説明

縦軸シールレスモータポンプ、加圧水型原子力発電システム

【課題】一台の補機ポンプによりパッド型スラスト軸受への高圧液の注入とモータ室へのパージ液の供給とを実行できるモータパージシステムを備えた縦軸シールレスモータポンプ、及び加圧水型原子力発電システムを提供すること。
【解決手段】高温液体を取り扱うポンプ部Pと、モータ部Mから構成され、モータ部Mの下端からモータ室にパージ液を注入するモータパージシステムを備える縦軸シールレスモータポンプにおいて、モータパージシステムは、スラスト軸受加圧ラインL1と、モータ室パージ液注入ラインL2と、パージ液加圧ラインL3を備え、三方弁14を介して加圧パージ液をスラスト軸受加圧ラインL1とモータ室パージ液注入ラインL2に切り替え供給できるようにし、バイパスラインに流量制限オリフィス16、パージ液加圧ラインL3には注液ポンプ12と定流量弁15を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温プロセス液体を取り扱う縦型シールレスモータポンプに関するものであり、特にモータ回転子の大重量を支えるパッド型スラスト軸受を備えた縦型シールレスモータポンプ、及び加圧水型原子力発電システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子炉の1次冷却水の循環等には耐高温高圧の縦軸シールレスモータポンプが用いられている。この種のモータポンプには、低温のモータ室を高温のポンプ部から保護分離するため、及び放射能汚染状態にある高温プロセス液体がモータ室に侵入することを防止するため、モータ室下部に少量の低温のプロセス液(モータパージ液)を注入して、モータ室に高温プロセス液が侵入するのを防止するモータパージシステムを設けることがある。
【0003】
上記モータパージ液は、モータ室最下部から注入され、モータ室内を満たし、モータ室とポンプ室の境をなす環状隙間部からポンプ室内の高温プロセス液に合流するようになっている。このようにモータパージ液でモータ室を満たし、該モータ室から溢れたパージ液をポンプ室内で高温プロセス液に合流させることにより、モータ室にポンプ内の高温プロセス液が侵入するのを防止することができる。このとき、モータパージシステムにより注入された低温のパージ液が、ポンプ側の高温プロセス液と合流する部位で、低温液と高温液の混合による温度変化が生じ易い。そして、付近の部材に温度変動による熱疲労割れを生じる場合がある。これに対する対策としては、ポンプ高温部にモータパージ液を昇温させるパージ液昇温ヒータを設け、低温のモータパージ液を自然循環により昇温させた後、ポンプ室内の高温プロセス液に合流させることで温度変動を抑制することが提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、この種の縦軸シールレスモータポンプには、回転体の軸方向のスラスト荷重を支持するために、液中スラスト軸受が設けられている。ポンプが大型の場合はスラスト軸受にパッド型スラスト軸受が用いられている。このパッド型スラスト軸受は始動時にはパッドとスラストディスクの隙間に液膜が形成されていないため固体摩擦潤滑となり軸受の異常磨耗や、場合によっては凝着が生じる恐れがある。この対策としては、軸受パッド側に液圧導入孔を設け、外部から高圧液を注入することでスラストディスクを浮上せしめ、モータ始動時の軸受摩擦トルクを著しく軽減する軸受始動時摩擦トルク軽減システムがある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−161890号公報
【特許文献2】特開平7−27140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、モータパージシステムでモータパージ液をモータ室へ注入することと、軸受始動時摩擦トルク軽減システムでパッド型スラスト軸受に高圧液を注入することでは、液注入ラインの流動抵抗や液注入量、さらには注入を必要とする期間が大きく異なる。そのため、縦軸シールレスモータポンプに、上記モータパージシステムと軸受始動時摩擦トルク軽減システムとの両方を採用する場合、モータパージシステムのパージ液をモータ室に供給するポンプと、軸受始動時摩擦トルク軽減システムの軸受に高圧液を注入するポンプとを別々に設けていた。そのため制御システムが複雑になると共に、コストも高価になるという問題があった。
【0007】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、一台の補機ポンプによりパッド型スラスト軸受への高圧液の注入とモータ室へのパージ液の注入とを実行できるモータパージシステムを備えた縦軸シールレスモータポンプ、及び該縦軸シールレスモータポンプを原子炉の1次冷却水循環ポンプに採用した加圧水型原子力発電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、高温液体を取り扱うポンプを備えたポンプ部と、該ポンプを駆動するモータを備えたモータ部から構成され、モータ部の下端からモータ室に低温のパージ液を注入するモータパージシステムを設けた縦軸シールレスモータポンプにおいて、モータパージシステムは、パージ液を主軸下端部に位置するパッド型スラスト軸受内に加圧したパージ液を注入するための軸受加圧用注入孔と、モータ部のモータ室に直接パージ液を注入するためのモータ室直接注入孔と、1台の注液ポンプを備え、パッド型スラスト軸受内とモータ室へのパージ液の注入を注液ポンプで行うことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上記縦軸シールレスモータポンプにおいて、モータパージシステムは、パージ液をモータ始動時はパッド型スラスト軸受内に軸受加圧用注入孔を通して注入した後前記モータ室へ、モータ始動後はモータ室直接注入孔を通してモータ室へ注入できるように切り替え可能な三方弁を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上記縦軸シールレスモータポンプにおいて、モータパージシステムは、パッド型スラスト軸受に軸受加圧用注入孔を通して加圧パージ液を注入するスラスト軸受加圧ラインと、モータ室にモータ室直接注入孔を通してパージ液を注入するモータ室パージ液注入ラインと、加圧したパージ液を供給するパージ液加圧ラインとを備え、パージ液加圧ラインは三方弁を介してスラスト軸受加圧ラインとモータ室パージ液注入ラインに接続されており、スラスト軸受加圧ラインとモータ室パージ液注入ラインとはバイパスラインで接続されており、該バイパスラインに流量制限オリフィスを設けたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上記縦軸シールレスモータポンプにおいて、モータ部のモータは、被覆巻線がモータ室内の液体に直接暴露する構成のウエット型モータであることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記縦軸シールレスモータポンプにおいて、モータ室に注入されたパージ液がポンプ室に合流する部位に、モータ室からのパージ液を加温するパージ液加温用ヒータを設けたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記縦軸シールレスモータポンプにおいて、モータ部のモータのコイルエンド部分又は該コイルエンド部分を含めたステータコア内周面を略円筒状の保護カバーで覆ったことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上記縦軸シールレスモータポンプにおいて、高温液体が原子炉の一次冷却水であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、加圧水型原子の1次冷却水を循環させるポンプに上記縦軸シールレスモータポンプのいずれかを用いたことを特徴とする加圧水型原子力発電システムにある。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、モータパージシステムは、パッド型スラスト軸受内とモータ室へのパージ液の注入を1台の注液ポンプで行うので、簡単なシステム構成で、且つ安価なモータパージシステムでモータ室への高温液体の侵入を防止することと、軸受始動時摩擦トルクの軽減とを図ることができる。
【0017】
また、本発明によれば、モータパージシステムは、パージ液をモータ始動時はパッド型スラスト軸受内に軸受加圧用注入孔を通して注入した後モータ室へ、モータ始動後はモータ室直接注入孔を通してモータ室へ注入できるように切り替え可能な三方弁を備えたので、簡単な構成のモータパージシステムの三方弁を切り替えるだけで、モータ室への高温液体の侵入を防止することと、軸受始動時摩擦トルクの軽減とを図ることができる。
【0018】
また、本発明によれば、スラスト軸受加圧ラインとモータ室パージ液注入ラインとを接続するバイパスラインに流量制限オリフィスを設けたので、始動時に摩擦トルクの軽減のため三方弁を介してパージ液加圧ラインをスラスト軸受加圧ラインに接続したとき、多量のパージ液がモータ室パージ液注入ラインに流入するのを抑制し、モータ室に注入されるパージ液の流量を適正量に維持することができる。
【0019】
また、本発明によれば、モータ部のモータは、被覆巻線がモータ室内の液体に直接暴露する構成のウエット型モータであるので、キャンドモータに比べてモータ効率がよくなる。
【0020】
また、本発明によれば、モータ室に注入されたパージ液がポンプ部のポンプ室に合流する部位に、モータ室からのパージ液を加温するパージ液加温用ヒータを設けたので、ポンプ室に合流するパージ液の液温を調整でき、低温液と高温液の混合による温度変動を抑え、パージ液がポンプ室に合流する付近の部材に生じる熱疲労割れを防ぐことができる。
【0021】
また、本発明によれば、モータ部のモータのコイルエンド部分又は該コイルエンド部分を含めたステータコア内周面を略円筒部材で覆ったので、モータロータの回転により発生する高速液流のコイルエンド部分やステータコア内周面の悪影響を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る縦軸シールレスモータポンプの全体構成を示す縦断面図である。
【図2】本発明に係る縦軸シールレスモータポンプのパッド型スラスト軸受のパージ液の流れ状態を示すである。
【図3】パッド型スラスト軸受の下部軸受パッドを上から見た図である。
【図4】本発明に係る縦軸シールレスモータポンプのモータ部とポンプ部の境界部のパージ液の流状態を示す図である。
【図5】本発明に係る縦軸シールレスモータポンプの他の全体構成を示す縦断面図である。
【図6】本発明に係る縦軸シールレスモータポンプの他の全体構成を示す縦断面図である。
【図7】本発明に係る縦軸シールレスモータポンプの他の全体構成を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。図1は本発明に係る縦軸シールレスモータポンプの全体構成を示す断面図である。縦軸シールレスモータポンプはポンプ部Pとモータ部Mから構成される。ポンプ部Pはポンプケーシング1を備え、該ポンプケーシング1の内部に羽根車2が配置され、該羽根車2は主軸3の上端に固定されている。また、モータ部Mはモータケーシング6を備え、該モータケーシング6にステータコア5が嵌入されている。また、ステータコア5の中央部に形成された円筒状の貫通空間には主軸3に固定されたロータコア4が配置されている。
【0024】
主軸3はモータ部Mの上部ラジアル軸受9とモータ部Mの下部ラジアル軸受10によりラジアル荷重が支持され、パッド型スラスト軸受20でスラスト荷重が支持されている。ステータコア5に装填されたステータ巻線5aに起動電流を通電してモータを起動し、ロータコア4を備えたモータロータが回転すると、羽根車2が回転し、ポンプ吸込口1aから吸込まれた液(高温プロセス液)はポンプ吐出口1bから吐き出される。この時モータ部Mはシールレスとなっているので、ポンプ取扱液はポンプ部Pとモータ部Mの境界部を通ってモータケーシング6内のモータ室に流入する。
【0025】
上記構成の縦軸シールレスモータポンプを例えば加圧水型原子の1次冷却液を循環させる冷却液循環ポンプに使用した場合、高温で放射能汚染されたプロセス液がモータケーシング6内に侵入することになる。これを防ぐため、本縦軸シールレスモータポンプでは、モータ室下部に少量の低温パージ液を供給してモータ室をパージ液で満たし、該モータ室を溢れたパージ液をモータ室とポンプ室の境をなす狭い環状隙間から高温液で満たされるポンプ室に合流させることで、モータ室内に高温のプロセス液が侵入するのを防止するモータパージシステムを備えている。以下モータパージシステムについて説明する。
【0026】
モータケーシング6の下端には、パッド型スラスト軸受20を収容するためのスラスト軸受ケース7が取付けられている。パッド型スラスト軸受20は図2に示すように、上軸受ハウジング21aと下軸受ハウジング21bとからなる軸受ハウジング21と、上軸受パッド22と下軸受パッド23とからなる軸受パッド24と、上軸受パッド22と下軸受パッド23の間に位置する軸受ディスク25を具備し、スラスト軸受ケース7内に配置されている。スラスト軸受ケース7にはパッド型スラスト軸受20に加圧したパージ液を注入するための軸受加圧用注入孔7aと、モータケーシング6内のモータ室にパージ液を直接注入するためのモータ室直接注入孔7bが設けられている。
【0027】
図1に示すように、軸受加圧用注入孔7aにはスラスト軸受加圧ラインL1が接続され、モータ室直接注入孔7bにはモータ室パージ液注入ラインL2が接続されている。また、スラスト軸受加圧ラインL1とモータ室パージ液注入ラインL2は三方弁14を介してパージ液加圧ラインL3に接続され、パージ液加圧ラインL3には定流量弁15が設けられている。また、パージ液加圧ラインL3には注液ポンプ12が設けられ、注液供給タンク13からのパージ液を注液ポンプ12で加圧して供給するようになっている。L4はスラスト軸受加圧ラインL1とモータ室パージ液注入ラインL2を接続するバイパスラインであり、該バイパスラインL4には流量制限オリフィス16が設けられている。
【0028】
17はモータ冷却用熱交換器であり、冷却水入口17aと冷却水出口17bを備え、モータケーシング6内のモータ室のパージ液を導入し、外部から冷却水入口17aを通して供給される冷却水との間で熱交換を行い、冷却してモータ室に返し、モータを冷却している。
【0029】
スラスト軸受加圧ラインL1から、図2及び図3に示すように、軸受加圧用注入孔7aを通して軸受ハウジング21内に供給されるパージ液は、下軸受パッド23の各受パッド片23aの下面に設けた液圧導入孔23bを通って受パッド片23aの上面に設けた液圧導出孔23cから軸受ディスク25の下面に押し出され、軸受ディスク25を浮上させた後、軸受ディスク25下面と下軸受パッド23上面の間の隙間を通った軸受ハウジング21内に流出する。そして下部ラジアル軸受10と主軸3の間の隙間を通って、モータ室に流入する。一方、モータ室パージ液注入ラインL2よりモータ室直接注入孔7bを通して供給されたパージ液はスラスト軸受ケース7内を満たし、該スラスト軸受ケース7から流出したパージ液はモータ室内のステータコア5及び該ステータコアに装填されたステータ巻線5aとロータコア4で形成される環状隙間を通り、更に図4に示すように、上部ラジアル軸受9と主軸3の間の隙間を通り、モータ部Mとポンプ部Pの間の境界部の環状の狭い隙間を通ってポンプ室内の高温プロセス液と合流する。なお、図3は下軸受パッド23を上から見た図、図4はポンプ部Pとモータ部Mの境部を示す図である。
である。
【0030】
上記のようにモータ部Mのモータ室から溢れ出たパージ液をポンプ部Pのホンプ室の高温液に合流させることにより、モータ室にポンプ室から高温で汚染された液が侵入することを防止している。また、モータパージシステムによりポンプ室の高温プロセス液に低温のパージ液が合流させると、該合流部位で低温液と高温液の混合により温度変動が生じ、付近の部材に熱疲労割れを生じる場合がある。そこで図4に示すように、モータ部Mとポンプ部Pの境界部の主軸3の外周部にパージ液昇温ヒータ8を設け、該パージ液昇温ヒータ8内に液流入口8aと液流出口8bを有する液流路を設け、液流入口8aから流入するパージ液を昇温し、液流出口8bから流出したパージ液をポンプ室内の高温液に合流させている。
【0031】
パージ液昇温ヒータ8の昇温容量に対して注入するパージ液の流量が多すぎると、昇温量が不足し温度変動が生じてしまう。また、パージ液量が少なすぎると、ポンプ室の高温プロセス液がモータ室内のパージ液と拡散混合する可能性がある。そこでパージ液注入量が常に適正な量となるようにパージ液加圧ラインL3には定流量弁15を設け、注入パージ液が適量になるように制限している。
【0032】
パッド型スラスト軸受20へのパージ液の加圧注入はモータポンプの始動時には必要であるが、定常運転時は不必要となる。そのため、本モータパージシステムでは定流量弁15の下流にスラスト軸受加圧ラインL1とモータ室パージ液注入ラインL2とを切り換える三方弁14を設けている。そしてモータ始動時は該三方弁14を介してスラスト軸受加圧ラインL1とパージ液加圧ラインL3を接続し、軸受加圧用注入孔7aを通してパッド型スラスト軸受20内に加圧パージ液を注入し、軸受ディスク25を浮上された後モータ室へパージ液を供給し、モータ始動後は三方弁14を介してモータ室パージ液注入ラインL2とパージ液加圧ラインL3を接続し、モータ室直接注入孔7bを通してパージ液をスラスト軸受ケース7内、及び下部ラジアル軸受10と主軸3の間の隙間を通してモータ室へ注入している。
【0033】
一般にスラスト軸受加圧ラインL1はモータ室パージ液注入ラインL2より流動抵抗が大きいこと、パッド型スラスト軸受20の軸受ディスク25を浮上させるためのパージ液注入量は少量で良いため、パージ液加圧ラインL3の定流量弁15の設定流量はパッド型スラスト軸受20の加圧用流量としては過大となってしまう。そこで、パージ液加圧ラインL3がスラスト軸受加圧ラインL1と接続された場合は、バイパスラインL4に設けた流量制限オリフィス16により、モータ室パージ液注入ラインL2に流れ込む流量を制限している。
【0034】
本縦軸シールレスモータポンプのモータ部Mにはモータステータ巻線5aを含む線に被覆線を使用し、該被覆線がモータ室内のパージ液に直接暴露するウエット型モータを使用している。この被覆線としては、液密性に優れた架橋ポリエチレン被覆絶縁線などの高分子被覆線が用いられるが、この種の被覆線は耐熱温度が高々130℃(B種モータ)であり、モータ室内の液を強制冷却するための強制冷却システムが不可欠となる。この強制冷却システムが停止すると、モータを直ちに停止する必要があるが、ポンプ部Pの取扱い液が高温の場合、モータ室は熱伝導により徐々に昇温し、高温となり耐熱温度を超えてしまう場合がある。ここでは上記構成のモータパージシステムを備えているので、ポンプが停止してもモータ室は常に低温のパージ液で満たすことができ、低温に維持できる。
【0035】
また、原子炉の冷却水等の冷却液を送るポンプにシールレスモータポンプを採用する場合、冷却液断時の安全性の観点から、耐熱性の高い巻線が要求されるため、効率の良いウエットモータではなく、効率の悪いキャンドモータとする場合がある。本縦軸シールレスモータポンプのように上記構成のモータパージシステムを備えていれば、耐熱性の低い架橋ポリエチレン被覆線等が利用可能となるため、高効率のウエットモータを用いた縦軸シールレスモータポンプで原子炉冷却液ポンプを実現できる。
【0036】
原子炉の冷却液ポンプにシールレスモータポンプを用い、モータパージシステムを設けると、モータ室の温度を低温に維持するだけでなく、モータ室内を放射能汚染された原子炉冷却液によって汚染されるのを防止することができる。
【0037】
原子炉の冷却液の循環ポンプにシールレスモータポンプを用いた場合、冷却液(冷却水)に含まれるホウ酸水がモータ部Mのモータコア(ロータコア、ステータコア)の積層板(珪素鋼板等の積層板)を腐食させる可能性があるが、モータパージ液としてホウ酸水を含まない低温の脱酸素水を注入すれば、積層板を腐食させることがない。
【0038】
なお、本縦軸シールレスモータポンプにおいて、モータ部Mの冷却及びパッド型スラスト軸受20の潤滑には、上記パージ液加圧ラインL3及びこれから三方弁15を介して分岐するスラスト軸受加圧ラインL1、モータ室パージ液注入ラインL2だけでなく、上記のようにモータ冷却用熱交換器17を設け、モータ室内のパージ液を循環させる循環ラインを備えたほうが、冷却面の冗長性からもより好適である。この場合、モータ冷却用熱交換器17への送液手段として、別途ポンプが必要となる。図示は省略するが、パッド型スラスト軸受20の軸受ディスク25内に遠心羽根車を形成し、吐出部と接続する流路を設けることで、モータ冷却用熱交換器17への送液手段とすることもできる。
【0039】
また、縦軸シールレスモータポンプにおいて、モータ部Mのステータコア5及びステータ巻線5aを備えたモータステータは、ロータコア4を備えたモータロータの回転により周方向のモータ室内液の流に曝される。スタータ巻線5aに架橋ポリエチレン被覆線を用いるウエットモータはこのような液流に対する耐久性に劣る場合があり、寿命の低下に繋がる恐れがある。この対策として図5に示すように、モータ部Mのモータステータのステータ巻線5aのエンド部分及びステータコア5の内周面を略円筒の保護カバー18で覆うことにより、モータロータの回転により発生する液流の影響を防ぐことができ、寿命の低下を防ぐことが可能である。なお、保護カバー18の下部のステータ巻線5aのエンド部分に対向する部分には、孔18aが設けられている。これは、保護カバー18内外の圧力差を生じさせないためであり、複数設けても良い。図示は省略するが保護カバー18の上部のステータ巻線5aのエンド部分に対向する部分にも孔を設けてもよい。
【0040】
図5では、略円筒状の保護カバーの端部外周をモータケーシング6の端部内周面に固着し、モータステータのステータ巻線5aのエンド部分及びステータコア5の内周面を保護カバー18で覆っているが、図6に示す例では、ステータコア5の端部内周面とモータケーシング6の端部内周面との間の空隙を保護カバー18で覆い、ステータコア5の内周面をモータ室に露出させている。このようにしても、モータロータの回転により発生する液流の影響を防ぐことができ、寿命の低下を防ぐことが可能である。図6に示す形態でも、下部の保護カバー18には、保護カバー18の内外に圧力差を生じさせないための孔18aが設けられている。また、図示は省略する上部の保護カバー18にも孔を設けてもよい。
【0041】
また、図7の場合は、ステータコア5のポンプ部P側の端部と、パッド型スラスト軸受20側の端部に円筒状の保護カバー18を固着している。そして各保護カバー18の反ステータコア5側端部とモータケーシング6の端部内面との間に隙間gを設けている。このようにしても、モータロータの回転により発生する液流の影響を防ぐことができ、寿命の低下を防ぐことが可能である。更に上部の隙間gからステータ室にロータ室のパージ液が流入し、モータ冷却用熱交換器17を通って、ステータ室の下部に戻り、下部の間隙gから一部がロータ室に漏れ出る。なお、下部の間隙gの方が上部の間隙gより狭く設定されている。これは、モータ冷却用熱交換器17を通って冷却されたパージ液が、下部の間隙gを通ってロータ室に漏れる量を抑制するためである。なお、図5、6の保護カバー18においても同様な理由で、上部の保護カバー18にも孔を設ける場合は、下部の保護カバー18の孔のほうが上部の保護カバー18の孔よりも、大きさが小さいか、数が少ないことが望ましい。
【0042】
以上、本発明の実施形態例を説明したが、本発明は上記実施形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお、直接明細書及び図面に記載がない何れの形状や構造であっても、本願発明の作用効果を奏する以上、本願発明の技術範囲である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、モータパージシステムは、パッド型スラスト軸受20内とモータ室へのパージ液の注入を1台の注液ポンプ12で行うので、簡単なシステム構成のモータパージシステムでモータ室への高温液体の侵入を防止することと、軸受始動時摩擦トルクの軽減とを図ることができる縦軸シールレスモータポンプとして利用することができる。また、モータパージシステムは、パージ液をモータ始動時はパッド型スラスト軸受内に軸受加圧用注入孔7aを通して注入した後モータ室へ、モータ始動後はモータ室直接注入孔7bを通してモータ室へ注入できるように切り替え可能な三方弁14を備えたので、三方弁14の切り替えでモータ室への高温液体の侵入を防止することと、軸受始動時摩擦トルクの軽減とを図ることができる縦軸シールレスモータポンプとして利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 ポンプケーシング
2 羽根車
3 主軸
4 ロータコア
5 ステータコア
6 モータケーシング
7 スラスト軸受ケース
8 パージ液昇温ヒータ
9 上部ラジアル軸受
10 下部ラジアル軸受
12 注液ポンプ
13 注液供給タンク
14 三方弁
15 定流量弁
16 流量制限オリフィス
17 モータ冷却用熱交換器
18 保護カバー
20 パッド型スラスト軸受
21 軸受ハウジング
22 上軸受パッド
23 下軸受パッド
24 軸受パッド
25 軸受ディスク
L1 スラスト軸受加圧ライン
L2 モータ室パージ液ライン
L3 パージ液加圧ライン
L4 バイパスライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温液体を取り扱うポンプを備えたポンプ部と、該ポンプを駆動するモータを備えたモータ部から構成され、前記モータ部の下端からモータ室に低温のパージ液を注入するモータパージシステムを設けた縦軸シールレスモータポンプにおいて、
前記モータパージシステムは、前記パージ液を主軸端部に位置するパッド型スラスト軸受内に加圧したパージ液を注入するための軸受加圧用注入孔と、前記モータ部のモータ室に直接パージ液を注入するためのモータ室直接注入孔と、1台の注液ポンプを備え、前記パッド型スラスト軸受内と前記モータ室へのパージ液の注入を前記注液ポンプで行うこと備えたことを特徴とする縦軸シールレスモータポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の縦軸シールレスモータポンプにおいて、
前記モータパージシステムは、前記パージ液を前記モータ始動時は前記パッド型スラスト軸受内に前記軸受加圧用注入孔を通して注入した後前記モータ室へ、前記モータ始動後は前記モータ室直接注入孔を通して前記モータ室へ注入できるように切り替え可能な三方向弁を備えたことを特徴とする縦軸シールレスモータポンプ。
【請求項3】
請求項2に記載の縦軸シールレスモータポンプにおいて、
前記モータパージシステムは、前記パッド型スラスト軸受に前記軸受加圧用注入孔を通して加圧パージ液を注入するスラスト軸受加圧ラインと、前記モータ室に前記モータ室直接注入孔を通してパージ液を注入するモータ室パージ液注入ラインと、加圧したパージ液を供給するパージ液加圧ラインとを備え、
前記パージ液加圧ラインは前記三方弁を介して前記スラスト軸受加圧ラインと前記モータ室パージ液注入ラインに接続されており、
前記スラスト軸受加圧ラインと前記モータ室パージ液注入ラインとはバイパスラインで接続されており、
前記バイパスラインに流量制限オリフィスを設けたことを特徴とする縦軸シールレスモータポンプ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の縦軸シールレスモータポンプにおいて、
前記モータ部のモータは、被覆巻線が前記モータ室内の液体に直接暴露する構成のウエット型モータであることを特徴とする縦軸シールレスモータポンプ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の縦軸シールレスモータポンプにおいて、
前記モータ室に注入されたパージ液が前記ポンプ室に合流する部位に、前記モータ室からのパージ液を加温するパージ液加温用ヒータを設けたことを特徴とする縦軸シールレスモータポンプ。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の縦軸シールレスモータポンプにおいて、
前記モータ部のモータのコイルエンド部分又は該コイルエンド部分を含めたステータコア内周面を略円筒状の保護カバーで覆ったことを特徴とする縦軸シールレスモータポンプ。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の縦軸シールレスモータポンプにおいて、
前記高温液体が原子炉の一次冷却水であることを特徴とする縦軸シールレスモータポンプ。
【請求項8】
加圧水型原子の1次冷却水を循環させるポンプに請求項1乃至6のいずれか1項に記載の縦軸シールレスモータポンプを用いたことを特徴とする加圧水型原子力発電システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−226371(P2011−226371A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96546(P2010−96546)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】