説明

締結体構造

【課題】雌ネジ部と対の雄ネジ部に設けた皿ネジ形状のネジ頭部を有するモジュールネジと、形状記憶合金製ワッシャとを合わせて使用するネジ部材を用いて、締結部品を締結するときに、大きな締結力をかけても形状記憶合金製ワッシャが広がらない締結体構造を提供すること。
【解決手段】締結体構造1は、設置面20に設けられた雌ネジ部21と対で使用される雄ネジ2dと、皿ネジ形状に加工されたネジ頭部2aとを有するモジュールネジ2、および、モジュールネジの雄ネジ部の軸径およびネジ頭部の直径に対応した寸法で形状記憶合金によりC字形状に形成された形状記憶合金製ワッシャ3を備えるネジ部材4により、締結固定したい締結部品10を、当該締結部品のネジ用穴にモジュールネジを連通させて設置面の雌ネジを介して締結する締結体構造であって、モジュールネジに対して摩擦トルクを発生させる摩擦トルク発生部12を設けた構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアコン、洗濯機、冷蔵庫、テレビ、電池パック、簡易充電器等、その部品あるいは付属部品に再使用が可能となる製品に適用され、当該製品の解体に有効な形状記憶合金製ワッシャを用いた締結体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ネジ止めされた製品を解体する場合、従来はそのネジをゆるめ、そしてネジを外す操作を手作業で行っていた。最近は、締結の際に形状記憶合金製のワッシャをネジと組み合わせて使用すると、容易な解体が実現できることから、その方法は部品のリサイクルユースおよび資源回収の面からも注目されている。
【0003】
このようなネジを取り外す技術は、例えば、特許文献1に記載されている。すなわち、ネジを取り外す技術は、ネジに形状記憶合金製ワッシャを挿入し組み合わせた複合品をまず準備する。そして複合品は、そのワッシャを予め所定温度でネジ頭部外径よりも大きな内径形状になるように記憶させておき、部品の締結時にネジ軸部に挿入できる程度の小内径に加工調整している。そのため、複合品を用いて部品を締結して製品を製造した場合、使用後その製品を解体する際には、ワッシャを前記した所定温度以上に加熱すると、ワッシャが、記憶させておいた大きな内径へと復元するので、ワッシャをネジ頭部から抜きだして、製品を短時間内に解体させることができるものである。
【0004】
さらに、通常、ワッシャを使用してネジ止めするときは、部品が確実に締結できるように、大きな締結力(トルク)がネジに加えられる。また、製品の解体時には、ワッシャがネジ頭部から抜け出てはずれやすくなるように、そのネジ頭部の軸側が皿ネジ形状に加工してある場合がある。このような皿ネジ形状を有するネジは、締結時に締結力をかけて捩じ込むと、ワッシャ(C字形状)のワッシャ腕部を開かせてしまう一因になるので、ネジに大きなトルクがかけられず、部品の締結時には慎重な作業が要求されている。
【0005】
また、ネジには、通常よく使われているように、樹脂部品や薄板鉄板製部品のような軽量部材を主要な締結対象にするタッピングネジと、より重量部材を強固に締結する箇所で使用されるモジュールネジとがある。タッピングネジに形状記憶合金製のワッシャを組み合わせて用いると、雄ネジ部が部材に強制的に捩じ込まれ、雌ネジ部分となるネジ径を拡げながら無理やり前進させられるので、大きな締め付けトルクで締結しても、雄ネジ部と雌ネジ部分との間に摩擦抵抗(プリベイリングトルク)が発生する。
【0006】
そして、タッピングネジは、摩擦抵抗が発生するので、ワッシャにかかる外向きの力と拮抗してワッシャ腕部の開きを防止することができる。言い換えると、タッピングネジと形状記憶合金製ワッシャとの組み合わせで部品を締結する場合、締結部品の下穴径を適切に設計すればワッシャを開かせることなしに確実に締結できる。
【特許文献1】特開2005−16713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、モジュールネジでは、締結対象部品側に予め雌ネジ部分が形成されているために、雄ネジ部と雌ネジ部分との間にプリベイリングトルクが発生する仕組みがない。そのため、モジュールネジは、その頭部に皿ネジ形状が加工してあると、締め付けトルクの増大によってワッシャ内径がネジ頭部の外径よりも大きくなるように、ワッシャ腕部が開いてしまい、締結目的を達成することが困難になってしまう。
【0008】
本発明は前記した問題点に鑑み創案されたものであって、雌ネジ部と対で使用される雄ネジ部に設けた皿ネジ形状のネジ頭部を有するモジュールネジと、形状記憶合金製ワッシャとを合わせて使用するネジ部材を用いて、締結部品を締結するときに、大きな締結力をかけても形状記憶合金製ワッシャが拡がり難い締結体構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明に係る締結体構造は、設置面に設けられた雌ネジ部と対で使用される雄ネジ部と、この雄ネジ部の一端側に設けられ皿ネジ形状に加工されたネジ頭部とを有するモジュールネジ、および、前記モジュールネジの雄ネジ部の軸径およびネジ頭部の直径に対応した寸法で形状記憶合金によりC字形状に形成された形状記憶合金製ワッシャを備えるネジ部材により、締結固定したい締結部品を、当該締結部品のネジ用孔に前記モジュールネジを連通させて前記設置面の雌ネジ部を介して締結する締結体構造であって、前記形状記憶合金製ワッシャは、予め設定された所定温度以上に加熱されることで、ワッシャ内径部が前記ネジ頭部の直径より大きくなるように形状を記憶させており、前記締結部品のネジ用孔は、前記モジュールネジのネジ頭部より大きな直径で、かつ、前記形状記憶合金製ワッシャのワッシャ外径部より小さな直径に形成されており、前記ネジ用孔の周面で前記形状記憶合金製ワッシャと当接する位置、または、前記雄ネジ部が螺合する前記雌ネジ部側に、前記モジュールネジに対して摩擦トルクを発生させる摩擦トルク発生部を設けた構成とした。
【0010】
このように構成した締結体構造は、モジュールネジを締めて締結部品を締結する場合、形状記憶合金製ワッシャが締結部品に当接して、ネジ頭部により押されたときに、締結部品のネジ用孔の周面または雌ネジ部側の摩擦トルク発生部によりモジュールネジに摩擦トルクが発生する状態となり、形状記憶合金製ワッシャの腕部を開く程度にまで強く捩じ込まなくとも大きな締め付けトルクを発生させることができる。
【0011】
また、前記締結体構造において、前記摩擦トルク発生部は、前記周面を粗面加工により形成した粗面加工面とする構成とした。
このように構成した締結体構造は、モジュールネジが締め付けられたときに、ネジ頭部が形状記憶合金製ワッシャを押圧しても、形状記憶合金製ワッシャの当接している締結部品のネジ用孔の周面には、粗面加工面が形成されているため、形状記憶合金製ワッシャの当接面との摩擦が大きく、形状記憶合金製ワッシャの腕部を開くことを抑制する状態となる。
【0012】
さらに、前記締結体構造において、前記摩擦トルク発生部は、予め粗面加工が施された粗面シートを前記周面に設置した構成とした。
このように構成した締結体構造は、モジュールネジが締め付けられたときに、ネジ頭部が形状記憶合金製ワッシャを押圧しても、形状記憶合金製ワッシャの当接している締結部品のネジ用孔の周面には、粗面加工された粗面シートが設置されているため、形状記憶合金製ワッシャの当接面との摩擦が大きく、形状記憶合金製ワッシャの腕部を開くことを抑制する状態となる。
【0013】
そして、前記締結体構造において、前記摩擦トルク発生部は、予め前記雌ネジ部の入り口に前記モジュールネジの雄ネジ部の直径より小径なリング孔を有するフリクションリングを設けた構成とした。
このように構成した締結体構造は、モジュールネジの雄ネジ部を締結部品のネジ用孔に差し込み雌ネジの入り口に設けたフリクションリングのリング孔に強制的に捩じ込むことで、フリクションリングと雄ネジ部との間に摩擦トルクが発生する。そのため、モジュールネジのネジ頭部が形状記憶合金製ワッシャを開かせるほど強く押すまでモジュールネジを締め付けなくとも、締結部品を締め付ける十分な締め付けトルクをモジュールネジが発生させる。
【0014】
また、前記締結体構造において、前記摩擦トルク発生部は、前記雌ネジ部内に樹脂コーティングを施す構成とした。
このように構成した締結体構造は、モジュールネジの雄ネジ部を、締結部品のネジ用孔に差し込み雌ネジ内に設けた樹脂を介して強制的に捩じ込むことで、樹脂により雄ネジ部と雌ネジ部との間に摩擦トルクが発生する。そのため、モジュールネジのネジ頭部が形状記憶合金製ワッシャを開かせるほど強く押すまでモジュールネジを締め付けなくとも、締結部品を締め付ける十分な締め付けトルクをモジュールネジが発生させる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る締結体構造は、摩擦トルク発生部を備えることで、解体時のことを考慮したネジ頭部の構成である皿ネジ形状のネジ頭部および形状記憶合金製ワッシャを用いても、形状記憶合金製ワッシャを開かせることなく、ドライバ等により大きなトルクがかけられてもモジュールネジを締め付けることができる。そのため、締結体構造は、確実にかつ強固に締結部品を締結させることができると共に、解体時に加熱するだけで、形状記憶合金製ワッシャの腕部を開かせて締結部品を取り除き易くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、締結体構造の全体を模式的に示す分解斜視図、図2(a)、(b)は締結体構造を示す断面図および解体状態を示す断面図、図3(a)〜(g)は、本発明に係る締結体構造体の締結手順および分解手順を一部を切り欠いて示す斜視図である。
【0017】
図1および図2(a)に示すように、締結体構造1は、モジュールネジ2と、形状記憶合金製ワッシャ3とを備えるネジ部材4を使用して、締結部品10に設けたネジ用孔11の周面(または雌ネジ21側)に形成した摩擦トルク発生部12を介して、設置面20に設けた雌ネジ部21に、モジュールネジ2により締結部品10を締結するものである。なお、ここでいうモジュールネジ2は、一般的なネジのことを指し、皿ネジ加工を施したネジ頭部2aに連続する雄ネジ部2dを備えているもの、あるいは、皿ネジ加工を施したネジ頭部2aにシャンク2cを介して雄ネジ部2dを備えるものである。
【0018】
図1および図2(a)に示すように、モジュールネジ2は、皿ネジ加工を施したネジ頭部2aと、このネジ頭部2aに連続して形成されたシャンク2cと、このシャンク2cに連続して形成された雄ネジ部2dとを備えている。
【0019】
ネジ頭部2aは、後記する締結部品10のネジ用孔11の直径より小さい直径に形成されている。また、このネジ頭部2aは、その頭部下面に皿ネジ加工により形成された傾斜面2bが、傾斜角度(皿角)θを、広い締め付けトルク幅で部材を締結させることができ、かつ、解体時には形状記憶合金製ワッシャ3が容易に抜け出るように設定されている。具体的には、ネジ頭部2aの傾斜面の傾斜角度(皿角)θは、発生するプリベイリングトルクの大きさを基にして、90〜175度の範囲となるように設けられている。ネジ頭部2aの傾斜面2bは、その傾斜角度θが90度未満であると、形状記憶合金製ワッシャ3を介して所定の締付力をかけることができない状態となる(プリベイリングトルクが所定の値以上かけられない)。また、傾斜角度θが175度を越えるようになると、形状記憶合金製ワッシャ3を予め取り外しやすくするための皿ネジ加工を施した意味がない。したがって、ネジ頭部2aは、その傾斜角度θを90〜175度の範囲に設定している。なお、傾斜角度θは、100〜170度であることがさらに望ましい。
【0020】
シャンク2cは、ネジ頭部2aと雄ネジ部2dとの間に形成されており、雄ネジ部2dの直径より大きく、ネジ頭部2aの直径より小さく形成されている。このシャンク2cは、モジュールネジ2を締付ける作業を行う場合に、形状記憶合金製ワッシャ3を係合して形状記憶合金製ワッシャ3が抜け落ちないようにするためのものである。
雄ネジ部2dは、後記する設置面20に設けた雌ネジ部21と対として使用されるものである。この雄ネジ部2dは、その先端が尖がるように形成されている。
【0021】
図1および図2(a)に示すように、形状記憶合金製ワッシャ3は、ほぼC字形状に加工して形成されている。そして、形状記憶合金製ワッシャ3は、後記する締結部品10のネジ用孔11の直径D2に対して、ワッシャ内径部が小さく、かつ、ワッシャ外径部が大きく形成されている。そして、形状記憶合金製ワッシャ3は、モジュールネジ2のネジ頭部2aの直径D1より、ワッシャ内径部が小さく、かつ、ワッシャ外径部が大きく、常温締結状態で最外形の直径がD3であり、ワッシャ内径部の直径がD1より小さくなる幅寸法を備えるように形成されている。この形状記憶合金製ワッシャ3は、ワッシャ腕部の位置が上下方向に互い違いとなるように形成してスプリング作用を発揮できるように形成されていてもよい。この形状記憶合金製ワッシャ3は、常温ではマルテンサイト相を呈して容易に変形でき、変態温度(マルテンサイト変態温度)以上ではオーステナイト相を呈して記憶された形状に回復する性質を備えており、必要とする変態温度に応じて各種の金属の混合割合を調整した合金組成物が使用されている。
【0022】
この形状記憶合金製ワッシャ3に使用される好ましい形状記憶合金としては、Ti−Ni合金等が挙げられ、この合金中に含まれるNi含有量は49.5at%〜51.0at%(原子パーセント)が好適である。また、このTi−Ni合金に、Cu、Fe、Cr、V、Nb、Co等を10at%以下の量で含有させた合金であってもよく、例えば、Ti−Ni−Cu合金が挙げられる。さらに、Cu−Al−Ni、Cu−Zn−Al、Cu−Al−Ni−Mn−Ti、Cu−Al−Mn、Cu−Zn等のCu系合金であってもよい。その他に、Au−Cd、In−Ti、Fe−Pt等の合金も使用可能である。
【0023】
形状記憶合金製ワッシャ3にTi−Ni合金を使用するときには、変態温度以上の温度である200〜300℃で形状記憶処理を行い(例えば、輪状体に切り欠き[隙間]を形成したC字形状や弧状にする)、室温(常温)締結時に必要な所定の形状に加圧加工する(例えば、切り欠き[隙間]を狭めたC字形状にする)。形状記憶合金製ワッシャ3は、例えば、マルテンサイト変態温度が75〜100℃である形状記憶合金の場合、この形状記憶合金を75〜100℃以上に加熱すれば、記憶させた形状、つまり、図2(b)に示すように、隙間を大きくして、ネジ頭部2aの直径よりワッシャ内径が大きく復元している。なお、ここでは、形状記憶合金製ワッシャ3は、特別な表面処理を施しておらず、通常の平滑な表面状態になっている。
【0024】
締結部品10は、モジュールネジ2のネジ頭部2aの直径より大きく形成したネジ用孔11と、このネジ用孔11の周囲に形成した摩擦トルク発生部12とを備えている。
摩擦トルク発生部12は、形状記憶合金製ワッシャ3に対面する位置に形成されており、ワッシャ座面に摩擦抵抗が発生するように形成されている。この摩擦トルク発生部12は、例えば、ブラスト加工を施して表面を粗面に形成している。また、摩擦トルク発生部12の形成範囲は、形状記憶合金製ワッシャ3に当接して摩擦トルクをモジュールネジ2に発生させることができれば、形状記憶合金製ワッシャ3の当接面全体でなくても一部であっても構わない。
【0025】
なお、ここでは、M2.6のネジを用い最大締付けトルクが40N−cmの場合を例にして説明すると、摩擦トルク発生部12として表面を粗面に形成した場合には、例えば、算術平均粗さRaの値が、0.0020〜0.0099の範囲となることが好ましい。Ra値が前記した範囲にあると、形状記憶合金製ワッシャ3に所望の摩擦トルクを発生させて形状記憶合金製ワッシャ3が開くことなしに、大きなトルク値で締結させることができる。なお、摩擦トルク発生部12として、より好ましい範囲としては、Raが0.0030〜0.0075となる範囲であるが、ネジサイズによって表面粗さの好ましい範囲は変わる。
【0026】
設置面20は、締結部品10をモジュールネジ2により締結する部位であり、モジュールネジ2の雄ネジ部2dに対応する雌ネジ部21が設置されている。
雌ネジ部21は、筒部材の内側にネジが形成されている構成や、あるいは、設置面20の部材に雌ネジ部が直接形成されている構成である。この雌ネジ部21は、モジュールネジ2の雄ネジ部2dの長さ寸法より長く形成されている。
つぎに、締結体構造1の締結手順および分解手順を図3(a)〜(d)を中心に、図2を適宜参照して説明する。
【0027】
はじめに、図3(a)に示すように、設置面20の雌ネジ部21に合わせて、締結部品10のネジ用孔11を連通する状態にする。
そして、図3(b)に示すように、モジュールネジ2に形状記憶合金製ワッシャ3が係合しているネジ部材4を用いて設置面20に締結部品10をネジ止めする。ネジ止めするときに、モジュールネジ2のシャンク2cには、形状記憶合金製ワッシャ3が係合されている状態であると作業性が向上する。
【0028】
図3(c)、(d)に示すように、モジュールネジ2は、手動あるいはロボットハンド等によりドライバDrで捩じ込まれる。このとき、モジュールネジ2により締付ける力は、締結力(締付トルク)として、20(N−cm)以上であり、好ましくは25(N−cm)以上、さらに好ましくは30(N−cm)以上となる場合がよい。
【0029】
締結体構造1では、モジュールネジ2がドライバDrにより締められるときに、形状記憶合金製ワッシャ3が締め付けトルクで広がろうとする力を、摩擦トルク発生部12により座面との摩擦抵抗によって抑えようとする。そのため、締結体構造1では、ワッシャ座面が接する締結部品10の表面にプリペリングトルクが発生させられるので、ワッシャ腕部が開くことなくモジュールネジ2による強固な締結を実現することができる。
【0030】
つぎに、部品を解体する場合、図3(e)に示すように、部品を解体する作業時に、形状記憶合金製ワッシャ3に室温より高い所定温度以上の熱風を吹きかけることで、形状記憶合金製ワッシャ3が記憶している形状に戻ろうとして、ワッシャ内径部がモジュールネジ2のネジ頭部2aの直径より大きくなるようにワッシャ腕部を広げる状態となる。
【0031】
そのため、図3(f)に示すように、形状記憶合金製ワッシャ3は、モジュールネジ2のネジ頭部2aから外れる。
そして、図3(g)に示すように、設置箇所全部の形状記憶合金製ワッシャ3(図では一つのみ記載)が外れることで、締結部品10が設置面20より外れる状態となり、設置面20に対して締結部品10が解体された状態となる。
あとは、モジュールネジ2を設置面20からドライバDr等により回転させて取り外すことで、モジュールネジ2、形状記憶合金製ワッシャ3、締結部品10および設置面20がそれぞればらされた状態となる。
【0032】
なお、すでに説明した図1ないし図3では、摩擦トルク発生部12は、締結部品10のネジ用孔11の周面に直接設けた構成として説明したが、図4(a)〜(c)に示す構成としても構わない。図4(a)〜(c)は、摩擦トルク発生部の他の構成をそれぞれ示す分解斜視図である。なお、すでに説明した構成と同じ部材は、同じ符号を付して説明を省略する。
【0033】
図4(a)に示すように、締結体構造1Aでは、サンドペーパのような表面を粗面にした粗面シート12Aを設置することで、摩擦トルク発生部としても構わない。
粗面シート12Aを使用する場合には、モジュールネジ2を締結部品10のネジ用孔11に差し込む前にロボットハンド等により設置すればよいため、締結作業工程中の流れにおいて摩擦トルク発生部12としての粗面シート12Aを介在させることができるため、都合がよい。
【0034】
また、図4(b)に示すように、締結体構造1Bでは、設置面20の雌ネジ部21側となる雌ネジ部21の入り口にフリクションリング12Bを設けることで、摩擦トルク発生部としてもよい。
フリクションリング12Bは、ここでは、雌ネジ部21の入り口にザグリ穴を形成し、そのザグリ穴に設置されている。このフリクションリング12Bは、環状体であって、雌ネジ部21の直径より大きな外径を有していると共に、雌ネジ部21(雄ネジ部2dの外径)の内径より小さな内径(リング穴)を有しており、ステンレスなどの所定厚みを有した金属板により形成されている。
【0035】
フリクションリング12Bを設置した場合には、モジュールネジ2はそのフリクションリング12Bのリング穴を削りながら雌ネジ部21に螺合されるため、摩擦抵抗が発生して、高い締結トルクを作用させても、形状記憶合金製ワッシャ3のワッシャ腕部を開かせることなく、締結部品10を締結することができる。
【0036】
さらに、図4(c)に示すように、締結体構造1Cでは、設置面20の雌ネジ部21側となる雌ネジ部21内に樹脂層12Cを設けることで摩擦トルク発生部としてもよい。
樹脂層12Cは、樹脂分散液や液状樹脂を塗布またはコーティングすることにより雌ネジ部21表面に設けている。なお、樹脂層12Cは、ここでは、ポリアミド樹脂を使用している。
【実施例】
【0037】
つぎに、実施例を通して本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
S45C相当焼き入れ鋼で作成した、大きさ80×30mmのテストピースを用意し、内径φ4.8mmのザグリ穴下部にM2.5雌ネジを加工した部位を等間隔に10ケ所、孔設した。各孔の周辺には、図5(a)、(b)に示すように、サンドブラスト加工によって粗面化処理を施したものと、図6(a)、(b)に示すように、各穴の周辺には、特に粗面化処理を施さなかったものとの2種類を準備した。粗面化の程度は算術平均粗さRaによって測定した。Ra値は、JIS B0601−1994に準拠し、測定した粗さ曲線を基にして、平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、この抜き取った部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計して平均した値である。なお、Ra値は、株式会社ミツトヨ製 3D CNC 画像測定機(クイックビジョン(登録商標)ハイブリットタイプI)を用いて測定した。
【0039】
粗面化処理品:Ra=0.0049(mm)=4.9(μm)
:Ra=0.0068(mm)=6.8(μm)
未処理品 :Ra=0.0003(mm)=0.3(μm)
一方、呼び径2.5mm、段径3.37mm、頭部径4.46mm、ネジ部長さ7.0mmの段付きモジュールネジで、皿角100°および170°の2種類を用意した。
【0040】
また、変態温度が63℃のTi−Ni合金を、通常の引き抜き加工によって線材へと成形し、その後、線材の上下を圧延機で圧延して断面を楕円形にし、外径がφ1.18mmのワイヤーとした。そのワイヤーを丸め内径3.56mmのC字型に加工して、形状記憶合金製ワッシャとし、前記した皿角の違いによる2種類のモジュールネジの段付き部(シャンク)に挿入した。
そしてテストピースに10ヶ所設けた各穴にワッシャ付きネジを30N−cmのトルク値で締め付け、締結状態を観察した。その結果、10箇所すべての位置で、粗面化処理がRa=4.9μmおよび6.8μmのいずれの場合も、ワッシャ腕部の広がりが初期設定の0.05μm以下であって、確実な締結状態が実現した。
【0041】
テストピースのワッシャ接触部分を粗面化処理すると、モジュールネジを強いトルクで締結しても、強固に締結することができた。しかし、粗面化を施さなかった場合には、いずれの皿角であっても、ワッシャ腕部が拡がり、締結できなかった。
【0042】
(実施例2)
S45C相当焼き入れ鋼で作成した、大きさ50×50mmのテストピースを2枚用意し、一方の板(A)には内径:φ5.7mmの穴を等間隔に4ケ所孔設した。各穴の周辺には、ブラスト加工は施さなかった。
もう一方のテストピース(B)には、内径:φ8.0mmのザグリ穴とその下部にM3.0の雌ネジを加工した部位を、テストピース(A)のテストピース穴と同間隔に4ヶ所、孔設した。そしてテストピースBのザグリ穴に厚みt=0.3mmのステンレス製リングを置き、もう一方のテストピース(A)で挟み込んだ。そのリングは、中心に内径2.6、2.7、2.8mmの穴(リング穴)がそれぞれ孔設された三種類のフリクションリングであった。
【0043】
また、変態温度が63℃のTi−Ni合金製で、外径がφ1.4mmのワイヤーを曲げて内径4.15mmのC字型に加工したワッシャと、呼び径3.0mm、段径4.0mm、頭部径5.5mm、皿角170°、ネジ部長さ7.0mmの段付きモジュールネジとを用いて、前記したように構成したフリクションリングを挟み込んだテストピースを、80N−cmのトルク値で締め付け、締結状態を観察した。
【0044】
孔径の異なる孔を設けた三種類のフリクションリングを使用したいずれの場合でも、80N−cmという高いトルク値であっても、ワッシャを開かせることなく、部品を確実に締結させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る締結体構造を模式的に示す分解斜視図である。
【図2】(a)、(b)は、本発明に係る締結体構造の断面図および分解した状態を示す断面図である。
【図3】(a)〜(g)は、本発明に係る締結体構造体の締結手順および分解手順を一部を切り欠いて示す斜視図である。
【図4】(a)〜(c)は、本発明に係る締結体構造の他の構成をそれぞれ示す分解斜視図である。
【図5】(a)、(b)は、本発明に係る締結体構造の実施例におけるブラスト加工を施した表面状態のRaを示すグラフ図および表面写真である。
【図6】(a)、(b)は、従来の締結体構造の実施例における表面状態のRaを示すグラフ図および表面写真である。
【符号の説明】
【0046】
1 締結体構造
2 モジュールネジ
2a ネジ頭部
2b 傾斜面
2c シャンク
2d 雄ネジ部
3 形状記憶合金製ワッシャ
4 ネジ部材
10 締結部品
11 ネジ用孔
12 摩擦トルク発生部
12A 粗面シート(摩擦トルク発生部)
12B フリクションリング(摩擦トルク発生部)
12C 樹脂層(摩擦トルク発生部)
20 設置面
21 雌ネジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
設置面に設けられた雌ネジ部と対で使用される雄ネジ部と、この雄ネジ部の一端側に設けられ皿ネジ形状に加工されたネジ頭部とを有するモジュールネジ、および、前記モジュールネジの雄ネジ部の軸径およびネジ頭部の直径に対応した寸法で形状記憶合金によりC字形状に形成された形状記憶合金製ワッシャを備えるネジ部材により、締結固定したい締結部品を、当該締結部品のネジ用孔に前記モジュールネジを連通させて前記設置面の雌ネジ部を介して締結する締結体構造であって、
前記形状記憶合金製ワッシャは、予め設定された所定温度以上に加熱されることで、ワッシャ内径部が前記ネジ頭部の直径より大きくなるように形状を記憶させており、
前記締結部品のネジ用孔は、前記モジュールネジのネジ頭部より大きな直径で、かつ、前記形状記憶合金製ワッシャのワッシャ外径部より小さな直径に形成されており、
前記ネジ用孔の周面で前記形状記憶合金製ワッシャと当接する位置に、前記モジュールネジに対して摩擦トルクを発生させる摩擦トルク発生部を設け、
前記摩擦トルク発生部は、前記周面を粗面加工により形成した粗面加工面からなることを特徴とする締結体構造。
【請求項2】
設置面に設けられた雌ネジ部と対で使用される雄ネジ部と、この雄ネジ部の一端側に設けられ皿ネジ形状に加工されたネジ頭部とを有するモジュールネジ、および、前記モジュールネジの雄ネジ部の軸径およびネジ頭部の直径に対応した寸法で形状記憶合金によりC字形状に形成された形状記憶合金製ワッシャを備えるネジ部材により、締結固定したい締結部品を、当該締結部品のネジ用孔に前記モジュールネジを連通させて前記設置面の雌ネジ部を介して締結する締結体構造であって、
前記形状記憶合金製ワッシャは、予め設定された所定温度以上に加熱されることで、ワッシャ内径部が前記ネジ頭部の直径より大きくなるように形状を記憶させており、
前記締結部品のネジ用孔は、前記モジュールネジのネジ頭部より大きな直径で、かつ、前記形状記憶合金製ワッシャのワッシャ外径部より小さな直径に形成されており、
前記ネジ用孔の周面で前記形状記憶合金製ワッシャと当接する位置に、前記モジュールネジに対して摩擦トルクを発生させる摩擦トルク発生部を設け、
前記摩擦トルク発生部は、前記周面に設置した予め粗面加工が施された粗面シートからなることを特徴とする締結構造。
【請求項3】
設置面に設けられた雌ネジ部と対で使用される雄ネジ部と、この雄ネジ部の一端側に設けられ皿ネジ形状に加工されたネジ頭部とを有するモジュールネジ、および、前記モジュールネジの雄ネジ部の軸径およびネジ頭部の直径に対応した寸法で形状記憶合金によりC字形状に形成された形状記憶合金製ワッシャを備えるネジ部材により、締結固定したい締結部品を、当該締結部品のネジ用孔に前記モジュールネジを連通させて前記設置面の雌ネジ部を介して締結する締結体構造であって、
前記形状記憶合金製ワッシャは、予め設定された所定温度以上に加熱されることで、ワッシャ内径部が前記ネジ頭部の直径より大きくなるように形状を記憶させており、
前記締結部品のネジ用孔は、前記モジュールネジのネジ頭部より大きな直径で、かつ、前記形状記憶合金製ワッシャのワッシャ外径部より小さな直径に形成されており、
前記雄ネジ部が螺合する前記雌ネジ部側に、前記モジュールネジに対して摩擦トルクを発生させる摩擦トルク発生部を設け、
前記摩擦トルク発生部は、予め前記雌ネジ部の入り口に設けられ前記モジュールネジの雄ネジ部の直径より小径なリング穴を有するフリクションリングからなることを特徴とする締結構造。
【請求項4】
設置面に設けられた雌ネジ部と対で使用される雄ネジ部と、この雄ネジ部の一端側に設けられ皿ネジ形状に加工されたネジ頭部とを有するモジュールネジ、および、前記モジュールネジの雄ネジ部の軸径およびネジ頭部の直径に対応した寸法で形状記憶合金によりC字形状に形成された形状記憶合金製ワッシャを備えるネジ部材により、締結固定したい締結部品を、当該締結部品のネジ用孔に前記モジュールネジを連通させて前記設置面の雌ネジ部を介して締結する締結体構造であって、
前記形状記憶合金製ワッシャは、予め設定された所定温度以上に加熱されることで、ワッシャ内径部が前記ネジ頭部の直径より大きくなるように形状を記憶させており、
前記締結部品のネジ用孔は、前記モジュールネジのネジ頭部より大きな直径で、かつ、前記形状記憶合金製ワッシャのワッシャ外径部より小さな直径に形成されており、
前記雄ネジ部が螺合する前記雌ネジ部側に、前記モジュールネジに対して摩擦トルクを発生させる摩擦トルク発生部を設け、
前記摩擦トルク発生部は、前記雌ネジ部内面に被覆した樹脂コーティングからなることを特徴とする締結構造。
【請求項5】
設置面に設けられた雌ネジ部と対で使用される雄ネジ部と、この雄ネジ部の一端側に設けられ皿ネジ形状に加工されたネジ頭部とを有するモジュールネジ、および、前記モジュールネジの雄ネジ部の軸径およびネジ頭部の直径に対応した寸法で形状記憶合金によりC字形状に形成された形状記憶合金製ワッシャを備えるネジ部材により、締結固定したい締結部品を、当該締結部品のネジ用孔に前記モジュールネジを連通させて前記設置面の雌ネジ部を介して締結する締結体構造であって、
前記形状記憶合金製ワッシャは、予め設定された所定温度以上に加熱されることで、ワッシャ内径部が前記ネジ頭部の直径より大きくなるように形状を記憶させており、
前記締結部品のネジ用孔は、前記モジュールネジのネジ頭部より大きな直径で、かつ、前記形状記憶合金製ワッシャのワッシャ外径部より小さな直径に形成されており、
前記ネジ用孔の周面で前記形状記憶合金製ワッシャと当接する位置、または、前記雄ネジ部が螺合する前記雌ネジ部側に、前記モジュールネジに対して摩擦トルクを発生させる摩擦トルク発生部を設けたことを特徴とする締結体構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−14123(P2009−14123A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−177704(P2007−177704)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【Fターム(参考)】