説明

絶縁被膜を有する電磁鋼板

【課題】Crを含有しない無機物を主成分とする絶縁被膜であってもCr含有絶縁被膜と同等以上の性能を有し、耐食性、打抜性、および耐粉吹き性に優れた絶縁被膜を有する電磁鋼板を提供する。
【解決手段】前記絶縁被膜中には、ポリシロキサン重合体と有機チタン化合物を含む。前記ポリシロキサン重合体は、ポリシロキサンと、有機樹脂として、アクリル樹脂、スチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネイト樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂およびエポキシ樹脂から選ばれる1種又は2種以上とを共重合したものである。また、有機チタン化合物は、TiO2換算でTiO2/SiO2=0.010〜0.50である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁被膜を有する電磁鋼板に関するものであり、特にCrを含有しない絶縁被膜を有する電磁鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータや変圧器等に使用される電磁鋼板の絶縁被膜は、層間抵抗だけでなく種々の特性が要求される。例えば、加工成形時の利便性、保管、使用時の安定性などである。さらに、電磁鋼板は多様な用途に使用されるため、その用途に応じて種々の絶縁被膜の開発が行われている。
例えば、電磁鋼板に打抜加工、せん断加工、曲げ加工などを施すと残留歪みにより磁気特性が劣化する。そこで、劣化した磁気特性を回復させるため750〜850℃程度で歪取り焼鈍を行う場合が多い。この場合には絶縁被膜が歪取り焼鈍に耐えるものでなければならない。
【0003】
絶縁被膜は、(1)溶接性、耐熱性を重視し、歪取り焼鈍に耐える無機質被膜(原則として有機樹脂を含まない)、(2)打抜性、溶接性の両立を目指し、歪取り焼鈍に耐える、無機質をベースとして有機樹脂を含有する半有機質被膜、(3)特殊用途で歪取り焼鈍を施すことができない有機被膜、の3種に大別される。この中で、汎用品として歪取り焼鈍に耐えるのは(1)、(2)の無機質を含む被膜であり、両者とも被膜中にクロム化合物を含む。特に、(2)のタイプで有機樹脂を含有したクロム酸塩系絶縁被膜は、無機系絶縁被膜に比べて打抜性を格段に向上させることができるので広く利用されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、少なくとも1種の2価金属を含む重クロム酸塩系水溶液に、水溶液中のCrO:100重量部に対し、酢酸ビニル/ベオバ(TM)比が90/10〜40/60の比率である樹脂エマルジョンを樹脂固形分で5〜120重量部、および有機還元剤を10〜60重量部の割合で配合して処理液(coating liquid)とし、その処理液を基地鉄板(steel sheet)の表面に塗布し、常法による焼付け工程を経て形成した、電気絶縁被膜を有する電磁鋼板が記載されている。
このような電磁鋼板用のクロム酸塩系被膜は、鋼板製品としては三価クロムとなっていることがほとんどのため、有害性の問題はない。しかし、塗布液の段階では有害な六価クロムを使用しなければならないため、良好な作業環境の確保のためには、設備の充実はもちろんのこと、厳しい取り扱い基準の遵守が要求される。
このような現状を受けて、さらには昨今の環境意識の高まりを受けて、電磁鋼板の分野においてもCrを含有しない絶縁被膜を有する製品が需要家等から望まれてきている。
【0005】
クロム酸以外を主剤とする技術として、シリカ等の無機コロイドを主剤とする半有機質絶縁被膜が、数多く開示されている。これらによると、有害な六価クロム液の取り扱いを行う必要がないため、環境上非常に有利に適用が可能である。例えば、特許文献2には、無機コロイド系の耐食性を向上させる方法として、樹脂/シリカ被膜中のCl、S量を規定量以下にする方法が開示されている。この方法によると、製品板の耐食性は湿潤試験環境では向上する。しかしながら、塩水噴霧等のような過酷な条件下での耐食性は、Cr含有絶縁被膜を用いた場合の耐食性には及ばない。また、シリカを配合した場合、打抜性に関しても、耐食性と同様に、Cr含有絶縁被膜を用いた場合の良好な打抜性には及ばない。
【特許文献1】特公昭60−36476号公報
【特許文献2】特開平10−34812公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑み、Crを含有しない無機物を主成分とする絶縁被膜であってもCr含有絶縁被膜と同等以上の性能を有し、耐食性、密着性、および耐粉吹き性に優れた絶縁被膜を有する電磁鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、以下の知見を得た。
発明者らは、シリカ系クロメートフリーコートの製品板耐食性が、従来から言われているCl、SO2−等の不純物量を低減しても十分に改善されず製造条件によってばらつく原因を種々調査した。
また、製品板の粉吹き性についても劣る原因について調査した。
その結果、上記耐食性のばらつきや製品板の粉吹き性の劣化は、樹脂マトリックス中にシリカが分散している構造であるがゆえ、シリカが脱落してしまうことによるものとつきとめた。すなわち、コロイド状のシリカは、200〜300℃程度の焼き付け温度ではシリカが三次元ネットワーク(網目構造)を形成しないため、シリカ自体では造膜性がない。これが、被膜にクラックが入り耐食性が製造条件によってばらつき、粉吹き性が劣る原因であると推定した。
以上より、良好な耐食性の被膜を形成するためには、−Si−O−の三次元ネットワークを形成することが重要であり、樹脂中にポリシロキサン重合体と有機チタン化合物とを架橋させることで、課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、以上の知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
[1]絶縁被膜を有する電磁鋼板であって、該絶縁被膜中には、ポリシロキサンと、有機樹脂として、アクリル樹脂、スチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネイト樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂およびエポキシ樹脂から選ばれる1種又は2種以上とを共重合したポリシロキサン重合体と、TiO2換算でTiO2/SiO2=0.010〜0.50である有機チタン化合物とを含むことを特徴とする絶縁被膜を有する電磁鋼板。
[2]前記[1]において、前記絶縁被膜は、前記ポリシロキサン重合体と前記有機チタン化合物を含む塗液を電磁鋼板に塗布、乾燥してなる被膜であることを特徴とする絶縁被膜を有する電磁鋼板。
[3]前記[1]または[2]において、前記有機チタン化合物が有機チタンアルコキシド、有機チタンアシレート、有機チタンキレート、水溶性有機チタンから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする絶縁被膜を有する電磁鋼板。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐食性、密着性および耐粉吹き性に優れる絶縁被膜を有する電磁鋼板が得られる。そして、本発明の絶縁被膜を有する電磁鋼板は、クロムを含有していない上、耐食性、密着性、粉吹き性をはじめ、各種性能がCr含有絶縁被膜と同等以上有しているため、最終製品だけでなく製造工程においても環境に優しく、モータ、トランス等の用途をはじめ広く利用することができる、産業上有益な発明と言える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の電磁鋼板は、絶縁被膜を有する鋼板であり、前記絶縁被膜はポリシロキサンと、有機樹脂として、アクリル樹脂、スチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネイト樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂およびエポキシ樹脂から選ばれる1種又は2種以上とを共重合したポリシロキサン重合体と、TiO2換算でTiO2/SiO2=0.010〜0.50である有機チタン化合物を含むこととする。これは本発明において、最も重要な要件である。そして、このような絶縁被膜を有することにより、Cr含有絶縁被膜を有する電磁鋼板と同等以上の、耐食性、密着性および耐粉吹き性を有することになる。
【0011】
まず、本発明で用いる電磁鋼板について説明する。
本発明で用いることができる被膜を形成する前の電磁鋼板(電気鉄板ともいう)は、比抵抗を変化させて所望の磁気特性を得るために調整された鋼板(鉄板)であればどのような組成の鋼板でもよく、特に制限されない。特に、Si単独あるいはSi+Alが0.1〜10.0質量%程度含有された、W15/50≦5.0W/Kg程度の中〜高級電磁鋼板は好適に使用される。
また、絶縁被膜が形成される電磁鋼板の表面は、アルカリなどによる脱脂処理、塩酸、硫酸、リン酸などによる酸洗処理、強調処理や磁区細分化処理など、任意の前処理を施してもよいし、製造されたままの未処理の表面であってもよい。
さらに、絶縁被膜と地鉄表面との間に第3の層を形成させることは必ずしも要さないが、必要に応じて形成させてもよい。例えば、通常の製法では地鉄金属の酸化被膜が絶縁被膜と地鉄表面との間に形成されることがあるが、これを除去する手間は省いてもよい。また、製法によってはフォルステライト被膜が生成するが、これを除去する手間も省いてよい。
【0012】
次に、上記鋼板の表面に塗布される本発明の絶縁被膜について説明する。
本発明の絶縁被膜は、以下に述べる必須成分であるポリシロキサン重合体と有機チタン化合物とを含有する塗布液を、電磁鋼板表面に塗布し、その後焼き付け乾燥することで得られる。
【0013】
ポリシロキサン重合体
本発明のポリシロキサン重合体は、ポリシロキサンと有機樹脂を共重合して得る。
ポリシロキサンは−Si−O−(シロキサン結合)を主鎖に持つポリマーである。このポリシロキサンはC元素を有する重合体と、−C−Si−O−結合または/および−C−O−Si−O−結合を介して、あらかじめ架橋させておくことが好ましい。ここで「架橋させる」とは、幾何学的あるいは化学的な結合などを通じて、いわゆるハイブリッド構造を形成させることを指すものとする。これにより、無機成分と有機成分が予め三次元構造を形成しているので、クラックのない均一な被膜を安定して達成でき、良好な耐食性を有する被膜を形成できる。
また、ポリシロキサンに、水酸基、アルコキシ基などの官能基を付与しておけば、さらにC元素を有する重合体部分と結合させて三次元ネットワークを強化させることが可能である。
【0014】
ポリシロキサンと共重合する有機樹脂としては、種々の重合体が適用可能である。例えば、アクリル樹脂、スチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネイト樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂およびエポキシ樹脂から選ばれる1種又は2種以上を含有することができる。
上記のうち、ポリシロキサンと−C−Si−O−結合または/および−C−O−Si−O−結合を介して架橋を形成し三次元ネットワークを形成する観点からは、重合体の側鎖に結合可能な官能基を有していればなおよい。
【0015】
ポリシロキサンの共重合する有機樹脂の重合度は特に限定しない。塗布液を得ることが可能な範囲であれば問題なく適用できるが、好ましくは平均で2以上、より好ましくは平均で5以上である。
【0016】
ポリシロキサンの重合度については、特に限定しない。塗布液を得ることが可能な範囲であれば、問題なく適用できるが、平均で10以上の重合度とするのが好適である。
【0017】
ポリシロキサン重合体中のポリシロキサンの比率は、SiO換算で10質量%以上90質量%以下とすることが好ましい。10質量%未満では歪取焼鈍後の被膜残存比率が少なくなるため、スティキング性が劣る場合がある。一方、この比が大きくなれば被膜が強固となるが、90質量%超であると、可撓性(flexibility)が不足し、製造条件によっては耐食性が劣化する場合がある。なお、歪取り焼鈍後の全被膜量に対するポリシロキサンの比率は、有機成分の分解により顕著に増大しているので、上記好適範囲にある必要はない。
なお、ポリシロキサン量の測定について「SiO量に換算」するとは、含有されるSiが全てSiOを形成していると仮定して、SiOの含有量を算出することを意味する。例えばSi量のみを測定した場合は、「SiO」量に換算して、被膜全固形分に対する比率をとればよい。
また、絶縁被膜中の全固形分に対するポリシロキサン重合体の比率は、SiO量に換算して5質量%以上80質量%以下とすることが好ましい。
【0018】
有機チタン化合物
本発明の鋼板に付される絶縁被膜は、有機チタン化合物を特定量含有する。チタン化合物としては、Ti−C、Ti−O−C、Ti−N−C(C:炭素、N:窒素、O:酸素、Ti:チタン)の結合をもつものであればよい。特にTi−O−C構造をもつものが、カップリング性のある有機チタン化合物として挙げられ、好適に使用することができる。
例えば、Ti(OR)4 R(R’)=Me、Et、Bu〜C18等(誘導体を含む)で表される有機チタンアルコキシド、Ti(OCOR’)n(OR)−nで表される有機チタンアシレート、これらをアセチルアセトン、エチルアセトアセテートなどでキレート化させたもの、乳酸、クエン酸、トリエタノールアミンなどのアミン類、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類で水溶化させたものが挙げられる。
具体例としてはチタンラクテート[(OH)2Ti(C3H5O3)2]、チタンラクテートアンモニウム塩[(OH)2Ti(C3H5O3)2](NH4+)2、チタントリエタノールアミネート[(C37O)2Ti(C6H14O3N)2]、ジ−n−ブトキシ・ビス(トリエタノールアミナト)チタンTi(OCH2CH2CH2CH3)2[OC2H4N(C2H4OH)2]2、イソプロピルチタニウムトリイソステアレート、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン、チタニウム−i−プロポキシオクチレングリコレート、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタン、プロパンジオキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、トリ−n−ブトキシチタンモノステアレート、ジ−i−プロポキシチタンジステアレート、チタニウムステアレート、ジ−i−プロポキシチタンジイソステアレート、(2−n−ブトキシカルボニルベンゾイルオキシ)トリブトキシチタンといったものを挙げることができる。
【0019】
これらを重合体にしたポリマータイプのものも使用することができ、更に、以上挙げた有機チタン化合物の1種及び2種以上を使用することができる。有機チタン化合物のなかでも水溶性のものは水系塗液に混合するのに都合が良く好適に適用できる。
【0020】
有機チタン化合物はポリシロキサン重合体と架橋反応によって、ポリシロキサン単独よりさらに強い3次元ネットワークを形成する。有機樹脂のR−OH、R−COOHのみならず、ポリシロキサンのSi−OHにも直接作用することにより、無機のネットワークを基本とした有機無機の良好な複合被膜を形成するためと考えられる。
【0021】
有機チタン化合物の含有量としては、被膜全固形分中の有機チタン化合物がTiO2換算でTiO2/SiO2=0.010〜0.50であることが必要である。TiO2/SiO2が0.010未満では架橋反応が不十分なため十分な効果が期待できない。一方、0.50を超えると架橋する対象であるポリシロキサン重合体が相対的に少なくなるため良好なネットワークを形成することができない。好ましくはTiO2/SiO2=0.050〜0.40である。
【0022】
以上より、本発明は目的とする特性が得られるが、上記の含有物に加えて、本発明の作用効果を害さない範囲で、以下に示す目的で添加剤、以下の他の無機化合物、有機化合物を含有することができる。なお、下記添加剤、他の無機化合物、有機化合物を含有するにあたっては、大量に配合しすぎると被膜性能が劣化するため、添加剤、他の無機化合物、および有機化合物は、合計量で、本発明の絶縁被膜の全被膜量に対して70質量%程度以下とすることが好ましい。より好ましくは50質量%以下である。
【0023】
添加剤
添加剤としては、公知の架橋剤、界面活性剤、防錆剤、潤滑剤などが添加可能である。添加量は被膜全固形分に対して30質量%以下程度が好ましい。
【0024】
他の無機化合物、有機化合物
本発明の絶縁被膜は、本発明の効果が損なわれない程度に、他の無機化合物および/または有機化合物を含有することができる。
例えば液安定性が確保できれば他の酸化物(ゾル)を添加することができる。酸化物(ゾル)としてはシリカ(ゾル)(シリカあるいはシリカゾル、以下同様)、シリケート、アルミナ(ゾル)、チタニア(ゾル)、酸化スズ(ゾル)、酸化セリウム(ゾル)、酸化アンチモン(ゾル)、酸化タングステン(ゾル)、酸化モリブデン(ゾル)が挙げられる。
特に低いポリシロキサン比率の場合において、無機化合物の添加は焼鈍板の密着性、耐食性、スティキング性を改善するため好適である。
無機化合物は、好ましくは被膜全固形分に対して70質量%以下、より好ましくは50質量%以下含有するものとする。また、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上含有させるものとする。
【0025】
本発明が目的とする被膜の三次元網目構造は、上記処理によって達成されるが、シランカップリング剤を更に添加してより強固にすることができる。シランカップリング剤としてはエポキシシラン、アミノシランといったものや、有機官能基としてメタクリル基、ビニル基、メルカプト基のものが挙げられ、単独、または、これらを混合して使用することも可能である。好ましくはポリシロキサン重合体のSiO2換算重量100部に対しシランカップリング剤のSiO2換算重量で50部以下が好ましい。
【0026】
なお、本発明はクロム化合物を添加せずに良好な被膜特性を得ることを目的としている。したがって、本発明の絶縁被膜は製造工程および製品からの環境汚染を防止する観点から、Crを実質的に含まないことが好ましい。不純物として許容されるクロム量としては、絶縁被膜の全固形分質量(全被膜量)に対してCrO換算した量で0.1質量%以下とすることが好ましい。
【0027】
次に本発明の絶縁被膜を有する電磁鋼板の製造方法について説明する。
本発明の出発素材として用いる電磁鋼板の前処理は特に規定しない。未処理あるいはアルカリなどの脱脂処理、塩酸、硫酸、リン酸などの酸洗処理が好ましく適用される。
そして、この鋼板上に上述したポリシロキサン重合体と有機チタン化合物とを含有する塗布液を塗布する。その後、前記塗布液を塗布した電磁鋼板に焼き付け処理を施すことにより電磁鋼板上に絶縁被膜を形成させる。
【0028】
塗布する被膜原料は水性または油性の、ペースト状あるいは液状が好ましい。必要以上に被膜厚み(被膜付着量)を増大させない観点からは、水または有機溶剤をベースとした液状とすることが好ましい。なお、本発明において、処理液とはペースト状も含むものとする。
【0029】
絶縁被膜の塗布方法としては一般工業的に用いられる、ロールコーター、フローコーター、スプレー、ナイフコーター、バーコーター等種々の設備を用いる方法が適用可能である。
また、焼き付け方法についても通常実施されるような熱風式、赤外線加熱式、誘導加熱式等が可能である。焼き付け温度も通常レベルであればよいが、樹脂の熱分解を避けるため、350℃以下とすることが好ましい。より好ましい範囲は150℃以上300℃以下である。
【0030】
絶縁被膜付着量
絶縁被膜の付着量は特に限定はしない。片面あたり0.05g/m以上、10g/m以下であることが好ましい。より好ましくは、片面あたり合計で0.1g/m以上10g/m以下である。0.05g/m未満であると、工業的手段では均一な塗布が困難であり、安定した打抜性や耐食性を確保することが難しい場合がある。一方、10g/m超であるとそれ以上の被膜性能向上がなく、不経済となる可能性がある。
なお、付着量の測定は、焼き付け処理後かつ歪み取り焼鈍を施していない鋼板について行うものとし、熱アルカリ等で被膜のみを溶解させて、溶解前後の重量変化から測定する重量法を用いることができる。
歪み取り焼鈍後の付着量としては0.01g/m以上9.0g/m以下程度が好ましい。
【0031】
また、本発明の絶縁被膜は鋼板の両面にあることが好ましいが、目的によっては片面のみでも構わない。すなわち、目的によっては片面のみ施し、他面は他の絶縁被膜としてもよいし、他面に絶縁被覆を施さなくてもよい。
【0032】
以上からなる本発明の絶縁被膜を有する電磁鋼板は、被膜の耐熱性を生かす意味で、750〜850℃程度で歪取り焼鈍を行う用途に用いることが最適である。例えば、電磁鋼板を打ち抜き、歪み取り焼鈍を行った後、積層して積層鉄心を得る用途はとくに好適である。
【実施例1】
【0033】
以下、本発明の効果を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
まず、電磁鋼板として、鋼成分としてSi:0.45質量%、Mn:0.25質量%、Al:0.48質量%を含有し、板厚0.5mm厚の仕上げ焼鈍を施したフルプロセス電磁鋼板を用いた。表1に示す条件にてポリシロキサンと各樹脂をあらかじめ架橋させた複合樹脂および有機チタン化合物(比較例の一部を除く)とを調合した塗液を前記電磁鋼板の表面上に、ロールコーターで塗布し、熱風炉にて焼付け温度:到達板温230℃で焼き付けて供試材を得た。
得られた供試材(絶縁被膜を有する電磁鋼板)に対して、沸騰した50%NaOH水溶液中で被膜を溶解させ、前述の重量法で絶縁被膜の付着量を測定した。
また、以上により得られた絶縁被膜を有する電磁鋼板に対して、以下の各被膜特性の測定を行い、評価した。
【0034】
<耐食性−製品板1>
供試材に対して湿潤試験(50℃、>98%RH(相対湿度))を行い、48h後の赤錆発生率を目視による面積率で評価した。
(判定基準)
◎:赤錆面積率:0%〜20%未満
○:赤錆面積率:20%以上〜40%未満
△:赤錆面積率:40%以上〜60%未満
×:赤錆面積率:60%以上〜100%
<耐食性−製品板2>
供試材に対してJIS規定の塩水噴霧試験(35℃)を行い、5h後の赤錆発生率を目視による面積率で評価した。
(判定基準)
◎:赤錆面積率:0%〜25%未満
○:赤錆面積率:25%以上〜50%未満
△:赤錆面積率:50%以上〜75%未満
×:赤錆面積率:75%以上〜100%
<歪取焼鈍後耐食性(耐食性−焼鈍板)>
供試材に対して、窒素雰囲気下、750℃×2hの条件にて焼鈍を行い、得られた焼鈍板に対して恒温恒湿試験試験(50℃、相対湿度80%)を行い、14日後の赤錆発生率を目視による面積率で評価した。
(判定基準)
◎:赤錆面積率:0%〜20%未満
○:赤錆面積率:20%以上〜40%未満
△:赤錆面積率:40%以上〜60%未満
×:赤錆面積率:60%以上〜100%
<密着性>
(i)供試材、並びに、(ii)窒素雰囲気下、750℃×2hの条件にて焼鈍を行い、得られた焼鈍板に対して、20mmφでの180゜曲げ戻し試験を行い、目視による被膜剥離率で評価した。
(判定基準)
◎:剥離なし
○:〜剥離率20%未満
△:剥離率20%以上〜40%未満
×:剥離率40%以上〜全面剥離
<耐粉吹き性>
被膜表面にフェルトに荷重(2kg/cm)をかけながら100往復させて、被膜の摩耗状態を目視で確認した。
(判定基準)
◎:変化なし〜20%以内摩耗
○:20%超〜50%以内摩耗
△:50%超〜80%以内摩耗
×:80%超〜地鉄まで剥離
以上より得られた結果を実験条件と併せて表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1から明らかなように、本発明例は耐食性、密着性、耐粉吹き性のいずれも優れている。特にTiO2/SiO2比率を好適範囲とした本発明例では、上記特性がより一層優れているのがわかる。
一方、比較例では、耐粉吹き性をはじめとして耐食性、密着性のいずれか一つ以上が劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0037】
Crを含有しない無機物を主成分とする絶縁被膜でありながら、例えば耐食性など、Cr含有絶縁被膜と同等以上の性能を有し、モータや変圧器等を中心に多様な用途での使用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁被膜を有する電磁鋼板であって、該絶縁被膜中には、ポリシロキサンと、有機樹脂として、アクリル樹脂、スチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネイト樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂およびエポキシ樹脂から選ばれる1種又は2種以上とを共重合したポリシロキサン重合体と、TiO2換算でTiO2/SiO2=0.010〜0.50である有機チタン化合物とを含むことを特徴とする絶縁被膜を有する電磁鋼板。
【請求項2】
前記絶縁被膜は、前記ポリシロキサン重合体と前記有機チタン化合物を含む塗液を電磁鋼板に塗布、乾燥してなる被膜であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁被膜を有する電磁鋼板。
【請求項3】
前記有機チタン化合物が有機チタンアルコキシド、有機チタンアシレート、有機チタンキレート、水溶性有機チタンから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の絶縁被膜を有する電磁鋼板。

【公開番号】特開2009−190369(P2009−190369A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36137(P2008−36137)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】