説明

絶縁構造と、その絶縁構造を有するデバイス及び絶縁シート

【課題】 高温下でも絶縁性に優れており、かつ、他の諸特性にも優れている絶縁シートを提供する。
【解決手段】 アルコキシド縮合脱水物からなるバインダーと、酸化チタン、アルミナ及びジルコニアの少なくとも一つを含む顔料と、溶媒とからなる塗料が、シート形状又は非シート形状の基材または発熱体の表面に設けられて膜を形成している絶縁構造体であって、アルコキシド縮合脱水物が、トリメチルメトキシシラン又はトリメチルエトキシシランと、テトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランとを5対2以下の割合で含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁構造に関し、例えば、シーズヒーターのトップに用いる絶縁シートや、真空炉又は不活性ガスの雰囲気炉において面状カーボンヒーターに用いる絶縁シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、絶縁・熱拡散シートは、サセプタ−と称される炭化珪素にボロンナイトライドを蒸着して作成されていた。
【0003】
半導体製造装置内アニ−ル処理用チャンバーにおいては、ヒーターとサセプター間の絶縁及び熱拡散を確保するために、ボロンナイトライドを蒸着していた。
【0004】
特許文献1には、高放熱塗装又は高放熱塗装金属板を接着した半導体装置が示されている。
【0005】
しかしながら、ボロンナイトライドの膜は、薄膜にせざるをえず、付着性が悪い。また、ボロンナイトライドの膜は、チャンバー内のクリーニングを繰り返すうちに容易に剥離するため、長期間の使用に耐えられず、品質管理上の問題があった。
【0006】
絶縁・熱拡散シートに好ましい要素として、高温耐熱性、絶縁性、熱拡散性、放熱性、堅牢性等が挙げられる。
【0007】
また、従来、シーズヒーターは、アイロンから始まり、乾燥、各種熱処理などを目的に、一般産業はおろか厨房機器、医療機器から家庭用品まで非常に幅広く用いられてきている。
【0008】
シーズヒーターの絶縁対策は、低温域ではゴム、ビニール等の有機化合物が主に用いられている。約200℃〜250℃ではシリコンレジンなどが主に用いられている。これ以上の温度領域ではフレキシビリティーのあるマイカシートやセラミックス類(含む溶射、蒸着)が主に用いられている。
【0009】
しかし、近年の技術革新の中で熱の均一化や放熱性など高い機能性が絶縁材にも求められるようになってきた。
【0010】
また、高温対応の面状カーボン発熱体が高生産性の観点から求められるようになりつつある。
【0011】
カーボンは、高温下で燃焼するが、真空炉や、不活性ガスを用いる雰囲気炉や、450℃以下の温度領域では、無機バインダーと併用して、高温面状カーボンヒーターの使用が可能となる。
【0012】
一方、ステンレスは、耐熱性の高い金属材料であるが、高温下での熱やけや、焼却炉内での亜硫酸ガスのアタックにより腐蝕する。そのため、腐蝕対策が求められている。
【特許文献1】特開2004−158707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述のように、従来の高温域での絶縁材としては、主としてマイカシートやセラミックス類(含む溶射、蒸着)が挙げられる。
【0014】
しかし、マイカシートは、シーズヒーターにセットしたとき、絶縁性能は優れているが、熱伝導率が低いため、マイカ面状の温度分布にバラツキが出やすい。
【0015】
また、セラミックスにおいては、絶縁性と耐熱性は良いが、加工性に問題がある。一部の業界では絶縁性が高く、比較的熱伝導率の良いボロンナイトライド等をCVDで蒸着しているケースもある。しかし、高温絶縁領域で熱の均一化や放熱性・放熱性に課題が残っている。
【0016】
面状カーボンヒーターの場合、低温域では、カーボンを繋ぐバインダーは、有機性の材料でも、周囲の温度に耐えられるので、既に汎用的に用いられている。高温域では、シーズヒーターが用いられている。カーボンは、燃えるため、使用できない。しかし、真空中や不活性ガス中では、カーボンは燃えない。それゆえ、高温耐熱性のバインダーが提供されれば、高温カーボン面状発熱体が可能となり、エネルギー効率の改善に結びつく。
【0017】
ステンレスは耐熱性、耐食性等の観点から優れた金属材料として近年急速に需要が伸びてきている。しかし、400℃を超える領域の高温下では、熱焼け、高温酸性ガス中での腐食性の課題がある。
【0018】
本発明の目的は、高温下でも絶縁性に優れており、かつ、他の諸特性にも優れている絶縁シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の解決手段を例示すると、以下の通りである。
【0020】
(1)アルコキシド化合物からなるバインダーと、酸化チタン、アルミナ及びジルコニアの少なくとも一つを含む顔料と、溶媒とからなる塗料が、シート形状又は非シート形状の基材または発熱体の表面に設けられて膜を形成している絶縁構造。
【0021】
(2)アルコキシド化合物が、アルコキシド縮合脱水物であり、トリメチルメトキシシラン又はトリメチルエトキシシランと、テトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランとを5対2以下の割合(重量)で含む、前述の絶縁構造。
【0022】
(3)耐熱無機バインダーと、酸化チタンアリミナ及びジルコニアの少なくとも一つを含む顔料と、溶媒とからなる塗料が、基材または発熱体の表面に設けられて膜を形成している絶縁構造。
【0023】
(4)アルコキシド化合物の含有比率が10〜45体積%である前述の絶縁シート。
【0024】
(5)膜中の酸化チタン、アルミナ、ジルコニアの単独またはそれらの混合物の含有量が、5〜40体積%である前述の絶縁構造。
【0025】
(6)膜中にカーボンが含有されていて、カーボンの含有量が10〜90体積%である前述の絶縁構造。
【0026】
(7)基材の又は発熱体の熱膨張率が18.0×10−6以下である前述の絶縁構造。
【0027】
(8)膜の膜厚が10μ〜200μである前述の絶縁構造。
【0028】
(9)膜の絶縁抵抗が、800℃のとき、250Vで2×10以上である前述の絶縁構造。
【0029】
(10)膜の250V時の絶縁抵抗値が0である前述の絶縁構造。
【0030】
(11)800℃に加熱後、水で急冷する10回の急加熱、急冷却テストで膜の剥離、クラックが発生しない前述の絶縁構造。
【0031】
(12)基材としてステンレス基材を用いたシート形状の絶縁構造体を900℃2時間過熱後に常温に冷却した時、変色しない前述の絶縁構造。
【0032】
(13)基材としてステンレス基材を用いたシート形状の絶縁構造体を700℃の温度下で亜硫酸ガスに200時間暴露しても膜の剥離やクラックの発生、溶融が生じずにステンレスに耐食性を付与する事の出来る前述の絶縁構造。
【0033】
(14)3次元に均一に分散され、基材又は発熱体とほぼ同等な熱膨張率を有する平均粒子径が3n〜20μまでの無機顔料が、SiOの薄い膜のネットワークで均一に包みこまれており、かつ、微細な空気層を有する前述の絶縁構造。
【0034】
(15)顔料がマイカを含む前述の絶縁構造。
【0035】
(16)前述の絶縁シートを有するデバイス。
【0036】
(17)前述の絶縁シートを有する絶縁シート。
【発明を実施する最良の形態】
【0037】
本発明の最良の実施形態を列挙すると次のとおりである。
【0038】
(1)アルコキシド化合物の縮合脱水物からなるバインダーと、酸化チタン、アルミナ及びジルコ二アの少なくとも一つを含む顔料と、溶媒からなる塗料が、シート状の基材又は発熱体(カーボン面状発熱体やシーズヒーターなど)に塗布又は含浸されて、その表面に膜が形成されている絶縁・熱拡散・放熱性シート。
【0039】
(2)アルコキシド縮合脱水物からなるバインダーと、カーボンと、酸化チタン、アルミナ及びジルコ二アの少なくとも一つを含む顔料と、溶媒からなる塗料が、シート形状の絶縁性基材、又は前述の絶縁・熱拡散・放熱性シートに塗布又は含浸されて、表面に膜が形成されている導電・熱拡散シート。
【0040】
(3)アルコキシド縮合脱水物が、トリメチルメトキシシラン又はトリメチルエトキシシランとテトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランとを5対2以下の重量割合で含むか、あるいは、トリメチルメトキシシラン又はメチルトリエトキシシランと、テトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランとを5対2以下の重量割合で配合した材料にジメチルメトキシシラン又はジメチルエトキシシランを12重量%以下の割合で含む事を特徴とする前述の絶縁・熱拡散・放熱性シートまたは導電・熱拡散シート。
【0041】
(4)耐熱無機バインダーと、酸化チタン、アルミナ及ジルコ二アの少なくとも一つを含む顔料(マイカを含むと更に良い)溶媒からなる塗料が、基材その他に塗布ないしは含浸されて、表面に膜が形成されている絶縁・熱拡散・放熱性シート。
【0042】
(5)アルコキシド縮合脱水物からなるバインダーと、カーボンと、酸化チタン、アルミナ及びジルコ二アの少なくとも一つを含む顔料と、溶媒から成る塗料が、シート形状の絶縁性基材の表面、又は前述の絶縁・熱拡散・放熱性シートの表面に設けられて、膜が形成されている導電・熱拡散シート。
【0043】
(6)膜中のアルコキシド化合物の脱水縮合物の含有比率が10〜45体積%である前述の絶縁・熱拡散・放熱性シート又は導電・熱拡散シート。
【0044】
(7)膜中の酸化チタン、アルミナ及びジルコ二アの単独またはそれらの混合物の含有量が5〜40体積%、顔料の含有量が50体積%である前述の絶縁・熱拡散・放熱性シート。
【0045】
(8)膜中のカーボンの含有量が10〜85体積%である前述の導電・熱拡散シート。
【0046】
(9)基材の熱膨張率が0〜18.0×10−6乗である前述の絶縁・熱拡散・放熱性シート又は導電・放熱シート。
【0047】
(10)膜の厚さが10μ〜200μである前述の絶縁・熱拡散・放熱性シート又は導電放熱性シート。
【0048】
(11)絶縁抵抗が800℃時に250Vで2×10の9乗Ω以上である前述の絶縁・熱拡散・放熱性シート。
【0049】
(12)250V時の絶縁抵抗値が0である前述の導電性・放熱性・シート。
【0050】
(13)800℃に加熱後に水で急冷する10回の急加熱、急冷却テストで膜の剥離、クラックが発生しない前述の絶縁・熱拡散・放熱性シート、又は導電・放熱性シート。
【0051】
(14)熱膨張率が18.0×10の−6乗以下の基材を用いた絶縁・熱拡散・放熱性シートを900℃2時間加熱後常温冷却時に変色しない前述の絶縁・熱拡散・放熱性シート。
【0052】
(15)熱膨張率が18.0×10の−6乗以下の金属基材を用いた絶縁・熱拡散・放熱性シートを700℃の環境下で亜硫酸ガスに200時間暴露しても膜の剥離やクラックの発生、溶融が生じずにステンレスが耐食しにくい前述の絶縁・熱拡散・放熱性シート。
【0053】
(16)3次元に均一に分散され、基材とほぼ同等な熱膨張率を有する平均粒子径が3n〜20μまでの無機顔料をSiOの薄い膜のネットワークで均一に包み立つ且つ微細な空隙を持つ前述の絶縁・熱拡散・放熱性シート、又は導電・放熱性シート。
【0054】
(17)熱放射率が85%以上である前述の絶縁・熱拡散・放熱性シート、又は導電・放熱性シート。
【0055】
次は、前述の最良の実施形態を詳細に説明する。
【0056】
絶縁・熱拡散放熱性シート又は導電・放熱性シートは、特別な塗料を使用する。この塗料は、アルコキシド化合物、とくにその縮合脱水物からなるバインダーと、酸化チタン、アルミナ、及びジルコ二アの少なくとも1つを含む顔料と、溶媒からなる。このような塗料が、シート形状の基材その他に塗布又は含浸されている。この場合、本発明は、基材その他を塗料の中に部分的又は全体的に入れて塗布又は含浸させる態様を含んでいる。(以下の実施例でも同じ)。
【0057】
本発明のもう一つの最良の実施形態においては、絶縁・熱拡散・放熱性シート、又は導電性放熱性シートは、無機バインダーと、酸化チタン、アルミナ、及びジルコ二アの少なくとも1つを含む顔料と、溶媒からなる塗料を、シート形状の基材その他(発熱体など)に塗布ないしは含浸させたものである。無機バインダーは、例えば水ガラス系や水和反応を用いた水硬性バインダーである。
【0058】
好ましくは、アルコキシド化合物が、トリメチルメトキシシラン又はトリメチルエトキシシランとテトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランとを5対2以下の割合で含む。または、トリメチルメトキシシラン又はトリメチルエトキシシランとテトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランを5対2以下とした材料に、ジメチルメトキシシランまたはジメチルエトキシシランを0〜12%の割合(重量)で含む。
【0059】
テトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランが40%を超えると、膜の硬度は向上するが、膜自体が脆くなる。テトラメトキシシランまたはテトラエトキシシランが含まれないと、膜の堅牢性が低下する。
【0060】
ジメチルメトキシシランまたはジメチルエトキシシランを少量入れることにより膜の靭性が向上する。
【0061】
好ましくは、塗布又は含浸により形成された膜中のアルコキシド化合物の縮合脱水物含有比率が、5〜45体積%である。10%体積未満では、膜が高温下で脆くなり剥離の原因となる。45%を超えると、脱水縮合による乾燥収縮量が多くなり、シートのたわみが多くなる。
【0062】
好ましくは、塗布又は含浸により形成された膜中の酸化チタン、アルミナ、及びジルコニアの含有量は、5〜40体積%である。これらは基材の熱膨張に追随して膨張し、膜のクラック発生を防ぐ。5%未満では膜が基材の熱膨張に十分追随出来ずマイクロクラックが生じ絶縁抵抗が低下する。マイカは絶縁抵抗値を確保する為の材料であり、好ましくは10〜30体積%とする。その他の無機顔料は放熱性を向上させる為に入れる。そのため熱放射率の高い材料、例えばコ−ジライト等を、好ましくは10〜50体積%入れる。
【0063】
好ましくは、基材の熱膨張率は、18×10−6以下である。基材の熱膨張率が18.0×10−6を超えると、膜との熱膨張差が大きくなり、マイクロクラックが生じ、絶縁抵抗が低下する。
【0064】
好ましくは、塗布又は含浸された膜の厚さが10μ〜200μ以下である。10μ未満では十分な絶縁抵抗を確保出来にくく、200μを越えると高温時の熱膨張による応力に耐えられずクラックが生じる。
【0065】
本発明による絶縁・熱拡散・放熱性・高温耐食シート又は導電・放熱性シートは、高温耐熱性、絶縁性、熱拡散性、放熱性、高温耐食性、高温堅牢性又は導電性が何れも優れている。
【0066】
好ましくは、膜が高温付着力を維持し、膜自体も基材と同程度に熱膨張するように材料の諸特性を設計する。そして、高温域で繰り返し使用しても、クラックを発生させずに絶縁抵抗を維持できるようにする。
【0067】
所望の絶縁抵抗値を確保するために、所定の膜厚を確保すること、高温域でも剥離しない強固な付着性を持って基材と一体化させることの出来るバインダーを使用すること、付着した膜と基材との熱膨張差からクラックが発生しないことが望ましい。
【0068】
基材への塗布又は含浸(ハイブリッド化を含む)について述べると、基材が金属材料のように平滑性を有する場合は、バインダー、顔料、及び溶媒を混合して塗料化して塗布する。カーボン系等のポーラスな材料にあっては含浸させることにより行うことが好ましい。
【0069】
本発明による好ましい絶縁・熱拡散・放熱性シートまたは導電・放熱性シートは以下の通りである。
【0070】
(1)アルコキシド化合物の脱水縮合物からなるバインダー部と、酸化チタン、アルミナ、又はジルコ二ア(その他の無機顔料を含めてもよい)からなる顔料部と、溶媒とから成る塗料が、基材その他に塗布又は含浸されているシートである。ここで「塗料」は、インクを含み得る広い意味を有する物である。狭義の「塗料」が好ましいが、本発明はそれに限定されない。
【0071】
(2)アルコキシド化合物の脱水縮合物からなるバインダー部と、カーボンと、酸化チタン、アルミナ、ジルコ二アのいずれか一つを含む顔料部と、溶媒からなる塗料が、基材その他に塗布又は含浸されているシートである。
【0072】
(3)無機バインダーと、酸化チタン、アルミナ、ジルコ二ア、またはそれらの混合物と、無機顔料と、溶剤からなる塗料が、基材その他に塗布または含浸されているシートである。
【0073】
(4)基材は、チタン、チタン合金、モリブデン、モリブデン合金、ステンレスや、熱膨張率が18.0×10の−6乗以下のその他の金属や、炭化珪素、カーボン、アルミナ、ジルコ二ア、石英、各種窒化物からなる。基材の厚さは5mm以下である。
【0074】
(5)塗布された無機膜が1,000℃の熱に耐えられる絶縁・熱拡散・放熱性シートまたは導電・放熱性シートである。
【0075】
(6)塗布された無機膜が大気中450℃の熱に耐えられる導電・放熱性シートである。
【0076】
(7)800℃時で絶縁抵抗が250V電圧に対して2×10の9乗Ω以上維持できるシート。
【0077】
(8)塗布された膜厚は10μ〜200μである。
【0078】
(9)塗布又は含浸された無機膜中のアルコキシド化合物の縮合脱水物含有比率は10〜45体積%である。
【0079】
(10)塗布された無機膜中の酸化チタン、アルミナ、ジルコ二アの含有量は単独またはこれらの混合物において5%(体積)以上である。
【0080】
(11)塗布された無機膜中、カーボンを10体積%以上含み、かつ酸化チタン、アルミナ、ジルコ二アの含有量は単独、またはこれらの混合物において10体積%を含む。
【0081】
(12)基板に塗布された膜の付着強度は碁盤目テストで100/100である。
【0082】
(13)絶縁・熱拡散・放熱性シートにおいて基板に塗布された膜の硬度は鉛筆硬度で7H以上である。
【0083】
(14)熱放射率は85%以上である。(波長は4〜24μである)
強固な付着性を有するバインダー
本発明の絶縁・熱拡散・放熱性シートまたは導電・放熱性シートにおけるバインダーは、Si−Oの結合力を利用している。Si−Oは、接着剤に代表される有機系のC−Oよりも強固な結合エネルギーを有し、且つ熱にも強い。このような結合力を有するバインダーは、シリコンレジン、中でもアルコキシド化合物を加水分解して得られるSi−OHを、一定の分子量まで成長して得ることが出来る。このようにして出来たシラノール基を脱水縮合させることにより、分子レベルまで微細で強固なSi−Oのネットワークが得られる。しかも、基材上のOH基とも反応して強固な付着力が得られる。
【0084】
このようにして得られたバインダーは、塗布後または含浸後に焼き付けをすることにより脱水縮合を促がすことが出来る。この場合溶媒が揮発した後に、微細な気孔が残留するため、膜自体に靭性が付与される。
【0085】
また、十分な脱水縮合を行うことにより、膨大なSi−Oのネットワークが出来、また、一定サイズの顔料を所定割合で配合することで十分な膜厚が確保される。こうして、例えば1,000℃で焼成しても十分なフレキシビリティーを持ち、かつ、硬度の高い堅牢な膜を得ることが出来る。
【0086】
基材に併せた熱膨張率を有する膜
シート形状の基材や発熱体と、そこに付着した膜との間に大きな熱膨張差があると、膜にクラックが生じて、絶縁抵抗や導電性が失われやすい。所定の熱膨張率を有する顔料を入れることにより、ある程度、熱膨張率の差があっても、それによって生じる膜のクラックを高温域においても防ぐことが出来る。
【0087】
アルコキシドと反応条件
アルコキシド化合物としては、ジメチルメトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等が望ましい。これらを単独または複数組み合わせて用いる。単独の物で好ましいのはトリメチルメトキシシランまたはトリメチルエトキシシランである。組み合わせで好ましいのはジメチルメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン及びテトラメトキシシランの組合せ、またはジメチルエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン及びテトラエトキシシランの組合せである。
【0088】
テトラメトキシシランまたはテトラエトキシシランを配合することにより、Si−Oのネットワークが緻密になり、膜自体の堅牢さがます。これらを40重量%を超えて入れると、膜自体が脆くなりやすい。ジメチルメトキシシラン、またはジメチルエトキシシランを数%いれると、膜にクラックが入りにくくなるが、アルコキシド化合物中のこれらの含有量が15重量%を超えると膜の堅牢さが失われる。
【0089】
反応条件について言えば、加水分解に必要とする水の量は、使用するアルコキシド化合物1モルに対して水0.8〜1.4モルを使用するのが好ましい。また触媒としての酸の量は有機酸、無機酸何れの場合も、加水分解を起こすのに十分な量を用いる。水が0.8モル以下ではSi−OH基の発生が十分でなく膜の硬度が上がらない。1.4モル以上ではSi−OH基が多くなり、シラノールの分子結合が大きくなり、ゲル化が進展し、クラックが生じやすくなる。
【0090】
顔料の種類
酸化チタン、アルミナ、ジルコ二アは、絶縁性を有する上、熱膨張率が5×10−6〜10.5×10−6であり、比較的大きいので、一定量の顔料を配合すると、熱拡散性の高い金属類と一体化したシートにしても、金属の挙動と同様な挙動を膜もする。それゆえ、膜中に引っ張り応力が発生せず、高温域でも安定した絶縁性が得られる。しかも、放熱性及び金属による高い熱拡散性が得られる。またカーボンを一定量以上入れることにより容易に導電性が得られる。特に450℃までの大気中、または高温真空炉、或いは不活性ガス等の雰囲気炉中で従来不可能とされていたカーボンの面状発熱体が使用可能となる。
【0091】
顔料の粒度
膜の平滑性や緻密性、強度を考慮して、顔料の粒度は溶媒分散後で平均粒度で0.3μ以下が望ましい。
【0092】
アルコキシドと顔料の割合
膜中のアルコキシド化合物の脱水縮合物の含有割合は、10〜45体積%が妥当である。10%以下では膜の靭性が低下し堅牢さが失われる。45%を超えると、脱水縮合による乾燥収縮量が多く、高温下でクラックが発生しやすく、所望の絶縁性が得がたい。
【0093】
膜の厚み
基材や発熱体と膜が強固に付着し、且つ、両者の熱膨張差が非常に近い場合でも、膜が厚くなりすぎると、クラックが発生する。それは、Si−OHが脱水縮合するときに起こる収縮現象が原因である。
【0094】
膜厚は、バインダーの含有量にもよるが、200μ以下が望ましい。特にアルコキシド化合物の脱水縮合物の全固形物(即ちSi−OHから生じるSiOと混合したときの無機顔料成分の合計)にしめる割合が45体積%の場合、800℃でクラックの発生を防ぐ為には10μ前後が好ましい。膜厚が30μを超えると、膜が脆くなり、粉落ちして、長時間の使用に耐えられなくなる。そのため、アルコキシド化合物の脱水縮合物の割合は30体積%以下が望ましい。
【0095】
高温下(とくに500℃以上)での250V以上での加圧時の絶縁抵抗を確保するためには50μ以上の膜厚が好ましい。
【0096】
絶縁抵抗値
モリブデン、チタン、SUS430は、熱膨張係数が、それぞれ5.1×10の−6と8.9×10−6、10.5×10−6であるため、ジルコ二アを全固形物の10体積%を入れると、一番熱膨張の大きいSUS304で、800℃時250V加圧時2×10Ω以上の絶縁が確保される。但し、この場合、膜厚はおよそ50μ以上であった。
【0097】
放熱性
基本的にバインダーがシリカであり、且つ顔料としてカオリン等の粘土鉱物、コージライト系の鉱物等を入れることにより4μ〜24μの波長域での放射率は85%以上の放射率を有する。
【実施例1】
【0098】
アルコキシド化合物配合テスト
【表1】

【0099】
注1:その他のアルコキシドとしてエトキシ基、フェ二ル基もあるが、エトキシ基はメトキシ基と反応スピードの違いなので省略し、フェニルは硬度が劣るので省略し、メチル基のみでテストを実施した。
【0100】
注2:反応はアルコキシド総量に対して1.3モル、酸の量を十分入れ、顔料比率70%とし、膜厚を25μ±3μにして実施(水の量は既に0.5〜1.7モルまでテストを実施して代表的な量として1.3モルを用いた)。
【0101】
注3:分散溶媒はエタノール、イソプロピルアルコールを配合した物を使用した。
【0102】
注4:分散は0.7mmのガラスビーズを使用した。分散後粒度はD50で0.35ミクロン。
【0103】
注5:脱水縮合条件は180℃で30分。基板はサンドペーパー処理したアルミ板を使用した。試験片はアルミ性サンドペパー処理済の7.5mmw×15.0mml×1.0mmtを各3枚。(評価は全数クリアー)
注6:塗布方法はスプレーコート。
【0104】
注7:膜厚は15μ〜20μ、測定方法はマイクロメーター。
【0105】
注8:○は7H以上の硬度が出て、20Rの曲げ可能、碁盤目テスト問題なし、△は硬度7H、20曲げ可、×はクラック発生。
【0106】
ジメチルメトキシシランの配合
【表2】

【0107】
注1:トリメチルメトキシシランとテトラメトキシシランの割合は代表例として70対30とした。
【0108】
注2:各反応条件、及び分散条件は前記テストに準じる。基材は前記テストに準じる。注3:塗布条件は前記テストに準じる。
【0109】
注4:膜厚は前記テストに準じる。
【0110】
注5:○は硬度8H以上、20R以上の曲げ可、碁盤目テスト問題なし、△は硬度8H、20Rまでの曲げ可、碁盤目テスト問題なし、×は7Hの硬度以上の確保が困難。
【実施例2】
【0111】
顔料とバインダーの割合
【表3】

【0112】
注1:アルコキシド化合物は代表例としてトリメチルメトキシシラン66.7重量%、テトラメトキシシラン33.5重量%、ジメチルメトキシシラン4、8重量%でテスト。
【0113】
注2:各反応条件、分散条件、縮合脱水条件、膜厚、基材は前記テストに準じる。
【0114】
注3:使用顔料は平均1次粒子径0.15μの酸化チタン、平均1次粒子径0.45μのカオリン、10〜20nのシリカをそれぞれ30体積%、65体積%、5体積%配合したものを使用した。
【0115】
注4:分散溶媒はエタノール、イソプロピルアルコールを配合した物を使用した。
【0116】
注5:分散は0.7ミリ径のガラスビーズを用いたビーズミルで1時間実施した。その時の平均粒度は0.35μであった。
【0117】
注6:○は硬度7H以上、曲げ20R可、碁盤目テスト問題なし、△は硬度7Hまで、碁盤目テスト問題なし、×は、膜が脆くクラック発生。
【実施例3】
【0118】
耐熱テスト
【表4】

【0119】
注1:使用酸化チタンの熱膨脹率8×10−6
注2:使用ジルコ二アの熱膨脹率10.0×10−6
注3:使用基材はSUS304で、熱膨脹率は17.3×10−6
7.5mmw×15.0mml×0.6mmtを各3枚
注4:反応条件は前記テストに準じる。
【0120】
注5:塗布方法は前記テストに準じる。
【0121】
注6:膜厚は前記テストに準じる。
【0122】
注7:○クラックの発生なし、△100n以下のマイクロクラックあり、×剥離発生。−測定せず。
【0123】
注8:膜厚はaV21μ±3μ(測定はマイクロメーターでの6点測定値)
【実施例4】
【0124】
高温絶縁テスト
【表5】

【0125】
注1:使用した基材はSUS304(1/2H)で、熱膨張係数は17.3×10−6であった。
【0126】
注2:∞印は2,000MΩ以上を表す。
【0127】
注3:×印は導通して絶縁抵抗0を表す。
【0128】
注4:膜厚測定はマイクロメーターによる6点測定の平均値。
【0129】
注5:絶縁抵抗測定器としてYOKOGAWA(株)製2406E型を使用して、ACカレントで測定した。
【0130】
注6:ジルコニア20%(体積%)を含む塗料を使用した。
【実施例5】
【0131】
急冷急加熱繰り返しテスト
【表6】

【0132】
注1:急加熱、急冷による膜の材料疲労の判断基準として絶縁抵抗値で表した。
【0133】
注2:膜厚はマイクロメーターにより6点測定の平均値。
【0134】
注3:絶縁抵抗測定器としてYOKOGAWA(株)製2406Eを使用し、ACカレントで測定した。
【0135】
注4:加熱温度は800℃であった
注5:急加熱は800℃に設定の電気炉に常温状態の試験片をそのまま入れ、10分間放置の後に絶縁抵抗を測定し、その後、電気炉より直ぐ取り出す。この操作を10回繰り返した。
【0136】
注6:ジルコ二ア20%(体積%)を含む塗料を使用した。
【0137】
実験考察
1.アルコキシド化合物の組み合わせ及び反応条件により従来不可能とされていた50μ以上の厚膜で、且つ高温下でも、容易に剥離しないバインダーの実現が本テストで確認できた。
【0138】
2.従来厚膜は体積収縮により残留応力が働き、急加熱、急冷により容易にクラックが発生するか剥離が生じたが、顔料部にジルコ二アを用いることにより強力なバインダーとあいまって高温絶縁性が確保出来るようになった。
【0139】
3.従来高温絶縁膜としてはマイカシート、セラミック焼結体、セラミック溶射、各種無機材料の蒸着、ガラスホーローなどが挙げられるが、マイカシートは接着性がなく、ガラスホーローは耐熱性が低く、その他の物は付着性はあるが生産性に劣るなどの欠点があった。しかし、本発明の膜はあらゆる無機系基板にスプレー塗布、ロールコート、ディッピング、スクリーン印刷などで容易に出来る。しかも、膜そのものが高い絶縁性、高放熱性、優れた靭性(40μ以下)を有する。
【0140】
以下、本発明の図示例6〜7を説明する。
【実施例6】
【0141】
図1は、本発明の実施例6による絶縁シートを示す。
【0142】
シート状の基材1の両面に膜2、3が形成されている。
【0143】
一方の膜3にシーズヒーター4が接触して設けられている。
【実施例7】
【0144】
図2は、本発明の実施例7による絶縁シートを示している。
【0145】
カーボン面状発熱体5の両面に膜6、7が形成されている。
【0146】
一方の膜7は金属系基材8に形成されている。
【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】本発明の1つの実施例による絶縁シートを示す概略断面図。
【図2】本発明の他の実施例による絶縁シートを示す概略断面図。
【符号の説明】
【0148】
1、8 基材
2、3、6、7 膜
4 シーズヒーター
5 カーボン面状発熱体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシド化合物からなるバインダーと、酸化チタン、アルミナ及びジルコニアの少なくとも一つを含む顔料と、溶媒とからなる塗料が、基材または発熱体の表面に設けられて膜を形成している絶縁構造。
【請求項2】
アルコキシド化合物が、アルコキシド縮合脱水物であり、トリメチルメトキシシラン又はトリメチルエトキシシランと、テトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランとを5対2以下の割合(重量)で含む、請求項1に記載の絶縁構造。
【請求項3】
耐熱無機バインダーと、酸化チタン、アルミナ及びジルコニアの少なくとも一つを含む顔料と、溶媒とからなる塗料が、基材または発熱体の表面に設けられて膜を形成している絶縁構造。
【請求項4】
アルコキシド化合物の含有比率が5〜45体積%である請求項1〜3の何れか1項に記載の絶縁構造。
【請求項5】
膜中の酸化チタン、アルミナ、ジルコ二アの単独またはそれらの混合物の含有量が、5〜40体積%である請求項1〜4のいずれか1項に記載の絶縁構造。
【請求項6】
膜中にカーボンが含有されていて、カーボンの含有量が10〜90体積%である請求項1〜5のいずれか1項に記載の絶縁構造。
【請求項7】
基材又は発熱体の熱膨張率が18.0×10―6以下である請求項1〜6の何れか1項に記載の絶縁構造。
【請求項8】
膜の膜厚が10μ〜200μである請求項1〜7のいずれか1項に記載の絶縁構造。
【請求項9】
膜の絶縁抵抗が、800℃のとき、250Vで2×10以上である請求項1〜8の何れか1項に記載の絶縁構造。
【請求項10】
膜の250V時の絶縁抵抗値が0である請求項6に記載の絶縁構造。
【請求項11】
800℃に加熱後、水で急冷する10回の急加熱、急冷却テストで膜の剥離、クラックが発生しない請求項1〜10の何れか1項に記載の絶縁構造。
【請求項12】
基材としてステンレス基材を用いたシート状の絶縁構造体を900℃2時間過熱後に常温に冷却した時、変色しない請求項1〜11の何れか1項に記載の絶縁構造。
【請求項13】
基材としてステンレス基材を用いたシート形状の絶縁構造体を700℃の温度下で亜硫酸ガスに200時間暴露しても膜の剥離やクラックの発生、溶融が生じずにステンレスに耐食性を付与する事の出来る請求項1〜12の何れか1項に記載の絶縁構造。
【請求項14】
3次元に均一に分散され、基材又は発熱体とほぼ同等な熱膨張率を有する平均粒子径が3n〜20μまでの無機顔料が、SiOの薄い膜のネットワークで均一に包みこまれており、かつ、微細な空気層を有する請求項1〜13項のいずれか1項に記載の絶縁構造。
【請求項15】
顔料がマイカを含む請求項1〜14項のいずれか1項に記載の絶縁構造。
【請求項16】
請求項1〜15項のいずれか1項に記載の絶縁構造を有するデバイス。
【請求項17】
請求項1〜15項のいずれか1項に記載の絶縁構造を有する絶縁シート。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−305406(P2007−305406A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−132468(P2006−132468)
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 平成17年11月15日〜18日 社団法人日本能率協会主催の「先端材料展(ADMAT)」に出品
【出願人】(506160215)マイクロコーテック株式会社 (11)
【Fターム(参考)】