説明

締結ねじの製造方法及び締結ねじ

【課題】ねじ締め時間を短縮し、かつ所定の締結力が得られ、ねじの緩みを抑えることが可能なねじの製造方法を提供する。
【解決手段】平坦状の端面21aから突出する凸部21bを有するダイス21と、カップ状の凹み20aを有する第1パンチ20とにより、ダイス21の凸部21bから突出する材料線1の先端を圧造し、締結ねじの座面となる外周縁に曲部1bを残したまま、凹部1dを有する頭部1aを成形する予備据込み工程Bと、ダイス21と、頭部1aにリセス1cを成形する凸部30bを有する第2パンチ30とにより、頭部1aを圧造し、頭部1aの凹部1dに干渉しないようなリセス1cを成形する仕上据込み工程Cと、頭部1aから延びる脚部1eに加工してねじを成形するねじ成形工程Dと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば部品などをワークに所定の締結力で締結する締結ねじの製造方法及び締結ねじに関する。
【背景技術】
【0002】
近年多く普及している例えば携帯電話、パソコン及び携帯型音楽プレーヤ等の電気製品や自動車部品等においては、その軽量化、薄型化及び小型化等から比較的厚みの薄いワークに部品を固定するようにした構造が採用されている。このような部品固定構造において、この部品を固定するためには主として締結ねじが採用されている。
【0003】
この固定構造に使用される締結ねじには、頭部に一体のカップ状の鍔にこれの周縁に沿って延び且つ緩み方向に向かうに従って座面から突出して傾斜するとともに緩み方向の端面が座面に対してほぼ直立した複数個の突片を形成し、この突片が座面の周縁に沿い等間隔をおいて複数個形成されたものがある(引用文献1)。
【0004】
また、締結ねじには、頭部の座面に凹部が形成され、厚みの薄いワークに対しても傾斜することなくねじ込みができるようにし、ねじ込み作業中に雌ねじが潰れたり、下穴が変形することがないようにしたものがある(引用文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−14248
【特許文献1】特開2007−321930
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
引用文献1の締結ねじでは、締付け時に座面の周縁に沿い等間隔をおいて複数個形成された突片がワークに食い込み、またワークが変形したりすることがあり、所定の締結力が得られない。
【0007】
また、引用文献2の締結ねじでは、頭部の座面に凹部が形成されていることで、適正な締結力で部品をワークに固定することができても、ねじの頭部の座面が部品に着座した状態において確実に頭部外周にて部品に接するようになっておらず、ねじに緩みが生じやすく時間が経過すると、ねじが緩み、固定された部品がワークに対してずれを生じている等の課題がある。
【0008】
この発明は、かかる実情に鑑みなされたもので、締結ねじの製造工程を短縮することができる締結ねじの製造方法を提供し、また締め付力を向上することができる締結ねじを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決し、かつ目的を達成するために、この発明は、以下のように構成した。
【0010】
請求項1に記載の発明は、平坦状の端面から突出する凸部を有するダイスと、カップ状の凹みを有する第1パンチとにより、前記ダイスの凸部から突出する材料線の先端を圧造し、締結ねじの座面となる外周縁に曲部を残したまま、凹部を有する頭部を成形する予備据込み工程と、
前記ダイスと、前記頭部にリセスを成形する凸部を有する第2パンチとにより、前記頭部を圧造し、前記頭部の凹部に干渉しないようなリセスを成形する仕上据込み工程と、
前記頭部から延びる脚部に加工してねじを成形するねじ成形工程と、
を含むことを特徴とする締結ねじの製造方法である。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記予備据込み工程の前段に、切断して所定寸法の材料線を得る材料成形工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の締結ねじの製造方法である。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記予備据込み工程の前段に、太い軸部、または太い材料から絞り出して所定寸法の材料線を得る材料成形工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の締結ねじの製造方法である。
【0013】
請求項4に記載の発明は、頭部の座面に、外周縁の曲部を残してリセスに干渉しないような凹部を有し、
前記頭部の着座面が、前記曲部の外周縁よりなることを特徴とする締結ねじである。
【0014】
請求項5に記載の発明は、前記凹部は、前記リセスの底部に向う傾斜面を有することを特徴とする請求項4に記載の締結ねじである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明では、予備据込み工程において、ダイスと第1パンチとにより材料線の先端を圧造し、締結ねじの座面となる外周縁に曲部を残したまま、凹部を有する頭部を成形することで、仕上据込み工程では、ダイスと第2パンチとにより、頭部を圧造し、頭部の凹部に干渉しないようなリセスを成形するだけであり、製造工程を短縮することができる。
【0016】
請求項2に記載の発明では、予備据込み工程の前段に、切断して所定寸法の材料線を得る切断工程を含むことで、締結ねじの材料線を容易に得ることができる。
【0017】
請求項3に記載の発明では、予備据込み工程の前段に、太い軸部、または太い材料から絞り出して所定寸法の材料線を得る絞出工程を含むことで、締結ねじの材料線を容易に得ることができる。
【0018】
請求項4に記載の発明では、頭部の座面に、外周縁の曲部を残してリセスに干渉しないような凹部を有し、頭部の着座面が、曲部の外周縁よりなることで、締付け時に曲部の外周縁が締付け面に接触するので、締付け面に喰い込んで引っ掛かることがなく、締め付力を向上することができる。
【0019】
請求項5に記載の発明では、凹部は、リセスの底部に向う傾斜面を有することで、頭部の強度を損なうことなく着座面を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】締結ねじの製造方法を説明する図である。
【図2】予備据込み工程を説明する図である。
【図3】締結ねじの正面図である。
【図4】締結ねじの一部断面拡大図である。
【図5】ねじ込み状態を示す要部断面拡大図である。
【図6】締結ねじの他の実施の形態の一部断面拡大図である。
【図7】締結ねじの他の実施の形態の一部断面拡大図である。
【図8】実施の形態の締結ねじの時間に対するトルクを示す図である。
【図9】従来の締結ねじの時間に対するトルクを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の締結ねじの製造方法及び締結ねじの実施の形態について説明する。この発明の実施の形態は、発明の最も好ましい形態を示すものであり、この発明はこれに限定されない。
【0022】
[締結ねじの製造方法]
この実施の形態の締結ねじの製造方法を、図1に基づいて説明する。この実施の形態の締結ねじの製造方法は、材料成形工程Aと、予備据込み工程Bと、仕上据込み工程Cと、ねじ成形工程Dとを含む。
【0023】
材料成形工程Aでは、切断して所定寸法の材料線を得る工程、または太い軸部、または太い材料から絞り出して所定寸法の材料線を得る工程で構成される。切断して所定寸法の材料線を得る工程では、圧造機に材料線を供給し、矯正ローラ間を通して真っ直ぐにした後、材料線1の先端をストッパ10に当て、切り駒11と切断刃12により、材料線1を所定寸法に切断する。また、太い軸部、または太い材料から絞り出して所定寸法の材料線を得る工程では、ねじ径(軸径)に対し頭径が過大のときは、頭部を成形し切れないので、太い軸部、太い材料からねじとなる細い部分は別に絞り出す方式により成形し、所定寸法の材料線1を得る。
【0024】
予備据込み工程Bでは、第1パンチ20と、ダイス21を用い、締結ねじの頭部を成形する予備据込みを行う。第1パンチ20は、カップ状の凹み20aを有し、ダイス21は、平坦状の端面21aから突出する凸部21bを有する。この平坦状の端面21aから突出する凸部21bを有するダイス21と、カップ状の凹み20aを有する第1パンチ20とにより、ダイス21の凸部21bから突出する材料線1の先端を圧造し、締結ねじの座面となる外周縁に曲部1bを残したまま、凹部1dを有する頭部1aを成形する。
【0025】
第1パンチ20とダイス21を用いて材料線1の先端を圧造するが、図2に示すように、第1パンチ20のカップ状の凹み20aの径D1よりダイス21の凸部21bの立ち上がり部の径D2が小さく形成されており、ダイス21の凸部21bから突出する材料線1の先端を、カップ状の凹み20aを有する第1パンチ20とにより圧造するときに、 カップ状の凹み20aによって材料線1の先端が押され、先端部はカップ状の凹み20aの形状になり、一方、ダイス21の凸部21bによって凹部1dが成形される。このとき、ダイス21の凸部21bによって先端部が押されるが、第1パンチ20のカップ状の凹み20aの径D1よりダイス21の凸部21bの立ち上がり部の径D2が小さく形成されていることから、先端部が凹むようになり、この凹部1dを成形することによって締結ねじの座面となる外周縁に曲部1bが成形される
【0026】
仕上据込み工程Cでは、第2パンチ30と、ダイス21を用い、締結ねじの頭部1aを成形する仕上据込みを行う。第2パンチ30は、頭部1aにリセス1cを成形する凸部30bが凹部30aに形成されており、ダイス21は予備据込み工程Bで用いたものを用い、第2パンチ30と、ダイス21とにより頭部1aを圧造し、頭部1aの凹部1dに干渉しないようなリセス1cを成形する。
【0027】
ねじ成形工程Dでは、加工装置40を用い、頭部1aから延びる脚部1eに加工してねじを成形する。加工装置40として、転造加工装置を用い、転造加工によりねじを成形することが好ましい。
【0028】
このように、この実施の形態の締結ねじの製造方法では、予備据込み工程Bにおいて、ダイス21と第1パンチ20とにより材料線1の先端を圧造し、締結ねじの座面となる外周縁に曲部1bを残したまま、凹部1dを有する頭部1aを成形することで、仕上据込み工程Cでは、ダイス21と第2パンチ30とにより、頭部1aを圧造し、頭部1aの凹部1dに干渉しないようなリセス1cを成形するだけであり、製造工程を短縮することができる。
【0029】
また、予備据込み工程Bの前段に、材料成形工程Aを有し、この材料成形工程Aが、切断して所定寸法の材料線を得る工程であり、また太い軸部、または太い材料から絞り出して所定寸法の材料線を得る工程であることで、締結ねじの材料線1を容易に得ることができる。
【0030】
[締結ねじ]
この実施の形態の締結ねじを、図3乃至図9に基づき説明する。この実施の形態の締結ねじ101は、図1及び図2に示す実施の形態の締結ねじの製造方法により成形されるが、この締結ねじの製造方法に限定されるものではない。
【0031】
この締結ねじ101は、頭部102と、これに一体に形成された脚部103とからなるねじであり、頭部102にはドライバビット(図示せず)からねじ込み駆動力が伝達されるリセス120が形成されている。このリセス120は、十字状であるがこれに限定されない。
【0032】
頭部102と一体の脚部103には、2条のねじ山130が頭部102の座面121の近くから脚部103の先端にかけて形成してあり、この脚部103は頭部側から先端部分まで同一断面形状であるが、僅かではあるが徐々に細くなっていてもよい。また、脚部103には、2条のねじ山130が形成されているが、これに限定されず3条のねじなどの多条でもよい。
【0033】
また、脚部103に形成されている2条のねじ山130は、等間隔のピッチを有しており、頭部側の不完全ねじ部103aの長さXを、先端側のねじガイド部103bの長さYより短くしている。
【0034】
締結ねじ101は、図4に示すように、頭部102の座面121に、頭部102の外周縁122から中心にかけて頭部102のリセス120の底部方向に向けて角度θだけ傾斜した傾斜面123aを有する円錐の凹部123が形成されている。
【0035】
このように、締結ねじ101は、リセス120を形成した頭部102を有し、頭部102の座面121に、外周縁122の曲部を残してリセス120に干渉しないような凹部123を形成し、頭部102の着座面124が、曲部の外周縁122よりなる。この凹部123は、リセス120の底部に向う傾斜面123aにより形成されることで、頭部102の強度を損なうことなく着座面123aを形成することができる。
【0036】
また、凹部123は、リセス120の底部に向う傾斜面123aにより形成され、この実施の形態では、凹部123を円錐の形状としているが、図6に示すように、凹部123の傾斜面123aの角度θを大きくした円錐の形状としてもよく、さらに頂部を平面とした円錐台の形状などとしてもよい。
【0037】
また、図7に示すように、凹部123が低部面123bを有する皿状に形成され、凹部123によって、着座面124が、曲部の外周縁122よりなる。
【0038】
次に、締結ねじ101による締付を、図5に基づいて説明する。締結ねじ101は、ねじ込まれて頭部102の座面121が着座すると、外周縁122の着座面124が最も先に着座し、頭部102の外周縁122に形成した着座面124の作用により、締結ねじ101にはねじ込み後の所定軸力が継続して作用することになる。
【0039】
すなわち、頭部102の座面121には、これの外周縁122を残して凹部123が形成され、外周縁122には、着座面124が形成されていることで、締付け時に着座面124が部品150の締付面に引っかかったり、食い込むことがなく円滑に摺動して回転し、短時間に適正な締結力で部品150をワーク151に固定することができる。しかも、着座面124が、部品150に着座した状態においては、着座面124が確実に部品150に接するようになっており、着座面124によって部品150を押圧する押圧面積が広くなることからねじに緩みが生じにくい。
【0040】
また、脚部103は、頭部側の不完全ねじ部103aの長さXを、先端側のねじガイド部103bの長さYより短くしたことで、脚部103の頭部側において所定の締め付けトルクが容易に得られ、しかも緩みも生じにくい。
【0041】
この実施の形態の締結ねじと従来の締付ねじの破壊トルク測定を、図8及び図9に示す。図8は実施の形態の締結ねじの時間に対するトルクを示し、図9は従来の締結ねじの時間に対するトルクを示し、締付の試験機は友好製のdelvo DLV815−EKNを用い、回転数は450rpmとした。
【0042】
この破壊トルク測定において、実施の形態の締結ねじが従来の締付ねじと比較して、締付破壊トルクが実施の形態の締付ねじでは、最大値が20.00Kgf・cmであるのに対し、従来の締付ねじでは最大値が18.34Kgf・cmである締め付力を向上することができた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
この発明は、例えば部品などをワークに所定の締結力で締結する締結ねじの製造方法及び締結ねじに適用可能であり、ねじ締め時間を短縮し、かつ所定の締結力が得られ、ねじの緩みを抑えることが可能である。
【符号の説明】
【0044】
A 材料成形工程
B 予備据込み工程
C 仕上据込み工程
D ねじ成形工程
1 材料線
1a 頭部
1b 曲部
1c リセス
1d 凹部
1e 脚部
10 ストッパ
11 切り駒
12 切断刃
20 第1パンチ
20a カップ状の凹み
21 ダイス
21a 平坦状の端面
21b 凸部
22 ピン
30 第2パンチ
30a 凹部
30b 凸部
40 加工装置
101 締付ねじ
102 頭部
103 脚部
103a 頭部側の不完全ねじ部
103b 先端側のねじガイド部
120 リセス
121 頭部2の座面
122 頭部2の外周縁
123 凹部
124 着座面
130 ねじ山
150 部品
151 ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦状の端面から突出する凸部を有するダイスと、カップ状の凹みを有する第1パンチとにより、前記ダイスの凸部から突出する材料線の先端を圧造し、締結ねじの座面となる外周縁に曲部を残したまま、凹部を有する頭部を成形する予備据込み工程と、
前記ダイスと、前記頭部にリセスを成形する凸部を有する第2パンチとにより、前記頭部を圧造し、前記頭部の凹部に干渉しないようなリセスを成形する仕上据込み工程と、
前記頭部から延びる脚部に加工してねじを成形するねじ成形工程と、
を含むことを特徴とする締結ねじの製造方法。
【請求項2】
前記予備据込み工程の前段に、切断して所定寸法の材料線を得る材料成形工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の締結ねじの製造方法。
【請求項3】
前記予備据込み工程の前段に、太い軸部、または太い材料から絞り出して所定寸法の材料線を得る材料成形工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の締結ねじの製造方法。
【請求項4】
頭部の座面に、外周縁の曲部を残してリセスに干渉しないような凹部を有し、
前記頭部の着座面が、前記曲部の外周縁よりなることを特徴とする締結ねじ。
【請求項5】
前記凹部は、前記リセスの底部に向う傾斜面を有することを特徴とする請求項4に記載の締結ねじ。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−66256(P2012−66256A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−210532(P2010−210532)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(500465444)株式会社ユニオン精密 (30)
【出願人】(510252357)株式会社サノハツ (2)
【Fターム(参考)】