合があり、かかる場合には、インキの塗布および硬化の工程が2回以上行なわれる場合がある。赤、青、黄および黒の4色のインキを用いる場合は、たとえば、赤インキおよび青インキを塗布し硬化させて第1のインキ層(赤インキ層および青インキ層)を形成した後、黄インキおよび黒インキを塗布し硬化させて第2のインキ層(黄インキ層および黒インキ層)を形成する。なお、生産効率を高めるために、黄インキおよび黒インキを塗布後未硬化の状態で、以下に説明する上塗り塗料の塗布を行い、1度の熱処理(焼き付け)により上塗りの塗料の硬化とともに黄インキおよび黒インキの硬化を行い、第2のインキ層および上塗り層を同時に形成する場合もある。
【0045】
本発明にかかる外面塗料は、アルキド樹脂系インキ、アクリル樹脂系インキなど各種のインキに広く適用が可能である。特に、アルキド樹脂系インキ、アクリル樹脂系インキに対しては、インキ滲みがなく、インキと塗料(下塗り塗料および上塗り塗料を含む、以下同じ)との密着性が高い観点から、好ましく適用できる。
【0046】
下塗り層およびインキ層の表面上に上塗り塗料を塗布し上塗り層を形成する工程において、下塗り塗膜およびインキ層の表面上に上塗り塗料が塗布され、塗布された上塗り塗料が硬化されて上塗り層が形成される。
【0047】
金属板の外面に上塗り塗料を塗布する方法には、特に制限はなく、はけ塗り、ローラ塗り、バーコーター塗り、スプレー塗りなどの各種方法を用いることができる。上塗り塗料の目付け量は、特に制限はないが、硬化塗膜(上塗り層)として、クリヤー仕様(充填剤がない場合)では60〜90mg/100cm2が好ましい。
【0048】
塗布された上塗り塗料を硬化させる方法には、高分子ポリエステル樹脂とアミノ樹脂およびイソシアネート化合物との硬化反応が起こる限り制限はないが、大気圧雰囲気下、170〜190℃で5〜10分間の熱処理する(焼き付けをするともいう、以下同じ)ことが、絞り加工性、付着性、耐傷付き性および耐熱水性の高い上塗り層を効率的に形成する観点から、好ましい。
【0049】
上記のようにして得られる下塗り層、インキ層および上塗り層は一体となって絞り加工性、付着性、耐傷付き性および耐熱水性の高い塗膜を金属板上に形成する。すなわち、本発明によれば、高い絞り加工性、高い付着性、高い耐傷付き性、高い熱水性および高い光沢を有する絞り加工缶用外面塗料および絞り加工缶の外面の塗装方法を提供することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明にかかる絞り加工缶用外面塗料についてさらに具体的に説明する。
【0051】
[ポリエステル樹脂の合成]
(合成例1)
テレフタル酸30質量部、イソフタル酸70質量部、エチレングリコール50質量部、シクロヘキサンジメタノール50質量部および重縮合触媒であるジブチル錫オキサイド0.5質量部とを200〜260℃に加熱しながら攪拌混合させて、生成する水を除去しながら、エステル反応を進め、数平均分子量が17000、水酸基価が10mgKOH/g、酸価が2mgKOH/g、Tgが70℃のポリエステル樹脂Aを得た。このポリエステル樹脂Aをシクロヘキサノン/芳香族炭化水素(質量比が35/65)の混合溶剤で希釈して、樹脂固形分40質量%のポリエステル樹脂A溶液を得た。ここで、芳香族炭化水素とは、トルエン、キシレンなどの芳香族系炭化水素の単独または混合物であって、沸点が150〜211℃程度の溶剤をいう。
【0052】
(合成例2)
テレフタル酸35質量部、イソフタル酸50質量部、セバチン酸15質量部、エチレングリコール50質量部、シクロヘキサンジメタノール50質量部および重縮合触媒であるジブチル錫オキサイド0.5質量部とを200〜260℃に加熱しながら攪拌混合させて、生成する水を除去しながら、エステル反応を進め、数平均分子量が17000、水酸基価が7mgKOH/g、酸価が2mgKOH/g、Tgが50℃のポリエステル樹脂Bを得た。このポリエステル樹脂Bをシクロヘキサノン/芳香族炭化水素(質量比が35/65)の混合溶剤で希釈して、樹脂固形分40質量%のポリエステル樹脂B溶液を得た。
【0053】
(合成例3)
テレフタル酸30質量部、イソフタル酸50質量部、セバチン酸20質量部、エチレングリコール55質量部、シクロヘキサンジメタノール45質量部および重縮合触媒であるジブチル錫オキサイド0.5質量部とを200〜260℃に加熱しながら攪拌混合させて、生成する水を除去しながら、エステル反応を進め、数平均分子量が17000、水酸基価が7mgKOH/g、酸価が2mgKOH/g、Tgが40℃のポリエステル樹脂Cを得た。このポリエステル樹脂Cをシクロヘキサノン/芳香族炭化水素(質量比が35/65)の混合溶剤で希釈して、樹脂固形分40質量%のポリエステル樹脂C溶液を得た。
【0054】
(合成例4)
テレフタル酸30質量部、イソフタル酸70質量部、エチレングリコール50質量部、シクロヘキサンジメタノール50質量部および重縮合触媒であるジブチル錫オキサイド0.5質量部とを200〜260℃に加熱しながら攪拌混合させて、生成する水を除去しながら、エステル反応を進め、数平均分子量が12000、水酸基価が11mgKOH/g、酸価が2mgKOH/g、Tgが70℃のポリエステル樹脂Dを得た。このポリエステル樹脂Dをシクロヘキサノン/芳香族炭化水素(質量比が35/65)の混合溶剤で希釈して、樹脂固形分45質量%のポリエステル樹脂D溶液を得た。
【0055】
(合成例5)
テレフタル酸40質量部、イソフタル酸19質量部、セバシン酸20質量部、ヘキサヒドロテレフタル酸21質量部、エチレングリコール25質量部、ネオペンチルグリコール20質量部、プロピレングリコール53質量部、トリメチロールプロパン2質量部および重縮合触媒であるジブチル錫オキサイド0.5質量部とを200〜260℃に加熱しながら攪拌混合させて、生成する水を除去しながら、エステル反応を進め、数平均分子量が20000、水酸基価が9mgKOH/g、酸価が0.5mgKOH/g、Tgが20℃のポリエステル樹脂Eを得た。このポリエステル樹脂Eをシクロヘキサノン/芳香族炭化水素(質量比が50/50)の混合溶剤で希釈して、樹脂固形分50質量%のポリエステル樹脂E溶液を得た。
【0056】
(合成例6)
テレフタル酸50質量部、イソフタル酸20質量部、セバシン酸5質量部、ヘキサヒドロテレフタル酸21質量部、エチレングリコール25質量部、ネオペンチルグリコール20質量部、プロピレングリコール53質量部、トリメチロールプロパン2質量部および重縮合触媒であるジブチル錫オキサイド0.5質量部とを200〜260℃に加熱しながら攪拌混合させて、生成する水を除去しながら、エステル反応を進め、数平均分子量が20000、水酸基価が9mgKOH/g、酸価が0.5mgKOH/g、Tgが40℃のポリエステル樹脂Fを得た。このポリエステル樹脂Fをエチレングリコールモノブチルエーテル/芳香族炭化水素(質量比が50/50)の混合溶剤で希釈して、樹脂固形分50質量%のポリエステル樹脂F溶液を得た。
【0057】
(合成例7)
テレフタル酸40質量部、イソフタル酸19質量部、セバシン酸20質量部、ヘキサヒドロテレフタル酸21質量部、エチレングリコール25質量部、ネオペンチルグリコール20質量部、プロピレングリコール53質量部、トリメチロールプロパン2質量部および重縮合触媒であるジブチル錫オキサイド0.5質量部とを200〜260℃に加熱しながら攪拌混合させて、生成する水を除去しながら、エステル反応を進め、数平均分子量が10000、水酸基価が12mgKOH/g、酸価が0.5mgKOH/g、Tgが20℃のポリエステル樹脂Gを得た。このポリエステル樹脂Gをエチレングリコールモノブチルエーテル/芳香族炭化水素(質量比が50/50)の混合溶剤で希釈して、樹脂固形分50質量%のポリエステル樹脂G溶液を得た。
【0058】
[ブロックイソシアネート化合物]
ブロックイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアネート基をメチルエチルケトオキシムでブロックしたブロックイソシアネート化合物A(日本ポリウレタン工業株式会社製C−2507)と、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアネート基をアセト酢酸エチルでブロックしたブロックイソシアネート化合物B(日本ポリウレタン工業株式会社製C−2515)と、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアネート基をメチルエチルケトオキシムでブロックしたブロックイソシアネート化合物C(旭化成株式会社製E−402−B80T)とを用いた。
【0059】
[アミノ樹脂]
アミノ樹脂としては、ブトキシ化ベンゾグアナミン樹脂(大日本インキ化学工業株式会社製L−141−55)を用いた。
【0060】
[充填剤]
充填剤としては、酸化チタン(テイカ株式会社製JR−301)、アルミペースト(東洋アルミニウム株式会社製5680N)を用いた。
【0061】
[潤滑剤]
潤滑剤としては、マイクロクリスタリンワックス(日本精蝋株式会社製Hi−Mic−1045)を用いた。
【0062】
[絞り加工缶用外面塗料の調製]
表1および表2に示す配合にて、絞り加工缶用外面塗料の下塗り塗料および上塗り塗料を調製した。表1および表2における配合部数は各成分の固形分を基準とする質量部で示した。
【0063】
[インキ]
インキとしては、アルキド樹脂系インキ(マツイカガク株式会社製CPA−S型)を用いた。
【0064】
[絞り加工缶用内面塗料]
絞り加工缶用内面塗料としては、数平均分子量15000、ガラス転移温度40℃、水酸基価6mgKOH/g、酸価0.5mgKOH/gのポリエステル樹脂(荒川化学株式会社製No.2092)80質量部、フェノール樹脂(桜宮化学株式会社製レゾール型フェノール樹脂)20質量部からなるポリエステルフェノール系樹脂を用いた。
【0065】
[金属板の塗装および絞り加工缶の作製]
厚さ0.23mmのTFS板の内面(絞り加工により缶の内側となる面)に上記絞り加工缶用内面塗料をバーコーターにより塗布して、200℃で10分間熱処理(焼き付け)を行なった。
【0066】
次に、上記のTFS板の外面(絞り加工により缶の外側となる面)に表1および表2の比較例1および実施例1〜14のいずれかの配合を有する下塗り塗料をバーコーターにより塗布した。比較例1および実施例1〜13のホワイト仕様下塗り塗料および実施例14のアルミニウム仕様下塗り塗料の目付け量は、硬化塗膜(下塗り層)を基準として、それぞれ、130〜150mg/100cm2、50〜60mg/100cm2とした。次いで、下塗り塗料が塗布されたTFS板を180℃で10分間熱処理(焼き付け)を行い、下塗り層を形成した。
【0067】
次に、実施例2および3については、上記下塗り層の表面に、表1の実施例2または3に示す黒インキを硬化インキ層を基準とする目付け量が10〜15mg/100cm2となるようにRIテスター(輪転機)を用いて塗布した後、150℃で10分間熱処理(焼き付け)を行い、インキ層を形成した。
【0068】
次に、実施例2については上記インキ層の表面に、比較例1〜3、実施例1および3〜11については上記下塗り層の表面に、表1および表2の比較例1〜3および実施例1〜11のいずれかの配合を有する上塗り塗料を硬化塗膜(上塗り層)を基準とする目付け量が70〜90mg/100cm2となるようにバーコーダーを用いて塗布した後、180℃で10分間熱処理(焼き付け)を行い、上塗り層を形成した。
【0069】
次に、上記の内面塗料および外面塗料が塗布されたTFS板を、プレスを用いて、外径83cm、内径82cm、高さ58cm、絞り率70%(本願において、絞り率とは100×(高さ:単位cm)/(内径:単位cm)で算出される値と定義する)の一方の端に底を有する円筒形状に絞り加工を行なった。このようにして得られた絞り加工缶の外面塗料の物性について、以下の試験方法により測定を行い、結果を表1および表2にまとめた。
【0070】
[試験方法]
(ガラス転移温度(以下、Tgともいう))
上記各実施例において、5mm×5mm×厚さ0.23mmのTFS板上に表1または表2に示された配合の下塗り塗料または上塗り塗料を上記目付け量で塗布し上記条件で熱処理して硬化させた後、各TFS板上に形成された下塗り塗膜または上塗り塗膜について、株式会社島津製作所製TMA−50装置を用いて、針入法(荷重20g)によりTMA曲線を測定し、変曲点前後の接線の交点をTgとして評価した。
【0071】
(鉛筆硬度)
室温(20℃)雰囲気下、JIS K 5600−5−4に準拠して各塗装板の外面の鉛筆引っ掻き試験を行った。
【0072】
(耐傷付き性)
室温(20℃)雰囲気下、JIS K 5600−5−5に準拠して、各塗装板の外面の引っ掻き試験を行った。評価基準は、優(針が塗膜を貫通する最小負荷質量が250g以上)、良(針が塗膜を貫通する最小負荷質量が200g以上250g未満)、可(針が塗膜を貫通する最小負荷質量が150g以上200g未満)、不可(針が塗膜を貫通する最小負荷質量が150g未満)の4段階とした。
【0073】
(動摩擦係数)
室温(20℃)雰囲気下、東洋精機社製FRICTION TESTER TR−2装置を用いて、荷重2kg、引張り速度1,000mm/minの条件で各塗装ブリキ板の外面の動摩擦係数を測定した。動摩擦係数が小さいほど潤滑性は良好である。
【0074】
(耐加圧粘着性)
各塗装ブリキ板を5cm×5cmの大きさに切り、塗装面に所定の紙(クレシア社製Kleenex Facial Tissues)をかぶせ、55℃の雰囲気中、30kg/cm2で24時間加圧した後取り出し、室温に戻してから紙を剥がし、その状態により耐加圧粘着性を評価した。評価基準は、良(紙を剥がすことができ塗膜に紙の繊維が残らない)、可(紙を剥がせるが塗膜に紙の繊維が残る)、不可(紙を剥がすことができない)の3段階とした。
【0075】
(成型性)
各塗装ブリキ板を上記のように絞り率70%で絞り加工を行なった。各実施例または比較例について10缶成型加工したうち、成型加工ができた率(成功率)から以下の基準で評価した。評価基準は、優(成功率100%)、良(成功率90%以上100%未満)、可(成功率50%以上90%未満)、不可(成功率50%未満)の4段階とした。
【0076】
(成型後の塗膜付着性)
上記成型後の外面塗膜について、JIS K 5600−5−6に規定するクロスカット法によりブリキ板への付着性試験を行なった。評価基準は、優(塗膜の剥離が5%以内)、良(塗膜の剥離が5%を超え15%以内)、可(塗膜の剥離が15%を超え35%以内)、不可(塗膜の剥離が35%を超える)の4段階とした。
【0077】
(成型後の光沢)
上記成型後の外面塗膜の光沢と上記成型前の外面塗膜の光沢を目視により比較した。評価基準は、成型前の光沢に比べて、良(成型後も光沢が維持されるもの)、可(成型後は光沢が少し低下するが美感を損なわないもの)、不可(成型後は光沢が著しく低下し美感を損なうもの)の3段階とした。
【0078】
(成型後の耐熱水性)
上記成型後の絞り加工缶を、120℃の熱水中に60分間浸漬して耐熱水性を評価した。評価基準は、優(塗膜が全く白化していない)、良(塗膜がわずかに白化している)、可(塗膜が白化している)、不可(塗膜が白化して劣化している)の4段階とした。
【0079】
(折り曲げ加工性)
各塗装金属板を、同じ厚さの下地金属板を1枚挟んで180°に折り曲げたとき(1T加工)の折り曲げ部の通電性を通電値測定装置デジタルエナメルレータ(Digital EnamelRater)(ペコ社製)を用いて評価した。評価基準は、優(通電せず)、良(5mA以下の通電)、可(5mAを超え50mA以下の通電)、不可(50mAを超える通電)の4段階とした。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
表1および表2から明らかなように、実施例1〜11に示すように、加工缶用外面塗料を構成する下塗り塗料が数平均分子量が14000〜20000、ガラス転移温度が45〜80℃、水酸基価が5〜15mgKOH/gである高分子ポリエステル樹脂と、ブロックイソシアネート化合物とを含み、上塗り塗料が数平均分子量が10000〜25000、ガラス転移温度が15〜50℃、水酸基価が3〜20mgKOH/gである高分子ポリエステル樹脂とアミノ樹脂とを含むことにより、高い絞り加工性、高い付着性、高い耐傷付き性、高い熱水性および高い光沢を有する塗膜を絞り加工缶の外面に形成することができた。
【0083】
比較例1は下塗り塗料にブッロクイソシアネート化合物が含まれていないため成型性(絞り加工性)が著しく低下し、比較例2は下塗り塗料に含まれる高分子ポリエステル樹脂のガラス転移温度が45℃未満であるため耐加圧粘着性が著しく低下し、比較例3は下塗り塗料に含まれる高分子ポリエステル樹脂の数平均分子量が14000未満であるため成型性が著しく低下した。
【0084】
なお、実施例6は上塗り塗料のアミノ樹脂の含有量が少ない(20質量部)ため、成型後の光沢および耐熱水性が低下し、実施例7は上塗り塗料のポリエステル樹脂の含有量が少ない(50質量部)ため、成型性、成型後の光沢および折り曲げ加工性が低下し、実施例11は、工業的に現存するアルミニウムペーストでは要求されている輝度が得られないため、成型後の光沢が低下している。
【0085】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下塗り塗料と上塗り塗料とから構成される絞り加工缶用外面塗料であって、
前記下塗り塗料は、数平均分子量が14000〜20000、ガラス転移温度が45〜80℃、水酸基価が5〜15mgKOH/gである高分子ポリエステル樹脂と、ブロックイソシアネート化合物とを含み、
前記上塗り塗料は、数平均分子量が10000〜25000、ガラス転移温度が15〜50℃、水酸基価が3〜20mgKOH/gである高分子ポリエステル樹脂と、アミノ樹脂とを含むことを特徴とする絞り加工缶用外面塗料。
【請求項2】
前記下塗り塗料は、さらにアミノ樹脂を含む請求項1に記載の絞り加工缶用外面塗料。
【請求項3】
前記下塗り塗料は、さらに充填剤を含む請求項1または請求項2に記載の絞り加工缶用外面塗料。
【請求項4】
前記上塗り塗料は、さらに数平均分子量が5000〜10000、ガラス転移温度が15〜50℃、水酸基価が10〜45mgKOH/gである低分子ポリエステル樹脂を含む請求項1から請求項3までのいずれかに記載の絞り加工缶用外面塗料。
【請求項5】
前記上塗り塗料は、さらにブロックイソシアネート化合物を含む請求項1から請求項4までのいずれかに記載の絞り加工缶用外面塗料。
【請求項6】
前記上塗り塗料は、さらに潤滑剤を含む請求項1から請求項5までのいずれかに記載の絞り加工缶用外面塗料。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれかの絞り加工缶用外面塗料を用いた塗装方法であって、
金属板の外面に前記下塗り塗料を塗布し下塗り層を形成する工程と、前記下塗り層の表面の少なくとも一部にインキを塗布しインキ層を形成する工程と、前記下塗り層および前記インキ層の表面に前記上塗り塗料を塗布し上塗り層を形成する工程と、前記下塗り層、前記インキ層および前記上塗り層から構成される塗膜を備える前記金属板を絞り加工する工程とを含む絞り加工缶の外面の塗装方法。

【公開番号】特開2007−224122(P2007−224122A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−45702(P2006−45702)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(591176225)桜宮化学株式会社 (22)
【Fターム(参考)】