説明

縦結合共振器型フィルタ

【課題】通過周波数帯域よりも高域側におけるサイドローブの生成を抑えながら、通過周波数帯域におけるピーク位置から3dB減衰した領域の帯域幅をBW3dB、この帯域幅BW3dBにおける中心周波数をfnとすると、比帯域幅BW3dB/fnが0.01〜0.02もの狭帯域の縦結合共振器型フィルタを提供すること。
【解決手段】圧電基板11を伝搬する弾性波の波長に対応する電極指15の周期単位λ及び電極指15のの膜厚hについて、膜厚比h/λが0.05〜0.085となるように設定すると共に、IDT電極12の合計の電極指15の対数Nについて、100≦N≦400に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波を用いた縦結合共振器型フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
通過周波数帯域の広域化が要求される携帯電話などの通信用のフィルタ(バンドパスフィルタ)に対して、ホームセキュリティやスマートグリッドなどの特定小電力用の周波数帯を使用するアプリケーション(例えばエアコンの電源の切り忘れを携帯電話に電子メールなどで通知する機器や、玩具のラジコン(ラジオコントロールカー)などの機器)では、通過周波数帯域の極めて狭い(狭帯域な)フィルタが求められている。即ち、このような特定小電力用の複数の機器に対して一括してある周波数帯域が割り振られており、また例えば室内などの狭い環境で複数の種別の機器が同時に用いられることがあるため、これら機器同士が干渉しないように、各々の機器には互いに通過周波数帯域の異なる狭帯域なフィルタが必要となる。このようなフィルタの各々には、互いの機器同士が干渉しないように、通過周波数帯域よりも低域側及び高域側に各々阻止域が設けられており、この阻止域は、別のフィルタの通過周波数帯域に対してマージンを設けるため、通過周波数帯域の下端(低域側の端部)及び上端(高域側の端部)からある程度離間した位置に設定されている。
【0003】
そして、近年において、特定小電力用の周波数帯の有効利用を図る(ある周波数帯において使用できる機器の種類をできるだけ多くする)ため、通過周波数帯域と前記阻止域との間の周波数の差であるいわゆるガードバンド幅の狭いフィルタ、即ち通過周波数帯域及び阻止域からなる帯域の狭いフィルタが求められている。具体的には、例えば900MHz帯では、通過周波数帯域及びガードバンド幅が夫々4MHz及び±200MHzに設定された従来のフィルタに対して、近年では通過周波数帯域及びガードバンド幅が夫々2MHz及び±40MHzに設定された狭帯域で且つ急峻度の大きなフィルタが要求されている。
【0004】
一方、既述の通信用のフィルタでは、通過周波数帯域を狭帯域化するためには、例えばIDT(Inter Digital Transducer)電極の電極指などの電極膜厚を薄くする手法が採られる。しかし、既述のように通過周波数帯域が2MHz程度となるまで電極膜厚を薄くすると、当該電極の抵抗値が増大して挿入損失が大きくなってしまうし、また後述の図11に示すように、例えば通過周波数帯域よりも高域側に不要なサイドローブが形成されてしまう。このサイドローブが形成されると、既述の通過周波数帯域が2MHzもの狭帯域に設定されたフィルタでは、通過周波数帯域よりも高域側の減衰量が10〜30dB程度しか確保できず、十分な周波数選択性を持たせることが困難になってしまう。
【0005】
特許文献1には、携帯電話用のフィルタが記載されており、また特許文献2及び特許文献3には、夫々狭帯域のフィルタ及び帯域阻止フィルタ(ノッチフィルタ)が記載されているが、既述の課題については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−198316
【特許文献2】特開2010−141727
【特許文献3】特開2002−135081
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、通過周波数帯域よりも高域側におけるサイドローブの生成を抑えながら、通過周波数帯域におけるピーク位置から3dB減衰した領域の帯域幅をBW3dB、この帯域幅BW3dBにおける中心周波数をfnとすると、比帯域幅BW3dB/fnが0.01〜0.02もの狭帯域の縦結合共振器型フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の縦結合共振器型フィルタは、
通過周波数帯域におけるピーク位置から3dB減衰した領域の帯域幅をBW3dB、この帯域幅BW3dBにおける中心周波数をfnとすると、比帯域幅BW3dB/fnが0.01〜0.02である縦結合共振器型フィルタであって、
タンタル酸リチウムからなる圧電基板と、
この圧電基板上に弾性波の伝搬方向に沿って少なくとも2箇所に設けられ、互いに平行に配置された一対のバスバー及び各々のバスバーから互いに交差するように伸び出す複数の電極指を備えたIDT電極と、
前記圧電基板上において弾性波の伝搬方向に沿って前記IDT電極の並びを挟み込むように設けられ、弾性波を当該並びに反射させるための反射器と、を備え、
前記圧電基板を伝搬する弾性波の波長に対応する前記電極指の周期単位及び前記電極指の膜厚を夫々λ及びhとすると、膜厚比h/λが0.05〜0.085に設定され、
前記少なくとも2箇所に設けられたIDT電極の合計の電極指の対数をNとすると、100≦N≦400に設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、IDT電極及び反射器を備えた縦結合共振器型フィルタにおいて、圧電基板を伝搬する弾性波の波長に対応するIDT電極の電極指の周期単位及び前記電極指の膜厚を夫々λ及びhとすると、膜厚比h/λを0.05〜0.085に設定すると共に、IDT電極の合計の電極指の対数をNとすると、100≦N≦400に設定している。そのため、通過周波数帯域よりも高域側におけるサイドローブの生成を抑えながら、通過周波数帯域におけるピーク位置から3dB減衰した領域の帯域幅をBW3dB、この帯域幅BW3dBにおける中心周波数をfnとすると、比帯域幅BW3dB/fnが0.01〜0.02である縦結合共振器型フィルタを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態に係る縦結合共振器型フィルタの一例を示す平面図である。
【図2】前記フィルタを示す縦断面図である。
【図3】前記フィルタにおける比帯域幅を説明するための模式図である。
【図4】前記フィルタの他の例を示す平面図である。
【図5】前記フィルタの他の例を示す平面図である。
【図6】前記フィルタの他の例を示す平面図である。
【図7】本発明の実施例において得られた結果を示す特性図である。
【図8】本発明の実施例において得られた結果を示す特性図である。
【図9】本発明の実施例において得られた結果を示す特性図である。
【図10】本発明の実施例において得られた結果を示す特性図である。
【図11】本発明の実施例において従来のフィルタについて得られた結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の縦結合共振器型フィルタの実施の形態の一例について、図1及び図2を参照して説明する。このフィルタは、弾性表面波(弾性波)の伝搬方向に沿って圧電基板11上に形成された2つのIDT電極12、12と、これらIDT電極12、12の並びを弾性波の伝搬方向に沿って両側から挟み込むように配置された反射器13、13とを備えている。従って、反射器13、13の間に2つのIDT電極12、12が位置している。この圧電基板11は、例えば36°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム(LiTaO)(単結晶タンタル酸リチウムを結晶のY軸に垂直な面で切断し、X軸から36°回転したX’軸方向に弾性波が伝搬するように矩形に切り出した基板)により構成されている。
【0012】
各々のIDT電極12は、弾性波の伝搬方向に沿って伸びると共に互いに平行に配置された一対のバスバー14、14と、これらバスバー14、14の一方から他方に向かって互いに交互に櫛歯状に交差するように配置された複数の電極指15とを備えている。弾性波の伝搬方向を左右方向と呼ぶと、2つのIDT電極12、12のうち図1中左側のIDT電極12において、一方のバスバー14には例えば入力ポート16が接続され、他方のバスバー14は接地されている。また、2つのIDT電極12、12のうち図1中右側のIDT電極12において、一方のバスバー14には例えば出力ポート17が接続され、他方のバスバー14は接地されている。
【0013】
各々のIDT電極12、12において、複数の電極指15は、圧電基板11上を伝搬する弾性波の波長に対応するように周期的に配置されており、具体的には例えば互いに交差する2本の電極指15、15と、電極指15、15間の離間領域とにより、前記波長と同じ長さの周期単位λが繰り返されるように構成されている。互いに交差する電極指15、15の組を「電極指15の対数N」と呼ぶと、2つのIDT電極12、12の合計の対数Nは、100〜400対この例では212対となっている。図1中18及び19は、夫々グレーティング電極指及びグレーティングバスバーである。
【0014】
これらIDT電極12、12及び反射器13、13は、圧電基板11上に例えばアルミニウム(Al)などの金属膜(ベタ膜)及びフォトレジストマスクを下側からこの順番で積層し、続いてフォトレジストマスクをパターニングした後例えばドライエッチングなどにより前記金属膜をエッチングして形成される。従って、これらIDT電極12、12及び反射器13、13の膜厚hは、図2に示すように揃っており、例えば0.32μm程度となっている。そのため、膜厚比h/λは、0.05〜0.085この例では0.0695となっている。
【0015】
このフィルタにおいて例えば入力ポート16から電気信号を入力すると、電極指15、15間で弾性波が発生し、IDT電極12、12を介して反射器13、13間で反射を繰り返した後、出力ポート17から電気信号として取り出される。この時、既述のように周期単位λを設定しているので、このフィルタは、例えば900MHz程度に通過周波数帯域の設定されたバンドパスフィルタとなる。また、膜厚比h/λ及び電極指15の対数Nを既述のように設定しているので、通過周波数帯域が極めて狭帯域で且つ当該通過周波数帯域の低域側及び高域側の急峻度の良好なフィルタとなる。具体的にはこのフィルタの帯域幅は、図3に示すように、例えば通過周波数帯域におけるピーク位置から3dB減衰した領域の帯域幅をBW3dB、この帯域幅BW3dBにおける中心周波数をfnとすると、比帯域幅BW3dB/fnが0.01〜0.02程度もの狭帯域となる。この例では、帯域幅BW3dB及び中心周波数fnが例えば10MHz及び900MHzであり、従って比帯域幅BW3dB/fnは例えば0.011となる。尚、図3は、フィルタにおいて得られる周波数特性を模式的に示している。
【0016】
ここで、膜厚比h/λ及び電極指15の対数Nを既述の範囲に設定した理由について、後述のシミュレーション結果に基づいて説明する。尚、詳細なシミュレーション条件については、後で詳述する。
【0017】
先ず、フィルタの通過周波数帯域を形成する帯域(例えば900MHz程度)を設定する。この通過周波数帯域を設定することにより、電極指15の周期単位λがある値に定まる。次いで、電極指15の膜厚h及び電極指15の対数Nを夫々ある値に設定する。この状態のフィルタにおいて特性のシミュレーションを行うと、例えば後述の図7〜図11に示すように、通過周波数帯域がどの程度の広さの帯域となるかが分かる。この時、膜厚hが薄すぎると、図11に示すように、通過周波数帯域よりも高域側にサイドローブが生成する場合がある。その場合には、このサイドローブがなくなるまで、あるいは通過周波数帯域よりも高域側の減衰特性が所望のレベル以下となるまで、膜厚hを厚くしていく。このように膜厚hを厚くしていくと、膜厚比h/λは、既述の範囲内となる。この時、通過周波数帯域は、図7に示すように、膜厚hの増加に伴って広がって(広帯域化して)いく。続いて、通過周波数帯域の帯域幅が所望の範囲内となるように、電極指15の対数Nを少しずつ増やしていく。即ち、電極指15の対数Nを増やす度に、図8に示すように、通過周波数帯域の帯域幅が狭帯域化していく。こうして既述の比帯域幅BW3dB/fnが0.01〜0.02程度となるように通過周波数帯域を狭帯域化すると、電極指15の対数Nが既述の範囲内となる。
【0018】
上述の実施の形態によれば、圧電基板11を伝搬する弾性波の波長に対応する電極指15の周期単位λ及び電極指15のの膜厚hについて、膜厚比h/λが0.05〜0.085となるように設定すると共に、IDT電極12の合計の電極指15の対数Nについて、100≦N≦400に設定している。そのため、膜厚比h/λを調整することで通過周波数帯域よりも高域側におけるサイドローブの生成を抑えながら、対数Nを通常のフィルタの構成(例えば数十対程度)よりも極めて多くすることにより、比帯域幅BW3dB/fnが0.01〜0.02もの狭帯域の縦結合共振器型フィルタを得ることができる。
【0019】
ここで、このような狭帯域のフィルタを形成するにあたり、電極指15の対数Nを従来のフィルタよりも極めて多くしているので、本発明のフィルタは、従来のフィルタよりも例えば弾性波の伝搬方向における圧電基板11の寸法が大きくなる場合がある。即ち、フィルタを小型化すること(対数Nをできるだけ少なくすること)が大前提の従前の設計手法に対して、本発明では、フィルタの寸法にとらわれることなく、狭帯域で且つサイドローブの生成を抑えるように当該フィルタを設計している。そのため、本発明は、従前の設計手法に対していわば逆の設計手法を採ることにより、狭帯域で且つ急峻な減衰傾度を持つ(サイドローブの生成を抑えた)フィルタを得ることができる。
従って、後述の実施例に示すように、本発明のフィルタの通過周波数帯域よりも低域側及び高域側に近接させて阻止域を配置することができる。そのため、通過周波数帯域及びガードバンド幅が夫々2MHz及び±40MHz程度に設定することを要求される、ホームセキュリティやスマートグリッドなどの特定小電力用の周波数帯を使用するアプリケーション用のフィルタに本発明のフィルタを適用できる。
【0020】
既述の例では、IDT電極12を2つ配置したが、図4に示すように、3つのIDT電極12を配置しても良い。この場合には、既述の対数Nは、これら3つのIDT電極12の合計の数量となる。図4では、3つのIDT電極12のうち中央のIDT電極12について、一方のバスバー14に入力ポート16が接続され、他方のバスバー14は接地されている。また、左右両側のIDT電極12、12は、各々の一方側のバスバー14に共通の出力ポート17が接続されると共に、他方のバスバー14は接地されている。このフィルタにおいても、図1と同様の狭帯域のフィルタが得られる。また、4つ以上のIDT電極12を反射器13、13間に配置しても良く、この場合でも対数NはIDT電極12の合計の数量となる。
【0021】
更に、既述の図1あるいは図4に示すフィルタを縦続接続しても良い。図5は、図1のフィルタを縦続接続した例を示している。ここで、2つのIDT電極12、12及び2つの反射器13、13からなる構成(図1のフィルタ)をフィルタ部20と呼ぶと、図5では、フィルタ部20、20が弾性波の伝搬方向に直交する方向に配置されている。これらフィルタ部20、20のうち一方のフィルタ部20において、図5中左側のIDT電極12のバスバー14には入力ポート16が接続されいる。また、フィルタ部20、20のうち他方のフィルタ部20において、図5中右側のIDT電極12のバスバー14には出力ポート17が接続されている。そして、これらフィルタ部20、20において、各ポート16、17の接続されていないIDT電極12、12のバスバー14、14同士が接続されている。このように2つのフィルタ部20、20を縦続接続する場合には、既述の対数Nは、各々のフィルタ部20毎に設定される。
このようにフィルタ部20、20を縦続接続することにより、後述の図9に示す周波数特性が得られる。
【0022】
また、図6は、既述の図4に示したフィルタ(3つのIDT電極12を備えたフィルタ部20)を縦続接続した例を示している。図6において、2つのフィルタ部20、20の各々の中央のIDT電極12のバスバー14、14には、夫々入力ポート16及び出力ポート17が接続されている。また、各フィルタ部20、20の図6中左側のIDT電極12、12のバスバー14、14同士が互いに接続され、図6中右側のIDT電極12、12のバスバー14、14同士が互いに接続されている。
このフィルタでは、後述の図10に示す周波数特性が得られる。
【0023】
既述の各例では、通過周波数帯域を900MHz程度に設定したが、例えば800MHzや700MHzなどに設定しても良い。この場合には、通過周波数帯域に対応して周期単位λが設定され、膜厚比h/λが既述の範囲内となるように、当該周期単位λに応じて膜厚hが調整される。また、膜厚hを設定するにあたって、既述の例ではIDT電極12及び反射器13について同じ膜厚に設定したが、少なくともIDT電極12の電極指15の膜厚hを既述の範囲にすれば良い。従って、反射器13におけるグレーティング電極指18、グレーティングバスバー19及びIDT電極12におけるバスバー14については、IDT電極12の電極指15の膜厚hとは別に独立して膜厚を調整しても良い。具体的には、反射器13の膜厚をIDT電極12の電極指15の膜厚hよりも薄くすることにより、IDT電極12においてサイドローブを抑圧した上で、反射器13の帯域幅を狭く設計し、既述の例よりも急峻な特性を得るようにしても良い。
【0024】
電極指15の対数Nは、後述の図7から分かるように、400対以上に増やしても周波数通過帯域の狭帯域化にほとんど寄与せず、一方フィルタの寸法が大きくなりすぎるおそれがあることから、400対以下であることが好ましい。また、膜厚hについては、既述のように薄すぎるとサイドローブが生成し、一方厚すぎると目的とする狭帯域化が難しくなるため、例えば周期単位λが4.5μmの場合には0.24μm〜0.038μm(膜厚比h/λが0.05〜0.085)であることが好ましい。
また、比帯域幅BW3dB/fnについては、0.01よりも小さいと、フィルタの周波数温度変動により、使用温度範囲において帯域幅を満足できないおそれがあり、0.02よりも大きいと、電極対数を100対以下に減らす必要があり、この結果サイドローブの抑圧が不完全となるため、0.01〜0.02であることが好ましい。
【0025】
ここで、本発明のフィルタの比帯域幅BW3dB/fnについて、0.01〜0.02の範囲に設定した理由について、始めにこの範囲の下限(0.01)について説明する。先ず、通過周波数帯域が例えば900MHzの場合、実際に製品として用いる時に有効な帯域幅について、本発明では例えば2MHz程度もの狭帯域に設定できるようにしている。即ち、通過周波数帯域が900MHzの場合、BW3dB/fnを0.01に設定しようとすると、帯域幅が9MHzとなるが、通常のRFフィルタでは使用温度条件が−40℃〜+85℃で規定されることが多い。この温度範囲における周波数変動は、例えば約±2.5MHz程度となる場合があり、またフィルタを製造する時のばらつきとして1MHz(約1000ppm)を見込むと、実際に保証できる帯域幅は、例えば3MHz(=9−2.5−2.5−1MHz)となる。更に、この3MHzの帯域内でリップルが小さく且つ周波数特性の良好な帯域を現実的なフィルタの帯域として設定しようとすると、当該帯域の幅は約2MHz程度となる。この帯域(2MHz)は、通過周波数帯域に応じて900MHzの場合と同様(帯域=通過周波数帯域÷900MHz×2MHz)に設定される。
【0026】
一方、比帯域幅BW3dB/fnの前記範囲の上限(0.02)について説明すると、電極指15の対数Nを100対以下に少なくしていくと、既述のようにサイドローブの抑圧が不十分となる(サイドローブが大きくなっていく)。ここで、通常のフィルタの設計方法であれば、対数Nが少ない分、チップサイズに余裕があるので、前記サイドローブを抑圧するために、共振子を挿入したり(特開平6−26876号公報等)、あるいは入出力電極間にインターデジタル型のキャパシタンス(橋絡容量)を挿入したり(特開平5−55855号公報等)、別の手法が採られる。従って、本発明の前記比帯域幅BW3dB/fnの上限の0.02は、いわばフィルタを構成するIDT電極12や反射器13とは別の共振子やキャパシタンスを用いずに通過周波数帯域よりも高域側のサイドローブを抑圧できる値と言える。
【0027】
更に、圧電基板11を構成する材料としては、36°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウムを用いたが、この材料に代えて、例えば42°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウムや48°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウムなど、漏洩弾性波を用いるYカットX伝搬タンタル酸リチウムを用いても良い。即ち、圧電基板11としてタンタル酸リチウムに代えて例えば水晶を用いて、この圧電基板11上に一方向性電極を使用したトランスバーサルフィルタを配置することにより、既述の狭帯域のフィルタを設計しようとすると、以下の問題が生じるおそれがある。具体的には、トランスバーサルフィルタでは、本発明の縦結合共振器型のフィルタの場合よりも挿入損失(ロス)が3〜6dB程度と大きくなる場合があり、また外部に整合回路が必要になったり、あるいは電極の微細加工が必要(一方向性電極では電極指の幅寸法が電極周期λの1/8あるいは1/12程度となるため)になったりすることもある。従って、圧電基板11としては前記タンタル酸リチウムを用いることが好ましい。また、本発明の縦結合共振器型フィルタは、RFフィルタに適用することが好ましい。
【実施例】
【0028】
次に、以上の各例で示したフィルタのシミュレーションについて説明する。
(実施例1)
先ず、既述の比帯域幅BW3dB/fnと、膜厚比h/λ及び電極対数Nとの相関関係を評価するため、電極対数Nを42〜389対、周期単位λを4.7μm(固定)、膜厚hを0.32μm〜0.52μm(h/λ:0.068〜0.11)の範囲で変えてシミュレーションを行った。尚、通過特性形状を調整するため、夫々のパラメータの組み合わせは下表1、表2としている。
(表1:2電極縦モードのシミュレーション結果)

(表2:3電極縦モードのシミュレーション結果)

表1、2について、比帯域幅BW3dB/fnと、膜厚比h/λとの相関関係を評価した結果を図7に示す。この結果から、膜厚hを薄くしていくと比帯域幅BW3dB/fnが減少していく(狭帯域化していく)こと、即ち膜厚hを厚くすると比帯域幅BW3dB/fnが大きくなることが分かる。また、IDT電極12を2つ配置した場合(2電極縦モード)及びIDT電極12を3つ配置した場合(3電極縦モード)のいずれにおいても、同様の傾向が見られた。
【0029】
(実施例2)
また、既述の表1、2について、比帯域幅BW3dB/fnと、電極対数Nとの相関関係を評価した結果を図8に示す。この結果から、対数Nを増やす程、比帯域幅BW3dB/fnが小さくなって狭帯域化していくことが分かる。また、電極対数Nが大きくなる程、比帯域幅BW3dB/fnの減少曲線が急峻となっていく(サチュレーションする)ことから、対数Nが400対以上では狭帯域化にはほとんど寄与せず、一方フィルタが大型化しすぎるおそれのあることが分かる。図8では、IDT電極12が3つの場合よりも2つの場合の方が比帯域幅BW3dB/fnが小さくなる傾向が確認された。
【0030】
(実施例3)
続いて、以下の条件のように設計した図5のフィルタについて試作を行った。
(設計条件)
圧電基板11:36°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム
周波数fn:900MHz
膜厚比h/λ:0.0695(膜厚h:0.32μm)
対数N:212対(各IDT電極12の対数:106対)
このように設定したフィルタ部20、20を2つ縦続接続した。
(試作結果)
以上のように設計したフィルタでは、図9に示すように、通過周波数帯域よりも高域側におけるサイドローブの生成が抑えられ、また比帯域幅BW3dB/fnが0.011もの狭帯域のフィルタが得られた。更に、通過周波数帯域よりも高域側において40dBの大きな減衰量が得られる周波数は、周波数fnから僅かに15MHz程度離れた915MHz程度となっており、従って急峻な減衰特性となっている。
【0031】
(実施例4)
また、以下の条件のように設計した図6のフィルタについて試作を行った。
(設計条件)
圧電基板11:36°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム
周波数fn:900MHz
膜厚比h/λ:0.0567(膜厚h:0.25μm)
対数N:155対(中央のIDT電極12の対数:55対、両側のIDT電極12、12の対数:各々50対)
このように設定したフィルタ部20、20を2つ縦続接続した。
(試作結果)
以上のように設計すると、図10に示すように、通過周波数帯域よりも高域側におけるサイドローブの生成が抑えられると共に、当該高域側の減衰特性が急峻となっていた。また、比帯域幅BW3dB/fnが0.015もの狭帯域のフィルタが得られた。
【0032】
(比較例1)
既述の図6のように、3つのIDT電極及び2つの反射器からなるフィルタ部を2つ縦続接続した従来のフィルタについて、以下の条件において試作を行った。
(設計条件)
圧電基板:36°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム
周波数fn:900MHz
膜厚比h/λ:0.0233(膜厚h:0.11μm)
対数N:81対(中央のIDT電極の対数:29対、両側のIDT電極の対数:各々26対)
(試作結果)
この従来のフィルタでは、図11に示すように通過周波数帯域よりも高域側にサイドローブが生成しており、当該高域側において40dBの減衰量が得られる周波数は、周波数fnから40MHzも大きく離間した940MHz程度となっていた。従って、このフィルタは、比帯域幅BW3dB/fnが0.02以下であったが、通過周波数帯域よりも高域側では求める減衰量が得られないことが分かった。
【符号の説明】
【0033】
BW3dB/fn 比帯域幅
h/λ 膜厚比
対数
11 圧電基板
12 IDT電極
13 反射器
15 電極指
16 入力ポート
17 出力ポート
20 フィルタ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通過周波数帯域におけるピーク位置から3dB減衰した領域の帯域幅をBW3dB、この帯域幅BW3dBにおける中心周波数をfnとすると、比帯域幅BW3dB/fnが0.01〜0.02である縦結合共振器型フィルタであって、
タンタル酸リチウムからなる圧電基板と、
この圧電基板上に弾性波の伝搬方向に沿って少なくとも2箇所に設けられ、互いに平行に配置された一対のバスバー及び各々のバスバーから互いに交差するように伸び出す複数の電極指を備えたIDT電極と、
前記圧電基板上において弾性波の伝搬方向に沿って前記IDT電極の並びを挟み込むように設けられ、弾性波を当該並びに反射させるための反射器と、を備え、
前記圧電基板を伝搬する弾性波の波長に対応する前記電極指の周期単位及び前記電極指の膜厚を夫々λ及びhとすると、膜厚比h/λが0.05〜0.085に設定され、
前記少なくとも2箇所に設けられたIDT電極の合計の電極指の対数をNとすると、100≦N≦400に設定されていることを特徴とする縦結合共振器型フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−142735(P2012−142735A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293164(P2010−293164)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】