説明

縦軸用軸封装置

【課題】シール対象流体がシール部に溜まる不都合が回避できるようにして、比較的構造が簡単でありながら高回転にも対応可能となる特徴が余すところなく発揮できるように改善された縦軸用軸封装置を提供する。
【解決手段】流体処理用の回転機器から下方に延設される上下向きの回転軸1に対してシールすべく、回転軸1に外装配備される縦軸用軸封装置において、回転軸1に外嵌される状態でハウジング2に支持されるシール用のリング体9を設け、リング体9にその下面から上方に凹入する状態の周溝状の第1凹部14を形成し、リング体9における周溝状の第1凹部14の径内側となる内側壁15が、回転軸1に沿って下方に延設される第1円筒状シールリップに構成されるとともに、周溝状の第1凹部14に、第1円筒状シールリップ15を回転軸1の外周面3aに押し付けて軸シール部Sを形成するための弾性機構11が装備される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縦軸用軸封装置に係り、詳しくは、流体処理用の回転機器から下方に延設される上下向きの回転軸に対してシールすべく、前記回転軸に外装配備される縦軸用軸封装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の縦軸用軸封装置、特に密封流体に直接接触するリップシールとしては、特許文献1にて開示された攪拌機の軸封装置が知られている。この軸封装置では、縦向き(上下向き)の攪拌軸(4)に液密にスリーブ(10)が外嵌装着されており、そのスリーブ(10)を囲繞しているハウジング〔軸受部(8)〕に、断面が「フ」字状を呈するリップシール(11)を配置する構造が示されている。
【0003】
上記特許文献1のものでは、リップシール自身の持つ弾性によってスリーブ(10)の外周面に押し付けてシールさせる構造であるが、処理液が高圧であるような条件が厳しい場合には漏洩発生が懸念される。そのような場合には、特許文献2において開示される横軸用の軸封装置(図1参照)のように、シールリング(2)における軸(50)に外嵌されるリップ部にスプリング(9)を巻き付け、より強く縮径付勢することでシール性を強化する手段が考えられる。
【0004】
ところが、強化用スプリングの有無に拘らず、特許文献1に示される構造の縦軸用リップシールでは、リップシールの断面形状が受樋のような形であり、流れ込むシール対象流体がリップシール自身や、その上側のシール空間部分に溜まり易い。シールすべき対象流体(以下、シール流体という)としては、粉体や溶剤、粘性流体、或いは毒性のある液等もあり、シールリップにシール流体が常時溜まるような構成は、未使用時にシール流体が硬化して次の使用時にシール性能が低下するおそれがある等、不都合を招き易いため、芳しいものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−36773号公報
【特許文献2】特開2005−214293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、シール流体がシール部に溜まる不都合が回避できるようにして、比較的構造が簡単でありながら高回転にも対応可能になるという優れた性能が余すところなく発揮できるように改善された縦軸用軸封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、流体処理用の回転機器から下方に延設される上下向きの回転軸1に対してシールすべく、前記回転軸1に外装配備される縦軸用軸封装置において、
前記回転軸1に外嵌される状態でハウジング2に支持されるシール用のリング体9を設け、前記リング体9にその下面から上方に凹入する状態の周溝状の第1凹部14を形成し、前記リング体9における前記周溝状の第1凹部14の径内側となる内側壁15が、前記回転軸1に沿って下方に延設される第1円筒状シールリップに構成されるとともに、
前記第1円筒状シールリップ15と、前記第1円筒状シールリップ15を前記回転軸1の外周面3aに押し付けて軸シール部S1を形成するために前記周溝状の第1凹部14に配備される第1弾性機構11と、を有して成るリップシールAが設けられていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の縦軸用軸封装置において、前記第1弾性機構11が、前記第1円筒状シールリップ15に巻き付けられるコイルスプリングを前記周溝状の第1凹部14に設けることで構成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の縦軸用軸封装置において、前記リング体9にその外周面から径内側に凹入する状態の第2環状外周溝16を設け、前記リング体9における前記第2環状外周溝16の上側となる上周壁17が、前記ハウジング2における前記リング体9の上側に対向配備される臨接下面6aに沿って径外側に延設される環状の第2円盤状シールリップに構成されるとともに、
前記第2円盤状シールリップ17と、前記第2円盤状シールリップ17を前記臨接下面6aに押し付けて第2シール部S2を形成するために前記第2環状外周溝16に配備される第2弾性機構19と、を有して成るリップシールR2が設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の縦軸用軸封装置において、前記リング体9にその外周面から径内側に凹入する状態の第3環状外周溝20を設け、前記リング体9における前記第3環状外周溝20の下側となる下周壁18が、前記ハウジング2における前記リング体9の下側に対向配備される臨接上面7aに沿って径外側に延設される環状の第3円盤状シールリップに構成されるとともに、
前記第3円盤状シールリップ18と、前記第3円盤状シールリップ18を前記臨接上面7aに押し付けて第3シール部S3を形成するために前記第3環状外周溝20に配備される第3弾性機構21と、を有して成るリップシールR3が設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の縦軸用軸封装置において、前記第3環状外周溝20が前記第2環状外周溝16で兼用されており、前記第2弾性機構19が前記第3弾性機構21を兼ねる構成とされていることを特徴とする。
【0012】
請求項6に係る発明は、請求項1〜5の何れか一項に記載の縦軸用軸封装置において、前記リング体9に隣接するラビリンス部5にネジシール手段4が配置されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、詳しくは実施形態の段落にて述べるが、シール流体が軸シール部に到達し難くなるとともに、下向きであるから弾性機構のある周溝状の第1凹部に入り込むことがなくなり、クリーンな状況に維持される。従って、シール流体はリップシールには到達し難くなり、リップシールの構成要素を早期に劣化させたり侵したりするおそれが軽減又は回避されるようになる。また、シール流体がリップシールに溜まって悪影響を及ぼす、という問題も解消され、機器の運転時または停止中を問わず正常なシール機能が発揮されるようになる。その結果、リップを下向き状態でシール用のリング体の下部に設ける構成では、シール流体がシール部に溜まる不都合が回避できるようにして、比較的構造が簡単でありながら高回転にも対応可能となる特徴が余すところなく発揮できるように改善された縦軸用軸封装置を提供することができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、縦軸用軸封装置に装着するリップシールにおいて、弾性機構をコイルスプリングの巻き付け構造とすることにより、必要となる機能を出しながら、リング体の環状外周溝に食み出さずコンパクト収容できるため、リップシールを小型化でき、その結果、コンパクトな縦軸用軸封装置を提供できる利点がある。
【0015】
請求項3の発明によれば、リング体とその上側に位置するハウジングとの間が、リップシール構造の上面シール部でシールされる構成となり、軸封用として設けられるリング体の有効利用により、回転軸との間だけでなく、上側に位置するハウジングとの間のシール性も向上する利点がある。
【0016】
請求項4の構成によれば、リング体とその下側に位置するハウジングとの間が、リップシール構造の下面シール部でシールされる構成となり、軸封用として設けられるリング体の有効利用により、請求項3の発明による前記効果に加えて、さらに下側に位置するハウジングとの間のシール性も向上する利点がある。
【0017】
請求項5の発明によれば、上及び下面シール部それぞれの構成要素が兼用化されるようになり、請求項4の効果を奏するものを、部品点数の削減並びにコンパクト化を推進しながら実現させることができる利点が追加される。
【0018】
請求項6の発明によれば、リング体の上部に隣接するラビリンス部にネジシール手段を配置して軸の回転と共にラビリンス部に侵入してくるシール流体をラビリンス部から排出する流れを形成できるため、リング体をフッ素樹脂製とすれば、耐高温性や耐薬品性に優れており、シール対象流体が薬剤であるとか毒性があるといった厳しい条件においても、十分な潤滑性(シール性)や耐久性が発揮される縦軸用軸封装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】縦軸用軸封装置の全体を示す断面図
【図2】図1に適用される縦軸用リップシールの要部断面図(実施例1)
【図3】第1別構造の縦軸用リップシールを示す要部断面図(実施例2)
【図4】第2別構造の縦軸用リップシールを示す要部断面図(実施例3)
【図5】第3別構造の縦軸用リップシールを示す要部断面図(実施例4)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明による縦軸用軸封装置の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、スリーブ3は回転軸1と一体のものであり、権利解釈上は、スリーブ3の外周面3aは回転軸1の外周面をとみなして良いものとする。
【0021】
〔実施例1〕
図1に、流体処理用の回転機器(攪拌機など)から下方に延設される上下向きの回転軸1に対して作用する縦軸用軸封装置(以下、単に軸封装置と略称する)Jが示されている。軸封装置Jは、上下向きの軸心(回転軸心)Pを持つ回転軸1と、回転軸1を囲繞する状態で配置されるシールハウジング2との間に構成されており、上から順に、縦軸用リップシール(以下、単にリップシールと略称する場合がある。)A、回収機構B、第1セグメントシールC、第2セグメントシールD、その他を配備して構成されている。
【0022】
図1に示すように、回転軸1にはスリーブ3が液密状で一体回転する状態で外嵌されており、そのスリーブ3を回転軸として前述の各機構類A〜D等が構成されている。スリーブ3の上部には、逆ネジリング(ネジシール手段の一例)4が溶着等の手段によって一体回転状態で外装されている。
【0023】
この逆ネジリング4は円板状または円筒状の外観を備え、その外周には、回転軸1の回転方向を基準とした場合に逆ネジとなる螺子溝が形成されている。回転軸1と共に逆ネジリング4が回転すると、螺子溝がその周りの流体を軸心P方向で機内側(上側)に押し上げようとする作用が生じる。従って、逆ネジリング4は、回転軸1の回転とともに機内からハウジング2の内周面とスリーブ3の外周面3aとにより形成されるわずかな隙間を通ってラビリンス室5に侵入するシール流体を、ラビリンス室5から機内側に押し戻すネジシールとして機能する。
【0024】
そして、ハウジング2との間に形成されるラビリンス部5の下側に縦軸用リップシールAが配備されている。リップシールAの下側には、上方から漏れてくるシール流体を外部に排出可能とするための回収リング22を、液密で一体回転する状態でスリーブ3に外嵌装着して回収機構Bが構成されている。回収リング22は、第8ケース7と第9ケース23とスリーブ3とで形成される環状の回収空間部24に配備されている。
【0025】
詳述すると、図1に示すように、回収機構Bは、回収空間部24と回収リング22から構成されるとともに、回収空間部24に連通するパージガスの排出流路41とパージガスの供給路40とが設けられている。供給路40は、シールハウジング2の外部から弾性室38へ向かうように第3ケース31に形成されている。弾性室38は、第3ケース31の内周側における第1セグメントシールCと第2セグメントシールDとの上下間に形成されているコイルバネ37収容用のスペースである。回収機構Bは、供給路40から軸封装置Jの内部に供給されるパージガスを回収する機構である。パージガスは、万一、上方からシール流体が漏洩した場合においても、そのシール流体が軸封装置Jの外部に排出されるのを防止する手段の一つであり、窒素ガスまたは大気(空気)などの不活性ガスが使用され、パージガスの供給量はシール流体の圧力に応じて適宜に設定される。
【0026】
排出流路41は、回収空間部24を構成する内周壁7bの上部(第8ケース7の下面であるテーパ状下面7cと内周壁7bとの境目の近く)に開口させて形成している。従って、空気に比べ比重が小さいパージガスを回収空間部24の排出流路41に集め易く、汚染されたパージガスを排出し易くしている。第8ケース7のテーパ状下面7c(回収空間部24の上面)は、径外側に行くに従って上に寄るように傾斜しており、その回収空間部24の傾斜上面に呼応するように径外側に行くほど上に寄るように傾斜した外周部を有する回収リング22が、セットスクリュー(図1に符号無しで示す)などの固定手段を用いてスリーブ3に外嵌及び固定されている。
【0027】
パージガスの供給路40から供給されたパージガスは、回収空間部24において、特に回収リング22の外周と内周壁7bとの隙間においてシール流体に近接する。すなわち、第1セグメントシールCを通過し上方に向かうパージガスは、回収空間部24に配備されている回収リング22の回転に伴い、回収リング22のテーパ下面22bに沿った外向き流れに変換され、第8ケース7の内周壁7b(回収空間部24としての外周壁に相当)の上側に形成された排出流路41を経て、回収装置(図示省略)またはフレア(図示省略)に導かれる。特に有毒なガスはフレアに集められて焼却される。
【0028】
第8ケース7の内周壁7bは、スリーブ3の表面である外周面3aと平行に位置する曲面(即ち、円周面)に形成されている。回収空間部24の上部を構成する第8ケース7のテーパ状下面7cは、軸心P方向の下部から上部に向かって径方向に拡径したテーパ状の面に形成されている。このテーパ状の面に形成する理由は、万一、シール流体が縦軸用リップシールAの能力を越えて漏洩した場合には、回収リング22の上面として形成されるテーパ上面22aにより漏洩したシール流体の流れをテーパ上面22aに沿って周方向に向かう流れに変換し、回収空間部24の外周面である内周面7bの上側におけるテーパ状下面7cとの境目付近に形成された排出流路41に漏洩流体を導き易くするためである。
【0029】
第8ケース7のテーパ状下面7cをテーパ状に形成するもう一つ理由がある。それは、縦軸用リップシールAを越えて漏出するシール流体が発生した場合、回収リング22の上面であるテーパ上面22aとテーパ状下面7cとの間の隙間空間を、径内側から径外側に行くほど上に寄るように傾斜する隙間空間に設定することにより、その漏出したシール流体が回収空間部24の内部に滞留するのを防ぐためである。テーパ状下面7cは、回転軸1を含む断面において、回転軸1の軸心Pとテーパ状下面7cのなす角度τを120°±5°の範囲に設定するのが好ましい。
【0030】
回収リング22の外周部分は、第8ケース7のテーパ状下面7cとほぼ平行となるテーパ上面22aを有する状態の寸法に形成されている。このように形成された場合、下方から回収空間部24に流れ込むパージガスの流れに、下方から上方向かう流れを保ちつつ回収リング22のテーパ下面22bによるガイド作用を与えるようになる。故に、回収空間部24においては、下方から流れてくるパージガスが、内周壁7bに形成された排出流路41に回収され易くなる、という効果を奏することができる。
【0031】
回収リング22の上下の面であるテーパ上面22a及びテーパ下面22bは、第8ケース7のテーパ状下面7cの斜面と軸心Pに対して、ほぼ同等の角度を備えて径外側に行くほど上に寄るテーパ面に形成されている。従って、テーパ下面22bは、第1セグメントシールCを通過して下方から回収空間部24に侵入したパージガスを、回収空間部24の上部に形成された排出流路41に導く。ここで、下方から侵入して排出流路41に導かれるパージガスの流れとともに漏洩したシール流体も排出流路41に導かれるようになって、図外の回収装置またはフレアに導かれるため、シール流体が漏洩したとしても、機器設置されている作業環境を汚染することがないという効果が発揮される。
【0032】
回収リング22は、軸封装置を使用する環境や軸封装置内部の汚染を防ぐため耐食性を備えた材料により構成されのが好ましい。そのような材料としては、ステンレス鋼材またはフッ素樹脂(PTFEなど)が挙げられる。特に、フッ素樹脂を使用した場合、腐食性を有するシール流体を密封する場合、上記として漏洩するシール流体が凝集して再び液体になることがある。このようなケースであっても、縦軸用リップシールAにおいて凝集したシール流体が回収リング22のテーパ上面22aに落下すると、フッ素樹脂の有する低摩擦性または撥水性により、回収リング22の回転とともに直ちに回収リング22の外周まで移動させることができ、漏洩したシール流体に対して強力な排出効果を発揮することができる。さらに、回収リング22を軽量化できるため、動力損失も低減できる。
【0033】
さて、図1に示すように、回収空間部24の下側には、上下一対の環状セグメント体25,26、及び巻回スプリング27,27等を備えて成る第1セグメントシールCが配置され、その下側には、上下一対の環状セグメント体28,29、及び巻回スプリング30,30等を備えて成る第2セグメントシールDが配置される。第9ケース23と第3ケース31とで形成される第1環状空間部32に第1セグメントシールCが収容され、第3ケース31と第4ケース33とで形成される第2環状空間部34に第2セグメントシールDが収容される。第3ケース31に上下貫通形成される通孔31aには、上下の受板35,36を介して第1環状空間の第1環状セグメント対25,26と第2環状空間の第2環状セグメント対28,29とを上下に互いに離反する方向に押圧付勢するコイルバネ37が嵌装されている。
【0034】
リップシールAは、図1,図2に示すように、円環状凹部に形成されたシール用空間部8に、フッ素樹脂(PTFEなど)製のリング体9、リング体9に外装されるフッ素樹脂(PTFEなど)製の締付リング10、シール用の小コイルスプリング(例:ステンレス鋼材製)で成る第1弾性機構11、締付用の大コイルスプリング(例:ステンレス鋼材製)12等を配置して構成されている。シール用空間部8は、ハウジング2を構成する一要素である第7ケース6及び第8ケース7、並びにスリーブ3の外周面3aとで囲まれて形成されている。リング体9は、その上部と第7ケース6とに跨って回転軸1の中心と平行に設けられる上下向きで単一又は複数のピン13の存在により、軸心P周りに回動不能にハウジング2に支持されている。
【0035】
つまり、スリーブ3に外嵌される状態でハウジング2に支持されるシール用のリング体9を設け、リング体9にその下面から上方に凹入する状態の周溝状の第1凹部14を形成し、リング体9における周溝状の第1凹部14の径内側となる内側壁が、スリーブ(回転軸の一例)3の外周面3aに沿って下方に延設される第1円筒状シールリップ(内側壁の一例)15に構成されている。そして、周溝状の第1凹部14に、第1円筒状シールリップ15をスリーブ3の外周面3に押し付けて軸シール部S1を形成するための第1弾性機構11として小コイルスプリングが装備されている。要するに、第1弾性機構11は、第1円筒状シールリップ15に巻付けられる小コイルスプリングを周溝状の第1凹部14に設けて構成されている。
【0036】
第1円筒状シールリップ15は、その上部であってスリーブ3の外周面3aから若干径方向に離間し、かつ、径方向厚みが若干薄くされて本体リング部9Aに接続される環状付根部15Bと、外周面3aに対して反り返るように湾曲した断面形状を有し、かつ、小コイルスプリング11が外装される状態で外周面3aに接触する湾曲内周面15aを有する先端リップ部15Aとを備えている。先端リップ部15Aの外周面15bも、そこに巻回される小コイルスプリング11が外れ出ないように反り返る形状の湾曲面に形成されている。先端リップ部15Aが第1弾性機構11の弾性力で(又は、自身の持つ弾性力も加えられて)縮径付勢されており、それによって湾曲内周面15aがスリーブの外周面3aに押付けられて軸シール部S1が形成されている。
【0037】
そして、リング体9は、上下一対の静止リップシールR2,R3を形成する構成要素としても機能している。上静止リップシールR2は、リング体9の第2円盤状シールリップ(上周壁の一例)17と、これを上方付勢して第7ケース6に押付ける第2弾性機構19とで構成されるとともに、下静止リップシールR3は、リング体9の第3円盤状シールリップ(下周壁の一例)18と、これを下方付勢して第8ケース7に押付ける第3弾性機構21とで構成されている。締付リング10は、リング体9の第2環状外周溝16に嵌り込み外装されており、その締付リング10が巻回装備される大コイルスプリング12が第2及び第3弾性機構19,21に相当する。つまり、大コイルスプリング12で成る第2弾性機構19と第3弾性機構21とが兼用構成されている。次に、各部について詳述する。
【0038】
リング体9には、その外周面から径内側に(水平方向に)凹入する状態の第2環状外周溝16が形成されており、その第2環状外周溝16の上側の部分が径内側で本体リング部9Aに一体化される第2円盤状シールリップ17に形成され、第2環状外周溝16の下側の部分が径内側で本体リング部9Aに一体化される第3円盤状シールリップ18にそれぞれ形成されている。第2円盤状シールリップ17の下面外径側には、締付リング10の上傾斜周面10aに接触するテーパ周面17aが、そして上面外径側には、第7ケース6の臨接下面6aに接触する水平な第2リップ周面17bがそれぞれ形成されている。第3円盤状シールリップ18の上面外径側には、締付リング10の下傾斜周面10bに接触するテーパ周面18aが、そして下面外径側には、第8ケース7の臨接上面7aに接触する水平な第3リップ周面18bがそれぞれ形成されている。
【0039】
締付リング10には、その外周面から径内側に凹入する環状装着溝10Aが形成されており、断面形状が横向きのY字形状を呈している。環状装着溝10Aに巻回装備される大コイルスプリング12は、締付リング10を縮径付勢し、それによってテーパ面接触している第2円盤状シールリップ17はケース6の臨接下面6aに押圧付勢され、かつ、第3円盤状シールリップ18は第8ケース7に押圧付勢される。それにより、リップ周面17bが臨接下面6aに押付けられて第2シール部S2が形成される上静止リップシールR2が構成されるとともに、下リップ周面18bが臨接上面7aに押付けられて第3シール部S3を形成する下静止リップシールR3が構成されている。なお、可撓性を有する合成樹脂製の締付リング10は環状体でも良いが、例えば、僅かな隙間でもって周方向で1箇所寸断されて軸心P方向でC字形状を呈するC型リングにするとか、2箇所で分断された一対の略半割りリングとすれば、より容易に縮径変位できる点で好都合である。
【0040】
つまり、リング体9にその外周面から径内側に凹入する状態の第2環状外周溝16を設け、リング体9における第2環状外周溝16の上側となる上周壁が、ハウジング2におけるリング体9の上側に対向配備される臨接下面6aに沿って径外側に延設される環状の第2円盤状シールリップ17に構成されている。そして、第2環状外周溝16に、第2円盤状シールリップ17を臨接下面6aに押し付けて第2シール部S2を形成するための第2弾性機構19が装備されている。
【0041】
加えて、リング体9にその外周面から径内側に凹入する状態の第3環状外周溝20を設け、前記リング体9における第3環状外周溝20の下側となる下周壁が、ハウジング2におけるリング体9の下側に対向配備される臨接上面7aに沿って径外側に延設される環状の第3円盤状シールリップ18に構成されている。そして、第3環状外周溝20に、第3円盤状シールリップ18を臨接上面7aに押し付けて第3シール部S3を形成するための第3弾性機構21が装備されている。
【0042】
本実施例による軸封装置Jにおいては、第3環状外周溝20が第2環状外周溝16で兼用されており、第2弾性機構である大コイルスプリング19が第3弾性機構21を兼ねる構成として、部品点数を削減とコンパクト化とを図りながら上下のリップシールR2,R3を設ける合理化設計が為されている。但し、図示は省略するが、第2弾性機構19が装備される第2環状外周溝16と、第3第弾性機構21が装備される第3環状外周溝20とを各別にリング体9に形成する構成としても良い。このように、リング体9とスリーブ3とに跨るリップシールA、リング体9と第7ケース6とに跨る上静止リップシールR2、及びリング体9と第8ケース7とに跨る下静止リップシールR3という三つのシール部A,R2,R3により確実な軸封機能が発揮可能に構成されている。
【0043】
円筒状シールリップ15は、リング体9の下端部に下向き延出状で設けられているので、スリーブ3の外周面3aと第7ケース6の内周面6bとの間から下方に移動してくるシール流体は、互いに密嵌合されるリング体9の内周面9aと外周面3aとの間の非常に狭い箇所がラビリンスシールとして作用し、そこを通過する流体のエネルギーを低下させるため、リップシールAに到達し難くなってクリーンな状況を維持することができる。そして、第1弾性機構としての小コイルスプリング11装備用の周溝状の第1凹部14は下向き開放状の溝であるから、たとえ、シール流体が縦軸用リップシールAに及ぶことがあったとしても、周溝状の第1凹部14に入り込むことはなく、小コイルスプリング11の環境もクリーンなものに維持される。
【0044】
従って、シール流体が粉体、粘性流体、有機溶剤、スラリー、或いは毒性のあるような場合でも、それらシール対象流体はリップシールAには到達し難くなり、リップシールAの構成要素を早期に劣化させたり侵したりするおそれが軽減又は回避されるようになる。また、停止中にある軸封装置Jを経時後に再使用する際に、前のシール対象流体がリップシールに溜まって、かつ、硬化していることで悪影響を及ぼす、という従来の問題も解消され、正常なシール機能が発揮されるようになる。
【0045】
その結果、更なる構造工夫により、シール流体が軸シール部S1に溜まる不都合が回避できるようにして、比較的構造が簡単でありながら高回転にも対応可能となる特徴が如何なく発揮できるように改善された縦軸用リップシールAを提供することに成功している。加えて、上下の静止リップシールR2,R3も兼用構成を図りながら設けられているので、シール対象流体がリング体9の外周側を伝って軸シール部S1に及ぶことも回避されるという好都合なものとなっている。
【0046】
ところで、第3ケース31に形成されるパージガスの供給路40から、軸封装置Jの内部に注入されるパージガスは、第1セグメントシールCと第2セグメントシールDの二方向に分かれる。一般にパージガスは、窒素ガスのように不活性かつ無害なガスが使用される。第2セグメントシールDは、パージガスの漏洩を防ぐ作用を奏し、それにより第1セグメントシールCに向かうパージガスの圧力低下を防止する。第1セグメントシールCに隣接して設置される第9ケース23は、スリーブ3の外周面3aに接近する内周面を持つことによってラビリンス部(符記省略)を構成している。このラビリンス部はシール流体が回収空間部24を越えて漏出した場合、軸封装置Jの外部に漏洩するのを防止するラビリンスシールとして機能することができる。
【0047】
シール流体の漏出の無い通常の場合は、供給路40から供給されるパージガスのうち、第1セグメントシールCに流れるパージガスは、第1セグメントシールCから第9ケース23により構成される前記ラビリンス部を通過して回収空間部24に侵入する。このパージガスは、回収空間部24の上部に形成された排出流路41に導かれる。回収リング22のテーパ上面22aと第8ケース7のテーパ下面7cは、機内側からシール流体が漏洩した場合、回収空間部24に侵入するシール流体をテーパ上面22aとテーパ状下面7cの外周方向に導く。ここで、下方から侵入し、排出流路41に導かれるパージガスの流れとともに、漏洩したシール流体が排出流路41に導かれ、図外の回収装置またはフレアに導かれる。
【0048】
そのため、万一、シール流体が漏洩したとしても、軸封装置Jの外部への漏出を防ぐことができるので、機器が設置されている作業環境を汚染することがないという効果が発揮される。従って、本発明による軸封装置においては、医薬品の製造装置などクリーンな環境が重要視される用途に好適である。
【0049】
〔第1別実施例〕
図3に示すように、実施例1によるリップシールAにおける第1弾性機構としての小コイルスプリング11を、板状バネ11に置き換えた構成のリップシールAでも良い。板状バネ11としては、軸心P方向視でC字形状を為すC形リング状のものや、軸心Pに関するある程度の角度範囲で重なる部分もつ略ゼンマイ形のものも可能である。尚、図3や、以下に示す図4,5においては、実施例1によるものと同じ構造の箇所には同じ符号を付し、その説明が為されたものとする。また、図3〜図5に示すものではスリーブ3を省略してある。
【0050】
〔第2別実施例〕
図4に示すように、実施例1によるリップシールAにおける小コイルスプリング11を、Oリング11に置き換えた構成のリップシールAでも良い。この場合、周溝状の第1凹部14を奥拡がり形状とすれば、Oリング11が周溝状の第1凹部14に無理入れされた状態となり、抜け出し規制効果が得られる利点がある。
【0051】
〔第3別実施例〕
実施例1によるリップシールAの構造においてピン13を省略し、リング体9がスリーブ3と、即ち回転軸1と連回りする構造としても良い。この場合は、締付リング10とハウジング2とは相対回転するので、上下一対の静止リップシールR2,R3は回転リップシールとして機能する。
【符号の説明】
【0052】
1 回転軸
2 ハウジング
3a 外周面
4 ネジシール手段
6a 臨接下面
7a 臨接上面
9 リング体
11 第1弾性機構(コイルスプリング)
14 周溝状の第1凹部
15 内側壁(第1円筒状シールリップ)
16 第2環状外周溝
17 上周壁(第2円盤状シールリップ)
18 下周壁(第3円盤状シールリップ)
19 第2弾性機構
20 第3環状外周溝
21 第3弾性機構
A リップシール
R2 リップシール
R3 リップシール
S1 軸シール部
S2 第2シール部
S3 第3シール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体処理用の回転機器から下方に延設される上下向きの回転軸に対してシールすべく、前記回転軸に外装配備される縦軸用軸封装置であって、
前記回転軸に外嵌される状態でハウジングに支持されるシール用のリング体を設け、前記リング体にその下面から上方に凹入する状態の周溝状の第1凹部を形成し、前記リング体における前記周溝状の第1凹部の径内側となる内側壁が、前記回転軸に沿って下方に延設される第1円筒状シールリップに構成されるとともに、
前記第1円筒状シールリップと、前記第1円筒状シールリップを前記回転軸の外周面に押し付けて軸シール部を形成するために前記周溝状の第1凹部に配備される第1弾性機構と、を有して成るリップシールが設けられている縦軸用軸封装置。
【請求項2】
前記第1弾性機構が、前記第1円筒状シールリップに巻き付けられるコイルスプリングを前記周溝状の第1凹部に設けることで構成されている請求項1に記載の縦軸用軸封装置。
【請求項3】
前記リング体にその外周面から径内側に凹入する状態の第2環状外周溝を設け、前記リング体における前記第2環状外周溝の上側となる上周壁が、前記ハウジングにおける前記リング体の上側に対向配備される臨接下面に沿って径外側に延設される環状の第2円盤状シールリップに構成されるとともに、
前記第2円盤状シールリップと、前記第2円盤状シールリップを前記臨接下面に押し付けて第2シール部を形成するために前記第2環状外周溝に配備される第2弾性機構と、を有して成るリップシールが設けられている請求項1又は2に記載の縦軸用軸封装置。
【請求項4】
前記リング体にその外周面から径内側に凹入する状態の第3環状外周溝を設け、前記リング体における前記第3環状外周溝の下側となる下周壁が、前記ハウジングにおける前記リング体の下側に対向配備される臨接上面に沿って径外側に延設される環状の第3円盤状シールリップに構成されるとともに、
前記第3円盤状シールリップと、前記第3円盤状シールリップを前記臨接上面に押し付けて第3シール部を形成するために前記第3環状外周溝に配備される第3弾性機構と、を有して成るリップシールが設けられている請求項3に記載の縦軸用軸封装置。
【請求項5】
前記第3環状外周溝が前記第2環状外周溝で兼用されており、前記第2弾性機構が前記第3弾性機構を兼ねる構成とされている請求項4に記載の縦軸用軸封装置。
【請求項6】
前記リング体に隣接するラビリンス部にネジシール手段が配置されている請求項1〜5の何れか一項に記載の縦軸用軸封装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−251630(P2012−251630A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126046(P2011−126046)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000229737)日本ピラー工業株式会社 (337)
【Fターム(参考)】