説明

縁取りされた作用区域を備える作用装置、オンチップラボ及びマイクロシステム

本発明は、作用区域を備える作用装置(1)に関する。該作用装置は、対象液体(E)に由来する小滴マトリクスを表面上に得ることを可能とする。該作用装置は、液体を作用ボックス内へ導入する手段(o)及び液体を作用ボックスから取り出す手段(s)を備える作用ボックス(Bo)と、作用ボックス内に封入される上記対象液体に対して実質的に非湿潤性である活性表面を備える基板(S)と、上記活性表面上に別個に形成されると共に上記活性表面上に形成された縁(b)によりそれぞれ囲まれる複数の作用区域(Zt)とを備える。縁がその間に共通の周縁を有さずに互いに連続せず、対象液体が作用ボックスから取り出される際に、対象液体の1つの小滴(g)が各縁によって捕捉されると共に縁によって囲まれた上記作用区域と接触するような幾何学的形状を有する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[発明の技術分野]
本発明は、縁取りされた作用区域を備える作用装置、該作用装置を備えるオンチップラボ及びマイクロシステムに係り、特に生物学的チップに関する。本発明はさらに、本発明の装置を製造する方法に関する。
【0002】
本願は、2003年10月31日付けで出願された出願番号第03 50762号のフランス特許出願に基づく優先権を主張するものであり、参照により本明細書中に援用される。
【0003】
本発明は、対象液体から表面上に局在化された高密度の小滴マトリクスを得ることを可能にする。本発明は、作用ボックスと称されると共に対象液体で満たされた閉鎖型の流体チャンバから対象液体が除去される場合、流体チャンバから、流体チャンバ内に設けられた表面上に完全に局在化された小滴マトリクス、すなわち微量体への容易な移行を可能にする。
【0004】
小滴マトリクスという用語は、前記小滴の所定の配置を意味し、前記配置のどのような特定の幾何学的形状も必要としない。小滴マトリクスは、円形、正方形、多角形及び任意のものであってもよく、必要不可欠な要素は、形成された小滴が本発明により達成される目的に応じて表面上に局在的且つ所定の方法で配置されていることである。本発明の文脈において、「局在化された」という用語は、本発明の装置を用いて上記表面上に故意に捕捉された他の小滴から区切られ、個別化され、及び区別されることを意味する。
【0005】
各小滴に、対象液体中に存在するか又は存在する可能性のある1つ以上の検体、例えば、分子、オリゴヌクレオチド、タンパク質等を定性的及び/又は定量的に分析する1つ以上の操作を行ってもよい。小滴中の検体については、分析を行う当業者に既知の任意の技術により分析することができ、特に小滴ほどの少ない液量で分析され得る。この分析は、生物学的チップ上で用いられる分析技術を伴ってもよい。分析は、本発明の実施態様によれば、小滴で覆われた本発明の装置の表面を伴っても、伴わなくてもよい。
【0006】
各小滴は、化学反応又は生化学反応が実行され得る容積を形成する。当業者にとって既知である任意の化学反応又は生化学反応が、この容積内で実行され得る。これらの反応は、本発明の実施態様に応じて、小滴で覆われた本発明の装置の表面を伴っても、伴わなくてもよい。これらの反応が小滴で覆われた本発明の装置の表面を伴う場合、反応はこの表面上に連続して堆積された1つの小滴又は数個の小滴により行われてもよく、これらの連続的な小滴は、本発明の実施態様に従って、1つの又は複数の異なる対象液体から構成される。本発明の装置上で2つの異なる対象液体を伴う化学反応の一例として、第1の対象液体の小滴を使用して、該小滴により覆われた表面上の有機ポリマーのフィルムを局在的に堆積させ、次いで、第2の対象液体の小滴を使用して、当該表面上に堆積された有機ポリマーフィルムを機能化することが挙げられる。
【0007】
本発明によると、化学/生化学分析及び反応は、本発明による装置上で排他的に実行され得る。この場合、分析及び反応は、同時(反応及び分析)、又は連続的(反応に続いて分析、又は分析に続いて反応)であってもよい。さらに、数種の分析及び/又は数種の反応が相互に連続してもよい。例えば、本発明の装置は、一方では、流体の取り扱い、化学反応及び/又は生化学反応、光学、電気及び/又は化学検出チップ等の、対象液体の定性分析及び定量分析に必要な全ての過程が組み込まれたカード、すなわち(例えば、ポリマーを堆積させる化学反応とその後の機能化による)オンチップラボ(「ラボオンチップ」)の製造に好適に使用され、他方では、分析される対象液体の小滴における定性分析及び/又は定量分析(化学/生化学反応及び分析)を実行する該カード、すなわちオンチップラボの使用に好適に使用される。
【0008】
本発明の明細書において、角括弧[ ]内の符号は、添付された参考文献リストを表す。
【背景技術】
【0009】
[従来技術]
検討される出願に応じ、本発明は、小滴の形成、微量体における作用、及び高い小滴密度を有するマトリクスの一般的な分野に関する。
【0010】
液相を分離するための局在化された区域の形成は、通常、生物学的チップ、特にDNAチップの分野において行われる。これらの用途に関して、反応量は、生物学的産物及び試薬を節約するため非常に少ないことがよくある。
【0011】
局在化された小滴、及び高い小滴密度を有するマトリクスの形成に関して、プロトジーン ラボラトリーズ社(Protogene Laboratories Inc.)[1]及びアフィメトリックス社(Affymetrix Inc.)[2]は、自動分配システムを用いた技術を使用している。これらのシステムは、小滴の形成、及び表面上に高密度のスポット又は小滴を有するマトリクスの形成をもたらす。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、小滴分配システムに加えて、これらの技術は全て、このシステムの正確な移動及び配列のための装置、並びに液体供給装置を必要とする。この装置は、大変高価である。さらに、形成され得る小滴マトリクスの最大密度は、分配される小滴のサイズと分配システムのスポット間の最小間隔との組み合わせにより限定される。
【0013】
2つの主な例を、高密度の微小凹部を有するマトリクスの形成に関して挙げることができる。すなわち、数ピコリッターという微量でPCRによりDNA単位複製配列を得るために、シリコンウェハにおいてエッチングすることにより微細加工された凹部のネットワークの形成、及びプラスチック基板に堆積されたフォトレジスト上のフォトリソグラフィによる窪み又はチャネルの形成である[3]。これらの技術に関して、窪みの数は100〜9,600個で変化し、これらの窪みは60〜500μmの直径及び5〜300μmの深さを有する。
【0014】
しかしながら、これらの凹部の縁は、凹部内の液相と外側の液相との間に物理的分離が無い状態であり、したがって凹部間の接触、及びそれゆえ凹部間の汚染を許してしまう。さらに、それらの使用に関して、これらの装置は、小滴分配システム、システムの正確な移動及び配列のための装置、並びに液体供給装置を必要とする。これにより、上記と同様の欠陥及び問題が生じる。
【0015】
生物学的試験における電気検出又は電気化学検出に関して、文献に記載された多数の電気検出システム又は電気化学検出システムは、検出限界、すなわち各混成により生成される少数の電子にしばしば起因する限度の観点から、ナノモル未満に下げることができない。
【0016】
酵素の蓄積を伴う技術は、反応媒体において検出される酸化還元種の数を大幅に増幅するため、この検出限界を約1ピコモルまで下げるのを助ける[4]。しかしながら、この増幅法によって、酸化還元化合物が拡散し、それゆえ隣接スポットを汚染する可能性があるため、現在既知のマルチスポットシステムに問題が生じる。
【0017】
この目的のために、ほとんどの場合、三次元構造の使用(区画の使用)が文献で推奨されている。例えば、インフィネオン(Infineon)[6]は、スポットを規定容量に制限し、それによりスポット間汚染を防止するために、ポリマー壁及び電力による分子移動用システムを提案している。残念ながら、例えば、非常に細かい液流において作用する場合、この種のアプローチは流体充填問題に直面する可能性がある。ここでまた、小滴分配装置が必要不可欠となる。
【0018】
それゆえ、対象液体を用いて高密度の小滴マトリクスを容易に得る装置であって、いかなる小滴分配装置も用いずに使用することができ、製造し易く、小滴間の汚染を有効的に避け、且つ、当業者にとって現在既知である、集合的又は個別的に微量体を分析する全ての方法に関して、例えば、化学、電気若しくは光学プロセス又はそれらの組み合わせのいずれかのためのオンチップラボに非常に柔軟に使用し得る装置が真に求められている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
[発明の概要]
本発明は、作用装置であって、
前記作用装置は、
作用ボックスであって、対象液体を作用ボックス内へ導入する手段及び対象液体を作用ボックスから取り出す手段を備える作用ボックスと、
前記作用ボックスに含有される対象液体に対して実質的に非湿潤性である活性表面を備える基板と、
活性表面上に形成され、前記対象液体に対して実質的に非湿潤性である活性表面上に形成された周縁によりそれぞれ囲まれる複数の別個の作用区域であって、周縁は互いに接触しないと共に共通の縁を有さない、複数の別個の作用区域と
を備え、
対象液体を作用ボックス内へ導入する前記手段及び対象液体を作用ボックスから取り出す前記手段は、前記対象液体が前記作用ボックス内に導入される際に、作用区域及びそれらの各周縁を覆うように、上記作用ボックス上に配置され、
前記周縁は、対象液体が前記作用ボックス内に導入された後であって前記作用ボックスから取り出される際に、対象液体の小滴が各周縁により取り囲まれると共に該周縁が囲む作用区域に接触するような幾何学的形状を有する、作用装置
を提供することによって、上記の要求、及び以下に説明される他の要求も明確に満たす。
【0020】
本発明はまた、本発明よる装置を備えるオンチップラボを提供することによって、上記の要求を満たす。
【0021】
本発明はまた、本発明よる装置を備えるシステムを提供することによって、上記の要求を満たす。
【0022】
本発明の装置は、小滴分配装置を用いずに、作用ボックスから構成される流体チャンバ中に存在する対象液体の容量を、作用区域を囲む周縁により得られる独立した微小凹部によって保持される、前記液体の多数の小滴へと移行させることを可能とし、この装置内に、例えば、光学的、電気的、磁気的、機械的、静電気的なセンサ又はアクチュエータが存在してもよい。
【0023】
本発明の状況において、液体の小滴マトリクスを形成するように、本発明による装置の周縁によりこの液体を捕捉しようと意図する場合、この液体は「対象」になると考えられる。
【0024】
「対象液体」という用語は、例えば、分析目的、及び/又は、化学的目的及び/又は生化学的目的のために、支持体上の小滴マトリクスとしての配置を要求する可能性のある任意の液体を意味する。「化学的目的、及び/又は生化学的目的」という用語は、液体中で実行され得る化学反応、及び/又は生化学反応を意味する。「分析目的」という用語は、液体中で実行され得る任意の定性分析及び/又は定量分析を意味する。
【0025】
対象液体は、有機物または水溶性であってもよい。それは、実験室又は産業界、例えばオンチップラボ、において現在取り扱われる液体のいずれか1つであってもよい。それは、例えば、溶液、溶媒、試薬、試料、細胞抽出液、動物生体又は植物生体から取り出されたサンプリング、自然又は産業から取り出されたサンプリング等から選択される液体であってもよい。それは、生物学的又は化学的な液体であってもよい。この対象液体は、オンチップラボの場合のように、本発明の装置と共に用いるために、必要であれば、希釈された液体であってもよい。固体産物を溶液中に入れて、本発明の状況における対象液体を生成することができる。この固体産物は、例えば、化学的産物又は生化学的産物、試薬、分析対象材料、動物生体又は植物生体から取り出されたサンプリング、自然又は産業から取り出されたサンプリング等から選択されてもよい。当業者は、このような産物及び対象液体の取り扱いを理解している。
【0026】
本発明の装置の基板は、支持体を実際に構成し、支持体は、活性表面がその作用区域及びそれらのそれぞれの周縁を有するように形成される。基板は、本発明を実施するための任意の適切な材料から作られてもよい。それは、例えば、オンチップラボ、生物学的チップ、マイクロシステム等を製造するのに使用される基礎材料の1つであってもよい。それは、例えば、シリコン、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、ガラス、プラスチック、有機ポリマー、及び金属又は合金から成る群より選択される材料であってもよい。有機ポリマーは、例えば、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルメタクリレート、ポリクロロビフェニール及びシクロオレフィンコポリマーから成る群より選択されてもよい。金属は、例えば、Au、Ti、Pt、Al、Ni、Sn及び合金から成る群より選択されてもよく、合金は、ステンレス鋼であってもよい。
【0027】
活性表面という用語は、作用区域がそれらの周縁により囲まれるように形成される基板の表面を意味する。本発明によれば、基板は、1つ以上の活性表面を備えていてもよい。活性表面は、対象液体に対して実質的に非湿潤性であると共に本発明を実施するのに好適な任意の材料から構成されてもよい。実際、本発明の装置の操作は、活性表面が対象液体を非常に少量保持するか又は全く保持しないという事実にいくらか基づいており、それゆえ、周縁間の表面上に対象液体を保持しないと共に乾燥させることなく、全体の容易な脱湿潤を可能にする。したがって、対象液体の小滴は、周縁によって選択的且つ排他的に捕捉され、周縁が囲む作用区域に対して区切られており、このため、小滴間、それゆえ作用区域間の汚染のいかなる問題も回避される。
【0028】
対象液体に対して実質的に非湿潤性である表面という用語は、対象液体が低い付着性を有する表面、すなわち、対象液体をこのような表面上に流しても、跡又は小滴を全く残さない表面を意味する。しかしながら、対象液体が表面を全く濡らさない場合には、捕捉が困難となってしまうため、実際には不可能である。同様に、表面が全体的に濡れると、対象液体を完全に除去することは不可能となってしまう。したがって、好ましくは、実質的に非湿潤性の表面は、本発明の装置が意図する対象液体との接触角を少なくとも60°、好ましくは60〜90°とする。例えば、対象液体が水溶性である場合、活性表面を形成する材料は、好適には疎水性であり、好ましくは60〜110°の接触角を有する。
【0029】
対象液体に対してすでに実質的に非湿潤性である材料から基板が構成されるのであれば、化学変化は基板表面内で必要とされない。
【0030】
対照的に、基板表面が対象液体に対してすでに実質的に非湿潤性ではない場合、表面処理は、表面を実質的に非湿潤性とするために必要であるかもしれない。この場合、活性表面の材料は、特に、小滴マトリクスを形成する対象液体に応じて、基板に応じて、及び作用区域にも応じて選択される。活性表面は、基板表面の化学変性により、又は対象液体に対して実質的に非湿潤性である材料のこの表面上の堆積により、基板上に形成されてもよい。
【0031】
例えば、対象液体が水溶性である場合、活性表面を形成する材料は、好適には疎水性である。例えば、基板を形成する材料の上記の例では、基板表面は、化学変性、例えば疎水性官能基を含有するシラン、例えば1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルトリクロロシランを用いたシラン処理により、非湿潤性、つまり疎水性となり得る。それはまた、例えば、ターンテーブル上の液体テフロン(登録商標)の堆積、疎水性シランの気相シラン処理、ハイドロカーボンシラン、例えばオクタデシルトリクロロシラン型の使用であってもよい。このような化学変性を実施するのに適した材料及び方法は、当業者にとって既知である。1つの実施形態を以下に示す。
【0032】
この活性表面、したがってまた、活性表面が形成される基板の形状及びサイズは、本発明の装置の操作に無関係である。それらは、例えば、活性表面に形成された作用区域と連結する周縁の数、任意選択的にこの表面上の配置、及び使用構成における装置の所望のサイズ及びコスト設計にも応じて確定されてもよい。周縁間の、対象液体の望ましくない保持を避けるために、作用区域及びそれらの周縁を備える基板表面は、好ましくは平面である。一例として、活性表面は、オンチップラボ、並びに当業者に既知の分析マイクロシステム及び検出マイクロシステムに使用されるものに匹敵する形状及びサイズを有していてもよい。
【0033】
本発明によると、「周縁」という用語は、非接合凹部を作成するために基板上に形成されたレリーフにおける構造を意味する。これらの凹部は、基体に「埋め込まれ」てはいないが、それらの周縁によって基体表面上に作成される。本明細書に添付される図1は、2種類の凹部の断面における模式図を示している。左側に、基板(S)に「埋め込まれ」ている従来技術の凹部(c)を示し、右側に、本発明による、すなわち基板(S)上に周縁(b)によって形成された凹部(c)を示している。それゆえ、本発明によると、凹部の周縁間の空き領域は、対象液体の流れに関して利用可能である。これらの周縁はそれゆえ、対象液体の小滴(g)の大いに局在化した捕捉をそれぞれ可能とする。「局在化した」という用語は、上記に定義される。例えば、装置の基本使用では、これらの周縁、及び周縁が形成する凹部を被覆するために、対象液体を活性表面上に流すことによって、周縁は、凹部において対象液体の小滴を捕捉又は保持すると同時に、対象液体に対して実質的に非湿潤性である活性表面は、対象液体を非常に少量保持するか又は全く保持しない。対象液体の流れを止めることによって、周縁が囲む作用区域上の1つの周縁当たり、この液体一滴のみが局在的に保持される。
【0034】
周縁、すなわち壁の正確な形状は限定的なものではなく、用途及びそれらを製造するのに利用可能な製造方法に応じて適合させてもよい。本発明によると、それぞれの周縁が、対象液体の小滴を捕捉又は取り囲むことができ、且つこの小滴が上記の周縁により囲まれる作用区域と接触するのであれば、任意の形状を有していてもよい。一例として、周縁は、三角形、矩形、円錐形、円錐台形、半円形、半楕円形からから選択される、活性表面から周縁の上部までの方向における断面を有していてもよい。図2は、断面において、基板(S)上に形成された本発明による周縁(b)の種々の可能な幾何学的形状を模式的に示している。また、一例として、周縁は、それらの作用区域の周囲に上方から見て、環状形、星形、矩形、正方形、三角形、楕円形又は4〜20の辺を有する多角形から選択される形状を有していてもよい。図3は、上方から見た、周縁が囲むそれらの作用区域(Zt)を取り囲む種々の形状を有する、本発明による周縁(b)の模式図である。
【0035】
縁の高さ対凹部の直径の比率は、凹部において対象液体の小滴の適切な保持を制御する関数である。周縁が、与えられた直径に対して高すぎると、対象液体は、これらの周縁により形成された凹部を満たすことができず、それゆえ保持されることができない。対照的に、周縁の高さが、与えられた直径に対して低すぎると、吸引に対する障害として周縁が役割を果たすことができないため、対象液体はこれらの周縁により形成された凹部内に保持されない。したがって、一例として、本発明によると、周縁は、環状形状を好適に有し、任意に、上述した幾何学的形状の1つを有する。これらの形状では、活性表面上方の高さ(h)は5〜20μmであり、活性表面の高さでの環状の断面(e)は20〜100μmであり、及び作用区域と接する周縁内部の直径(D)は15μm〜5mmである。
【0036】
本発明によると、活性表面はまた、以下のように定義してもよい(符号に関する情報は図1を参照のこと)。
D: 例えば15μm≦D≦5mmである小滴の内部直径
L: 小滴の間隔
e: 例えば20μm≦e≦100μmである壁の最も広域なセクション
h: 例えば5μm≦h≦20μmである壁の高さ
ここでh/D<0.15、e/D<0.33、及びh/L<0.3である。
【0037】
周縁は、以下の規則に従って作成される。それらは、周縁が互いに接合してない縁を有する閉鎖系境界線を規定する壁状レリーフ構造である。これらの周縁は、特にオンチップラボ及び分析マイクロシステムの分野における、上述の基板材料を造形するための当業者に既知の任意の方法によって、又は表面上にレリーフを造形するための当業者に既知の任意の方法によって、例えば材料の堆積及びエッチングによって製造してもよい。一例として、本発明による周縁を製造するのに使用可能な当業者に既知の方法の中でも、基板の直接エッチングと、例えば、コーティング、蒸着、噴霧又は電気めっきによる平面基板表面上の材料の堆積、次いで例えば、レジストによるコーティング、露光及び特徴の確定、又はエッチングによる従来のフォトリソグラフィ法と組み合わせたエッチングと、例えばフォトレジストの場合に、感光性ポリマーにおけるフォトリソグラフィによる特徴の直接的な確定と、例えば、プラスチック又は活性表面を形成する基板の成形又はプレス加工(emboutissage)とを挙げることができる。
【0038】
本発明による周縁は、特に、基板上の数個の層の技術的な積み重ねの最終工程時に製造され得る。より低い層は、例えばMEMS(「微小電子機械システム」)型若しくは光学MEMS型の、又は作用区域を形成するよう意図される、化学的又は生物学的な関心を有するグラフト化分子の、アクチュエータ、又は機械、光学若しくは電気検出器を含んでもよい。凹部は、例えば、共通の縁を有さないように、基板表面上にチェッカーボードパターンに配置されてもよい。
【0039】
本発明によると、任意選択的に、周縁は、活性表面に対して周縁の最上部で及び/又は周縁が囲む作用区域と反対側の周縁の斜面で、対象液体に対して湿潤性であってもよい。この選択肢は、必要であれば、周縁により捕捉された対象液体の小滴の保持を促進することを可能にする。この湿潤性は、本発明の装置が意図する、対象液体に対して湿潤性である化学官能基を有するこの材料へのグラフト化により、例えば、シリコン、二酸化ケイ素(SiO)、ガラス、窒化ケイ素(Si)、すなわち基板を作成するのに好適な材料から成る周縁上で得ることができる。例えば、対象となる水溶液に対して湿潤性である化学官能基は、アルコール、アルコレート、カルボン酸、カルボキシレート、スルホン酸、スルホネート、オキシアミン、ヒドラジン、アミン及びアンモニウム基から選択され得る。
【0040】
水溶液に対して湿潤性とするのに化学変性を必要としない疎水性黒色酸化シリコンを形成するために、基板がエッチングによりシリコンに基づいている場合にも、この湿潤性はまた得ることができる。このため、この経済的な実施形態は、対象液体が水溶性である場合に好ましく使用される。文献[10]は、この実施形態を実施するのに好適な手順を記載している。
【0041】
表面の種類、凹部の外側、及び好適には凹部の内側も、本発明の装置の良好な総合機能に関する重要なパラメータである。凹部の形成前又は形成後に、基板上の区域、すなわち凹部間及び好適には凹部の中心部の親和性を改質するために、基板表面を実質的に非湿潤性にするための基板表面の処理がもたらされ得る。したがって、対象液体の吸引による除去は、対象液体と凹部間の表面との間の弱い親和性により促進される。さらに、凹部の中心部は、好適には液相に対する良好な親和性を有しており、凹部における対象液体の小滴の捕捉を促進し得る。
【0042】
意外なことに、本発明者等は、基板表面全体、すなわち周縁により形成された凹部の中心部及び凹部間の表面が、対象液体に対して親和性がほとんどない場合、特に対象液体に対して実質的に非湿潤性である場合には、たとえ対象液体に対して非湿潤性であってもやはり、吸引時の凹部における液相の捕捉が、本発明による凹部の壁が存在するために、達成され得ることを観測した。それゆえ、本発明に従って、作用区域は、対象液体に対して非湿潤性である区域であってもよい。本発明のさらなる利点は、対象液体の捕捉が、従来の装置よりも表面状態又はその経時変化にあまり左右されないことである。実際、凹部の中心部と対象液体との間の親和性が経時的に減少すると、捕捉は、本発明による周縁、すなわち壁が存在することにより保証される。
【0043】
好ましくは、本発明に従って、少なくとも1つの作用区域は活性表面と同じ平面内にあり、より好ましくは活性表面の全ての作用区域は活性表面と同じ平面内にある。周縁が作用区域の周囲に実在するので、したがって、これは本発明の装置の製造を促進する。
【0044】
本発明の文脈では、作用区域という用語は、物理操作及び/又は化学操作及び/又は光学操作が、作用区域を囲んでいる周縁(作用区域の周縁)によって捕捉された小滴において実施される区域を意味する。したがって、本発明に従って、少なくとも1つの作用区域は、捕捉された上述の対象液体の小滴との電気的、化学的、機械的若しくは光学的相互作用を有する区域、又は複数のこれらの相互作用が同時に又は連続的に用いられる区域から選択される相互作用区域であってもよい。
【0045】
それゆえ、本発明の第1の実施形態に従って、少なくとも1つの作用区域は、電気的相互作用を有する区域、例えば電気化学マイクロセルであってもよい。電気化学マイクロセルは、作用電極及び対電極を形成する少なくとも2つの電極を好ましくは同一平面上に有する装置である。それはまた、参照電極を有していてもよい。これらの構成要素は、当業者にとって既知であり、当業者に既知の製造方法、例えば参考文献[7]に記載される方法が、この作用区域を製造するために用いられ得る。
【0046】
この実施形態のために、本発明の装置は、反応媒体として、より正確には電気化学媒体として周縁により捕捉された対象液体の小滴を使用する純正の電気化学マイクロリアクタを構成することができる。本発明のこの第1の実施形態による各電気化学リアクタ(周縁+電気化学マイクロセルの形態である作用区域+捕捉された対象液体の小滴)を使用して、当業者に既知の任意の電気化学反応及び/又は電気化学分析を実施することが可能である。
【0047】
このリアクタは、例えば、マイクロセルの1つの電極上の対象液体の小滴中に存在する1つ以上のモノマーの局在的電解重合反応(重合又は共重合)、及び/又はマイクロセルの1つの電極上の対象液体の小滴中に存在する1つ以上の化学分子の局在的電解グラフト反応を実行するのに利用することができる。この例では、対象液体が、所望の電解重合又は電解グラフトに必要な試薬を含有する液体であってもよい。そのため、重合及びグラフトは、周縁により捕捉された対象液体の小滴に好適に局在化される。このような局在的電解重合反応又は局在的電解グラフト反応を用いて、例えば、生物学的チップ又は分析システムを製造することが可能である。
【0048】
特定の例では、本発明の装置の電気化学マイクロセルを使用して、まず、作用区域を「製造」し、次いで、例えば、これらの作用区域を、分析対象である対象液体の小滴の分析に用いることができる。例えば、作用区域が、プローブ(sonde)、例えば生物学的プローブによって官能基化された有機ポリマーを含む場合、作用区域は、プローブによって官能基化された導電ポリマーの電解重合、例えば以下の参考文献[5]に記載される方法によって製造することができる。本発明の装置の使用の特異性は、周縁が、電解重合に必要な試薬(有機モノマー)を含有する第1の対象液体の第1の小滴の各作用区域上での局在的捕捉に使用されることである。プローブによる官能基化は、電解重合と同時に達成され得る。この場合、第1の対象液体はまた、プローブを含有する(例えば、モノマーはこのプローブによって官能基化される)。官能基化はまた、同一の周縁により捕捉され、したがって同一の作用区域上に局在化された(プローブを含有する)第2の対象液体の第2の小滴を用いて、電解重合に続いて達成され得る。さらに、このように製造された作用区域をその後乾燥して、再び、作用区域を取り囲む周縁のため、プローブ(例えば、相補的オリゴヌクレオチド)と相互作用する標的を含有する、分析対象である第3の対象液体の小滴を捕捉するのに利用することができる。また、第4の対象液体を使用して、上述の作用区域上等のプローブ/標的相互作用及びその他を分析(検出及び/又は分析)することもできる。
【0049】
本発明による電気化学マイクロリアクタはまた、例えば、周縁により捕捉された小滴中に存在する検体の電気化学分析、定性分析、及び/又は定量分析を実行するのにも利用できる。それはまた、例えば、分子プローブ/標的相互作用の電気化学分析、定性分析、及び/又は定量分析を実行するのにも利用してもよい。ここで、プローブは作用区域に固定されており、標的は捕捉された対象液体の小滴中に存在している。
【0050】
1つの特定の例では、本発明の装置の電気化学マイクロセルを使用して、液体試料中に存在する標的を、例えば検出される標的と作用区域に固定された特定のプローブとの相互作用を用いて検出するため、例えば、各作用区域を取り囲む周縁により捕捉された、酵素基質を含有する対象液体の小滴中の酵素の蓄積によりシグナルを増幅することによって、上記の相互作用を電気化学的に検出することが可能である。文献[4]は、本発明の装置を用いた、この種の検出に使用可能な操作手順を記載している。
【0051】
作用区域上のプローブ/標的相互作用の検出は、電気化学セル、例えば本明細書中で検討される手段のうちの1つ、例えば光学法以外の、当業者に既知である手段の1つを伴っていてもよい。電気化学マイクロセルはそれゆえ、この場合には排他的に、作用区域を「製造」するのに利用可能であり、プローブ/標的相互作用の検出はそのため、別の手段によって達成され、又は、プローブ/標的相互作用を分析するのに利用可能であり、作用区域の製造は、別の方法、例えば生物学的チップ分野における当業者にとって既知である方法の1つによって実行される。
【0052】
電気化学マイクロセルの存在を特徴とするこの実施形態の実施態様に関係なく、プローブを作用区域上で使用する場合、プローブは、例えば、酵素、酵素基質、オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオシド、タンパク質、真核細胞又は原核細胞の膜受容体、抗体、抗原、ホルモン、生体の代謝物、生体の毒、ポリヌクレオチド、ポリヌクレオシド、相補的DNA又はこれらの混合物から成る群より選択され得る。プローブはむろん、相互作用すべき標的に応じて選択される。
【0053】
本発明の第2の実施形態によると、少なくとも1つの作用区域は、電気化学マイクロセルを使用せずに、捕捉された対象液体の小滴との化学的相互作用を有する区域であってもよい。この作用区域は、例えば、化学若しくは生物学官能基又は試薬を含んでいてもよく、これらの官能基又はこれらの試薬は、対象液体中に存在する官能基又は試薬の標的と直ちに反応する。第1の実施形態に関して、本発明の装置は、まず作用区域上にこれらの官能基又はこれらの試薬を置き、次に乾燥させた後、これらの官能基又はこれらの試薬の標的を含有する対象液体の小滴を捕捉するのに利用できる。
【0054】
少なくとも1つのこの作用区域は、生物学的チップ(アジレント社(AGILENT)、サイファージェン社(CIPHERGEN)、ユーロジェンテック社(EUROGENTEC)により販売されるチップ)の分野における当業者にとって既知であるものから選択され得る。本発明の装置とこれらの従来技術のチップとの相違点は主に、各作用区域を囲むと共に対象液体の捕捉を可能とする周縁の存在にある。少なくとも1つのこの作用区域は、例えば、参考文献[8]に記載されるような、シラン処理、次いで生物学的プローブの固定化によって調製され得る。
【0055】
少なくとも1つのこの作用区域は、例えば光学的に標的を検出するために、対象液体中に存在し得る対応する標的を固定する目的で、上述のような生物学的プローブによって官能基化されるポリマーを含む区域であり得る。例えば、上述のような基板上に、少なくとも1つのこの作用区域を、参考文献[9]に記載される方法によって得てもよい。
【0056】
本発明の第3の実施形態によると、少なくとも1つの作用区域は、センサ又はアクチュエータのような活性装置又は測定装置を有していてもよい。この実施形態は、上述の実施形態及び変形形態に追加されるか、又は、本発明の実施態様において達成される目的に応じて排他的であり得る。活性装置又は測定装置は好適に、周縁により囲まれる作用区域表面の中心部に位置される。
【0057】
作用区域がセンサを備える場合、それは例えば、電気センサ、磁気センサ、静電気センサ、機械センサ(例えば圧力センサ)、熱センサ(例えば温度センサ)、光学センサ(例えば光検知装置)及び化学センサから成る群より選択されてもよい。
【0058】
作用区域がアクチュエータを備える場合、それは例えば、光学アクチュエータ(光源)、電気アクチュエータ、磁気アクチュエータ、静電気アクチュエータ、機械アクチュエータ(機械的動作)、熱アクチュエータ(発熱抵抗器)及び化学アクチュエータから成る群より選択されてもよい。
【0059】
本発明の実施態様に使用可能なこのようなセンサ及びアクチュエータ、並びにそれらの製造方法は、特にマイクロシステム分野における当業者にとって既知である。ここでもまた、本発明の装置とこれらの従来技術のチップとの相違点は特に、各作用区域を囲む周縁の存在にある。
【0060】
本発明の方法の実施形態に関係なく、本発明による周縁によりそれぞれ囲まれるいくつかの作用区域が、基板上に配置され得る。例えば、オンチップラボ又はマイクロシステムの製造ための一般的な用途において、周縁によりそれぞれ囲まれる作用区域の数は、活性表面1cm当たり、例えば16〜3025個しかなくてもよい。対象液体の小滴が周縁により捕捉される場合、この小滴が少なくとも部分的に、この周縁により囲まれる全ての作用区域を覆うのであれば、本発明の変形形態に従って、いくつかの作用区域、例えば2〜4またはそれより多くが、1つの周縁によって囲まれていてもよい。
【0061】
一般的に、本発明の装置によって、様々な対象液体から成る様々な小滴は、1つの同一周縁によって、種々の目的、例えば周縁が囲む作用区域を製造する手順の連続工程を実行するため、例えばまた、対象液体中の検体の検出及び/又は分析の連続工程を実行するために、連続的に捕捉されてもよい。本発明に起因する利点は、対象液体の小滴の連続的な捕捉の対象物に関係なく、連続的に捕捉される小滴が全て、作用区域のそれぞれの周縁により、作用区域上に局在化される点である。
【0062】
本発明の装置はまた、作用ボックスを備えている。この作用ボックスは、本発明の装置の活性表面を対象液体で覆うために用いられるボックスである。この作用ボックスはまた、活性表面を限定し、及び/又は作用区域上に捕捉される小滴上又は小滴中において、分析を実行するのに用いることができる。後者の2つの場合には、本発明の装置はそれゆえ、純正の小型ラボを構成する。
【0063】
本発明の装置は、分析マイクロシステムのようなマイクロシステムにおいて、又は、例えば核酸チップ、抗体チップ、抗原チップ、タンパク質チップ及び細胞チップから成る群より選択される、生物学的チップを形成するために使用してもよい。
【0064】
この作用ボックスの寸法は、特に、作用ボックスに導入する必要がある活性表面を備えた基板の寸法に依存し、また、適用可能な場合には、上記作用ボックスに付与され得る他の分析装置又はマイクロシステム、例えば他のオンチップラボの寸法にも依存する。作用ボックスの寸法は、作用ボックスの最大の辺について1cm未満であってもよい。
【0065】
作用ボックスは、例えば、本発明を実施するために、有機ポリマー、エラストマー、ガラス、金属、シリコン、フォトレジスト、又は当業者にとって既知である任意の他の材料から成る群より選択される材料から作成され得る。例えば、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルメタクリレート、ポリクロロビフェニール及びシクロオレフィンコポリマーから成る群より選択されるポリマーであってもよい。
【0066】
作用ボックスの材料は通常、作用ボックスに導入される対象液体の種類、作用ボックスの使用(小滴マトリクスを形成するための対象液体による基板の単純な被覆、又は被覆及び分析又は他の機能(化学反応、電気化学反応若しくは生化学反応))、及び製造コスト設計に応じて選択される。作用ボックスは、本発明の装置の基板と同一の、又はそれとは
異なる材料から作成してもよい。
【0067】
作用ボックスは好ましくは、十分に密封され、例えば対象液体の導入時の漏洩、及び/又は作用ボックス外部から入りやすい汚染、例えば細菌若しくは化学物質等、及び/又は本発明の装置の作用区域を囲む周縁により捕捉される小滴の蒸発を防止する。
【0068】
作用ボックスの特定の実施形態に従って、基板及び作用ボックスが同一材料から作成される場合、基板は作用ボックスの壁の1つを構成してもよく、活性表面は作用ボックスの内部へ向けられている。
【0069】
作用ボックスの壁は、本発明の装置の活性表面から、及びその上に、例えば接着又は圧縮により組み立てられてもよい。
【0070】
作用ボックスは、その組み立てのために、また、特定の用途において開閉するために、特に、活性表面を有する本発明の基板を対象液体と接触させた後に、又は小滴における分析又は反応後に基板を作用ボックスから除去するために、カバーを備えてもよい。実際、1つのボックスはまた、同時又は連続的に、本発明による1つ、又はボックスの設計に応じていくつかの基板を浸漬するのにも利用することができる。作用ボックスはそれゆえ、作用ボックスに基板を固定する着脱式手段、例えばクリップを備え得る。作用ボックスがカバーを備えれば、作用ボックスは好ましくは十分に密封されて、対象液体が作用ボックスへ導入されるのを妨げる。
【0071】
カバーは、作用ボックス用に上述のような材料から作成してもよい。それは、例えば成形、プレス加工、エッチング又は機械的侵食等によって製造してもよい。それは、例えば、接着、加圧、めっき、又はカバーの使用に必要な結合性及び耐漏洩性を保証する当業者に既知のその他の手段によって、しっかりと作用ボックスに固定されて、作用ボックスを閉じてもよい。カバーはまた、引き続きカバーの使用に必要な結合性及び耐漏洩性を保証しながら、作用ボックスに着脱可能に固定してもよく、それによって、形成される同様の作用ボックスは、本発明によるいくつかの異なる基板上に、及び/又は様々な対象液体とともに、小滴マトリクスを設けるのに利用することができる。
【0072】
好ましくは、作用ボックスの材料、及び適用可能であれば、そのカバーは、本明細書において、対象液体に対して実質的に非湿潤性である。実際、これは、対象液体を取り出した後に、小滴が作用ボックス内部表面へ付着すること、活性表面上へ落下すること、及び周縁により捕捉された小滴における作用区域上の分析及び反応を阻害することを妨げる働きをする。表面処理は、本発明の装置の活性表面に関して、こうした結果を得るために必要であろう。これらの処理は、例えば、活性表面の製造で記載された処理であってもよい。
【0073】
本発明作用のボックスは、対象液体を作用ボックス内へ導入する手段、及び対象液体を作用ボックスから取り出す手段を備えていてもよい。これらの手段は、例えば2つの開口を備える。下記のもの以外に、これらの開口の位置、形状、数及び機能に関する制限はない。これらの開口は、対象液体の作用ボックス内への導入、その後の該液体の作用ボックスからの取り出しを可能とし、対象液体が作用ボックス内へ導入される際に、対象液体が活性表面の周縁を覆うように、及び対象液体が作用ボックスから取り出される際に、1つの周縁当たり、対象液体が一滴捕捉されるように配置されていなければならない。対象液体は、2つの異なる開口を介して作用ボックスに入ることが可能であり、作用ボックスから出ることも可能である。それはまた、対象液体を作用ボックスから除去するために、対象液体を取り出すのに必要な空気の通過を可能にすることによって、又はこの第2の開口を介してガス流体を注入することによって、2つの開口の1つのみを介して作用ボックスに入り、そして作用ボックスから出てもよく、この際、第2の開口は、対象液体を取り出すために機能する。
【0074】
特に、対象液体を作用ボックス内へ導入する手段及び作用ボックスから取り出す手段はそれぞれ、例えばエッチング、プレス加工、成形、フォトレジストの場合には露光、機械的な穴開け等によって、カバー又はボックスの壁に配置される開口を備える。
【0075】
対象液体を作用ボックス内へ導入する手段は、液体を作用ボックス内へ注入するために、当業者にとって既知である任意の適切な手段、特にオンチップラボ及びマイクロシステムの分野で用いられる手段を備えてもよい。これらの注入手段は、例えば、シリンジ、ピペット、マイクロピペット、注入ポンプ等から選択されてもよい。
【0076】
対象液体を作用ボックスから取り出す手段は、液体を作用ボックスから取り出すために、当業者にとって既知である任意の適切な手段、特にオンチップラボ及びマイクロシステムの分野で用いられる手段を備えてもよい。これらの取り出し手段は、例えば、手動又は自動注出ポンプであってもよい。
【0077】
例えば、本発明によると、対象液体を取り出す手段が、注出ポンプを備えるのであれば、これは、作用ボックスに形成された第2の開口を介して、作用ボックスから対象液体を放出するガス流体を、作用ボックスに注入できるように、作用ボックスに形成された第1の開口を介して、ガス流体を作用ボックス内へ注入するポンプの形態であってもよい。好適には、ガス流体注入ポンプがさらに、注入されたガス流体を対象液体の蒸気で飽和させる装置を備える。この飽和は、周縁により捕捉された小滴の蒸発を防止又は制限するように働く。
【0078】
また、例えば、取り出し手段が吸引ポンプを備える場合、これは、作用ボックスに形成された1つの開口を介して対象液体を吸引することにより作用ボックスから対象液体を取り出すことができるように、この開口に配置された吸引ポンプの形態であってもよい。好適には、対象液体の吸引によってもたらされる空気の吸気によって、ガス流体、例えば空気、不活性ガス、又は対象液体の蒸気で飽和されたガス流体の導入を可能とするように、第2の開口を作用ボックスに配置してもよい。
【0079】
本発明はさらに、本発明による装置を製造する方法であって、
基板を供給する工程と、
基板上に作用区域を形成する工程と、
作用区域を取り囲む周縁を形成するように、基板表面を構造化する工程と、
作用区域及びそれらの周縁が形成された表面を、対象液体に対して実質的に非湿潤性とするように処理する工程と、
ボックスを準備して、前記周縁により囲まれる前記作用区域を備える前記基板を前記ボックス内に導入する工程であって、前記ボックスが、対象液体をボックス内へ導入する手段、及び対象液体をボックスから取り出す手段を備える工程と、
前記ボックスを閉じる工程と
を含む方法に関する。
【0080】
基板、作用区域の形成、作用区域を取り囲む周縁を形成するよう意図される表面の構造化、実質的に非湿潤性とする基板表面の処理は、既に記載されている。
【0081】
本明細書の文脈では、本発明の方法が、いくつかの作用区域及びそれらを取り囲むそれぞれの周縁の同時又は連続的な形成を含んでいることが、明らかに理解される。
【0082】
様々な材料及びこの方法の工程は、既に記載されている。
【0083】
作用ボックス内の活性表面上で、周縁により形成される凹部毎に対象液体の小滴の捕捉を可能とする方法の進行は、
捕捉区域(単数又は複数)を覆うために、作用ボックス、すなわち流体チャンバを対象液体で完全に又は部分的に充填し、次いで
対象液体を作用ボックスから取り出す
ように、おおよそ記載することができる。
【0084】
活性表面は非湿潤性であり、捕捉区域のみがそれぞれ、対象液体の小滴を保持する。小滴を分配するさらに高価な装置は必要ない。なお、作用区域の数は、この装置の範囲によってもはや制限されない。
【0085】
本発明の発明者等はまた、驚くべきことに、対象液体の取り出しが、(これらの基板表面がくり抜かれて凹部を形成するが、本発明のように周縁が形成されていないため、実際には凹部ではない)凹部の縁が接合されている従来技術の基板上よりも、より容易にもたらされる。なぜならば、凹部間の開放された区域が、流体の流れのための多数のチャネル等を形成するからである。さらに、本発明の作用区域及び周縁の特定の配置は、表面上のレリーフの製造と組み合わされて、一度吸引が行われると、1つの凹部から別の凹部への液体のどのような連通も防止するよう機能する。
【0086】
本発明の装置の使用は、集合的に行われる操作、次いで形成された各小滴における個別的な操作を連続して行うことが可能であるため、高い順応性を示す。それゆえ、集合的な操作と呼ばれる第1の操作において、本発明の装置は、例えば上記作用ボックス内へ注入される対象液体の流体流れの、互いに独立した、小滴マトリクス、すなわち微小体への通過を可能とする。次に、当業者とって既知である検出方法及び/又は化学反応若しくは生化学反応は、周縁により捕捉された各小滴において、個別的に(個別的な操作)、並行して、又は連続的に実施され、対象液体中に存在する標的を検出及び分析し得る。
【0087】
本発明の装置を使用する複数の工程を有する方法では、全ての工程が小滴形成を導く必要は無い。実際、ある工程は、完全に全ての周縁を液体で覆い、次いで、例えば加圧ガスの作用ボックスへの注入及び強力な攪拌等によって、周縁により捕捉された小滴が残らないように、作用ボックスからこの液体を排出させることにより実行され得る。
【0088】
1つの同一作用区域上に、それを囲む周縁のために、1つ以上の対象液体の様々な小滴を連続的に捕捉することがさらに可能である。各対象液体は、例えば化学的又は生化学的な方法の工程のうちの1つを実行するために、例えば作用区域を製造するために、及び/又は分析を実行するために、必要な1つ以上の試薬を含有していてもよい。1つの同一作用区域上の一連の様々な小滴は、例えば、本発明の装置において、特に、周縁により囲まれた作用区域上で実施される方法の様々な連続工程を実行することを可能とする。全てのこれらの方法の工程は、それゆえ好適には、周縁のために作用区域上に局在化される。
【0089】
本発明の実施態様に関連付けられる実験において、本発明者等は、本発明の装置が、従来技術と比較して、オンチップラボ、生物学的チップ及びマイクロシステムの分野における他の技術的な問題を解決することを見出した。特に、従来技術は、生物学的チップの表面を機能化させるために、生物学的分子の局在的共有結合グラフトの多数の方法を記載している。この局在化は通常、化学的、光化学的、又は電気的な方法によって実行される。化学的な方法によって、生物学的要素(プローブ)の固定化が、局在的堆積(「スポッティング(spotting)」)によって、又はin situ合成によって達成され、時間の点での制約が課される。光化学分析によって、感光性基を用いてオリゴヌクレオチドを合成することが可能である[4]。本明細書ではまた、合成時間及び高価な試薬の容量の点における制限に直面することがよくある。さらに、非選択的フリーラジカル反応を行ってもよい。電気的な方法によって、感電性基による固体支持体上のオリゴヌクレオチドの合成が、同様の制限に直面する。電気化学的な方法[3]によって、金属電極におけるピロール及び生物学種を担持しているピロールの共重合が行われてもよい。後者の技術は、高価な試薬(生物学種を担持しているピロール)を大量に必要とするという欠点を有している。
【0090】
本発明の装置は、従来技術のこれらの数多くの問題を解決するのに役立つ。実際、それは、作用区域上の対象液体の各小滴の急速且つ正確な局在化、及び固定化されたプローブの密度の正確な制御の結果、本発明の作用区域となった生物学的チップの表面を急速且つ正確に機能化することに役立つ。さらに、従来技術の方法と比較して、使用される試薬の容量は、捕捉区域により捕捉される試薬の小滴容量での反応の正確な局在化のために、非常に少ない。なおまた、本発明者等の実験は、本発明の装置が、検出スポット間で相互汚染せずに、互いに独立した微量体と作用するよう機能し、それにより分析の正確さ及び再現性を著しく増すことを示している。
【0091】
したがって、本発明は、とりわけ、周縁により捕捉された小滴における密閉環境での電気化学測定又は光学測定、及び、また高価な試薬を使用した電気化学的又は化学的な方法による作用区域上での局在的官能基化を可能とする。試薬の量は、本発明による周縁により囲まれる各作用区域により形成された実際に有用な区域にまで減少される。
【0092】
本発明により、現在のところ、オンチップラボ用途及びマイクロシステム用途における最高の利点が見出されている。本発明はそれゆえ、例えば、核酸チップ、抗体チップ、抗原チップ、タンパク質チップ及び細胞チップから成る群により選択される生物学的チップにも関する。
【0093】
本発明によると、対象液体中に存在する様々な分子の検出は、作用ボックス内の上記活性表面上に捕捉される対象液体の様々な小滴において、並行して、同時に又は連続的に行われ得る。
【0094】
本発明によると、検出対象である少なくとも1つの検体は、例えば、生物学的分子又は化学分子から選択されてもよい。生物学的分子は、例えば、酵素、酵素基質、オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオシド、タンパク質、真核細胞又は原核細胞の膜受容体、ウィルス、抗体、抗原、ホルモン、生体の代謝物、生体の毒、ヌクレオチド、ヌクレオシド及び相補的DNAから成る群より選択されてもよい。化学分子は、定性的及び/又は定量的に分析される必要のある任意の分子であってもよい。
【0095】
他の特徴及び利点は、本明細書に添付される図面を参照して、例示として与えられ且つ限定されない以下の実施例を読むことで、当業者にとってさらに明らかとなるであろう。
【実施例】
【0096】
実施例1:周縁から形成された捕捉区域の製造
フォトリソグラフィ工程が、新しいシリコンウェハ上でClariant AZ4562(商品名)という厚いフォトレジストにより、以下のように実施された。
120℃のオーブン内で、ヘキサメチレンジシラザンである接着促進剤を堆積し、
200rpm/sの加速度で30秒間、1,000rpmで樹脂をスピンコーティングし、
115℃で2分間、ホットプレート上でアニーリングし、
マスクを通して、バッチ方式(5秒間の中断を設けて、5×10秒)で50秒間、Karl Suss MA750(商品名)露光装置において分離し、
脱イオン水で1:3の割合で希釈されたShipley MF319(商品名)溶液中で現像し、
脱イオン水で洗浄し、窒素流の下で乾燥し、
115℃で3分間、その後、150℃で1分間、ホットプレート上でアニーリングし、
厚みを測定すると、13μmであった。
【0097】
分離に使用されるマスク上で、全てのモチーフが、それらの直径(100〜1,000μm)と、2つのリング間の内部中心距離(50〜1,000μm)との様々な組み合わせで、壁が35μmの幅を有するリングを表す。
【0098】
1平方センチメートルの表面上に3025個の凹部が容易に得られた。
【0099】
実施例2:作用ボックスの製造
ポリジメチルシロキサン(PDMS)の中空カバーを、正方形パターン及び1mmの炉厚を有するガラスの型上に成形によって製造した。実施例1により得られるような平面装置において、この中空カバーを、紫外線放射による架橋接着剤(VITRALIT 6181)により接着することによって、密封した状態で固定した。流体注入口及び排出口の連通部を、小径ニードルを用いてカバーに穴を開けることによって作成した。注入口用ニードルを、流体輸送管、及び対象液体で満たされたシリンジに接続した。最終組立体を、漏洩に関して試験して、液体がこのような目的で備えられた連通部のみを通ることが分かった。
【0100】
図4は、本実施例において得られた作用ボックスの模式図である。対象液体を導入する注入口連通部(o)及び対象液体を取り出す排出口連通部(s)の他の配置は、本実施例により容易に得ることができ、図9は、得ることが可能なボックスを概略的に示している。
【0101】
本明細書に添付された図4では、本発明による作用ボックス(B)が、開口(o,s)を備えている。作用区域(Zt)及び周縁(b)もまた示されている。
【0102】
実施例3:自然酸化物によるシリコン表面上の脱イオン水の捕捉
本発明による周縁を形成し、本明細書に添付された図1〜図3に示され、実施例1に記載される方法により得られた様々なタイプの特徴について、脱イオン水(DW)を用いて試験を行った。
【0103】
この目的のため、実施例2に従って製造された本発明による作用ボックス(本明細書に添付された図4)のおかげで、約1mmの厚みで作成された、流体流れを有するカバーを、プラスチック管を介してDWを注入及び取り出すために使用した。
【0104】
自然酸化物の被膜を有するシリコンから成る初期表面は、処理せずに、接触角がDWに対してほぼ68°であった。
【0105】
本明細書に添付される図6の右側に示されるように、吸引による対象液体の除去後に、DWが小滴(g)の形態で、周縁(b)により形成される凹部、すなわち作用区域(Zt)上に保持されている。
【0106】
対象液体により作用ボックスを充填する様々な方法について、同一開口を介する対象液体の導入及び取り出し(本明細書に添付された図5)、並びに1つの開口を介する導入及び別の開口を介する取り出し(図4)によって、試験を行った。小滴マトリクスはそれぞれの場合で得られた。
【0107】
さらに、作用ボックスの充填が必ずしも必要というわけではなく、重要な要素は、周縁が対象液体によって覆われることである、ということが分かった。
【0108】
本実施例は、作用区域上に適切に局在化された小滴(g)のマトリクスが、本発明によるこの装置のおかげで得られることを示している。したがって、本発明は上述される従来技術の要求を全て満たしている。
【0109】
実施例4:本発明のプローブにより機能化される作用区域の製造
通常のマイクロエレクトロニクス技術を用いた技術的積み重ねを、金属堆積に次いでフォトリソグラフィ、次いで局在的なエッチングにより、シリコンウェハ上に電極を形成するのに利用した。
【0110】
本実施例において、3つの電極を備えたマイクロセルを製造し、使用した。300nmの厚みのSi層を有するSi基板上に、マイクロエレクトロニクス分野の熟練者にとっては基本的な以下の工程を実施した。
スパッタリングにより、白金(Pt)を300nm堆積し、
マイクロセル及び電流インレットバンドの特徴の開口を有するフォトレジストでフォトリソグラフィを行い、
プラズマリアクタにおいて、非抵抗区域でPtを完全にイオンエッチングし、
硝酸浴中でレジストを除去し、
プラズマリアクタにおいて、SiOを500nm化学蒸着し、
マイクロセルの電極の特徴の開口を有するフォトレジストでフォトリソグラフィを行い、
プラズマリアクタにおいて、非抵抗区域でSiOを500nm完全にイオンエッチングし、
硝酸浴中でレジストを除去した。
【0111】
作用電極(We)及び対電極(CE)は、白金(約5,000Åの堆積)で作成した(図7参照)。
【0112】
Ag/AgCl/Clの参照電極(Rf)も存在する。この電極は、以下の手順を用いて、白金上に銀を堆積することにより得られた。
0.2MのAgNO、2MのKI、0.5mMのNaを含有する10mlの溶液を調製し、
飽和カロメル電極(SCE)の電位に対して−0.65Vの電位を、参照電極に90秒間(クロノアンメトリによるモニタリング)印加して、灰色/白の堆積物が得られ、次いで、基板を水で洗浄し、
事前に改質された基板を0.1MのHCl溶液中に浸漬し、SCEの電位に対して0.5Vの電位を30秒間印加して、銀の堆積物を塩素化処理し、次いで、基板を水で洗浄した。
【0113】
その後、実施例1に記載されたものと同様のフォトリソグラフィ工程を、これらの事前に得られた電極をClariant AZ4562(商品名)という厚いレジストのパッドで囲むと共に高さ13μm及び幅25μmの壁を有する直径500μmの凹部を作成するために実施した。
【0114】
周縁(b)の1つが、本明細書に添付された図7の写真に完全に示されている。周縁(b)は明らかに、電気化学マイクロセル(CE、We、Rf)を囲んでいる。
【0115】
以下の方法により、基板を最終的に疎水性シラン(オクタデシルトリクロロシラン)によってシラン化処理した。基板をまず、シラノール部位を生成するためにPlassys MDS 150(商品名)プラズマリアクタ(Societe Plassys、フランス)内で、電力400W、反応時間2分、圧力21.33Pa(160mTorr)、酸素流速25cm/min.、常温で処理した。基板をその後、9mMのシラン濃度を有する、無水ヘプタンと疎水性シランとの混合物中に常温で10分間放置した。それを次にヘプタン、次にトルエン、次に水で洗浄した。基板をその後、オーブン内で110℃で1時間放置した。水で測定した接触角は、ほぼ100°であった。
【0116】
実施例5:Fe2+溶液を用いた電機化学測定に関する、本発明による装置の使用
実施例4によって得られた、周縁により囲まれた電気化学セルを、実施例2において製造された作用ボックスを用いて試験を行い、第一鉄(Fe II)イオンを含有する溶液を、この作用ボックスにより形成された流体流れ中へ導入した。
【0117】
図8は、図7に示された本発明による装置において、小滴マトリクス形成前及び小滴マトリクス形成後の、電圧(mV)の関数である電流(I(μA))を測定したサイクリックボルタンメトリ曲線のグラフである。
【0118】
第1の測定はサイクリックボルタンメトリによって行われ、第一鉄イオンの酸化波を示している。次いで、溶液を作用ボックスから吸い出し、対象液体の一滴でそれぞれ満たされた凹部のみが残る。第1の測定と同様の第2の電気化学測定を実行すると、鉄酸化反応の存在が再び示される。
【0119】
対象液体はこのため、明らかに凹部に保持され、本発明の作用ボックスにより形成された流体チャンバからの吸引及び排液後の測定を可能とする。
【0120】
作用ボックスの充填が必ず必要というわけではなく、必要不可欠な要素は、周縁が対象液体によって覆われることである。
【0121】
本実施例は、作用区域上に明らかに局在化された小滴(g)のマトリクスが、本発明によるこの装置のおかげで得られることを示す。そのため、本発明は上述される従来技術の要求を全て満たす。
【0122】
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[5]国際公開第00/36145号明細書:コミツサリア タ レネルジー アトミーク(Commissariat a l'Energie Atomique)
[6]国際公開第02/090573号明細書:インフィネオン(Infineon)
[7]J.クーパー(J. Cooper)他著、「サブナノリッタ容量での電気化学測定用マイクロマシニングセンサ(Micromachining Sensor for Electrochemical Measurement in Subnanoliter Volumes)」、Anal. Chem.,1997年,69,253〜258頁
[8]フランス特許出願公開第2,818,662号明細書
[9]欧州特許第561,722号明細書
[10]H.ジャンセン(H. Jansen)他著、「ブラックシリコン法:プロフィール制御に深いシリコントレンチエッチングにおいてフッ素系反応性イオンエッチャーのパラメータ設定を確定する汎用法(The black silicon method: a universal method for determining the parameter setting of a fluorine-based reactive ion etcher in deep silicon trench etching with profile control)」、J. Micromech. Microeng. 5(1995年),115〜120頁
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】2種類の凹部の断面における模式図であり、左側に従来技術の凹部、右側に本発明による凹部を示す図である。
【図2】本発明による周縁の種々の幾何学的形状の断面における模式図である。
【図3】周縁が囲むそれぞれの作用区域のまわりの種々の形状を有する、本発明による周縁の平面模式図である。
【図4】本発明による装置の断面、及びその基板の活性表面によって小滴マトリクスを作成するための装置の操作を示す図である。
【図5】対象液体を作用ボックス内へ導入する手段、及び対象液体を作用ボックスから取り出す手段が、作用ボックスの同一の開口を使用する、本発明による装置の断面を示す図である。
【図6】実験写真から作成され、小滴マトリクスの形成を示す、本発明の活性表面の平面図であり、左側に、対象液体が本発明の装置内へ導入される前の小滴を有していない表面を示し、右側に、対象液体が作用ボックスから取り出された際に周縁(b)により保持される小滴マトリクスを有する表面を示す図である。
【図7】樹脂である周縁がそれぞれの作用区域を囲み、作用区域が電気化学マイクロセルである、本発明の装置の実施形態の写真である。撮影された装置の電気化学セルを囲む樹脂リングの外部直径は実際には、700μmである。
【図8】本発明による装置において、(Av)小滴マトリクス形成前及び(Ap)小滴マトリクス形成後の、電圧(mV)の関数である電流(I(μA))を測定したサイクリックボルタンメトリの曲線グラフであり、活性表面が図7に拡大して示されている。
【図9】本発明による作用ボックスの種々の可能な実施形態の模式図であり、特に、本発明による様々な作用ボックスにおいて、対象液体をそれぞれ作用ボックス内へ導入する手段及び作用ボックスから取り出す手段の配置例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作用装置(1)であって、
該作用装置(1)は、
作用ボックス(Bo)であって、対象液体(E)を作用ボックス内へ導入する手段(o)及び対象液体を作用ボックスから取り出す手段(s)を備える作用ボックス(Bo)と、
前記作用ボックスに含有される前記対象液体に対して実質的に非湿潤性である活性表面を備える基板(S)と、
前記活性表面上に形成され、前記対象液体に対して実質的に非湿潤性である前記活性表面上に形成された周縁(b)によりそれぞれ囲まれる複数の別個の作用区域(Zt)であって、前記周縁は互いに接触しないと共に共通の縁を有さない、複数の別個の作用区域(Zt)と
を備え、
対象液体を作用ボックス内へ導入する前記手段(o)及び対象液体を作用ボックスから取り出す前記手段(s)は、前記対象液体が前記作用ボックス(Bo)内に導入される際に、前記作用区域及びそれらの各周縁を覆うように、前記作用ボックス上に配置され、
前記周縁は、前記対象液体が前記作用ボックス内に導入された後であって前記作用ボックスから取り出される際に、前記対象液体(E)の小滴(g)が各周縁(b)により取り囲まれると共に前記周縁が囲む作用区域(Zt)に接触するような幾何学的形状を有する、作用装置。
【請求項2】
少なくとも1つの前記作用区域が、前記活性表面と同じ平面内にある、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
少なくとも1つの前記作用区域が、周縁により捕捉された前記小滴との電気相互作用区域及び/又は化学相互作用区域である、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
少なくとも1つの前記作用区域が、電気化学マイクロセルである、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
少なくとも1つの前記作用区域が、光学センサ、電気センサ、磁気センサ、静電気センサ、機械センサ、熱センサ又は化学センサから成る群より選択されるセンサである、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
少なくとも1つの前記作用区域が、光学アクチュエータ、電気アクチュエータ、磁気アクチュエータ、静電気アクチュエータ、機械アクチュエータ、熱アクチュエータ又は化学アクチュエータから成る群より選択されるアクチュエータである、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
少なくとも1つの前記作用区域が、前記対象液体の小滴を捕捉した時に、該小滴中に存在し得る化学種又は生物学種の少なくとも1つを検出する区域である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
少なくとも1つの前記作用区域が、前記対象液体の小滴を補足した時に、該小滴中に存在し得る標的と相互作用するプローブにより機能化される区域である、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記プローブが、酵素、酵素基質、オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオシド、タンパク質、真核細胞又は原核細胞の膜受容体、抗体、抗原、ホルモン、生体の代謝物、生体の毒、ポリヌクレオチド、ポリヌクレオシド及び相補的DNAから成る群より選択される、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
少なくとも1つの前記作用区域が、前記対象液体に対して非湿潤性の区域である、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記基板が、シリコン、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、ガラス、有機ポリマー、プラスチック、スズ及び金属から成る群より選択される材料から成る、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記有機ポリマーが、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルメタクリレート、ポリクロロビフェニール及びシクロオレフィンコポリマーから成る群より選択される、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記金属が、Au、Ti、Pt、Al、Niから成る群より選択され、且つ前記合金がステンレス鋼である、請求項11に記載の装置。
【請求項14】
前記周縁が、前記作用区域を取り囲み、且つ上方から見て環状形、星形、矩形、正方形、三角形、楕円形又は4〜20個の辺を有する多角形から選択される形状を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項15】
前記周縁が、前記活性表面から前記周縁の上部までの方向において、三角形、矩形、円錐形、円錐台形、半円形、半楕円形からから選択される断面を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項16】
前記周縁が、前記活性表面に対して前記周縁の最上部で及び/又は前記周縁が囲む前記作用区域と反対側の前記周縁の斜面で、前記対象液体に対して湿潤性である、請求項1に記載の作用装置。
【請求項17】
前記周縁が、前記活性表面をプレス加工又は成形することにより得られる、請求項1に記載の装置。
【請求項18】
対象液体を作用ボックス内へ導入する前記手段が、前記作用ボックス内に前記対象液体を注入するポンプを備える、請求項1〜17のいずれか一項に記載の作用装置。
【請求項19】
対象液体を作用ボックスから取り出す前記手段が、前記作用ボックスから前記対象液体を取り出すポンプを備える、請求項1〜18のいずれか一項に記載の作用装置。
【請求項20】
対象液体を作用ボックスから取り出す前記ポンプが、前記作用ボックス内に形成された第1の開口を介してガス流体を前記作用ボックス内へ注入することで、前記作用ボックス内へガス流体を注入して、前記作用ボックス内に形成された第2の開口を介して前記作用ボックスから前記対象液体を放出することを可能にする形態である、請求項19に記載の装置。
【請求項21】
前記ガス流体を注入するポンプが、注入される前記ガス流体を前記対象液体の蒸気で飽和させる装置を備える、請求項20に記載の装置。
【請求項22】
前記対象液体を前記作用ボックスから取り出す前記ポンプが、前記作用ボックス内に形成された1つの開口に配置され、この開口を介して吸い出すことによって前記対象液体を前記作用ボックスから取り出すことを可能とする形態である、請求項19に記載の装置。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれか一項に記載の装置を備えるシステム。
【請求項24】
請求項1〜22のいずれか一項に記載の装置を備える生物学的チップ。
【請求項25】
核酸チップ、抗体チップ、抗原チップ、タンパク質チップ及び細胞チップから成る群より選択される、請求項24に記載の生物学的チップ。
【請求項26】
請求項1に記載の装置を製造する方法であって、
基板を供給する工程と、
前記基板上に作用区域を形成する工程と、
前記作用区域を取り囲む周縁を形成するように、前記基板表面を構造化する工程と、
前記作用区域及びそれらの周縁が形成された前記表面を、前記対象液体に対して実質的に非湿潤性とするように処理する工程と、
対象液体をボックス内へ導入する手段、及び対象液体をボックスから取り出す手段を備えるボックスを準備して、前記周縁により囲まれる前記作用区域を備える前記基板を前記ボックス内に導入する工程と、
前記ボックスを閉じる工程と
を含む方法。
【請求項27】
前記周縁が、前記活性表面の直接エッチングによって前記活性表面上に形成される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記活性表面上に材料を堆積し、次いで該材料に対してエッチング又はフォトリソグラフィを行うことによって、前記周縁が前記活性表面上に形成される、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
堆積された前記材料が、樹脂、フォトレジスト、有機ポリマー、金属、Si、酸化Si及び窒化Siから成る群より選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記周縁を形成するために前記活性表面上に材料を堆積することが、コーティング、蒸着、噴霧及び電気めっきから選択される方法を用いて実行される、請求項28又は29に記載の方法。
【請求項31】
堆積された前記材料が感光性であり、前記周縁がフォトリソグラフィによって作成される、請求項28又は29に記載の製造方法。
【請求項32】
前記周縁が、前記活性表面をプレス加工又は成形することにより得られる、請求項26に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−512507(P2007−512507A)
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−537379(P2006−537379)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【国際出願番号】PCT/FR2004/050525
【国際公開番号】WO2005/042162
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(500348697)コミッサリア ア レネルジー アトミーク (21)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L´ENERGIE ATOMIQUE
【出願人】(506138889)
【氏名又は名称原語表記】BIOMERIEUX SA
【住所又は居所原語表記】Chemin de l’Orme,69280 MARCY L’ETOILE, France
【Fターム(参考)】