説明

絶縁基板および絶縁基板の製造方法並びにパワーモジュール用基板およびパワーモジュール

【課題】パワーモジュールの大電流、高電圧化を実現するのに好適な絶縁基板および絶縁基板の製造方法並びにパワーモジュール用基板およびパワーモジュールを提供する。
【解決手段】セラミックス基板12の表面側に導体パターン13が配設された絶縁基板であって、導体パターン13を構成する導体17の外表面のうち、セラミックス基板12の表面側から立上がる立上がり面17aは、セラミックス基板12の表面に沿った方向に対して略垂直に立上がる構成とされ、導体パターン13はセラミックス基板12の表面にろう材21により接合され、導体17の立上がり面17aは、略全面がろう材21により被覆されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、大電流、高電圧を制御する半導体装置に用いられるパワーモジュールに好適な絶縁基板および絶縁基板の製造方法並びにパワーモジュール用基板およびパワーモジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のパワーモジュールは一般に、AlN、Al、Si、SiC等により形成されたセラミックス基板の一方の表面側に、純Al若しくはAl合金により形成された導体パターンが配設された絶縁基板と、前記セラミックス基板の他方の表面側に配設された放熱体と、前記導体パターンの、前記セラミックス基板と対向する表面と反対側の表面に配設された発熱体と、前記放熱体の、前記セラミックス基板と対向する表面と反対側の表面に配設された冷却シンク部とを備え、前記発熱体からの熱を前記放熱体および冷却シンク部を介して外部へ放散させる構成となっている。
【0003】
このように構成されたパワーモジュールの前記絶縁基板は、次のようにして形成される。すなわち、セラミックス基板の表面に、純Al若しくはAl合金により形成された板状の回路層をはんだ付け若しくはろう付けにより接合した後に、この回路層にエッチング処理を施して導体パターンを形成することにより形成されている。ここで、エッチング処理によって形成された導体パターンは、この上面(発熱体側)から下面(セラミックス基板側)に向うに漸次幅が広くなっている。
【0004】
ところで近年、パワーモジュールは、さらなる大電流、高電圧化、さらにはコンパクト化、すなわち導体パターンを構成する導体の幅を狭くし、かつ該導体同士の間隔を狭くすることが要求されている。
まず、前者の要求に応えるためには、導体パターンの導通面積を大きくする必要がある。しかしながら、この導通面積の大形化を図るには、このパワーモジュールを組み込む装置自体の設計上の制約等があるため、セラミックス基板の外形寸法を大きくすることができず、したがって、導体の幅は大きくできず、この厚さを大きくせざるを得ないことになる。この場合に、前述のようにエッチング処理を施して導体パターンを形成すると、導体の下面側の幅が、厚さを大きくした分大きくなり、このため、前記後者の要求仕様としてのコンパクト化を図ることができず、前記各要求仕様を両者ともに満たすことが困難であるという問題があった。
また、導体の厚さを厚くしたことにより、エッチング処理の工数の増大を招来し、パワーモジュールの製造コストの増大を生じさせるといった問題があった。
【0005】
ここで、本願発明の属する技術分野と異なる技術分野ではあるが、前述した問題と近似する問題を解決し得る発明が下記特許文献1に開示されている。すなわち、ベース絶縁層と接着用絶縁層と導体パターンとをこの順に備えた絶縁基板の製造方法であって、Bステージ状態にある接着用絶縁層の表面に、板材にプレス打抜き等を施して得られた導体パターン部材(導体)を整列状態で載置した後に、これらを加圧することにより接着用絶縁層と導体パターン部材とを接合し、接着用絶縁層の表面に導体パターンを配設するものである。このようにして形成された絶縁基板にあっては、導体パターンを構成する導体の側面(接着用絶縁層の表面から立上がる表面)は、略全面が露出した状態となる。
【特許文献1】特開平11−186679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1記載の発明のように、導体パターン部材(導体)をプレス打抜きにより形成すると、この切断面は、切断方向後方側、つまり1次せん断面(厚さの約3分の2)は表面粗さが小さくなるが、切断方向前方側、つまり2次せん断面(厚さの約3分の1)は表面粗さが大きくなる。この場合、前記特許文献1記載の発明を適用して絶縁基板を形成し、この絶縁基板を用いてパワーモジュールを形成してこれを使用すると、前記2次せん断面の起伏が特異点となりこの部分を起点としてスパークが発生し、この導体の隣に位置する導体と通電する等、パワーモジュールの適正な使用を阻害する場合があった。
【0007】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、パワーモジュールの大電流、高電圧化を実現することができるとともに、このような構成においても、絶縁基板の大形化を抑制することができ、さらに、低コスト生産を実現することができる絶縁基板および絶縁基板の製造方法並びにパワーモジュール用基板およびパワーモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、この発明は以下の手段を提案している。
請求項1に係る発明は、セラミックス基板の表面側に導体パターンが配設された絶縁基板であって、前記導体パターンを構成する導体の外表面のうち、前記セラミックス基板の表面側から立上がる立上がり面は、前記セラミックス基板の表面に沿った方向に対して略垂直に立上がる構成とされ、前記導体パターンは、前記セラミックス基板の表面にろう材により接合され、前記導体の前記立上がり面は少なくとも、この立上がり面が前記セラミックス基板の表面側から立上がる立上がり方向の下側が前記ろう材により被覆されていることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、導体パターンを構成する導体が前記立上がり面を備えているので、この導体の厚さを厚くして、導体パターンの大電流、高電圧化を図った構成においても、導体の幅がこの厚さの増加分だけ広くなることが抑制される。したがって、導体パターンの細線化、および大電流、高電圧化の双方を実現することができる。
また、導体パターンはセラミックス基板の表面側にろう材により接合され、かつ導体パターンを構成する導体の前記立上がり面は少なくとも、前記下側がこのろう材により被覆されているので、導体パターンとセラミックス基板の表面側との接合強度の向上を図ることができる。さらに、立上がり面の前記下側の表面粗さが大きくされた場合においても、この表面がろう材により被覆されることになるので、この絶縁基板を有するパワーモジュールを使用するに際して、前記下側における表面の起伏が特異点となりこの部分を起点としてスパークが発生し、この導体の隣に位置する導体と通電する等、パワーモジュールの適正な使用を阻害する事態の発生を抑制することができる。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の絶縁基板において、請求項1記載の絶縁基板において、前記導体の前記立上がり面は、この立上がり面が前記セラミックス基板の表面側から立上がる立上がり方向の下側の表面粗さが上側の表面粗さより大きくされていることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、導体の前記立上がり面が、前記立上がり方向の下側(導体の、セラミックス基板と対向する表面、すなわち下面側)の表面粗さが上側(導体の、セラミックス基板と対向する表面の反対側の表面、すなわち上面側)の表面粗さより大きくされているので、この導体の前記下側におけるろう材の接合力が高くなり、導体パターンとセラミックス基板の表面側との接合強度がさらに向上される。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の絶縁基板において、前記立上がり面を被覆した前記ろう材の表面は、算術平均粗さRaが5μmより小さく、または最大高さRyが40μmより小さく、または十点平均粗さRzが30μmより小さくされていることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、立上がり面を被覆した前記ろう材の表面粗さが前記範囲とされているので、このろう材の表面に異物が付着することを抑制することが可能になり、この絶縁基板の外観不良の発生を低減することができるとともに、隣合う導体同士が通電することを抑制する、つまり耐圧の向上を図ることができる。
【0014】
請求項4に係る発明は、セラミックス基板の表面に導体パターンが配設された絶縁基板の製造方法であって、板材を厚さ方向にせん断加工によって切断し、切断面を有する導体パターン部材を形成する導体パターン部材形成工程と、前記導体パターン部材を、前記切断面が、切断方向前方側から後方側に向って、前記セラミックス基板の表面側から立上がるように、前記セラミックス基板の表面にろう材を介して載置し積層体とする載置工程と、前記積層体を積層方向に加熱した状態で加圧し、前記ろう材により前記セラミックス基板と前記導体パターン部材とを接合する接合工程とを有することを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、前記導体パターン部材形成工程では、形成される導体パターン部材が切断面を有し、この切断面の切断方向後方側は表面粗さが小さく、前方側は表面粗さが大きくなり、また、この次工程としての前記載置工程では、導体パターン部材を、切断面が、表面粗さの大きい切断方向前方側から表面粗さの小さい切断方向後方側に向って、セラミックス基板の表面側から立上がるように、このセラミックス基板の表面にろう材を介して載置して積層体とし、その後、次工程としての前記接合工程で、積層体を積層方向に加圧して加熱することによって、ろう材により導体パターン部材とセラミックス基板の表面側とを接合する。
【0016】
この接合工程において、導体パターン部材の切断面における切断方向前端と、ろう材とを密接させた状態で加熱し、ろう材を溶融させるので、導体パターン部材の前記前端の周辺部に位置するろう材を含めて、溶融状態にあるろう材が、表面粗さの大きい切断面の切断方向前方側において、表面張力によって凝集され、さらに、このろう材が切断面を切断方向の後方側に向って徐々に昇ることになる。したがって、この立上がり面の略全域がろう材により被覆された絶縁基板が得られる。
【0017】
また、導体パターン部材の切断面の切断方向前端部で硬化したろう材は、この切断面の略全域を被覆するろう材のうち、最も厚さが厚くなり、またこの外表面は側面視で曲面形状になる。したがって、この絶縁基板を有するパワーモジュールを温度サイクル下で使用した場合でも、応力集中が軽減され、導体パターンとセラミックス基板の表面側との接合界面に亀裂等が発生することを抑制することができ、このパワーモジュールの長寿命化を図ることができる。
【0018】
さらに、この製造方法では、エッチング処理によって導体パターンを形成しないので、パワーモジュールの大電流、高電圧化を図るために、導体パターン部材の厚さを厚くしたことによる、エッチング処理の工数の増大を招来したり、導体パターンを構成する導体の広幅化を併発するといった弊害の発生はない。したがって、大電流、高電圧化が図られたパワーモジュールをコンパクトに、かつ低コストで提供することが可能になる。
【0019】
請求項5に係る発明は、セラミックス基板の一方の表面側に導体パターンが配設された絶縁基板と、前記セラミックス基板の他方の表面側に配設された放熱体と、前記導体パターンの、前記セラミックス基板と対向する表面と反対側の表面に配設された発熱体とを備え、前記放熱体は、前記発熱体からの熱を外部へ放散させる構成とされたパワーモジュール用基板であって、前記絶縁基板は、請求項1から3のいずれかに記載の絶縁基板からなることを特徴とする。
【0020】
請求項6に係る発明は、セラミックス基板の一方の表面側に導体パターンが配設された絶縁基板と、前記セラミックス基板の他方の表面側に配設された放熱体と、前記導体パターンの、前記セラミックス基板と対向する表面と反対側の表面に配設された発熱体と、前記放熱体の、前記セラミックス基板と対向する表面と反対側の表面に配設された冷却シンク部とを備え、前記発熱体からの熱を前記放熱体および前記冷却シンク部を介して外部へ放散させる構成とされたパワーモジュールであって、前記絶縁基板は、請求項1から3のいずれかに記載の絶縁基板からなることを特徴とする。
【0021】
これらの発明によれば、導体パターンの細線化、および大電流、高電圧化の双方を実現することができるとともに、導体パターンとセラミックス基板の表面側との接合強度の向上を図ることができる。さらに、導体の前記立上がり面が略全面、ろう材により被覆されているので、この絶縁基板を有するパワーモジュールを使用するに際して、前記立上がり面の表面の起伏が特異点となりこの部分を起点としてスパークが発生し、この導体の隣に位置する導体と通電する等、パワーモジュールの適正な使用を阻害する事態の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0022】
この発明に係る絶縁基板並びにパワーモジュール用基板およびパワーモジュールによれば、導体パターンの細線化、および大電流、高電圧化の双方を実現することができるとともに、導体パターンとセラミックス基板の表面側との接合強度の向上を図ることができる。さらに、導体の前記立上がり面にバリが発生していた場合においても、パワーモジュールの適正な使用を阻害する事態の発生を抑制することができる。
【0023】
また、この発明に係る絶縁基板の製造方法によれば、導体パターンを構成する導体の立上がり面が略全域、ろう材により被覆された絶縁基板を形成することができる。さらに、この絶縁基板を有するパワーモジュールを温度サイクル下で使用した場合でも、応力集中が軽減され、導体パターンとセラミックス基板の表面側との接合界面に亀裂等が発生することを抑制できる絶縁基板を形成することができる。また、このようなパワーモジュールを低コストで提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照し、この発明の実施の形態について説明する。図1はこの発明の一実施形態に係る絶縁基板を適用したパワーモジュールを示す全体図である。
このパワーモジュール40は、大別すると図1に示すように、パワーモジュール用基板11と冷却シンク部30とを備えている。
【0025】
パワーモジュール用基板11は、例えばAlN、Al、Si、SiC等により形成されたセラミックス基板12の一方の表面(以下、単に「上面」という)側に導体パターン13が配設された絶縁基板10と、セラミックス基板12の他方の表面(以下、単に「下面」という)側に配設された放熱体14と、導体パターン13の、セラミックス基板12と対向する表面と反対側の表面(以下、単に「上面」という)に配設された半導体チップ(発熱体)15とを備えている。
そして、放熱体14の、セラミックス基板12と対向する表面(以下、単に「上面」という)と反対側の表面(以下、単に「下面」という)に、冷却シンク部30が密接した状態で配設されている。
【0026】
なお、本実施形態では、セラミックス基板12の下面側には、放熱体14との間に金属層16が配設されており、絶縁基板10は、セラミックス基板12と導体パターン13と金属層16とを備える構成となっている。
【0027】
導体パターン13および金属層16は純Al若しくはAl合金により形成されている。そして、これらの導体パターン13および金属層16は、Al−Si系若しくはAl−Ge系のろう材21によりセラミックス基板12の上下面に各別に接合されている。
また、半導体チップ15は、はんだ22により導体パターン13の上面に接合され、金属層16の下面(放熱体14と対向する表面)もはんだ22、若しくはろう付けや拡散接合により放熱体14の上面に接合されている。
【0028】
以上により、パワーモジュール40が構成され、半導体チップ15からの熱を放熱体14および冷却シンク部30を介して外部へ放散できるようになっている。
ここで、冷却シンク部30の内部には、冷却液や冷却空気などの冷媒31を供給および回収する図示しない冷媒循環手段と連結された流通孔32が形成されており、この流通孔32内に供給された冷媒31により、半導体チップ15から放熱体14に伝導された熱を回収し、この熱を回収した冷媒31を前記冷媒循環手段が回収するとともに、新たな冷媒31を供給し、以上を繰返すことにより、半導体チップ15からの熱をパワーモジュール40から放散させるようになっている。
【0029】
ここで、セラミックス基板12の厚さは0.25mm以上3.0mm以下とされ、導体パターン13の厚さは0.1mm以上2.0mm以下とされ、金属層16の厚さは0.1mm以上2.0mm以下とされ、セラミックス基板12の上下面にそれぞれ、導体パターン13および金属層16を接合するろう材21の厚さは0.005mm以上0.1mm以下とされている。
【0030】
本実施形態では、導体パターン13は板状の2つの導体17を備え、これらの導体17がセラミックス基板12の上面側に整列された状態でろう材21により接合された構成となっている。なお、導体17同士の間隔は0.1mm以上とされている。そして、図2に示すように、これらの導体17の外表面のうち、セラミックス基板12の上面側から立上がる立上がり面17aは、セラミックス基板12の上面に沿った方向に対して略垂直に立上がる構成となっており、この立上がり面17aの略全面がろう材21により被覆されている。
ここで、立上がり面17aを被覆したろう材21の表面は、図3に示すように、算術平均粗さRaが5μmより小さく、最大高さRyが40μmより小さく、十点平均粗さRzが30μmより小さくされている。この図3は、ろう材21により被覆された複数の立上がり面17aのうち、6個所で前記Ra、Ry、およびRzを測定した結果を示すものである。なお、Ra、RyおよびRzは、測定器として株式会社ミツトヨ製サーフテスト501を用いるとともに、測定子として株式会社ミツトヨ製178−382(軟物質用)を用いて測定した。このうち、Raの測定条件は、測定レンジを80μm、カットオフ値を0.8mm、区間数を5とし、JIS B0651に準拠した。また、RyおよびRzの測定条件はDIN規格に準拠した。
【0031】
また、導体17は、後述するように、純Al若しくはAl合金により形成された板材を厚さ方向に切断することにより形成され、このときに得られた切断面が立上がり面17aとなっている。そして、この立上がり面17aは、導体17を前記切断により形成する際の切断方向の前方から後方に向って、セラミックス基板12の上面側から立上がった構成となっている。
【0032】
ここで、立上がり面17aにおいては、切断加工時に、切断方向前方側17bの表面粗さが、切断方向後方側17cの表面粗さより大きくなる。この立上がり面17aにおける切断方向前方側17bとは、立上がり面17aの切断方向前方端から、後方側17cに向って、導体17の全体の厚さの約3分の1までの領域、いわゆる2次せん断面をいい、また、切断方向後方17cとは、切断方向前方17bの切断方向後端から、立上がり面17aの切断方向後端までの領域、いわゆる1次せん断面をいう。なお、切断方向前方17bの表面粗さは、Rz30μm以上とされ、切断方向後方17cの表面粗さは、Rz30μm以下となっている。
【0033】
したがって、導体17の立上がり面17aは、この立上がり面17aがセラミックス基板12の上面側から立上がる立上がり方向の下側17b(導体17の、セラミックス基板12と対向する表面側、すなわち下面側)の表面粗さが、上側17c(導体17の上面側)の表面粗さより大きくなっている。
そして、この立上がり面17aの下側17bの下端部に位置するろう材21は、この立上がり面17aの略全域を被覆するろう材21のうち、最も厚さが厚くなり、またこの外表面は、図2に示すように、凹曲面状になっている。
【0034】
次に、以上のように構成されたパワーモジュール40の絶縁基板10の製造方法について説明する。
まず、純Al若しくはAl合金からなる板材を所定の大きさとなるように、厚さ方向にせん断加工によって切断し、導体17(導体パターン部材)を形成する(導体パターン部材形成工程)。この際に得られた切断面が立上がり面17aとなる。
次に、この導体17を、立上がり面17aが切断方向前方17bから後方17cに向って、セラミックス基板12の上面側から立上がるように、セラミックス基板12の上面にろう材21を介して所望の整列状態で載置する。この一方、セラミックス基板12の下面にろう材21を介して金属層16を配置し、以上により、金属層16と、ろう材21と、セラミックス基板12と、ろう材21と、整列とされた導体17とがこの順で載置された積層体とする(載置工程)。
そして、この積層体を積層方向に加圧した状態で加熱し、導体17の立上がり面17aにおける切断方向前方17bの前端と、ろう材21とを密接させた状態で、ろう材21を溶融後硬化させることによって、セラミックス基板12の上面側と導体17とを接合するとともに、セラミックス基板12の下面側と金属層16とを接合し(接合工程)、絶縁基板12を形成する。
その後、絶縁基板10の外表面を洗浄するために必要に応じてエッチング処理を施してもよい。
【0035】
ここで、前記接合工程における具体的な実施例について説明する。
まず、材質については、金属層16を純Al、ろう材21をAl−Si系、セラミックス基板12をAlN、導体17を純Alにより形成した。次に、厚さについては、金属層16を約0.6mm、ろう材21を約0.01mm、セラミックス基板12を約0.635mm、導体17を約0.6mmとした。また、導体17同士の間隔を約1.0mmとした。
そして、前記積層体を630℃の真空中に置いた状態で、1時間、積層方向に0.3MPa加圧した。
【0036】
以上説明したように、本実施形態による絶縁基板並びにパワーモジュール用基板およびパワーモジュールによれば、導体パターン13を構成する導体17が立上がり面17aを備えているので、この導体17の厚さを厚くして、導体パターン13の大電流、高電圧化を図った構成においても、導体17の幅がこの厚さの増加分だけ広くなることが抑制される。したがって、導体パターン13の細線化、および大電流、高電圧化の双方を実現することができる。
【0037】
また、導体パターン17はセラミックス基板12の上面側にろう材21により接合され、かつ導体17の立上がり面17aは、略全面がこのろう材21により被覆されているので、導体パターン17とセラミックス基板12の上面側との接合強度の向上を図ることができる。さらに、導体17の立上がり面17aの表面粗さが大きくされた場合においても、この表面がろう材21により被覆されることになるので、この絶縁基板12を有するパワーモジュール40を使用するに際して、立上がり面17aの起伏が特異点となりこの部分を起点としてスパークが発生し、この導体17の隣に位置する導体17と通電する等、パワーモジュール40の適正な使用を阻害する事態の発生を抑制することができる。
【0038】
さらに、導体17の立上がり面17aが、立上がり方向の下側17bの表面粗さが上側17cの表面粗さより大きくなっているので、この導体17の下側17bにおけるろう材21の接合力が高くなり、導体パターン13とセラミックス基板12の上面側との接合強度をさらに向上することができる。
さらにまた、立上がり面17aを被覆したろう材21の表面粗さが前記範囲とされているので、このろう材21の表面に異物が付着することを抑制することが可能になり、この絶縁基板10の外観不良の発生を低減することができるとともに、隣合う導体17同士が通電することを抑制する、つまり耐圧の向上を図ることができる。
【0039】
また、前記接合工程において、導体17の立上がり面17aにおける切断方向前方17bの前端と、ろう材21とを密接させた状態で加熱して、ろう材を溶融させるので、導体17の前記前端の周辺部に位置するろう材21を含めて、溶融状態にあるろう材21が、表面粗さの大きい切断方向前方17bにおいて、表面張力により凝集され、さらに、このろう材21が立上がり面17aの切断方向後方17cに向って徐々に昇ることになる。したがって、この立上がり面17aの略全域がろう材21により被覆された絶縁基板10を形成することができる。
【0040】
さらに、前述のように、溶融したろう材21が導体17の立上がり面17aの略全面に至ることになるので、切断方向前方17bの前端部で硬化したろう材21は、この立上がり面17aの略全域を被覆するろう材21のうち、最も厚さが厚くなり、またこの外表面は側面視で凹曲面状になる(フィレットが形成される)。したがって、この絶縁基板10を有するパワーモジュール40を温度サイクル下で使用した場合でも、導体パターン13とセラミックス基板12の上面側との接合界面に応力集中による亀裂等が発生することを抑制することができ、このパワーモジュール40の長寿命化を図ることができる。
【0041】
さらにまた、本実施形態による絶縁基板10の製造方法では、エッチング処理によって導体パターン13を形成しないので、パワーモジュール40の大電流、高電圧化を図るために、導体17の厚さを厚くしたことによる、エッチング処理の工数の増大を招来したり、導体パターンを構成する導体の広幅化を併発するといった弊害の発生はない。したがって、大電流、高電圧化が図られたパワーモジュール40をコンパクトに、かつ低コストで提供することが可能になる。
【0042】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、前記実施形態では立上がり面17aを切断面としたが、必ずしも切断面に限られるものではない。
また、立上がり面17aを切断面とすることにより、前記実施形態の作用効果を全て有することになるが、この場合、全ての立上がり面17aを切断面とする必要はなく、少なくとも一面が切断面であれば前記実施形態と同様の作用効果を有することになる。
さらに、前記接合工程において、溶融状態にあるろう材21を導体17の下面側から上面側に向けて立上がり面17a上を昇らせたが、この際に、導体17の上面に至らせるようにしてもよい。
また、立上がり面17aの略全面がろう材21に被覆された構成を示したが、立上がり面17aのうち少なくとも切断方向前方側17bが被覆されていればよい。
さらに、前記実施形態では、算術平均粗さRaが5μmより小さく、最大高さRyが40μmより小さく、十点平均粗さRzが30μmより小さくされた構成を示したが、Ra、Ry、およびRzのうち、少なくとも一つが前記範囲とされていればよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
パワーモジュールの大電流、高電圧化を実現することができるとともに、このような構成においても、絶縁基板の大形化を抑制することができ、さらに、低コスト生産を実現することができる絶縁基板および絶縁基板の製造方法並びにパワーモジュール用基板およびパワーモジュールを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】この発明の一実施形態に係る絶縁基板を適用したパワーモジュールを示す全体図である。
【図2】図1に示すA部拡大図である。
【図3】図1に示す立上がり面を被覆するろう材のRa、Ry、およびRzを測定した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
10 絶縁基板
11 パワーモジュール用基板
12 セラミックス基板
13 導体パターン
14 放熱体
15 発熱体
17 導体(導体パターン部材)
17a 立上がり面
17b 立上がり方向の下側、切断方向前方
17c 立上がり方向の上側、切断方向後方
21 ろう材
30 冷却シンク部
40 パワーモジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板の表面側に導体パターンが配設された絶縁基板であって、
前記導体パターンを構成する導体の外表面のうち、前記セラミックス基板の表面側から立上がる立上がり面は、前記セラミックス基板の表面に沿った方向に対して略垂直に立上がる構成とされ、
前記導体パターンは、前記セラミックス基板の表面にろう材により接合され、
前記導体の前記立上がり面は少なくとも、この立上がり面が前記セラミックス基板の表面側から立上がる立上がり方向の下側が前記ろう材により被覆されていることを特徴とする絶縁基板。
【請求項2】
請求項1記載の絶縁基板において、
前記導体の前記立上がり面は、この立上がり面が前記セラミックス基板の表面側から立上がる立上がり方向の下側の表面粗さが上側の表面粗さより大きくされていることを特徴とする絶縁基板。
【請求項3】
請求項1または2に記載の絶縁基板において、
前記立上がり面を被覆した前記ろう材の表面は、算術平均粗さRaが5μmより小さく、または最大高さRyが40μmより小さく、または十点平均粗さRzが30μmより小さくされていることを特徴とする絶縁基板。
【請求項4】
セラミックス基板の表面に導体パターンが配設された絶縁基板の製造方法であって、
板材を厚さ方向にせん断加工によって切断し、切断面を有する導体パターン部材を形成する導体パターン部材形成工程と、
前記導体パターン部材を、前記切断面が、切断方向前方側から後方側に向って、前記セラミックス基板の表面側から立上がるように、前記セラミックス基板の表面にろう材を介して載置し積層体とする載置工程と、
前記積層体を積層方向に加熱した状態で加圧し、前記ろう材により前記セラミックス基板と前記導体パターン部材とを接合する接合工程とを有することを特徴とする絶縁基板の製造方法。
【請求項5】
セラミックス基板の一方の表面側に導体パターンが配設された絶縁基板と、前記セラミックス基板の他方の表面側に配設された放熱体と、前記導体パターンの、前記セラミックス基板と対向する表面と反対側の表面に配設された発熱体とを備え、前記放熱体は、前記発熱体からの熱を外部へ放散させる構成とされたパワーモジュール用基板であって、
前記絶縁基板は、請求項1から3のいずれかに記載の絶縁基板からなることを特徴とするパワーモジュール用基板。
【請求項6】
セラミックス基板の一方の表面側に導体パターンが配設された絶縁基板と、前記セラミックス基板の他方の表面側に配設された放熱体と、前記導体パターンの、前記セラミックス基板と対向する表面と反対側の表面に配設された発熱体と、前記放熱体の、前記セラミックス基板と対向する表面と反対側の表面に配設された冷却シンク部とを備え、前記発熱体からの熱を前記放熱体および前記冷却シンク部を介して外部へ放散させる構成とされたパワーモジュールであって、
前記絶縁基板は、請求項1から3のいずれかに記載の絶縁基板からなることを特徴とするパワーモジュール。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−53349(P2007−53349A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−197038(P2006−197038)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】