絶縁基板、その製造方法、半導体モジュールおよび半導体装置
【課題】導電性基材の一方面にセラミックス粉末を溶射して形成された絶縁層を備えた絶縁基板における側面部端面の絶縁性を簡単な構造かつ低コストでもって向上させる。
【解決手段】導電性基材1Aの第1面1a側の角部にテーパ面1Acを形成し、第1面1aおよびテーパ面1Acにセラミックス粉末を溶射して絶縁層7Aを形成することにより絶縁基板11Aを構成する。
【解決手段】導電性基材1Aの第1面1a側の角部にテーパ面1Acを形成し、第1面1aおよびテーパ面1Acにセラミックス粉末を溶射して絶縁層7Aを形成することにより絶縁基板11Aを構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性基材の面上に絶縁層が形成された絶縁基板、その製造方法、この絶縁基板を用いた半導体モジュール、および半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
(イ)近年、大容量、高電圧環境下でも動作可能なIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)やMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)などのパワーモジュールが、民生用機器や産業用機器に広範に使用されている。これらの半導体素子を用いる各種のモジュール(以下、「半導体モジュール」という)の中には、扱う電力が大きい場合、回路の集積度が高い場合、または回路の動作周波数が高い場合などのさまざまな理由から、搭載している半導体素子によって生成される熱を適切に放熱しなくてはならないものがある。
(ロ)図9は、特許文献1の内容を示す図である。図9に示すパワー半導体モジュールは、セラミック基板53の両面にそれぞれ導体層である表回路板57および裏回路板58が形成されたセラミック絶縁基板51を備えている。セラミック絶縁基板51における、表回路板57上には、はんだ層56を介してパワー半導体チップ55が接合されている。また、セラミック絶縁基板51における、パワー半導体チップ55との接合面とは反対の面の裏回路板58上には、はんだ層56を介して銅もしくは銅合金からなる金属ベース54が接合されている。さらに、金属ベース54におけるセラミック絶縁基板53との接合面とは反対の面には、サーマルコンパウンドを介して、図示されない冷却体が接合される。
(ハ)このような従来のパワー半導体モジュールの構造では部材が複雑であり、製造にかかるトータルコストが高いことが問題であった。
【0003】
そこで、例えば特許文献2に示されるような、導電性基材にセラミックス粉末を直接溶射して形成された絶縁層を備えた絶縁基板(絶縁層付き導電性基材)を用いたパワー半導体モジュールが考案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−203942号公報
【特許文献2】特開2007−305772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(イ)特許文献2で示されるような導電性基材の面上にセラミックス粉末を溶射して形成された絶縁層を備えた絶縁基板を適用して例えば図10に示されるような半導体モジュールを構成することができるが、このような半導体モジュールにヒートシンクを取付けて半導体装置を構成した場合、絶縁基板における端面の絶縁性を確保する上で問題が有る。
(ロ)図10は、従来技術による半導体モジュールの異なる構成例を示す断面図であって、上述の絶縁基板を適用した半導体モジュールの構成を示している。図10(a)に示す半導体モジュール21には、第1面1aおよび第2面1bを有する導電性基材1の第1面1a上に,セラミックス粉末を溶射して形成された絶縁層7を備えた絶縁基板11が設けられている。導電性基材1の第2面1bには、例えばIGBTなどのパワー半導体素子である半導体回路素子2,2が、例えばはんだによって接合され、直接的または間接的に導電性基材1の第2面1bに接するようにして搭載されている。半導体回路素子2,2の(図示されない)接続用端子は、例えば125〜500μmの線径のアルミワイヤーからなるボンデイングワイヤー4によりリードフレーム6に電気的に接続されている。そして、上述の各要素、すなわち、絶縁基板11、半導体回路素子2,2、リードフレーム6、およびボンデイングワイヤー4が、例えばエポキシ樹脂に無機フィラーを混入させたものからなる封止用の成形樹脂5によって封止されて、半導体モジュール21を構成している。
【0006】
このように構成される半導体モジュール21は、絶縁材料である成形樹脂5によって、導電性基材1の第1面1a以外のすべての面が半導体回路素子2,2とともに覆われることにより封止されている。このため、半導体モジュール21の表面には、電気的な接続のためのリードフレーム6の端部62を除き、成形樹脂5及び第1面1aに形成した絶縁層7のみが外界と接している。すなわち、半導体モジュール21の表面は導電性基材1を外界から絶縁する絶縁表面となっている。そして、半導体モジュール21はヒートシンク8に密着して取付けられて、半導体装置31が構成される。
(ハ)図10(b)は、図10(a)におけるC部の拡大断面図であり、半導体モジュール21をヒートシンク8に密着して取付けた状態における絶縁基板11の側面部端面近傍の絶縁構造を示している。図10(b)の絶縁構造では、導電性基材1とヒートシンク8との間の絶縁沿面距離は絶縁層7の厚さdと同じとなっている。そして、半導体装置31に要求される絶縁仕様によっては、導電性基材1とヒートシンク8との間の絶縁沿面距離を大きくし、絶縁基板11における側面部端面の絶縁性を高めることが必要となる。
【0007】
この点に関し、絶縁基板11における側面部端面の絶縁性を高める対策として、例えば、導電性部材1の第1面1aに形成される絶縁層7の厚さdを大きくすることにより、上記絶縁沿面距離を大きくすることが考えられる。しかしながら、この場合、絶縁層7の厚さdの増大に伴い、絶縁基板1からヒートシンク8への伝熱経路における伝熱抵抗も増大するので、絶縁層7の熱伝導率にもよるが、絶縁層7の厚さdを大きくして側面部端面の絶縁性を高めることには制約が有る。
(ニ)本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであって、導電性基材の一方面にセラミックス粉末を溶射して形成された絶縁層を備えた絶縁基板における側面部端面の絶縁性を簡単な構造かつ低コストでもって向上させるとともに、上記絶縁基板の製造方法、上記絶縁基板を用いた半導体モジュールおよび半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の問題を解決するために、本発明者は、溶射原料としてセラミックスの粉末を例えばプラズマ溶射法などによって高温,高速で基材に衝突させることにより密着性が良好なセラミックス溶射膜を絶縁層として導電性基材の一方面に形成した絶縁基板(絶縁層付き導電性基材)について、その側面部端面の絶縁構造を検討し、本発明を完成するに至った。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明によれば、半導体モジュールに用いられる絶縁基板の構成として、第1面および第2面を有する導電性基材の第1面上に,セラミックス粉末を溶射して形成された絶縁層を備えた絶縁基板であって、前記導電性基材の第2面に直接的または間接的に接して少なくとも1つ以上の半導体回路素子を搭載するとともに前記絶縁層の面に金属部材を密着して取り付けることにより半導体装置を構成するのに用いられる絶縁基板において、前記絶縁基板の側面部の構造を、前記絶縁層の面に前記金属部材を密着させて取り付けた状態における前記導電性基材と前記金属部材との絶縁沿面距離が前記絶縁層の厚さよりも大きくなるような構造とした構成とする(請求項1の発明)。
【0010】
上記請求項1に記載の発明によれば、絶縁層の面に金属部材を密着させて取り付けた状態における「導電性基材と金属部材との絶縁沿面距離」が「絶縁層の厚さ」よりも大きくなるような構造としている。半導体装置において絶縁基板から例えばヒートシンクなどの金属部材への伝熱経路における伝熱抵抗を低く抑える上で絶縁層を厚くするには限界が有るが、上記構造を適用した本発明では、絶縁層の厚さに制約されることなく上記絶縁沿面距離を大きくして絶縁基板における側面部端面の絶縁性を向上させることができ、この絶縁基板を用いた半導体モジュールに例えばヒートシンクなどの金属部材を取付けて構成される半導体装置の絶縁性をより高めることができる。そして、このような絶縁基板を用いることにより、良好な絶縁性を保持し、且つ部材の低コスト化が可能な半導体モジュールおよび半導体装置を実現することができる。
【0011】
また、上記請求項1に記載の絶縁基板において、前記導電性基材は、第1面側の角部にテーパ面を有し、このテーパ面上にも,セラミックス粉末を溶射して形成された絶縁層を第1面上の絶縁層と連続するようにして備えてなる構成とすることができる(請求項2の発明)。
【0012】
上記請求項2に記載の発明によれば、「導電性基材と金属部材との絶縁沿面距離」を「テーパ面上の絶縁層における沿面長」(図1(b)におけるdA1)だけ延長させて「絶縁層の厚さ」よりも十分に大きい沿面距離とすることができるので、絶縁基板における側面部端面の絶縁性を十分に向上させることができる。
【0013】
また、上記請求項2に記載の絶縁基板において、前記導電性基材の第1面に対する垂直方向と前記テーパ面とがなす角度は、30°〜80°である構成とするとよい(請求項3の発明)。
【0014】
また、さらに、上記請求項3に記載の絶縁基板において、前記導電性基材の第1面に対する垂直方向と前記テーパ面とがなす角度は、50°〜70°である構成とするとなおよい(請求項4の発明)。
【0015】
また、上記請求項1に記載の絶縁基板において、前記導電性基材は、第1面側の角部に切り欠き部を有し、第1面上の絶縁層は、前記導電性基材と接する部位よりも外側に延在してなる構成とすることができる(請求項5の発明)。
【0016】
上記請求項5に記載の発明によれば、「導電性基材と金属部材との絶縁沿面距離」を「導電性基材と接する部位よりも外側に延在している絶縁層の延在長」(図4(b)におけるdB1)だけ延長させて「絶縁層の厚さ」よりも十分に大きい沿面距離とすることができるので、絶縁基板における側面部端面の絶縁性を十分に向上させることができる。
【0017】
また、上記請求項1に記載の絶縁基板において、前記導電性基材は、第1面側の角部に切り欠き部を有し、この切り欠き部にも,セラミックス粉末を溶射して形成された絶縁層を第1面上の絶縁層と連続するようにして備えてなる構成とすることができる(請求項6の発明)。
【0018】
上記請求項6に記載の発明によれば、「導電性基材と金属部材との絶縁沿面距離」を「切り欠き部における第1面からの切り欠き深さ長」(図6(b)におけるdC1)だけ延長させて「絶縁層の厚さ」よりも十分に大きい沿面距離とすることができるので、絶縁基板における側面部端面の絶縁性を十分に向上させることができる。
【0019】
また、さらに、上記請求項1ないし6のいずれか1項に記載の絶縁基板において、前記セラミックス粉末として酸化アルミニウムの粉末を用いるものであって、前記絶縁層は、前記酸化アルミニウムの粉末を溶射して形成され、熱処理によって熱伝導率が高められている絶縁層である構成とすることができる(請求項7の発明)。
【0020】
上記請求項1ないし6のいずれか1項に記載の発明では、上述のように、絶縁基板における絶縁層の厚さは小さく抑えたまま側面部端面の絶縁性を向上させることができるので、半導体装置において絶縁基板から例えばヒートシンクなどの金属部材への伝熱経路における伝熱抵抗を低く抑えることができる。そして、さらに、上記請求項7に記載の発明によれば、前記絶縁層は熱伝導率がより高められたものとなるので、上記伝熱抵抗をより低く抑えることが可能になり、より良好な放熱性を備えた半導体装置を実現することができるようになる。
【0021】
また、さらに、上記請求項1ないし6のいずれか1項に記載の絶縁基板において、前記セラミックス粉末として酸化アルミニウムの粉末を用いるものであって、前記絶縁層は、前記酸化アルミニウムの粉末を溶射して形成され、六方晶系の結晶構造を有する絶縁層である構成とすることができる(請求項8の発明)。
【0022】
上記請求項1ないし6のいずれか1項に記載の発明では、上述のように、絶縁基板における絶縁層の厚さは小さく抑えたまま側面部端面の絶縁性を向上させることができるので、半導体装置において絶縁基板から例えばヒートシンクなどの金属部材への伝熱経路における伝熱抵抗を低く抑えることができる。そして、さらに、上記請求項8に記載の発明によれば、前記絶縁層は熱伝導率がより高められたものとなるので、上記伝熱抵抗をより低く抑えることが可能になり、より良好な放熱性を備えた半導体装置を実現することができるようになる。
【0023】
上記請求項1ないし8のいずれか1項に記載の絶縁基板において、前記絶縁層の厚さは、80μm〜300μmである構成とするとよい(請求項9の発明)。
次に、請求項2ないし4のいずれか1項に記載の絶縁基板を製造するための製造方法として、導電性基材の第1面側の角部にテーパ面を形成するテーパ加工工程と、前記テーパ加工工程の後,セラミックス粉末を溶射することにより導電性基材の前記第1面上および前記テーパ面上に絶縁層を形成する絶縁層形成工程とを備える構成とすることができる(請求項10の発明)。
【0024】
また、請求項5に記載の絶縁基板を製造するための製造方法として、セラミックス粉末を溶射することにより導電性基材の第1面上に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、前記絶縁層形成工程の後,導電性基材の第1面側の角部に切り欠き部を形成する切り欠き加工工程とを備える構成とすることができる(請求項11の発明)。
【0025】
また、請求項6に記載の絶縁基板を製造するための製造方法として、導電性基材の第1面側の角部に切り欠き部を形成する切り欠き加工工程と、前記切り欠き加工工程の後,セラミックス粉末を溶射することにより導電性基材の前記第1面上および前記切り欠き部に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、前記絶縁層形成工程の後,第1面上に形成された絶縁層を研削して,第1面上の絶縁層と切り欠き部の絶縁層との面を揃える研削工程とを備える構成とすることができる(請求項12の発明)。
【0026】
また、請求項6に記載の絶縁基板を製造するための製造方法として、第1面および第2面を有する導電性板状部材の第1面に,前記導電性板状部材を複数の導電性基材に分離する分離線に沿って切り欠き溝を形成する切り欠き溝加工工程と、前記切り欠き溝加工工程の後,セラミックス粉末を溶射することにより導電性板状部材の第1面上および切り欠き溝に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、前記絶縁層形成工程の後,前記絶縁層を研削して,第1面上の絶縁層と切り欠き溝の絶縁層との面を揃えて,絶縁層付き導電性板状部材を形成する研削工程と、前記研削工程の後,絶縁層付き導電性板状部材を前記分離線に沿って切断し,複数の前記絶縁基板に分離する分離工程とを備える構成とすることができる(請求項13の発明)。
【0027】
また、さらに、上記請求項10ないし13に記載の絶縁基板の製造方法において、前記セラミックス粉末として酸化アルミニウムの粉末を用いるものであって、前記絶縁層形成工程の後に、前記絶縁層を熱処理することによって前記絶縁層の熱伝導率を上昇させる工程を備える構成とすることができる(請求項14の発明)。
【0028】
また、さらに、上記請求項10ないし13に記載の絶縁基板の製造方法において、前記セラミックス粉末として酸化アルミニウムの粉末を用いるものであって、前記絶縁層形成工程の後に、絶縁層の結晶構造を六方晶系にする工程を備える構成とすることができる(請求項15の発明)。
【0029】
次に、請求項1ないし9のいずれか1項に記載の絶縁基板を用いた半導体モジュールの構成として、前記絶縁基板と、前記導電性基材の前記第2面に直接的または間接的に接して搭載された少なくとも1つ以上の半導体回路素子とを備える構成とすることができる(請求項16の発明)。
【0030】
また、上記請求項16に記載の半導体モジュールにおいて、前記導電性基材の前記第1面以外の面が、前記第2面に搭載されている半導体回路素子とともに絶縁材料である封止剤によって封止されており、前記封止剤と前記第1面上に形成した前記絶縁層とによって前記導電性基材を覆う絶縁表面を有している構成とすることができる(請求項17の発明)。
【0031】
次に、請求項16または17に記載の半導体モジュールを用いた半導体装置の構成として、前記半導体モジュールにおける前記絶縁層の露出面に冷却用の金属部材が密着して取り付けられてなる構成とすることができる(請求項18の発明)。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、導電性基材の一方面にセラミックス粉末を溶射して形成された絶縁層を備えた絶縁基板の側面部端面において絶縁層の厚さに制約されることなく絶縁沿面距離を大きくして絶縁性を向上させることができ、この絶縁基板を用いて、良好な絶縁性を保持し、且つ部材の低コスト化が可能な半導体モジュールおよび半導体装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1の実施形態による絶縁基板、半導体モジュールおよび半導体装置の構成例を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態による絶縁基板、半導体モジュールおよび半導体装置の製造方法の構成例を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施形態による絶縁基板の絶縁破壊特性の評価試験方法を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施形態による絶縁基板、半導体モジュールおよび半導体装置の構成例を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施形態による絶縁基板、半導体モジュールおよび半導体装置の製造方法の構成例を示す図である。
【図6】本発明の第3の実施形態による絶縁基板、半導体モジュールおよび半導体装置の構成例を示す図である。
【図7】本発明の第3の実施形態による絶縁基板、半導体モジュールおよび半導体装置の製造方法の構成例を示す図である。
【図8】本発明の第3の実施形態による絶縁基板の製造方法の異なる構成例を示す図である。
【図9】従来技術による半導体モジュールの構成例を示す図である。
【図10】従来技術による半導体モジュールの異なる構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
次に、本発明の実施形態について図1〜図8に基づいて説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施することができるものである。また、以下の説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分または要素には、共通する参照符号が付されている。また、図中、各実施形態の要素のそれぞれは、必ずしも互いの縮尺比を保って示されていない。
[本発明の実施形態]
<第1の実施形態>
以下、図面を参照しながら、本発明の第1の実施形態について説明する。
【0035】
(a)絶縁基板、半導体モジュールおよび半導体装置の構成例:
図1は、第1の実施形態による絶縁基板11A、半導体モジュール21Aおよび半導体装置31Aの構成を示す断面図であって、図1(a)は全体構成を示す断面図であり、図1(b)は図1(a)におけるC1部の拡大断面図である。
【0036】
図1に示すように、導電性基材1Aの第1面1a(図における下面)上に、絶縁層7Aaが形成されている。これに対し、導電性基材1Aの第2面1b(図における上面)には、直接的または間接的に接するように半導体回路素子2,2が搭載されている。
【0037】
より具体的には、第1の実施形態においては、この導電性基材1Aは銅板により作製される。導電性基材1Aの形状は、例えば、概ね1mm以上5mm以下の厚みを有する平板状であり、その平面視において正方形または長方形である。絶縁層7Aaは、酸化アルミニウム(アルミナ)の粉末71を溶射法により堆積させて形成された層または膜(以下、総称して、単に「層」ともいう)である。そして、絶縁層7Aaは、導電性基材1Aの第1面1a上に酸化アルミニウムの粉末71を溶射することによって80〜300μmの厚みを有するように形成される。絶縁層の厚みとしては上記の80〜300μmが好適であり、この範囲の厚みとすれば、絶縁層自体(バルク)の耐電圧特性が十分なものとなるとともに、絶縁層の伝熱抵抗が十分に低くなるようにすることができる。
【0038】
導電性基材1Aは、第1面1a側の角部にテーパ面1Acを有し、このテーパ面1Ac上にも,セラミックス粉末71の溶射による絶縁層7Abが第1面1a上の絶縁層7Aaと連続するようにして形成されている。そして、導電性基材1Aの第1面1a側に,絶縁層7Aaおよび絶縁層7Abからなる絶縁層7Aを備えた絶縁層付き導電性基材として絶縁基板11Aが構成される。ここで、図1(b)に示しているように、テーパ面1Acの傾斜角、すなわち、テーパ面1Acと、導電性基材1Aの底面に対する垂直方向とのなす角度をθとする。
【0039】
なお、後述するように、上記絶縁層7Aが形成された後に『熱処理』を施して絶縁層の熱伝導率を高めるようにすることが好ましい。この『熱処理』を施した後の絶縁層の結晶構造をX線回折装置によって分析すると、酸化アルミニウムの六方晶系の回折ピークを確認することができる。
【0040】
導電性基材1Aの第2面1bには、例えばIGBTなどのパワー半導体素子である半導体回路素子2,2が、例えばはんだによって接合され、直接的または間接的に導電性基材1の第2面1bに接するようにして搭載されている。半導体回路素子2,2の(図示されない)接続用端子は、例えば125〜500μmの線径のアルミワイヤーからなるボンデイングワイヤー4によりリードフレーム6に電気的に接続されている。そして、上述の各要素、すなわち、絶縁基板11A、半導体回路素子2,2、リードフレーム6、およびボンデイングワイヤー4が、例えばエポキシ樹脂に無機フィラーを混入させたものからなる封止用の成形樹脂5によって封止されて、半導体モジュール21Aが構成される。
【0041】
このように構成される半導体モジュール21Aは、絶縁材料である成形樹脂5によって、導電性基材1Aの第1面1a以外のすべての面が半導体回路素子2,2とともに覆われることにより封止されている。このため、半導体モジュール21Aの表面では、電気的な接続のためのリードフレーム6の端部62を除き、成形樹脂5及び第1面1aに形成した絶縁層7Aaのみが外界と接している。すなわち、半導体モジュール21Aの表面は導電性基材1Aを外界から絶縁する絶縁表面となっている。
【0042】
そして、半導体モジュール21Aはヒートシンク8に絶縁層7Aaの露出面が密着するようにして取付けられて、半導体装置31Aが構成される。
(b)絶縁基板における側面部端面の絶縁性:
図1(b)に示す絶縁基板11Aにおける側面部端面の絶縁構造では、例えば「テーパ面1Ac上の絶縁層7Abにおける絶縁基板11Aに垂直な方向での厚さdA2」が「第1面1a上の絶縁層7Aaの厚さd」と等しい場合、「導電性基材1Aとヒートシンク8との絶縁沿面距離dA=dA1+dA2」は「テーパ面1Ac上の絶縁層7Abにおける沿面長dA1」の分だけ「第1面1a上の絶縁層7Aaの厚さd」より大きい沿面距離となる。
【0043】
このように、第1の実施形態では、導電性基材1Aとヒートシンク8との絶縁沿面距離を絶縁層7Aaの厚さよりも大きくして、絶縁基板11Aにおける側面部端面の絶縁性を向上させることができる。そして、このような絶縁基板11Aを用いた半導体モジュール21Aに例えばヒートシンクなどの金属部材8を取付けて構成される半導体装置31Aは、より優れた絶縁性を備えたものとなる。
【0044】
また、絶縁基板11Aにおける側面部端面の絶縁性は、上述の絶縁沿面距離だけでなく、テーパ面1Acの傾斜角(テーパ角)θにも依存する。そして、本発明におけるテーパ面1Acの傾斜角θは、30°〜80°であることが好ましく、さらには50°〜70°であることが特に好ましい。そして、上記傾斜角θを50°〜70°とすれば、絶縁基板11Aの端面での絶縁破壊のない十分に安定した絶縁破壊特性が得られるとともに、この絶縁基板11Aを用いた半導体モジュールにおける樹脂封止性も十分に良好なものとすることができる。
【0045】
(c)絶縁基板、半導体モジュールおよび半導体装置の製造方法の構成例:
図2は、第1の実施形態による絶縁基板11A、半導体モジュール21Aおよび半導体装置31Aの製造方法の構成例を工程順に示す断面図である。なお、図2(d)、図2(e)では、半導体モジュール21Aの構成要素のうち、ボンデイングワイヤー4、リードフレーム6の図示は省略している。
【0046】
(c1)まず、概ね1mm以上5mm以下の厚みを有する銅板などの平板状導電性部材を、例えばプレス加工により打ち抜いて、導電性基材として必要な形状に成形し、さらに、必要な形状に成形された導電性基材の第1面1a側の角部の全周にテーパ加工工程として図2(a)に示すようにテーパ加工を施し、テーパ面1Acを備えた導電性基材1Aを形成する。
【0047】
(c2)次に、絶縁層形成工程として、導電性基材1Aの第1面1a上およびテーパ面1Ac上に絶縁層7Aを形成する。絶縁層7Aは、図2(b)に示すように、酸化アルミニウム(アルミナ)の粉末71を溶射法を用いて堆積させることにより形成される。具体的には、大気もしくは減圧下の雰囲気において、マスクMによって不要な部位への付着を防止しつつ、導電性基材1Aに向けて一方向から原料粉末71が溶射される。この際の原料粉末71としては、代表的には、α−アルミナ粉末すなわちコランダム(例えば99.7%の純度のアルミナ粉)が用いられる。このようにして、図2(c)に示すように、導電性基材1Aの第1面1a上に絶縁層7Aaが形成されるとともにテーパ面1Ac上に絶縁層7Abが形成された絶縁基板1Aが作製される。この処理に用いられる溶射法としては絶縁材料の溶射に適するプラズマ溶射方法が採用されることが望ましいが、他の溶射法を用いることもできる。絶縁層7Aの厚みは、溶射処理の条件のうち、原料粉末の供給速度と溶射時間とによって適宜調整され得る。
【0048】
(c3)次に、絶縁基板11Aを用いた半導体モジュール21Aの製造工程として、図2(d)に示すように、封止用の成形樹脂5を用いて、絶縁基板11Aにおける絶縁層7Aaの面が露出するようにして、導電性基材1Aの第2面1bおよび側面を樹脂封止して、半導体モジュール21Aを形成する。
【0049】
なお、この半導体モジュール21Aの製造工程は、より具体的には例えば次のように行なうことができる(図1(a)参照)。
まず、導電性基材1Aの第2面1b上に半導体回路素子2,2が搭載される。ここで、半導体回路素子2,2は、導電性基材1Aの第2面1bにはんだ付けにより接合させる。このはんだ付けは、ペレット状のはんだを用いて水素還元が可能な炉において行なわれる。水素還元が可能な炉を使う理由は、水素還元によって導電性基材1Aの第2面1bの酸化膜を除去して表面を活性化することにより、はんだとの濡れ性を向上させるためである。はんだ材料として、例えば、SnPbAgからなる高温はんだ、SnAgCu系やSnCuNi系からなる鉛フリーはんだが用いられる。はんだ付けの温度は、接合工程に用いられるはんだの融点に応じて適宜設定される。また、この接合のはんだ層にボイド(気泡)が残留すると熱抵抗が高くなる。そこで、本実施形態では、ボイドが生成されないように、はんだが溶融している状態で到達真空度が10Torrすなわち約1330Pa以下となるように減圧し、そのまま温度を下げてはんだを固化させて接合を完了する。
【0050】
次に、ボンデイングワイヤー4により半導体回路素子2,2とリードフレーム6との接続を行なう。このボンデイングワイヤー4による接続処理は、リードフレーム6および半導体回路素子2,2それぞれの接続パッド(図示しない)を公知の超音波接合法によって接続して行なわれる。
【0051】
最後に、トランスファー成型方式によって樹脂による封止処理を行う。この封止処理は、まず、回路部品を(図示しない)金型の内部に配置する。この際、金型の温度を予め170〜180℃程度にしておく。次いで、適切な温度に予熱しておいた成型用樹脂をプランジャーにてその金型内に流し込む。この成型樹脂の材料は公知の任意の樹脂材料を用いることができる。本実施形態では、エポキシ樹脂に無機フィラーを混入させたものが採用される。なお、この成型樹脂の材料は、成型前にはタブレット状の外観になっている。無機フィラーとしては、酸化珪素、酸化アルミニウム、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素からなる群の1種類以上の材質の粒子または粉体が適用可能である。成型樹脂の材質としては、他の要求性能を満たす限り熱伝導率が高いものほど望ましい。その一例としては、熱伝導率が0.5〜5W/m・Kの材質が好適な材料として挙げられる。成型用樹脂を流し込んだ数十秒後には成型樹脂の硬化が開始する。この直後に成型樹脂によって封止された回路部品を金型から取り外した上で、後硬化(ボストキュア)処理が行われる。この後硬化処理は、成型樹脂によって封止された回路部品を恒温槽によって加熱することによって行なわれる。以上のようにして、封止処理が完了し、半導体モジュール21Aの製造工程が完了する。
【0052】
(c4)次に、半導体装置31Aの製造工程として、図2(e)に示すように、半導体モジュール21Aを、ヒートシンク(金属部材)8に、絶縁層7Aaの露出面がヒートシンク(金属部材)8に密着するようにして取り付けて、半導体装置31Aを形成する。
【実施例1】
【0053】
本発明の第1の実施形態による絶縁基板、半導体モジュールおよび半導体装置における、絶縁層端面の傾斜角、すなわち導電性基材1Aのテーパ面1Acの傾斜角(テーパ角)θの違いが絶縁特性に及ぼす影響を調べるため、以下の通り、絶縁層端面の傾斜角の異なる絶縁構造の試料を作成し、それぞれの絶縁破壊特性を評価した。
【0054】
まず、次のようにして絶縁構造の試料を作成した。すなわち、銅材(銅板)よりなる導電性基材1Aの第1面1a側(図2参照)に酸化アルミニウム(アルミナ)の粉末71を溶射することにより絶縁層7Aを形成して絶縁基板11A(アルミナ溶射絶縁層付銅ブロック)を形成し、この絶縁基板11Aの側面部の沿面をエポキシ系の封止剤(成形樹脂)5で封止した後、この部材を硬化させて、図3に示す絶縁構造の試料を作成した。ここで、アルミナの溶射による絶縁層7Aの膜厚は0.12mmとした。また、導電性基材1Aのテーパ面1Acの傾斜角θ(図1(b)参照)については、45°、60°、75°としたものをそれぞれ3個ずつ作成し、それぞれ試料A1〜A3、B1〜B3、C1〜C3とした(表1参照)。
【0055】
なお、試料A1〜A3(θ=45°)、B1〜B3(θ=60°)、C1〜C3(θ=75°)を構成する導電性基材1Aとしては、いずれも、全体形状の大きさが同じもの、すなわち図2(a)における厚さ寸法L1、幅寸法L2および図示されない奥行き寸法がそれぞれ同じものを用いた。そして、試料A1〜A3、B1〜B3、C1〜C3において絶縁基板11Aのヒートシンク(金属部材)8との接触面積が各試料とも同じになるように、図2(a)における導電性基材1Aの第1面1aでのテーパ加工後の残部の幅寸法L2aおよび図示されない奥行き寸法がそれぞれ同じとなる条件でテーパ加工を行なった。
【0056】
また、上記封止剤5としては、熱変形温度が175℃以上であり、熱膨張係数が1.5×10−5/℃〜1.8×10−5/℃であり、接着強さが10〜30MPaであるエポキシ樹脂を使用した。
【0057】
上記のようにして作成した試料A1〜A3、B1〜B3、C1〜C3について、絶縁破壊試験装置を用いて絶縁破壊試験を行なった。絶縁破壊試験では、各試料について、図3に示すように、銅粘着テープからなる電極201Aおよび201Bをそれぞれ導電性基材1Aの銅基板表面および絶縁層7Aの表面に貼り付けて絶縁破壊試験を行ない、絶縁破壊特性として絶縁破壊電圧(BDV)を測定するとともに絶縁破壊箇所を目視にて確認した。なお、図3において202A,202Bは絶縁破壊試験装置の電極を示している。
【0058】
上記各試料について絶縁破壊特性を評価した結果を表1に示す。表1に示されるように、端面の傾斜角θが60°以上の場合は、端面での絶縁破壊がなく、端面の傾斜角θが45°の場合に比べて、より安定した絶縁破壊特性が得られた。この評価結果より、絶縁基板11A(アルミナ溶射絶縁層付銅ブロック)の側面部端面の傾斜角、すなわち、導電性基材1A(銅ブロック)のテーパ面1Acと、導電性基材1Aの底面に対する垂直方向とのなす角度θとしては60°〜75°で特に良好な絶縁破壊特性が得られることが確認された。
【0059】
【表1】
なお、絶縁破壊特性に関する上述の評価結果に関し、絶縁基板11Aの側面部端面の傾斜角θが小さくなるほど(すなわち図2(e)におけるヒートシンク(金属部材)8の面に対して側面部端面(傾斜面)が垂直に近くなるほど)、ヒートシンク8の面に接する絶縁基板11Aの角部(すなわち図2(e)における丸枠P1内の部分)での電界集中がより起こり易くなるとともに、側面部端面(傾斜面)の絶縁性がより低いものになると考えられる。
【0060】
また、試料A1〜A3、B1〜B3、C1〜C3においてアルミナの溶射により導電性基材1Aのテーパ面1Acに形成された絶縁層7Abの膜質としては、テーパ面1Acの傾斜角θが45°である試料A1〜A3で膜質の低下が確認されている。
【0061】
一方、絶縁基板11Aの側面部端面の傾斜角θが大きくなるほど(すなわち図2(e)におけるヒートシンク8の面に対して側面部端面(傾斜面)が平行に近くなるほど)、絶縁基板11Aを用いた半導体モジュールにおける成形樹脂5による樹脂封止性が低下する。
【0062】
このため、絶縁基板の端面での絶縁破壊のない十分に安定した絶縁破壊特性が得られるとともに、この絶縁基板を用いた半導体モジュールにおける樹脂封止性も十分に良好なものとなるような傾斜角θの範囲としては、50°〜70°が特に好適と考えられる。
<第2の実施形態>
以下、図面を参照しながら、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0063】
(a)絶縁基板、半導体モジュールおよび半導体装置の構成例:
図4は、第2の実施形態による絶縁基板11B、半導体モジュール21Bおよび半導体装置31Bの構成を示す断面図であって、図4(a)は全体構成を示す断面図であり、図4(b)は図4(a)におけるC2部の拡大断面図である。
【0064】
図4に示すように、導電性基材1Bの第1面1a(図における下面)上に、絶縁層7Bが形成されている。これに対し、導電性基材1Bの第2面1b(図における上面)には、直接的または間接的に接するように半導体回路素子2,2が搭載されている。
【0065】
より具体的には、第2の実施形態においては、この導電性基材1Bは銅板により作製される。導電性基材1Bの形状は、例えば、概ね1mm以上5mm以下の厚みを有する平板状であり、その平面視において正方形または長方形である。絶縁層7Bは、酸化アルミニウム(アルミナ)の粉末71を溶射法により堆積させて形成された層または膜(以下、総称して、単に「層」ともいう)である。そして、絶縁層7Bは、導電性基材1Bの第1面1a上に酸化アルミニウムの粉末71を溶射することによって80〜300μmの厚みを有するように形成される。絶縁層の厚みとしては上記の80〜300μmが好適であり、この範囲の厚みとすれば、絶縁層自体(バルク)の耐電圧特性が十分なものとなるとともに、絶縁層の伝熱抵抗が十分に低くなるようにすることができる。
【0066】
導電性基材1Bは、第1面1a側の角部に切り欠き部1Bcを有し、第1面1a上の絶縁層7Bは、導電性基材1Bと接する部位よりも外側に延在してなるように構成されている。そして、導電性基材1Bの第1面1a側に,絶縁層7Bを備えた絶縁層付き導電性基材として絶縁基板11Bが構成される。
【0067】
なお、後述するように、上記絶縁層7Bが形成された後に『熱処理』を施して絶縁層の熱伝導率を高めるようにすることが好ましい。この『熱処理』を施した後の絶縁層の結晶構造をX線回折装置によって分析すると、酸化アルミニウムの六方晶系の回折ピークを確認することができる。
【0068】
絶縁基板11B、半導体回路素子2,2、リードフレーム6、およびボンデイングワイヤー4が成形樹脂5によって封止されてなる半導体モジュール21Bの構成は、上述の第1の実施形態において半導体モジュール21Aについて説明した構成と同様である。
【0069】
そして、半導体モジュール21Bはヒートシンク8に絶縁層7Bの露出面が密着するようにして取付けられて、半導体装置31Bが構成される。
(b)絶縁基板における側面部端面の絶縁性:
図4(b)に示す絶縁基板11Bにおける側面部端面の絶縁構造では、「絶縁層7Bの導電性基材1Bと接する部位よりも外側に延在している部分の厚さdB2」が「第1面1a上の絶縁層7Bの厚さd」と等しい場合、「導電性基材1Bとヒートシンク8との間の絶縁沿面距離dB=dB1+dB2」は、「導電性基材1Bと接する部位よりも外側に延在している絶縁層7Bの延在長dB1」の分だけ「第1面1a上の絶縁層7Bの厚さd」より大きい沿面距離となる。
【0070】
このように、第2の実施形態では、上述の第1の実施形態と同様に、導電性基材1Bとヒートシンク8との絶縁沿面距離を絶縁層7Bの厚さよりも大きくして、絶縁基板11Bにおける側面部端面の絶縁性を向上させることができる。そして、このような絶縁基板11Bを用いた半導体モジュール21Bに例えばヒートシンクなどの金属部材8を取付けて構成される半導体装置31Bは、より優れた絶縁性を備えたものとなる。
【0071】
(c)絶縁基板、半導体モジュールおよび半導体装置の製造方法の構成例:
図5は、第2の実施形態による絶縁基板11B、半導体モジュール21Bおよび半導体装置31Bの製造方法の構成例を工程順に示す断面図である。なお、図5(d)、図5(e)では、半導体モジュール21Bの構成要素のうち、ボンデイングワイヤー4、リードフレーム6の図示は省略している。
【0072】
(c1)まず、概ね1mm以上5mm以下の厚みを有する銅板などの平板状導電性部材を、例えばプレス加工により打ち抜いて、導電性基材として必要な形状に成形し、導電性基材1を得る。
【0073】
(c2)次に、絶縁層形成工程として、導電性基材1の第1面1a上に絶縁層7Bを形成する。絶縁層7Bは、図5(a)に示すように、酸化アルミニウム(アルミナ)の粉末71を溶射法を用いて堆積させることにより形成される。具体的には、大気もしくは減圧下の雰囲気において、マスクMによって不要な部位への付着を防止しつつ、導電性基材1Aに向けて一方向から原料粉末71が溶射される。この際の原料粉末71としては、代表的には、α−アルミナ粉末すなわちコランダム(例えば99.7%の純度のアルミナ粉)が用いられる。このようにして、図5(b)に示すように、導電性基材1の第1面1a上に絶縁層7Bが形成される。この処理に用いられる溶射法としては絶縁材料の溶射に適するプラズマ溶射方法が採用されることが望ましいが、他の溶射法を用いることもできる。絶縁層7Bの厚みは、溶射処理の条件のうち、原料粉末の供給速度と溶射時間とによって適宜調整され得る。
【0074】
(c3)次に、切り欠き加工工程として、図5(c)に示すように、導電性基材1の第1面1a側の角部の全周に凹状の切り欠き部1Bcを形成する。この切り欠き部1Bcを形成する加工は、機械的な切削加工、エッチング加工のどちらでも良い。
【0075】
この切り欠き加工によって、導電性基材1は、第1面1a側の角部に切り欠き部1Bcを有する導電性基材1Bとなる。そして、導電性基材1Bの第1面1a側に,導電性基材1Bと接する部位よりも外側に延在してなる絶縁層7Bを備えた絶縁層付き導電性基材として絶縁基板11Bが構成される。
【0076】
(c4)次に、絶縁基板11Bを用いた半導体モジュール21Bの製造工程として、図5(d)に示すように、封止用の成形樹脂5を用いて、絶縁基板11Bにおける絶縁層7Bの面が露出するようにして、導電性基材1Bの第2面1bおよび側面を樹脂封止して、半導体モジュール2Bを形成する。
【0077】
なお、この半導体モジュール21Bの製造工程のより具体的な構成は、上述の第1の実施形態において半導体モジュール21Aの製造工程について説明した具体的な構成と同様である。
【0078】
(c5)次に、半導体装置31Bの製造工程として、図5(e)に示すように、半導体モジュール21Bを、ヒートシンク(金属部材)8に、絶縁層7Bの露出面がヒートシンク(金属部材)8に密着するようにして取り付けて、半導体装置31Bを形成する。
<第3の実施形態>
以下、図面を参照しながら、本発明の第3の実施形態について説明する。
【0079】
(a)絶縁基板、半導体モジュールおよび半導体装置の構成例:
図6は、第3の実施形態による絶縁基板11C、半導体モジュール21Cおよび半導体装置31Cの構成を示す断面図であって、図6(a)は全体構成を示す断面図であり、図6(b)は図6(a)におけるC3部の拡大断面図である。
【0080】
図6に示すように、導電性基材1Cの第1面1a(図における下面)上に、絶縁層7Caが形成されている。これに対し、導電性基材1Cの第2面1b(図における上面)には、直接的または間接的に接するように半導体回路素子2,2が搭載されている。
【0081】
より具体的には、第3の実施形態においては、この導電性基材1Cは銅板により作製される。導電性基材1Cの形状は、例えば、概ね1mm以上5mm以下の厚みを有する平板状であり、その平面視において正方形または長方形である。絶縁層7Caは、酸化アルミニウム(アルミナ)の粉末71を溶射法により堆積させて形成された層または膜(以下、総称して、単に「層」ともいう)である。そして、絶縁層7Caは、導電性基材1Cの第1面1a上に酸化アルミニウムの粉末71を溶射することによって80〜300μmの厚みを有するように形成される。絶縁層の厚みとしては上記の80〜300μmが好適であり、この範囲の厚みとすれば、絶縁層自体(バルク)の耐電圧特性が十分なものとなるとともに、絶縁層の伝熱抵抗が十分に低くなるようにすることができる。
【0082】
導電性基材1Cは、第1面1a側の角部に切り欠き部1Ccを有し、この切り欠き部1Cc上にも,セラミックス粉末71の溶射による絶縁層7Cbが第1面1a上の絶縁層7Caと連続するようにして形成されている。そして、導電性基材1Cの第1面1a側に,絶縁層7Caおよび絶縁層7Cbからなる絶縁層7Cを備えた絶縁層付き導電性基材として絶縁基板11Cが構成される。ここで、導電性基材1Cにおける切り欠き部1Ccの底面は、第1面1aと平行な面として形成しておくことが好ましい。
【0083】
なお、後述するように、上記絶縁層7Cが形成された後に『熱処理』を施して絶縁層の熱伝導率を高めるようにすることが好ましい。この『熱処理』を施した後の絶縁層の結晶構造をX線回折装置によって分析すると、酸化アルミニウムの六方晶系の回折ピークを確認することができる。
【0084】
絶縁基板11C、半導体回路素子2,2、リードフレーム6、およびボンデイングワイヤー4が成形樹脂5によって封止されてなる半導体モジュール21Cの構成は、上述の第1の実施形態において半導体モジュール21Aについて説明した構成と同様である。
【0085】
そして、半導体モジュール21Cはヒートシンク8に絶縁層7Cの露出面が密着するようにして取付けられて、半導体装置31Cが構成される。
(b)絶縁基板における側面部端面の絶縁性:
図6(b)に示す絶縁基板11Cにおける側面部端面の絶縁構造では、「導電性基材1Cとヒートシンク8との間の絶縁沿面距離dC=dC1+dC2」は、「切り欠き部1Ccにおける第1面1aからの切り欠き深さ長dC1」の分だけ「絶縁層7Caの厚さd(=dC2)」よりも大きい沿面距離となる。
【0086】
このように、第3の実施形態では、上述の第1の実施形態と同様に、導電性基材1Cとヒートシンク8との絶縁沿面距離を絶縁層7Caの厚さよりも大きくして、絶縁基板11Cにおける側面部端面の絶縁性を向上させることができる。そして、このような絶縁基板11Cを用いた半導体モジュール21Cに例えばヒートシンクなどの金属部材8を取付けて構成される半導体装置31Cは、より優れた絶縁性を備えたものとなる。
【0087】
(c)絶縁基板、半導体モジュールおよび半導体装置の製造方法の構成例:
図7は、第3の実施形態による絶縁基板11C、半導体モジュール21Cおよび半導体装置31Cの製造方法の構成例を工程順に示す断面図である。なお、図7(e)、図7(f)では、半導体モジュール21Cの構成要素のうち、ボンデイングワイヤー4、リードフレーム6の図示は省略している。
【0088】
(c1)まず、概ね1mm以上5mm以下の厚みを有する銅板などの平板状導電性部材を、例えばプレス加工により打ち抜いて、導電性基材として必要な形状に成形し、さらに、必要な形状に成形された導電性基材の第1面1a側の角部の全周に切り欠き部1Ccを形成し、導電性基材1Cを得る。この切り欠き部1Ccを形成する加工は、機械的な切削加工、エッチング加工のどちらでも良い。
【0089】
(c2)次に、絶縁層形成工程として、導電性基材1Cの第1面1a上および切り欠き部1Cc上に絶縁層(溶射層)7C1を形成する。絶縁層(溶射層7C1)は、図7(b)に示すように、酸化アルミニウム(アルミナ)の粉末71を溶射法を用いて堆積させることにより形成される。具体的には、大気もしくは減圧下の雰囲気において、マスクMによって不要な部位への付着を防止しつつ、導電性基材1Cに向けて一方向から原料粉末71が溶射される。この際の原料粉末71としては、代表的には、α−アルミナ粉末すなわちコランダム(例えば99.7%の純度のアルミナ粉)が用いられる。このようにして、図7(c)に示すように、導電性基材1Cの第1面1a上に絶縁層(溶射層)7C1aが形成されるとともに切り欠き部1Cc上に絶縁層(溶射層)7C1bが形成される。この処理に用いられる溶射法としては絶縁材料の溶射に適するプラズマ溶射方法が採用されることが望ましいが、他の溶射法を用いることもできる。絶縁層(溶射層)7C1の厚みは、溶射処理の条件のうち、原料粉末の供給速度と溶射時間とによって適宜調整され得る。
【0090】
(c3)次に、研削工程として、図7(c)におけるD1−D1線で示すレベルまで、第1面1a上に形成された絶縁層(溶射層)7C1aを研削して、第1面1a上の絶縁層7Caと切り欠き部1Cc上の絶縁層7Cbとの面を揃える。このようにして、図7(d)に示すように、導電性基材1Cの第1面1a側に,絶縁層7Caおよび絶縁層7Cbからなる絶縁層7Cを備えた絶縁基板11Cが作製される。
【0091】
(c4)次に、絶縁基板11Cを用いた半導体モジュール21Cの製造工程として、図7(e)に示すように、封止用の成形樹脂5を用いて、絶縁基板11Cにおける絶縁層7Cの面が露出するようにして、導電性基材1Cの第2面1bおよび側面を樹脂封止して、半導体モジュール21Cを形成する。
【0092】
なお、この半導体モジュール21Cの製造工程のより具体的な構成は、上述の第1の実施形態において半導体モジュール21Aの製造工程について説明した具体的な構成と同様である。
【0093】
(c5)次に、半導体装置31Cの製造工程として、図7(f)に示すように、半導体モジュール2Cを、ヒートシンク(金属部材)8に、絶縁層7Cの露出面がヒートシンク(金属部材)8に密着するようにして取り付けて、半導体装置31Cを形成する。
【0094】
(d)絶縁基板の製造方法の異なる構成例:
図8は、第3の実施形態による絶縁基板1Cの製造方法の異なる構成例を工程順に示す断面図である。
【0095】
(d1)まず、概ね1mm以上5mm以下の厚みを有する銅板などからなり,第1面101aおよび第2面101bを有する導電性板状部材101Cの第1面101aに対する切り欠き溝形成工程として、図8(a)に示すように、導電性板状部材101Cを複数の導電性基材に分離する(図8(a)では図示されない)分離線に沿って、この分離線を中心線とした切り欠き溝101Ccを形成する。
【0096】
(d2)次に、絶縁層形成工程として、図8(b)に示すように例えばプラズマ溶射方法によってセラミックス粉末71を溶射することにより、図8(c)に示すように、導電性板状部材101Cの第1面101a上および切り欠き溝101Cc上に絶縁層(溶射層)107C1を形成する。この絶縁層形成工程における溶射方法の具体的構成は、図7(b)で説明した具体的構成と同様であるが、個別の導電性基材1Cに対する溶射処理ではなく、複数の導電性基材1Cに分離する前の導電性板状部材101Cに対する溶射処理である点が異なっている。
【0097】
(d3)次に,研削工程として、図8(c)におけるD2−D2線で示すレベルまで絶縁層(溶射層)107C1を研削して、第1面101a上の絶縁層107Caと切り欠き溝107Cc上の絶縁層107Cbとの面を揃えて,絶縁層付き導電性板状部材111Cを形成する。
【0098】
(d4)次に、分離工程として、図8(d)における白抜き矢印線Sで示すように、絶縁層付き導電性板状部材111Cを上記分離線に沿って切断し、図8(e)に示す複数の絶縁基板11Cに分離する。
【0099】
図8に示す上記の製造方法は、複数の導電性基材に対する溶射を1回の処理で行なうことができるので、絶縁層形成工程での省力化を考慮した場合、絶縁板11Cをより低コストで製造可能とする上で好適である。
[本発明の実施形態の構成と他の構成例との対比]
(イ)本発明による絶縁基板(絶縁層付き導電性基材)の具体的構成を第1ないし第3の実施形態に示したが、第1ないし第3の実施形態とは異なる他の構成例として、例えば、図10(b)に示すように、導電性基材1における側面部の端面の一部にも破線で示すような絶縁層7bを絶縁層7と連続するようにして形成することにより、導電性基材1とヒートシンク8との間の絶縁沿面距離を大きくした構成の絶縁基板を適用することもできる。
(ロ)しかしながら、図10(b)において、導電性基材1の第1面1aに加えて側面部の端面にまでセラミックス粉末を溶射して絶縁層を形成する場合、導電性基材1の第1面1aに正対する方向に原料粉末を溶射させるだけでは、側面部の端面に溶射膜を形成することはできない。このため、導電性基材1の第1面1aに正対する方向に対して直交する方向あるいは斜め方向に沿って原料粉末を溶射して側面部の端面に溶射膜を形成することになるが、このような溶射を行なうには、複数方向の溶射ノズルを組合せた複雑な構成の溶射装置が必要となる。
【0100】
この点において、第1ないし第3の実施形態に示した絶縁基板の構成は、いずれも、導電性基材の第1面1aに正対する方向に原料粉末を溶射させるだけで必要な溶射膜の形成が可能であるため、図10(b)に示す上記構成に比べてより簡素な構成の溶射装置でもって製造することができ、この点でより好適である。
(ハ)また、第3の実施形態による絶縁基板11Cは、例えば図8に示すように、複数の導電性基材に分離する前の状態にある導電性板状部材に対してその第1面101aに正対する方向に沿ってセラミックス粉末を溶射することにより絶縁層を形成した後に、個別の導電性基材に切断,分離する製造方法も適用可能である。一方、図10(b)に示す上記構成は、導電性基材1の第1面1aに正対する方向に対して直交する方向あるいは斜めの方向に沿ってセラミックス粉末を溶射して側面部の端面に溶射膜を形成する構成であるため、その製造方法として、複数の導電性基材に分離する前の状態にある導電性板状部材に対してセラミックス粉末を溶射することにより絶縁層を形成した後に、個別の導電性基材に切断,分離する製造方法は適用し難い。この点に関し、溶射による絶縁層形成工程での省力化を考慮した場合、第3の実施形態の構成は、絶縁基板(絶縁層付き導電性基材)をより低コストで製造可能とする上で好適である。
【0101】
[本発明の実施形態における絶縁層の構成例]
(イ)上述の第1ないし第3の実施形態では、セラミックス粉末として特に酸化アルミニウムの粉末を溶射して形成された絶縁層を備えた絶縁基板(絶縁層付き導電性基材)について説明したが、このような絶縁基板を備えた半導体モジュールにヒートシンクを取り付けて半導体装置を構成する場合、この絶縁層には高い熱伝導率と高い絶縁性とが必要となる。
【0102】
(ロ)本発明の出願人と同一の出願人による特許出願(特願2009−266264号)に示されているように、まず、本発明者が、導電性基材に絶縁層を形成する手法として溶射法に着目したのは、層の形成コストが低廉であるばかりでなく、パターン形成も容易なためである。具体的には、本発明者は、まず、絶縁層に適する材料である酸化アルミニウム(Al2O3、アルミナ)の粉末をプラズマ溶射法によって層状または膜状になるように導電性基材に形成した。その上で、その溶射された絶縁層を利用することにより、半導体モジュールとして望ましい絶縁性と熱伝導率とが確保され得るかどうかについて調査を行った。その結果、本発明者は、溶射によって形成した酸化アルミニウムの絶縁層を利用して最終的な半導体モジュールを作製した多くの場合に、絶縁層自体の熱伝導率が概ね3〜4W/m・Kにとどまるという問題があることを見出した。ちなみに、溶射ではなく焼成によって作られるタイプの酸化アルミニウム(アルミナの焼結体)における熱伝導率は、通常約20W/m・K程度となる。それにもかかわらず溶射されたままの絶縁層では、上述のように熱伝導率が3〜4W/m・K、すなわちアルミナ焼結体の約1/5以下にとどまってしまう。従って、たとえ簡便かつ低コストな溶射法を用いたとしても、この程度の熱伝導率の絶縁層を利用して十分に小さい熱抵抗を実現することは難しい。というのは、絶縁層の厚みを薄くしなければならず、その結果、十分な絶縁性を確保し得ないからである。
【0103】
(ハ)上述のような問題を生じさせるメカニズムを明らかにするために、本発明者は溶射によって形成された絶縁層の構造に着目してさらに調査と解析を行なった。まず、溶射によって生成された層には一般に気孔が多く含まれる点に注目した。気孔が含まれることは、原料粉末を加熱して溶融した原料粉末の噴流を形成し、その噴流を対象物に吹き付けるという溶射法の手法を採用する限り、避けがたい。ここで、このような気孔が上述の熱伝導率の低下の原因といえるなら、気孔率を小さくするような層の形成条件を採用することによって熱伝導率の低下は緩和されるはずである。ところが実際には、気孔率の増大が熱伝導率の低下にある程度関連はするものの、気孔だけでは上述のような大幅な熱伝導率の低下を説明できないことが判明した。すなわち、上述の熱伝導率低下の主たる原因は気孔の生成以外にあるようであった。
【0104】
(ニ)この調査結果を受けて、本発明者は、溶射によって形成された絶縁層においては、材質そのものが何らかの影響を受けているとの考えに至った。特に、本発明者は、酸化アルミニウムの粉末が溶射の際に瞬間的に融解してそのまま基材に吹き付けられるために熱的および機械的なストレスを受けていて、これが絶縁層の材質の熱伝導率を低下させている原因であると推測している。
(ホ)さらに、本発明者は、絶縁層が溶射によって形成される際に受ける作用を考慮して、絶縁層の熱伝導率の値を高める手法を鋭意検討した。その結果、本発明者は、溶射によって形成した絶縁層に対して「熱処理またはアニール処理」(以下、単に『熱処理』ともいう)を施すことにより、その絶縁層の熱伝導率が上昇することを見出した。より具体的には、溶射によって熱伝導率が一旦3〜4W/m・Kとなった絶縁層であっても、その後に『熱処理』を施すことにより、熱伝導率を約10W/m・Kにまで高めることができることを確認した。絶縁層に『熱処理』を施して熱伝導率を上昇させた絶縁層を用いれば、半導体モジュールの熱抵抗を容易に低減させることが可能となる。
【0105】
このため、本発明における絶縁層としては、導電性基材の第1面上に酸化アルミニウムの粉末を溶射して形成され、『熱処理』によって熱伝導率が高められている絶縁層であることが好ましい。
(ヘ)なお、本発明者の推測によれば、熱伝導率が溶射によって低下し、『熱処理』によって上昇する現象には、以下のような機構が作用しているようである。まず、上述の溶射によって形成したままの酸化アルミニウムの層では、原料の粉末に比べて結晶構造が変化している。より詳しくは、酸化アルミニウムの原子配列が、もともとの溶射前の原料である酸化アルミニウムの粉末(すなわちコランダム)の構造である六方晶系から、溶射によってアモルファス状態または立方晶またはγ−アルミナへと変化している。この状態では、熱伝導率は小さい値となる。そして、その後の『熱処理』によって、溶射された絶縁層の結晶構造が六方晶系となる。この六方晶系になっている絶縁層では、熱伝導率が本来の値に近づき、その熱伝導率が高まる。なお、ここでは、絶縁層の結晶構造がすべて六方晶系となるとは限らず、原子配列をアモルファス状態や軸長の長い立方晶といった種類ごとに分類したときに、六方晶系となっている結晶構造の割合、特に、α−アルミナの割合が『熱処理』によって増加することによって熱伝導率が上昇している可能性もあると考えている。すなわち、本発明者は、絶縁層の結晶構造を六方晶系とするもしくはその割合を高めることによって、絶縁層を用いる半導体モジュールの熱抵抗が低減されることを見出した。
【0106】
このため、本発明における絶縁層としては、導電性基材の第1面上に酸化アルミニウムの粉末を溶射して形成され、六方晶系の結晶構造を有する絶縁層であることが好ましい。
(ト)これらの態様により、酸化アルミニウムの絶縁層の熱伝導率は、溶射して形成したのみの場合(3〜4W/m・K程度)に比べて高くなり、例えば10W/m・K以上となる。このような絶縁層を放熱経路に有する半導体モジュールにヒートシンクを取付けて半導体装置を構成した場合、良好な放熱性を実現することができる。
(チ)なお、上述の『熱処理』の具体的構成としては、酸化アルミニウムの粉末を溶射して導電性基材の一方の面(第1面)上に絶縁層が形成された絶縁基板を、炉または対流式オーブンによって加熱する『熱処理工程』を設ける。この『熱処理』は、大気または窒素を雰囲気として、500℃以上1084℃(銅の融点)以下のいずれかの温度によって行なう。なお、前述の温度は、『熱処理』中に絶縁層が到達する温度である。この『熱処理』によって、絶縁層の原子配列が六方晶となり、その熱伝導率が高められた絶縁層が得られる。
【0107】
そして、上述の第1ないし第3の実施形態で説明した絶縁基板11A,11B,11Cの製造方法において、酸化アルミニウムの粉末を溶射して導電性基材の一方の面(第1面)上に絶縁層が形成された後の処理工程として上記『熱処理工程』を設けるとよい。
[変形例]
以上に説明した本発明の第1ないし第3の実施形態は、具体的な実施の態様に応じて種々の変形を行なうことができる。
(イ)本発明では、導電性基材の第1面にセラミックス粉末を溶射して形成された絶縁層を備えた絶縁基板における側面部端面の絶縁性を向上させるための絶縁構造として、「導電性基材と金属部材との絶縁沿面距離」が重要であるが、絶縁層自体(バルク)の耐電圧特性も十分なものとしておく上で「絶縁層の厚み」も重要である。
【0108】
導電性基材の第1面1aに形成される絶縁層の厚みは、半導体モジュールおよび半導体装置の用途に依存して適宜調整される。例えば、パワー半導体の半導体モジュールでは、絶縁層の厚みの下限値として好ましい値は10μmである。また、絶縁層の厚みの上限値として好ましい値は、特に高電圧にて用いる半導体モジュールでは、例えば500μmであり、それ以外の場合には、例えば200μmである。より具体的には、絶縁層が厚み200μmとなるように形成されると、5kV以上の交流破壊電圧と、1200Vの定格電圧とを共に実現するようなパワー素子の半導体モジュールを実現することができる。
【0109】
(ロ)また、絶縁層の熱伝導率は、典型的には、『熱処理』の条件を変更することによって種々変更することができる。例えば、炉において『熱処理』を行なう場合に『熱処理』の温度を高めると、一般に、絶縁層の熱伝導率が高くなる。また、仮に同じ温度であっても、『熱処理』の時間を長くすると、その熱伝導率が高くなる。
【0110】
この『熱処理』による絶縁層の到達温度は、例えば1000℃とすることができる。それ以外にも、例えば1500℃とすることができる。また、ここでの『熱処理』は、典型的には、導電性基材に絶縁層が溶射された後に行われるが、本発明の実施の形態は、そのような順序を限定するものではない。
【0111】
(ハ)導電性基材の材質、形状および製法は、半導体回路素子に流す電流量などの電気的要件、発熱量などの熱的要件、重量やサイズなどの形状的要件などに応じて変更することができる。この導電性基材の材質の決定には、上述の絶縁層の『熱処理』の温度を考慮することもできる。すなわち、上述の実施形態では銅板を用いる導電性基材を説明したが、導電性基材はこれに限定されない。典型的には、アルミニウム基板、鉄基板、モリブデン基板、銅の合金による基板、あるいは板状ではない基材が用いられ得る。これらの基材の材質は、熱伝導率や熱膨張率など作製時または動作時の熱物性観点など種々の条件を加味して選択される。
【0112】
(ニ)また、上述の各実施形態では、導電性基材は、板状で正方形または長方形の形状のものを用いて説明したが、導電性基材の形状がそれらの形状に限定されるものではない。板状でないものとしては、ブロック形状またはアングル形状の基材が用いられ得る。さらに、導電性基材の形状を板状のものに限ったとしても、その平面形状はさまざまな形状とすることができる。例示すれば、正方形の個別の領域を頂点部分で互いにつなげた形状、あるいは長方形の外形とくり貫いた開口部とを持つ形状を採用することも可能である。そして、このような基材は、上述のプレス加工を用いて形状が切り出されてもよいが、その加工方法も特に限定されない。また、導電性基材における第1面および第2面は、必ずしも板状基板の厚みを規定する二つの主面に限定されるものではない。
【0113】
(ホ)上述の各実施形態において、半導体回路素子を導電性基材に接合する態様は特段限定されない。上述のはんだペレットによる接合のほか、クリームはんだによる接合、銀ペーストなどのダイボンド樹脂材による接合、ダイボンドフィルムによる接合、導電性接着剤による接合などの任意の接合手法を用いることができる。
【0114】
(ヘ)上述の各実施形態は、半導体回路素子(チップまたはダイ)の種類を特段限定するものではない。例えば、半導体ウエハーからIGBTやMOS等のトランジスタ素子、またはダイオード素子といった回路要素を切り出すことにより、単一の回路要素を搭載する半導体モジュールを形成することができる。また、図1(a)に示す半導体モジュール21Aのように、複数の半導体回路素子が単一片の導電性基材に搭載されるときであっても、半導体回路素子の種類は任意に組み合わせることができる。例えば、同一種類の半導体を並列や直列またはそれらの組み合わせの形態によって接続して、電流容量をさまざまに設定することができる。種類の異なる半導体素子を用いる例として、IPM(インテリジェントパワーモジュール)とすることができる。すなわち、インバータ用途のIGBTと、そのIGBTとは別種の半導体回路素子である還流ダイオードまたはフリーホイーリングダイオードとを単一片の導電性基材に搭載する構成とすることができる。また、種類の異なる半導体素子を用いる別の例として、コンバータのためのダイオードとインバータのためのトランジスタとを同一の基材に搭載することにより、小型の半導体モジュールを実現することができる。
【0115】
(ト)上述の各実施形態において、成形樹脂による封止を説明したが、他の封止手法を用いるように実施することができる。具体的には、例えば、固化される樹脂のみならず、シリコーンゲルなどの流動性を有する封止剤を用いることができる。
(チ)上述の各実施形態において、セラミックス粉末として特に酸化アルミニウムの粉末を溶射して形成された絶縁層を備えた絶縁基板について説明したが、本発明は、酸化アルミニウム以外のセラミックス粉末を溶射して形成された絶縁層を備えた絶縁基板にも適用可能である。
【符号の説明】
【0116】
1,1A,1B,1C:導電性基材
1a:第1面
1b:第2面
1Ac:テーパ面
1Bc,1Cc:切り欠き部
2:半導体回路素子
4:ボンデイングワイヤー
5:封止剤(成形樹脂)
6:リードフレーム
7,7A,7Aa,7Ab,7B,7C,7Ca,7Cb:絶縁層
7C1,7C1a,7C1b:絶縁層(溶射層)
8:金属部材(ヒートシンク)
11,11A,11B,11C:絶縁基板(絶縁層付き導電性基材)
21,21A,21B,21C:半導体モジュール
31,31A,31B,31C:半導体装置
51:セラミック絶縁基板
53:セラミック基板
54:金属板
55:パワー半導体チップ
56:はんだ層
57:表回路板
58:裏回路板
71:原料粉末(酸化アルミニウムの粉末)
101C:導電性板状部材
101a:第1面
101b:第2面
101Cc:切り欠き溝
107C,107Ca,107Cb:絶縁層
107C1,107C1a,107C1b:絶縁層(溶射層)
111C:絶縁層付き導電性板状部材
201A,201B:電極(銅粘着テープ)
202A,202B:絶縁破壊試験装置の電極
M:マスク
θ:テーパ面1Acの傾斜角(テーパ角)
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性基材の面上に絶縁層が形成された絶縁基板、その製造方法、この絶縁基板を用いた半導体モジュール、および半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
(イ)近年、大容量、高電圧環境下でも動作可能なIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)やMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)などのパワーモジュールが、民生用機器や産業用機器に広範に使用されている。これらの半導体素子を用いる各種のモジュール(以下、「半導体モジュール」という)の中には、扱う電力が大きい場合、回路の集積度が高い場合、または回路の動作周波数が高い場合などのさまざまな理由から、搭載している半導体素子によって生成される熱を適切に放熱しなくてはならないものがある。
(ロ)図9は、特許文献1の内容を示す図である。図9に示すパワー半導体モジュールは、セラミック基板53の両面にそれぞれ導体層である表回路板57および裏回路板58が形成されたセラミック絶縁基板51を備えている。セラミック絶縁基板51における、表回路板57上には、はんだ層56を介してパワー半導体チップ55が接合されている。また、セラミック絶縁基板51における、パワー半導体チップ55との接合面とは反対の面の裏回路板58上には、はんだ層56を介して銅もしくは銅合金からなる金属ベース54が接合されている。さらに、金属ベース54におけるセラミック絶縁基板53との接合面とは反対の面には、サーマルコンパウンドを介して、図示されない冷却体が接合される。
(ハ)このような従来のパワー半導体モジュールの構造では部材が複雑であり、製造にかかるトータルコストが高いことが問題であった。
【0003】
そこで、例えば特許文献2に示されるような、導電性基材にセラミックス粉末を直接溶射して形成された絶縁層を備えた絶縁基板(絶縁層付き導電性基材)を用いたパワー半導体モジュールが考案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−203942号公報
【特許文献2】特開2007−305772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(イ)特許文献2で示されるような導電性基材の面上にセラミックス粉末を溶射して形成された絶縁層を備えた絶縁基板を適用して例えば図10に示されるような半導体モジュールを構成することができるが、このような半導体モジュールにヒートシンクを取付けて半導体装置を構成した場合、絶縁基板における端面の絶縁性を確保する上で問題が有る。
(ロ)図10は、従来技術による半導体モジュールの異なる構成例を示す断面図であって、上述の絶縁基板を適用した半導体モジュールの構成を示している。図10(a)に示す半導体モジュール21には、第1面1aおよび第2面1bを有する導電性基材1の第1面1a上に,セラミックス粉末を溶射して形成された絶縁層7を備えた絶縁基板11が設けられている。導電性基材1の第2面1bには、例えばIGBTなどのパワー半導体素子である半導体回路素子2,2が、例えばはんだによって接合され、直接的または間接的に導電性基材1の第2面1bに接するようにして搭載されている。半導体回路素子2,2の(図示されない)接続用端子は、例えば125〜500μmの線径のアルミワイヤーからなるボンデイングワイヤー4によりリードフレーム6に電気的に接続されている。そして、上述の各要素、すなわち、絶縁基板11、半導体回路素子2,2、リードフレーム6、およびボンデイングワイヤー4が、例えばエポキシ樹脂に無機フィラーを混入させたものからなる封止用の成形樹脂5によって封止されて、半導体モジュール21を構成している。
【0006】
このように構成される半導体モジュール21は、絶縁材料である成形樹脂5によって、導電性基材1の第1面1a以外のすべての面が半導体回路素子2,2とともに覆われることにより封止されている。このため、半導体モジュール21の表面には、電気的な接続のためのリードフレーム6の端部62を除き、成形樹脂5及び第1面1aに形成した絶縁層7のみが外界と接している。すなわち、半導体モジュール21の表面は導電性基材1を外界から絶縁する絶縁表面となっている。そして、半導体モジュール21はヒートシンク8に密着して取付けられて、半導体装置31が構成される。
(ハ)図10(b)は、図10(a)におけるC部の拡大断面図であり、半導体モジュール21をヒートシンク8に密着して取付けた状態における絶縁基板11の側面部端面近傍の絶縁構造を示している。図10(b)の絶縁構造では、導電性基材1とヒートシンク8との間の絶縁沿面距離は絶縁層7の厚さdと同じとなっている。そして、半導体装置31に要求される絶縁仕様によっては、導電性基材1とヒートシンク8との間の絶縁沿面距離を大きくし、絶縁基板11における側面部端面の絶縁性を高めることが必要となる。
【0007】
この点に関し、絶縁基板11における側面部端面の絶縁性を高める対策として、例えば、導電性部材1の第1面1aに形成される絶縁層7の厚さdを大きくすることにより、上記絶縁沿面距離を大きくすることが考えられる。しかしながら、この場合、絶縁層7の厚さdの増大に伴い、絶縁基板1からヒートシンク8への伝熱経路における伝熱抵抗も増大するので、絶縁層7の熱伝導率にもよるが、絶縁層7の厚さdを大きくして側面部端面の絶縁性を高めることには制約が有る。
(ニ)本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであって、導電性基材の一方面にセラミックス粉末を溶射して形成された絶縁層を備えた絶縁基板における側面部端面の絶縁性を簡単な構造かつ低コストでもって向上させるとともに、上記絶縁基板の製造方法、上記絶縁基板を用いた半導体モジュールおよび半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の問題を解決するために、本発明者は、溶射原料としてセラミックスの粉末を例えばプラズマ溶射法などによって高温,高速で基材に衝突させることにより密着性が良好なセラミックス溶射膜を絶縁層として導電性基材の一方面に形成した絶縁基板(絶縁層付き導電性基材)について、その側面部端面の絶縁構造を検討し、本発明を完成するに至った。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明によれば、半導体モジュールに用いられる絶縁基板の構成として、第1面および第2面を有する導電性基材の第1面上に,セラミックス粉末を溶射して形成された絶縁層を備えた絶縁基板であって、前記導電性基材の第2面に直接的または間接的に接して少なくとも1つ以上の半導体回路素子を搭載するとともに前記絶縁層の面に金属部材を密着して取り付けることにより半導体装置を構成するのに用いられる絶縁基板において、前記絶縁基板の側面部の構造を、前記絶縁層の面に前記金属部材を密着させて取り付けた状態における前記導電性基材と前記金属部材との絶縁沿面距離が前記絶縁層の厚さよりも大きくなるような構造とした構成とする(請求項1の発明)。
【0010】
上記請求項1に記載の発明によれば、絶縁層の面に金属部材を密着させて取り付けた状態における「導電性基材と金属部材との絶縁沿面距離」が「絶縁層の厚さ」よりも大きくなるような構造としている。半導体装置において絶縁基板から例えばヒートシンクなどの金属部材への伝熱経路における伝熱抵抗を低く抑える上で絶縁層を厚くするには限界が有るが、上記構造を適用した本発明では、絶縁層の厚さに制約されることなく上記絶縁沿面距離を大きくして絶縁基板における側面部端面の絶縁性を向上させることができ、この絶縁基板を用いた半導体モジュールに例えばヒートシンクなどの金属部材を取付けて構成される半導体装置の絶縁性をより高めることができる。そして、このような絶縁基板を用いることにより、良好な絶縁性を保持し、且つ部材の低コスト化が可能な半導体モジュールおよび半導体装置を実現することができる。
【0011】
また、上記請求項1に記載の絶縁基板において、前記導電性基材は、第1面側の角部にテーパ面を有し、このテーパ面上にも,セラミックス粉末を溶射して形成された絶縁層を第1面上の絶縁層と連続するようにして備えてなる構成とすることができる(請求項2の発明)。
【0012】
上記請求項2に記載の発明によれば、「導電性基材と金属部材との絶縁沿面距離」を「テーパ面上の絶縁層における沿面長」(図1(b)におけるdA1)だけ延長させて「絶縁層の厚さ」よりも十分に大きい沿面距離とすることができるので、絶縁基板における側面部端面の絶縁性を十分に向上させることができる。
【0013】
また、上記請求項2に記載の絶縁基板において、前記導電性基材の第1面に対する垂直方向と前記テーパ面とがなす角度は、30°〜80°である構成とするとよい(請求項3の発明)。
【0014】
また、さらに、上記請求項3に記載の絶縁基板において、前記導電性基材の第1面に対する垂直方向と前記テーパ面とがなす角度は、50°〜70°である構成とするとなおよい(請求項4の発明)。
【0015】
また、上記請求項1に記載の絶縁基板において、前記導電性基材は、第1面側の角部に切り欠き部を有し、第1面上の絶縁層は、前記導電性基材と接する部位よりも外側に延在してなる構成とすることができる(請求項5の発明)。
【0016】
上記請求項5に記載の発明によれば、「導電性基材と金属部材との絶縁沿面距離」を「導電性基材と接する部位よりも外側に延在している絶縁層の延在長」(図4(b)におけるdB1)だけ延長させて「絶縁層の厚さ」よりも十分に大きい沿面距離とすることができるので、絶縁基板における側面部端面の絶縁性を十分に向上させることができる。
【0017】
また、上記請求項1に記載の絶縁基板において、前記導電性基材は、第1面側の角部に切り欠き部を有し、この切り欠き部にも,セラミックス粉末を溶射して形成された絶縁層を第1面上の絶縁層と連続するようにして備えてなる構成とすることができる(請求項6の発明)。
【0018】
上記請求項6に記載の発明によれば、「導電性基材と金属部材との絶縁沿面距離」を「切り欠き部における第1面からの切り欠き深さ長」(図6(b)におけるdC1)だけ延長させて「絶縁層の厚さ」よりも十分に大きい沿面距離とすることができるので、絶縁基板における側面部端面の絶縁性を十分に向上させることができる。
【0019】
また、さらに、上記請求項1ないし6のいずれか1項に記載の絶縁基板において、前記セラミックス粉末として酸化アルミニウムの粉末を用いるものであって、前記絶縁層は、前記酸化アルミニウムの粉末を溶射して形成され、熱処理によって熱伝導率が高められている絶縁層である構成とすることができる(請求項7の発明)。
【0020】
上記請求項1ないし6のいずれか1項に記載の発明では、上述のように、絶縁基板における絶縁層の厚さは小さく抑えたまま側面部端面の絶縁性を向上させることができるので、半導体装置において絶縁基板から例えばヒートシンクなどの金属部材への伝熱経路における伝熱抵抗を低く抑えることができる。そして、さらに、上記請求項7に記載の発明によれば、前記絶縁層は熱伝導率がより高められたものとなるので、上記伝熱抵抗をより低く抑えることが可能になり、より良好な放熱性を備えた半導体装置を実現することができるようになる。
【0021】
また、さらに、上記請求項1ないし6のいずれか1項に記載の絶縁基板において、前記セラミックス粉末として酸化アルミニウムの粉末を用いるものであって、前記絶縁層は、前記酸化アルミニウムの粉末を溶射して形成され、六方晶系の結晶構造を有する絶縁層である構成とすることができる(請求項8の発明)。
【0022】
上記請求項1ないし6のいずれか1項に記載の発明では、上述のように、絶縁基板における絶縁層の厚さは小さく抑えたまま側面部端面の絶縁性を向上させることができるので、半導体装置において絶縁基板から例えばヒートシンクなどの金属部材への伝熱経路における伝熱抵抗を低く抑えることができる。そして、さらに、上記請求項8に記載の発明によれば、前記絶縁層は熱伝導率がより高められたものとなるので、上記伝熱抵抗をより低く抑えることが可能になり、より良好な放熱性を備えた半導体装置を実現することができるようになる。
【0023】
上記請求項1ないし8のいずれか1項に記載の絶縁基板において、前記絶縁層の厚さは、80μm〜300μmである構成とするとよい(請求項9の発明)。
次に、請求項2ないし4のいずれか1項に記載の絶縁基板を製造するための製造方法として、導電性基材の第1面側の角部にテーパ面を形成するテーパ加工工程と、前記テーパ加工工程の後,セラミックス粉末を溶射することにより導電性基材の前記第1面上および前記テーパ面上に絶縁層を形成する絶縁層形成工程とを備える構成とすることができる(請求項10の発明)。
【0024】
また、請求項5に記載の絶縁基板を製造するための製造方法として、セラミックス粉末を溶射することにより導電性基材の第1面上に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、前記絶縁層形成工程の後,導電性基材の第1面側の角部に切り欠き部を形成する切り欠き加工工程とを備える構成とすることができる(請求項11の発明)。
【0025】
また、請求項6に記載の絶縁基板を製造するための製造方法として、導電性基材の第1面側の角部に切り欠き部を形成する切り欠き加工工程と、前記切り欠き加工工程の後,セラミックス粉末を溶射することにより導電性基材の前記第1面上および前記切り欠き部に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、前記絶縁層形成工程の後,第1面上に形成された絶縁層を研削して,第1面上の絶縁層と切り欠き部の絶縁層との面を揃える研削工程とを備える構成とすることができる(請求項12の発明)。
【0026】
また、請求項6に記載の絶縁基板を製造するための製造方法として、第1面および第2面を有する導電性板状部材の第1面に,前記導電性板状部材を複数の導電性基材に分離する分離線に沿って切り欠き溝を形成する切り欠き溝加工工程と、前記切り欠き溝加工工程の後,セラミックス粉末を溶射することにより導電性板状部材の第1面上および切り欠き溝に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、前記絶縁層形成工程の後,前記絶縁層を研削して,第1面上の絶縁層と切り欠き溝の絶縁層との面を揃えて,絶縁層付き導電性板状部材を形成する研削工程と、前記研削工程の後,絶縁層付き導電性板状部材を前記分離線に沿って切断し,複数の前記絶縁基板に分離する分離工程とを備える構成とすることができる(請求項13の発明)。
【0027】
また、さらに、上記請求項10ないし13に記載の絶縁基板の製造方法において、前記セラミックス粉末として酸化アルミニウムの粉末を用いるものであって、前記絶縁層形成工程の後に、前記絶縁層を熱処理することによって前記絶縁層の熱伝導率を上昇させる工程を備える構成とすることができる(請求項14の発明)。
【0028】
また、さらに、上記請求項10ないし13に記載の絶縁基板の製造方法において、前記セラミックス粉末として酸化アルミニウムの粉末を用いるものであって、前記絶縁層形成工程の後に、絶縁層の結晶構造を六方晶系にする工程を備える構成とすることができる(請求項15の発明)。
【0029】
次に、請求項1ないし9のいずれか1項に記載の絶縁基板を用いた半導体モジュールの構成として、前記絶縁基板と、前記導電性基材の前記第2面に直接的または間接的に接して搭載された少なくとも1つ以上の半導体回路素子とを備える構成とすることができる(請求項16の発明)。
【0030】
また、上記請求項16に記載の半導体モジュールにおいて、前記導電性基材の前記第1面以外の面が、前記第2面に搭載されている半導体回路素子とともに絶縁材料である封止剤によって封止されており、前記封止剤と前記第1面上に形成した前記絶縁層とによって前記導電性基材を覆う絶縁表面を有している構成とすることができる(請求項17の発明)。
【0031】
次に、請求項16または17に記載の半導体モジュールを用いた半導体装置の構成として、前記半導体モジュールにおける前記絶縁層の露出面に冷却用の金属部材が密着して取り付けられてなる構成とすることができる(請求項18の発明)。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、導電性基材の一方面にセラミックス粉末を溶射して形成された絶縁層を備えた絶縁基板の側面部端面において絶縁層の厚さに制約されることなく絶縁沿面距離を大きくして絶縁性を向上させることができ、この絶縁基板を用いて、良好な絶縁性を保持し、且つ部材の低コスト化が可能な半導体モジュールおよび半導体装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1の実施形態による絶縁基板、半導体モジュールおよび半導体装置の構成例を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態による絶縁基板、半導体モジュールおよび半導体装置の製造方法の構成例を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施形態による絶縁基板の絶縁破壊特性の評価試験方法を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施形態による絶縁基板、半導体モジュールおよび半導体装置の構成例を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施形態による絶縁基板、半導体モジュールおよび半導体装置の製造方法の構成例を示す図である。
【図6】本発明の第3の実施形態による絶縁基板、半導体モジュールおよび半導体装置の構成例を示す図である。
【図7】本発明の第3の実施形態による絶縁基板、半導体モジュールおよび半導体装置の製造方法の構成例を示す図である。
【図8】本発明の第3の実施形態による絶縁基板の製造方法の異なる構成例を示す図である。
【図9】従来技術による半導体モジュールの構成例を示す図である。
【図10】従来技術による半導体モジュールの異なる構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
次に、本発明の実施形態について図1〜図8に基づいて説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施することができるものである。また、以下の説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分または要素には、共通する参照符号が付されている。また、図中、各実施形態の要素のそれぞれは、必ずしも互いの縮尺比を保って示されていない。
[本発明の実施形態]
<第1の実施形態>
以下、図面を参照しながら、本発明の第1の実施形態について説明する。
【0035】
(a)絶縁基板、半導体モジュールおよび半導体装置の構成例:
図1は、第1の実施形態による絶縁基板11A、半導体モジュール21Aおよび半導体装置31Aの構成を示す断面図であって、図1(a)は全体構成を示す断面図であり、図1(b)は図1(a)におけるC1部の拡大断面図である。
【0036】
図1に示すように、導電性基材1Aの第1面1a(図における下面)上に、絶縁層7Aaが形成されている。これに対し、導電性基材1Aの第2面1b(図における上面)には、直接的または間接的に接するように半導体回路素子2,2が搭載されている。
【0037】
より具体的には、第1の実施形態においては、この導電性基材1Aは銅板により作製される。導電性基材1Aの形状は、例えば、概ね1mm以上5mm以下の厚みを有する平板状であり、その平面視において正方形または長方形である。絶縁層7Aaは、酸化アルミニウム(アルミナ)の粉末71を溶射法により堆積させて形成された層または膜(以下、総称して、単に「層」ともいう)である。そして、絶縁層7Aaは、導電性基材1Aの第1面1a上に酸化アルミニウムの粉末71を溶射することによって80〜300μmの厚みを有するように形成される。絶縁層の厚みとしては上記の80〜300μmが好適であり、この範囲の厚みとすれば、絶縁層自体(バルク)の耐電圧特性が十分なものとなるとともに、絶縁層の伝熱抵抗が十分に低くなるようにすることができる。
【0038】
導電性基材1Aは、第1面1a側の角部にテーパ面1Acを有し、このテーパ面1Ac上にも,セラミックス粉末71の溶射による絶縁層7Abが第1面1a上の絶縁層7Aaと連続するようにして形成されている。そして、導電性基材1Aの第1面1a側に,絶縁層7Aaおよび絶縁層7Abからなる絶縁層7Aを備えた絶縁層付き導電性基材として絶縁基板11Aが構成される。ここで、図1(b)に示しているように、テーパ面1Acの傾斜角、すなわち、テーパ面1Acと、導電性基材1Aの底面に対する垂直方向とのなす角度をθとする。
【0039】
なお、後述するように、上記絶縁層7Aが形成された後に『熱処理』を施して絶縁層の熱伝導率を高めるようにすることが好ましい。この『熱処理』を施した後の絶縁層の結晶構造をX線回折装置によって分析すると、酸化アルミニウムの六方晶系の回折ピークを確認することができる。
【0040】
導電性基材1Aの第2面1bには、例えばIGBTなどのパワー半導体素子である半導体回路素子2,2が、例えばはんだによって接合され、直接的または間接的に導電性基材1の第2面1bに接するようにして搭載されている。半導体回路素子2,2の(図示されない)接続用端子は、例えば125〜500μmの線径のアルミワイヤーからなるボンデイングワイヤー4によりリードフレーム6に電気的に接続されている。そして、上述の各要素、すなわち、絶縁基板11A、半導体回路素子2,2、リードフレーム6、およびボンデイングワイヤー4が、例えばエポキシ樹脂に無機フィラーを混入させたものからなる封止用の成形樹脂5によって封止されて、半導体モジュール21Aが構成される。
【0041】
このように構成される半導体モジュール21Aは、絶縁材料である成形樹脂5によって、導電性基材1Aの第1面1a以外のすべての面が半導体回路素子2,2とともに覆われることにより封止されている。このため、半導体モジュール21Aの表面では、電気的な接続のためのリードフレーム6の端部62を除き、成形樹脂5及び第1面1aに形成した絶縁層7Aaのみが外界と接している。すなわち、半導体モジュール21Aの表面は導電性基材1Aを外界から絶縁する絶縁表面となっている。
【0042】
そして、半導体モジュール21Aはヒートシンク8に絶縁層7Aaの露出面が密着するようにして取付けられて、半導体装置31Aが構成される。
(b)絶縁基板における側面部端面の絶縁性:
図1(b)に示す絶縁基板11Aにおける側面部端面の絶縁構造では、例えば「テーパ面1Ac上の絶縁層7Abにおける絶縁基板11Aに垂直な方向での厚さdA2」が「第1面1a上の絶縁層7Aaの厚さd」と等しい場合、「導電性基材1Aとヒートシンク8との絶縁沿面距離dA=dA1+dA2」は「テーパ面1Ac上の絶縁層7Abにおける沿面長dA1」の分だけ「第1面1a上の絶縁層7Aaの厚さd」より大きい沿面距離となる。
【0043】
このように、第1の実施形態では、導電性基材1Aとヒートシンク8との絶縁沿面距離を絶縁層7Aaの厚さよりも大きくして、絶縁基板11Aにおける側面部端面の絶縁性を向上させることができる。そして、このような絶縁基板11Aを用いた半導体モジュール21Aに例えばヒートシンクなどの金属部材8を取付けて構成される半導体装置31Aは、より優れた絶縁性を備えたものとなる。
【0044】
また、絶縁基板11Aにおける側面部端面の絶縁性は、上述の絶縁沿面距離だけでなく、テーパ面1Acの傾斜角(テーパ角)θにも依存する。そして、本発明におけるテーパ面1Acの傾斜角θは、30°〜80°であることが好ましく、さらには50°〜70°であることが特に好ましい。そして、上記傾斜角θを50°〜70°とすれば、絶縁基板11Aの端面での絶縁破壊のない十分に安定した絶縁破壊特性が得られるとともに、この絶縁基板11Aを用いた半導体モジュールにおける樹脂封止性も十分に良好なものとすることができる。
【0045】
(c)絶縁基板、半導体モジュールおよび半導体装置の製造方法の構成例:
図2は、第1の実施形態による絶縁基板11A、半導体モジュール21Aおよび半導体装置31Aの製造方法の構成例を工程順に示す断面図である。なお、図2(d)、図2(e)では、半導体モジュール21Aの構成要素のうち、ボンデイングワイヤー4、リードフレーム6の図示は省略している。
【0046】
(c1)まず、概ね1mm以上5mm以下の厚みを有する銅板などの平板状導電性部材を、例えばプレス加工により打ち抜いて、導電性基材として必要な形状に成形し、さらに、必要な形状に成形された導電性基材の第1面1a側の角部の全周にテーパ加工工程として図2(a)に示すようにテーパ加工を施し、テーパ面1Acを備えた導電性基材1Aを形成する。
【0047】
(c2)次に、絶縁層形成工程として、導電性基材1Aの第1面1a上およびテーパ面1Ac上に絶縁層7Aを形成する。絶縁層7Aは、図2(b)に示すように、酸化アルミニウム(アルミナ)の粉末71を溶射法を用いて堆積させることにより形成される。具体的には、大気もしくは減圧下の雰囲気において、マスクMによって不要な部位への付着を防止しつつ、導電性基材1Aに向けて一方向から原料粉末71が溶射される。この際の原料粉末71としては、代表的には、α−アルミナ粉末すなわちコランダム(例えば99.7%の純度のアルミナ粉)が用いられる。このようにして、図2(c)に示すように、導電性基材1Aの第1面1a上に絶縁層7Aaが形成されるとともにテーパ面1Ac上に絶縁層7Abが形成された絶縁基板1Aが作製される。この処理に用いられる溶射法としては絶縁材料の溶射に適するプラズマ溶射方法が採用されることが望ましいが、他の溶射法を用いることもできる。絶縁層7Aの厚みは、溶射処理の条件のうち、原料粉末の供給速度と溶射時間とによって適宜調整され得る。
【0048】
(c3)次に、絶縁基板11Aを用いた半導体モジュール21Aの製造工程として、図2(d)に示すように、封止用の成形樹脂5を用いて、絶縁基板11Aにおける絶縁層7Aaの面が露出するようにして、導電性基材1Aの第2面1bおよび側面を樹脂封止して、半導体モジュール21Aを形成する。
【0049】
なお、この半導体モジュール21Aの製造工程は、より具体的には例えば次のように行なうことができる(図1(a)参照)。
まず、導電性基材1Aの第2面1b上に半導体回路素子2,2が搭載される。ここで、半導体回路素子2,2は、導電性基材1Aの第2面1bにはんだ付けにより接合させる。このはんだ付けは、ペレット状のはんだを用いて水素還元が可能な炉において行なわれる。水素還元が可能な炉を使う理由は、水素還元によって導電性基材1Aの第2面1bの酸化膜を除去して表面を活性化することにより、はんだとの濡れ性を向上させるためである。はんだ材料として、例えば、SnPbAgからなる高温はんだ、SnAgCu系やSnCuNi系からなる鉛フリーはんだが用いられる。はんだ付けの温度は、接合工程に用いられるはんだの融点に応じて適宜設定される。また、この接合のはんだ層にボイド(気泡)が残留すると熱抵抗が高くなる。そこで、本実施形態では、ボイドが生成されないように、はんだが溶融している状態で到達真空度が10Torrすなわち約1330Pa以下となるように減圧し、そのまま温度を下げてはんだを固化させて接合を完了する。
【0050】
次に、ボンデイングワイヤー4により半導体回路素子2,2とリードフレーム6との接続を行なう。このボンデイングワイヤー4による接続処理は、リードフレーム6および半導体回路素子2,2それぞれの接続パッド(図示しない)を公知の超音波接合法によって接続して行なわれる。
【0051】
最後に、トランスファー成型方式によって樹脂による封止処理を行う。この封止処理は、まず、回路部品を(図示しない)金型の内部に配置する。この際、金型の温度を予め170〜180℃程度にしておく。次いで、適切な温度に予熱しておいた成型用樹脂をプランジャーにてその金型内に流し込む。この成型樹脂の材料は公知の任意の樹脂材料を用いることができる。本実施形態では、エポキシ樹脂に無機フィラーを混入させたものが採用される。なお、この成型樹脂の材料は、成型前にはタブレット状の外観になっている。無機フィラーとしては、酸化珪素、酸化アルミニウム、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素からなる群の1種類以上の材質の粒子または粉体が適用可能である。成型樹脂の材質としては、他の要求性能を満たす限り熱伝導率が高いものほど望ましい。その一例としては、熱伝導率が0.5〜5W/m・Kの材質が好適な材料として挙げられる。成型用樹脂を流し込んだ数十秒後には成型樹脂の硬化が開始する。この直後に成型樹脂によって封止された回路部品を金型から取り外した上で、後硬化(ボストキュア)処理が行われる。この後硬化処理は、成型樹脂によって封止された回路部品を恒温槽によって加熱することによって行なわれる。以上のようにして、封止処理が完了し、半導体モジュール21Aの製造工程が完了する。
【0052】
(c4)次に、半導体装置31Aの製造工程として、図2(e)に示すように、半導体モジュール21Aを、ヒートシンク(金属部材)8に、絶縁層7Aaの露出面がヒートシンク(金属部材)8に密着するようにして取り付けて、半導体装置31Aを形成する。
【実施例1】
【0053】
本発明の第1の実施形態による絶縁基板、半導体モジュールおよび半導体装置における、絶縁層端面の傾斜角、すなわち導電性基材1Aのテーパ面1Acの傾斜角(テーパ角)θの違いが絶縁特性に及ぼす影響を調べるため、以下の通り、絶縁層端面の傾斜角の異なる絶縁構造の試料を作成し、それぞれの絶縁破壊特性を評価した。
【0054】
まず、次のようにして絶縁構造の試料を作成した。すなわち、銅材(銅板)よりなる導電性基材1Aの第1面1a側(図2参照)に酸化アルミニウム(アルミナ)の粉末71を溶射することにより絶縁層7Aを形成して絶縁基板11A(アルミナ溶射絶縁層付銅ブロック)を形成し、この絶縁基板11Aの側面部の沿面をエポキシ系の封止剤(成形樹脂)5で封止した後、この部材を硬化させて、図3に示す絶縁構造の試料を作成した。ここで、アルミナの溶射による絶縁層7Aの膜厚は0.12mmとした。また、導電性基材1Aのテーパ面1Acの傾斜角θ(図1(b)参照)については、45°、60°、75°としたものをそれぞれ3個ずつ作成し、それぞれ試料A1〜A3、B1〜B3、C1〜C3とした(表1参照)。
【0055】
なお、試料A1〜A3(θ=45°)、B1〜B3(θ=60°)、C1〜C3(θ=75°)を構成する導電性基材1Aとしては、いずれも、全体形状の大きさが同じもの、すなわち図2(a)における厚さ寸法L1、幅寸法L2および図示されない奥行き寸法がそれぞれ同じものを用いた。そして、試料A1〜A3、B1〜B3、C1〜C3において絶縁基板11Aのヒートシンク(金属部材)8との接触面積が各試料とも同じになるように、図2(a)における導電性基材1Aの第1面1aでのテーパ加工後の残部の幅寸法L2aおよび図示されない奥行き寸法がそれぞれ同じとなる条件でテーパ加工を行なった。
【0056】
また、上記封止剤5としては、熱変形温度が175℃以上であり、熱膨張係数が1.5×10−5/℃〜1.8×10−5/℃であり、接着強さが10〜30MPaであるエポキシ樹脂を使用した。
【0057】
上記のようにして作成した試料A1〜A3、B1〜B3、C1〜C3について、絶縁破壊試験装置を用いて絶縁破壊試験を行なった。絶縁破壊試験では、各試料について、図3に示すように、銅粘着テープからなる電極201Aおよび201Bをそれぞれ導電性基材1Aの銅基板表面および絶縁層7Aの表面に貼り付けて絶縁破壊試験を行ない、絶縁破壊特性として絶縁破壊電圧(BDV)を測定するとともに絶縁破壊箇所を目視にて確認した。なお、図3において202A,202Bは絶縁破壊試験装置の電極を示している。
【0058】
上記各試料について絶縁破壊特性を評価した結果を表1に示す。表1に示されるように、端面の傾斜角θが60°以上の場合は、端面での絶縁破壊がなく、端面の傾斜角θが45°の場合に比べて、より安定した絶縁破壊特性が得られた。この評価結果より、絶縁基板11A(アルミナ溶射絶縁層付銅ブロック)の側面部端面の傾斜角、すなわち、導電性基材1A(銅ブロック)のテーパ面1Acと、導電性基材1Aの底面に対する垂直方向とのなす角度θとしては60°〜75°で特に良好な絶縁破壊特性が得られることが確認された。
【0059】
【表1】
なお、絶縁破壊特性に関する上述の評価結果に関し、絶縁基板11Aの側面部端面の傾斜角θが小さくなるほど(すなわち図2(e)におけるヒートシンク(金属部材)8の面に対して側面部端面(傾斜面)が垂直に近くなるほど)、ヒートシンク8の面に接する絶縁基板11Aの角部(すなわち図2(e)における丸枠P1内の部分)での電界集中がより起こり易くなるとともに、側面部端面(傾斜面)の絶縁性がより低いものになると考えられる。
【0060】
また、試料A1〜A3、B1〜B3、C1〜C3においてアルミナの溶射により導電性基材1Aのテーパ面1Acに形成された絶縁層7Abの膜質としては、テーパ面1Acの傾斜角θが45°である試料A1〜A3で膜質の低下が確認されている。
【0061】
一方、絶縁基板11Aの側面部端面の傾斜角θが大きくなるほど(すなわち図2(e)におけるヒートシンク8の面に対して側面部端面(傾斜面)が平行に近くなるほど)、絶縁基板11Aを用いた半導体モジュールにおける成形樹脂5による樹脂封止性が低下する。
【0062】
このため、絶縁基板の端面での絶縁破壊のない十分に安定した絶縁破壊特性が得られるとともに、この絶縁基板を用いた半導体モジュールにおける樹脂封止性も十分に良好なものとなるような傾斜角θの範囲としては、50°〜70°が特に好適と考えられる。
<第2の実施形態>
以下、図面を参照しながら、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0063】
(a)絶縁基板、半導体モジュールおよび半導体装置の構成例:
図4は、第2の実施形態による絶縁基板11B、半導体モジュール21Bおよび半導体装置31Bの構成を示す断面図であって、図4(a)は全体構成を示す断面図であり、図4(b)は図4(a)におけるC2部の拡大断面図である。
【0064】
図4に示すように、導電性基材1Bの第1面1a(図における下面)上に、絶縁層7Bが形成されている。これに対し、導電性基材1Bの第2面1b(図における上面)には、直接的または間接的に接するように半導体回路素子2,2が搭載されている。
【0065】
より具体的には、第2の実施形態においては、この導電性基材1Bは銅板により作製される。導電性基材1Bの形状は、例えば、概ね1mm以上5mm以下の厚みを有する平板状であり、その平面視において正方形または長方形である。絶縁層7Bは、酸化アルミニウム(アルミナ)の粉末71を溶射法により堆積させて形成された層または膜(以下、総称して、単に「層」ともいう)である。そして、絶縁層7Bは、導電性基材1Bの第1面1a上に酸化アルミニウムの粉末71を溶射することによって80〜300μmの厚みを有するように形成される。絶縁層の厚みとしては上記の80〜300μmが好適であり、この範囲の厚みとすれば、絶縁層自体(バルク)の耐電圧特性が十分なものとなるとともに、絶縁層の伝熱抵抗が十分に低くなるようにすることができる。
【0066】
導電性基材1Bは、第1面1a側の角部に切り欠き部1Bcを有し、第1面1a上の絶縁層7Bは、導電性基材1Bと接する部位よりも外側に延在してなるように構成されている。そして、導電性基材1Bの第1面1a側に,絶縁層7Bを備えた絶縁層付き導電性基材として絶縁基板11Bが構成される。
【0067】
なお、後述するように、上記絶縁層7Bが形成された後に『熱処理』を施して絶縁層の熱伝導率を高めるようにすることが好ましい。この『熱処理』を施した後の絶縁層の結晶構造をX線回折装置によって分析すると、酸化アルミニウムの六方晶系の回折ピークを確認することができる。
【0068】
絶縁基板11B、半導体回路素子2,2、リードフレーム6、およびボンデイングワイヤー4が成形樹脂5によって封止されてなる半導体モジュール21Bの構成は、上述の第1の実施形態において半導体モジュール21Aについて説明した構成と同様である。
【0069】
そして、半導体モジュール21Bはヒートシンク8に絶縁層7Bの露出面が密着するようにして取付けられて、半導体装置31Bが構成される。
(b)絶縁基板における側面部端面の絶縁性:
図4(b)に示す絶縁基板11Bにおける側面部端面の絶縁構造では、「絶縁層7Bの導電性基材1Bと接する部位よりも外側に延在している部分の厚さdB2」が「第1面1a上の絶縁層7Bの厚さd」と等しい場合、「導電性基材1Bとヒートシンク8との間の絶縁沿面距離dB=dB1+dB2」は、「導電性基材1Bと接する部位よりも外側に延在している絶縁層7Bの延在長dB1」の分だけ「第1面1a上の絶縁層7Bの厚さd」より大きい沿面距離となる。
【0070】
このように、第2の実施形態では、上述の第1の実施形態と同様に、導電性基材1Bとヒートシンク8との絶縁沿面距離を絶縁層7Bの厚さよりも大きくして、絶縁基板11Bにおける側面部端面の絶縁性を向上させることができる。そして、このような絶縁基板11Bを用いた半導体モジュール21Bに例えばヒートシンクなどの金属部材8を取付けて構成される半導体装置31Bは、より優れた絶縁性を備えたものとなる。
【0071】
(c)絶縁基板、半導体モジュールおよび半導体装置の製造方法の構成例:
図5は、第2の実施形態による絶縁基板11B、半導体モジュール21Bおよび半導体装置31Bの製造方法の構成例を工程順に示す断面図である。なお、図5(d)、図5(e)では、半導体モジュール21Bの構成要素のうち、ボンデイングワイヤー4、リードフレーム6の図示は省略している。
【0072】
(c1)まず、概ね1mm以上5mm以下の厚みを有する銅板などの平板状導電性部材を、例えばプレス加工により打ち抜いて、導電性基材として必要な形状に成形し、導電性基材1を得る。
【0073】
(c2)次に、絶縁層形成工程として、導電性基材1の第1面1a上に絶縁層7Bを形成する。絶縁層7Bは、図5(a)に示すように、酸化アルミニウム(アルミナ)の粉末71を溶射法を用いて堆積させることにより形成される。具体的には、大気もしくは減圧下の雰囲気において、マスクMによって不要な部位への付着を防止しつつ、導電性基材1Aに向けて一方向から原料粉末71が溶射される。この際の原料粉末71としては、代表的には、α−アルミナ粉末すなわちコランダム(例えば99.7%の純度のアルミナ粉)が用いられる。このようにして、図5(b)に示すように、導電性基材1の第1面1a上に絶縁層7Bが形成される。この処理に用いられる溶射法としては絶縁材料の溶射に適するプラズマ溶射方法が採用されることが望ましいが、他の溶射法を用いることもできる。絶縁層7Bの厚みは、溶射処理の条件のうち、原料粉末の供給速度と溶射時間とによって適宜調整され得る。
【0074】
(c3)次に、切り欠き加工工程として、図5(c)に示すように、導電性基材1の第1面1a側の角部の全周に凹状の切り欠き部1Bcを形成する。この切り欠き部1Bcを形成する加工は、機械的な切削加工、エッチング加工のどちらでも良い。
【0075】
この切り欠き加工によって、導電性基材1は、第1面1a側の角部に切り欠き部1Bcを有する導電性基材1Bとなる。そして、導電性基材1Bの第1面1a側に,導電性基材1Bと接する部位よりも外側に延在してなる絶縁層7Bを備えた絶縁層付き導電性基材として絶縁基板11Bが構成される。
【0076】
(c4)次に、絶縁基板11Bを用いた半導体モジュール21Bの製造工程として、図5(d)に示すように、封止用の成形樹脂5を用いて、絶縁基板11Bにおける絶縁層7Bの面が露出するようにして、導電性基材1Bの第2面1bおよび側面を樹脂封止して、半導体モジュール2Bを形成する。
【0077】
なお、この半導体モジュール21Bの製造工程のより具体的な構成は、上述の第1の実施形態において半導体モジュール21Aの製造工程について説明した具体的な構成と同様である。
【0078】
(c5)次に、半導体装置31Bの製造工程として、図5(e)に示すように、半導体モジュール21Bを、ヒートシンク(金属部材)8に、絶縁層7Bの露出面がヒートシンク(金属部材)8に密着するようにして取り付けて、半導体装置31Bを形成する。
<第3の実施形態>
以下、図面を参照しながら、本発明の第3の実施形態について説明する。
【0079】
(a)絶縁基板、半導体モジュールおよび半導体装置の構成例:
図6は、第3の実施形態による絶縁基板11C、半導体モジュール21Cおよび半導体装置31Cの構成を示す断面図であって、図6(a)は全体構成を示す断面図であり、図6(b)は図6(a)におけるC3部の拡大断面図である。
【0080】
図6に示すように、導電性基材1Cの第1面1a(図における下面)上に、絶縁層7Caが形成されている。これに対し、導電性基材1Cの第2面1b(図における上面)には、直接的または間接的に接するように半導体回路素子2,2が搭載されている。
【0081】
より具体的には、第3の実施形態においては、この導電性基材1Cは銅板により作製される。導電性基材1Cの形状は、例えば、概ね1mm以上5mm以下の厚みを有する平板状であり、その平面視において正方形または長方形である。絶縁層7Caは、酸化アルミニウム(アルミナ)の粉末71を溶射法により堆積させて形成された層または膜(以下、総称して、単に「層」ともいう)である。そして、絶縁層7Caは、導電性基材1Cの第1面1a上に酸化アルミニウムの粉末71を溶射することによって80〜300μmの厚みを有するように形成される。絶縁層の厚みとしては上記の80〜300μmが好適であり、この範囲の厚みとすれば、絶縁層自体(バルク)の耐電圧特性が十分なものとなるとともに、絶縁層の伝熱抵抗が十分に低くなるようにすることができる。
【0082】
導電性基材1Cは、第1面1a側の角部に切り欠き部1Ccを有し、この切り欠き部1Cc上にも,セラミックス粉末71の溶射による絶縁層7Cbが第1面1a上の絶縁層7Caと連続するようにして形成されている。そして、導電性基材1Cの第1面1a側に,絶縁層7Caおよび絶縁層7Cbからなる絶縁層7Cを備えた絶縁層付き導電性基材として絶縁基板11Cが構成される。ここで、導電性基材1Cにおける切り欠き部1Ccの底面は、第1面1aと平行な面として形成しておくことが好ましい。
【0083】
なお、後述するように、上記絶縁層7Cが形成された後に『熱処理』を施して絶縁層の熱伝導率を高めるようにすることが好ましい。この『熱処理』を施した後の絶縁層の結晶構造をX線回折装置によって分析すると、酸化アルミニウムの六方晶系の回折ピークを確認することができる。
【0084】
絶縁基板11C、半導体回路素子2,2、リードフレーム6、およびボンデイングワイヤー4が成形樹脂5によって封止されてなる半導体モジュール21Cの構成は、上述の第1の実施形態において半導体モジュール21Aについて説明した構成と同様である。
【0085】
そして、半導体モジュール21Cはヒートシンク8に絶縁層7Cの露出面が密着するようにして取付けられて、半導体装置31Cが構成される。
(b)絶縁基板における側面部端面の絶縁性:
図6(b)に示す絶縁基板11Cにおける側面部端面の絶縁構造では、「導電性基材1Cとヒートシンク8との間の絶縁沿面距離dC=dC1+dC2」は、「切り欠き部1Ccにおける第1面1aからの切り欠き深さ長dC1」の分だけ「絶縁層7Caの厚さd(=dC2)」よりも大きい沿面距離となる。
【0086】
このように、第3の実施形態では、上述の第1の実施形態と同様に、導電性基材1Cとヒートシンク8との絶縁沿面距離を絶縁層7Caの厚さよりも大きくして、絶縁基板11Cにおける側面部端面の絶縁性を向上させることができる。そして、このような絶縁基板11Cを用いた半導体モジュール21Cに例えばヒートシンクなどの金属部材8を取付けて構成される半導体装置31Cは、より優れた絶縁性を備えたものとなる。
【0087】
(c)絶縁基板、半導体モジュールおよび半導体装置の製造方法の構成例:
図7は、第3の実施形態による絶縁基板11C、半導体モジュール21Cおよび半導体装置31Cの製造方法の構成例を工程順に示す断面図である。なお、図7(e)、図7(f)では、半導体モジュール21Cの構成要素のうち、ボンデイングワイヤー4、リードフレーム6の図示は省略している。
【0088】
(c1)まず、概ね1mm以上5mm以下の厚みを有する銅板などの平板状導電性部材を、例えばプレス加工により打ち抜いて、導電性基材として必要な形状に成形し、さらに、必要な形状に成形された導電性基材の第1面1a側の角部の全周に切り欠き部1Ccを形成し、導電性基材1Cを得る。この切り欠き部1Ccを形成する加工は、機械的な切削加工、エッチング加工のどちらでも良い。
【0089】
(c2)次に、絶縁層形成工程として、導電性基材1Cの第1面1a上および切り欠き部1Cc上に絶縁層(溶射層)7C1を形成する。絶縁層(溶射層7C1)は、図7(b)に示すように、酸化アルミニウム(アルミナ)の粉末71を溶射法を用いて堆積させることにより形成される。具体的には、大気もしくは減圧下の雰囲気において、マスクMによって不要な部位への付着を防止しつつ、導電性基材1Cに向けて一方向から原料粉末71が溶射される。この際の原料粉末71としては、代表的には、α−アルミナ粉末すなわちコランダム(例えば99.7%の純度のアルミナ粉)が用いられる。このようにして、図7(c)に示すように、導電性基材1Cの第1面1a上に絶縁層(溶射層)7C1aが形成されるとともに切り欠き部1Cc上に絶縁層(溶射層)7C1bが形成される。この処理に用いられる溶射法としては絶縁材料の溶射に適するプラズマ溶射方法が採用されることが望ましいが、他の溶射法を用いることもできる。絶縁層(溶射層)7C1の厚みは、溶射処理の条件のうち、原料粉末の供給速度と溶射時間とによって適宜調整され得る。
【0090】
(c3)次に、研削工程として、図7(c)におけるD1−D1線で示すレベルまで、第1面1a上に形成された絶縁層(溶射層)7C1aを研削して、第1面1a上の絶縁層7Caと切り欠き部1Cc上の絶縁層7Cbとの面を揃える。このようにして、図7(d)に示すように、導電性基材1Cの第1面1a側に,絶縁層7Caおよび絶縁層7Cbからなる絶縁層7Cを備えた絶縁基板11Cが作製される。
【0091】
(c4)次に、絶縁基板11Cを用いた半導体モジュール21Cの製造工程として、図7(e)に示すように、封止用の成形樹脂5を用いて、絶縁基板11Cにおける絶縁層7Cの面が露出するようにして、導電性基材1Cの第2面1bおよび側面を樹脂封止して、半導体モジュール21Cを形成する。
【0092】
なお、この半導体モジュール21Cの製造工程のより具体的な構成は、上述の第1の実施形態において半導体モジュール21Aの製造工程について説明した具体的な構成と同様である。
【0093】
(c5)次に、半導体装置31Cの製造工程として、図7(f)に示すように、半導体モジュール2Cを、ヒートシンク(金属部材)8に、絶縁層7Cの露出面がヒートシンク(金属部材)8に密着するようにして取り付けて、半導体装置31Cを形成する。
【0094】
(d)絶縁基板の製造方法の異なる構成例:
図8は、第3の実施形態による絶縁基板1Cの製造方法の異なる構成例を工程順に示す断面図である。
【0095】
(d1)まず、概ね1mm以上5mm以下の厚みを有する銅板などからなり,第1面101aおよび第2面101bを有する導電性板状部材101Cの第1面101aに対する切り欠き溝形成工程として、図8(a)に示すように、導電性板状部材101Cを複数の導電性基材に分離する(図8(a)では図示されない)分離線に沿って、この分離線を中心線とした切り欠き溝101Ccを形成する。
【0096】
(d2)次に、絶縁層形成工程として、図8(b)に示すように例えばプラズマ溶射方法によってセラミックス粉末71を溶射することにより、図8(c)に示すように、導電性板状部材101Cの第1面101a上および切り欠き溝101Cc上に絶縁層(溶射層)107C1を形成する。この絶縁層形成工程における溶射方法の具体的構成は、図7(b)で説明した具体的構成と同様であるが、個別の導電性基材1Cに対する溶射処理ではなく、複数の導電性基材1Cに分離する前の導電性板状部材101Cに対する溶射処理である点が異なっている。
【0097】
(d3)次に,研削工程として、図8(c)におけるD2−D2線で示すレベルまで絶縁層(溶射層)107C1を研削して、第1面101a上の絶縁層107Caと切り欠き溝107Cc上の絶縁層107Cbとの面を揃えて,絶縁層付き導電性板状部材111Cを形成する。
【0098】
(d4)次に、分離工程として、図8(d)における白抜き矢印線Sで示すように、絶縁層付き導電性板状部材111Cを上記分離線に沿って切断し、図8(e)に示す複数の絶縁基板11Cに分離する。
【0099】
図8に示す上記の製造方法は、複数の導電性基材に対する溶射を1回の処理で行なうことができるので、絶縁層形成工程での省力化を考慮した場合、絶縁板11Cをより低コストで製造可能とする上で好適である。
[本発明の実施形態の構成と他の構成例との対比]
(イ)本発明による絶縁基板(絶縁層付き導電性基材)の具体的構成を第1ないし第3の実施形態に示したが、第1ないし第3の実施形態とは異なる他の構成例として、例えば、図10(b)に示すように、導電性基材1における側面部の端面の一部にも破線で示すような絶縁層7bを絶縁層7と連続するようにして形成することにより、導電性基材1とヒートシンク8との間の絶縁沿面距離を大きくした構成の絶縁基板を適用することもできる。
(ロ)しかしながら、図10(b)において、導電性基材1の第1面1aに加えて側面部の端面にまでセラミックス粉末を溶射して絶縁層を形成する場合、導電性基材1の第1面1aに正対する方向に原料粉末を溶射させるだけでは、側面部の端面に溶射膜を形成することはできない。このため、導電性基材1の第1面1aに正対する方向に対して直交する方向あるいは斜め方向に沿って原料粉末を溶射して側面部の端面に溶射膜を形成することになるが、このような溶射を行なうには、複数方向の溶射ノズルを組合せた複雑な構成の溶射装置が必要となる。
【0100】
この点において、第1ないし第3の実施形態に示した絶縁基板の構成は、いずれも、導電性基材の第1面1aに正対する方向に原料粉末を溶射させるだけで必要な溶射膜の形成が可能であるため、図10(b)に示す上記構成に比べてより簡素な構成の溶射装置でもって製造することができ、この点でより好適である。
(ハ)また、第3の実施形態による絶縁基板11Cは、例えば図8に示すように、複数の導電性基材に分離する前の状態にある導電性板状部材に対してその第1面101aに正対する方向に沿ってセラミックス粉末を溶射することにより絶縁層を形成した後に、個別の導電性基材に切断,分離する製造方法も適用可能である。一方、図10(b)に示す上記構成は、導電性基材1の第1面1aに正対する方向に対して直交する方向あるいは斜めの方向に沿ってセラミックス粉末を溶射して側面部の端面に溶射膜を形成する構成であるため、その製造方法として、複数の導電性基材に分離する前の状態にある導電性板状部材に対してセラミックス粉末を溶射することにより絶縁層を形成した後に、個別の導電性基材に切断,分離する製造方法は適用し難い。この点に関し、溶射による絶縁層形成工程での省力化を考慮した場合、第3の実施形態の構成は、絶縁基板(絶縁層付き導電性基材)をより低コストで製造可能とする上で好適である。
【0101】
[本発明の実施形態における絶縁層の構成例]
(イ)上述の第1ないし第3の実施形態では、セラミックス粉末として特に酸化アルミニウムの粉末を溶射して形成された絶縁層を備えた絶縁基板(絶縁層付き導電性基材)について説明したが、このような絶縁基板を備えた半導体モジュールにヒートシンクを取り付けて半導体装置を構成する場合、この絶縁層には高い熱伝導率と高い絶縁性とが必要となる。
【0102】
(ロ)本発明の出願人と同一の出願人による特許出願(特願2009−266264号)に示されているように、まず、本発明者が、導電性基材に絶縁層を形成する手法として溶射法に着目したのは、層の形成コストが低廉であるばかりでなく、パターン形成も容易なためである。具体的には、本発明者は、まず、絶縁層に適する材料である酸化アルミニウム(Al2O3、アルミナ)の粉末をプラズマ溶射法によって層状または膜状になるように導電性基材に形成した。その上で、その溶射された絶縁層を利用することにより、半導体モジュールとして望ましい絶縁性と熱伝導率とが確保され得るかどうかについて調査を行った。その結果、本発明者は、溶射によって形成した酸化アルミニウムの絶縁層を利用して最終的な半導体モジュールを作製した多くの場合に、絶縁層自体の熱伝導率が概ね3〜4W/m・Kにとどまるという問題があることを見出した。ちなみに、溶射ではなく焼成によって作られるタイプの酸化アルミニウム(アルミナの焼結体)における熱伝導率は、通常約20W/m・K程度となる。それにもかかわらず溶射されたままの絶縁層では、上述のように熱伝導率が3〜4W/m・K、すなわちアルミナ焼結体の約1/5以下にとどまってしまう。従って、たとえ簡便かつ低コストな溶射法を用いたとしても、この程度の熱伝導率の絶縁層を利用して十分に小さい熱抵抗を実現することは難しい。というのは、絶縁層の厚みを薄くしなければならず、その結果、十分な絶縁性を確保し得ないからである。
【0103】
(ハ)上述のような問題を生じさせるメカニズムを明らかにするために、本発明者は溶射によって形成された絶縁層の構造に着目してさらに調査と解析を行なった。まず、溶射によって生成された層には一般に気孔が多く含まれる点に注目した。気孔が含まれることは、原料粉末を加熱して溶融した原料粉末の噴流を形成し、その噴流を対象物に吹き付けるという溶射法の手法を採用する限り、避けがたい。ここで、このような気孔が上述の熱伝導率の低下の原因といえるなら、気孔率を小さくするような層の形成条件を採用することによって熱伝導率の低下は緩和されるはずである。ところが実際には、気孔率の増大が熱伝導率の低下にある程度関連はするものの、気孔だけでは上述のような大幅な熱伝導率の低下を説明できないことが判明した。すなわち、上述の熱伝導率低下の主たる原因は気孔の生成以外にあるようであった。
【0104】
(ニ)この調査結果を受けて、本発明者は、溶射によって形成された絶縁層においては、材質そのものが何らかの影響を受けているとの考えに至った。特に、本発明者は、酸化アルミニウムの粉末が溶射の際に瞬間的に融解してそのまま基材に吹き付けられるために熱的および機械的なストレスを受けていて、これが絶縁層の材質の熱伝導率を低下させている原因であると推測している。
(ホ)さらに、本発明者は、絶縁層が溶射によって形成される際に受ける作用を考慮して、絶縁層の熱伝導率の値を高める手法を鋭意検討した。その結果、本発明者は、溶射によって形成した絶縁層に対して「熱処理またはアニール処理」(以下、単に『熱処理』ともいう)を施すことにより、その絶縁層の熱伝導率が上昇することを見出した。より具体的には、溶射によって熱伝導率が一旦3〜4W/m・Kとなった絶縁層であっても、その後に『熱処理』を施すことにより、熱伝導率を約10W/m・Kにまで高めることができることを確認した。絶縁層に『熱処理』を施して熱伝導率を上昇させた絶縁層を用いれば、半導体モジュールの熱抵抗を容易に低減させることが可能となる。
【0105】
このため、本発明における絶縁層としては、導電性基材の第1面上に酸化アルミニウムの粉末を溶射して形成され、『熱処理』によって熱伝導率が高められている絶縁層であることが好ましい。
(ヘ)なお、本発明者の推測によれば、熱伝導率が溶射によって低下し、『熱処理』によって上昇する現象には、以下のような機構が作用しているようである。まず、上述の溶射によって形成したままの酸化アルミニウムの層では、原料の粉末に比べて結晶構造が変化している。より詳しくは、酸化アルミニウムの原子配列が、もともとの溶射前の原料である酸化アルミニウムの粉末(すなわちコランダム)の構造である六方晶系から、溶射によってアモルファス状態または立方晶またはγ−アルミナへと変化している。この状態では、熱伝導率は小さい値となる。そして、その後の『熱処理』によって、溶射された絶縁層の結晶構造が六方晶系となる。この六方晶系になっている絶縁層では、熱伝導率が本来の値に近づき、その熱伝導率が高まる。なお、ここでは、絶縁層の結晶構造がすべて六方晶系となるとは限らず、原子配列をアモルファス状態や軸長の長い立方晶といった種類ごとに分類したときに、六方晶系となっている結晶構造の割合、特に、α−アルミナの割合が『熱処理』によって増加することによって熱伝導率が上昇している可能性もあると考えている。すなわち、本発明者は、絶縁層の結晶構造を六方晶系とするもしくはその割合を高めることによって、絶縁層を用いる半導体モジュールの熱抵抗が低減されることを見出した。
【0106】
このため、本発明における絶縁層としては、導電性基材の第1面上に酸化アルミニウムの粉末を溶射して形成され、六方晶系の結晶構造を有する絶縁層であることが好ましい。
(ト)これらの態様により、酸化アルミニウムの絶縁層の熱伝導率は、溶射して形成したのみの場合(3〜4W/m・K程度)に比べて高くなり、例えば10W/m・K以上となる。このような絶縁層を放熱経路に有する半導体モジュールにヒートシンクを取付けて半導体装置を構成した場合、良好な放熱性を実現することができる。
(チ)なお、上述の『熱処理』の具体的構成としては、酸化アルミニウムの粉末を溶射して導電性基材の一方の面(第1面)上に絶縁層が形成された絶縁基板を、炉または対流式オーブンによって加熱する『熱処理工程』を設ける。この『熱処理』は、大気または窒素を雰囲気として、500℃以上1084℃(銅の融点)以下のいずれかの温度によって行なう。なお、前述の温度は、『熱処理』中に絶縁層が到達する温度である。この『熱処理』によって、絶縁層の原子配列が六方晶となり、その熱伝導率が高められた絶縁層が得られる。
【0107】
そして、上述の第1ないし第3の実施形態で説明した絶縁基板11A,11B,11Cの製造方法において、酸化アルミニウムの粉末を溶射して導電性基材の一方の面(第1面)上に絶縁層が形成された後の処理工程として上記『熱処理工程』を設けるとよい。
[変形例]
以上に説明した本発明の第1ないし第3の実施形態は、具体的な実施の態様に応じて種々の変形を行なうことができる。
(イ)本発明では、導電性基材の第1面にセラミックス粉末を溶射して形成された絶縁層を備えた絶縁基板における側面部端面の絶縁性を向上させるための絶縁構造として、「導電性基材と金属部材との絶縁沿面距離」が重要であるが、絶縁層自体(バルク)の耐電圧特性も十分なものとしておく上で「絶縁層の厚み」も重要である。
【0108】
導電性基材の第1面1aに形成される絶縁層の厚みは、半導体モジュールおよび半導体装置の用途に依存して適宜調整される。例えば、パワー半導体の半導体モジュールでは、絶縁層の厚みの下限値として好ましい値は10μmである。また、絶縁層の厚みの上限値として好ましい値は、特に高電圧にて用いる半導体モジュールでは、例えば500μmであり、それ以外の場合には、例えば200μmである。より具体的には、絶縁層が厚み200μmとなるように形成されると、5kV以上の交流破壊電圧と、1200Vの定格電圧とを共に実現するようなパワー素子の半導体モジュールを実現することができる。
【0109】
(ロ)また、絶縁層の熱伝導率は、典型的には、『熱処理』の条件を変更することによって種々変更することができる。例えば、炉において『熱処理』を行なう場合に『熱処理』の温度を高めると、一般に、絶縁層の熱伝導率が高くなる。また、仮に同じ温度であっても、『熱処理』の時間を長くすると、その熱伝導率が高くなる。
【0110】
この『熱処理』による絶縁層の到達温度は、例えば1000℃とすることができる。それ以外にも、例えば1500℃とすることができる。また、ここでの『熱処理』は、典型的には、導電性基材に絶縁層が溶射された後に行われるが、本発明の実施の形態は、そのような順序を限定するものではない。
【0111】
(ハ)導電性基材の材質、形状および製法は、半導体回路素子に流す電流量などの電気的要件、発熱量などの熱的要件、重量やサイズなどの形状的要件などに応じて変更することができる。この導電性基材の材質の決定には、上述の絶縁層の『熱処理』の温度を考慮することもできる。すなわち、上述の実施形態では銅板を用いる導電性基材を説明したが、導電性基材はこれに限定されない。典型的には、アルミニウム基板、鉄基板、モリブデン基板、銅の合金による基板、あるいは板状ではない基材が用いられ得る。これらの基材の材質は、熱伝導率や熱膨張率など作製時または動作時の熱物性観点など種々の条件を加味して選択される。
【0112】
(ニ)また、上述の各実施形態では、導電性基材は、板状で正方形または長方形の形状のものを用いて説明したが、導電性基材の形状がそれらの形状に限定されるものではない。板状でないものとしては、ブロック形状またはアングル形状の基材が用いられ得る。さらに、導電性基材の形状を板状のものに限ったとしても、その平面形状はさまざまな形状とすることができる。例示すれば、正方形の個別の領域を頂点部分で互いにつなげた形状、あるいは長方形の外形とくり貫いた開口部とを持つ形状を採用することも可能である。そして、このような基材は、上述のプレス加工を用いて形状が切り出されてもよいが、その加工方法も特に限定されない。また、導電性基材における第1面および第2面は、必ずしも板状基板の厚みを規定する二つの主面に限定されるものではない。
【0113】
(ホ)上述の各実施形態において、半導体回路素子を導電性基材に接合する態様は特段限定されない。上述のはんだペレットによる接合のほか、クリームはんだによる接合、銀ペーストなどのダイボンド樹脂材による接合、ダイボンドフィルムによる接合、導電性接着剤による接合などの任意の接合手法を用いることができる。
【0114】
(ヘ)上述の各実施形態は、半導体回路素子(チップまたはダイ)の種類を特段限定するものではない。例えば、半導体ウエハーからIGBTやMOS等のトランジスタ素子、またはダイオード素子といった回路要素を切り出すことにより、単一の回路要素を搭載する半導体モジュールを形成することができる。また、図1(a)に示す半導体モジュール21Aのように、複数の半導体回路素子が単一片の導電性基材に搭載されるときであっても、半導体回路素子の種類は任意に組み合わせることができる。例えば、同一種類の半導体を並列や直列またはそれらの組み合わせの形態によって接続して、電流容量をさまざまに設定することができる。種類の異なる半導体素子を用いる例として、IPM(インテリジェントパワーモジュール)とすることができる。すなわち、インバータ用途のIGBTと、そのIGBTとは別種の半導体回路素子である還流ダイオードまたはフリーホイーリングダイオードとを単一片の導電性基材に搭載する構成とすることができる。また、種類の異なる半導体素子を用いる別の例として、コンバータのためのダイオードとインバータのためのトランジスタとを同一の基材に搭載することにより、小型の半導体モジュールを実現することができる。
【0115】
(ト)上述の各実施形態において、成形樹脂による封止を説明したが、他の封止手法を用いるように実施することができる。具体的には、例えば、固化される樹脂のみならず、シリコーンゲルなどの流動性を有する封止剤を用いることができる。
(チ)上述の各実施形態において、セラミックス粉末として特に酸化アルミニウムの粉末を溶射して形成された絶縁層を備えた絶縁基板について説明したが、本発明は、酸化アルミニウム以外のセラミックス粉末を溶射して形成された絶縁層を備えた絶縁基板にも適用可能である。
【符号の説明】
【0116】
1,1A,1B,1C:導電性基材
1a:第1面
1b:第2面
1Ac:テーパ面
1Bc,1Cc:切り欠き部
2:半導体回路素子
4:ボンデイングワイヤー
5:封止剤(成形樹脂)
6:リードフレーム
7,7A,7Aa,7Ab,7B,7C,7Ca,7Cb:絶縁層
7C1,7C1a,7C1b:絶縁層(溶射層)
8:金属部材(ヒートシンク)
11,11A,11B,11C:絶縁基板(絶縁層付き導電性基材)
21,21A,21B,21C:半導体モジュール
31,31A,31B,31C:半導体装置
51:セラミック絶縁基板
53:セラミック基板
54:金属板
55:パワー半導体チップ
56:はんだ層
57:表回路板
58:裏回路板
71:原料粉末(酸化アルミニウムの粉末)
101C:導電性板状部材
101a:第1面
101b:第2面
101Cc:切り欠き溝
107C,107Ca,107Cb:絶縁層
107C1,107C1a,107C1b:絶縁層(溶射層)
111C:絶縁層付き導電性板状部材
201A,201B:電極(銅粘着テープ)
202A,202B:絶縁破壊試験装置の電極
M:マスク
θ:テーパ面1Acの傾斜角(テーパ角)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面および第2面を有する導電性基材の第1面上に,セラミックス粉末を溶射して形成された絶縁層を備えた絶縁基板であって、
前記導電性基材の第2面に直接的または間接的に接して少なくとも1つ以上の半導体回路素子を搭載するとともに前記絶縁層の面に金属部材を密着して取り付けることにより半導体装置を構成するのに用いられる絶縁基板において、
前記絶縁基板の側面部の構造を、前記絶縁層の面に前記金属部材を密着させて取り付けた状態における前記導電性基材と前記金属部材との絶縁沿面距離が前記絶縁層の厚さよりも大きくなるような構造とした
ことを特徴とする絶縁基板。
【請求項2】
請求項1に記載の絶縁基板において、
前記導電性基材は、第1面側の角部にテーパ面を有し、
このテーパ面上にも,セラミックス粉末を溶射して形成された絶縁層を第1面上の絶縁層と連続するようにして備えてなる
ことを特徴とする絶縁基板。
【請求項3】
請求項2に記載の絶縁基板において、
前記導電性基材の第1面に対する垂直方向と前記テーパ面とがなす角度は、30°〜80°である
ことを特徴とする絶縁基板。
【請求項4】
請求項3に記載の絶縁基板において、
前記導電性基材の第1面に対する垂直方向と前記テーパ面とがなす角度は、50°〜70°である
ことを特徴とする絶縁基板。
【請求項5】
請求項1に記載の絶縁基板において、
前記導電性基材は、第1面側の角部に切り欠き部を有し、
第1面上の絶縁層は、前記導電性基材と接する部位よりも外側に延在してなる
ことを特徴とする絶縁基板。
【請求項6】
請求項1に記載の絶縁基板において、
前記導電性基材は、第1面側の角部に切り欠き部を有し、
この切り欠き部にも,セラミックス粉末を溶射して形成された絶縁層を第1面上の絶縁層と連続するようにして備えてなる
ことを特徴とする絶縁基板。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の絶縁基板において、
前記セラミックス粉末として酸化アルミニウムの粉末を用いるものであって、
前記絶縁層は、前記酸化アルミニウムの粉末を溶射して形成され、熱処理によって熱伝導率が高められている絶縁層である
ことを特徴とする絶縁基板。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の絶縁基板において、
前記セラミックス粉末として酸化アルミニウムの粉末を用いるものであって、
前記絶縁層は、前記酸化アルミニウムの粉末を溶射して形成され、六方晶系の結晶構造を有する絶縁層である
ことを特徴とする絶縁基板。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の絶縁基板において、
前記絶縁層の厚さは、80μm〜300μmである
ことを特徴とする絶縁基板。
【請求項10】
請求項2ないし4のいずれか1項に記載の絶縁基板を製造するための製造方法であって、
導電性基材の第1面側の角部にテーパ面を形成するテーパ加工工程と、
前記テーパ加工工程の後,セラミックス粉末を溶射することにより導電性基材の前記第1面上および前記テーパ面上に絶縁層を形成する絶縁層形成工程とを備える
ことを特徴とする絶縁基板の製造方法。
【請求項11】
請求項5に記載の絶縁基板を製造するための製造方法であって、
セラミックス粉末を溶射することにより導電性基材の第1面上に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、
前記絶縁層形成工程の後,導電性基材の第1面側の角部に切り欠き部を形成する切り欠き加工工程とを備える
ことを特徴とする絶縁基板の製造方法。
【請求項12】
請求項6に記載の絶縁基板を製造するための製造方法であって、
導電性基材の第1面側の角部に切り欠き部を形成する切り欠き加工工程と、
前記切り欠き加工工程の後,セラミックス粉末を溶射することにより導電性基材の前記第1面上および前記切り欠き部に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、
前記絶縁層形成工程の後,第1面上に形成された絶縁層を研削して,第1面上の絶縁層と切り欠き部の絶縁層との面を揃える研削工程とを備える
ことを特徴とする絶縁基板の製造方法。
【請求項13】
請求項6に記載の絶縁基板を製造するための製造方法であって、
第1面および第2面を有する導電性板状部材の第1面に,前記導電性板状部材を複数の導電性基材に分離する分離線に沿って切り欠き溝を形成する切り欠き溝加工工程と、
前記切り欠き溝加工工程の後,セラミックス粉末を溶射することにより導電性板状部材の第1面上および切り欠き溝に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、
前記絶縁層形成工程の後,前記絶縁層を研削して,第1面上の絶縁層と切り欠き溝の絶縁層との面を揃えて,絶縁層付き導電性板状部材を形成する研削工程と、
前記研削工程の後,絶縁層付き導電性板状部材を前記分離線に沿って切断し,複数の前記絶縁基板に分離する分離工程とを備える
ことを特徴とする絶縁基板の製造方法。
【請求項14】
請求項10ないし13に記載の絶縁基板の製造方法において、
前記セラミックス粉末として酸化アルミニウムの粉末を用いるものであって、
前記絶縁層形成工程の後に、前記絶縁層を熱処理することによって前記絶縁層の熱伝導率を上昇させる工程を備える
ことを特徴とする絶縁基板の製造方法。
【請求項15】
請求項10ないし13に記載の絶縁基板の製造方法において、
前記セラミックス粉末として酸化アルミニウムの粉末を用いるものであって、
前記絶縁層形成工程の後に、絶縁層の結晶構造を六方晶系にする工程を備える
ことを特徴とする絶縁基板の製造方法。
【請求項16】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の絶縁基板と、
前記導電性基材の前記第2面に直接的または間接的に接して搭載された少なくとも1つ以上の半導体回路素子とを備える
ことを特徴とする半導体モジュール。
【請求項17】
請求項16に記載の半導体モジュールにおいて、
前記導電性基材の前記第1面以外の面が、前記第2面に搭載されている半導体回路素子とともに絶縁材料である封止剤によって封止されており、
前記封止剤と前記第1面上に形成した前記絶縁層とによって前記導電性基材を覆う絶縁表面を有している
ことを特徴とする半導体モジュール。
【請求項18】
請求項16または17に記載の半導体モジュールにおける前記絶縁層の面に冷却用の金属部材が密着して取り付けられてなる
ことを特徴とする半導体装置。
【請求項1】
第1面および第2面を有する導電性基材の第1面上に,セラミックス粉末を溶射して形成された絶縁層を備えた絶縁基板であって、
前記導電性基材の第2面に直接的または間接的に接して少なくとも1つ以上の半導体回路素子を搭載するとともに前記絶縁層の面に金属部材を密着して取り付けることにより半導体装置を構成するのに用いられる絶縁基板において、
前記絶縁基板の側面部の構造を、前記絶縁層の面に前記金属部材を密着させて取り付けた状態における前記導電性基材と前記金属部材との絶縁沿面距離が前記絶縁層の厚さよりも大きくなるような構造とした
ことを特徴とする絶縁基板。
【請求項2】
請求項1に記載の絶縁基板において、
前記導電性基材は、第1面側の角部にテーパ面を有し、
このテーパ面上にも,セラミックス粉末を溶射して形成された絶縁層を第1面上の絶縁層と連続するようにして備えてなる
ことを特徴とする絶縁基板。
【請求項3】
請求項2に記載の絶縁基板において、
前記導電性基材の第1面に対する垂直方向と前記テーパ面とがなす角度は、30°〜80°である
ことを特徴とする絶縁基板。
【請求項4】
請求項3に記載の絶縁基板において、
前記導電性基材の第1面に対する垂直方向と前記テーパ面とがなす角度は、50°〜70°である
ことを特徴とする絶縁基板。
【請求項5】
請求項1に記載の絶縁基板において、
前記導電性基材は、第1面側の角部に切り欠き部を有し、
第1面上の絶縁層は、前記導電性基材と接する部位よりも外側に延在してなる
ことを特徴とする絶縁基板。
【請求項6】
請求項1に記載の絶縁基板において、
前記導電性基材は、第1面側の角部に切り欠き部を有し、
この切り欠き部にも,セラミックス粉末を溶射して形成された絶縁層を第1面上の絶縁層と連続するようにして備えてなる
ことを特徴とする絶縁基板。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の絶縁基板において、
前記セラミックス粉末として酸化アルミニウムの粉末を用いるものであって、
前記絶縁層は、前記酸化アルミニウムの粉末を溶射して形成され、熱処理によって熱伝導率が高められている絶縁層である
ことを特徴とする絶縁基板。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の絶縁基板において、
前記セラミックス粉末として酸化アルミニウムの粉末を用いるものであって、
前記絶縁層は、前記酸化アルミニウムの粉末を溶射して形成され、六方晶系の結晶構造を有する絶縁層である
ことを特徴とする絶縁基板。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の絶縁基板において、
前記絶縁層の厚さは、80μm〜300μmである
ことを特徴とする絶縁基板。
【請求項10】
請求項2ないし4のいずれか1項に記載の絶縁基板を製造するための製造方法であって、
導電性基材の第1面側の角部にテーパ面を形成するテーパ加工工程と、
前記テーパ加工工程の後,セラミックス粉末を溶射することにより導電性基材の前記第1面上および前記テーパ面上に絶縁層を形成する絶縁層形成工程とを備える
ことを特徴とする絶縁基板の製造方法。
【請求項11】
請求項5に記載の絶縁基板を製造するための製造方法であって、
セラミックス粉末を溶射することにより導電性基材の第1面上に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、
前記絶縁層形成工程の後,導電性基材の第1面側の角部に切り欠き部を形成する切り欠き加工工程とを備える
ことを特徴とする絶縁基板の製造方法。
【請求項12】
請求項6に記載の絶縁基板を製造するための製造方法であって、
導電性基材の第1面側の角部に切り欠き部を形成する切り欠き加工工程と、
前記切り欠き加工工程の後,セラミックス粉末を溶射することにより導電性基材の前記第1面上および前記切り欠き部に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、
前記絶縁層形成工程の後,第1面上に形成された絶縁層を研削して,第1面上の絶縁層と切り欠き部の絶縁層との面を揃える研削工程とを備える
ことを特徴とする絶縁基板の製造方法。
【請求項13】
請求項6に記載の絶縁基板を製造するための製造方法であって、
第1面および第2面を有する導電性板状部材の第1面に,前記導電性板状部材を複数の導電性基材に分離する分離線に沿って切り欠き溝を形成する切り欠き溝加工工程と、
前記切り欠き溝加工工程の後,セラミックス粉末を溶射することにより導電性板状部材の第1面上および切り欠き溝に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、
前記絶縁層形成工程の後,前記絶縁層を研削して,第1面上の絶縁層と切り欠き溝の絶縁層との面を揃えて,絶縁層付き導電性板状部材を形成する研削工程と、
前記研削工程の後,絶縁層付き導電性板状部材を前記分離線に沿って切断し,複数の前記絶縁基板に分離する分離工程とを備える
ことを特徴とする絶縁基板の製造方法。
【請求項14】
請求項10ないし13に記載の絶縁基板の製造方法において、
前記セラミックス粉末として酸化アルミニウムの粉末を用いるものであって、
前記絶縁層形成工程の後に、前記絶縁層を熱処理することによって前記絶縁層の熱伝導率を上昇させる工程を備える
ことを特徴とする絶縁基板の製造方法。
【請求項15】
請求項10ないし13に記載の絶縁基板の製造方法において、
前記セラミックス粉末として酸化アルミニウムの粉末を用いるものであって、
前記絶縁層形成工程の後に、絶縁層の結晶構造を六方晶系にする工程を備える
ことを特徴とする絶縁基板の製造方法。
【請求項16】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の絶縁基板と、
前記導電性基材の前記第2面に直接的または間接的に接して搭載された少なくとも1つ以上の半導体回路素子とを備える
ことを特徴とする半導体モジュール。
【請求項17】
請求項16に記載の半導体モジュールにおいて、
前記導電性基材の前記第1面以外の面が、前記第2面に搭載されている半導体回路素子とともに絶縁材料である封止剤によって封止されており、
前記封止剤と前記第1面上に形成した前記絶縁層とによって前記導電性基材を覆う絶縁表面を有している
ことを特徴とする半導体モジュール。
【請求項18】
請求項16または17に記載の半導体モジュールにおける前記絶縁層の面に冷却用の金属部材が密着して取り付けられてなる
ことを特徴とする半導体装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−244026(P2012−244026A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114383(P2011−114383)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】
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